第1巻 第158話 カドウノ
千棘 「さーて、スペクトル凡矢理に戻ったら、早速茶道の練習をしなきゃねー!」
楽 「で、バイト代を出して俺が買ってやった、茶道セットは、俺に持たせると………」
千棘 「別にいーじゃ無い!細かい事は気にしない………あ!楽、次はあのお店入ってみない?」
楽 「あ?」
千棘が次に指差した店は、「京都華道店(きょうとかどうてん」と、看板に書いてあった。
楽 「華道?お前、そんなのにも興味あったのか?」
千棘 「だって、ついさっきあんたの為に少しずつお淑やかな女の子になる為に頑張るって、決めたばっかじゃ無い!
そうと決まれば、行動あるのみよ!」
楽 「まあ、何事も前向きなのは良い事だよな。」
カラン コロン
千棘 「ごめん下さーい!」
万里花 「あら、どこかで見た顔ですわね。」
楽 「お。」
楽と千棘が入った華道店には、今度は万里花が先に来ていた。
千棘 「ま…万里花ー!?今度はあんた?」
万里花 「私(わたくし)、小さい頃から楽様のお嫁さんになる為に、華道や茶道も女の嗜みの1つとしてやっていましてね。
京都の本格的な華道に興味があったんですわ。」
千棘 「そうなんだ………」
楽、千棘、万里花が入ったその店は、先程(さきほど)の茶道店と同じく、日本仕様で床は畳作り(たたみづくり)、壁は障子(しょうじ)になっていた。
その部屋の中に、生け花をする為の花瓶と座布団が置いてある。
万里花 「楽様ーー!私(わたくし)の生け花を、是非、見てて下さい!」
楽 「お…おう。」
テンテン テテテン
万里花の華道は、それはそれは見事なものだった。
静かに花の枝や葉を一本一本、一枚一枚枝切り鋏(えだきりばさみ)で切って行き、
花瓶に生けて、
あっという間に見事な生け花を作り上げた。
万里花 「ふふーん♪、どうですか、楽様?」
楽 「う…上手いな橘。」
千棘 「むむ……悔しいけど、上手いわね。」
万里花 「まあ私(わたくし)は、どこかのゴリラさんと違って、昔から楽様の為の花嫁修行を欠かさずにやって来ましたからね。」
千棘 「何ですって!?」
楽 「おいおい………ケンカすんなよ、お前ら。」
万里花 「あら。悔しかったら、
あなたもこの位の生け花、作ってみたら良いではありませんか?」
千棘 「むむ………分かったわ、やってやろうじゃ無いの!
店員さん。はい、お代!」
店員A 「はい、まいどー。」
楽 「やれやれ………」
そして千棘は、座布団に正座して、華道を始めた。
チョキンッ チョキンッ
千棘 (私は万里花と違って、
華道なんてやった事無いけど、
昔から裁縫は得意だったし、
今はLABで毎日の様にやってるんだもん。
手先の器用さには自信があるわ!)
チョキンッ
千棘 (頑張る………楽の為に頑張るのよ、千棘!)
グサッ
千棘 「いったーい!」
楽 「わあっ、千棘?」
万里花 「あらまあ………」
千棘は緊張の余り、右中指を切ってしまった。
店員B 「大丈夫ですか?お客さん?」
楽 「やれやれ………。ほれ、見せてみろよ千棘、バンソーコー持ってるから。」
千棘 「あ…ありがと。」
楽は千棘のケガをした右中指にバンソーコーを貼った。
楽 「なあ千棘、お前もしかして、橘に勝とうと思って緊張してるのか?」
千棘 「!よ、よく分かったわね!
そうよ………、あんたに釣り合うお淑やかな女の子になりたいから、万里花にも負けたく無い………」
楽 「………俺は別に、今日いきなり勝たなくても良いと思うけどな。」
千棘 「え?」
楽 「紅葉狩り(もみじがり)の時も言っただろ?
別に愛情なんて、橘と比べたり、
おまじないに頼ったりしなくても、
お前が俺を好きでいてくれれば、それで十分だって。
それに、橘みたいに女の子らしくなりたいなら、少しずつ頑張って行けばいいじゃねーか。
いきなり背伸びする事は無いと思うぜ。」
千棘 「そっか………そうだよね。」
千棘 (バカだ、私………いきなり変わろうとして、変に背伸びして………)
そして、生け花は終わり………
店員C 「はーい、お客さん達の作った生け花でーす。」
千棘の初心者生け花に比べて、万里花の生け花は見事なものだった。
万里花 「フフ………この生け花対決は、私(わたくし)の勝ちですわね。」
千棘 「………いいのよ万里花、
あんたと背比べ(せえくらべ)したり、いきなり無理して背伸びしたって、
あんまり意味が無いって、分かったから。」
万里花 「?そうですか………」
店員D 「あのー、お客さん方、
生け花が結構気に入ったみたいですし、
生け花セットを一式、買っていきませんか?」
楽・千棘 「えっ?」
店員D 「当店も茶道店と同じく、
華道が気に入ったお客さんには、
華道セットを販売してるんですよ。
華道セットと言っても、
ただの花瓶と枝切り鋏(えだきりばさみ)で、お花を別に買っていただければご自宅で華道や生け花が出来るので、
お代は1,000円で結構です。」
万里花 「私(わたくし)はもう家にありますので、いりませんが………」
千棘 「私、買います!
はい、千円!」
店員D 「まいどあり〜〜。」
楽 「良かったな、千棘。」
千棘 「楽との京都旅行の思い出の品、2つ目ゲット〜〜!
見てなさい楽、茶道と華道を身に付けて、あんたに釣り合う女の子に、
いつか絶対なるからね!」
第1巻 第158話 完
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