絵里「希望あるかぎり」ー孤独な夜の女神ー
不良グループによって崩壊寸前の音ノ木坂学院を変えるべく、生徒会長の絵里が孤軍奮闘するお話です。鬱展開が続くので苦手な方はブラウザバックお願いします。
絵里「希望あるかぎり」の後編になります。アップ済みの方で完結させる予定でしたが、字数が限度オーバーしてしまうため、やむを得ず前・後編に分けることにしました。また、区切りのよさを考慮して、本来なら前編に記載していたシーンの一部を後編に移し替えています(話の順序に変更はありません)。
後編も鬱展開が続くので、苦手な方は閲覧回避をお願いします。
コメント欄で気の利いた返信ができないので、コメント・評価等くださった方にはこの場を借りてお礼申し上げます。
翌日 昼 空き教室
穂乃果「みんなそろったね…」
舎弟モブ1「はい。全員そろってます」
舎弟モブ2「穂乃果さん、マジでやるんすか…」
穂乃果「昨日伝えたとおりだよ。臆病者はいらないから、帰るならさっさと帰っていいよ」
舎弟モブ2「い、いえ。自分にもやらせてください」
不良モブ3「あのムカつく絢瀬をやるんですよね?」
不良モブ1「任せてください。あいつの泣きっ面を拝んでやりましょう」
不良モブ2「アタシたちも、あいつには山ほど借りがあるんで」
穂乃果「ふふふふ…。もうすぐあいつの人生が壊れるんだ。ふふっ、うふふふふ…」
ことり「穂乃果ちゃん…」
――
放課後 生徒会室
にこ「さーてと、今日もまた見回りね」
凛「昨日は特に何もなかったよね。今日も何もなければいいなぁ」
花陽「何もないのが一番なんだけどね」
海未「おそらく向こうも見回りの人数が増えたことには気づいているはずです。誰かが見ているとなると、多少は抑止力になるかもしれません」
真姫「それはそうかもしれないわね」
絵里「いい兆候だと思うわ」
――
海未「それでは、時間ですので始めましょう。私は2階を中心に見回るので、にこは3階をお願いします」
にこ「わかったわ」
真姫「そうなると、私も3階ね」
絵里「私は今日は生徒会の仕事があるから、それを済ませてから合流するわ。担当は4階にするわ」
凛「凛たちも何かあったらすぐ知らせるよ。さ、かよちん行こう!」
花陽「みなさんも気を付けてくださいね」
――
2階廊下
凛「よし、空き教室も異常なしだね」
花陽「凛ちゃん、次はどうしよっか?」
凛「教室も、さっき見たときは誰もいなかったよね。他の階に回ってみる?」
花陽「そうだね。それか、校庭の方に行ってみるとか…」
ガチャーン
花陽「ピャア!?」
凛「ガラスの割れる音!?教室の方だよ、急ごう!」
――
1年生教室
舎弟モブ1「そらっ、もっといくぞっ!」
舎弟モブ2「おらっ!」ブンッ
ガシャーン
凛「た、大変だ!上級生が金属バットを持って暴れてる!」
花陽「わ、私たちだけじゃどうしようもないよ。絵里ちゃんたちを呼ばなきゃ!」
海未「何事ですか!?ガラスが割れる音が聴こえましたが…」
凛「海未ちゃん!教室で2年生が暴れてるんだ!」
海未「金属バットを持っていますね。おまけに2人…。凛と花陽は、にこたちに連絡をお願いします」
花陽「海未ちゃんは!?」
海未「このまま放っておけば一般の生徒が巻き込まれるかもしれません。ここは私が食い止めます!」
――
舎弟モブ1「おらおら、全部ブッ壊してやれ!」ブンッ
ガチャン
海未「やめなさい!」
舎弟モブ2「来やがったな!」
舎弟モブ1「2人相手に勝てると思ってんのかよ!こっちにはこれがあんだぜ?」ブンブン
海未「所詮は数と武器を頼みにする軟弱者ですね。いいでしょう、私が相手になってあげます!」
――
舎弟モブ1「どりゃああっ!」グオッ
海未「むっ!」スッ
舎弟モブ2「ほらよっ!余所見してんじゃねーよ!」ブンッ
海未「はっ!」スカッ
舎弟モブ1「へへへっ。避けてばっかじゃアタシらには勝てねーぞ!」
舎弟モブ2「ほらほら、こっちに踏み込んでこいよ」ブンブン
海未「(挑発に乗ってはダメです。ここは隙をついて2人同時に武器を手放させるしかありませんね…)」ゴクリ
舎弟モブ1「来ないならこっちからいかせてもらうぜ!」
舎弟モブ2「おらぁッ!」
――
海未「(間合いまで後1歩半といったところですね…)」
舎弟モブ1「へっ!デカい口叩いたわりには逃げてばっかじゃねーかよ!」
舎弟モブ2「さ~て、壁際に追い詰めたぜ」ニヤリ
海未「(次です。次の一瞬がワンチャンスです…)」
舎弟モブ1「おらあっ!脳髄ブチ撒けて死にやがれっ!」ブンッ
舎弟モブ2「っしゃああぁあぁーッ!」グオッ
海未「…今です」
ガッ
――
舎弟モブ1「うがあっ!ち、ちきしょう…」ビリッ
舎弟モブ2「あ、アタシらの手首に狙いつけてやがったのか…」ジンジン
ポロッ
カランカラン
海未「その状態ではバットを握ることはもちろん、殴りかかることもできませんよ」
舎弟モブ1「っのやろォ…!」
海未「まだやるつもりですか?何度でもお相手しますよ」スッ
舎弟モブ2「…へっ!それで勝ったつもりかよ!」
海未「どういう意味ですか?」
舎弟モブ2「アタシらは十分役目を果たしたんだ!おまえが止めに入ることも、全部想定内なんだよ!」
舎弟モブ1「さ、余計なこと言ってないでずらかるぞ」タタッ
海未「…行ってしまいましたね。どういうことなのでしょうか?」
――
にこ「海未、大丈夫だったの!?」
海未「えぇ。暴れるのはやめさせました。ただ、どうも引っかかります」
花陽「どういうこと?」
海未「やけにあっさりと退いた気がしますし…。私が止めに入ることもわかっていた、と言っていました」
凛「ただの負け惜しみじゃないかにゃー?」
海未「そうだといいのですが…」
花陽「あれ、真姫ちゃんは?」
にこ「あっ、そういえばさっきお手洗いに行ってたんだっけ…」
海未「まさか真姫を一人にしてこちらに向かったのですか?」
にこ「だ、だって緊急事態だってメールが来たし…」
凛「早く真姫ちゃんを見付けないと大変にゃー…」
花陽「と、とにかく真姫ちゃんを探さないと!」
海未「おそらく3階のはずです。手分けして探しましょう」
――
生徒会室
絵里「これで今日の分の書類はおしまいね」
役員モブ1「はい。思ったより早く終わりましたね」
絵里「希がいればもっと早く終わったと思うけどね。そういえば、希はどうしたのかしら。誰か連絡はもらってない?」
役員モブ1「いえ、私は受けていません」
役員モブ2「私もです」
絵里「希のことだからサボりではないと思うけど…何かあったのかしら?」
――
希「た、大変や。えりち!」ガラッ
絵里「希?どうしたの、血相を変えて」
希「3階の空き教室で、不良グループに取り囲まれてる子がいるんや!」
絵里「何ですって!?」
希「何とかしたかったけど、うちではどうしようもできん…。せやから、えりちを呼びに来たんや!」
絵里「わかったわ、すぐに行く。希、案内してちょうだい!」
希「こっちや。急がないと間に合わないかもしれん!」
絵里「あなたたち、生徒会室のことを頼んだわよ!」
役員モブ1「は、はいっ!」
――
3階廊下
希「ここや。この教室やった」
絵里「相手は何人?」
希「えっと、確か3人や」
絵里「またあの子たちかしら。とにかくすぐに止めないと…」ガラッ
――
勢いよく開けた空き教室のドア。
その中は、不自然なほど静かだった。
いじめの標的を嘲笑う声も、殴りつける音も聴こえない。
そして、一人の姿も確認できなかった。
いじめの加害者も、被害者もいない。
あの目立つジャケット姿の不良たちはどこにもいない。
がらんどうの教室。
気を張り詰めてドアを開けた私は、拍子抜けしてしまった。
ねぇ、希。本当にここで合ってるの?
気が動転していて、見間違えたんじゃないの?
そう言って振り返ろうとしたとき、私の後頭部に重い衝撃が走った。
鈍い痛みが身体中を襲う。
何がなんだかわからないまま、私は床に倒れた。
油断すると閉じてしまいそうな瞼を必死に持ち上げ、眼を見開いた。
その先には、希がいた。
そして、希の隣には、よく知った顔があった。
憎しみと怒りに満ち溢れたその表情。
倒れた私を見降ろして、にたりと笑っている。
でも、その眼は少しも笑っていない。
彼女は、ゆっくりと口を開いた。
『こんにちは。あ・や・せ・さ・ん』
――
歪んだ笑顔で私に声をかけてきたのは、思った通り、高坂さんだった。
おそらくこの学院で、いや、世界で一番私のことを憎んでいるはずだ。
血走った眼に、小刻みに震えている身体。
私のことを憎みすぎて、おかしくなってしまったのだろうか。
高坂さんの手には、木刀が握られていた。
あぁ、あれか。あれで私の頭を殴ったんだ。
どうりで、身動きできないほどの痛みなわけだ。
私は高坂さんの仕掛けた罠にはまってしまったらしい。
高坂さんの横には、希がいた。
そうだ。希を逃がさないと。
このままだと、希までやられてしまう。
ガンガンと響く痛みを堪えながら、私は声を絞り出した。
『高坂さん…。あなたの目的は私でしょう?そこにいる希は関係ないわ。見逃して、お願いだから…』
――
高坂さんは笑っていた。
大声で、げらげらと。さも愉快そうに笑った。
『あはははッ!こんなときまで他人の心配?よくやるよ。この偽善者!』
教室にはいつの間にか高坂さん以外も集まっていた。
真姫をいじめていた3人に、もう一人は南さん。
人数では圧倒的に不利だ。
高坂さんの手には木刀があるし、この間のナイフも持っているはずだ。それに対して、こっちは完全に丸腰。
――
最初の不意打ちは思った以上に効いていた。
教室全体が回っているかのような強い目眩に襲われる。
指先は震えてまったく力が入らない。
息をするのもやっとで、身体を動かすのは困難だ。
南さんがそっと教室のドアを閉めた。
私は完全に高坂さんたちの手の中だ。
これからされることは、容易に想像がつく。
――
希はうつむいていた。
身体は震え、眼からは大粒の涙がこぼれている。
かわいそうに。怯えているのだ。
この状況では、希を逃がすことすらできない。
私は唇を噛んだ。
親友の一人も助けることのできない、己の無力さが腹立たしい。
今の私には高坂さんに許しを請うほかなかった。
『お願い…。希だけは、希だけは見逃して…』
――
高坂さんは勝ち誇ったような表情で、私を見降ろす。
そして、笑った。
嗤う、と表した方が適切かもしれない。
『あははは!バッカじゃないの?まだ気づいてないんだ?』
氷のように冷たい嘲笑が私に降り注ぐ。
気づいてない?いったい何のことだろう。
『おまえは売られたんだよ!ここにいる希ちゃんに!』
――
殴られたような衝撃が私を襲う。
希が?そんな、そんなはずはない。
これは嘘だ。私を動揺させるために、高坂さんが思いつきで言っただけだ。
希はずっと私を支えてきてくれた。
たった一人でこの学院を変えようとした私の、唯一の理解者だった。
いつも私のことを案じてくれていた。
希は音ノ木坂学院での最初の友だち。
人付き合いがあまり上手とはいえない私の、心を許せる数少ない友人。
私にとって、かけがえのない大切な親友…。
――
『嘘…そんなの嘘よ…!』
思わず声に出していた。
そうしなければ、私はどうにかなってしまいそうだった。
希は何も答えない。じっと押し黙って、涙を流している。
『希ちゃんはねぇ、穂乃果の友だちなんだよ!』
高坂さんの声が教室に響く。
『ちょうど生徒会でおまえと一緒だったからね、うまく利用させてもらったよ。絢瀬、おまえが何か動いたときはぜーんぶ希ちゃんを通して伝わってたんだから!』
嘘だ。そんなはずはない。
騙されてはいけない。
希を…希を信じないと。
『あの3年生のチビがおまえに協力したときも、海未ちゃんが裏切ったときも、希ちゃんから全部聞いてたんだよ!』
信じないと、信じないといけないのに…。
一度沸き起こった疑念は、水に溶ける墨のように、際限なく拡がっていく。
協力してくれる仲間が増えたことは、希にしか伝えていない。
そういえば、理事長に呼び出されたのも、にこが協力してくれることを希に話した直後だ。
まさか…。そんな、希が?
お願い、希。違うと言って…。
『希ちゃんもよく頑張ってくれたよねぇ。何かあればすぐことりちゃんに連絡くれたもんね』
希、お願い。あなたはそんなことをするはずがない。違うと言ってよ…。
『今日だって、迫真の演技だったよねー?この小賢しい絢瀬が騙されるくらいだもん!希ちゃん、将来は女優さんにでもなったら?』
違う。違う…。希はそんなことを…。
しかし、私の最後の希望は打ち砕かれた。
他ならぬ、希自身の言葉によって。
『えりち…。ごめん…。ごめんな…』
――
頭が真っ白になった。
希が…あの希が私を騙していた…。
その事実が私を打ちのめした。
私のことをいつも気にかけてくれた希。
いつかきっと私の夢が叶う日がくると言ってくれた希。
その希が…どうして…。
『どうして…どうしてなの…』
私は泣いていた。
堪えようとしても、涙が止まらなかった。
――
『気分はどう?信じていた友だちに裏切られる気分はどう!?私が海未ちゃんに裏切られたときの気持ちが少しでもわかった!?』
高坂さんの言葉はほとんど耳に入らなかった。
私は呆然としていた。
この現実を受け入れることができなかった。
そんな私を現実に引きずり戻したのは木刀の一撃だった。
『あぁぁあああぁッ!』
高坂さんが力いっぱい振り下ろした木刀は、仰向けに倒れている私の脇腹にめり込んだ。
一瞬、息が止まってしまい、すぐに強烈な痛みが襲ってくる。
絞り出すような悲鳴がこだましていく。
痛みに悶えて床を転げまわるとき、ちらりと希の顔が見えた。
希はぎゅっと眼を閉じて、視線をそらしている。
『ざまあないね!ほら、どうしたんだよ絢瀬!いつものうざい説教はどうしたんだよ!?』
再び高坂さんの木刀が襲いかかる。
おなかを押さえてうつ伏せになっていた私の首筋に、信じられないくらい重い痛みが走る。
『ほうらっ、鳴けよ!もっといい声で鳴けよォ!』
今度は右のふくらはぎから乾いた音が聴こえた。
――
『穂乃果だけで楽しんだら悪いよね。みんなもやっちゃって!』
高坂さんが南さんたちに声をかける。
南さんは何も答えなかった。何か言いたげに、高坂さんの顔を見つめている。
『高坂先輩。アタシらにやらせてください』
例の3人が倒れている私を取り囲んだ。
『さっすが、私の見込んだ後輩だね!いいよ、思う存分やって!遠慮はいらないから!』
高坂さんの返事に、3人は顔を見合わせて何かを確認しているようだ。
次の瞬間、床を踏み抜くほどの勢いでおなかを踏み付けられた。
『きゃあああぁッ!?』
悲鳴を上げて転げまわる。
しかし、すぐに他の2人に身体を押さえ付けられ、仰向けに固定されてしまった。
『い、いや…離して…!ぐぎゃああぁあッ!?』
黒革のローファーが私の胸元を踏みにじる。
痛みに悶える暇もなく、今度は下腹部を踏みつけられた。
――
『ひゃーはっはっはっ!いいよ、もっと苦しめ!私が苦しんだよりも、もっと苦しめェ!』
高坂さんは手を叩いて笑っていた。
3人は高坂さんの言葉に後押しされたのか、さっきよりも激しく私を踏みつけ、蹴りつけた。
私は悲鳴を上げることすらできなかった。
痛みが全身を支配して心臓が張り裂けそうだ。
凄惨なリンチの場と化した教室で、高坂さんの笑い声が響き渡る。
南さんはドアの前に立って、虚ろな表情でこちらを見ていた。
希は両手で顔を覆い、しゃがみ込んでいた。
泣いているのかもしれないし、私が嬲り者にされている状況から目をそらしたいのかもしれない。
薄れゆく意識のなかで、私はそんなことを思っていた。
――
『やめて!もうやめて!』
悲痛な声が聴こえて、消え入りそうになる私の意識が呼び戻された。
『高坂さん、もう気は済んだやろ?もうやめてぇな…。このままじゃ、えりちが死んでまう…』
希だった。涙で顔をぐしょぐしょにしながら高坂さんの腕をつかんでいる。
『あれぇ、希ちゃんも穂乃果を裏切るの?』
高坂さんが希の胸ぐらを掴む。感情の宿っていない眼で希を睨みつけている。
『穂乃果に逆らったらどうなるかわかってるよね?またいじめられる毎日に戻るんだよ。それでもいいの?』
希がいじめられていた?
知らなかった。希とは1年生のころから付き合いがあったけれど、そんなことがあったなんて…。
今回のことも、高坂さんたちに脅されて仕方なくやったのかもしれない。
…きっとそうだ。あの優しい希がこんなことを進んでやるはずがない。現に今も、危険を冒して私をかばってくれている。
希に裏切られたと軽々しく決めつけた自分の判断が恥ずかしくなった。
口先では親友だと言いながら、私は希を信じきることができなかったのだから…。
『高坂さん、後生や…。えりちは、えりちはうちの大切な友だちなんや…。もういいやろ?もう堪忍したって…』
最後まで聞き終わらないうちに、高坂さんは希を乱暴に突き飛ばした。
『ふんっ!だったら今日からこれまでどおりに戻すよ。希ちゃんはいじめられてるのがお似合いだね!それに、この女を痛めつけるのをやめる気はさらさらないよ!』
尻もちをついた希は、もう一度高坂さんに頼み込もうとすがり寄った。
しかし、今度は勢いよく頬を張られて、床に倒れ込んでしまった。
――
『…ったくシラけるなぁ。そうだ、商品になるうちにアレやっちゃおうか。ことりちゃん、アレ出して!』
高坂さんの合図で、南さんがはっと我に返る。
南さんは教室の隅に置いてあったカバンから、ビデオカメラとデジタルカメラを取り出した。
南さんからビデオカメラを受け取った高坂さんは、楽しくてしょうがないといった表情だ。
いったい何をするつもりだろう。
『この間の責任は取ってもらうよ。今度は失敗しない…。失敗しない。絶対失敗しない…』
うわ言のように高坂さんが繰り返す。
高坂さんが下級生に目で合図をする。
1人が南さんからデジタルカメラを受け取った。
『準備はいいね。さぁ、始めようか!』
高坂さんが掛け声をあげて、残りの2人が私に襲いかかってきた。
――
『や、やだ。離して…!』
延々と続いた暴行で、私は抵抗するどころか、身体を動かすことすらできなかった。
身体中が痛く、目眩も治まらない。
できるのは、力なく許しを請うことだけ。
当然無視され、1人が仰向けの私に馬乗りになった。もう1人は脚を押さえている。
『楽しいショーの始まりだよ!』
高坂さんがビデオカメラを回しながらはしゃいでいる。
馬乗りになった下級生が、私のブレザーのボタンに手を伸ばしてきた。
――
『な、何をするの…!?』
下級生は答えず、ボタンを外し終わったブレザーを私からはぎ取った。
脚を押さえ付けている1年生も、ローファーを脱がそうとしている。
『そんなの決まってるよ!生徒会長のストリップショーをするんだよ!』
カメラを回しながら、高坂さんが叫ぶ。
『花陽ちゃんの時は失敗しちゃったからねぇ。絢瀬、おまえのせいで!』
血走った眼が私を睨みつける。
『だったらおまえに責任とってもらわないとね!おまえは最低な女だけど、見た目だけはいいから、商品価値はあるよ!』
下級生の手がリボンに伸びる。はねのけたいが、力が入らずされるがままだ。
『それにね、お前の恥ずかしい写真や動画を実名入りでネットにばら撒いてやる!そうすればおまえの一生は台無しだよ!』
ブラウスのボタンが1個ずつ外されていく。足元では靴下が脱がされていた。
『それが嫌なら、穂乃果の奴隷になってもらうよ!花陽ちゃんで稼げはずの分も、おまえを売って儲けてやる!』
ブラウスを脱がされてしまった。
このままじゃまずい。力を振り絞って身体を起こそうとしたが、髪を掴まれ、床に頭を打ち付けられてしまった。
急速に意識が遠のいていく。
『ふふっ、うふふふ。アハハハッ!本ッ当に情けないね。無様だねー。ねぇ、絢瀬さん?』
スカートを下ろされた。もう抵抗する力など残っていなかった。
『へぇー、こういう下着が絢瀬さんの好みなんだ?かわいいじゃん、そのパステルブルーのやつ』
もう終わりだ。このまま高坂さんたちに弄ばれて終わりだ。
結局、私は何もできなかった。
私のもとに集まってくれた仲間がいたのに、何も変えることができなかった。
亜里沙との約束も果たせそうになかった。
早く終わってほしい。この苦痛に満ちた時間が少しでも早く終わってほしい。
『カメラちゃんと撮ってる?次、全部脱がすからね。脱がす瞬間もちゃんと撮るんだよ。こういうところがマニアにウケるんだからね』
私は眼を閉じた。どうせ逃れられないのなら、その苦痛に身をゆだねるしかなかった。
――
『…めよう』
今にも消え入りそうな声がドアのところから聴こえた。
『穂乃果ちゃん、もうこんなことやめよう…』
南さんだった。その声は震えていた。
『…ねぇ、何なの?海未ちゃんも希ちゃんも…。今度はことりちゃんも?』
高坂さんの声はイラついていた。
『穂乃果ちゃん…。これ以上は無理だよ。いくらお母さんに頼んでも、もみ消せないよ…』
南さんは泣きそうな声で高坂さんに訴える。
『ことりちゃんは穂乃果の友だちでしょう?海未ちゃんと違って友だちなんでしょう?だったら、なんで穂乃果の邪魔をするの!?』
高坂さんが南さんの肩を掴んで激しく揺さぶる。
――
ことり「海未ちゃんも…海未ちゃんも穂乃果ちゃんの友だちだよ…」
穂乃果「どうして!?海未ちゃんは穂乃果を裏切ってこの女に協力したんだよ!そんなの友だちなら絶対しないよ!」
ことり「…海未ちゃんがどうして穂乃果ちゃんを止めたか、わからないの?」
穂乃果「そんなの知らない!こっちが教えてほしいくらいだよ!どうせこのあばずれにたぶらかされたんだろうけど!」
ことり「花陽ちゃんを売春させてたら、穂乃果ちゃんは今こうやって学校にいられなかったんだよ。喧嘩やカツアゲとはわけが違うの。退学どころか、逮捕されちゃうところだったんだよ!」
穂乃果「嘘だ!あれは絶対にバレないように計画したんだから!海未ちゃんが邪魔さえしなければ…」
ことり「…私だって、きっと海未ちゃんと同じことをしていたよ」
穂乃果「はぁ!?だったら、ことりちゃんも友だちじゃないよ!」
――
ことり「友だちだから…穂乃果ちゃんが大切な友だちだから止めるんだよ。もし穂乃果ちゃんが退学や逮捕されるなんてことになったら、こうして一緒にいられることもないんだよ!」
穂乃果「ふざけないでよ!友だちなら好きにさせてよ!」
ことり「…海未ちゃんだって、きっとつらかったと思うよ。穂乃果ちゃんが学校に来なくなってから、ずっと責任を感じてたんだから」
穂乃果「もういい!海未ちゃんの話はしないで!」
ことり「私だってそうだよ!だって、穂乃果ちゃんの友だちなんだから…。だから、穂乃果ちゃんの好きにさせてあげたかった。大好きな穂乃果ちゃんに笑っていてほしかった!でも…こんなことをしていたら、もう3人で一緒にいられることもなくなっちゃうんだよ…」グスッ
穂乃果「黙れェ!」
ガッ
――
ことり「うっ…。い、痛い…」フラッ
穂乃果「…そうだよ。穂乃果はことりちゃんの友だちなんかじゃないよ。ことりちゃんのお母さんがここの理事長だから、便利だと思って利用してただけだよ!」
ことり「穂乃果ちゃん…」
穂乃果「穂乃果に友だちなんていらないんだよ!海未ちゃんもことりちゃんも、みんないらないんだよ!」ヒクッ
ことり「穂乃果ちゃん…。だったらどうして泣いてるの…?」
穂乃果「な、泣いてなんかないよ!」
――
3階廊下
真姫「にこちゃん、お待たせ」
真姫「あら?にこちゃんは?」
真姫「ちょっと、私を置いてどこかに行っちゃったの?イミワカンナイ!」
真姫「勝手に一人で見回りしてるのかしら…」
真姫「なんか声がするわね。こっちかしら?」テクテク
真姫「ここの空き教室かしら…?」ヒョイ
真姫「あっ…!?」
――
空き教室のガラス越しに見えた光景に思わず息をのんだ。
そこにいたのは、いつも私をいじめてくる3人組と、Nýxの上級生が2人。
上級生2人は何やら話し込んでいる。
そして、東條先輩と、絵里がいた。
絵里は下着姿で、ぐったりとしていた。遠目からでも、身体中に痣があるのがわかる。口からは血が流れていた。
いつもの3人は、そんな絵里の身体を押さえ付けて、カメラを回していた。
おそらく、絵里をおびき出して集団で痛めつけた後、誰にも言えないないように弱みを握るつもりなのだろう。
連中の汚いやり方に、吐き気がこみあげてきた。
止めなきゃ。
しかし、足がすくんでしまう。
相手は5人。おまけに、そのうち3人はいつも私をいじめている連中だ。
腕力でかなわないのは、音楽室での一件で痛いほどわからされている。
にこちゃんたちを呼ぶ?
だめだ。呼んでいる間に、絵里は辱められ、暴力にさらされてしまう。
空き教室で絵里が声をかけてくれたことが頭をよぎる。
孤独だった私。一人で苦しみに堪えていた私に、手を差し伸べてくれたのは絵里だ。
私のことを友だちと呼んでくれた絵里。
そんな絵里に対して、私はつまらないプライドのために突っかかってしまった。
まだ絵里には何の恩返しもできていない。
やるしかない。
勝てる保証なんてどこにもない。
袋叩きにされるのがせいぜいかもしれない。
でも、私がやるしかない。私を除いて、この場で動ける者はいない。
私が、いま、やるしかない。
意を決して、私は空き教室のドアを力いっぱい開けた。
――
真姫「やめなさい!絵里から離れなさい!」
絵里「ま…真姫…?」
不良モブ1「あれぇー。どうしたの西木野さん、こんなところで?」
不良モブ3「アタシたちさァ、いま先輩の手伝いで忙しいんだよね。とっとと出てってくんない?」
真姫「そうはいかないわ!これ以上、絵里にひどいことをしたら許さないわよ!」
不良モブ2「ずいぶんと強気だねぇ、西木野さん。痛い思いしないとわからないのかなぁ?」
穂乃果「モブ2ちゃん。誰、この子?」
不良モブ2「同じクラスの西木野真姫ちゃんです。いつもアタシたちがオモチャにしてます」
穂乃果「へー、そうなんだ。ま、邪魔するつもりなら容赦しないよ。モブ2ちゃんたち、ちょっと痛めつけて追っ払って」
不良モブ2「了解です!」
不良モブ1「モブ2、おまえ一人でも十分だろ。軽くボコにしてやれよ」
不良モブ3「西木野さんがわんわん泣くとこ、これで撮ってあげるからさ」
不良モブ2「おっけー!ふふっ、西木野さん覚悟しなよ?」
真姫「か、かかってきなさい!私が…私が絵里を護るんだから!」
――
不良モブ2「そらよっと!」
ゲシッ
真姫「ぐぅっ!」
不良モブ2「ほらほら、近づかないとアタシには勝てないわよ?」
ガッ
真姫「い、痛いっ!」
不良モブ2「つまんないなァ、本当に。西木野さん、もう少し楽しませてよね」
真姫「こ、このぉッ!」ガシッ
――
不良モブ2「きゃー怖い怖い。西木野さんに掴まれちゃったー」
不良モブ1「西木野さん、もうちょっと学習しなよ。この間とまるで変わらないよー」
不良モブ3「モブ2、キスされないように気ィつけろよ~。西木野さん、ガチレズだから」ケラケラ
不良モブ2「わーかってるって。ピル飲んできたから大丈夫」キャハハ
真姫「えぇいっ!」
ガリッ
――
不良モブ2「ぎゃっ!?い、痛ッ…!」
不良モブ1「モブ2!?」
真姫「まだ終わっちゃいないわよ!」
ガリィッ
不良モブ2「いっだァあぁい!」
不良モブ3「て、てめェ!爪立てやがったな!」
不良モブ1「ちょ、血ィ出てんじゃん…」
不良モブ2「や、やめてって!こんなの、ありえないし…!」フラフラ
ペタン
真姫「うるさい!大勢で一人を嬲り者にしてるあんたたちに言われたくないわよ!」
不良モブ3「調子乗ってんじゃねーぞ!」
ガッ
――
真姫「うっ…」ガクッ
不良モブ1「ほらほら、どうしたの西木野さん!」
ドガッ
真姫「げふっ!」
不良モブ3「そらよっ!」
バンッ
真姫「ぐっ…ま、まだよ。まだ…」バタッ
――
穂乃果「あらあら。残念だけどお友だちもやられちゃったみたいだねぇー、絢瀬さん」
不良モブ1「高坂先輩、外に引きずり出しておきますか?」
穂乃果「そうだねぇ…。せっかくだから、一緒に撮影会やっちゃおうよ。この子もかわいいし」
絵里「や、やめて…真姫は関係ないでしょ…」
穂乃果「おおありだよ。おまえの仲間なら、全員まとめて地獄を見せてやるからね。モブ1ちゃんたち、服を脱がせてあげて!」
不良モブ1「了解です!へへへっ、西木野さんのエロい写真なら高く売れそう!」
不良モブ3「かわいく撮ってあげるから安心してね~、西木野さん」
真姫「くっ…。は、離しなさい!」
不良モブ1「動くなってば!じたばたすると、もう1発ぶん殴るよ!」
ガッ
――
不良モブ1「んはっ…!?」ガクッ
凛「真姫ちゃん、大丈夫!?」
真姫「凛!?どうしてここに…」
凛「にこちゃんとはぐれた真姫ちゃんを探してたんだよ!」
真姫「わ、私は大丈夫よ。それより絵里が…」
凛「…!」
――
穂乃果「凛ちゃん、いったい何の用かな?」
凛「絵里ちゃんに何をしたの…?」ギリッ
穂乃果「もしかして、凛ちゃんも穂乃果のことを裏切るの?」
凛「裏切ったのはそっちの方だよ!かよちんだけじゃなくて、絵里ちゃんまで…!」
穂乃果「ふぅん…。Nýxを裏切ったこと、穂乃果を裏切ったことをたっぷり後悔させてあげるよ!モブ1ちゃん、やっちゃって!」
不良モブ1「う、うっす!」
不良モブ3「凛てめェ!高坂先輩に逆らったらどうなるのかわかってンのかァ!」
凛「凛はもう逃げない!おまえたちにへつらって過ごすような学校生活はもういらない!」
――
不良モブ1「しゃらくせーんだよ、コラァ!」ブンッ
凛「よっと!」スッ
不良モブ3「ちぃッ!猫みてぇにちょこまかと!」
凛「こっちだよ!」
不良モブ1「なめてんじゃねーぞゴルァ!」ブンッ
凛「そこだ!」
グギィ
――
不良モブ1「はっ…はひ?あ、アタシの鼻折れてない…?」ダラダラ
バタン
凛「海未ちゃんに教わったんだよ!これで後一人だね!」
不良モブ3「へっ!後ろがガラ空きなんだよ!」グォッ
凛「しまっ…!」
ドガッ
――
不良モブ3「ぴゃ、ぴゃっぱぴぃぴ…?」ピヨピヨ
バタン
花陽「凛ちゃん、大丈夫!?」
凛「かよちん!」
穂乃果「花陽ちゃん…!?しまった、木刀を置きっ放しにしてた!」
海未「穂乃果。もう諦めてください」
穂乃果「う、海未ちゃん…!」
海未「無駄な抵抗はやめてください。そのカメラを渡して、今後はこのようなことをしないと誓うなら、こちらからはこれ以上咎めません」
穂乃果「う、うるさいッ!何?どのツラさげて穂乃果の前に出てきたの?この裏切り者ッ!」
海未「穂乃果!もうやめてください。こんなことをしても、何にもなりません。あなたが傷つくだけです」
穂乃果「黙れよッ!穂乃果を傷つけたのは海未ちゃんだよ!」
海未「穂乃果、話を聴いてください!」
穂乃果「…いいよもう。だったら全部終わりにしちゃうよ」ギラッ
――
絵里「な、ナイフ…!海未、離れて…!」
海未「…またそんなものに頼るのですか」
穂乃果「この間は仕留め損ねたけど、今度は外さないよ。失敗しないよ…」ジリッ
ことり「穂乃果ちゃん、やめてェ!」
海未「穂乃果、あなたが頼るべきはナイフでもNýxでもありません。あなたの友人である私やことりです。どうか…どうか私たちを信じてください…」
穂乃果「そんな綺麗事は聞き飽きたよ…。私に友だちなんていないし、そんなものいらない。私は誰にも必要とされてない。だったら、私の邪魔をするやつはみんな殺してやる!」
海未「穂乃果、いい加減目を覚ましてください!誰もあなたのことを否定していません。否定しているのは、穂乃果、いつもあなた自身なんですよ!」
穂乃果「うるさぁああぁああぁいッ!」ダッ
絵里「海未、危ない!」
ザクッ
――
穂乃果「へへへ。海未ちゃん、やっぱりよけなかったね。…えっ!?」
ことり「ほ、ほの…か、ちゃん…」ハァハァ
バタッ
海未「ことり!?」
穂乃果「こ…ことりちゃん…?なんで?どうして…?」
ことり「大丈夫だよ、穂乃果ちゃん…。誰にも、誰にも言わないから…」
海未「ことり、しっかりしてください!」
ことり「私が何も言わなければ…穂乃果ちゃんは…この学校にいられるよ…」
真姫「誰か!何か止血できるものはない!?」
ことり「海未ちゃんと、穂乃果ちゃん…そ、それに私で…」
海未「ことり、もうしゃべらないでください!このままでは出血が…」
ことり「3人で、いつまでも…いっしょ…に…」
絵里「真姫、私のカバンに止血パッドが入ってるわ!それを使って…」
ことり「ほの、か…ちゃん…だい、す、き…だよ…」ガクッ
海未「こ、ことりーッ!」
――
穂乃果「そ、そんな…わ、私のせいじゃない…」
穂乃果「私は何も悪くない…」
穂乃果「み、みんなが悪いんだ。みんな私を認めないから…」
穂乃果「海未ちゃんもことりちゃんも、私の邪魔をするから…」
穂乃果「…ッ!」ダッ
――
にこ「どこに行くつもり?」
穂乃果「お、おまえは…!」
にこ「ずいぶんとあたしの仲間に好き勝手やってくれたじゃない」ギロッ
穂乃果「う、うるさい!みんなおまえたちが悪いんだッ!」
にこ「甘ったれんじゃないわよ!」キッ
穂乃果「…ッ!」ビクッ
にこ「海未から話は聞いたわ。あんた…ずっと自分から逃げてるだけじゃない。弱い自分から目ェそらして、それを全部他人のせいにして…。不良ぶってカッコつける前に、その情けない性格を何とかしてみなさいよ!」
穂乃果「黙れッ!お、おまえに私の何がわかるっていうんだ!」
にこ「ふぅん。この期に及んで、まーだ言い訳でもあんの?」
穂乃果「私は…誰にも必要とされなかった。誰の期待にも応えられない高坂穂乃果なんて、何の価値もないから…。私はずっと一人だった。この広い世界で、たった一人だった。誰にも必要とされないつらさが、おまえなんかにわかってたまるかァッ!」
にこ「…シャバいわね。うっすら寒いほどシャバいわ」
――
にこ「あんたどこに眼ェつけてんの?あんたのことを心配して、自分のことも顧みない友だちがちゃんといるじゃない。海未、それにあの南とかいう子が」
穂乃果「海未ちゃんもことりちゃんも友だちなんかじゃない!私のことを邪魔する裏切り者だよ!」
にこ「…友だちの意味もわかってないなんてね。もういっぺん、小学生からやり直したら?」
穂乃果「ふ、ふざけやがって!」
にこ「いい?あの2人はあんたがいくらバカやっても見捨てなかった。あんたが人の道を踏み外しそうになったときは、癇癪ぶつけられるのを覚悟して止めた。それを友だちって言わないで何て言うのよ。あの2人はあんたのことをずっと信じてた。その信頼を裏切ったのはあんたなのよ!」
穂乃果「黙れ…黙れ黙れ黙れェ!殺してやる、殺してやるゥ!」ギラッ
ガシッ
――
にこ「…全然なってないわね。覚悟ってもんがないわ。そんなんじゃ豆腐も切れやしないわよ」
ポタ…ポタ…
穂乃果「なっ…!?ナイフの刃を直に握るなんて…!」
にこ「で、それからどうすんの?あんたの友だち、中で怪我してるじゃない。放っておいて逃げるわけ?」
穂乃果「お、覚えてろ!」ダッ
にこ「友だちを見捨ててるのはあんたの方じゃない…。自分の前からいなくなって初めて友だちの大切さに気づくようじゃ遅すぎるわよ」
にこ「もっとも、あんたは今からなら間に合うけどね。その腐った根性を叩き直せば」
にこ「あたしとは違って、まだ間に合うのよ…」
――
真姫「止血パッド見つかったわ。早くこれで…」
海未「ことり!お願いです、眼を開けてください!」
ことり「ほの…か、ちゃん…うみ…ちゃん…」ゼェハァ
絵里「血は止まりそう?うっ…!」ズキッ
凛「絵里ちゃん、大丈夫?」
絵里「えぇ。でも、さすがに手ひどくやられたかしら…。花陽、悪いけどそこの制服を取ってもらってもいい?いつまでもこんな格好をしていられないわ」ズキズキ
花陽「絵里ちゃん無理しないで!私が着せてあげるから」
絵里「ありがとう、花陽…」
――
にこ「真姫ちゃん、何とかなりそう?」
真姫「まずいわ、出血が多すぎる…。緊急搬送が必要だわ」
にこ「わかった、すぐに電話するわ」
真姫「待って、にこちゃん。私が電話する。にこちゃんはこの子のパッドを押さえてあげて」
にこ「えっ、でも真姫ちゃんがやった方がいいんじゃないの?」
真姫「私が電話すればたらい回しされなくて済むわ。これでもうちは総合病院なんだから!」
――
真姫の判断は賢明だった。
胸を刺された南さんは西木野総合病院に搬送され、迅速な処置を施された結果、命に別状はないとのことだ。容態が落ち着くまで、入院は必要らしいが、とにかく無事で何よりだ。入院手続も、真姫のおかげでスムーズにいった。
私も診察を受けることになった。身体のあちこちに打撲が見つかり、脳震盪も起こしていたが、検査の結果、後遺症の危険はないらしい。大事をとって短期の入院をすることにはなったため、亜里沙には貧血で階段の近くで転んでしまったと伝えておいた。余計な心配はかけたくなかったから、不良グループにリンチされたことは伝えなかった。
いつの間にか手から出血していたにこも治療を受けた。にこ本人は、唾でも付けとけば治るわよと軽く考えていたみたいだが、真姫が頑として聞き入れず、強引に診察を受けさせた。こちらも特に問題はなかった。
今回の一件は、慌てて病室に駆け付けた理事長を南さんが説き伏せて、内々で処理されることになった。
高坂さんはあれ以来、学院に顔を出していないらしい。
――
怪我の箇所が多かったせいもあり、しばらくは歩くのにも一苦労した私は、結局のところ南さんよりも少しだけ長い入院生活を送ることになった。
病室には毎日のように仲間がお見舞いに来てくれた。
にこはクラスが違うにも関わらず、プリントや課題を病室まで届けに来てくれた。にことはいつも面会時間ぎりぎりまで、とりとめもない話をした。特別なことは何も話していないのに、にこの温かい心遣いは言葉の一つ一つからしっかりと伝わってきた。
花陽はお見舞いにたくさんのお菓子を持ってきてくれた。おなかを空かした凛はそのほとんどを食べてしまい、花陽にたしなめられていた。その光景は私を笑顔にさせてくれた。
海未は放課後の見回りを続けていて、事細かに私に報告してくれた。海未のおかげで、私が不在でも大きなトラブルは起きなかった。病室でたまたま一緒になった亜里沙は、私そっちのけで海未と話をしている。海未はずいぶんと亜里沙に気に入られたようだ。
真姫は入院生活の間、何かと便宜を図ってくれた。病室は個室を用意してもらった。主治医には、院長である真姫のお父様を通じて、わざわざ診療予約殺到の名医をつけてもらった。あまりの好待遇に引け目を感じてしまうほどだ。いいでしょ、少しくらい。私に恩返しさせてほしいの。真姫はいつもこう言ってくる。私も、ついついその好意に甘えてしまう。
そして、ようやく退院ができる日がきた。
その日の午前中、私の病室を一人の親友が訪れた。
――
西木野総合病院 2号棟 302号室
絵里「希…。よく来てくれたわね」
希「えりち…。のこのこ顔を出せる立場じゃないことくらい、うちもようわかってる…。けど、えりちには…えりちには直接謝りたかったんや…」グスッ
絵里「何を謝るの?」
希「うちは…うちはえりちを騙してた。あの日も高坂さんに言われるまま、えりちを騙しておびき出したんや。えりちは…うちのことを友だちだって信じてくれていたのに…うちは、うちはえりちの想いを裏切って…」ポロポロ
絵里「希、一つだけ言わせてもらってもいい?」
希「なんでも言うてや…。うちは最低なことをした。えりちを傷つけた。その怪我だけやない、えりちの心を踏みにじったんや。うちは…どれだけ罵られても足りんくらいや…」
絵里「…ごめんなさい」
――
希「な、なんでえりちが謝るんや?悪いのは全部うちや!」
絵里「私はね、これまでずっと親友だと思ってたの。希、あなたのことを」
希「そやな…今ではもう親友やないもんな。うちは…えりちを裏切って傷つけたんや。許されるようなことやない…」
絵里「でもね、それは私の驕りだった。口では親友だと言いながら、あなたのことを何一つ理解しようとしてこなかった。あなたがずっと一人で苦しんでいたことに、私は何も気づけなかった…」
希「えりち…」
絵里「苦しいときに素知らぬ顔をして、痛みに気づけない。そんなんじゃ親友として失格よね…。希、あなたはずっと高坂さんたちにいじめられていたんでしょう?」
希「そ、それは…」
絵里「希さえよければ、話してほしいの。今度こそ、あなたの親友としてふさわしい私になるために…。あなたの苦しみに寄り添えるように…」
希「えり…ち…」
――
うちは両親の仕事の都合で、転校はしょっちゅうやった。
おまけに、うちは引っ込み思案…。仲良うなれる友だちもできんまま、クラスになじめんうちにまた次の学校や。
そんなんやから、うちはどこに行ってもいじめられた。
小学生のころは、体型をからかわれた。ひどいあだ名も付けられた。うちは鏡に映る自分が嫌で嫌でしょうがなかった。
うちは太ってる。痩せなきゃあかん。そう思ったら、何も食べ物が喉を通らなくなった。無理にでも入れようとすると、全部吐いてまう。病院に行ったら、拒食症や言われたね。おかげで体重はぐっと減ったんやけど、鏡に映るうちは、どうしても太って見えるんや。うちは自分に自信が持てんようになった。
なんでうちはこんな醜いんやろ。なんで神様はうちみたいなのを生かしておるんやろ。なんでお父さんとお母さんはうちみたいな子を産んだんやろ…。
――
うちはずっと孤独やった。友だちがほしかった。
髪型も服装も、少しでも痩せるように見えるものを選んだ。友だちにウケる思うて、出身地とは全然関係ない関西弁を使うようになった。女の子が興味持ちそうな占いの本を買いあさった。そんでもうちには友だちはできんかった…。どこに行っても、うちはからかわれて、いじめの対象になった。
中学を卒業して音ノ木坂を選んだのは、心機一転するためやった。ちょうど近くにお父さんの仕事の関係で知り合ったひとがアパートを貸しとったし、一人暮らしをやってみよう思うたんや。一人暮らしなら転校することもないし、ここ音ノ木坂で3年間を共に過ごせる友だちがほしかったんや。
音ノ木坂を選んでよかった言うのは本心や。うちにとって初めての友だちができたから。こんなうちのことでも友だちやと思うてくれる、えりちに会えたからや…。嬉しかった。涙が出るほど嬉しかった。えりちと一緒にいる時間は、うちにとって唯一、生きていてよかった思える時間やった。生徒会に入ったのも、少しでもえりちと一緒にいたかったからや。
――
けど、そんな幸せな時間も長くは続かんかった…。うちはここでもいじめられた。よりによって、悪名高いNýxに目ぇ付けられてもうたんや。
あの子らのいじめは、うちがこれまでされてきたことがかわいく思えるほど凄惨なものやった…。空き教室に呼び出されて気ぃ失うほど殴られた。水を張ったバケツに何度も顔突っ込まれて、胃の中から水しか出んようになるまで吐かされた。画鋲をばら撒いた床の上を素足で歩かされた。お菓子や言われて、匂いのついた消しゴムを無理やり食べさせられた。それを吐いた罰言うて、胸元や太ももに彫刻刀でタトゥーされた。あのときの傷、今でも残っとるよ。
他にも色々あったけど、もう思い出すだけでも震えが止まらん。高坂さんが入学してからは、いじめはいっそうひどくなった。高坂さんはうちのことをお気に入り言うて、毎日のようにしばいてきた。あの頃は、ほんま生きた心地がせぇへんかった。いつ殺されてしまうかわからんし、一人になったときはいつも自殺が頭をよぎった。うちが電車通学やったら、とっくの昔に飛び込んでたかもしれん…。
――
いじめられてることはえりちには言えんかった。初めてできた友だちに余計な心配はかけたくなかったんや。そんなことをすれば、せっかくの友だちを失ってしまうかもしれん。うちにはその不安がつきまとってた。それに、もしえりちに相談すれば今度はえりちの身が危険になる。だからうちは決めた。せめてえりちの前では、心配かけんように笑顔でいよう、って。
そんなうちに、Nýxの3年生が声をかけてきた。いじめをやめてほしいか。あの子らは確かにそう言った。うちは驚いた。まさかそんなこと言われるなんて思いもせんかったから。うちは一も二もなく頷いた。そしたら、条件がある言うてきた。その条件ゆうのは、Nýxを妨害する生徒の情報を流すこと。そう、音ノ木坂を変えるためにたった一人で頑張っとるえりちの情報を流せ言うてきたんや…。
うちは断ろうとした。えりちはうちの大切な友だちや。うちの初めての友だちなんや。そんなえりちを危ない目に遭わせるようなこと、できるはずがない。
けど…うちは臆病者やった。えりちのことよりも、自分のことがかわいくなったんや…。あの子らに散々されたいじめの光景が甦ってきた。あのつらさは、もう二度と味わいたくなかった。ここであの子らの申し出を断ったら、これまでの何倍もひどいことをされるのは目に見えとった。うちにはえりちみたいな勇気はない。卑怯で臆病な、どうしようもない惨めな存在なんや。結局うちはNýxに協力することになった。この瞬間うちは友だちを…えりちを裏切ったんや…。
協力を約束してから、いじめはぴたりと止んだ。高坂さんも先輩からの指示ゆうことで、おとなしく従ったみたいやった。うちは初めていじめのない学校生活を送れた。1日、2日と過ぎるうちに、もうあの地獄のような日々には絶対に戻りたくない、そんな気持ちがますますうちの中で強うなっていった。そのためにも、うちはえりちの情報は何でも流した。矢澤さんの一件があってから、高坂さんはえりちを目の敵にしとったから、以前に増して情報を求められた。南さんを介して、うちはどんな情報でもすぐに流した。うちは自分の安全を買うために、一番大切な友だちのことを売ったんや…。
――
あの日の高坂さんは特に機嫌が悪かった。Nýxの先輩たちと計画した売春が、親友の園田さんによって失敗に終わったこと、刃物まで持ち出しておきながらえりちに止められて、メンツが潰されたことが原因やった。
絢瀬を放課後に呼び出せ。高坂さんは開口一番、うちにそう告げた。えりちをおびき出してリンチするいうんや。うちはここでも臆病風に吹かれてもうた。うちが協力することで、えりちがどれだけひどい目に遭わされるかわかっていながら、眼を血走らせて睨みつける高坂さんに逆らえなかった…。後はもうわかるやろ。うちは最低な人間や…。生徒会室に呼びに行ったときのえりちの顔、今でも忘れられん。うちのことを心の底から信じきってる顔やった。うちは…こんなにもうちのことを信じてくれる友だちを裏切ったんや…。
うちは友だちができなくて当たり前やったのかもしれん。友だちがほしい言うとるのに、その友だちを信じることができんからや。うちのことどれだけ信じてもろても、うちはその信頼に応えることができんのや…。友だちよりも自分の方が大事。そんなんで友だちができるわけがない。うちは…ずっと高望みしてたんや。うちには友だちを求める資格なんてなかったんや…。
――
絵里「…ありがとう、希。つらいのに、よく話してくれたわ」
希「えりち、ごめん。ほんまにごめん…。謝って許されるようなことじゃないのはわかっとるけど…」グスッ
絵里「そうね。許すことはできないわ」
希「…」
絵里「だって希は…許されなければいけないようなことは何もしてないもの」
希「えりち…?」
絵里「希は悪くない。あなたはずっと苦しんできた。たった一人で、背負いきれないほどのつらさに堪えてきた」
絵里「希のせいじゃない。この傷は、希の苦しみに気づけなかった私への罰なの。親友なら当然気づけるはずの痛みを…」
絵里「だから…そうやって自分を責めないで。悪いのは私よ。あなたを一人ぼっちにさせてしまった。いつも一緒にいるのに、あんなにも近くにいたのに…!」
絵里「希さえ…希さえ認めてくれるなら、私は今でも希の友だちよ。これからもずっと…。一番大切な、私の親友…。もう一人になんかさせない。あなたを一人にはさせないから…!」
希「えり、ち…」
――
希は泣いた。
病室のベッドに突っ伏して、声を殺して泣いていた。
私にできることは、ただ希のそばに寄り添うことだった。
静かな時間が流れていく。
もう退院予定時間は過ぎてしまっていた。
受付に来ない私を心配して病室を訪れた真姫は、この状況を見て困惑している。
私は人差し指をそっと口許に当てた。
真姫は察したようで、静かにドアを閉めて廊下に出て行った。
そろそろ希も泣きやむ頃かしら。
あまり真姫を待たせても申し訳ない。
私はそっと希の頭をなでた。
もう流せる涙がないほど泣いた希が顔をあげる。
希は自分を卑下するけれど、世界で一番かわいらしい顔だ。
でも、その顔には涙じゃなくて笑顔こそがふさわしい。
私は前に進まなければならない。
音ノ木坂学院に希望を取り戻すために。
希に心からの笑顔でいてもらえるために。
それが…親友として私にできること。私がやらなければならないことだ。
希、一緒に帰りましょう。
私たちの音ノ木坂学院に…。
――
絵里の入院から1ヵ月後の夜 穂乃果の部屋
穂乃果「へぇ、そうなんだ…。うん、わかった」
穂乃果「絢瀬のやつ、もう退院してたんだね。連絡ありがとね、モブ1ちゃん」
穂乃果「先輩たちに伝えといて。顔出せなくてすいません、って。穂乃果、ずっと準備してたからさ」
穂乃果「今度こそ、失敗しないから」
穂乃果「絢瀬のやつを殺してやるから…」ニヤリ
――
穂乃果「ふふふっ、うふふふっ…」ピッピッ
穂乃果「もしもし、タカくん?穂乃果だよー。えへへ、タカくんの声が急に聴きたくなっちゃったぁ」
穂乃果「え?何か用があるんだろって?あはは、タカくんは何でもお見通しだねー」
穂乃果「…前に言ったでしょ。殺したいくらいムカつく女がいるって。そいつのこと、タカくんに懲らしめてほしいの」
穂乃果「そうそう、タカくんの友だちも呼んでね。徹底的に痛めつけてほしいの。それさえしてくれたら、後は輪姦すなり何でもしていいから。あの女、性格は最悪だけど、顔とカラダだけはいいからさ。穂乃果が保証するよ。えっ、処女かって?あいつは絶対処女だよ。あんな性悪女、男の子はみんな引いちゃうから」
穂乃果「いいの?それじゃ、明日お願いするね。タカくん、大好きー!じゃーねー!」ピッ
穂乃果「ふふ、うふふふ…」
穂乃果「これで終わりだ。絢瀬のやつも終わりだ。ふふふ…ふふっ…あははははッ!」
――
翌日 放課後 生徒会室
海未「最近ではNýxもずいぶんとおとなしくなりましたね」
にこ「まぁ、にこたちが目を光らせてるわけだしィ。ヘタなことはできなくなったわよねー」
希「ついにあの理事長も学内風紀改革に乗り出したもんなぁ。ことりちゃんのおかげやね」
ことり「お母さんに頼んで、先生たちも大幅に入れ替えてもらったよ。どの先生も、一般の生徒がNýxの被害に遭わないように全力で取り組んでくれてるよ!」
花陽「学内だけでなく、地域での非行防止の動きも本格化し始めましたね」
凛「あれね、凛が頑張ったんだよ!Nýxにいた時に行った場所なら全部覚えてたから、一つ残らず警察のひとに伝えたの!」
真姫「うちの病院からは校医と専門のカウンセラーを派遣させてるわ。まぁ、私は取っ組み合いは向いてないし、こういう形でしか協力できないけど」
絵里「…ありがとう。これもみんなのおかげよ。私一人じゃ決してできなかった…。今なら、あの時諦めかけた希望に、この学院の未来に手が届きそうな気がするわ」
――
にこ「さてと、そんじゃ今日も見回りに行こうかしら」
海未「あの、申し訳ありませんが、今日は私とことりは遠慮させてもらえないでしょうか?」
絵里「…高坂さんのことね」
海未「はい。穂乃果が登校しなくなって1ヵ月になります。自宅に直接赴くことはこれまで控えてきましたが、そうも言っていられない状況です」
絵里「行ってあげて。学校との関係が切れてしまえば、高坂さんはますます悪循環に陥るわ。これは高坂さんの親友のあなたたち2人しかできないことだから…」
海未「ありがとうございます。このまま穂乃果を孤立させるようなことはしません。それが、私たち親友の役目ですから…」
ことり「…そうだね。行こう、海未ちゃん!」
絵里「2人とも、よろしく頼むわね」
――
通学路
穂乃果「もう~、タカくんてば何してんだろ?約束の時間、とっくに過ぎてるのに…」イライラ
ブロロロ
穂乃果「あっ、あの車…。ようやく来たね!」
ヤンキー1「よっす、穂乃果。遅れて悪ィな」クッチャクッチャ
穂乃果「遅いよタカくん!どれだけ待たされたと思ってんの!」
ヤンキー1「だから悪ィって言ってンだろ。こいつ拾うのに時間くったンだヨ」
ヤンキー2「穂乃果ちゃん、ちぃ~ッス!今日もかわうぃね~」
穂乃果「あの女、帰りはいつもここを通るんだよ。見つけたら車に押し込んでやっちゃって!金髪のハーフみたいなやつだから」
ヤンキー1「で、そのマブい女はいつ来るワケ?」クッチャクッチャ
穂乃果「それはわからないよ。放課後はあちこち見回ってるから…」
ヤンキー1「はぁ!?何じゃそりゃ、ワケわかんねーし。おまえさ穂乃果、オレらにこんなクッソつまんねー場所で車に待機してろって言うのかヨ?」
穂乃果「だって、そういう約束だったでしょ!」
ヤンキー1「はぁ~萎えるわ~。こんなんだったらクラブでオンナくどいてる方がよっぽど楽しめたワ」
――
ヤンキー2「そうだ。だったらコレでどうです?先輩、その金髪ハーフが来るまで、穂乃果ちゃんと楽しみましょうよ」
ヤンキー1「おっ、それいいわナ。この広さなら、十分楽しめそうだしヨ」クッチャクッチャ
穂乃果「ちょっと!やめてよね、そういう話は!」
ヤンキー1「ほら、車入れよ穂乃果。おまえさ、いつもなんだかんだグズって帰るだろ?ちょうどいから今日抱いてやンよ」
ヤンキー2「先輩、オレッちにも穂乃果ちゃんの味見させてくれません?」ゲヘヘ
ヤンキー1「いいぜ。ただし俺の後でな。穂乃果、おめーまだ処女だろ?」
穂乃果「だ、だからそういういやらしい話はやめて!タカくんは穂乃果の言うとおりにしてればいいんだよ!自分の立場考えてよね!」
ヤンキー1「は?穂乃果、おまえ今なんつった?」ガチャ
――
穂乃果「な、何なのその顔は…!ちょっと、近寄らないで!」
ヤンキー1「調子乗ってんじゃねぇぞ、このクソアマ!」
バシッ
穂乃果「あうっ!」
ヤンキー1「こっちが下手に出てりゃいい気になりやがって…。おい、中に連れ込むぞ」
ヤンキー2「うっす!」
穂乃果「や、やだ!離して!」
ヤンキー2「ほらほら、穂乃果ちゃん暴れないで。大人しくしてたら痛くしないからさ」ガシッ
穂乃果「嫌ァ!助けて!誰かァ!」
ヤンキー1「騒ぐんじゃねぇ!」ガバッ
穂乃果「むぅ。むぐぅー!」モガモガ
ヤンキー2「ぐへへっ、必死になっちゃって。かーわいい!」
ヤンキー1「舐めた口聞いた分、たっぷりかわいがってやっからな。え、穂乃果ァ?」
穂乃果「(い、嫌だ…。こんなの嫌…。助けて、誰か…!)」
海未「何をしているのですか!」
――
ヤンキー1「んぁ、何だてめーは?」
穂乃果「(う、海未ちゃん!?)」
海未「この下郎!穂乃果を離しなさい!」
ヤンキー1「んだとこのアマ!やんのかオラァ!」パッ
穂乃果「ぷはぁっ。げほっ、げほっ!はぁ、はぁ…」
ことり「穂乃果ちゃん、大丈夫!?」
穂乃果「こ、ことりちゃんも…」
ヤンキー2「先輩ィ、何なんスかねぇこの子たち?でも、超マブくないっスか?」
ヤンキー1「へっ。どうせならまとめてヤっちまうか!?」
ヤンキー2「いいっすね!」
ヤンキー1「よし、おまえは穂乃果んとこ押さえてろ。俺があいつらまとめて連れ込んでやる」
ヤンキー2「やっちゃってください、先輩!そっちの子たちも後で味見させてくださいね!」
――
ヤンキー1「オンナのくせに調子こいてんじゃねぇぞ、コラ」ポキポキ
海未「口だけは達者ですね。御託はいいですから、さっさとかかって来てはどうです。それとも怖いのですか?」
ヤンキー1「て、てめェ!言わせておけばッ…!」グオッ
ガッ
ヤンキー1「な…何だと…!?オンナごときが俺の拳を止め…!?」
ヤンキー2「せ、先輩ィ!何してんスか、早くやっちゃってくださいよ!」
海未「あなたのような単純な相手は一番御しやすい…。猪武者は園田流の典型的なカモですね。もうあなたは私の間合いに入ってしまいました」
ゴキィ
ヤンキー1「び…びゃあああぁあッ!?」
ヤンキー2「ちょ、先輩!?」
海未「手首は通常なら最大でも90°ほどしか曲がりません。しかし、園田流は違います。手首を折り曲げると同時に骨を砕くことで、180°まで曲げることが可能となります」
グッキィ
ヤンキー1「ぎゃあああぁあああああぁああぁッ!?」
ヤンキー2「せ、先輩しっかりしてくださ…」
キン
ヤンキー2「あぴゅうッ!?」
バタッ
ことり「穂乃果ちゃんを離せ!このクソ野郎!」
海未「ふ…やりますね、ことり」
ことり「海未ちゃんに教えてもらった護身術がこんなところで役に立つなんてね♪」
ヤンキー2「かっはぁ…お、オレっちのタマさんがぁ…」ズキズキ
――
海未「どうします?まだやりますか」
ヤンキー1「ち、ちくしょうが!お、覚えてやがれ!次会ったら絶対殺してやンからな!」ヨロッ
ヤンキー2「は、はひぃ…いちゃいよぉ…」フラフラ
ヤンキー1「おら、さっさと乗れ!ずらかンぞ!」
ヤンキー2「しぇえんぱぁい…。や、薬局で軟膏ほしいれす…」
バタン ブロロロ
海未「何とかなりましたね…」フゥ
ことり「穂乃果ちゃん、怪我は?あいつらに何もされてない?」
穂乃果「う、うん…」
――
ことり「よかった…穂乃果ちゃんが無事でよかったよ…」ポロポロ
海未「まったく…あなたは昔から世話が焼けますね」
穂乃果「…どうして」
海未「何ですか、穂乃果?」
穂乃果「どうして穂乃果を助けたの…?」
海未「そんなこと、決まっているじゃないですか。穂乃果が私たちにとって大切な親友だからです」
穂乃果「海未ちゃんもことりちゃんも…穂乃果を裏切ったんじゃないの?もう穂乃果とは友だちじゃなかったんじゃないの?」
――
海未「穂乃果は本当にバカですね…。私たちが穂乃果を裏切るようなことをすると思っているのですか?」
穂乃果「だ、だってあの時は…2人とも穂乃果の邪魔したじゃん!友だちならそんなこと…!」
海未「…友だちだからです。私たちがあなたのことをどうでもよいと考えていたなら、何をしても放っておいたでしょう。しかし、私たちはあなたの親友です。間違った道に進もうとしたときは、それを正すのが親友の務めです」
穂乃果「で、でも…!」
海未「現にあなたは好きなことを好きなだけやって、今日のように危険な目に遭ったのでしょう。あの日も同じです。一歩間違えていればことりは死んでいました。あなたも退学になり、社会的制裁を受けていたでしょう。あなたはそんなことを望んでいるのですか?ことりがいなくなってもいいのですか?」
穂乃果「こ、ことりちゃんも海未ちゃんも穂乃果を裏切った!だから、いなくなったって関係ないね!」
バシッ
――
穂乃果「いっ痛ゥ…。な、何するの海未ちゃん!」ヒリヒリ
海未「穂乃果、いい加減に素直になりなさい!ことりは穂乃果のことをずっと心配していました。自分のことも顧みず、ただあなたのことだけを考えていたのです!どうしてその想いに応えられないのですか!」
穂乃果「ぐっ…!」
海未「私だって、穂乃果のことをずっと考えてきました。穂乃果にとって何が一番よいのか、さんざん悩みました。あなたを一人にした引け目から、自由にさせた方がいいと考えた時期もありました」
穂乃果「…」
海未「しかし、それは私にとって責任逃れにすぎなかった。あなたが一番私たちを必要としていたその時に何もできなかった、その後悔から思考を放棄していたのです。本当の親友なら、今のあなたに必要なことを迷わずすべきだったのに…」
穂乃果「何が、何が穂乃果に必要だって言うのさ…」
海未「こんな生活から一刻も早く抜け出すことです!あなたはこのままではだめになってしまう。穂乃果の持っている溢れるほどの輝きが全て無に帰してしまいます!」
――
穂乃果「よく言うよ…。穂乃果には何にもないんだよ。ひとに誇れるものも、誰かに必要とされるほどの何かもね!」
ことり「それは違うよ!私は…私は穂乃果ちゃんがいてくれたからこそ変われたの!穂乃果ちゃんがいてくれたおかげで、勇気をもらえた。穂乃果ちゃんのおかげでたくさんの友だちができた。自信がない自分にも向き合えた。それもこれも、全部穂乃果ちゃんのおかげ…。私にとって初めての、そして一番の友だちの穂乃果ちゃんのおかげなんだよ!」
穂乃果「ことりちゃん…」
海未「それは私も同じです。穂乃果、覚えていますか?私が園田の家流を継ぐことを悩んでいた時、背中を押してくれたのは穂乃果です。どれほど落ち込むことがあっても、あなたの笑顔と優しい言葉に何度も元気づけられました」
穂乃果「海未ちゃん…」
海未「穂乃果、もう認めてください。私たちだけではありません。あなたに関わったひとは、誰もがあなたの持つ魅力に気づきました。他の誰にも真似できない、あなただけの輝きです。それを認めていないのはたった一人…。あなた自身なんですよ」
穂乃果「…」
――
何だろう、この感覚は。
海未ちゃんの声がどんどん遠くなっていく。
目の前の景色がぼやける。
気が付くと、私は教室にいた。
音ノ木坂の教室?
いや、違う。これは…私が小学生のときの教室だ。
窓からは花壇が見える。色鮮やかなチューリップが咲いていた。
ここは1階…そうなると、1年生のときの教室かな。
これは夢?
教室の中にはたくさんの女の子たちがいる。
みんな楽しそうだ。
ふと窓際の席に目をやると、一人の女の子が画用紙を持って、哀しそうにうつむいている。
あの子は誰だろう。
どこかで見たことがある気がするが、思い出せない。
ぼんやりとその女の子を眺めていると、突然名前を呼ばれた。
『ホノカチャン!』
――
びっくりして周りを見渡す。
けれど、私の名前を呼んだ子は、そのまま窓際の席の子のところに行ってしまった。
あれ?あの子もどこかで見たことがある。
あの髪型は確か…。
そうだ。ことりちゃんだ。
私の名前を呼んだのは、小学生の頃のことりちゃんだ。
それじゃあ、ことりちゃんに名前を呼ばれたあの子は…。
小学生の頃の私?
――
忘れていたはずの記憶がゆっくりと甦ってくる。
私は過去のことはできるだけ忘れるようにしていた。
過去は私にとってつらいことしかなかったから。
わざわざ思い出すような価値のある記憶はなかったから。
記憶の中の私は、今にも泣きだしそうだ。周りの子たちに比べて、哀しさがいっそう際立っている。
『穂乃果ちゃん、すごいよね。この間の図工の時間に描いた絵、コンクールで銀賞をとったんでしょ?』
ことりちゃんがきらきらした眼で私に話しかける。
コンクールで銀賞?そんなこともあったっけ。
でも、私は少しも嬉しそうな顔をしていない。
――
『…そんなの、意味ないよ』
手にした画用紙を無造作に机に置いて過去の私が答える。
あの画用紙が受賞した絵のようだ。銀色のリボンが端の方に付いている。
『どうして?穂乃果ちゃんの描いた絵、みんながすごいって言ってるよ?』
ことりちゃんが不思議そうに尋ねる。
『隣のクラスのXXちゃんは、金賞だったんだよ。穂乃果の絵は一番じゃないんだよ。一番じゃない絵なんて、何の価値もないよ。一番じゃない穂乃果なんて、何の意味もないんだよ…』
私は涙ぐんでいた。あぁ、同じだ。自分が嫌になってどうしようもない時に、鏡に映る私の顔だ。
そうだ。私の言うとおりだ。一番じゃない存在に、何の意味があるんだろう?
何をやっても一番になれない私に、何の価値があるんだろう。
嫌だ。もう見たくない。これ以上、過去の記憶に向き合いたくない。
ぎゅっと眼をつぶった私の耳に、ことりちゃんの声が聴こえた。
『そんなことないよ!』
――
『ことりはね、XXちゃんの描いた絵より、穂乃果ちゃんの描いた絵の方がずっと好きだよ!』
『穂乃果ちゃんの絵のタイトル、「大切な友だち」だったよね?ことりね、嬉しかったよ。穂乃果ちゃんが私と海未ちゃんの絵をこんなにうまく描いてくれて、本当に嬉しかったんだよ!』
『穂乃果ちゃんが私のことを友だちだって…大切な友だちだって想ってくれたことが、本当に嬉しかったんだよ!』
『私も…穂乃果ちゃんみたいな絵が描きたい。穂乃果ちゃんみたいに、優しさがいっぱい込められた絵が描けるようになりたい。だから、ことりにも絵を教えてよ。私は穂乃果ちゃんの描く絵が一番好きだよ!』
ことりちゃんの真剣な態度に驚いたのか、過去の私は思わず絵を床に落としてしまった。
絵は私からちょうど見える位置に落ちてきた。
その絵には…満面の笑顔のことりちゃんと海未ちゃんが描かれていた。
私の大切な友だちが、そこには描かれていた。
過去の私の頬に一筋の涙が流れた。
その涙は、ちょうど銀色のリボンのところに零れ落ちていった。
――
目の前の景色が急に霞んでいく。
今度はどこだろう。
ここは…私の部屋?
目の前には、さっきよりはだいぶ大きくなった私がいた。
小学校の高学年くらいだろうか。
過去の私の表情はやはり暗い。
テーブルの上に置いてある紙きれを眺めて、押し黙っている。
あれは…テスト用紙だ。それも算数の。
私が一番嫌いな科目だ。考えるだけで、アレルギー反応が出てくる。
音ノ木坂に入学した頃には、もうテストなんてまともに受けてなかったけど…。
そんなことを考えていると、どこか懐かしい声が聴こえてきた。
『…よくできましたね。穂乃果は頑張りましたよ』
――
声の主は海未ちゃんだった。
私の隣に座っている。
『でも、60点しか取れなかったよ…。みんなは80点や90点を取ってるのに…。海未ちゃんに、毎日勉強教えてもらったのに…』
私はまた涙ぐんでいる。
そんな私を、海未ちゃんはそっと抱きしめた。
『いいじゃないですか。他人がどうかは関係ありません。穂乃果が頑張ったことが大事なんです』
『私は知っていますよ。穂乃果が放課後に遊びに行くのを我慢して、毎日机に向かったことを。穂乃果が一生懸命に頑張った姿を私は知っています』
『誰かに合わせることはありません。穂乃果は自分にとって一番の結果を出せればいいのです。今回の穂乃果は持てるものすべてを出し切りました。前回は40点もとれていなかったでしょう?20点も増えたじゃありませんか』
それでも私はうつむいている。
そんな私を見ながら、海未ちゃんはテーブルに置いてあった青いサインペンを手にとった。
そして、答案用紙に100の数字と大きな花丸を書き加えた。
『ほら、見てください。これは穂乃果の努力に贈る点数です。穂乃果は本当によく頑張りました。穂乃果の60点は、他の人の100点よりも価値があるのです。だからこれは、私からの点数と花丸です。穂乃果の努力をずっと隣で見てきた、私からの採点です…』
過去の私の眼から、涙が零れ落ちた。
その涙は答案用紙の大きな青い花丸を滲ませていた。
――
またもや景色が歪んでいく。
今度はどこに行くのだろう。
視界が晴れてくる。
ここは…。
そうだ。中学生のときに、ほんの少しの間だけ私が入部していたソフトボール部のミーティングルームだ。
部屋の中には私がいた。
その周りに、チームメイトと顧問の先生がいる。
私の眼には光がない。
その手には一枚の紙切れ。
あれは…退部届だ。
ということは、初めての公式試合の翌日だ。
私のせいで惨敗した、思い出したくもない、あの試合。
――
『穂乃果…本当に辞めちゃうの?』
あの子は…私をソフトボール部に誘った子だ。
海未ちゃんと私の共通の友人。ポジションは確かキャッチャーだった。
『私のせいで敗けちゃったもん…。私がいなければ、勝てたのに…。県大会にも出られたのに…』
過去の私はまた泣いている。身体は震え、声に力はない。
試合に敗けた日は、朝まで眠れず、布団の中でずっと泣いていた。
私の顔はやつれていた。涙を流し過ぎて、眼の周りは真っ赤になっていた。
『違う!穂乃果のせいじゃない!』
キャッチャーの子が叫んだ。
『穂乃果がいなかったら、私たちは決勝までこれなかった…。練習試合だって全部敗けてた。ここまでこれたのは、穂乃果がいてくれたからだよ!』
他のチームメイトも次々と声をあげた。
『だいたい、この部が今も活動を続けられるのも、穂乃果が入部してくれたからなんだよ。8人じゃ試合はできないんだよ!』
『去年までと同じだったら、ただのお遊びの部活動で終わってた…。私たちが県大会なんて目指すようになったのは、誰よりも練習してた穂乃果がいたから!穂乃果がいたから、みんな初めて真剣に部活するようになったんだよ!』
『昨日だって、私たちがチャンスで打ててたら、勝ててたんだよ。みんなで穂乃果を援護しなきゃいけないのに、それができなかったら敗けた…。それなのに、どうして一番頑張った穂乃果のせいになるの!?』
『穂乃果、どうして辞めちゃうの…?私たち、もっと練習する。穂乃果の足を引っ張っらないように、もっと頑張る。だから…だから辞めないでよ…。これからも穂乃果と一緒に部活続けていきたいよ…』
チームメイトはみんな泣いていた。
私のために、私なんかのために泣いていた。
――
先生が静かに口を開いた。
『…こんなことを言ってはなんだけど、初めに顧問を頼まれたときは、私もあまり乗り気ではなかったの。うちのソフトボール部は3年前を境に、本格的な練習は止めてしまっていたから。でもね、高坂さん。あなたを見て私も考えが変わったわ』
『あなたはあれだけの才能があるのに、いつも誰よりも早く練習に来て、一番最後まで残っていた。そんなあなたを見ているうちに、顧問の私もしっかりしなきゃと思った。チームのみんなも、あなたに刺激されて、練習に本腰を入れ始めた。すべてはあなたがいたから。あなたがいたから私たちはチームで一丸となって、共通の目標に向かって進むことができた』
『あなたは夢を見させてくれた。始まる前から諦めていた私たちに、夢を見させてくれた。その夢はまだ終わっていないわ。あなたが私たちと一緒に歩んでくれるかぎり、何度でもその夢に手を伸ばせる。いつかきっと、叶えることのできるその夢に向かって…』
過去の私は何も言わず、うつむいていた。
キャッチャーの子が、私に歩み寄った。
手には土で汚れたボールが1個。
『穂乃果、これ覚えてる?私たちが最初の練習試合で、このチームで初めて勝ったときのウイニングボールだよ…』
『いつも敗けてばかりだった私たちのチームが、穂乃果が来てくれて初めて試合に勝ったんだよ』
『試合の後、穂乃果にサインを頼んだよね。あの時は私がふざけてやったと思って、穂乃果は笑ってたけど…』
『でもね、ふざけてなんかいなかった。私がサインを頼んだのは、穂乃果が私たちにとってのヒーローだったから…。目標も何もなくて、何かに本気で取り組むこともなかった私たちを変えてくれた、世界で一番かっこいヒーローだったからなんだよ…』
過去の私はボールを受け取った。
高坂穂乃果とサインされたボールを、透明な雫がゆっくりと伝っていった。
――
眩い光に包まれて目の前の景色が変わっていく。
私の目の前に現れたのは、見慣れた光景だった。
私のうちのリビングだ。
テーブルには大きなホールケーキが皿に乗せられている。
雪のように真っ白なケーキの周りを真っ赤な苺が彩っている。
ふわふわの生クリームに思わず唾を飲み込む。
和菓子屋のうちにケーキ?
中央にはチョコレートペンシルでメッセージが書かれていた。
Happy birthday,Yukiho.
――
そっか。今日は雪穂の誕生日なんだ。
そういえば、うちにもケーキが並ぶ日があった。
クリスマスと、雪穂と私の誕生日。
洋菓子に浮気しすぎると和菓子の神様にそっぽを向かれるとかなんとかで、お父さんは普段はケーキなんて絶対に食べない。
そんなお父さんが、特別に手作りケーキを振る舞ってくれるのが、クリスマスと私たち姉妹の誕生日だった。
お父さんの作ってくれるケーキは本当に美味しかった。最後の一切れをどっちが食べるかでいつも雪穂と喧嘩になっていた。結局、お母さんが自分の分を私たちにくれて仲直りするのがお決まりだ。もう何年もお父さんのケーキは口にしていない。
気が付くと、テーブルのそばに私がいた。
小学校の中学年くらいかな。
テーブルのケーキをじっと見つめている。
私のことだから、つまみ食いでもするのかな。
――
けれど、私はつまみ食いをしなかった。
私にはわかっていたんだ。
このケーキは雪穂のためのもの。
私のためのものじゃない。
雪穂は何をやってもうまくできる。
勉強も、スポーツも。友だち付き合いも。
私にはどうやっても届かない一番を、雪穂はいくつも持っていた。
雪穂はお父さんとお母さんの自慢の娘だ。
それに比べて、私には何もない。
誇れるものは何もない。すべてが雪穂に劣っている。
私は雪穂の出来損ないのコピー。
雪穂がいるなら、私はいらない。
この家には、雪穂さえいればいい。
私の居場所はどこにもない。
このケーキがこんなに美味しそうなのは…こんなに豪華に飾り付けられているのは、それは雪穂のためのものだから。
だから、お父さんも心を込めて作ったんだ。
私だったら…きっとこんな風には作らないんだ…。
ケーキを前にしているのに、過去の私は少しも嬉しそうじゃない。
私は必要とされてないんだ。この家の誰にも、お父さんにもお母さんにも、もちろん雪穂にも必要とされてないんだ。
過去の私はリビングを後にしようとしていた。
そんな私を誰かが呼び止めた。
『あれっ、お姉ちゃん帰ってたの?』
――
雪穂だった。
後ろにはお父さんとお母さんが立っている。
雪穂は私に向かって、いたずらっぽく微笑んだ。
『なーんだ、せっかく驚かせようと思ってたのに…』
雪穂がお父さんに目で合図した。
お父さんは、もう1つの大きなケーキを乗せた皿を手に持っている。
『どうしてケーキが2つあるの?』
私が尋ねる。
『今日は雪穂の誕生日だけど、いつもあなたたち2人で取り合いになるでしょ?だから今年はお父さんに2つ作ってもらったの』
お母さんが笑顔で答える。
『私もお父さんのお手伝いしたんだよ!』
雪穂が得意げに話す。
私は2つのケーキを見比べる。
どちらも美味しそうで、豪華に飾り付けられていた。
過去の私もきょろきょろと見比べている。
『どっちも同じよ。お父さんがあなたたちのために、世界一美味しくなるように作ってくれたんだもの。あなたたち2人は、私たちの大切な娘…。雪穂と穂乃果で差をつけるわけないでしょう?』
お父さんが過去の私の前にケーキを差し出す。
相変わらず無口だけど、お父さんの表情は優しかった。
ケーキの中央にはチョコレートペンシルで綺麗に書かれたメッセージ。
几帳面なお父さんが書いたことがすぐにわかった。
Our precious,Honoka.
ケーキにはそう書いてあった。
真っ白なケーキに、私の涙が零れていった。
――
ふと海未ちゃんに言われた言葉を思い出した。
穂乃果は本当にバカだ、って。
海未ちゃんの言うとおりだった。
私は…どうしようもないバカだった。
誰も私を責めてなんかいなかった。
みんなが私のことを大切に思ってくれていた。
みんなが私を必要としてくれた。
それなのに、全部穂乃果がだめにしていた。
私のことを責めていたのも、価値がないと思っていたのも、みんな穂乃果自身だった。
やっぱり海未ちゃんの言う通りだった。
わかっていたはずなのに、私は自分に満足できなかった。
私は自分を許せなかった。
私は自分を愛せなかった。
私は私に求めすぎていた。
少しでも納得できなかったら、ますます自分を追いつめた。
大嫌いだった。こんな自分が心底憎かった。
その怒りは、私の周囲に向けられるようになった。
私は暴力に溺れた。
自分を責める代わりに、他人に怒りをぶつけた。
私は私が誰よりも憎かった。
だから私の暴力はいつまでも終わることがなかった。
――
いつの間にか景色は変わっていた。
ここも見慣れた場所だ。
毎日のようにたむろした、音ノ木坂の空き教室だ。
空き教室には先客が一人いた。
私だった。
あの髪型にしていたのは、確か入学してすぐの頃だ。
私は床に座り込み、虚ろな眼でぼんやりと遠くを眺めている。
教室に掛けられた時計を見ると、授業時間だった。
海未ちゃんやことりちゃんは今ごろ教室で授業を受けているはずだ。
私は一人、空き教室で無為に時間を過ごしていた。
眼は血走っていて、身体は小刻みに震えている。だらしなく開いた口許からは、鼻に付く甘ったるい匂いが立ち込めている。
クスリでもキメたのかな。そういえば、入学祝いってことで先輩からドラッグもらったこともあったなぁ。
あぁ、やっぱり。私のそばには開封済みのシートが散らばっている。
私は…本当に何をやっているんだろう。
自分から逃げて…海未ちゃんやことりちゃんの想いにも気づかないで…挙句の果てに全部を他人のせいにして…。
目の前でバカみたいに呆けている私に怒りがこみあげて来た。
でも、暴力に走るときの怒りじゃない。
やりきれない想い…なんとかしたいという想いだ。
海未ちゃんも…きっとこんな想いだったんだろうな。
私は決めた。
このどうしようもないバカに、高坂穂乃果にガツンと言ってやらなきゃ気が済まなかった。
――
『ねぇ…こんなところで何してるの?』
できるだけ穏やかに、私は私に話しかける。
過去の私は、一瞬だけ目を丸くした。そして、いつものへらへらした表情に戻った。
『うっそ、何コレ?私がもう一人いるよ。あはははっ。先輩からもらったやつ、すごい効き目だなァ』
どうやら私のことをドラッグによる幻覚か何かと勘違いしているようだ。
『今は授業時間だよ。どうしてこんなところにいるの?』
私の言葉に、過去の私は煩わしそうに顔をしかめた。
『うるさいな…。そんなもん、出る意味ないって。私はここで気持ちよくなってた方がいいね』
そう言いながら、新しいシートに手を伸ばそうとする。
私はその手を打ち据えた。
『痛ッ!何するんだよ!』
過去の私が睨みつける。思い通りにならなかったときは、いつも私はこうする。まるで駄々をこねる子どものようだ。
『こんなことしたって何も変わらないよ…。もう自分から逃げるのはやめて。かっこ悪いんだよ!』
過去の私はキレた。
『ふざけんなッ!わかったような口利いてんじゃねえよ!』
その右手にはナイフが握られていた。追い詰められているときの私のサイン。私の弱さの象徴だ。
『自分でもわかってるでしょ?あなたを否定しているのはいつもあなた自身なの。いつまで立ち止まっているつもり?前を向いて歩きださなきゃ、何も変わらな…』
私の言葉はそこで途切れた。
左胸に、ナイフが深々と刺さっていた。
――
『あっ、あ…。さ、刺しちゃった…。そんな、ど、どうしたらいいの…!?』
一瞬の静寂の後、鮮やかな赤い液体が溢れてきた。
私はゆっくりと膝をつく。
過去の私は明らかに動揺していた。
私は喧嘩っ早いし、殺すなんて脅し文句はしょっちゅう吐いている。
でも、それは私が臆病だからだ。弱い自分をせいいいっぱい強く見せようとしているにすぎない。
過去の私は、頭を抱えて座り込んでしまった。身体が震えているのはドラッグの影響だけではない。恐怖し、狼狽しているからだ。
『どうしたらいいの…。助けて…誰か…』
私は泣いていた。血走った眼からは、透明な涙が流れていた。
――
『大丈夫だよ…。あなたにもいるでしょ。あなたのことを誰よりも大切に想ってくれる友だちが…』
出血で体温が急低下する。苦しいが、なんとか声を絞り出した。
『あなたがどれだけ問題を起こしても、必ず助けてくれる友だちがいる…。決して見捨てない友だちがいる…。さぁ、早くその友だちのところに行って…。きっとあなたの力になってくれる…』
喉が震えてうまく声が出せない。でも、これだけは伝えないといけない。
目の前にいる私は、涙を拭いながら尋ねてきた。小さな、本当にか細い声で。
『海未ちゃんと…ことりちゃんのこと…?』
よかった。私の大切な友だちの名前が私の口から出てきた。
『そうだよ…。海未ちゃんとことりちゃんなら、きっとあなたの力になってくれる…。こんな状態のあなたを変えてくれる…。信じて、あの2人を…。2人があなたを信じているように…』
私は私の手をぎゅっと握った。
『それにね、私も信じてる…。高坂穂乃果はあなたのことを誰よりも認めてる…。あなたのことを心から愛してる…。あなたの一番の応援団は私だよ…。だから、自分のことを嫌いにならないで…。そのままの自分を受け入れてあげて…』
意識が遠のいてくる。最後に、最後に声をかけてあげないと…。
『穂乃果ちゃん、ファイトだよ…』
固く握られた私たちの手に、2つの涙が零れ落ちた。
――
気が付くと、私の目の前には海未ちゃんとことりちゃんがいた。
あぁ、戻ってきたんだ。過去の記憶から、現在の私に…。
あれは何だったんだろう。過去の記憶が見せた幻?胸の傷もいつの間にかなくなっている。
でも、幻でも何でも構わない。私はようやく自分に向き合えた。みんながくれた優しさに素直になれた。こんな私でも必要とされているのがわかった。
早く伝えないと。海未ちゃんとことりちゃんに。
これ以上、大切な友だちを心配させていられないから…。
――
穂乃果「海未ちゃん、ごめんなさい…」
海未「穂乃果…」
穂乃果「ことりちゃん、ごめんなさい…」
ことり「穂乃果ちゃん…」
穂乃果「私は逃げてた。みんなの優しさから目を背けて、自分で自分を否定し続けてた。その腹いせに、たくさんのひとを傷つけてきた…」
穂乃果「海未ちゃんとことりちゃんにもひどいことをたくさんした。裏切り者なんて言っちゃった。海未ちゃんとことりちゃんの想いを裏切ったのは穂乃果なのに…」
穂乃果「バカでどうしようもない私のことを、いつも助けてくれた。今日だってそう。これまでも、ずっとそうだった…」
穂乃果「海未ちゃんとことりちゃんはずっと穂乃果のことを想ってくれた。誰よりも穂乃果のことを考えてくれてた。それなのに、それなのに私は…」
穂乃果「一番大切な友だちを、裏切り者なんて呼んじゃった…」
穂乃果「ごめんなさい…。ごめんなさい、ごめんなさい…」グスッ
――
海未「…穂乃果、ようやく自分のことを認めることができたのですね」
海未「そうです。あなたは誰も代わることができない、世界で一人だけの存在です。そして、あなたは輝いています。あなた自身が否定しなければ、その輝きはどこまでも届くほどの強いものだとわかるはずです。私とことりはあなたの輝きを一番近くで見てきました」
ことり「穂乃果ちゃんは私たちを変えてくれた。穂乃果ちゃんの輝きが私と海未ちゃんを変えたんだよ。次は穂乃果ちゃん…穂乃果ちゃん自身がその輝きに目を向ける番だよ」
穂乃果「海未ちゃん…ことりちゃん…。私のこと、今でも友だちって呼んでくれる…?」
海未「もちろんです。穂乃果は私の最高の親友です」ギュッ
ことり「ことりは穂乃果ちゃんの友だちだよ。これまでもずっとそうだったし、これからもずっとそうだよ!」
穂乃果「う、海未ちゃん…。ことりちゃん…うっ、うぅう、うあぁああぁああぁん!」
――
私は泣いた。
子どものように泣いた。
涙が枯れるほど泣いた。
でも、もう哀しくはなかった。
だって、もう私は一人じゃないから。
私には、大切な友だちがいるから。
海未ちゃんとことりちゃんは、私が泣き止むまでずっとそばにいてくれた。
ようやく泣き止んだ私は、顔をあげる。
海未ちゃんとことりちゃんは笑顔だった。
画用紙に描いたときと変わらない、満面の笑顔だった。
私も笑っていた。
もう二度とないかと思っていた、心からの笑顔だった。
――
もうだいぶ日が傾いていた。
海未ちゃんとことりちゃんにまた明日ねと言って別れてから、私は歩き出した。
行き先はネットカフェでもゲームセンターでもない。先輩のアパートでもない。
私の家だ。
ずっと嫌いだった私の家だ。
私は家の前に立っている。
もう夕飯の時間だ。美味しそうな匂いがする。
お店の方はもう閉まっていた。
ごくりと唾を飲み込んでから、勝手口へと足を進めた。
――
勝手口を開けて、リビングに移る。
ちょうど夕食の準備がされていた。
食器は4人分ある。
今日は餃子みたいだ。
ところどころ、餡がはみ出してるのがある。たぶん、お母さんが慌てて作って失敗したんだろう。
そんなことを考えているうちに、後ろから声をかけられた。
『お姉ちゃん?今日は早いね』
雪穂だった。
『…ただいま、雪穂』
私の返事に雪穂は驚いている。
帰って来て家族の誰かに返事をするなんて、もう何年もしていなかった。
『穂乃果…』
お母さんだ。後ろにお父さんも。
『ただいま。お父さん、お母さん』
2人も私が返事をしたことに驚いてる。
『穂乃果、ご飯食べる?待ってて、いま部屋に持って行くから…』
お母さんがお盆に私の分の食器を乗せようとする。
私はいつも部屋で一人で食べていた。家族と顔を合わせるのが嫌でそうしていた。
『…私もここで食べていい?』
お母さんは私の返事に驚いている。しばらく沈黙が続いた後、お母さんは応えた。
『…もちろんよ。さぁ、みんなでご飯にしましょう』
お母さんの眼には涙が溢れていた。
とても優しい眼だった。
お父さんも、雪穂も同じだった。
私が恐れていた冷たい視線は、弱い心が生み出した妄想だった。
お母さんはいつも4人分の食器を用意していた。
どれだけ遊びまわって遅くに帰ってきても、必ず私の分のご飯が用意されていた。
そういえば、勝手口にも鍵がかかっていなかった。夜中に帰って来ても、私は一度も鍵を使わずに入っていた。
…私は受け入れられてたんだ。この家に。家族みんなに。
さっきあれだけ泣いたはずなのに、私の瞳にはまた涙が滲んでいた。
――
深夜 雀荘
ヤンキー1「兄貴ぃ、頼むよ。俺、このままじゃメンツ丸つぶれだよォ」
ヤンキー兄貴「…」チャッ
ヤンキー1「後輩にもしょうもないところ見られちまったしよォ。兄貴、なんとかしてくれって…」
ヤンキー兄貴「…」パシッ
ヤンキー1「これは俺の男としてのコケンに関わンだよ。頼むよ、兄貴ぃ…」
ヤンキー兄貴「やかましいわボケェ!」バキッ
ヤンキー1「ぎゃんっ!?」
ヤンキー兄貴「いいツモきてるときに話しかけんじゃねえクソが!ツキが逃げたら責任取れンのかおめーは!」
ヤンキー1「ひぃいっ!?ご、ごめんなさいぃ!」ガタガタ
ヤンキー兄貴「話があんなら終わってからにしろ!てめぇの辛気臭ェツラ見てるとこっちまでツカなくなるだろうが!とっとと出てけカスが!」
ヤンキー1「わ、わかったよ!外で待ってるから!」イソイソ
――
30分後 店外
ヤンキー兄貴「終わったぜ。ったく、てめぇがミソつけなきゃもっと上いってたわ。ハコにしてやったから最低限は抑えたけどヨ」
ヤンキー1「わ、悪かったよ兄貴!さっきのは謝るから、俺に力を貸してくれよ!」
ヤンキー兄貴「…で、今度は何やらかしたンだ。てめぇのケツ拭かされんはこれで何度目だよ?」
ヤンキー1「それはいつもありがたく思ってるって!今回はちょっと喧嘩でメンツ潰されて…」
ヤンキー兄貴「ったく情けねーな。どこのチームよ?」
ヤンキー1「それが、その…」
ヤンキー兄貴「ンだよ、さっさとしゃべれやボケナスが」
ヤンキー1「じ、JKに…」
ヤンキー兄貴「JK?そんなチームいつの間にできたンだ?」
ヤンキー1「いや、その…女子高生に…」
ヤンキー兄貴「バカかてめーは!?」バキッ
――
ヤンキー1「痛っ…!ちょ、兄貴殴らないで…」
ヤンキー兄貴「てめーが血ィつながった弟じゃなきゃブッ殺してるわ!族のメンバーが女子高生に喧嘩で負けただぁ?どんだけチームのツラ汚しなんだよおめーは!」
ヤンキー1「それは反省してるって!だからさ、今はケジメつけてチームの名誉を回復することが先決だと思うだよね、俺は」アセアセ
ヤンキー兄貴「だったらてめーが東京湾にダイブしてケジメつけろやゴルァ!」
ヤンキー1「だ、だって俺は総長の兄貴の実の弟だぜ?俺がメンツ潰れたままだと、俺らTȳphōn(テュポーン)の恥だよ。総長の兄貴のメンツにも関わるじゃん!」
ヤンキー兄貴「チッ…とんだ世話の焼けるクソ弟だな。で、その女子高生はどこよ?」
ヤンキー1「確か音ノ木坂の制服着てたぜ!」
ヤンキー兄貴「音ノ木か…」
ヤンキー兄貴「(そういや、モブ2も音ノ木だったな。あんにゃろう、金遣い荒いもんだから別れちまったけど、元気にやってンのかな…)」
ヤンキー兄貴「(こいつを口実に音ノ木に顔出して、あいつが元気でやってっか見に行くか…)」
ヤンキー兄貴「しゃあねぇな。今回だけだぞ」
ヤンキー1「サンキュ兄貴!兄貴は俺の誇りだよ!」
ヤンキー兄貴「てめーなんかに誇られても反吐が出るわ」
ヤンキー1「じゃ、俺チームのやつらに声かけてくるから!兄貴の名前使ってもいいよね!」ダッ
ヤンキー兄貴「ちょ、待てバカ!…行っちまったか。まぁ、あんまりバカなことやりそうなら俺が止めればいいから、気にする必要もねぇか」
――
翌日 放課後 生徒会室
凛「あー!にこちゃん、それ凛の分のお菓子だよ!」
にこ「うっさいわね。早い者勝ちよ」
凛「にゃー!にこちゃんのどケチ!強欲!子ども体型!」
にこ「最後のはあんたにだけは言われたくないわよ!」
真姫「ちょっと、にこちゃん。狭いんだから騒がないでよ」
花陽「凛ちゃんも、私の分をあげるから落ち着いて、ね?」
希「今日も賑やかやなぁ」
絵里「そうね。こんな騒がしさなら歓迎だけど」フフッ
――
海未「みんな集まってましたね」ガチャ
ことり「お待たせ~」
にこ「今日は遅かったじゃない。こっちはずっと待ってたのよ」
海未「申し訳ありません。みんなに会わせたい人物がいまして…」
絵里「誰のこと?」
海未「…入って来てください」
ガチャ
穂乃果「…失礼します」
――
にこ「何であんたがここに?てゆうか、海未。どうしてこいつをここに…」
希「こ、高坂さん…」カタカタ
絵里「希、しっかりして。私たちがいるから大丈夫よ」スッ
凛「何しに来たの?また凛たちに嫌がらせにでも来たの?」キッ
海未「待ってください。穂乃果は…もうNýxとは縁を切りました」
花陽「どういうことですか?」
――
海未「穂乃果も気づいたのです。自分から逃げ続けていることを。今の穂乃果は自分の弱さに目を背けたりはしません。私が保証します」
真姫「け、けどいきなりそんなことを言われても信じられないわ。私や絵里はさんざんな目に遭わされたのよ」
海未「それも承知しています。穂乃果はこれまでのことをみんなに謝りたいと言っています。穂乃果を赦すかどうかは、穂乃果自身の言葉を聴いてみんなが判断してください」
穂乃果「…」
海未「さぁ、穂乃果。私たちの付き添いはここまでです。後は穂乃果自身の言葉で、みんなにおわびをしなければなりません」
ことり「穂乃果ちゃん…今の穂乃果ちゃんなら、私たちが大好きな穂乃果ちゃんなら、自分の気持ち、正直に言えるよね?」
穂乃果「…ありがとう、海未ちゃん、ことりちゃん。これは穂乃果の問題。私が自分でけじめをつけなきゃいけない問題だから…」
――
穂乃果「花陽ちゃん」
花陽「は、はい」
穂乃果「騙してごめんね。海未ちゃんが止めてくれたからよかったけど、そうじゃなかったら私は…花陽ちゃんに一生かかっても償えない傷を負わせてた」
凛「そうだよ!あのとき海未ちゃんが来てくれなかったらどう責任取るつもりだったの!?」
花陽「待って、凛ちゃん!」
凛「か、かよちん…」
花陽「高坂先輩。私はもういいです。何もなかったんだから、これ以上どうこう言うつもりはありません」
凛「そんな…かよちんは優しすぎるよ!こいつはかよちんにひどいことをしようとしたんだよ!油断させて、また何かやらかすかもしれない!」
花陽「…違うの、凛ちゃん」
凛「何が違うの、かよちん…?」
花陽「高坂先輩の眼だよ。あのときの高坂先輩は、笑っていたけど、どこか作ったような表情だった。誰にも心を許してない、そんな眼だった。でも今は違う。凛ちゃんと変わらない、とっても澄んだ瞳をしてる。私は、こんな綺麗な眼をしたひとが、私たちを騙すようなことはしないと思う」
凛「かよちん…」
花陽「高坂先輩。私は先輩を信じます。だって、海未ちゃんがここまで想っている友だちが、悪い人のはずがないもの」
海未「花陽…」
穂乃果「花陽ちゃん…ありがとう…」
花陽「凛ちゃんはどうする?」
凛「そ、そんなかよちんずるいにゃあ…。かよちんにそんな風に言われたら、凛、反対できないよ…」
花陽「ありがとう、凛ちゃん」ニコッ
穂乃果「凛ちゃん、ありがとう…。ごめんね、花陽ちゃんを騙したりして…」
――
にこ「しっかし、よくもまぁのこのこと出て来たわねぇ」
穂乃果「矢澤先輩…。先輩にも謝らなきゃいけないことがたくさんあります…」
にこ「あたしはいいわよ。問題は真姫ちゃんのこと!あんた、真姫ちゃんのいじめに手ェ貸してたわけ!?」ズイッ
真姫「ちょっと、にこちゃん。落ち着いて!」
穂乃果「後輩がやったことなら、私の責任です。私自身もいじめをしていました。そんな私の姿を見て、後輩たちもためらいなく真似したんだと思います…。本当にごめんなさい…」
にこ「で、どうすんの真姫ちゃんは?」
真姫「わ、私?」
にこ「そうよ、これは真姫ちゃんの問題なんだから。真姫ちゃんが許さないって言ったら、あたしはこのままこいつをブン殴るわよ」
真姫「だから荒っぽい真似はやめて!暴力に暴力で突っかかったら同じことよ!」
にこ「それじゃ、真姫ちゃんはこいつを許すの?」
真姫「えぇ。というか、仮に許さなかったとして何か状況が良くなるの?私はそうは思わない。私自身、これまでのことは早く忘れたいの。過去にとらわれないで、にこちゃんたちと楽しい今を送りたい。この子を恨み続けたら、私まで過去に縛られることになるわ」
にこ「…そう。それならあたしもあんたを許すわ。真姫ちゃんがいいって言ってるのに、あたしがごねる理由はないから」
穂乃果「ありがとうございます、西木野さん…矢澤先輩…」
――
にこ「ていうか、あんた自身もいじめに関わってたわけ?そっちの清算は済んだの?」
穂乃果「…まだです。私は謝らなければいけません。東條さんにずっとひどいことをしてきたことを…」
にこ「あんた、希をいじめてたの!?」
穂乃果「ここでは言えないくらい、ひどいことをたくさんしました。それどころか、絢瀬会長に復讐するために東條さんを脅して手伝わせました。東條さんは絢瀬会長の親友なのに…」
絵里「そうね。あなたが希にやったことは、簡単に償えるものではないわ。身体の傷はたとえ治っても、心に負った傷は一生残ることだってあるのよ」
穂乃果「…許してもらうなんて、そんな虫のいいことは考えていません。私は許されないことをした。私の命を差し出しても足りないくらいにひどいことをした。でも、私の口から謝らせてください。許されなくても、謝ることから…自分のやったことから逃げたくはないんです…」
絵里「…わかったわ。希が許すかどうかはともかく、あなたの口から謝罪することは私も必要だと思う。あなた自身が罪の意識に押しつぶされないためにも…」
――
穂乃果「東條さん」
希「…」
穂乃果「ごめんなさい、これまであんなひどいことをして…。私は羨ましかったんです。東條さんが絢瀬会長と仲良くしているところを見て…。あんな風に信頼できる友だちがいることが羨ましかった…」
穂乃果「私は東條さんに嫉妬していました。絢瀬会長に復讐するときに無理やり手伝わせたのも、当てつけだったんです…。私は自分の弱さから目をそらすために、暴力で周囲にあたりました…。東條さんには一番きつくあたりました…」
穂乃果「許されないことくらい、わかっています。ですが、どうしても言わせてください」
穂乃果「本当に…ごめんなさい…」ポロポロ
希「高坂さん…」
――
希「本音言うとな、うち、まだ怖いんや。うちをいじめてた高坂さんが怖い」
希「でもな、高坂さんの気持ち、うちには少しだけわかる気ぃする…」
希「誰だって心は弱いんや。うちなんか特にそうやった。いじめられても誰にも相談できず、それどころか大切な友だちを裏切ってまで自分の安全を優先してもうた…」
希「だから、高坂さんの気持ちがわかる気がするんや。一人ぼっちのつらさ、よう知っとるから…」
希「それに、うちの大切な友だちやったら、きっと今の高坂さんに手ぇ差し伸べてくれるはずや」
希「そうやろ、えりち…?」
――
絵里「希…」
希「うちも真姫ちゃんと同じ気持ちや。これまでのことは早く忘れたい。高坂さんを憎んでもしょうがない。そないなことしたら、うちはこれからもずっと一人ぼっちや。えりちやみんなに心を開くこともできないまま、ずっと過去の自分とにらめっこや…」
絵里「希、あなたは高坂さんを赦すのね…」
希「そうや。これはうちのためでもあるんよ。誰かを恨んだままでは、うちだって苦しくなる」
絵里「あなたらしいわね、希…。それなら、私も高坂さんを憎む理由はないわ」
穂乃果「東條さん…絢瀬会長…ありがとうございます…ありがとうございます…」
――
にこ「あら、結局全員許してやったの?あんたら甘いわねぇ」
絵里「高坂さんも苦しかったのよ。私はNýxの高坂さんとは対立してた。でも、音ノ木坂の高坂さんは私たちの仲間の一人よ」
ことり「よかったね、穂乃果ちゃん…」
海未「これからは今までのことを深く反省して報いるのですよ。それがあなたに課せられた責任です」
穂乃果「海未ちゃんもことりちゃんもありがとう…。私、ようやくみんなと同じ高校生活を送れるんだね…」
――
絵里「ところで、高坂さんのNýx脱退はうまくいったの?」
海未「こちらから一方的に通告しただけです。なので、穂乃果を引き戻そうとしたり、あるいは報復があるかもしれません…」
絵里「それは厄介ね。やっぱりNýxがなくならないかぎり、完全な解決にはならないわね…」
ブオオオオォ ブオンブオン
凛「何の音?すっごくうるさいよー!」
海未「これは…バイクの音でしょうか?」
絵里「またNýxの3年生かしら。花陽、ちょっと窓から校庭の方を見てくれない?」
花陽「はい…ピャア!?」
凛「かよちん、どうしたの?」
花陽「あ、あれを見てください…!」
海未「こ、これはいったい!?」
真姫「何よこれ、100人近くいるわ!」
――
役員モブ1「絢瀬先輩、大変です!」ガチャ
絵里「校庭のあの集団…いったい何事!?」
役員モブ1「暴走族が校庭に侵入しています!」
絵里「なぜ音ノ木坂なんかに…。連中は何の目的で?」
役員モブ1「高坂さんを出せと叫んでいます!」
海未「なんですって!?」
穂乃果「…」
――
絵里「警察への通報は?」
役員モブ1「もうしました。しかし、まだ時間がかかります。あの人数で校舎に入り込まれたらひとたまりもありません!」
絵里「連中はどうして穂乃果を…」
穂乃果「…私のせいです。私が出会い系で変な男と関わったから…。あの男、お兄さんが暴走族の総長だっていつも威張ってました…」
海未「もしや昨日のあの男ですか?」
絵里「海未、何か知ってるの?」
海未「はい。穂乃果が2人組の男に車に連れ込まれそうだったので、私とことりで助けました。もしや、私たちに対する報復では…」
ことり「ど、どうしよう海未ちゃん…」
――
穂乃果「…海未ちゃん、私が行くよ」
海未「何を考えているのです!?ただでは済みませんよ。殺されてしまいます!」
穂乃果「でも、このままじゃみんなが危険な目に遭う…。海未ちゃんもことりちゃんも。連中の目的は私なんだから、私が出て行けばみんなは助かるはずだからっ…」ダッ
海未「あっ、待ちなさい穂乃果!行ってはいけません!」
ことり「海未ちゃん、穂乃果ちゃんを追いかけなきゃ!」
絵里「私たちも行くわ!」
――
校庭
ヤンキー1「へへへっ、舐めてもらったお礼はたっぷりしてやンからよぉ!おい、拡声器よこせ!」
ヤンキー2「へい、先輩!」スッ
ヤンキー1「おうコラァ、穂乃果ァ!聞こえてんだろ!出てこいゴルァ!穂乃果のダチ2人も出てこい!ケジメはキッチリ取らせてもらうかンなぁ!」
ヤンキー2「先輩、超イカしてます!さすがっス!」
ヤンキー兄貴「(モブ2のやつ出てこねぇなあ。あいつ、またサボりか?他人のことは言えた義理じゃねーが、将来が心配になってくンぞ…)」ブツブツ
――
ヤンキー1「さっさと出てこねえと片っ端からブチ壊すぞ、おうコラァ!」
ヤンキー2「そうだそうだ!先輩がマジでブチキレる前に出てこないと大変なことになるぞー!」
穂乃果「やめて!私ならここにいる!」
ヤンキー1「ほう~、おとなしく出て来たか。さっさとてめぇのダチ公も連れてこい!」
穂乃果「私を連れて行けば満足でしょ!早く帰って!」
ヤンキー1「あぁン?それだと俺様のメンツが立たねーんだヨ!いいからさっさと連れてこいや!てめーらまとめて皆殺しにすンぞコラァ!」
――
海未「これ以上の横暴は見過ごせませんよ!」
ヤンキー1「来たなこのクソアマァ!」
穂乃果「海未ちゃん、来ちゃダメ!」
海未「穂乃果を一人にしないと言ったでしょう。あなたのことは私が護ってみせます!」
ヤンキー1「へっ、吠え面かくなよ!この人数相手にどうするってンだ!」
海未「さすがに多勢に無勢ですかね…。しかし、園田流に後退の文字はありません!」
――
絵里「海未、いくらなんでも無茶よ!」
希「えりちの言う通りや!海未ちゃん、早まったらあかん!」
ことり「海未ちゃん、お願いだから戻って来てェー!」
花陽「ど、どうすれば…どうすればいいの…!」
凛「このままじゃ海未ちゃんがやられちゃうよ!」
真姫「で、でも私たちに何ができるっていうのよ!?」
――
ヤンキー1「ひひひ…今度こそてめぇの生意気な顔をボコにして輪姦してやンからな!」
海未「痴れ者!数を頼みにするとはそれでも男ですか!」
ヤンキー1「うっせぇ!勝ちゃいいんだよ、勝ちゃあ!」
ヤンキー2「やっちゃいましょうよ先輩!」
ヤンキー1「しゃぁああぁあぁ!いくぞおめーらァ!」
一同「おおーッ!」
ヤンキー兄貴「(にしても、モブ2のやつもメールくらいよこせよな。俺の誕生日ちゃっかりスルーしてんじゃねえよ。あれか?別れて金が回んねぇってなったらもうシカトか?せちがらすぎンだろ、マジで…)」ブツブツ
海未「くっ、全員まとめて相手になりましょう!」
にこ「へー、ずいぶん面白そうなことやってんじゃない?」
――
ヤンキー1「なんだてめぇはァ!?ガキはすっこんでろ!」
海未「にこ!?どうしてここに…危ないから下がっていてください!」
ヤンキー兄貴「(ん?今なんつった?にこ…?聞き違いか?)」
にこ「ちょっとあたしも交ぜなさいよ」
海未「何を言っているのです!早く逃げてください!」
ヤンキー1「ざけてんじゃねェぞコラァ!死にてェのかこのガキィ!」
にこ「わめくのはいいから、さっさとかかってきなさいよ。誰からでもいわよ?」
穂乃果「矢澤先輩!だめです、逃げてください!」
ヤンキー兄貴「(矢澤…?矢澤にこ…?はは、俺も喧嘩のしすぎで難聴になったかな。あのひとがここにいる?んなわけねーだろ…別人に決まってやがる)」
ヤンキー1「死んだぞクソガキィ!」グオッ
バキッ
――
ヤンキー1「がはっ…!あ、あひっ…!?」
ヤンキー兄貴「…な!?」
ヤンキー1「げ、げほっ、げほっ…。ひっ、俺の歯が…!」ポロッ
にこ「あーら、3本いったかしら?だったら、今日のあんたツイてるわよ」
ヤンキー兄貴「(ブチ込み占い…。それにあの眼…。喧嘩が三度のメシより好きな奴にしかわからねぇ、最ッ高にイカれてジャンキーなあの眼…。ま、間違いねェ。こんなところで会うなんて…!)」
ヤンキー2「せ、先輩!押されてますよ!」
ヤンキー1「どチクショウがァ!舐めてンじゃねぇぞコラ…」
ガッ
――
ヤンキー1「は、はひひ…!?あ、兄貴…どうして…?」フラフラ
バタッ
ヤンキー2「せんぱぁい!?そ、総長これはいったい…」オロオロ
ヤンキー兄貴「おい、タカ。てめぇ、相手見てから喧嘩売れっちゅう俺の忠告、聞いてたか?」グッ
ヤンキー1「あ、兄貴ぃ。ど、どうして俺を殴るの…?」
ヤンキー兄貴「じゃかぁしいわっ!てめーが喧嘩売った相手、誰なのかわかってンのかぁー!?」
にこ「あら、ポチじゃないの。久しぶりねぇ」
ヤンキー兄貴「は、はいっ!矢澤総長!ポチであります!」ビシッ
ヤンキー2「ど、どういうことですか総長ォ!?」
ヤンキー兄貴「おめーも知らねーのか!?いいか、このお方はなァ、ワルの中で知らねえヤツはもぐり扱いされる、あの矢澤にこ総長だよ!」
にこ「元総長でしょーが。極東矢澤連合はもう解散したんだから」
ヤンキー2「えぇっ!?総長が前に右腕をやってったっていう、あの極東矢澤連合!?ってことはこのひとがあの伝説の矢澤にこ総長…血しぶきのにこにーなんですかァ!?」
にこ「懐かしいわねぇ、その呼ばれ方」
ヤンキー兄貴「おい、おめぇら!何ボサっと突っ立ってンだ!土下座だ土下座!いや、指の4、5本出さねえと、俺らの不義理は半殺しモンだぞ!」
ヤンキー2「ひぃいいっ!」ゲザァ
一同「はわわ…」ゲザァ
ヤンキー1「お、俺って殺されるの…?」ガタガタ
――
にこ「あーもうっ、そんな面倒なこといらないわよ。とっとと帰ってあたしの仲間に手ェ出さないって誓えばそれでいいから」
ヤンキー兄貴「ま、マジでいいんすか矢澤総長!?」
にこ「こちとら改心して真面目に女子高生やってんのよ。血なまぐさい指を袋いっぱいもらっても何も嬉しくもないわ」
ヤンキー兄貴「わ、わかりました!おいおめーら聞いたかァ!とっとと撤退だ!くれぐれも帰りは煙吹かすんじゃねーぞ!吹かしたヤツは破門にしてシメるからな!」
一同「う、うっす!」
ヤンキー兄貴「すいませんでした。まさか総長がいるとは知らないもんで…」
にこ「別にいーから。ところで、あんたの元カノ、この間あたしにカツアゲかましてきたんだけど」
ヤンキー兄貴「ま、マジですか!?あ、あんにゃろう…!」
にこ「あたしの方からちょっくら説教かますかもしんないけど、いいわよね。あ、ブチのめしたりはしないから」
ヤンキー兄貴「お、お手柔らかにお願いするっス…」
ヤンキー1「あ、兄貴ぃ…。身体がふらついてバイクに乗れねぇよぉ…」フラフラ
ヤンキー兄貴「おめーは帰ったらきっちりケジメとらせっからな!乗れねぇなら俺が首根っこ掴んで引きずったるわ!」
ヤンキー1「ひ、ひぃいぃ!?兄貴、そんなことしたら俺死んじゃう…ってもう引きずってるゥ!?」ズリズリ
にこ「変わってないわねぇ、あいつも…」
――
海未「穂乃果、怪我はありませんでしたか!?」
穂乃果「私なら大丈夫だよ」
海未「まったく…どうしてあなたはいつもこう無鉄砲なんですか!」
穂乃果「う、海未ちゃんの方こそ!あんな大人数とやり合おうとするなんて、無茶もいいとこだよ!」
にこ「はいはい、喧嘩はそこまでよ」
海未「にこ…先ほどは助かりました。にこがいなければどうなっていたことやら…」
凛「にこちゃんって不良だったのかにゃー?」
にこ「それはトップシークレットにこ♪」
真姫「に、にこちゃんが不良…。それも、とんでもなく危ない不良…」ガタガタ
絵里「ちょっと、真姫が怯えてるわよ!」
――
1週間後 生徒会室
絵里「ねぇ、にこ。この間のことなんだけど…」
にこ「何よ。あたしの過去が気になるの?」
絵里「えぇ。あなたはいったい何者なの?」
にこ「ただのクズよ。穂乃果なんかより、あたしはずっとクズの不良だった」
――
あたしが不良になったのは、さみしかったからよ。
両親は仕事でいつも帰りが遅いし、妹たちが生まれてからはますますあたしにかまう時間が少なくなった。
あたしは孤独だった。だから仲間を求めた。
気が付いたら、暴走族なんかやってた。
チームにはたくさんのメンバーがいた。喧嘩で負けなしのあたしを、メンバーの誰もが尊敬してた。
でも、あたしはずっと孤独だった。仲間はたくさんいるはずなのに、心はいつも満たされなかった。
先輩も後輩も関係ない、名前で呼び合うようなチームだったのに…。
――
そんなあたしに、初めて友だちって呼べるような子ができた。
あたしに憧れてチームに入った女の子だった。
その子はいつも私と一緒だった。
私も、この子にだけは気を許せた。
年は2つ下で、ちょうど真姫ちゃんみたいな子だったわ。別に、顔が似てるってわけじゃないんだけど、どこか雰囲気が似てたのよ。
けどね、あたしは友だちを失った。
バイクの事故で亡くなったのよ。
あの子はあたしと一緒に走りたいって、いつも練習してた。一人で練習中に、カーブを曲がりきれなかったって後になってメンバーから聞いたわ。即死だったみたい。
あたしは後悔した。あたしが暴走族なんてバカなことをやってないで、普通の高校生として生活していれば、もっとまともなかたちで友だちになってたら、あの子は死ななくて済んだんじゃないかって。
あたしはチームを解散して暴走族から足を洗った。こんなことで許されるわけないんだけど、せめて残りの人生、まともに生きることがあの子へのせめてもの供養だと思ったのよ。
――
あたしは3年目にしてようやく普通の高校生活を送ろうと決めた。音ノ木坂に転校したのは、編入の審査がないに等しいからよ。それに、生徒不足で廃校寸前の音ノ木坂なら、暴走族やってたあたしなんかでも数合わせに拾ってもらえるからね。
ここに来てからはまともに高校生活送ろうと思ってたのよ?やったこともない勉強だって始めたし、あいつらにカツアゲされたときも喧嘩にならないように従った。昔のあたしなら、冗談じゃなくて本当に死ぬまでリンチしてたと思うわ。
そうこうしてるうちに、あんたに出会った。自分のことしか考えてないクズのあたしから見れば、あんたは他人のことしか考えてない典型的なお人よし…。でも、だからこそ惹かれたのよ。あたしとは真逆のあんただから、魅力的だった。孤独を理由に好き放題やってたあたしと違って、あんたはたった一人でみんなのために動いてた。熱くなったわ、久しぶりに。こうなったら徹底的に手伝ってやる。そうあたしに思わせたのよ、あんたは。この矢澤にこにね。
――
絵里「あなたにはそんな過去があったのね…」
にこ「自慢できる過去じゃないわ。あたしは少しでも早くまともになりたい。過去から抜け出したいっていう点では真姫ちゃんや希、それに穂乃果と同じなのよ」
絵里「にこ、すべてはあなたの一声から変わったわ。一人で無我夢中にもがいていた私の前にあなたが現れた。あなたがいたから今の私が、今の音ノ木坂がある。あなたは自分の過去を悔いているかもしれないけど、あなたは私たちに未来をくれたわ」
にこ「…そんな褒められるようなことはやってないわよ」
絵里「謙遜しないで。いつものにこらしくもないじゃない」
にこ「ちょっと、普段のあたしは傲慢だっていうわけ?ふんっ、これだからエリートは…」プイッ
絵里「ごめんなさいね。機嫌直してよ」
にこ「それにしても…これからどうすんのよ?」
絵里「そうね。みんなのおかげでNýxの問題は解決したといっていいけど…」
――
それは事実だった。
私の夢は、希が言った通りに叶ったのだ。
私と海未を中心とした放課後の見回り。
ことりが理事長を説得して始まった学院側の対応。
凛と花陽によるトラブル情報の収集。
希と真姫による生徒会室での相談スペースの創設。
2年生リーダーの穂乃果の脱退。
Nýxの勢力は目に見えて弱体化していった。
そして先日のあの騒動。
不良の中の不良、矢澤にこが学院にいることを知ったNýxの残党は、散り散りになった。
慌てて転校する者もいれば、肝を冷やしてにこに取り入る者もいた。自分にすり寄ってくる者には、Nýxからの脱会を条件ににこは安全を保証していた。
つい先日、意地を張っていた最後の一人がついに仲間の説得に折れて、Nýxは完全に消滅した。
私は叶えることができた。一人では決して叶えられなかった夢を、大切な友人たちと共に叶えることができた。
――
しかし、問題は残る。
不良グループが解散したとはいえ、音ノ木坂の生徒不足は深刻だ。
今さら不良グループがいなくなったところで、入学希望者が増えるわけでもない。
私たちが変えることができた音ノ木坂の未来は、どうやら今の1年生たち、凛に花陽、それに真姫たちの代で終わってしまいそうだった。
それでも、私たちのやったことが無意味だったわけではない。
希に真姫、それに穂乃果を取り巻く問題は少なくとも解決できた。
大切な友人たちの笑顔を取り戻せたこと、それだけでも私は十分だった。
――
凛「えーりちゃん。遊びに来たよー!」ガチャ
花陽「凛ちゃん、あんまり騒いじゃだめだよぉ…」
にこ「生徒会室はあんたたちの遊び場じゃないのよ。見回りだって、もうする必要ないじゃない。たむろってたら絵里たちの迷惑になるでしょーが」
凛「にこちゃんの意地悪ー!しみったれ!元ヤン!」
にこ「ちょっと、最後のは聞き捨てならないわよ!あんまりあたしの過去を面白おかしく言いふらすんじゃないわよ!」
――
希「今日もにぎやかにやっとるみたいやね」ガチャ
海未「失礼します。ほら、穂乃果もそんなところにいないでこっちに来なさい」
穂乃果「し、失礼します…」
ことり「穂乃果ちゃん、そんなに緊張しなくていいんだよ」
にこ「あーもう狭い!なんでこんなに大勢で生徒会室に集まるのよ!」
真姫「にこちゃん、もう忘れちゃったの?今日は穂乃果の歓迎会でしょ」
にこ「あっ、すっかり忘れてたにこ☆」
――
真姫「自分で企画してすっかり忘れるなんてにこちゃんらしいわね」カミノケクルクルー
にこ「ぐぬぬ…昔チームにいたときからの慣習なのに、このにこにーが歓迎会を忘れるなんてェ…」
花陽「あははは…あれっ。真姫ちゃん、ちょっとその雑誌見せて!」ガシッ
真姫「ヴェエエ!?」
花陽「うわぁ~、スクールアイドル特集だぁ!私も帰りに買っておかなきゃ…!」キラキラ
にこ「ちょっと花陽、あたしにも見せなさいよ!」グイッ
希「にこっちと花陽ちゃんはほんまにアイドルが好きなんやなぁ」
穂乃果「…」
海未「どうしたのですか、穂乃果?」
穂乃果「あ、あのね。音ノ木坂でもスクールアイドルを始めたら、生徒も増えて廃校がなくなるんじゃないかと思って…」
海未「スクールアイドルですか…。確かに今は流行しているようですが、いったい誰がやるのです?」
穂乃果「そ、それは私たちで…」
海未「なっ…」
――
海未「だ、だめです!そんな恥ずかしいことできるわけありません!アイドルはなしです!」
穂乃果「そ、そうだよね。やっぱり無理だよね…」
絵里「…いいんじゃない、そのアイディア。廃校を阻止するためには、そのくらいのインパクトが必要だと思うわ」
穂乃果「絵里ちゃん…?」
海未「し、しかしですね絵里。まったくの素人の私たちがゼロから始めるなんて無謀ですよ…」
絵里「あら、その方がやりがいがあるわよ。私はみんなの力があって、叶うはずのない夢を叶えることができたわ。ここでもう一つくらい大きな夢を叶えたって、罰は当たらないと思うわよ」
ことり「なんだか面白そう!私はやってみたい!」
花陽「わ、私たちがスクールアイドルですか…!?」キラキラ
希「ええんやない。うちは協力するよ?」
にこ「アイドルのことならこの矢澤にこを差し置いてやるなんて認めないわ!あたしがリーダーとしてみんなを引っ張ってあげるんだから!」
凛「にこちゃんはどっちかというと特攻隊長じゃないかにゃー?」
にこ「だからあたしの過去をいじるなって言ってるでしょーが!」
――
真姫「アイドルやるってことは作曲とかもやる必要あるんでしょ?私でよければ手伝うわ」
ことり「私は衣装を考えるよ!」
凛「凛は身体を動かすことなら得意だよ!」
花陽「わ、私は…アイドルに関する知識や情報なら負けません!」
絵里「私もダンスの経験ならあるわ。そこらへんのスクールアイドルなんかに負けない自信があるわよ」クスッ
にこ「とにかくあたしの言う通りにやれば全国トップのスクールアイドルも夢じゃないわ!そのためにはまず…」クドクド
――
穂乃果「海未ちゃんは作詞とかいいんじゃないの?」
海未「わ、私にそんなことは無理ですよ…」
穂乃果「だって海未ちゃん、昔からよく詩を書き溜めてるから。たとえばほら、小学校のときに教えてもらったあれとか…」
海未「わー!わー!それは言わないでください!わかりました、協力しますからそれだけは勘弁を!」
穂乃果「そういえば、私はどうしよう…」
にこ「ちょっと、言いだしっぺが何もしないとかあり得ないわよ」
絵里「穂乃果、私たちと一緒にやってみない?」
穂乃果「で、でも穂乃果なんか…」
海未「…穂乃果、約束したでしょう?もう自分を過小評価しないと。あなたの持つ最高の輝き、今度こそ活かしてみてはどうですか?」
穂乃果「海未ちゃん…」
ことり「穂乃果ちゃん。私、穂乃果ちゃんと一緒に頑張りたいよ!」
穂乃果「ことりちゃん…」
花陽「穂乃果ちゃん、みんなでやってみよう!」
凛「凛知ってるよ。元ヤンアイドルは当たりやすいって!」
希「何かを始めるなら9人やって、うちのカードも告げとるよ」
穂乃果「みんな…」
――
穂乃果「私…もう逃げない。みんなが私を必要としてくれるから…。私、やる!やるったらやる!」
海未「穂乃果…よく言ってくれました。そうです、あなたはもう一人ではありません。私がいて、ことりがいます。みんながあなたを必要としてるのですから」
ことり「穂乃果ちゃんなら、穂乃果ちゃんならきっとみんなをリードしていけるよ!」
穂乃果「信じるよ、私は。みんなが私を信じてくれる以上に、私は自分を信じてみせる。たくさん失敗しちゃうかもしれない。でも、私は絶対諦めない。本当の意味で、みんなの期待に応えられる私になってみせる!」
希「これは決まりみたいやね」
花陽「はい。今の穂乃果ちゃんは、きっとみんなを導いてくれます。誰よりも強い輝きで…」
真姫「私は絵里がリーダーでもいいと思うけど…。これまで、みんなを引っ張ってきてくれたのは絵里よ?」
絵里「ありがとう、真姫。でも、私も穂乃果がリーダーにぴったりだと思う。私たちはほんの短い間の穂乃果しか知らないけど、海未とことりは違う。その2人が誰よりもリーダーにふさわしいと考えたのなら、私は仲間の判断を信じたいわ」
真姫「まぁ、絵里がそう言うならそれでいいけど…」
にこ「ちょっと、なんでにこがリーダーじゃないのよ!真姫ちゃんもあたしを推薦しなさいよ!」
――
穂乃果「ところで、スクールアイドルになるには何をしたらいいの?」
にこ「よくぞ聞いてくれたわ!それはね、表現力の洗練よ。今のスクールアイドルはA-RISEを中心に、表現力が優れているグループが圧倒的優位に立ってるわ。そのためにはまず…」クドクド
凛「名前がないと始まらないんじゃないかにゃー?」
花陽「確かにそうだね。グループだけ先に動き出しても何だか一体感がないし…」
真姫「名前ねぇ…。何かこれといったものってある?」
穂乃果「あっ、それじゃNýxはどう?」
海未「穂乃果、さすがにそれはないですよ…。せっかく解散させた不良グループの名前をなぜ私たちが使わなければならないのですか」
穂乃果「そ、そうだね。ごめん、音ノ木坂らしいグループ名っていったら真っ先に思いついちゃって…」
真姫「それにNýxはギリシャ神話の夜の女神のことよ。華やかなスクールアイドルのイメージには合わないんじゃない?」
穂乃果「えっ、そんな意味があったんだ!?」
ことり「穂乃果ちゃん、知らなかったんだ…」
――
希「それなら、同じギリシャ神話でもMuse(ミューズ)ならどうやろ?」
穂乃果「希ちゃん、それはどういう意味なの?」
希「神話の中の音楽の女神のことや。その人数はちょうど9人…。うちらと同じ9人や」
穂乃果「それいい!グループの名前はミューズにしよう!」
希「スペルはちょっとしゃれた感じにμ’sでどうやろ?」キュッキュッ
花陽「私もいいと思います!」
凛「凛も賛成!」
絵里「素敵な名前ね。希、とってもいいと思うわ」
穂乃果「海未ちゃんとことりちゃんもいいよね!」
ことり「ことりも賛成だよ!」
海未「えぇ。私たちにぴったりだと思います」
真姫「そうね。作曲のしがいがありそうな名前だわ。にこちゃんもいいわよね」
にこ「えっ、いつの間に名前決めになってるのよ」
真姫「にこちゃん、ちゃんと話聞いてた?」
にこ「き、聞いてたわよ!」
真姫「じゃあ全員一致ね」
にこ「ち、ちょっと待って!グループ名はあたしが5年間温めてきたラブにこ☆にこにーパラダイスに…」
穂乃果「よーしっ、μ’s結成を記念してみんなで気合い入れよう!」
にこ「あ、あたしの話を聞きなさーい!」
――
こうして私たちは新たな夢に向かって歩み出した。
希、凛、花陽、真姫、にこ、穂乃果、海未、ことり、そして私。
最高の仲間たちと共に、新たな一歩を踏み出す。
簡単な道ではないかもしれない。何度も失敗するかもしれない。
けれど、私たちは怯まない。
私たちは一人じゃない。
一人では叶えられない夢も、大切な友だちとなら叶えることができる。
私たちには、まだまだ叶えることのできる夢がたくさんあるはずだ。
音ノ木坂学院の仲間たちで結成されたμ’sは、この後、もう一つの大きな夢を叶えることになる。
だけど、それはまた別の機会に話すことにしようかしらね。
The end…?
No,this is the beginning.
にこ「や、やっと書き終わったわ…」ゼイゼイ
真姫「お疲れ様、にこちゃん」
この後滅茶苦茶爆睡した。
お疲れ様です!
ここまでの大作を初めて読み切りました....
本編とは違う形でのμ's結成...とてもよかったです!
みんなも救われてよかった....
お疲れ様でした。毎回更新するごとに楽しみにしてました。
次回作も期待しております
お疲れ様です
海未ちゃん頼りになる・・・
エリチカもよく頑張った!!
神ssお疲れ
面白かったわ
こうなって欲しいという未来を見せてくれて、感謝の言葉しかないです……お疲れさまでした……!!!
お疲れ様です!
読んでると胸が苦しかったけど、ハッピーエンドでよかった♪
更新毎回楽しみにしてました!
最高でした!
神降臨。
読んでてハラハラした(;゜0゜)
すごく面白かったです!
面白いssありがとうございます! けど、私は小6なので、短編お願いします!
お疲れ様です。
長かったけど、ストーリー性があり読みやすかっです。
驚いたことは、流石は世界のYAZAWAと言ったところですね。にこは他の武勇伝を持っていてもおかしくは無いイメージなので、可愛いより格好良いです。
久し振りに「かしこいかわいいエリーチカ」を見ました。キャラ崩壊が激しいSSはいくつもあるのですが、このSSは原作のキャラの特徴を捉えてのSSだったかと思います。
他にも思ったことは沢山ありますが、一言で言えば素晴らしかったです。またこのようなSSを読めることを期待しております。
かよちんがあのままめちゃくちゃにされてたら、俺も精神崩壊してました
神作品
泣きました。ありがとうございました。
神降臨!! お疲れ様です!
ちょっと待て、この作品の穂乃果は非処女ってことじゃねぇか!!
絵里ちゃんが不良だったら怖そう
絵里「タバコ美味しいわ~」
穂乃果「せ、生徒会長がタバコなんて駄目だよ!」
絵里「うるせぇ!」