ぽんこつ提督が鎮守府に着任するようです。Part5
人類で初めて艦娘に邂逅した現元帥さんと、その養子として育てられ、元帥の思惑にって元ブラックな鎮守府に配属されてしまう仕事だけは出来るボケっとした提督さん。彼らがシリアスな展開や忘れ去りたかった過去と直面して艦娘と打ち解けつつ最後には…最後にはほのぼのに…なる…のか?
初投稿シリーズな上、こんな続ける気なかったんで伏線ガバガバですけどお許しいただけると幸いです。
こちらは『ぽんこつ提督が鎮守府に着任するようです。Part4』の続きとなっております。もしそちら又はPart1を呼んでいなかった場合は本ページ下部にある作者の別の作品から順番に読んでいただけると幸いです。
ぶっちゃけ、やっつけで書いているPart5…皆様に楽しんでいただけるか不安ですが、張り切っていきましょう。
ー前回までのあらすじー
メイド服に癒されて、瑞鶴に猛烈なアピールを喰らい、ダークホースが現れて、プールに行った。以上。
真面目にやります☆
義父である元帥に元ブラック鎮守府に着任させられてしまった本作の主人公こと『提督』
彼はそこに属する艦娘たちと触れ合いながら意味深な関…ゲフンゲフン、様々な関係を築いていく。
そんな中、彼は様々な出来事を通して己の過去と向き合うことになっていく、昔愛した人との再会や両親の死の真相と。
また突如現れた兄はどのように物語に関わってくるのか!そしてなにより提督はどの艦娘を選ぶのか!
Part2で終わるはずだったせいで色々ガバガバの本作ですが、Part5も張り切っていきましょう!
ー提督視点ー
それは、約十五年前。細かいことは覚えていないが、俺の日常は突如崩壊した。
一瞬の出来事だった、兄さんと俺が一緒に散歩をしていた時に町は火に包まれた。
普段見ていた日常が火に包まれる光景。それは強烈に脳裏に焼き付いている。
でも、それはもう過ぎたことだ。物心ついて間もなかった俺は何もわからないまま兄に避難所に預けられ、元帥に拾われ今に至る。
ちなみに今はプールに来た皆から少し距離を取って兄と話している。
兄貴「まさかこんなところで再開するとはな。生きていてくれて本当に良かった。」
提督「兄さんこそね、こんなところで会うなんて。」
提督「ところで兄さん、なんであの時俺と一緒に避難所に来なかったんだ?」
兄貴「避難所もかつかつだったらしくてな。俺かお前だけしか面倒を見れないって言われたんだ。それで俺は別の避難所にな。」
兄と俺は十歳ほどの差がある。といってもこれくらいの年齢差の兄弟なら今日日珍しくないだろう。
そのため、昔から俺はかなり兄さんに面倒を見てもらっていた。兄さんは両親が死んだときでさえ、俺を優先させてくれたというわけだ。
提督「そうだったんだ。」
てっきり、俺は兄さんにまで捨てられたものだと思っていた。
兄貴「ところでお前、今は提督をしてるって本当か?」
提督「え、うん。ここの近くの鎮守府で提督をしてる。海軍関係の人に義父になってもらってさ、だから俺もなったって感じ。」
兄貴「今すぐに辞めるべきだ。」
提督「え?なんで…?」
兄貴「そんなの危険に決まってるからだろう。深海棲艦なんて得体のしれないもんと戦う上に艦娘だって安全かわからないんだろう?」
提督「確かに危険があるのはわかってるけど、艦娘は人間のために戦ってくれてるんだからその言い方は…」
兄貴「…すまない、失言だった。許してくれ。とはいえ、深海棲艦が危険なのはわかっているだろう?」
提督「そりゃ、わかってるけれど誰かがやらなきゃ…」
兄貴「その誰かがお前である必要は無いだろう。」
兄さんは一切引く気が無いといったように俺を問い詰めてくる。とはいえ、これが俺を思っての発言だと思うと一喝するのも少し気が引ける。
しかし、どこか久しぶりの兄弟の再会にしては少し違和感を覚えるのは何故だろうか。まるで兄さんが俺に提督を辞めろというためだけに再開したかのような…いや、気のせいか。
提督「でも、俺は一度引き受けた仕事を途中で放り出すのは嫌だよ。」
仕方ないので適当な理由をつけて説得してみるが、表情を見るに納得はしていないようだ。
兄貴「わかった、お前の義父に会わせてくれ。仮とはいえ息子を危険な仕事に就けるような親の顔が見てみたい。」
提督「…わかったよ、ただ俺の義父は元帥なんだよ兄さん。」
兄貴「な!?元帥?それって海軍で一番偉い人じゃ…」
提督「そうだよ、でもまぁ怖い人ではないから心配しないで。とりあえず連絡先だけ交換して決まったら詳細を送るよ。」
兄貴「あぁ、わかった。」
提督「ところで、兄さんは今どうしてるの?」
兄貴「ん?俺か?俺は普通に仕事して一人暮らししてるさ。今日は知り合いの女の子をプールに連れてきてたってわけさ。」
提督「そうなんだ、でも兄さんが無事でよかった。」
兄貴「提督こそな。」
そうして、俺は兄貴と別れるのであった。
帰り道は特に問題もなく鎮守府に戻れた。帰ってすぐ俺は親父に電話をかける。
元帥「はい、こちらお父さんです。」
提督「おう、親父さ今日偶然兄貴と会ってさ親父に会いたいって言ってるんだけど一般人と会ったりって出来るの?」
元帥「別に会うことは可能だが、本当にお前の兄なのか?」
提督「ん?さすがに実の兄を見間違えたりはしないって。」
元帥「そうか、なら予定は早い方がいいだろう。明日の午後四時に大本営で待ってるぜ。」
提督「そんな簡単に話を進めていいのか?」
元帥「お前の身内が会いたいってんなら、俺は会わなければならない責任があるからな。」
提督「そんなもんなのかね。」
元帥「そんなんもんだ、お前の兄に提督は渡さないッとか言ってみたいしな。」
提督「あんまり、話をこじらせないでくれよな。んじゃ、明日車よろしく。」
そこまで話して電話を切る。すると執務室の扉がノックされる。
提督「どうぞー」
扉を開けて入ってきたのは瑞鶴だった。お前出てきすぎ!いや、最近会って無かった気もするけど!
提督「急にどうしたんだ?なんか問題でもあったか?」
瑞鶴「私を置いてプールに行った提督さんに嫌がらせしに来ただけですよーだ。」
瑞鶴は頬を膨らませながらいかにも不貞腐れているといった体でソファに寝そべる。仮にも上司なんだけどなぁ俺。
でもまぁ、丁度暇を持て余しているので少し話すかね。
提督「なぁ、瑞鶴。俺がもし提督辞めて普通のサラリーマンになるって言ったらどうする?」
瑞鶴「え…」
驚いたような声を出した後、瑞鶴は少し考えるようにする。
瑞鶴「私は提督さんに着いてく。」
提督「いやいやいや、ナチュラルに着いてくんなよ。艦娘なんだからそれは無理だろう?」
なにこの子、脳内で半強制で逃避行でもするの前提になっちゃってるのかな?浪漫飛行かな?トランク一つじゃ生きてけない!
瑞鶴「そりゃそうだけど…提督さんが傍にいてくれないと私なにするかわからないよ?なんちゃって。」
そんなことを言いながら瑞鶴は俺の背中にくっついてくる。無い胸が当たるくらいくっついてきてる!ヘルプ!股間がアカン!なんか語呂いいな。
なんか、こいつ例の祭りから余裕が出来たというかなんというか、とっても質が悪い!
俺が苦笑いを浮かべている、その時にもう一人の来訪者はやってきた。
鈴谷「提督ー!鈴谷が甘えに来た…って、なにしてんの?」
うわぁ!一番会って欲しくない二人が俺の目のまえで邂逅したぞ!俺はどうする。逃げる←逃げる 逃げる
勿論逃げるを選択!逃げられない!あぁ、素早さが足りない!なにより鈴谷の目が怖いです!病んこれだこれ!
瑞鶴「なにって提督さんとスキンシップをしてるだけですよ?文句でもあるんですか?」
瑞鶴の挑発!鈴谷のヘイトがぐーんと溜まった!俺は逃げるを選択。逃げられない!
鈴谷「スキンシップ?鈴谷には一方的なセクハラに見えるけどなぁ?提督は鈴谷とスキンシップしたいでしょ?」
少し谷間を強調するようにして、鈴谷は俺に向かってそんなことを言う。やめて!巻き込まないで!
鈴谷の誘惑!俺の股間に一億のダメージ!火力馬鹿高くね!?もちろん俺は逃げるを選択。逃げられない!
瑞鶴「な!?なによ、提督さんは貧乳のツインテが好きなんだからそんなことしたって無駄ですよ。」
瑞鶴は特殊スキル性癖暴露を発動!絶対それ俺の部屋で見つけたエロ本情報だよね。返してもらって無いなそういえば。
鈴谷「提督…じゃあ、鈴谷のこと好きって言ってくれたのは嘘だったの?」
提督「ちげぇよ、性癖は確かに瑞鶴の言ったとおりだけどお前のことが好きだったさ。」
瑞鶴「へ…?」
あ、そっか瑞鶴って俺と鈴谷の関係を知らないじゃん。え、んじゃなんで今戦ってたの!?女の勘ってやつ!?
とりあえず、瑞鶴に状況説明。俺が鈴谷を好きなのが過去の話と聞いて落ち着いたようだ。
これで一件落…
鈴谷「というわけで、提督は今から鈴谷と二人でイチャイチャしよ!」
瑞鶴「なによ、昔の女ってだけで正妻面しちゃって今は私が提督さんと話してたんだから!」
一件落着するわけもなく、俺の上をティッシュの箱や万年筆が飛んでおります。目に刺さったら危ないからやめろ!
まぁ、実際今どっちが好きかと問われればこんな戦闘民族どっちも嫌いだって言ってやりたいんですけどね。ははは。
鈴谷「話してたって胸押し付けて誘惑してたじゃない!」
瑞鶴「な!?そんなこと言ったらあなただってさっき谷間を見せて誘惑してたじゃん!」
提督「落ち着けってお前ら、頼むから執務室で暴れないでくれ。」
とりあえず止めないと不味いのはわかる。超危険。いつか艤装展開しそうだもん。まじやばでじゃけぱない。
瑞鶴「じゃあ、提督さんが選んでよ!どっちとイチャイチャするか!」
鈴谷「鈴谷もそれに賛成!提督が決めれば文句は無いでしょう?」
なんでどっちも自分が選ばれるの前提なんですかねぇ…もうやだ、鹿島助けて。
鹿島「失礼します…って、なんですかこの惨状は…?」
提督「鹿島、俺とイチャイチャしようぜ。」
俺は全く意味の分からん台詞を決め顔で言ったのだった。
鹿島「状況は理解しました。大変だったんですね…」
最初こそ俺にイチャイチャしようと言われ挙動不審になっていた鹿島だったが、二人を退室させてから状況を説明したら部屋の片付けを手伝ってくれた。
不機嫌そうな二人を退室させた後、初めてなので優しくお願いします…なんて鹿島が言ったときは普通に夜戦するか悩んだ。最低だな俺。
いや、違う。全人類が思うはずだから俺は決して最低では無い。QED証明完了。
提督「まぁな、さっきは本当にごめんな。紛らわしい言い方して。」
鹿島「い、いえ、私こそ、その…はしたない女と思わないでいただけると…」
アカン、美人で巨乳なお姉さんが照れてる姿って男にはダメージがデカすぎる。
提督「そんなこと思わないですよ。悪いのは俺ですしね。」
最早ボーナスです、こんないいことがあったらもう明日から悪いことしか起きないんじゃないかって思うくらい!
提督「あ、そうだ鹿島は俺がもし提督辞めるって言ったらどうする?」
鹿島「お辞めになられるんですか…?」
提督「いや、実は兄に提督は危険だからやめろ見たいに言われててさ。もしかしたら~みたいな?」
鹿島「うーん、そうですねぇ。わがままを言っていいのなら、私はあなたに提督でいて欲しいですよ。トラブルこそ良く起きますが、提督が着任してからは皆とても楽しそうに笑えていますから。」
提督「そっか、ありがとな。」
鹿島「いえ、本心を言っただけですから礼を言われるようなことは何もしていませんよ。」
そうして、失礼します。なんて言って執務室を後にした。
再度一人になった執務室で俺は適当に音楽を流して暇を持て余すのであった。ちなみに聞いてたのはSKY‐HIです。かっこいいんでみんな聞こうね。
翌日早朝、俺は鎮守府近くを一人で歩いていた。
たった三か月しかここでは過ごしていない。でも、どこか俺にはここが自分のいるべき場所だと思っていた。
今日まで色々な経験をしてきた、死にかけて死にかけて死にかけて…
ん?死にかけてるだけじゃね?まぁ、いっか。
とはいえ、少しは俺がここに着任した意味はあっただろう。鹿島さんの台詞が頭を過ぎる。
ただ、いつも思うことがある。
俺より誰かならうまくやったんじゃないか。あの子を救えたんじゃないか…と。
たった刹那の仲。されど俺はあの子を知ってしまった。笑顔を寝顔を苦しむ表情を。
一つのミスが、まるでウイルスのように俺を蝕む。
鳳翔「こんな時間にどうされたんですか?」
そんなことを考えつつ海を見ていると、不意に後ろから声をかけられる。
提督「少し日の出でも見ようと思いまして、鳳翔さんこそどうされたんですか?」
鳳翔「私は倉庫に食材の確認に行くところですよ。でも、時間に余裕もありますしご一緒に日の出を見てもよろしいですか?」
提督「ええ、鳳翔さんのような美人とご一緒できるなら大歓迎ですよ。」
鳳翔「ふふふ、提督ったらお世辞がお上手ですね。」
難しいことを考えていたせいか、思いのほかそんな臭い台詞が自然と出る。いや、心にふざけている余裕が無いというのが正しいか。
鳳翔さんはそっと、俺の横に腰かける。
鳳翔「なにか悩み事ですか?」
少しの沈黙の後、鳳翔さんが何の前触れもなく俺に聞いてくる。
提督「悩みなんて大それたもんじゃないですよ。ただ、俺はしっかり提督としてやれてるのかなと思って。」
俺は細かいことを言うのは暗くなると思い、少し濁して言う。
鳳翔「私は提督はきちんと仕事をこなせてると思いますよ。」
提督「ありがとうございます。でも、どうしても考えちゃうんですよね、俺じゃない誰かならもっと上手くやったんじゃないかって。」
俺の台詞を聞いた鳳翔さんが少し考えるようにする。前方では日が昇り始めている。境界線に上る日はとても綺麗だ。
鳳翔「そのとおりだと思います。きっと提督よりうまく物事をこなす人なんて世の中に山ほどいるんでしょうね。」
わかりきっていたことだ。でも、そう改めて言われると少し胸が苦しい。
鳳翔「でも、実際に私たちを救ってくれたのはあなたなんですよ?暗い先の見えない絶望の中にいた私たちに笑顔をくれたのはあなたなんです。」
鳳翔「だから、これだけは忘れないでください。私たちにとっての『ひーろー』はあなたしかいないんですよ。」
鳳翔さんはそう言って俺を笑顔で見る。俺は艦娘をヒーローだと思っている。その彼女たちのヒーローが俺。ははは、もう意味わかんねぇな。
ただ、たったこれだけの会話で俺の中の靄が晴れた気がした。そう、俺よりうまくできるやつがいたとしてもやったのは俺だ。
他の誰でもない、失敗が俺の責任であるのと同時に成功も俺の責任であるのだ。
提督「ありがとうございます、鳳翔さん。お陰ですっきりしました。」
鳳翔「いえいえ、お役に立てたなら光栄です。」
俺は朝日を背に受けながら、お陰ですっきりするってなんかエロいなとか考えてるのだった。
そして、同日午後車内にて俺は決意を固め親父のもとに向かう。
だいたい、朝の俺はアホだ。提督辞めたら皆の胸部装甲が拝めないじゃないか。生き甲斐の八割が消えるわ。
兄さんは別の車で向かっているらしい。心配してくれる兄さんには申し訳ないが俺だってもう子供じゃないのだ。
提督「ありがとうございます。」
俺は運転手さんにお礼を言って建物に入る。そして、指定された部屋に向かった。
この時の俺は、今までで一番のトラブルに巻き込まれることになるなんて少しも思っていなかった。
ー?視点ー
冷たい音が響く、薬莢の落ちる音が次いで響く。
ようやくだ、ここまで長かったものだ。いや、まだここからと言うべきだろうか。
安心しろ、お前は絶対に俺が守ってやる。あの狂った男からも守れたんだきっと大丈夫。
人間だろうが艦娘だろうが深海棲艦だろうがあいつを傷つけさせてなるものか。
あの事件の真相を知ってからはや十年。様々なことがあった。
少し話をしようか、君たちはどちらのほうがより悪だと思う?
ん?悪にランク付けも何もない。等しく悪は悪だって?おいおい、つまらない話は辞めろよ。
君たちは人殺しと未成年の夜間徘徊に同じ刑罰を与えるのか?
話を戻そうか、今回出てくる悪の種類はこの二つだ。
無意識に人を殺したいと突き動かされるモノの殺人と。
自分の欲望や願望を満たすために利用するための殺人。
わかりやすくしようか、殺すことが仕事な人の殺人と、人を殺すと仕事が楽になる人の殺人。
俺は後者の方がより悪だと判断する。だって、殺す必要は無いのだから。
そう、だから俺は…人間を辞めたのだ。
いるかもわからないこの世界の傍観者に話しかけていると、部屋の扉が開いたのだった。
ー提督視点ー
俺はどこかから聞こえた銃声に少し嫌な予感が走り、目的地まで走る。
すると、扉を開けている大和さんが見えた。しかし次の瞬間大和さんの体が後ろに吹き飛ぶ。撃たれたのか?一体誰に?
提督「大丈夫ですか!大和さん。」
俺は大和さんに声をかけながら扉と大和さんの間に飛び込む。
大和「私は大丈夫です…提督君は…すぐに…逃げなさい…」
提督「そんな状態で大丈夫なわけないでしょうに、って…兄さん…………なにやってんだよ。」
俺は思わず目の前で銃を握っていた男性に目を見開く。少し長い髪に俺と同じか少し大きい背丈に特徴的な頬の傷。
そこに立っていたのは兄さんだったのだ、よく見ると奥に親父が倒れている。
兄貴「どいてくれ提督、その女は今のうちに殺しておきたい。」
提督「なに言ってんだよ兄さん、銃を下ろしてくれ。じゃないと俺はここからどくわけにはいかない。」
後ろで大和さんが逃げてなんて言っているが、聞いていられない。俺は銃を取り出し兄さんに向ける。
兄貴「俺に銃を向けるのか、いやお前は俺の計画を知らないんだもんな、仕方が無いか。」
提督「なに言ってんだよ兄さん、いいから銃を下ろしてくれ。じゃないと俺も撃たなくちゃいけなくなる。」
兄貴「撃ちたいなら撃てばいいさ、今回は第一目標を達成したし俺は帰るとするよ。またな提督。」
俺は歩いて行く兄さんに照準を合わせたまま警戒を続ける。しかし、撃つことは…出来なかった。
兄貴「お前はやっぱり提督なんて向いてない、提督をするには優しすぎるよ。」
去り際に兄さんの放った言葉が俺の胸に深く突き刺さるのだった。
そして、現在憲兵に事情を説明し大和さんと親父を病院に運んでもらい俺は聴取するとかで大本営で待機している。
二人は命に別状は無いらしい、とはいえ重体なのは確かだ。
特に親父は二発撃たれていて、数分病院に運ばれるのが遅かったら危なかったらしい。
状況に理解が追い付かない、親父と大和さんを兄さんが撃った?なんのために?
俺を海軍から遠ざけるため?そんな理由で人を撃てるのか?
いや、待てよ。今のうちに殺しておきたいと兄さんは言った。ならまだなにかをするつもりなのか?
隊長「おい、おい、提督。聞こえるか?」
提督「あ、隊長さん。すいません少し考え事をしてました。」
隊長「そうか、悪いがなにが起きたのか教えてもらっていいか?」
俺は隊長さんのそのセリフに対して細かく先程の状況を説明する。兄さんがそんなことをするとは思えない。
提督「二人は…結婚直後だっていうのにこんな…」
隊長に事情を話し終えた後、俺は思わず口からそんなことを漏らす。
隊長「気にすんな、あいつらもあの立場に座る以上覚悟していただろうさ。それでお前が自分を責める必要は無い。」
提督「ですが…やったのは俺の兄さんですし。」
隊長「考えすぎんなっての、とりあえずだがお前にはここ。つまり元帥の鎮守府の指揮も当分持ってもらうことになった。」
提督「え…俺より適任がいるのでは?」
隊長「いーや、大和のやつの意志だ。俺も賛同だよ、お前なら安心して任せられるしな。」
提督「……わかりました。」
隊長「助かるよ、お前さんとこの艦娘は全員ここの鎮守府に移動してもらう。ここ周辺は他の提督にカバーしてもらうとしよう。」
提督「しかし、深海棲艦の進行は今落ち着いているのでは?」
隊長「まぁな、でも嫌な予感がするんだよ。」
隊長さんはそこまで話して忙しそうにどこかに行ってしまった。
二つの鎮守府分の艦娘をまとめるとはいえ、どちらも顔見知りである以上そこまで難しくないだろう。
しかし、俺も隊長さんと同じで嫌な予感がする。あれが兄さんのなりすましだろうとなかろうとここでは終わら無いという確信がある。
大淀『全職員に連絡、鎮守府正面海域にて敵深海棲艦の接近を確認。艦娘は作戦指示どおり迎撃作戦を行ってください。』
その予感は即座に現実となった。放送を聞いてとりあえず俺は執務室に走る。
提督「大淀さん、敵はどれくらいですか?」
執務室に入るなり、大淀さんに声をかける。
大淀「良かった、提督。艦娘への作戦指揮を任せてもよろしいでしょうか?」
提督「最初からそのつもりですよ。あるだけの情報を寄越してください。」
大淀「わかりました、データを元帥のPCに転送します。」
俺は即座に執務机に陣取り、パスワードに『吹雪』と入れてPCを立ち上げる。
情報によると敵深海棲艦は十ニ隻。ここ最近では全然見かけない複数の艦隊だ。タイミングが最高じゃねぇか畜生。
とりあえず情報を大雑把に見てマイクを握る。脳内では兄さんが深海棲艦と…なんてことを思ってしまうがそんな暇はないぜ俺。
提督『元帥が意識不明のため臨時で指揮を任された提督だ。現在敵深海棲艦がここ向かって進行している。』
提督『敵戦力は空母三隻、戦艦三隻、駆逐艦五隻、姫級が一隻とのことだ。』
提督『こちらも総力を持ってこれを迎撃する。作戦指揮は俺が随時行うこととする、些細な戦場の変化も逐一俺に報告するように。』
提督『艦隊は…』
そうして、若手が元帥代理を務める異例の防衛作戦が始まったのだった。
伊勢『こちら第一艦隊、艦載機により敵艦隊を捕捉。情報通りみたいだね、でも姫級が小さい?』
提督「小さい?どういうことです?」
伊勢『んー、なんていうか小さい。普段目にする姫級より弱そうというか。って、吹雪ちゃん…?』
提督「は?吹雪さん?伊勢さんどうしたんですか、応答してください伊勢さん!」
吹雪さん?なんでこんな時に吹雪さんの名前が?
提督「第二艦隊、青葉!聞こえるか?」
青葉『そんな大声出さなくても聞こえてますよ。』
提督「良かった、そこから深海棲艦は見えるか?」
青葉『いいえ、まだ見えないですね。どうしたんですか?そんなに慌てて。』
提督「伊勢さんとの通信が途絶えたんだ。様子を見に行ってもらってもいいか?」
青葉『青葉了解です。皆さ~ん少し作戦変更ですよ~』
とりあえず、第三艦隊までを出撃させ様子を見ているのが現状だ。親父は演習などをきちんとする人なので皆かなりの力を秘めている。
とはいえ、指揮官が俺ではそれを生かしてあげることができないかもしれない。なにもかもを警戒しといたほうがいい。
なにはともあれ伊勢さんたちだ。通信ができないうえに吹雪さんというのが気になる。
提督「畜生、全員無事で帰って来いよ…」
俺は思わず、小声でそんなことを漏らすのだった。
ー伊勢視点ー
駆逐棲姫「オ久シブリデス。伊勢サン。」
目の前の駆逐棲姫が私に声をかけてくる。その姿は駆逐艦吹雪の生き写しのようだった。
私の知る吹雪は一人しかいない。元帥の初恋の人で想いが通じる寸前で沈んだ艦娘。
そう、私の知っている吹雪は沈んでいるのだ。ならこの深海棲艦は一体。
駆逐棲姫「無言なんてひどいじゃないですか、普通にしゃべるのは中々難しいですね。」
伊勢「貴方は、私の知る吹雪ちゃんなの?」
あまりにも普通に話しかけてくるので私も少し話してみることにした。
駆逐棲姫「はい!吹雪です!忘れちゃったんですか?伊勢さん。」
声や仕草は吹雪そのものだが、あまりにも禍々しい。だって、見た目は吹雪ちゃんでも肌の色や艤装が深海棲艦そのものなのだから。
その時だった。
綾波「吹雪ちゃん…」
亡き吹雪の姉妹艦である綾波ちゃんが、吹雪ちゃんのような深海棲艦に近づく。
私は止めるべきかわからなくなってしまった。綾波ちゃんが涙を堪えながら吹雪ちゃんに似た深海棲艦に近づく。
この時、私は止めるべきだった。感動の再開のようなシーンに水を差していいものかなんて考えるべきじゃなかった。
それからの展開は感動の再開とは程遠いものだったのだから。
駆逐棲姫「久しぶりだね、綾波ちゃん。それじゃ沈んでね。」
吹雪の台詞の直後、正面に大きな水しぶきが上がる。あの小さな体からとは思えないほどの火力。
伊勢「綾波ちゃんッ!」
私はその水しぶきが、吹雪に似た深海棲艦による攻撃と理解し、直撃した綾波ちゃんに駆け寄る。
伊勢「大丈夫?綾波ちゃん。」
綾波「私は…大丈夫…」
綾波ちゃんはそこまで言って意識を失ってしまった。どうやら大破しているようだ。大丈夫なわけ無いじゃないか。
伊勢「吹雪ちゃんッなんてことしてるのさッ」
私は目の前にいる吹雪ちゃ…深海棲艦に向けて声を荒げる。
駆逐棲姫「なに言ってるんですか?伊勢さん。目の前に敵がいたら撃つのは当たり前でしょ?」
私はそのセリフに思わず唇をかみしめる。状況を完全に理解したとは言えない、でも一つだけわかった。
伊勢「そう、あなたにとっては私たちは敵ということなんだね。折角元帥に良い報告ができると思ったんだけど仕方ないか。」
伊勢「第一艦隊、砲雷撃戦用意ッ」
そして、目の前の深海棲艦との戦闘を開始した。
日向「伊勢、このままでは不味いぞ。」
伊勢「わかってるってッ」
私は深海棲艦の攻撃を回避しながら日向と会話する。
日向「実際あの深海棲艦が吹雪となにか関係があるかはわからないが、駆逐艦の動きが悪すぎる。」
伊勢「そりゃまぁ、昔の仲間と同じ見た目の敵なんて戦いにくいに決まってるよね。」
青葉「どもども~、第二艦隊支援に参りました。って…これは趣味の悪い敵ですね。」
先程、提督からの通信を切ったため様子を見に来たのであろう第二艦隊が合流する。
駆逐棲姫「あれ?もう増援ですか?元帥がいないはずだからもっと指揮系統が乱れてると思ったんだけどなぁ。今回は引くとしますかね。そうだ、伊勢さん元帥によろしくね。」
こちらが合流すると同時に、吹雪に似た深海棲艦は少数のイ級を殿にして引いて行った。
衣笠「伊勢さん、今のって…」
伊勢「違うよガッサちゃん。あれは深海棲艦。深海棲艦なの…」
衣笠「………」
私は自分に言い聞かせるように言う。先ほどは旗艦としてすぐに敵だと割り切ったが、こうして考える余裕ができると正直わからなくなってしまう。
青葉「まぁ、とりあえず伊勢さん提督が激おこなんで早く通信繋いだほうがいいですよ。」
伊勢「あ、そういえば繋ぎなおしてなかったか。おいしょっと、聞こえるー?提督。」
提督『聞こえる?じゃないですよ馬鹿ッどんだけ心配させんですかこのアホッ』
伊勢「あはは、ごめんごめん。そこまで心配してくれるとはね。私に惚れでもしたのかな?」
提督『茶化さないでください。伊勢さんは俺にとって姉のようなものなんですからそりゃ心配しますよ。』
伊勢「へ?提督ってそんなに私のこと好きだったんだ。へ~」
少しうれしいような恥ずかしいような、これからはイジメるの控えてあげることにしよっかな。
提督『好きなんて言ってないでしょうが!久々で話したくもありますけど今はそっちの被害状況の報告をお願いします。』
伊勢「了解、第一艦隊は綾波ちゃんが大破。他は全員小破以下で戦闘続行可能よ。」
提督『わかりました、綾波の駆逐艦を向かわせます。空いた穴は改修に向かう際に愛宕さんに向かってもらいます。』
伊勢「了解。」
そこまで話して通信を切る。姉か…いい響きだねこれは。
日向「吹雪のことは報告しなくていいのか?」
伊勢「今それを言ったところでどうしようもないし、提督も急な指揮で混乱してるだろうし後で報告することにしただけだよ。」
日向「そうか、わかった。」
報告したところでどうにかできるのだろうか。そんなことを考えながら予め指定されていたポイントに向かうのだった。
ー提督視点ー
どうにもおかしい、深海棲艦の動き方が統率されている。またあの男が?
いや、あの男は俺の目のまえで死んだはずだ。なら、誰かほかの人間が?誰が?いったい何のために?
一人思いつく人物がいるが、強引に脳内からデリートする。その予想を信じたくなかった。
今はそんなことはどうでもいいのだ。指揮に集中しなければ、とはいえ統率されているのになぜか深海棲艦は本気でここを襲うつもりがあるように思えない。
なんというか、とても引き気味で逆にこの鎮守府に被害を出すのを恐れてるかのような…
愛宕『愛宕・高雄、ともに第一艦隊に合流完了しました~』
提督「了解、先ほど伝えたとおり深海棲艦の迎撃に努めてくれ。」
深海棲艦の目的はなんだ?ここを襲撃するつもりが無いというのなら一体…
そんなことを考えている時だった。
大淀「大変です提督!提督の鎮守府が襲撃されているとの報告が!」
その報告を聞いて俺はすべてを理解した。ここにいる深海棲艦の目的は『俺の足止め』だと。
逆に考えれば、それは俺がここにいることを知っていないとできない芸当だ。俺がここにいることを知っていて深海棲艦に内通していそうな人物…俺は考えるのを辞める。
提督「状況はどうなってるんですか…?」
大淀「長門さんが臨時で指揮をしているようですが、厳しい状況だそうです。」
提督「俺が行くってわけには…行かないですよね…」
大淀「元帥と大和さんがいない今、ここの防衛をこなせるのは…提督しか…」
俺は思い切り机をブッ叩く。どうする?どうする?どうする?
ここで俺が長門たちのもとに走ったところでなにも出来ないのはわかっている。でも、足は今にも走ろうと疼く。
それに、優先度だってこっちのが上だ。素人の鎮守府と元帥の鎮守府では襲撃されたときの世間への海軍のイメージ変化が違いすぎる。
全ての状況が俺にここに残れと言っている。なのに体は今にも動き出しそうだ。
不意に俺の鎮守府のメンバーが頭によぎる。助けに行きたい、立場なんて捨てて、責任なんてすべて捨ててしまいたい。
伊勢『敵深海棲艦が進行の停止を解除、再度責めて来てる。提督、指示を!』
そんな時に通信が入る。理解はしている、俺がここに必要なことなんてとっくに理解している…でも…
提督「畜生がッ」
俺は吐き捨てるように叫び、指示を再開した。
ー瑞鶴視点ー
よりによって、なんで提督さんのいないときにこんな大部隊が…
艦載機を放ちながらそんなことを考える。でも、これは好都合だったのかもしれない。
目のまえの敵の大軍を見て再度考え直す。この数を相手に鎮守府を守れそうにない。なら、もし提督さんがここにいたら殺されていたかもしれない。
そうだ、ポジティブに考えれば好都合じゃないか。
翔鶴「これは…流石にきつそうね、瑞鶴。」
横で艦載機を準備する翔鶴姉がそんなことを言ってくる。
瑞鶴「そうだね、翔鶴姉。でも、唾つけるくらいはやってやらなくちゃね。」
周囲では鎮守府の艦娘が総員で深海棲艦を迎撃している。
別に姫級や、強敵がいるというわけでは無い。ただ単に多いのだ。深海棲艦の数が。
扶桑「きゃあっ」
その時、扶桑さんが被弾する。それを見た山城さんがまるで修羅の如く敵に突っ込む。
山城「姉さまに手を出したやつはどこだッ邪魔するなッきゃあっ」
翔鶴「山城さん孤立しては…きゃっ」
瑞鶴「翔鶴姉ッ!くっそ、くたばれぇッ」
次々とみんなが被弾していく中、私は一人叫びながら弓を弾くのだった。
ー提督視点ー
提督「第一艦隊が…全員捕縛された…?」
長門「すまない…私の指揮が無能だったせいだ。」
目のまえで血が滲みそうなくらい唇をかみしめた長門の報告に思わず言葉を失う。
ここは俺の鎮守府、なんとか元帥の鎮守府を死守に成功し急いで帰ってきてすぐの報告がこれだ。
提督「いや、誰も轟沈していないのは間違いなく長門のお陰だ。そう落ち込むなって、捕縛ってことはまだ生きてるんだろう?」
俺はそんなことを言ってみるが、全く感情が入っていないのが自分でもわかる。
長門「しかし、捕縛とは沈むのよりも…いや、なんでもない。」
そんなことは言わないでもわかっている、といった風に目で伝える。
提督「とりあえず、皆を取り戻さないとな。まずは場所探しからか。」
俺は落ち着いてるのだろうか…不思議と涙は流れない。いや、違うこれは…怒りか。狡猾な罠にはめた相手への。
捕まったのは本防衛作戦の第一艦隊、瑞鶴・翔鶴・扶桑・山城・曙・潮の六人だ。
加賀「提督…大丈夫かしら?」
近くにいた加賀が俺を心配してか、そんなことを言ってくる。
提督「大丈夫さ、心配すんな。なにか六人の居場所について少しでも情報を持っているやつはいるか?」
朝潮「それなら、深海…」
朝潮が俺の台詞に反応し、なにかを言おうとしたのを霞が止める。
提督「朝潮、なにか知ってるなら教えてくれるか?」
俺は少し朝潮に詰め寄る、しかしそれを阻むように間に霞が入ってくる。
提督「どうした霞、朝潮に最後まで喋らせてやってくれないか?」
霞「駄目よ。」
提督「なんでだよ。」
自分でも怒りを抑えることが限界に近いことがわかる。表情が歪むのがわかる。
霞「今のあなたは話を聞いたら一人で行動するでしょう?それは危険すぎるわ。」
提督「大丈夫さ、今までだってだいたい俺がどうにかしてきただろ?」
そうだ、だいたいどうにかなる。俺には死神でもついてるんだろう。今回だって結局うまく行くんだろう。死んだとしても俺はそれ以上苦しまないし別に構わない。
霞「あんたは冷静じゃない、一回頭を冷やしなさんな。」
提督「俺なら大丈夫だ、心配すんな。朝潮続きを聞かせてくれ。」
確かに霞の言うとおりだ、俺は冷静じゃない。でも今はそんなことどうでもいい。
霞「そうは見えないわよ、お願いだから一回落ち…」
提督「うるせぇ、速く聞かせろってんだよッ」
俺は叫んでから気づく、俺はなにをした?俺は今なんて叫…
瞬間、頬に痛みが走る。ピシッという音が沈黙に響く。俺の目のまえには赤城がいた。
赤城「しっかりしてくださいッ」
そう、赤城が俺をはたいたのだ。そして俺に向かって強く言う。そして俺は奥で怯える二人を見て気づく。
あぁ、そうか。俺はあんな小さな子たちに怒りをぶつけたのか。さっきまでは全く気づかなかったが周囲の皆もとても不安そうな顔をしている。
なにやってんだ俺は。情けないったらありゃしない。しっかりしろクソ提督。お前がしゃんとしないでどうするってんだ。
そこまで考えて、俺は思い切り自分の顔をぶん殴る。
提督「いってぇ!」
痛い!まじか!?自分で殴っても結構痛いんですね!?勉強になりました!もう二度としねぇわ!
赤城「提督!?」
俺の行為を見て皆が更に不安そうな顔をする。落ち着け俺は性常だ。正常な?
提督「ありがとう赤城、俺がおかしかった。実は全然大丈夫じゃない!というか助けに行きたくて今から一人で泳いで探しに行きたいくらいにはおかしくなってる!」
提督「朝潮に霞、怖い思いさせて悪かったな今度誘拐された六人と一緒に遊園地連れてってやるから許してくれ!」
俺はいつもみたいに喋る。今話したとおり余裕もないし、正直メンタルきつすぎる。でもまぁ、あれだ…今回はまだ終わってない。
提督「だから、皆俺に力を貸してくれ。そして俺が無理をしないように見張っといてくれ。頼めるか?」
俺は決め顔でそう言った。それに対し皆が首を縦に振ってくれる。さてとっとと助けて遊園地のプランを考えないとな。
まぁ、なにはともあれまずは鹿島を見てエネルギーチャージからですかね!
顔を洗い、執務室にて。
あまり大勢いても混乱するだけだと判断し、ここにいる艦娘以外の皆には自室で待機してもらっている。
提督「二人ともさっきは本当にごめんな。」
朝潮「いえ!そんな!もとはと言えば私が口を滑らせたのが原因ですからお気になさらないでください!」
霞「別にあの程度気にしないわよ。」
さっき怯えてた癖にあからさまに強がりを言ってる子がいるけど今はスルー。
提督「それじゃ、さっき言いかけてたことを教えてもらってもいいか?」
朝潮「はい、実は深海棲艦が去り際にあの鎮守府の名前を言っていたんです。」
提督「あの鎮守府?」
霞「あんたが誘拐されてたあの鎮守府よ。」
例の事件、あの名前も知らない男の鎮守府。あそこはなにか俺に因縁でもあるんですかね?運命の赤い糸的な?繋がってるのなら鹿島がいいです。
提督「他にはなにか言ってなかったか?」
朝潮「提督をお待ちしています…と言っていました。」
霞「私たちだけじゃなくて、何人かが聞いてたんだけれど、今のあんたがこれを聞いたら飛び出しかねないって思って言わないことにしようって決めてたのよ。」
俺の信用無いなぁ~。まぁ、実際さっきまでなら飛び出してたんだろうから反論の余地ありませんけどね☆
提督「なるほどな、罠ってわかってても行くしかないんだろうな。ありがとう、今日は自室で休んでてくれ。」
朝潮「わかりました。その…司令官無理はなさらないで下さいね?」
提督「わかってるよ。ありがとうな朝潮。」
二人は執務室から出ていく。去り際に霞が扉から顔を出す。
霞「あんたを心配してる人も少ないってことだけ忘れんじゃないわよ。」
そんなことを言って、二人は退室していった。痛いところを突かれたもんですよ。
提督「そういうことだ。明日にでも早速乗りこむつもりなわけだが。護衛は任せてもいいか?」
赤城「勿論です。」
加賀「鎧袖一触よ。問題ないわ。」
長門「ビッグセブンとして汚名は返上せねばなるまい。」
陸奥「やられっぱなしってのは少し気分が悪いわよね。」
龍田「うふふ、楽しませてもらえるかしらぁ。」
朧「姉妹をさらわれて黙ってるほど可愛くないよ。」
俺は頼もしすぎる仲間たちからの返事を聞いて、作戦を考えるのだった。
ー瑞鶴視点ー
全くおかしな話だ。前に彼がさらわれた場所に今度は私たちがさらわれるだなんて。
私は一人独房のような場所でそんなことを考える。翔鶴姉やほかの皆は無事だろうか、なにより彼は無事だろうか。
その時、誰かが独房にやってきた。深海棲艦のようだ。
駆逐棲姫「こんにちは。瑞鶴さんでしたっけ?」
私はその言葉を聞かなかったふりをする。ここで下手に話したら情報を漏らしかねないからだ。
駆逐棲姫「無視するなんて感じ悪いですね。いいこと教えてあげようと思ったんですけど。」
私は無視を続ける。本当は捕まった他の皆の安否を確認したいのだがこいつが真実を話すとは思えない。
駆逐棲姫「まだ無視するんですか。まぁいいです。これは独り言なんですけどね。」
駆逐棲姫「あなたの大好きな提督は死にましたよ。」
瑞鶴「嘘…」
私は口から言葉が漏れたことに気づく。落ち着け瑞鶴、これは罠だ。私に喋らせるための罠に違いない。
頭ではそう考えても、心が落ち着かない。
駆逐棲姫「彼は最後まで艦娘を守ろうとしていましたよ。人間のほうが貧弱だというのに。」
その言葉はとても嘘には思えなかった。彼ならきっとそうするから、彼はきっと最後まで誰かを守るだろうから。
瑞鶴「…あなたたちが殺したの?」
駆逐棲姫「全部嘘ですよ。彼は生きてますからね。」
私の恐る恐ると言った質問を馬鹿にするように嘲笑しながら深海棲艦は言う。怒りで頭が埋め尽くされる。
私にとって一番大切なもので心を弄ばれたことに怒りが増幅する。
駆逐棲姫「いい表情です。とてもいい表情ですよ瑞鶴さん。」
そんな私の怒りを知らないといったように深海棲艦は言う。そしてゆっくりと口を開く。
駆逐棲姫「あなたが目のまえで死んだら提督はどんな顔を見せてくれるんでしょうかね?」
深海棲艦は酷く不気味な顔でそう言った。
ー提督視点ー
昨日、霞や赤城に説教を喰らったおかげか。思いのほか安眠出来た。
夢の中で杏仁豆腐に追いかけられていた気がしたがまぁどうでもいいか。
いや、杏仁豆腐に追いかけられるってなんだ…
とりあえず起き上がって服を着替える。思えば色々あったもんだ、だいたい俺死にかけてるだけだけど。
でも、一つだけわかることがある。俺はあのたくさんの胸部装甲ゲフンゲフン…艦娘に囲まれた生活が好きだ。
だから、守りたいって思える。対象は多いがこれも愛のようなものなのだろうか。
個人を愛せないのに集団なら愛せるとかもうこれハーレム作るしかないっすね!若干出来てるとか言わなくていいですよ。
着替えや支度を済まし、自室を出る。そして執務室に入る。
提督「それじゃ、世話のかかる部下たちを助けに行きますかね。」
俺はカッコつけるように一人呟くのだった。
一度自室に戻り、俺は拳銃やナイフなどといった様々なものを準備しておく。
一体何が起きるかわからないから、準備しておいて損は無いだろう。
その時、部屋に誰かがやってきた。
鈴谷「提督、私も連れてって。」
来訪者は鈴谷だった。いかにも着いてくる気満々と言ったようにしている。
提督「駄目だ、メンバーは昨日決めたからな。それにお前はまだ病み上がりだろ?」
鈴谷「そんなことないよ!鈴谷練度は上がってるし足手まといにはならないから!」
提督「いや、駄目だ。今回は昨日の放送で発表したメンバーで行く。」
鈴谷「提督が危険なところに飛び込むのに鈴谷は待ってるだけなんて…
提督「駄目なもんは駄目だ、ここの最高責任者としての命令だ。」
俺の返しに鈴谷は辛そうな表情を見せる。何故俺はこんなに鈴谷が着いてくることを拒絶するのだろうか。
いや、理由は分かっている。でも、言えるわけないだろう。
『お前をもう一度失うのが怖いから』なんてのは。
別に、他の皆なら失っていいなんてわけじゃない。単純に俺は一度鈴谷から目を離し、そして失った。
それが俺の中でトラウマになっているのだ。なにが最高責任者としてだ、笑えてくる。
鈴谷「……わかった。でも、絶対生きて帰ってきてね?」
提督「あぁ、俺は寿命以外では死ねねぇからな。約束するよ。」
俺は自身の問題から目を逸らし、そんな風に返すのだった。
赤城「提督、本当にそのような乗り物で良かったのですか?」
提督「こっちのほうが動きやすいからな。防御力は皆無だからやばくなったらすぐに離れるわ。」
俺はジェットスキーに乗っている。皆は俺を輪形陣で囲むようにして移動してくれている。簡単に言うと、作戦を考えたが正面突破以外思いつかなかったというわけだ!
どうでもいいけど、ジェットスキーって風が気持ちいい…なんて次元じゃねぇわ。ボワァアみたいな感じ。
通学路でこれくらいの風吹かないかね?スカート捲れまくりパーティーだと思うんだけど。まあ、全員髪型サ〇ヤ人みたいになりそうだけどね。
龍田「もう少しで到着よぉ、盛大なお出迎えは無いみたいねぇ。」
そして、特に戦闘もなく目的地に着く。すると深海棲艦が顔を出した。
リ級「オ待チシテオリマシタ。提督様ノミ着イテキテクダサイ。」
それはリ級だった。しかし、あの時のリ級とは別個体のようだ、それはそうかあのリ級は死んだのだから。
特に艤装などをつけてるわけでもなく、ただ着いて来いという。人質がいる以上従うしかないだろう。服従ってなんかエロくない?
提督「わかった。皆は警戒しつつ待機しててもらっていいか?」
加賀「孤立するのは危険かと。その深海棲艦だって信用出来ないわ、一人になったあなたを殺すつもりかもしれないわ。」
提督「んなこと言っても、ここで言うこと聞かなければ瑞鶴たちを助けられねぇからなぁ。まぁ、俺を信じろって加賀。無理はしないさ。」
加賀「…死なないで。」
提督「俺だって死にたくは無いさ。」
その場の全員の思いを代弁したような台詞に適当に返し俺はリ級についていくのだった。
リ級に連れてこられた先にいたのは、瑞鶴だった。
提督「良かった無事だったんだな。」
俺はそんな風に声をかけるが、瑞鶴は何も言わない。なにか思いつめたかのように下を向いたままだ。
また、なにか変なこと考えてるんかねぇ。こいつが暗い顔をしている時って大体ろくなことがねぇ気がする。
不意にリ級が俺と瑞鶴の間に銃を投げる。ロシアンルーレットでもするんですかね?
リ級「コレカラ2人ニ殺シ合イヲシテイタダキマス。銃弾ハ1発シカ装填サレテイナイノデゴ注意クダサイ。」
リ級「追加ルールトシテ、ドチラカガ自殺。マタハ提督ガ死亡シタ場合ハ人質ヲ爆弾デ皆殺シニシマス。」
リ級「瑞鶴ガ死ンダ場合ハ、捕虜含メ全員ノ無事ヲ保障シマス。制限時間ハアリマセン。ソレデハ始メテクダサイ。」
片言で説明されたルールはとても単純で明快だった。要は瑞鶴を俺に殺せということだ。それが最善だということだ。
趣味が悪いにも程がある。こんなんゲームである必要性が無いじゃないか。
いや、ゲームと言う形式にすることで楽しむ主催者側の都合か。
瑞鶴「提督さん…私を殺して。」
とても弱弱しい声で瑞鶴が俺に言う。その表情は笑顔だった。気持ちの悪い笑顔。
瑞鶴「今の解説でわかったでしょ?それしか手は無いんだよ。」
俺が?瑞鶴を?殺す?あんな必死で守ったのに?却下だ却下。そんな選択肢は無い。ばーか。
提督「冗談だろ?なんだ?お前好きな人に殺されたいとかみたいな異常性癖だったりするのか?」
瑞鶴「ふざけないでッ、私は本気で言ってるの。私が死ねば皆無事に帰れるんだから。それが一番じゃん。」
俺は真面目な顔で瑞鶴を見る。ふざけてんのはどっちだ、お前が逆の立場なら撃てんのかよ畜生。撃てるのかな?ちょっと撃たれそうで怖い。
よく考えたら、俺散々あいつにナイフで切られたんですよね。復讐に今度セクハラしてやろう。
いや、今度ってなんだ。俺はこの状況を乗り越えられると思っているらしい。思い上がりなんてレベルじゃねぇぞこれ。
瑞鶴「なんで笑ってるの…?」
提督「ん?俺笑ってたか?いやな、今度前にナイフで切られた復讐にお前の胸でも揉んでやろうなんて考えてただけだよ。」
瑞鶴「今度なんて無いのよ、ここで私は死んで終わりなのッ。提督さんは翔鶴姉とくっつけばいいじゃん!」
瑞鶴は怒るように言う。揉む胸が無いもんね☆あーやべぇ打開策が思いつかない。それに今回ばかりは助けも来そうにないしなぁ。
鹿島の胸見てればいい作戦思いつきそうなんだけどね。陸奥さんでも可。
最近どうもいまいち調子が出なかったが、こういうピンチになると俺って脳内がアホになるのかもしれない。
いっそ、俺の腕とか犠牲にブルー〇イズホワイトドラゴンでも呼べれば楽なんですけどね。俺の髪が金色になってスーパー〇イヤ人になるのもいいな。
とりあえず目標としては瑞鶴含めた捕虜と俺含めた救出部隊全員の生還。難易度ハードなんてもんじゃねぇ!これナイトメアとかカオスみたいなやつやん!
あのホラゲーで選択しちゃうとほぼ積む難易度。
まずは時間稼ぎだな。制限時間無くてよかったよぉ…
提督「なぁ、瑞鶴。お前本当にここで死んでいいのか?」
瑞鶴「いいもなにも、私が死ぬ以外に手なんて無いじゃん。だったら仕方な…」
提督「散々俺に自分も大事にしろみたいに言ってたくせに自分はしないのな。」
瑞鶴「それは…」
提督「そんな苦しそうな顔すんなっての。お前顔はいいんだから。これが終わったら二人きりでどっか行こうぜ。デートってやつだデート。」
二人っきりでデートとかコミュ障の俺にはきついな…なんて言ってから気づく。どうしよう、ここで死んどこうかな?駄目だろあほか。
瑞鶴「やめてよ…ここから二人とも生きのこれるわけないじゃん…」
瑞鶴はそう言いながら泣き出してしまうのだった。誰だよ泣かせたの!最低だな!俺だよ!
ー駆逐棲姫ー
あぁ、なんて面白い光景なんだろうか。好きな相手に殺して欲しいと望む少女。とてもいい顔をしている。
翔鶴「今すぐやめさせなさい!私が代わりに死にますから!」
横の牢獄内で映像を見ている翔鶴が私に向かって叫ぶ。とても素敵な表情で。
他の四人も私に向けて素敵な表情を向けている。もっとその表情を見せてくれ…それこそが生物の本質。愛や優しさなど飾り物に過ぎない。
私の記憶がそれを物語っている。
提督も瑞鶴を殺すだろう。自分を想っていることを知りながら、殺すのだ。それが正しい選択なのだから。
周囲は深海棲艦で警備を固めているので助けも来ない。提督の護衛艦隊は常に見張りをつけている。
翔鶴「こんなの酷すぎます…こんなの…こんなの…」
扶桑「落ち着いてください、翔鶴さん。きっと提督がどうにかしてくれます。」
山城「そのとおりです。あの男は極限状態でのみ役に立ちますから。」
お笑い話だ。どうにかしてくれる?この状況から?出来るものなら見せて欲しいものだ。
私の中の記憶が愛なんて所詮嘘だと物語っている、証明している。私の中にいる彼女は好きな相手に騙されて沈んだ。
私に彼女の気持ちはわからない。でもきっと絶望したはずだ、安全だと言われて送り出された地で包囲され沈むときにあの男を恨んだはずだ。
断片的な記憶しか私は持っていないが、それだけはわかる。だから私があなたの代わりにあの男に絶望を味わわせてあげる。
自分に意識が無いうちに大切なものをすべてを失わせてやる。きっと私の中のあなたもそれを望んでいるのでしょう?
そんなことを考えていると不意に、画面から銃声が響いた。
ー提督視点ー
俺天才かもしれない。これがゲームの裏をかくってやつですよ。ドヤ顔かましますぜ。
瑞鶴は驚いたように俺を見ている。そりゃ驚きますよね。当たり前です。
そう、俺はリ級を撃ったのだ。
流石に撃つのに少し抵抗はあったが、艦娘に殺せと命令を出している立場で敵を殺せないなんてお笑い話だろう。
とはいえ、自分が生を奪ったという実感は思いのほか重かった。畜生。
少しして、何者かが姿を現した。俺が目を疑ったのはそれが親父に見せてもらった写真の吹雪さんにそっくりだったからだ。
駆逐棲姫「実際に会うのは初めてですね。提督。」
提督「実際もなにも完全に初見な気がするんですが、どこかで縁がありましたっけ?」
駆逐棲姫「お話くらいは聞いてるんじゃないですか?私は吹雪ですよ。あなたのお義父さんの元秘書官の。」
提督「そうは思えませんね。話に聞いた吹雪さんはこんな性格の悪いゲームを企画するような素敵な方では無かったと思うんですが?」
目のまえの恐らく駆逐棲姫は手にスイッチのようなものを持っている。そして、貧乳だ。なにをチェックしてるねん俺は。
駆逐棲姫「転生したときに少し歪んだんですよ。とりあえず、提督は何故リ級を撃ったのですか?考えなしというわけでは無いのでしょう?」
提督「簡単な話ですよ。二人に殺し合いをしてもらうと言われたがどの二人かとは言われてなかったのでね。俺は俺とリ級だと解釈しただけですよ。」
駆逐棲姫「屁理屈ですね。」
提督「ルール違反ではないでしょう?」
さぁ、どうする?あのスイッチは恐らく人質を殺す爆弾のためのものだろう。
ここであのボタンを押されたら終わりだ。とはいえ、押されなかったとしてもそう簡単に解放なんてことは…
駆逐棲姫「ここでボタンを押すのもやぶさかではないですが、もう少し楽しませてもらいましょうか。」
駆逐棲姫「先程のゲームを瑞鶴と提督で行ってください。凶器はこちらのナイフをご使用ください。」
駆逐棲姫「そうだ、追加ルールで他の捕虜を犠牲に二人が生き残る選択肢も追加しましょう。更に自殺も許可しますよ。」
そのセリフを聞いた瞬間、駆逐棲姫が俺たちの間に放り投げたナイフを瑞鶴が拾う。俺に自殺をさせないためだろう。
もう屁理屈で乗り越えることはできない。不味いって!どうすんだよ畜生!ど☆う☆し☆よ☆う
ゲームに制限時間こそないが、しびれを切らした瑞鶴が自殺したらって…あいつ自殺しようとしてるじゃん!!!展開早いなおいおい!?
俺は瑞鶴に飛び掛かる。それを見て瑞鶴が思い切りナイフを自分に刺そうとする。しかし、一瞬躊躇してくれたお陰で俺は間に合った。
てか、躊躇するってことは死にたくないってことじゃねぇか。畜生。もう俺死ぬか!それしかない気がしてきた!
ごめんな皆!俺の物語はここで終わりだ。楽しかったよ!童貞だけど!
瑞鶴「止めないでよ…私が死ねば皆助かるんだから…」
瑞鶴は泣きながら言う。てか、俺が押し倒してる状態で泣いてるせいでやばいことしてるみたいになってるなこれ。元気になんな俺の下半身。
とりあえず、それっぽいこと言って説得をしてみようかね。
提督「なあ、瑞鶴。お前にとっての皆にお前は入って無いのか?」
瑞鶴「へ…」
提督「俺にとっての皆ってのはさ、確かに扶桑や山城がいて曙も潮も翔鶴もいてさ。お前もいてこそだと思うんだよ。」
瑞鶴は俺から目を逸らす。自己犠牲は逃げだ、死んでしまえばそれ以上心は痛まないから。俺に良く効くぞこの理論。
提督「少なくともな俺はお前がいない皆の中で笑って過ごせる自信が無いよ。」
それっぽいことと言ったが、これは本心だ。もしあの鎮守府に穴が開いてしまったら…失ってしまったら俺はその喪失感から逃れられなくなるだろう。
それは、鈴谷の時のように、少年の時のように俺の心を蝕み続けるだろう。そこで笑う自信なんて一ミリもない。
考えろ、考えろ、考エロ…どうにかしてこの状況を打開するにはどうすればいい?
瑞鶴「それじゃあ、どうしろって言うのよッ!」
提督「知らねぇよッ、でもな俺は好きって言ってくれた女を見殺しにするほどカッコつかねぇ男にはなりたくねぇんだよッ」
俺は瑞鶴に吠える。瑞鶴はそのセリフを聞いて大泣きしてしまっている。ちょっとカッコつけすぎたかな?
駆逐棲姫「気持ち悪い、愛なんてくだらないってことを理解できないなんて。まぁいいですよ。爆弾を起爆しますね。」
提督「おい、待て。まだゲームは終わって無…」
駆逐棲姫「私がゲームマスターですからね。さぁ、悲痛に満ちた顔で私の気分を良くしてください。」
ピッ…
瑞鶴「翔鶴姉…翔鶴姉…いやあああああああああああああ」
小さな機械音の後、爆発が起きる。やっちまった、俺はなんてことを…また守れなかった。
なにも変わっちゃいない、昔から俺はなにも守れない。肝心なところでミスをする。いい気になっていた、たった数回の成功で俺はなにかをなせると思い込んでいた。
誰かを守る力もないのに守ろうとして、から回ってただ苦しみを増やす。その苦しみで何度後悔してきたことか。
俺は瑞鶴まで巻き込んでしまった。俺は俺は俺は…
提督「こんのクソ野郎がッ」
俺は叫びながら駆逐棲姫に殴りかかる。しかし、俺は思わずその表情を見て正気を取り戻す。
駆逐棲姫は笑うどころか、俺の後方を見て驚きに満ちた顔をしていたのだった。
?「いい表情ですね、駆逐棲姫。それとお久しぶりです提督さん。」
後方から聞こえた声に俺は振り向く。そこにいたのは軽巡棲姫だった。
軽巡棲姫「提督さんも瑞鶴さん…でよろしいでしょうか?もご安心ください。人質の皆さんは私が解放しましたのでこのとおりご無事です。」
翔鶴「瑞鶴ッ」
瑞鶴「翔鶴姉…?生きてるの…翔鶴姉ッ」
二人がお互いの安否を確認し抱き合う。っていうかこの軽巡棲姫誰ぞ?なんで助けてくれるの?俺に軽巡棲姫の知り合いなんて…
あ、一人だけいるわ。
軽巡棲姫「思い出していただけたようですね。ここに提督さんを誘拐したものです。」
駆逐棲姫「貴様ッ、何故邪魔を…うあっ…」
立ちあがった駆逐棲姫を軽巡棲姫が銃で膝を撃つことで行動を抑制する。
軽巡棲姫「やられたことをやり返したまでですよ。あなた達の邪魔が無ければヲ級ちゃんも私たちの提督も死なずに済んだのですから。」
提督「どういうことだ?」
軽巡棲姫「私たちと提督さん達が戦っているとき、私たちは深海棲艦から攻撃を受けました。その犯人が彼女たちだったというわけです。」
軽巡棲姫「わかりやすく言うのならば。将棋中に突然盤面を第三者がかき乱したとでも言いましょうか。」
そこまで聞いて俺は理解する。あの場にいなかった軽巡棲姫はリ級があの男を殺したのを知らないのだ。
駆逐棲姫「ふざけるな…私がこんなところで…終わってたまるか…」
軽巡棲姫「いいえ、終わりです。その傷では入渠しない限りじきに死ぬでしょう。」
提督「ありがとう、軽巡棲姫。前は敵だったとはいえ今は素直に感謝するよ。」
軽巡棲姫「いえ、これはただの私の私怨ですのでお礼はいりませんよ。それに今から私があなたを殺す可能性などもあるんですよ?」
え、マジで?待って、それは予想外すぎる。どうしよう、動揺したら不味いよね?落ち着け俺。あー鹿島しゅき。
提督「それはもうお手上げだな。殺さないでくれると嬉しいです。」
軽巡棲姫「最初からそのつもりはありませんよ。戦って負けたのですから鶴棲姫や戦艦棲姫の死は仕方のないもです。」
両手をあげる俺に少し笑いながら軽巡棲姫が返す。そしてふと少し悲しそうな顔になる。
軽巡棲姫「でもこれで私は人間と深海棲艦どちらも敵になってしまいましたね。寂しいものです。」
提督「んじゃ、俺のとこ来るか?」
軽巡棲姫「へ?」
山城「は?なに言ってんですか提督。」
思わず寂しいって言われたから条件反射で言っちまったなんて言えない☆でも、もしかしたらこれは深海棲艦と和解するのの第一歩目になるかもしれないじゃん!
いや、まあ完全に後付けなんですけどね?うるせーしらねーふぁいなるふぁんたじー
そんなことを考えていると、翔鶴が笑いだす。
翔鶴「すいません、提督らしいと思ってしまったらつい…様々な問題はあると思いますが、私はいいと思いますよ。」
曙「まぁ、私たちの上司はクソ提督なんだし好きにすれば?」
山城「え?本気で言ってるんですか?」
若干一名動揺しているが、皆は俺を肯定してくれているみたいだ。
提督「皆もOKらしいし、どうだ?人は殺させられないし隠れながらの生活で良ければだけれども。」
俺はそう言って、軽巡棲姫に手を差し出す。
軽巡棲姫「私…敵なんですよ?あなたをさらった張本人なんですよ?」
提督「加賀ってやつがそれに関してなにか言ってくるかもだけど護衛するから安心してくれ。」
軽巡棲姫「いえ、そういう意味では無く…」
提督「それ以外になんの問題が?」
軽巡棲姫「ふふふ…あははは、本当におかしな方なんですね。皆さんが好きになる理由がわかりました。」
俺の決め顔での台詞に、笑いながら軽巡棲姫が俺の手を取ろうとする。そして、新たに一人の仲間を連れて俺たちは家に帰るのだった。
いや、正しくは帰れなかったのだが。
俺と軽巡棲姫の手が触れかけた瞬間、銃声が響く。俺は即座に駆逐棲姫を見るが特に変化はない。
周囲を見渡すと、そこにいたのは…兄さんだった。
俺の目のまえで軽巡棲姫が倒れる。まるで時がスローモーションになったかのように彼女が倒れるのまでが長く感じた。
撃たれたのは軽巡棲姫だった。
提督「おい、大丈夫か!?」
軽巡棲姫「やはり、人間と深海棲艦は合い入れないのですかね…でも、最後に夢を見れて…良か…
そこまで言って、軽巡棲姫は動かなくなった。
提督「兄さん…」
俺は様々な感情を含んだ声で兄を呼ぶ。
兄貴「全員動くな。動いたら提督を撃つ。」
よくわかってらっしゃる、ここで俺を撃つと言えば誰も動かないだろう。
提督「兄さんは本当にそっち側なんだね。」
俺は駆逐棲姫を回収する兄さんを見て言う。信じたくなかった、ずっと頭の中で否定していた。でも、この光景を前に否定するのはもう不可能だ。
兄貴「俺は別に深海棲艦の味方ってわけじゃない。ただ人間の敵というだけさ。」
提督「なんで元帥を撃ったんだよ。」
兄貴「そうだな、この際教えといてやろう。親父とお袋を殺したのは海軍だぞ。提督。」
提督「は?なにを言って…」
兄貴「お前の父親に聞けばいい。あの男はすべてを知っているはずだ。死ぬんじゃねぇぞ提督。」
それだけ言って兄さんは森の中に消えていった。両親を殺したのが軍…?それはどういう…
扶桑「今の方は…一体…?」
提督「俺の兄だよ、そして…新しい敵というのが正しいかな。」
俺は歯を食いしばり、兄さんを『敵』と口にするのだった。
その後、俺たちは長門や加賀と合流し鎮守府に戻ってきていた。
そして、今はあることをするために瑞鶴を執務室に呼び出しております。
提督「ということで、瑞鶴さん。」
瑞鶴「な、なによ。私は謝ったりしないからね、あの時は私が死ぬのが得策だったわけだし…」
こいつなに言ってんだ?どうやら勘違いしているようだが、まぁいいとしましょう。
提督「ええ、今から俺は宣言通りお前にセクハラします。」
瑞鶴「なに言われたって謝ら…へ?」
そして、俺は手をワキワキさせながら瑞鶴に近づく。ワキワキってどんな動きかって?そりゃワキワキした動きだよ。
瑞鶴「へ!?なに!?え!?提督さん!?」
瑞鶴はそんなことを言いながら挙動不審になっている。なにこいつ可愛い。違う!可愛くない!
そして俺は目をつむっている瑞鶴の頭を撫でてやる。それに対して意外そうな顔を瑞鶴がするが、これも十分セクハラなんです。
いやまぁ、本来の目的を言うのが恥ずかしかったから濁しただけなんですけどね。
提督「怖い思いさせて悪かったな。もう大丈夫だから、安心していいぜ。」
そう言ってただ優しく瑞鶴を撫でる。これは俺が昔してもらっていたことだ。
辛いことや苦しいことがあった時、大和さんや親父が俺をこうして撫でてくれた。不思議とそれだけでも心が安らぐのは俺が一番知っている。
瑞鶴「…提督さんの馬鹿…ずるいよ、そんなの…」
瑞鶴はそう言うと、子供のように泣きながら俺に抱き着いてきた。どうしようこれでセクハラする権利無くなったかな?
人生で一度は貧乳を好き勝手に弄んで…ゲフンゲフン、ウオッホン。
そして俺は瑞鶴を抱きしめてやりながら少しさっきの出来事を思い出す。兄さんのことを。
一つ分かってしまったのは兄さんは深海棲艦側の存在だということだ。そして、あの吹雪さんそっくりな駆逐棲姫。
そしてなにより兄さんの去り際に放ったあのセリフ…どういう意味なのだろうか。
そんなことを考えていると、瑞鶴が泣き止んだようだ。
提督「落ち着いたか?」
瑞鶴「うん、ありがとね提督さん。」
提督「俺はお前の上司だからな、メンタル管理の手伝いもするさ。」
瑞鶴「そこは普通に提督さん自身としてが良かったかな…」
提督「なんか言ったか?」
瑞鶴「うんうん、なんでもない。それより提督さんさ…あの時にいたお兄さんって…」
提督「実の兄だよ。そして多分次に俺が戦わないといけない敵。」
瑞鶴「っ…」
俺の台詞を聞いた瑞鶴が辛そうな顔をする。兄弟で敵なんてのは良く聞くフレーズではあるが自分がその境遇になると辛いものだ。
兄さんがなにを考えているかはわからない、でも一つだけわかるのは兄さんを止めるのは…きっと俺にしか出来ないのだろう。
運命のいたずらってやつだろうか。
瑞鶴「大丈夫?提督さん、その、えっと…おっぱい揉む…?」
提督「大丈夫だよ、それに揉むほどねぇだろ。」
俺は笑顔でそう返して、飛んでくるさまざまなものを回避するのであった。
さて、状況を整理しようか。
俺はベッドから身を起こし近日中の出来事を振り返る。
親父と大和さんは命に別状はないものの入院中。親父に関してはまだ意識が戻っていないらしい。
俺は無傷だが正直心労が半端ないので重症としておきます。
昨日電話で大淀さんと電話でやり取りした結果、最初の手はず通り俺は親父の鎮守府にて俺の鎮守府と親父の鎮守府のメンバーを指揮することになった。
やったね☆ハーレム。新人に元帥の代わりが勤まるはずが無いといった意見が出るのを予測し表面上は親父の仲のいい大将が親父の代わりをしていることになっている。
今日のうちに全員で親父の鎮守府に移動するとしよう。もぬけの殻になった鎮守府を襲撃する深海棲艦はいないだろう。いないよね…?
仕事に関しては大淀さんのカバーがあれば大して問題ないだろう。ずっと見てきたしね。
次に、兄さんに関してだが…いい加減目を逸らすのは辞めよう。あの人は敵だ、深海棲艦サイドだ。
吹雪さんにそっくりな深海棲艦に関しては俺はなんとも言えないが…前に親父と話した艦娘が深海棲艦になるというのが事実ならば…
そう考えると、親父に意識が無いのは好都合なのかもしれない。
そしてなにより兄さんの言動が不可解すぎる。敵なのに俺に死ぬな?なにを考えているんだ。
それにあの最後の台詞がどうしても気になってしまう。親父が意識不明の状態では答え合わせも出来ないわけだが。この点に関しては不都合だな。
よく考えたら、何故あの状況下で親父は生き残れたのだろうか。俺と大和さんが駆け付けるまでには時間はかなりあったはずだ。
兄さんが本気で親父を殺す気だったなら殺すのは容易だったのではないだろうか。なら、なんで…
謎が多すぎる、もう嫌だ。俺翔鶴連れて海外逃亡するもん。はい、嘘です。
いずれにせよ、俺はこれから親父の代わりにここと皆を守らなければいけない。
そう思って執務室でネクタイを締め直した時に扉が突然開く。
警察「提督さんですね。男児殺害の容疑で逮捕します。」
悲報、提督さん頑張ろうと思ったら逮捕される。
そして、突然手錠をかけられ牢屋に放り込まれるのであった。って、えええええええええ!
ー隊長視点ー
やっちまった、完全にやっちまった。
俺は大淀さんから提督が逮捕されたとの一報を聞いて警察に連絡を取ってすべてを理解する。
あいつが逮捕された理由は男児の殺害容疑だ。そう、少将の息子の件だ。
あれの真相を一人で追っていた少将の奥さん、つまり男児の母親が通報したらしい。
この早期段階で逮捕に踏み切ったのは憲兵に抑えられるのを避けたかったからだろう。
最近は警察の仕事まで憲兵が出しゃばることが少なくないので、このような事例は少なくない。
要は警察の側が手柄を横取りされたくないのだ。もしかしたら憲兵側が海軍の問題をうやむやにするのを避けようとした。という可能性もなくは無いがこの際どちらでもいいだろう。
民間人の混乱を避けるために深海棲艦側に人間がつくという事例を公表するのを控えたため、母親に事件の詳細を喋らなかったのが仇となった。
とはいえ、いくらなんでも情報不十分だ。提督が罪に問われることは無いだろう。
俺のどうにかしないといけない問題はこっちだな。
俺は元帥のやつの鎮守府のメンツと提督の鎮守府のメンツをどうやって落ち着けるか考えながらため息を漏らすのだった。
瑞鶴「どういうことなんですか!」
とりあえず執務室に提督に近しいと思われる艦娘を集める。状況説明する暇もなく問いただされれてるのが現状だ。
隊長「準を追って説明するから落ち着いてくれ。すくなくとも死刑とかにはならないだろうから。」
長門「それはそうだろうが、提督は特に悪事をしていたようには思えないのだが。」
隊長「そのとおりです。彼はなにもしていない、彼が逮捕されたのは男児、つまり少将の息子殺害容疑でですからね。」
加賀「それは、犯人がはっきりしているのでは?」
隊長「はい、そのとおりなんですが。海軍側としては人間が深海棲艦に与するという事柄をまだ世間に発表できていないのです。」
赤城「なるほど、でもそこで提督が容疑者になるのは密告が無い限り有り得ないのではないでしょうか?」
隊長「それが誤算でした、少将が残したデータを頼りに軍と関係の無い少将の奥さんが警察に話したようです。」
隊長「データが断片的にしか残っていなかったらしく、提督が事件に関与している。程度までしかわかっていないらしいのですがね。」
翔鶴「それで、提督を助けだす算段などは立っているのでしょうか?」
隊長「流石にまだ立てては無いのですが、少なくとも元帥が意識を取り戻せばすぐに対処できるはずです。」
その時、執務室の扉が乱暴に開き誰かが入ってくる。
秋月「大変です!テレビを見てみてください!」
青葉「そんなに慌ててどうしたんです?えっと、テレビテレビ…」
秋月さんの台詞を聞いて青葉さんが執務室のテレビをつける。そこには顔にモザイク処理が施された写真が写っていた。
深海棲艦と会話する男性の写真。周囲にはまだ何人かいるようだ。場所は森の中?いや、これは…あの島だ。
それを見てなんか専門家のような男性が人間が深海棲艦に与するなんて話している。あの写真はなんだ?合成か?
瑞鶴「あれって…」
隊長「なにか心当たりがあるんですか?」
瑞鶴「はい、つい先日私たちがさらわれた時に深海棲艦が一人手を貸してくれたんです。その時の写真に間違いありません。」
隊長「おいおいおい、ってことはこれに写ってるのって…」
瑞鶴「提督です…」
俺は全身から冷汗が噴き出るのを感じるのだった。
ー提督視点ー
警察「この写真はなんだかわかるか?」
尋問室の中でそう言って俺の前に差し出されたのは、俺と軽巡棲姫が会話している写真だった。
提督「いいえ、全く身に覚えがありません。」
とりあえず今は時間を稼ぐべきだろう。下手にここで俺が喋るのは愚策だ。ワタクシワッカリマセーン
警察「とぼけても無駄だぞ。どう見てもここに写ってるのはお前だろ?深海棲艦に内通してんだろう?」
このわからずやがぁ!知らねぇってんだよ!畜生めぇ!とは言えないので大人しく首を横に振る。絶対に頷かないもんね~
警察「まぁ、せいぜい否定し続ければいいさ。でも証拠が揃えばお前は間違いなく死刑だろうな。牢屋に案内してやるよ着いて来い。」
俺は警察に案内されて、いや、連行されて牢屋に連れていかれる。どうやら相部屋がいるらしい。
警察「下手なことは考えるなよ、大人しくしておくんだな。」
俺は乱暴に牢屋に入れられる。もーまだ私童貞なんだからもっと低調に扱って欲しいわね!はい、正直混乱しすぎてテンションおかしいです。落ち着きます。
?「相部屋なんて初めてだよ。お互い罪を犯した身、仲良くしようじゃないか。」
提督「えっと、こちらこそよろしくお願いします。…なんてお呼びすれば?」
?「あぁ、すまない。名前を教えるとお互い詮索しちまうからな俺は囚人番号08858836。ハチとでも呼んでくれ。」
提督「なるほどです、わかりました。俺は09665497なので…えっと、クロとでも呼んでください。」
ハチ「あぁ、わかったよ。こんなおっさんでよければ仲良くしてくれなクロ。」
提督「いえいえ、俺も若造ですし多分あまり長いはしませんがこちらこそですよハチさん。」
ハチさんは親父よりもさらに少し上くらいの年に見える、牢内といっても髭や髪が伸びきっているなんてことは無く普通に身だしなみはしっかりしている。
こんなところにいるくらいなのだから、罪人に違いないのだろうが不思議と怖いといったような感情は無かった。
出会って早々こんな風に警戒を弱めるのは良くないのだろうが…いや、やはりとても悪い人には見えないのだ。
とりあえずそれは置いといて、名前を出さないというのは納得だ。名前を言ってしまうとニュースなどから相手の罪を知ってしまうかもしれない。
そうなってしまえば、罪の度合いによっては相部屋は中々にきついものがあるだろう。
そして俺はハチさんと短い期間共に過ごすことになったのだった。
ー元帥視点ー
悪夢を見た、俺が助けられなかった彼女の夢を。
彼女は俺を恨んでいるだろうか、それとも許してくれるだろうか。許して欲しいなんてのは身勝手な話か。
俺のこの立場は復讐の副産物でしか無い。後悔なんて今更していない、あの男を殺したことに後悔なんて無い。
お前もきっと間違ってないって言ってくれるよな。吹雪…
隊長「目が覚めたか!」
不意に横からそんな声をかけられる、俺はなんでこんなところで寝ているんだっけか。
そうだ、俺は提督の兄を名乗る男に撃たれて…
元帥「おい、提督と大和は!ほかの皆も無事なのか!?痛ッ」
急に体を起こしたからだろうか、下腹部が痛む。
隊長「急に動くなって、お前はまだ安静にしていないといけないんだから。」
元帥「俺のことはどうでもいい、あいつらは無事なのか!?」
隊長「大丈夫だ、少し厄介なことになってはいるが提督のお陰で全員無事だよ。」
その台詞を聞いて俺はやっと落ち着く、また借りが増えてしまったようだ。提督には本当に頭が上がらない。
元帥「それで、厄介ってのはどうしたんだ?」
隊長「それがな、提督が警察に捕まっちまったんだよ。男児殺害と深海棲艦との関与の疑いをかけられてな。」
元帥「あいつがそんなことをするわけ…」
隊長「んなことは俺もわかってる。ただ、落ち着いてきてくれよ?このままだと提督は死刑に処される。」
元帥「なっ…」
隊長「今回の件の裏には艦娘否定派のやつらが絡んでいるみたいでな、覚えてるか?今回の件の首謀者は杉山悟志。あの会見の時、提督に論破されていた男だよ。」
元帥「完全に私怨じゃねぇか…」
隊長「あぁ、勿論提督を殺させはしない。俺も出来ることはするつもりだ、それでお前はどうする?」
元帥「んなの決まってんだろ。息子殺そうとしたやつは根絶やしにするさ。」
隊長「頼もしいようなイキリのような、まぁ俺も単独で動く。協力してほしいときは呼び出してくれ。」
元帥「わかった、ありがとな。」
隊長「気にすんな、昔からお前に頼られんのは慣れてるよ。一応最後に警察上層部も絡んでるらしいから気をつけろよ。」
元帥「肝に命じとくが、この体じゃどうせ大したことは出来ねぇよ。」
片手をひらひらさせながら立ち去る友を見送り、俺は思考を巡らせるのだった。
ー提督視点ー
ハチ「…ってなことがあってな。全く笑うしか無かったなあん時は。誰も思わないだろ?急に川に飛び込むなんて。」
提督「娘さんは大丈夫だったんですか!?」
ハチ「季節が夏だったからな、事なきを得たが全く子供ってのはなにをするかわからないから困るよ。」
提督「脅かさないでくださいよ、娘さんは今はどうしてるんですか?」
俺は二日もたたないうちにハチさんとかなり親しい仲になっていた。
ハチさんはどこかつかめないとこがあるように最初は思えたが、話してみると普通の気さくなおじさんで良い人だった。
お陰で今ではこんな風に笑顔で昔話を聞かせてくれたりしている。
そこまで考えて、ハチさんの表情が歪んでいることに気づく。
提督「あ、あの…どうしたんですか?」
ハチ「………娘は死んだんだ。」
あ、ヤッベ―!仲良くなったとか語ってた時に地雷踏み抜いてた!オーマイガー!
えらいこっちゃえらいこっちゃ…いや、これ本当にどうしよう。
提督「あ、あの俺…」
ハチ「悪い、変な空気になっちまったな。気にしないでくれ。」
コミュ障のようになっていた俺をそんな風にハチさんがフォローしてくれる。本当にいい人だ。
でも、いい人だからこそ不思議に思ってしまう。なぜこの人がこんな場所にいるのだろうか…と。
とはいえ、最初のやり取りで聞かれたくないのだろうと判断しその一線だけは超えないようにしている。
ハチ「そうそう、クロ。ここの飯にはもう慣れたか?」
提督「んー、おいしくは無いですけど健康面に配慮してそうですし文句は無いといった程度ですかね。」
ハチ「俺も最初は不味くて食えたもんじゃねぇなんて思ってたんだが慣れるとうまく感じるもんだぜ。」
提督「でも、俺はなれるほどここに長くはいないと思います。数日後に裁判があるので。」
ハチ「裁判か、なにやらかしたのかは知らねぇが精々処刑にはされないように気をつけろよ。」
処刑は嫌ですね。はい。死にたくないでござる!だって、死んだら鹿島と翔鶴に会えないしね☆
提督「ははは…そうですね…」
俺は引き笑いをしながらそんな風に答えるのであった。
そんなこんなで警察に連れられて、尋問室なう。後ろでメモ取ってる人と俺を問いただす人、さらにマジックミラー越しに数人が見てるのだろうか。
警察「いい加減吐いたらどうだ?この写真がある以上言い逃れは出来ないぞ?」
なんですかねぇ、ここでおえおえすればいいの?お前さん俺のレインボービーム喰らいたいの?
警察「だんまりか、いずれこの周りに映ってる人間もすぐに俺たちが正体を暴いてやる。その時がお前の年貢の納め時だな。」
残念ながらそれ人間じゃないんですよねぇ、足しか見えないからわからないだろうけどそれ艦娘なんだよねぇ。
俺は適当に脳内で突っ込みを入れながら黙秘を続ける。さっきから警察さんが机叩いたりして怖がらせようとしてるけどツインテのが百倍怖いぞ、出直してこい。
その時、扉がノックされた。
警察「はい、どうされましたか?」
どうやら警察のお偉いさんが来たらしい、なにされちゃうの俺!改造されて仮面ラ〇ダーにされるとか?
警察「え、それって、いいんですか?上の指示?はい…わかりました。」
警察がそんなことを言って部屋を出ていく、えぇ…新手の放置プレイ?困ります、俺マゾじゃ無いです。
しかし、数分後部屋に入ってきたのは意外な人物だった。
隊長「お久しぶりです、提督さん。」
部屋に入ってきた隊長は敬語でそんなことを言う。俺はとりあえず黙っておく。
次の瞬間、俺は思い切りぶん殴られた。えええええええ!?隊長さん!?なんで!?にんじゃなんで!?
そのまま俺の胸ぐらを掴み持ち上げて、背負い投げを…あれ?今なんか小声で言った…?モールス信号?
警察「ちょっと、なにしてるんですか!」
隊長「裏切り者に制裁を加えているんですよ。」
警察「ここは警察です。憲兵とは違うんですよ、罪人とはいえ人権はあるんです手を出さないでください。」
隊長「そういうものでしたか、申し訳ありません。」
警察「あーもー、憲兵ってのはこんな野蛮なのしかいないのかねぇ…」
突然の出来事にメモを取っていた警察さんが止めに入る。
そして、俺と隊長さんは席に着いた。モールス信号とはいったい…
隊長「貴様が裏切ったという情報を我々はまだ手に入れていない…」
そして、隊長は語りだすがそれと同時に床を蹴りながら貧乏ゆすりを始めた。なるほどね、大胆なもんだ。
先程の俺への突然の暴力は俺に出来るだけ近づいて一言だけ教えるための演技。
更にあの最初の行動で警察側に凶暴なイメージをつけて貧乏ゆすりを注意されないようにしたと。天才かぁ?
隊長はさっきから罵詈雑言や空想の中の俺の鎮守府や艦娘たちの話をしている。それはどうでもいい、俺が聞くべきは床の音。
軍学校時代にモールス信号はすべて暗記している。
えっと、すべてしくまれてる おまえこのままじゃしけい さいばんでたすける へたにうごくな
つまり、俺は何者かによってこのままじゃ死刑になると。だから裁判の時に助けるつもりだからそれまで大人しくしてろってことか。
って、死刑!?俺殺されんの!?童貞だよ!?
関係ないですね、はい。全国の童貞死去なされた皆様。俺も仲間入りです。
でも本当に大胆なものだ、警察の目のまえで堂々と救出宣言をするなんて。考えたのは大淀さんあたりだろう。
そんなこんなで隊長は去って行った。
警察「これだから脳まで筋肉のやつらは嫌だねぇ。今日は終わりだ、牢に戻るぞ。」
お前らその脳まで筋肉にしてやられてんだから脳すら無いんじゃねぇの?なんて頭の中で突っ込む。
そして、牢屋に戻るのだった。次回、提督死す!(死にません)
ハチ「おいおい、お前どうしたんだその怪我。警察に手を出されたのか?」
牢屋に戻ると、ハチさんが俺の頬を見て心配してくれる。
提督「いやいや、ちょっと憲兵にボコられただけですよ。」
ハチ「憲兵…?お前さん軍の人間なのか?」
俺は一瞬ハチさんの雰囲気が変わったのに気づく、それも悪い方に。とはいえ、ここで嘘を吐くのは後に要らぬいざこざを産むだろう。
提督「はい、俺は海軍の人間です。」
ハチ「……そうか、なぁ一つだけ聞かせてくれ。お前はなんのために軍人をしている。」
ハチさんは真面目な顔で俺に問う。その表情は鋭く俺を見つめていた、なにかの答えを求めるかのように。
提督「俺は…誰かを守るためです。」
ハチ「お笑い話だな、そんなことを言うやつがなんでここにいる。」
確かにそのとおりだ、誰かを守りたいと願う善人がこんなところに来るはずがない。でも、俺は誰かを守りたかった。
提督「冤罪だとか、俺は悪くないなんて言い訳は言いません。でも俺は…大切なものを守るためなら罪を背負う覚悟です。」
ハチ「口でならなんとでも言えるだろうよ。どいつもこいつも軍人は守るだの救うだの言いやがる、なにも守ってくれやしないくせに。」
その言い方はまるで、海軍になにかを裏切られたかのような言い方だった。いや、実際そうなのだろうか。
提督「ええ、口でならなんとでも言えます。実際に誰かを守るのも大変なのはわかっていますよ。」
ならばこそ、俺はここで引くわけにはいかない。これは俺の生き様、すなわち人生だ。これを否定されて黙り込むようじゃ守るなんて出来るはずない。
提督「だから別にハチさんに信じてもらわなくても構いません。俺はただ俺の守るべきものを守るだけです。」
明らかな挑発、俺はあなたになにを言われても引く気は無いといった言い方。負けないもんね!
次の瞬間、俺の視界が方向を変える。いや、俺自身が殴り飛ばされ必然的に視界が回る。
ハチ「じゃあ、どうして俺の娘を守ってくれなかったんだよッ」
そして、ハチさんは叫ぶ。
警察がやって来て注意されたが、適当に誤魔化しておいた。
ハチ「すまない、少し感情的になった。」
提督「いえいえ、殴られるのには慣れてるんで大丈夫ですよ。」
本当は大丈夫じゃないです。慣れても痛いもんは痛いです。慣れたくも無かったんです。
とりあえず、俺は下手に追及するのも愚策だと判断し沈黙する。こう言ったときは首を突っ込まないのが一番だ。
しかし、そんな考えとは裏腹にハチさんは語りだした。最近昔の話っていいことない気がするのは俺だけ?
ハチ「…あれは四年前の出来事だった、俺の妻と娘が殺されたのは。」
俺は語りだしたハチさんの話を無言で聞く。先ほどの反応からするに海軍に関係のあることなのだろう、少し身構えておかなければならない。
ハチ「なんでも深海棲艦の砲撃がマンションに直撃したとかなんとかでな。」
俺はそのセリフを聞いて戦慄する。四年前に本土のマンションが倒壊した事件なんて俺には一つしか覚えがない。
体から気持ちの悪い汗が噴き出すのがわかる。だって、それは…それをしたのは深海棲艦じゃなくって…
ハチ「最初に一報を聞いたときは絶望したよ。俺が働いてるうちに妻子が死んだなんて聞いたら誰でもとち狂うに違いない。」
ハチ「しかも娘は結婚直前だったんだ。その事件の後………結婚する相手のほうも死んだ。」
やめてくれ、それ以上はもう聞きたくない。どうか、もう何も言わないで。
ハチ「それこそ俺も後を追おうと思った。でもな、俺は独自に調査するうちに興味深いものを見つけてな。」
ハチ「あのマンション倒壊事件が艦娘の仕業だったというな。」
俺はこちらに背を向けて話すハチさんに今どんな表情を向けているんだろう。自分でもわからない。
ハチ「だから俺はその真相を知るべく色々動いていたんだがな、その最中にちょっと捕まっちまったってわけさって、どうした?クロ。」
振り向いたハチさんと目が合う。俺はどうすればいい、真実を打ち明けるか?でも、それでは鈴谷が…
いや、でもここで鈴谷をかばってしまっていいのか?彼女にずっと罪の意識を押し付けるのか?
ならここで話して…いや、それじゃ鈴谷がうちにいられなくなる。もう手の届かないところには行かせたくない…俺は…
ハチ「クロ…お前もしかして、なにか知ってるのか?」
俺の様子がおかしいのを見てハチさんがそんなことを言ってくる。俺がいまするべき最善策は…
提督「俺は、マンションに誤射した艦娘を知っています。」
様々な思考の後、俺はたった一言口に出す。
ハチ「それは誰なんだ?知ってることを全部教えてくれ、頼む。この通りだ。」
ハチさんはそう言って頭を下げてくる。逃げちゃダメなんだ、きっと俺もあいつも過去から目を逸らしてはいけない。
ただ、一つだけ確認しなくちゃいけないことがある。
提督「ハチさんはそれを知って何をするつもりなんですか。」
俺の冷たい声で発せられる質問を聞いてハチさんの表情が歪む。
ハチ「わからない…簡潔に言えば復讐なのかもしれない…理由がわからないからな。もし意図的に俺の妻子を殺したのなら俺は…そして、なにより愛する二人の死因を、死の真実を自分が知らないのが悔しくて仕方ないんだよ…」
泣いていた、ハチさんはそう言いながら泣いていたのだ。もし俺が大切な人を失ったときその死因がわからなかったら俺はどうするだろうか。
愛する人がどうやって死んだかもわからないまま、俺は人生を他のことに裂けるのだろうか。いや、きっと気になって夜も眠れないだろう。
提督「わかりました、俺の知っていることはすべて話します。」
そして俺はなにもかもを洗いざらい話した。俺との関係や自殺未遂、そして今どうしているかも全て。
ハチ「………」
話し終えてもハチさんは無言のままだった。俯いたままこちらに表情も見せない。
しばらくの沈黙の後、ハチさんが沈黙を破った。
ハチ「てめぇはそれを知っていてのうのうと生きてんのか?幸せに?」
俺はそのセリフに何も返さない。返せない。
ハチ「俺はお前が憎い。のうのうと生きているお前を殺してやりたい。」
そう言って、ハチさんは俺の首元に手を伸ばす。しかし、その手が首を絞めることは無かった。
ハチ「でもさ、クロ。俺はどうすればいいんだろうな。」
そう言いながらハチさんは俺に顔を向ける。その顔は酷く歪で、泣いていてそれで怒っているような。そんな表情だった。
ハチ「俺はさ、きっと期待してたんだろうな。海軍が意図的に俺の妻子を殺したみたいなのをさ。不都合な情報を知ってしまったからとかドラマでありがちな展開をさ。」
ハチ「それで復讐して俺は満足して地獄に堕ちるつもりだったんだ。あいつらのために何かをできたってさ。」
ハチ「でもよ、俺の大切な人を殺した相手も姉妹を失っていた上に本当に事故だったってんだろ?なら俺は…俺はこのどうしようもない感情をどこにぶつければいい…?」
ハチ「事実を隠した海軍上層部か?その殺した艦娘本人か?それとも手の届くお前か?」
泣きながら彼は話す。まるで俺に助けを求める子供のように。
ハチ「なんでだよ…なんでもっとクズみたいな人間になってくれないんだよ。殺せるわけなんてねぇじゃねぇかよ…」
そんなことを言って泣きべそをかくハチさんを、俺はただ無言で見ていた。いや、見ていることしか出来なかった。
ー警視総監視点ー
警察「…とのことです。」
私は部下から提督とやらに面会に来た憲兵の話を聞く。
警視総監「あぁ、わかった。怪しい動きが無かったのなら問題はあるまい。身体チェックは念入りに行ったか?」
警察「ええ、三度行いました。口内や服の仲間で念入りにです。」
警視総監「そう言うことなら問題はあるまい。引き続き監視を頼む。」
警察「了解しました。やだなぁ…面倒くさいわほんと。」
去り際に何か小声で聞こえた気がするが特に気にせず話を切り上げ、廊下を歩く。
あの事件から長い時間がたったが、ようやくあの男に復讐をすることができる。
それにしても、あの不審な男たちもいい話を持ってきてくれたものだ。提督という立場の人間のスキャンダル、さらにはその男があの男の息子と来た。
多少のリスクを背負っても裏工作するだけの価値はある。思わず表情が緩む。
十五年前、わざわざ様々な準備をして作り出した私の計画はあの男…元帥によって阻まれた。
証拠が無かったため、私に被害こそ無かったが準備していたものを無駄にさせられた報復は受けさせなければならない。
そこまで考えて仕事場に着き、座り慣れた立派な椅子に腰かける。
その時、電話が鳴りだした。
警視総監「なんの用だ?」
警察『突然失礼いたしました。なんでも海軍元帥を名乗る人物が総監殿に繋いでくれと言っておりまして。』
噂をすればというやつだろうか、所詮息子を助けてくれとでも言うつもりなのだろう。
どれ、少しからかってみるとするか。
警視総監「構わん、繋げ。」
警察『了解しました。ただちにお繋ぎします。』
元帥『突然お電話をおかけしてしまって申し訳ありません。』
警視総監「いえいえ、構いませんよ。日々守っていただいている立場ですからね私も。」
電話で良かった、もし正面にいたのならにやけ顔を晒すことになっていたかもしれない。
元帥『勿論ですよ、仕事ですからね。ところで海軍関係者の提督という男に関してなのですが…』
こんなに早く本題を切り出してくるとは、焦りが出ているに違いない。相変わらず自分が相手より上にいるという実感は癖になりそうだ。
元帥『裁判の際にこちらで誘拐させていただきます。』
は?今この男はなんて言った?頭がおかしいのか?
警視総監「貴様正気か?この電話は録音されているんだぞ…?そんなことを言ってただで済むわけが…」
元帥『それなら問題ないですよ。この電話の録音はあなたが自分で消すんですからね。』
このとこはなにを言っているんだ…?俺は全身から冷汗が出ていることに気づく。いや、落ち着け…そんなことできるわけが…
元帥『そうそう、話変わるんですけれど警視総監殿は若い子と立ってヤルのがお好きなんですか?』
私の思考はその男の一言で完全に掌握されたのだった。
ー提督視点ー
寝つきが悪い、眠れるはずがない。
俺はどうすればいい?いや、どうしようもないじゃないか。
ハチさんは優しい人だ。だからこそ、復讐に殺してやると思えるほどの理由を探していたのだろう。
でも、誰も悪いとは言い切れなかった。
親父がやったであろう情報操作は鈴谷を守るため、鈴谷は姉妹を失ったパニックによって。
しかも、鈴谷たちは人間を守るために戦っているのだ。そう考えると、理解したうえで向き合うことから逃げ続けた俺が一番罪深いのかもしれない。
そしてもし、ハチさんが俺を殺したとしてもそれには何の意味もない。ただの八つ当たりにしかならないのだから。
あれからハチさんはこちらに顔を向けないまま、眠ってしまった。
わかっていた、鈴谷が誰かを殺していることなんてとっくに知っていた。
俺はそれに向き合いたくなかった。だって、残酷すぎるじゃないか。姉妹を失い誰かのかけがえのないものを奪ったという実感までも背負ってしまったら…
いや、彼女はもう背負っているのかもしれない。逃げているのは俺だけで、鈴谷自身はそれを理解していて生きていこうと決意したのかもしれない。
なら、俺はこの胸の内に刺さってしまった杭をどうすればいい。きっとハチさんはこれの何倍も苦しんでいるのだろう、想像しただけで嫌になる。
今俺に向けている背中にどれだけの後悔と苦痛を背負っているのだろう。
俺はそんなことを考えながら、ただその背中を見つめていた。
目が覚める。どうやら普通に眠れていたらしい、なにが眠れるはずがないだ。
よく考えれば今日は裁判の日だ。こんな気持ちじゃ荒らすも何も無いな。いっそ処刑されてしまおうか。
俺はハチさんと特に会話もなくその日を過ごす。彼の眼はずっと歪んだままでなにかを考えているようだった。
その時、ふとハチさんが背を向けたまま俺に話しかけてきた。
ハチ「なぁ、クロ。」
提督「…なんですか?」
ハチ「俺は一つだけ嘘を吐いた。いや、嘘では無いかすべてを話してくれたお前には俺もすべてを話そう。」
俺はただならぬ雰囲気に思わず息を呑む。以前ハチさんは背中を向けたままだ。
ハチ「俺は人を殺した。」
その一言に俺は再度息を呑む。別に今更恐怖などは感じない。だがその殺人がもしまた俺が鈴谷が原因だったのなら…
もう、俺の心が持たなくなってしまう。
ハチ「娘の結婚予定だった相手が実は結婚詐欺師だったらしくてな…問い詰めた時にもみ合いになってな…」
そこまで話してハチさんは黙ってしまった。鈴谷のせいではにことに安心してしまいそうになる思考を咎める。
今更…なんて思うかもしれないが、この人がどれだけ妻子を愛していたかが身に染みる一言だった。
別に人殺しを正当化する気は毛頭ない。とはいえ、亡き愛する者のために本気で怒れるというのは立派なことだと俺は思う。
そうしていると、警察が俺を迎えにやってきた。
警察「おい、09665497裁判所に連行するっす。着いて来いっす。」
俺はそれに従い、牢獄から出て警察についていく。
その時だった。
ハチ「クロ!最後にこれだけ言っておく、絶対に守ると誓ったものは守り切れ。」
後ろから叫ばれたその声は俺の心に深く刺さる。
ハチ「俺はお前たちを許してやる、だから麗奈と詩織の分まで幸せになれッ人殺しに成り下がっちまった俺の分までだッ」
悲鳴のように叫び続ける声はまるで悲鳴のようで…怒号のようで…
ハチ「もしお前が誰も守らないような腑抜けになったら俺がぶち殺してやるッ艦娘共々全員なッ」
俺は振り返る、そこにいたのは涙を流しながら俺をにらみつけるハチさんの姿だった。
ハチ「とっとと、行けよッ俺がかっこいいおっさんでいられるうちに失せやがれッ」
その台詞は、今彼が口にした言葉がどれだけの重みをもっているかを俺に思い知らせるようだった。
きっと彼は俺や鈴谷を殺したくて仕方ないだろう。でも、それでも彼は許すと口にしてくれた。まるで悲鳴を上げるかのように。
所詮三文字口に出すだけのこと、でもそれはきっと彼が一番口にしたくなかったことに違いない。このたった数日という時間の間に彼はどれだけ考えたのだろうか。
自分が投獄されるまで愛する二人のために奔走し怒り続けた男が、復讐の相手を知って尚許すといった。
俺はその叫びに、何も返すことが出来なかった。返す資格があるとは思えなかった。
警察「えっと、さっきの方となにかあったんすか?」
提督「いえ、気にしないでください。」
今まで生きてきた中で、一番重いものを背負ってしまった。
三人の人生、その幸せをお前が背負えと。一人の男の怒りと苦悩を知ってそれでも尚…使命を果たせと。
俺みたいな男には重すぎる。実際俺自体はそんなに関係があるわけでは無いのだ。
殺したのは鈴谷だ、隠蔽したのは親父だ。でも、俺の心にこうも強く突き刺さるものがあるのは目を逸らそうとしていた罰だろうか。
もしこの世に神がいるのだとしたら、俺への罰としては効果的の一言に尽きる。感服いたしましたよ。
そして、今の俺があの人に応えるにはきっと…いつも通りの俺が一番適しているだろう。
両頬を叩いて、俺は深呼吸をして気持ちを入れ替える。
警察「ちょいちょい、聞いてるっすか?」
提督「え?すいません。少し考え事してました。」
そこまで考えて、俺は横にいる警察の人が俺に話しかけていることに気づいた。
警察「とりあえず、今からあなたを裁判所に連れて行くっす。そしたら、適当に裁判に裏があるみたいな話と艦娘反対派の関与を醸し出して欲しいっす。」
警察「そうしてくれれば憲兵側も強引に操作に介入できるっすからね。そんでタイミングを見計らってスモーク展開するんで普通に逃げて欲しいっす。」
提督「え!?え!?な、なに言ってるんですか!?警察ですよね!?」
なにこの人!?まさか…鹿島の胸部装甲に洗脳されて仲間になったとか…?おい、あれは俺だけの胸だ!ふざけんな!
警察「聞いてなかったんすか…自分は憲兵サイドの人間です。警察は憲兵の敵対組織みたいなもんっすからね。いわゆるスパイっすよ。」
警察「前にあなたの担当だった警官が隊長さんの暴れっぷりを見て身の危険を感じてたらしくて簡単に変わってくれたっす。」
提督「スパイとか本当にあるんですね。でも艦娘反対派が今回なにか関与してるんですか?」
警察「その通りっす。あなたをハメたのは警察上層部と艦娘反対派の人間っす。杉山悟志って男が首謀者っすね、例の会見の時あなたにボコボコにされた男っす。」
ははは…激おこだったもんねあの時。それにしても論破されたからって殺し方回りくどくない!?
提督「なるほど、でもさっき言ってた普通に逃げるってそんなに簡単に逃げられるんですかね?」
警察「その辺は裏で手をまわしてあるっす。警察側としてはあなたを捕まえたり殺した方が不味いんすよ。後最後に一応これを渡しておくっす。」
はえ~意味わかんない~とはいえ、なんか生き残ることは出来そうなのでいいとしよう。やったね!とりあえず俺は警察から拳銃を受け取る。提督は拳銃を手に入れた!
警察「とりあえず、時間が無いから送るっす。一応この先行くと監視カメラに音拾われるっすから変なこと言うのは駄目っすよ。」
そうして俺は刑務所内を歩き、車に乗るのであった。
そして、裁判所内にて。俺がついてすぐに法廷は開かれた。お堅そうなおっさんとおばさんが並んでいらっしゃる。
そして俺の近くには一ミリも雇った記憶にない弁護人。誰やお前、その顔絶対童貞やろ。俺もだけど…
そこからは人定質問や、起訴状の読み上げをシナリオ通りに行うが黙秘権の告知はしてくれなかった。露骨じゃね?
裁判長「被告人・弁護人の罪状認否を被告人からお願いします。」
そうして、ようやく俺のターンが来た。つってもなにも考えていません!非情にまずいです!
ともかく、証拠品などの確認に入ってしまうと捏造されたものでもTVを見ているだけの人には俺が真犯人であるという印象がつきかねない。
つまり、逃げるのなら出来るだけ早くだ。そう、今でしょ!
提督「これは罠だッ!」
そうして、俺は覚悟を決めて思い切り叫ぶのであった。
ー隊長視点ー
腰が抜けるかと思った。裁判だぞ?法廷だぞ?そこでデス〇ートの台詞叫ぶやつがいるか!?
裁判長「静粛に、被告人は罪状認否に関してのみ発言してください。」
提督「んなの知るか、悪いですがこの場は俺が仕切らせてもらいます。」
裁判長「君はなにを言って…」
では、様々な問題を解決してきた手腕って言うのを傍聴席から見せてもらうとしますかね。
提督「この際だから、俺の知る事件の真相をすべて話します。」
裁判長「被告人を捕らえてください。彼の行動は…」
提督「動くなッ動いたらこの人を撃ち殺す。」
え?俺?えええええええええ!?俺は拳銃を向けて近寄ってくる提督に思わず混乱する。
いや、これは時間稼ぎだ。それなら俺も便乗しておいた方がいいか?
とりあえず俺は腰を抜かしたふりをして、提督に捕まる。
隊長「やめてくれ…撃たないでくれ…まだ死にたくない…」
提督「俺の要求は二つだ。裁判の続行とTV中継を中断させないこと。ここでの全てを放送することだ。」
提督は俺を人質にしてTV中継を続けさせることで自分に有利な状況下で話を進めるつもりのようだ。
恐らく、俺を人質に選んだのは他の人間だとトラウマになりかねないからだろう。
さて、最初に思ってた場所よりかなり近くなったけれど引き続きお手並み拝見と行きましょうかね。
提督「まず、俺は男児を殺していません。殺したのは深海棲艦です。」
警察「お前が手を組んでいた深海棲艦に殺させたんじゃないっすか!」
俺が警察側に潜入させておいたスパイが提督の台詞にそう答える。ナイスだ、ここで全員が黙ってしまうより言い合いの形になった方が不信感が無い。
提督「それは違う、俺は艦娘反対派にスパイとして潜入していたんだ。」
警察「それがどう関係あるっすか!今はあなたの罪について…」
提督「この際だからすべて話します。艦娘反対派は深海棲艦と手を組んでいます。」
警察「だから、さっきからあなたはなにを言って…」
提督「常識で考えればわかるでしょう?深海棲艦という敵を迎撃する手段が艦娘しかないのにそれを無くそうとか危険だとか。」
提督「完全に深海棲艦と手を組んでいるに違いないでしょう?」
警察「言われてみれば…確かにそうっす…」
その台詞は誰もが納得する内容だった。昔から艦娘反対派又は否定派と言われる者たちの活動理由はわかっていない。
わかっていないというか、発表されていないだけで様々だ。例えば艦娘自体が危険だからとか、艦娘に依存したら人類が衰退するだとか、艦娘が良くない生物だからとか。
最後に関しては意味がわからんが、あえて正式に発表しないことで多少思考が違っていても【艦娘を排除しよう】という大まかなテーマだけで人を集められるようにしたのだろう。
でも、今提督が言った内容なら…すべてのつじつまが合う。正式に活動内容を発表しないことを利用し、全国放送されているここでそう言えば大して艦娘に興味のない一般人からは確実に艦娘反対派への悪いイメージがつくだろう。
提督「俺は艦娘反対派の活動を探るためにスパイとして潜入しました。そして俺は杉山悟志さんに深海棲艦と接触するよう頼まれました。」
提督「その際に生贄と、同盟の証として杉山さんにあの男の子を連れて行くように言われたんです…全く人間のすることじゃない…」
うわぁ、こいつ演技力高いぞ…全部口から出まかせの癖に無駄に表情が切羽詰まってやがる。俺も騙されないように今後気をつけよう。
警察「じゃあ、証拠として挙がっていたあの写真は…」
提督「はい、裏切った際につるし上げる目的でその際に撮られたものです。俺の後ろには他にも艦娘反対派のメンバーが写ってるのがわかるはずです。」
俺はそこまでの話を聞いて、これからアホみたいに忙しくなりそうだななんて、考えていたのだった。
ー提督視点ー
ここまで全部嘘を吐くともうなんかどれが本当かわからなくなるね…あっはっは。
とはいえ、これで憲兵が強引に捜査に介入するのに必要な材料は十分すぎるほど集まっただろう。
後で嘘について世間から叩かれようと知らん!評判なんかよりまず命だアホ!親父にどうにかさせる!
しかし、まんざらすべてが嘘とは限らない。親父から聞いた話だが艦娘反対派が深海棲艦と内通しているという話は実際にあるのだ。
というのも、前の無人島での一件。深海提督事件から人間が深海棲艦と手を組むことがある。というのが分かったため、親父も調べているらしく、実際にその手のうわさは少なくないらしい。
今回の捜査でそれをはっきりさせられると思えば、俺の嘘も無駄では無いだろう。
問題は人間の中に深海棲艦と内通している存在がいるということを世間に公表してしまった点だろうか。いや、俺の容疑がそれに近いから今更か。
まぁ、俺は世間から叩かれ始めたら忘れてもらえるまで引き籠るとしましょう。もうまじむりまりかしよ。
その時、不意に裁判所内各所で小さな爆発音が響き、スモークが撒かれる。
隊長「提督、こっちだ。逃走経路は確保してある。」
人質に取っていた隊長が声をかけてくる。
俺はその声に従い、隊長についていこうとする。その時、銃声が響いた。
杉山「おいおい、逃げてんじゃねぇよ。こっちがどんだけ準備したと思ってんだ…」
銃声の方向に立っていたのは、見覚えのある男だった。
提督「はぁ、多分人違いですよ。ほんじゃ失礼します。」
適当なことを言って誤魔化し、隊長の後を追おうとするが銃弾が俺の右腕をかすめる。痛い(涙目)本当に俺が無傷で終わるイベント発生しませんかね?
隊長はスモークの中を進んでいってしまったようで、方向しかわからない。脱出ルートわかるかな?いや、まずは目の前の問題か。
杉山「ふざけてんじゃねぇぞ、その苛立つ面をあの日から忘れたことはねぇ。あの会見の後俺は特定されて散々な目にあったんだよ。お前のせいでな。」
それ悪いの俺じゃ無くねぇかなぁ…とはいえ、目の前で血走った眼を俺に向けてるやつになに言っても無駄だと判断し押し黙る。
そういえば、知り合いに女の子に恨まれて殺されたいとか言ってるやつおったな~とか思い出す。でも、そいつも多分男は論外よね。
さて、今回はふざけてる暇がない。スモークが切れる前に目の前の男を抑えてこの場から立ち去らなきゃならない。
とりあえず、目の前で俺への想いを一生懸命語ってる杉山に飛び掛かる。拳銃は下におろしていたため即座に撃たれることは無い。
杉山もまさか銃を持った相手に飛び掛かってくるとは思って無かったらしく一瞬動きが止まる。
そこで俺は杉山の右手を掴み銃の射角を調整できないようにする。
しかし、杉山もそこで諦めるわけもなく空いた左手で俺の首目掛けて手を伸ばす。
とはいえ、俺も銃を抑えた程度で終わるとは思って無かったので空いている右手で…痛ッ、しまったさっき銃弾がかすめた傷が…
妨害することが出来ずに、俺の首を掴むことに成功した杉山はそのまま左手に力を籠める。
やばくね?いや、やばくね!?首を絞められてるせいで腕から力が抜けて杉山の右手を解放してしまう。
あぁ、走馬燈が見える…鹿島の胸とか翔鶴の尻とか瑞鶴のナイフとか…なんか一つ体のパーツですら無いな…
杉山「驚かせやがって…でも、これで終わりだ。安心しろ脳天をぶち抜いてすぐに楽にしてやるよ…ヒッハッハ」
意識がもうろうとする。死にたくないでござる、どうするかね。どうしようもないね。うん。
杉山「地獄で俺にしたことを悔いるといいさ。それじゃ、あばよ。」
俺はそのセリフに目を強く閉じるのだった。
死というのは、思いのほか怖くは無いのかもしれない。俺は死んだら二次元に言ってハーレムを作るのでとっとと死にたいくらいなのである。
ん?今も似たようなもんだろって?いやいや、こうね?俺に都合のいいことしか起きない世界みたいなね?
例えば髪に芋けんぴついてる世界とか、俺が学園一のモテ男でこう常に周りにバラが咲いてる席に座ってるとかね?
これを人は少女漫画という。あんま読んだことないけど。
死ぬ間際だというのに、そんなことを考えている自分に呆れる。って待てよ?もうすでに俺は死んでてここが二次元という可能性が微レ存…?
目を開けたら、美少女がいたり俺にチート能力が備わってるかもしれない!そんなことを考えながら目を開ける。
そこにいたのは、一人の警察とスモークがもっくもくの裁判所だった。生きてた時と変わらないじゃん!
警察「大丈夫っすか?このやばそうな男は気絶させたっす。とりあえず逃亡ルート案内するから着いてくるっす。」
提督「なんで美少女じゃないの?」
警察「なに言ってるっすか?早く行くっすよ。」
俺は地獄って随分とよくわからない展開で始まるんだな~なんて考えながら警察に着いていく。
隊長「おお、良かった。見失ったと同時に銃声が聞こえたときは身が震えたぜ…とりあえずは無事みたいだな。」
提督「はい、警察さんが助けてくれたんで。」
警察「いえいえ、気にしないで欲しいっす。仕事っすからね。んじゃ、長居してるとまずいんで持ち場返るっす。」
隊長「あぁ、今後とも頼む。何かあれば安全第一にな。」
警察「うっす、護身にだけは長けてる自信あるっすよ。」
ここまで来て、やっと俺は状況を理解できた。そう、俺は生きているのだ。
つまり、まだ死んだら二次元説は否定されていないということになる。おっしゃあ!死ぬ気が沸いたぞ!駄目だこれ。
隊長「それにしてもあんな口から出まかせが良く出るもんだ。」
提督「こっちも頭ん中パンクしそうでしたからね。こっからは全部任せますよ。」
隊長「あぁ、あんな容疑をかけられれば艦娘否定派のやつらも黙って無いだろう。どういった行動をするかはまだわからないがどう考えてもあいつらのが不利さ。」
提督「ほんじゃ、俺は鎮守府に帰りますね。」
隊長「いや、そんなわけにはいかない。お前は俺が逮捕する。」
隊長は不意にそう言って俺に手錠をかける。ん?んんん?どうゆうこと?セクハラとか?
隊長「ええ、こちら隊長。逃亡中の提督を確保。直ちに連行します。」
そして俺は、またもや逮捕されたのであった。んんんんんんんんんんんんん?
ー隊長視点ー
ここは元帥の鎮守府。俺は門から中に入り目的地を目指す。
建物内の奥の方、賑やかな声のする部屋の扉を開く。
提督「瑞鶴てめぇ、また俺に赤甲羅当てやがったな!」
瑞鶴「だって、提督さんが私の前にいるんだから仕方ないじゃん!」
赤城「加賀さん早いですね。コツとかあるんですか?」
加賀「えっと、赤城さんはまず逆走するのをやめるべきじゃないかしら…?」
涼月「この赤い甲羅三個はなんでしょうか…?あ、秋月姉さんごめんなさい…」
秋月「そういうゲームだから気にしないで大丈夫。」
照月「ええ!?涼月赤甲羅持って追いかけてきてるの!?来ないで!」
初月「僕はこの順位をキープするとするかな。」
みんなで楽しくマ〇カしてやがる。仮にも提督は拘束中のはずなんだが…
そう、例の騒ぎの後俺たちは『法廷から逃亡した提督を捕縛した。』
その結果、彼の身柄は一度憲兵側に置かれ今現在、引き渡しなどの面倒くさい書類の処理などが行われているはずだ。
といっても、憲兵側は彼を引き渡すつもりは毛頭ないので、元より軍関係者ならこちらの領分だなどと適当に言ってあしらっている。
警察側も警視総監が丸め込まれている以上そう強くは出てくることは無いだろう。
つまり、実質俺たちは提督の奪還に成功したというわけだ。
提督「隊長さん、こんにちは。今日はどうされましたか?」
隊長「こんにちは、提督さん。今回は調査に進展があったので報告に来ました。別室にて話しますので着いてきてもらえますか?」
提督「了解しました。んじゃ今三位なので後は頼みますね鳳翔さん。」
鳳翔「へ!?え、えっと、えーっと…」
提督は手に持っていたゲーム機を鳳翔に渡すと、俺と共に部屋を出るのだった。
そして、音が漏れないように遠くの部屋まであえて移動し、お互い向き合って席に着く。
提督「お疲れ様です。報告ってことはなにか進展が?」
隊長「ああ、進展なんてもんじゃないぜ。お前が口から出まかせで言ってたあれ事実だったみたいだ。」
隊長「艦娘反対派…つっても一部だが深海棲艦に対して狂信的な信仰がある人物や証拠が見つかっている。」
隊長「なにか犯罪を起こしたわけでは無いから今どうこうすることは出来ねぇがマークするには充分な理由だ。これもお前の一芝居のお陰だな。」
提督「いやぁ、そうは言ってもあれだけの大嘘吐いてしまったんでもう俺娑婆に出れる気がしないんですけどね。」
はっはっはなんて乾いた笑い声を出しながら提督がそんなことを言う。でも、それも対処済みだ。
隊長「それなら気にするな、例の男…なんだったか杉山悟志だったか?あいつに全部の罪を被ってもらった。」
提督「ほへ?」
隊長「簡単に言うと男児殺害と深海棲艦との関与だな。簡単に要約すると大人の力ってやつだ。」
提督「うわぁ、大人汚い。でも、それって警察とかは大丈夫なんですか?そんな怪しい内容に対して動かないとは思わないんですけど。」
隊長「それなら問題ない、杉山と警察側がお前をハメるために手を組んでいた証拠をつかんでな。それを材料に脅したらあっちから頼み込んできたよ。」
提督「うわぁ、ばっちぃ。大人ばっちぃ。」
隊長「まぁ、そう言うなって。だからまぁ、少しの間は顔を覚えてるやつがいるだろうがしばらくすれば霧散するだろうよ。」
提督「それは本当に助かりました、ありがとうございます。それじゃ何点か質問してもいいですか?」
隊長「あぁ、構わないぜ。」
提督「そんじゃ、一つずつ。まず少将の奥さんには本当のことを話したんですか?息子さんの死の真相を。」
隊長「勿論だ。そのうえで少将がやったこともすべて話したさ。」
ここで提督に彼女が精神崩壊を起こしたなんて言ってもどうしようもないものはわかりきっているので伏せておこう。
提督「良かった。愛する人の死因を知らないなんて言うのは悲しいことですからね。」
提督のその言葉が少し心に刺さる。彼女に真実を教えない方が良かったのかもしれないなんて今更思ってしまう。
提督「それじゃ、次にどうやって警察を丸め込んだのか教えてもらっても?」
隊長「それはお前の親父に聞け。あいつが数分電話したらすぐに警察がこっちに着いたんだからな。」
提督「あの人本当に変なところで有能ですよね。それじゃ最後に。」
提督「俺の両親の死の真相をあなたは知っているんですか?」
俺は自分でもそのセリフを聞いて顔が強張るのがわかったのだった。
ー提督視点ー
何故男には胸が無いのか。いや、まぁあるけど小さいのか。
でも、よく考えるともし男女が同じ体だったらお互い全く興奮しないのかもね。知らんけど。
そんなことを考えながら俺は親父を待つ。あの質問を隊長は適当に濁したが、その後親父との面会の場を用意してくれた。
俺は呼ばれた場所、といっても親父の執務室なのですぐ近くなのだが。そこで親父を待っている。
なんだか久しぶりな気がする。そのせいか、少し親父に会うのが楽しみな気がしている。
べ、べつに親父のことなんてなんとも思って無いんだからね!
そんなことを考えていると、部屋の扉が開く。
元帥「提督ぅ…お前どんだけ心配させんだ馬鹿やろォ…」
そして、すぐに親父が泣きながら入ってきた。相変わらずだなぁ…
提督「それはこっちも同じだろ、急に撃たれないでよ。撃たれるなら一週間前には報告してくれないと。」
元帥「んん?撃たれるってわかってたら普通逃げないか!?」
提督「まぁまぁ、久しぶり。親父。」
元帥「あぁ、久しぶりだな。提督。」
そして、俺と親父はとても久しぶりに感じる会話を開始するのだった。
元帥「それにしても、お前から話したいなんて聞いたときは嬉しかったぞ。」
提督「残念ながら親父の期待している家族水入らず的な可愛い内容じゃないよ。」
元帥「えぇ…」
提督「本気で落ち込むなよ、やりにくいなぁ…」
元帥「パパは提督成分不足なんだよ。」
提督「俺はそんなビタミンとかみたいに摂取するもんじゃないわい。それよりそんな時間無いんでしょ?とっとと本題に入ろうぜ。まずは警察に関してだ。」
元帥「警察ってのは犯罪を取り締まったり罪人を捕まえる仕…」
提督「んなことは知っとる。そうじゃなくて親父はどうやって警察を丸め込んだんだ?」
元帥「……ナンノコトデスカネー」
提督「隠しても無駄っす。こういう口調の人が裏で手をまわしたって言ってたっす。」
元帥「まぁ、別に隠す必要もねぇか。簡単に言うと俺が警視総監殿のイケない事情の証拠を持ってたってだけだ。」
提督「なるほどね、上の保身のために俺を見逃したと。汚いねぇ。ばっちぃ皆ばっちぃ。」
元帥「結局誰しも最後には我が身大事ってわけだよ。俺は綺麗だよ?毎日お風呂入ってるし。」
提督「あんたが保身させたんだろうに。んじゃ、次だ。俺の両親はなんで死んだんだ?」
俺の質問に一瞬親父の表情が強張ったのを俺は見逃さなかった。
元帥「なんだ、お前忘れたのか?お前の両親は…」
提督「親父、なにか知ってるんだろ?」
俺は濁そうとする親父に追い打ちをかける。
元帥「………あぁ。」
提督「話してくれない?」
俺は親父の反応に少し嫌な予感が走る。無知ほど怖いものは無いとよく言うが、それは無知ゆえにどんな恐怖も想像できてしまうからだろう。
元帥「…………あれは、俺がまだこの地位についていなかったころだ。」
そして、親父は一人の男の物語を語り始めた。
十五年前、海軍内は一つの話題で持ちきりだった。そう、新しい元帥についてだ。
候補は二人、どちらも経歴が輝かしくどちらが元帥になってもおかしくないといった時だった。
そんな時、海岸沿いの町と元帥候補の一人、重田さんの鎮守府が深海棲艦によって壊滅させられた。重田さんはその際に死亡。
それによって、候補はもう一人の元帥候補である吉島孝明で確定したようなものだった。
ある男が襲撃の真相にたどり着くまでは。ある男、いやここでは司令官とでも称しておこうか。
その男はな大切な……人を失った直後だったんだ。それでその事件について調べ回っていた。
その時に司令官はあるものを見つけてしまった。それが捏造された海域情報だったんだ。
そしてそれと同時に自分が大切な人を失った原因がその計画のための実験だったということを知った。
要は彼の鎮守府を使って上手く偽の情報を流すことができるかの実験をしてやがったんだ。結果は大成功ってな。
そして、深海棲艦の襲撃があったとき誰かが偽の情報を流して町と鎮守府の警備を緩くした。
ここまで話せばわかると思うが、ここで襲撃されたのがお前の街だよ。
司令官はすぐに犯人が分かった。こんなことをこのタイミングでする人間なんて一人しかいないだろ?といっても証拠を持たずに問い詰めても意味がない。
だから司令官は情報を集めた。どんなことだってした。悪に手を染めることさえいとわなかった。
そして、司令官は吉島を問い詰めた。数々の証拠を提示してな。
その時に吉島はこういった。
『取引しないかい?君がこれを黙っていてくれれば僕は元帥になれる。そうしたら君に輝かしい階級と金額を約束しよう。悪い話では無いだろう?』
その台詞は司令官にとって許せないものだった。彼は激情した。階級や金と彼女を秤にかけられたように思って感情が制御できなくなってしまった。
そして司令官は吉島を殺していた。無意識に、殺さなければいけないという怒りから来る感情に任せて。
銃声で寄ってきた憲兵に捕縛された司令官は、もうこんな経験をしたくない一心から自分が元帥になればいいと考えた。
そして、司令官は罪を自白した。全ての吉島の悪事を知り問い詰めたら抵抗されたから殺してしまったと。自分の殺人を利用することにしたのだ。
結果、司令官は周囲から称賛された。危うく悪人を元帥に担ぎ上げるところだったのだ。それを食い止めた司令官は英雄のように言われた。
とはいえ、人殺しである以上周囲からの奇異な視線も少なくは無かったのだが。
そしてそのまま司令官は自分のアドバンテージである艦娘の知識を使って元帥の地位を得た。
ここまで話したんだ、折角だから最後まで話すとしようか。
時間は冬にまで流れる。司令官、改め元帥は例の事件で壊滅した住人たちを訪ねにいった。
彼は元帥の仕事をしながら自分の罪を少しずつ自覚していた。それを誤魔化すために対象こそ違えど深海棲艦への怒りを抱えているだろう人たちに会おうと思ったんだ。
そうすれば、自分が間違って無いと肯定できるなんて思っていた。
でも、そこで彼が見た光景は前を向いて力強く生きようとする人たちだった。
家を家族を失っても笑いながら、強く生きようとする人たちだった。
元帥はその光景がまるで自分を責めているように見えてすぐにその場を去ろうとした。その時一人の子供を見つけたんだ。
その子は元帥と同じで死んだ目をしていて、怒りに満ちているようで…そんなただの子供を見て彼は安心感を得ていた。
ふと彼は近くにいた人に子供について尋ねてみた。
元帥「あの子はどういった子なんです?」
女性「ああ、提督くんですか?あの襲撃の時に両親を失ってお兄さんにも置いてかれちゃったみたいで…可哀想ですよね。」
その時、彼の中のなにかが壊れた。彼が拒み続けていた現実が彼に襲い掛かった。
そう、彼は自分では理解していたんだ。吉島を利用したということを、いや、吉島の先にある襲撃自体を自分が利用したことを。
そして、なによりその行為が自分の大切な人の死をも利用することであることを。
彼は自分の復讐のために吉島を殺したに過ぎない。本当はそこで捕まるなり裁かれるなりするべきだったのだ。彼女の復讐として殺したと、自分の意志で殺したと。
でも、元帥は自分がもうこんな思いをしたくないという恐怖に駆られ、自分の罪すら利用した。
死のう…彼はそう思った。そのすべてを自覚してしまった彼はもう生きる気力なんて少しも残って無かった。
その時、元帥のもとにボールが飛んできた。青い小さなボール。そしてそれを追うようにあの子供がやってきた。
元帥「ボールで遊んでいるのかい?」
彼はボールを子供に渡しながらそう聞いた。
子供「うん、でもお兄ちゃんもママもパパもいないからキャッチボールが出来ないの。」
その台詞は、酷く俺の心を抉った。まるで俺だけ死んで逃げるのを許さないと神が言っているかのように。
そして、彼は決めた。この苦しみを背負って…せめて誰か一人でもいいから守って見せようと。背負った罪と共に自信をもってなにかを成せたと胸を張れるように。
そして彼は…いや、俺は子供だったお前にこう言ったんだ。精いっぱいの笑顔でな。
元帥「俺がお前の家族になってやる。一緒にキャッチボールをしてあげるってな。」
親父の自白に俺は言葉を失う。なにを言えばいい?なにを思えばいい?
怒ればいいのか?同情すればいいのか?それとも、俺は…
元帥「俺はお前が俺を殺したいというのなら甘んじて受け入れる。この地位の重さを知って押し付ける気も…」
提督「歯ぁ食いしばれ。クソ親父。」
俺はそう言って思い切り親父の顔面をぶん殴る。甘ったれてるクソ親父の顔面を。
提督「なにが甘んじて受け入れるだ。アホかてめぇは」
元帥「………」
提督「誰か一人でも守る?甘ったれてんじゃねぇよ本当に。大切なもの全部拾って見せろよ、あんたはそんな小さな男なのかよ。」
俺は叫ぶ。ずっと目標にしてきた大きな背中が俺しか背負ってないなんてそんなの認めない。
提督「俺も大和さんも艦娘も人間も全部守って見せろよ、そんくらいの覚悟がねぇなら俺の親父なんて認めねぇからなッ」
俺は全部を守りたい。なにもかもを失うのが嫌だから、失うのは苦しいから。それが実現できないのなんてとっくに知ってる。
でも、目標や夢はどんなに大きくたっていいじゃないか。
元帥「………俺だって、守れるもんなら守りた…」
提督「弱音吐こうとしてんじゃねぇよッだったら死ぬまで守れよッ出来るかどうかなんざ知るか、やるんだよッ」
提督「寿命で死ぬまで俺が見張っててやるよ。だからその情けない表情どうにかして早く俺の好きなあんたに戻れよ。」
俺はそう言って執務室から出る。無茶苦茶言ってるのは分かっている。親父だって人間だ、俺の夢じゃない。
それでも、それを知っていても俺はただあの人にはあんな表情をして欲しくは無かった。あんな弱音は聞きたくなかった。
大和「少し話しませんか?」
部屋から出た俺に話しかけてきたのは、大和さんだった。
俺と大和さんは場所を移し、向かい合って席に着く。よく考えると撃たれた後に会うのは初めてだ。
提督「怪我はもう大丈夫なんですか?」
大和「はい、あの時は守ってくれてありがとう。でも、次からはまず自分の安全を第一にしてね?」
提督「多分無理ですけど…了解です。」
大和「それは了解とは言いませんよ、全くもう。」
仕方ないといったように笑いながら大和さんは言う。
人には過去があり、歴史があるとはよく言ったものでそれぞれ皆なにかしらを背負って生きている。
二人の男の背負うものを知った…知ってしまった俺は今目の前にいる女性ですらなにかを背負ってると考えてしまう。
生きる…というのは酷く簡単なようで、とても難しいのかもしれない。
提督「それで、どうしたんですか?なにか俺に話が?」
大和「はい、提督君に話しておきたいことがあって。鈴谷さんについて。」
俺はその返しに少し身構える。普段ならBWHについてですか?なんて返すのかもしれないが…今の俺にそんな余裕はない。
提督「聞かせてください。」
大和「最初は本人に口止めをされていたので言うか悩んでいたんですけど、これは提督君には知る権利があると思うので話しますね。」
そして、大和さんはそっと語り始めた。
彼女が目覚めたときの話です。幸運なことに私が久しぶりにお見舞いに行ったときに彼女は目覚めました。
鈴谷「あなたは…?」
彼女は私を見てそう言いました。
大和「私は大和型一番艦大和です。元帥の鎮守府に属しています。」
鈴谷「ここはどこですか…?」
大和「ここは海軍の保有する病院ですよ。あなたはずっと意識不明だったんです。」
鈴谷「鈴谷は…生きているんですか?」
大和「ええ、あなたは生きていますよ。ひとまず頭の中を整理した方がいいでしょう。」
そう言って、私は一度部屋から退室しました。彼女には一人で考える時間が必要だと思ったんです。
そうして、どれくらい待ったでしょうか。私は本を少し読んで再度彼女の病室を訪ねました。
すると、彼女は泣いていたんです。そして何度もごめんなさいと言っていました。何度も何度も。
大和「大丈夫ですか?」
鈴谷「……すいません…みっともないところを、私は捕まったのでしょうか?」
大和「ええ、そういう解釈で正しいと思いますよ。」
鈴谷「それで…その…罪人である私が尋ねるのは図々しいというのは重々承知なのですが…私と一緒にいた男性は…その元気でいるのでしょうか?」
私はその質問を聞いたときに確信しました。彼女が誰だけ提督君を想っているのかと。
彼女の質問に対して、最初にあえて強く返しました。あなたは捕まったのだと。それなのに最初に心配したのは自分より提督君だったんです。
甘いと言われてしまうかもしれませんが、その時点で私は彼女への警戒をほぼ無くしてしまいました。
大和「一からすべて話した方がいいみたいですね。」
そして、私は提督君の素性や今の鈴谷さんの立場などを教えました。
鈴谷「教えていただきありがとうございます。それで私はどのような罰を受ければいいのでしょうか?」
大和「罰…ですか?」
鈴谷「はい、鈴…私は故意にではありませんが人を殺してしまいました。ですから、それ相応の罰を受ける覚悟です。」
大和「そうは言われても…事実上は深海棲艦の攻撃ということになっていますし…」
鈴谷「それは偽られた事実ですよね?人間を殺してしまった兵器である私にこの世で生きる権利はありません……なので解体してください。」
大和「それは私個人の一存ではなんとも。恐らくですが、解体なんていう思い処罰にはならないと思いますよ?」
鈴谷「駄目です。解体じゃないと駄目なんです。だから…その、そう元帥殿に進言していただきたいです。どうかよろしくお願いします。」
彼女はそう言って私に頭を下げました。私を殺すように頼んで欲しいと、私が生きてきた中で最も悲しい頼み事だったかもしれません。
でも、それは罪を受け入れているようでいて逃げているように感じました。生き残ってしまった罪悪感から逃れようとしているような。
上手く言葉にはできないのですが、姉妹の中で自分だけ生き残った絶望感や関係のない市民を巻き込んでしまった罪悪感から逃れようとしているような。
中々きつい言い方になってしまいますが、それは罪を償うよりは罪から逃れようとしているように感じたんです。
その時は、わかりましたとだけ言って病室を後にしました。
それから私は、彼女との会話をすべて元帥に話しました。あの人はそれを聞いて私にもう少し色々話してみて欲しいと言いました。
私はそれに頷き、処分は検討中ということにして何度も鈴谷さんに会いに行きました。
彼女はもう死ぬと決めつけているみたいで、中々私に心を開いてはくれませんでした。下手な未練は残したくなかったんでしょうね。
そんなある日、私が日課になりつつあったお見舞いに向かおうとすると元帥に呼び止められて提督君の写真と言伝を預かったんです。
その時あの人はこう言いました。今伝えたことをお前なりに彼女に伝えて欲しいと。それで考えが変わらないのなら、解体を認めようと。
提督が誘拐される少し前の出来事です。あの人はきっと、提督君に殴られた時の自分を見ている気分だったのかもしれませんね。
そして、私は鈴谷さんの病室を訪ねました。
大和「鈴谷さん、こちらの写真を見てください。」
私はそう言って、提督君の写真を渡しました。ここに現物がありますよ、車椅子に乗っている写真です。
鈴谷「この写真は一体…なんで提督がこんな怪我を!」
大和「彼は、元ブラック鎮守府に着任しました。そこで傷つきながら艦娘のケアをしつつ指揮をしています。その怪我は艦娘がさせたものです。」
鈴谷「なんで元ブラック鎮守府なんて危険な場所に…彼が心配じゃないんですか!こんなことするなんて、提督はなにも悪くな…」
大和「甘ったれたことを言わないでください。あなたはもう彼に関わる権利は愚か心配する権利もありません。」
鈴谷「………」
大和「あなたが自殺未遂をしたときに提督君がどれだけ自分を責めたかわかっているんですか?貴方が彼をどれだけ変えてしまったかわかっているんですか?」
大和「提督君を傷つける艦娘が許せないですか?それなら自分もですね。あなたは彼の心を傷つけた。深く深く。」
私がそう言っている間、彼女はなにも言いませんでした。ただ下を向くだけで、なにも。
大和「それを自覚して、まだあなたは死んで罪から逃れようというんですか?提督君が傷ついて戦い続けるのに、あなたは逃げるんですか?」
今、本音を漏らしてしまうと正直私もきつかったです。あの人を恨みますよ、全てが正しいからこそとても残酷で、まるで迷路のように彼女の逃げ道を消す言葉の数々。
鈴谷「……なら、鈴谷はどうすればいいの…もう、鈴谷にはなにも…」
大和「あなたは艦娘です。私たちの使命は戦うことです、お国を守ることです。もし今の言葉になにか思うことがあったのならば使命を果たすことが償いになるでしょう。」
大和「これが元帥からの言伝です。もしもこれを聞いた後でも鈴谷さんが解体を望むのならそうしてもいいと言っていましたが、どうしますか?」
彼女はなにも言いませんでした。いえ、なにも言えなかったんでしょうね。少しして先に私が口を開きました。
大和「私たちは艦娘です、本来ただの兵器であって会話どころか自我すらないはずの存在が、突然こうして人の姿を得たものです。」
大和「私は、今まで数多くの深海棲艦を沈めてきました。艦娘になった当初、私はずっと敵を沈めるということに罪悪感を抱えていました。」
大和「敵と言えど、深海棲艦にも自我があるのは確認されています。それを沈めているというのに…自分だけ得た感情で笑うのはどうなのかと考えていたんです。」
大和「その時、妹が私にこう言ったんです。」
武蔵『そう難しいことじゃないさ。笑っていればいい、殺した相手の分まで笑えばいい。そうすればあの世にいる殺した相手も思い切り私を恨めるというものだ。』
武蔵『逆に私を沈めた相手が辛気臭い顔をしていたんじゃ、沈められ甲斐が無いってもんじゃないか?』
これは、武蔵が私に言ってくれた言葉だ。この台詞のお陰で私は今でも笑顔になれている。たかが一言、されど一言がその人の世界を変えることもあるのだ。
大和「これは敵を対象とした会話ですが、私は仲間でも当てはまると思うんです。」
大和「もし、私の大切な人が失敗をして私が死んでしまったとしたらその人には私の分まで笑顔で生きていて欲しいですから。」
大和「そして、残された側はその願望にこたえるのが償いなんだろうと私は思うんです。とても難しくて辛いことですが、それが生きるということなんだと思います。」
鈴谷「でも…鈴谷達は艦娘なんです。ただの兵器です、しかも人を殺してしまった…なんの罪もない人たちを…」
大和「それでも笑うんです。その奪ってしまった命を知って、命を奪った罪に心が壊れそうになっても笑うんです。それがきっと償いになるはずです。」
大和「もしかしたら見当違いなのかもしれないですけど、私はそう信じています。」
鈴谷「…なんで…感情なんて、神様はくれたんですかね…」
そう言って、彼女は泣いていました。顔をぐちゃぐちゃにしながら泣いていました。
大和「ある人と昔こんな話をしました。あなたも良く知る人です。」
提督『苦しいときや悲しいときに笑えってフレーズよく見ますけど、そんなん無理ですよね。泣きたいときは泣いといて次の日に笑えりゃそれが一番だと思いますね俺は。』
大和『そのとおりですね、でも今更ではありますけど艦娘ってどうして感情を持ったんでしょうね。兵器である私たちには必要ないのに。』
提督『意味なんて無いですよ。ただ感情がそこにあっただけ、必要不必要なんて言ってたら人間なんて三食食って寝てりゃいいだけですもん。』
提督『人間やってると分かりますけど、存外必要ないことってのが一番楽しかったりするんですよ。それが必要なことを妨害するくらいに。』
提督『だから、難しく考える必要なんて無いんです。自分なりの答えを出して、折角あるんですから恋してみたり笑ってみたり泣いてみたり。』
提督『そこに意味なんて無いけれど、不思議と無駄だとは思わないのが生きるってことなんですよ。』
これは提督くんとマンガを読んでいた時の会話ですね。提督君はなにも考えずに言っていたのかもしれませんけど、私にはとても刺さった言葉だったのでずっと覚えています。
鈴谷「私は…生きていてもいいんでしょうか?」
大和「はい、でも許されるわけではありません。罪を責任を背負ってそれでも生きるんです。精いっぱい笑顔で。」
鈴谷「…生きるって、こんなに難しいんですね。」
そう言って、彼女は顔を歪めていました。それが笑顔を作ろうとしたのか、泣き顔だったのかは私にはわかりませんでした。
大和「そして、彼女は提督君と再会したというわけです。」
俺はこの話を聞いてハチさんを思い出していた。あの人も言っていた、自分たちの分まで幸せになれと。
それはとても綺麗なセリフのようで、呪いのように思えた。永遠に消えない誰かの想いを背負い続けるという呪い。
でも、それから目を逸らしてしまったらきっと俺は俺を許せなくなる。鈴谷でさえそれを背負うことを決意したのだ。
提督「大和さん、わざわざ話してくれてありがとうございます。」
大和「いえ、これは私が話すべきだと思ったことですから。」
提督「鈴谷とは俺も話してみます。話を変えますけど、結婚おめでとうございます。」
大和「本当に突然ですね。ありがとう、これで私も提督君の正式な義母ですね。」
義母って聞くとエッチに感じるのは多分そういう本の読みすぎだろう。ゲフンゲフン。
提督「俺はじゃあ、部屋に戻りますね。いつもありがとう母さん。」
俺は少し照れ臭かったが、そう言って部屋から出る。不思議と俺は背中が軽くなったようだった。
別に、ハチさんや親父の想いを軽視するわけじゃない。ただ俺は笑おうと思ったのだ、それが償いになるかなんてわからない。
ただ一つ分かったのは、きっと生き方に正解なんてなくて自分の信じたものこそが人生の教科書なんだろうということだ。
なら俺は変態のまま生きていこう。そう決意したのだった。なんか最後で台無しだね!?
ー元帥視点ー
大和「全て、話したんですね。」
元帥「ああ、もうあいつには知る権利も覚悟もあると思ったからな。」
俺は提督が去るのを見送ってから、大和と合流する。
元帥「お前はあいつになにを話してたんだ?」
大和「鈴谷さんのことですよ。提督君は例の逮捕の件から妙に思いつめた表情を見せることがあったので、なにかあったのかなと思って。」
元帥「なるほどな、人間ってのも厄介な生き物だな。なにかと背負って生きなくちゃいけないってのは。」
大和「そうですね。とりあえず元帥には私を背負ってもらわないと。ね?あなた。」
不意に見せた大和の笑顔に頬が熱くなる。こういうことを恥ずかし気もなく言えるのはずるいと思う。
元帥「精々落とさないように頑張るとするさ。」
そう返し、俺と大和は笑顔を見せあうのだった。
ー提督視点ー
あれから一週間。俺は自分の鎮守府に戻ってきていた。
秋月や日向さんたちがまだいればいいのになんて言っていたが、あのニート生活をこれ以上続けてたら駄目になる気がした。
てか、実は半分くらい駄目になってる。働きたくないでござる!
とはいえ、それじゃいかんので強引にここに戻ってくることで仕事に復帰しようというわけだ。
あれ?なんかブラック思考じゃね?
そんなことを考えながら俺は執務室に足を踏み入れる。
鈴谷「おかえり!提督!」
すると、すぐに鈴谷が出迎えてくれた。
親父の鎮守府に来ていたメンツは普通に顔を合わせていたが、お留守番役だった大半の艦娘には会うのが久しぶりだ。
提督「ただいま、鈴谷。」
大和さんから聞いた鈴谷の覚悟を思い出す。この笑顔の奥に様々な葛藤があると思うと…思わず目を逸らしたくなる。
鈴谷「どしたの浮かない顔して?鈴谷が抱きしめて慰めてあげよっか?」
にひひなんて可愛くない笑い方をしながら鈴谷が言う。それも悪くないと思い、俺はそっと鈴谷を抱きしめる。
ん?抱きしめる?ん?
鈴谷「へ!?あ、あの…提督?」
俺の胸元にある鈴谷の顔が俺を見上げながら真っ赤になってる。可愛いなおい。って何してんだ俺はァ!
提督「ごめん、なんか無意識に抱きしめてた!」
鈴谷「無意識にってなに!?提督のエッチ!」
いや、待てよ!?お前が抱きしめるか聞いたんだろ!?おおん!?
瑞鶴「随分と楽しそうですね。私は失礼しますよ。」
俺と鈴谷がなんとも言えない雰囲気を醸し出していると、扉の方からそんな声が聞こえてくる。
おや?瑞鶴は機嫌が悪いようだ。どうしたんだろう?てか、あいつ書類にナイフ当てて何してんだ…って、それは不味くないか!?
提督「おい、瑞鶴お前なにしようとしてんだ!?」
瑞鶴「いえ、お二人でお楽しみのようだったのでこちらの書類を処理しようかと思いまして。」
提督「処理しちゃ駄目だろ!?それ重要な書類さんだよね!?」
瑞鶴「ふーんだ、提督さんは鈴谷さんとイチャイチャしてればいいじゃん!バーカ!」
提督「落ち着け、落ち着くんだ瑞鶴。お前も抱きしめてやるから…な?」
なんか、見当違いのことを言っている気もするが書類の為なら致し方なし。そう、仕方ないのだ。
瑞鶴「な!?べ、べつに抱きしめて欲しいなんて言ってないじゃな…あ。」
ビリッという音がその場に響く。あぁ、今日はいい天気だなぁ…
大淀『それで書類を破いたんですか…』
提督「はい、本当にごめんなさい…」
あの後、二人を執務室から追い出し大淀さんに救援を求めております。ヘルプミー
大淀『仕方ないので書類はこちらで作り直して明日届けます。』
提督「助かります。本当にありがとうございます。感謝感激です。」
出来ることなら今後はうちの鎮守府だけ書類の予備を五枚くらい渡して欲しいものだ。火事にでもなって全部消える気がするけど。
大淀『ちなみに、書類の中身は確認したんですか?』
提督「へ?いいえ、確認する前に二つになったのでよく見て無いですね。」
大淀『一波乱覚悟しといたほうがいいですよ。あの書類はケッコンカッコカリのものなので。』
その台詞を聞いて俺の脳内にニュー〇イプ的な感じで嫌な予感が過ぎる。
ケッコンカッコカリとは、艦娘と提督が行う契約のことでそれをすることで燃費が良くなったり練度上限が解放されたりするものだ。
『指輪』という名の強化アイテムが海域で発見されたのは前のことだが、艦娘と結婚とうのはどうなんだ?という世間の目があったため今までは使われていなかった。
そんな中で結婚かっこガチをしたのがマイファザーでござる。その結果、お互いの同意があった場合のみ『指輪』の使用が許可されたのだ。
とはいえ、指輪の支給には申請とその後の厳密な審査が必要なのだが…まぁ親父が手をまわしたんでしょうね。
提督「すいません、大淀さん。その書類ここに届く前にヤギに食べられたりしませんかね?」
大淀『そんなことあるわけないでしょ…使うかどうかは提督に決定権があるわけですし隠しておけばいいんじゃないですか?』
提督「それもそうですね、ところでうちにその書類を送ることを決定したのは誰ですかね?」
大淀『勿論、元帥ですよ。』
おし、殺す。もう殺す。これから起きる騒動で俺が死ななければ。
そこまで話して俺は電話を切る。
なんかツインテと緑のが襲ってくる未来が見える気がするけど、気のせい…気のせ…いじゃないんだよなぁ…
実用性を求めるのなら、赤城や加賀、長門などが適しているのだろうが結婚と仮にとはいえついているものをそんな理由でするわけにはいかない。
それ以前に長門と結婚とか俺が嫁側になっちまう…男のプライドが!
一週回って不知火とか?絶対いい嫁になると思うの俺。まぁ、死ぬまでロリコンと言われそうなわけだが。OMG
いずれにせよ、執務室に置いてあったもう一つの書類のほうを見て心を落ち着けよう。
えっと?海外艦がうんたらかんたら?なんだこれ?
あ、なるほどね。日本の深海棲艦が強力だから海外の艦娘に支援してもらうってことか。
それで受け入れ先の鎮守府を募集しているってことか。どうしよう俺、はろーはわゆーくらいしか喋れねぇからなぁ。
ここは、断っておくか。わざわざ支援に来てくれる艦娘たちとコミュニケーションを出来ないなんて……
俺はそんなことを考えながら、ページをめくり考えを百八十度変える。おし!受け入れよう!
あえて言おう、この胸部装甲はずるいよ。皆最高じゃないか!流石海外!流石世界!しかも日本語喋れるって!
でも、こんな可愛いなら受け入れ先なんて大量にありそうだがなんて思い、名前を見てみる。
そこにはサラトガ、グラーフ・ツエッペリン、プリンツ・オイゲン、ビスマルクと書かれてあった。
俺はその中でもサラトガという名前が目に留まる。艦だったころに日本軍とたたかった艦。なるほど、海軍に属するものなら受け入れにくくはあるのだろう。
いくら生まれ変わりや記憶があるだけとはいえ、過去に同士を殺したのには違いないのだ。
んじゃまぁ、ラッキーということで俺が受け入れます。ん?さっきまでのシリアスっぽいのはなんだったのかって?
知るかそんなの、可愛い子を傍に置けるなら置くに決まってんだろ!
それに殺したのは彼女に乗っていた人間であり、そもそも人間が同種族で争うことが無ければ兵器である彼女たちは生まれることすら無かったのだから。
しかし、そんなことを言いつつもサラトガの受け入れだけは躊躇ってしまう俺がいた。
そんなことを考えていると、部屋の扉がノックされる。
曙「失礼するわよ、クソ提督。」
漣「お邪魔しますご主人様~」
朧「失礼します。」
潮「そ、その、失礼します。」
やってきたのは、第七駆逐隊のメンツだった。
提督「おう、どうしたんだ?なにか問題でもあったのか?」
漣「いえいえ、問題は無いんですがね。ぼのたんが久しぶりにご主人様に会いたいとごねまして。」
曙「な!?あんたがクソ提督に会いに行こうって言ったから私は仕方なく来ただけよ!あと、ぼのたん言うな!」
朧「でも、良かった。提督はどこも怪我してないみたいだね。」
潮「今回も無理をしたと聞いていたので、何もなかったようで良かったです。」
提督「わざわざ心配してくれたのか、ありがとうな。俺は全然元気さ。」
実際は、右手に傷があるのだが今までに比べれば何の問題もないくらいだ。あと数日で完治するだろう。
一番の問題はメンタル。ああ、潮ちゃんその年不相応な胸部で癒して…
曙「べ、べつに私は心配なんかしてないわよ。」
漣「そんなこと言ちゃって~、聞いてくださいよご主人様。ぼのたんったらご主人様が逮捕されたとき直談判しようとしてたんですわよ~」
曙「こら!漣余計なこと言うんじゃ無いわよ!」
漣「まぁまぁ、事実なんですしそう怒らなさんな~ご主人様ばいば~い」
曙「この、こら!待ちなさいよ!」
そんなやり取りをしながら曙と漣が部屋から出て行った。嵐のような奴らだことだ。
朧「それで、潮。渡さなくていいの?」
不意に朧が潮にそんなことを言う。なになに?胸部もみもみ券的な?よろこんで受け取りますよ?
潮「…あ、あの提督。」
提督「ん?どうした?潮。」
さっきまで俯いていた潮がもじもじしながら声をかけてくる。なんかこっちまでこっぱずかしくなるなこれ。
潮「ご迷惑でなければ…その、これ。」
そう言いながら潮が差し出してきたのは、お守りだった。可愛いうさぎが刺繍してある。
潮「その…提督はいつも怪我が多いので…少しでも元気でいて欲しくて…」
なにこの天使。皆様、俺は潮教に転身します。とりあえず、潮の頭を撫でよう。
提督「ありがとうな、大事にするよ。」
俺に撫でられながら、潮はかわいらしい笑顔を俺に見せてくれたのだった。危ない危ない、今まさに萌え死ぬとこだったぜ…
とりあえず、二人と少し雑談し執務を片付ける。
一通りの執務をこなして、適当に昼寝でもするかなんて考えていると。執務室の扉がノックされた。
そして、入ってきたのは瑞鶴だった。
瑞鶴「その…さっきは、書類破いちゃってごめんなさい…」
相変わらず色々やらかすくせに、きちんと謝罪するから質が悪い。謝っている相手を責め立てるってのは流石に可哀想だしね。
提督「まぁ、大淀さんに連絡をして事なきを得たから気にしなくていいさ。」
瑞鶴「そっか、良かった。それであの書類内容はなんだったの?」
不味い…これは実に不味い。もしここで真実を打ち明けようものなら鈴谷と瑞鶴の正妻戦争が勃発すること待ったなしだ!
そんな中で翔鶴を選んでみろ…今度は書類じゃなくて俺が真っ二つに…ワンチャン、アメーバみたいに分裂する可能性も…?
無いわ、いや、どっちにせよ俺が二人とか収集つかねぇわ。
提督「あぁ、あの書類な。あれはここに新しく配属される海外艦についての詳細報告だよ。」
仕方ないので俺は適当に誤魔化す。
瑞鶴「ここに新しい艦娘が配属されるの?」
提督「あぁ、この子たちだよ。」
俺はそう言ってさっきまで見ていた書類を瑞鶴に見せる。
瑞鶴はそこに映っている写真をまじまじと見た後、自分の胸を見つめていた。諦めろ、お前の負けだ。
提督「聞いてみたいんだが、お前たち艦娘からしたらサラトガが味方になるってのはどうなんだ?もしかして嫌だったりするか?」
俺は瑞鶴に問う。一番に問うべきは龍驤なのだろうが、やはり身近な艦娘に聞いてからのほうがやりやすいと思ったからだ。
個人的にはアニメとかで元敵キャラが仲間になる流れは大好物なのだが…こればっかは自分の一存で決められることではないのだ。
まぁ、それ以前にサラトガさん滅茶苦茶好みなんで土下座してでもうちに配属して欲しい!!!なんやこの溢れ出る母性は!
瑞鶴「んー、確かに敵だったってことは覚えてるけどさ。私は直接因縁があるわけでもないし…艦の記憶っていっても覚えてるってだけだし。」
提督「じゃあ、別に気にならないってことか?」
瑞鶴「私はね。敵といっても私たちが相手していたのはアメリカであってこのサラトガさんではないもん。因縁のある艦娘はどうかわからないけど。」
提督「そういうもんなのか…?もっとこう敵は絶対許さないみたいなの無いのか?」
龍驤「そやねぇ、逆に司令官は将棋してるとして敵として認識するんは誰や?」
提督「そりゃ、対戦相手…あぁ、なるほどな。」
龍驤「そやそや、勝負に負けた時。王将を取った金将や飛車を恨むことは無いやろ?それと一緒っちゅうことやね。」
提督「なるほどなぁ。」
俺は質問の返しに思わず納得する。戦ってたのは船じゃなくて国だったってことか。そんなことを考えていると、横に貧乳が増えていることに気づく。
提督「うおお!?龍驤お前いつからいたんだ!?」
龍驤「いや、普通に今会話してたやろ。キミの質問に答えてたのうちやよ?」
提督「あれ?もう一人の貧乳は!?」
瑞鶴「その言い方で返事するのは癪だけど、後ろにいるよ?提督さん。」
突然龍驤が現れたことに驚いて思わず心の声が口に出る。おいおいおい、俺死んだじゃん。
龍驤「もう一人っちゅうことは、うちのことも貧乳言うたってことやな?」
後方と左側から殺意を感知。ごめんな潮、お前がくれたお守りの加護一時間も持たなかったよ…
そして俺は思い切り両頬をぶん殴られるのであった。
そんなこんなで、海外艦受け入れ日当日。俺は龍驤と共に執務室で彼女たちが訪れるのを待つ。
なんで龍驤がいるのかというと、本人が言うにはこういうことらしい。
龍驤「いやね、うちがこの鎮守府にいるっちゅうことをサラトガさんが後に知ったら空気悪くなりそうやー思って先に挨拶しとこうっちゅー算段や。」
俺は最後にもう一度だけ龍驤に質問してみることにする。
提督「本当に良かったのか?お前はともかく艦の記憶ってのは乗船員のも少し交じってるんだろう?彼らが海外艦との交流を受け入れてくれるとは…」
龍驤「んな難しい話せんでいいって。うちがいいって言ってんだからいいっちゅうねん。キミは細かいこと気にしすぎや!」
提督「そっか、ありがとな。」
そう言う龍驤は優しい笑顔を浮かべていた。
この龍驤っていう艦娘は幼い容姿に似合わないとても優しく大人な性格をしている。胸や容姿は幼いけど。幼いけどォ!
スパーンなんていう音が執務室に響く。音を立てたのは俺の頭です。
提督「なんで俺スリッパで叩かれたんだ!?なんもしてないだろ俺!?てか、なんでここにスリッパなんてあるんだ!?」
龍驤「なんでやろ…うち今キミに馬鹿にされた気がして気づいたら手元にスリッパがあったもんで…」
エスパーかなんかかこいつ!?この鎮守府で龍驤を馬鹿にするのは例え脳内であっても控えることにしよう(控えるとは言ってない)
そんなことを考えていると、執務室の扉がノックされる。
提督「どうぞ。」
俺がそうやって声をかけると、執務室に四人の艦娘が入ってきた。
左からグラーフ・ツエッペリン、ビスマルク、プリンツ・オイゲン、サラトガだ。
こうさ?金髪っていいよね?そして流石海外!なにもかもが大きいぜ!身長負けてなくてよかった!
グラーフ「私が航空母艦GrafZeppelinだ。貴方が私たちを受け入れてくれたこと感謝する。これからよろしく頼むAdmiral。」
ビスマルク「私はビスマルク型戦艦のネームシップ、ビスマルクよ。この海でも縦横矛盾に活躍するわ!期待してなさい!」
プリンツ「私は重巡プリンツ・オイゲン。ビスマルク姉さま共々よろしくお願いします!」
サラトガ「航空母艦、サラトガです。その…よろしくお願いします。」
多分縦横無尽って言いたかったんだろうな。うん。ドイツ艦の三人はともかくサラトガさんは少し気まずそうにしている。
同国の艦娘がいないのと、龍驤がいる気まずさのせいだろう。
提督「俺が新たに四人の提督になる提督というものです。わざわざ遠いところから助力に来てくれてありがとうございます。」
グラーフ「いや、私たちこそ貴方が受け入れてくれなかったら解体されるところだったんだ。本当に感謝している。」
提督「ん?解体?」
グラーフ「あぁ、私たちドイツ艦三人は建造を多用するadmiralのもとで建造されたんだ。」
ビスマルク「それで、他に育ってる艦娘いるからお前たちはいらないって言われて…色々なとこに飛ばされたのちにここに来たってわけよ。」
プリンツ「その…なので海外からの支援と言ってもただの厄介払いに近いのかもしれないです…ごめんなさい。」
三人はそう言った後、暗い表情を見せる。知らねぇなぁ!性能を見て受け入れたわけじゃねぇしなぁ!可愛ければ全然おうけぇだぜ!もちろん口には出さないけどね。
それにしてもこんなかわいい子たちを手放すとか建造した提督はロリコンかホモだな?そうに違いない。
提督「それなら俺も敏腕提督ってわけでも無いし気にしなくていいですよ。これから強くなって今までの分見返してやりましょう。」
俺の台詞に三人が明るい表情を取り戻す。おお?チョロインか?おおお?いや、無いな。
さて、こっちの三人はともかく…サラトガさんをどうしたものか。龍驤のことを横目でチラチラ見ているせいかとても落ち着きがなく見える。
そして龍驤もどうすればいいかわからないといったように俺を見ている。仕方ない、部下のいざこざの解消も上司の仕事ですね。
提督「龍驤、グラーフたちに鎮守府内の案内をしてやってくれないか?サラトガさんは少し残っててください。」
龍驤「任されたで!ほな、三人とも着いてきてな。」
俺の横を通り過ぎるときに龍驤が小声で謝っていたのは、やはり目の当たりにすると思うことがあったということだろうか。
四人が執務室からいなくなり、俺とサラトガさんの二人のみになる。二人っきりだね!相手は表情暗いけど!
とりあえず、なにか会話を始めないと気まずい空気が晴れないのでバストについて聞こうとするとサラトガさんが口を開いた。
いや、待て俺はなにを聞こうとしてるんだ。初めましてバスト何?とかチャラ男でも聞かねぇぞ…
サラトガ「わかってはいたんです。先の大戦で日本と戦った私が日本の鎮守府に来るなんて…邪険にされて当然ですよね。」
サラトガ「私はドイツから来た彼女たちとは違って処遇は完全にあなたに任されています。どうぞ解体なりなんなりしてください。」
笑顔でそう言うサラトガさんはとても辛そうに見えた。恐らくここに龍驤がいたのを自分への嫌がらせだと勘違いしているのだろう。
それにしても処遇が完全に俺に任されている?それはこう…R18な流れでもOKってことなのでは…?
ゲホン、ゴホン、エロホン、煩悩退散!ここはサラトガさんの誤解を解かなければ。
提督「えっと、誤解を生んでしまったようならすいません。俺たちは別にサラトガさんを邪険に扱おうなんてこれっぽっちも思ってませんよ。」
提督「龍驤がここにいたのは本人たっての希望で、因縁のある自分が真っ先にサラトガさんと仲良くなって周りに馴染みやすくしようとしたかったみたいです。」
提督「ただ、やはりいざ会ってしまうと本人も思う所があったみたいですね、許してやってください。」
サラトガ「彼女がそんなことを…?」
提督「はい。そして俺もサラトガさんがここに馴染むまで全力を尽くすつもりです。受け入れた以上責任がありますしね。」
受け入れた理由は不純ですけどね!仕方ないね!
サラトガ「ありがとうございます。提督はお優しい方なんですね。」
先程とは違った素敵な笑顔の彼女は俺の心を揺れ動かす。木漏れ日の中、俺は彼女に恋を…って執務室の扉開いてね?
というか、なんか緑の髪の毛とツインテの片割れがチラチラ見え隠れしてるわけですが…気づかないふりしておこう!そうしよう!
提督「優しいだなんてそんな、上司として当たり前のことですよ。とりあえず鎮守府内を案内するので着いてきてください。」
サラトガ「はい!」
そうして俺はサラトガさんと鎮守府デートを開始した。誰が何といおうとデートだ!
提督「最後にここが食堂です。サラトガさんたちにはここで各々食事をしてもらうことになります。」
提督「こちらが間宮さんと言って、いつも料理してくれる艦娘です。基本うちのメンツは皆間宮さんに胃袋鷲掴みにされてます。」
間宮「鷲掴みだなんてそんな、改めて間宮と申します。よろしくお願いしますねサラトガさん。」
サラトガ「ええ、こちらこそよろしくお願いします。サラトガです、サラと呼んでいただけると嬉しいです。」
俺は鎮守府内を巡りサラトガさんに鎮守府内を一通り案内し終える。ずっと後方から視線を感じたが俺は知らん。ばーりあ!
サラトガ「提督、わざわざ案内していただきありがとうございます。」
提督「ん?いや、気にしなくていいですよ。とりあえず施設内は覚えられそうですか?」
サラトガ「案内までしていただいておいてまだ完全に覚えきれてはいないです。ごめんなさい。」
提督「気にしなくていいですよ。一回で覚えろって方が酷いもんです、道に迷ったら艦娘や俺に聞いてくださいね。」
サラトガ「はい!ありがとうございます。」
あー、この天使のような笑顔を見て堕ちぬ男はいるのだろうか。いや、いない。いたらそいつはホモだ。
今もなお後ろから視線を感じるわけだが俺はサラトガさんに笑顔を返す。ばりああるからむてきだもん!
龍驤「おお!司令官も食堂に来とったんか!」
そのまま、サラトガさんと話していると龍驤が案内をしていた三人を連れて食道にやってきた。
俺の横にいたサラトガさんが龍驤を見て俺の背に隠れるようにする。思う所があるのはこちらも当然か。
それを見て龍驤がこっちに歩いてくる。そしてそのままサラトガと向き合う。
龍驤「その…なんやろな。今更自己紹介っちゅうのも変な話だけど、龍驤や。過去のことは水に流すとは言えへんけど今は仲間としてよろしく!」
そして、少し照れ臭そうにしながらそう言ってサラトガさんに手を伸ばす。
サラトガ「私はサラトガです。よろしくお願いします。」
そして、サラトガさんは静かに自己紹介をして伸ばされた手を握る。
俺は過去の対戦に参加どころか生まれてすらいない。どれだけの人が死に、どれだけの想いが犠牲になったのかなんて書物だけじゃ到底理解しきれるはずが無いだろう。人間の想像力なんてたかが知れている。
もし、先の大戦を経験した人がこれを見たら怒るのだろうか…それとも他のなにかを想うのだろうか。
今まさに龍驤の中の無念、死んでいった船員の魂が彼女に復讐をと叫んでいるのかもしれない。とはいえ、龍驤の笑顔からはそんなそぶり微塵も感じない。本当に強い艦娘…いや、女性だ。
ただ、どんなに長く語ろうとも俺はこの光景がとても美しく見えた。過去の敵と共に手を取りあうその光景が。今はそれだけでいいのだろう。
提督「龍驤は心が広いんだな。偉いぞ~」
龍驤「ちょ、キミ!子ども扱いするんはやめてーな!」
俺はそんなことを言いながら龍驤の頭を撫でる。龍驤がこういう性格で良かったと切に思う。
提督「てなわけで、サラトガさん。本人が許すって言ってるんです、もう先の大戦のことを気に病むことはしなくていいですよ。」
提督「龍驤はこの通り貧乳で小さいですけど心は広いですからね!」
龍驤「キミ、喧嘩売っとるん?」
俺と龍驤のやり取りを見て、不意にサラトガさんが笑みをこぼす。
サラトガ「ありがとうございます、龍驤さん。」
龍驤「お礼言われるようなことはなにもしとらんよ。」
二人が笑いながらそんなやり取りをするのを見て心から安心する。貧乳と巨乳が和解するなんて…げっふん。
とにもかくにも、こうして一波乱あったがうちの鎮守府にも海外艦が着任したのであった。
提督「そう言えばサラトガさ…」
サラトガ「サラです。サラとお呼びください提督。」
そして彼女は笑顔で俺にそう言うのであった。
グラーフ「私たち完全に蚊帳の外だな。」
ビスマルク「蚊帳の外ってどういう意味なの?」
プリンツ「無視されるといった意味ですよビスマルク姉さま!」
そんなこんなで数日後…
グラーフ「Admiral、無理は禁物だ。そろそろ休んだらどうだ?」
執務室で作業をする俺にグラーフが飲み物と軽食を準備してくれる。
提督「ありがとうなグラーフ。無理なんてしてないさ。今日中にこれは終わらせときたいんでな。」
海外艦四人が鎮守府に着任して数日、彼女たちの希望で秘書官をローテンションでやってもらっている。
本人たちが言うには、受け入れてもらった身としては仕事は積極的に行わねば自国の恥さらしになるだそうだ。
そう言われてしまっては断れるわけもなく、こうして秘書艦を務めてもらっている。
ちなみに、昨日ビスマルクに秘書艦をしてもらっていたのだが…いつもの二倍の時間がかかった。
なーにが私に任せなさい!だよ。書類ばらまくわ俺に食事持ってこさせるわ…あれ?俺が秘書みたいになってねこれ?
とはいえ、可愛かったからいいか。なんだよあれもっと褒めていいのよとか胸張って言えるの超かわいい。
まぁ、その張っている胸に視線が釘付けになったわけですけどね。かくして昨日寝るのが遅くなって今若干寝不足というわけだ。
そんなことを考えながらグラーフに渡された料理に手を付ける。
提督「美味しいなこれ。」
一口食べて思わずそんな風に言葉を漏らす。いや、ガチでうまいよこれは。
グラーフ「口に合ったのならよかった。先程間宮に食堂を少し借りてな作らせてもらったんだ。」
提督「え!?これ、手作りなの!?」
グラーフ「あぁ、先ほど提督に休みを頂いた時間に作っておいたんだ。Apfelkuchenという。」
ふーん、なんて自慢げに鼻を鳴らしながら言うグラーフは可愛い。反則だろそれ鼻血噴き散らすぞ。
俺はなにかを察知してあ?あぷふぇるくーへん?なるものを口に運ぶが、突然執務室の扉が開いた。
ビスマルク「Admiral!昨日の汚名を挽回しに来たわよ!って、この匂いはApfelkuchenかしら?」
これ僕のだもん!全部僕が食べるもん!というわけにもいかず、何故か集まった海外艦全員とあぷふぇるくーへんを食べる。
それはそうと、ビスマルク汚名は挽回しちゃだめだぞ。返上しないとな、うん。
提督「それにしても仕事が出来て料理も出来て…グラーフはいいお嫁さんになるなこれは。」
グラーフ「お嫁さん?お嫁さんとは妻のことか?」
提督「ん?そうだが他にあるか?」
グラーフ「いや、褒めてもらえるのは嬉しいが…私は艦だからな。お嫁さんになることは無いだろう、所詮ただの兵器だからな。」
あたかもそれが当たり前かのようにグラーフは言う。
日本は親父が元帥になってから艦娘の扱いがかなり改善され、実際には一つしか例が無いが艦娘との結婚や恋愛関係などは認められている。
一つの例って言うのは皆さんご存知マイファザーです。
しかし、彼女たちがいた海外では艦娘は兵器というのが常識なのだろう。こんな可愛いのにね!!!
提督「日本では艦娘も一応結婚できるぞ。それに兵器って言ったって感情があるんだしそんな簡単には割り切れるようなものでもないだろう。」
俺の発言を聞いて四人が少し考えるようにする。そりゃそうか、彼女たちにとっては1+1は3だろ?って言われてるようなものなのだろう。
サラトガ「日本ではそういった風習があるとは聞きましたが、事実だったんですね。」
グラーフ「だが、そう言われても私たちは深海棲艦と戦うために生まれてきた存在だからな。」
提督「難しく考えすぎだと俺は思うぞ。まぁ、いずれ恋でもすればわかるんじゃないか?」
プリンツ「恋ですか、私のこのビスマルク姉さまへの想いは恋なのでしょうか?」
提督「恋ねぇ…相手と一緒にいたいとか独占したいとかもっと知りたいとか…人によって違うけど俺もよくわかんないな。」
俺は恋をしたと言い切れるのは鈴谷に対してだが、あの時は傍にいてあげたいといった感情が一番強かった気がする。
存外、恋ってのは名前が同じだけで人によって形は違うものなのかもしれない。
プリンツ「では、私のこの想いはやはり恋なんですね!恋してますよビスマルク姉さま!」
ビスマルク「ま、まぁ、私の魅力と力に惹かれるのは仕方ないわね!もっと褒めなさいプリンツ!」
プリンツ「はい!流石ですビスマルク姉さま!」
なんか違う気がするけどまぁいっか。きっと誤差の範囲内だ、多分。
サラトガ「では、提督。私はもしかしたら提督に恋をしているのかもしれないです。」
俺は唐突な告白に飲んでいたコーヒーを噴き出しそうになる。
提督「い、いまなんと仰いました?」
サラトガ「私は提督のことをもっと知りたいですし、お傍にいたいと思いますよ。」
グラーフ「それなら私もだ、Admiralは仕事も出来るし私たちのことを考えてくれているからな、もっとAdmiralのことを知りたい。」
ナニコレハーレム?ヤッターモテ期だー。って違う違う、多分俺の説明の仕方が悪かったせいでこう尊敬とか信頼を恋と勘違いしていらっしゃる。
提督「俺が悪かった、説明の仕方が足りてなかったな。一回落ち着いて聞いてくれ。」
とりあえず俺は細かく恋や心について話す。なんか心理学でもやってる気分だぞこれ。
グラーフ「そうだな、まだそこまでAdmiralと関係を進めたいというわけでもないから私のこの気持ちは信頼と言ったところなのだろうな。」
サラトガ「サラは…よくわからないですね。」
プリンツ「ビスマルク姉さま、私はビスマルク姉さまに恋をしてなかったみたいです。」
ビスマルク「そ、そう?それは残念ね…」
なんかあっちは勘違いを正してるけど会話内容が非常にシュールだ。俺は別に百合展開歓迎よ?外から見てるよ?
とりあず、俺は皆が考え込んでいる隙にあぷふぇるくーへんを出来るだけ多く食べました。やりました。
ー赤城視点ー
気持ちのいい朝。少し肌寒い時期になりつつあるが、まだ快適と言った気温だ。
例の裁判事件からもしばらく、季節はすっかり秋だ。この季節になると年の終わりが近いことを感じ少し寂しいような雰囲気に包まれる。
自室から外を見ると那珂さんが朝からダンスの練習をしていたり、朝潮さんたちがランニングをしている。
よく見ると、朝潮さんたちと一緒に提督もランニングをしているようだ。死にそうな表情をしている彼を見て失礼とは思うが笑みを浮かべてしまう。
ランニングをしているメンバーは朝潮さん、提督、朧さん、潮さん…サラトガさんだ。
サラトガさんはここに着任してから常に提督のお傍にいるような気がする。不意に心がチクリと痛む。
加賀「あら、おはようございます赤城さん。なにか見えるんですか?」
不意に後ろから目を覚ました加賀さんが声をかけてくる。
赤城「おはようございます加賀さん。提督が朝潮さんたちとランニングをしているんですよ。」
私の台詞を聞いて目を少しこすりながら加賀さんが窓際に来て外を見る。
加賀「艦娘と一緒に人間がランニングなんて無茶なことをするものですね。」
そんなことを言いつつも加賀さんは笑顔で外を見ている。彼女は表情がわかりにくいだけで、意外と感情の起伏はわかりやすい方だ。
赤城「きっと、駆逐艦の子に誘われたのを断れなかったんでしょうね。」
加賀「あの人らしい。私は顔を洗ってきますね。」
洗面をしに行った加賀さんを見送って再度走る提督を見る。どうやら限界が来たみたいでベンチで仰向けに倒れている。
その傍で朝潮ちゃん達が慌てているのも見える。サラトガさんが持ってきたドリンクを飲んで提督が起き上がる。
このサラトガさんを見ていると不意に胸のあたりがチクッとするのはなんなのだろうか。
私はその理由がわからないまま窓際から離れた。
ー提督視点ー
死ぬ…死んじゃう…てか、死んだ…
自分の体力を考えず走りすぎた!でもさ?皆聞いてくれよ!周りを明らかに幼い女の子が悠々と走ってる中でギブとか言えるか!?
そんなカッコ悪いの俺は無理だ!結局ばてたけどな!ちくしょーめぇ!
サラトガ「大丈夫ですか?提督。これをどうぞ。」
提督「ありがとうサラ、助かるよ。」
俺はサラが持ってきてくれたドリンクを口に運び、ベンチに倒れ込んでいた体を起こす。
朝潮「申し訳ありません司令官…無理をさせてしまって…」
提督「いやいや、俺の下手なプライドが悪いだけだから気にしなくていいさ。次走るときまでに体力つけとくよ。」
そうはいっても仕事が執務だからどうやって体力をつけたものか…はっ!夜の運動会!?相手がいねぇわ。
朧「あんまり無理はしないようにしなよ?」
提督「ああ、肝に命じとくよ。」
そんな会話をして、俺は今日の秘書官であるサラと執務室に向かうのだった。やべぇ、もう寝たい。
そして、執務室にてお仕事ナウ。
最近は深海棲艦の進行も無く平和な海が続いている。
例の裁判事件での俺の芝居によって捜査された艦娘反対派の中からまた深海棲艦と繋がっている人間を発見したなんて話も聞いた。
といっても、艦娘反対派が深海棲艦に協力しているという組織的なものでは無く、艦娘反対派だから深海棲艦に協力するといった個人的なものが多いらしい。
要は艦娘反対派ってのを隠れ蓑にしているというわけだ。
そして、兄さんの方もなんの音沙汰も無しだ。適当な理由をつけて指名手配されてはいるが目撃情報すら届かない。
嵐の前の静けさというやつだろうか、少し悪寒がする。いや、ただ最近寒いだけかもしれないけどね?
サラトガ「提督?難しい顔をされてなにか考え事ですか?」
提督「ん?いや、なんでもないさ。」
まぁ、下手なことを考えてもどうにもならないのでとりあえず横にいる美人を見て英気を養っておきましょう。
そうそう、嵐と言えば大淀さんからもらったケッコンカッコカリの書類がそろそろ送られてくるはずだ。
………
燃やそうかな…なんて一人俺は考えるのだった。
ー赤城視点ー
瑞鶴「あ、赤城さん!おはようございます。」
加賀さんが提督に用事があるといって執務室に行ってしまったため暇を持て余していると、廊下で正面から歩いてきた瑞鶴さんが挨拶をくれる。
赤城「おはようございます、瑞鶴さん。」
瑞鶴「あれ?加賀さんはいないんですね。」
赤城「はい、加賀さんは今提督に会いに行っていますよ。加賀さんになにか用があるんですか?」
瑞鶴「へ?い、いや、そ、そういうわけじゃないんですけどね…」
瑞鶴さんは頬を掻きながらそんな風に言う。加賀さんと瑞鶴さんは仲が悪く見られるが、お互い照れ隠しで強く言うだけで本当は仲良くなれると思っている。
瑞鶴「そんなことより提督さんと言えば!最近海外艦にデレデレしすぎだと思いません?」
赤城「で、でれでれ…ですか?」
瑞鶴「そうですよ。私だってもっと一緒にいた…」
なにかを小声で言って瑞鶴さんは下を向いてしまう。どうしたのだろうか?
赤城「どうでしょう?もしお時間あるなら鳳翔さんのお店で少し話しません?」
そうして、私たちは二人で鳳翔さんの店に向かった。
瑞鶴「こうして赤城さんと二人で喋るのは新鮮ですね。」
赤城「そうですね、そういえば翔鶴さんはどうされてるんですか?」
瑞鶴「翔鶴姉は今海外艦の二人が今日初めての食事当番なんで早くから教えに行ってるんですよ。」
赤城「そうでしたか、不思議なものですね。昔敵として戦った相手と今はこうして肩を並べて戦うどころか料理を一緒に作っているなんて。」
瑞鶴「確かに。艦の頃の私たちが知ったらどう思うんでしょうね。」
そんなことを話して二人で談笑する。
彼女は提督が来てからすっかり変わってしまった。昔は暗い表情しか見せず、誰しもを敵と見るような生き方をしていたのに今では楽しそうに笑っている。
それはきっと私も同じだ。提督が来てから仲間が無意味に傷つく光景を身うこともなくなり、なにより大切に思ってくれている。
瑞鶴「それじゃ、そろそろ翔鶴姉も戻ってくると思うので失礼しますね。」
しばらく話して、瑞鶴さんは店を出て行った。昼間というのもあり店内には私と鳳翔さんしかいない。
折角なので鳳翔さんに最近の胸の痛みについて相談してみることにした。
赤城「鳳翔さん、少しお話を聞いてもらってもいいですか?」
鳳翔「はい、お役に立てるかはわかりませんが構いませんよ。」
私の唐突な一言にも鳳翔さんは優しい笑顔を向けてそう言ってくれる。
彼女は艦娘としては年下だが、艦の頃の名残だろうか不思議と私よりもしっかりしているように思う。
赤城「その、最近提督とサラさんを見ていると胸が痛くて。その…明石さんに見てもらった方がいいのでしょうか?」
私の一言に鳳翔さんは少しいたずらっぽい笑みを浮かべる。
鳳翔「それなら見てもらう必要は無いと思いますよ。逆に質問ですけど提督のことを好きですか?」
赤城「突然どうしたんですか?提督のことは好きですよ。彼のお陰で皆が笑顔を取り戻せましたからね。」
鳳翔「そうではなくてですね…では、提督とお付き合いしたいと思ったりしますか?」
不意に質問の意味を考えて提督と自分がお付き合いしているのを想像してしまう。顔が熱くなるのがわかる。
鳳翔「その反応は間違いないみたいですね。赤城さんそれは嫉妬ですよ、提督が他の異性といるのを見て胸が苦しくなるのでしょう。」
鳳翔「ですから、赤城さんは提督に恋をしているんじゃないでしょうか。」
恋?艦である私が恋?頭の中に疑問が溢れかえる。恋自体を知らないわけでは無い、相手を想うこと。
自覚したからだろうか、突然彼に会いたくなってしまう。話したい、褒めてもらいたい…
艦である私がそんなことを欲するのは間違っているとはわかっていても、溢れる感情が抑えられない。
赤城「そ、その、失礼します!」
思わず私はお店を飛び出してしまうのだった。
鳳翔「このままでは提督が光源氏のようになってしまいますね。私が紫の上になるのは難しそうです。」
一人残された店内で、店主が一人そんなことを言うのだった。
ー提督視点ー
さて、ここで皆さんに大事な話をしよう。
テーマは「エロス」についてだ。なんで急にこんな話を始めたかというと、それは聞かないでくれ。
まず、俺の持論なのだが全裸はそこまでエロくないと思う。着ていてこそエロいと思うんだ。
着てるからこそ、着てないところというか生肌が輝く。お判りいただけるだろうか?
つまり、これは服を着ている女性も全員エッチということである。QED証明…
瑞鶴「ちょっと!提督さん聞いてるの!」
提督「聞きたくないから俺おうち帰っていい?」
鈴谷「駄目に決まってんじゃん!提督が一番関係ある話なんだから」
提督「ソーデスヨネーアッハッハ」
ここは執務室。目前には数人の艦娘と書類が二枚。
わかりやすく行こう、ケッコンカッコカリの書類が見つかっちゃった☆
そうして俺は命の危機に瀕しているわけである。誰か助けて!お願い!鹿島ァ!
本当にどうしよう、ここで選択を誤ると俺昇天する気がする。来世は美少女がいいなぁ…こう、席に座るとバラが周りに咲く感じの。
加賀「指輪は燃費をよくすると聞いているわ、それならボーキサイトの消費量などを考えると私とするのがいいと思うのだけれど。」
金剛「ちょっと待つヨー、燃費で言うなら戦艦だって変わらないデース!テートク、私はいつでもOKデース!」
龍驤「うちはどっちでもえーよー。」
サラトガ「結婚ですか…憧れてしまいますね。」
翔鶴「皆さんあまり提督を困らせてはいけませんよ、選べなくなってしまったら本末転倒ですからね。」
もう俺翔鶴に指輪渡したいなガチで。でもトラブルになりそうだし…いっそ自分自身とケッコンカッコカリとかできない?悲しいなそれ。
仕方ないので今から実は生き別れの恋人がいて彼女が忘れられないみたいな設定作るか?鈴谷がいる時点でアウトですね。
とりあえず、一回逃げようそうしよう!
提督「その、なんだ俺はケッコンカッコカリをそんな軽い気持ちでするつもりはない。仮にも結婚とついているわけだしな。」
提督「だからもう少し時間をくれないか?ここで即決するのは少し難しいからさ。」
瑞鶴「ふーん、つまりケッコンカッコカリに選んだ相手が提督さんの本命ってこと?」
提督「いや、そうじゃなくてなんというか今後も仲良くしてほしい相手と言いますか…」
瑞鶴「まぁ、わかった。待ってあげる、提督さんのバーカ。」
瑞鶴が退室したのを合図に全員が執務室を後にする。うえーん怖いよぉ…誰か変わって…
ちなみに、なんでケッコンカッコカリの書類が皆にばれたかというと俺が廊下で書類をぶちまけたからです。自業自得ぅ!
でも、どうしよう。いっそケッコンカッコカリ争奪!秋の大運動会(ポロリもあるよ)でもやりましょうかね。
鎮守府が滅びそうだからやめておこう。それにしても今日の秘書官を頼んでいる赤城が中々来ない。食いすぎで腹でも壊したのかな?
赤城「遅れました、申し訳ありません。」
提督「おはよう赤城、遅刻常習犯ならまだしも一回くらいなら怒ったりしないさ。」
俺はそう言いながら赤城に笑顔を見せる。疲れ切った笑顔だけどね。ん?顔逸らされたぞ?んん?
その後も、いつも通りに執務をこなすがなぜか赤城が俺と目を合わせようとしない。顔になんかついてる?それとも石化の魔眼でも俺ゲットしちゃった?
提督「赤城ー、なんで俺と目を合わせてくれないんだ?」
俺はそう言いながら赤城の顔を覗き込む。
赤城「へ!?あ、あの、すいません…えっと、その、工廠に書類届けてきます!」
んんん?これは?こーれーはー?淡い青春の一ページ…恋する相手に目を合わせられ無い的なあれか…?
いや、赤城に限ってそれは無いか。しっかりしてる人が俺なんかを好きになるわけがないもんな。
つまり、これ俺嫌われたんじゃね?えぇ!?俺なんかしたっけ!?
どうしよう、全く身に覚えがない。とはいえ、自分の知らないところで相手にとって嫌なことをしてしまっているというのはよくある話だ。
お詫びに指輪でも渡す?なに言ってんの俺、馬鹿なの?アホなの?死ねよ。いや、死なねぇよ。
プリンツ「失礼します。これ提出するよう言われていた書類です。」
そこまで考えていると、執務室にプリンツがやって来た。
提督「ありがとう、今確認しちゃうよ。」
手渡された書類は大本営から渡されていた海外艦へのアンケートだ。仮にも他国からの増援ということなので不遇な扱いを受けないように準備したらしい。
内容はマルバツアンケートで見た感じプリンツはここに不満や文句は無いようだ。
プリンツ「それじゃ、失礼しま…」
提督「あ、ちょっと待ってくれプリンツ。」
プリンツ「はい、どうされました?」
提督「あ、そのだなこれは命令とかじゃなくて私用の相談なんだが女性を怒らせてしまった場合ってどうやって謝罪すればいいと思う?」
プリンツ「謝罪ですか…うむむ、物とかで謝罪するのは若干違う気もしますし…具体的に何をしたんですか?」
提督「それがわからないんだよな、突然目を合わせてくれなくなったというか…具体的じゃなくて面目ない。」
プリンツ「それじゃ、まずは相手がなんで怒っているのか知らないとですね。いっそデートに誘うとかどうですか!」
提督「なんか本題とずれてないか…?嫌いな相手にデート誘われて承諾するかねぇ。」
プリンツ「決して私がそういったものに興味があるとかじゃないですからね!まずは二人きりになってそれとなく原因を聞くんですよ。」
提督「なるほどなぁ…わざわざありがとうな参考にさせてもらうよ。」
プリンツ「貸し一つですよAdmiral」
最後に小悪魔っぽくウインクをしてプリンツは執務室を後にした。
デートに誘うねぇ…簡単に言ってくれるけどどうやって誘えばいいんだろう。ヘイへーイ、嬢ちゃんデートしなーい?みたいな?
いや、これは絶対だめだ。俺でもわかる。
赤城「ただいま、戻りました。」
そんなこんなで色々考えていると、赤城が工廠から戻ってくる。相変わらず目を合わせてくれずそわそわとしている。
どうしようかね、そういえば見たい映画があったなそれを理由にしてしまおう!
提督「赤城、今週の水曜空いてるか?」
赤城「へ!?特に予定は無いですけど…」
そう答える間も赤城は俺と目を合わせようとしてくれない。でも、髪を直す仕草は可愛い。
提督「嫌なら断ってもらって構わないんだが、よければ一緒に映画でも行かないか?もちろん俺が奢るからさ。」
赤城「………」
俺の誘いに対して赤城は何も言わない。あちゃー、プリンツこの方法じゃダメみたいだわ。あとで文句言いに行こう。
赤城「…その、時間などの詳細を教えてもらってもいいですか?」
提督「え、いいのか?」
赤城「はい、その…お断りする理由もありませんし…」
そんな風に言っている間も赤城は俺と目を合わせようとしない。照れ隠しにも見えるが、さっきから逸らしているのだから違うのだろう。
提督「それじゃ、細かいことはもう少し調べてから伝えることにするさ。」
赤城「わかりました…その、少し鳳翔さんのとこに行ってきますね。」
提督「え、あぁ。わかった。」
そうして、突発的に赤城とのデートイベントが発生したのであった。次回、提督死ね!
そんなこんなで、皆様おはようございます。水曜朝でございます。
赤城とのデートが決まってから一応映画館周辺のお茶できそうな場所などは調べておいた。流石俺!やればできる男!
調べたはいいがどこがいいのかなどは全くわからなかったというのは黙っておこう。
とりあえず気怠い体をベッドから起こし、クローゼットに向かう。
一概にデートと言っても、あくまで俺の予定に付き合ってもらうだけなわけだし服装に気合い入れるのも…
いや、だからといって横に美人がいるのに変な服装をするわけには…
やべぇ、これはスーツでも着ていくか?いや、どう考えてもおかしいわ。
結局一通り朝の支度を済ませたのちに、少し着飾った服装を選ぶ。
鏡の前で一通り決めポーズを取ってみる…途中からお色気ポーズ取ったりして遊んでいたが後でなんか恥ずかしくなった。
なんだかんだでケッコンカッコカリの話は一度延期となり、露骨なアピールをされるとはいえ収まった。
瑞鶴や鈴谷は下心丸出しだから指輪を欲しがるのはわかるのだが、ほかの皆はそこまで強くなりたいのだろうか?
いや、艦である彼女たちにとっては「強さ」というのはやはり大事なのだろう。うん、そういうことにしておく。
そして、荷物を確認して赤城との待ち合わせ場所である駅に向かったのであった。
駅を遠目に見るとそこには美人が一人佇んでいるのがわかる。あの美人俺との待ち合わせなんだぜ?なんだぜ?
はい、うざいっすね。それはそうと待ち合わせの十五分前から待っているなんて流石は赤城だ。
ちなみに、駅での待ち合わせにしたのは数人の艦娘の目が怖いからです。鎮守府から二人で外出したら多分つけられる。
提督「おはよう赤城、ごめんな待たせちゃって。」
赤城「いえ、私が早めに来ていただけですから気にしないでください。」
胴着姿を見慣れているからだろうか、赤城の普段着はこう…なんというか、魅力的です!はい!
赤城「あの…?提督どこかおかしいところでもあったでしょうか?」
提督「ん?いや、なんでもないっていうか大問題というか何が問題って俺が絶対にふさわしくないって言うか何でもないから気にしないでくれ。」
赤城「そ、そうですか?」
提督「とりあえず、映画館へ向かおうか。」
そんなこんなで俺は強引に歩き始めるのだった。
電車に乗って数十分、目的の駅に着く。
電車の中では赤城に向けられる視線をチェックしながら日常会話をしていた。
まぁ、なんか恥ずかしくて目を合わせられなかったですけどね。中学生か俺は!
赤城「ここはたくさん人がいるんですね。」
提督「そうだな、この辺までくると内陸なのもあって店とかも多いからな。」
深海棲艦が現れてからというもの、海に面している県は危険だからといった理由で移住する人が増え過疎化した。
昨今では内陸側にある長野県などが賑わっていると聞く。
赤城「これだとはぐれてしまいそうですね…迷子になったら困ってしまいそうです。」
提督「最悪スマホがあるから大丈夫さ、それじゃ映画館に向かおうか。」
俺の返答を聞いて赤城が少し不満そうな顔をする。ドウシタノカナ?
いや、手を握ろうという遠回しなお誘いだったのだろうがもし手握るか聞いて嫌な顔されたら道路に飛び出しちゃうので聞かない。
それにしても、怒っている理由を聞くためにデートに誘ったはずがこれ本当にただのデートじゃん。いちゃラブじゃん。リア充爆発しろ。
あれ?この状況俺が爆発するくない?なんて考えながら赤城と歩く。
そして、大きなショッピングモールに着く。ここの中に映画館があるのだ。
とりあえず、直近の上映があったので適当にポップコーンなどを食べて席に着く。
赤城「そういえば、この作品はどういった内容の映画なんですか?」
提督「ん?そういえば言って無かったか、ホラー映画だけどもしかして赤城ってそういうの苦手だったりする?」
赤城「ホラーですか…見たことが無いのでなんとも言えませんね。折角なので楽しんでみます。」
提督「怖くなったら言ってな、途中で退室しても大丈夫だからさ。」
そんなやり取りをしていると激情が暗くなって大画面に映像が流れ出す。
定番の映画泥棒や、たーかーのーつーめーが流れてやっとこさ作品が始まる。
内容は大して怖くなかった。べ、べつに強がってるわけじゃないんだからね!はい、割と怖かったです。
言わせてもらいますけどね、ホラーって言うのは登場人物が怖がるものであってびっくりさせたりして観客を怖がらせるのは違うと思うの!!!
まぁ、登場人物であるジェニーの胸部がとても魅力的で俺に安らぎを与えてくれてので最後まで見れました。
提督「意外と面白かったな、それじゃ時間もちょうどいいし昼飯に…ってどうした赤城?」
横を見ると赤城が停止していた。あ、これあれかホラーを舐めてた人に良くあるすべてを停止させて声を出したりしないようにするやつ。
提督「おーい、赤城映画は終わったぞーきこえてるかー?」
赤城「あ、はい、すいません提督。そのこういったものは初めてで…情けない話ですが放心状態でした…」
提督「確かに最初に見るには怖かったかもな。なにはともあれ昼飯にしようぜ。」
そうして、俺は赤面している赤城と共に映画館を出るのだった。可愛い!可愛い!超可愛い!
二人でモール内のフードコートに向かう。色々考えたが種類が選べるフードコートが妥当だと考えました。
ん?男として失格?もっといい店選べ?うるせぇ!だったらどこにあるか教えろてめぇらを昼飯にすんぞ!
提督「赤城、なにか食いたいもんあるか?俺はマグロナルドにするけど。」
赤城「でしたら、私は提督と同じものをお願いします。お金は後で払いますね。」
提督「いや、いいよいいよ。誘ったときにも奢るって言っただろ?」
赤城「でも映画のお金を払ってもらったのにお昼ご飯まで奢ってもらうわけには…」
提督「普段なんも出来ないんだからこういうときくらいかっこつけさせてくれって。んじゃ行ってくるから席取りよろしく。」
そして、俺はマグロナルドの列に並ぶのだった。
ー赤城視点ー
彼が席を離れた後、私は鞄から手鏡を取って身だしなみを整える。
どこかおかしいところは無かっただろうか…心配で頬が熱くなる。
だいたい加賀さんが悪いのだ。提督にお誘いを受けた日の夜に私が提督に映画に誘われたと言ったら
加賀「デートですか、少し羨ましいですね。」
なんて言われたものだから、どうしても意識してしまう。そう、彼はどう思っているかはわからないが周りから見たらデートなのだ。
それに指輪が届いたと聞いてからこうして誘われたら…期待してしまうのは仕方がないじゃないか。
それはそうと、午前中は不覚を取った。ほらー映画というものがあそこまで怖いものだとは。
自室が一人部屋じゃなくて今日ほど良かったと思った日は無い。
手持無沙汰になり、周囲を見渡すとかっぷるが多いのがわかる。周りから見たら彼と私もそう見えるのだろうか…
不意に目に入ったかっぷるが口づけをするのが目に入る。慌てて目を逸らすが、脳裏にその光景が焼き付いてしまう。
一航戦赤城ともあろう私がこんなに揺れるのは…彼のせいだ。
そして、マグロナルドに並び地面に落ちていたゴミで転びそうになっている彼を見つめるのだった。
ー提督視点ー
あっぶね!誰だよこんなとこにゴミ置いてたの!
危うくフードコートの笑いものになるとこだったぜ。なんか赤城がめっちゃこっち見てる気がするけど俺は気にしないぞ…
店員「お待ちのお客様、こちらにどうぞ。」
俺は誘導されるままにカウンターの店員さんのもとに向かう。映画が中途半端な時間だったため俺の後に並んでる人はもういないようだ。
提督「えっと、ダブルチーズバーガーのセットを二つ。飲み物は…アイスコーヒーで。」
店員「承りました。こちらでお召し上がりですか?」
提督「はい。」
元気のいい若い男性店員に注文をする。ネームプレートには山下雷轟と書かれている。
え?これなんて読むの?やましたらいごう?すごい名前だなおい…それにしても親御さん、このキラキラネームは現代っ子に名づけるには酷じゃないですかね。
店員「お待たせしました。ご注文の品となっております。」
俺は無言でそれを受け取り、名も知らぬ…いや、知ってるわ。名と顔だけ知っている雷轟き君に頑張れよと心の中でエールを送るのだった。読み方はわからないけどな!
提督「お待たせ赤城、席取りありがとうな。」
赤城「いえいえ、これくらい気にしないでください。」
そのまま、適当に話ながら昼飯を済ませる。
この時の俺はこの後一騒動起きるなんて微塵も思っていなかったのだった。
昼飯を済ませて時間にも余裕があるので赤城と適当にモール内を散策する。
こうしているとまるで本物の恋人のよう…いかん、いかんぞ俺。勘違いは身を亡ぼす!
とりあえず、目に入ったゲーセンに二人で入る。
赤城「あれはなんですか?」
提督「ああ、マ〇オカートっていうレースゲームだよ。前に3DSでやったののゲーセン版。やってみるか?」
赤城「少し興味があるので、是非!」
とりあえず、赤城に一人でやってもらって操作方法を教える。ん?上手くね?
提督「それじゃ、次は俺もレースに参加するから手加減は無しだぞ?」
赤城「はい、望むところです。」
最近ヨッシーはインキャとか見た気がするから適当に美少女ことクッパを選択しレースを開始。
結果は俺が二位で赤城が一位でした。オレムカシカラヤッテルンダケドナー
中々いい勝負だったのだが、ゴール直前で一位だった俺に青甲羅が当たりました。ふ〇っきゅー!
その後も百円ショップで無駄に使えそうなものを探したり、雑貨屋でまるで意味の分からないものを探したり滅茶苦茶楽しかった。
しかし、俺の人生に平穏は無いらしい。
そう、ある人物と遭遇してしまったのだ。ツインテでナイフ好きで胸が無いのが特徴のあの人。
瑞鶴「提督さん…?」
提督「エットドチラサマデスカネー…」
赤城「提督?どうかされたんですか?」
そして、漁っていた雑貨屋の奥から赤城が顔を出す。俺にはこの後の展開が見える見えるぞっ!
瑞鶴が突如何かを察したかのようにその場から去る。俺は反射的にそれを追いかけようとするが後ろから手を引かれて阻まれる。
振り向くと、赤城が俺の手を強くつかんでいた。若干痛いです。
提督「赤城…?」
赤城「今日は…私だけを見てください。」
そう言う赤城の表情は、切ないと形容するのが正しいだろうか。まるでなにかにすがるかのような表情だった。
すぐに赤城ははっとしたように手を放し、瑞鶴とは反対の方向へ走って行ってしまった。
どっちを追う?この選択には模範解答が無い。つうかぶっちゃけ俺の好みで選べってやつ。
畜生め!瑞鶴と翔鶴だったらこんな思考になる前に翔鶴のもとへらなうぇいなのにぃ!!!
ちなみに、鹿島と翔鶴だった場合俺は分身します。ん?なら今もすればいいじゃないかって?出来る分けねぇだろアホ。
さて、どうするか。ここでどっちも追わないのは流石にクズ過ぎる。
ふと、さっき赤城が見せた今まで見たことも無いような表情を思い出す。そして、瑞鶴と過ごした長いようであっという間の日々を思い出す。
そして、俺は赤城を追いかけるのだった。
提督「赤城。」
赤城が去って行った方に走るとモールの外、人気のないベンチで一人座っている赤城を見つけた。
赤城「提督…私は大丈夫ですから。瑞鶴さんのほうに行ってあげてください。」
俺が声をかけると、赤城はいつもの笑顔でそう言う。それを見ると本当に大丈夫に見えてしまうが…そういうわけでは無いだろう。
ならば、俺が今からすることは…揶揄されても仕方ないのかもしれない。
提督「赤城、俺は瑞鶴のことを放っておけない。」
赤城「…なんで、私にそんなことを言うんですか?」
明らかに赤城が動揺しているのがわかる。色々と中途半端な俺ではあるがこればっかりははっきりさせないといけない。俺はそう思うから。
提督「いや、言い直す。俺はあいつのことが好きなんだ。」
こんなにもあっけなく結論が出てしまうものなのだ。ただの一瞬の選択。思考こそふざけてはいたが、俺の足は二人が別々の方向に走ったあの瞬間、瑞鶴を即座に追おうとしていた。
一番動揺したのは自分自身だ。だって、あんだけ馬鹿にして怖がっておいて迷惑かけられて、でもその動揺と同時に気づいてしまった。
自分の中にある翔鶴や鹿島、赤城に向けるものとは違う瑞鶴に対してだけの唯一の想いに。かつて一度だけ抱いたことのある感情に。
そして、それをわかってしまったら自覚してしまったら…あやふやな態度を取るのは駄目だ。例え、それが相手を傷つけることになるとしても。
赤城「…だったら、瑞鶴さんの方を追えばよかったじゃないですか…どうして、私のほうに来たんですか…」
今にも泣きだしそうな表情で赤城は言う。
提督「お前が言ったんだろ?今日は私だけを見てくださいって。だから、少なくとも今日が終わるまでは赤城が一番優先だ。」
赤城「最低です…振るときにまで優しいなんて、そんなの未練が残ってしまうに決まってるじゃないですか…」
提督「俺としてはずっと好きでいてもらっても構わないんだぜ?」
俺が少しふざけた調子でそんなことを言うと、頬を思い切りビンタされる。痛い…
赤城「本当に最低です…でも、少しだけ胸を借りてもいいですか?」
提督「勿論、なんの変哲もない胸で良ければな。」
そして、俺は一人泣く赤城をそっと抱きしめるのであった。空はあいにくと、星すら見えない曇天だった。
これでいいのだろうか、正直俺にはわからない。でも、好きと言い切れる相手がいるのにそれを誤魔化して周りをたぶらかすのはクズだ。
とはいえ、そのクズが一番みんなが幸せでいられる選択なのも確かだ。でも、それじゃダメだ。別に正義感とか倫理観とかじゃない。
単純にそれが俺にとっては正しいと思ったからこうしているだけだ。そして、俺はこの行動が間違って無いと断言できるからだ。
本当は冷たい態度で接するべきなのだろうが、そこまで酷な人間にはなり切れなかった。
しばらくして、赤城が泣き止みそっと身を包んでいた手を解く。
提督「大丈夫か?」
赤城「はい、落ち着きました。最低な女たらしさんのお陰で。」
提督「ははは、これは嫌われたもんだな。」
赤城「いいえ?好きですよ。」
提督「はい…?」
全く予想外の返答に思わず間抜けな声を出してしまう。ん?んんん?
赤城「提督が言ったんじゃないですか。ずっと好きでいてもらっても構わないって、自分の発言には責任を持っていただかないと。」
彼女は少し赤くなっている瞳を俺に向けながら言う。
そして、俺は曇天から微かに零れる月明かりに照らされる小悪魔のような笑みに見惚れるのだった。
翌日朝でございます。昨日はあの後赤城と特に会話も無いまま帰った。
だってさぁ!?あんなアニメみたいなこっぱずかしい会話してまともに会話できるかよ!?
恥ずかしいです。もうお嫁にいけない…いや、元からいけないけど。
そして、意外とあっさりしているが俺はどうやら瑞鶴が好きらしい。は?なんで?
初対面でナイフ襲撃、幾度にもわたる襲撃、突然の告白…どこに好きになる要素があるんだ?
えぇ、なんで俺あいつのこと好きなのぉ…可愛いけどさビジュアルは…マジレスすると滅茶苦茶好みですけど☆
ちなみに、こんなこと言っても照れ隠しでしかなく。割と本当に瑞鶴が好きだと自覚してこう、なんか恥ずかしい。
どうしましょ、とりあえず親父に電話しましょう。
元帥『どうしたんだ、こんな朝早く?最近俺と会えてなくて寂しくなっちゃったか?』
提督「真面目な話だ。」
元帥『え、あ、お、おう。どうした?』
提督「ケッコンカッコカリってどうやって申し込めばいいと思う?」
元帥『……………』
あ、電話切りやがった!とんでもない沈黙の後に電話切りやがった!OMG
ちなみに、瑞鶴とは昨日別れてから顔も合わせていない。あいつのことだ、赤城さんを選んだんだとかふてくされてんだろう。
まずはそれの説明からしなくちゃいけない。
変な話ではあるが、やはり意識してしまうと気持ちとは膨れ上がるもので…あぁ、そうとも、断言しよう俺は瑞鶴が好きだ。大好きだ。
でも、急すぎじゃね!?信用性無くね!?昨日まで胸部装甲最高とか言っていたやつがこんなこと言っても誰も信じなくね!?
青葉「提督がどれだけ苦悩してるのかはわかったけど、全部口に出てるのはどうにかならないんですかね。」
俺が真面目に色々考えていると、秘書官の青葉がそんなことを言ってくる。
青葉は親父の鎮守府に所属しているが、今は人手が余ってしまっている元帥の鎮守府から派遣という形でここにきている。
ちなみに、秋月達やガッサもいる。
提督「なぁ、青葉。プロポーズってどうすればいいんだ?」
青葉「知りませんよ、そんなことより仕事を………全部終わってる…」
やっぱり、どこが好きかとか言うべきなのだろうか?貧乳に惹かれました、結婚してください。とかツインテ最高です、結婚してください。とか?
いや、無いわー。そんな台詞で求婚されたら嫌だわー、されたことないけど。
もうここは勢いに任せるとかどうだ?会いに行っちまって、その場でどうにか…ならねぇな。
そうだ、今のうちに練習しておけばいいんじゃないか?そうすれば本番もいけるのでは!
提督「青葉、俺と結婚してくれ。」
青葉「一回死ねカス。」
提督「なんでだよ!ここは勘違いで少し照れてから俺の意図を知って照れるとこだろ!?」
青葉「だから全部口に出てるんですよ!勘違いする要素ゼロじゃないですか!」
提督「もうだめだ、世界の終わりだ…」
青葉「そんな簡単に世界を終わらせないでくださいよ。とっとと告白してきてくださいよ鬱陶しい。」
うじうじしていると、青葉に執務室から放り出される。もうまぢ無理どうしよう…
行くしか無いですよね。はい。
そして、俺は瑞鶴を探す旅に出るのだった。瑞鶴訪ねて三千里…
「はぁ、なんであんな人に…本当になんでなんだろ…」
そして、一人になった執務室で少女が拗ねたように独り言をこぼすのであった。
大変です!覚悟が決まったのに瑞鶴が見つかりません!
もうだめだ、世界の終わりだ…
という冗談は置いといて、見つけました。外のベンチに一人で座っておられます。
待て、落ち着け俺。ここは非常に大事な場面だ。
もし瑞鶴がOKを出したとして…って待てよ?断られる可能性もあるのか、考えてなかった☆
いやいや、その可能性は低いだろう。それでOK出されたとしてもう俺は鹿島や翔鶴にデレルわけにはいかないわけだ。
無理だな。うん無理だ。少しなら許されるでしょう。
じれったい、でも飛び出すような勇気は無い。どうしよう。
ぶっちゃけ心は決まっている。それで誰かを傷つけるというのは赤城を見て実感しているが、中途半端でいるのが一番失礼という考えは変わらない。
というかですね?自分のことでいっぱいおっぱいでもう他のこと考えてらんないと言いますかね?
と、とりあえず話しかけましょう。
提督「瑞鶴、ちょっといいか?」
俺の台詞に瑞鶴は少し俺を見る。しかし、すぐに逃げるように走り去っていった。そう、走り去っていったのだ。んんん?
提督「お、おい、待てって。」
俺はとりあえず瑞鶴を追いかける。そして、すぐに瑞鶴が転んだので追いつくことができた。
妙に高音な悲鳴でした。ちょっと可愛いかったです。
提督「大丈夫か?って、おお…」
声をかけながら手を差し出すが、その手は払われてしまった。
瑞鶴「優しくしないでよ…折角諦めようって思って忘れようとしているのに…酷いよ…」
瑞鶴は泣きながらそんなことを言う、そして再度走り去ろうとするが足を怪我したようで上手く動けていない。
本当に面倒な女だ。すぐに勘違いするしすぐに攻撃するしすぐにトラブルを起こす。
でも、なんか好きだ。なんでだろう
結局、好きなんて感情はどうしようもなく身勝手でどうしようもなく制御が効かないものなのだ。
俺は瑞鶴の肩を掴みこっちを向かせる。瑞鶴は驚いたようにしているがもう気にしない。
やっぱり自分より情緒不安定な奴いると落ち着くよね。真のイケメンならここでキスでもするんだろうが俺にはそんな勇気は無い!
提督「瑞鶴、俺はお前が好きだ。」
口にしてしまった。厳密には何度も言葉にはさっきしたのだが…本人に伝えてしまった。もう引き返せない。
瑞鶴「嘘…嘘だ…今まで見向きもしなかったくせに…私なんて…」
引き返せそう。ここでやっぱ嘘~とか言えばまだセーフ?うん、男としてはアウトだわ。
提督「本当だよ、お前の貧しい胸も面倒なとこもツインテも全部好きだ。いや、すぐ攻撃してくるとこは嫌いだ。」
瑞鶴「ど、ど、どうせ、人として好きとかの落ちでしょ?」
提督「んなわけねぇだろ、お前と結婚したい。愛してる。」
言ってからではあるがお顔が燃えそうなくらいに熱い。つうか実は火ついてたりしない?大丈夫?ウルトラマンタロウみたいになってない?
瑞鶴「本当?」
提督「本当。」
瑞鶴「本当の本当?」
提督「本当の本当の本当の本当。」
瑞鶴の瞳から大きな涙が一つ零れる。それは先程までの涙とは違うように見えた。
瑞鶴「…そ、それなら証明してよ…」
提督「ん?何て言った?」
瑞鶴「ここでキスしてよ…」
とても小さな声で放たれた台詞は俺の耳に届くことは無かった。いや、嘘です聞こえました。俺は難聴系主人公では無い!
聞こえなかったふりしちゃ駄目?駄目ですよね、はい。わかってますよ。
提督「目を閉じろよ。」
そして、初めて俺から瑞鶴にキスをした。それは驚きや罪悪感で塗りつぶされることは無く。
ただ、ただ、唇の熱から瑞鶴を感じる。そんなキスだった。
空気の読めない空は、まるで涙を流すようにぽつぽつと小雨を降らせるのだった。
それはまるでその光景を見ていた、選ばれなかった少女の涙を代弁するかのように。
提督「…足の怪我は大丈夫か?」
瑞鶴「う、うん、なんか痛いの吹っ飛んじゃった。」
雨が本降りになってしまったので、ベンチの近くにある木陰で雨が弱まるのを二人で待つ。
走れば大して濡れずに建物に戻ることは可能だが、今は瑞鶴の近くにいたいと思った。
こんな恥ずかしい感情絶対口には出来ねぇ!でも、瑞鶴も建物に戻ることを提案してこない辺り同じ思いなのかもしれない。
といっても、お互い恥ずかしくて顔を合わせられないんですけどね。
瑞鶴「ね、ねぇ提督さん。」
提督「な、なんだ?瑞鶴。」
瑞鶴「そ、その…さ。浮気とかはしちゃ駄目だからね…?」
提督「えっと、目移りとかは…厳罰対象でしょうか?」
瑞鶴「本当は嫌だけど…それくらいなら許してあげる…」
提督「え、えっと、ありがとうございます…?」
会話がとてもぎこちない。とても話しにくい!誰か助けて!話題提供を!
どうしよう?最近話題の話というと…そういえば俺の中で今スマブラが話題なのだが…その話は無いわー
そうだ、ここは折角だし楽しい話をしよう。新婚旅行とかどうだろう…新婚って結婚まだしてねぇよ!頭の中お花畑かよおぉぉおおぉ。
提督「なぁ、瑞鶴。二人で旅行するならどこがいい…?」
俺の少し濁した台詞…実際はまったくもって濁せてないのだが。を聞いて瑞鶴が少し恥ずかしそうに下を向く。
瑞鶴「温泉宿とか…泊まってみたい。その、だから…箱根とかがいいかな。」
提督「お、おう、機会があったらな。」
話が続きません!畜生もっとギャルゲーやり込んでおくんだった。そうすればこんなことには…
そんなことを考えていると、瑞鶴に服の端を引っ張られる。それに反応し俺は瑞鶴を見る。
瑞鶴「…提督さん、私を選んでくれてありがとうね。大好き。」
そこで見た瑞鶴の笑顔は、今まで見たどの彼女よりもかわいく俺の瞳に映った。
そして、俺はそんな彼女にもう一度口付けをし、思わず建物に走るのだった。恥ずか死ぬはこんなん!
ー?視点ー
これは自業自得なのかもしれない。彼を真に理解しているのは自分だと過信していた。
最後に選ばれるのは自分であると、そう思ってしまっていた。
その自信は目の前の光景でズタボロに砕かれた。根底から、なにもかもを。
いっそ、この雨に打たれるがままに溶けて消えてしまいたい。
いや、あの二人の幸せを壊してしまうのもまた一興かもしれない…
慌てて、自分の顔を触る。今私はなにを考えた…?私はなにを望んでしまった…?
「なにを驚いているんだ?これはお前の望みだろ?選んでくれなかったなら殺してしまえばいい。」
違う、違う、私はそんなこと望んでなんか…
「なら、あの女を殺してしまえばいいじゃないか。そうすれば彼は再度お前を選んでくれるかもしれないじゃないか。」
そんなことができるわけがない、もう私は彼から幸せを奪うわけにはいかないのだから…
「それは誰に決められた?所詮自分でそうしたい。と思った程度だろう?自分で決めた決め事など無いに等しいのだから、捨ててしまえばいい。」
五月蠅い、五月蠅い、五月蠅い、私はそんなことしない。こんなおぞましい思考に飲まれたりしない。
誰か助けて、心が壊れてしまいそう。誰か助けて…助けて、提督…
提督「お、おい、どうしたんだ鈴谷お前こんなとこで。めっちゃ顔色悪いけど大丈夫か?」
心配そうに駆け寄ってくる彼の姿を最後に、私の意識は途切れたのだった。
ー提督視点ー
提督「おい、鈴谷?鈴谷!おい。」
瑞鶴から逃げるように別れた後、建物の入り口に川内姉妹がいるのを見て理由もなく隠れていると、一人でいる鈴谷を見つけた。
いや、隠れる意味なんて無いんですけどね。さっきの瑞鶴との会話聞かれてるかも…とか考えると誰とも顔合わせたくない☆
とはいえ、雨にうたれながら一人壁にもたれかかる鈴谷を見てみぬふりをするわけにもいかず声をかけたのだが…
提督「おい、鈴谷?」
返事が無い、まるでただの屍のようだ。いや、不味いっしょこれ、明石んとこに行かなければ!
とりあえず、意識を失っている様子の鈴谷のことを背負って工廠に向かう。
川内「どうしたの提督?そんなずぶ濡れになって。」
提督「鈴谷が倒れててな、工廠に向かう所だ。」
神通「それでしたら、すぐに対応してもらえるように私の方で明石さんに連絡を入れておきますね。」
提督「ありがとう神通、助かるよ。」
気を聞かせてすぐに行動にまで移してくれる神通にお礼をし、鈴谷を落とさないように背負いなおす。
神通「いえいえ、これくらい気になさらないでください。」
那珂「那珂ちゃんの出番無し!?」
去り際に那珂ちゃんがなにか言っていた気がしたが、今は工廠に急ぐのだった。背中に当たる感触を糧にして…
これは不可抗力だ!!!致し方ないことだ!!!
明石「どうやら、意識を失っているだけみたいですね。目立った外傷も無いですし、じきに目を覚ますと思います。」
提督「そうか、忙しいのにありがとうな。」
明石「いえいえ、いつでも頼ってください!」
提督「そう言ってもらえると助かるよ。本当にありがとな。」
かつて、俺が目覚めたベッドの上で寝ている鈴谷を見る。
綺麗な顔してるだろ?生きてるんだぜ?普通だな。うん。
とりあえず、今考えるべきは鈴谷がなぜあそこで気絶していたかだ。思いつくものは三通り。
一つ、雨の中で遊んでたら風邪ひいて倒れた。無いな。小学生かっての。
二つ、電波を受けて倒れた。エイリアンかなんかかよ。
三つ、俺と瑞鶴のやり取りを見ていて感情の制御が効かなくなった。自意識過剰であるならそれが一番可能性としては高いのだけれども。
鈴谷「ん…」
そんなことを分析していると、寝ている鈴谷が体を動かす。
提督「目覚めたか、どうだ?体調は問題ないか?」
体を起こして興味深そうに周囲を見回す鈴谷に声をかける。それにしても、なにか違和感を感じるのは何故だろうか。
そして、その違和感の原因はすぐに分かった。鈴谷の一言によって。
鈴谷「あの…あなたは誰ですか?」
その一言に俺は思わず言葉を失ったのであった。
元帥『鈴谷が記憶を失った…?』
提督「ああ、明石に今色々検査してもらってるんだけど、記憶喪失みたいな状況らしい。」
元帥『そうか…』
俺は鈴谷が記憶を失っていることを知ってすぐに親父に電話をかけていた。
かつて、俺と初めて出会った時も鈴谷は記憶を断片的ではあるが失っていた。
提督「同じ人間が二度も記憶喪失することなんてあるのか?」
元帥『別に記憶喪失が生涯に一度までなんて決まりは無いだろうな。それで、お前の話によるとお前と瑞鶴の話を聞いて記憶を失ったと考えていいんだよな?』
提督「多分だけどな。もし、何もしてなくても突然記憶が消えるなんていう怪奇現象があるなら話は別だけど。」
元帥『そんなのあったら、この世の中はもっと混沌としてるだろうさ。』
元帥『前回鈴谷が記憶を失った時も姉妹艦が沈むという光景を目の当たりにしたからだ。今回はそれが失恋だったといったところか。』
提督「そんな都合よく記憶を失…いや、なんて言えばいいんだろう。」
元帥『お前が言わんとすることはわかるよ。だが、艦娘は人間とは違うからな、苦しみから逃れるために記憶を失う機能があってもなんら不思議ではない。』
元帥『それが鈴谷にのみ備わっている能力なのか、単純に偶然が重なっているだけでそんなもの存在しないのかはわからないがな。』
元帥『だが、前のケースから考えるに完全に消えるというわけでは無いのだろう。なんらかの形で断片的に記憶が戻るとまた死のうなんて考えるかもしれない。』
元帥『特にお前が接触しているとな。』
提督「なら、どうすればいいと思うんだよ。このままってわけにもいかないだろ。」
元帥『俺が預かろう。言い方は悪いが監視をつけて変な気を起こさないようにしてみるさ。明日迎えを寄越すからあまり深くかかわりすぎないようにな。』
提督「わかったよ。」
そこまで話して電話を切る。俺はどうするのが正解なのだろうか。
そうしてもあの時の記憶が蘇る。鈴谷のこともだが、同時に想いを伝えてしまった瑞鶴のことが心配になってくる。
彼女は怪我をしていないだろうか、俺の見えないところでなにか苦しんでいないだろうか…死のうなどと考えていないだろうか。
嫌な記憶が頭の中を駆け巡る。最近の平穏で忘れてしまったトラウマが嫌という程頭に焼き付く。またなにかを失うかもしれないという恐怖が俺を縛りつける。
明石「提督、鈴谷さんの状態がある程度判明したので…どうされました?提督。」
提督「いや、なんでもない。大丈夫だ。聞かせてくれるか?」
明石「はい、基礎的な知識と自分が記憶を失っているということに関しての記憶は残っていますが…他はなにも覚えてないようです。素性から名前まで。」
提督「そうか、とりあえず親…元帥と話して一回鈴谷のことは元帥に任せることにした。明日迎えが来るらしい。」
明石「わかりました、ここでは満足な治療も出来ないですからね…」
提督「明石が気に病むことは無いさ、今度工廠の医療方面の改善も考えてみよう。」
明石「ありがとうございます。それと、鈴谷さんが先ほどの男性と話がしたいと言っているのですが…」
提督「…わかった、少し話してくるよ。」
少しためらった後、俺はそう返すのだった。
鈴谷「すいません、お呼びしてしまって。」
提督「いえいえ、気になさらないでください。それで俺になにか御用ですか?」
鈴谷「えっと、その、なんと言いますか…知っている顔のような気がしたんです。記憶を失う前になにか縁があったりしましたか?」
提督「どういえばいいか、口で説明するのは少し難しいような仲でしたね。」
つい昨日まで普通に笑いあっていた相手に忘れられるのは悲しいというより、違和感のほうが強かった。
まるで、同じ容姿同じ声の別人と喋っているような感じだ。
鈴谷「そうですか…私はこれからどうなるのでしょうか?」
提督「えっと、一度場所を移ってもらってそこで本格的に記憶を取り戻す治療をすることになると思います。」
鈴谷「そうですか、わざわざありがとうございます。記憶が戻ったらまたお話ししましょう。」
提督「はい、楽しみにしています。」
そうして、俺は部屋を後にする。記憶が戻ったらその時、俺は鈴谷と話せるのだろうかなんて考えながら。
執務室に戻ると、青葉の姿は無かったが代わりに瑞鶴がいた。
提督「どうしたんだ瑞鶴?寂しくなったか?」
瑞鶴「別に寂しくなんて無いもん。その、ちょっと提督さんと話したくなっただけ…」
提督「それを寂しくなったって言うんだよ。ちょっと鈴谷が記憶を失っちまったみたいでな。」
瑞鶴「川内さんから聞いた、鈴谷さん大丈夫なの?」
提督「記憶を失っているだけで外傷とかは無いから大丈夫だよ。鈴谷のこと心配するんだな、てっきり嫌ってるんだと思ってたわ。」
瑞鶴「別に嫌いじゃないけど…提督さんのこと一番わかってるみたいな態度が気に喰わなかったというか…ふん。」
まださっきの告白の余韻が残っていて照れているのか瑞鶴は俺と目を合わせようとしない。可愛いやつだ。本当に。
その感情は俺が瑞鶴を好きだからこそ、ここまで大きく感じるのだろう。
そう、俺は…
瑞鶴「って、提督さん!?その初日からそういうのは…その…心の準備というか…って、提督さん…?」
俺は瑞鶴を抱きしめてしまっていた。自分の中のなにかが限界に近かった。もう一生この手を放したくないなんて思ってしまった。
瑞鶴「提督さん…苦しい…」
提督「あ、悪い…」
瑞鶴「別にいいけどさ、どうしたの?顔色凄い悪いよ。」
提督「いや、なんでもないさ気にしないで…
俺は瑞鶴にそんな風に言うが、瑞鶴に口を塞がれ最後まで言うことは出来なかった。
瑞鶴「提督さんのそういうとこ駄目だと思う。いつも自分のことは大丈夫って言ってさ、その、私は…その、提督さんの彼女なんだからもっと頼っていいから!」
俺の彼女こと瑞鶴は自分で言っといて赤面してる。まさかこいつに説教される日が来るとは、明日はガン〇ムでも降るのかね。なにそれ怖い。
提督「昔のことを思い出しちまってな。お前がいなくなっちゃうんじゃないか、なんて考えたら止まらなくてさ。」
瑞鶴「提督さんに昔なにがあったのかは知らないけど、私はここにいるよ。提督さんの傍にずっといる。」
提督「ああ、そうだな。ずっといてくれるか?」
瑞鶴「それは、わからないかな。他の人好きになるかもしれないし。」
提督「酷いこと言うなお前、仮にも俺は傷心中だぞ?」
瑞鶴「嘘だよ、こんなに好きにさせられちゃったんだもん。だから、提督さんも私だけを好きでいてね?」
提督「約束するさ、俺はお前だけを好きでいる。」
瑞鶴「ふふ、嬉しい。」
なんの縛りも契約も無いただの口約束。それがどれだけ無意味なことなのかは理解している。
でも、その約束だけは例え破られても俺は守り続けようと思えたのだった。
瑞鶴「それじゃ、私翔鶴姉と約束があるから行くね。早く元気出してね。」
提督「おうよ、愛してるぜ。瑞鶴。」
瑞鶴「そ、そ、そういうこと不意に言うの禁止!」
俺の決め顔での台詞に、顔を真っ赤にしながら瑞鶴は執務室を後にした。情けない話だ。
乗り越えたなんて考えていたのに、未だに過去ってやつは自分を縛ってくるらしい。とはいえ、そんなのに負けていられない。背負い続けるのが辛くとも。
なんてったって、俺は今日からリア充なんだからな!そう、リア充!リアルが充実と書いてリア充!
とはいえ、瑞鶴との関係は鈴谷の件が落ち着いてから皆に伝えることにしようと考え俺は瑞鶴に連絡するのだった。
そして、翌日。昼前に鈴谷の迎が来た。と言っても大和さんなのだが。
提督「それじゃ、鈴谷さんここからは彼女の言うことを聞いてください。」
鈴谷「はい、親切にありがとうございます。えっと、お名前を伺っても?」
大和「本当に記憶が無いんですね…私は大和と言います。以前にも面識があったんですよ。」
鈴谷「すいません、私もそんな気はするんですけど思い出せなくて。」
大和「いえいえ、気にしないでください。ゆっくり思い出していきましょう。」
少し、申し訳無さそうにする鈴谷を大和さんに引き渡す。記憶が無くなるというのは中々に残酷なものだ。
昨晩は心配だからという理由で、明石が鈴谷についていてくれたが特に変わったことは無かったと聞いた。
ちなみに、今日からは大和さんが鈴谷についていてくれるらしい。親父との夜の営みはどうするんですか?って聞いたらぶん殴られた。照れ隠しかな☆
提督「それじゃ、大和さん。後はお願いしますね。」
そう言って俺は車に乗り込む二人を見送る。その時だった。
突然、車に乗り込もうとしていた鈴谷が無言で俺に近づいて来て、俺の首を強く絞めたのだ。へ?はうわっつ!?
大和「な、なにしてるんですか!やめなさい!」
一瞬何が起きているのかわからないといったように動きが止まった大和さんだったが、すぐに鈴谷を俺から引きはがす。
鈴谷「…あれ?私、なにを…?」
俺から引き離された鈴谷は、突然なにかを言って気を失ってしまった。
は?え?俺今ナチュラルに殺されかけなかったか?怖くね!?
大和「大丈夫ですか!?提督君。」
大和さんが慌てたように声をかけてくる。状況が理解できない、俺が鈴谷に襲われた?襲われた(意味深)ならまだわかるが、命を狙われた?
提督「大丈夫です、でも今のは一体?」
大和「どうやら、唯の記憶喪失ってわけじゃなさそうですね…さっきの鈴谷さんは明らかに様子がおかしかったですし。」
提督「ただの記憶喪失じゃないって一体…」
大和「それはわかりません。でも、私の知っている彼女は提督君を襲うような人じゃありませんでしたから。」
大和「いずれにせよ、元帥のもとで精密検査をしてみないことには始まりませんね。」
提督「それもそうですね。あと、呼び方間違えてますよ。元帥じゃなくて夫でしょ夫。」
大和「ま、まだそういうのは少し恥ずかしくて…って、提督君今殺されかけたのわかってます?」
提督「わかってるから逃避してるんですよ。」
そう、とりあえず状況を整理させて。まずわかってるのは親父と大和さんがラブラブってこと。どうでもええわ。リア充爆発しろ。
どっかーん!!!いや、そんなこと言ってる場合か。
さっきの鈴谷は目が赤く光っていた。位置取り的に大和さんは気づいていないだろうがまるで深海棲艦のように…
いや、変なことを考えるのはよそう。きっと、鈴谷は混乱していただけだ。そうに違いない。
そして、大和さんと話した結果。意識を取り戻すまでに親父のもとに運ぶべきと判断し、すぐに鈴谷を連れて行ってもらった。
そして、俺はこの時のことを後のに強く後悔することになったのだった。
自分を殺してしまいたいと思う程に。
同日、午後。鈴谷は親父の鎮守府で目が覚めたらしいが俺を襲ったことを少しも覚えていないらしい。
精密検査が終わり次第、連絡するとのことだ。
そして俺は、執務室にて執務中だ。
扶桑「提督、こちらに今日中に処理が必要な書類をまとめておきますね。」
今日の秘書官を命じている扶桑がそう言って机の端に書類をまとめてくれる。
あぁ、扶桑さんええわぁ…見てくださいよこの美しいという言葉の擬人化のような姿。漂う色気で襲っちまいそうだぜェ!
とはいえ、変にちょっかいを出すわけにはいかない。なぜなら執務室内に山城が何故か… 何 故 か 居座っているからだ。
山城「提督、手が止まっていますよ。まさか扶桑姉さまに対してあらぬ妄想をしているんじゃないでしょうね。」
やばくない?被害妄想の到達点だよこれ。手が止まっただけでセクハラだってよ。マジやばでじゃけぱねぇな。
提督「そんなわけねぇだろ、そんな四六時中エロいこと考えるほど餓えてねぇよ。」
山城「どうだか、扶桑姉さまの色気で襲ってしまいそうとか考えてるんじゃないですか?あぁ、汚らわしい。」
提督「そんなわけねぇだろ、俺のこと獣かなんかと勘違いしてんじゃねぇのか?」
はい、正解です。考えてました。とはいえ、ここでその通りだとか言ったら今日だけで二回死にかけるどころか死ぬので言わない。
扶桑「山城?あまり提督のお仕事を邪魔しちゃだめよ?」
山城「いいえ、姉さま。私がここで監視していないと提督がなにをするかわかったもんじゃありません。」
酷い言われようだ。別に山城がいなくなったからって扶桑にあんなことやこんなこと…したいな。うん。
実際にすると山城どころかツインテにまで襲われて確実に死ぬのでしませんがね。
扶桑「いい加減になさい山城!提督はそんなことする方じゃないのは山城だってわかっているでしょう?」
一歩も引かない山城に対して、扶桑が少しきつく言う。ごめなさい…扶桑さんその言葉と信用が一番俺の心を抉ってる…
山城「まぁ、確かに其のとおりですけど…」
まぁ、そんなやり取りをちょくちょくしながら執務を続ける。
それはそうと、瑞鶴とのケッコンカッコカリはどうやって皆に報告するべきだろうか。
サプライズ的な展開を考えはしたが、準備などを俺と瑞鶴の二人で秘密裏に行うのは困難だろう。
いそお、出来ちゃった報告とか?いやいや、何考えてんだ俺は。
まぁ、妥当なのは普通に放送などで報告することだろう。うん、そうしよう。
金剛「テートク―!瑞鶴と結婚するって本当デスか!?」
あるぇ?情報がもう漏れてるんですけど、どういうことですかね?
扶桑「あら?提督はケッコンカッコカリの相手をもう決めていらしたんですか?」
どうしようか?誤魔化しても無駄そうだし、ぶっちゃけちまおうかな。
提督「あぁ、そのつもりだ。俺は瑞鶴とケッコンカッコカリをす…
金剛「私を選んでくれるんじゃなかったんデスか!テートクの裏切り者!」
提督「いや、待ってくれ俺そんなこと一回も言った覚え無いんだけど!?」
金剛「夢の中であんなに愛をささやいてくれたのに嘘だったんデスネ!」
提督「自分で夢の中ってわかってるじゃん!?」
金剛「テートクの裏切り者ー!」
そうして、金剛は執務室から走り去っていった。相変わらず嵐のようなやつだ…
山城「ところで、提督。金剛さんが言っていたことは事実なんですか?」
嵐が去り、突然静けさを取り戻した執務室で山城が射殺すような視線で俺に問うてくる。え?なんで怒ってるの?
提督「あ、あぁ、さっき言った通りだけど。」
山城「何故ですか!?姉さまを選ばないなんて男の風上にも置けないですね!さっきまで扶桑姉さまをいやらしい視線でまじまじと見ていたくせに!」
提督「怒るとこおかしいだろ!?そんなこと言ってもし俺が扶桑と結婚するなんて言ったらお前絶対俺殺すだろうが!」
いやらしい目で見ていたことは否定できないでござる。仕方ないでござるよ。
山城「なに当たり前のこと言ってるんですか。」
提督「突然落ち着いて冷めた視線で俺を見るのやめてくれる!?」
瑞鶴「提督さん!金剛さんここに来なかった!?」
シスコンと口論をしていると、執務室に貧乳が走り込んできた。妙に慌てたように金剛を探しているようだ。
提督「今さっき来たがどうしたんだ?そんな焦ったようにして。」
瑞鶴「そ、その、さっき翔鶴姉に提督とのこと話したんだけど…金剛さんが聞いてたみたいで大声で言いふらしてるの!」
提督「大声で言いふらしてるってどういう意味?」
瑞鶴「さっきから『私より瑞鶴のほうがlikeなんですねー!』とか言いながら走り回ってるのあの人!」
うわぁ、なにその人間スピーカー…遭遇したくねぇなぁ。
艦娘一同「提督!どういうことですか!」
そんな話をしていると、スピーカーによって情報を得た艦娘たちが執務室に続々と集まるのだった。
俺がさっきどうやってみんなに伝えようか真面目に考えていた数分を返せ。
なんだかんだで、数時間かけて現場が落ち着きました。
執務が少ない日だったからいいものの、もしこれで執務が終わらなかったら営業妨害で訴えてやるとこだったぜ。
瑞鶴「ごめんね、提督さん。私のせいで皆にバレちゃって…」
提督「別にいいさ、俺も皆には伝える気でいたしな。」
瑞鶴「と、ところで提督さんさ。」
提督「ん、どうした?」
瑞鶴「秘書官ってさ、一日中提督さんと一緒にいられるじゃん?」
提督「ま、まぁそうだな。」
瑞鶴「だから、そのこれからは毎日私が秘書官じゃダメかな…?」
誰か、俺の口からあふれ出そうな砂糖使う人いる?この子なんなのさ、デレすぎじゃない?俺今までやったギャルゲーでここまでデレた子いなかったよ。
つうかさ?聞いてくださいよ。目の前で毎日一緒にいたいとか言って赤面してるこの子。俺の彼女なんですよ?いいでしょ?誰にも譲りませんよもう。あ、5千兆円くれるなら悩んだ後に却下する。
提督「…わかった…その、これからは毎日頼むことにする。」
直視できません。俺の彼女が可愛すぎて直視できないとかいうラノベが書けそう。
ごめんね中学の時のリア充殲滅委員会の同志たち…俺はお前らとは分かり合えないようだ。俺ニュータイプやめます。
瑞鶴「へへ…ありがとう。そ、それと、そのさ、提督はその私と、その…なんでもない!」
なんかもじもじしていたと思ったら突然瑞鶴が執務室から走り去る。
正直、ほっとしてます。こう胸が爆発しそうなんですよね、ドキドキとかじゃないゴゴゴゴゴみたいな少年漫画のようなノリだよこの心音は…
しばらくして、冷静になりつつ先ほどまでのやり取りで再度一人赤面していたのは言うまでもない。
それからはまた平和な日々が続いていた。鈴谷の精密検査では特に変わった報告は無かった。
そして、今日も今日とて執務だぜい☆
瑞鶴「提督さん、それ取って。」
提督「ん?これか、ほれ。」
瑞鶴「ありがと。」
流石に瑞鶴との関係にも慣れて、こうして前みたいに会話したりできるようになった。
だが、それが問題だ。
そう、以前と恋人関係になったのに変化が無さすぎるのである。というか、恋人になる前の方がまだイチャコラしていた気がする。
おかしいだろ!?普通カップルってのは電車でキスしたり、街中でキスしたりするもんじゃないの!?
キスしかしてねぇな。それにいくらなんでも偏見が過ぎるか。
大多数の人間が俺に自分からがつがつ行けと言うと思うが、無理だよ!まだ深海棲艦に全裸特攻する方がましだよ!
とはいえ、駄目だ。瑞鶴成分が足らない。お仕事する気力が無くなっちゃう。
口には出せないけど、翔鶴成分か鹿島成分でも可。
瑞鶴「提督さん、なんか手止まってるけどどうかしたの?」
提督「いや、最近瑞鶴とイチャイチャしてないなと思ってさ。」
本音を言うと引かれそうなので、ここは少し考え事をしていたとでも言って濁しておこう。ん…?
なんか、台詞間違えた気がするがもう良くあることなので気にしない。うん、心はセメントでできている。
瑞鶴「な、な、な…」
提督「ごめん、今のミス。記憶から消してくれ、テイク2で頼む。」
飛龍「イチャイチャしてるとこ悪いけど提督、報告してもいい?」
提督「ああ、頼む。」
横から突然話しかけてきた飛龍に驚き、瑞鶴が後方に飛びのく。
瑞鶴「ひ、飛龍さんいつからいたんですか…?」
飛龍「最初からいたよ!さりげなく影薄いの馬鹿にしてる?」
瑞鶴「いやいや!そういうわけじゃないですよ!」
どうやら、飛龍は自分がこの鎮守府で影が薄いことに気づいているらしい。
まぁ、仕方ないね。相方が爆弾だもんね。皆そっち見るもんね。俺は小さい方が好きだが、男は大きい方が好きなのだ。
つまり、男でもある俺は俺はどんな胸部装甲も好きだ。以上。
飛龍「もう、付き合いたてで幸せなのはわかるけど見せつけられる身にもなってよね。」
瑞鶴「そ、そういうつもりは…」
提督「そうだぞ、瑞鶴あんま見せつけるようなことは…」
飛龍「提督もですよ!!!」
あうぅ、怒られた。でも仕方ないと思うわけですよ。常に職場にいるんですもん!
提督「まぁ、気を付けるよ。ところで報告は?」
飛龍「あ、はい。鎮守府近海及びその周辺を索敵してきましたが以前深海棲艦の姿はありませんでした。」
提督「嵐の前の静けさってやつなのかね。いっそ、このまま深海棲艦絶滅しないかなぁ。」
例の兄さんの騒動から深海棲艦は全くと言っていいほど姿を見せない。わんちゃん、もう絶滅したとか?
それだと、俺…職を失わないか?提督からニートとかワラエナイんですけどぉ!?
飛龍「それで、これは長門さんからの伝言なんですけど。」
提督「ん?なんだ?」
飛龍「明日、一緒に買い物に言って欲しいそうです。勿論瑞鶴さんも一緒に。」
提督「俺は別に構わないけど…」
瑞鶴「長門さんだったら別に提督さんと二人で行っても私は大丈夫だけど…」
飛龍「いや、二人が付き合ってるからというわけじゃなくて普通に二人に着いてきて欲しいんだってさ。」
瑞鶴「そういうことなら、私はいいけど。」
提督「なら、決定だ。悪いが、長門に伝えてやってくれないか?詳細はスマホでとも。」
飛龍「おっけー、それじゃお邪魔しました。」
ということで、俺のよくわからない面子での買い物が決まったのだった。
でもなんだ?長門と俺と瑞鶴…?共通点あるかこの三人。逆を強いて言うならイケメン、美少女、一般人だが…
まさか!?長門は俺から瑞鶴を奪うつもりなのでは!?
いや、有り得ないか。あいつはレズじゃないと思うしな。なら、いったい何を考えてるんだろうか…
瑞鶴「ね、ねぇ、提督さん。」
提督「どした?」
瑞鶴「さっきのってさ…」
提督「ああ、今俺もちょうど、なんで長門が俺と瑞鶴を指定したのか考えてたとこだ。」
瑞鶴「違う違う、そのもう少し前。」
提督「ああ、最近は本当に深海棲艦が音沙汰無くて逆に怖くなってくるよな。」
瑞鶴「もう!わかっててやってるでしょ!それのもう一個前!」
はい、わかってますよ。俺の失言でしょ?はいわかってます。
さっき心がセメントとか言いましたが嘘です。どっかの弓兵と同じでガラスです。掘り返されたら恥ずかしいもん!
提督「オボエテナイナー」
瑞鶴「棒読みじゃん!そんなに私とイチャイチャしたいって口に出すのが嫌なの?」
こいつドストレートに言った!言いやがった!逃げ場がない!
提督「い、いや、ほら。気持ち悪いとか思われてないかな~とか思ったりさ…」
瑞鶴「恋人の癖になに言ってんのさ…私ももっとイチャイチャというか、その、なんというか…」
もじもじしながら目を背けてこんなこと言うんだぜ?もう無理でしょ。男だよ僕。手を出すなとか拷問に近いぞこれ。
しかし、時間は昼だ!R18はアカン!つうか、仕事が終わってない!そもそも恥ずかしくて無理!
とりあえず、お互い無言の同意で顔を近づける。大丈夫か俺?鼻息荒くない?髭濃くない?顔イケメン?
最後は絶望的だな。一生治らない不細工という病だわ。
そして、少し色っぽい雰囲気で顔を近づけ唇の距離がゼロになる寸前。
長門「すまない、スマホでの連絡がまどろっこしかったので直接出向くことにしたぞ。」
提督「あぎゃあああああああああああああああああああああああああ」
瑞鶴「ひゃああああああああああああああああああああああああああ」
執務室のドアが大きな音を立てて開いたと思うと、二人分の絶叫が建物中に響くのだった。
長門「その、すまなかった。」
提督「気にすんな。執務中に不純なことしようとしてた俺が悪いからな。」
あの後、俺はパニックに陥った瑞鶴に頬をブッ叩かれ数分意識を失っていたらしい。
少し状況が理解できずに頭上を回るヒヨコを眺めていたが、さっき意識がはっきりとし再度仕切りなおして長門と話している。
キスから意識を失う程の攻撃にシフトする俺の彼女マジ怖い。ちなみに、本人はどっかに走って行ったそうな。
提督「そんで、俺も聞いときたかったんだがなんで俺と瑞鶴の二人を誘ったんだ?」
長門「え、え、えっとそれはだな。その、なんだ。はっはっは。」
なんかこのイケメンめっちゃ挙動不審なんですけど。インキャがダンスフロアに放り込まれたみたいになってんぞ。
怪しい…実に怪しい。
提督「なぁ、長門。俺になんか隠し事とかしてないか?」
長門「な、なにを言うんだ提督は。この長門全く持って隠し事など…」
提督「長門、俺の目を三十秒間見つめてみろ。」
長門「あ、あぁ、それくらいなんてことはないぞ。」
そして、不意に始まる見つめあい。アカン、そんな眼光で見られたら惚れちまう!
畜生!神よ、あなたは残酷だ!俺にもイケメンフェイスをくれよ!
徐々に長門もなんか苦しそうな表情になってる、意外と粘るじゃねぇか…俺が目を背けちゃいそう。
長門「無理だ…だが、私には皆との約束が…」
提督「ほう、皆との約束ねぇ。いったいどんな悪だくみをしているのか話してもらおうか。」
長門「それは駄目だ!いくら提督でもそれは言えない!」
提督「ああ、別に言えと強要することはしないさ。お前はそこでじっとしていればいい。あ、これ提督命令な。」
長門「提督…なんだか手の動きがいやらしい気がするのだが…提督?」
そう、これは仕方のないことだ。部下の尋問は上司の役目。
一切合切、一ミリ一コンマ、少しも微量もやましいことなど考えていないのだ。
さぁ、尋問を始めよう。
ー曙視点ー
ここの鎮守府にあの提督が着任して、それなりの月日がたった。
今では昔の死んだような表情で溢れていた鎮守府がまるで嘘だったかのように皆が笑顔で過ごしている。
鈴谷さんのことは少し心配だが、提督が信頼できるところに預けたと言っていたので大丈夫なのだろう。
漣「おやおや、ぼのたん真剣な顔してご主人様のことでも考えてるん?」
曙「別に考えてないわよ。あと、ぼのたん言うな。」
漣「ぼのたんも可哀想ですなぁ。密かに抱いていた恋心にも気づいてもらえず、それどころかそれを祝う立場だなんて…」
曙「いい加減にしないとぶっ飛ばすわよ?」
漣「ヒー、ぼのたんが怒ったー」
意味もなく書類を執務室に運ぶのに着いてきていた漣がそんなことを言いながら走り去る。
別にあんな提督のことなんてなんとも思っていない。そう、なんとも。
とはいえ、確かに色々と凄い人だとは思う。最初は結構私たちにも構ってくれてたし…
だからといって、全然かまってくれない現状に別に文句があるってわけでもない…そう、別に全然気にしてない。
なにに言い訳してるんだと一人ため息を吐いていると、執務室の近くに着いた。
話し声が聞こえる。これは、長門さんと提督?
長門「ひゃ…はう…提督、それ以上は…ひぇ…」
提督「ここか?ここがええんじゃろ?」
長門「そ、そんなこと…ひゃう…や、やめて…んっ…」
曙「な、なんてことしてるのよこのクソ提督!」
執務室から聞こえてきた長門さんの喘ぎ声に思わず声を荒げながら執務室に突入する。
しかし、そこで行われていたのは私の予想とは全く違ったものだった。
提督が長門さんの脇腹をくすぐっている。その、一言でいうと中々シュールだ。
提督「なぁ、長門。そろそろ喋ってくれない?俺の良心がズタボロなんだけど。って、曙じゃないかどうしたんだ?」
長門「私の体を好きにしても心まで奪えるとは思うなよ…」
提督「なんでお前はそうさっきから下半身に来るような反応なの?同人誌なの?」
曙「一体、何をしてたのよ…」
提督「いやな、長門がなんか俺に隠し事をしているみたいでさ。それを聞き出すために尋問してたんだよ。」
やはり、長門さんにこの役を任せたのは失敗だったようだ。陸奥さんの懸念が見事に的中している。
長門「安心しろ、曙。ちゃんと隠し通したぞ!」
この人はなにを言ってるんだ!?なんかめっちゃ私に向かって親指立ててるけどそれ私も関係者ってバレるやつじゃん!
曙「そ、それは良かったですね。それじゃクソ提督書類ここに置いとくわね。」
提督「ああ、ありがとう。ところで曙。今の会話からするにお前も関係者だな?」
曙「さ、さぁなんのことかしら。私はなんにも知らないけれど。」
提督「そうか、なら引き続き長門から聞き出すとしよう。」
長門「そんな、あれで終わりじゃないのか!?はう…ひゃぁ…うぅ……」
私は長門さんに頭の中で土下座しながら執務室を後にするのであった。
そして、もし提督にばれても長門さんを怒らないよう、陸奥さんにお願いしておこうと誓うのだった。
ー提督視点ー
長門「もう、やめてくれ…これ以上は…耐えられ…ひゃう…」
ビッグセブンが俺の目のまえで喘いでいる。なんかめっちゃエッチな気分になってきたぞ。
駄目だ俺!煩悩退散精神統一色欲万歳…いや、最後駄目じゃん。
そんなこと考えてても、手は止まらないんですけどね。めっちゃ楽しい。
今までそのイケメンフェイスでドキドキさせられてきたことへの報復ってことなら多分許されるだろう。
長門「わかった…私の負けだ…全部話すから…もう、やめて……」
涙目で懇願するようにそんなことを言うながもん。え、どうしよう尋問とかどうでもよくなってきたし続けようかな。
流石にそこまで鬼畜では無いので大人しくくすぐるのを辞めてやる。
提督「それじゃ、話してもらおうか。」
長門「あぁ…そのだな明日提督と瑞鶴の結婚式のようなものをしようという計画でな。」
長門「それで、私は明日一日二人を鎮守府から遠ざける係だったのだが…」
あれ?もしかしてこれ俺最低なことしてない?俺たちをサプライズでお祝いしようとしてくれてた相手を無理やり尋問したってことだよねこれ。
え、どうしよう。てっきり皆で俺にドッキリでも仕掛けるとかかと…
長門「二人には内緒にするように言われてたんだが…皆、すまない…」
提督「そ、その長門。そんな気に病まないでくれ…全体的に俺が悪かった。」
ちなみに後悔はしてない。長門の喘ぎ声聞けたし、さりげなくくすぐりながらいろいろ触ったし…
最低とか言わないでください!僕も知らなかったんです!
陸奥「どうせこんなことになるとは思ってたわよ…」
唐突に聞こえた扉を見ると、頭を抱えた陸奥さんが立っていたのだった。
陸奥さんの話を聞いたところ、長門の言っていた内容は事実のようだった。
駆逐艦たちがサプライズを楽しみにしているということで、俺には何も知らない体でいて欲しいとのことだ。
そんなこんなで翌日、俺は瑞鶴との集合場所である駅前に長門と共に先に来ていた。
提督「昨日は本当にごめんな…」
長門「いや、あからさまに怪しい態度を取っていた私にも非があるからな…責めはしないさ。」
提督「ありがとな。ぜめて瑞鶴にだけでもバレないようにしないとだな。」
それはそうと、長門の私服が意外と女の子していて驚く。てっきりダメージジーンズにノースリーブに革ジャンとかでバイクのってそうなんて考えていました。
この季節にその格好は死にそう。実際のところは黒いズボンに赤い色のコートを着ている。
それにしても、そのイケメンな顔で寒そうに両手で口覆って息吐くの反則じゃない?可愛いんだけど?あと胸の主張激しくない?揉むよ?
いや、揉むなアホ。
瑞鶴「遅れてごめんなさい…って、提督さん折角なんだから鎮守府から一緒に行こうって言ったじゃん!」
そんなこんなで瑞鶴登場。あらま、この子スカートとか履いてますよ。上には茶色のコートを着てます!はーやっぱ俺の彼女が世界一可愛い。
はい、惚気てる場合じゃ無いですね。もちろん、こんなセリフ口には出せないですし。
提督「悪い悪い、なんか気づいたら駅に着いてた。」
瑞鶴「もう、翔鶴姉から提督が先に行ったって聞いてなかったら今も探してたんだからね!不貞腐れるぞ…」
提督「悪かったよ、ほれ撫でてやるから許してくれ。」
瑞鶴「そ、そんな程度で許してあげないからね…」
口ではそんなことを言っているが、大人しく撫でられている辺り満更でもないのだろう。
不意に反対を見ると、長門が困ったようにその光景を見ていたので長門も撫でてみた。
長門「ん?うん?ん?」
なんか、困惑してるけどまぁ可愛いからオールOK
どうでもいいけど、二人のサイズが違うせいで両手で同時に撫でると変なポーズになる。つうか、長門デカい。
そんなこんなで、俺たちは電車に乗り込むのであった。イケメンと美少女に挟まれて乗る電車は周囲からの視線が痛かったですまる
イメージは薔薇とコスモスの間にサボテンがある感じ。なにそれサボテン可哀想…ちなみに、俺のこと。
数十分電車に揺られ、長門に連れられてきたのは普段行くのとは別のショッピングモールだった。
個人的にはあのショッピングモールに行くと赤城との一件を思い出してしまうので助かった。
提督「それで、この後はどうするつもりなんだ?」
瑞鶴に聞こえないよう、俺は小声で長門に今後のプランについて聞いてみる。
長門「あぁ、折角だし服を選んでもらおうと思ってな。前に陸奥に私はもう少し服を持つべきと言われてな。」
提督「了解した、んじゃ適当に店入るとしよう。」
長門と小声で作戦会議を済ませ、近場にあった店に入る。
どうしてこう、女性服売ってる場所っていい匂いがするんですかね。思わず鼻が動いてしまう…
瑞鶴「そういえば、長門さんが服が欲しいのはわかるんですけど、どうして私と提督さんのこと誘ったんですか?
ファッションセンスなら陸奥さんの方がよっぽどいいと思うんですけど。」
不意に、瑞鶴が本当に不思議といったようにそんなことを言う。
長門「そ、それはだな…あの、えっと…」
うわぁ、このイケメン絶望的に嘘が下手だぞ。こいつ深海棲艦に作戦ばらしたりしないだろうな…?
提督「あぁ、なんでも陸奥が言うには男の人に選んでもらうのも新鮮でいいんじゃないかってさ。
瑞鶴に関しては恋人のいる女性の意見もきっと参考になるとか言ってたぞ。」
とりあえず、適当に嘘言って誤魔化す。これは勝利のための致し方ない嘘だ。コラテラルなんちゃらだ。
瑞鶴「恋人のいる女性の意見…へ、へぇ…」
俺の言葉を聞いた瑞鶴はなんか呟きながら服を物色している。俺の彼女なんか不気味…
とはいえ、いくらなんでも服探しだけで一日潰すのは難しいだろう。下手に長門がぼろを出す前になにかしら長く時間を潰せるものを探さなければ。
提督「おーい、二人とも俺ちょっとトイレ行ってくるな。」
瑞鶴「うん、ここら辺漁ってるからー」
若干、長門が情けない顔で俺を見ていた気がするがすまない。一人でなんとかしてくれ…
とりあえず、小走りで店を出て近場のインフォメーションを確認する。
あるのは映画館とフードコートと…お、レジャー施設があるじゃんけ。よくあるカラオケとかボーリングとか時間内ならやり放題のやつ。
ここにどうにか誘導できればなんとかなりそうだ。
とりあえず、トイレが長すぎるのは印象が悪くなりそうなので少し速足で店に戻る。戻ったはいいが、長門の姿が見えない。
提督「瑞鶴、長門はどうしたんだ?」
瑞鶴「おかえり提督さん、長門さんなら今更衣室で服試着してるとこだよ。」
瑞鶴の台詞に思わず近場の更衣室に視線が向く。ここの中にあのないすばでーが…って、痛い痛い。
瑞鶴「提督さん?なにかよからぬこと考えてない?」
振り向くと、満面の笑みの瑞鶴が俺の頬をつねっていた。痛いです瑞鶴さん。
長門「な、なぁ瑞鶴。本当に試着する服はこれであってるのか?」
いかにもカップルといったムーブを俺と瑞鶴が披露していると、試着室の中から長門の不安そうな声が聞こえてきた。
瑞鶴「間違ってませんよ、長門さんはそうゆうかわいらしい服も似合うと思います!」
姿の見えない長門に瑞鶴がそんなことを返す。なんだろう、バニーガールでも出てくるのかな?
長門「本当だろうな…こういうのは私より陸奥やそれこそ瑞鶴のほうが似合うと思うんだが…」
情けない声を出しながら更衣室から出てきた長門は、なんかもう破壊力の化身だった。
もうあれよね、デュエマでいうとこのバロム。遊戯王でいうとこのブラックホールみたいな。
具体的に話そう、ピンクのうさ耳つきのパーカーに下はラフな感じのジーパン。
こういうと合わないように感じるかもしれないが、上がファンシーな分下が普通でいい感じにかみ合っている。
長門「な!?提督もう帰ってきていたのか!?」
提督「可愛い、抱き枕に欲しい。」
瑞鶴の言うとおり似合ってるぞ。なんて思ったが…あぁ、逆ですね。なんかもう慣れました。
長門「だ、抱き枕だと…?そ、それはその…えっとだな…」
俺も長門も恥ずかしくってキョドッテル。だが大丈夫!すぐに瑞鶴が俺に攻撃をって…あれ?
不意に横を見ると、さっきまで俺の横にいた瑞鶴がいなくなっていた。テレポートかな?
どうやら、長門の横の更衣室に入ったらしい。ちなみに、長門はササっと更衣室の中に撤退していった。
瑞鶴「提督さん…私はどう?似合ってる?」
少しして、更衣室から顔を出した瑞鶴は長門と同じ系列であろう緑のカエルパーカーを着ていた。
何故カエルを選んだんだ。何故なんだ。
提督「あぁ…まぁ似合ってるよ。」
ここでズバッと言えない辺り俺の程度が知れる。脳内ならいくらでも言えるぜ???
抱きしめたいとか一緒に寝たいとか押し倒したいと…か…?いや待て俺何考えてんの?発情期の猿なの?
瑞鶴「むぅ…」
俺の台詞を聞いた瑞鶴はなぜか不機嫌そうに更衣室に引っ込んでしまった。なんか間違ったかな俺。
そんなこんなで数分後、数着購入し店を出た。長門はどうやらあのパーカーを買ったらしい。
これは抱き枕にするしかねぇなぁ!多分俺が抱かれる側だけどなぁ!
そんなこんなで、とりあえずフードコートにて昼食を取る。なんでこの人たち俺を間に挟むの?そんなにサボテンイジメたいの?
何故かは知らんが、昼食中も瑞鶴はずっと不機嫌なままだった。
昼食を終えて、適当に雑談をした後俺は今思い付いたといったように二人をレジャー施設に誘ったのだった。
嘘…だろ?俺は目前で大袈裟にピカピカする画面に目を丸くする。
瑞鶴「やった!またまたストライク!」
長門「やるな瑞鶴…私も負けてはいられない!はっ」
再度大袈裟に光る画面。んんん?なんだこいつら?ボーリングガチ勢?
提督「な、なぁ二人ともボーリングは今日が初めてなんだよな…?」
俺は、楽しそうにする二人に恐る恐るといった表現が適当であろう尋ね方をしてみる。
瑞鶴「うん、でもこれくらい海で敵を狙うのよりは全然簡単だもん。」
長門「ああ、動かない敵なら外すことは無いさ。」
いや、長門さんボーリングのピンは敵じゃないからね?何の罪もない純粋なボーリングのピンだからね?
瑞鶴「ほら、次提督さんだよ!早く早く!」
新手のいじめか!?これはいじめか!?
そう、美少女が華麗にストライクをかましていれば周囲の目が集まるのは自然と言えよう。
そん中で、平凡な俺…公開処刑にも程がある!終いには泣くぞ!
とりあえず、気合い入れてボールを転がす。きれいに転がるボール!残ったのは両端に一個ずつ!積んだ!
後ろから頑張れーなんて声が聞こえてくる。うぅ…周りの視線が痛くて体中から血が出てきそうだ…あ、狙った右端も外してしまった…
そして、二人が華麗にストライク。俺もう泣いていい?
なんだかんだで、ボーリングを終えてビリヤードやテニスをして今はカラオケでちょっとした休憩中だ。
提督「二人ともなんか歌うか?」
瑞鶴「私提督さんの歌ってるの聞いてみたい!」
長門「私も瑞鶴に賛成だ。」
とりあえず、乗せられるまま適当に曲を選ぶ。いや、本当は歌いたくなかったんだけどあそこまで期待のまなざしを向けられたら拒めない。
まぁ、なんとなくで選んだ平井堅さんの歌を終えて長門にマイクを渡す。
長門「意外な曲選びだったな。提督はそういう曲が好きなのか?」
提督「まぁな、とはいえたまたまおもいついたのがこれだったってだけだよ。」
瑞鶴「提督さんって普段あんななのに歌ってる時はなんかちょっとかっこよくなるんだね…」
おい、瑞鶴今のは聞き捨てならんぞ。俺は普段から…はい、不細工です畜生めェェエ!
そんな話をしていると長門が歌いだす。普通にうまい。え?上手くない?なんで津軽海峡冬景色なのかは知らんけど。
提督「長門って本当に何でもできるんだな。運動神経良くて歌もうまくて本当にすごいと思うわ。」
それと同時にとても羨ましい。俺に才能の一つくらい分けてくれ、俺今んとこ生存力S+以外の才能が見つからない。女たらしS+とか言うのやめなさい。
長門「そ、そうか?褒められるのは悪い気はしないな。」
褒められた本人は少し恥ずかしそうに後ろ髪を書きながらそんなことを言う。
なんか、瑞鶴が不機嫌そうに俺を見てるのは何故だろうか。女の子の日なのかな?というか、艦娘ってあるのか…?
そんなくだらないことを考えていると、瑞鶴が歌いだす。初めて聞く曲だが…なんつうの…こう、ラブソング的な?
歌いながら瑞鶴はチラチラと俺を見る。もしかして…こいつ俺が長門ばっか褒めるのに妬いてる…?
いや、落ち着け俺。思い込みは身を滅ぼす。勘違いなんて言うのは男児を惑わす最大の敵だ!
瑞鶴「ちょっと、提督さん聞いてた?」
提督「はえ?なんだって?」
瑞鶴「だから、私の歌どうだったかって聞いてるの!」
提督「あぁ、良かったよ。普通にうまかった。」
ぶっちゃけ、変なこと考えててまともに聞いてませんでしたとは言えず、適当に濁す。
しかし、それが逆効果だったのか。瑞鶴は知らない。なんて言ってどこかに行ってしまった。俺は遠ざかる瑞鶴の背を見送る。ん?見送っちゃうの?俺。
えええええ!?不味くない!?破局の危機じゃん!
俺が瑞鶴を追い始めたのは、彼女がカラオケから出て三十秒後のことだった。おっそーい!
ー瑞鶴視点ー
瑞鶴「提督さんのバーカ」
意味もなく、一人ショッピングモールの中央にある屋外広場でそんなことを口にしてみる。
とても寒い冬の気温は、頭を冷やすには少し寒すぎる。とはいえ、まだ十六時だというのに暗くなりつつある空に関しては…私の心模様に適していると言えるだろう。
正直、今考えればどうでもいいことで拗ねたもんだと反省している。
私は自分より長門さんの方を大袈裟に褒める提督さんを見て、長門さんに嫉妬したのだ。
瑞鶴「これじゃまるで小学生みたいじゃない…」
自分で自分が情けなくなりそんなことを一人呟く。
とはいえ、なんだかんだ頭では理解できても心とはそんな簡単ではないのだ。
いつでも一緒にいたいし、出来ることならどんなことでも彼の一番になりたい。そう思うことは貪欲なのだろうか。
瑞鶴「いや、私提督さんのこと好きすぎじゃん…」
自分の思考に思わずため息を吐きつつそんなことを口にする。
提督「奇遇だな、俺もお前のことが好きすぎてしょっちゅう困ってんぞ。」
独り言のつもりで口にした言葉への返事に、思わず驚いて身を翻す。
提督「痛ッ!?」
私が振り向くのと同時に、後ろから話しかけてきた提督さんの腹に綺麗に私の肘が入る。あ…
瑞鶴「ご、ごめん提督さん!その、今のはわざとじゃなくて!」
提督「お、おう…なんとなくわかった。わかったからちょっと時間くれ…」
少しして、提督さんは何事も無かったかのように蹲るのをやめて私に向き直る。
なんだかんだ、付き合って日数がたっているというのにこうして顔を合わせると恥ずかしいと思ってしまうのは我ながら乙女すぎるのではないか。
とはいえ、目前の人物も緊張しているのか目を逸らしているので五分五分と言うことにしておこう。
提督「えっとな、なんと言いますか…長門のことばっか褒めてたのはごめん。俺が悪かった。」
どうやら彼は私が怒っていた理由はわかっているようだ。一瞬それなら許してあげようとも考えたが、続きが気になるのであえて口を閉ざす。
提督「こう、言い訳に聞こえるかもしれないけど俺にとってお前はもう一番…んーと、大切なわけで他と比べるまでもないって言うか…
まぁ、そういうことだ。口に出すまでもないって言うか…」
こういう時はっきり言えないのは男としてどうなのだろうか、まぁ私もしょっちゅう本音を言えないので責めることはできないのだが。
どうやら、私と彼は似た者同士のようだ。
瑞鶴「ちゃんと言ってくれないと分からない。」
私は彼の言わんとすることはとっくのとうにわかっているが、あえて意地の悪いことを言ってみる。
提督「お前のことが俺は一番好きだし、愛してる。だから、そのなんだ長門とかも可愛いけどそれは別ベクトルというかなんというか…」
はっきり言ったと思ったら他の女の名前出しやがった。本当にこの人はなんというか…
でも、いざとなれば頼りになるし何よりも、私を大切に思ってくれてるのは私が一番わかってる。
瑞鶴「私も提督さんのこと大好きだよ。でも、これからもちゃんと私を一番好きって行動で示して欲しいかな…」
最初こそビシッと言ってやろうなんて思っていたが、徐々に言葉が弱くなってしまう上に顔が熱くなる。
提督「あぁ、約束する。」
不意に彼の顔を見ると、さっきまでとは一変して優しくも厳しくもある顔になっていた。
こんな局面で急にそんな表情を見せるのは反則では無いだろうか、なんだか腹が立つ。
私は自分だけ顔が赤くなっているのではなんて考えて、勢いで彼の顔に自分の顔を近づける。
……唇は無理だ。したら多分私が大破する自信がある。なので、彼の頬にそっと自分の唇をつける。
提督「な…」
彼はそんな情けない声を出した後、恥ずかしそうに顔を背けてしまった。
この後、二人はしばらく沈黙に包まれるが合流した長門によってなんとか空気を元に戻すことに成功するのだった。
ー提督視点ー
エンダァァァァァアアァアアアイヤァァアアァアァアアアア
俺の彼女が可愛すぎて俺の理性が蒸発してしまいそうです。ちなみに、真っ先に理性を捨てたのは股間。落ち着けお前。
なんだかんだで帰ることになり、三人で電車に揺られて今は駅から鎮守府へと歩いています。
先行する長門の後ろで瑞鶴の手を握って歩いているわけですがもう駄目です。帰ったらこの子を寝室に呼ぼうと思います。
落ち着け俺ェ!がっつく男はキモいと理解しているだろう!まだだ、まだその時じゃない。
じゃあ、いつヤルんですか!知らねぇよ馬鹿、自分で考エロ!あぁ、変なとこがカタカナに…
瑞鶴「ね、ねぇ提督さん。私手汗とかかいてない…?」
よくわからん自問自答を繰り広げていると、横から瑞鶴がそんなことを聞いてくる。なんだこの純情少女。可愛いかよ。
提督「大丈夫だよ、俺こそ手汗大丈夫か?」
瑞鶴「う、うん…」
会話が続かないが、この沈黙もまた美味なり。大丈夫かこれ幸せすぎてこの後嫌なことが起きる予感しかしない。
急に俺が伝説のゴースト部隊に暗殺されるとかない?もしくはコロニー降ってきたりしない?人の心の光準備できてる?
とまぁ、とっても有り得るはずの無い妄想をしながら鎮守府に足を踏み入れる。
その瞬間、爆発音が耳元で響いたのであった。
爆発音といったが、また何かに巻き込まれたわけでは無い。
簡単に言うとその音の発信源はクラッカーだ。
飛龍「はいはい、新婦さんはこっちね~」
瑞鶴「へ!?え!?なんなの!?」
クラッカーが鳴りやんだと思ったら、飛龍が瑞鶴をどこかに連れて行く。
蒼龍「提督はこっちにお願いします。」
提督「お、おう。」
とりあえず、俺も声をかけてきた蒼龍に案内されるまま廊下を歩く。
正直に言おう、すっかり今日の本来の目的を忘れていた。だって!瑞鶴が!あんなことするから!
そのせいで、耳元でパンッなんて聞こえたときゃ本当に暗殺されるのかと思ってちびりかけた…
蒼龍「それじゃあ、室内に服を準備しているので着替えたら声かけてください。」
そんなこんなで案内された空き部屋にはスーツが準備されていた。
新郎が着る服って白じゃないの?なんて思いはしたが、皆が準備してくれただけでも感謝しなければならないのだ。文句は言えない。
着替えながら、ふと今までのことを思い出す。
長いようで、短い半年だった。最初こそ一か月生きていられるかなんて考えたものだがその考えは随分的外れだったようだ。
何故だろうか、色々なものがこみ上げてくる。不意に救えなかった少年のことや兄のことを思い出す。
場違いな思考だなんて自分でもわかっている。だが、幸せをかみしめるたびに逃れられない問題は俺に突き刺さってくる。
スーツのボタンを一つ閉めるたびに、過去を思い出すなんて言うのは洒落すぎでは無いだろうか。
ネクタイを少しきつく締める。折角準備してもらえた祝いの席で主役がしんみりしていたのでは申し訳が立たない。
提督「着替えたけど、これは一体どういうことなんだ?」
俺は陸奥に言われた通り知らない体を装ってそんなことを言う。
蒼龍「さぁ、それはまだ秘密です。もう一度ついてきてくださいね。」
案内されるまま蒼龍と廊下を歩く。ついたのは、食堂だった。蒼龍は心配そうにスマホをいじっている。
しばらくして、食堂内から歓声が聞こえてきた。もしかして…これって俺はぶられてんのかな?
蒼龍「提督、どうぞ入ってください。そうすればわかると思います。」
そんな俺の心配とは裏腹に蒼龍は食堂に入るよう促す。突っ込むべきでは無いだろうが、一般的なものとは新郎と新婦の位置づけが逆だぞなんて心の中で笑う。
しかし、思考とは裏腹に、着替え中に思い出していたことが再度頭を過ぎる。
俺は別に完璧主義者なんかじゃない。失敗もするし、諦めもする。だが、それは犠牲を忘れていいということではない。
思わず扉に向かう足取りが重くなる。解決していない問題や…なにより鈴谷のことを考えてしまう。その時だった。
元帥「間に合ったようだな…」
後ろからぜぇぜぇ言ってる親父の声が聞こえてきた。事情を知らない蒼龍はいかにも驚いたといったような表情で止まっている。
提督「雰囲気台無しだぞ、クソ親父。」
本当はとても良い登場だったが、わざとそんな悪態をつく。
元帥「雰囲気なんか気にしてられるか…大事な一人息子の結婚式なんて言われたら全力で走りもするわ…」
大和「この人ったら陸奥さんから電話で話を聞いてすぐ、車に乗るでもなく走り出したんですよ。」
元帥の後ろから顔を出した大和さんが本当におかしそうにくすくす笑う。
提督「相変わらず残念な親父だなあんたは。でも、なんていうかありがとう。」
元帥「いいデレだぞクソ息子。なにはともあれ、幸せになれよ。」
親父はその一言に全てをまとめたといったような表情で俺を見る。大和さんも優しい笑顔で俺を見つめている。
提督「あぁ、それとあの、なんつうか…」
俺はこっぱずかしい台詞を言うべきか一瞬悩んで口ごもったが、他に言う機会もなさそうなので覚悟を決める。
提督「あの時、俺のこと拾ってくれて育ててくれてありがとう。大和さんも情けない親父だけじゃなく、俺のことも支えてくれて本当にありがとう。」
言って頬が熱くなるのを感じる。常に身近にいるような存在にこそ、感謝を忘れることは無いが、いざ口に出す機会とは少ないものだ。
元帥「今そのセリフを伝えるべき相手は俺じゃないだろ?」
大和「照れ隠しでそんなこと言わずに素直に受け取ればいいのに。でも、確かに提督君が言うべき相手に関しては同意見ですね。」
二人はそんなことを言いながら俺を思い切り扉に向かって押し出す。
俺は目の前の扉をそっと開ける。微かに聞こえていた喧騒がとても大きくなったように錯覚する。
正面にはウエディングドレス姿の瑞鶴がいた。俺はそれを見てそっと扉を閉めるのだった。
蒼龍「提督?どうされたんですか!?」
ただでさえ、元帥の登場で驚いていた蒼龍が更に驚いたような声を出す。
いやね、聞いてくださいよ。俺の彼女が可愛すぎて若干目がやられちまってデスネ…
ショットガン、いや核ミサイルで心臓撃ち抜かれた気分です。なんだよあれ!ブちぎれんぞ可愛すぎて!
あんな可愛い子と俺なんかが仮にもこんな祝われ方をしていいのだろうか。いや、誰にも譲る気は無いわけだが。
元帥「いや、速く行けよ!?」
親父が混乱したようにそんなことを言う。
提督「いや、あの…嫁が可愛すぎて直視できねぇんだ…」
元帥「おらぁ!」
親父の思い切りのよい蹴りで俺は食堂に転がり込む。コナン君かな?
その瞬間に喧騒が止み、転がってきた俺に視線が集中する。とりあえず、何事も無かったようにスーツを払い瑞鶴のもとに歩く。
見てあれ、可愛すぎだろ。もうだめだ、尊い…語彙力の欠損が見られます。
とりあえず、何事もなく瑞鶴の横に並ぶ。
瑞鶴「遅い。」
提督「悪かった、お前が可愛すぎてな。」
瑞鶴「ばーか。」
小声でそんなやり取りをする。すると、夕張が俺たちの前に歩いてきてなんやらいろいろ言っている。
夕張「えっと…健やかなるときも病めると…きも、えっと…えいえ…じゃないとわの愛を誓いますか?」
すんげぇぎこちないカンペガン見の神父?による問いが終わり、俺たち二人は頷く。
夕張「では、誓いのキスを。」
まぁ、そうなりますよね。マジで!?ほら、キスとかってもっと最終回とかでするんじゃないの!?
え、もしかしてこれが最終回!?んなわけねぇよな…?俺明日死ぬとか?
横の瑞鶴は俺の方を向いて少し頬を赤く染めた顔で俺を見つめている。あらま、準備完了ですか。
先生、トイレ行っていいですか?あ、はい、駄目ですよね。深呼吸をして覚悟を決める。
そうだ、なにも初めてというわけでは無い。あの夏祭りの時のやり返しだと思えばいいのだ。
俺はそっと瑞鶴の顔に顔を寄せて、その唇に唇を重ねた。かつて経験した熱が俺の唇を包む。
だが、今度は誰かと重ねたりはしない。俺が見るのは…愛するのは瑞鶴だ。
そして、皆が羽目を外す結婚式とは名ばかりのパーティーが始まるのだった。
ー壊ー
私は、どこに向かっているのだろう。呼ばれているのはわかるのだが、誰に呼ばれてるかはわからない。
でも、私を呼んで求めてくれる人ならばきっと、このどうしようもない心の空洞を癒してくれると思えた。
ずっと好きだった彼は、もう私のことを見てはくれない。それを理解してしまったとき私のナニカが壊れてしまった。
そして、同時にもう一つ理解してしまったのだ。例え誰に願っても祈っても…この心の空洞は永遠にふさがれないということを。
なら私はどうすればいいのだろう。いっそ、死んでしまえばいいのだろうか。
「それでいいのか?自分の幸せを奪った相手を許してしまうのか?」
・・・・・・・・・
どこかから声が聞こえる。私はなにを考えていたのだっけ。というかずっと好きだった彼とはいったい誰なのだろうか。
「貴方は深海棲艦よ、貴方はただ殺せばいい、そうすればそのどうしようもない心の空洞は埋まるでしょう。」
見えない声の主にそれは本当か?と問うてみる。
「えぇ、空母瑞鶴を殺しなさい。そうすればあなたは救われる。」
何故だろうか、不意に口ずさんでみたその名前には聞き覚えがあった。なんの記憶もないはずの私が怒りを覚えるほどに。
そうか、殺せばいいんだ。そうすれば私は報われる。殺せば、その分だけ救われる。
そうよ、殺せばいいんだ。アハハ、アハハハハハ、アハハハハハハハハハハ
アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
三日月の浮かぶ空の下、美しく月を照らす海上を怪しい赤い光が二つ舞うのだった。
ー提督視点ー
目が覚める、時刻は朝の八時、普段なら寝過ごしたと騒ぐのだが今日は親父の好意で休みにしてもらっている。
不意に横を見るとそこには瑞鶴がいた。え!?やっちまったのか!?落ち着け俺。昨日のことを思い出すんだ。
その瞬間、キスをしたことを思い出して頭が真っ白になる。ヒィィ恥ずかしい!って、生娘か!
それ以前にだ、今はそれ以上をしたのかを思い出そうとしているわけで…
そんなことを考えていると、横の瑞鶴がもぞもぞと動き出す。
とりあえず、ここは狸寝入りで瑞鶴の反応を見よう!
瑞鶴「ん…うん…おはよう、提督さん…ってまだ寝てるか。」
そんなことを言うと、唇に熱を感じる。ん?なんだ!?熱ってなに!?
落ち着け俺、動揺してはなぬ。寝たふりを徹底するのだ。
瑞鶴「提督さん…起きてるでしょ。顔キモいよ。」
朝っぱらから嫁に罵倒されました。心が痛いです。自殺しようかな?待て待て、そんな流れるように死ぬな俺。
提督「すまん、横にお前がいて動揺しちゃってな。」
瑞鶴「別に昨晩はなにもしてないよ。飛龍さんとか隼鷹さんが悪ノリして私たちをここに閉じ込めたから仕方なく一緒に寝たんじゃん。」
提督「あぁ、そうだった。そうだった。」
そんな風に適当に返すと、瑞鶴が急にもじもじと変な動きをする。
俺は知っている、この動きをする瑞鶴はまともな発言をしないということを。
瑞鶴「そ、その提督さんはそういうことしたい…?」
イエスオフコースと言いながらルパンダイブをしそうになる体を抑える。あのダイブ体痛そうよね。
提督「瑞鶴がしたいなら…俺は満更でも無いけど?」
あやふやに返してみる。チキンとか言うな泣くぞ。泣いた後に瑞鶴に襲い掛かるぞ。
瑞鶴「私は…も、もう少ししてからのがいいかな…」
提督「了解、とりあえずおはよう提督さん。」
すこし照れ臭い何事も無いような彼女との日常。これが永遠に続けばいいと素直に思う。
少し変なこと言って二人で笑いあって、次の日もそれを続けて。たったそれだけの日常でいいのに…どうしてこう問題と言うのは起きてしまうのだろうか。
突然俺の部屋の電話が大袈裟になりだす。親父からの電話のようだ。
それは、言わずもがな最悪の始まりだった。
Part5完!ごめんなさい次回からはシリアスしか無いです!(/ω\)
長らく放置してしまっていたコメントも変身していくので!今後ともよろしくお願いします。
サバゲーマンです
パート5の更新ご苦労様です。長かったですね。この先提督がどうなっていくのか、楽しみです。・・・提督の兄貴何かありそうな感じがするのは、気のせい?次回化の更新楽しみしています。
前作25です。この作品本当に面白ので頑張って下さい!ズイズイ...。ゴハァ!(突然の吐血)。応援しています、更新頑張って下さい!
最近気づいたけど俺の好きな娘ってクールだったり貧乳だったりなんだよね、あとは幼馴染っぽい娘かな…あ、響とズイ (((ง˘ω˘)ว))ズイじゃん
まさかパート5まで続くとは…
嬉しいです。
応援してます、頑張ってください。
あとぼうろ→ばくろ(暴露)だと思うのですが違ったらごめんなさい。
おお!
パート5お疲れ様です!
楽しみ待ってます!
世に翔鶴のあらんことを
≫サバゲーマン様、コメントありがとうございます。兄さんがどのようにストーリーに関与していくのか是非お楽しみください!
≫2コメ様、前作に続いてコメントありがとうございます。鉄分取ってくださいね!応援に添えるよう頑張っていきます!
≫ばんせーさん、コメありです!クール…貧乳…時雨とか、どうです?(推し)
≫4コメ様、自分でも驚いています…こんな続けることになるなんて思っても見なかったので。
誤字指摘ありがとうございます!直しときました、いやぁ、お恥ずかしい限りです( ;∀;)
>>koro様、コメントありがとうございます。頑張って更新しますね!翔鶴姉可愛い…可愛い(脳死)
おお、もぅパート5ですかぁ!?
早いものですね♪楽しみが増えて私も更新頑張らないとっと思いつつ自信なくしてるのも事実なんですけどね…;
ネコミミ瑞鶴期待してますねっ(`・ω・´)ゞ(原因作った犯人です)
>>風見けい様、コメントありがとうございます…自信は大事ですよ!なにをするにも必須ですからね!
猫耳瑞鶴書くまでに見が滅びないか心配です…
提督の兄は深海提督とか…
違いますよね
提督の兄が深海提督じゃなくても
何かを拗らせて面倒な事になっているのは判る
兄は生き別れしたときに何かされたのかな?
それはそうと長く書くって言ったね?言質取ったよ?w
13コメ様、コメントありがとうございます。兄が今どのような立場なのか、そしてなにを考えているのか…考察しながら続きもお楽しみください!
14コメ様、兄がなにをこじらせたのか…提督は兄を自分の知る兄に戻すことが出来るのか…といったところですね。
>>ばんせーさん、コメントありがとうございます。
兄が何を考えているのか、何をするつもりなのかは当分引き伸ばさせてもらいます!様々な人物の介入もありますので『長く』お楽しみくだされ!
作者が書いてて訳わからなくなるSSとは一体
俺の神が金色になってスーパー〇イヤ人になるのもいいな。
↑
髪
私の仲の記憶が愛なんて所詮嘘だと物語っている。
↑
中
だねw
吹雪改め駆逐棲姫は断片的な記憶しか持ってないんだよね…大事なとこがねぇよそこ覚えとけw
≫19コメ様、コメントありがとうございます。
キャラの考えを私自身がわからなくなりつつあります(笑)長く続きすぎてキャラに名前つけないとそろそろ足りなくなりそうなのも悩みどころです…
≫ばんせーさん誤字報告助かります!
駆逐棲姫の記憶の残り方も、どうしてそのように残ったのか…深海棲艦とはなんなのか続きが気になりますねぇ(考え中)
NHKニュース(9月17日(月))
海上自衛隊
南シナ海で『対潜戦』訓練実施・公開
護衛艦『かが』『いなづま』『すずつき』潜水艦『くろしお』訓練参加
かが『流石に気分が高揚します。』
いなづま『いなづまの本気を見るのDETH!!』
さすがに毎日更新してたらそうなるわちゃんと休むんじゃぞ
ゆっくり休むことも大事デスよ!
しっかりと休んでまた戻って来るネー!
近頃出番のない金剛がコメントにて現れた模様です。
≫ばんせーさん、コメントありがとです!休めてはいるんですけど続き書く時間と余裕が無いです( ;∀;)
死ぬ気で頑張りますねぇええええ!!!
≫25コメ様、ありがとうデース!
金剛ちゃんはシリアスが終わり次第メインヒロイン回考えてたりしてます( *´艸`)
2です。これからはタウイ泊地の大将提督を名乗らせて頂きます。番号だと見返すの面倒ですしね。この糞野郎(作中の警察官)にスタープラチナでオラオラしてやりたいな。いつも楽しみにしてます。更新頑張って下さい!
≫タウイ泊地の対象提督さん、改名お疲れ様です!命名のほうが正しいかな?
スタープラチナでオラオラしたら多分一般人は即死してしまいますよ(笑)
頑張ります!ありがとうございます( ;∀;)
くあー続きが楽しみだ!
俺は兄に最悪な一時を過ごさせたいね!
取り敢えずキラークイーンで爆破したい
北上さんはでないのかなぁ…
そしてあたしは鈴谷ルート希望()
みがめにさまはんさみかたき様、返信遅れました!ちょっと忙しくて( ̄▽ ̄;)
兄が何を思っているのかも見どころですよ!ジョジョネタの多いコメ欄になっていきます(笑)
鈴谷ルートになるかどうか、提督しだいですねぇ
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提督のこれはバナナは流石に草。
予想はできたけどね…提督だし……
取り敢えず杉山さん結構とばっちりすぎな希ガスwwww
…まじで組んでるとはないよね?
兄については親バかわいい元帥くんを撃った時点で俺の那珂での梁刑は確定しました
まるっ
恋愛かぁ...やっぱ瑞鶴きぼー
≫みがめにさまはんさみかたき様、何度もコメントありがとうございます!
提督は思い切りが良すぎますね(笑)杉山さん秒殺!
兄は許されなかった…でも、杉山さんのように簡単に攻略できる相手ではなさそうです!
≫ばんせーさん!お久しぶりです!
恋愛パート…さぁ、本作の提督をげっちゅするのは誰なのか。
どう考えても今は瑞鶴最強ですからね!頑張ってもらわなければ!(/・ω・)/
サバゲーマンです
お久しぶりです。更新ご苦労様です提督の「不」のパワー変わっていないですね。この先の提督がどうなっていくのか、はたしてハーレムが、来るのか次回の更新楽しみにしています。・・・台風すごかったです。
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主人公衛○士郎かな?
>43コメ様、コメントありがとうございます!
劣化版衛宮士郎ですね(笑)もう少し士郎君みたいにかっこよくできればいいんですけどね( ;∀;)
信じたもの……
帝督ン…あまちがえた提督ん…強く生きろよ…
[壁]д=) ジー
[壁]д・)Ξスッ
[壁]д=) ジー
[壁]д・)Ξスッ
[壁]д・)ノヤスメヨ
自分を曲げずにドカンと一直線すぎる主人公で共感しかできない次第ですw
ここの提督はとは趣味が違えど趣向についていい酒が飲めそうだ…
プリンツの文字を見て叫んだ俺。
なお本命は北上さんの模様
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はいここにサラトガルート置いときますね
瑞鶴ルート\ドン/
ニア鈴谷ルート\ドン/
サラトガルート\デデドン/
もういっそこの提督には全艦娘を娶ってほしい()
右手打撲したのか…しっかり休んで右手治してください!
できれば治ったら続きかいて…(小声)
打撲!?まぁ治すのに専念してくださいや
利き手ですか?怪我は怖いですな
お早いお戻りを期待しております
お大事になー
≫45コメ様、コメントありがとうございます。もしや誤字かどこか設定ミスでもあったでしょうか!?
≫きらっちぇさん様、コメントありがとうございます!提督ンは寿命までは死なないって言ってますしきっと強く生きてくれるでしょう(錯乱)
≫ばんせーさん、度々コメントありがとうございます。もはや休んでばっかで更新が出来て無いです(笑)
手のけがも落ち着いたのでこれからまた更新頑張りますよ(/・ω・)/
≫Zigoro様、コメントありがとうございます!彼は基本自分の決めた音に突っ込みますからね(笑)
もし彼と酒が飲めるなら自分も相席させてほしいものです。
≫みがめにさまはんさみかたき様、何度もコメントありがとうございます。
プリンツちゃん可愛いですからね(。-`ω-)自分の作品に出したかったのです!
ルートはさらに増えますよ。しかし、中途半端に筋の通った提督君がだれを選ぶのか…選ばないのか…自分でもわからないです!
≫Zigoro様、度々コメントありがとうございます。全員娶るですか!流石にそれはそれで一部の艦娘に殺され…なんでもないです!
なんだかんだで誰かをきちんと選びそうに思いますね彼は!
≫53、54、叢雲ー改様、ご心配おかけして申し訳ありません。
復帰しました!本当に怪我ばかりは自分の注意だけではどうしようもなくて参ってしまいます(-_-;)
続き頑張って書くので今後ともよろしくお願いします!
ここは6周回って(ワンと鳴いて)我らが元帥お父様ルー…いえ、(腐っては)ないです。はい。
マグロ(デデェン)撮影開始!に空見してしまったorz
あーもーかっこいいな!この提督はよォ!(脳内は除く)
言われてみると赤城さんがデレてるのあまり見ないですね。個人的には大食いだったけど、提督のことが気になり始めて食が細くなって…みたいなのは好きだったりしますね
このドンファンクソティトクめ。
リア充爆ぜろ
……ん?長野が賑わってるだって?麻雀のインターハイで?(すっとぼけ
≫きらっちぇさん、コメントありがとうございます!
元帥ルートは完全に考えてなかったです(笑)早速そのルートにしますね!(嘘)
≫Zigoroさん、幾度もコメントありがとうございます!
提督君の脳内無しで作品読んだら凄い善人ですよね(笑)だいたい下心丸出しなのが悲しい!
≫夜桜新町さん、コメントありがとうございます!
わかります!わかります!わかります!そして、それに気づいた提督が…みたいなの増えませんかね!!!落ち着きますね。
≫みがめにさまはんさみかたきさん、コメントありがとうございます!
プレイボーイは今回で引退ですよ!彼もきちんと一人を選ぶようです!
麻雀のインターハイ(笑)
お前の小説を待ってたんだよ!
甘いなぁ…まともなラブコメしてるぅ…
これ鈴谷とか好意が直球な面々どうなんやろなぁ?
あかん、ニヤニヤが止まらん
ビビった…見てない間にフィニッシュタイムして
タイムブレイクしたのかと思った…
兄貴の件片付いてないからそらマイティクリティカルフィニッシュはしてないよな。
そして…ふんふむ、瑞鶴とケッコンしたか…よろしいならば、ハーレムルートだ
>>72コメ様、コメントありがとうございます!
度々お待たせしてすいません^^;
ラブコメじゃんじゃんしていきますよ!(シリアス展開ももちろん豊富です!)
>>kita様、コメントありがとうございます!
ニヤニヤしちゃってくださいな(笑)申し訳ないですが、ニヤニヤ展開は長くは続きませんよ…
>>みがめに様、コメントありがとうございます!ちょっと名前略させていただきますね^^;
復活しましたよ!瑞鶴が浮気は禁止してるのでハーレムは厳しいですねぇ…
…これ、瑞鶴が深海堕ちした鈴谷に殺されそうなんだが?
※77なん…だと…あと略すなら北上提督か全裸でお願いしますのよー
一瞬名指されたのが誰かわかんなかったのよー
ハーレム無理かぁ…ならば鈴谷完全闇堕ち&死亡の鬱ルートですかね?(マジキチゼンラスマイル)
お待ちしておりました、
更新ありがとうございますm(_ _)m
ん……この流れは……
すげぇどうでもいいけどさ
これ終わったら鈴谷ルートIfと元帥ルートIf欲しい((
≫78コメ様、コメントありがとうございます。
鈴谷やばくなってますねぇ…瑞鶴に危機が迫っていますがどうなるか!絶賛今考えてます!
≫北上提督様、コメント毎度ありがとうございます。
提督は人柄ゆえに瑞鶴を純粋に愛しそうですからねぇ、鈴谷はどうなるんでしょうねぇ(他人事)
IFルートは書こうと思っていますが、それからもかなり物語を続けられるので核となると本格的に描くことになりますね(笑)
元帥ルートは無理ですね!( ;∀;)
≫80コメ様、お待たせいたしました(._.)
年末年始忙しくて遅くなってしまいました、申し訳ありません。
≫アリペイ様、コメントありがとうございます!
なにかを察したのですかな?