2016-10-06 17:23:28 更新

概要

前作 : 鳳翔「私たちは、傭兵かぶれのごろつきですから………」

の続きとなります。

傭兵として活動する傍らで、自身の未来を全て奪われた提督たちが自分らを陥れた連中に報復していく。それも遂に終わりを迎える。


前書き

この物語は、艦隊これくしょん ー艦これー の二次創作であり、実在する団体、地名、組織とは一切関係ありません。

拙い文章、表現、キャラ崩壊あり。


今まで書いていたSSとは別世界の物です。設定などは、別物になるのでご注意を。

すぐ終わらせようと思ったけど長引いたね。

前作は下記リンクより。


前作 : 鳳翔「私たちは、傭兵かぶれのごろつきですから………」






・・・・・・







翌日、提督の下に箕島少佐が自害したという連絡が入った。あれほどの失態だ、言い逃れも許されずに追い込まれたといったところだ。



提督「………喜ばしいことではあるが、妙高には気の毒だな。あれだけ恨みを持っていた者が死んでしまったわけだ」


扶桑「では、事前に立てていた作戦が崩れるということですね。どうするおつもりですか?」


提督「決まっている。一息に攻め込むつもりだ」


鳳翔「数の差は目に見えてこちらが不利です。が、それでもですか?」


提督「確かに、物量の差は否めない。そこでーー」


大淀「提督、緊急事態です!! 横須賀から、6つの艦隊で編成された連合艦隊がこちらに向かってきています!」


提督「誰が指揮を執っている?」


大淀「…………自らで、攻めてきました」


提督「…………ははっ。こちらから行く手間が省けた。すまん、少し待ってくれ」





提督は大急ぎで机の上に置かれている電話を手に取る。昔懐かしのダイヤル式の黒電話だ。最近あまり見かけませんねぇ………。




提督「よう、元気にしているか?」


大将《やあ、兄さん。結構やらかしたみたいだねぇ。こっちにも話は来ているよ。父親を殺して元帥を自称してるって?》


提督「そこまで知っているならば手間が省ける。そろそろ身を引いても構わんぞ?」


大将《………兄さん、その事なんだけどね。母さん、昨日亡くなったばかりなんだ》


提督「なっ……………」


大将《母さんはね、兄さんが何か大きな事をやろうとしていることを知っていたみたいなんだ。いや、親の勘って奴だなんて言ってたけどね》


提督「…………そうか」


大将《死ぬ間際に、こういったんだ。 "例え何があっても、アンタだけは兄に付いて行ってやれ” って。 ”先に逝ってしまう私たちを許してくれ” って》


大将《兄さん、僕が海軍を辞める話をした時の条件を覚えてる? 今この瞬間は、もう僕を縛るものがなくなったんだ。島原の息子は僕を差し置いて元帥に。介護をしていた母は死んだ》


大将《だったら、やることは1つしかないっしょ!! 待っててよ、兄さん!!》





大将はその言葉を残し、電話を切った。切る直前にドタバタと後ろが騒いでいるのが電話越しでも伝わってきた。




提督「馬鹿弟が。これで地獄は満杯だぞ………」


大淀「提督………」


提督「何をしている。全員を集めろ」


大淀「は、はい!!」






提督からの指示があってから数分で皆が集まる。鳳翔の礼の言葉で皆が敬礼し、提督は現状の説明から話を進めていった。





提督「立て続けの侵攻にいささか疲弊の色も伺えるが、これで最後だと思ってくれ」


提督「たった今、我々の仇敵が横須賀からこちらに向かっているとの情報を得た。自身の手下を連れて、6つの艦隊からなる大艦隊を引き連れてだ」


提督「奴は先の作戦で我々が追い返した、箕島少佐を自害に追いやった。自らの判断ミスを否定し、本人に責任を取らせた」


提督「私は今日のこの戦いに命を賭す覚悟で挑もうと決意している。私は彼に会い、私自身で彼の命を奪う。それは同時に、私が敵の手中にわざわざ入り込むということだ」


提督「…………そのために、私と彼が一騎打ち出来る機会を、お前たちに作って欲しいのだ」


扶桑「…………」


提督「身の危険があることは重々承知している。だが私は、私の過去とケリをつけなければならないのだ。頼む………私のために、お前たちの力を貸して欲しい」




皆が沈黙を保ったまま、提督を見続ける。今まで冷静に振舞っていた提督が、こうも熱っぽい人間であったなど、一体誰が想像出来ただろうか?


だが、皆は口を揃えて言うのであった。



”了解” と。たった二文字であるが、ここには多くの意味が込められているのだろう。恨みを晴らしたい者、提督の力になりたい者、自分が自分であることを証明したい者ーー






ーー戦いを望む者。






提督はそれを全て汲み取り、皆の前でこう言い放つ。


提督「我々は敵を、リアウ島で迎え撃つ。私からは1つだけ言わせてもらいたい」


提督「奴らを見かけたら、迷わず撃て。奴らを生かして帰すな。サーチアンドデストロイだ!!!! 目に付いた敵は所構わず、命尽き果てるまで撃ち尽くせ!!!」








・・・・・・





翌日、提督の指示通りにリアウ島近海で敵を待ち構えることになり、ビスマルクを旗艦に殆どの艦娘がここに投入されている。


実際のところ、何時になったら来るのか正確に時間をつかめることは出来ずに士気は下がり、随分と暇を持て余している状態なのである。




ビスマルク「Heute wollen wir ein Liedlein singen, Trinken wollen wir den kühlen Wein〜♪」


陽炎「…………」


ビスマルク「Und die Gläser sollen dazu klingen, Denn es muß, es muß geschieden sein〜♪」


川内「何なのその歌?」




ビスマルクが鼻歌交じりに歌を歌っていることに気がついた川内はビスマルクに尋ねた。




ビスマルク「…………ドイツの歌よ。大戦の時に、ドイツはイギリスに攻め込んだ話は知っているでしょう? その時ね、海兵隊もよく歌ってたのよ。この国では、イギリス征討歌っていうのかしら?」


川内「また物騒なのを歌って………」


ビスマルク「確かにね。でも、少なからずこれが戦意を向上させる効果があったから歌ってたのよ」


陽炎「どんな意味なのよ? その歌」


ビスマルク「…………故郷を離れてイギリスに進軍する。家族のみんな待っててね……みたいな感じかしら?」


陽炎「今歌っていたところは?」


ビスマルク「…………今日は小唄を口ずさんで、冷やしたワインを呑み明かそう。別れを紛らわすのに乾杯しようじゃないか と言ったところかしら?」


川内「ふーん。やっぱりどこの国も、残してきた人が歌に組み込まれてるんだねぇ」


ビスマルク「日本にはどんな歌があるのかしら?」


川内「日本………なんかあったっけ?」


陽炎「うーん……………」


吹雪「何の話ですか?」


川内「戦時中に歌われた曲ってどんなのがあったっけ?」


吹雪「えーっと……………」


ビスマルク「…………何か、申し訳ないことしたわね」


吹雪「あっ! 裏町人生とか?」


川内「ちょっ、そっちじゃなくて軍歌の方だよ!!」


陽炎「よく出てきたわねその曲」


吹雪「軍歌…………海軍小唄とかですかね?」


川内「あ〜、そういえばよく歌ってたよね」


陽炎「あれって軍歌ってよりかは流行歌の一種だよね。さっきの裏町人生と同じタイプ?」


吹雪「後は………日本海軍? でも結構古めですよね」


ビスマルク「貴女………怒られるわよその発言」


吹雪「後は………月月火水木金金とか?」


陽炎「あぁ! あったあった! 覚えてるよ!!」


川内「うん、何かね〜…………。どれも聞きなれた感がして面白みが湧かないっていうか……」


陽炎「まぁ、確かにね…………」


吹雪「試しに歌ってみましょうよ。暇ですし、士気が上がるかも?」


ビスマルク「是非とも聴かせてもらいたいわね」


吹雪「…………ですって」


陽炎「あんたも歌いなさいよ」


吹雪「はーい」


川内「いくよー!! せーのーー」


赤城「敵艦を発見しました! 距離80!!」


ビスマルク「総員、戦闘準備!!」


川内「………はーい」


吹雪「…………」


陽炎「…………」





赤城の報告から少し経った頃、水平線に1つの艦影が確認できた。艦娘ではなく、本物の船だ。



川内「…………船?」


陽炎「船なんてあったのね〜、どうでもいいけど」


吹雪「鈴谷さん、あれ輸送艦ですよね。しかも、人員派遣用の」


鈴谷「おぉ! 本物じゃーん。初めて見たよあれが動いてるの」


衣笠「何あれ?」


吹雪「人員派遣用の輸送艦です。海軍の司令官が作戦海域に出向く際に使われていたものです」


鈴谷「今じゃ提督らが戦場に立つことは滅多になくなって、全然使ってないって聞いたんだけど〜」


熊野「あれを墜とすつもりなら、わたくしはお断りですわ」


夕立「だったらあのでっかいのは夕立たちに任せるっぽい!」


ビスマルク「なら、重巡と空母は私と一緒に艦隊の殲滅。軽空母と水雷戦隊は輸送艦の破壊ってことでいいかしら? 旗艦は川内に頼むけれど?」


川内「よし来た! やってやろうじゃないの!!」


陽炎「任せときなさいよ。コテンパンに沈めてやるんだから」


川内「由良は山雲と朝雲連れて左舷に。阿武隈は夕立と不知火を連れて右舷に展開。神通と北上、村雨と響を連れて後方に」


Верный「響じゃない。ヴェールヌイだ」


川内「陽炎と吹雪は私に随伴。遊撃を兼ねて正面から突っ込むよ!! 残りはビスマルクが使って!」


ビスマルク「確かに預かったわ。気をつけて」






・・・・・・







少将「閣下、前方に艦娘を確認。リンガ泊地所属の者たちです」


元帥「待ち伏せか」


少将「潰しますか?」


元帥「慌てるな。目には目を、埴輪には埴輪、庭には2羽鶏ってな。大和と長門をぶつけておけ」


少将「御意」




元帥の命を受け、大和、長門の両名は交戦体制に入る。



長門「フッ、よもや大和と肩を並べるとはな」


大和「ビッグセブンと虎の子兵器。2強で当たればお茶の子さいさいですよ」


長門「この長門、伊達にビッグセブンの名を背負っていないことを賊共に知らしめよう!!」


大和「日ノ元の平和を守るために、大和、押して参ります!!」



遠くから、リンガ泊地の艦隊は大和、長門の姿を捉える。そこに、意気揚々としている艦娘が一隻…………。



ビスマルク「彼女たちが大和に長門ね。お相手願おうかしら?」




単身で挑もうとするビスマルクに、一同は少し不安を覚えている様子だ。それもそのはず、旗艦が自ら先陣に立つのは中々に見ない光景だからである。






ビスマルク「大和に長門ね。私はビスマルク級超弩級戦艦のネームシップ、ビスマルクよ」


大和「ご丁寧にどうも。それで、降伏の勧告ですか?」


ビスマルク「私たちが受け入れると思う? 靡くつもりもないし、従わせるつもりはないわ」


長門「………やる気か?」


ビスマルク「そのつもりで来たのよ? じゃなかったら誰が待ち伏せなんて」




ビスマルクは一呼吸おいた直後、砲口を大和らに向ける。それと同時に、両名もビスマルクに砲口を向ける。互いに牽制し合っているのだ。



長門「武器を下せ。賊に加担する必要がどこにある?」


ビスマルク「あんた達が ”私” をどう評価するも勝手だけどさ、 ”私たち” を舐めるのは止めときなさいよ?」


大和「………何があったかは分かりませんけど、組織から逸脱した連中は反乱分子としか見られないんですよ?」


ビスマルク「聞こえなかったのかしら箱入り娘。私たちを舐めるなって………!!」



その直後、コンマ数秒の速度でビスマルクの砲口から煙が上がる。気がつくと、長門、大和の艤装は燃えており、砲台だけが損傷を受けるという脅威の早業が目の前で起きていた。





ビスマルク「次は動力部を撃ち抜くけど、どうする?」



此処までの威圧感を出されては、日本が誇る戦艦も、流石にこれには腰を抜かしてしまった。大和に至っては恐慌状態だ。



ビスマルク「さっさと戻ってそっちの元帥さんに話を通してもらえるかしら?」


長門「な、なんだ!?」


ビスマルク「うちの提督が、そちらの元帥を泊地で待ってるわ。護衛を少しぐらいつけて向かいなさい。でないと、そこの輸送艦ごと沈めるわ。此処にいるのは喧嘩っ早い艦娘しかいないから」



山雲「くしゅん!」


朝雲「大丈夫?」


山雲「大丈夫ですよ〜。海風に晒されて〜、身体が冷えたかもしれませんね〜」



長門「………大和、それでいいか?」


大和「………そうですね。少々お待ちを」



長門は大和を連れて、輸送艦へと戻っていく。少し時間を置くと、甲板上に元帥が現れる。



元帥「横須賀所属の元帥だ。何用だ!!」


ビスマルク「うちの提督があんたを待ってるの。一対一で話がしたいって。向こうにはあの時生き残った5隻しか居ないわ!」


元帥「………少将、艦隊の運用を貴官に全て委任する。私は彼の元へと向かおう」


少将「閣下! 危険すぎます!!」


元帥「今の彼らを作ってしまったのは私なのだ。見てみろ、ビスマルクの目を」


少将「………」


元帥「海軍の艦娘とは大違いだろう? 過去に囚われた、燻んだ目をしている。彼らが傭兵かぶれのごろつきと揶揄されるのも分かるだろう」


少将「ならば、私が行きます。閣下は此処で指示を!」


元帥「断じて認めん。彼らを作ったのは私だ。今の私を作ったのは彼らなのだ。お互いに、もう止めることはできなくなってしまったのだ。ならば、それを止めるのは私の、私と彼の務めなのだ」


少将「………総員、敬礼!! 閣下、どうかご無事で」


ビスマルク「話は終わったかしら? さっさと向かいなさい。此処はもうすぐ死地になるわよ」


元帥「………感謝する」





元帥は直ぐさま個人用のボートを使い、1艦隊分の艦娘を供にリンガ泊地へと向かう。


ボートが水平線に沈んだ頃を見計らって、横須賀とリンガ泊地の闘いの火蓋は切って落とされるのだった。









・・・・・・









リンガ泊地に到着した元帥率いる艦隊は、軍港で停泊している艦隊を見つける。そう、リンガ泊地最初の5隻と呼ばれる艦娘。3年前の事件を生き延びた艦娘だ。



扶桑「ようこそ、リンガ泊地へ。旗艦の扶桑型戦艦、姉の扶桑です」


元帥「そちらの提督に御目通りを願いたい」


鳳翔「1人でなら構いませんよ。そちらの艦隊は、私たちがお相手になります」



彼女らが立たせる雰囲気は恐ろしく強いものだった。殺気を放ち、明らかに敵意を向けている。



元帥「たった3年で、人も艦娘もこうも変わってしまうのか。…………比叡」


比叡「はい、お呼びでしょうか?」


元帥「頼むぞ」


比叡「………はい、お任せください司令官」


元帥「わかった。そちらの従おう」


翔鶴「そのまま、まっすぐ進んでください。そうすれば執務室が見えるので、中には提督が待っています」


元帥「了解した」



元帥は1人、リンガ泊地の司令部のある建物を進んでいく。



扶桑「さぁ、皆さん。一世一代の大勝負ですよ!!」








・・・・・・









建物をひたすら進んでいくと、執務室があった。扉を開けると、扶桑の言葉通りにリンガ泊地の提督は居る。




提督「久しぶりだな島原啓治。今は元帥の地位にあると聞いているよ」


元帥「お久しぶりで元大将殿。ご高名はかねがね伺っているよ」


提督「あんたに裏切られてから、生憎とその事を忘れた事がなくてな。お前を殺す事を朝な夕な夢に見ていたよ」


元帥「自分の行いを棚に上げて俺に裏切られたの何だのと、よく言えたもんだな」


提督「やはり、知っていたのか?」


元帥「あぁ、勿論知っていたさ。親父と共謀していたのもな。大方、親父はかつての過ちをお前に口出しして欲しくないから、後ろ盾していたんだろうな」


提督「……………ふん」




元帥「艦娘と、深海棲艦の関係性。それを調べるために、お前は艦娘を…………」




提督「……………国を救うためには、多少の犠牲はつきものだ。それが我々と同じ人間であれ、我々の戦友でもあり理解者である艦娘といえども、な」


元帥「だから、彼女もサンプルに使ったと? ふざけんなよクソ野郎!!!!」


提督「サンプルになり得れば、誰だって構わなかった。偶然にも、私の元にいた艦娘にその素質があった。それだけの話だ」


元帥「貴様…………自分の部下を、慕ってくれる者を蔑ろにして、良くもまぁ俺に復讐しようだなんて考えられるな!!」


提督「親の七光りに頼って海軍に在籍できた男が何を抜かす。………そうだ、お前が恋い焦がれた艦娘の名前を教えてくれないかね? こちとら両手で数え切れないくらいに手を汚してしまったのでね」


元帥「貴様ぁぁぁぁぁぁ!!!!!」




元帥は腰に携えた剣を抜き、提督に斬りかかる。







・・・・・・






リアウ島近海では、海軍の横須賀所属艦隊と、リンガ泊地の艦隊が入り乱れた戦闘が繰り広げられていた。



川内「水雷戦隊、行くよ!!!!」


由良「了解」


阿武隈「了解です!」


北上「さぁーて、やりますかねぇ」


神通「行きます!!!!」



事前の打ち合わせ通り、戦艦と重巡、正規空母は敵艦隊を。軽空母と水雷戦隊は敵輸送艦を攻撃する。



ビスマルク「ほらほらぁ!! かかってきなさいよ!!!!」


鈴谷「もぉ〜、おっかないなぁ〜」


熊野「とぉぉ↑おう↓!!!!」


鈴谷「こっちもこっちでおっかないや……」




戦艦と重巡は敵艦隊に向かってひたすらに突き進んでいく。泊地に押し寄せるて敵の撃退と、水雷戦隊が輸送艦を沈めるまでの囮にならなくてはならないのだ。



敵からの十字砲火に耐えながらも応戦している彼女らは、まさに獅子奮迅の働きという言葉がぴったりな艦隊であった。




衣笠「鈴谷!!!!」


鈴谷「どうよ? いけそう?」


衣笠「ううん。ちょっと厳しいかも。瑞雲とか飛ばせない?」


鈴谷「飛ばしてもいいんだけど………」




敵に囲まれた中で艦載機を飛ばすのは、行ってしまえば艦娘、艦載機のどちらにとっても無謀な賭けなのだ。


艦娘が沈んでしまえば艦載機は彷徨うことになる。飛ばせたとしても隙が生まれ、艦娘は沈むことになるかもしれず、艦載機も撃ち墜とされるのがオチなのだ。




妖精《鈴谷嬢ちゃん、ちょいといいかい?》


鈴谷「ん、どったの?」


妖精《あたいらは嬢ちゃんの為に戦えるなら本望さ。嬢ちゃんがその気なら、あたいらは従うよ?》


鈴谷「………ん、ありがと」


妖精《で、どうすんの?》


鈴谷「………うん、私も覚悟できた。行くよ?」


妖精《よし来たぁ!!! 世紀の大博打!!! 最初で最後の大一番だぁ!!!》


鈴谷「さてさて、いっちょ突撃と行きましょーー!!!! はっしーん☆!!」




鈴谷は意気揚々とカタパルトに瑞雲を載せて、発艦させる。搭載されているのは6機。その全てを発艦させる。







熊野「鈴谷、貴女………!? ………よし、わたくし達も行きますわよ!!!!」


妖精《アイアイサー。任せときんしゃい!!!》


熊野「一捻りで黙らせてやりますわ!!!!!!」





鈴谷に習い、熊野も瑞雲を発艦。鈴谷の瑞雲に同行する様に命じて、大空を突き進んでいく。






加賀「赤城さん、ご無事ですか?」


赤城「あっはは…………ちょっと不味いかもですね。制空権が押されつつあります」


加賀「流石、海軍ですね。統率がしっかりと取れていて隙がありません」


赤城「知らない間に、護衛艦と引き離されてしまいましたね………」


暁「赤城さん、大丈夫?」


敷波「ふぃ〜、やっと見つけたぁ」


赤城「皆さん! 大丈夫?」


暁「と、当然よ!」


敷波「いやいや、何言ってんのさ。実際危なかったって。夾叉で危うく戦艦に狙われかけたんだから!」


加賀「それは………危ないところだったわね」


暁「でも、もう大丈夫よ。みんな集まったし、怖くなんてないわ!」


敷波「おうともさ! 元呉鎮の力、見せてやろうじゃないか!!!」


赤城「加賀さん、貴女が旗艦です。指示を」


加賀「全艦、最大船速。暁、敷波。援護を」


暁・敷波「りょーかい!!!」





・・・・・・





川内「陽炎、吹雪!!!」


陽炎「よっしゃ! 任せて!!」


吹雪「行きます!!!」




川内率いる艦隊は、前方から突撃。輸送艦の艦首付近を重点的に攻撃していく。魚雷に主砲にと、様々な攻撃を当てていくがビクともしない。



陽炎「うっひゃー、こら硬いわー」


川内「無駄口いらない!! どんどん打ち込んで!!」


吹雪「は、はい!!」




由良が率いる艦隊は、左舷に展開。朝雲と山雲の2隻を連れている。



由良「大丈夫? まだ行ける?」


朝雲「全然いけるよ!!」


山雲「敵艦隊もこの位硬いといいのに〜」


由良「……………了解。みんな、気をつけて。制空権が押され気味みたい」


朝雲「流石に空母2人じゃきついよね………」


山雲「軽空母の皆さんも〜、そっちにむかわせていいんじゃないの〜」


由良「……………うん、そっちに移るって」


朝雲「とにかく、有りっ丈撃ち続けるわ!!!」





その反対側、右舷側には阿武隈が夕立と不知火が展開。一心不乱に叩き込んでいる。




不知火「沈めっ! 沈め!!」


夕立「魚雷も主砲もぽいぽいぽーい!!!」


阿武隈「あたしの指示に従って下さーい!!!!」




いつも通りであった。




後方では神通と北上が、村雨とВерныйが動力部を狙って攻撃を続けている。



神通「どうですか?」


北上「うーん。多少は動きが鈍っている様な気もするけれどねー」


村雨「まだまだ、主砲も魚雷もありありよー!!」


Верный「урааааа!!」


北上「やる気だなぁ………うざい位に………」


神通「私も、負けて入られませんね」


北上「はぁ、こっちもこっちでやる気に満ち溢れちゃってるよ………」







・・・・・・







提督の言葉に腹を立てた元帥が、遂に提督へと刃を振り下ろす。しかし、提督も負けず劣らずの速さで抜刀し、元帥の刀を受け止める。



提督「会話中に斬りかかるとは、穏やかじゃないね」


元帥「黙れ!!!! 貴様、一体どれほどの仲間を利用した!!!」


提督「俺だって………俺だって好き好んでやってたわけじゃねぇ!!!! 国を、俺たち人類を、彼女たちが戦わなくてもいい時代を創るには、ああするしかなかったんだよ!!!!!」


元帥「ふざけたこと抜かすなぁ!!!!!」




2人は互いに刀を受け止め、鍔迫り合いを解き、斬りつけての応対が続いていく。互いが斬りつけようとした時には刃が擦れ合い、鉄同士が当たる独特の高音を奏でている。





提督「深海棲艦を知ること!! それこそが、深海棲艦との戦いを終わらせる最大の切り札なんだよ!! 敵を知り己を知る。奴らを知れば、奴らを根絶やしにする方法があるかもしれない!!」


元帥「黙れ………黙れぇぇぇぇ!!!!! だからと言って、命を無駄に散らしていいという理由にはならない!!!!」


提督「奴らとの戦いを終わらせなければ、多くの者が死ぬかもしれないことが、まだ分からんのか!!!!!」


元帥「っ!! …………煩い。煩い!!!」


提督「彼女たちにも、許可を取っていた。彼女たちは、自分たちが実験台にされることを分かっていた!! そんな彼女らが、なんて言っていたか知っているか!!」


提督「彼女たちにも姉妹艦、信頼していた提督がいる。『みんなが戦わなくてすむ世界になるなら、思う存分使ってくれ』ってな!!!!!!」


元帥「それを聞いてなお、彼女らの命を散らした!! お前には人の心がないのか!!!!!!」


提督「無い訳ないだろうがぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」





鍔迫り合いから逃れるため、お互いが頬を握りこぶしで殴る。お互いが仰け反り、距離を取り始めた。





元帥「………もう俺たちは止められない。俺が死ぬか、はたまたお前が死ぬか。そのどちらかしか無い。勝った方が正義だ!!!!!!」


提督「馬鹿野郎が。現実を見ろ」




提督は親指を立てて、窓の方を指す。外では艦隊が戦闘を行っており、比叡側はほとんどが中破。扶桑側は未だに小破止まりで、ほぼ無傷の者もいる。




提督「人類同士でやりあった以上、どちらも正義ではない。そもそも、正義なんて概念がない。何故かわかるか小僧?」


提督「正義の逆、不義がないからだ。お互いが自信を正当化して闘っている。どれだけそれが間違った考えであろうが、歪んだ考えであろうとな!!」


元帥「…………お前は自分を慕っていた仲間を。私は実の父親を殺した。どちらにせよ、陽の下には出られない。決着をつけよう。生き残ればおっかなびっくり陽の下を歩き続けるだけだ」







・・・・・・






提督らが雌雄を決している最中、未だに敵輸送艦を落とせずにいる水雷戦隊。そこで、吹雪からある提案が出た。




吹雪「皆さん、攻撃を1ヶ所に集中させましょう! 片舷に攻撃を集中させれば、いずれ穴が開くはずです!!」


陽炎「え? そんなことありえるの?」


吹雪「………大戦中に、大和さんも武蔵さんもそうやって沈められたんです」


川内「なるほど、前例があるならいけるかも………」


阿武隈「具体的にはどうすれば?」


吹雪「…………」


川内「吹雪、あんたが言い出したんだから、あんたが指示だしなよ」


吹雪「…………北上さん、阿武隈さんは魚雷の発射準備を。その他の皆さんは、砲撃雷撃何でも構いません!! 左舷を狙って行きます!!」


阿武隈「りょーかいです! 任せて!」


北上「まぁ、妥当なところだよねー。いっちょ行きますかー!」




吹雪の指示で、皆が一斉に左舷を集中的に攻撃していく。




村雨「夕立、行くよ!!」


夕立「任せて!!」


陽炎「不知火? どんどん撃っちゃっていいから!!」


不知火「言われずとも、もとよりそのつもりですから」


川内「久しぶりじゃない? 一緒に戦うのは」


神通「そうですね。気分が良いので、今日ばかりは夜戦に持ち込んでもいいかもしれません」


北上「阿武隈〜、足引っ張んないでよ〜」ワシャワシャ


阿武隈「もう!! どさくさに紛れて前髪くしゃくしゃしないで下さ〜い!!」


朝雲「山雲、じゃんじゃん撃ってくよ!!」


山雲「朝雲姉〜 張り切りすぎだと思うけど〜?」


由良「山雲ちゃんは、もう少し張り切ってほしいなぁ………」


山雲「あら〜 心外だわ〜。山雲は〜、これでも結構やる気なんですよ〜?」


Верный「Огонь!!! (撃て)」


吹雪「Понятно!!! (了解)」


Верный「………ん?」








・・・・・・







ビスマルク「ほらほら、どんどんかかって来なさいよ!!!!」


鈴谷「よし、一隻大破まで追い込んだよ!!」


衣笠「一体、何隻投入してんのよ……………?」


妙高「……………」


赤城「皆さん! ご無事ですか!?」


ビスマルク「大丈夫よ。そっちは?」


加賀「一時期制空権を押し込まれましたが、今は五分五分までに留めています」


赤城「軽空母の方々がこちらに回って来てくれたので助かりました」


祥鳳「間に合って良かったです、本当に」


瑞鳳「本当に大変だったのよ? 最大船速で砲火の中を死に物狂いで200海里くらい戻ってきたんだから」


衣笠「戻って来た?」


祥鳳「ビスマルクさんが奮戦しているみたいですけど、完全に泊地に近付いてます。後退してきてますよ」


ビスマルク「………………」


熊野「………………」


妙高「猪突猛進。まあ、向こう見ずに一心不乱に立ち向かう様はそのままですね」


鈴谷「はぁ、息巻いていた私が馬鹿みたいじゃん…………」






などと舌打ちをして愚痴をこぼしていると、突然無線が入る。無線の相手は、提督の弟である海軍の大将であった。






大将《やぁ、佐世保の梶原だ。援護に来たよ》


赤城「えっ!? どこに?」


大将《随分と押されてるみたいじゃないですか。後ろを省みずに敵の相手をなさい。我々は後方で撃ち漏らしの相手をしておきますから》


イタリア《佐世保に所属してるイタリアです。後方はお任せ下さい。砲撃、雷撃、航空、対空、………心配いらないとは思いますけど一応対潜も。一通りの対処は可能です》


ローマ《姉さん、安請け合いはしないで。こっちにも限度はありますので、あまり期待なさらないように》


ポーラ《あっははは〜 ポーラには無理そうなので〜、呑んでるしかな〜いで〜すね〜》


ザラ《こらポーラ! またお酒持ち込んで…………って、こらー! 言ってるそばから飲まないでー!! 赤ワインと白ワインを一緒に飲んでどうするのよー!!》


衣笠「 (ジ○ッキー・チ○ンかな?) 」


鈴谷「 (○拳2のワンシーンにあったねぇそんなの) 」


リベッチオ《ローマさん大丈夫だよ?リベ、頑張るから!!》


アクィラ《よしよし、艤装もカタパルトもバッチリです。行きましょー……あ痛っ! ……ポーラ? 空瓶を海に投げ捨てないでくださいね? 躓いちゃいますから〜♪》


ザラ《あっ、ご……ごめんなさい! 後できつく言っておきますので》





一同「 (大丈夫かなこの艦隊…………) 」





大将《まあ、君たちの心中は察するけど実力は確かだから。それじゃあ、作戦指揮は旗艦のイタリアに一任。よろしくね?》


イタリア《はい、お任せ下さい!》


鈴谷「大将さんはどうするの?」


大将《私は横須賀に向かいます。内部から鎮静化を図って、この事態を一旦終結させようと思ってますよ。それじゃあ!》






・・・・・・







川内「うん、了解」


陽炎「何があったの?」


川内「大将さんが後方を支援してくれるって、艦隊を送ってくれたみたい。自身は横須賀に行って、これ以上の暴動が起きないように落ち着かせに行くってさ」


吹雪「ひとまず安心出来ますけど、私たちはこっちに対応しないと……」


北上「そろそろ沈めとかないと、艦隊が戻ってきそうだよねー。すっかり薄暗くなっちゃってさぁ………」


Верный「問題ない。その時はその時」


山雲「でも〜 動きがね〜、鈍ってきてるようにも見えるのよね〜」


朝雲「じゃあ、もうそろそろってところじゃない」


神通「皆さん、残弾は大丈夫ですか?」


川内「…………そろそろ打ち止めだよね」


北上「自慢の酸素魚雷も後20発………。うっひゃー、こらやばいわ………」


阿武隈「あたし的にも、そろそろまずいんじゃないかなーって思います………」


川内「ほらほらみんな! 夜は水雷戦隊の本領でしょ? どうせだったら、最後にどでかいの決めてやろうじゃないの!!」




泣いても笑ってもこれがラストチャンス。その意気込みで、川内は皆に声をかける。




一同「了解!!!」


川内「構えて!! 全員で一気に当てるよ!!」


神通「皆さん、準備はいいですね?」




神通の言葉に、皆が頷く。北上と阿武隈は雷撃。他の者は砲撃の後に雷撃を行えるように装填済みだ。




川内「突撃よ!!」


神通「行きます!!」


夕立「さあ、素敵なパーティもそろそろお終いよ!!!」


Верный「урааааааааа!!!!!」




川内を筆頭に、全員が砲撃を始める。砲撃が直撃した輸送艦は、着弾地点で煙をもくもくと立ち込めている。



川内「雷撃始めるよ!! 撃ぇ!!!」


北上「さあて、ギッタンギッタンにしてやりましょうかね!!」


阿武隈「阿武隈、期待に応えます!!」


吹雪「いっけぇぇぇぇぇ!!!!!!」






皆が魚雷を煙の中に飛ばしていく。位置は問題ないが、距離を考えると爆発が微妙に遅い。そしてその数秒後に、甲板から火の手が上がっている。


どうやら砲撃によって左舷に穴が開き、そこに魚雷が入っていったために、内部で爆発が起きたようだ。爆発が次々に起こっていることから、燃料などにも引火して爆発しているのだろう。注水が間に合わないようで船体が左に傾いている。



川内「うわぁ、すっごい爆発…………」


神通「姉さん、やりましたね」


川内「………うん、お疲れ」






・・・・・・






扶桑「そろそろ引いては如何ですか? その状態で、勝ち目はないと思いますよ?」


比叡「………」




リンガ泊地の周辺では、扶桑率いるリンガ泊地の艦隊と、比叡が率いる横須賀の艦隊が雌雄を決している。




比叡「あなた達は、自分の司令官が何をやっていたのか知っているんですか?」




比叡は唐突に、扶桑達に話を持ちかける。その様子に、少々呆気にとられながらも、扶桑はいつもと同じ口ぶりで話す。




扶桑「もちろん。だからあの人について行ってるんですよ?」


比叡「………教えて下さい。私の司令官は、その事を話してくれないんです」


鳳翔「………………」


扶桑「それを話したところで、貴女はどうするつもり?」


比叡「……………」


扶桑「…………まあいいでしょう」




扶桑はかつての思い出を、振り返りたくない過去を無理やり引きずり出しながら、淡々と話していく。




扶桑「私たちの提督は、元々元帥閣下。貴女達の提督の父君の元にいました。その事はご存知かしら?」


比叡「…………はい」


扶桑「その時、元帥閣下を筆頭に、直轄の第2から第4艦隊の数人の提督達で極秘に進められた計画がありました。それは、『艦娘と深海棲艦の関係性』を調べるというものでした」


比叡「…………そこまでは知っています。そこで何があったのか……。私は司令から、私のお姉様が利用されたと、聞いています」


扶桑「誰がどうなったか知らないけれど、その時は『艦娘は深海棲艦へと姿を変えられるのか? その反対は可能なのか?』といった事が研究されていました」


扶桑「その事を知っているのは恐らくもう私たちしかいないわ。でも、誰もが忘れたい記録よ」


鳳翔「………扶桑さんと山城さんは提督の元に、私は当時の第3艦隊に、翔鶴さんと瑞鶴さんは当時の第4艦隊に所属していて、それぞれの提督の元で秘書艦ないしエースとして籍を置いていました」


翔鶴「私たちがどこに所属していたのかは、提督にも話していない。私たちだけの秘密…………」


扶桑「…………その計画は、成功したのよ。半分だけね」


比叡「半………分…………?」


扶桑「艦娘から深海棲艦は成功したのよ。でも、その反対の深海棲艦から艦娘は…………」


鳳翔「それを私たちは秘匿することにしました。元帥直轄の提督達は、現在の地位を守るという条件の元にそれを承諾。今ではその研究自体も存在しなかったものとして扱われています」


比叡「…………そこに、金剛お姉様も……」


扶桑「さあ? 私は知りませんけど、居たかも知れまーー」


鳳翔「居ましたよ。私は全員を憶えています。私だけじゃなく、扶桑さんもしっかりと覚えているはずです」


比叡「…………一体、幾つもの艦娘を使ったんですか?」


扶桑「………金剛さんに伊勢。蒼龍さんに天城さん。軽巡では大井さんに五十鈴さんに龍田さん。重巡では愛宕さんに鳥海さん、古鷹さんも。あとは………」


翔鶴「駆逐艦の子たちね。朝潮さんに綾波さん、子日さんに如月さん。春雨さんに秋月さん…………」





今挙げた名前。それは今ここに居る姉妹の名前が挙げられている。勿論、リンガ泊地の所属になっている艦娘の姉妹も例外ではない。



比叡に日向。飛龍、雲龍、高雄に摩耶。元帥の連れてきた艦隊の皆が、扶桑達に憎悪の眼差しを向ける。





比叡「…………最っ低ですね」


山城「…………」


瑞鶴「…………」


翔鶴「そうですか? 無駄に戦いを長引かせるのも、大して変わらないと思いますよ?」


扶桑「そもそも、こうして人間同士、艦娘同士で戦争を起こしているんですから。あなた方に最低などと言われる筋合いはありません」


日向「扶桑、お前も随分と変わったな。3年前とは大違い。山城も負けず劣らずだ」


蒼龍「そこの鶴姉妹ならともかく、鳳翔さんもそんな事に関わってたなんてね」


雲龍「………そう、そこにきっと私たちの提督は耐え切れなかったのね。健常者と思っていた艦娘までもが悪事に加担して、その上事実を秘匿されて………」


高雄「………狂った提督に、ろくでなしの艦娘。そんな連中に聞く耳なんて持つ必要はありません」





高雄のその言葉に、翔鶴は黒い笑みを浮かべる。他人を貶める事を喜ぶような、まさに悪女という言葉が似合う笑みである。





翔鶴「………ふふっ。私たちの狂気は貴女達の提督が保証してくれるみたいですけど、貴女達の提督の正気はどこの誰が保証してくれるんでしょうね?」


扶桑「私たちは『傭兵かぶれの ”ごろつき” 』ですよ? いったい何人の命を奪ってきたと思ってるんですか?」


鳳翔「 ”狂っている” ですか………。3年言うのが遅すぎますよ? 真実を何も知らない自称健常者が率いる艦隊さん?」





畳み掛けるような言葉に、比叡たちは押され気味になる。憎悪がここまで人格を歪めてしまうものなのかと彼女らは憐れみと憎悪をまとい、扶桑たちを見る。


そんな中、これが自分たちの末路かと思うと反吐がでる。そういった目で扶桑達を睨む艦娘が一隻いた。




摩耶「どうでもいいんだよ、そんなの。あたしから言いたいのはたった1つ。沈んで詫びろクズ共!!!」





摩耶は単身、扶桑へと殴り込もうと最大船速で近く。しかし扶桑は正確な狙いで摩耶を撃ち、一撃で大破まで追い込んで動きを止めさせる。





摩耶「…………チッ、クソが!」


扶桑「…………引いてください。これ以上の戦いは意味がありません」


比叡「………意味がない? ふざけないで下さい!!」


扶桑「…………そうですか。今の貴女達も、私たちと変わらない姿をしているというのに………」


比叡「っ………!!」


翔鶴「そろそろ彼方は終わったのでしょうか?」


扶桑「きっともう終わってますよ。こちらも終わらせましょう。このくだらない茶番も、私たちの過去も」








・・・・・・






あれから数分の間に、提督と元帥の間では100合にも及ぶせめぎ合いが行われていた。お互いに鍔迫り合いになれば互いで蹴り合い、頭突きを交わし合ったりなどの応対が続いていたが、つい先ほど提督の一突きが元帥の体を貫いた。



提督はそれを一気に引き抜くと、返り血が顔に降りかかり、刀身に血が伝い、提督の手は、袖は、顔は、血で塗れていく。


元帥は刀を腹部から抜かれたと同時に力が抜けたように膝を崩し、仰向けに倒れる。意識はあるようだが、それも僅かの事だろう。



提督「よう、生きてるか?」


元帥「…………へっ、クソッタレが」


提督「あんたらが乗ってきた輸送船はとっくに沈んでる。総被弾数は100にも及ぶ数だとさ」


元帥「…………比叡達は?」


提督「じきに決着がつくだろう。あの状態じゃあ、お互いに止められなくなるだろう。俺たちみたいにな」


元帥「…………やはり、提督と艦娘は親子みたいなものなのだな………。彼女らは、俺たち提督の写し鏡みたいになりやがる。思考までもが、俺たち提督見たくなりやがってよぉ………」


提督「だからお前の連れてきた彼女らも俺たちによって沈められると? 俺がお前を刺したように?」


元帥「皮肉な話だがな…………。俺が連れてきたのはあの一件の、お前に弄ばれた艦娘の姉妹共だ。指揮官も艦娘も、過去に囚われた傀儡同士だ」


元帥「約束通り、生き延びた方はお天道様の足元をおっかなびっくり歩き続けろ。そして、自分たちは其方には行けない事を、悔やみ続けるんだな」


提督「…………あと数十年位さ。俺もそっちに逝くならな」


元帥「馬鹿言ってんじゃねえよ、テメェ見てぇな奴が、たかだか数十年でくたばる玉かよ…………」


扶桑「提督…………」


提督「…………来るな」


元帥「…………よう、奴らはどうした?」


扶桑「…………貴方にそれを知る必要があるのですか?」


元帥「…………ハッ、ハハハ。相も変わらずその男以外は眼中に無い、か」


扶桑「…………」


元帥「あぁ、ちくしょう…………さらばだ。さらばだ師よ。さらばだ友よ」


元帥「父よ…………友よ……….今、私も…………そちら…………に…………」


元帥「参………り……ま…………す……………」






元帥はその言葉を最後に、息を引き取る。だがその顔は、後悔や未練にまみれた顔でなく、使命をやり遂げたような清々しい顔であった。








提督「さらばだ、我が弟子よ。我が友よ。我が恩人よ」









提督「…………安らかに、眠れ」











・・・・・・






日本海軍総被害



死亡者 元帥以下13名


艦隊被害 壊滅




リンガ泊地総被害



死亡者 無し


艦隊被害 ほぼ無し




尚、本作戦の経緯、結果の全てに至るまでを最重要機密として扱い、それらの全ての文面も秘匿事項として扱うこととする。



今回の甚大な被害を及ぼした日本海軍元帥こと島原啓治は、称号を剥奪とも記録から抹消し、更にそれに関わった者も海軍の記録から抹消。


そして、3年前に行われていたとされる日本海軍の反人道的行いは表舞台に立つこともなく、今まで単なる与太話と思われていたが、急遽事件の関係者が名乗り出た。そして、本人たっての要望により海軍に設けられている拘置所に5年間の服役を命じる。


しかし、当事件並びに本作戦により亡くなった者に対しての3年間、毎日供養を怠らないという事を条件に、3年の減刑を認め、さらに海軍に在籍する事を条件に、それまでの過去を全て抹消する事を提案。当人はそれを受諾し、出所後に海軍の提督として再び尽力する事を誓ったのだ。








・・・2年後・・・









???「それでは、お世話になりました」


憲兵「あいよ。しっかし、殊勝な心がけだこったい。3年間も毎日墓に供養をするなんてな。皮肉にも、もっかいリンガ泊地の提督として所属するなんてな。梶原 圭一さんよ」


???「…………何のことですか? 私は ”これから” リンガ泊地の提督になるんですよ」


憲兵「おっと、そうだったな。天草 浩志さん」


天草「…………どうも。気を使わせたみたいで」


憲兵「いいからいいから、行ってきな。ここに居ていいのは憲兵か罪人だ」


天草「………それじゃあ、私はこれで」




男は、日本における最大規模を持つ横須賀鎮守府へと向かう。今日から彼は新人として、海軍に勤めることになるのだ。




士官「…………では、本日より貴殿を少佐に任命し、リンガ泊地へと所属してもらう」


天草「はっ、この大任。ありがたく受けさせていただきます」


士官「これより、元帥閣下がそなたに一目見えたいと申している。良いか、くれぐれも無礼な振る舞いはならぬぞ」




天草提督は、士官に連れられて元帥の待つ部屋へと案内される。数回のノックを行い、部屋へと入っていく。


部屋の中には女性が立っており、その女性の向こう側に座っている男性がいる。




士官「閣下、リンガ泊地所属となる天草少佐をお連れしました」


元帥「わかった。彼を部屋に。そのあとは、下がってもらって結構だ」


士官「はっ、失礼いたします」




士官は元帥の言葉通りに部屋を後にする。お分かりであろう、この元帥は元佐世保鎮守府所属の『梶原 大輝』大将である。2年前の一件以来、後任を決めるまでの繋ぎであったのだが、中々に後任が決まらずに部下たちが日本政府へと彼を上奏。晴れて元帥へと任命されたのだ。




提督「天草浩志、ただいま参りました」


元帥「………久しぶりだね、兄さん」


提督「公の場では私は少佐、貴官は元帥。それ位は守るべきだと思われますが?」


元帥「全く、兄さんらしい。こっちに来てもらったのは、少し伝えておかないことが有るからなんだけど………」


???「どうも。私は 島原 朱里 と申します。現在は大佐の任を任せれております。以後お見知り置きを」


提督「………ご丁寧にどうも」


島原「ご高名はかねがね伺っています。その節は、私の祖父や父が大変ご迷惑をおかけしました」


提督「やっぱりそうでしたか! 元帥殿の面影があるので、そうではないかと薄々感じていたところですよ」


元帥「兄さんが出てくるまで、大佐にリンガ泊地を任せておいたんだ。あの時のことは全部知っている。いや、僕が話したんだけどね」


提督「あぁ、そうでしたか。私の方こそ、彼を追い詰めてしまったんだ。本来なら、謝罪をするのは私の方だ。大変申し訳なかった」


大佐「いえいえそんな。それより、2年という短い間でしたが、リンガ泊地の皆さんは貴方の事をすごく慕っていましたね」


提督「何か、ご迷惑をおかけしたりは………?」


大佐「いえいえ、可愛らしいものですよ。私の言うことなんかほとんど聞いてくれない娘ばっかりで、もう反抗期の子供みたいで……うふふ」


提督「そ、そうですか………。その、申し訳ありません」


大佐「中でも1番可愛らしかったのは………そうねぇ、扶桑ちゃんねぇ」


提督「あの、彼女が何か…………?」


大佐「私が所属する事になっていざ行ってみたら、建物の前で座り込んでたんですよ。声をかけてみたら、提督を待ってるって聞かなくって」


提督「 (犬かあいつは………) 」


大佐「ほんっとにもう飼い主の帰りを待っている忠犬みたいで可愛いったらなかったわぁ〜」


元帥「兄さん、実は今日兄さんがリンガ泊地に所属することは、まだ誰にも伝えていないんだ」


提督「おいおい、それ位は伝えてやれって………」


大佐「貴方に会ったら飼い主に会った犬と同じような反応をするかなぁと思ったので………」


提督「………死ぬんじゃねぇかな? 俺?」


大佐「大丈夫ですよ多分。それはそれで面白いんじゃないですかね?」


提督「……………」(何だって島原の一族は変なのが多いんだか………)








・・・・・・






リンガ泊地へは、海を渡っていく事になる。大型の輸送船を用いるため、その渡航時間はおよそ7日はかかる。


彼女らには、何も伝えずに黙って出て行ってしまった。どうやって弁解しようかと提督は考える。素直に謝るべきか、それとも憲兵隊に捉えられたと伝えるか。いや、後者の場合は最悪彼女たちが憲兵隊に攻撃を仕掛けるかもしれない。そう考えると、次々と打つ手がなくなっていく。





大将「少佐殿、少佐殿!」


提督「っ………。あぁ、すいません。すっかり寝てしまって」


元帥「そろそろ着くよ。準備して」



遠くに施設が見える。船が近づけば彼女らが出てくるのではないのか? と提督は大佐に話してみると、何時も出迎えなんかこないから心配ないと答える。


船が泊地の基地に着港する。大佐と提督は一緒に、元帥はそれに遅れて船から出てくる。




提督「…………ふぅ、久しぶりだな」


大佐「さぁ、みんなに会いに行ってあげてください?」


提督「いや、大佐殿に先に向かっていただけますか?」


大佐「あれ? 意外と乗り気ですか?」


提督「…………少し」


元帥「ははっ、以前の兄さんらしくなってきたね。冗談を言い始めるなんてさ」


提督「少しくらいは、な」


大佐「じゃあ少しお待ちくださいな。きっと扶桑ちゃんが外で待っているので、何とかして内に入れちゃいますから」




大佐は建物に向かうと、いつも通り扶桑が建物の入り口で座り込んでいる。




大佐「扶桑ちゃん? そろそろ大シケが来るみたいだから、中に入りましょう?」


扶桑「……………」


大佐「大シケの中じゃ船も渡れないわ。それに、風邪でもひいたらどうするの?」


扶桑「……………」




扶桑は黙り込んだまま、建物の中に入っていく。相手にされていないようで、まるで路傍の石のような扱いだ。はたから見るとイジメか何かに見えかねないが本人は気にしていないようだ。


大佐は扶桑を自室へと送ると、戸締りをしてくると言って外へ出る。もちろん大シケの話は全て嘘だ。外で待たせている提督らを、誰にも気付かれずに執務室へと連れて行く口実だ。


大佐が建物から戻ってくると、提督と元帥は執務室へと向かう。建物の廊下では誰にも出会うことはなかった。



大佐「それでは、今から全員を読んでみますね」


大佐《全艦娘に通達。総員執務室へと集まってください。総員執務室へと集まってください。来ない者は厳罰に処します》


大佐「ん……………これでよしと」


提督「何時もあんな風に?」


大佐「ええ。殆ど来てくれませんし、それも分かってるのでこっちでも処罰なんて口だけですよ」


提督「じゃあ、今日は実際に処罰を与えましょうか。何時もここでは処罰をスロットやルーレットでやってたんですよ」


大佐「あぁ! あれですか!」


元帥「兄さん、そんなことやってたんだ………」


提督「今日は特別編として作ってきたものがあるので、それを処してやりましょう」


大佐「あらあらぁ、見かけによらず意地悪な方なんですね」


提督「 (どの口が言うか………) 」



それから10分。誰も来ることはなかった。ここまで来ると自分だったら泣いている。提督はそう思っていた。



提督「あの……何時もこんな感じですか?」


大佐「はい。全くもって平常運転です」


提督「………すいません。ちょっと耳を塞いでおいて貰えますか? 耳栓もあるので」


大佐「はいはい。良いですよ」


元帥「大佐、一応耳栓越しにでも耳を塞いでおいたほうが………」



2人が耳を塞いだのを確認した提督は、マイクの音量をあげて………



提督《何をしているお前ら!!!!!! さっさと集まらんか!!!!!!!》



提督の怒号が建物内に響く。これは耳栓越しでも五月蝿い。しかも音が割れてしまって、一体誰が発した声なのか分からなくなってしまっていた。



元帥「兄さん、流石に耳栓もしていない彼女たちからすれば鼓膜が破れても良いくらいの大音量だったと思うんだけど?」


提督「ふん、奴らなら入渠させとけば治る」


大佐「本当に貴方という人が分からなくなりますね。優しいのか厳しいのか」


提督「碌でなしの捻くれ者ですからね」




どかどかと廊下を歩く音が聞こえてくる。この部屋に近づいているようだ。誰が来るのだろうかと、部屋にいるものが期待を膨らます。





大淀「うるさーい!!! 誰ですかあんなに音を上げたのは!!!」


提督「私だ。何か文句あるか?」


大淀「……………提督? ですか?」


提督「大淀、お前は梶原大将。今の元帥の下にいた艦娘だろう? そんなお前がその態度では、他の者に示しがつかない。違うか?」


大淀「……………本物ですか?」


提督「色々と問題は山積みだがな。さあ、お前からもう一度全員に招集をかけろ」


大淀「は、はい!!!」




大淀は先ほどの大佐と同じ内容の放送をかける。天草が戻ってきたということは勿論伏せての放送だ。




大佐「あれま従順。軽巡なのに従順だわ」


元帥「ぷっ……………」クスクス


大淀「それで、問題というのは?」


提督「全員が来てからだな。色々とお前たちにも手伝ってもらわないとならないのでな」




その後もぞろぞろと艦娘が部屋に集まり、一人一人と挨拶を交わしていく。大勢が集まったが、数名の姿が見られない。



提督「いま来ていないのは誰だ?」


大淀「扶桑姉妹と鳳翔さん。翔鶴姉妹ですね」


大佐「あー、その子達は特に言うこと聞かない子たちだわ。よっぽど慕われるんですねぇ」


提督「はぁ………迎えに行きましょう」


大佐「なら私も連れて行っていただけるかしら? 反応が見てみたくて♪」


元帥「それじゃあ、僕はここで待ってます。みんなの相手でもしておきますよ」


提督「本当にすまないな。すぐ戻る」




提督は大佐を連れて、扶桑の部屋へと向かう。本人の意向で、1人部屋にして欲しいとのことだったそうだ。



大佐「扶桑ちゃん、居るかしら?」



部屋からは何の音もしない。寝ているのかと思えるほどの静けさだ。



大佐「お客さんが来てるの。どうしても貴女に逢いたいんですって」


扶桑「…………お引き取りください。今は、そんな気分ではありませんので」


大佐「あら、初めて喋ってくれたわ。ねぇ、入っても良いかしら? マスターキーがあるから鍵を閉めても入れることは入れるのよ。あとは貴方の許可だけ」


扶桑「…………………」


提督「…………大佐、鍵を渡して頂けますか?」




提督は小声で大佐に話しかけ、鍵を受け取る。鍵を開けて扉を開けると、扶桑が部屋に置いてある枕をこちらに投げてくる。投げられた枕は提督の顔面に直撃する。



提督「ぶっ!!」


大佐「…………うわぁ」


扶桑「帰ってください!! 誰とも逢いたくないんです!!!!」


大佐「あらあら、そんなこと言っちゃって良いの?」


提督「2年振りの再会がこれかよ………。随分な仕打ちじゃないか。ったく………」


扶桑「提…………督……………?」


提督「よう、変わりないようで何よりだ」


扶桑「提督!!!!!」




扶桑は感極まって、涙で顔をくしゃくしゃにしながら提督に飛びつく。提督はそれを受け止めて、子供をあやすように頭を撫でてやる。




大佐「あらあら本当に犬と飼い主みたいだわぁー。うふふふ」


提督「大佐殿、他の皆はここから離れているのですか?」


大佐「そうねぇ、ちょっと離れ離れになってるかも」


提督「一人一人迎えに行くのも面倒だな………」


扶桑「…………でしたら、私が迎えに行きましょう」




扶桑は顔を上げて、満面の笑みでこちらを見る。いつの間にか泣き止んでいたようだが、もともと赤みのかかった目がさらに真っ赤に腫れている。




提督「なら、お願いしようか」


扶桑「はい、お任せ下さい!」




扶桑は喜び勇んでタッタと廊下を掛けていく。その歩き方からも、本当に喜んでいることが伺える。




大佐「…………本当に良い子ねぇ。忠犬そのものだわぁ」


提督「…………そうですね。きっと、彼女がいたから私もここまで来れて、こうやって過去の罪を償おうって思えたんですよーー」








提督「ーーこんな碌でなしで捻くれ者の私を、提督として慕ってくれたから…………」


大佐「…………やっぱり、お優しい方なのですね。口では色々言っていても、言動の節々から感じられますよ」


提督「そんなことはありませんよ」


大佐「…………亡くなった者達のために、私の父を手にかけたのでしょう? 賢いやり方とは言えませんけど、それでも彼女達のために何かをしようって思える人は、早々いませんよ」


提督「…………ありがとうございます」


大佐「ところで少佐殿? ”ケッコンカッコカリ” というものはご存知ですか?」


提督「いえ…………何か嫌な予感が伝わってくるネーミングですけれど」


大佐「あらあら察しが良い。練度が上限を迎えた艦娘に、信頼の証として指輪を渡すことができるんです。その指輪を艦娘に渡すと、2人は強い絆で結ばれて、更に艦娘は強くなれるんですよ」


提督「…………誰が考えたんだかこんなくだらないこと」


大佐「元々は海軍の方で色々言われていたんです。最終的に決定したのは私の祖父ですが」


提督「 (やっぱり島原姓は頭おかしいのが多いな) 」


大佐「私の見立てでは、扶桑ちゃんはもう上限を迎えられているのでは? 折角ですし、渡してあげても良いと思いますよ?」


提督「……………」


大佐「あぁでも、決めるのは本人達ですので、私からは何とも。ただの提案ですので、そこまで重く受け止めなくても構いませんよ」


提督「…………行きましょうか」





提督が先に部屋に帰ると、山城、鳳翔、翔鶴、瑞鶴の4人が次々に押し寄せてくる。提督の予想は当たらずも遠からず、揉みくちゃにされてなすがままになっている。


そして、全員が集まったのを確認して提督は話を始める。気をつけ、敬礼の合図に皆が従う。




提督「ありがとう。まず、皆に黙って失踪したことは大変申し訳なかった。何があったのかを、ここでお前達に話しておきたい」


提督「…………私は2年前、海軍に宣戦布告し島原啓治を始めとする凡そ16人の命を奪った。それに加え私はある事件に関与していた。その罪を償うつもりで、私は憲兵隊へとこの身を突き出したのだ」


提督「そこで私は5年の懲役を命ぜられていたのだ。だが、ある司法取引により減刑を認められたのだ」


提督「それは、海軍へと所属すること。私は海軍へと籍を置くことで、3年の減刑が赦されたのだ。そこで私は、あるもう1つの提案をしたのだ」


提案「私は、過去に生きる人間でありたくはない。私は、未来に生きる人間になりたかったんだ。その為に戸籍、海軍にある記録。すべての記録から私を消してもらった。そう、私は既に死んだのだ。そして私は 天草浩志 としてまた新たな生き方をしたいと思っている」


提督「そこで私からは2つ程、君たちに頼みたいことがある。1つ、これからは海軍の所属として活動していくこと。2つ、君たちと闘ってきた 梶原圭一 はもう死んだ。新しく、この 天草浩志 と共に歩んでくれる者だけが、ここに残っていて欲しいのだ」


提督「…………さて、皆に色々と一方的に話をしてしまったが、聞きたいことなどあったら忌憚なく言って欲しい」


鳳翔「…………提督は、随分と変わられましたね」


提督「そうかい? 久々に会うからそう見えるだけかも知れんぞ?」


扶桑「全然変わってますよ」


提督「………あ、そう」





皆の顔を見渡すと、皆が提督の顔を真剣に見ている。異論はない。会話をなしにしてもそれが分かるのだ。





提督「………ありがとう。さて、私の話はここまでにして次はお前達の話だ。聞いたところによると、私がここに来るまでお前達を見てくれていた島原大佐に、随分な振る舞いをしたと聞いている」


一同「っ!!」


提督「そして更に蓋を開いてみれば嫌々従う者もいれば、全く指示に従わない者もいると聞いた」


提督「私はお前達に言っていたな? 提督の指示には従ってもらうと。それは私であろうとなかろうと、ここに提督という立場で着任した者には従うべきだ。しかしそれに背いた。しかも全員がだ」



提督「これはスロットによる処罰が必要だな!! 」



扶桑「待ってください。私が悪いんです。私が…………」



提督「はい↑!! スタートォ!!!!」



一同「 (弁明の余地なし!?) 」ガ-ン



提督「さあ、大佐。スロットを止めてください。今回は特別編なので内容がグレードアップしてるので」



一同「………」ガクガク



大佐「じゃあ………はい!」


提督「さあて…………。9と9だ! 処刑スロット特別編の9と9は………」


一同「………」ゴクリ



提督「………あれ? どこいった? どこいったぁ!」


大佐「どうかしましたか?」


提督「………すいません。何があったか書いてある紙があるんですが…………」


大佐「………無くされたと?」


提督「…………」


大佐「なら、私が決めていいですか?」


提督「え!? えぇ。それでよろしいのであれば」


大佐「じゃあ扶桑ちゃん? あなたさっき提督に何を言おうとしたのかしら?」


扶桑「そ、それは………私があなたに対してあんな態度を取ってしまったのが原因で皆も………。なので、私が責任を取ろうと………」


大佐「なるほどねぇ………。あなたの提督は全員分裁くって言ってるけど、私の話を呑んでくれたら全員分をチャラにするってのはいかがかしら?」


扶桑「………わかりました」




大佐はニヤリと悪い笑みを浮かべながら提督の方を見る。不味い、嫌な予感しかしない。




大佐「実はねぇ、海軍の方に ”ケッコンカッコカリ” っていうのがあるんだけど、ご存知かしら?」


提督「ちょ、ちょっと大佐殿ーー」


大佐「練度を上限まで積んだ艦娘と提督の仲を深めるシステムなんだけれど、提督は信頼した艦娘に指輪を与えると、艦娘は更に強くなれるの」


扶桑「………それは、戦力の向上としては良さそーー」


大佐「そうじゃないのよ。 ”ケッコン” って付くんだから、ね? 提督に寄り添ったり、ずっと一緒にいたり、一緒に食事したり、一緒に添い寝したり………」


扶桑「ふぇ!? そ、それは………」


提督「た、大佐殿!! それ以上は流石にーー」


大佐「あら? どういう事かは知らないけど、貴方がその罰を決めてある紙を無くしたのが引き金になってるってこと、わかってるかしら?」


提督「うぐっ…………」



一同「 (あの提督が物凄く押され気味だ………。凄いなこの人) 」



大佐「ねぇ? 扶桑ちゃんはどう思ってるの?」


扶桑「わ、私は…………別に…………」


大佐「本当に?」


扶桑「〜〜〜っ///」


山城「 (姉様、それ以上はダメです。この山城、貧血になりそうです………) 」ポタポタ


一同「 (こんな可愛い扶桑さん初めて見る………) 」ドキドキ



提督「た、大佐殿! お戯れが過ぎます!!」


大佐「ほらほら、早く言わないと話が進まないわよ?」


扶桑「わ、私は………私は、提督のことは、ずっと慕っています。初めて会った時から、私を第一線に置いていただいて、何があっても、そばに居てくれました。そんな提督が…………」








扶桑「だ、大好きです!!!!///」






提督「っ!!!!!」


大佐「あらあらぁ〜、 ”好き” じゃなくて ”大好き” ですって♪」




提督の戸惑う姿を見て、周りは一斉に囃し立てる。ヒュー! とか、キャー! とか、とにかく収拾がつかない事態になってしまっている。


そんな中でも、特に面倒な態度をとる艦娘も少なくはないわけで………




川内「ほら、提督! 扶桑さんがここまで言ったんだからさ!!」


陽炎「ここでちゃんと応えないと、男じゃないわよ?」


吹雪「そ、そうですよ司令官!!」


鈴谷「ほらほらぁ、早く言っちゃいなって!」


提督「お、お前らぁ〜!!!」


瑞鶴「あれあれぇ? 提督さんったら顔真っ赤になってる!!!」 ゲラゲラ


元帥「あんなに押されてる兄さんはそうそう見れないねぇ」


大佐「ほら、少佐殿。ここでバシッと言いなさいな!」


提督「………確かに、好意には感謝しなければならない。だが思うのだ。こんな私が、それほどの幸福を得て良いものかと」


提督「私も既に老いを迎えている身だ。もうすぐで爺さんになる。さらに私は多くの命を奪った男だ。その私が平穏に暮らすのは彼らに顔向けができないのだ」


扶桑「提督………」


元帥「………兄さんも幸せになったって、僕はいいと思うよ。だって今まで頑張って来たじゃないか。どんなやり方であれ、人類の為に、国の為に、喪った彼女たちの為にやって来たんだろう?」


大佐「そうですよ。それに、私だって気にしていません。こう言っては変ですけれど、時代がそうさせたんですから、祖父も父もそれに抗うことはできません」


提督「………」


扶桑「提督、私はこれまでもずっと、貴方と共にありました。どうして貴方だけで背負い込もうとするのですか?」


扶桑「私もあの時、あの場所で貴方と同じことをしたんですよ? ですから………」



扶桑「一緒に償えばいいんですよ。これからもずっと………。彼らの事を、忘れないように」



提督「…………そうか。そうだな。またお前に助けられた。ありがとう、扶桑」



扶桑「………はい、提督!」




陽炎「ちょっと待って!! 勝手にいい話で終わらせようとしないで!!!!」


川内「そうだそうだ!! 結局どうなのよ!」


吹雪「そうですよ!! 扶桑さんは、司令官に本音を伝えたんですよ!?」


提督「うぇっ!?」


鈴谷「そうだよ。このままはぐらかしたら扶桑さん可哀想じゃない!!」


衣笠「ほら、提督!!」





提督「む、むぅ…………分かった」


提督「扶桑、お前の気持ちは正直嬉しい。だが、こう言ったことはやはり男から言うべきものだ………」






提督「今まで、ずっとお前に頼ってきてしまった。お前が、私の支えになってくれたのだ。お前が私に、立ち直る勇気を与えてくれたのだ」





提督「だから今度からは、私がお前に色々と与えていきたい。お前に、幸せを授けていきたい」





提督「私は皆の幸せを望むが、それ以上に扶桑。お前の笑顔を永久 (とわ) に見続け、お前を1番幸せにしたい。私と、未来永劫添い遂げて貰えないだろうか?」







瑞鶴「うわー!!! 言った言った、言っちゃったー!!! キャー!!」




皆がさらに調子付いてしまった。これではもう収集をつけることは不可能だ。皆がさらに囃し立て、そこに大佐も元帥も加わっていき、提督の味方は居なくなってしまった。あぁ、もうめちゃくちゃだよ………




村雨「お二人の、ちょっといいトコ見てみたい♪」


一同「あそーれ、キース! キース!! キース!!! キース!!!!」


提督「お、お前らなぁ!!!」


扶桑「て、提督?」


提督「というか、先に指輪だろ!? 何でキスから始めんだよ!! えぇ!? しかも指輪持ってねぇし!!!!」


大佐「ポケットに入れときましたよ?」


提督「ポケットってーー」ガサゴソ


大佐「じゃーん♪」ピラピラ


提督「本当だ、いつの間に!? って、それ俺の処刑スロットの!!!!!?!?」


大佐「扶桑ちゃんの願いを叶えるために、コッソリとポケットから奪わせてもらいました〜☆」


提督「嵌められたのか…………?」


扶桑「わ、私そんなこと一言も……」


大佐「何言ってんよ。たった2年しか付き合いないし、全然会話もしてくれなかったけど、これでもかってくらい少佐殿のこと好きでしょう? あんなに私を無視して、玄関で彼を帰ってくるのを待っちゃって」


扶桑「〜〜〜っ///」


大佐「あら、目まで真っ赤になっちゃって」


提督「それは元からですよ?」


大佐「まあまあ、そんなのは置いといて。如何するのですか? 少佐殿」


提督「…………そうですね」




提督は顔を真っ赤にして俯いたままになっている扶桑に歩み寄り、彼女の背後から手を回しそのまま抱きしめる。


急な出来事で、扶桑の口からも言葉にならない音が漏れ出した。そんな2人を他所に、この場の空気は最高潮を迎え、最早祭り状態になっている。


周りが祭りの中、彼らには互いの鼓動の音だけがこだましている。そんな2人だけの空間で、提督は彼女にしか聞こえない声で耳元に呟くのだったーー













ーーありがとう、と。









人を恨み、自身の復讐のために全てをかけた男は悲願を果たし、多くの業を背負い、自身の行いを悔いながらも新たな道を歩むことを誓うのであった。


そしてこの時を以って、傭兵提督は海軍の記録から完全に消されることとなったのだ。








〜END〜


後書き

ハッピーエンドルートです。バッドエンドも書溜めはありませんが書けます。この作品をお読みくださる方の要望に答えますので、読みたいなどのコメントあれば喜んで書かせていただきます。

基本的には別の枠でこの物語のアフターストーリー的な物を書こうと考えていますが? 需要あるんですかね?

文が変だ、表現が幼稚だといったコメントも、今後いろいろなものを書いていくために糧としたいのでお待ちしています。

気付かれた方はお分かりかと思いますが、警告タグなどが増えたことにお気付きですか?

そうです、少なからずそういった表現が出てくるので苦手と思った方はブラウザバックを。今からなら間に合います。


所属艦娘一覧




戦艦

扶桑、山城、ビスマルク 3隻

正規空母

翔鶴、瑞鶴、加賀、赤城 4隻

軽空母

鳳翔、瑞鳳、祥鳳 3隻


重巡洋艦

衣笠、鈴谷、熊野、妙高 4隻


軽巡洋艦

川内、神通、由良、名取、阿武隈、大淀、北上、 7隻


駆逐艦

吹雪、陽炎、夕立、Верный、村雨、不知火、朝雲、山雲、暁、敷波、10隻


全31隻


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5件評価されています


SS好きの名無しさんから
2018-05-01 23:11:55

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2017-09-26 07:45:37

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2016-09-19 14:47:33

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このSSへのオススメ

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1: 素早いおじさん 2016-09-10 01:10:11 ID: QXY1ntjf

やはり腐ってはまともなSSは書けんか

2: tacos-P-Venom 2016-10-13 22:08:55 ID: 0saXFo2s

完結おめでとうです!2人ともなかなか素直になれなくて、どうなるのだろう...と不安になってましたね〜。次回作出るなら期待、ないのならお疲れ様ですな。


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