ツバサ「UTX学院七不思議」
気分屋な企画広報部長の提案で、UTX学院の七不思議を紹介することになったA-RISEの3人。夜の学院ではたして怪異は起きるのか…?
前置きしますと、知識不足でA-RISEのキャラとUTXの設定がブレブレだと思います。ついでに、お話の設定上、ツバサが怖がりです。加えて、UTX側のキャラが少ないので、オリジナルキャラをところどころに登場させています。以上が生理的に受けつけない方は閲覧回避をお願いします。
放課後 UTX学院 A-RISE専用ミーティングルーム
ツバサ「企画広報部長から集まるように言われたのって、今日で合ってたわよね?」
英玲奈「あぁ、今日で合っている。何でも、学院紹介用の撮影を行うようだが」
あんじゅ「そのわりには、具体的な話が何もされてないわよね~」
ツバサ「私たちのライブ映像を撮影するわけじゃないのかしら?」
英玲奈「断言はできないが、おそらく違うはずだ。あんじゅの言う通り、ライブならもっと事前に説明があって然るべきだからな」
あんじゅ「面倒な頼まれごとじゃないといいわね~」
英玲奈「あの広報部長では何とも言えないな…」
――
ツバサ「そういえば、前もおかしな企画だったわね。つけ麺2㎏を食べきる企画とか」
英玲奈「あれはあんじゅがいなかったら全員失敗していたからな」
あんじゅ「2人とも、意外と食が細いわよねぇ」
ツバサ「いや、あれはどう考えてもあんじゅの食欲がおかしいと思うわ」
あんじゅ「そうかしら~?」
ツバサ「絶対そうよ。とゆうか、何でスクールアイドルの私たちにあんな企画をやらせるのかしら?食べ過ぎたらダンスのキレが落ちるのに…」
英玲奈「ぜいたくは言わないが、もう少しスクールアイドルらしい企画を持ってきてほしいものだな」
――
あんじゅ「意外とあの広報部長さんも考えてるみたいよ。つけ麺企画はグルメリポートの練習だって言ってたもの」
ツバサ「あの分量じゃ味もへったくれもないわよ…」
英玲奈「何というか、あの広報部長からして胡散臭いところがあるからな」
あんじゅ「噂じゃ元アイドルみたいよ?自称もしてるけど」
ツバサ「本当なの?何だか眉唾ものね」
英玲奈「アイドルからUTXの職員になったとでも言うのか?謎の多い人だな…」
あんじゅ「鳴かず飛ばずで、引退間際はお笑い企画ばかりやってたみたいよ」
ツバサ「そんな人にうちの企画広報を任せてて大丈夫なのかしら?今日も先が思いやられるわね…」
英玲奈「おっと、そんなことを言っているうちに時間だぞ。企画広報課に出向かなくては」
――
UTX学院企画広報課
広報部長「いや~、お忙しいところ悪いわねぇ。まぁ、座って座って!」
ツバサ「相変わらずお酒くさいですね…」ハナツマミ
広報部長「そんなこと言わないでよツバサちゅわ~ん。独身女の友はアルコールだけなのよ、ホント」ヒック
あんじゅ「よくクビにならないですね~」
広報部長「だ~いじょうぶ!うちの理事長はアイドル時代の私の熱烈なファンだから!」アハハ
英玲奈「いわゆる縁故採用というやつか…」
――
ツバサ「それで、用件は何ですか?学院紹介の撮影としか聞いてませんけど」
広報部長「そうそう、それそれ!今をときめくA-RISEの3人にはUTXのことをガンガンアピールしてもらわにゃいとねっ!」ウーイ
英玲奈「既にろれつが回っていないぞ…」
広報部長「3人にはこれでUTXの魅力をあますところなく伝えてほしいわけなの!」スッ
ツバサ「ビデオカメラ…ですか?」
あんじゅ「もしかして、私たちが撮影するとか~?」
広報部長「ご名答!まぁ、施設紹介みたいなやつだからね」
――
英玲奈「今回は思ったよりまともな企画のようだな」
広報部長「英玲奈ちゃんひどい~。私はこれでもUTXのために日々手を抜きながら頑張ってますぅ~!」
ツバサ「手を抜いてるって自分から認めてますけど…」
広報部長「気にしない、気にしない。おぉーっと、わんかっぷ飲み終わっちゃった…」ショボン
あんじゅ「それで、撮影はいつするんですか~?」
広報部長「あぁ、それね。今日だよ~」
ツバサ「今日!?」
――
英玲奈「いくら何でも唐突すぎる…」
ツバサ「もう16時半ですよ?部活動の紹介も含めると、とても全部は間に合いません」
広報部長「大丈夫だって。撮影は21時からだから」
ツバサ「21時!?なんでそんな夜に…」
広報部長「だってUTX七不思議特集だし」ポリポリ
英玲奈「七不思議?」
――
広報部長「そう!最近聞いたんだけどさァ、うちにもいっちょまえに七不思議があるみたいじゃない?」
あんじゅ「そういえば、クラスの子が言ってたかも…」
英玲奈「しかし、なぜそんなものを?」
広報部長「なんか面白そうじゃん!まともな方の学院紹介は今度撮るからさ、これはその予行演習で」
ツバサ「まったく意味がわからないです…」
広報部長「今回のもA-RISEの活動に役立つと思うよ~?怪談イベントにゲストで呼ばれたときとか」
あんじゅ「そんな都合いい話があるんですか~?」
広報部長「実は私のツテで、近いうちに実現予定なのよ。だからこれはその練習!」
――
ツバサ「そういうところだけは仕事が早いですね…」
広報部長「ねぇ~、いいでしょ?かわいく怖がる練習しておけば、ファン拡大につながるわよ」
英玲奈「しかし、夜の学校をうろつくのは怪談抜きにしても危険ではないか?」
広報部長「大丈夫!ちゃんと警備室で校舎内はモニターされてるから。それに、理事長の承認もいただいちゃったし」テヘペロ
英玲奈「要するに、断る選択肢はないわけか…」
あんじゅ「まぁ、たまにはそういうのもいいんじゃない?気分転換にはなるし~」
広報部長「ありがとー!やっぱりA-RISEはナンバーワンだわ!」ダキッ
ツバサ「…」
――
英玲奈「しかし、七不思議特集といっても何をすればいいんだ?私たちはそもそも七不思議の内容すら知らないんだが」
広報部長「そのへんはノープロブレム!うちの生徒に案内兼カメラ係を引き受けてもらったからね。3人は案内通りに七不思議スポットを回ってキャーキャーやってくれればいいから!」
あんじゅ「よくもまぁ、そんな面倒な仕事を引き受けてくれた子がいましたね~」
広報部長「私ってこれでも生徒には顔広いからね。こんなに小顔なのに!」キャピッ
英玲奈「で、その案内役は?」
広報部長「ちょ、無視ですかー!まぁ、いいわ。時間になったらミーティングルームに顔出してもらうよう頼んでるから、後はその子の案内に従っといて!」
あんじゅ「それじゃあ、私たちは21時まで待機ですか~?」
広報部長「そゆこと。退屈ならそれまでおねーさんと雀荘行く?ちょうど四麻ができるものね」ルンルン
英玲奈「それはいくらなんでもまずくないか…」
――
あんじゅ「ツバサ、さっきから黙ってるけど大丈夫~?」
ツバサ「えっ?い、いや。何でもないわ」
広報部長「もしかして、ツバサちゃん怪談とか超苦手なタイプだったり!?」
ツバサ「なっ…そんなわけないじゃないですか!」
広報部長「あの綺羅ツバサが実は怖がりなんて、ギャップ萌え狙えるわよ~」コノコノ
ツバサ「だから違います!私はそんな…!」
広報部長「あははは、冗談冗談!そんじゃ、今日はよろしくね~!」
――
ミーティングルーム
あんじゅ「それにしても急な話だったわね~」
英玲奈「まったくだ。毎度のことだが、あの広報部長には振り回されてばかりだな」
あんじゅ「でも、夜の学校で肝試しって、ちょっとあこがれてたのよね~」
英玲奈「確かにそうそう経験できることではないが…」
あんじゅ「ツバサも楽しみよね。あれ、ツバサは…?」
――
廊下
ツバサ「冗談じゃないわ。誰が夜の学校なんかに…おまけに七不思議特集?」
ツバサ「そんなことしたら怖くて失神しちゃうじゃない!」
ツバサ「英玲奈とあんじゅには悪いけど、先に帰らせてもらうわ…」ソロソロ
英玲奈「ツバサ、どこに行く気だ?」ポン
ツバサ「みぎゃあああぁあッ!?」ビクッ
――
ツバサ「あっ、あひっ…え、英玲奈ぁ?」ヘナヘナ
英玲奈「いくらなんでも驚きすぎだろう?」
あんじゅ「ツバサ、さっきの悲鳴はファンには聴かせられないわね~」クスクス
ツバサ「あ、あんなことされたら誰でも驚くわよ…」シンゾウバクバク
英玲奈「肩に手をかけただけなんだが…。しかし、やっぱりツバサは怖いものが苦手だったのか」
ツバサ「え?そ、そんなことないわよ?」キョドッ
あんじゅ「ツバサ、それバレバレだと思うな~」
――
ミーティングルーム
ツバサ「うぅ…白状するわ。私は怪談とか怖いものは死ぬほど苦手なのよ…」
あんじゅ「やっぱりそうだったのね~」
ツバサ「だ、だから今回は2人でやって!一生のお願い!」
英玲奈「私たちは構わないが…しかし、あの広報部長は納得しないと思うぞ?」
あんじゅ「そうね~。ツバサだけ1人でやり直しってことになったりして」
ツバサ「ちょ、待って!そんなことされたら死んじゃう!本当、冗談じゃなくて!」アタフタ
――
英玲奈「ならば、諦めてやるしかないな。私たちも一緒だから、何とかなるだろう」
ツバサ「本当にぃ?脅かしたりしない?」ビクビク
あんじゅ「(このツバサかわいい…)」
英玲奈「いつもの3人がそろっていればさすがにツバサも大丈夫だろう」
あんじゅ「そうそう。せっかくだから、これを機会に苦手を克服したらいいんじゃない?」
ツバサ「それはちょっとハードルが高い気がするわ…」
英玲奈「とりあえずツバサは失神だけはしないでくれ」
あんじゅ「カメラの前で情けない姿は見せられないわよ~?」クスクス
ツバサ「うぅ…何でこんなことに…」
――
数時間後
あんじゅ「外はもうまっくらね。雰囲気が出てきたわ~」
英玲奈「あんじゅは余裕そうだな」
あんじゅ「ホラーとかはわりと耐性あるから~」
英玲奈「ツバサにも分けてやってほしいものだ」
ツバサ「ねぇ、やっぱりやめない?七不思議とか絶対呪われるから。ね、やめましょう?」ビクビク
あんじゅ「ツバサ必死すぎ…。でもそこがまたギャップ萌えってやつ~?」クスクス
コンコン
ツバサ「びえっ!?」
――
ツバサ「ひぃいいぃっ!だ、誰なのこんな時間にィ!?」ガタガタ
英玲奈「落ち着け、ツバサ。広報部長が言っていた案内係の子だろう」
あんじゅ「どうぞ、入って~」
??「失礼します」ガチャ
――
英玲奈「君が今日の案内係か?」
??「はい!みなさんの案内とカメラ撮影を任されております」
あんじゅ「ほらほら。ツバサも隅っこで怖がってないで」
ツバサ「ほ、本当にお化けじゃないの…?」ビクビク
英玲奈「これでは先が思いやられるな…」
??「申し遅れましたが、私は1年の阿佐倉未保といいます。今日はよろしくお願いします!」ペコリ
――
英玲奈「こちらこそよろしく頼む。こんな時間に、わざわざ私たちの企画に付き合わせて申し訳ないが…」
未保「とんでもない!A-RISEのみなさんとご一緒できて光栄です!」
あんじゅ「あら、もしかして私たちのファンだったり?」
未保「はい!結成ライブの時からみなさんの大ファンです!」
英玲奈「となると、阿佐倉さんはUTX入学前からファンでいてくれたということか」
あんじゅ「嬉しいわね。こんなに熱心なファンの前じゃ、ツバサもおちおち怖がってなんかいられないわね~」
ツバサ「ぜ、善処するわ…」
未保「ツバサさんは怪談とかは苦手なのですか?」
英玲奈「見ての通りだ」
あんじゅ「ツバサはこう見えて怖がりなのよ。超がつくほど~」
未保「そうだったのですか…。ツバサさんにそんな意外な一面があるとは…」メモメモ
ツバサ「そ、そんなことメモしなくていいから!//」アワアワ
――
英玲奈「そうこう言っているうちに、開始時間ではないか?」
未保「おっと、うっかりしていました。みなさんとご一緒できる嬉しさでつい…」
あんじゅ「私たちは未保ちゃんについて行くだけでいいのかしら?」
未保「はい。私がUTX七不思議を紹介しながら、怪談の現場を回ることになります。みなさんには普段通りにトークをしながら、リアクションをとっていただけると助かります」
英玲奈「まぁ、リアクションはツバサに任せるとしよう」
ツバサ「き、期待されても困るわよ…」
あんじゅ「わっ!」
ツバサ「ひぁああぁッ!?」ビクウッ
あんじゅ「これなら大丈夫そうね~」クスクス
ツバサ「そ、そういうの本当にやめて!心臓止まるかと思ったわ…」バクバク
未保「お楽しみのところなんですが、そろそろ出発してもよろしいでしょうか?」
ツバサ「いや、全然楽しんでないんだけど…。というか、もうカメラ回ってるの?」
未保「はい。何事も始まりが肝心なので…」
――
あんじゅ「七不思議ってことは、7つのスポットを回ることになるのよね?」
未保「はい。みなさんの準備さえよろしければ、さっそく1つ目のスポットにご案内させてもらいます」
英玲奈「最初はどこからなんだ?」
未保「まずは音楽室からです。怪談の内容は歩きながら私の方からご紹介します」
ツバサ「い、いよいよ行くのね…」ギュッ
英玲奈「ツバサ、苦しいからしがみつかないでくれ…」
あんじゅ「楽しみね~」
未保「それではご案内します。こちらはみなさんの分の懐中電灯ですので、どうぞ」スッ
――
廊下
ツバサ「も、もう完全に真っ暗ね…」ドキドキ
英玲奈「非常灯に外の月明かり、それに懐中電灯の光だけか。こうしてみると、普段の学院とはまるで別世界だな」
あんじゅ「本当ね。これならお化けでも出てきそうだわ~」
ツバサ「や、やめてよね!」
未保「ところで、みなさんはUTXの七不思議についてはご存知ですか?」
英玲奈「いや、私はまったく知らないな。ツバサもそうだと思う」
あんじゅ「私が友だちとの話で少し耳に挟んだくらいかしら?それでも、一つ一つの話までは知らないわ~」
未保「それではご紹介しましょう。UTX七不思議、最初のお話は音楽室の怪談です…」
――
【第一話 魅入られた狂想曲】
どこの学校の音楽室にも、有名な音楽家の肖像画が飾ってありますよね。
ところが、UTXにはただの1枚も飾っていないんです。音楽の先生や吹奏楽部だけが入れる、音楽準備室に飾ってあるんですよ。まるで、一般の生徒からは隔離されているかのように…。なぜだと思いますか?
肖像画が撤去された原因…それが七不思議の1つとして語られています。
――
ある生徒が放課後に音楽室でピアノを弾いていました。
その生徒はピアノを弾くことが好きで、いつも音楽室を訪れていたようです。昼休みはもちろん、吹奏楽部が大会や他の部活の応援で不在のときは、放課後も一人でピアノを弾いていました。
その日も、いつものように彼女は鍵盤に指を走らせていました。窓からは既に夕陽が差し込んでいました。
『きれいな夕焼けね。私のピアノがいっそう映えるわ』
その時です。彼女は視線を感じました。
『おかしいわね、誰もいないはずなのに…』
気を取り直してピアノを弾きますが、やはり視線を感じます。じっとりとした、重苦しい視線を。何人もの人間に見つめられているかのような、重い視線を…。
『イミワカンナイ!いったい何なのよ!?』
まとわりつくような視線に耐えられなくなった彼女は、思わず立ち上がりました。彼女の眼に映ったのは、黒板の上に飾られた肖像画です。
『なんだ、視線の原因はこれだったのね…』
彼女はほっと胸をなで下ろしました。きっと自分は疲れているに違いない。だから、肖像画の眼にありもしない視線を感じて…。
『そうよね。ここには私以外、誰もいないんだし…』
そう言って、彼女は再びピアノを弾こうとしました。しかし、次の瞬間、身体が動かなくなりました。
一面に飾られた音楽家の肖像画。その眼が一斉に妖しく輝いたからです。
――
『う、嘘でしょ?こ、こんなことって…!』
目の前に広がるあり得ない光景に、彼女の膝はがたがたと揺れました。肖像画の眼は、どれもみな、暗闇にたたずむ猫の眼のように、ぎらぎらと輝いています。
『に、逃げなきゃ…。ここにいたら危ない…!』
本能が告げる危険に、彼女は音楽室を後にしようとしました。
『えっ…や、やだ!どうなってるの!?』
ところが、彼女は再び座り直し、ピアノを弾き始めてしまいました。頭の中ではいくら外に出ようと考えても、指が勝手に動いているのです。
『や、やめてェ!』
叫びもむなしく、彼女の指先はますます早く鍵盤の上を走り続けます。もはや彼女にはどうすることもできませんでした。何者かの悪意ある指揮のもと、音楽室にはおぞましい狂想曲が響き渡ります…。
――
すっかり陽も落ちて、あたりは真っ暗になりました。校舎に残っている生徒はもういません。
警備員が戸締りのため巡回をしていると、音楽室から旋律が聴こえてきます。
はて、こんな時間にいったい誰が残っているのか。吹奏楽部は大会明けで練習が休みのはずです。音楽の先生もとっくに帰っています。
それにこのメロディ…。聴いたことのない曲です。流れるような旋律ですが、どこかいびつな感じがぬぐえない、警備員はそんな風に感じました。
それはともかく、もうこんな時間ですから、帰るよう促す必要があります。警備員は音楽室のドアを開けました。生徒が一人、一心不乱にピアノを弾いています。
しかし、それは練習熱心というより、何かに憑かれたような姿でした。気味が悪いと感じた警備員でしたが、生徒に声をかけました。
――
『おい、きみ。練習熱心なのはいいが、もう遅いよ。続きは明日にしなさい』
警備員に声をかけられても、生徒はまるで聞こえていないかのようにピアノを弾き続けます。
『聞いてるのかい…ひっ!?』
警備員はもう一度声をかけようとして、腰を抜かしました。
生徒の手は血まみれだったのです。
あまりに激しく演奏をしたせいでしょうか。指はおかしな形にねじ曲がり、剥がれた爪からは鮮血がほとばしっています。
血まみれの指先が白と黒の鍵盤を紅く染めていきます。三色の鍵盤からは、気が狂いそうな旋律が溢れて、音楽室中を侵食していきます。
突然、ピアノの音が鳴りやみました。生徒は満足げな表情で、血を滴らせながら肖像画の方を眺めてこう呟きました。
『できましたよ。先生たちに教えていただいた、最高のメロディが…』
震える警備員が肖像画に目をやると、妖しく光る眼が一斉にこちらを振り向きました。
――
ピアノを弾いていた生徒は精神を病んで学院を辞めたそうです。それ以来、音楽室には肖像画が飾られなくなりました。
そうしないと、肖像画に魅入られて、終わりのない狂想曲を弾かされることになりますから…。
これが肖像画が音楽室に飾られない原因です。
――
あんじゅ「そんな話があったのね。怖いわ~」
英玲奈「今からその音楽室に向かうことを考えると、なかなかこたえるものがあるな。ツバサは大丈夫か?」
ツバサ「」ブクブク
未保「あぁっ、ツバサさんが失神しています!」
英玲奈「ツバサ、起きろ」ペシペシ
ツバサ「うっ…。あ、あれ?私は何を…」
あんじゅ「この調子だと、大変な夜になりそうね~」
――
英玲奈「そうこうしているうちに音楽室前まで来たわけだが」
あんじゅ「いよいよ現場に突入ってことね~」
ツバサ「…今からでも遅くないから、やっぱり止めない?」ビクビク
英玲奈「ツバサ、ここまで来たら腹をくくったらどうだ?」
あんじゅ「未保ちゃんの前でカッコ悪い姿は見せられないわよ~」
ツバサ「で、でもそれとこれとは…」イジイジ
――
あんじゅ「そうだ、いいこと思いついたわ。私たちは中を見てくるから、ツバサは一人で廊下で待ってて」
ツバサ「えっ…!?」
英玲奈「やむを得ないな。阿佐倉さん、ここはひとまず私たちだけで中に入ろう」
未保「私はみなさんがそれでよろしいのであれば…」
ツバサ「え?うそ、冗談でしょ?」ガタガタ
英玲奈「ツバサはそこで待っていてくれ。何分かかるかはわからないが…」
あんじゅ「ここの廊下、幽霊が出るかもしれないわね~」
ツバサ「ちょ、待って!置いて行かないでェ!」ビエーン
――
音楽室
英玲奈「普段見慣れている光景とはいえ、この時間帯ではさすがに不気味だな」
あんじゅ「ピアノが闇にとけてどす黒く見えるわね~」
ツバサ「うぅ、早く外に出たい…」
未保「肖像画は準備室に飾られていますが、元々の七不思議の現場は音楽室ですからね。どうです、何か妖しい気配は感じますか?」
英玲奈「そう言われると、どことなく空気が重い気はするな」
あんじゅ「今にもピアノが鳴り出しそうね~」
ツバサ「や、やめてってば!それフラグになりかねないわよ!」
未保「それでは、準備室に鎮座する肖像画とご対面といきましょうか。いま、鍵を開けますね」ガチャガチャ
英玲奈「いよいよか…」
あんじゅ「緊張するわね~」
ツバサ「あんじゅは全然緊張してないじゃない…」
ギィッ
未保「入って左上に肖像画が飾ってあります。どうぞ、みなさんの眼で確かめてみてください」
――
英玲奈「これが件の肖像画か…」
あんじゅ「薄暗い状態だと、いっそうリアルに見えるわね~」
英玲奈「肖像画は全部で7枚…偶然にも七不思議と同じ数だな。これだけの視線が一斉に突き刺されば、さぞ肝が冷えるだろうな」
あんじゅ「そうねぇ。瞳が輝いても不思議じゃないかも」
ツバサ「ね、ねぇ。もういいでしょ?早くここから出ましょう…」チラッ
キラッ
ツバサ「ぴえぇえぇぇェぇッ!?」
――
未保「ど、どうしましたツバサさん!?」
ツバサ「い、いいい今!ひ、光ったのォ!眼が光ったぁ!」ギュッ
英玲奈「まさか噂は本当だったのか!?」
あんじゅ「見間違いじゃないの?」
ツバサ「ほ、本当よ!きっとこの肖像画は呪われているんだわ!」ガタガタ
キラッ
英玲奈「む、これは…」
あんじゅ「あらあら~」
ツバサ「ほ、ほら!また光ってるゥ!」ヒィイィ
――
英玲奈「いや、これは呪いではなさそうだぞ」
ツバサ「そ、そんな!絶対呪いよ!」
あんじゅ「ツバサ、窓の方を見てみなさいよ」
ツバサ「ま、窓がどうしたっていうの…あっ」チラッ
英玲奈「わかったか?」
――
ツバサ「な、なんだ…。外の月明かりで光ったように見えただけか…」ヘナヘナ
英玲奈「ちょうど雲間から月が見えたときに、肖像画の眼が光ったように見えたわけだ」
あんじゅ「ツバサって怖がりなうえに早とちりね~」クスクス
ツバサ「だ、だって!あんな怖い話を聞いた後じゃ仕方ないわよ…」
未保「もしかすると、この七不思議はツバサさんのように月明かりの輝きを見間違えたところから生まれたのかもしれませんね」
あんじゅ「なるほどね~。よかったじゃない、ツバサ。七不思議の一つが解明されたかもしれないわよ」
ツバサ「幽霊じゃないなら、私は何でもいいけど…」
英玲奈「しかし、月明かりが照らしたのがベートーヴェンの肖像画というのが、単なる偶然ではないかもしれないな」
未保「そうですね。まさしく月光ですから」
――
英玲奈「ところで、ツバサ。いつまでそうしているつもりだ?」
ツバサ「な、何のこと?」
あんじゅ「ツバサ、さっきから思いっきり未保ちゃんにしがみついてるけど~」
ツバサ「む、無意識にしてたわ…。ごめんなさい、苦しくなかった?」パッ
未保「いえいえ。ツバサさんに抱きしめられるなんて、ファンとしてはこれ以上ない歓びです!」
あんじゅ「お熱いわね、お二人さん」
ツバサ「ちょ、あんじゅってば、からかわないでよ!//」
――
英玲奈「とりあえず、七不思議の最初の一つ目はこれで検証できたといってよさそうだな」
未保「はい、広報部長も喜ぶと思います」
あんじゅ「ツバサがいいリアクションしたものね~」
ツバサ「そ、そういえばまだ一つしか終わってないのよね。これがあと6回もあるわけ…」ドンヨリ
英玲奈「阿佐倉さん、次はどこに向かえばいいんだ?」
未保「次は生物室です。それでは、歩きがてら七不思議をご紹介しましょう」
――
【第二話 殺意のコレクション】
生物室は定番の怪談スポットですよね。骸骨に人体模型、それにホルマリン漬け…。怖さを盛り上げる小道具に溢れています。
UTX七不思議でも、この骸骨が関係してきます。
と言っても、夜中に動き出すといった、よくある話ではありません。
――
ところでみなさん、生物室の骸骨、正確には骨格標本ですが、いくらぐらいすると思いますか?
趣味で買うようなものではないので、あまり実感はわかないかもしれませんが、わりと値段の幅があるようです。学校に飾られる平均的なサイズだと、安ければ3万円程度で、高いものでは30万円以上もするそうです。
UTXに飾られていたのは、わりかし安い部類のものだったようです。まぁ、大学の医学部でもないのに、そんな精巧な標本を置いておく必要もないですからね。
――
ところが、そんなUTXの生物室に不釣合いなほど立派な骨格標本が新たに寄贈されました。
寄贈したのは、当時新任したばかりの生物の先生です。
その先生は生徒からも慕われていましたが、一つだけ欠点がありました。
骨格標本に傷がつくことを異常なほど恐れていたのです。
――
掃除の時も、先生はわざわざ生物室に寄ってまで、標本に傷がつかないか確かめていました。生物室の掃除は生徒が一人で担当するのですが、先生も一緒になって掃除をしていました。
少しでも生徒が雑に扱おうとすると、普段の優しい先生とは別人のように、口やまかましく注意するのです。
『あぁ、そない乱暴にしたらあかんよ!傷がついてまうやん。ほら、壁にすれる寸前やったで!』
これには生徒も困りました。先生にあれこれと言われないためには、細心の注意を払って掃除をしなければなりません。
それでも、普段の優しい先生のことを思えば、生徒たちも我慢して掃除をしていました。
一部の生徒は、先生の奇行をこう説明しました。
あの骸骨は実は今でも生きているんだ。だから先生はあんなに大事にして、傷がつかないようにしているんだよ。きっと亡くなった先生の家族か友だちだと思う。夜になったら、あの骸骨は生物室を抜け出して歩き回ってるんだ…。
――
そんな怪談話が広がり始めたころ、生物室の掃除でちょっとした事件が起こりました。
一人の生徒が箒で床を掃こうとして勢いよく骨格標本を倒してしまったのです。
カシャン、と乾いた音が生物室に響きました。
生徒は真っ青になりました。これでは標本に傷がつかない方が不思議です。
案の定、標本の頭部にはヒビが入ってしまいました。
――
生徒は恐る恐る後ろを振り向きました。
生物室にはいつものように先生がいます。
これは相当怒られるはずだ。生徒は思わずぎゅっと目をつぶりました。
ところが、先生はちっとも怒りません。それどころか、意外な言葉を口にしました。
『ごめんなぁ、XXさん…』
――
先生はさも申し訳なさそうな表情です。意外な成り行きに生徒は呆気にとられてしまいました。
先生は表情を変えないまま、言葉を続けます。
『XXさん、悪いけどこの後少し残ってもらえんやろか?なに、そんな手間はとらせんから』
生徒は事情が飲み込めませんでしたが、ひとまず先生の言葉に従うことにしました。
――
掃除が終わった後、生徒は先生に招かれて生物準備室に入りました。
先生の話によると、寄贈品に傷をつけてしまったため、報告書を書かないといけないそうです。
『まぁ、形だけやから。XXさんの名前も一応書かなきゃならんのよ』
先生に淹れてもらったお茶を飲みながら、生徒は報告書に名前を書きました。
――
『ところで、XXさんはこんな話をしっとる?生物室の骨格標本が夜中に動くっちゅう話を』
報告書を書き終えた先生はどういうわけか怪談話を始めました。その話なら、生徒も友だちから聞いて知っていました。
『はい、知っています。友だちから聞きました。あの骸骨は生きているから、先生はあんなに大事にしているんだって…』
生徒の答えを聞くと、先生はくすりと笑いました。
『ははは、そりゃ肝が冷える話やね。みんなも面白い怪談を考えるもんやな』
――
『けどな、その噂は間違っとるよ』
先生は不意に笑うのをやめました。
『あの標本が生きてるなんて、そんなはずあらへんよ。あれはとっくに死んどるんやから、夜中に動くはずないやん…』
生徒はぎょっとしました。先生の表情がいつもと全く違っています。笑っているわけでもなく、怒っているわけでもない。ただただ感情がないような…まるで骸骨に皮を被せただけのような、そんな表情でした。
生徒の背中に冷や汗が流れます。しかし、先生はそんなこともお構いなしに言葉を続けます。
『あれは動くはずないんよ』
『死んだものが動くなんて、そんなスピリチュアルなことあるわけないやん?』
『あれは死んだ、いや…』
『うちが殺したんや。生物室にいつも飾っとる、あの○○ちゃんは…』
――
先生の言葉に、生徒は驚愕しました。
殺した?先生が?あの標本は本物の人間の骨?
『○○ちゃん、骨になっても綺麗やろ?生きてるときもべっぴんさんやったけど、真っ白な姿になったら、ほんま美人になった…。XXさんもそう思うやろ?』
混乱する生徒を後目に、先生は淡々と語り始めます。
『うちはな、この姿の人間が一番美しい思うねん。だから今の職場にも置いておきたかったんよ』
生徒はたまらず席を立って逃げ出そうとしました。しかし、どういうわけか膝に力が入りません。
『それをなぁ、XXさんが傷つけてまうんやもん…。これでもう○○ちゃんは美人やない。傷の入った骨なんてぶっさいくなだけやわ』
生徒は力を振り絞って立とうとしましたが、そのまま床に崩れ落ちてしまいました。
『せやから、今度はXXさんをうちの隣に置いとくわ。XXさんかわいいし、真っ白になったらもっとべっぴんさんや』
先生はいつの間にか右手にナイフを握っていました。
『どうやら薬が効いてきたみたいやね。大丈夫、痛いのは一瞬だけや。人間、いつかは老いて死ぬもんや。それなら、ずっと真っ白で綺麗なままおった方がええに決まってるやん?』
生徒が最期に見たのは、自分の左胸に深々と刺さるナイフと、そのナイフを嬉々として突き刺す先生の顔でした。
『かわいそうな気ぃもするけどええよね?だってうち、さっきごめんなぁって謝っといたやん?』
――
その後、先生は学院を去りました。詳しい原因はわかっていません。
ですが、先生の作った骨格標本は今でも生物室に鎮座しています。
傷一つない、先生の芸術作品が…。
これが2つ目の七不思議です…。
――
英玲奈「これはまたキツい話だな…」
あんじゅ「霊よりも人間が怖いっていう典型かしら~?」
未保「ちなみに、標本を傷つけてしまうと件の先生に殺されて新しい標本にされるという派生話もあります」
英玲奈「物騒な話だな。おっと、噂の生物室に着いたようだぞ」
あんじゅ「ツバサ、試しに例の標本を倒してみれば?」
ツバサ「絶ッ対やらないわよ!?」
――
英玲奈「とりあえず中に入ってみるか」
あんじゅ「未保ちゃん、鍵をお願いするわね」
未保「そうしたいところなのですが…」
ツバサ「…」ギュウウゥ
英玲奈「こら、ツバサ。そんなにしがみついては阿佐倉さんの迷惑になるだろう」
ツバサ「だ、だってぇ…」ガタガタ
あんじゅ「未保ちゃんは抱き心地がいいのかしらね~」
――
未保「ツバサさんがここまで怖がるとは思いませんでした」
ツバサ「そ、そんなこと言ったって、怖すぎるんだもん!」
英玲奈「ツバサ、わがままを言っても仕方がないぞ?」
あんじゅ「早く7つのスポットをまわって終わらせた方が賢いと思うわ~」
ツバサ「うぅ~」グズグズ
未保「やむを得ません。ネタばらしをしましょう」
英玲奈「ネタばらし?」
――
未保「実は、2つ目の七不思議はあり得ないことなんです」
あんじゅ「どういうこと?」
未保「七不思議を調べるうえで裏付け調査もしてきたのですが、UTXには新任の生物教師が在籍したことは一度もないのです」
ツバサ「えっ、じゃあさっきの話も嘘?」
未保「七不思議として語られているのは事実です。しかし、元の話があり得ないので嘘といえばそうなりますね」
ツバサ「なんだ、それならそうと早く言ってよ…」ヘナヘナ
英玲奈「ツバサは完全に信じ込んでたわけか…」
――
あんじゅ「よく考えたら、そんな事件があったならもっと大々的に報道されてるはずよね~」
英玲奈「まったくだな。教師が生徒を殺めるなど、今のご時勢ではワイドショーの槍玉にあげられてるはずだ」
未保「そもそも、この七不思議は生徒が殺されてしまったら、誰も伝えようがないという矛盾もあります」
あんじゅ「怪談話にはよくあるパターンよね」
ツバサ「そ、そういえばそうじゃない!」
英玲奈「ツバサ、今ごろ気づいたのか…」
――
未保「こんな辻褄の合わない七不思議が広まっているのも、UTXが設立されて間もないという背景があるからです」
ツバサ「どういう意味?」
未保「古くて伝統のある学校であれば、代々語り継がれる怪談は過去のものです。検証しようにも資料もなくて、なんとなく本当らしく聞こえるわけですが、新しい学校ではそうもいきません」
英玲奈「確かにそうだな。できて間もない校舎では幽霊も出にくいというものだ。調べれば、噂が嘘であることなどすぐに分かってしまうからな」
あんじゅ「怪談にはリアリティを感じさせる舞台が欠かせないものね」
――
英玲奈「伝統ある学校となると、音ノ木坂学院の方が怪談は豊富そうだな」
あんじゅ「そうね。あの学校なら、一部の施設は古いままみたいだし、七不思議のリアリティもありそうだわ」
ツバサ「UTXに進学して本当によかった…」
未保「調査の参考になればと、音ノ木坂の七不思議も調べてみたのですが、やはりあちらの方がいかにも本当らしいという凄みがありましたね」
英玲奈「少し気になるな」
ツバサ「や、やめて!今ここで話さなくたっていいでしょ!」
――
あんじゅ「そういえば、私も音ノ木坂の七不思議の一つを聞いたことがあるわ。理事長の噂なんだけど」
英玲奈「音ノ木坂の理事長?というと、μ’sの南さんのお母様か」
あんじゅ「そうそう。高校生の娘がいるのになんであれだけ若く見えるんだろうって、音ノ木坂にいった友だちが言ってたわ」
英玲奈「それは七不思議ではなくてゴシップだろう…」
未保「その話も気になりますね」
あんじゅ「でしょ?あれはエステや化粧だけじゃどうにもならないはずよ。きっと整形してるんだわ~」
――
南家
理事長「ヘックチュン!」
理事長「風邪をひいたかしら…?」ブルブル
理事長「身体を冷やすと美貌によくないわね。ホットヨガして寝ましょう…」
――
生物室
ツバサ「噂が嘘なら怖くないわね…」ギュッ
英玲奈「そう言いつつ、まだ阿佐倉さんにしがみついてるのか」
ツバサ「だ、だってこんな時間にこんなところに来るのはそれだけで怖いわよ!」
あんじゅ「あっ、これね。七不思議にあった骨格標本ってのは」
――
英玲奈「何というか…普通だな」
あんじゅ「いかにも人骨ですって感じもしないわねぇ」
未保「関節部分の作りが安っぽいですし、製造番号も刻印されてますから、さすがに作り物とわかりますね」
ツバサ「こ、この調子なら他の七不思議もきっとこけおどしよ…うっ!?」
英玲奈「どうした、ツバサ?」
――
ツバサ「と、トイレに行きたい…//」プルプル
英玲奈「なんだ、そんなことか…」
ツバサ「そ、そんなことって言わないでよ!」
あんじゅ「未保ちゃん、もしかしてトイレの七不思議もあったりする?」
未保「はい。ちょうど次にご案内しようと思っていました」
ツバサ「や、やめてぇえ!このタイミングで話されたら行けなくなっちゃう!」
――
英玲奈「ツバサ、だったら早く行ってこい。私たちはここで待ってるから」
ツバサ「う、嘘でしょ!?夜の学校で一人でトイレに行くなんて絶対ムリよ!」
あんじゅ「A-RISEのリーダーが怖くて一人でトイレに行けないって、ファンが離れるわよ~」
ツバサ「そ、そんなこと言ったって、無理なものはムリよぉ!うっ…」プルプル
――
英玲奈「こんなところで漏らされても困るぞ…」
未保「トイレの入り口まで私たちもついて行きます。七不思議の紹介はその後にしましょう」
ツバサ「た、助かるわ。そ、それじゃあ早く行きましょう…」カクカク
あんじゅ「ツバサ、内股になってるから歩きが変よ~」
ツバサ「こ、こうしないと危ないのよ!//」
――
トイレ前
ツバサ「ま、間に合いそうだわ…」フラフラ
英玲奈「私たちは外で待ってるから、早く済ませるんだぞ」
ツバサ「え?一緒に中に入ってくれないの?」
英玲奈「さすがにそこまではできない…って、ツバサは恥ずかしくないのか?」
あんじゅ「ビデオにツバサの恥ずかしい音が入っちゃうわよ~?」
ツバサ「あ…//」
未保「び、ビデオはいったん止めますから!」
――
英玲奈「それに、録音を別にしても私たちの前で用を足すのは、その、どうかと思うが…」
あんじゅ「こう静かだと、水を流しても多少は聞こえちゃうわよ?」
ツバサ「そ、そんなこと言ったって…あぁあ、もう我慢できないぃい!//」プルプル
英玲奈「とにかく早く入れ!何かあったら呼べばすぐ駆けつけるから!」
ツバサ「わ、わかった~!」カクカク
――
あんじゅ「ようやく一人で行ったわね」
英玲奈「まったく、もう少しで怖がりどころじゃない黒歴史がツバサに刻まれるところだったな…」
あんじゅ「ところで、未保ちゃん。トイレの七不思議ってどんな話なの?」
未保「そうですね。ツバサさんをあまり怖がらせてもなんですから、今のうちに話してしまいましょうか」
――
【第三話 ワタシダケノバショ】
何かの導きかもしれませんが、これから話す七不思議の舞台は、ツバサさんが入ったここのトイレなんです。
トイレ…普段はそれこそ用を足すための場所ですよね。女子高では、化粧や髪のセット、お喋りの場所でもありますけど。
ですが、トイレにはこれら以外の使われ方があります。
そう、食事です…。
――
信じられませんか?確かにそうですよね。トイレは決して衛生的な場所ではありません。まして食事をするような場所では…。
しかし、一部の生徒にとっては、トイレは食事の場所なんです。これは学校に限らず、職場なんかでもそうですね。
別にトイレが落ち着くからではありません。教室やテラス、食堂で食べることができるなら、それがいいに決まっているんです。
それができない理由は、対人恐怖症であったり、いじめであったり…。要するに人間関係ですね。
――
人目につくところで一人で食事をとっていたら、友だちがいないと思われる…そんな理由でトイレに隠れて食事をするとも聞きます。
信じられないかもしれませんが、今では珍しい話でもありません。学校であれ職場であれ、人間関係はどこも歪なものしかないとも言いますからね…。
この話の生徒も、そんな理由で隠れるようにトイレで食事をとっていました。
――
『はぁ、今日もトイレでお昼ご飯かぁ…』
生徒はいつものように昼休みに教室を抜け出して、トイレに籠りました。ここのトイレは教室からも遠いため、人の出入りは少ないのです。人目を避けるにはうってつけと言えました。
『もっと白いご飯に合うおかずがほしいんだけど…』
生徒は溜息をつきます。トイレに隠れて食事をすることには相応のリスクを伴います。こんなことがバレては、バカにされてますます友だちができなくなるからです。
そのため、生徒は昼食の内容にも気を付けていました。音が出るため、袋入りのパンなんかは除外されます。匂いの強いおかずも避けていました。
――
『おいしくないや…』
たとえ本当に昼食がおいしかったとしても、トイレで一人で食べるには、あまりに味気ないですね。
『こんなこと、いつまで続けなきゃいけないんだろ…』
そんなことを考えていると、不意にドアがノックされました。
コン コン
――
生徒は驚きました。トイレで食事をとっているのがばれては一大事です。慌てて、ノックに対して応えます。
『ピャア!?は、入ってま~す』
そう言いつつも、生徒はどこか妙な気はしました。3つある個室は全部空いていたはずです。どうしてわざわざドアの閉まった奥の個室をノックしたのでしょうか。
それに、トイレの入り口が開いた音もまったく聞こえませんでした。
コン コン
生徒の返事にも、ノックは止みません。
――
『あ、あのっ。入ってますから』
再び生徒は返事をします。
コン コン コン
しかし、ノックは一向に鳴り止みません。生徒は気味悪くなりました。それと同時に、空いている個室に入らずに、わざわざノックをしてくる者に怒りも覚えました。
このひとはもしかしてわざとノックしてる?私が中にいてお弁当を食べているのを知ってて、バカにするためノックしてる?
そんなことが頭をよぎり、生徒はついカッとなりました。
――
『止めてください!他の個室が空いてるんだから、そっちを使ってください!』
強い口調で扉の前にいる者に告げました。
コンコンコンコン
しかし、相変わらずノックは止みません。
生徒は我慢ができなくなりました。
『やめてって言ってるでしょ!何なの!?ここは私の場所だよ!早く出て行って!』
――
生徒が怒鳴ると、ノックの音は止みました。
『まったくもうっ、何でこんなことするんだろ…』
邪魔者を追い払ったことで生徒は安心し、食事を続けようとしました。
しかし、生徒の箸を動かす手は止まってしまいました。
お弁当箱のその先。自分の足許。トイレの床。そこに生徒の視線は釘づけになります。
床は血で真っ赤になっていました。
――
生徒は悲鳴をあげました。箸とお弁当箱が血だまりの中に落ちて、びしゃっと音をたてます。
驚愕して壁に手を着くと、掌が真っ赤に染まりました。壁も血まみれだったのです。
生徒は半狂乱になってドアを開けようとしました。しかし、ドアノブは固まってしまったかのように動きません。ガチャガチャという音が虚しく響き渡ります。
泣きそうになった生徒の耳元で、誰かが呟きました。
デテイッテ。ココハ、ワタシダケノバショ…。
――
昼休みが終わっても戻って来なかったため、担任の先生が生徒の行方を探しました。
生徒は個室前の床で倒れているところを発見されました。
命に別状はなかったそうです。ひどく怯えて、自分が見聞きしたことを必死に伝えていましたが、トイレには血の染み一つ見つかりませんでした。
後で聞いたところによると、どうやらその個室には過去に先客がいたそうです。生徒と同じように、人目を避けて食事をとっていた少女が。
しかし、その少女がトイレに籠っていた理由はいじめを受けていたためでした。教室に残っているといじめられるため、隠れるようにトイレで食事をとっていたそうです。
その少女は個室の中で頸動脈を切って自殺しました。いじめに堪えられず、突発的にやってしまったと聞きます。発見されたときは、少女の血で個室中が紅く染まっていたそうですよ。
個室は少女にとって、いじめから逃れられる唯一の場所だった…。そう考えると、自分だけの場所にやって来た生徒を追い出そうと考えても、不思議はないのかもしれませんね。
――
英玲奈「またまた重い話だな。幽霊よりも、その過程の話が重い…」
あんじゅ「トイレの怪談っていえば、花子さんや赤い紙が定番よね」
未保「はい、あんじゅさんの言う通りです。現代的な心の闇が背景にあるあたりが、ある意味UTXらしいと言えるかもしれません」
英玲奈「人目を気にしてトイレで食事をするなんて、私には考えられないな。だからこそ、こういう怪談は心にくる」
ツバサ「ふぅ~、すっきりしたわ」
あんじゅ「おかえり、ツバサ。ツバサが入ってるうちに話しちゃったんだけど、もう一回聞く?」
ツバサ「え、遠慮しておくわ…」
――
未保「それでは、4つ目のスポットに参りましょうか。次の舞台は図書室です」
ツバサ「図書室?そういえば普段はあんまり行ったことがないかも…」
英玲奈「音楽室や生物室と違って授業で来ることはないからな。ツバサは本を借りに行ったりはしないのか?」
ツバサ「課題で調べものするときぐらいしか行ったことないと思うわ」
あんじゅ「私はよく行く方よ。けっこう面白い本も多いし」
ツバサ「そんな手軽に読めるようなものある?」
あんじゅ「小説とか科学雑誌なんかも置いてるもの。私のおすすめは美術の画集かしらね~」
英玲奈「なるほど。文字があるものだけが本ではないからな」
未保「私も図書室の雰囲気が好きでよく行きますね。それでは、お話をしながら進みましょうか」
――
【第四話 白い出席簿】
今もお話に出ましたが、図書室は本当に色々な本がありますよね。様々なジャンルの本が、古いものから最新のものまで…。
これだけ本があると、中には変わった本もあるかもしれない…そうは思いませんか?
4つ目の七不思議は、そんな不思議な本が図書室に隠されているというお話です。
――
その本は他の本に紛れてひっそりと棚に陳列してあるそうです。特徴は…いえ、むしろ特徴がないことがこの本の特徴といえるかもしれません。
その本には表紙のカバーもなければ、タイトルもありません。字も絵もない、真っ白な表紙があるだけです。日に焼けているため、白というよりは黄ばんでいるとも聞きますが。
普通、図書室の本には貸出の管理のために、番号コードの記載されたシールが貼られていますよね。ところが、その本にはシールも貼られていません。誰が並べたのか、何のために並べたのかもわかっていないのです。
本をめくってみると、ほとんどが白紙だそうです。ただ、所々に人の名前が書かれているようです。そう、まるで出席簿のように…。
――
この本の存在に最初に気が付いた生徒も、放課後に課題のための調べものをしていました。使った本を棚に戻そうとした時、例の本が目にとまりました。
「さてと、これで調べものに必要な資料には全部目を通しましたね…おや?」
カラフルなカバーが織りなすコントラストの中、場違いのような白い空間…。その本はそこにあるのがさも当たり前といったように鎮座していました。
「何でしょう、この本は。先ほど本を持ち出したときにはこんなものはなかったと思いますが…」
疑問に思いながらも、生徒は本を手に取ってページをめくりました。ほとんどのページは表紙と同じようにただの白紙です。ですが、ところどころに人の名前が書かれています。
「何かの名簿でしょうか…これは?」
ページをめくる生徒の手が止まりました。そこには見覚えのある名前…自分の友人の名前が書いてあったからです。
「なぜこんな所に…。誰かのいたずらでしょうか?」
その時は生徒も気にも留めませんでした。しかし、一週間後にその友人は突然自殺してしまいました…。
――
「どうして…どうしてなんですっ!?」
生徒は困惑しました。友人が自殺したのであれば、うろたえるのは当然の反応です。けれども、その友人には死ぬ理由など何一つなかったのでした。毎日のように他愛もないお喋りをしては、放課後も部活動に勤しみ、充実した高校生活を送っていたのです。
「まさか、あの本が関係しているのでしょうか…?」
生徒の脳裏にはあの奇妙な白い本が思い浮かびました。それ以外に友人が死ななければならない理由など考えがつかなかったためです。生徒は図書室へと急ぎました。
「ありましたね。何かこの本に原因があるはずです…」
静かな図書室の中でページをめくる乾いた音が響きます。しばらくすると、友人の名前を探す生徒の手がぴたりと止まりました。友人の名前を見つけたのです。しかし、黒のインクで書かれていた名前は血のように真っ赤な色へと変わっていました。驚いて閉じようとしますが、生徒の視線は本へと釘付けになりました。真っ赤になった友人の名前のすぐ隣に、他でもない自分の名前が黒のインクで書き記されていたからです…。
生徒はその後失踪し、今でも行方がわかっていないと言われています。
――
英玲奈「死の予告が記されていた、ということか…」
あんじゅ「これが本当の閻魔帳ってわけね」クスッ
ツバサ「よく笑ってられるわね…」ガタガタ
未保「図書室に着きましたね。噂の本があるか確かめてみましょうか」
あんじゅ「そういえば、その本に他人の名前を書いたらどうなるのかしら~?」
英玲奈「それだと全く別の作品になると思うが…」
――
図書室
あんじゅ「これだけ本があると検証は大変そうね~」
英玲奈「まったくだ。暗闇の中では書棚も不気味に見えるものだな」
未保「適当な書棚を調べてみたら次のスポットに参りましょうか」
あんじゅ「それじゃ、この棚にしてみようかしら」スッ
ツバサ「よく自分から探したりできるわね…」ビクビク
あんじゅ「あら、これって…」パラパラ
ツバサ「ま、まさか本物!?」
あんじゅ「名前が書いてあるわ。ツバサの名前が…」
ツバサ「」フラッ
英玲奈「ツバサ、しっかりしろ」
――
未保「本当にツバサさんの名前があったのですか?」
あんじゅ「ほら、見てみて」
【A-RISEの綺羅ツバサ様かわいい!大好き!ツバサ様の嫁になりたい!】
英玲奈「これは…ただの落書きではないのか?」
未保「そのようですね。愛は感じられますが…」
英玲奈「そもそも七不思議の内容とは似ても似つかないな。表紙も文もあるようだし…」
あんじゅ「確かにそうね」テヘペロ
英玲奈「あまりツバサを驚かせていては企画が進まないぞ」
あんじゅ「言われてみればそうかもね。私もだんだん眠くなってきたから、早く終わらせて切り上げましょうか」フワァ
未保「それでは次のスポットへご案内しますね」
英玲奈「ツバサ、早く起きろ。置いていくぞ」
ツバサ「お、置いてかないで!」ガバッ
真姫「そろそろ未完で終了宣言でも出しておけば?」
にこ「今はまだその時ではないにこ」
真姫「大丈夫なのかしら…」
早く書け