第1巻 第13話 バイトデ
チュン…チュン…
千棘 「じゃあ、楽。私LABに行ってくるねー。」
楽 「ああ、行ってらっしゃい。」
千棘 「あれ、楽は今日大学無いの?」
楽 「俺、火曜日は講義を入れて無いんだ。代わりに1日バイトだけど。」
千棘 「バイト?それってあんたがこの前言ってたやつ?」
楽 「ああ、あ!そうだ千棘お前、今日学校忙しいか?」
千棘 「え?いや、私も今日は午前中だけだけど………?」
楽 「なら丁度いい!後でケータイに俺のバイト先の住所送っとくから、良かったら一回来いよ!」
千棘 「分かったわ!楽しみにしとくわよ。」
同日pm:13:00 凡矢理市内
千棘 「えーっと、この道を200mほど進んでこの角を右に曲がって………」
千棘は朝に楽から送って貰った住所を自分のiPhoneのタウンマップに打ち込んで向かっていた。
千棘 「この角を左に曲がったら後はすぐ……アレ?でもこの道って………」
iPhonn 「着きました。」
和菓子屋 おのでら
千棘 「やっぱり………小咲ちゃん家だ。」
カラン コロン
千棘は店の扉を開けて中に入った。
微妙な期待を胸に。
? 「あ、いらっしゃいませー………お!来たか千棘。」
千棘 「「来たか」じゃ無いわよ。あんた、小咲ちゃん家でバイトしてたの?」
楽 「ああ、びっくりさせたくてな。
1ヶ月前の凡高を卒業した数日後に始めたんだ。」
千棘 「びっくりした〜。私もそろそろバイトを週2〜3位で始めようと思ってたけど、
まさかこんな発想がなかったあるなんてねぇ。」
楽 「まあ、ふつうにバイトするより面白いと思ったし………」
? 「ちょっと、センパーイ!仕事中にお客さんとお喋りし過ぎですよ!」
楽 「あ、ゴメン珍しく知り合いが来たもんでさぁ。」
? 「まったく……ん?アレ?桐崎先輩!?」
千棘 「アレ?髪は短くなってるけど、春ちゃん?」
店の奥の従業員専用口から出て来たのは、髪は食べ物を扱う仕事に向けてショートカットになり短くなっていたが、紛れも無く千棘の親友の妹の小野寺 春だった。
春 「桐崎先輩、ファッションデザイナーの修行から日本に帰って来てたんですね。
私、全然知りませんでした!」
千棘 「え?春ちゃん、小咲ちゃんから何も聞いてなかったの?」
春 「え?あ、はい。お姉ちゃんからはまったく……」
千棘 「そっかぁ。にしても春ちゃん、髪もショートヘアになって、すっかり本格的な職人さんみたいだね。」
春 「元々、去年の先輩がお母様の元に帰る直前辺りから高校卒業したら職人さんの元に弟子入りする事を決めてまして、高3の今年からこうして家業手伝いして腕を磨くことにしたんです。」
千棘 「へー、偉いんだね春ちゃんは。」
楽 「あ、そうだ千棘。折角だしコレ食ってけよ。」
スッ
楽は千棘に若草色の短冊状の形をした和菓子を差し出した。
千棘 「コレは?」
楽 「青丹よし(あおによし)って言って、和菓子の一つだ。
俺が趣味で作ってる和菓子のレシピNo.1だ。
食ってみてくれ!」
千棘 「う…うん。」
パクッ
千棘はどんな味がするんだろうと、期待半分で青丹よしを口にした。
千棘 「お…美味しい!抹茶味のクッキーみたいな味と食感!」
楽 「だろ?こんだけの絶妙な味加減を出すのに大分研究したんだぜ?」
春 「やっぱり先輩の飲み込み用は早いですねー。」
千棘は彼氏のバイト先で美味い和菓子を食べさせて貰えて、満足気にその日の午後を過ごしました。
第13話 完
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