穂乃果「仁義なきラブライブ!」
完結しました。
【序章 修羅の頂点】
指定暴力団高坂組 事務所
穂乃果「はぁ~、今回の地上げは大変だったね!」
ことり「ごね得狙いがわんさかいたもんね~。うまくいったのは穂乃果ちゃんが出向いて押し切ったおかげだよ」
穂乃果「えへへ。ありがとう、ことりちゃん!」
海未「まったく…もめる案件だということは事前にわかっていたではないですか。組長自ら出向く必要に迫られたのは、詰めが甘いと言わざるを得ませんよ」
穂乃果「それはわかってるけどぉ~。いやぁ~、今日も葉巻がうまい!」スパー
――
海未「穂乃果、だいたいあなたは組のトップである自覚が足りません。駆け出しの若い衆ではないのですから、ハジキ構えて突っ込むなんて言語道断です」
穂乃果「だって、みんなが頑張ってるのに私だけ何もしないのも…」
海未「穂乃果に万一のことがあったら高坂組はどうなるのですか!」
穂乃果「うぅ…ごめんなさい」ショボン
ことり「まぁまぁ、海未ちゃんも内心では穂乃果ちゃんのことが心配だったんだから」
穂乃果「そうなの?海未ちゃん大好き~!」ダキッ
海未「ちょっとことり、いい加減なことを…穂乃果、苦しいから離れなさい!」
――
穂乃果「海未ちゃんが最高顧問になってから、組の勢いは昇り調子だね!」
海未「私は与えられた役割を果たしているだけです。シノギにせよ抗争にせよ、関東一円をシマとする高坂組の沽券に関わりますから」
穂乃果「海未ちゃんとことりちゃんがいれば怖いものなしだよ!」
ことり「穂乃果ちゃんのためなら命も捨てる覚悟ちゅん!」
穂乃果「いよっ、日本一の義侠心!」
海未「(確かに高坂組の勢力は拡大し、盤石とも言えます。ですが、わずかな油断も命取りになるのがこの世界…。私の目の黒いうちは、必ず穂乃果を守り抜いてみせますからね)」
――
【第一章 黒い密約】
指定暴力団小泉一家 事務所
凛「かよちーん、いま戻ったにゃー」
花陽「おかえりなさい、凛ちゃん。例の開発計画の件、うまくいった?」
凛「それが、あと一歩のところで高坂組の介入にあって頓挫しちゃったにゃぁ…」
花陽「そ、そっか。残念だったね…。でも、凛ちゃんはよく頑張ってくれてるよ!」
凛「そう言ってくれるのはかよちんだけにゃあ…。凛はちょっと奥で休むね」
花陽「無理しないでね、凛ちゃん」
――
応接間
凛「なんだか最近、うまくいかないことが多いなぁ…」
凛「かよちんが3代目を継承してから、凛なりに頑張ってはみたけど…」
凛「いつもあと一歩のところで邪魔が入っちゃう」
凛「かよちんのため、何でもいいから役に立ちたいのに」
凛「どうしたらいいんだろう。凛、バカだからわからないや…」
――
花陽「凛ちゃん、私ちょっと出かけてくるね」
花陽「凛ちゃん?」
凛「すぅ…」
花陽「寝ちゃってた…。今回の一件、凛ちゃんすごく張り切ってたもんね」
花陽「いつもありがとう、凛ちゃん。凛ちゃんが支えてくれるから、私も頑張れるよ」
花陽「毛布かけておくから、風邪引かないでね」スッ
――
夜
凛「んにゃっ、ちょっと寒くないかにゃあ…」
凛「あれ、もうこんな時間だ。寝ちゃってたんだ」
凛「この毛布…かよちん、かけてくれたんだ…」
凛「かよちんに気を遣わせてばっかりで…凛は役立たずだなぁ」
凛「気が滅入るなぁ。ラーメンでも食べにいこう」ヒョコッ
凛「ちょっとその辺まで出かけるから、事務所のこと頼むにゃあ」
モブ「了解です。若頭、お供いたします」
凛「凛はそういう面倒なことはきらいだから、一人でいいよ」
モブ「しかし、どこで何があるかわかりません。用心するに越したことは…」
凛「くどいにゃ!凛を誰だと思ってるにゃ!自分の身くらい自分で守れるよ!」
モブ「…わかりました。どうかお気を付けて」
――
路地裏
凛「くんくん…美味しそうなラーメンの匂いがするにゃあ」
凛「この辺に新しくお店でもできたのかな?」
凛「あっ、こんなところに屋台が…」
凛「どうやらここの匂いみたいだね。よし、今日はここに決めた!」
――
屋台
希「まいど」
凛「え~と、ここに書いてある濃厚豚骨醤油ラーメン一つ!」
希「あいよ。うちの一番人気を選ぶとは、お客さんお目が高いと見たわ」
凛「そりゃあ伊達にラーメンを食べ歩いてないにゃあ」
――
凛「ふ~、この時期は冷えるにゃあ」
希「お客さん。麺が茹であがるまでもうちょいかかるさかい、これはうちからのサービスや」スッ
凛「熱燗かにゃ?嬉しいけど、本当にもらっちゃっていいのかにゃあ?」
希「かまへん、かまへん。今日はお客さんが一人目や。この商売、サービス精神がないとあがったりや」
凛「それならありがたくいただくにゃあ」
――
凛「んっ…」グビッ
希「おっ、いい飲みっぷりやね」
凛「ぷはぁ。やっぱりこの時期は熱燗が最高にゃ!」
凛「はぁ~、例の一件がうまくいってたら、今頃かよちんとこうやって祝賀パーティだったのに…」グィッ
希「さてと、ちょうどいい頃合いで完成や。お待ちどう」スッ
――
凛「こ、これは…。沸き立つ湯気、食欲をそそる芳醇なスープの香り、肥沃な大地を思わせる丼の中の至高世界…」
凛「間違いなくこのラーメンは美味しいはずにゃ!」ハシパキッ
凛「まずはスープを…ふおぉおっ!?濃厚…それでいて次の一口を全身の細胞が求めているッ!」ズズッ
凛「まさに豚骨醤油界の王の中の王!王たるべくしてなったその威厳!」
凛「麺は…意外や繊細な細麺!だがしかしッ、それは一口喉を通れば清流の如く胃袋へ納まる…!たおやかで、それでいて食欲を刺激してたまらない傾国の美女のように!」
凛「極め付けはこの厚切り叉焼…。一見、無造作に置かれたであろうその肉塊…その実は地の底から掘り当てたダイアモンド!」
凛「歯茎を伝わって感じる確かな食べ応え…二口目にはジューシーでまろやかな肉汁…三口目にはとろけるような食感に早変わり…」
凛「これにゃ!これぞ凛が求めていたラーメンにゃ!」ハフハフッムシャモグッ
――
凛「ご馳走様でした…こんなにおいしいラーメンに出会えるなんて、凛は幸せ者にゃ」
希「職人冥利に尽きる言葉やね」
凛「落ち込んでいたのがバカみたいにゃ。凛はまだまだ頑張れるにゃ!」
希「そらよかったなぁ、星空さん」
――
凛「にゃっ?凛、まだ自己紹介してないはずなのに…」
希「星空凛さんやろ。噂は聞いとるで。小泉一家の若頭さんやないか」
凛「にゃっ…。店長もやくざモンかにゃあ?」
希「うちは東條希や。西の方で博徒稼業をやっとるんやけど、ワケあってこっちの方に出向いたんや」
凛「そ、それで凛に何の用?」
希「聞いとるで、小泉一家の評判。先代から幅広いシノギとシマ継いだゆうのに、高坂組にしょっちゅう邪魔張りされとるそうやないか」
凛「そ、それは…凛が頼りないからで…。かよちんは悪くないよ!」
希「小泉会長も幸せもんやな。こない忠実な若頭がおるんやから。そこでや…」
――
希「単刀直入に言うで。うちら西のもんと手ェ組まへんか?」
凛「共闘するってことかにゃ…」
希「高坂組に西の方でもデカい面されたら、うちら絢瀬総業のもんも黙っとれんのよ」
凛「凛も、これまでずっとかよちんのために頑張ってきたよ。でも、あいつらがいっつも邪魔をしてきて…」ギリッ
希「敵の敵は味方や。うちらが手ェ組めば、高坂のやつらなんか屁でもないで。ほら、うちのカードもそう告げとるやん」ペラッ
凛「決めた!一緒に戦うにゃ!」
希「それでこそほんまのやくざもんやで、星空若頭」ニヤリ
――
小泉一家 事務所
凛「かよち~ん!」ガラッ
花陽「おかえりなさい、凛ちゃん。またラーメン食べに行ってたの?」
凛「いいニュースがあるから落ち着いて聞いてほしいにゃ!」ダンッ
花陽「り、凛ちゃんこそ落ち着いて、ね?」アタフタ
凛「こりゃうっかりしてたにゃ」
――
花陽「えっ。高坂組に対抗するために、西の勢力と共闘するの?」
凛「これであいつらに邪魔されることもないにゃ!」フンス
花陽「でも…急には決められないよ。私たちには他にもシノギがあるし…」
凛「それはだめにゃ。もう先方と約束してきたにゃ」
花陽「モウキメチャッダノォォォ!?」
――
都内高級ホテル
希「さてと、そろそろ連絡がくるころやけど…おっと、おいでなすった」ピリリ
希「まいどどうも、エリちやな」ピッ
『首尾よく進んでいるかしら、希』
希「あぁ、うまくいったでエリち。小泉一家の若頭を抱き込んどいたわ」
『ありがとう。希に任せておいて正解ね』
希「高坂の連中に好き勝手されとるのがよっぽど悔しかったんやろなぁ。うちの言葉に一も二もなく陥落したわ」
『ふふふ、面白いのはこれからね』
――
【第二章 破滅の足音】
数日後 深夜 海岸通り
にこ「さぁ、今日も気合い入れていくわよっ!」ウォンウォン
こころ「行きますにこー!」ブァンブァン
ここあ「気合い十分にこー!」ブーワンブワン
にこ「極東矢澤連合、今夜もぶっちぎって行くんで夜露死苦ゥ!せーのっ」
一同「にっこにっこにー!」
――
にこ「ヒャッハーっ!誰もこのスピードには追いつけないにこー!」ブオォォォ
モブ「矢澤総長、さすがですっ!」
モブ「にこにー最高!」
にこ「もう関東に敵はないわ!目指すは日本一、いや、世界一よ!」
こころ「お姉さまかっこいいにこー!」
ここあ「世界のYAZAWAは最強にこー!」
――
にこ「さぁ暁に向かって最大加速…って、ちょっと全体ストーップ!」ビシッ
キイィイィィィ
こころ「お姉さま、どうしましたにこー?」
ここあ「何かあったにこー?」
にこ「どうもこうもないわよ。何、あいつら?にこにーの行く手を遮るとはいい度胸だわ!」
にこ「総員、戦闘態勢に入れー!」ビシッ
一同「にっこにっこにー!」
――
絵里「あらあら、なんだか騒がしいわね」
にこ「ちょっとアンタ!にこにーの爆走ロードを阻むとはいい度胸してるわ!いざ尋常にタイマンしなさい!」
絵里「私があなたみたいなチンピラと…?笑わせないでよ。やっておしまい!」
モブ「ラジャー、ボス」
モブ「イエッサ」ゾロゾロ
にこ「取り巻きの三下連中を出してくるとはたいした傲慢だわ。後で泣いても知らないわよッ!」
――
にこ「ラブにこキーック!」ドカッ
モブ「ぐはっ!」
にこ「そいやっ、もういっちょう!」バキッ
モブ「ギャッ!」バタッ
こころ「お姉さまさすがですにこー!」
ここあ「お姉ちゃんが一番にこー!」
にこ「さてと、前座は片づけたわよ。後はあんた一人ね」ポキポキ
絵里「あら、少しはやるじゃない」
にこ「デカい口叩けるのも今のうちよ、この金髪ヤンキー!」
絵里「たいした自信ねぇ」シュッ
にこ「うぶっ!?」ガッ
――
にこ「な、何?今の…全然見えなかった…」
絵里「ほらほら、のんびりしてる暇はないわよ」グォッ
にこ「あぐうっ!」
こころ「お姉さまー!」
ここあ「負けちゃだめにこー!」
にこ「うぐぐ…天下のYAZAWAに喧嘩売るとは…」
にこ「いい度胸してんじゃない!」ドスッ
――
にこ「やった!確かに手ごたえあり!」
ここあ「決まったにこー!」
こころ「お姉さまの勝ちパターンにこー!」
絵里「それで?」
にこ「へっ…?う、嘘でしょ…」
絵里「残念ね、これだから低学歴は」ヒュンッ
ドゴォオッ
――
にこ「うっ…げ、ぐえぇええっ!」ビシャアア
こころ「お姉さまー!?」
絵里「ほらほら、さっきの勢いはどうしたのよ」ゲシッ
にこ「うびゅうッ!?」
ここあ「もうやめてにこー!」
絵里「はぁ、なんかもう飽きちゃった。ダ、スヴィダーニャ(さようなら)、チンピラさん」ガッ
にこ「ゔぇええ…」
ドタァッ
――
絵里「さ、行くわよ」
モブ「イエッサ」
絵里「とんだハプニングね。ま、希へのいい土産話にはなりそうだわ」アハハ
絵里「待ってなさいよ、高坂穂乃果。今にあんたもさっきのチンピラみたいに叩きのめしてあげるわ」
――
にこ「うっ…」ビクッビクッ
こころ「お姉さまー!死んじゃいやですにこー!」
ここあ「早く病院に連れて行くにこー!」
こころ「でも、こんな時間じゃ病院も受け入れないにこー!」
真姫「まったく…さっきから何の騒ぎよ?せっかく夜風に吹かれに来たのに、雰囲気が台無しだわ」
こころ「助けてくださいにこー!お姉さまが死んじゃうにこー!」
真姫「…腹部の損傷がひどいわね。内臓にダメージがあるかもしれない」
ここあ「お姉ちゃんを助けてにこー!」
真姫「…仕方ないわね。この先の西木野総合病院なら私の口利きで急患対応してくれるわ。早くこの娘を私の車まで運びなさい」
――
3日後 夜 都内高級料亭
凛「さぁさ、心置きなくやってほしいにゃ」
希「ほな、エリち。お膳立てはばっちりやし、小泉会長と盃交わそ」
絵里「よろしくお願いね、小泉会長」
花陽「よ、よろしくお願いします…」
絵里「スパスィーバ(ありがとう)。ふふふ、これで小泉一家と絢瀬総業は兄弟関係。力を合わせて高坂組を潰しましょう」
花陽「は、はい!」
凛「かよちん、緊張しすぎにゃあ。ほら、純米大吟醸をぐびっといって景気つけるにゃ!」
花陽「ちょ、ちょっと凛ちゃん…」モガ
――
希「小泉一家の地盤と絢瀬総業のビジネスモデルがあれば、関東を収めるなんてわけないやん?」
絵里「希の言う通りよ。うちはロシア式軍隊術で構成員を鍛えているから、抗争も任せておいてほしいわ」
花陽「そ、それで私の方は何をすれば…」
希「会長はどっしりと構えていればそれでええねん。後はうちらに任せといてや」
絵里「えぇ。組んだことは後悔させないわ」
凛「ほら、かよちん。もっと飲むにゃぁ。今日はめでたいお日柄にゃ!」
――
1時間後
花陽「そうなんれす!高坂のあんにゃろう、最近じゃうちのシマにまでのこのこと…こないだなんか、うちの専売特許の農協関係の利権にまで口を挟んできてッ!」ウーイ
絵里「あら、花陽。あなたけっこういける口じゃない。ほら、もっと飲みなさい」
凛「ちょっと飲ませすぎたかにゃあ?」
花陽「うへへ、どーもれす!んああぁッ、日本のお米は世界一ぃ!」グビッ
希「いよっ、これぞ極道やん!」
――
絵里「さてと、そろそろお開きにしましょうか」
花陽「そうれすかぁ?いやー、私、絵里ちゃんと友だちになれてヨカッター!」フラフラ
絵里「お礼を言いたいのは私たちの方よ。力を合わせて高坂組に目に物見せてやりましょう」
花陽「イエッサァアア!」ビシッ
凛「かよちん、立てるかにゃあ?」
絵里「ふふふ」ニヤリ
――
西木野総合病院 207号室
にこ「ん…い、痛たたた」
真姫「ようやく気が付いたわね」
にこ「ちょ、誰よアンタ。てか、ここどこ?」
真姫「ここは病院よ。あなたは3日も意識朦朧としてたんだから」
にこ「3日も!?って、妹たちはっ!?」
真姫「妹さんたちにはいったん帰ってもらったわ。意識が戻ったようだし、後は私の方から連絡しておくわ」スッ
にこ「ち、ちょっと待ちなさいよ!」
――
真姫「なによ?私は忙しいのよ」
にこ「あ、アンタの名前を聞いてなかったわ。私のこと、病院まで運んでくれたんでしょ?」
真姫「まぁ、それは事実だけど」
にこ「恩義に応えないと、世界のYAZAWAの名がすたるわ」
真姫「面倒くさいわね…。私は真姫。西木野真姫よ」
にこ「私はにこ。極東矢澤連合総長の矢澤にこ様よ!」
――
真姫「何それ、イミワカンナイ。今どき暴走族なんて流行らないわよ」
にこ「極東矢澤連合はそんじょそこらの暴走族じゃないにこ!スピード、ハート、ソウル、すべてにおいて頂点に立つアートなのよ!」
真姫「最近の暴走族ってシュールなのが流行ってるわけ?」カミノケクルクルー
にこ「なんか馬鹿にされた気がするにこー!」
真姫「ま、どうでもいいけど安静にしていることね。幸い内臓にまでは傷が及んでなかったわ。頑丈なカラダに感謝しときなさい。1週間もすれば退院できるわよ」
――
にこ「1週間?そんな悠長なことは言ってられないにこ!」
真姫「あら、そう。なら、あなたの入院費を立て替えておくのはやめようかしら」
にこ「そ、それはっ…。今月はバイクの改造費用でスッカラカンにこ…」アタフタ
真姫「だったら私の言う通り、おとなしくしてなさい」
にこ「わかったにこ…」
――
【第三章 地獄の狼煙】
2日後 高坂組 事務所
穂乃果「そ~っと、そ~っと」プスリ
ギャアァアアア!
海未「何事ですか!?」ガラッ
穂乃果「あちゃ~、また負けちゃったぁ」
ことり「穂乃果ちゃん、ファイトだよ!」
海未「穂乃果!先ほどこちらから悲鳴のような声が…!」
穂乃果「あっ、海未ちゃんもやる?黒ひげ危機一髪、青龍刀バージョン!」
海未「」
――
海未「まったく…あなたは最低です!」ガミガミ
穂乃果「ごめんなさ~い」ションボリ
海未「どこぞの鉄砲玉がかち込んできたのかと思いましたよ!」
ことり「まぁまぁ、穂乃果ちゃんも反省してるようだし…」
海未「ことりっ、あなたも同罪です!」
ことり「ちゅんっ!?」
――
海未「はぁ…トップがこれでは組の面目が立ちません」ピピピ
海未「失礼、電話のようです」ピッ
海未「はい、私です…何ですって!?」
穂乃果「どうしたの、海未ちゃん?」
海未「うちのシマのキャバクラが何者かに荒らされたそうです!」
穂乃果「えぇーっ!?許せないよ、ケジメ取らせよう!」
ことり「穂乃果ちゃん、日本刀持ってきたよ!」ギラッ
――
海未「落ち着いてください!今、事実関係を確認している最中です。処理は下の者に任せましょう」
穂乃果「くう~、舐められたもんだよ!」
ことり「見つけだしておやつにしてやるちゅん!」
海未「(チンピラが騒いだ程度ならいいのですが…。よその組が動いたのでしょうか?)」
――
4日後 西木野総合病院 待合ロビー
真姫「あら、また会ったわね」
にこ「おかげさまで今日で退院よ。妹たちが迎えに来るから、待ってるところ」
真姫「よかったわね。退院しても無理するんじゃないわよ」
にこ「それにしても…アンタってここの経営者の親戚か何か?急患対応させたり、入院費タダにしたり…名字もここの病院と同じよね」
真姫「まぁ、そんなところよ」
――
にこ「色々と世話になったわ。ありがとう。この恩は必ず返すわ」
真姫「いいわよ。私、そういうの面倒だから」
にこ「アンタがよくても私の気が済まないの!」
真姫「お礼はいいから大人しくしてなさい。暴走族からも早く足を洗うことね」
にこ「それは譲れないにこ!そうそう、こないだの金髪ヤンキーにもきっちり落とし前をつけておかないと…」
真姫「それは止めときなさい!」
――
にこ「大丈夫よ。こないだは初見で油断しただけ。次こそは、にこにーナックルで昇天させてやるんだから」
真姫「悪いことは言わないから、あの女には関わらないことね」
にこ「なによ。これはアウトローじゃなきゃわからない感性の話よ。パンピーは口突っ込まないで!」
真姫「あいにくだけど、私もそっちの業界なの」スッ
にこ「へっ!?」
――
にこ「警察手帳…?アンタ、刑事だったの?」
真姫「今は音ノ木坂署に出向してるけど、正式には警視庁4課勤めよ」
にこ「って、もしかしてにこを逮捕しに来たにこ!?」
真姫「違うわよ。私の専門は暴力団関係よ」
にこ「暴力団?」
――
真姫「そう。アンタが喧嘩を吹っかけたあの女、組関係の大物よ」
にこ「やくざに喧嘩売っちゃったにこー!?」
真姫「あの女は最近関西で急激に勢力を拡大した暴力団組織、絢瀬総業の総裁、絢瀬絵里よ」
真姫「もっとも、自分ではプレジデントなんて、洒落た呼び方をしてるみたいだけどね」
にこ「やばいにこ…これはやばいにこ…」ガタガタ
真姫「お礼参りに行くのがどれだけ危なっかしいことか、わかってくれたかしら?」
にこ「はいにこ…」
――
音ノ木坂署
真姫「それにしても、どうして絢瀬が関東にまで出てきたのかしら」
真姫「勢力拡大?けど、そんなことをしたら関東のドン、高坂組が黙っていない。いくら武闘派の絢瀬総業でも、正面きっての抗争は不利なはず」
真姫「何か裏がありそうね…」
モブ「西木野警部!また高坂組のシマで傷害事件です!」
真姫「言ってるそばから…。これは内偵が必要みたいね」
――
高坂組 会議室
海未「またもや我々のシマで揉め事です。今月に入って既に5件目。とうとう組員が路上で襲撃されました」
穂乃果「むっきー!もう許さないよ!」ダン!
雪穂「お姉ちゃん、落ち着いて。いま、海未さんが話してるから」
海未「襲撃された若い衆の話によると、どうやら小泉一家が絡んでいるようです」
穂乃果「上等だよ!ことりちゃん、今すぐ44マグナムとランチパック持ってきて!」
海未「待ちなさい、穂乃果!下手に動けば相手の思うつぼです。警察も動き出していますし、迂闊な行動は禁物です」
雪穂「そうだよ、お姉ちゃん。この状況で幹部クラスがパクられでもしたら、組の存続にも関わるよ!」
穂乃果「うぅ、わかったよ…」
――
海未「ともかく、安易な実力行使は厳禁です。まずは情報を集めましょう。ことり、各支部長を集めて、徹底した情報収集をするよう指示をお願いします」
ことり「了解だよ、海未ちゃん!」
海未「雪穂は組長代理で主要なシマの巡視をお願いします」
雪穂「わかりました」
海未「穂乃果はくれぐれも勝手な行動をとらないように。いいですね、約束ですよ」
穂乃果「は~い…」
海未「私は警察関係者のツテを使ってみます」
――
小泉一家 会議室
凛「にゃははは!高坂の連中、ざまあないにゃ!」
花陽「直ちに反撃されないでしょうか?」
絵里「その心配はないわ。向こうもバカじゃないから、暫くは様子見よ。高坂組は組長の穂乃果はドンパチ一本の単細胞だけど、最高顧問の園田が切れ者らしいから」
希「ま、言うてもうちのエリちの方が何倍も切れ者やけどね」
絵里「えぇ、そうよ。かしこい、かわいいエリーチカとは私のことよ!」
凛「いよっ、プレジデント!かっこいいにゃー!」
――
絵里「ところで、花陽。アルパカ建設の関係資料を見せてもらえないかしら」
花陽「いいけど…何に使うの?」
絵里「私たちの強みは洗練されたビジネスモデルの確立よ。小泉一家が築き上げた経済地盤を、私たちの手でより強固なものにするの」
凛「そうすればもっと儲かるかにゃー?」
希「そらもう、ガッポリやで」ニシシ
凛「にゃー!かよちん、もっと儲かるみたいにゃ!そうすれば凛たちが、関東一、いや、日本一の極道にゃー!」
花陽「そ、そうだね。それなら…」
絵里「協力、感謝するわ」ニヤリ
――
夜 都内のバー
海未「隣、いいですか?」
真姫「どうぞ。構わないわよ」
海未「失礼します。マティーニを一つ」
真姫「それで…用件は何かしら?」
海未「困ったことがありましてね。ここ最近、立て続けに我が社(組)の得意先(シマ)でクレーム(揉め事)がありまして」
真姫「それは大変ね。お詫び(反撃)はもう済んだのかしら」
海未「いいえ。まだ何も。よその外注先(暴力団)が関係しているようで」
真姫「そのことなら、少しばかり預かり品(情報)があるわ」
海未「それはありがたい。では、後で本社(事務所)の方までお越しください。車を手配しますので」
真姫「えぇ、そうしてもらうと助かるわ。スコッチのロックで」
――
高坂組 応接間
海未「どうぞ、こちらに」
真姫「やっぱりここが落ち着くわね。外じゃ会話一つとっても、面倒ったらありゃしないわ」
海未「現職の4課の刑事がそんなこと言っていいのですか?」
真姫「癒着だのなんだの言ってるのは、メルヘン思想のバカばっかりよ。何もしないで治安が守れるとでも思ってるのかしら」
海未「相変わらずですね、真姫」
真姫「さてと、時間もないことだしさっさと話を進めるわよ」
――
海未「まずは、先ほどの情報とやらを教えてもらえませんか」
真姫「表立って高坂組に喧嘩を売ってるのは小泉一家。この認識は共通よね」
海未「えぇ、そこまではわかります」
真姫「けど、裏で糸を引いているのは西の絢瀬総業よ」
海未「絢瀬ですって!?」
真姫「偶然だけど、絢瀬絵里が関東入りしたのを私は見てるの。単なる観光目的じゃないのは確かね」
海未「驚きました。西の勢力が一枚噛んでいたとは…」
真姫「絢瀬絵里が小泉花陽と面会してたってタレ込みも出てきたわ」
海未「奴らの目的は…高坂組ですね?」
――
真姫「私はそうと踏んでいるわ。大方、関東で日の出の勢いの高坂組が西に流れ出る前に先手を打とうって話よ」
海未「小泉一家は関東内での地位が弱まっているとの噂を耳にしますが…」
真姫「アンタたちが拡大する分、向こうは弱体化する。関東っていう一つのパイの取り合いだもの。焦った小泉が絢瀬と組んでも何の不思議もないわ」
海未「これは厄介なことになりましたね…」
――
数日後 高坂組 事務所
穂乃果「もう我慢の限界だよ!海未ちゃん、あいつらまとめて地獄に送ってやるから!」
海未「穂乃果、まだ動くべきではありません!」
穂乃果「占有してた貸しテナントは横取りされてロシアンパブにされちゃったし、賭場荒らしまでされたんだよ!」
ことり「組員やシマへの襲撃も続いてるし…襲撃が怖くて高坂組と縁を切りたいっていうオーナーも出て来たよ」
穂乃果「協力関係にあった地元組織も小泉一家に寝返ってるし!ことりちゃんじゃなくてもトサカにきちゃうよ!」ドッカーン
海未「ですが…」
雪穂「私も海未さんの慎重姿勢には賛成です。ですが、決断をしない組上層部への批判が強まっているのも事実です。このままでは内部の求心力にも影響が…」
海未「くっ…」
穂乃果「やくざは舐められたら終わりだよ!組長権限で抗争を宣言するからね!」ビシッ
海未「…やむを得ません。私は被害が拡大しないように最善を尽くします」
――
小泉一家 事務所
凛「やつら、反撃に出たみたいだにゃー!」
花陽「絵里ちゃん、策はあるの?」
絵里「問題ないわ。まずは小競り合いってとこね。うちの精鋭部隊は、抗争が激化したときの切り札に温存しとくわ」
凛「えっ、絵里ちゃんたちは戦ってくれないのかにゃあ?話が違うよ!」ガタッ
希「凛ちゃん、落ち着きぃや。うちらは西から来たヨソもんや。地の利を心得とるのは小泉一家の方やろ?」
花陽「それはそうですけど…」
希「まずは花陽ちゃんたちが迎え撃って、いざという時はうちらが援軍として打って出るんや。どや、これが一番効率的やと思わへん?」
絵里「抗争も一流の戦略があってこそよ」
凛「…そういうことなら仕方ないにゃあ」
――
音ノ木坂署
真姫「まずいわね。高まる好戦主張にさすがの海未も抑えが効かなくなったみたいね」
真姫「あんまり派手にドンパチされると、警察の方も動かざるをえないわよ?」
真姫「双方痛み分けじゃ済まなさそうね…」
――
【第四章 無情の凶弾】
数日後 高坂組 会議室
穂乃果「やっぱりうちの若い衆は度胸が違うね!白昼堂々、乱闘してみせるなんてやくざの鑑だよ!」
ことり「小泉一家になびいた地元組織にも睨みを効かせておいたちゅん!」
穂乃果「ことりちゃんえらいっ!大好きだよ!」
ことり「ちゅん♪」
雪穂「私は部下に命じて小泉一家の事務所に一発弾かせてきました」
穂乃果「さすが私の妹!あれ、かっこよかったなー。警戒中のパトカー越しにドカーン!だからね!」
海未「勢力ではこちらの方が圧倒的に優位ですが、油断は禁物です。なんせ、裏には西の勢力が控えていますから」
――
小泉一家 事務所
凛「どうなってるにゃあ!?こっちの一方的な負け戦だにゃあ!」
絵里「焦らないことよ。まだ勝負は始まったばかりだもの」
凛「絵里ちゃんはなんでそんなに落ち着いていられるの?2日前には事務所に発砲されたんだよ!?」
希「凛ちゃん。ぎゃーぎゃー騒いでも器の小ささ露呈するだけやで?」
凛「そんなこと言ったって…絵里ちゃんたちが一緒に戦ってくれないからだよ!」
花陽「やめて凛ちゃん!味方同士で争っても何にもならないよ!」
凛「うぅ…ごめん、かよちん…」
絵里「花陽の言うとおりよ。大丈夫、やつらの反撃を一気に封じる術があるわ」
――
夜 繁華街
穂乃果「さぁーて、もう一軒行ってみよう!」
海未「穂乃果、少し飲みすぎですよ?まだ抗争中なのですから…」
穂乃果「大丈夫、大丈夫!高坂組の大勝利は揺るぎないよ。何かあっても海未ちゃんが私のことを守ってくれるもん♪」
海未「それはもちろん守りますが…」
穂乃果「海未ちゃん、だ~い好き!」チュッ
海未「ちょ、穂乃果!//」
穂乃果「あ~!ここってうちの系列のホテルだよね。海未ちゃん、一緒にお泊りしようよぉ♪」ダキッ
海未「だめです、穂乃果!明日は幹部定例会がありますし、それにここはラブホテ…//」
キュンッ
――
穂乃果「あ…あれ?なんかカラダが重いや…」ガクッ
海未「穂乃果!?肩から血が…!」
穂乃果「どうしよう、酔っぱらっちゃったみたい…」
海未「方角は西から…。総員、穂乃果を囲って守りなさい!早く!」
モブ「はっ!」
モブ「全員横に広がれ!組長の盾を作るんだ!」
海未「くっ、早く建物の中に…!」
穂乃果「海未ちゃん…」
キュンッ
海未「ぐっ!?」
――
穂乃果「海未ちゃん…?」
モブ「最高顧問!」
海未「だ、大丈夫です。外出する際は防弾チョッキを着てますから…」ヨロ
穂乃果「海未ちゃん?死んじゃいやだよ…?」
海未「大丈夫です。私は…穂乃果を守るために、おめおめと死んでなどいられません!」
穂乃果「海未ちゃんは…やっぱりかっこいいなぁ…」
――
海未「こ、ここまで来れば大丈夫でしょう」ピピピ
海未「もしもし、ことりですか?穂乃果が撃たれました。至急、応援と車をよこしてください」
海未「いえ、大丈夫です。胸は逸れて肩を負傷しただけです。ただ、出血は多いので迅速にお願いします。病院の手配は私がしますから」
海未「穂乃果、もうしばらくの辛抱ですからね…」ピピピ
海未「真姫、突然で申し訳ありませんが、西木野総合病院で急患を一人受け入れてください。穂乃果が銃撃されて肩を負傷しました」
海未「これでひとまずは…」
海未「穂乃果。私が付いていながら、申し訳ありませんでした…」グスッ
――
小泉一家 事務所
凛「やっぱり絵里ちゃんたちはすごいにゃ!あの高坂組の組長を狙撃するなんて!」
絵里「あいにく仕留め損ねたけど、これで高坂組は混乱に陥るわ」
希「あちらさんは士気もガタ落ちやろなぁ。これで一気に形勢逆転てわけや」
花陽「まさかトップを直接攻撃するなんて…私には考えもつきませんでした」
絵里「明日は東と西の合同で前祝いをするわよ。花陽と凛も参加しなさいよね」
凛「もちろんだにゃあ!」
――
数時間後 西木野総合病院
真姫「ずっとそこで待ってたの?」
海未「真姫!穂乃果の容態は…」
真姫「手術は成功よ。まぁ、止血さえできれば命に別状はなかったんだけど」
海未「本当に…ありがとうございました」
真姫「お礼なら私じゃなくて医者の方にお願い」
――
海未「どうなることかと思いましたよ…」
真姫「銃撃は向かいのビルの屋上からやったみたいね。私も後で現場検証に戻らないと」
海未「やつらの仕業ですね…」ギリッ
真姫「ケンカで敵のトップを狙うのは関西ヤクザのやり口よ」
海未「許しません。絶対に…」
――
真姫「そうそう。新しい情報が入ったわよ。例の絢瀬総業、外観は関西ヤクザを装ってるけど、中身はロシアンマフィアの出先機関らしいわ」
海未「なんと。在来の組織ではなかったのですか?」
真姫「総裁と直近の親衛隊がマフィアの関係。その他大勢の構成員は、最近になって関西の在来組織を結集させたみたい」
海未「どおりで、ここ最近まで名前を耳にしなかったわけです」
真姫「絢瀬絵里はロシアの特殊工作部隊KKEの出身で、本国とのパイプもあるみたいね。関東どころか、そもそも日本そのものが進出の足掛かりってとこかしら」
海未「厄介な相手です…」
――
真姫「けどね、そういう事情なら崩しようもあるわ」
海未「どういうことですか?」
真姫「小泉一家と絢瀬総業の信頼関係は、たかが知れてるってことよ。どうせお互い、自分の目的のために相手を利用し合う関係でしょ」
真姫「事実、今回の狙撃以外で絢瀬の息がかかった実力部隊が動いた形跡はないわ。絢瀬はできるだけ自分の駒を使いたくない。いざドンパチになれば、小泉側を言いくるめて前線に出してるだけ」
真姫「そこでね、私の立場からこういうことを言うのはまずいんだけど…」
真姫「一気にケリをつけなさい。この抗争、長引くほどやつらに有利になるわ」
――
【第五章 仕組まれた罠】
翌日 夜 都内高級ホテル
絵里「ドーブルイヴィエーチル(こんばんは)、お二人さん」
凛「絵里ちゃん、今日はたくさん人が集まったね!」
絵里「今日は抗争勝利の前祝い、そして確実な勝利をものにするための決起集会よ」
花陽「すごい…絵里ちゃんたち、もう関東にこれだけの構成員を集めてたんだね」
絵里「備えあれば憂いなしよ」
――
希「おっ、エリちこんなところにおったん?そろそろ挨拶の時間やで」
絵里「そうね。それじゃあ私はこのへんで」
凛「開会宣言かにゃあ?かよちんはしないの?」
花陽「えっ、私は何も聞いてないよ?」
――
絵里「お集まりの皆さん。今日は来るべき我々の勝利を目前にしてではありますが、重要なお知らせがあります」
絵里「このたび、小泉一家は絢瀬総業の下につくことが幹部会で決定されました」
絵里「つきましては私、絢瀬絵里がプレジデントとしてこの新団体を率いていきます。どうぞよろしく」
希「えー、それでは引き続きプレジデントから今回の抗争勝利に向けたありがたいお言葉を…」
凛「ちょっと待つにゃあ!」
――
絵里「あら、どうしたの凛?乾杯はこの後だからもう少し辛抱してなさい」
凛「誤魔化さないで!幹部会の決定ってどういうこと!?そんなの聞いてないよ!」
希「凛ちゃん、ここはめでたい席やで?野暮なことはやめとこ」
絵里「ほらっ、証拠ならここにあるわよ。決定書が」スッ
凛「そんなもの、勝手に作っただけだよ!凛もかよちんも、全然聞いてない!」
――
絵里「あぁ、もう面倒くさいわね。だったらどうだってのよ?」
花陽「幹部会の招集権限は私と凛ちゃんにしかありません。そのような決定は無効です。撤回してください!」
絵里「嫌よ。だいたいねぇ、アンタたちみたいなボンクラが中途半端にシマやシノギを持ってる方が悪いのよ。賢い者がすべてを握る。これが経済学の常識よ」
凛「こいつ…!最初から凛たちの権益を奪い取るのが目的だったんだな!」
希「なんや、凛ちゃん今頃気づいたんかいな。極道たるもの、ここが働かんとよう生きていけんわ」ハハハ
絵里「アンタたちのシノギの詳細は調べさせてもらったわ。これからは私たちが仕切ってあげるから安心しなさい」
花陽「…こんなことは許されません!私たちが築いたもの、全部返してもらいます!」
絵里「認められないわァ」
――
凛「この野郎ッ!ただじゃ済まさない!」ブンッ
絵里「おっと」ヒョイッ
凛「ちぃッ!ちょこまかと…!」
絵里「どこを狙ってるの?あくびが出るわ」
凛「このッ!」
絵里「遅いわね」パシッ
凛「ぐっ…!」
――
絵里「弱い。虚しい。面白くない」ゲシッ
凛「ぐあぁああぁっあぁあ!」ドサッ
花陽「凛ちゃん!しっかりして!」
凛「ぐぐ…み、みんな何してるにゃ!早くあいつからかよちんを守るにゃ!」
絵里「無駄よ。ここにお集まりの皆さんは、私に忠誠を誓ったわ」
花陽「そんな…!?」
絵里「ロシア式交渉術を甘く見ないことね」
――
希「凛ちゃん、勝ち目がないのはわかっとるやろ?いい加減諦めぇや」
凛「凛は…凛は絶対に諦めない…!」
絵里「お友だちが死んじゃうことになっても?」チャキッ
凛「か、カラシニコフ!?」
絵里「私の腕なら、この距離で花陽の額を撃ち抜くなんてわけないわ」
凛「ぐぐ…」
花陽「凛ちゃん…」
凛「…わかった。大人しく引いて、もう何も関わらない。だから…かよちんだけは見逃して」
絵里「あははっ、こんな時にまで友情ごっこ?いいわ、気に入ったわ。さっさと出ていきなさい」
凛「行こう、かよちん…」
花陽「うん…」
絵里「気を付けて行くのよ。高坂の連中も、警察もみんなあんたたちを捕まえるのに躍起になってるから。せいぜい逃げ惑うことね」
――
市街地
凛「かよちん、ここから北は高坂組のシマだから、迂回しよう」
花陽「でも、どこに行く?もう事務所には戻れないよ」
凛「かよちん…」
花陽「凛ちゃん?」
凛「…ごめん。本当にごめん。凛は…凛はいつもかよちんの足手まといで…」グスッ
――
凛「何も考えずに、あいつらの口車に乗せられて…」
凛「かよちんが守ってきたもの、築いてきたもの。全部奪られちゃった…」
凛「凛が…凛がバカだから…かよちんに…こんな…」
凛「凛なんか、もうこのまま死んじゃえばいいんだ…」
花陽「凛ちゃん」ギュッ
――
凛「か、かよちん?」
花陽「凛ちゃん。私がこれまで頑張ってこれた理由、何だかわかる?」
花陽「右も左もわからずに三代目を継いで、毎日が苦労の連続だった」
花陽「七光りだって陰口叩かれて、周りからも見下されて」
花陽「もうこの業界から逃げ出したいって何度も思った」
花陽「でもね、いつも凛ちゃんがそばにいてくれた。不器用な私のことを一生懸命支えてくれた」
――
花陽「シマもシノギも、凛ちゃんに比べたら何でもないよ。なくなっちゃってもいい」
花陽「でもね、凛ちゃんだけは失いたくない。私は凛ちゃんがいてくれたらそれでいいの」
花陽「だから…死んじゃうなんて、そんな悲しいこと言わないで」
花陽「凛ちゃんがいなくなったら、私…」グスッ
凛「かよちん…」
――
【第六章 氷の粛清】
高坂組 会議室
ことり「海未ちゃん。穂乃果ちゃんの容態は?」
海未「今は落ち着いています。しばらく入院は必要ですが、順調に回復しています。病室の警備も万全を尽くしています」
ことり「それならよかった…。小泉一家との抗争はどうするの?」
海未「一歩も引きません。総攻撃をかけて関東圏から殲滅させます」
雪穂「組長不在で指揮を執ることになりますが…」
海未「ここで二の足を踏めばやつらの思惑どおりです。絢瀬絵里は穂乃果不在の高坂組が抗争を継続できないと読んでいますが…ここは裏をかいてやりましょう」
ことり「海未ちゃん、私も命を預けるよ。穂乃果ちゃんにぶっ放したボケナスを駆逐しないと気が済まない」
海未「それでは、ことり。組長代理として抗争継続宣言をお願いします」
――
数日後 絢瀬総業関東支部 事務所
希「なんや、また高坂組からのお礼参りかいな。これで4件目やで」
絵里「くっ…。高坂穂乃果が銃撃されたとなれば幹部一同士気が下がると踏んでいたんだけど…」
希「エリち、ほんま大丈夫なん?うちらの実働部隊出しても、小泉からぶんどったシマの維持で精一杯やで」
絵里「大丈夫よ!私を誰だと思ってるの!」
――
西木野総合病院 病室
穂乃果「海未ちゃん、戦況はどうなの?」
海未「順調です。絢瀬は小泉との連携拠点に直属部隊を配置していたようなので、その裏をかいて襲撃しています」
穂乃果「さすが海未ちゃん!」
海未「先日は絢瀬が武器庫代わりにしていた海岸倉庫の一部をことりが見つけ出して制圧しました」
穂乃果「ことりちゃん、ダイナマイト使った?」
海未「えぇ、今回も。絢瀬の戦闘員を負傷させて生け捕りにしました」
穂乃果「あぁ~穂乃果も早く暴れたいよ~!」ウズウズ
海未「まずはカラダを治してくださいね」
――
1ヵ月後 絢瀬総業関東支部 事務所
希「エリち、もうあかん!あいつら、組長のタマ取られかけたゆうのに、少しも怯んどらん。このままやとうちら全滅や」
絵里「何言ってんの。まだ戦えるでしょ!」
希「いくらエリチの直属部隊が優秀でも、多勢に無勢や。小泉から引き抜いた兵隊はほとんどパクられたり、負傷しとるし…始めはなびいとった地元組織も高坂にびびってだんまりやで」
絵里「まったく…いい知らせは一つもないわけ!?」
希「もうしまいや。うちらもはよ逃げた方がええんちゃう?どっちにしろ高坂かお巡りに追い詰められるで…」
――
絵里「…わかったわ。戦略的撤退よ。西に戻って勢力を結集しましょう」
希「それがええ。いつ行く?」
絵里「こうなったらぐずぐずしてるヒマはないわ。今夜にも出発よ。車を手配しておくから、準備しておきなさい」
希「そうしてくれると助かるわ。うち、もう東の連中とコトを構えるのはこりごりや」
――
夜 絢瀬総業事務所前
絵里「希、準備はできた?」
希「ばっちりや。この車でええの?」
絵里「危険なところは迂回していくから長旅になるわよ。後ろの座席で寝てなさい」
希「エリちがおればなんとかなるような気ぃしてきたわ。うち、ここ最近シノギのぶんどりや抗争の陣頭指揮でくたびれてもうたし…少し休ませてもらうで」
絵里「それじゃ、出発するわよ」
――
2時間後
絵里「希、起きなさい」
希「なんや、もう着いたんか?」
絵里「後ろから妙な車が付いて来てるわ。おそらく高坂組の連中よ」
希「なんやて!?ばれとったんか!」
絵里「ひとまず加速して振り切ったけど、追いつかれるのも時間の問題ね。こうなったら山道に入るわ」
希「大丈夫なん?」
絵里「ここの山道は麓につながってるのよ。うまく行けば振り切れるわ」
――
希「なんや、ずいぶん山奥に入ったなぁ。まともな道に戻れるんやろか?」
絵里「ここでいいわ。止めて」
モブ「はい」キキィ
希「エリち、どないしたん?まさかここにきて故障とかいうんちゃうやろな?」
絵里「希、悪いけど降りてもらえる?」チャキッ
希「ひっ、マカロフ!?な、なんやそんな物騒なもん出して…」
絵里「いいから降りなさい」
――
希「ちょ、エリち。冗談やめてや…」
絵里「縛っておきなさい」
モブ「イエッサ」
希「ちょ、何するん!やめーや、コラ!」
絵里「アンタはこれ使って穴を掘りなさい」スッ
モブ「イエッサ」
希「す、スコップ…!?」
――
希「な、何するんや!わぷっ!」
絵里「これで首以外全部埋まったわね」
希「えり…ちゃん?ど、どうしてこんなことするの?私たち、仲間だよね…?」
絵里「関東での抗争が頓挫した以上、もうアンタに利用価値はないわよ。余計なことも知りすぎてるし…そろそろ潮時ってやつね」
希「い、嫌!殺さないで!お願いだから命だけは…!」ガタガタ
絵里「これ、頭にも土かけたら死んじゃうわよねぇ」アハハ
希「ひ、ひぃいいっ!?」
絵里「ふふふ、寝覚めが悪いからこの場では殺さないわ。そこでゆっくり朽ち果てることね。私はこのまま逃げさせてもらうわ。さっきの追手の話も嘘よ。じゃあね、希」
希「やだ…やだやだ置いてかないで!何でもする!何でもするから置いてかないでぇええぇっ!」
――
【第七章 血の代償】
高坂組 事務所
ことり「海未ちゃん。絢瀬の連中は逃げ出したみたい。事務所ももぬけの殻だよ」
海未「奪い取ったシマを放り出して逃走ですか。おおよそ西に戻って挽回する気でしょう」
雪穂「海未さん、次はどうします?」
海未「本隊は関東に駐留させます。絢瀬総業が残していったシマはこれを機に根こそぎ奪い取りましょう」
ことり「小泉の旧幹部も分裂してるみたいだし、今がチャンスだね」
海未「私は絢瀬絵里の潜伏先を突き止めて、西に逃げ切る前にケリをつけます」
――
関東某所
凛「かよちん、ちょっと疲れないかにゃあ?もう3時間近く歩きっぱなしにゃ」
花陽「凛ちゃん、もう少しだから頑張って。高坂組の勢力圏から出られれば、移動手段も増えるから」
凛「せめて車だけでも別に用意しておけばよかったにゃあ。事務所のはあいつらに横取りされちゃったし…。身を隠しながら逃げ続けるのがこんなに大変だなんて思わなかったよ…」
花陽「ここさえしのげば何とかなるはず。だから、ね?」
凛「うん…。かよちんがそう言うなら…」
――
花陽「凛ちゃん、待って!向こうに妙な車が何台か…」
凛「カタギが乗りそうもない車にゃ…。高坂のやつら、こんなところまで追手を…」
花陽「まずい…こっちに来るよ!」
凛「と、とにかく通りにいたら危ない。山道に入ろう!」
――
花陽「うぅ…暗くて足場もはっきりしないね…」ソロソロ
凛「車の入れないところまでいかないと、安心できないよ」
花陽「最悪、このまま山道を横断して麓まで歩くことになるかも…」
凛「大丈夫、何があってもかよちんのことは凛が守るから…」ギュッ
花陽「凛ちゃん…」
ダズゲデェェエェ
花陽「ピャア!?」ビクッ
――
花陽「な、何なの。今の音は…」
凛「人の声…?こんな夜中の山道に?」
花陽「ど、どうしよう凛ちゃん…?」
凛「けど、引き返したら高坂のやつらに鉢合わせになるかもしれないし…行こう」
花陽「ま、待ってよ。凛ちゃん!」
――
凛「こっちの方かな?」ガサガサ
花陽「凛ちゃん、用心した方がいいよ。お化けかも…」
凛「今はお化けより高坂組の方が危険だにゃあ」
ジニダグナイィィイィイ
花陽「ひゃっ!また…」
凛「この声、どこかで聞いたことがある気がするにゃ…」
花陽「凛ちゃん、お化けに知り合いがいるのぉ?」ガタガタ
凛「もしかして…」ザッ
――
希「助けてェ!こんなところで死にたくないィ!」
凛「やっぱりにゃ」
花陽「希さん!?どうしてこんな所に…」
希「あぁ!?凛ちゃんに花陽ちゃん!化けて出たんか!ひぃい、かんにんして!」
凛「勝手に凛たちを殺すんじゃないにゃ」
希「えっ、お化けやないんか…?」
花陽「希さん、いったいこんなところでどうしたんです?」
――
希「せ、説明は後や。早う、こっから出してーや。何でもする、お願い!」
凛「どうする、かよちん?こいつ、また凛たちを騙すつもりかもしれないよ」
花陽「そうだねぇ…前例があるからね」
希「わ、悪かった。うちにも報いがきたんや。あのロシア女にうまいとこ利用されて殺されかけたわ!」
凛「にゃんと、仲間割れでリンチかにゃあ」
希「頼む、絢瀬の情報で知ってるものは全部教える!だから、こっから出してや。一生の願いや!」
凛「凛は…かよちんが決めたことに従うよ」
花陽「希さん。絢瀬絵里の逃亡先についても情報はありますか?」
――
希「あぁ、あるわ。ほんまなら、このまま逃げるつもりやったんや。それをあの女、うちをこないな目に遭わせよってからに…」
花陽「凛ちゃん。希さんを助けよう。私たちも高坂組の手から逃れられるかもしれない」
凛「本当かにゃあ!?どうするの?」
花陽「絢瀬絵里の潜伏先を高坂組に売るの。それで手打ちに持ち込もう」
凛「えっ、高坂組に凛たちから接触するの?それは危険じゃ…」
希「せや、凛ちゃんの言う通りやで!組長にぶち込んだゆうのに、おめおめ高坂組の前にカオ出すなんて、自殺行為や」
花陽「そう…。それなら希さんはここで大人しくしていてください」
希「そ、そない殺生な…」
――
凛「かよちん、手打ちが通る見込みはあるの?」
花陽「わからない…。でも、このまま逃げ続けてもいずれは高坂組に捕まるよ。それなら、行動は早い方がいい」
凛「…わかった。手打ちの交渉は凛がやる。かよちんはやつらに見つからないように隠れていて。それなら構わないよ」
希「ほんまにやるんかいな…。うち、どうなっても知らんで…」
――
翌日 高坂組事務所
海未「なんですって!?小泉一家の若頭が直接事務所に?」
雪穂「今回の一件で手打ちを求めてきました。絢瀬絵里の潜伏先情報も提供するそうです」
海未「まさか正面きって出向いてくるとは想定していませんでした」
雪穂「どうします。話を聞きますか?」
海未「そうですね。今は絢瀬絵里を見つけ出すことが騒動の幕引きに何としても必要です」
――
応接間
海未「小泉一家の星空若頭ですね」
凛「どうも…正確には元若頭だけどね」
海未「どういう意味ですか」
凛「こいつらに裏切られたからね」
希「そ、そんな人聞き悪いで」アセッ
海未「そちらは…?」
希「まいど、どーも。絢瀬総業の元参謀、東條希や」
――
海未「それで…綾瀬絵里の潜伏先を知っているとのことですが」
希「そうそう、それや。なんせうちは絢瀬と行動を共にしとったからなぁ。ごっつえぇ情報持ってまっせ」
海未「内容次第では寛大な処分も考えています」
希「そりゃあ話が早いわ。さすが高坂組の園田最高顧問」
海未「ずばりどこにいるのですか」
――
希「絢瀬は今頃、遠く北海道まで逃避行の最中のはずや」
海未「北海道ですって!?関西に逃げのびるのではなかったのですか?」
希「それはうちがいてのことや。うちを切った以上、絢瀬は関西に戻る意味はあらへん。絢瀬総業ゆうても、所詮は在来組織の集まりに看板掲げただけやからな」
海未「なるほど。と、いうことは絢瀬絵里はロシアに逃げ帰るつもりですか」
希「ご名答。連絡船の船長とマブダチゆうてたからなぁ。慎重な絢瀬のことや。たぶん、見つからんよう神経質に逃げてるはずやから、今から追いかけても間に合うと思うで」
海未「早急に対処しましょう…」
――
希「さて、ごっつえぇ情報提供したんやし、うちらのことは大目に見て、な?」
海未「それは断言できません」
希「なんでや!?寛大な処分ゆーてたやん!」
海未「私の一存では決めかねます。組長出席のうえ、幹部会にかけなければなりません」
希「そないなことゆうて…。極道に二言はないはずやん?」
海未「あなたたちは事の重大さがわかっていないようですね。高坂組のシマを荒らした挙句に、組長を狙撃したのですよ。簡単に許されるとでも思っていたのですか?」
希「そ、それは絢瀬にやれ言われたからや…」
ことり「ふ~ん。誰かに言われたからホイホイ従って穂乃果ちゃんにぶっ放したんだ?」
希「あわわっ。これはこれは高坂組のトップ2、南若頭やないですか…」
ことり「あんまり舐めたこと言ってると、この場でおやつにするよ?」ギロッ
希「ひぃいいっ!?すんませんでしたぁ!」ゲザァ
海未「ともかく…勝手に逃げられては困りますから身柄は押さえさせてもらいますよ」
ことり「幹部会の決定があるまでは殺さないからせいぜい悔い改めておくちゅん」
希「うぅ…お先まっくらやん?」
凛「…」
――
凛「(かよちん、やっぱりダメだったよ…)」
凛「(でも、こうなったのも凛のせいだよね)」
凛「(凛が余計なことさえしなければ、今でもかよちんと一緒に楽しくやっていけたのに…)」
凛「(凛が時間を稼いでいる間、少しでも安全な所に逃げてね)」
凛「(大丈夫。何をされてもかよちんのことは絶対しゃべらない)」
凛「(かよちんを守るのは凛の役目だから…最期くらい、役に立ってみせるよ)」
凛「(さよなら、かよちん…)」
――
雪穂「た、大変です!」ガチャ
海未「どうしました、雪穂?」
雪穂「それが…」
花陽「凛ちゃん!」ガチャ
凛「か、かよちん!?どうしてここに…!」
海未「小泉一家会長の小泉花陽ですか!?」
雪穂「海未さんに手打ちの直談判をしたいとのことです」
海未「手打ち…ですか?」
――
花陽「凛ちゃんから絢瀬絵里の潜伏先情報は聞いたと思いますが…当然、手打ちには不足でしょうね」
海未「何か他に案があるとでも?」
花陽「あいにく、シマは全部失っちゃったから…私が出せるのはもうこれだけ」
凛「かよちん…」
花陽「園田最高顧問。小泉一家会長、小泉花陽の首級を差し出します。これで今回の抗争を手打ちにしてください。お願いします」
海未「なんと…」
――
花陽「今回の抗争はすべて私の責任です。凛ちゃんは私の指示に従っていただけ。上からの命令は絶対。私たちの世界でのこの鉄則は当然、理解していただけますよね?」
海未「それは百も承知ですが…」
花陽「私の命と引き換えに…凛ちゃんのことは見逃してください」
凛「!」
海未「どうします、ことり」
ことり「確かに小泉一家のシマは取り尽くしちゃったからね。後はもう血で償ってもらうしかないかもね」
――
凛「ダメだよそんなの!絶対認めないよ!」
花陽「凛ちゃん…。これは手打ちのためには最低限必要なの。こちらから何も出さずに終われるわけないでしょう?」
凛「だからってそんな…」
花陽「お願いだから交渉の邪魔をしないで!凛ちゃんの命がかかってるの。それくらいわかるでしょう!?」
凛「わかってないのはかよちんの方だよ!せっかく凛が時間を稼ごうと思ったのに…どうして自分から出てきちゃうの!」
花陽「初めからこうするって決めてたの!凛ちゃんを見捨てるなんて…私にできるわけないじゃない!」
凛「かよちんのバカ!どうして…どうしていつも凛に優しいの?凛のせいでこうなったのに…」グスッ
花陽「このあいだ言ったばかりでしょ?私には…凛ちゃんの他に必要なものなんてない。私の命ですら、ね」ギュッ
凛「かよちん…」
――
穂乃果「いやぁ~、いい義侠心だねぇ。久々に熱いものがこみあげてきたよ」ガラッ
海未「穂乃果!?怪我はもう大丈夫なのですか?」
穂乃果「ついさっき退院許可が出たんだよ。サプライズでこっそり戻ってきたんだけど…偶然にも極道冥利に尽きる場面に出くわしたってわけ」
海未「見てわかるとおり、今は手打ちの交渉中です。穂乃果が復帰したのであれば、いずれ幹部会でこの問題に白黒をつけましょう」
穂乃果「幹部会なら開かなくてもいいよ」
海未「えっ、どういうことです?」
穂乃果「組長権原で特赦を出すよ!はい、この話はもうおしまい!」
海未「な、なんですって!?」
――
穂乃果「いやぁ、あれだけ熱い任侠魂を見せつけられたら一極道として感動を禁じ得ないね。ここで散らせるには惜しいやくざだよ」
海未「しかし、穂乃果を銃撃したのはこの2人なのですよ?」
穂乃果「あんな鉄砲玉で命ァ殺られる高坂穂乃果じゃないよ。命を賭してこの場に出て来たお二人の侠気を称えよう」
海未「…どうします、ことり?」
ことり「ことりは穂乃果ちゃんの決めたことに従うちゅん」
海未「弱りましたねぇ…」ハァ
穂乃果「ほらほら、雪穂も賛成だよね?」
雪穂「そんな、お姉ちゃん強引な…。まぁ、手打ちは早く済ませた方が、絢瀬を追いかけるのには都合がいいけど…」
海未「確かにそうですね…」
――
穂乃果「はい決まり!これで万事収まったね」
海未「やむを得ません。幹部会決定に代わる組長の決定があったことにしましょう」
穂乃果「さてと、後はもう自由の身だよ。これからは穂乃果にドンパチかましたりしたらダメだからね!」メッ
凛「た、助かったのかにゃあ…?」
花陽「そうみたいだね…」
凛「もう、かよちんは無茶しすぎだよ…」
花陽「凛ちゃんの方こそ…」
凛「でも…よかった。これからも二人で一緒だね」
花陽「うん。ありがとう、凛ちゃん」ギュッ
希「あの~、これってうちも特赦ってことでええんよね?ええんやな?」
――
【第八章 鬼神の弓矢】
深夜 高坂組事務所
ことり「海未ちゃん、出かけるの?」
海未「えぇ。穂乃果のこと、頼みましたよ」
ことり「絢瀬確保の陣頭指揮…海未ちゃんが直々にするんだね」
海未「はい。東條希が絢瀬絵里に切られた日から一番早く出航するロシア行き連絡船が明後日に出るとわかりました。おそらくこれで間違いないでしょう」
ことり「海未ちゃん、気を付けてね」
海未「ありがとうございます。穂乃果を傷付けた張本人、しっかりケジメはとらせてもらいます」
――
2日後 稚内某所
絵里「さすがに冷えるわね。本州に長く居すぎたせいでカラダが慣れないわ」
絵里「けど、これで厄介事ともおさらばね。本当、想定外のことが多くて参ったわ」
絵里「使った駒が良くなかったわね。まったくもって使えない連中だったわ」
絵里「日本進出は暫く置いておいて、いったんロシアで体勢を立て直しましょう」
絵里「連絡船が来るまでしばらくあるし…ロシアンティータイムね」
――
海未「おかしいですね。ロシア行きの船はこれだけのはずなのに、絢瀬絵里がまるで見つかりません」
海未「まさか情報がガセ…?しかし、絢瀬がロシアに逃亡するのは十分にあり得ます。何か見落としているのでしょうか…」
海未「おや、電話ですね。真姫からですか」ピピピ
海未「どうしました、真姫」
真姫『海未、そっちに絢瀬絵里はいた?』
海未「それが、まったく見当たらないのです」
真姫『海未、よく聞いて。実は樺太経由でロシアに行き来している不審船の情報が見つかったのよ。絢瀬は人目を避けてそっちに乗る可能性が高いわ』
海未「なんと。こうしてはいられません。場所と日時を教えてください」
真姫『時間はまだ間に合うわ。私も現地にいるから、今からそっちに車で向かうわよ』
――
10分後
真姫「お待たせ」
海未「早かったですね。そちらは…?」
真姫「信用できるドライバーよ。口の堅さは保証するわ」
にこ「まったく人使いが荒いにこ…」
真姫「仕方ないでしょう。私はあんまり運転がうまくないんだから」
海未「それで、場所はどこになります」
真姫「乗りなさい。この娘に走らせた方が早いわ」
にこ「稚内は全国制覇の途中で走ってるから、私の庭みたいなもんよ。飛ばしていくからしっかりシートベルト着けてなさいよ!」ニッコニッコニー
――
30分後 港
絵里「ようやく連絡船が来たわね」
絵里「ふふふ。まさか樺太経由の裏連絡船があるとは思ってもないでしょうね。やっぱり私は賢くてかわいいわ」
絵里「高坂穂乃果、まだまだ勝負は終わってないわよ。次に来たときは、まとめて関東を制圧してやるわ」
――
海未「あれは連絡船?どうやら予定より早い来港のようですね」
真姫「まずいわね。ここで逃げられたら打つ手がないわ」
海未「…限度いっぱいまで加速をお願いします」
にこ「わかったにこ!」グゥォーン
真姫「あっ、いま船に乗り込もうとしているの…絢瀬絵里じゃない!」
海未「ついに見つけましたよ…。ちょっと窓を開けます。風が入りますがご容赦を」ウィーン
――
にこ「踏み切れるまでアクセルを入れてやるにこー!」ガガガガガ
海未「これが年貢の納め時ですよ、絢瀬絵里…」チャキッ
真姫「…相変わらず本格的なものを持ってきたわね。銃刀法もへったくれもないわ」
海未「もう少し右に寄せてください」
にこ「了解ッ!」キキィ
海未「目標捕捉…」
海未「破ァアァア!」キュン
絵里「ハラショー!?」ガクッ
海未「…ラブアローシュートです」
――
絵里「ぐがぁああ!こ、この私がァ!賢いかわいいエリーチカがぁああ!」ビクッビクッ
海未「急所は外しておきました。穂乃果の受けた痛み、存分に味わってもらいますよ」
真姫「さすが高坂組一の使い手。音ノ木坂の魔弾の射手とはよくいったものだわ。それで、気は済んだかしら、海未」
海未「えぇ、最低限とるべきケジメはとりました。後は真姫の方にお任せします」
真姫「そうしてくれるとありがたいわ。組には火の粉が飛ばないように配慮するから」
海未「助かります」
にこ「またやばい人と関わっちゃったにこ…」
――
【最終章 明日へと続く道】
数日後 高坂組事務所
穂乃果「ほらほら、景気よくグっといっちゃって!」
花陽「は、はい。いただきますぅ」
海未「これはいったいどういうことですか、ことり」
ことり「穂乃果ちゃん、花陽ちゃんと盃を交わすんだって」
海未「何ですかそれは、聞いてませんよ!?」
穂乃果「あっ、海未ちゃんも飲んで!」
海未「飲みません!私に黙って直参の盃を交わすとは何事ですか!おまけに、先の抗争相手とは言語道断です!」
穂乃果「だってさぁ、今回押さえた小泉一家のシマはかなり広いし、私たちだけのノウハウじゃ維持しきれないよ。それなら、花陽ちゃんたちに現場をおさえてもらった方が早いと思って」
海未「確かに絢瀬は拡大したシマの維持を自分たちだけで行おうとして失敗しましたが…」
穂乃果「だったら文句ないよね。さぁさ、今日はめでたいからがんがん飲もう!」
海未「待ちなさい、まだ話は終わっていませんよ!雪穂からも何か言ってやってください!」
雪穂「ふぇー?なんりぇすかぁ?」ヒック
海未「な、なんと…」
穂乃果「雪穂はうるさいからお酒たらふく飲ませて黙らせちゃった♪」
海未「ぐぬぬ…こ、ことりは!?」
ことり「…海未ちゃぁん、お願ぁい」ウワメヅカイ
海未「あぁー、もう!勝手にしてください!」
穂乃果「やったー!海未ちゃんもとうとう折れたね。ささ、花陽ちゃんもっと飲んで!」
花陽「ひっく、うーい。穂乃果ちゃんに一生ついていくよォ!」
――
高坂組シマ内のラーメン屋
凛「注文入ったにゃ!濃厚豚骨醤油の大盛り3人前、普通盛り2人前。あと、鰹ダシ醤油普通で2人前にゃ!」
希「待ちーや、そないまとめて言われても対応できへん!」
凛「ラーメン職人ならなんとかするにゃあ!」
希「あほか、うちはあくまで副業でやってたんや。こないチェーン化するなんて聞いてへん!」
凛「せっかく仕事を任されたのにできないなんて侠気のかけらもないにゃ!今月の上納金分までまだまだあるよ!」
希「くうぅ、なんやうまいこと高坂の連中に利用されてる気ぃするわ…」
――
音ノ木坂署
真姫「えぇ、そうね。私の方でも調べておくわ。それじゃあね」ピッ
にこ「…また外回り?」
真姫「そうよ。とりあえず4丁目まで転がしてちょうだい。A-RISEとかいう半グレ集団が違法カジノを開いてるってタレ込みがあったわ。近辺で張り込むわよ」
にこ「もうパシリはこりごりにこ…」
真姫「何言ってんのよ。ちゃんと経費は払ってるでしょ。これを機にくだらない暴走族から足を洗いなさい」
にこ「極東矢澤連合はくだらなくないにこー!」
終劇
三年生組の扱いが雑で申し訳ありません。特に絵里は損な役回りだったので、次回はもっとまともな立ち位置になるよう鋭意努力します。
読み応えもあって、おもしろかった!
腹抱えて笑ったわ