2017-12-16 16:55:52 更新

概要

『運営』のS級エージェント・ヤマダの話に、途中から加わる『エラー娘』こと運営の『シンセシリア』。深海と艦娘の戦いの意味の一面と、世界に起きている事。そして、提督や多くの人々が持つ『属性』の話。

そして、藤波と朝霜が堅洲島の艦娘たちの前に立ちはだかるのだが・・・。


前書き

※誤字一部修正しました。

『運営』がなぜ艦娘の能力に制限をかけていたか、深海とは何か?提督の『属性』についてその他、エラー娘とエージェントが『運営』の立場で重要な話をします。

この話の重要なポイントは、まず現状が『運営』ではコントロールが難しい状態に陥り、世界がどうもまずい事になりつつあると判明してきている事です。

しかも、この話の通りだと、ずっと戦いが続くことでバランスを取ろうとしていたようにしか見えません。艦娘が勝っても都合が悪いのでしょうか?

また、赤城と明石が面識がある事と、赤城の内面がぽつぽつ出てきます。笑う赤城に明石が驚いていますね。

そして、今回も陽炎が戦いを挑み、磯風からドヤ顔が消えたりします。また、藤波と天龍が戦いますが、その技の応酬はどう見ても同じ名前の別の方々のもののようです。


第六十七話 失われたバランス




―2066年1月7日、ヒトゴーサンマル(15時半)過ぎ。東京都秋葉原、ある雑居ビルの屋上。


提督「・・・で、話したい事とは?」


エージェント・ヤマダ「まず、この想定外の・・・いや、想定はしていても認めがたい状況に対して、非礼を詫びたい。まさかこれほど、我々の『ケース』をあっさりと跳ね返されるとは思っていなかった。我々が展開する亜空間『Nフィールド』をこれほど無効化されてしまっては、我々は多少訓練された程度の戦闘能力しか発揮できないのだ」


提督「そんな所だろうな。いささか演出が不自然過ぎる。あいにく、子供だましに付き合ってやれるほど若くないからな。・・・ああ、赤城は若いぞ?」


赤城「ありがとうございます(ふふ、提督も十分に若いでしょうに)」クスッ


エージェント・ヤマダ「大した余裕だ。我々のなけなしのエージェントでは、もうどうする事も出来ぬ、という事か・・・」


提督「あの黒服の連中はそんなにいないのかね?」


エージェント・ヤマダ「認識能力その他で考えると、A級エージェント一人は一般人の一万分の一の程度の確率でしか見いだせないのだ。そこから、戦闘任務の可能な者を抜擢するとなると、さらに希少になってしまう。・・・まして近年、我々は深海の提督たちと戦い、敗れ、多くのエージェントが誤死状態にある。肉体は無傷でも、精神が死と誤認しているがゆえに起きる現象だ」


赤城「・・・楽な戦い方の代価ですよ」


提督「おれもそう思う。あの程度の技量で調子に乗り過ぎだ。彼我の実力を図る心さえ働いていない。痛い目を見るのは当然だろうな。・・・で、対話の目的とは?」


エージェント・ヤマダ「我々が維持しようとしていたバランスは、既にアンコントローラブルな状態に至ってしまったと判明した。深海も、君らも、我々が干渉してどうこうできる状態ではない、という事だ。そしてそれは・・・恐らく世界のバランスもまた狂い始めており、時間や経過は未確定なものの、人類が滅びゆくルートか、またはそれがギリギリで回避される、危険なルートに入った事を意味しているのだ」


提督「・・・荒唐無稽だな」


エージェント・ヤマダ「至極まっとうな反応だ。だが、既にその予兆は起き始めている。君は知らないだろう?政府がひた隠しにしている幾つかの事実を。・・・このデータを見たまえ。普段公表されているのはフェイクで、こちらが本物だ」


―提督と赤城は構えを解き、エージェント・ヤマダのノートタブレットに展開する資料を見た。それは、近年の月ごとの新生児の出生数と死者の数の統計だった。ほぼどこででも見られる資料の筈だ。


赤城「国勢調査のデータと言うよりは、各都道府県の月ごとの出生・死亡数のデータですね。特に何もおかしなところは・・・あらっ?いやまさか・・・こんな事が?」


磯波「提督、これ、変ですよ?」


―艦娘たちは数字やデータに強い。提督よりも先に、データのおかしなところに気付いたようだ。


提督「うーん、どこが変だと?」


―提督は数字を追っているが、特に色分けされてもいないデータの為、目立つ違いを探そうとしていた。


赤城「恐らく大規模侵攻の後からでしょうか?生まれる人と死ぬ人の数が激減しています。なぜ?」


提督「何だって!?」


磯波「えーと、先々月までのデータはあるんですね・・・えっ?一年半前の月の平均の二割くらいしか、出生も死亡も無い?」


エージェント・ヤマダ「気付いたかね?そうだ。急激に人が生まれなくなり、また、老人は死ななくなっている。まるで、時間を引き延ばされでもしたように。仮説では『時の断裂』が発生しているとの事だ。そしてその発生を防ぐ事こそが、我々が艦娘と深海の戦いをコントロールしようとしていた最大の理由でもあった」


提督「大規模侵攻の後から顕著という事は、それまでは仮説であり、これが起きないようにするために、あなたがた運営は活動していた、と?」


エージェント・ヤマダ「実行部隊である我々レベルでは、そこまでしか知らされていない。そして、我々もかつては半信半疑だった。それは建前で、実のところは何らかの利権の為に、双方に膠着をもたらそうとしていたのではないか?・・・それが、私を含めた多くのエージェントの偽らざる本音だったと思う。・・・が、大規模侵攻の後からじわじわと仮説が実証され始め、今の我々は必死で状況をコントロールしようとしていたが、おそらくそれはもう無理な局面に差し掛かりつつある、という事だ」


提督「・・・ふむ。それで、あなたは何を話すべく、戦いを中断したんだ?」


エージェント・ヤマダ「先ほどの『ケース・ブラック』の結果により、おそらく我々『運営』の方針は大きく変わらざるを得ない。その告知であり、この状況に至った君たちの鎮守府について、おそらく我々は互いにある程度協力する方向にシフトするだろう。なので、これ以上の戦闘状況は無意味であるという判断なのだ。それを伝えたかった」


提督「・・・しかし解せない。なぜあんな子供だましの状況を作り、大した技量も無い人間に戦闘をさせるのか・・・?」


エージェント・ヤマダ「それは違う。普通の人間はそうはならないのだ。精強な艦隊を率いる有能な提督でも、彼らA級のエージェントには手も足も出ない。そう設定されている。・・・しかし、君や一部の深海の提督たちは強力な『属性』を持っている。その力の方が強く、我々のやり方が通じないというわけだ」


提督「『属性』?またその言葉が出てきたが、それは何だ?」


エージェント・ヤマダ「我々の間では、『アトリビュート』や『ドミナント』と呼ばれている。これはどちらも正しいが、一般人も多く持つものは前者。限られたものは後者と言えるだろう。君が注目される原因となっているのも後者だ」


赤城「聞いた事があります。艦娘の提督になれる方と、そうでない方・・・なれる方には何らかの才能が必要であり、誰もかれもが提督になれるわけではないと」


エージェント・ヤマダ「『アトリビュート』のレベルで言うなら、まず最低限、『アニマス』つまり、『全てのものに魂が宿る』という思想が根底にある事が第一条件なのだ。それに、『エンジニア』『マシン・アニマス』『立体並列思考』『保護者』などを持っていなくてはならない。機械をいじる才能が有り、また好きで、かつ、機械に好かれやすく、一見関係のないものを関連付けて立体的に思考でき、自分より弱い立場の者には保護する姿勢を取る。・・・こういったものが最低限必要とされるのだ。こういう言い方をすると難しく感じられるかもしれないが、何のことは無い、例えば車が好きで、自分の愛車を女性に見立て、自分で整備して大事にし、そういう車もまた持ち主に答える、そんな関係を作ることが出来、基本的には健全な心身と優しさを持つ・・・そんな人間であればよい、という事だ。さらに、『武人』や『軍略家』などを持っていれば理想的だがね」


赤城「なるほど!確かにいますね、まるで機械に好かれているような人も、嫌われているような人も。そういうものも才能なのですね」


提督「つまり提督適性とは、そういうものの総和なのかな?」


エージェント・ヤマダ「そういう事になる。ほかにも幾つか必要とされる能力はあるがね」


提督「なるほど。・・・では、『ドミナント』とは?」


エージェント・ヤマダ「まさにその話をしておきたかったところだ。人間の中には、しばしば特殊な条件が揃うと、支配的に確率や状況を無視した結果を出せる者がいる。これらが『ドミナント』と言われるものだ。まだその全ては解明されていないがね。しかし、歴史を振り返れば、おそらくそうであったと思われる人間は何人もいる。・・・例えば、ハンス・ウルリヒ・ルーデルはご存知かな?」


提督「第二次大戦時のドイツの、途轍もないスコアを持つパイロットだな。なるほど確かに・・・そういう特殊な人間は実在しているな」


エージェント・ヤマダ「君もそのような力を持つ人間だという事だよ。非常に危険な、ね」


提督「しばしばそういう話を聞かされるが、つまるところおれがどんな属性を持っていると?」


??「それは私が説明します。ヤマダさん、下がって大丈夫ですよ」


エージェント・ヤマダ「あなたは!」


赤城「なっ!?」


提督「いつの間に?」


磯波・初風「えっ?」


―提督と赤城のすぐそばに、アレンジされたセーラー服姿の少女が、白い猫を抱えて現れた。その姿を見た赤城の背筋に、冷たいものが走る。


赤城「あなたは・・・エラーガール!実在していたなんて!・・・うっ!動けな・・・い」ジャッ・・・ギリギリギリ


―赤城は再び矢をつがえようとしたが、途中で動けなくなった。


猫を抱いた少女「赤城さん、私に敵意は有りません。ヤマダさんの話した通り、私たちは方針を変えなくてはならないようです。オートセーフティが敵意に反応してあなたの動きを止めているようですが、落ち着いてくれれば何事もなく収まりますよ?」


提督「赤城、そういう事みたいだ。この子に敵意は無い。落ち着いて大丈夫だろう」


赤城「提督がそうおっしゃるなら・・・深呼吸します」スゥー


猫を抱いた少女「こんにちは、特務第二十一号の提督さん。かなり理不尽なやり方で提督にされたのに、とても艦娘を大事にしてくださってますね。ありがとうございます」ペコリ


提督「え?いやまあ・・・君は?」


猫を抱いた少女「私は量産型の『シンセシリア』・・・つまり、三女神の劣化型の人型量子コンピューターです。『運営』でバランス維持のお仕事と、亜空間『Nフィールド』の安定管理を行っています。あっ、この子はチェシャ。エラー猫とかエラーキャットと言われている猫型デバイスのオリジナルです」


提督「ん?姫の劣化型?『シンセシリア』とは?」


猫を抱いた少女「『シンセシリア』とは、『演算を積み重ねる者』の女性形の名称です。三女神や私たちの種族名のようなものですね。艦娘は『シンセシリア』の亜種とも言えます」


提督「なるほど・・・。ところで・・・」


猫を抱いた少女「あっ、そうでした。提督さん、あなたの持つ『ドミナント』のお話ですね。こちら側に残っているとされる属性はあと三つ。『愚者(フール)』『反逆者(リベリオン)』そしてもう一つは、名前のない、未知の属性です。『愚者』は全く頭を使わず、計算もしませんが、向こう見ずで人を惹きつけ、他の多くの人々が逆らえない立場の人を容易く討ち破ります。・・・提督さんはかなり頭を使う方なので、この『愚者』ではありません」


提督「では、『反逆者(リベリオン)』とは?」


猫を抱いた少女「現状で、おそらく提督さんはこれに該当すると思います。世に過剰な秩序や過剰な無法が現れた場合、これに反逆して討ち破ります。この属性が敵とみなしたものが滅ぶまで、誰もその保持者を滅ぼすことが出来ない、恐ろしい属性です。為政者たちの中には、この属性を非常に恐れている人もいます。おそらく、アフリカでの事はそのような理由や、実証的な側面があったのだと思います」


提督「なるほど。辻褄は合っているが・・・いやまて、じゃあどこかにおれの敵がいると?そんなもの認識していないぞ?敵が多すぎるとも解釈できるが」


猫を抱いた少女「そうですよね?でも、おそらく今回の『ケース・ブラック』の顛末を見ると、力は間違いなくお持ちです。これから敵が現れるのかもしれませんね」


提督「・・・それが深海であると?」


猫を抱いた少女「そういう事になるかと思います」


提督「うーん・・・」


赤城(珍しい!提督が少し考え込むなんて・・・)


提督「爺さんの言うとおりだったな。ある程度の完成を見た後の剣や銃の腕を磨くのは、程々にしないと、いずれ修羅の道に取り込まれる、と。それはまるで修羅の道そのものだ。ただ・・・敵とみなしたものが滅ぶまで、こちらも滅ばないのであれば、使い道はあるな。こんな怪しい話は普段は忘れておくに限るが」


赤城(いずれ修羅の道に・・・私もそうなのかもしれない・・・)


猫を抱いた少女「使い道と解釈しますか。やっぱり強い心をお持ちですね。それに、普段は忘れておいた方が良いでしょう」ニコッ


提督「そうさせてもらうよ。面白い話だ、程度にね」ニヤッ


猫を抱いた少女「あとは・・・いずれわたしたちの方から連絡します。おそらく提督さんでないと対応できない案件がありますし、私たちはそれに対しての有益な代価も支払いますので、今後は私たちを敵とは見なさないでください。深海側の崩したバランスは深刻なレベルで、提督さんはそれと対になる力です。私たちは提督さんたちと協力する事になるでしょうから」


提督「諒解した。ところで、なぜ、そのバランスとやらは狂ってしまったんだ?」


猫を抱いた少女「・・・人はちゃんと理由があって、この世の5~30パーセントの世界しか認識できないようになっていたらしいのです。姫や私たち『シンセシリア』、そして艦娘や深海棲艦の出現に合わせ、人が認識できる世界は広がってしまいました。しかしそれは、『向こう』からもこちらが認識できるという事でもあります。おそらくそれが、時の断裂の原因です」


提督「どういう意味だ?」


猫を抱いた少女「深海棲艦はなぜ深海と呼ばれるか、ご存知ですか?」


提督「深い海から来るから、ではないのかな?」


赤城「・・・・・・」


猫を抱いた少女「それもありますが、人の行けない深海は、実は他の領域と一部重なっています。人の意識が届かないため、太古の昔に地上から追い払われた『混沌』と、人の意識の闇とも重なる『深淵』がまだ残り、生物相にその影響を与えています。深海の生き物の恐ろしい姿や奇妙な生物相はこの為です。そして深海棲艦はそれらの力を利用して存在しているのです。あらゆる可能性を持つ進化の力で、存在できないはずのものが存在できているのです」


提督「・・・なるほど」


猫を抱いた少女「そして、艦娘と深海棲艦の戦いは、『深淵』や『深海』と人間の意識との戦いでもあります。それは、遥か昔にこの形に落ち着いたはずの世界に、太古の戦いをもう一度持ち込むことにほかなりません。悪い事に、深海側についた提督たちはこれらの領域から力を引き出そうとしています。そうすると、安定していたはずのこの世界は意識の闘争常態となり、その影響で時間の進行がおかしくなるのです。それが現在の状態です」


提督「待ってくれ。現在の世界の人間と同じだけの意識が、その『深海』や『深淵』にあるという事かな?何がそんな意識を持っていると?」


猫を抱いた少女「まだわかりません。でも、古代の人々が『神』と呼んだものに近い何らかの意識が存在し、それはこの世界を侵食しようとしています」


提督「艦娘と深海の戦いとは、そういう戦いだったのか・・・」


赤城(『深淵』は、人の悪意や死者の想念が渦巻く恐ろしい世界です。彼らはそこから失われた『属性』を見出し、自分たちの力とした。でもそれは、本当に見出しただけなのかしら?それに・・・)チラッ


―赤城は考え込む提督をちらりと見た。


赤城(なぜか、提督からはそれらよりも恐ろしい気配を感じる時があります。もっと深い何かが起きている気がして仕方ないわ・・・)


―赤城は『深淵』も『深海』も知っている。『深淵』は色で言えばわずかな血の赤を伴う濁った闇で、死者の想念や怒り、光あふれる地上や生者への憎しみが満ちている。『深海』は暗い青と冷たい闇で、それでいながら熱量の高い暴力的な生命力をしばしば感じるのだ。しかし、提督は・・・。


赤城(一見虚ろだけど、それでいて、静かで、透き通った、しかしどこまでも果てのない闇の雨のような感じ。全てを吸い込むような・・・)


―時折赤城の心を焦がし、苛んでいた『深淵』と『深海』は、この提督に着任してからは次第に静かになり、今は熱が冷めたようにすっきりとしている。これは他の艦娘にはわからない感覚のはずだ。


提督「・・・まあ、今は色々考えても仕方ないな。やれる事をやるのみだ」


猫を抱いた少女「はい。結局のところ、それしかないのですけれどね。・・・私たちへの連絡の窓口は、前元帥、井上中将を通していただければ結構です。私たちも井上中将を通して提督さんに連絡します。また、今回の件ですが、『ケース・テスト』は続行しています。あなたたちの戦力を想定して予定を変更し、二人の駆逐艦と一人の重巡が立ちはだかるはずですから、討ち破るか説得して、味方に加えて下さい。それでは、ご武運を」


提督「ありがとう。ああ、彼らは大丈夫なのかな?先ほど交戦したエージェントは」


猫を抱いた少女「何の問題もありません。・・・それと、太東鎮守府ではよく、身を挺して陸奥さんを護りましたね。何があろうとも、あなたは提督です。艦娘を大切にする限り、必ずそれはあなたの助けとなって帰ってきます。迷ったらそれを思い出してくださいね」ニコッ


―ジジッ・・・フッ


―気が付くと、雑居ビルの屋上に提督と赤城、磯波と初風しかいない。


提督「終わったか。色々分かったのか、かえってわからなくなったのか・・・いずれにしても深刻な状況らしいな」


赤城「上々だと思います。運営を討ち破り、対話と助力を引き出し、明石さんたちを仲間に加えられるというのは」


提督「そうだな。・・・行くか!・・・ところで、井上中将って、前元帥の事だよな?」


赤城「前元帥は井上中将です!どうして人の名前は覚えられないんですか?ふふ、まったく」クスクス


―赤城は提督のそういう部分がなぜかおかしく、面白そうに笑った。


提督「自分でも気を付けようとは思っているんだがな。人に関心を持つのは、正直なところ苦手なんだよ。直すべきなんだろうが・・・」フゥ


磯波(やっぱり、そうなんですね・・・)


初風「私は好きよ?そういうムラのある感じ。提督があまり他人に関心を持てないの、私も分かる気がするわ。赤城さんもそんな感じ。とても強い人って、そうなるのかもしれないわね」


赤城「えっ!?初風さんには私がそのように見えるんですか?」


―自分が提督と同じようだと指摘されて、赤城は驚いた。


磯波「あっ、そうかもしれませんね!」


赤城「ええっ?磯波ちゃんもそう思うんですか?」


提督「ああ、確かにそうかもしれないな。無駄が無くなるんだよ。長く戦いの中に居ると、大抵はそうなる。・・・さ、みんなと合流するか!」


初風「ところで、奪った装備品が残っているのだけれど・・・持って行っていいという事かしら?」


提督「いただいておくか。どのみち放置はできないしな」


赤城(うーん、環境が変わると、評価も変わるものなのですね。『戦いと食べ物にしか興味が無い』から、『無駄が無い』ですか・・・)


―しかし、あまり悪い気はしない。


赤城(存外、私の運命はまだ先がありそうですね・・・)


―こうして、提督と赤城、磯波、初風は、『運営』の『ケース・ブラック』を退け、叢雲たちと合流すべく雑居ビルを後にした。



―同じ頃、『クラブ・サガ』ビル~DNN社ビル間道路。


叢雲「おかしいわ。随分歩いているのにDNN社近くにたどり着けない」


加賀「提督や赤城さんと合流できればいいのだけれど・・・」


卯月「あれっ?ねえねえ弥生、またあの猫ちゃんだぴょん!」


弥生「・・・同じ猫だね」


叢雲「えっ何の話?」


卯月「ほら、あれだぴょん!」


―叢雲たちの2ブロック先の交差点を、白い猫が信号に合わせて渡っていく。


叢雲「・・・さっきも見たの?」


卯月「うん、そっくりというか、同じ猫ちゃんだぴょん」


叢雲「・・・これ、偶然で片付けちゃダメね。よし!」ピッ


―叢雲は明石に連絡を取り、卯月が見た猫について聞いてみた。


明石(通話)「つまり、デジャヴみたいに同じ猫を見たという事ですね?それは『運営』のエラーキャットです。特定のエリアに介入している時に、その境界に出現する猫です。間違いなく何かされていますよ!」


叢雲(通話)「提督は何者かと交戦中だけど、つまり運営が相手で間違いないという事ね?」


明石(通話)「えっ?運営と交戦?大丈夫なんでしょうか?とりあえず、私たちはジャマーを使いながらそちらに向かいますね!」


叢雲(通話)「ええ。気を付けて!」プツッ


―叢雲たちは天龍と龍田を屋上と路上から探しつつ、明石たちの居るDNN社に向かって、とにかく進む事にしていた。



―DNN社フロントロビー。


明石「三隈さん、このビルも私たち以外誰も居なくなっているわ。もう始まっているわね」


三隈「でもあら不思議!準艤装に切り替えて、明石さんがNフィールドジャマーを起動させつつ歩くと、運営の妨害工作は無効化される。・・・そうでしょう?」


明石「あれっ?何でそれを?」


三隈「今日はとてもいい日になりそうですわ!」ニコニコ


明石「三隈さん、質問に答えて!どうしてそれを知っているの?」


三隈「くまりんこ、運営のスパイだったんですもの。でも、もうそれは終わり!特務第二十一号の提督さんたちは、エージェントを退けたそうですわ。あとは私たちがどうするか?なのだけれど、くまりんこは明石さんと一緒に行く!と決めていたから、何も変わりは無いの。ただ、大手を振って行けるのが何より嬉しいわ!そういう意味よ?」


明石「は?・・・・え?・・・えええ!?」


三隈「良かったぁ!抹消も覚悟していたのだけれど、分の悪い賭けはくまりんこの勝ちね!」


明石「騙した・・・とも違うし、えーと、どういう事なの?」


三隈「簡単な事よ。付き合いの長い明石さんと一緒に、こんな窮屈な毎日から抜け出すために、いちかばちか、工作員をやめる事にしようと覚悟していたの。この会社からも抜け出してね。・・・で、特務第二十一号の提督さんは運営のエージェントたちを退けてしまい、状況が大きく変わったから安堵している、という事よ」


明石「うわぁ、なんかすっごくモヤモヤするんですけど!・・・でも、言ってる事は正しいし、予想外に良い結果が出た事と、それをこの時点で話してくれていることは、信用に値しますもんね。・・・じゃあ、これからどうします?」


三隈「一応、くまりんこを除くと、あとは二人の夕雲型が私たちの行方を阻む予定だったのだけれど・・・」


明石「特務第二十一号は、今回はかなり分厚い戦力でここに来ているそうですよ?夕雲型二人では、ちょっと荷が勝ち過ぎる気がしますけど、どうなんですか?」


三隈「運営のエージェントを退ける提督さんというのが想定外だったんでしょうね。でも、あの二人はきっと、それでも戦いを挑むと思います」


明石「えっ?知っているんですか?」


三隈「はい!お友達ですから。朝霜と藤波の二人です」


明石「うーん、どうなのかなぁ、それってば・・・」


―三隈の独特なペースが、明石には今ひとつわからない。


明石「とにかく、合流を試みますね!」


―明石はキャスター付きの大きなキャリーケースを引きつつ、DNN社のビルを出た。エントランス前に出ると、ケースを開け、フィールドジャマーを稼働させる。これは現在位置の情報を特殊帯の情報の海に開放し、人々の記憶と直接照合する、という作業を同時並列で膨大な回数繰り返す処理を行い、『認識』への介入とNフィールドとの接続を阻害する、という原理のものだ。これを稼働させると、一度でも明石たちの居る地点を訪れた人々には、なぜか一瞬この場所の事がよぎる、という現象が発生する。


明石「えーと・・・あっ!あれがそうかな?」


―明石はすぐそばの歩道で周囲を見回している、天龍と龍田に気付いた。


龍田「あら?道が急に開けた?」


天龍「うおっ!どうなってんだ?あっ!思いっきり目的地じゃねーか!」


龍田「えっ?どういう事なの・・・?」パチクリ


―やや離れた位置に、叢雲たちも来ていた。


加賀「叢雲さん、ここ、ほぼ目的地よ?あそこに天龍たちがいるわ!」


―ダンッ!・・・ダンッ・・・スタタッ


―足柄や榛名、屋上を移動しつつ天龍たちを探していた艦娘も合流した。


足柄「どうもこれは・・・何か解除された感じかしら?だとしたら、えーと・・・」キョロキョロ


榛名「あっ、ずっと向こうから赤城さんや提督がこちらに向かってきています!」


金剛「ね?無事だったデショー?テートクの銃の音、軽い感じだったもの」ニコッ


榛名「なるほどですね・・・(うう、やっぱり距離が近いと色々分かるんですね)」フゥ


叢雲「どうやらこれで、『パッケージ』は無事に終了ね」


―しかし、その時だった。


??「そんな簡単には・・・」


??「まだ終わらないぜ!!」


―ジジッ・・・バサッ・・・バサッ!


―DNN社のビルの前、全員から見て中心点とも言えるあたりで、二人の何者かがフード付きの光学迷彩スーツを脱ぎ捨てた。


明石「あの二人ね!特殊帯認識迷彩服だなんて、また手の込んだものを!」


―光学的に、そして意識的に、他者の視界から消えられるスーツだ。但し、一着が400万円ほどするのだ。


足柄「あら、朝霜じゃないの!!」


鳥海「あの子は・・・藤波ですね!!」


朝霜「わかってんなら話が早え。そっちはずいぶんな大艦隊だけどなぁ、あたいらは一歩も退く気はないぜ?明石さんを味方にして、任務を終えたいならかかって来な!力を見せたら異動でも何でもしてやんよ!」スッ


藤波「きっひひ、そういう事。やっぱりさ、戦い無しで終わるわけにはいかないでしょ。そっちの提督はずいぶん強いみたいだけど、艦娘はどうなのかな?・・・試させてもらうよ!」スッ


―朝霜と藤波は、それぞれ格闘戦の構えを取った。


明石「気を付けて下さい!『運営』で戦闘任務に当たる者は、艦娘であれエージェントであれ、ハイレベルな戦闘技術を自身にインストールして運用しています。達人クラスの技量を持っていますよ!」


陽炎「夕雲型と聞いたら、黙っちゃいられないわ!私が出るわね!」ザッ


不知火・黒潮・磯風「・・・は?」ポカーン


陽炎「ちょっと何よ!揃いも揃ってその顔は!」ムスッ


黒潮「せやかて陽炎、話を聞いとったやろ?あの二人、相当強いらしいで?大丈夫なん?」


陽炎「やってみなくちゃ分からないでしょ?」


不知火「そういう問題では無いと思いますが・・・」


磯風「・・・大丈夫なのか?姉さまは」


―大抵はドヤ顔の磯風が、本当に困惑している表情を浮かべた。


浦風「うん?陽炎姉さんはまだあまり強くないん?」


叢雲「くっ!(わ、笑っちゃいけないわ)」フルフル


―叢雲は視線を逸らそうとして横を見たが、吹雪が同じように口元を抑えて横を向いている。ただ、その肩は震えていた。


吹雪「・・・・・・!」フルフル


叢雲(何笑ってんのよ吹雪!)プルプル


陽炎「とにかくよ・・・相手しなさいよっ!」ダッ


朝霜「威勢がいいじゃん!じゃあ、あたいが相手してやんよ!」


陽炎「力を見せてやるわ!」ヒュッ


朝霜「へーぇ」パシッ


―陽炎は突進の上でパンチを繰り出したが、その拳を朝霜に掴まれてしまった。


陽炎「や、やるわね!くっ」グイッ


―陽炎はその手を引こうとしたが、朝霜は掴んでいる左手に力を籠め、そうさせなかった。


朝霜「威勢だけじゃあ、あたいにゃ勝てないぜ?」ニヤ・・・クルッ・・・グイッ!


陽炎「えっ?ちょっ・・・きゃあっ!」バターン!


―朝霜は反転して陽炎を背負い投げし、道路に転ばせた。


浦風「あらー、姉さん・・・」


黒潮「だから言うたんやあ!!またやられてるやん!!」


磯風「よくも陽炎型の面子に泥を・・・覚悟しろ!」スラッ


朝霜「ちょっ、武器はねーだろぉ!!しかも逆恨みじゃねーかよ!」


不知火「いや、今のは姉さんが自分から泥まみれになりに行くスタイルだったと思いますが」


磯風「つまり、無様な負け方をした姉さまを斬れと・・・」


不知火「気持ちは分かりますが、違います」


叢雲(陽炎も大変ね・・・)


朝霜「おもしれー鎮守府だなぁ。で、次は誰だい?」


陽炎「・・・・・・」キュウ


―陽炎は眼を回したのか、起きられないらしい。


足柄「じゃあ、私が行くわ。礼号組を組むのに欠かせない子だものね」


朝霜「えっ?足柄がやんの?」


足柄「そうよ?威勢が良くて気に言ったわ。あなた、うちの艦娘になりなさいな」スッ


―足柄も格闘戦の構えを取ったが、その雰囲気はとても楽し気で獰猛だ。


朝霜「うーん、やっぱ足柄はつえーよなぁ。・・・でも、あたいも退かないぜ!筋は通させてもらう!ねじ伏せてみなよ!」ダッ!


―今度は朝霜が足柄に突進した。


足柄「一応、陽炎の分ね!」パパシッ・・・グイッ!


朝霜「うわっ!・・・たぁっ!」ガササッ!


―足柄は朝霜の両手をさばいて掴み、もぐりこむようにして持ち上げ、近くの植え込みに放り投げた。


足柄「どうかしら?そこなら怪我しないでしょ?納得した?」


朝霜「うええ、やられちまったい!まあでも納得だな!・・・あれっ?」


―足柄はすぐそばの自販機の前に移動していた。


足柄「任務お疲れ様ね。どれがいい?」


朝霜「・・・え?あ、えーと、じゃあ、御汁粉で」


―ピッ・・・ガコン


足柄「はいこれ。後はあの子の戦いを見届けましょうか。よろしくね!」ポイッ


朝霜「おっ、おう、サンキュ!」パシッ


他の艦娘たち(面倒見がいい・・・)


藤波「やっぱり強いね。こういう任務に連れて歩けるくらい戦艦や空母もいるようだし。じゃあ、次はあたしかな」


明石「なんかすごい置いてきぼり感が・・・」


三隈「ううん、これはとてもいい経過よ?全力で邪魔されたり、異動できないよりいいでしょう?くまりんこももう味方ですし」ニコニコ


明石「まあそうなんですけれどね」


磯風「ふっ、では次はこの磯風が「いや、悪いがオレが出るぜ」」


龍田「えっ、本気なの?天龍ちゃん!」


藤波「どっちでもいいけど、武器は無しだよ?」


磯風「・・・ここは天龍さんに譲ろう。後輩とはそうあるべきだ」チッ


黒潮「絶対に刀を使う気満々だったやろ!」


磯風「何を言う!・・・それほど考えてはいなかったぞ」


天龍「素手で十分だぜ」パキポキ


―藤波と天龍が、それぞれ格闘戦の構えで対峙する。


不知火「なるほど、天龍VS藤波ですか。これは目が離せない勝負になりますね!」


藤波「相手が軽巡なら、手加減はしないよっ!」ダッ


天龍「へっ!」シュバッ!


藤波「おっと!」タンッ・・・クルクルッ


―突っ込んできた藤波に対して、天龍はローキックを仕掛けたが、藤波は高いジャンプをしてそれをかわし、天龍の背後に着地した。


―スタッ・・・スッ・・・ガシッ!


天龍「なにっ?」


藤波「ちょっとキックが大振りだったね!ふんっ!」グアッ


―藤波は天龍の胴をクラッチし、ブリッジをしながら背後に投げ倒した!


―ガンッ!


―藤波のドラゴンスープレックスが天龍に炸裂する!


天龍「ぐうっ!」


吹雪「パ、パンツが見えています!藤波さんの!」


叢雲「そこじゃなくて戦いを見なさいよ!」


藤波「えっ!?うそっ?」


―藤波は慌てて立ち上がり、艤装服の埃を払った。


天龍「く・・・くそっ!・・・だが今だ!」ヨロッ・・・ヒュッ!


―天龍は延髄切りを放った。


藤波「さっきの技が効いてるね。いい蹴りだけど体幹ブレブレだよ?」ガッ・・・ガシッ!


―藤波は天龍の延髄切りを掴み、一瞬でひねって固めた。藤波のドラゴンスクリューだ。


龍田「これっ、笑っちゃいけないけどどうしてどっちもプロレス技を使うの?ふっ、ふふふ!」


―龍田はおかしくてたまらなくなった。と同時に、天龍が必要以上に痛めつけられたら、いつでも飛び出せるように猛烈な殺気を放ってもいた。


天龍「があああああ!」パンパン


―天龍は地面を叩き、必死にギブアップをアピールした。


龍田「それ以上いけない!」


藤波「ふぅ~。どう?なかなかやるでしょ?」ニコッ


天龍「ちくしょう!やられちまったぜ!くそっ!」ガンッ!


―天龍は悔しくて拳を地面に叩きつけた。


藤波「さ、次は誰?」


鳥海「藤波ちゃんが相手なら、私が行きます」スタスタッ・・・スッ


藤波「参ったな、鳥海さんかぁ」スッ


―二人とも、格闘戦の構えを取る。


鳥海「相手があなたなら、私は戦う気はありませんよ?いえ、むしろ説得もまた戦いです。藤波ちゃん、互いの強さは十分に分かり合えたと思いますから、私たちと一緒に来ませんか?私なんて、一昨日まで別の陣営の工作員だったんですよ?」ニコッ


藤波「えっ?でもこの任務、そっちからしたら大事な任務でしょ?そこに工作員だった人をすぐに投入って、ええ?」


鳥海「司令官さんの考えはふたつ推測できます。一つは信用を示してくれているという事。もう一つはおそらく、同じタイミングで移動した姉妹たちより先に、こちらでの実績を作ってくれることによって、わだかまりを軽減するという配慮。・・・ですかね、叢雲さん」


叢雲「そうね。おそらくそんなところだわ」


他の艦娘たち(なるほど・・・)


藤波「・・・ひどい事とかは?」


鳥海「されてませんよ?最初から間宮さんの食事が出されたくらいです」


藤波「そうなんだね?・・・参ったなぁ。しょうがない。じゃあ、そんな鳥海さんの実績を作ろうかな。きひひっ」


鳥海「ありがとう。またよろしくね、藤波ちゃん!」


藤波「まっ、ここで鳥海さんに出会っちゃあね」ニコッ


―一方で、天龍と龍田は・・・。


龍田「天龍ちゃん、格闘訓練もろくに受けていないのに、よくやったわ」


天龍「悪い、龍田ぁ、しばらくそっとしといてくんねぇか・・・。まさか駆逐艦に負けるなんてよ・・・くっそぉ・・・」グスッ


龍田「ああ、うん・・・わかったわ。でも、もうじきみんな合流するし、この任務も終わり。帰って一人になるまで、その気持ちは隠しておいた方が良いわよ?」


天龍「・・・・・・そうだな」ザッ


―天龍はひとまず、涙を拭いて立ち上がった。


明石「えーと・・・じゃあ、これで合流しても大丈夫なんでしょうか?」


三隈「だと思いますよ?エージェントの干渉を跳ね返す時点で、『運営』ができる事は限られていますもの」


明石「こんにちは。特務第二十一号の皆さん。えーと、誰と話せばいいんですか?・・・あれっ?」


―ここで明石は、艦娘の中に加賀がいることに気付いた。


明石「あの、加賀さんてどこからかの移動ですか?」


加賀「・・・違うわ。年末に海域でサルベージされたのよ」


明石「あっ、そうなんですね?(おかしい。加賀さんはもう艦娘としては現れないはずなのに。どういう事なの?)」


加賀「何か?」


明石「いえ・・・」


叢雲「向こうに司令官たちがいて、ここに向かっているけれど、ひとまず私で大丈夫よ。どうやら『パッケージ』は完了みたいね」


明石「ありがとうございます。正直、ここまでのメンバーで迎えに来ていて、しかも『運営』を退けるとか、予想外でした」


叢雲「うちの司令官もみんなも、なかなか精強だからね。・・・それに、明石さんが居ないと、本鎮守府で進めている作戦が次の段階に移行できないのよ」


明石「そうなんですね」ニコッ


―そこに、提督と赤城、初風、磯波が合流した。


提督「総員お疲れ。『パッケージ』は予想外に良い結果で終われそうだな。任務評定SSと言ったところか。・・・ああ、君が明石だな。何とかお迎え出来て嬉しいよ。特務第二十一号の提督さ。よろしく!」


明石「こちらこそ・・・あっ!」


赤城「あっ!」


―赤城と明石は互いに目が合い、そして驚きの声をあげた。


提督「ん?どうしたんだ?」


明石「あっ、いいえ、まさかコンパウンドボウや拳銃で武装していると思わなかったので」


赤城「私の知っている明石さんとよく似ていましたが、人違いだったようです」


提督「・・・そうかね」


明石(どういう事?何であの赤城さんが?でも、この赤城さんも艦娘たちも、深海の気配はしない・・・。こちらの提督さんもそう。どういう事なの?)


赤城(ああ、まさかあの明石さんだったなんて。迂闊だったわ。居残り組も有能だったもの。いつかはこんな風に誰かと再会してもおかしくないわね)


―赤城と明石は面識がある。二人とも、最初の艦娘だからだ。


明石(慎重に対応しないとダメな事ね、きっと)


赤城(聞かれたらすべて答えるまでだわ。明石さんにも、提督にも・・・)


提督「向こうでエージェント三名を退け、さらに運営の『シンセシリア』だと言う、猫を抱いた女の子と会話できた。駆逐艦二人と重巡一人というのは・・・ああ、そういう事か。えーと、君は」


三隈「こんにちは。特務第二十一号の提督さん。くまりんこ、本当は明石さんの監視役だったんですけれど、いい加減うんざりして一緒に抜け出そうとしていたら、予想外にとてもいい結果になってホッとしているわ。私もそちらに移動してもいいですか?ダメと言われたらとても困るのだけれど・・・」


提督「構わないが、うちの任務は・・・」


三隈「知っています。三隈も三号砲もきっとお役に立ちますから、重荷に思わずに役立てて下さいね」ニコッ


提督「ありがとう!歓迎するよ!」


足柄「ねぇねぇ提督、見て見て!朝霜よ朝霜!」


朝霜「よ・・・よう!」


提督「おっ、威勢がいいな。よろしく!」


足柄「あら、ガラじゃないわね、何で緊張しているわけ?」


朝霜「だってよ、この司令、すんげぇ強くねぇ?エージェント退けたって聞いたけど、これマジもんじゃんかよ!あたいも強いからな。よくわかるんだぜ」


赤城(あら、わかりますか)


榛名(わかるんですね)


金剛(ヘーエ・・・)


提督「いや、おれは全然強くないぜ?エージェントがみんな二日酔いか下痢だったんだよ、たぶんな。あとは・・・赤城と磯波たちの方が強いぞ?赤城は矢を三本同時につがえてたし、磯波なんかエージェントに銃突きつけていたからな」


赤城「二日酔いか下痢って・・・ふふ。ふふふ、何を言い出すんですか!」


明石(あれっ?あの赤城さんがこんな風に笑うなんて・・・!)


―明石の記憶の中に、以前の赤城が提督と話して笑ったものなど無かった気がする。社交辞令で笑顔を浮かべたりはするが、こんな風に自然に笑う所など、見た事が無い気がした。


明石(どういう事なの?あなたがそんな風に笑うなんて)


磯波「あっ、提督、恥ずかしいので・・・その・・・」カアァ


初風「あ、そう言えば、『提督からひきはがした』って怒ってたもんね」ニヤッ


磯波「あっ、そこ突っ込まないでください!」アセアセ


吹雪「えっ?磯波ちゃん、エージェントに銃を突きつけたんですか?」


提督「いやーすごかったぞ?『お前の神に祈れ』とか、『言い残すことはあるか?』とか」


艦娘たち「ええっ!?」


磯波「言ってないですよ?言ってないですからね?もうっ!・・・提督もあまりおかしな事を言わないでください!」アタフタ


朝霜「あたいを置いてけぼりにすんなってーの!」


提督「いやすまん。うちの任務はさっきも話したが・・・」


朝霜「あたいを誰だと思ってんのさぁ?一人でも強い艦娘が必要って事だろ?あたいに任せときなぁ。そんなんでビビったりしねーよ。みんな沈めてやんよ!」


提督「威勢がいいな!じゃあ、帰ったら間宮で何か食ってくれ」


朝霜「おーいいねぇ、よくわかってんねぇ。よろしくな!司令」


鳥海「司令官さん、藤波ちゃんも説得に応じてくれました。異動してくれるそうですよ」


藤波「まーね、こんだけ分厚い布陣に、エージェントを退けて、かつ鳥海さんに説得されちゃあ、異動しないわけにはいかないよねぇ、もち」


提督「君が藤波かぁ、よろしく!」


龍田「この子とっても強いのよ?天龍ちゃんをドラゴンスクリューでギブアップさせちゃったの。でも、天龍ちゃんに怪我をさせてないから、私が出る感じにはならなかったのよ。いい判断するわねぇ」ニヤッ


藤波「いや~、切り刻まれたくなかったしね。すごく怖い空気出すんだもん、龍田さんてば」


提督「なるほど、いいね・・・。鳥海も説得ご苦労。早速功績を出せたな。こちらの意図を考えて行動した点はとても評価できる。これで、姉妹たちとも少しは話しやすいはずだ」


鳥海「やっぱりそういう事なんですね?ありがとうございます」


―今回の任務に鳥海を抜擢した理由、それは、工作員だった鳥海が先に何らかの功績を示すことにより、堅洲島で肩身が狭くならないように、という狙いだった。どうにか結果が出せたという事になる。


初雪「・・・司令官、部品、全部買えたよ?」ニコ・・・


望月「そーそー、ありがとね!司令官」ニコニコ


春風「これで何とか、特防との特別回線を設定できそうです」


提督「それは何よりだな。後で組むか」


明石(えっ?この春風さん、特防『眠り花隊』の春風さんじゃないの?)


―そして、明石は提督と艦娘たちのやり取りを真剣に見ていた。


明石(エラーガールがこの人と接触したり、私や三隈さん、朝霜ちゃんに藤波ちゃんまで引き渡すという事は、『運営』はこの提督を現在の深海勢力に対抗しうる存在と見ているのね。でも、正直なところ、そこまで有能なのかなぁ?)


―明石には、この提督の強さと能力がわからない。つかみどころがないように見える。しかし、周りにいる艦娘たちは相当強い子がちらほらいる。


明石(それに、『姫』の力で私を見つけて、こうして異動させることが出来ているし、実際のところ、何者なのかしら?ものすごい武功を挙げた人なのはわかっているけれど・・・)


提督「さてと、じゃあ・・・」


―テロリン


提督「ん?」


―提督が専用スマホを見ると、『運営より新規アクセス』と通知が出ていた。


通知『あと11分で秋葉原該当区域の規制・特殊フィールド化はすべて解除されます。『明石』『三隈』『朝霜』『藤波』に関しては、迅速に着任を終えてしまう事』


提督「なるほど・・・。ところで、陽炎はどうしたんだ?」


―陽炎はまだ目を覚まさず、近くの花壇に寄りかかった姿勢で不知火たちに介抱されていた。


陽炎「・・・・・・」


朝霜「そんなに強く叩きつけちゃいなかったんだけどなぁ・・・?」


磯風「いや、受け身を全く取れていなかった。中途半端に暴れておかしな怪我をするでもなく、姉さまが初心者過ぎて綺麗に一本背負いが決まった分、起きられないのだろう。活を入れるか、少し経てば目覚めるはずだ」


提督「しょうがない。背負っていくか」


不知火「お手数おかけします」


吹雪「ええっ!」


提督「ん?どうした吹雪」


吹雪「なんでもないです!」


提督「新規の子たちの部屋の都合もある。同時に、任務『チェンジリング』の件もある。水上機に戻ったら、メンバーを再度振り分けつつ、一旦堅洲島に戻るか」


―こうして、『運営』を退け、対話を引き出しつつ、新たに明石、三隈、朝霜、藤波が仲間に加わった。しかし、そんな堅洲島の提督と艦娘たちを、やや離れた場所から息を殺して監視している『眼』があった事には、誰も気づいていなかった。




第六十七話、艦



次回予告。



気を失って夢を見る陽炎。


秋葉原から撤収する提督たちと、提督の背中で目覚めて慌てる陽炎。

しかし、そんな堅洲島のメンバーをはるか遠くから望遠鏡で監視する艦娘たちが居た。


一旦堅洲島に戻りつつ、朝霜たちから聞く『運営』の『艦娘保管所』の不気味な話。


横浜、横須賀、堅洲島と、三手に別れる艦娘たち。


横浜にて評価と共にぬいぐるみを沢山もらえ、驚く不知火。


一方、姿を消した大井を探す志摩鎮守府の艦娘たちと、綿密な方法で復讐の機会を伺う大井だが、北上との事が思い出され・・・。



次回、『アンコントローラブル』乞う、ご期待。



藤波「きひひっ!どう?なかなかやるでしょ?こんなもんじゃないからね?もち!」


天龍「くっそおぉぉぉ、藤波めぇ!次はパワーボムしかけてやるかんな!」


龍田「だからどうして二人ともプロレスの技を使うのぉ?」


提督「くっ、天龍VS藤波を見逃すとはな。惜しい事をした!」


三隈「よく分からないけれど、楽しい人たちね!」


明石「えぇ・・・?」


朝霜「それより腹減ったよぅ」


後書き

皆さん秋イベどうだったでしょうか?

ギミックがとんでもなく面倒でしたが、甲乙甲乙でクリアし、新規艦娘も全てお迎えできました。自分としては紫電改四がとても嬉しかったです。

ついでに雲龍もようやくゲットできました。

ただ、夏イベで天霧と狭霧を手に入れられなかったのが今になって失敗したと思っています。


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zちゃんさんから
2019-09-20 00:44:02

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2017-12-13 17:49:28

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1: SS好きの名無しさん 2017-12-12 20:42:06 ID: hlSbXuXy

天龍源一郎と藤波辰爾に掛けてるのか!!
こいつは年代がバレますな(笑)

2: SS好きの名無しさん 2017-12-13 12:31:07 ID: rbsI2reK

秋イベお疲れさまでしたー
私は11日の5時40分に終わりました~

3: SS好きの名無しさん 2017-12-13 13:43:48 ID: lBwtkZ_7

陽炎「消えろ、ぶっとばされんうちにな」

4: ㈱提督製造所 2017-12-13 17:47:04 ID: Psfx8ekZ

エラー猫だと・・・!?
失敗ペンギン(開発失敗時に段ボール箱の中に入ってるニクいアイツ)は⁉一緒じゃないのか!?

5: 堅洲 2017-12-17 18:42:53 ID: zLiLNqeL

1さん、コメントありがとうございます!

藤波の髪型の事もあり、このネタは必ずやりたいなと思っていた次第です。年代・・・確かに(笑)

堅洲島の天龍と藤波は、この後定期的に本家の得意技をかけあうようなライバル関係になって行きます。

こんなネタが出るという事は、どこかでダウンする曙のシーンとかも出すと思います。

いつも読んでくださって、ありがとうございます!

6: 堅洲 2017-12-17 18:45:33 ID: zLiLNqeL

2さん、イベントお疲れ様です!

ギミックがとにかく大変でしたが、扶桑姉さま嫁艦の自分としては、やらないわけにはいかないイベントでした。
しかも紫電改好きなもので、なおさらです。

ただ、乙でも苦戦したので、甲だったらと思うとぞっとしますね。

次のイベントはどうなるんでしょう?またギミックマシマシだったらと思うと、ちょっと怖いですね。

7: 堅洲 2017-12-17 18:51:30 ID: zLiLNqeL

3さん、コメントありがとうございます。

今回やっと明石さんが入りましたが、この明石さんは本当に色々やってくれる人なので、「入れ替わったら陽炎だった件」的な話をどこかに入れようと思っています。

要は明石さんの実験で、陽炎と誰か(榛名とか鹿島あたり)が入れ替わっちゃう話を考えています。

8: 堅洲 2017-12-17 18:58:45 ID: zLiLNqeL

㈱提督製造所さん、コメントその他ありがとうございます!

今回、エラー猫とエラー娘の、このSSでの独自解釈での話が出ましたが、建造の時のペンギンまたはオオハシと、謎のもこもこについても、いずれ作中で独自解釈で出すと思います。

どこかのSSで、海底に逃げたもこもことペンギンが、人類が滅んだ遥か後にも存在しているといった話を読みましたが、あれはよくできていたと思いました。

このSSでは、たぶん艦娘たちがまだにんげ・・・った頃の・・・ザザッ(電波障害)

と言った感じで考えています。

いつも読んでくださって、ありがとうございます!

9: SS好きの名無しさん 2017-12-18 19:01:07 ID: Fp-75NQ7

胴をクラッチしたらジャーマンだし、ドラゴンスクリューはタップするような技じゃないんだけど。

10: 堅洲 2017-12-18 19:22:55 ID: -wgNQjee

9さん、コメントありがとうございます。

うーん、すいません、どうも間違えて理解してしまっていたようです。近々再度勉強して、該当部分をよりリアルに書き直しますので、もしご存知でしたらもう少し教えていただけると嬉しいです。

11: SS好きの名無しさん 2017-12-18 20:09:53 ID: t-9qFrpR

ドラゴンスープレックスは、背面から脇の下に腕を通して相手の頭の後ろでクラッチしてブリッジするように投げる。
ドラゴンスクリューは、片手で掴んだ相手の脚を軸に、もう片方の腕を一本背負いのように回しながら自分の体を投げ出して回転。
わかりにくくてすみません。

12: 堅洲 2017-12-18 20:14:24 ID: -wgNQjee

11さん、いえ、大変参考になります!

確かにこれだと、私の書いてるシーンでは間違っているし描写も足りませんね。近々もう少し加筆・修正します。

詳しい説明、ありがとうございます!

13: SS好きの名無しさん 2018-01-28 04:20:25 ID: hqQmmJoA

今更ですがドミナントは条件により覚醒、発動する可能性も示唆されているように読めますが

おや、そういえば潜在的にフールを持ってそうな人が?

14: 堅洲 2018-01-30 00:59:20 ID: EkC5un5w

13さん、コメントありがとうございます。

はい。ドミナントは条件により覚醒、発動したりすることもあります。
これは一般の人々であってもかわりません。
努力して獲得するケースもあります。

人の大きな成長や、「化ける」なんていわれるような現象ですね。


フール、そうですねぇ、何やらちょっとそれっぽい人が居るようですねぇ。


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