2019-10-25 14:12:52 更新

概要

けものフレンズ3のチュートリアルから第一章までの感想のような妄想

ネタバレは注意




朝起きて、ご飯を食べて、学校に行く

友達と遊んで、宿題をして、布団に入る


ずっと、小学生から続けていた毎日


流れで中学生になっても変わらず、なし崩しで高校生になってもそうだった


良く言えば平穏で、悪く言えば退屈な日々



ある時先生は言いました


あなたの将来の夢はなんですか?


スポーツ選手、お医者さん、お花屋さんにケーキ屋さん


みんな、口を揃えて そう言って

無理だと笑われても、なるんだって口を尖らせる


私の夢はなんだっただろうか?


きっと、きらきらしていたはずの将来はいつの間にか、義務的な毎日に埋もれていった



それが嫌だった訳でもない


ただ、大人になるってそういう事だと、勝手に諦めていただけで

振り返った時、自分が何処にいるのか分からなくなるのが怖くって、意固地になって前を向いていた


けど…


その目の前にも行き止まりが見え始めている



君の将来は無限だ。なんて、カッコの良い人達がよくよく言うけれど

「そんな無責任な…」と、頬杖をついて眺める私はきっと捻くれてるんだろう


だって、そうじゃない?


川を流され来てみれば、目の前には大海原

きっと輝かしいし、眩しいんだろうけど


いったい何処に行けば良いのやら…


その輝きは目に毒で、その広さに足が竦んでしまう



きっとこれはツケなんだろう


この十数年間、ろくに選択してこなかった分を、まとめて選べと言われている気がする


「はぁ…夏休みの宿題かって…」


くしゃり…


進路希望の紙を雑に丸め、カバンに放り込むと席を立つ


「なになに? 夏休みにはちょっと早くない?」

「あはは…。そうなんだけどね…考えると憂鬱でさ」

「だよねー分かる分かる」


耳聡いこと


口に出した私も悪いが、聞かれていた独り言に いちいち絡んでこられても面倒なだけだった

だから今度は しっかり口を噤んで、心の中で悪態を付いておく


お前に何が分かるんだよ…



だが、それも羨ましくはあった


なんにも考えて無いようで

「大学くらいは出るもんでしょ」なんて軽口が叩けるだけ、私なんかよりも立派に思えたから



帰り道「また来週」と別れの言葉を交わして、ようやく一人になれた事に安堵する


玄関を開けて「ただいま」もそこそこに逃げるように自分の部屋に飛び込んだ



後ろ手に扉を閉めて、そのまま寄りかかる

何ともなしに天井を見上げたら、息苦しさを嫌って溜息が溢れた


殺風景だな…


戻した視線には、見慣れているはずの自分部屋

なのに、こうして傍から見ると何もない気がした


ベッドと机、タンスとクローゼット、部屋としては申し分はないし、綺麗に整頓もされているけれど


「つまんないの…」


前に入った友人の部屋の比べると、どうだろうか?

小物に、ポスターに、片付けもそこそこに雑然とはしていたけれど、あれはあれで彼女の部屋だと良く分かる


ああ、きっと、一番つまらないのは自分なんだろう


人生は積み重ねだと誰かは言った


なら、流されてばっかりの私の人生に何かある筈もないか…



「あれ…?」


我ながら、自分に呆れて言葉もなくして、いい加減にと机に向かう

カバンを脇に下げ、ようやく机の上に意識が向くと、見慣れない封筒が置かれていた


お母さんっ、勝手に部屋に入らないで


年頃の娘なら言う権利もあろうけど。残念ながら、反抗期になった覚えもなく

親に見せて困るほどの物のなさは、親が心配するほどだ


「ジャパリパーク…?」


そう言えば、程度には何処かで聞いた気がする

近々オープンする予定のでっかい動物園だったっけか?


それが私に何のよう?


いや、ただの広告かな

きっと、気を利かせた親が 私に回してくれたんだろう


「動物園…ね?」


そりゃ嫌いじゃないけど…嫌いじゃなかったはずなんだけど

子供自分には、そりゃ それなりに親にせがんで、呆れて年パスを貰ってからは暇さえあれば行っていたのに


最後に更新したのは何時だっただろう


何時の日か、お守りのように財布に入ってるだけになっていた動物園のフリーパス

開かなくなった図鑑は山と積まれ…捨てるでもなく部屋の隅で燻っている


「良いか…」


憂鬱にかまけて失くした興味は、封筒をゴミ箱へと運ばせた

そうして、指が離れるその前に、少しだけ気にはなる


その封筒…広告にしては少し地味だった


もうちょっと近日OPENだとか、今話題のーなんて定型句があっても良さそうなのに

女の子受けしそうな封筒が、青いうさぎ だか たぬきの様な可愛らしいシールで閉じられていた


「…しんあいなる わたしの おともだちへ~…か」


久々に芽生えた好奇心には勝てなかった

いや、抗う術を覚えるほどの意欲的な生活は送ってこなかったせいもあって

悪いと思いながらも、封を切る指先が止められなかった


はたして内容はといえば


招待状? だろうか?


小学生か、気の早い幼稚園児か書いたような拙い文字ではあったけど

それだけに、一生懸命さは伝わってくるようだった

きっと、良い子なんだろうって、微笑ましくも思うほどに


「ふふっ…」


なんでか、気づかない内に、笑みが漏れていた


同時に、少し寂しくも思っていた


残念ながら、小学生だか幼稚園児に知り合いなんていないし

もっといえば、親愛とか呼べるほどの友達もいなかったりする

クラスが変わればそれまでの関係を、だらだら続けてきた私にとって、この手紙は少々手に余る


送り返そうか…


それぐらい、してあげてもバチは当たらないだろう

きっと、この手紙を書いた子だって、返事を楽しみにしているはずだし

もしかしたら初めて書いたかもしれないこの手紙を、このままゴミ箱に送るのは流石に可哀想におもう





「な~にしてんだろ…私…」


連休だったんだ、暇だったんだ、と言い訳しても、わざわざ自分で返しに行くことも無いだろうにね

あるいは、心の何処かで招待されたかった自分が居たかもしれないけど、それは出しゃばりだろう


しろながすごう


ふと、一息ついた時には、そんな名前のフェリーに揺られていた

少し遠いが、行けない距離もでもなかったし、家に居づらいのも手伝っていたのかもしれない


多分はじめての船旅


乗り心地はまあまあで、家に居づらいのと比べれば とんとん程度

まあ、部屋に籠もっているよりは良かったのかもしれない

フェリーのデッキから広がる海原と、慣れない潮風の感触


美味しいって言うんだろうか?


空気が何味かなんてのは分からないけど、胸いっぱい吸い込んだそれは都会のそれよりは新鮮に思えた



「おえぇぇ…」


そう遠くない未来、起こり得る将来、来て欲しくはなかったけれど

楽しかったのは最初の小一時間程度で、だんだんと体調が崩れていき

港に付いた時の安堵感たるや、お家に帰りたいのに、船には乗りたくないジレンマに変わっていた


「もし、そこのお方…大丈夫でしょうか?」

「え、あ、はい…たぶん…」


船酔いに負けそうになるお腹を、なんとか押さえつけて、絶え絶えに受け答える


「そうは見えませんわよ。ほら、無理なさらずに…」

「へ…?」


ふと、背中に触れた感触


「すりすり…さすさす…うふふっ」


温かい手のひらが、私の背中をさすっている


なんだろう…すっごく恥ずかしい


子供じゃないと突っぱねたいけど、そんな気力は波にさらわれた後で

それでも、大人しく介抱されるしかない体は、ゆっくりと落ち着いてきていた


「あ、ありがとうございます…もう、平気ですから」

「そうですか? それなら良かったですわ」


その時、初めてその子を見た、ようやくとその余裕が出来た

ぴんく色の髪もそうだけど、頭に付いてる…動物の耳? は、どうにも如何わしい何かに見えて仕方ない


聞いて良いのだろうか? 聞くべきなのだろうか?


そんな風に次の言葉に迷っていると


「パークのお客様でしょうか? グランドオープンはまだ先のはずでは…」

「ああ、いえ、私は…招待状が…」


自分のコミュニケーション能力のなさに辟易した瞬間だった

そんなぶつ切りの言葉で何が伝わるものかと思えば、案の定誤解を生んでしまった


「ああ、探検隊の!」


ぽんっと何か合点が言ったように両手を合わせると、大きく頷かれる


「でしたら、拠点に向かわれるのですよね? ご一緒してもよろしいでしょうか?」

「え、あ、はい…」


勝手に話が進んでいた


件の招待状を返して、すこし観光して帰るだけのつもりが

いつの間にか、探検隊の新人という事になっていた


いや、積極的に否定しなかった私が悪いだけなんだけど…


蹲っていた私に差し出される手


初対面の私に向けられた柔らかい笑顔

戸惑いながらも手を取ると、ゆっくりと体を引き起こされる



「私、ピーチパンサーと申します」

「あ、しずく と申します…」


拠点? に向かう途中、遅れた自己紹介交わし合う


「まあ、不思議な喋り方ですのね」

「あはは…」


くすくすと、ゆったりと笑うピーチパンサー

「あなたにつられただけ…」なんて、言っても無駄なんだろうなって気しかしなかった




「ん? 気になります?」

「え、あ…はい…ごめんなさい」


私の視線の先を気取ったのだろう

慌てて視線をそらす私に笑顔を浮かべると、頭の耳を動かしてみせるピーチパンサー


「本物ですよ? ほら…」


そうしてさらに、両の耳と尻尾を揺すって見せてくれた



通称「フレンズ」と呼ばれる子たちには、こんな風に元となった動物の特徴が現れるらしい

ジャパリパークにはそのフレンズ達がたくさん住んでいるんだそうな


如何わしい場所かと思っていたのは間違ってたかな?

ここだけを聞くと、怪しい実験施設の側面も浮かんでくるんだけど…


しかし、目の前のピーチパンサーを見てる分には、そんな怪しさも薄れてくる

むしろ平和だ。猜疑心には程遠い環境で育ってきたような柔和な空気が漂っていた


「ちなみに私は…」


なんだろう? その疑問は私にもあった

パンサーというからにはパンサーなんだろうけど、桃色のパンサーなんてのはとんと覚えがない

個人的には桃色といえばフラミンゴか極彩色系の鳥類を思い浮かべるし、そうでなければ熱帯魚か毛が薄い系の動物か


その、答え合わせに耳を傾けていると、少し先から元気の良い声が聞こえてきた


「あっ、ピーチパンサーさん! こんにちはー!」


つられるままに顔を向けると、赤毛の女の子がパタパタと、手と尻尾を振りながら駆け寄ってくる


かわいい…


ふわっふわのボブヘアー、ピンと真っすぐ伸びた両の耳

遠慮なく振り回される尻尾に、無邪気な笑顔


きっと、あの手紙もこんな子が書いたのかな


そんな事を考えながら、一歩下がって、二人のやり取りを眺めていると

ピーチパンサーの口から私の名前を呼ばれ、赤毛の女の子がこっちを向くなり、ぱっと顔を輝かせた


「あなたが新しい隊長候補さん!?」

「え…?」


ランクが上がっていた


ただの隊員ならと聞き流していたのに

のんびりと歩いている内に隊長候補に格上げだった

このままでは、そう遠くない未来に園長にも手が届くんじゃなかろうか


ドールと名乗った赤毛の女の子

そのもの、アカオオカミのフレンズだと話してくれる


「おお…かみ?」

「はいっ、こう見えてもオオカミなんですよっ」


きっと戯れてるんだろう

「がおー」なんて、子供がやる分には実に可愛らしいのだが


現実を見よう…


今私は、パンサーとオオカミに囲まれてるのではなくて?


ゾクリと、背筋に走る冷たいものに引きずられて一歩後ずさる


逃げようたって何処に逃げれば良いのだろう?

あのフェリーまで戻れるのだろうか?

動物の特徴がって言ってたし、やっぱ足は早いんだろうなって


万事休す? 出来るのは命乞い?


そんな私の様子に気づいたんだろう

顔を見合わせている二人に、恐る恐ると声を掛けるしかなかった


「わ、わたし…食べられますか?」

「食べませんよっ!?」


後ずさる私に、慌てるドール

駆け寄られ、手を取られる一瞬でさえ、命の危機を感じたけれど

誤解を解こうと必死になってる姿からは、そんな獣じみた空気もなくて


「うふふ」


ふと、盗み見たピーチパンサーの笑顔の方が別の意味で怖かった




「こら~!!!」


一応の誤解も解けそうだったその間際

間が良いのか悪いのか、ドールの後を追ってきたように怒声が響く


「わあっ!? ミーア先生!!」


途端、驚いたドールが私の後ろに隠れると同時に

向こうの方から、小柄な女の子が結構な剣幕で駆けてくる


お叱りの言葉はごもっともで、そりゃ勝手に授業を抜け出したドールの方こそ悪いけど


手近に合っただけにせよ、自分を頼ってくれて事がちょっと嬉しくて

「まぁまぁ…」と、かばうように、ミーアと呼ばれた子の前にでた


なんだろう? ミーアって名前に小柄な体躯と服の模様

深い縁の掛かったメガネから察する所に、ミーアキャットのフレンズだろうか?


そうやって、まじまじ観察していたのが気に触ったのか


「まぁ、良いですの。ちょうど良い教材もあることですし…」


メガネ越し、ミーアの鋭い視線が私を見据えた気がした


狩られるっ!?


前に出た足がそのまま後ろに下がりそうになった時


「ドールさんっ、しずくさんっ! 後ろをっ!!」


ピーチパンサーの声に、驚いたまま振り返る


そこで気づいたのは、ミーアが見ていたのは私なんかじゃなくて


もっと後ろの…


得体のしれないなにかだった



なんだ…あれ?



赤い、いや、青い、でもない、緑の、黄色の?

そんな良くもわからない無機質な球体が、どんよりと浮かんでいた


「セルリアンっ!? どうしてこんな所に!」


ドールが叫ぶ


その様子からして、そのセルリアンと呼ばれた球体が良くないものであるのは分かるけど


「あの先生…教材っていうのは?」

「ええ、あのセルリアンですわ」

「ええーっ!? ムムム、ムリですよぉ!」


凄い温度差だ


事も無げに「やれ」と言ってくるミーアに、それが初めての事らしく戸惑うドール


そりゃあんなのを倒せと言われれば、私だって及び腰にはなる

手伝ってくれるくらいなら、最初からヤッて欲しいとさえ思う


「放っておいたら人やフレンズを傷つけますわよ、アレは」


ミーアの言葉に、やはりかアレは外敵か、天敵なんだと理解はする


それでも、それだからか、私の後ろに隠れて尻ごむドール

一応でも、庇っているつもりなんだけど…正直に、自分にどうこうできる気がしない


近づいてくるセルリアン気配に、このままって訳にもいかない空気が段々と濃くなってくる


「では、隊長さんとご一緒ならどうでしょう?」


一瞬、それが自分のことだとは分からなかった

聞き慣れないピーチパンサーの声に、慣れない呼ばれ方


「隊長さんってそちらの見慣れない方ですの?」

「ええ、隊長候補として本日いらっしゃったそうですよ?」


けれど、突き刺さる二人の視線が隊長=私の図式を強要してくる


「ムムム、ムリだって!?」


二人の視線から逃げるように、今度は私がドールの後ろに逃げ込んだ


「ちょっ!? しずくさんっ!? 押さないでぇぇっ!?」


はぁ…と、ミーアの深い溜息が聞こえた気がした


「心配せずとも、今はわたしくの言うとおりにやっていただければ大丈夫ですの」


それは教鞭を振るう先生の態度だった


何でも良いから席に付けと

出来の悪い生徒を落ち着かせるように、ミーアが私達とセルリアンの間に入る


「それで、どうしますの?」


ついにはピーチパンサーも居住まいをただし、暗に時間が無いことを伝えてくる


いっそ、逃げても良いんだろう


いや、なんならドールちゃんを引きずって、後ろに下がったほうが懸命だったかもしれない


「あなた、いつも言ってるでしょう? サーバルさんみたいな立派な隊員になるって」


ミーアからの叱咤と激励


時間的にも最後のチャンス、逃げるのか挑むのか


「ドールちゃん…?」


振り返るドールと目が合った


けれどそれは、さっきまで怯えていた子の顔ではなくて


「行きましょう、しずくさん。いえ、隊長、私も怖いけど…」


前を向いたドールはもう振り返らなかった



たまらなく置いていかれた気がする


逃げたってきっと良い、だって来たばかりだよ?


けれど、どうしても、どうしてもだ…


隊長と呼んでくれたあの子に背を向けるのは、あの子を置いて行くってのだけは



ぴぴっー!!



もうヤケでもなんでも良い、あれをどうにかして怖いのを終わらせたいと

ミーアに言われるままに、渡された見慣れない笛を、力いっぱい吹き鳴らしていた





「やった…勝った! 勝ちましたよ!! 隊長さん!!!」

「え、あ、うん…」


気づけば、まあ、うん…終わっていた


球体も居なくなって、みんな大した怪我もなく


「あうふっ…!?」


飛びついてくるドールを受け止められずに、そのまま ぺたん と地面に押しつぶされた


「まったく…。ほら、ドール、おどきなさいな、隊長さん潰れてますわよ?」

「わわっ!? ごめんなさいぃっ!」


ドールで塞がっていた視界が開くと、すっ と手が差し出される


「やれば出来るじゃありませんか」


そう言われればそうなんだけれど

遠回しにも、怖がりな自分を指摘されたような気がして、素直になれずにいると


「ま、わたしくの教えがよかったんですわね」


茶化すように笑うと、強引に手を取られた


まあ、それでいいし、それが良い


あんまり煽てられても…ね?


「しずくさん、ドールさん。どうですか? 記念に一枚取らせてくださいな」

「良いんですかっ♪」


ピーチパンサーの手にはカメラが一つ

それを向けられ、また一段と嬉しそうな声を出すドール


撮られるの、好きなんだろうか?


正直言えば、遠慮したい心境もあり、消極的に距離を取ろうとしていると


「あ、しずくさんも もっとこっちに…」


気づかれてしまった


まあ、仕方がない


10人20人とクラスの中なら一人二人欠けてもバレはしないが

3人4人の世界な上、当事者に含まれてしまっては、逃げるには逃げられない


嬉しそうに伸びてくるドールの手


流石にそれから逃げる訳にも行かずに、手をのばすと


「って…わ、わっ…わわわわわわっ!?」

「えっ、ちょっと…わわわわわわっ!?」


無慈悲であった


いや、わざとだな


はしゃいだ勢いでバランスを崩し、私に向かって倒れ込むドール

それを、シャッターチャンスとばかりに「はい、ちーず」と光るフラッシュ


満足げに笑うピーチパンサーから手渡されたフォトには


「あはは、変な顔だなぁ、私…」

「うん、私と一緒…」

「ですね」


一つの写真に二人の変な顔

どちらからでもなく顔を見合わせると、不思議と笑みが溢れてきていた






拠点に向かう途中、お店に戻ると言ったピーチパンサーと別れて少し

何ともそれらしい建物が見えてきた


「はいっ、ここが探検隊のお家です」


じゃーんっ と、まるで自慢の我が家を紹介するような勢いに、顔を綻ばせながらも建物に視線を移す


ログハウス? とか言うのかな


全体的に木で組まれたレトロな感じの建物だった


ふと、屋根に目を向ける


オレンジ色の屋根の上、その上に飾りだろう耳のような出っ張り


その色合いもそうだけど、それも手伝ってか、なんとなくドールちゃんの様な印象を受けた

きっと、建物から感じる初々しさも、ドールちゃんの事を連想したせいなんだろう


「さ、行きましょう隊長さんっ」


ドールに手を引かれながら、中に通された



内装も予想通りというか、期待通りというか

都会に居ては見られない装いだけに、物珍しさに目移りしそうだった

新鮮な木の香り、優しい木の中に包まれたような安心感

何より、見慣れない暖炉の迫力は凄いものだった、火がくべられていないのがとても残念に思う


そうやって、部屋の中を…物色していると


ドールとミーアはお勉強の続きを初めたようだった

フレンズといっても勉強は必要なのか、こんな所まで来て、学校の事は思い出したくないけれど


内容は手紙の書き方、引いては招待状の出し方の復習のようだった


とはいえ、あまり上手くはいっていないらしい

首をかしげるドールに区切りをつけて、ミーアの視線が私を捉えた


「さて、おまたせしましたわ しずくさん」


その声音だけで帰りたくなった


今から詰問でもされそうな空気に、思わずミーアから視線を逸してしまう


前置きにセルリアン退治のお礼を述べられ

さておかれた それは、すぐに本題へと切り替わる


本来、来月であるはずの探検隊への選考会

だというのに、どうして今「招待された」と言ってここにいるのか

なにかの手違いにしろ、勘違いにせよ、理由を求められている


「いや、その、招待されたっていうか、招待状が…ってだけで…ほら?」


恐る恐る持ってきた招待状を二人に見せると、その表情が驚きへと変わっていった


「あー! それ、私が送った招待状!!」


ドールにも見覚えが合ったそれ、ていうか書いた本人が言うんだから間違いがなかった


「そうだったんだぁ…。私のお手紙で隊長さんが…えへへ…」


歓迎は…されているんだろう

嬉しそうにしているドールちゃんを見ていると、私まで照れくさくはなってくるけれど

それ以上に、呆れたと言うか諦めた言うか、困った顔をしているミーアの事が気になる


「いや、べつに、私は…私はこの手紙を返しに来ただけで…」


目的の手紙も返せたし、問題がややこしくなる前に帰ろうとした時だった


ちりんっ…


玄関の戸に据えられた鈴が鳴る


「あ、先生。私手紙2通送りましたよね? ちょっと見てきますねっ」


もしかしたらもう一通も届いていたのかもしれないと、私の横をすり抜けていくドールちゃん

止める間もないとはこのことで、揺れる尻尾は本当に嬉しそうで


「大変なのだー!!」


入れ替わりに響いてきた声に

じゃあ、元気でね…なんて、言うタイミングを完全に逃したような気がした





サーバルと呼ばれたフレンズがベッドに寝かされている

目立った外傷こそないものの、力なく横たわる姿は不安を掻き立てるのに十分だった


なんで? どうして? 


当たり前のように湧いてくる疑問を遮るように

羽飾りの付いた帽子を被った女の人が、ぽんっと、その場を鎮める


「今は時間が…。セルリアンの群れがこちらに向かっています」


え…群れるの? あれ?


間の抜けた疑問だとは思う


けれど、事の重大さまで抜けてくれる筈もなく

ついさっき遭遇した得体のしれないものが、数を増やして襲ってくるという危機感だけが重く伸し掛る


まぁ、でも、今回に限って言えば私は留守番かな


見た所、女の人はパークの職員の様にも見えるし、少なくとも私よりは手慣れているはず

セルリアンの退治が終わるまで、サーバルちゃんの面倒を見るくらいなら仕方がない

どのみち、一足先に逃げ出すほうが危なさそうだし


「平気です、さっき隊長さんと一緒に倒しましたから! ね、隊長っ」


自信満々のドールちゃんの声

同意を求めるような瞳を私に向けないで欲しかった

もっと言えば、隊長も来てくれますよねって誘われている気分に…いや、そのものなんだろうな


そして当然、注目は私に集まってしまう


視線が痛い


目立つのは得意じゃないのに

知らない人と、フレンズたちに囲まれて針のむしろな気分だった


「あの、失礼ですがあなたは?」


女の人が、怪訝な瞳で私を伺ってくる

それはまあ、見知らぬ人が開園前のパークにいれば職員としては見過ごせないだろうし


怒られるかなぁ…


間に入り、事情を説明してくれるミーアちゃんには感謝しか無いけれど


もし、怒られるなら私だけにして欲しいなぁ


あんまり、ドールが怒られるような事にならなければいいと、ぼんやり考えながら肩を落とす


現実から目を背けるように俯き

今か今かと怒られるのを期待して、女の人の言葉を待っていると


「ありがとうございます!」

「へ?」


ミライと名乗ったその女性


絶対怒られるだろうと思いきや、まるで正反対の言葉を掛けられた


「どうして?」


たまらず口にしてしまっていた

お礼を言われる筋合いなんてまるで思いつかないのに、どうしてかミライさんは嬉しそうに私の手を取ってくる


「保安調査隊にご応募いただいたこと」

「それは…」

「はい、勘違いで手違いだったかもしれませんが。それでもドールさん達を助けてくれた事」

「あれは、ミーアちゃんが…」


そんな、真っ直ぐな視線を見てられなくて

ミーアちゃんに責任を押し付けて顔を背けた


「笛、良い吹きっぷりでしたわよ」

「うぐっ…」


その意図を察したのだろう

からかうように笑うと、私の株を押し上げて逃げ場を無くそうとしてくる


「つまり、しずくがアライさんの こーはい ということか!?」


アライさん…ああ、アライグマかな?

そんな感じのフレンズの子が、無い一つ合ってない所見を述べた後、急に笑い始めると


「それじゃあ今日からアライさんは、アライせんぱいなのだ!」


もう、その先輩の肩書が欲しいだけだろうと、誰が見ても分かる喜びようだ

むしろ、それすらよく分かってないんじゃないかって とぼけっぷりが清々しく思える


「ですが、助かりました…」


アライさんの笑い声で一瞬遠のいていた緊張は、再びミライさんの声に呼び戻される


いやな予感がする


群れの程度は分からないけれど

群れというからには、一匹二匹で済むはずがなく、猫の手があれば借りたいんだろう


「しずくさん、お願いします…」


即答するには事態が大きすぎる

だってこれ、下手を打てば最悪の展開になるんじゃないかって

そんな重すぎる選択を、私なんかがどうしたって


「大丈夫です隊長さんっ。今の私達ならきっとっ」


ドールのやる気に満ちた声

私のことを隊長と慕って止まない信頼は、正直に言えば辛くもあったけど


「…悪いけど、答えを待ってるヒマはないみたいだよー」


緊張感が無い


といえば、アライさんもそうだったけど

フェネックと名乗ったこのフレンズもまた、緊張感に掛ける声音だった


我関せずはお互い様なんだろうけど

世界の中心にいるアライさんと、世界を傍から見ている様なフェネックとでは

その温度差は著しいものがある


そっと、肩を叩かれる


下っていてもいいよとか、一緒に頑張ろうとか、そんな優しい感じはしなかった


単にどっちでも良いと、興味を持たれてないだけのような気安さで


それは、望んでいた態度のはずなのに


「ミライさん、どうしたら良いですか?」


反骨心? 自分にそんなものが残っていたのは以外だけど

もう半分くらいはヤケっぱちで、いっそ全部倒したほうが早いんじゃとさえ考えていた


それと同時に、外から声というか音が聞こえてくる

どうやら、セルリアンの群れがもう随分と近くまで来ているらしかった


「やっと来たねー。遅かったじゃないか」


フェネックが窓の外を覗いながら、どこか他人事の様に声を上げる


「ドールっ、後輩、準備はいいか!」


アライさんの声が響く

そしてそのままに、飛び出していくのもアライさんで

やれやれと、肩をすくめてその後についていくのがフェネックだった


頼もしい…


私なんかよりよっぽど隊長に向いている二人な気がするけど

それでも、ドールちゃんにとっては私なんだろう


「隊長さん、行きましょう!!」

「ああ、もうっ!」


走り出すドールちゃんに遅れないように、その背中を追いかけていた





「は、ははっ…い、いきてる…いきてるわ…ね」


最後のセルリアンが居なくなっても、しばらくその場で呆然としていた


笛の吹きすぎで喉が痛い、遅れてやってきた恐怖心にケタケタと膝が笑ってる


それでも…


みんな も無事で、私も無事で…

上手くやれたとは言えないけれど、勝ったって、言って良いとは思う


「大勝利なのだ!」


アライさんの勝利宣言が朗々と響き渡る

ばんざーいっと、上がった手がそのまま降りてきて無遠慮に私の背中を バシバシ叩き始めた


「後輩もなかなか見どころがあるのだ!」


褒められた、褒められている、遠慮したい、ていうか痛いし、疲れたし


で…


ついに耐えきれなくなった膝が崩れ落ちた所に、さっと手が差し伸べられた


「おつかれー。やっぱり、やれば出来るんじゃないか」


先程と変わらない声音


相変わらず他人事の様ではあったけど

さり気なく、支えてくれたフェネックの手に、気に掛けてくれていたのだと実感する


「それ、言われたの今日で2回目かな…」

「そう? じゃあ、自信もって良いんじゃない? たいちょーさん」


最後のそれは、からかうようでは合ったけど

そんなお世辞が、ちょっとだけ嬉しくて、照れくさかった


「あとアライさん? 叩きすぎ」

「おぅ…悪かったのだ…。大丈夫かこーはい、痛かったか、ごめんなさいなのだ」

「あははは。へーきへーき…」


途端におろおろするアライさんが少し可笑しくて笑ってしまった





輝きが奪われた…


サーバル達が巨大なセルリアンに襲われて、ミライさんを庇った拍子に奪われたらしい

輝き、奪われたそれ自体がなんであるかは、取られたサーバル自信にも分からないと


ただ、心の中に空いた穴から、元気が流れ出ているようではあった



輝き、か…


よく聞く言葉ではある、なんかキラキラしている言葉でもある


けれど…


知らない言葉でもあった


自分にとって掛け替えのない、大切なもの や気持ち…


ピンとは来ない…


私にそんなものがあるとは思えないし

もしかしたら、そのおかげで さっきの戦いも無事だったのかもしれないとさえ思う


単に奪われるものがなかっただけ…とかさ


「しずくさんがいるじゃないですか」


ん?


ミライさんに名前を呼ばれた気がした


考え事をしていたせいで、話の前後を聞き逃していた


なに?


そう聞き返そうとした私を追い越して


「なにぃぃ!?」


隣で、一杯にアライさんが声を張り上げた


「しずくさんなら安心して探検隊をおまかせできます!」


断言された、太鼓判だ、お墨付きだ、私の見解は何処いった


「心配しないでください。困ったことがあれば、いつでもお手伝いしますから」


ニコニコと笑顔のミライさん

まるで、私が断ることなんか頭に無い


そもそも、心配なんかしていない、その前に困惑をしている

さらに、困ったことがあるとすれば今この瞬間をおいて他はない


「いや、でも、ほら…アライさんがやりたがってるみたいだし、さっきだって、一番がんばってたよ?」


なんとか話を逸らそうと

ぐぬぬ…と、息を漏らしているアライさんに白羽の矢を打ち返す


「まーまー。さっきアライさんも見どころがあるって言ってたじゃないかー」


フェネックさんっ!


どうして私を見ながらそれを言うのっ!


あなた、面白がってるのでしょうっ


「ぐぅっ…。フェネックの言う通りなのだ…。認めざるをえないのだ…」


素直かっ


そんな悔しそうな顔をするならもっと頑張ってよアライさん


「ただし、アライ先輩はせんぱいなのだ。こーはい はそれを忘れないでほしいのだ」


忘れてないよっ


忘れてないから隊長やってって思ってるのっ


「なら先輩らしく、後輩のために手を貸してあげないとねー」


私を見ながら言うんじゃないよフェネックっ


「当然なのだっ」


良い先輩だっ


「まずはアライ先輩が、こーはいの為に偵察をしてきてやるのだ!」


ついでに、巨大セルリアンの場所も突き止めてやると息巻いて、明後日の方向へ駆け出していくアライさん


良くも悪くもブレーキの聞かない先輩だ


「あーアライさん。巨大セルリアンなら反対方向じゃないかなー」


そして、そのブレーキ役を自ら買って出るように、フェネックがその後を飄々と付いていった



選択肢が消えた…


対抗馬であるところのアライ先輩が走り去ったせいで

なし崩し的に私がやらないと行けない空気が一層と濃くなる


フェネックがそれを狙ったのかは想像するしか無いけれど

見事だと…言わざるを得ない手際の良さだった





改めて「隊長さん」と、ミライさんに呼ばれるのは随分と抵抗があった


だって恥ずかしい…


ていうのは、きっと未だに募る自信のなさとか、不安のせいなんだろう


渡された制服


ミライさんとお揃いのレンジャー服に袖を通す


パリッパリの新品


その折り目が、私の形に変わっていく


「帽子を被るのも忘れないでくださいね」


最後、赤い綺麗な羽飾りの付いた帽子を、ミライさんが私の頭に被せてくれた


「すっごく似合ってますよっ、隊長さんっ」

「カンペキだね! これを着てれば怪しい人だとは思われないはずだよ!」


素直に褒めてくれるドールちゃんと一緒に、起き抜けにサーバルちゃんも褒めてはくれるけど

なんか、ついさっきまで怪しい人だと思われてたみたいな気がするのは気の所為だと思いたい


だったとしても、それそのもの間違いではないのだから、否定のしようもなかった



これで準備万端


ドールと私、晴れて隊長と副隊長の役をミライさんとサーバルちゃんから引き継いでという所で


「待つのですわっ!」


大声で割って入ってくるミーアが一つの課題を出してきた





「卒業試験、ねぇ…」


目の前には、赤くて、大きくて、うねうねしていて

あからさまに、さっきの群れのボスみたいなのをどうにかしろと言われた


それを「他よりちょっと大きいだけのザコ」と言ってのけるミーア先生も大概だが


件の巨大セルリアンはこれよりデカかったというのだから

先のことを考えると、こいつをどうにかしてみせろってのは理に叶っている気はする


「私に…出来るんでしょうか…」

「それは、やってみなければ分かりませんの」


不安に揺れるドールに、あくまで試験官の態度を崩さないミーア先生

それでも自分の教え子の事を信じているのだろう


やれないはずはないと背中を押して、覚悟を決めろと背中を叩く


「今から卒業試験を開始します!」


その宣誓と同時に、雑魚セルリアンが襲いかかってきた





拠点のバルコニーで夜風にあたっている しずく


「ふぅ…」


吐いた息は、未だに興奮が残っていて、私をベッドから遠ざけていた


思い返せば今日は色んな事があった、色んな事が有りすぎた

きっと、今までの人生を凝縮したって今日一日の密度には届かないだろうって思うほど


「眠れませんの?」


掛かるミーア先生の声に振り返るでもなく「まぁ…」なんて曖昧に返事を返す


気を使わせたのか、気にして欲しかったのか


たんたんと、近づいてくる足音が私の隣で止まると、私と同じ様に手すりに体を預けたミーア先生


「ミーア先生が不合格って言ったときのドールちゃんの顔、思い出すとさ…ふふっ」


がーんっ!


そんな擬音が似合うほど、あからさまな驚愕と落胆を孕んだ顔だった

鳩が豆鉄砲をくらった所なんて見たこと無いけど、きっとあんな顔してたんだろう


「ふふっ。まあ、意地の悪い言い方ではありましたわね」

「ほんとに」


頑張ってセルリアン倒したのに、あの時は私だってびっくりした

それで、結局自分も行くって言い出すんだから、本当に意地の悪い


ドールには悪いと思いながらも、二人してその時の状況を思い返して笑い合う



「それより。よかったんですの?」


ミーアの端的な言葉に口をつむぐ


何が? なんて、惚けても良かったけれど


今さっきまで、その事で堂々巡りをしていたのだから言い返す言葉も見つからない


「ドールは…随分と懐いていましたから。言いづらいのでしたら私が」


察しては居たのだろう


なし崩し的に流されて

それでもあの場は それが最善だったからと、後回しにはしていたこと


引き返すなら今が最後


それで次のフェリーで帰って、私の冒険は終わり

いつもどおりの日常に戻れる。簡単な話ではあったけど


なのに…


「楽しいって思っちゃった…」

「はい?」


独り言のように呟いた言葉に、ミーアが訝しげな視線を向けてくる


「サーバルちゃんの事、巨大セルリアンの事、一杯大変なのは分かってるんだけど、分かってるつもりなんだけど」


でもさ


「みんなに頼られて、みんなで頑張って…私、初めてだったから」


ミーアは何も言わなかった


怒られるかな、呆れられるかな、それも仕方がないと、時間が過ぎるに任せていると


「あの子も、ドールもきっと同じですわ。危ない目にも会いました、怖いこともありましたけど」


ー 今までで、一番楽しそうでした ー


優しい顔だった


姉の様で母の様で、出来の悪い生徒が一つ先に進んだことを素直に喜んで

自分の手から離れていくのが、少し寂しそうでいて


「ですが。私も忙しくなりそうですわね」


やれやれと、肩をすくめて息を吐くミーア


「出来の悪い生徒が急に一人増えましたもの」

「私も、もっと優しい先生がよかったなぁ」

「ご愁傷さまですこと」

「お互い様ね」


くすくす と、小さく笑い合う二人


うんともすんとも、求めなかったし、求められなかった

お互いにやる事は決まっていて、それで十分だった


「しずくさん…いえ、隊長さん。ドールのこと よろしくおねがいしますわね」

「うん、がんばる」


友人として願われて、友人として受け取った


そんな小さな約束をした夜だった






たんけんた~い♪ たんけんた~い♪ じゃぱりぱーくのたんけんた~い♪


鬱蒼としたジャングルの中を、ドールの陽気な歌声が晴らしていく


少しは落ち着けと、苦言を呈すミーアの事も意に返さずに、尻尾を楽しげに揺らしていた


「隊長さんからも なにか言ってやってくださいな」


これ以上ドールをつついても無駄だと判断したのか、その矛先は私に向かってくるけれど


「まあ、楽しそうだし?」


私としては、止める気はさらさらなかった


鬱蒼としたジャングルを黙々と歩く、考えただけで気が滅入りそう

ドールが歌っててくれるなら、それはそれで気が紛れる

なんなら、一緒に歌いだしても良かったけれど。ミーアに睨まれそうなので自重してるくらいだ


「こうしてパークを探検できて、私が副隊長でぇ…えへへへ♪」


とはいえ、少しはしゃぎ過ぎな気もしてきた


「そうやって油断して…。足元を掬われてもしりませんわよ」

「足元には注意してますっ。この辺 歩き辛いですもんね」


そういう意味ではないとミーアに呆れられ、そう言ってる傍からだった


「ドールちゃん、足元っ」

「ふぇ? とっ、ととっ…」


ドールが会話に気を取られている一瞬、その足元を過る影

間一髪と踏みとどまるけれど、それは長くも続かずに


「ふぎゃっ!?」


綺麗にすっ転んだ


「見事に足を掬われましたわね」


御覧なさいと、嘆息するミーア


「ち、ちがいますよ。この石が急にとびだしてくるから」


いや、違う。石は急に飛び出しては来ない

であれば、それはドールの不注意で、でなければ、それは石じゃない何かだったわけで


「ていうか、それ…石じゃありませんの」


呆れながらもミーアが指差したそれは


「セルリアンっ!」


がばっと、バネみたいに跳ね起きるドール

流石はオオカミか、その辺の反応は著しく早かった


ただし「よくも私の足をー」と、この辺の反応は著しくズレていたが





セルリアンってのはアレか、一匹見たら10匹はいると思えとかそういう奴なのだろうか

次から次に出てくるそれを倒し続け、ようやくと一息つけた


これも巨大セルリアンの影響なのかと考え込むミーア


とりあえず、打ち漏らしが居ても大変だし

もう少し周りを見て回ろうと、二人に提案すると


「その事で一つ…」


何か気づいたように一点を見つめるドール


「さっきのセルリアンの群れ、全部同じ方向から来てませんでしたか?」


言われてミーアと二人、ドールに倣ってそちらに視線を向ける


確かに、数ばっかりはいたのに囲まれはしなかったか

達磨落としみたいに順繰りに倒していけば済んだ分楽では合ったし、その御蔭で勝てたのかもしれない


「隊長さん、地図をみせてくださいまし」

「うん」


広げた地図


その先を指差したミーアが「立入禁止区域ですわね…」と言葉を漏らす


首を傾げた私にドールが「セルリアンの目撃情報が多発している危険な地域」だと教えてくれた

そこに多少の補足をミーアが加えてくれると、大まかには事情を把握する


「だから、サーバルさんたちも定期的に見回りしてたんですよね」


定期的、定期的ねぇ…


その周期はともかく、こうして溢れ出てるってことは、それが出来なかったって事?

そりゃ、あんな状態で戻ってきたんだからそうなんだろうけど…

ん…戻ってきたのか? つまりは行きはしたんだ?


ミーアと顔を見合わせる


それは、同意と見てよろしいのか こくりと頷かれた


そのままドールに詳しい話を聞けば、やっぱり立入禁止区域に行かないと行けないだろうと話がまとまる


というか


「出発する前に、ミライさんから話を聞いておけばよかったですわ」


いらん苦労に肩を落とすミーア


「あわてて出発しちゃいましたからね」


まるで他人事のように言うドールではあるけれど


「うん、ドールちゃんが急に駆け出すんだもんなぁ」


真っ先に飛び出していった子に視線を向けると、しゅんとうなだれて


「…ごめんなさい」


うん。素直なのはドールの良いところだと思う




たすけてぇー!!



突然、森の中をつんざく悲鳴


不明瞭だったそれは、2度3度と繰り返される内に、はっきりと聞こえてくる


「隊長さん、先生! あれを!!」


やっぱりと言うべきか、ドールが指差した先は、セルリアンの群れがなだれ込んできた方向で

今もまた、真っ白いフレンズを先頭にして、こちらに向かってきている


「で、でも…やっぱり、敵が多すぎるような」


気持ちは分かる。私だって逃げ出したいが


「隊長っ、副隊長っ。しっかりなさいっ!怖気づいてる場合じゃありませんの!」


やっぱり優しくない先生だけど、甘いよりはよっぽど良いかもしれない


「ごめんミーアちゃんっ。ドールちゃんっ、行こうっ!」

「はいっ。隊長さん! 先生! 行きましょう!!」


弱気はすっかり吹き飛ばされて、3人一緒にその場に飛び込んだ





終わったぁ


ていうか疲れたぁ


もう慣れたと強がりたいところだけど、やっぱり慣れるものではない

ドールちゃんと、特にミーア先生のおかげでどうにかなってる感が否めずにいる


というか、奥に行くほどに種類が増えているような気がして、いい加減にして欲しくもあった



まぁ…


昨日今日、隊長になったばかりの小娘になにをって話もあるのかもしれないけれど


やるっていったのは私だし…


出来るできないは後にして、尻込みするのは直したい…いや、直そう…うん



ドールとミーアが、助けた フレンズと話をしている

途中、私も紹介されたけど、仲間内の方が話は早いだろうと

基本的には3人のやり取りを遠巻きに眺めていた


ミナミコアリクイかな?


白い体に、服を着ているみたいな黒い模様

元の動物のままでも愛らしい格好ではあったけど、こうして女の子しているとまた違った可愛さを発見する


そうそう


あんな感じで両手を広げてさ。袖の方のふりふりとか、もうたまんなくて…




そこで、首をかしげる


昔読んだ図鑑のページを頭の中でひっくり返しながら、そういえばと思い出す


立ち上がって、両手を広げるあのポーズ


大の字とか、通せんぼとか、言い方は色々あるし、見方は人それぞれだけど

すくなくても本人は、ミナミコアリクイにとっては、威嚇のポーズでしかなかった


つまるところの警戒だ、攻撃の予備動作だ


いくら可愛く見えても、元となった動物は意外とガチムチで鋭い爪をもったそれ

たまらず攻撃されたら結構を通り越して、かなり危ない気がしたんだけど…


「あ、わ、わ…わぁぁぁぁっ!? たすけてー!!」


あ、逃げた…まぁ、逃げるか、好き好んで戦うような性格でもないだろうし


「ミーア先生! あの子立入禁止区域の方に向かってます!」


ドールが叫ぶに合わせて、私もはっと顔を上げた


「世話が焼けますわねっ!! 追いかけますわよっ!!」


ミーアの激が飛ぶと、慌ててミナミコアリクイの後を追いかける私たちだった



どうして逃げられるかって言われたら

追いかけてるからだって答えよう、きっと私だってそうするし、ミナミコアリクイだってそうしている


けれど、そんな追いかけっこも長くは続かず


基本的にオオカミなドールちゃんに次第に距離を詰められると、大きな木を背にして立ち止まる


「も、もう走れないよぉ…」


「はぁ…はぁ…」と「ひぃ…ひぃ…」それから「げほっ…」と咳き込む声


ドールを覗いた3人ともに、仲良く肩で息をしていた


「あの…皆さん、大丈夫ですか?」


心配そうなドールの声

主立って、その視線は私に注がれていた


「げほっ…はぁっ、ひぃ…ふぅ…」

「隊長さんっ!? ほんとに大丈夫ですかっ!?」


違った、嘘をついた、別に仲良くなんてしてなかった

ミーア先生もコアリクイちゃんも、落ち着きを取り戻し初めた反面、私だけが死にそうだ


「い、いいから…話を…」


絶え絶えの中に、ようやく言葉を作り出し、コアリクイの方へとドールを促す


「い、威嚇のポーズぅ!」


けれど、取り付く島も無いというのはこの事か

なんとか二人でなだめようとはしてくれているが、高まった警戒心が耳を塞いでしまってる上


「隊長さん…この子連れてっちゃだめですか?」


ドールの顔がキラキラしていた

目の前の小動物が、必死になって抵抗している様が可愛らしくて仕方が無いらしい


あえて言うなら一言「分かる」と、言葉を返したい


ほっとけないというか、なんというか

追いかける側の視点を通り越して、湧いてくる保護欲、それと同時に


「ドールちゃん、ちゃんとお世話出来る?」

「はいっ!」


返ってくるドールちゃんの元気な声と、きっと私は意地悪な顔をしているだろう予感


そんな事を言うから逃げられるのだ

そんな事を言うから威嚇されるんだ


「何言ってるんだよっ! つれてくとかなんとさぁ…」


威勢の良かった威嚇のポーズが弱々しくなっていく

言葉尻が落ちていき、声に涙が混じり始める


「おバカっ! 余計に怖がらせてどうするんですのっ!」

「あいたっ…」


ミーア先生に頭を叩かれた

背が届かない分だけ、ぴょんぴょんしている姿は小さな子供のようではあったけど

それを、口にしない代わりに「どうして私だけ…」と、子供のような愚痴を溢していた


「だまっらっしゃいなっ」

「あいたっ…」


その向こう側


「こ、怖がらせちゃってごめんね。私達ちょっと話を聞きたいだけで…」


落ち着きを取り戻したドールが、ミナミコアリクイをなんとか宥めようと頑張ってはいるものの


「ひぃぃ!? やだやだ、こっち来ないでぇっ!? 威嚇のポーズ! 威嚇のポーズぅぅぅ!?」


ああ、やっぱり可愛い


嫌な言葉が聞こえた気がした、思わず同意したくなる言葉が聞こえた気がした


「おいでぇ… おいでぇ…」


案の定、だらしなく頬を緩ませたドールが手招きを始めている


それを見て、更に「ひぃぃっ!?」と、悲鳴を強めるミナミコアリクイ


噛み合わない、噛み合うはずもない


「来るな」と「来い」では、その主張に明確な隔たりがありすぎた


やがて、限界に達した恐怖心は助けを求めて声を上げる


「たすけてー! ハクトウワシー!!」



何か、空気が変わった気がした


大気が震える


空が吠えるように空気が切り裂かれ、逆巻く風が頬を打つ


狩られるっ!?


思わず身構えた、たまらず身構えた、今度は私が怯える番だった


「そこまでよっ」


烈風より現れた使者

正義を体現した純白を頂き、悪を断罪する黒を身にまとう

その、切り裂くような眼光が私たちに向けられると、一際声も高らかに


「正義を貫く、キャプテン・ハクトウワシ。さぁ、あなたも一緒にっ」


ー レッツ、ジャスティス!! ー


それは、昔見たヒーロー番組のようであった


ダサい…っていうか、まあ、子供心に恥ずかしさを覚えた時期もあったけれど


そう、目の前でやり切られると。そんな自信満々で突き抜けられると


「「…かっこいい…」」


ドールちゃんと二人


「そうかしら…」と、呆れるミーア先生を置いといて、一緒になって見惚れてしまった


だが、見惚れてばっかりもいられなかった


「それで、あなた達は何者かしら?」


当然の質問、当然の疑問、もっといえば当然の詰問にも聞こえた

助けを請われて現れたのだ、その正義を向ける場所を求めるのは当然で


「あ、はい、私達は…」


事情を説明しようとしたドールに割り込んで被害者が叫ぶ


「密猟者ですぅ!!」

「密猟者ですって!?」


糸って、絡まると何処までも絡まるよねーっと他人事の様に考えていた


「…ただの噂だと思ってたけど。確かに、見たことのない人がいるわね」


ただの現実逃避でしか無いのは分かるけど、構えを取るハクトウワシに何を言ったものかと答えもでない

サーバルちゃんの嘘つき、この格好してれば怪しまれないからって言ったじゃない


「あの、このひとは…」


落ち着いてと、ドールちゃんが間には入ってくれるけど


「いいわ!」


何一つ理解しないままに、ハクトウワシが言い切った


「悪と分かれば容赦はしない! 覚悟しないさい!」


大見得を切るハクトウワシ


そうして、ついにはミーア先生が切れた


「きぃぃぃ! 人の話は最後まで聞くものと教わりませんでしたのっ!?」


恐れることなく立ち向かっていく先生に、尊敬の念を覚えながらも

私はと言えば、いそいそとドールちゃんの後ろに隠れていた


情けない?


いえ、でも、ハクトウワシはムリでしょ、きっと強いぞアレは

いや、でも、このパーク内で私が一番弱いまであるかもしれないけども

人の話を聞かない子が、密猟者のボスだと私に向かってきたら逃げるでしょう?


「ど、どうしましょう…隊長さん?」

「どうって言われても…」


喧嘩の仲裁なんかしたこと無いし

むしろ、喧嘩する前に距離を取るタイプだったしで

こういう時の対処は逃げる以外に知らないのが私だった


「ん…?」


パタリ…ドールの耳が跳ねる

そのまま顔を上げて、あたりを見回し、鼻を鳴らし始めた


「どうしたの?」


聞くまでもないが、聞かずにもいられない

ドールが辺りを警戒している その理由


「まずい…です。先生! ハクトウワシさん! ケンカするのちょっとまって!」

「止めないでください! このアンポンタンには一度教育の必要が…!」

「上等よ。あなたにも一度 本当の正義というものを…」


ダメだこれは


人の話を聞く気がない


喧嘩することを前提に会話をしている


コミュニケーションって難しいなって思いながら、隊長用の笛に口を付けた



ぴぴーっ!!



この手に限るな。こういう時は大きな音を出すに限る


「セルリアン…! まずい、囲まれてますわね…」

「誰のせいでしょうね」

「…」


あんまり二人が騒ぐから、恨みがましくミーア先生を見つめると、バツが悪そうに視線をそらされた


「私達の声であつまってきたのかしら…」

「誰のせいですかね?」


私に倣ったんだろう。ドールちゃんも同じ様な視線をハクトウワシに向けていた


「こほんっ!」


たまらず咳払いでお茶を濁すハクトウワシ


「密猟者たち、ここは一時休戦よっ。まずはこいつらを…」

「だから密猟者じゃ」

「密猟者はみんなそう言うのよっ」


懲りないな


ミーア先生と、ハクトウワシから再びケンカになりそうな空気を感じとると


「分かりましたっ!」


一際大きな声で、ドールが二人の間に割って入る


「隊長さんっ! お願いしますっ!」

「うんっ!」


何だったら二人で空気を変えることにして、セルリアンの前に出ると

放っても置けなくなったのか、ようやくとケンカの手が止まっていた





「ええっ!? 密猟者じゃない!?」


まあ、知ってたよ


セルリアン達を蹴散らした後、驚きに驚愕の声を上げるハクトウワシ


「それじゃ、この人は…」


そうして、改めて私の方へ視線を向けると、まじまじと観察される


正直、気が気じゃない…


いくら可愛い女の子にデフォルメされてるとは言え、相手は猛禽の頂点に立つ存在

気づけば首根っこを掴まれてやしないかと、不安に後ずさる


「ふむ…。帽子の羽、それに服も…パークスタッフのものに違いないわね」


良かった…本当に良かったと胸を撫で下ろす


なんなら「その制服と帽子、どこから盗んできたものなのっ!」とか言われるまで考えたけど

ああ、だめだ。これは口にしてはいけない想像だ、絶対ややこしくなる


「よ、よかったぁ…。ごめんね、かんちがいして…」

「私も謝るわ。疑ったりしてごめんなさい」


さっきまで隅に隠れていたミナミコアリクイが、恐る恐る顔をだし

ハクトウワシと一緒に、ぺこりと頭を下げた





ジャパリパーク警備隊


誤解も解け、改めて自己紹介をした時に、ハクトウワシさんはそう名乗った

どうやら、探検隊の手伝いも含め、人助けならぬフレンズ助けをしているらしい


困ったことがあれば、いつでもどこでも誰にでも


「必ず力になるわっ」


そう、力説するハクトウワシさん

頭の風切り羽をぱっと広げた姿は、まさに威風堂々で、これなら頼りになること請け合いだろうと思う


「はい。じゃあ、一つ良いですか?」

「ええっ、もちろんっ、何かしら?」


お行儀よく手を上げた私に「何でも言ってみて?」と向き直るハクトウワシ


「ミーア先生と、ハクトウワシさんがケンカ腰で困ってますが?」

「いや、それは…悪かったって、誤解だったって…あなた…結構イジワルね」


あ、しおれた


ここで怒られるなら苦手意識も芽生えたけど

良くも悪くも素直な子のようだ。直球で直線的で…直情的は褒め言葉にはならないか



一旦横槍を収めると、話は本筋へと流れていく


探検隊の事、サーバルのこと、そして巨大なセルリアンのこと


一通りの情報交換の後


巨大セルリアンの情報こそなかったものの「気になる場所がある」とハクトウワシさんに告げられた


「見た方が早いわ。フォロミー! 案内してあげる」


任せて と、胸を叩いたハクトウワシに「良いんですか?」 遠慮がちに声を掛けるドール


「私は警備隊のメンバーで、あなた達は探検隊。そうでしょう?」


向けられた視線は私へと、ぱちりっとウィンクを投げかけてくる


「しずく…。いえ、隊長さんもそう思うわよね?」


名前を呼ばれ、呼び直されて、慣れない呼ばれ方にちょっと気恥ずかしく思いながらも頷いて


「れ、れっつ、じゃすてぃすっ…?」


多分…私はいま、とても恥ずかしいことを言ってる気がする

言わなければよかったと、それでも言ってしまったのは一時の気の迷い

向けられたウィンクに、ちょっと揺らいだ乙女心が、子供の様にはしゃいでしまったせいだと


笑われるかな?


さっきからかった手前もあるし、仕方もないかと覚悟を決めていた頃


「レッツ、ジャスティスっ!」


まかせてちょうだいと胸を張り、堂々と返ってきた言葉に胸を打たれる


カッコいい…


何だったら、惚れてしまいそうで、もしかしたら もう好きだったのかもしれない



「ね、ねえ! あたしもついていっていい?」


話が一段落とついた所で、おっかなびっくり ミナミコアリクイちゃんが声を掛けてきた


なにか、とてもだいじな事を忘れている気がする

それがわからないから不安なんだと


そう言って、危ないからと引き止めるハクトウワシとドールを説得する姿は

私達から逃げていた時よりも、必死そうだった


輝き…かな?


その人にとって大事な大切な何か


サーバルちゃんもそうだったけど

失くなった事は分かるのに何を失くしたかが分からないっていうのは、多分きっと とても怖い事なんだろう


想像は…出来なかった


失くして怖いもの


自分にとってのそれを思い浮かべても、何も並ばない

なんなら失くした事にすら気づかずに、そのまま忘れてしまいそうな気はする

酷いことを言えば、気づかないならそれはそれで幸せなんじゃないかって


「ノープロブレム!」


やっぱりか、ミナミコアリクイの訴えに、最初に口火を切ったのはハクトウワシだった


「即答ですの!? 策なりなんなり考えてますの?」


安請け合いだと、ちょっとは考えろと、ミーア先生も噛みつきはするけれど

今度はケンカにもならなかった。いや、べつに、私の相談を聞いてくれたわけではないのだろう

ただ単に、ハクトウワシにとって、それは悩むことではなかっただけで


「だって私がいるんだもの!」


その言葉にだれもが言葉を奪われた


けれど…


言葉の先の視線は様々で


「カッコいい…」と尊敬の眼差しを向けるドールとミナミコアリクイ対して


「すがすがしいほど自信満々ですわね…」


呆れるように肩を落とすミーア先生


「私だけじゃないわっ。隊長や、ミーアキャットだっているのよ?」


銘々に名前を呼ばれ、思わず顔を見合わせる私達


「そして…ドール!!」


最後にドールの方へ向き直ると、力強く名前を呼んだ


「さっきのバトル、あなたのジャスティスがバンバン伝わってきたわっ。あなたがいればオールオッケーよっ」


ドールの顔がぱぁっと輝く


ハクトウワシに褒められたことが、素直に誇らしいようだった


「一緒に頑張りましょう!」差し出された手に飛びついて「はい!!」と大きく頷いている



「仕方ありませんわね…」


降参だと両手を上げるミーア先生

多分「私だけ」で済ますなら反論もあったろうけど

あなた達も居るじゃないと、真っ直ぐな信頼を向けられては否やとも言いづらい


だって、私たち「探検隊」だもんね

理由はどうあれ、困ってるフレンズは まぁ放って置けないもの


「ありがとぉ! 感謝のポーズぅ!」

「か、かわいい…。じゃなくって、よかったねミナミコアリクイちゃん!」


感謝のポーズと言いながら、威嚇の時との違いが良くわからないが

その嬉しそうな笑顔を見れば、大した問題でもないように思えた


「流石に、ダメとか言えないよね…」

「あら、憎まれ役を買って出て頂けるんですの?」

「まさかでしょ…」

「ですわね…」


嬉しそうに抱き合う三人一塊を見ると、もうそれ以上の言葉は不要だった



そうと決まれば話は早い


「タイムイズマネー! グズグズしてたら日が沈んじゃうわ!」


先陣を切って真っ先に歩きだすハクトウワシ。その後ろをミナミコアリクイが ちょこちょこと付いていく

つくづく、私にはああいったリーダーシップが足りないように思う


気づけば列の最後尾


殿を務めてると言えば格好は良いが、私程度じゃトカゲの尻尾が良いところで

単に体力のなさから、ジリジリ離されているだけとも言える


「ドールちゃん、先に行って大丈夫だよ?」


ハクトウワシともっと色々話したいだろうに

私を気遣ってか、ミナミコアリクイがそうしているように私の隣を ぴょこぴょこと歩いている


「いえ、私は隊長さんと一緒に」

「それは嬉しいけれど…」


それでも私が困ったような顔をしていると


「ほら、ここからだと皆の事よく見えるじゃないですか」


自覚があってそう言った訳じゃないんだろうけど

なにも引っ張るだけが隊長じゃないって遠回しに言われているようで耳が痛い


「…?」


ぴたり…ドールの足が止まる

ぱたり…ドールの耳が跳ねる


きょろきょろと辺りを見回して、何処か木の上に視線を向ける


「どうしたの?」


同じ様にそこを見上げても、あるのは森の木陰だけ…

ドールに見つけられないものが、私に見つけられるとは思わないけど

ただ、その耳の動き方が、セルリアンを見つけた時のそれと同じようで一抹の不安がよぎる


「うーん。気のせい、かな?」

「そう?」


首を傾げて、首を傾げ返して


「「ふふっ」」


ついには可笑しくなって二人で笑い合う


「ドールっ、隊長っ。カムヒアー!」


そうやって遊んでいると、先頭のハクトウワシに呼びかけられた


「行きましょう隊長さん」

「うん」


歩き始めるドールの手を取って「待ってくださーい」って二人で皆の後を追いかけた





ハクトウワシの後に付いて、気になる場所へ向かっていると


ウワサ…


について、ドールたちが話をしていた


密猟者 闇のフレンズ 首のない馬 怪物のフレンズ だとか


何処かで聞いたような七不思議的な話は、何処にでもあるものなのだと一人で納得をしていた

特に怪物のフレンズの噂なんて、まるで鵺の様な出で立ちをしているっていうじゃない

それならそれで、ハクトウワシがなんとかしてくれるって息巻いてるけど

この子、善悪の話になると結構おバカになるのが、少し不安ではあった


ただ、興味深かったのは


フレンズたちがジャパリパークの外に出ると元の動物に戻っちゃうとかいう話だった

そんなんだから、密猟者がさらう意味なんてとは言うけれど

それならそれで、使いではあるんだよなぁ…って思った私は、やっぱりヒトなのかと少しイヤな気分に浸っていた


「ギャーッ、出たー!?」


大きな声だった、とても大きな声だった

それはミーア先生の声で、後にも先にもあまり聞かないような声だった


………


周囲に沈黙が落ちる


びっくりした、私もそうだし、皆もそうだった


さっきまで「たかが噂程度で怖がっていては」と、教師の仮面を被っていた子がだ


「まぁ、セルリアンは怖いよね…?」


私だってそうだ、たぶん皆だってそうなんだろうけど

ミーア先生があんまりにも驚くもんだから、飛び出してきたセルリアンに相応の対応を取れずにいる


「あははは…やっぱり、先生も怖かったんですね」

「シャラップですわ、ドール、隊長さん!」


困った顔で笑う私達を制して、やけくそ気味に前にでるミーア先生が八つ当たりの構えを取る


「まずはこの紛らわしいセルリアンをブチのめしますわよっ!」


珍しく、お口の悪いミーア先生だった



きぇぇぇぇぃっ!!


ジャングルの中にミーア先生の奇声が木霊する


その細腕で、セルリアン達をパッカ パッカと割砕いて行く様は

いっそ爽快ではあったものの、いよいよと鬼神のような形相に近づいてきていた


「ねぇ、ミナミコアリクイちゃん。怪物のフレンズって話してたよね…」

「うん…」


皆まで言うなと、お互いがお互いを抱き合って、そろそろと後ずさる


ぱきっ…


後ろに伸ばした足が何かを踏み砕く


乾いた音、それに反応して跳ねる様にミーア先生がこちら向いた


ひえっ…


誰の悲鳴だっただろう、どっちの悲鳴だっただろう


「ワーオ! すごい気迫ねミーアキャット」


ただ、途中でハクトウワシさんが声を掛けていなければ、二人で尻もちを付いていたのは確かだったように思う


「ふんっ…! ザマアミロですわッ!!」


お約束とばかりにミーア先生がパンパンっと両手をはたくと、それを合図にジャングルも静けさを取り戻していった



「みんなすごーい!! 感謝のポーズぅ!!」


両手を広げるミナミコアリクイちゃんを、ドールと二人で「かわいい、かわいい」と和んでいると

教師の仮面を被り直したミーア先生に「気を抜くな」と釘を差されてしまう



その方角は同じであった


今しがたのセルリアン達が襲ってきた方向、ハクトウワシが案内しようとする場所

そうして、私達が最初に行こうとしていた方角


「なるほど、偶然って訳じゃなさそうね」


話を聞いて、より気を引き締めるハクトウワシ

そして、その偶然じゃなさそうな道の途中に


「たき火か…」


それにテントを張ったような後

地面の熱はとっくに逃げていたようだけど、少なくとも誰かヒトがいたのは確かだった


ヒト…


という言葉を受けて、当然視線は私に集まるわけだけど

昨日今日きたばかりの上、そもそもずっとドールたちと一緒だった訳だから疑われるまでもなく

じゃあ、ミライさんがって、そんな理由も思いつかない


密猟者…


ふと、頭をよぎる不安

ただの噂話だと、見間違いが憶測を呼んだだけだって思っていたけれど

そこに確かな痕跡があるならば、それを噂と切って捨てるには軽率な気がした


その密猟者が巨大セルリアンを動かしている


何だったら、そんな発想まで飛躍出来るけど、それこそ流石に軽率かと事実だけを留め置く事にした



「ミーアキャットこわくない? あたしもこわいから、はずかしくないよ?」


ミナミコアリクイがミーアの手を取って、その顔を覗き込でいる


自分も怖いだろうに…


いや、自分も怖いからか、さっき奇声を張り上げたミーアを気遣っている姿は、とても輝いて見えた

けれど案の定、ミーア先生がそんな事を認めるわけもなく、全然怖くないと鼻を鳴らし


「首がない密猟者の闇の化物フレンズなんて、ぜんぜんまったくこれっぽっちも…」

「先生、ごっちゃになってます全部」


説得力の欠片も無い強がりを、ドールに指摘されては黙り込んでしまった


「実際どうおもう?」

「どうって、密猟者?」


強がるミーア先生を横目にこっそり、ハクトウワシに問いかける


「うん。その密猟者がさ、首がない闇の化物セルリアンみたいなのだったら」


そんなのいるかって言いたいけれど

私の常識では、そもそもセルリアンすらいなかったんだ

あまり、冗談としても笑えるものでも失くなってきている


「あら、平気そう見えたけど? あなたも怖いの?」

「強がりくらいはするよ、私だって…」


もっと怖いのは、その密猟者がただのヒトだった時

悪意を持ったヒトが、何をするか分からないセルリアンよりも、何をするのか予想の付く相手の方が私はイヤだったんだ


「ドント・ウォーリー!」


安心してと、胸を叩くハクトウワシ


甘えている自覚はある

そう言ってほしかったから、こう言ったつもりもある

そんな甘い自己嫌悪も、力強く抱きしめられる安心感には勝てなかった



かさかさっ…


茂みが揺れる

最初にドールの耳が跳ね、ハクトウワシの鋭い眼光がそちらを睨みつける


「また来やがりましたわねっ!」


その気配を受け取ったミーア先生が、またお口を悪くしながらもミナミコアリクイを下がらせていた


ぴょんっこ…


飛び出してきたのは青い影


「あら…この子」


それはセルリアンではないようで、見覚えで もあるようにミーア先生が声をもらす


まるで、青い狸だが猫のような格好のそれは

回れ右をすると、じっと私の方へと視線を投げてくる


「スタッフ証を確認しました、はじめまして しずく」


うわ…喋った…


声に合わせて目を光らせながら、耳慣れない合成音声が私の名前を呼んでいる


「こ…こんにちは…」


自分でも間が抜けているとは思うけど

謎の生き物に、突然名前を呼ばれた経験のない私にはこれが精一杯


「コンニチワ」


お辞儀…なんだろうか。首のない体を斜めに傾けて、返事を返しくれた


「えっと、あなたは?」

「ボクは、パークガイドロボットのラッキービースト だヨ」


ぴょんっと、その場で跳ねて、告げられたのは やっぱり初めて聞く名前で

草刈りから観光案内まで出来る万能ロボットだとミーア先生が補足してくれても

最近のロボットは凄いんだなぁとか、理解が追いついてない自分がいた


「はじめまして、ラッキービーストさん。私、ドールって言います」


流石というか、ドールが物怖じもせずに傍によって手を差し出すけれど


「……」


無視、という言葉がロボットに当てはまって良いのかは分からないけど

差し出されたドールの手にはまるで反応を示さずに、私の方をみたまま固まっているラッキービースト


「ああ、この子はヒトとしか会話してくれませんの」


言った通りに、ミーア先生に突っつかれても特に気にした様子もない


「えーっと、それで…?」


さて、困った


「困ったことがあったラ なんでも言ってネ ボクが お手伝いするヨ」


そう言われたものの

突然出てきた、お手伝いロボットの扱いに一番困ってるんだけど

「あなたの使いみち」なんて聞いても大丈夫なものだろうか


「なら、例の巨大セルリアンを見てないか聞いてみない?」


そのハクトウワシの提案は天啓であり、警報だった


「注意!! 注意!!」


突然に、ラッキービーストが警笛のように注意喚起を始め

青かった目と耳の先が、警報のごとく明滅を繰り返す


「ウギャー!!」

「うひぃっ!?」


その異変に驚いたミーア先生が奇声を上げて

それに驚いた私が悲鳴を上げて、辺りは一層と騒がしさを増していく


「と、と、とつぜんなんですの!?」


訴え上げるミーア先生に答えた訳でもないが


「セルリアンの出現を確認 パーク従業員はお客様の避難誘導を優先してください!!」


さっきまでの曖昧な喋り方とは違い

はっきりとした警告と警報を告げるラッキービースト


「パーク従業員って…」


不思議そうな顔をしたドールちゃんが、私を見て首をかしげている


「わたし…なんだろうけど…」

「でも避難誘導って…」


あるいは避難訓練かとも思ったけど

パタパタしているドールちゃんの耳は、ばっちりセルリアンの位置を捉えているようだし

けれど、お客様…と呼べる人間は、おそらく私が一番それに近い気もするくらいで

実際には人っ子一人いないのが現状だった


「お客さん…他に誰か居るの?」


私の言葉なら聞いてくれるらしいので、その疑問を直接ラッキービーストにぶつけてみた


「お客さん…他…アワワワワ…検索中 検索中 」


バグったかな?


そう思わせるくらいの変化だった


規則的だった警報も、警笛も、バラバラに明滅しはじめ、音割れがひどくなる

ぴーぴーがーがーと、口で言い始め、動きも何処かぎこちなくなってきた


「ラッキー、一旦ストップよ。セルリアンが突っ込んでくるわ」


元からの仕様もあるのだろうけど

ハクトウワシの声にも、近づいてきたセルリアンにも気づかずに

そのまま体当たりを受けて、転がっていくラッキービースト


「システム復旧中…エラー…エラー…再起動を開始します…」


まるで古いパソコンの様な動きだった


何でも出来るからって、何でもさせるから、メモリー足りてないんじゃないだろうか

設計者には今すぐバージョンアップを求めたいところだけど、今はそんな暇ないだろうし


「くっ…セルリアンめ! よくもラッキーさんを!」


何かを勘違いして、使命感に燃えているドールちゃんには悪いけど


「仕様だよ、多分それ…」


ラッキービースト、私の中でのそれはポンコツの烙印を押されていた



セルリアンたちをやっつけ


その間に、再起動を完了したラッキービーストに改めて、巨大セルリアンの居場所を聞いてみるけれど


吐き出したのはエラーだった


「セルリアン警戒システムに予期しない障害が生じています…」


だって…


で、済ませたい所だけれど

ぶつかって、初期化して、再起動して、いかにも壊れそうな状況は山積みだし

悪いことを突き詰めるなら、密猟者に何がしかのジャミングでもされているのかとも考える


なんなら、その密猟者について聞いてみると


「現在、パーク内に無許可で侵入した人がいるという通報はでてないヨ」


滞在許可証がないとすぐに通報される仕組みらしいが

「無許可で…」て、文言に不安を覚えるのは小説の読み過ぎだろうかと邪推もした


残るは怪物の噂か


けれども開いた口は、その質問よりも、ちょっとした悪戯に動いていた


「先生、やっぱり怖いんですか?」


怪物…それを聞いて身持ちを固くしている彼女を放っては置けなかったのだ


「きぃぃっ!? 誰が怖いものですかっ!?」

「でもさっき奇声を…」

「あれはあなたでしょうっ!?」


ヒートアップしていく先生をみるのが、面白くなってきた所で


「はいはい、そのへんになさい」


ハクトウワシが間に入って止められてしまった


怒るというよりは、呆れるような目を向けられて「いじわるねぇ」と溜息をつかれてしまう



さて、またエラーを吐き出すかと思ったラッキービースト

その実、仕事をこなしたことに、ある種の感動を覚えてしまった


鼻はゾウ、目はサイ、尾はウシ、足はトラ、体はクマの動物


まさに怪物といった情報を一つずつ確認するように口にしたラッキービーストが出した答えは


「それはきっと バクのことだネ」


それから、名前の由来や、見た目、生体などを簡単に説明してくれた後


「この森の中にいるとすれば、マレーバクあたりカナ」


何処かやり遂げたように締めくくった


「なーんだぁ! マレーバクのことだったのかぁ!」


そんなお話を、おっかなびっくり、遠巻きに聞いていたミナミコアリクイが

胸を撫で下ろしながら、安心したような声を上げる


よっぽど仲が良いのか

ニコニコとマレーバクのことを話してくれる姿はとても嬉しそうで


「あぁぁぁーっ!?」


急にあがった悲鳴にびっくりさせられてしまった


ていうか、さっきから悲鳴に驚きっぱなしで、心臓が痛くなりそうだ


「たたたたたた大変だよぉ!?」


さっきまで嬉しそうだったミナミコアリクイが一転して慌てふためいている


「どうしよう、セルリアンが、マレーバクが!」


その言葉も何を言っているのか、要領を得ないけれど

マレーバクがセルリアンで大変らしいのは、何となくでも嫌な予感を呼び寄せる


「おちついて。何を思い出したの?」


ハクトウワシに宥められ、ようやくと落ち着きを取り戻したミナミコアリクイ

ぽつりぽつりと、今朝から私達に合うまでの事を話してくれた


曰く、真っ黒なフレンズに睨まれていたこと

曰く、その後に巨大なセルリアンに襲われたこと


そんな大事なことを、大切な友達の事を忘れていた事に、ついには膝を崩して涙を流していた


「サーバルさんを襲ったセルリアンと同じヤツでしょうね」

「襲われる直前にみた真っ黒なフレンズも気になるわね」


ドールがミナミコアリクイを慰めている間

ハクトウワシとミーア先生、二人と一緒に情報をまとめる


ようやく見つけた巨大セルリアンの尻尾と

ただの噂だった闇のフレンズが形を持ち出したことに、言いようの無い不安が膨れ上がってくる


話を終えると、ハクトウワシが泣いているミナミコアリクイの肩に手を掛けた


告げる言葉は力強く


「マレーバクは私達が必ず助けるから」


正義の使者、ハクトウワシの名に誓っていた





それから、移動を再開してしばらく…


ちょうど日も陰ってきた所で、ハクトウワシがピタリと足を止めて振り返る


どうしたの?


ドールと二人首を傾げていると

どうやらその視線は後列の私達じゃなくて、もっと後ろの方に向けられているようだった


「さっきから私達の後をついてきているそこのあなた! 聞こえてるんでしょ?」


だれもいない、そのはずだった

いい加減落ちてきた日に、木陰で見間違えたのではないかとも思ったが、ハクトウワシの視線は変わらず険しいまま

ザワザワと、靡く木陰は視線の先へと流れていき、ドールの鼻もいまいち働いてないようだった


だが、見えてはいる


間違い探しの中から削り出すように、ハクトウワシの猛禽の視線は確実にそれを捉えていた


「…」


ざわり…


まるで、影が浮かび上がってきたようだった

木々の隙間から現れたの黒い体をしたフレンズ

なんであれば、これが件の闇のフレンズとか言う奴なのかと、考えていると


「あぁーーーーーっ!?」

「うぎゃぁっ!?」「うわぁぁっ!?」


唐突に声を上げるミナミコアリクイ…に、つられて叫ぶミーア先生に驚いた私


「ちょっ…もぅ…脅かさないでよ、ミーア先生」

「びっくりしたのはわたくしの方ですわっ!? なんですの、急に…」


だんだんと正気度が下ってきてそうなミーア先生を抱きしめながら

驚愕に戦慄くミナミコアリクイの方へ注意を向けた


「この子だよっ!」


白い指先が向けられた先の黒い影

ミナミコアリクイとマレーバクが、セルリアンに襲われる前にジッと見ていたという相手


黒い出で立ち、そのスカートには薄っすらと…


豹柄…いや、見えづらいけど…あの模様は…


答え合わせ、でもないけれど、朧気に浮かんだ記憶をはっきりさせるために

「ねぇ…ラッキーさん…」小さく声を掛けてみた


ぴこん…


その目が光ると、程なくして答えが返ってくる


「あの子は、ブラックジャガーだネ。ジャガーの黒変種だヨ」


話している間にも、ハクトウワシが私達の前に立って、ブラックジャガーに問いを投げている


「どうして私たちのあとをつけてきたのかしら?」


その疑問は最もなんだけど、少しばかりの不安が過るのは、実体験のせいだろう

私たちの時みたいに、勘違いしたまま突っ走らないければ良いけど…

私は嫌だよ、猛禽とジャガーのケンカの仲裁とか、怖すぎるわ…


「……」


だが、ブラックジャガーは答えない

じっとハクトウワシの視線を受け止めたままで、その態度がさらにハクトウワシの眉間を寄せる


「…マレーバクの行方がわからないというのは本当か?」


やがて、観念したのか、思い出したのか

ようやくと聞けた言葉は、存外と行方の知らないマレーバクを気遣うものだった


困惑したのはハクトウワシも一緒のようで、同じ様に声を漏らす


「マレーバクは行方不明なのかと聞いている。セルリアンに襲われたのだろう?」


動揺している間に入れ替わった主導権に、今度はハクトウワシが問われる番だった


「ちょっと! 質問をしているのはこっちよ!」


質問に質問で返すなとは、良く言われるけれど

実際にやられると、たしかにモヤモヤするなこれ



ボルテージの上がっていくハクトウワシ、だんだんと興味をなくしていくブラックジャガー

そんな二人をつなぎとめるように、ドールが間に入って声を掛ける


「あの、じつは私たちもマレーバクさんを探していて…」


なにか知っていることがあるなら教えて欲しい

その言葉に、多少態度は軟化したように思う

けれど、返す答えはなかったのか、さり際に一言だけ、私たちに注意を促していった


「セルリアンだ。気をつけたほうがいい…」

「あっ!? ちょっと、まちなさいブラックジャガー」


言って止まるような子ではないね

この短すぎる付き合いの中でだって、そのくらいは分かるってくらいにそんな子だった

ブラックジャガーの背中を追って、迫ってくるセルリアンに視界に捉えて

忙しいハクトウワシになんて目もくれず、涼しい顔して去っていくブラックジャガー


「ありがとね」


そんな背中にかけた お礼の言葉、聞こえていたのかは分からない

少しだけ、足が止まったのは助走の為かもしれないけど

ぴょんっと、木の上に飛び上がり枝葉の中へ消えていく彼女の背中を見送って

私も、前を向くのだった



セルリアンを撃退した後、そこに残っていたのは私達だけだった


「ブラックジャガー、一体何者なのかしら…」


訝しがるハクトウワシだけれども、私は彼女ほど心配はしていなかった

いやさ、無関係とまでは言わないけれど、悪いことにはならないだろうって気はする


「大丈夫、だとは思うけど…」


それが楽観的に聞こえたんだろう

その怪訝な視線が、直に私の方に向かってきた


「の、のーぷろぶれむのポーズぅ…?」


茶化すつもりではなかった

ただ、いたたまれなくなった自分自身をかばうように、ミナミコアリクイを見習って両手を広げて見ただけで


「はぁ…」


溜息をつかれた…


「良いわ。今はそういう事にしてあげる」


良かった、そういう事にしてもらえた


「ありがとう、ミナミコアリクイちゃん」


ほっと一息ついたその手で彼女を抱きしめる

さんざん空振ってきた威嚇のぽーずが、ここに役割を果たしてくれた


「よかったねぇ、隊長さんっ♪」


ただ、あんまりミナミコアリクイを可愛がってばかりもいられなかった


「でも、あの子。きっとなにか知ってるわよ? 追いかけましょう」

「でも、あの子もマレーバクを探してたみたいだし…。マレーバクを探したほうが良くない?」


ハクトウワシの主張はもっともで、ミナミコアリクイの心配もまたもっともだった


「どうすれば良いんでしょう?」


難しい顔をするドールに、すぱっとミーア先生が答えを出してくれればよかったんだけど





「さて、どうしよっか…」


ミーア先生の答え。いや新しい課題は「二人で考えて決めろ」だった


みんなから少し離れて、ドールと向かい合って腰を下ろす


「どうって…私は…。隊長さんはどうなんでしょう?」


決めあぐねてか、助けを求めるように見上げてくるドール


気持ちは分かる、私だって決めたくはない

マレーバクも、ブラックジャガーも、巨大セルリアンも、全部やらなきゃいけないとか

猫の手以外も借りたいって、ミライさんの気持ちも分かるというもの


ドールはどうしたい?


なんて、誰かの真似事のような言葉は飲み込んだ


多分、これは卑怯というものだ


いざセルリアンが出れば ほぼ皆に任せっきりなのに

方針の一つも決められないようなら、私はただの笛吹お姉さんになってしまう


好き好んで付いてきたんだ、これくらいはやらないと


「ねぇ、ドールちゃん。マレーバク今どこにいるかな?」


考えを纏めるついでに、とりとめもなく口を開く

けれど、そんな事聞かれても、ドールだって困るわけで


「どこ…でしょう?」


そりゃそうだと、予想通りに困り顔を浮かべていた

そんな彼女を愛らしく思いながらも、次のステップに足をかける


これから日も暮れるし、探すとなれば夜の森を当てどもなく歩くことにはなるけれど


「ラッキーさん。マレーバクを夜の森で探すってどう思う?」

「難しいかナ。マレーバクの白黒模様は、暗闇の中で輪郭を曖昧にする効果があるんだヨ」

「なら、同じ理由でブラックジャガーもダメかな…」


深い森の中、あの黒い体を、樹の上まで探せって言われたらウォーリーさんよりきっと辛い

なんだったら元は夜行性な分

ブラックジャガーが夜の内にマレーバクを見つけてくれる事に、期待したほうが幾らかマシというもの


「やれることって、意外とないね…」


歯がゆいのか、悔しいのか、どっちにしろ正義の味方みたいにスパッと解決とはいかないものだった


「あはは…そうみたいですね」


ただの独り言、みたいになってしまったけど

通じた意図は、ドールを曖昧にでも頷かせていた


「きっとさ、セルリアンいっぱい出ると思うんだ」


これは予感じゃなくて実感だ

巨大セルリアンの痕跡を追っかけてきて、今日でどれだけの数を退治してきたか


「けど、いっぱい倒した分だけ。マレーバクさんも他の皆も…」


ドールの言葉に、そうだねと頷いて、そうだと良いねと立ち上がり、そうしようかと手をのばす


「はいっ」


つないだドールの手を強く握り、ドキドキの発表会の始まりだった





「いいわ、そうしましょう」


話し合いの結果をドールが伝えると、意外とも思えるくらいあっさりと頷くハクトウワシ

そもそも、それを調べるために来たのだから、ブラックジャガーの事は気にはなれど

闇雲に探す必要もないだろうと、飲み込んだようだった


「あ、あたしも…同意のポーズぅ!」


そんなハクトウワシに習うように、ミナミコアリクイも両手を広げで受け入れてくれた

なんなら、一人でもマレーバクを探しに行くって言い出したら、なんて説得しようかと思ってたけど

それだけ、私たちを信じてくれたと思えば、荷は重いけど背負いがいはあるのかもしれない


「ということになりましたけど。これで良かったんでしょうか…?」


さて、問題の先生だ


なにかダメ出しは飛んでくるだろうか?


知らず、ドールと寄り添い手を繋ぎ、ドキドキと胸を抑えながら静かに佇むミーア先生に目を向ける


「あなたと隊長さんが決めたことですもの。自信を持っていいと思いますわ」


そうして、私たちの不安を吹き飛ばすように笑顔で答えたくれた


多分、何を言っても頷くれたんだと思う

結果なんて誰にも分からない、良かれと思っても上手く行かないこともある

重要なのは、自分たちで考えて納得して動くこと…そんな事を教えたかったんじゃないだろうか





「まるで…ミステリーサークルですの」


ミーア先生は博識だね。なんて冗談はそろそろ言えなくなりそうだった


森を抜けた先、ようやく開けた場所に出たと思えばコレだ


開けたなんてものじゃない、開けられたが、表現としては正しい

何がいればそうなるのか、怪獣映画じゃあるまいに、局地的に竜巻でも発生したみたいに周りの木々が投げ倒され、投げ出されていた


投げ出された木々、転がった岩は砕かれて、私たち以上はあろう足跡の形に収まっている


「ああーーーっ!?」


皆が皆、現場の状況に息を呑んでいると、突然、大声を上げるミナミコアリクイ


「もうっ、何度目ですのっ!?」


いい加減慣れたのか、つられて悲鳴は上げないものの、心臓に悪いと文句を言うミーア先生

しかし、そんなことよりも、こんな惨状の中で、そこに転がっているカメラの方がよっぽど目についた


「こ…これ…」


わなわな と、体を震わせて大事そうに拾い上げるミナミコアリクイ


「これ、マレーバクのカメラだよぉ! もしかして、セルリアンに食べられちゃったんじゃ…」


その想像は分かる


一瞬くらいは考えた可能性だけれど、にしてはカメラが綺麗過ぎた


「周囲がこれだけ壊されているのに、カメラだけ無事というのも変でしょ?」


ただ、ハクトウワシの言う通りだとしても、落とした事も忘れるか、拾う暇もないような目にあった事だけは確かかも


「マレーバクは無事なの?」

「もしかしたら、結構近くにいるかも知れないわよ?」


不安そうなミナミコアリクイに笑顔で答えるハクトウワシ

その自信に少しはあやかりたい。嫌な想像ばかりする私が少し嫌いになりそうだった


いや…


その前に見習うべきか


なんとなく ぞわりとしたものを感じて顔を上げる

臨戦態勢でもないけれど、不安を飲み込むように笛を口に押し込んだ


「注意!! 注意!!」


案の定か、ラッキービーストからけたたましい警報が鳴り響くと

周囲を漂っていた嫌な予感が、総毛立ったような気がした


ドールちゃんはもちろん、ミーア先生でさえ気圧されるような数を前に


ゆらり…


ハクトウワシが立ち塞がった


「大掃除の時間よっ! 準備は良い?」


既に勝鬨の様な威勢の良さ


頭を振り「はいっ!」と、元気を取り戻したドールに続いて


ぴぴーっ!


試合監視のゴングの如く、笛吹お姉さんは笛を鳴らすのだった





「ぜぇ…はぁ…き、きっつぅ…」


多い、流石に多いぞセルリアン


笛吹きすぎて喉痛い


緊張が途切れたら立ってもられなくて、庇ってたはずのミナミコアリクイに介抱される始末


「だ、だいじょうぶぅ?」

「むりぃ…」


弱音ではない、本音だ

あと一匹だって、私は相手に出来ないぞ


「ミーア先生、ハクトウワシさん! ケガはありませんか?」


セルリアンの気配がなくなり、構えを解いたドールが周りに心配の目を向けている


「わたくしは平気ですの、ですが…」


気遣われてはいるが、半分呆れも含んだようなミーア先生の視線が私に向けられる


「ふふっ。なかなかハードだったものね。すこしブレイクタイムにしましょ」


助かる。それはとても助かる

その提案も、変に気を使わず笑って流してくれる所も惚れてしまいそうだ


「しばらく休憩したら、探索を始めましょう!」


元気なドールの声が耳に痛い


しばらくというか、もう明日にして欲しい気分なのに



疲労でダウンしている私を置いて、探索を再開するドール達

そんな彼女たちの様子を、ミナミコアリクイと一緒に何をするでもなく眺めている


ただ、成果は芳しくはないようだった


これだけのミステリーサークルと大量のセルリアンを発生させて何もない

その不自然が気持ち悪い。なんだったら、これが儀式の後とかオカルト的な事を言われたほうが納得が行くほどだ


「隊長さん…」


ドールが声を掛けてくる


どうやら、探索には区切りをつけるらしく、次の指示を求められているようだった


結局ここで得られた情報は、破壊的な巨大セルリアンの痕跡とマレーバクの落とし物

選択肢として、今からマレーバクの捜索に切り替える目も出ては来たが


「ありがとうミナミコアリクイちゃん」

「もういいの?」

「もういいよ」


気遣う彼女の手を借りて、自分の足で立ち上がる


「ドールちゃん」


これも、質問を質問で返したことになるのだろうか?


けれど、私たちのやる事は何も変わらない

マレーバクの可能性が出てきたくらいで、そこにいるわけじゃないのなら


「…わかりました」


是非もない


返事を待つハクトウワシたちに向き直り「巨大セルリアンを追いかけましょう」と方針を明らかにする


ただ、一つだけとハクトウワシから問い掛けられた


「仮にセルリアンを見つけたとしてどうするつもり?」


問われて答えに窮する


見つけて…見つけて…どうなの?


見つけるのが目的ではあったし、どこかしらゴールだと思っている部分もあった


普段ならそれで良い


私はいつも無関係で無関心で無神経で、私じゃない誰かがやってくれていたけれど


「それは…」


口ごもるドールに、正しく状況の不利を畳み掛けていくハクトウワシ


「まさか、無策で戦うとは言わないでしょうけど?」


そうして、再度答えを促された


「それでも…」


一歩前に進み出るドールが、まっすぐにハクトウワシに自分の思いの丈を伝えると


「私は、私たちに出来る精一杯をしたいんです」


おのずと、訪れた沈黙


ハクトウワシもミーア先生も、何処か満足そうで


その沈黙に耐えかねたのはドールの方だった


「…えーっと、それにほら、マレーバクさんたちとばったり鉢合わせするかもしれませんし?」


あたふたと、誤魔化すように、愛想笑いを浮かべて


そんな必要もないのに


そんな事を言われたらもう「じゃあ行こうか」としか返しようがない


ハクトウワシもミーア先生も、もうそのつもりだ

後は誰がそれを言うかの探り合いで、やっぱりというか、通りの良い声が聞こえてくる


「ワンダフル! そうと決まれば、さっそく出発しましょ」


GO!GO! と拳を上げて先頭を歩き出すハクトウワシ


「えっ、あの…良いんですか?」

「何をしているんですの? 置いていきますわよ、ドール」


戸惑うドールの肩を叩き、ハクトウワシに続いて、ミーア先生もさっさか先に進んでいった


「えっと…隊長さんは? 本当にこれでよかったんでしょうか?」


そんな、良いとか悪いとか、答えを持ってなかった私に言える権利もないんだけど


ならせめてと…


「はい…」


探検隊の帽子、隊長の羽飾り付きの帽子

ついさっきもらったばかりなのに、随分と煤けてはいるけれど、今の彼女にはぴったりの


頭に被せたつもりが、ぴんっと真っ直ぐに伸びた耳に引っかかる


それはそれで可愛らしいけど


「い、いいですよっ!? その帽子は隊長さんが被っててくださいっ」


辞退された


慌てて帽子を外して、私の方へと押し付けてくる


「似合うと思うけど?」


外見の話だけでなく、その内も、私なんかよりよっぽどそれらしい


「だって、耳に引っかかるじゃないですか」

「この辺で良いかな…」

「あわわわっ、すとっぷ、すとっぷっでっ、とりあえずで帽子切ろうとしないで、ハサミしまってくださーいっ!?」






「ただいま、待たせたわね!」


状況確認を終えたハクトウワシが空から戻ってきた


多少は蛇行しながらも、ほぼ真っすぐに進んでいる巨大セルリアンの足跡

悪いことに、それに連なって大量発生しているセルリアン達


飛び立つ前にハクトウワシが漏らしていた通りになった


セルリアンの大量発生の原因は、巨大セルリアンであると


「このままじゃ巨大セルリアンを倒すまでセルリアンが増え続けることになるわ…」

「けど、足跡沿いに湧いたセルリアンを放って置くわけにも行きません」


ドールとハクトウワシ、二人の言うことは正しい

問題なんてのは何時だって山積みになるもので、その全部を解決しないと行けないのも同様に


「そうね、だから…」


神妙に頷くハクトウワシ


嫌な予感がする


確かにそれしかないんだけど、いざやるとなると気後れしてしまった


「そいつらを倒しながらあとを追いかけるしかないわ!」





追いかけたさ


追いかけて、追いかけて、セルリアンもぱっかんぱっかん叩き割ってさ


気づけば、すっかり日も落ちていて


「正義を貫くには休息も必要よ!」


鶴の…ではなく、ワシの一声で今日は休む事と相成った



「キャンプ場…?」


伸び放題の荒れ放題、空き地といえばそうなんだけど


「好きな場所にテントを立ててネ?」


ぴょんっと跳ねるラッキービーストが得意げに見えたのは、私の気分によるものか



意外と簡単なものだった


いや、それでも、ミーア先生に教えてもらいながらではあったけど

なんとか完成したテントの出来栄えに、ちょっとした達成感を味わっていると


「あの…もしよかったら、隣で寝てもいいですか?」


袖をひかれる、上目遣いで見つめられる、結論は可愛い


遠慮がちに声を掛けてくるドールの手を取ってテントの中に潜り込む


「いーな、いーなぁ! あたしも仲間にいれてぇ」


すると、ミナミコアリクイも一緒になって空いた片側に滑り込んできた


感謝のポーズぅに抱き返して答えると


「あ、ハクトウワシも一緒に寝ようよぉ」

「私も?」


枝に止まれば眠れると、そのつもりでいたのか

ミナミコアリクイの提案に、首をかしげるハクトウワシ


「…その、大丈夫なの?」


遠慮している…というよりは、何か心配そうなその声音

そんなことにも気づかずに


「ノープロブレム!」


彼女の口調を真似て応える私だった



狭い…



結論から言えばそれ


テントの伸縮性に助けられながらも、なんとか5人の寝床を確保している状況だった


「あはははっ! こうなると思ってたわ!」


楽しそうに笑うハクトウワシの声を聞いて、彼女が何を気にかけていたのか思い至った


「隊長さんの責任かと思われますの」


狭いテントの中でミーア先生の小言に突かれる


「だって…」


だからって、ハクトウワシ一人で外に寝ろとか言えないじゃない

いや、本人はそれが普通なのかもしれないけど、見た目女の子なんだし


「ドントウォーリー! 隊長やドールのおかげで一緒に寝ることが出来たのよ?」


むしろ、感謝したいくらいだとハクトウワシに礼を言われて、渋々とミーア先生も小言を引っ込めた



何時頃からだろう


楽しいおしゃべりも、笑い声も、夜の帳に包まれて、それが寝息に変わる頃


最後にそうしたのは何時だったか

みんなで川の字になって眠る。そんなひと時を、薄ぼんやりと思い浮かべていると


「隊長さん、まだ起きてますか?」


耳元で、ドールが ぽつりと呟く


返事の代わりに顔だけを動かしてみると、そこには笑顔が広がっていた



思い出話に花を咲かせる私たち


いや、思い出と言うには随分と近い

だって、つい今朝方からの出来事だ、新しい友だちが出来て、セルリアン相手に大立ち回りをして

危ないこともいっぱいあったけど、探検しているって実感は


「すっごく楽しかったです!」「すっごく楽しかったね」


重なる声が、笑顔に変わる


「きっとこれから、こんなドキドキする毎日がずーっと続くんですよね…」

「そうだといいね…」


本当にそう思う


いつか、サーバルさんと、アライさんやフェネックさんとも探検してみたいと…夢見心地に語るドールを撫でながら


いつか、セルリアンのいなくなったパークを、私もまだ歩いてみたいと願っていた


「おやすみ、ドール…」





「きゃぁぁぁぁ!!」


その悲鳴は唐突だった


真っ先に飛び起きたハクトウワシが先行し、ミーア先生も後に続いていく


案の定、そこにいたのはセルリアンで


「ちょっとラッキービーストさん!」


見張りを買って出てくれていた、万能ロボットはといえば


「So...enjoying your work...exceput for...」


バグってた…


いや、英語か?


それも、ハクトウワシが使うような分かりやすいやつじゃなくて


エンジョイ…ワーク?


仕事を楽しめって? 誰かと話してる? 


「なぁんのさわぎですぁ…??」


そこへ、緊張感のまるでないドールがのそのそとテントから顔をだす


「セルリアン…? 私が気持ちよく眠ってたのに、何で来るんですか!!」


逆ギレだ…いや、寝ぼけてるだけなのか


「私の…みんなの睡眠をおびやかす奴らは、安眠の使者きゃぷてん・どーるが許さない」


さぁ、みなさんいっしょに


「れっつ・じゃすてぃす・です!!」


言うや、早いや、一人でセルリアンの群れに飛び込んでいった


「それ、私のセリフ…」

「あれは…寝ぼけてますわね…」


一飛び込んでいったドールを放っても置けず

どこか危機感が欠けたまま、セルリアンとの戦いが始まった



一騎当千って言葉があるか


寝こけていたドールが、大量のセルリアンを薙ぎ払っていた


その後姿は、頼もしいを通り越して、どこか空恐ろしく


もしかして…


セルリアンが出なかったら、隣で寝ていた私がこうなってたんじゃないかと思うほど


「せいぎは…かちゅっ!」


回らない呂律を並べて決めポーズ


そこに立っていたのは最早ドールただ一人だけ


「ドール! ケガはない!?」


やっと追いついたハクトウワシが肩を叩くと


「…はっ!? ここは…? なんで私、テントの外に…??」


たまに忘れそうになるけどオオカミだもんなぁ…そりゃ強いなぁって…


「酔拳ならぬ睡拳ってわけね…」

「あの、何を言ってるんです?」


一人、うなずくハクトウワシに怪訝な視線を投げるドールだった





叫び声の聞こえた先


茂みをかき分け飛び込んで見れば


「お前か…」


現れたハクトウワシを一瞥すると、ブラックジャガーがそれだけを口にして返す


そしてもうひとり…


「マレーバクぅ!!」

「あ…ミナミコアリクイちゃん。よかった、無事だったんだね」


一も二もなく、その姿を見るやマレーバクに抱きつくミナミコアリクイ


結果論ではあったけど…


それでも、結果としては巨大セルリアンを追いかけて正解だった訳だ


「ブラックジャガー、ここで何をしていたのっ。マレーバクに何をするつもり!」


ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間


入れ違いにハクトウワシの鋭い声が聞こえてくる


慌ててマレーバクが誤解を解こうとしてはいるものの

先走ったハクトウワシにつられてミナミコアリクイも一緒になって勘違いを深めていく


「悪をのさばらせるわけにはいかないわっ! ブラックジャガー、この私が相手よ!」


正義の使者、キャプテン・ハクトウワシ


さあ、今夜も一緒に!


「レッツ、ジャスティス!!」


そこにミナミコアリクイも加わって、ポーズを決める


なんでもないなら、可愛らしくも見えるんだけど…


一つ分かったことがある


キャプテン・ハクトウワシ…もしかして、アレをやりたいだけなんじゃなかろうか?


「あ、あの、違う、違うのぉ…そうじゃなくて…そうじゃなくってぇ…」


マレーバクも、頑張ってはくれているけれど、あの調子じゃ誤解をとくまえに夜があけそうだし


「ええっと、だからね? 私がセルリアンに襲われそうになった時助けてくれて…」


誤解が招いた曲がり角


ハクトウワシとミナミコアリクイの勢いに押されて、ついにこんがらがったマレーバクの頭が限界を迎えていた


「で、でも、助けてくれたし…え? あれれ? 自分で襲って自分で助けるの?」


じゃあ私を助けたのも、何か理由があるの? なにか裏があるとか…

でも、私のこと助けてくれたし…あれ、でももしこの子が闇のフレンズじゃなかったら

ハクトウワシさんがせいぎじゃなくてたすけられたけどたすけられてなくて


「あれ…あれれれ????」


そんなマレーバクの事を、ブラックジャガーがじっと、じぃっと見つめていた


「な、なんで私のことにらんでるの? 私、美味しくないよ?」


一歩、また一歩と後ずさるマレーバク


いや、単に気遣ってるだけだと思うけど

目つきが悪いのは生まれつきとして、言葉が足りんのは…いや、この場合はハクトウワシ達にも問題があるんだけど


「それとも私、なにか悪いことしちゃった? 私が闇のフレンズなの? 私に裏があるの?」


速報、闇のフレンズは増殖するらしい


なんて言ってる間に、ごごごごご… 震えるような声が聞こえてくると同時に


「ごめんなさいぃぃぃ!!」


疑心暗鬼、自分でさえ信じられなくなったマレーバクが夜の森に消えていった


それを追って、ブラックジャガーも姿を消すと、ハクトウワシも後を追いかける


「もうめちゃくちゃですわね…」


呆れを通り越した溜息を付くミーア先生


「なんで みんな追いかけてくるの!? イヤぁぁぁ、こっちこないでぇぇ!!」


なんで追いかけられるかって、そりゃ逃げるから…なんだけど

この悲鳴の先に、果たして正義はあるのだろうか


「とりあえず、追いかけよっか…」

「ですわね…」

「はいっ!」


逆効果な気もするけど、ハクトウワシ達とはぐれる訳にも行かないし

せっかく見つけたマレーバクを逃がす手もないだろう





「見失った…一体どこに行ったのかしら?」


まあ、時間の問題ではあったか


森の中じゃ二人に分がある上、時間は夜…

少し離されただけで、もう影も形も分からない


僅かに聞こえる草葉の囁きも、反響して位置が分からないし

それもその内にきこえなくなるだろう


「あの二人、夜の中だと本当に見えませんわね」


感心するように呟くミーア先生


「大丈夫!ニオイでたどれます!」


ハクトウワシに代わり、今度はドールが先頭になって二人を追いかけるけれど



まるで私たちの邪魔でもするように、セルリアンが立ちふさがった


「なんでこいつら、私たちの邪魔を!?」


ドールが吠える間にも、夜の闇から生まれるみたいに数を増していく


「邪魔をしているんじゃありませんわ。こいつらはわたくしたちのもつ輝きを狙って襲ってきてるだけですの」


こんな夜半に、そんな話をして、まるでゾンビ映画のようだと、話を聞きながら益体もないことを考える


何時何処で誰が何を…


誰も分からない、自分ですらも分からない


大切なものが大切だったと、奪われて初めて気づく


その内に、輝きをなくしたものがセルリアンになったりしたら完璧すぎて笑えない

頼むからそんな事態にだけはならないで欲しいんだけど



それは、許せないことだったんだろう


そんな悲しい思い…寂しい思い…

したくもないし、させたくもないと爪を立てて


「私たちの輝きは絶対に奪わせません!!」


ドールの瞳が金色に輝く


何かと思う暇もなく、一瞬でセルリアンとの距離を詰めると、その勢いのまま真っ二つと切り裂いた


「よしっ!」


大技の反動、敵を倒した安堵、生まれたのは一瞬の隙間


がら空きになった背中めがけて、セルリアンが飛びかかる


「「危ない!」」


ハクトウワシとミーア先生が声を上げ、私も慌てて笛を吹くけれど


あと一歩届かずに


振り返ったドールにセルリアンの影が覆いかぶさっていた



「ふんっ!!」


影から影に飛びかかり、その影を討ち取るのもまた影だった


「ドールとか言ったな。気をつけておけ、戦いの最中では油断している時が一番危険だ…」

「ブラックジャガーさん!」


セルリアンを一撃で倒すと、ドールを庇いながら油断なく身構えるブラックジャガー


右へ左へと視線を這わせ、一呼吸置いた後

電光石火の如く飛び回ると、周囲のセルリアンが一瞬で、一撃で砕け散っていった


不謹慎かな、それを綺麗だと思ってしまったのは


夜の闇の中、砕けたセルリアン達が きらきら と散っていく

それが誰かの輝きだったりしたらと、胸を痛める反面

それが誰かの輝きだからこそ、こうも綺麗に映るのかと、少しばかりセルリアンの気持ちが分からないでもない


彼らにそんな感情があるかどうかは疑問だけど



「凄い…一撃で…」


感嘆と呟くドール


その声が聞こえていたのか


「そう、一撃だ…」


それより先は必要ない、反撃される隙など与えない

闇を味方につけて、一撃で仕留める


「それがこのオレ、ブラックジャガーだ」


一振りの夜風が吹く


闇夜に浮かぶ姿が朧気に揺れる頃、そこにはただ一人だけが立っていた


「どういうつもり?」


多少は警戒は解いたようだけど、それでも分からないといった風でハクトウワシがブラックジャガーに問いかける


ただ、どうもこうもはなかった


「お前たちが勝手に勘違いしていただけだ」


最初から敵対していたつもりはないと、ブラックジャガーに言われ

自分の勘違いに気づいたハクトウワシが「ごめんなさい」と頭をさげる


「でもでもっ! それならどうして今までだまってたの?」


ミナミコアリクイが、それでも納得がいかないとは言うけれど


「オレは何事も全て一撃で決める。なんども同じ説明をするつもりはない」


分かる


きっとあの状況、何を言っても信じて貰えそうになかったし


「それはそれで厄介さんですわね…」


分かる


だからって、もうちょっと先に言えとは思う


それから先は答え合わせだ


朝から今までのこと


巨大セルリアンを二人から遠ざけて、逃げ切れたか心配になって、一人になったマレーバクを探していて

セルリアンに襲われていた彼女を助け終わった所が、ついのさっき


「はっ!? そ、それじゃあ、あたしは命の恩人を闇のフレンズ呼ばわり…!?」

「……」


ブラックジャガーは何も言わなかった

うんでもすんでもなく、慌てはじめるミナミコアリクイをじっと見つめていた


「ごごごごごご、ごめんなさい! 超謝罪のポーズ、平謝りのポーズぅ!!」


平身低頭


いつものように両手を広げて、何度も何度も頭を下げるミナミコアリクイ


「ミナミコアリクイちゃんっどんなポーズをしても可愛いですよね…」

「わかる」


ドールと一緒に目を細めていると


「…ふんっ、気にするな。オレがやりたいようにやっただけだ」


そう言って、そっぽを向いた横顔は何処か赤くなっているような気がした

言っても気のせいだとか言われそうだけど


「…ん? あれ?」


そこで、何かに気づいた様にドールが首をかしげた


あらかたの疑問は解けたけど、最後に一つの取っ掛かり


「どうして今朝、ブラックジャガーさんは お二人の近くにいたんです?」


今更、害をなそうなんて疑いは無いけれど、一番はじめの不思議は確かにあった


「二度も言わせるな…」


同じ説明をする気はない、話を終わらせようとする彼女だったけど


「いや、それは分かるんですけど…」


そうではないとドールが首を振り


「ミナミコアリクイちゃんの話では、巨大セルリアンに襲われる前から見てたって…」

「それは…」


言い淀む


言いたくないのか、もう言ったのかイマイチ判断はつかないけれど


「それにブラックジャガーさん、何日も前から二人の前に現れていたみたいですし…」


なにか、他に理由があったんじゃ?


長い沈黙、多分は躊躇い


やがて、観念したのか


「オレは…」


短く口を開いた矢先


「ブラックジャガー、後ろよ!!」


ハクトウワシが叫ぶ


その後ろには、いつもより でかい セルリアンが私たちを見下ろしていた


「今の、ちょっと油断してたんじゃない?」

「抜かせ…いや、助かった。礼を言う」

「構わないわ。疑っちゃったお詫びしないとね」


ブラックジャガーの隣に並ぶハクトウワシ

何でもないように軽口を叩き合い、それでも視線はセルリアンに向けられたまま


「わたくしたち、お詫びなんてしてもらいましたっけ?」


はて? わざとらしく首をひねるミーア先生


「あー、ほら、今も協力してもらってますし?」


良いじゃないですか と、宥めるドール


だけど納得が行かないのは私も同じだった


「だめよドールちゃん。それはそれ、これはこれよ?」

「全くですわ」

「もう、隊長さんまで、そんなだからイジワルって言われちゃうんですよ」





「こいつ、なかなかタフね!」

「ああ。だが、この一撃で…!」


大きく構えを取るブラックジャガー


瞳が金色に輝きに、いかにもといった様相を呈する中


その殺気でも感じたのだろうか?


いやさ、セルリアンにそれだけの野生があるのかは分からないけれど

セルリアンが持て余した巨体を翻し、森の奥へと逃げ出していった


だが、逃げた先、その方向が不味かった


ー 誰か助けて!! ー


「マレーバクだ! 急ぐぞ!」


森の奥から聞こえてくる悲鳴は、確かにマレーバクのもので

1も2もなく飛び出すブラックジャガーだったが、すぐに足を止めると、忌々しそうに周囲を睨めつけている


「多いな…」


その言葉通りだった


前方からは元より、周りからも集まってくるセルリアン

迂回どころか、逃げ道すらも塞がれて、じりじりと距離を詰めてくる


「ど、どどどどどどどうしよう…!? あたしたち、もうダメなんじゃ…」


慌てふためくミナミコアリクイ


なんだったら私も一緒になって慌てふためきたかったけれど


悲しいかな? 


いや、悲しくもないか


それでも、私は諦めるという言葉を覚えてしまっていた


怖くないと言えば嘘だけど、困ることはないだろう


いや、ごめん、少しだけ嘘


ドールちゃんたちと出会ってから今までのこと、忘れるのはちょっと悲しいかもしれない…


「隊長。あなたはこっち」

「え、ハクトウワシ…?」


気づけば、子猫の様な有様で、首根っこを掴まれると、彼女の後ろに庇われる


「あなた、素直とは思っていたけれど、それとは少し違う感じね?」

「…」


何とは言われなかったけれど、何が言いたいのかは自覚はあった


たぶん私はきっと…


「安心なさい? 私を誰だと思っているの?」


頼もしい背中だ


「正義の使者、キャプテン・ハクトウワシ…だったね」

「イグザクトリー!!」


その背中が見せた決めポーズは、子供らしくもあり、羨ましくもあった



「お友達に! なってくれ!」


ありふれたピンチ 分かりやすい窮地


さっきまで諦めていた私が言えた義理も無いが

唐突に響いたブラックジャガーの言葉は随分と場違いなものだった


「…へ?」

「…ワーォ」


分からずに目を丸くするドールと、まるで愛の告白でも見かけたように言葉を漏らすハクトウワシ


だが、実際にそれだけの熱量は籠もっていたように思う


ミナミコアリクイを庇いながら、思いの丈を綴る言葉は、はぐれてしまったマレーバクにも向けられ


セルリアン達を指差し「絶対に許さん!」と意気込んでいた



「いや、普通に声をかければいいじゃありませんの…」


正論だった


意を決したブラックジャガーに向かって、真っ当に真っ向から至極当然と指摘するミーア先生


「ば、バカを言え! もし断られちゃったらどーする!? やるからには一撃でお友達に…!」

「バカはどっちのですの!? あなたのその変な理屈のせいでややこしいことにぃ!」


緊張感は何処へやら


互いの主張を曲げない二人に、ついにはハクトウワシまで笑い出す


「ふふっ…ブラックジャガーさん恥ずかしかっただけなんですね?」

「だね…ふふっ」


ドールにつられて、私も笑ってしまっていた


断れちゃったらって、今までの彼女にしては随分と可愛らしい言い方をしていた


「友だちになるって、最初はちょっとだけ勇気がいるものですよね」


最初の勇気、ちょっとの勇気


でも、それが一番重たくて…はたして、私は、そんな言葉を口にしたことがあっただろうか?

友だちといったって、なんとなくで一緒にいて、なんとなくで繋がってただけな気しかしないし


ドールちゃんは、私のことどう思ってるのかな?

それ以前に、私はドールちゃんのこと…案外と、ブラックジャガーの事を笑えないのかもしれない


「気持ちは分かるわ。そして…そうと分かれば!」

「はい!」


ドールとハクトウワシが前に出る


何がやりたいのかは予想が付いた


よくある話ではあるけれど、まさか自分が体験することになるとは思わなかった


「ブラックジャガーさん。これから私たちはこの包囲網の突破口を開きます」

「だが、それではお前たちが…」


ありきたりな押し問答、ここは任せて先にいけ


「皆さん、構いませんね?」


しっかりとしたドールの声


肩越しに振り返る彼女の瞳には決意が浮かんでいる


「異論なしですわ」「OKよ」「えーと、えーっと…お、応援のポーズぅ」


だれも反対なんてしやしない


「しかし…」と、同じ説明を嫌うブラックジャガーが一番ごねているのが、少しおかしいくらいだ


「安心して、大丈夫だから」


上手く言えたかな?


不安は残る。けど、ブラックジャガーが頷き、皆それぞれ腹を括ったようだった


「決まりですね!! 皆さん、始めましょう!!」

「了解!! オペレーションスタートよっ!」


風が吹く


飛翔したハクトウワシが急降下を開始すると、セルリアンの包囲を貫いた

さらに、ドールに続いて私たちも包囲を突き破る


「さあ、行きなさいブラックジャガー! あなたの…未来の友達を救うために!」

「ああ!」


同じ所に向かって背中を預ける私たち

マレーバクを助けるブラックジャガーを助ける為に





「未来の友達、か…」


いちいち言うことがヒロイックなハクトウワシだった


「なに? 変なこと言ったかしら?」


安心してと、私を庇ったのは強がりでもなんでもなかった

事実、呟いた私の言葉に振り返る彼女は涼しい顔をしていた


「ううん。カッコいいなって思っただけ」


その自信に素直に惹きつけられる

自分もそうなれたら良いのにって無責任な憧憬を掻き抱いて


「あなただって」


向けられたのは明るい笑顔


「そんなの、もう泣きそうなんだから私」

「でもここに居るわ…それで十分よ!」


それだけを言い残し、竜巻を引き連れてセルリアンの群れに向かっていく彼女


もう、惚れそうだった


「隊長さんっ。後ろ、お願いしますね!」

「うん。ドールも気をつけて…」


ハクトウワシに景気よく散らされたセルリアンの残りを、ドールが丁寧に片付けていく

派手さこそは譲るものの、やっぱりか確実に仕留めていく姿は流石オオカミといった感じだった


「よしっ。ミナミコアリクイちゃん、私たちもっ」

「うんっ」


そうして、せーのと息を合わせて


「「通せんぼのポーズぅ」」


取りこぼしにドール達が囲まれないように、二人で両手を広げて邪魔をする


「遊んでるんじゃありませんわ…」


まぁ、悲しいかな。主力はミーア先生なんだけど





お友達に、なりたいからだぁぁぁ!


「また言ってる」

「一撃なんじゃありませんの?」

「いやほら、マレーバクさんには今が初めてですし?」

「そうね、ノーカンよノーカン」


セルリアンの群れを蹴散らしてみれば、またもや愛の告白な場面に遭遇してしまった


だが、状況はあまり良くはない

傷だらけのブラックジャガーに、今度こそと攻撃をしかけてくるセルリアン


マレーバクを守りながらでは、上手く身動きがとれず防戦一方もそろそろ限界を迎えそうだった


「まったく、しょうがありませんわね」


意外と、先に駆け出したのはミーア先生だったりした

もしかしなくとも、溜まった鬱憤をセルリアンにぶつけるつもりだったようで


「『ややこしいから最初からそう言え』キィィィっク!!」


まあ、そうね


毎日毎日こそこそと、草葉の陰から睨まれていたら

友達以前に、闇のフレンズと噂もされるか


「うりゃぁ!」


完全な不意打ち


倒せないにしろ、ミーア先生の勢いののったドロップキックはセルリアンの体を揺るがし倒壊させるに至る


「マレーバクぅ! よかったぁ、無事だったんだねぇ」


真っ先にマレーバクに駆け寄り、再再会の包容をかわすミナミコアリクイ


「おまたせ! 大丈夫だった?」


ふわり…


ハクトウワシがブラックジャガーに寄り添うと、崩れかけた体を支えていた


「…ふん。随分遅かったじゃないか」


口では悪態を付くものの、その表情は心なしか笑っているように見える


「他のセルリアン共はどうした?」

「全部倒してきたわ。残るはこいつだけよ!」

「ブラックジャガーさんは、マレーバクさんとミナミコアリクイさんを。後は私たち『探検隊』が引き受けます」


立ち代わり、ドールが間に入ると素直に「頼む」と二人を連れて後ろに下がるブラックジャガー

まだ戦えるとか、言い出さないかと心配しただけに少し拍子抜けをして

信頼してくれたのかと、ちょっとだけ嬉しくなる


「さあ、隊長さん、ドール! ラストファイトよ! こいつを倒して、感動のクライマックスといきましょう!」

「はい!」

「うん」


さあ! 覚悟しなさい、セルリアン!


そうして前に出る二人の影をおっかなびっくり追いかける私


「正義の使者キャプテン・ハクトウワシと!」

「私たち『探検隊』が相手です!」


さあ、今日も一緒に


「「レッツ・ジャスティス!」」


バッチリ決めポーズをする二人

反面、勢いに流されて真似をしている私を、ミーア先生は見逃してくれなかった


「今更、なにを恥ずかしがってるんですの?」

「だって…」


そうね、こういうのは中途半端にやるのが一番恥ずかしいと、言われるやつだった





探検隊名簿にハクトウワシの名前を記入してページを閉じる


あの後


無事にセルリアンは倒して、アンインチホーのジャングルに平和が戻りました…◯


まだ、巨大セルリアンの行方もつかめてはいないけど…


「なんとかなった…かな?」


違うか…


何とかしてもらったかな?


ハクトウワシがいなかったらどうなっていたか、ミーア先生がいなかったら…


「ドールちゃんにも…」


助けられてばっかりだったな


うぬぼれるなと、きっと誰かは言うだろう


一人で解決できる問題だったのかって言われれば、決してそんな訳はなかったけれど


やっぱりさ…


もうちょっと上手くやれたんじゃないか? ってくらいは考えたって良いじゃない


「隊長さん?」


そんな風に一人ごちていると、ドールが顔を覗かせていた


「ドールちゃん?」


お互いに不思議そうな顔をして見つめ合っていた


「あ、いえ、なんか呼ばれたような気がして?」

「あ、いや、そう、だね…」


声に出ていたのかと、今になって気づく

気恥ずかしさを誤魔化すように頬を掻き、せっかくだからとドールを誘ってバルコニーに足を伸ばした



満天の星空


同じ星空なのに、都会ではありえないくらいに輝いている


「綺麗ですね…」

「うん…」


ドールと二人、手すりに体を預けて何となくでも星空を見上げている


何を言おうか、何から言おうか


迷い続けて、結局何も言えずにいると


「あの、それで…何かお話があったんじゃ?」


ついにはドールの方から先を促されてしまった



困った


これではブラックジャガーの事を笑えない

その場の勢いもあったにしろ、しっかりと口に出来ただけ彼女は大先輩だ


「ドールちゃん…」

「はい」


私が向き直ると、それに合わせてドールも私の方へ向き直る


それからまた沈黙…


ついには顔をみてられなくなり、目をそらす私


早く言わないと「最初からそう言え」とミーア先生に蹴り上げられそうだけど


改めて…なんてのは、やっぱり恥ずかしい



もう良いんじゃないか? 


きっとドールもそう思ってくれてるだろうし

でも、私がそう思ってるだけだったら、それはそれで寂しいとも思う


「大変でしたね…きょうは…」


まごまごしてると、ついにはドールの方から話し始めていた


「今日っていうか、もう昨日ですけど」

「うん。なんか、夜開けてたもんね…」

「ふふっ。せっかくテントまで張ったのに、放ったらかしちゃいましたし」


夜風が頬を撫でる


ゆっくりと、二人の間を流れていく


二人で思い出を出し合って、大事に大事に積み上げていく


「また、みんなでキャンプしましょうね」

「うん、出来ると良いね」


それからまた言葉が途切れる


気まずく…もないが

なにか足りない言葉を待っているような探っているような


「た、隊長さんっ!」


やっぱり先に口を開いたのはドールの方だった


だが、言わせっぱなしなのは卑怯だろう


いや、違うかな


私にだって意地はある。このセリフまで取られたくはないんだよ


「私とお友達になってください!!」


手を伸ばし、頭を下げて、恥ずかしいのは大声で誤魔化した




うつむいたのは不味かっただろうか


沈黙が重い。ドールが、今どんな顔をしているのかが分からない

かと言って、もう顔をあげる度胸も残ってはいなかった


断られちゃったらどーしよう?


そんな、ブラックジャガーの可愛い言い回しが冗談に聞こえなくなった頃


手を取られる


温かい指先が、夜風で冷えた私の手を包み込んでいく


「ドールちゃん?」


恐る恐る顔を上げる私に、ドールが笑顔でこたえてくれた


「はいっ。隊長さんっ、お友達になりましょう」


その日、新しい友達が出来ました



ーおしまいー



おまけ


お友達になれた勢いか、前々から、いやさ出会った頃から気になっていた事を口にする


「あの…頭、撫でても?」

「え、あ、はい…どうぞ?」


ふわふわと揺れるドールの髪


思っていたんだ


手を突っ込んでみたいって


ただ、そんな大胆にも慣れなくて、誤魔化すように彼女の頭に自分の手を重ねてみた


「「あ…」」


なんか変な声が出た


どちらからでもなく、お互いに、恥ずかしいんだかなんだか良く分からん声だった


触れる たてがみの柔らかさも、ぬける髪のくすぐったさも、触れる彼女の温もりを


なんども、なんども混ぜ返して


「あ、あの…隊長さん?」

「うん、なぁにドール?」

「そろそろ…」

「うん、もう少しだけ」

「はい…」






「グッモーニン! しずく!」

「あ、おはようハクトウワシ」


朝起きて、外の空気を吸っていると空からハクトウワシが降りてくる

「ひとつだけいい?」神妙に? 悪戯に? 微笑んだ彼女は口を開くなり


「私とはお友達になってくれないのかしら?」

「けっほっ」

「あはははははっ♪」


つまりはそうなのだ


私を見つけるなり、嬉々として降りてきたのはそういう事だった


まあ、あんな静かな夜に、あんな大声で、あんな事を叫んでいれば、そりゃ聞こえもするだろうけど


「き、聞いてたの?」


答えの分かってる質問を、ことさらにするぐらいには私の頭はのぼせていた

抑えようにも顔が赤くなって仕方がない


「聞こえたのよ? だって、私が寝ている屋根の下だったじゃない?」

「ああ、そう…」


あの時ちょうど、真上にいたと知らされては

むしろ、不用意に口を開いた私のほうが悪いだろう


「それで? どうかしら? しずくにとって私は ただの隊員?」

「…」


恨めしく見つめてもどこ吹く風か


断られちゃったらどーすんの? とかまるで考えてもいない顔だ


でも、それもそうか…


だって、断るつもりなんて最初から無いんだもの


「ともだちだよ…」


ならせめてもの反抗か、ぶっきらぼうに投げつけてみたけれど


「わっと?」


え、なに、聞こえないとばかりに耳を傾けてくる


いじわる め…


まあ、言えた義理でもないけどさ


なら良い。聞かせたいなら聞かせてやる


「だからっ、大好きだって言ってるでしょうが!」


これで満足かっ、やけっぱちで開いた口の言葉選びはさんざんだった


「わーお…」


まるで、愛の告白でも受けたように目を丸くするハクトウワシ

それでも、すぐに いつもの涼しい顔に戻ると、私の手をとって同じ言葉を返してくれた


「っ~~…」

「あはははは♪ あなた、すぐ赤くなるわね」

「いいでしょ…べつに…」

「おーけーおーけー」


結局、その日 一日からかわれることになってしまった


後書き

最後までお付き合い頂きありがとうございました

色々言われてはいるけれど、私は結構楽しかった


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