2020-11-18 00:30:06 更新

概要

重桜艦隊の指揮する1人の指揮官と、重桜の艦船たちによる物語。


※二次創作であるのと、ストーリーに沿ったものになっていますが、作者はマウントも出来ないでき損ないゴリラなので普通に頭が悪いです。見苦しい点があるかもしれませんがご了承を。オリキャラも登場します。


ーー注意ーー

この作品は、アズールレーンの二次創作です。
すべてフィクションであるため、実際の団体や地名等とはなんら関係ありません。

また、個人の妄想の域を出ない作品なので、キャラ崩壊や設定崩壊、適当な世界観等を容認頂ける方のみ、作品の視聴をお願い致します。

PS4のクロスウェーブをプレイしていたらふと思い付いた作品なので、若干作品のネタバレも含まれます。ご注意を。

主に重桜艦隊の話になるので、ロイヤルやユニオン等の登場は未定です。(敵としては出てくるかもしれませんが)


前書き



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

世界観について


基本は本家のものですが、作者が満足に理解していないので憶測で語る所もあります。

本家では三笠、長門、大和と指揮権が譲渡していますが、この世界では戦闘などの指揮権を指揮官が。指揮官よりも上の権力を長門が、さらに上の重桜艦隊の全てを決定する "重桜国家" が権力を持っています。

が、長門は重桜の分裂が再びあってはならないと、自分の権力を指揮官に譲渡しています。





ーーーーーーーーーーーーーーー






以下、当作品の主要人物の相関

指揮官 : 重桜艦隊を率いている指揮官。面倒くさがりでゆるーい人だが、一応仕事はしっかりするので、周りからの評価はそれなりにある。

重桜がアズールレーンから離反した際には、重桜を元ある形に戻すために相反し、アズールレーン側に着くものの、瑞鶴や三笠らと共に新生重桜艦隊を率いて、敵対していた重桜艦隊の面々を懐柔していく。レッドアクシズ側であるものの、立場としては中立を保とうとしている。

重桜艦隊の創立当初から率いているので、三笠や長門との交流も深いが、本人は2人を尊敬しているので、指揮官といえど態度は融和しないようにしている。そんな彼にも多くの秘密が・・・。




赤城: いつも指揮官の傍らにいる第1秘書官。分裂した重桜を率いた経験もあるので、指揮官と共に艦隊を取り締まるリーダー的存在でもある。指揮官が絡まなければ基本真面目だが、彼を前によく暴走したりする。





加賀 : 第一秘書は赤城だが、よく一緒にいるからと赤城の補佐を頼まれる苦労人ポジの人。

本来は赤城以外の人がいる前では姉様呼びは控えるが、指揮官の前や一部の者の前では普通に姉様呼び。これは指揮官から「普段通りでいい」という言葉を受けたからによるもの。






長門 : 重桜の神子。重桜を導き、指揮する立場だが、指揮権を全て指揮官に譲渡して、社での生活が主になっている。

指揮官が尊敬する人物の1人であり、指揮官からは「重桜の民としてのけじめ」として、 "御狐殿" と呼ばれているが、本人は快く思っていない。





三笠 : 前線を引いた身だが、瑞鶴らと共に新生連合艦隊を結成し、指揮官と共に重桜を元通りにするために戦った軍神。

指揮官が尊敬する人物の1人であるため、指揮官からは軍神殿と呼ばれていたが、三笠は快く思わない。お互いで折り合いをつけて、不満ではあるものの、今では姉 (あね) さんと呼ばれることで納得している。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





ーーーーーーーーーーーーーーー









この世界は、『カノウセイ』の積み重ねで出来上がっている。だがそれは、定命の者が年を取っていくように、目に見えるモノではない。


しかし、いま現在この場所で俺が彼女らと共にしていることを考えれば、自ずと理解できてしまうのだ。決して交わることのなかった運命が交わってしまったのだから。


彼女らは俺と違う道を選んだ。それは、二度と交差することのない片道のレールである。俺と彼女らはただ、離れていく事しか出来なかった。


だが、ある日、俺は "彼女"と出会った。決して交わることない筈だった2人が『カノウセイ』という、未知で不確定な力に導かれ、こうして共にしている。


きっと、彼女らと道を違える事がなければという『カノウセイ』が、いま、俺と彼女らを出会わせたのだろう。




指揮官「俺はこの『カノウセイ』に全てを賭けてみたい。どんな未来が訪れるのか、楽しみで仕方がないからだ・・・っと」カキカキ



指揮官「さぁて、日報も書き終わったところで眠るとしますかねぇ・・・」


赤城「熱心に何かをお書きになられていたようですが、それはもしかして、赤城へのお手紙ですか?」ガチャリ


指揮官「・・・いつも言っていることだが、ノックの1つや2つはするべきじゃないのか?」


赤城「もう、私は既に2度も3度も行なっているのに、返事もして下さらない。指揮官様は赤城の事をどう思っておいでなのですか?」


指揮官「ああそれはすまなかったな。じゃあ改めてお詫びに伺うから部屋で待っていてくれ」


赤城「指揮官様が赤城の部屋に!? あぁ! 赤城は嬉しさの余りにどうにかなってしまいますわぁ! 支度を済ませておきますので、早くお越しになって下さいませ~」ガチャ バタン



指揮官「はいはい楽しみにしておくよ」


加賀「・・・・・」


指揮官「ん? 何か用か?」


加賀「いや、私はこれといった用はない。だが・・・」


指揮官「あぁ・・・、赤城に着いてきたものの、俺の話に浮かれた赤城に置いていかれた。そんなところか?」


加賀「・・・あまり、赤城を雑に扱って欲しくないものだ。あんな艦船 (ヒト) でも、私にとってはかけがえのない存在だからな」


指揮官「分かってるよ。じゃなきゃこうして話すら聞かないさ」


加賀「・・・そうか」


指揮官「そうさ。お前も来るのか?」


加賀「そうだな。どのみち目的地は同じだからな」


指揮官「それじゃあ行きますか。鍵閉めて行くから忘れ物とかするなよ?」


加賀「・・・その気づかいを赤城の前でしてくれれば、私も少しは気が休まるのだが?」


指揮官「はいはい。善処しますよ」





こうして、新しい『カノウセイ』に導かれて、俺は再び、重桜の指揮官としての道を歩み始めたのだから。






・・・・・







指揮官「ふぁ~あ。眠い眠い。眠くて何もする気がないわぁ~」


指揮官「大体、セイレーンが来たところで別に追い返すわけでもなし、情報を渡すでもなし、俺はただのお飾りのポジションだしぃ~」


指揮官「寧ろそういうのはお偉方がやることであって、俺がどうこうできる問題でもないしぃ~」


指揮官「外交とかもぶっちゃけダルいんだよなぁ~。まあ鉄血とかヴィシアならまだ融通利くけどさぁ~」


神通「そのお話、円卓に皆を集めてまでするべきものではないと思われますが?」


赤城「そこまで気を揉んでいらっしゃるなら、後で私が幾らでもお付き合い致しますわ。ふふふ・・・」


加賀「・・・指揮官、姉様も、真面目にやってください」


高雄「指揮官殿、このような事を話されるために、拙者たちを集めたわけではなかろう」


愛宕「余り怠けるなら、きつ~いオシオキが必要かしら?」


指揮官「はいはい、じゃあぼちぼちやりますか・・・今回の議題は、レッドアクシズ、アズールレーン両陣営の対談において、我々重桜は参加するか否かって問題」


指揮官「まあ、本来は上のお偉いさんが決める事なんだが、何でかこっちに決定権が回って来ちまったんだなぁ。どうするかね?」


神通「確かに・・・難しい問題ではありますが・・・」


赤城「指揮官様は、どのようにお考えなのかしら?」


指揮官「俺は出来れば行きたくない。だって、言葉通じないし」


加賀「・・・少しくらいは覚えて行けばいいのでは?」


指揮官「それが出来たら苦労せんでぇ。ただでさえ仕事多い上に増やされちゃあ敵わねえや」


愛宕「あら、指揮官さっきまで駆逐艦の子達と遊んでたじゃない」


指揮官「ばっ、お前! なっ・・・何を言っているのかわかりませんなぁ・・・あはは・・・」


高雄「確か・・・綾波と部屋で何かをしていと記憶しているのだが?」


長門「なんと・・・破廉恥な・・・!?」


指揮官「待て待て待て!! 誤解だ誤解!!」


赤城「し・き・か・ん・さ・ま?」ゴゴゴ


指揮官「あ、赤城? ほら、これはちょっと周りの言い方が悪いだけで俺は決して疚しい事をしたわけでは--」


赤城「ええ、分かっていますわ。あ・ち・ら・でゆっくり聞かせて頂きます。うふふ♡」ズルズル


指揮官「おい、ちょ、どこに連れてく気だ!?」ズルズル


赤城「もちろん、赤城と指揮官様の愛の巣ですわ♡ フフフ♡」


指揮官「ま、待ってくれ! まだ会議中だろ!? まだまだ決議にも至っていないのにこんなことをするなんてのは些か宜しくないと思うのだが」


指揮官「かっ、加賀! 助けてくれ!神通! 高雄!! 愛宕!! 御狐 (みこ) 殿ぉ!!!」


赤城「指揮官様? あなたの側に居るのはこの赤城なのに、どうして他の女の名前を呼ぶの? 赤城の事が嫌いなの? ねえ指揮官様!!!」ガシッ


指揮官「痛たたたっ!! ちょっ、爪を立てるな爪を!」


加賀 (なぜこうも姉様の地雷を踏み抜くようなことをするのだろうか?)


赤城「私の愛は無限大よ。ふふ、うふふ、アッハハハ!」バタン


長門「あ、相変わらず・・・その・・・いつもと変わらぬな。赤城も・・・」


加賀「長門様、申し訳ありません。あの2人はいつもあの様なもので・・・」





チョットマッ・・・アーッ!!


シキカンサマァ♡ シキカンサマァァァ♡





加賀「あっ、あのような・・・\\\」


高雄「何故だろうか、この光景に慣れてしまった拙者を称賛する拙者と自身を律せよと訴える拙者が居るように感じてならないのだが」


愛宕「高雄ちゃ~ん? また変なこと言ってるわよ~?」


長門「落ち着け高雄よ。余も未だに慣れぬ・・・」


神通「これで今日中に終わるのかしら・・・」ハァ



-約20分後-




赤城「ただいま戻りましたわぁ♪」 ツヤッツヤ


指揮官「・・・・・・・」 シナッシナ


愛宕「あらあら、指揮官、大丈夫?」


指揮官「・・・ぁぁ、だぃじょうぶさ・・・ははは」


神通「指揮官、このまま続けてもよろしいでしょうか?」


指揮官「そうか・・・まだ・・・途中だったな」 ハハハッ


加賀「・・・取り合えず、何か飲み物を淹れて来よう。指揮官、何がいい?」


指揮官「あぁ・・・出来れば・・・コーヒーが良いかな・・・」





-数分後-






加賀「お待たせしました。姉様」 コトッ


赤城「あら、ありがとう」


加賀「指揮官、ここに置いておくぞ?」 コトッ


指揮官「うん・・・ありがとう・・・ブラックだね」


指揮官「ブラックはいいよぉ・・・苦いものは良い・・・さっきまで甘かったから・・・甘くて苦くて・・・苦いものはいいなぁ・・・。すっきりするもんな・・・」 ゴクッ


高雄(かなり言動が不明瞭ではないか?)


神通「・・・それでは、全員が集まったので、再開させて頂きます」


愛宕「このまま続けるのぉ~?」


長門 (神通、お前の肝の大きさに、余は感心するぞ・・・)







・・・・・





神通「--ということで、重桜は今回の会談には不参加の意思を表明することに致します」


赤城「正直、それが妥当なところだと思いますわ」


愛宕「鉄血やヴィシア、サディアの動向を伺うというのも一つの手ではあるけど」


高雄「主催がユニオンである上に、サディアは決して参加しようとはせぬだろう」


加賀「そもそも、時期が余りに遅すぎる。有益なものではないだろう」


長門「・・・」


指揮官「・・・」ガタッ


赤城「指揮官様?」


指揮官「・・・御狐殿。あなたのお気持ちは分かっているつもりです。ですが、今となっては遅すぎるのです」 スッ


長門「し、指揮官、御狐は止せとあれほど言っておるのに・・・しかも膝を着くなど、指揮官にあるまじき姿だと--」


指揮官「お叱りはごもっともですが、これは俺なりのケジメのつもりです。俺にとってあなたはかけがえのないお方ですから・・・」




高雄 (何というか、人が変わりすぎておらぬか? 先程までだらけていた指揮官だとは思えぬのだが・・・) ヒソヒソ


愛宕 (いろいろと搾り取られて素が出てきたんじゃない?)ヒソヒソ




長門「だからって・・・。余はただの艦船で、そなたは艦船を率いる存在・・・。そのような者が一艦船にひれ伏すなど・・・」


指揮官「俺も、御狐殿と同じように、争いは好みません。ですが、いま事を起こせばこの戦争は苛烈さを増すかもしれません。どうか・・・」


長門「・・・わかっておる。余とて、情勢くらいは心得ておる。あと、御狐は止せといつも言っておろうに・・・」


指揮官「・・・善処しましょう。それでは、今回の会議はこれにて解散ということで。各自あとは好きなように過ごしてくれ」


神通「それでは、解散と致しましょう」




・・・・・





指揮官「あぁ~、つっかれたぁ~」 グデー


加賀「・・・少しは襟を正して欲しいものだが?」


指揮官「もう無理~、疲れた~。加賀~、甘やかしてくれ~」


加賀「・・・もう一度姉様に搾りとって貰ったらどうだ?」


赤城「あら、私を"あばずれ"にするつもりなのかしら~?」


加賀「っ!? い、いきなり出てくるのは止めてください!」 ビクッ


指揮官「よし! 加賀、仕事をしよう! 今日は何かあったかなぁ?」


赤城「指揮官様? この赤城を頼って頂いても宜しいのですよ~?」


指揮官「もちろん頼りにしているさ。秘書艦殿」


赤城「はい~、お任せくださいませ~」 ニコニコ


加賀「では、私も微力ながら助力しよう。まずは--」








・・・・・








指揮官「--よし、これで良いだろう。次は?」


赤城「はい、艦隊の資源管理の書類ですわ」


指揮官「・・・燃料はまあいいとして、資金の巡りがおかしくないか? 何でこんなに支出の方が多いんだ?」


赤城「・・・さあ? 何故でしょうか?」



赤城 (し、不知火から蔵王製の艦載機を大量購入したからなんて、口が裂けても言えませんわ・・・)


指揮官「にしたってかなりの額が減ってるんだなぁ・・・」


赤城 (しかも、全て指揮官様の名義で購入したもの・・・。赤城の強さに惹かれて貰おうという魂胆なのに、思わず衝動買いしてしまった浅ましさに心を痛めつつ・・・)


指揮官「あっ! そうだそうだ、艦載機を増強しようと思ってたんだ。赤城?」


赤城「はっ、はい!?」


指揮官「艦載機を不知火や明石の所から見繕って欲しい。出来れば蔵王製がいいんだが、無いようならば他の物でもいい」


赤城「そ、それでしたら、赤城が既に用意しておりますわ」


指揮官「ん? 何で?」


赤城「指揮官様のお考えなら、赤城は全て分かっておりますわ。こちらがその明細です」


指揮官「どれ・・・・んー、まあ、これで良いか。で、どうして事前に艦載機を手配していたんだ?」


赤城「で、ですから、指揮官様のお考えなら赤城は--」


指揮官「そうかそうか。俺はこんなにも赤城の事を信頼しているのに、それに背くようなことをするのか。悲しいなぁ。指揮官は悲しいなぁ・・・」


赤城「そ、そんなことを言われましても・・・」アタフタ


指揮官「そうか。じゃあ死のう」ガタッ


赤城「指揮官様!? 」


指揮官「赤城が俺のことを信用してくれない~!!」 ダッ


赤城「し、指揮官様~! お待ちになって~!!」 ダッ





・・・・・




瑞鶴「翔鶴姉、私ね、最近こっちに戻ってきて良かったかもって思うんだ」


瑞鶴「もちろん、始めは不安もあったよ? 出奔した私を迎えてくれるなんて、思ってもみなかったし」


翔鶴「そうねぇ。昔は、先輩たちも随分と荒れていたし・・・」


瑞鶴「うん。でも、指揮官が来てくれて、重桜は一つになれた・・・んじゃないかなって思う。三笠大先輩からの後押しもあったから、私はここに居られる」


瑞鶴「そう思ったらさ、私が重桜を出ていったのも、間違いじゃなかったのかなって」


翔鶴「そうねぇ。でも・・・」


指揮官「赤城がぁ~!赤城が俺のことを信用してくれない~! 死んでやる~!!」 バタバタ


赤城「指揮官様ぁ~! 待ってください~!」 ハアハア



翔鶴「指揮官も、あんな感じなのよねぇ」


瑞鶴「あっちゃ~・・・また面倒そうなことになっちゃってるね~」


翔鶴「少し邪魔してみようかしら? 足を引っ掛けたり」フフッ


瑞鶴「多分、命の保証がないから止めた方がいいと思うな・・・」






・・・・・





赤城「何てこと・・・指揮官様を見失うなんて・・・」 ハァ…ハァ…


赤城「指揮官様ぁ~・・・どちらに居られるのですかぁ・・・」


三笠「指揮官なら、先ほど明石の所へと向かっていたぞ? 全く、廊下を走るなと皆に号令している立場の者があの様子では示しがつかぬ」


赤城「あら、三笠殿・・・。ご助言感謝致しますわ・・・指揮官様ぁ~!」 ダッ




・・・・・




指揮官「おーい、明石ぃー! 居るかぁ?」





シーン





指揮官「誰も居やしねぇ・・・。一体どこをほっつき回って--」


不知火「何かご用でしょうか?」ヌッ


指揮官「うぉっほい!? おい! いつもいつも言ってるけど、後ろからヌルッと出てくるなよ!! 今は明石いないの?」


不知火「明石は今朝出撃なさったのでは? 第3艦隊に編入したのはご自身であるのにお忘れになられるとは、お歳ですか?」


指揮官「お前なぁ!!」


不知火「恐れ入りますが、工廠では音が反響するのでお静かにお願い致します」


指揮官「っ・・・だあぁぁぁ!! もういい! ・・・今日、赤城が艦載機を幾ばくか買っていかなかったか?」


不知火「申し訳ございませんが、商売人として、顧客の情報を第三者に流すのはご法度で御座いますゆえ」


指揮官「ほう、実は帳簿の数字との誤差があってな。事と場合によっては軍法会議物だが?」


不知火「それは、妾の預かり知らぬ所です。こちらの発行する書類に不備はございませんから」


指揮官「・・・はぁ、わかった。お前には負けたよ。元々は別の理由があった訳だしな。実は艦載機を幾つか見繕って欲しくてな」


不知火「艦載機でございますか。少々お値が張りますが、よろしいでしょうか?」


指揮官「構わん構わん。設計図でも何でも、取りあえず艦載機に纏わる品なら買わせて貰う」


不知火「左様ですか。それでは、何か希望の物は御座いますでしょうか?」


指揮官「そうだな。取りあえず蔵王製が望ましい。無理ならクラップ社でも何でもいい」


不知火「では、蔵王製のものを手配致しましょう」


指揮官「それと、赤城が買っていったもの以外で頼むぞ」


不知火「かしこまりました。・・・・・・あっ!」


指揮官「おいおい、顧客の情報は厳守じゃなかったのか?」


不知火「い、1ヶ月前にも、赤城さんはご購入されて行きましたので・・・」


指揮官「1ヶ月前に "も" か。なるほどなるほど」


不知火「そ、それは揚げ足取りでは--」


指揮官「どうせ商品の目録も、購買の履歴も正式な書類としていつかは上がってくるんだ。早い内に認めておけって」


不知火「・・・参りました。確かに買って行かれました」


指揮官「その時に何か言っていたか?」


不知火「それは--」 ヒソヒソ










赤城「指揮官様ぁ~! やっと見つけましたわぁ~」



指揮官「おっ、やっと来たか。なんだ、会議の前に俺に良いところを見せたいって、不知火の所から勝手に艦載機を買っていったそうだな?」


赤城「な、何のことでしょうか?」


指揮官「ああ、別にしらを切るならそれでもいいが、無断行為は厳罰に値するわけだ」


赤城「赤城は、指揮官様のことを思って--」


指揮官「だとしてもだ。一人の勝手な振る舞いが、集団の輪を乱すこともある。・・・お前なら十分わかるよな?」


赤城「・・・・・・」 シュン


指揮官「そして一人の勝手な振る舞いを認めれば、他の者に示しがつかないのもわかるよな?」


赤城「・・・・・はい」


指揮官「賞罰はしっかりと。それが俺のモットーの1つだ。なら、今からお前がどうなるかわかるよな?」


赤城「・・・・」


指揮官「赤城、歯ぁ食いしばれ!!」


赤城「っ!!」 キュッ





指揮官「--ていっ!」 デコピン


赤城「痛い!? えっ!? 」 ポカーン


指揮官「なーにが良いとこ見せたいからだよ。お前のことなんざ、こーんなちっせぇときから相手してるっつうの」


指揮官「だから、俺の前でくらい、変に取り繕うとするな。お前の良いところなんざ、数えきれないくらいあるんだからよ」


赤城「指揮官様・・・」



指揮官「 ま、罰として明日の秘書艦は加賀に変更だな」 ワシャワシャ


赤城「・・・もう」 フフッ




パシャッ パシャッ




指揮官「ん?」


赤城「あら?」


青葉「よっしゃ! 特ダネゲット! 邪魔物は退散!!」 ダッ


指揮官「あ、青葉てめぇ! 待ちやがれ!!」ダッ


青葉「待てと言われて待つブン屋がいるかって話ですよー!!」 ピュー


指揮官「てめえその写真記事にしてみろー! 絶対に許さねぇからなぁぁ!!」ピュー



不知火「追わなくて宜しいのですか?」


赤城「えぇ。あのまま放っておけば・・・フフフッ」ニタァ


不知火「これは新しい悪知恵・・・いや、止めておきましょう。我が身一筋でありますゆえ」




・・・・・






指揮官「・・・・暇だな」



赤城「ですわねぇ・・・」



加賀「・・・・・・」



指揮官「・・・何か甘いものでも食べるか?」



赤城「・・・出来れば、コーヒーを口にしなくても食べられるものがいいですわぁ・・・」



加賀「・・・・・・」



指揮官「・・・・お前まだコーヒー飲めないのか?」



赤城「あら? あのような泥水を飲むなら海水か醤油を飲んだ方がまだ・・・・」



加賀「・・・・・・」



指揮官「・・・不知火が、上等な玉露が手に入ったとかいって幾らか寄越してくれたな」



赤城「あの守銭奴が・・・珍しいこともあるのねぇ~」



加賀「・・・・・・・」



指揮官「・・・・・・あんみつでいい?」



赤城「・・・・いただきますわ」



加賀「・・・・・・・・・・・・・・・・・」



指揮官「なぁ、そろそろ許してやったらどうだ?」


赤城「・・・・何がですか?」





指揮官「・・・・・・何で加賀はお前の椅子にされてんの? 俺さっき暇とか言っちゃったけど、だいぶ大事だぜ?」


加賀「・・・・・・・指揮官、それはだな--」


赤城「椅子が口答えなんて随分な態度じゃない? 大人しく四つん這いになってなさい」



加賀「っ・・・・・・・・・」




指揮官「ねぇ、俺マジで何を見せられてんの? すっげぇ気になるんだけど」


赤城「まあ、大したことでは御座いませんの。長門様のおやつをこの白狐が奪っただけのことですから」


指揮官「・・・・代償が破格じゃないか? 御狐殿も少しは折れろよ」


指揮官「んで、お前はもうちょっと抵抗しろよ! 何でいいなりになってんだよ! 一航戦のプライドを持てよ!」





加賀「・・・・・・・」




指揮官「お前ほんとに頑なだな。すげぇよ。尊敬するよ、ある意味で」



赤城「長門様のいる手前、このような暴挙に出るしか手はありませんもの」



指揮官「暴挙っていう自覚はあるんだな。少しほっとしたわ。て言うか、菓子の一つや二つなら俺が買ってやるからさ、勘弁してやれよ」



加賀「・・・・・・実は、それが三笠大先輩からの頂き物とは露知らず・・・・」



赤城「私の言うことが聞けないの? 椅子は大人しく四つん這いになってなさい」



指揮官「お前・・・・ほんっとうに容赦ないな。敵に回って欲しくないタイプだとつくづく思うよ。まあ、実際回ったけど」





・・・・・




指揮官「--という訳なんですがね」


三笠「ふむ、大体のことは理解した。3人とも、頑なな性格をしておるからな。さぞ面倒をかけたことだろう」


指揮官「いや、別に面倒ってわけではねぇですけど。ただ、加賀はいたたまれないし、御狐殿も納得していただけねぇし、赤城も赤城で板挟みだしで、もうどうしてよいやら」


三笠「今回のこと、我にも責任の一端はあろう。指揮官、長門達と少し話したい。諸々の手配を手伝っては貰えぬだろうか?」


指揮官「もちろん! 姉さんの頼みとあっては断る筋合いはねぇし、何より加賀がもう目も当てられなくて・・・」



三笠「うむ、助かるぞ。それと、我のことは三笠と呼べと昔から言うておるだろうに・・・」


指揮官「これでも妥協した方なんですがね。本来ならこんなタメ口なんか使えねぇし、姉さんなんて呼ぶのさえ烏滸がましい。あなたは重桜の軍神様であり、俺を含めた皆の憧れでも有るんですから」


三笠「重桜の未来は若人達に委ねた。大昔の遺恨にすがっては、重桜の栄華はない。だから我は長門に全てをだな--」


指揮官「わかってますよ。それじゃあ、すぐにでも手配しますんで」


三笠「うむ、よろしく頼むぞ」





・・・・・





赤城「・・・・・・・」




指揮官「・・・・・・・」




加賀「・・・・・・・」




指揮官「・・・・・・何とか許して貰えたな」




赤城「・・・・・・はい。何とかですけど」




加賀「・・・・・・本当に、申し訳ないことをしました」




赤城「・・・・・・謝罪より、感謝の方が先でしょう?」




加賀「・・・・・・・指揮官。本当に感謝している。それと、お手を煩わせたこと、申し訳ない」




指揮官「・・・・・・別に、気にすんな」




赤城「・・・・・・・」



加賀「・・・・・・・」



指揮官「・・・・・・・あんみつ、食べるか?」




赤城「・・・・・・・頂きますわ」




加賀「・・・・・・・ご相伴に与るとしよう」




指揮官「・・・・・・・じゃあ、用意してくるから少し待ってな」 スタスタ




加賀「・・・・・・姉様。何故、三笠大先輩があの場に来られたのか。あまりにも不自然です」


赤城「ふふっ、指揮官様がお呼びになったのよ」


加賀「指揮官が?」


赤城「そもそも、あんなつまらない争いに、指揮官様は関与するはずが無いわ。『自分達で解決しろ』って、はね除けるはずよ」


赤城「それでも指揮官様が手を尽くしてくれたのは加賀、あなたの為よ?」


加賀「私の・・・・・・?」


赤城「指揮官様の前で、あなたをあのように扱えば、指揮官様は居ても立っても居られないもの。必ず動いて下さるわ」


加賀「・・・・・・だから、長門様の前であのような事を言ったと?」


赤城「ええ。それに、長門様もさほどお怒りではないもの。まあ、始めのうちはそうではないかもしれないけど」


赤城「それに、指揮官様から加賀がこんな目に遭っていると長門様にお伝えすれば、私が実際に行動に移したという信憑性も高まるわ」



加賀「・・・・・・そういうことでしたか。これで私も合点が行きました」




赤城「・・・・・・本当にお優しいお方。初めてお逢いした時からずっと・・・・・・ずっと・・・・・・・」



加賀「・・・・・・・・・そうですね」






加賀 (・・・・・・・姉様。あなたは・・・・・・・・・)






・・・・・






ーー母港 噴水前ーー




指揮官「ここ最近、冷えてきたなぁ」 ヨッコイショ


赤城「最近は季節がおかしくなってしまいましたからねぇ」


加賀「とはいえ、昔と比べれば遅すぎる寒さだがな」


指揮官「はぁ、いやだねぇ四季を感じないのは。重桜の魅力の一つが失われていく感じがして」ヤレヤレ


加賀「その魅力にいちいちケチをつけるような奴が、どの口でそれを言うのか」


指揮官「だって暑いもんは暑いし、寒いもんは寒いだろ。はぁ、春と秋だけが交互に来れば良いのに」


赤城「夏と冬があるからこそ春と秋があるのではなくて?」


指揮官「それもそうなんだよなぁ・・・」


加賀「・・・結局、この話は平行線のままで終わってしまうのだな」


指揮官「決着が着かない話題ランキング第3位だな」


赤城「・・・それは誰が作られたランキングなのですか?」


指揮官「・・・俺」


加賀「・・・・・・」


赤城「・・・・・・」


指揮官「・・・・・・」


加賀「・・・そういえば、ロイヤルやユニオンでの行事が重桜にも渡ってきて、駆逐艦達の間で話題になっているとか」


指揮官「あぁ、ハロウィンって奴かな。元々は日本のお盆みたいなやつなんだが、こっちに渡ってきたのは仮装やらがメインになって、まあ俺らには無縁な行事だなぁ」


加賀「なんでも、子供たちが大人のもとを訪れてお菓子をねだるのだと」


指揮官「もともとの行事には魔除けの意味合いがあるから、それを子供達が大人に知らしめる・・・という意味なのかは知らんがな」


赤城「物騒な世の中ねぇ。私たちも準備した方が良いのかしら?」


指揮官「まあ、俺が禁止と言えば禁止になるし、別の事をやらせてもいいんだが、娯楽もあまりないからなぁ。少し位は容認してやりたいと思ってる」


赤城「それでは早速準備を致しましょうか?」


指揮官「まあ、とっくの前に終わってしまったけどな。俺が子供の頃は聞いたことすらなかったから、時代の流れを感じるよ」


加賀「・・・それ、何年前の話だ?」


指揮官「・・・・・・」


加賀「・・・・・・」


赤城「・・・落ち葉が増えてきますわねぇ。お掃除するのも楽ではないというのに」 チラッ


指揮官「それじゃあ、集まった落ち葉で焼き芋でも作るか。といってもまだまだ先だけど」 チラッ


加賀「・・・・・・はぁ。分かった、分かりましたよ。2週間後にでも上物を取り寄せられるようにしておきます」


赤城「あら、ありがと」


指揮官「多く取り寄せとけ。余ったらスイートポテトなり大学芋なり作るさ」


加賀「・・・それは全て誰が作ると思っているのだ?」


指揮官「俺が作るつもりだったけど? なに?手伝ってくれんの?」


赤城「もちろん赤城も♡」


指揮官「おっ、助かるねぇ。といってもまだ先の話だけど」


赤城「また楽しみが増えましたわ~」


加賀「・・・・・・」


指揮官「・・・仕事始めるか」


赤城「では、赤城も秘書としてお手伝いを」


指揮官「いや、今日はいい。たまにはゆっくり休め」


加賀「なら私がーー」


指揮官「お前はもっと休め。残業手当を支給する見にもなれ」


赤城「残業手当なんて頂いたことあったかしら?」


指揮官「いや、言ってみたかっただけ」


加賀「・・・・・・」


赤城「・・・・・・」


指揮官「なんだよ、ちょっとした冗談じゃないか。さてさてぼちぼち始めるかぁー」ヨッコイショ


指揮官「あぁそうそう、夕方から冷え込むらしいから風邪引くなよ?」


加賀「それを私たちにいうのか・・・」


赤城「指揮官様のお気遣い、心より感謝いたしますわ~」フフッ


指揮官「それじゃあ先に戻ってるからな~」ヒラヒラ


加賀「・・・・・・」


赤城「・・・・・・」


加賀「・・・戻りますか?」


赤城「・・・ねえ加賀? 私たちにこんな平穏が待っていたなんて、誰が想像できたかしら?」


加賀「姉様・・・? 突然どうされたのですか?」


赤城「だってそうじゃない? 人類を裏切った私たちが、こうして指揮官様の元に集まって、人類の為に戦おうとしている。滑稽じゃない」


加賀「・・・後悔されているのですか?」


赤城「後悔? いいえ。後悔なんてしていないわ」


加賀「・・・そうですか」


赤城「そうよ」


加賀「・・・そうですね。私も、後悔はしていません。人類を裏切ったことも、指揮官の元に集ったことも。姉様と共にあっての私ですから」







ーーもしこれが、カミの采配だとすれば、なんと惨たらしいものなのだろうか。





ーーあいつは一体、いつまで縛られなければならないのだろうか・・・






ーーあいつにはもっと、別の「カノウセイ」があった筈なのに・・・・・・






・・・・・





指揮官「あっ、そういえば、近々あいつらがこっちに戻ってくるらしいぞ?」


赤城「あの2人ですか? 重桜を出奔したあの五航戦と同じように、彼女達も・・・・・・」


指揮官「まあ、そういうなって。ようやくこっちで居場所を特定できて、迎えに行かせてるんだから。その割には到着がかなり遅れているがな」


加賀「その案内役から送られた連絡だ。『航路を迷った』と」



指揮官「・・・・・・・やっぱあの2人に行かせたのは間違いだったかぁ~」 アチャー



赤城「確か・・・金剛と山城だったかしら?」


加賀「まあ、重桜も大所帯になった。古くからいたもので、彼女達を知るものもそう多くはない」


加賀「高雄と愛宕に向かわせるのが最もだが、あの2人には別の仕事があった。あの状況ではこれが最善だと納得して決めたことだろう?」


指揮官「まあ、それはそうなんだが・・・。破天荒なあいつらを2人が押さえ込めるのかと言われれば・・・・」 ウーン


赤城「・・・・・・」





コラー!!! ロウカヲ ハシルナー!!




スミマセン!! アトデキツクシ カッテオクノデ




ハヤクハヤク-!! マイリマショウゾー!!!





指揮官「おっ? 来たか?」



島風「駆逐艦島風! ただいま重桜に帰投致しましたー!!」 バターン


駿河「あぁ、こらまた勝手に・・・・。戦艦駿河。同じく重桜艦隊に帰艦しました」 バタン


指揮官「よっ! 久しぶりだな。変わりはないか?」


島風「はい! 指揮官も益々の・・・ますますの・・・」 チラッ


駿河「御健勝」 ボソッ


島風「そう! 益々の御健勝のこととお喜び申し上げます!!」 ビシィ


指揮官「あっははっ! 相変わらず仲のいいやつらだ」


島風「はい! 駿河殿には沢山助けていただいてます! 島風にとって憧れのひとで、大切な友人ですから!」


駿河 (まったくこの子は臆面もなく~!)


指揮官「ははっ! だ、そうだ。憧れの駿河さん?」


駿河「やっ、ちょっ! 茶化さないでください!」 アタフタ


赤城「し・き・か・ん・さ・ま?」 ゴゴゴ


指揮官「おっと、本題に移らないとな。単刀直入に言う。2人とも、俺の元に来る気はないか?」


島風「?」 クビカシゲ


指揮官「まあ、知っての通り重桜は一度分裂した。そこからなんやかんやあって、何とかここまで持ち直した」


駿河「まあ、話だけは聞いていますけど・・・・」 (なんやかんやの部分が大切なんじゃないんですか!? そんなあやふやな認識でいいの!?)


指揮官「別に俺だけの力じゃないさ。御狐殿や軍神殿、多くの者に助けられた。だが、まだ完璧じゃない。俺の望む重桜の姿には程遠い。だからお前達にも力を貸して欲しいんだ」


駿河 (まあ、今の話のなかでは大して重要じゃ無いってことなんだろうけど、でもなんか気になるー!!)


島風「指揮官の望む重桜の姿って、どんなものなんですか?」


指揮官「んー・・・みんなが自由に笑って暮らせる世界・・・とか? 大切な人と死ぬまでずっと一緒に過ごせる世界とか? 争いが無くなって、誰も悲しむことがなくなる世界って言うのかなぁ? なんかそんな感じ?」



駿河 (また何か曖昧な物言いだし。自分の信念なんだから堂々と言ったら良い--)



島風「だったら! 島風は駿河殿とそんな世界で過ごしてみたいです! 買い物したりー、ごはん食べに行ったりー、色んな服を着て、色んな事をしてー」


指揮官「そうそう。そういう重桜にしたいんだよ。・・・確かに、伝統があるからこそ大切にするのも分かるし、それに従うことも悪いことじゃないさ。だけど、やっぱ生きるなら楽しくないとね?」


駿河「ま、まぁ、分からなくはないですけど・・・・ (全然聞いてなかった・・・、適当に相槌打っておけばいいか)」


指揮官「まっ、そんな話をしても、俺には何の力もないから、そんな幻想は絵に描いた餅だ。でも、君たちだったらその餅を絵から取り出せる」


指揮官「そのために君たちの力を貸してほしい。利用させてほしいと言ったら、怒るかい?」


島風「・・・・・・・」


駿河「・・・・・・・」


指揮官「・・・・・・・えっ? 無視!?」



赤城「指揮官様のお話が長過ぎて飽きてしまったんでしょうねぇ」


指揮官「おっ、そうか。じゃあ後でお前に罰を与えるわ。懺悔を済ませとけよ」


加賀「・・・・・指揮官、ほどほどにな」


島風「取りあえず、島風たちも重桜に合流して、指揮官殿の望みを叶えるために手を貸して欲しいってことですよね!?」


指揮官「そゆことそゆこと。どうかな?」


島風「勿論! 指揮官殿に協力させていただきます! 外洋で色んなものを見てきましたから、何か力になれるはずです!! 駿河殿も、賛成ですよね!?」


駿河「まあ、私はどちらでも。別に飼い殺しにされても構いませんけど・・・」


指揮官「飼い殺しとは穏やかじゃないねぇ」


駿河「先程の『なんやかんや』の部分を詳しくお話願いたいものですね」


指揮官「あー・・・・まぁ、それは別の機会にーー」


駿河「いいえ! 今です!!」


指揮官「えー・・・まあいいか。取りあえず、どこか落ち着けるところで話そう。障りがあるからな」


赤城「それでしたら、赤城が何かお飲み物でもーー」


指揮官「いや、こっちで用意する。別の仕事を頼んでもいいかな?」


赤城「はい、何なりと」


指揮官「夕飯にどうしてもさっぱりしたものが食べたくてな。何か作っておいてくれると助かるんだ」


赤城「あら~、赤城にそのような頼み事をされるとは珍しいですね~」


指揮官「頼むよ~。手の凝ったあっさりした和食が食べたいんだよ~」


赤城「さらりと要求を増やされた気も致しますが、承りましたわ~」


指揮官「ああそれと、聞き耳たてようとするなよ?」


赤城「それは勿論。そのために注文を増やされたのですものね~」


指揮官「その通り。じゃあよろしく。さて、駿河は勿論として、島風はどうする?」


島風「取りあえず、昔馴染みの艦船達と親睦を深めようと思います!」


指揮官「はいよ。じゃあ加賀、軽く案内してやってくれ。意外と複雑だからなここ」


加賀「あぁ、承知した。その後にやることは何かあるか?」


指揮官「取りあえず、赤城を手伝ってやってくれ。赤城が必要ないと言えば、休んでおいてくれ。ちょっとした休暇だ」


加賀「休暇と言うならば丸一日は欲しいがな。あいわかった」 ガチャ


赤城「指揮官様~? 今日は赤城が腕に縒りを掛けて作らせて頂きますわ~♡」 バタン


指揮官「楽しみにしてますよー・・・っと。取りあえず、人が滅多に来なさそうな・・・いや、何処もないな」


駿河 (えぇ・・・、そんな騒がしいの? ここ)


指揮官「まあ、人払いは済ませてあるしここで良いか。取りあえず、適当に、楽にしといてくれや。いま飲み物持ってくるから」


駿河「それなら私が--」


指揮官「あーだめだめ。遥々こっちまで来て、ただでさえクタクタだろ? 湯呑みでも割られたらたまったもんじゃないからな」


駿河「なっ!?」 ムッ


指揮官「冗談だ。これからはあまりいい思い出ではないからなぁ。少しは気を紛らわしたいのさ。 ・・・・はい、お待ちどう」カチャ


駿河「あぁ、・・・・どうも」


指揮官「時に駿河さんよ、変化の能力は完璧に出来たかい?」


駿河「へっ? 私、指揮官にお伝えしたこと有りましたっけ?」


指揮官「んー? ははっ、蛇の道は蛇って言うだろう?」


駿河「はっ? へっ!? 」


指揮官「まあ、なんやかんやの話をする前にさ、これは話しておこうと思ってな」


指揮官「俺って結構、嘘つきなんだよね」 スッ


駿河「な、なんですか帽子で顔を隠したりして?」


指揮官 (老) 「よっ」 バッ


駿河「っ!? 指揮官? 何ですかその年老いたお顔は!?」


指揮官 (老) 「さぁてね」スッ


指揮官 (優男) 「ほいっと」バッ


駿河「あっ、今度は少しかっこいいかも・・・じゃなくて! 何なんですか!?」


指揮官 (優男) 「最後に・・・・ほいさ!!」 バッ


駿河「今度はなんーー 」




駿河? 「」 ニコッ



駿河「ええっ!? わ、私!? 指揮官! 何のつもりですか!!」



駿河? 「まあ、色々見てもらったから分かると思うけど」 ドロンッ


指揮官「俺ってちょっと普通の人間と違うんだわ」


駿河「びっ、ビックリしたぁ」ドロンッ


指揮官「ははっ! 耳が元に戻ってるぞ?」


駿河「えっ!? わっ! たっ! ちょっ!」ドロンッ





・・・・・





指揮官「すまんすまん、唐突に驚かせてしまったな」


駿河「ホントに驚きました。まさか似たような能力を持った方が居られるなんて」


指揮官「そ、これが俺の能力。重桜の人間って、獣の見た目が混じってるじゃない? 俺は元々狐がちょっと混じってたんだ。まあ、声質は変えられないし、見た目とか体の一部分を変化させるくらいしか出来ないんだよ」


駿河「はぁ・・・・」


指揮官「まっ、お前の能力とさほど変わらんさ。・・・・あの時はお互いバタバタしてて詳しく話してやれなかったからな。どこから話すべきか・・・・」


指揮官「そうだな・・・、君と島風が、重桜の艦船として生を受けて、初めて皆と会ったときのことを覚えてるよな?」


駿河「はい、長門様を始めとして、赤城様が開催した合同大演習の事ですよね?」


指揮官「そうそう。俺はあの場に居なかったし、話で聞いたことがある程度だから何とも言えないんだけどさ。その合同大演習が開催されてから幾らか年月を経て、重桜は2つに別れたんだ」


駿河「なっ、なんでそんなことに!?」


指揮官「簡単な話さ。戦争派と反対派に別れたんだよ。かいつまんで言えばね」


指揮官「赤城や加賀が中心となって、セイレーンの技術を取り入れた技術革新を狙ったんだ。その結果、重桜は反セイレーン組織である『アズールレーン』を脱退。いや、裏切った。瞬く間に人類の敵さ」


駿河「それで、指揮官は・・・」


指揮官「アズールレーン側に少し厄介になった。・・・周りの目は冷たいし、扱いも最悪だ。そらそうだ、彼方からすれば脱走、敗残兵だからな」


指揮官「だが、俺にとって大切なのは自分の名誉、立場じゃない。御狐殿・・・、あー、長門様の存在だ」


駿河「・・・そんなことがあったんですか」


指揮官「知らないのも無理はないさ。アズールレーン設立の礎を作ったお前たちは、あの後に世界中を巡っていた」


指揮官「それに、俺も面倒な仕事を押し付けちまったからな。あの緊張状態で、御狐殿と重桜の御神木を守れただけでも、不幸中の幸いだ」


指揮官「もちろん、俺だけの力じゃない。前線から退いていた軍神殿・・・。あー、三笠殿を初め、五航戦の翔鶴、瑞鶴も協力してくれた」


駿河「・・・・・・なら、赤城様は? 彼女がどうしてこちら側に?」


指揮官「・・・・・・そこなんだよ。このなんやかんやを一番難しくしているのは」


駿河「と、いいますと?」


指揮官「彼女達と俺たちは、刃を交えた。まるで、過去の戦争を追体験するように、ミッドウェーの海で。その歴史にならって、彼女たちは敗北した。沈んだ筈なんだ」


指揮官「・・・・・当時、作戦に参加した艦船からの報告では、『海中から浮かび上がってきた』らしいんだ」



駿河「海中から浮かび上がってきた!? そんな・・・。あり得ない・・・」


指揮官「あり得たんだよ。俺の目の前で、俺にとって・・・・・大切な・・・・・」


駿河「っ・・・・・。それで、難しくしていると言うのは?」


指揮官「海中から生まれたのは、赤城と加賀、蒼龍、飛龍。皆、何事も無かったかのように。だが、赤城は・・・・・・」







指揮官「赤城だけは、何かが違うんだよ。他の3人は普通なのに、あいつだけ・・・・。まるで、その、別人になったような・・・」





駿河「別人に・・・・?」



指揮官「記憶は残っているらしいんだが、昔のあいつを知っている奴からすれば、まるで別人になったような違和感を感じるんだ。お前も彼女に接するときは、少し留意しておいてくれ」


駿河「はぁ・・・・分かりました」



指揮官「・・・・・全く、幾ら俺が人間離れした化物だからって、前線から退いた身を再び呼び戻すとか勘弁して欲しいね」


駿河「・・・・・そういえば、なぜ合同大演習の時に姿をお見掛けしなかったんですか? 指揮官として居られたのなら、私も知っていたはず。なのに・・・・」


指揮官「その時の俺は、ちょっとした世捨て人ってところでな。・・・いや、正直に話そう。切り捨てられたんだ。上からな」


駿河「・・・知りませんでした。まさかそのようなことが・・・。長門様が重桜の御神木に、御自身を封印なさるというお話を聞いて、私たちは馳せ参じた。その時に、初めてお会いしたんでしたね」


指揮官「あぁ、そうだったな。この話、本当は島風にも聞いてもらいたかったんだが、ほら、彼女は少し奔放な所があるだろ?」


駿河「あ、あはは・・・・。何かすみません・・・」


指揮官「まあ、俺の知っている中での重桜の顛末がこれだ。何となく理解してもらえたかな?」


駿河「はい、有難うございました。わざわざお手を煩わせまして・・・」


指揮官「なぁに、こっちこそ協力してくれると言って貰えて助かっているよ。と言っても、昔のようには行かないかも知れないがな」


駿河「はぁ・・・」


指揮官「さて、ぼちぼちここの案内でもしますかね」


駿河「あぁ、そんなお気遣いは・・・」


指揮官「良いって良いって。ちょっとした気まぐれだよ」


駿河「いえ、あの、本当に結構ですから。・・・・・お恥ずかしい話、方向音痴と言いますか・・・・」


指揮官「そっか。じゃあこれ持ってけ」 スッ


駿河「何ですかその小さいテレビみたいなものは?」


指揮官「うちの開発連中が作ったんだ。何でも、目的地を選べば案内してくれる代物らしい」


指揮官「もしかして、機械も苦手か?」


駿河「いや、まぁ・・・」


指揮官「取りあえず渡しておく。使わなかったら後で返してくれ」


駿河「はぁ・・・・、わかりました」


指揮官「さぁて、そんじゃあ軽く飯でも食いに行くとしますかぁ。一緒に来るかい?」


駿河「赤城さんに作らせているのにですか?」


指揮官「赤城にお願いしたのは夕食。いまから食べるのは軽食。全然別物だから問題なしってやつだ」


駿河 (絶対後で怒られますよそれ。あれ? もし私も同行したら同罪ってことで何かされたりしない・・・よね?)




・・・・・




ーー母港 指揮官の自室ーー





指揮官「はぁー、疲れたなぁー」




ーー特別何かあったわけではないが、彼女達との接し方には気力を使う。



あれから実際に甘味処へと赴いて、駿河にご馳走したのだが、その帰りに大鳳と出会った。たまたま通りかかった (本人談) らしいが、彼女の熱いラブコールには気が滅入る。


別に嫌という訳ではない。男として女性に見初められるというのは寧ろ嬉しいものだ。嬉しいものなのだが・・・。






ーー数時間前 母港 波止場ーー




大鳳「指揮官様ー! またお会いしましたね~♡」


指揮官「っ、大鳳か。いきなり声をかけられたから少し驚いたよ。何かご用かな?」


大鳳「いいえ~。少しお話がしたいなと思ってお声を掛けさせていただきました~」


指揮官「そうか。最近は出撃する機会も減ってきたから、少し暇だろう? まあ、戦いがないことが一番なんだがね」


大鳳「大鳳は寧ろ、戦場に赴く方が。そうすれば、指揮官は大鳳の事を見てくれますから」


指揮官「ははっ、別に戦場だけでなくても、俺はお前たちの事を見守っているさ。それが指揮官たる俺の使命だからな」


大鳳「"お前たち" 。その瞳には、大鳳だけが映っていれば良いのに・・・」


指揮官「済まないな。それは出来ない。俺が指揮官である以上、一人だけに目を向けることは難しいんだ」


大鳳「・・・・・・あの女狐には許すのに」


指揮官「・・・これは、約束なんだ。あいつと、あの人と、あのお方との」


大鳳「・・・・・・そんなもの、大鳳と指揮官様の仲を裂くような障害にはなりません」


指揮官「大鳳・・・」


大鳳「・・・指揮官様」ギュッ


指揮官「っ・・・! 大鳳・・・!」


大鳳「指揮官様。そこまで、過去にすがらないといけないんですか?」


指揮官「っ・・・!」



大鳳「・・・いつまで、縛られていれば良いのですか? 羽ばたくことが出来るなら、とても清々しい気持ちになれるのに・・・」


大鳳「ねえ、指揮官様。羽ばたいてみませんか? 何処までも続く空を、大鳳と、一緒に・・・」


指揮官「・・・・・・すまん。俺にはそんなこと出来ない。だって俺にはーー」


大鳳「私が、一生着いて行きますから」




ーーやめろ






大鳳「私が、あなたの羽になりますから」





ーーやめてくれ




大鳳「だから指揮官。私と一緒に、自由にーー」









ーーやめてくれ!!!!









大鳳「・・・・・・指揮官様?」





指揮官「・・・駄目だ。俺には、やらなきゃならないことがある。これは誰に強制されたものでもない、俺自身の使命だ」






大鳳「・・・・・・そう、ですか」







ーー彼女はそう言って、何事もなかったかのように去っていった。そう、俺には大切な約束があるんだ。俺の全てを掛けてでも、成し遂げなくてはならない約束が・・・








ーーなのに










ーーなのに何故、お前は、そんな憐れむ目で俺を見るんだ・・・ーー












赤城「ーーさま? 指揮官様?」ユサユサ











指揮官「んっ・・・、あぁ、赤城か」


赤城「すっかりお休みになられたみたいで。御夕飯の仕度が出来ましたわ。・・・どうなされたのですか?」


指揮官「いいや。ちょっとした夢をな。さてさて献立は何かなー・・・と」


赤城「はい。こちらは、ほうれん草のおひたし。それからお味噌汁に焼き魚にーー」




ーーあの人と交わした契約。それが、俺がこの力を手にいれた対価であり、彼女達との出会いのきっかけであり






ーー俺がこの世に生を受けた理由だ









・・・・・









ーー俺には、重桜の指揮官として、御狐殿、長門様と結んだ約束がある。





ーー俺が果たすべき約束・・・。それは、俺が指揮官となったその日から始まる。





それはもう、どれだけの月日が経ったのか数えるのも億劫な程に遡る過去。それなのに、気が遠くなるほどの歳月が経った今でも思い出せる記憶。







ーー重桜 麓の神社 境内前ーー





指揮官「・・・これが、重桜の神木。重桜の象徴・・・」


???「何者だ?」


指揮官「本日付で重桜の艦隊を仕切ることになった者だ。事前に御狐殿の裁可は下っている。本日はお目通りに叶うために馳せ参じた」


江風「そうか。私は江風。この重桜の神木の守り手にして、長門の付き人だ。着いてこい。彼女のもとに案内しよう」



指揮官 (重桜の御狐。話は聞いていたが、実際この目で見るのは初めてだ。一体、どのようなお方なのか・・・)



江風「長門、客人を連れてきた。今日から指揮官となる男だそうだ」


長門「分かった。支度をするゆえ、少し待て」






ーーこの頃の俺は、彼女を、御狐殿を侮っていた。声も見た目も幼い少女と何ら変わらない。だが・・・




長門「よくぞ重桜の為に立ち上がってくれた。若き者。余は長門、重桜の御狐であり、栄えあるビッグ7の1人である」





そんな彼女に、俺は畏敬の念を抱き始め、同時に悲哀を感じた。






・・・・・






長門「ーーということだ。そなたには此より、儀式を行って貰う。なに、難しいことではない。そなたは気を楽にして居れば良いのだ」




ーーそうして俺は、境内にある祭壇へと連れられ、そこで儀式を受けることになった。といっても、本当に何もすることはない。ただ座っていれば良いだけの事だった。





長門「重桜を授かる御狐の名のもとに、ヤオヨロズの神々に、ここに墾望す。我ら重桜の民への慈悲を請う。若き壮士に永久の加護のあらんことを願い給う。我が願いが届きし時、この壮士に我らを護る力を授け給え」






ーー後になって聞いた話だと、これはただの願掛けであったそうだ。だが御狐殿の願いを聞き入れて下さったのだろう。俺には人を化かす狐の力が宿った。




ーーさらに、俺の体は衰えることがなかった。つまりは、不老の体になってしまったんだ。本当の化物になったことで、周りからの目も厳しくなり、辛いこともあった。




ーーしかし、その反面に、数々の出会いもあった。だから俺はそれをかけがえのないものにしようと、指揮官として、重桜艦隊を指揮した。セイレーンの脅威から、重桜、重桜の民、そして、仲間を守るために。





ーーそして






ーーそして・・・・・・










ーー遂にあの日が訪れた










ーー重桜 とある山林ーー







ーーこの時の俺は、長年重桜艦隊の指揮を任せられた褒美として、長期の休暇を与えられた。




ーーというのは表向きで、実際のところは島流しのようなものだ。きっと、俺の存在が邪魔になったのだろう。俺はそのまま山へと籠り、1人、自給自足の生活をしていた。




ーーそんな折りのことだ。彼女が俺に接触してきたのは。




陸奥「指揮官! 指揮官!!」


指揮官「俺はもう指揮官じゃない。ただの世捨て人だと何度言えばーー」


陸奥「長門姉が・・・、長門姉が・・・!」


指揮官「なっ、御狐殿の身に何が!?」


陸奥「長門姉が、自分を重桜の御神木の中に封印するって・・・!」


指揮官「っ・・・! ・・・俺は世捨て人だ。お前達の事に俺が首を突っ込む道理はない」


陸奥「長門姉が呼んでるの! 最後に指揮官に会いたいって!」


指揮官「・・・長門など知らん! ましてや、俺の知ったことじゃない!」


陸奥「何で・・・、何でそんなこと言えるの!? 私たちの事がキライなの!? 」


指揮官「・・・帰ってくれ。俺はもう、彼処には戻らない。ここで朽ち果てるのを待つだけだ」


陸奥「指揮官!!」


指揮官「早く帰ってくれ!! 俺には重桜の事など関係ない!! 」





ーー俺は、彼女を、陸奥を追い返してしまった。当時の俺は子供じみた意地で、後のことも考えず、ただただつまらない意地を張っていた。







ーー『俺を裏切った重桜に、何の未練もない』と。







ーー俺はあまりにも惨めで、弱い男だった。





・・・・・






長門「では、な。陸奥」


陸奥「長門姉・・・」


長門「心配するな。私には江風が付いている。そして陸奥も。何も悲しむことはない。少しの間、離れるだけだ」


陸奥「それでも・・・、それでも・・・」


長門「・・・やはり、指揮官は来てくれないのか」


陸奥「うん・・・。会いに行ったけど、関係ないって、追い返されちゃった」


長門「そうか・・・。これも全て私のせいか。重桜を担う御狐といえど、所詮は名ばかり。願わくば、目覚めるときには・・・」


駿河「長門様ー!」


島風「長門様ー! ちょっと待ってくださーい!」


長門「駿河! 島風! そなたたちも来てくれたのか?」


駿河「いったいどうされたのですか!?」


島風「ご自身を重桜の御神木に封印するなど、なにゆえそのような事に!」


長門「それはーー」


指揮官「御狐殿ぉ!!」


長門「・・・・ぁあ! 指揮官!」


駿河「指揮官・・・? このお方が・・・!?」


指揮官「御狐殿。参上が遅れた無礼、どうか裁きを下されますようーー」


長門「指揮官!」ギュッ


指揮官「み・・・、御狐殿・・・?」


島風「あわわわ! 島風、何も見ていません。何も見えていないし、聞こえてません・・・!」 メカクシ


長門「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・! わたし・・・何もできなかった・・・。みんなを・・・重桜を・・・止められなかった・・・」グスッ


指揮官「・・・・・・ええ。分かっています。左様に嘆かれますな。あなた様の苦しみも努力も、俺は全て分かっています。今は、少しのお休みを頂くだけだと」



指揮官「ですから今は、存分に・・・」






・・・・・




ーーやはり俺は、指揮官だった。世捨て人になろうと、重桜に切られたとしても、人としての情は捨てられなかった。



ーー陸奥をあれほど拒んでおきながらも、俺は彼女たちから授かった恩、時間、思い出に背くことは出来なかったんだ。





長門「・・・指揮官、皆もすまぬ。急に取り乱してしまって」



指揮官「お気になさいますな。陸奥、さっきは済まなかった。我ながら、子供じみた意地だったと猛省している」


陸奥「いいの。こうして来てくれたんだから。長門姉も喜んでるし、私も許す」


指揮官「・・・ありがとう。ところで君たちは・・・?」


駿河「私は戦艦駿河。そしてこちらは、駆逐艦の島風です」


指揮官「そうか・・・君たちが・・・! 合同大演習の折りは、あのバカ共が迷惑をかけたろうけど、君たちのおかけで重桜は、いや、世界は大いに救われた。民の一人として、感謝する」


島風「いやぁ~、それほどでも~。私と駿河が一緒ならどんな戦にも勝利を刻んで見せましょう!」


駿河「調子に乗りすぎ」コツン


島風「ううう・・・なにも小突くことは無いじゃないですかぁ・・・」


指揮官「ははっ、仲の良いことで」


長門「指揮官。余は重桜を・・・、赤城を止めることができなかった。それに加え、お主の居場所までをも守ること叶わなかった」


指揮官「御狐殿・・・」


長門「・・・罪滅ぼしとはいかないけど、絶対にこの重桜の神木だけは守り抜く。それが、重桜を背負う余が出来る、唯一の贖罪だ」


指揮官「・・・私も、あなたに誓います。絶対に皆を守る。そのための障害ならどんなものでも倒す」


指揮官「例えそれがかつての仲間であっても、抗うことの出来ないカノウセイだとしても」


指揮官「大切な、存在だったとしても・・・」


陸奥「指揮官・・・」


島風「長門様! 島風の力が必要な時は、何時でも仰ってください! 風の如く馳せ参じましょうぞ!」


駿河「私も、ご命令いただければ!」


長門「・・・2人とも、逞しくなったな。余は嬉しく思うぞ。出来ることなら、余ではなく、指揮官に力を貸してやってほしい」


指揮官「御狐殿、それはなりません。俺が歩もうとするのは修羅の道。彼女たちにそんな負い目を味わわせるなど」


長門「ではどうしろと?」


指揮官「重桜の分裂はセイレーンによるもの。外洋ではそれらの被害に苦しむものが多くいるはず。駿河、島風の両名には、苦しむ者達の矛となり、盾となってやるべきです」


長門「・・・お主はそれでよいのか?」


指揮官「はい。両名に異論がなければ。さすれば、このような悲劇を広めることなく、世界は在るべき姿に・・・」


駿河「・・・わかりました。出会って間もないですし、もっとお話を伺いたく思いますが、今のお言葉で、あなたの事が少しだけ理解できたと思います」


島風「私たち2人、未だ見ぬ未開の海へ! 私たちを必要とする者たちのために、粉骨砕身働きましょう! ねっ、駿河!」


駿河「もちろん! あんたと2人なら、何処まででも行ってやるわ!」


長門「・・・そなたらの勇姿、この重桜で永遠に見守ろう。お主らに、ヤオヨロズの神々の御加護があらんことを・・・」


指揮官「御狐殿にも、重桜のご加護があらんことを。いつか必ず、お迎えに上がります」


長門「・・・うむ、楽しみにしておるぞ。言っておくが、余の心配は必要ないからな。江風が、余とこの重桜の神木を護ってくれる。余はここで、お主たちを護り続ける。・・・達者でな」


指揮官「・・・はい。御狐殿も、武運長久を」






ーー俺はもう、逃げない。御狐に、神に、重桜に認められたのだから。セイレーンと戦う力は俺にはない。彼女たちの矛にも盾にも成れないが、命綱には成ってやれる




ーー俺を裏切った重桜は許せないが、いま一度だけ、彼女のために信じてやる。俺が、かつての姿を取り戻させてやる







・・・・・



指揮官「ーーと、こんな感じか。さぁて、今日のやることはぜーんぶ終わり!」


指揮官 (・・・御狐殿、俺は誓いを果たせているか? あなたとの約束は、守れているのだろうか?)


指揮官「本当は面と向かって言えればいいんだが、これはお互い良い思い出ではないからなぁ・・・」ボソッ


指揮官 (・・・それに、俺はまだあの人との約束もあるしな。きっと俺はこの体が朽ち果てるまでは、ここで彼女らと共に・・・)


指揮官 (或いは、あいつの最期を・・・って、なに縁起でもねぇことを・・・)





赤城「指揮官様~、御夕飯の支度が出来ましたわ~♡ 今日は赤城特製の味噌煮込みきつねうどんですの~」ガチャ


指揮官「お、おう! 分かった、すぐ行くよ!」


指揮官 (きつねうどんって、共食いかよ・・・」 ボソッ


赤城「共食いが何ですって?」ニコォ


指揮官「ばっ、何も言ってねぇだろ!」


赤城「そんな酷いことを仰る指揮官様には御夕飯は抜きにして貰おうかしら~」ウフフ


指揮官「分かった! 謝る! 謝るから! わー、美味しそうだなー」


赤城「そこまで仰るなら、御夕飯の後に赤城も召し上がって頂ければ許して差し上げないことも有りませんわ~♡」


指揮官「・・・明日の夜とかは?」


赤城「許しません。今夜でないと♡」


指揮官「・・・・・・お、お手柔らかにお願いします・・・」




・・・・・





指揮官「ふわぁ~あ、眠い眠い。こんなに眠くちゃ仕事やるのも馬鹿らしいや」


加賀「・・・その仕事を私に押し付けるというのなら、この場からすぐに離れるが?」


指揮官「ご冗談。課せられた仕事くらいはこなすさ。ただ面倒くさくてやる気が起きないだけ」グデー


加賀「・・・お前は自分でトンチンカンな事を言っていると自覚しているか? 」


指揮官「じゃあお前の姉さんに言ってくれよ『少しは加減を覚えろ』と。昨晩連戦させられてヘトヘトなんだよ」


加賀「別に赤城は血縁ではない。私が姉として慕っているだけのこと。男女の営みなまで口出しするほどの繋がりではない」


指揮官「ああ言えばこう言う。揚げ足とりって言うんだぞ? そういうの」


加賀「別に私は空を飛んだりはしない」


指揮官「その "とり" じゃねぇよ! 耳に又の "取り" だよ!!」


加賀「分かっている。冗談の通じん奴だな」ハァ


指揮官「えっ? なに? 俺が悪いの!? ふつーに心外なんですけど」


加賀「もとはと言えばお前の発言が発端だ」


指揮官「へーへーそーっすね俺が悪うございました」




加賀「・・・・・・」カキカキ


指揮官「・・・・・・」カキカキ




加賀「・・・・・・・・・・・・・」カキカキ


指揮官「・・・・・・・・・・・・」カキカキ




加賀「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」カキカキ


指揮官「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」カキカキ




指揮官「・・・・・・・何か喋れよ」



加賀「・・・・・・今は昔、竹取の翁と言うものありけり」スラスラ


指揮官「おい、 "取り" をまだ引っ張るつもりか?」


加賀「野山にまじりて竹を取りつつ、よろづの事につかいけり」スラスラ


指揮官「止めろ朗読すんな眠くなる」



加賀「名をば讃岐の造となん言いける」スラスラ


指揮官「それガキん時に暗唱させられて嫌でも覚えてるんだから勘弁してくれよぉ」


加賀「ああ言えばこう言う。面倒な奴だな。子供以上に手が焼ける」


指揮官「おっ? 遂に言ったか? そこまで言うか?」


加賀「・・・・・・いっそ、姉様を呼んだ方が早いか?」イラッ


指揮官「っ・・・それは困る」


赤城「な・に・が・お困りになるのですか~」ウフフッ


加賀「姉様、聞いてください。指揮官と来たらまったくーー」


指揮官「何もない! なっ? 何もないよなー?」アセアセ


赤城「あらあら2人とも仲の良いことで~、少し妬けちゃうわ~」


加賀「・・・・・・」


赤城「そもそも、お疲れならば赤城達にも仕事をお与え下さってもいいのに」


指揮官「じゃあやってくれんの?」


赤城「丁重にお断り致しますわ~」


加賀「結局断るのですか・・・」


赤城「ですが、もしかしたら引き受けてくれる物好きも居るのかも・・・。例えばたいほ・・・あのオジャマ虫ですとか?」


赤城「後はあのしょうか・・・性悪ですとか、すず・・・あの小娘ですとか枚挙に暇がありませんわねぇ・・・ウフフ」


指揮官「うん、適当にはぐらかしてるつもりだろうけど大体誰のこといっているか分かった」


赤城「そしてその塵芥共が手を離せない間に、赤城が指揮官様を独占して・・・あぁ~♡」


加賀 (話が通じない狂人だと思ってしまったことは、墓場か海底まで持っていくとしよう・・・・)


指揮官「赤城さーん、心の声駄々漏れですよー?」モシモーシ


赤城「さあ、善は急げと申しますから、早く赤城と共に♡」グイッ


指揮官「なぁ~、昨晩もあれほど付き合っただろ? 俺を労ると思って少しは休ませてくれよぉ~」


赤城「いくら相手が加賀とはいえ、あのように仲睦まじくされては流石の赤城も嫉妬してしまいますもの。オシオキです♡」


指揮官「ちょっ、痛い痛い!」


赤城「あっ、そうだわ加賀、誰かに指揮官様のお仕事を引き継がせて頂戴? 勿論、私が一枚噛んでいることは伏せて、ね?」


加賀「・・・わかりました。高雄にでも伝えておきます」


赤城「さすがは私の妹。私の考えをしっかり読み取ってくれるのねー」


指揮官「その自慢の妹を持つ赤城さん? こいつ、さっき貴女とは血縁関係じゃないからとか抜かしてましたよ?」


加賀「別に間違ってはいないと思うが・・・?」


赤城「さぁ、指揮官様♡ 赤城と一緒に楽しみましょう♡」


指揮官「はいはい何時もの何時もの。お手柔らかにお願いしますねー」 ウワノソラ




バタン




加賀「行ったようだな。さて、高雄は生憎だが演習中でここには居ない。愛宕も同伴している・・・」


加賀「大鳳、五航戦、鈴谷といった連中も委託に出ている。残っているのは・・・」








加賀「・・・・・・・・・ん?」









加賀「私、嵌められてないか・・・・・・?」






ーーその同時期ーー




指揮官「なあ、高雄とか愛宕とか? 執務任せられる奴、よくよく考えたら殆ど母港に居なくないか?」


赤城「えぇ、勿論。赤城を差し置いて指揮官様と仲良くされていたから、ちょっとした "オシオキ" です♡」


指揮官「・・・つくづくさぁ、お前の加賀に対する扱いって苛烈に見えるんだよなぁ」


赤城「指揮官様? これから赤城と愛を育むと言うのに、どうして他の女の名前を出すの?」 ハイライトオフ


指揮官 (あっ、これヤバイやつだ・・・って今!? 俺さっき高雄とか愛宕とか言ってなかった? えっ? マジでどこでキレてんの!?)


赤城「指揮官様も、最近は加賀に甘えっぱなしではありませんか。赤城にも甘えて欲しいのにー!」 ムキー!!


指揮官 (あっ、それが本音なのね)


赤城「ですから指揮官様が赤城に甘えるようになるまで、少し激しく・・・」


指揮官「いやぁ、別に加賀に甘えっぱなしって言うのは語弊がーー」


赤城「で・す・か・らぁ! 何で他の女の名前を出すのですか!?」


指揮官「えっ!? いや、それ理不尽ーー」


赤城「そこまでして赤城を狂わせたいのですか?」 ジトー


指揮官「・・・お前たちさぁ、姉妹揃って揚げ足取りだな」


赤城「別に血縁関係ではありませんわ~」


指揮官「そして同じことを言うんだな。どの口でそれを言えるんだ?」


赤城「どうしてそうやって赤城を困らせるのですか~!」 ポカポカ


指揮官「痛い! 痛いって! 幾ら手加減されてたって、爪立ててやられたら痛えよ!! どっちかってっとガリガリだろそれ! 俺はキャットタワーじゃねぇんだぞ!?」


赤城「狐はネコではなくイヌ科ですけど~?」


指揮官「知ってるわ!」







・・・・・








ーー 重桜領内 神社 境内 ーー







指揮官「よっ! 掃き掃除か?」


江風「・・・指揮官か。何用だ?」


指揮官「あいっかわらずドライな奴だなぁ。まあいいや、御孤殿はおられるか?」


江風「長門は祭事の最中だ。悪いが引き取って貰えるとーー」


陸奥「あっ! 指揮官!! こっちに来るなんて珍しいね!」


指揮官「よっ! 御孤殿に用があって来たんだが、たったいま江風に追い返された所だ。祭事の最中だってな」


陸奥「江風ー、嘘ついたら駄目だよ!」


江風「・・・・・・」


指揮官「お前本当に昔から俺のこと嫌いだよな。まあだからって別に八方美人になるつもりもないけどさ」


陸奥「はっぽうびじん、って?」


指揮官「本来は「欠点のない美人」って意味だけど、それが転じて「皆に好きになって欲しいから人に合わせて良い顔をする奴のこと」だよ」


陸奥「へー・・・。ん? 指揮官が美人を名乗るのも変じゃない?」


指揮官「・・・そうだな! 一本取られたわ!」


陸奥「あっはは! でも、八方美人って、何だか赤城みたいだね!」


江風「・・・・・・フフッ」 プルプル


指揮官「・・・・・・陸奥、赤城の前では絶対言うなよ? 真っ先に俺が殺されかねない」


陸奥「なんで? だってさっき指揮官ーー」


指揮官「おぉっと! それまで! それ以上は指揮官さんの首が明後日の方向に回るか、明明後日の方向に飛んでいくことになるから!な?」


江風「そうか。さっき赤城の式神を見たぞ? (まあ、嘘だが) 」


指揮官「・・・骨はこの神社の境内に埋めてくれると嬉しいなぁ」


江風「私が遠慮したい。地中から指揮官に覗かれると思うと寒気がする」


指揮官「こいつは・・・。まぁ、いいや。御孤殿に話を通してくれると有り難いんだ。陸奥、お願いしていいかな?」


陸奥「はいはい! ちょっと待っててねー! 」








ーー数分後ーー






陸奥「お待たせ~! 案内するからね~」


指揮官「おっ、待ってました。そうだ、江風、君にも少し付き合ってもらえると助かるんだけど?」


江風「・・・分かった」


陸奥「よ~し! じゃあみんなで一緒に行こ?」






ーー 重桜領内 神社 社殿内ーー






長門「指揮官、待たせてしまって申し訳ない」


指揮官「いえ、御孤殿もご機嫌麗しゅう、突然の訪問に、大変失礼いたしました」


長門「・・・指揮官、何か用事があって来たのではないのか?」


指揮官「・・・はい。実は今日、重桜の統括理事、評議会の面々との会合がありまして、まあ・・・、その、ご報告をと」


長門「そのような場に、なぜ余を呼ばなかったのだ?」


指揮官「・・・それに関しては、私の独断であります。勝手に事を進めてしまったことは叱責を受けることも覚悟の上です」


長門「まあよい。それで、報告とは?」


指揮官「まず、良き知らせと、悪い知らせがございます。どちらを先にお話しするべきか・・・」


長門「・・・・ならば、悪い話から」


指揮官「かしこまりました。実は、件の会議に赤城を共にしたのですが、一部の上層部の物言いに腹をたてた彼女が少し・・・」


長門「まさか・・・手を出したのか!?」


指揮官「ええ。彼女の、重桜を思う心は我々が一番の知るところではありますが・・・」


長門「それで、相手の容態は?」


指揮官「ええ、医者によれば骨や内蔵にはダメージがないので、1週間もあれば完治すると」


長門「赤城のやつ・・・」


指揮官「更に、以前からお話しされていた、重桜の祭事を再開させることについてですが」


長門「・・・・・・」


指揮官「無事、可決されることとなり、来年度から開催せよと」


陸奥「うそ・・・、やった、やったー!!」


江風「指揮官! それは本当なのか!?」


指揮官「あぁ! 本当だ! お偉いさんも、俺たちの活躍を認めてくれたんだ!」


長門「そうか・・・、ようやく・・・!」


指揮官「そして、良い知らせなのですが・・・」


陸奥「へ? さっきのがいい知らせじゃないの?」


指揮官「今後、重桜の評議会を通すことなく、我々の行動は全て、私の独断で行うことを許すと」


陸奥「それって・・・、もしかして・・・!」


指揮官「御孤殿、重桜の祭事、全てあなた様におまかせ致します」


江風「指揮官、つまりは・・・!」


指揮官「以前と同じように。御孤殿、あなた様が夢見た通りに」


長門「ほ、本当なのか・・・? だが、指揮官よ、そなたは、その決定を信じたのか? 彼らは、そなたにあれほどの仕打ちをしてきたのだぞ?」


指揮官「確かに、彼らは私に与えた指揮権を全て剥奪し、重桜の皆に接触させることすら許さなかった」


長門「・・・そうだ。だから重桜は分裂した。それを、自らの不始末を押し付ける形で指揮官に押し付けた」


指揮官「ええ。ですが、私どもの活躍を省みてのことでしょう。現にセイレーンによる被害は、全盛期より落ち着いています」


長門「・・・指揮官、その言葉を、余は信じても良いのか?」


指揮官「はい、これも全ては、御狐殿のお力添えがあってこそ。お喜び申し上げます」


陸奥「指揮官! せっかくのおめでたい時に堅苦しくなるのは駄目だよ!」


指揮官「・・・そうだな! さぁ、これから忙しくなるぞー」






・・・・・







指揮官「いやー、すっかり遅くなっちゃったな~。済まないな、見送りさせてしまって」


江風「不本意ではあるが、長門の頼みなら断るわけにはいかないからな」


指揮官「・・・そうか」






江風「・・・指揮官、これで契約は果たされてしまうのか?」





指揮官「契約? 何の事だよ?」


江風「しらを切るのは止めて貰おうか。お前はーー」


指揮官「契約なんて生温いもので言い表せるか。俺にとっては、もっと大事なもんだ」


江風「・・・あなたに残された契約はあと一つ。手足のように使われる、使役される人形のままでいるつもりか?」


指揮官「・・・ふざけるな。人を犬畜生かなんかみたいに言いやがって」


江風「なら楔を断ってみろ。それが出来ない内は、傀儡も同然だ」


指揮官「・・・江風、俺を嫌うのも、俺を下に見るのも勝手だが、次にあの人との「約束」を、「契約」なんぞと抜かしたら」













指揮官「消すぞ?」









江風「・・・別に嫌っているわけでもない。下に見ているわけでもない。ただ一つ言えるのは、長門にとって、指揮官は必要な存在だ。長門から離れるというのなら、意地でもあなたを止める」


江風「・・・彼女を、また悲しませるというのならば、守人として、友として、あなたを許さない」


指揮官「・・・覚えとくよ」







・・・・・








ある日、唐突に姉さんから呼ばれた俺は、何事かと思い、彼女、三笠殿の自室へと招かれた。すると、彼女から思いもよらない言葉を聞いたんだ。








指揮官「展覧会を開きたい?」


三笠「うむ! ・・・不満か?」


指揮官「い、いやいや! 不満なんかありませんよ。けど、また急になんで・・・」


三笠「我が艦船の模型を集めていたのは知っておろう? 以前は色々とあったが、今では平穏無事に、皆の憩いの場の1つとなっている」


指揮官「・・・あぁ、あれですか。修理費が、当初の目論見の5倍ほどの予算になったと聞いたときは・・・。はぁ・・・」


三笠「・・・」


指揮官「あ、いや! すいません。どうぞ、続けてくださいな」


三笠「復旧した我の博物館を、あれ以来、定期的に皆に一般解放していたのだが、ちと思うところがあったのだ」


指揮官「と、いいますと?」


三笠「我の博物館を楽しんでくれるものもいるが、少し浮かない顔をするものもいてな」


指揮官「そいつの名前教えてください。減俸と降格させた上で除隊させますから」ニッ


三笠「待て待て! 落ち着け」


指揮官「除隊後は二階級特進させとけば、文句の一つも出ませんよ」アハッ


三笠「話を聞け! ・・・こほん、それでな、どうしたのか我が聞いたのだ。そうしたら、『自分もこんな趣味が欲しい』と話してくれたのだ」


指揮官「・・・それで、展覧会ですか」


三笠「そうだ。どうだろうか?」






もちろん、異論などあるはずがない。たまには変わったことをするのも、皆にとっても俺にとってもいい刺激になる。



まあ、指揮官と言う立場にある俺にとっても、頭の上がらない人からのお願いだからというのもあるんだが・・・。





・・・・・





指揮官「ーーというわけで、皆も少し息抜きが必要かと思って展覧会を開催しようと思います。質問のある人は挙手!」


指揮官「・・・質問なければお開きです。作品を展示したい人は、指定した用紙に必要事項を記入して三笠大先輩に提出してください。それじゃあ解散です」






ナニツクロウカー ドウセナラユウショウシタイネー





指揮官「・・・と、こんなところでしょうかね?」


三笠「指揮官の協力、大いに感謝する。しかし、優秀作にどんな賞品でも出すなど、安請け合いをして良いのか?」


指揮官「まあ、俺に出来ることなら何かしてやりたいってのもありますし、流石に変なことを頼んでくる奴もいないでしょう」


三笠「それならよいが・・・」






ーー 一航船の部屋 ーー





赤城「さあ! 早速作り始めるわよ」


加賀「何か手伝えることはありますか?」


赤城「あら、ありがとう。でも、今回は大丈夫よ。私1人で作りたいの」


加賀「・・・そうですか。」


赤城「指揮官様にも三笠様にも、喜んで貰えるようなものを作りたいの。別にあなたが必要ないと言う訳ではないわ。私が真心を込めて作りたいのよ」


加賀「・・・流石姉様だ。なら、重桜のことは私に任せて、そちらに集中なさるといい。なに、これも姉様のためだ」


赤城「・・・ふふっ。ありがとう」









・・・・・





ーー五航船の部屋ーー





瑞鶴「むむむ・・・」


翔鶴「どうしたの瑞鶴? そんな難しい顔しちゃって」


瑞鶴「・・・うん、展覧会って、何をしたんだ出したら良いのかなって」


翔鶴「何か作りたいの?」


瑞鶴「うん・・・」


翔鶴「・・・よし! それじゃあ悩んでる瑞鶴に、お姉ちゃんが協力してあげる!」


瑞鶴「えっ!? でも翔鶴姉ぇも・・・」


翔鶴「ふふっ。困っている妹を助けるのも、お姉ちゃん特権です!」ニコッ


瑞鶴「あ、ありがとう翔鶴姉ぇ~」





・・・・・





と、そんなこんなで皆は思い思いに色々な物を作ってくれた。多くの者が参加してくれて、主催側としては嬉しいんだが・・・








ーー展覧会当日ーー






三笠「本日は、多くの者がこの展覧会に協力してくれたこと、我はとても嬉しく思っている!」


指揮官「いいかー、指定の用紙に誰の作品が良かったか、名前を書いてから投票箱に入れるんだぞー」


三笠「不正があれば、問答無用で無効票だ。指揮官からの褒美も無くなるからそのつもりでおるのだぞ!」


指揮官「バレないようにやれと言ってるわけじゃないからなー! ・・・ふぅ、それじゃあ俺も見回るとしますか」





ーーふらふらと見て回ると、皆それぞれ面白いものを展示してくれている。なかなかに手先の器用な連中だと思ったさ。




指揮官「へぇ、お手製の花札かぁ。なかなかに良くできてるなぁ!」


飛龍「そうでしょう! 姉様との共同製作ですよ!」


蒼龍「といっても、画用紙を手頃の大きさに切って絵を描いて、ラミネートしただけですが」


指揮官「俺も最近少しずつだけど勉強はしているんだ。いつかこれを使って手合わせ願おうかな?」


飛龍「えっ、そ、そうですかぁ?」


蒼龍「それですと、お願いすることが無くなってしまうのですが?」


指揮官「なんだ、それくらいのお願いならお安いご用さ。それじゃあ、もっと別のお願いを考えておきなよ。さて、他も見てくるかな」




ーーこれは優勝候補かなぁと思っていると、また色んな物を作った奴もいて・・・。





翔鶴「あら、指揮官。赤城先輩抜きでお見かけするのは珍しいですねぇ」


指揮官「そういえばあいつ、今日は全然見ないな。会場内でも見当たらねぇし・・・」


翔鶴「体調を崩して寝込んでいるのでは? だとしたら看病でもしてあげないと。濃口の磯部焼きとか?」ウフフッ


指揮官「病人にんなもん食わせて殺す気か・・・。つか、あいつが寝込むなんざあり得ないっての。翌日は台風どころかセイレーンが攻めてくるわ」


瑞鶴「それ洒落になってないから」ビシッ


指揮官「ナイスつっこみ。それで、2人はどんなものを・・・、これまたすげぇな! 手製か?」


翔鶴「もちろん! 瑞鶴が一生懸命作ってくれました!」


瑞鶴「重桜の掲揚旗・・・、ちゃんとした素材を使っているから、実用性もあるとは思う・・・」


指揮官「掲揚旗!? すげぇなおい!! こんなもん手製で作るなんて・・・、ん? なんか見覚えある気がするんだけど?」


翔鶴「重桜の紋章が描かれているのですから、当たり前じゃないですか」ニコッ


指揮官「あぁ・・・・、そうか。それでか」





ーー実用性・・・。そういうのもありかと感心していたら・・・。




大鳳「これは~、指揮官様に使って頂こうと思って自作したマフラーです~」


鈴谷「指揮官。これ、私が作った手袋・・・、どうかな?」


隼鷹「これ、『ずっと前』から一緒に使ってた、私とお揃いのお箸なの。受け取ってくれる?」




指揮官「おめぇら町内会のバザーじゃねぇんだぞ!!」




ーー何人か怖ぇこと言う奴もいたが、まあ、閉会したらありがたく使わせてもらおうかなんて考えていたら、これぞ職人技って奴もいて・・・。





明石「指揮官~、明石の作品を見るがいいにゃ~!」


指揮官「これは・・・、御孤殿?」


明石「明石特製、手のひらサイズ、長門様の銅像にゃ!」


指揮官「すげぇなこれ。流石技術屋・・・。というか、御孤殿はご了承されたのか?」


明石「もちろんにゃ~。でも『そんなものを展示するなら我は行かぬぞ』って仰られてにゃ~・・・」


指揮官「それで今日はお越しになっておられないのか・・・。まあ、作品の出来は俺からも伝えておくよ」


明石「ところで指揮官、優勝はもちろん明石の作品だにゃ?」


指揮官「さぁ、どうかねぇ。・・・まあ、技術職の連中は少し厳しめに付けるからなぁ。そうでもしないと不公平だろ?」






ーーと、手の込んだ物を作った奴もいて、結構面白い催し物だったなぁと思ったよ。2回目とか開催しても良いかもしれないなぁ。





指揮官「しっかし、あいつ本当にどこいったんだろうなぁ・・・。おっ、いたいた。おーい、赤城ー!」


赤城「しっ、指揮官様!!」


指揮官「どうした、こんな端っこでうずくまって。何かあったのか?」


赤城「い、いえ。そのようなことは・・・」


指揮官「みんな頑張ってスゴいもの作ってくれてさぁ。いやぁ、開催して良かったなぁ」


赤城「・・・あぁ、そうですの」


指揮官「赤城は何か作ったんだろ? 見せてくれよ」


赤城「いえ、赤城のはーー」


指揮官「これは・・・、陸と海の模型?」


赤城「・・・母港を作りましたの。でも、途中で手を滑らせて。壊してしまって・・・」シュン


指揮官「ふーん。それじゃあ、ここがドック?」


赤城「・・・・・・」コクッ


指揮官「となると、ここが学園か・・・。大講堂に売店と・・・」


赤城「折角、皆に喜んで貰おうと作ったのに・・・」ションボリ


三笠「皆の者! そろそろ投票を締め切るぞー!!」


指揮官「やっべ! ほら、行くぞ!!」


赤城「あの、私はーー」


指揮官「いいから! ほら!!」グイッ




・・・・・





三笠「ーーさて、皆の投票、並びに我と指揮官で厳正に審査をした結果、今回の最優秀賞は瑞鶴だ!」


瑞鶴「うっそ! ホントに!?」


翔鶴「あら! おめでとう瑞鶴!」


瑞鶴「うん! ありがとう翔鶴姉ぇ! でも、やっぱり翔鶴姉も手伝ってくれたし、一緒に!」


指揮官「ということは2人の作品か・・・。うんうん、素晴らしい姉妹愛だ」


三笠「瑞鶴、よければお主の作品を、我の博物館に共に展示したいのだが、良いだろうか?」


瑞鶴「は、はい! ありがとうございます!!」





・・・・・





ーー 一航船の部屋 ーー





赤城「・・・・・・」ションボリ


加賀「・・・姉様、まだ立ち直れませんか?」


赤城「・・・・・・」シュン



加賀 (やはりダメージが大きいか。・・・奥の手だが、まあ仕方ない)



加賀「姉様、こちらをご覧頂けますか?」


赤城「・・・これは?」


加賀「本日の展覧会の、出品者ごとの投票数一覧です。指揮官からくすねて来ました」


赤城「・・・さすが最優秀賞。五航船は凄い投票数ね。これがどうしたの?」


加賀「そこじゃありません。ほら、ここ」スッ


赤城「・・・赤城に、一票? ・・・あなたの票?」


加賀「私がここ数日、執務に追われていたのをご存じでしょう。今日も神通や高雄らと執務室に一日中居りました」


赤城「それじゃあ・・・」


加賀「ふふっ。もうお分かりでしょう?」


指揮官「赤城ー、居るかー?」コンコン


加賀「私が居ても良いなら」


指揮官「ほんじゃ失礼して・・・。あっ! おい加賀! その紙、道理で見当たらないと思ったら、くすねた上に情報を漏らしやがったな!?」


赤城「えっ!? それじゃあやっぱり・・・」


加賀「答え合わせに感謝するぞ、指揮官」


指揮官「おまっ・・・! ・・・あぁ、そうだよ。俺が入れた」


赤城「どうしてですの? だって赤城のはーー」


指揮官「知ってるよ。お前がどれだけ皆を思ってるか、どれだけ頑張ったかなんて、嫌ってくらい分かってる」


指揮官「加賀なんか、『姉様のためだ』なんて言って、俺がどれだけ面倒な仕事を与えてもバッチリやってくれたし」


指揮官「夜間の見回りをしてたら、お前の部屋の灯りが付いてた。遅くまで頑張ったんだろ?」


加賀「し、指揮官! 私のことはどうでもいいだろう!」カァァ


指揮官「へっ、仕返しだよ仕返し。とまぁ、完成品を見られなかったのはちょっと残念だが、俺はちゃんと分かってるつもりさ」


赤城「し・・・、指揮官様ぁ・・・」ウルッ


指揮官「それに、どんな時でも俺はお前の味方だよ。だってお前はーー」







提督「ーー俺にとっても、その、大切な、存在だから」






赤城「う・・・うぅ・・・、指揮官様ぁ~!!」バッ


指揮官「うおっ!?」 ドサッ


赤城「赤城は・・・、赤城は幸せ者です~!」ギュウゥゥ


指揮官「・・・そうか」ヨシヨシ



加賀 (色々あったが、一件落着と言ったところだな。さて、私は邪魔になる前に・・・)



神通「失礼いたします。指揮官がこちらに居られると伺ったのですが、居りますでしょうか?」コンコン


加賀「・・・あぁ。我々が居ても構わないなら、入るがいい」


指揮官「おっ、おい! いい加減に離れろって!」


赤城「いいえ~、離しませ~ん」ギュー


神通「では失礼を・・・、おやおや、御二人とも相も変わらず仲がよろしいようで」


赤城「もちろん~。赤城は指揮官様にとって特別ですものね~♡」ニコッ


指揮官「ばっ・・・! それは、お前が優秀な秘書艦だと言う意味で・・・!」


赤城「もう~、そこは『そうだな、ケッコンしよう』とか仰って頂くのが定番ですのに~」


指揮官「なっ・・・! んなこと誰が言うか!! 大体、俺にはケッコンなんて・・・」


赤城「?」


指揮官「い、いや! なんでもない。それで、神通。用件は?」


神通「ええ。実は少々、お耳に入れたきお話がございまして・・・」チラッ


指揮官「わかった。執務室に戻りがてら、聞くとしよう。それじゃあ失礼する。今日は2人ともゆっくり休めよ」


加賀「あぁ、そうさせてもらうよ」





ーー母港 廊下ーー






指揮官「それで?」スタスタ


神通「ええ。実は、島風が少し妙なことを・・・」


指揮官「妙なこと? ・・・あいつが妙なのはいつものことだろう?」


神通「それはそうなのですが、駿河からも頼まれたもので、私としてもどうしたものかと」


指揮官「そうか・・・。まぁ、とりあえず話だけは聞こう」





・・・・・





ーー母港 学園内 大講堂前ーー





島風「あっ! 指揮官殿!」


指揮官「神通から軽く話は聞いた。あまりこいつを困らせるなよ? ただでさえ忙しい身なんだから」


神通「忙しい身にさせているのは、他でもない指揮官ですが」


島風「ちょっと待ってくださいよ! 私だって好きで困らせてるわけでは無いんですから!」


指揮官「まあ、こうしている時間も惜しい。早く用件を言え」


島風「うぅ・・・、このアウェイ感・・・。でも挫けません・・・! 実はですね、今朝からここを通る度に変な音が聞こえるんです」


指揮官「変な音ぉ?」


島風「そ、そんな信用ないみたいか顔で見ないでください! その、なんといいますか、軽い布が飛ばされてく様な音なんです! パタパタ~って!」


指揮官「・・・誰かの服が風で飛ばされたんだろ? そんなアホらしいことでーー」


島風「でも、島風が通る度にそんな何着も服が飛ばされたら、届け出とかあるんじゃないですか?」


指揮官「た、確かに普通はそうするし、今のところそんな報告も挙がってきてはいないが・・・」


駿河「指揮官、確かに島風はこんな奴ですけど、耳の良さだけは私が保証します。ですから・・・」


島風「こんな奴!? 耳の良さ "だけ" !? 嘘でしょう駿河ぁ~! もっと島風の良いところあるじゃないですかぁ~!!」ユサユサ


駿河「あのねぇ、確かに良いところもあるだろうけど、アンタの場合は悪いところが目立ちすぎるの。もうちょっと気を付けなさいよ」


島風「まるでオカン!!」ガビーン


指揮官「・・・はぁ。とりあえず、変な音がするって言うのは、具体的にどの方向からとかは分かるのか?」


島風「えぇっと・・・、あそこからです!」


指揮官「大講堂の屋根・・・? ・・・まさか!!」ダッ


島風「あっ! 指揮官殿ー! 置いてかないでくださーい!!」ダッ


神通「指揮官!? ちょっと駿河! あなたも来なさい!」ダッ


駿河「嘘でしょう!? はぁー、島風に関わると本当にロクなことがない・・・」ダッ





・・・・・





ーー五航船の部屋ーー





瑞鶴「翔鶴姉! 指揮官へのお願い事、何にしようか?」


翔鶴「そうねぇ、何が良いかしらねぇ」



コンコン



翔鶴「あら、誰かしら? はーい! 少しお待ちくださーい!」タッタッタ



翔鶴「はーい、どなたでーー」ガチャ



指揮官「はーい警察でーす! 両手をあげて何も触らないでー」


翔鶴「し、指揮官!?」


瑞鶴「あっ! 指揮官! いま丁度何をお願いしようかーー」


島風「御用だ御用だ~!」シュバッ


翔鶴「島風・・・ちゃん?」


駿河「はぁ・・・、はぁ・・・、島風とほぼ同じ速さとか・・・、化け物ですかあなたは・・・」ゼェ ゼェ


神通「ま・・・、まだ息が・・・」ハァ ハァ


瑞鶴「神通さんに、駿河さん!? どうしたんですかそんな息も絶え絶えに」


指揮官「その話は一旦保留。まずこちらからの質問に答えてもらう。盗難被害が出ているが心当たりはないか?」


翔鶴「!」ビクッ


瑞鶴「と、盗難!? 何でそんなことを私に聞くの?」


指揮官「今のところ一番怪しいのがお前たちだからだ。心当たりは?」


瑞鶴「な、何で私が人のものを捕る必要があるの!? いくら指揮官だからって、勝手に疑われたらいい気はしないよ!?」


指揮官「・・・そうか。翔鶴、心当たりは?」


翔鶴「え・・・、ええっと・・・、ありませんよ?」ダラダラ


神通「指揮官・・・、状況がいまいち飲み込めませんが・・・」


指揮官「実は島風から陳情があってな。大講堂の屋根から変な音がするからどうにかして欲しいと」


瑞鶴「大講堂の屋根? あそこに何かあったっけ?」


指揮官「変な音、というよりは、何時もと何かが違う気がすると言うことだろうな。大講堂の屋根には、重桜の紋章を描いた掲揚旗がある」


駿河「そ、それが翔鶴さん達とどのような関係が?」


指揮官「今日の展覧会でこいつらが出品したのが、重桜の掲揚旗だ。重桜の紋章が描かれているからどこかで見た記憶があると思ったが、あれは間違いない。大講堂にあるものだ!」


瑞鶴「で、でも私はそんなことをしないし、翔鶴姉だってそんな卑怯なことはしないよ!」


翔鶴「そ、そうですよ指揮官! それに証拠無しに疑うなんてーー」


指揮官「証拠ならあるさ。多分そろそろ届く頃だとーー」


赤城「指揮官様ー! 頼まれた物をお持ちしましたわ~」


指揮官「おっ! 本当にいい頃合いだ。流石自慢の秘書艦だー・・・っと、はいこれが証拠」


瑞鶴「なんですかこれ?」


指揮官「今日の展覧会に赤城が出品した母港の模型の設計図。これが設計図を作るために撮影した大講堂の写真で、こっちが今の大講堂の写真」


瑞鶴「っ・・・!」


指揮官「別に犠牲者を出すような事態ではないが、贋作を掲揚していると知れれば、御孤殿や俺、ましてや重桜そのものの沽券に関わる」


瑞鶴「・・・確かに、今の大講堂に掲げられているのは私が作ったのに似ているけど、でもーー」








翔鶴「ごめんなさい!!」









瑞鶴「しょ、翔鶴姉・・・?」


翔鶴「わ、私が、やりました・・・」プルプル


指揮官「・・・なんで、こんなことをした?」


翔鶴「・・・実は、機械の故障などが重なって、私たちの製作日数が物凄く限られてしまったんです」


翔鶴「でも瑞鶴は、最後まで諦めないって、夜遅くまで、頑張って作ってたんです・・・」


翔鶴「頑張っている瑞鶴の健気な姿を見て、私は・・・。瑞鶴に喜んでくれるなら、それくらいは構わないって・・・」グスッ


瑞鶴「・・・私が作った旗は半分も出来ていなかったのに、今日の朝、これを使いなさいって、渡してくれたの」


瑞鶴「きっと、夜中も作り続けたんだって。私のために頑張ってくれたんだって思ってた。だから私は、2人の作品にしようって言ったの」


翔鶴「ごめんなさい瑞鶴。指揮官、悪いのは私です。ですから、瑞鶴のことは怒らないであげてください!」


瑞鶴「指揮官! 翔鶴姉は全部私のためにしてくれたの! お姉ちゃんを怒るなら私を叱って!!」


指揮官「む・・・、むぅ・・・」


島風「ねえねえ、指揮官殿?」チョンチョン


指揮官「何だ?」ヒソヒソ


島風「これだと、まるで島風たちが悪者みたいですよ?」ヒソヒソ


指揮官「そうだよなぁ・・・。とりあえず姉さんに話を通してーー」ヒソヒソ




赤城「翔鶴!」


翔鶴「あ、赤城・・・先輩・・・? ・・・私を、笑い者にでもするつもりですか・・・?」


赤城「神通から細かい話は聞いたわ。あなた、指揮官様が情に弱いことを知っていながら、なお情で訴えるなんて、随分と味な真似をするじゃない」


赤城「・・・けれど、私が同じ立場だとしても、きっとあなたと同じことをするわ。加賀のそんな姿を見れば、きっと私も・・・」


赤城「でも、罰はしっかりと受けて貰わないと、他の者に示しが付かない。だからあなたに、罰として大講堂の掃除を一週間・・・、というのは如何ですか指揮官様?」


指揮官「・・・そうだな。妥当な所だろう。それと、不正行為として賞品は没収だな?」


瑞鶴「・・・はい。異論はありません」


指揮官「・・・さて、神通。今日の執務の進捗はどんな感じだ?」


神通「は、はい。概ね順調に進んでおります。後は指揮官の確認を頂ければ完了となります」


指揮官「量は?」


神通「然程は。こちらで出来るものは全て終わらせたので、必要最低限の物だけです」


指揮官「なるほどな・・・。・・・よし! ここにいる全員と、今日の執務に携わった者に伝えてくれ。『仕事が終わったら飯を食いに行こう』と」


神通「はい、承り・・・。はい?」


指揮官「前に重桜のお偉いさんに連れて行って貰ったいいお店が外にあってな。俺が奢るから全員で行こうかと思ったんだが?」


神通「はぁ・・・、そうですか。かしこまりました」


島風「指揮官殿、それって島風もー・・・?」チラッ


指揮官「もちろん。ほら、お前たちも行くぞ」


翔鶴「いえ・・・、私は・・・」


瑞鶴「私も・・・」


指揮官「・・・はぁ。いいお店だから、みんなに知ってもらいたいと思ったので、2人も着いてきてください。お願いします」


翔鶴「ですけどーー」


赤城「指揮官様がお願いしているのに断るなんて、随分と偉くなったものじゃない?」ゴゴゴ


翔鶴「うっ・・・」


瑞鶴「・・・分かりました。ご相伴に預かります」


指揮官「よし! それじゃあ30分で終わらせるから、準備しておいてくれよ?」



駿河「あの、指揮官? お偉方と行かれたのなら、その、お値段も・・・」ヒソヒソ



指揮官「・・・翔鶴達への賞品に、誰かさんへの頑張ったで賞」


指揮官「更に、神通達への慰労と、島風と駿河への協力のお礼。安い出費だと思うがね?」ヒソヒソ



駿河「そ、そう言うことなら・・・」ヒソヒソ




指揮官「さて、これにて一件落着と!」









ーーとまぁ、閉会後に色々とあったが、展覧会自体は成功と言っても良いと思うね。




ーー瑞鶴の作品のことを姉さんに話したら、まあ、始めはご立腹だったが、2人の姉妹愛と、赤城と俺に免じて許すと仰られたし、めでたしと言うことで良いんじゃないかな?




ーー今回の出来事は皆には伏せておくけど、まあ

こう言うことがあった以上、おいそれと開催するもの少し憚られる。それに・・・。






赤城「指揮官様ー♡ 赤城にもう一度、あの言葉を仰って頂きたいですわー♡」


指揮官「ばっ、おい! お前いい加減に・・・!」


大鳳「あの女狐・・・いつもいつも指揮官様にベタベタしやがって絶対に許さない沈めてやる殺してやる潰してやる潰す潰す潰す潰す潰す」ブツブツ


隼鷹「指揮官とずっと一緒に居たのは私なのにオサナナジミなのに秘書官の癖にずっとくっついて指揮官の隣は私の物なのにオサナナジミの私なのになんでなんでなんで」ブツブツ






ーー気のせいかと思ったけど絶対違うな。一部の艦船達の目がスッゴい怖いことに気がついたのは。






・・・・・





ーー母港 執務室ーー







指揮官「マジかよあの書類どこにやったんだぁ?」 ガサゴソ


赤城「何かお探しですか~?」


指揮官「あぁ、赤城か。重桜艦隊の中間決算報告書と今月度の帳簿が見当たらねぇんだわ。どこにあるか知らない?」


赤城「それでしたら、赤城が全て精査を済ませて保管室に持っていきましたわ」ニコニコ


指揮官「はぁ・・・。あのさぁ、確かに仕事をやってくれるのはありがたいけど、そう言うのはちゃんと俺に見せてくれといつも言ってるだろ?」


赤城「指揮官様は何もしなくても良いのですよ? 面倒なことは全て赤城にお任せください」ウフフ


指揮官「・・・悪いがそれは出来ない相談だな。書類取ってくるから留守番頼んでいいか?」


赤城「ええもちろん♪ あら? 指揮官様、何か落とされましたよ?」ヒョイ


指揮官「机に置いといてくれ!」バタン



赤城「・・・・・・これは、何かしら?」ピラ




赤城「この写真・・・・・・」




赤城 (その写真には、指揮官様と、女性が写っていましたわ。この方は・・・)




指揮官「人の持ち物を勝手に見るのは感心しないな」ヒョイ


赤城「あら? 随分お早いお帰りですのね」


指揮官「当たり前だろ。急ぎのモノだし、いくら信頼しているとはいえ、自分の目で確認したいんだ。ミスでもあったら上の連中がつけあがる」


指揮官「いくら艦隊のことが自由に出来るとはいえ、文句をつける奴は幾らでもいるからな」


赤城「それほどまでに頭を悩ませるなら、赤城がどうとにでも・・・ウフフ」


指揮官「アホ抜かせ。お前、この前もお偉いさん1人怪我させたろ? それで俺が庇ってやらなけりゃ、今頃解体されても文句は言えないぞ?」


赤城「勿論わかっておりますわ。指揮官が赤城の為を思ってしてくれたことも、この赤城を信頼して頂けていることも」


指揮官「当たり前だろ。前にも言ったが、お前がガキの頃から相手してんだからな。情の一つも湧いてくるさね」


赤城「・・・・・・」


指揮官「それに・・・.。仕事を早く終わらせれば、その分・・・あれだ。お前と・・・一緒にいる時間が増えるしな」


赤城「・・・・・・」


指揮官「な、何だよ急に黙りこくって・・・」


赤城「ねえ、指揮官様? 先ほどの写真・・・」


指揮官「ん? あぁ、ちょっとしたお守りだよ。それがどうした?」


赤城「あの・・・、隣に写っていたのは、天城姉様ですよね・・・?」


指揮官「お、覚えてるのか!?」


赤城「え? ええ・・・、もちろん・・・」


指揮官「あ、そ、そうか。そうだよな。実の姉だもんな。悪い、変なこと言って」


赤城「い、いえ・・・」






赤城 (指揮官様と天城姉様が、あれほど仲睦まじく・・・。それなら、私の入れる余地など・・・) チクッ


赤城 (・・・何? この胸を締め付けられるような感覚。・・・嫉妬? 誰に? 指揮官様に? 天城姉様に?) ズキズキ





指揮官 (・・・まさか、天城さんのことを覚えているとは思わなかった。・・・にしては、結構落ち着いているな) カキカキ


指揮官 ( "俺の知ってる赤城" なら、もっと取り乱したり、騒ぎ立てたりするもんだと思ってたが・・・) ペラッ




赤城「・・・・・・」



指揮官 (借りてきた猫みたいに静かだ・・・)ペラッ




赤城「あの・・・、指揮官様?」


指揮官 「ん? どうした?」


赤城「赤城、指揮官様の仰った通りに少し体調が優れないみたいで・・・、お暇を頂いても宜しいですか?」


指揮官「あ? あぁ、構わないが・・・大丈夫か?」


赤城「ええ、加賀に引き継ぎをさせますわ」


指揮官「わかった。でも、加賀はお前の元にいた方がいい。俺のことは大丈夫だから、加賀に看病してもらって、ゆっくり休め。な?」


赤城「はい・・・。申し訳ございません」 バタン


指揮官「・・・後で見舞ってやるか」






・・・・・






加賀「指揮官、私だ」コンコン


指揮官「どうぞ」カキカキ


加賀「失礼する。姉様が急に部屋に戻ってきてな。何事かと思って来たんだが」ガチャ


指揮官「あー、体調が優れないみたいだ。こっちは大丈夫だから、看病してやってくれ。後で俺も見舞いに行く」


加賀「・・・その事だが、風邪だったら移すと申し訳ないからと、姉様から・・・」


指揮官「・・・そうか。じゃあ、何か見舞いの品でも買っておくから、届けてくれるか?」


加賀「あいわかった。そのくらいなら喜んで引き受けよう」


指揮官「早く治せと伝えてくれ。・・・あいつが居ないと、その、調子が狂う」


加賀「・・・ふふっ、今の言葉、姉様が聞いたら喜ぶだろうな」


指揮官「っ・・・。悪かったな本人の前で言えない臆病者で」


加賀「全くだ。お互いに気があるのだから、姉様を迎えてやるくらいの気概は見せて欲しいものだ。私も気が休まらない」


指揮官「・・・俺に、あいつとケッコンしろってことか?」


加賀「そのつもりだ。姉様が拒むことは絶対にないだろうに」


指揮官「・・・俺に、そんな資格はない」







加賀 (あぁ、本当に難儀な奴だ。こいつはいつまで囚われればいいのだろうな)


加賀 (・・・本当に、似た者同士だ)





・・・・・





ーーここは、どこ?





ーー重桜の母港? でも何時もの母港とは違う・・・? 何でこんなに眩しいのかしら・・・





赤城「天城姉様ー!」ピョンピョン




ーーあれは・・・、私? 小さい・・・私・・・?




天城「・・・ふふっ、はいはい。赤城はいつも元気ですね」





ーー天城・・・姉様・・・?




指揮官「おはよう赤城。今日も元気だな」





ーー "赤城" ・・・。指揮官様がそう呼んだ先にいるのは私ではなく、小さい私・・・。




ーーまるで私は "知らない私の過去" を見せつけられているよう。ここにいる赤城は、唯の傍観者なのですね・・・





天城「おはようございます。指揮官様」


指揮官「おはようございます。今日は天気もいいですから、一緒にどこかへ行きませんか?」


幼赤城「私も連れていきなさいよ!」


指揮官「はいはい。それじゃあ3人で行こうか」







ーーあぁ・・・、本当に眩しい・・・。指揮官様も、天城姉様も、あの子も。指揮官様のあんな笑顔、私は見たことがないわ・・・




指揮官「さ、天城さん」スッ


天城「っ・・・/// はい、指揮官様・・・」


幼赤城「こら! 子分の分際で天城姉様と手を繋ぐなんて生意気よ!!」









ーー待って! 止めてください指揮官様、天城姉様! 2人とも、待ってください!!




ーーお願いですから・・・、待って・・・、行かないで・・・





ーー私の、欲しかったものを・・・、持って・・・行かないで・・・下さい・・・。








赤城「・・・・・・」ポロポロ



赤城「・・・指揮官様、私は・・・」ポロポロ











ーー壊れて・・・、しまいそうです・・・。













・・・・・








天城「しきかん・・・さま・・・げほっ・・・げほっ・・・!!」



指揮官「天城さん・・・」ギュッ



天城「しきかんさま・・・、おねがいします・・・」









「あの子と・・・、重桜を・・・どうか・・・」









指揮官「」パチッ



指揮官「・・・夢・・・、か」








ーーすみません、天城さん











ーー俺には、あいつを守る資格なんて、ありませんよ・・・









・・・・・








ーーあの日以来、私はよく夢を見るようになりました。指揮官様と、天城姉様の夢を。



ーー夢の中のお2人は、とても仲睦まじく、まるで、恋人の様にも見えて・・・。



ーー赤城が割って入ることなんて、絶対に出来ない。そう見せつけてくるようでした。



ーーそして私は、それから指揮官様とお顔を会わせることすら出来ませんでした。折角お声を掛けて頂けたのに・・・。



ーー指揮官様に会うと、とても辛いのです。今までの私は、指揮官様の邪魔になっていたのではないかと、思うようにもなりました。



ーー本当は指揮官様を独占したい、そのためなら誰であろうと排除する。そう思っていましたのに。




ーー私には、出来ません・・・。









赤城 (天城姉様・・・。赤城は・・・、赤城は・・・)


加賀「姉様!!」


赤城「っ! あ、あら? どうしたの?」


加賀「どうしたもありません。何度もお呼びしているのに、ここ数日、ご様子が変ですよ?」


赤城「・・・そう? 私はいつも通りよ?」


加賀「・・・指揮官と喧嘩でもしたのですか?」


赤城「いえ、そんなことはないわ。私と指揮官様が喧嘩だなんて・・・」


加賀「・・・そうですか」


赤城「そうよ。・・・ねぇ、加賀? 恋って、一体何なのかしらね」


加賀「な、何を突然!? わ、私に聞かれても困ります・・・」


赤城「もし私が、一方的な思いで指揮官様を困らせてしまっているなら、私はどうすればいいのかしら・・・」ウルッ


赤城「指揮官様のこと、こんなに・・・お慕いしているのに・・・。指揮官様にとっては、私は邪魔物でしかないのかしら・・・」グスッ


加賀「本当に何があったのですか!? 幾ら私でも、しっかりとお話しして頂かねば分かりません!」


赤城「・・・ごめんなさい。やっぱりまだ具合が悪いみたいで。もう少し、お休みを頂くと指揮官様にお伝えして?」


加賀「姉様!」




加賀 (姉様があそこまで取り乱すなど、これまで共にいた中でも早々に無いぞ・・・)


加賀 (指揮官、あなたは姉様を・・・!)


加賀「姉様、少し部屋を離れます。お一人でも大丈夫ですか?」


赤城「・・・・・・えぇ」


加賀「では、失礼します」バタン








・・・・・







指揮官「・・・・・・よし、これで一段落と。さて、赤城の見舞いにでもーー」


加賀「指揮官、加賀だ。少し時間をもらえるか?」コンコン


指揮官「あぁ、いいぞ。入ってくれ」


加賀「失礼する」ガチャ


指揮官「いやー、ちょうど良かった。いま終わった所だから、久々に赤城の見舞いにでも行こうかとーー」


加賀「お前、赤城に何をした!」 グイッ


指揮官「ちょ、ちょっと待て! 急にやって来て何だよ!!」


加賀「赤城が私の前で涙を見せるなど、余程の事だ! 赤城に何をしたんだ!!」ブンブン


指揮官「待て待て! 先ずは手を離せ! 話しはそれからだ! あと、揺さぶるなマジで・・・首が締まる・・・」トントントントン


加賀「っ・・・、・・・・・・すまない。少し、取り乱した」 パッ


指揮官「っ・・・はぁ・・・、全く、上官に手を出そうなんぞ、出るとこ出たらえらいことだぞ。とりあえず、話を聞かせてくれ」


加賀「・・・・・・実はーー」





・・・・・






指揮官「ーーなるほど。確かに避けられているとは思っていたが・・・」


加賀「それで、姉様が私に色恋の話など、初めてのことで。・・・姉様の相手は指揮官しかいないから、てっきりお前が何かしたのかと・・・」


指揮官「・・・実はな、あいつ、天城さんのことを覚えているらしい」


加賀「・・・・・・そうか」


指揮官「・・・あれ? あまり驚かないのか? 記憶を失くしたような赤城が、天城さんのことを覚えていると言ったら、もう少し食いつくと思ったんだが」


加賀「・・・もちろん驚いている。それで?」


指揮官「俺、天城さんの写真を御守り代わりに持ってたんだが、赤城にそいつを見られてな。それからだ、あいつの様子が変なのは」


加賀「そうなのか・・・」


指揮官「・・・なあ、やっぱり話すべきなのかな? 天城さんのこと、俺たちのこと・・・」


加賀「なぜ、私にそんなことを聞く?  」



指揮官「なぜ・・・って、そりゃあ、あれだよ。俺より、お前の方が、あいつの気持ちを分かってやれると思ってるから・・・」



加賀「・・・・・・」



指揮官「自分でも分かってるんだよ。俺自身の問題だ。俺が自分で向き合うしかない」


指揮官「・・・でも、俺のエゴであいつを傷つけてしまったらと思うと・・・」


加賀「・・・・・・」


指揮官「・・・頭の中では分かってんのに、あいつの為を思うと、どうしたらいいのか分かんねぇんだよ・・・」


加賀「・・・・・・」


指揮官「・・・どうしたら良いんだろうな」



加賀「・・・はぁ。どうやら、私の見誤りだったようだな」



指揮官「・・・は?」



加賀「今のお前の姿は、私が着いていく人物には値しない」



指揮官「な、何を言ってーー」



加賀「私がお前に着いて行くと決めたのは、

赤城がお前を見初めたからという理由だけではない。お前が強者だと、私自身が見込んだからだ」


加賀「だが、今のお前はなんだ? 弱音を吐き、どうすればいいか分からないだと? 目の前の獲物を自らで取り逃がす腑抜け、駄々をこねる餓鬼と何ら代わりはない」


加賀「そんな負け犬に付き従う意味も、助言を与える道理もない。何処へなりとも消え失せろ」 バタンッ


指揮官「・・・ははっ。負け犬か・・・違いねぇや・・・」




指揮官 (言っただろう天城さん? 俺にはやっぱり無理なんだよ)



指揮官 (俺はあなたみたいに、強くはないよ)






・・・・・





ーー母港  波止場ーー





指揮官「・・・ふぅ。紫煙なんぞ、何年ぶりに見たかねぇ・・・」




ーーそう言えば、禁煙を始めたのも、天城さんに会ってからだなぁ・・・。




指揮官「・・・あんなに早く居なくなってしまうなら、もっと前からしておくべきだったなぁ・・・」フゥ-



指揮官「つか湿気ってんなこれ! やっぱ古いやつは吸うもんじゃねぇな・・・。クッソ不味い・・・」ハァー




山城「あっ! 殿様だ~!」タッタッタッ


指揮官「や、山城!? やっべっ!」 グリグリ


山城「何時も執務室でお仕事なのに珍しいですね~?」


指揮官「あっ、あぁ・・・、ちょっとした息抜き・・・ってところかな?」アセアセ


山城「そうなんですね。あっ、私いまからご飯に行こうと思ってて、殿様も一緒にどうですか~?」


指揮官「もうそんな時間・・・うわ、時計止まってるし。えーっと・・・」


山城「・・・殿様? もし何か山城に手伝えてもることがあったら何でも言ってください!」エッヘン!


指揮官「・・・じゃあ、話し相手になって貰おうかな。食事は俺が奢るからさ」


山城「本当ですか~! やったー!」ピョンピョン







・・・・・








ーー母港  食堂ーー







山城「ふ~ん、ふふ~ん♪ 殿様とご飯~♪」


指揮官「折角奢ると言ったんだから、外のレストランとかでも良かったんだぞ?」


山城「殿様と一緒なら、何時ものご飯でも、何倍にも美味しくなるんですよ~?」


指揮官「あぁ、そう・・・。はしゃぐのは良いけど、溢したり落としたりするなよ?」


山城「はーい。でも、殿様はご飯要らないんですか?」


指揮官「あぁ・・・。ちょっと、食欲がなくて・・・。もう、歳かな?」アハハ


山城「・・・山城は、まだまだ殿様と一緒に居たいですから、長生きしてくださいね?」


指揮官「もちろんだよ。俺も、まだまだ皆と居たいさ」


山城「それで、話し相手って何をすればいいんですか?」 イタダキマース


指揮官「あぁ・・・。ちょっと、喧嘩しちゃってな。話を聞いてくれたら少しは気が紛れるかなと思ったんだ」


山城「喧嘩・・・?」


指揮官「あぁ。俺にとっては大切な友達でさ。そいつとは、小さい時からずーっと一緒だった」


指揮官「そして、その人の姉さんとも、とても仲が良かった。何処に行くにも、3人で出掛けるほどな」


指揮官「でも、その友達はさ、昔のことを忘れちゃってるんだ。お姉さんの事は覚えているのに、俺の事は全く覚えていないんだ」


山城「でも、そのお友達とは今も仲良くしているんですよね?」


指揮官「あぁ。暫く連絡が着かなかったが、偶然知り合ってな。記憶を失くした後も、俺と意気投合してさ。それで、仲良くなった」


指揮官「・・・そいつの姉さんと、約束したんだ。後のことを頼むって。そいつの支えになって欲しいって」


山城「じゃあ・・・、そのお友達のお姉さんは・・・」


指揮官「・・・亡くなった。だから、彼女の最期の願いを叶えてやりたいと、これまでずっと、そいつの側で守ってきた」


指揮官「でも、その人の願いを、俺は破ってしまったんだ。その友人が記憶を失くした理由を作ったのが、他でもない俺なんだから」


指揮官「そう。俺は守るべき存在だったその友人に、手を上げた。紛れもなく、俺がそいつを傷つけた。そいつの未来を奪ってしまったんだ!!」


指揮官「・・・・このことを、あいつは知らない。俺には、この話をそいつに伝える義務がある」


指揮官「けど、この話をしたら、あいつは更に傷つくことになる。あの人の頼みを、また蔑ろにしてしまう」


指揮官「・・・本当に、どうしたらいいんだろうな」



山城「ふぅ~。お腹一杯です~。ご馳走さまでした」ペコリ



指揮官「・・・あの、話聞いてた?」



山城「はい! 山城には少し難しいお話でしたけど」


指揮官「あっ、そう」 (まあ、面倒な話ではあるよな・・・)


山城「えっと、姉様や金剛ちゃんみたいに、上手く殿様にお伝え出きるか分かりませんけど・・・」


山城「その・・・、喧嘩をするってことは、そのお友達と殿様は、とっても仲が良い証拠だと思います」


山城「だからこそ、ぶつかっちゃうこともあると思いますけど、殿様の気持ちは、きっと分かってくれるはすです」



指揮官「・・・そうかな?」



山城「はい! 殿様は、私たちの殿様ですから! だから、殿様の思うようにしたらいいと思います! それで殿様を嫌いになったりなんてしませんよ!」



指揮官「・・・ありがとう。ちょっと、元気出た気がするよ」


山城「そ、そうですか~?」


指揮官「あぁ。なんか、ホッとしたらお腹空いてきたな・・・。デザートでもご馳走するからさ、何処か外に出掛けないかい?」


山城「良いんですか!? わーい! ありがとうございますー!」






・・・・・








ーー母港  執務室ーー





指揮官 (俺の思うようにしたらいい・・・か。山城らしいな。けど、シンプルで分かりやすい)



指揮官「よし! いっちょ、思うようにやってみるか!!」


駿河「うひっ!? な、何ですか急に大声出して!」


指揮官「あぁ・・・、すまんすまん。こっちの話だ。・・・耳とか戻ってない?」


駿河「戻ってませんよ!! 別に心配されるほどのことでも・・・」


指揮官「あっ、そうだ。お前、この前重桜で起きたなんやかんやの話をしろって言ってきただろ?」


駿河「ころころ話題を変えないで下さい。追い付けなくなる・・・。それ、既に終わった話じゃないですか」


指揮官「いや? 実はあの時の話な、適当にはぐらかした所があったのよ。俺にも色々あってさ、話したくないこととかあるわけで」


駿河「はぁ・・・。それを何で私に話すんですか?」


指揮官「色々悩んでたんだが、吹っ切れた。俺の思うようにやってやろうと思ってね。だから、知りたがりの駿河さんに教えてやろうと思ったのよ」


駿河「そ・・・、そうですか」


指揮官「それで、どうする? 知りたい? 教えてほしい? かなりショッキングよ? 夜眠れなくなるかもよ?」


駿河「近い! 近いです! それに鬱陶しい! あなたが話したいだけでしょう!? 聞きます! 聞きますよ!!」


指揮官「ん、よろしい。じゃあ、何か飲み物でも淹れてくるわ」


駿河「い、良いんですか? 一航戦のお二人とかに聞かれても・・・」


指揮官「別にいいさ。どうせ知ってるし、後から話すつもりだったし」


駿河「また適当な・・・」





ーー数分後ーー





指揮官「さて、まずは何処から話そうかねぇ・・・。いや、先に謝るか。いくら俺の問題だからって、適当にはぐらかしたのはすまなかった」


駿河「いえ、別にそれくらいは。誰にだって知られたくないことだってありますし」


指揮官「そうか。それじゃあ、今から話すのは重桜の分裂した理由と、俺が赤城達と対峙した所なんだが・・・」


指揮官「この話をする前に、まずこの人の事を話す必要があってな。赤城に姉がいるのは知っているか?」


駿河「え、えぇ。詳しくは知りませんが・・・」


指揮官「その人、天城って言うんだがな。まずは、その人と、俺の出会いから話さなくちゃならないーー」








・・・・・







ーーそれは、俺が御孤殿との出会いの日に遡るんだが、御孤殿と別れてすぐ、俺はある人と出会うことになっていた。




ーーその人は、策略に長け、奇策を張り巡らし、戦を見渡す千里眼を持っている人だった。




ーーそれが、天城さん。赤城の姉で、俺にとっては大切な師匠にあたる人だった。





指揮官「初めまして。本日付でこの重桜艦隊を指揮することとなりました。ご指導ご鞭撻の程、よろしくお願い致します!」



天城「まぁ・・・。ご丁寧にありがとうございます。私は天城と申します。指揮官様、何卒、よろしくお願い致します」




指揮官「はい! よろしくお願いします!! ですが、私は指揮を任されたといえ、まだまだ若輩者。指揮官様と呼ばれるような者では・・・」



天城「・・・ふふっ。とても謙虚なお方なのですね。長門様に認められたお方なのですから、もっと胸を張っても良いのですよ?」



指揮官「いえ、私は戦を知りません。ですから、1日でも早く、皆に認めて貰えるようにならなくては!!」


天城「戦を知らない・・・、ですか。では、戦を知るとは、どのようなことだと思われますか?」


指揮官「戦を知るには、戦場へ赴き、武勲を立て、戦果を得ることかと」


天城「・・・確かに、それもまた戦いを知る1つの手と言えます。・・・ですが、私は戦場に多く出たことがありません」


指揮官「はぁ・・・」


天城「ふふっ・・・私のことを、指揮官様はご存知でしたか?」


指揮官「お噂程度ですが、聞き及んでおります。戦場を見渡す千里眼と、機知に富んだ神算鬼謀の持ち主・・・と」


天城「その様に伝えられているのですか。まあ、今の指揮官様よりは戦場へ赴いてはおりますが、数は両の手で数えられる程度・・・」


天城「それでは・・・、質問を変えましょうか。私たちは、セイレーンと戦うことを使命としています」


天城「そして、平和をもたらすためには、戦争に勝つ必要があります。勝つために必要なこととは、何であるとお考えですか?」


指揮官「・・・圧倒的な力、であると思います」


天城「何故ですか?」


指揮官「この戦争、ひいてはこの情勢は、セイレーンによる侵攻によるもの。力によって興ったものなら、更に上を行く力でねじ伏せればいい」


指揮官「創造は破壊から生まれる・・・と、よく言われるではありませんか」


天城「・・・ふふっ。とても面白いお方。長門様が認められた理由がよく分かります」


指揮官「・・・恐れ入ります」


天城「指揮官様、あなたには人を惹き付ける魅力があります。そして、それに見合う胆力もお持ちです」


天城「ですが、それだけでは足りません。それで、如何でしょうか? 私の全てをあなたにお伝えしたいのです」


天城「・・・万に一つ、私が亡くなろうとも、あなたが私の全てを受け継いで貰えるなら私は・・・。承諾して、頂けますか?」


指揮官「・・・はい! 願ってもいないお話です! よろしくお願い致します!!」







・・・・・






指揮官「それから、俺は天城さんから、多くの事を教わった。実際、彼女の繰り出す策は思いもよらないものばかりだったよ」


指揮官「まるで、大昔の諸葛亮孔明やら、竹中半兵衛のような天才を、間近で見ているみたいだったさ」


駿河「それほどまでに、凄いお方だったんですか・・・」


指揮官「あぁ、本当に凄い人だった。その頃だ、赤城と会ったのも」


駿河「・・・ん? それって何年前の話ですか!?」


指揮官「えーっと、軍縮条例が締結される8年くらい前だから・・・」


駿河「・・・いや、やっぱり答えなくていいです」 (下手したら私より年上とか? 本当に化物じゃない・・・)


指揮官「あ、そう。まあ、俺にとっては、赤城は年の離れた妹か、自分の娘みたいな子だったよ」


指揮官「・・・しかもかなり生意気な小娘って感じでなぁ」ハァ-


駿河「何ですかそのため息は」


指揮官「いや、あいつは本当にイタズラっ子でなぁ・・・。俺を子分呼ばわりしたし、仕事の邪魔はするし、帳簿の数字を勝手に弄くったりなぁ・・・」ハハハ


駿河「とんでもない悪ガキじゃないですか!」


指揮官「あっ、この話は絶対あいつにするなよ? 俺から話してどんな反応するか視てみたいからな」


駿河「随分と趣味が悪いですね」


指揮官「あー・・・、すまん、話がそれた。その天城さんな、ちょっと体をやっちまってなぁ」


駿河「何ですかその漠然な物言いは」


指揮官「・・・天城さんと赤城、そして加賀は、戦艦として造られた。だが、軍縮条約によって、3人は空母に改装されることになったんだ」


駿河「それが、今の赤城様と加賀さん・・・ということですか?」


指揮官「そういうこと。でも天城さんは、改装できなくなった。改修工事の途中に巨大な地震が起きてな。そのせいで、リュウコツがやられちまった」


駿河「りゅ、リュウコツって・・・、それじゃあ・・・」


指揮官「・・・あぁ。空母への改装は中止された。それだけじゃなく、体も弱ってしまってな」


駿河「・・・・・・」


指揮官「あの頃の加賀は・・・。まあ、今は赤城を慕ってるが、あのときはすごかったぞー。ひっきりなしに2人の怒号が母港中に響いてた」ハハハッ


駿河「・・・全然想像尽きませんね」


指揮官「そうかい? まあ、加賀は天城さんをライバル視しててね。いつも引っ付いてる赤城をよく挑発してたもんさ『天城の腰巾着』だなんだとね」


指揮官「それに対しての赤城の反論はいっつも決まって『髪だけでなく頭まで真っ白の分からず屋』だ。本当に見てて微笑ましかったもんだ。ガキの頃まんまだしなぁ!」アッハハ


指揮官「はぁ・・・。そんな天城に勝つために、強者であるためには、戦艦でなくてはならない。飛行機を馬鹿みたいに飛ばすだけの空母では強くなれないと、よく洩らしていたよ」


駿河「・・・でも、加賀さんは空母に・・・。天城さんのお力ですか?」


指揮官「・・・あぁ。昔の・・・戦艦だった頃の加賀は、天城さんより強いことを証明すると、単騎で鏡面海域に飛び込んで行った」


駿河「なっ!? そんなの自殺行為では・・・」


指揮官「あぁ。だから、天城さんは自分の残り少ない命を削って、加賀を助けた。そして、空母への改修を受け入れるように説得してくれた」


指揮官「・・・本当に、あの人はすごい人だよ。俺がもう少し、御狐殿と一緒に上に掛け合えたら、2人は戦艦のままで、そうしたら天城さんも長生き出来たかもしれない」


指揮官「・・・御狐殿や加賀を責めるなんてことは絶対にしないが、俺はあいつらから殴られても文句は言えないさ。上の言いなりになるしかなかったんだからな」


駿河「・・・・・・」


指揮官「そして、赤城と加賀の改修の当日、天城さんは2度と起き上がれなくなってしまったーー」








・・・・・





ーー俺は、天城さんのことを聞いて真っ先に駆けつけた。そこには、寝たきりになってしまった天城さんがいた。






指揮官「天城さん!!」バタンッ


天城「・・・あぁ・・・指揮官様・・・申し訳ございません・・・いま・・・げほっ! 」


指揮官「無理に起き上がろうとしないでください!! 天城さん! 何であんな無茶を!! あなたは、ただでさえ寿命が・・・!!」


天城「・・・ふふっ・・・指揮官様・・・、さいしょ・・・げほッ!ゴホゴホ!! ・・・さいしょに・・・お会いしたときのこと・・・おぼえていますか?」


指揮官「・・・はい。あのときのことは、忘れずに覚えています!」


天城「わたしが・・・あなたに・・・すべてを・・・教える・・・と・・・げほげほっ!! ・・・はぁ・・・はぁ・・・」


指揮官「はい・・・。『あなたに私の全てを受け継いで欲しい』。あなたはそう仰いました」


天城「・・・ふふっ・・・ほんとうに・・・おぼえて・・・くれて・・・」


天城「赤城が・・・愛情を・・・加賀が・・・意志を・・・それぞれ・・・わたしの・・・」スッ


指揮官「あ・・・天城さん・・・!!」ギュッ


天城「わたし・・・てを・・・」


指揮官「はい! 俺は、あなたの手を取り続けます!! あなたを決して離さない!! だから!!」


指揮官「だから・・・だから・・・どうか・・・」グスッ












「行かないで・・・ください・・・」
















天城「・・・ふふっ・・・重桜の男子は・・・ひとのまえでは・・・なみだを・・・流さない・・・ものです・・・よ?」


指揮官「・・・すみません。でも、でも今だけは、涙を流させてください・・・」


天城「・・・ぁぁ・・・ほんとうに・・・すばらしい・・・お方・・・わたしの・・・ために・・・」


指揮官「・・・はい。あなたのおかげです。でも、俺はあなたからまだ学べていない。これからも教えを請いたい・・・。だから・・・!」


天城「あなた・・・なら・・・重桜・・・あのこ・・・を」


指揮官「それはありえません。重桜には、俺たちには、まだあなたの力が、知謀が必要なんです! だから!!」


天城「いいえ・・・もう、お別れ・・・です・・・ね・・・」


指揮官「天城・・・さん?」


天城「しきかん・・・さま・・・げほっ・・・げほっ・・・!!」


指揮官「天城・・・さん・・・」ギュッ


天城「しきかんさま・・・、おねがいします・・・」




.






天城「あの子と・・・、重桜を・・・どうか・・・」










「守って・・・あげて・・・」

















指揮官「・・・・・・天城さん・・・・・?」


指揮官「天城さん・・・天城さん! 天城さん!!  天城!!!! 起きろ!!! 死ぬな!!! 死なないでくれ!!!!!」ユサユサ


指揮官「うぅ・・・何でだよ・・・なんで・・・」











・・・・・






指揮官「・・・俺はあの人の死を受け入れられずに、その人の亡骸を抱きしめたまま泣き続けた。親を失ったような・・・すっぽり穴があいた感じになったよ」


駿河「・・・そう・・・だったんですか・・・」グスッ


指揮官「・・・あぁ、済まないな。ほら」 つ   ハンカチ


駿河「・・・すみません。お借りします」グスッ







・・・・・




ーーそれから脱け殻になった俺は、突如、重桜のお偉いさんから呼び出された。









指揮官「解任!?」


幹部「うむ! 君はよく尽力してくれた。大切な人を失ってさぞ辛いだろう。暫しの間、ゆるりと休まれるがいい」


指揮官「ですが・・・! ・・・わたしには、彼女との約束があります。皆から離れるわけにはーー」


幹部「若造、我々の決定には黙ってしたがった方が良いぞ。平穏無事に暮らしたいのならば・・・な」


指揮官「納得できません!! せめて皆に別れを言う機会をーー」


幹部「御狐も納得しての答えだ。お前には拒否権も何もない」


指揮官「なっ、御狐様が!? まさか、そんなことがーー」


幹部「ふん、この際だからはっきり言おう。お前のような存在は邪魔なんだよ。我々、重桜の発展には、貴様のような奴がいては足手まといだ!」


指揮官「っ・・・、わかりました。今まで、お世話になりました」






・・・・・



指揮官「後になって知ったんだが、そのお偉いさんはアズールレーン脱退に賛同していたみたいでな。体よく切り捨てられたよ」


指揮官「だが、俺は切り捨てられて良かったと思う。重桜の行く末は見届けられないが、俺の手で重桜が間違いを犯すことはなくなるからな」


指揮官「・・・それで、俺は世捨て人のようにひっそりと暮らしていたというわけさ」


駿河「・・・指揮官、ありがとうございます。そんなことがあったにも関わらず、また・・・。これ、後で洗ってお返ししますから」


指揮官「あぁ。・・・それからは、まあ、以前話した通りだ。御孤殿を見送った後、アズールレーン陣営に身を寄せていた」


指揮官「風当たりは強かったが、重桜との戦いに利用できるだろうと、飼い殺しにされたよ」


駿河「・・・そんな状態で、どうやって赤城様たちとの戦いを?」


指揮官「・・・三笠殿と瑞鶴らの新生連合艦隊が、赤城を討伐するために派遣されたアズールレーン陣営が率いる艦隊付近を航行していてな。俺もそこに連れられていたんで、ひっそりと密会してたんだ」


駿河「密会って・・・」


指揮官「堂々と行ったら絶対に行かせて貰えないからな。一応義理は通そうと別れの挨拶はしたが、まあ案の定で殺されかけたよ」アハハ


駿河「笑い事じゃないですよそれ・・・」






・・・・・






ーーミッドウェー海域近海ーー





指揮官「軍神殿!!」


三笠「お主は・・・指揮官か!? 今までどこで何をしておったのだ!」


指揮官「すみません。一時とはいえ、敵方、アズールレーン側に少し厄介になってました」


三笠「・・・そうか。ともかく、無事で安心したぞ。我らは赤城を追っている。共に来るか?」


指揮官「赤城を・・・!? ・・・はい、俺もそのつもりで来ました。いま、アズールレーンの連中も、赤城を狙っています。連中に、一度話を付けてきたいのですが・・・」


三笠「うむ、お主に全て任せる。何かあれば、我らが援護しよう。なに、どうせ2度と会わぬであろう連中だ。少しくらいは手荒でも構わん」


指揮官「えぇ、そのつもりですよ」ニヤッ






ーー同海域   アズールレーン 作戦機動艦船ーー





アズ指揮「ーーつまり、ここで私たちと別れたい・・・と?」


指揮官「はい。お世話になったご恩は忘れませんが、俺には彼女たちの方が大切です。無礼を承知ですが、どうかご了承いただきたい」


アズ指揮「・・・なるほどねぇ。でも、君が敵になると少し厄介だ。戻ると言うなら、ここで始末するしかないかな?」  つ  拳銃


指揮官「・・・本気ですか? 俺が戻れば、赤城を始めとした重桜陣営を手懐けることが出来るかもしれませんよ?」


アズ指揮「でも君はそれに失敗して流れ着いて来たんだろう? しかも、こちらの内情を少なからず知っている者を敵に流すなんて、バカな真似はしないさ」


指揮官「・・・では、本気で殺すつもりですか?」


アズ指揮「2度も同じことは言わないよ?」 スチャッ


指揮官「・・・左様ですか!!」 ドロンッ


アズ指揮「っ・・・!! スモークか!? どこに逃げるつもりだ!!」ゴホゴホ







・・・・・








ーー同海域  連合支援艦隊 甲板 ーー






三笠「・・・・・・」


瑞鶴「三笠大先輩、そろそろ出発しないと、赤城先輩たちに逃げられますよ?」


三笠「うむ・・・。もうそろそろ来るはずなのだが・・・。・・・来た!」


瑞鶴「あれは・・・海鳥ですか?」


海鳥「」スタッ  ドロンッ


瑞鶴「うわぁ!!」


指揮官「ふぅ・・・。お待たせ致しました、軍神殿。いやぁ、鳥の姿はあまり馴れないもので・・・」サッサッ


三笠「うむ。よくぞ、無事に戻ってきてくれた。どれ、羽毛が着いておるぞ」ヒョイ


指揮官「おっと! 失礼しました・・・」


瑞鶴「と、鳥、ケムリに、ヒト、人がぁ・・・」パクパク


三笠「落ち着け瑞鶴。このお方が、我がよく話していた指揮官だ」


指揮官「初めまして・・・かな? 君が瑞鶴か。君の武勇はアズールレーン側にも轟いていたよ。・・・お姉さんがいると聞いたけど?」


三笠「翔鶴のことか? 奴なら、そこで泡吹いて倒れておるぞ」


翔鶴「」ブクブク


指揮官「あちゃー・・・。って、それどころじゃない!! 連中、俺を殺すつもりでした。俺の居場所がバレる前に逃げましょう!」


三笠「やはりそうなったか。致し方ない。一度海域から離れるぞ。 各員、疾風迅雷の勢いで海域より離脱せよ!」


瑞鶴「はっ、はい!! ほら、翔鶴姉ぇ! 起きて!」ペチペチ


翔鶴「はっ!? 私は一体・・・」


瑞鶴「この海域から離脱するよ! ほら!!」


翔鶴「えっ!? ちょっとー!」





・・・・・




駿河「・・・変化の能力、持っていて助かりましたね」


指揮官「ああ、全くだ。まさか役に立つとは思わなかったよ」


指揮官「甲板から海に落ちていって魚に変化するだろう? そこから思いっきり泳いでから鳥になったりと、いやぁ大変だったなぁ」


駿河「・・・それから、赤城様たちと戦うことに?」


指揮官「まあ、アズールレーン側の追撃も多少はあったがね。三笠殿らが率いていた量産型の1隻にのせてもらった。そして、ミッドウェーであいつらと出会ったよーー」






・・・・・





ーーミッドウェー海域 連合支援艦隊 甲板ーー





指揮官「軍神殿、一つお願いがございます。砲火を交える前に、赤城と話す機会を頂きたいのです」


三笠「・・・お主の知っている、昔の赤城ではないかも知れぬのだぞ。それでも良いのか?」


指揮官「・・・はい。それを見極めるためにも。俺が折り合いをつけるためにも、あいつとは話をしなければならないのです」


三笠「・・・分かった。だが、向こうが何もしてこないとは限らぬぞ?」


指揮官「分かってます。・・・3時の方向!!敵艦載機接近!! 迎撃せよ!!」


三笠「なに!? 瑞鶴!!」


瑞鶴「了解!! ・・・敵艦載機、撃墜」


翔鶴「・・・はぁ。急襲なんて、本当に性格の悪さが滲み出てますね」


指揮官「あいつの戦術は、ほとんどが天城さん譲りだ。俺が見抜けないはずがない。・・・まあ、それは向こうにも同じことが言えるが」


三笠「・・・指揮官、次はどう出るか?」


指揮官「奇襲が上手く行かなければ、恐らく正攻法で来ます。ですが、それではこちらが防戦一方です。よって・・・」


三笠「何か策が?」


指揮官「量産型を、相手の視界のギリギリまで前進させます。そして我々はそれらを囮に、奇襲を・・・と」


三笠「ふむ・・・。まあ、やるだけやってみるとしよう。お主はどうやって赤城と言葉を交わすつもりだ?」


指揮官「失礼を承知で、もう一つ軍神殿にお願いが。軍神殿の筆をお借りしたいのですが」


三笠「筆を・・・?」







ーー同海域  重桜艦隊  空母赤城 甲板ーー






赤城「・・・・・・」


加賀「姉様。急襲を仕掛けた艦載機が全滅しました」


赤城「・・・そのようね」


加賀「本当に、相手にするおつもりですか?」


赤城「えぇ。邪魔モノは全て消しておきたいの。それが同胞であれ、軍神であれ、ね」


加賀「・・・わかりました。・・・姉様、あれは・・・?」


赤城「っ・・・」キッ


加賀「伝書鳩・・・ですか?」


赤城「海鳥だけれど・・・。へぇ・・・」


加賀「手紙には何と?」


赤城「三笠様が私と話がしたいと。加賀、ここは任せるわ」


加賀「わかりました。どうかご無事で」








ーー同海域  連合支援艦隊 甲板ーー







指揮官「ふぅ。これであいつが応じてくれるといいんだが」ドロンッ


指揮官「・・・あいつ、本気で人類を敵に回すつもりなのか? そんなことしてもあの人はーー」




赤城「やっぱり、指揮官様だったのね」


指揮官「・・・久し振りだな。赤城」


赤城「指揮官様も、ご機嫌麗しゅうございます。てっきり隠居されたものかと」


指揮官「そのつもりだったんだがね。縄張り意識が強いもんで、住み処の近くで騒がれると気が休まらんのよ」


赤城「そうですか。そのまま眠って頂けた方が、私としてはありがたいのですけれど」


指揮官「・・・なぁ。お前、本気で人類を敵に回すつもりなのか? 」


赤城「でなければ、こうしてあなたの前には立ちませんわ」


指揮官「人類を、いや、俺を恨んでいるのか?」


赤城「恨む? そんな生易しいものではないわ」


指揮官「・・・お前、天城さんを甦らせるつもりなのか?」


赤城「・・・ええ、そうよ。重桜の奇跡、ワタツミの力に、レッドアクシズの持つセイレーンの研究。これらを合わせれば、天城姉様をーー」


指揮官「そうやって、亡くなったヒトの尊厳を奪うつもりか」


赤城「・・・なによ」


赤城「あなたに何が分かるのよ!!」


指揮官「天城さんは最期に俺に残してくれた。重桜の未来を、重桜のみんなを俺に託してくれた!」


指揮官「・・・お前のことを、頼むって、言ってくれたんだぞ・・・?お前は大切にしてくれたヒトの尊厳を踏みにじって、自分の願いを叶えるのか? あの人はお前にそんなヒトになって欲しいって望んだのか!?」


赤城「・・・さい。うるさいうるさいうるさーーい!!!」


赤城「わたしは、私は天城姉様が苦しんでいる最中、そんなことも知らずに改装されていたのよ!? 人間の勝手で、望んでもいない改装をされていたの!!」


赤城「わたしはただ、お礼が・・・言いたい・・・だけなのに・・・」


指揮官「・・・やっぱり、今の俺とお前は、相容れないのかも知れないな」


赤城「・・・そうよ。あなたも、わたしも・・・。もう戻れない。結局、戦うしかないのよ・・・」


指揮官「・・・俺は、あの人の遺志を尊重する。あの人の愛した重桜を守り続ける。そのための障害なら、何だって討ち滅ぼす・・・」





「例えそれが、大切な存在だったとしても・・・」





赤城「私は、私の願いを叶える。セイレーンの技術を使って、天城姉様を甦らせる。それを阻むジャマ者は、誰であろうと消し飛ばす・・・」




「それが私の全てだとしても・・・」






・・・・・


後書き

この作品を読んで頂き、ありがとうございます。R-18タグを付けましたが、もしかしたら書かないかもしれません。

物凄いスローペースで書き上げていくのでたまーに見に来て頂ければ幸いです。


このSSへの評価

このSSへの応援

1件応援されています


x焔xさんから
2020-06-02 05:24:00

このSSへのコメント


このSSへのオススメ


オススメ度を★で指定してください