2019-11-12 10:12:42 更新

概要

前々作 : 提督「いつまで続くかな、この幸福は」
扶桑「何があっても、私がそばにいます!」

前作 : 提督「今度は3人で。な?」扶桑「3人?」 山城「わ、私もですか!?」

の続きとなります。

過去の雪辱を晴らした提督は、リンガ泊地の艦娘たちと平和な時間を過ごしていく。
時にはイチャイチャ、時にはざわざわ。時には平和に、時には戦い。時には裏での暗躍と、誰かの思惑とちょっぴりの幸福。時々不幸な出来事も。

そんなよくわからない日常です。


前書き

この物語は、艦隊これくしょん ー艦これー の二次創作であり、実在する団体、地名、組織とは一切関係ありません。

オリキャラ、拙い文章・表現、キャラ崩壊、性的描写あり



前作は下記URLを参照。


鳳翔「私たちは、傭兵かぶれのごろつきですから………」
http://sstokosokuho.com/ss/read/7124


提督「さあ、楽しい楽しい報復劇だ」
扶桑「終わらせましょう。私たちの過去を………」

http://sstokosokuho.com/ss/read/7916


提督「いつまで続くかな、この幸福は」
扶桑「何があっても、私がそばにいます!」

http://sstokosokuho.com/ss/read/8292

提督「今度は3人で。な?」扶桑「3人?」 山城「わ、私もですか!?」

http://sstokosokuho.com/ss/read/9113



・・・・・・



それから約2週間後。横須賀から複数の艦娘が着任となり、川内、陽炎、そして吹雪が彼女たちの教導役となっている。


川内は満潮と荒潮を。陽炎は黒潮と早霜を。吹雪は秋月と朝潮を受け持つことになった。


1番手がかかりそうな満潮は他の2人には厳しいだろうと考えた川内の判断だ。黒潮も姉である陽炎が付いた方が変に気負わなくても済む。


また担当を決める際には吹雪がそわそわと落ち着かなかったので、その中でも比較的真面目な朝潮、秋月を任せた方が良いだろうという2人なりの優しさだ。


そして当日。リンガ泊地の全艦娘が、新任の者たちを迎えようと軍港で待機していた。数日前にリンガ泊地を出港し、新任の者たちを迎えにいくように命じられてた川内、陽炎、吹雪の三名は、彼女たちを護衛するように航行し、ゆっくりと着港したのだ。



吹雪「司令官! ご命令通りにお連れしました!」


提督「ご苦労。では到着早々で悪いが、皆で執務室に向かってくれ。私も後で行く」




吹雪たちは提督の言葉に従い、全員を執務室へと案内する。新しく配属された秋月たちは、今までとは違った気候、施設に戸惑いを感じているようだ。


秋月「あの………」


吹雪「はい? どうかしましたか?」


秋月「あの………ここの司令は………」


吹雪「あー………うん、少し強面だけど、優しい人だから大丈夫ですよ」


秋月「いえ、そうじゃなくて………気のせいかもしれないんですけど、何処かで会ったことがあるような………?」


吹雪「そうなんですか? あー、もしかしたら元帥さんに似てるからじゃないですか?」


秋月「そうです!! なんか似てる気がするんですけどーー」


吹雪「あの2人は兄弟ですから。私も知ったのはほんの少し前でしたけど」


秋月「えっ!? そうなんですか!?」


川内「なんだ、知らなかったの?」



秋月だけでなく、それを聞いていた周りの艦娘も首を縦に振っていた。驚きを隠せない様子だった。



朝潮「朝潮も初耳です!」


荒潮「まあ〜、あの人のことだし〜? 何か知られたくないことでもあるのかもね〜? あとは恥ずかしがってるだけとか〜?」


黒潮「なんや、特別扱いされるのが嫌いなんやろか?」


早霜「ふふっ。随分と慎重な方なんですね、お二人とも。まるで私たちを信用しないみたい……」


満潮「ま、別に信用してもらわなくても構わないけど」


吹雪「あ、あはは………」 (うわぁ……大変そうだなぁ、今回の新人さん)


陽炎「黒潮。あまり変に探ると痛い目見るからやめておきなさいよー」


黒潮「もちろんやってー♪ お姉ちゃーん♪」


陽炎「お姉ちゃんはやめなさいよ!」


川内「ぶふっ。顔真っ赤にして照れてやんのー」ケラケラ


陽炎「何がおかしいわけ? アンタ」カチン


川内「何? やる気?」ニヤッ


吹雪「ちょっと待ってくださいよ2人とも!! こんなところで喧嘩はダメですよー!!」


陽炎「吹雪、先にみんな連れて執務室に行ってくれる? 無駄口の減らない夜戦馬鹿から取り柄無くして寝坊させてやらないといけないから」


川内「それじゃあ私もお願いするわ。ちょっと生意気な駆逐艦の口を塞いでからそっち行くからさ」


吹雪「あっ、ちょっと2人とも!! 」



2人はそのまま他の皆を置いて行ってしまい、仕方なく吹雪が皆を連れて行った。


暫くすると、道中で爆発音が外から聞こえたことから、どうやら艤装込みで本気の喧嘩に発展しているようだ。




秋月「あの………止めに行かなくてもいいんですか?」


吹雪「えっ!? あー………うん。まあ何時ものことだし………大丈夫ですよ………多分」


一同 (もしかして………面倒なとこに配属しちゃった?)



執務室に全員を通してから数分後、提督が扶桑と山城、翔鶴と瑞鶴を伴って執務室へとやって来た。


吹雪が気をつけの号令をとるが、提督は堅苦しいのは御免だと、それを制止する。



提督「皆、楽にしてくれて構わない。さて、遠路はるばるここリンガ泊地に配属になった君たちには、ここで生活していくのに様々なことを覚えて行かなくてはならない」


提督「そこで、君たちには2人組を作って貰う。そして作られた組に1人の教導役を付ける。既にそれはこちらで決めているから、ここで伝えさせてもらう」


提督「まず始めに、朝潮と秋月。お前たちは吹雪が付く。彼女の知識は豊富だ。色々と教わってみるといいだろう」


秋月・朝潮「はい! よろしくお願いします!!」


吹雪「えっ!? あ、はい。よろしくお願いします」


提督「そして満潮と荒潮。お前たちには川内を。黒潮と早霜には陽炎を付ける。それで………あの2人はどこ行った?」


吹雪「あ、あはは……それは……そのぉ………」


鳳翔「提督。外で暴れていたので取り押さえて来ました」


陽炎「痛い痛い痛いって鳳翔さん!! 耳ちぎれるから!!」


川内「お願いだから……マフラーを引っ張るのはやめてよ……首、閉まるから………」


提督「お前たちは………これから新人を教育する立場にありながら何勝手なことをやってんだ?」


陽炎・川内「こいつが手をだすのが悪いのよ!!」


鳳翔「黙りなさい!!」グイッ


陽炎「痛タタタタタ!!!!」


鳳翔「それでは、私は下がらせていただきますね」


提督「わかった。そのでかい荷物2つは置いて行ってくれ」


鳳翔「はい、わかりました」パッ


川内「ゲホッ!! ゲホッゲホッ!!! し、死ぬかとおもった………」ゼエゼエ


提督「瑞鶴ー、例のアレ持ってこい」


瑞鶴「はいはい」


提督「スロットだぞー!!」


瑞鶴「モチのロンで分かってるー!」




あぁ、またあれが始まるのか。ここにいる殆どが察した。新しく入って来た者たちは一様にポカンとしているが、緊張がほぐれて来ているのが分かる。



瑞鶴「ここでいい?」


提督「助かった。さて、ここリンガ泊地では大した決まりはない。仲間を裏切るような真似をしたりすれば解体や雷撃処分で済むが、日常的な問題はこれらで解決していく」


秋月「あの………これは?」


提督「おもちゃのスロットだよ。リンガ泊地は今では日本人街やらで発展しているが、昔は特に何もなかったのでな。罪を起こした奴に粛清を与えるためにこれで罰を決めていたんだ」


提督「要するに、今はそれほど必要はないが以前からの名残りという奴だ」



何とももうすぐ50に手の届く男から出る言葉ではないとだろうと秋月たちは思っているが、これは意外と艦娘たちの間でも人気なのだ。


やられた方としてはもはや公開処刑と変わりなく、心に傷を負うが、見ている方としてはそうでもない。むしろ他人の不幸な目にあっている姿は笑いの種だ。


つまり、娯楽の少ない彼らにとっては一種のバラエティ感覚なのだ。ドッキリ企画のような楽しみがある。



提督「試しにやってみようか。ここにボタンが2つあるな? 満潮と荒潮、一先ず好きなタイミングで止めてみろ」


満潮「はぁ!? そんなくだらないことを誰がーー」


提督「まあまあ、騙されたと思ってやってみな」


荒潮「いいじゃな〜い。軽いレクリエーションよ〜」ポチッ


満潮「………はい、これでいい?」ポチッ


提督「1と8だな。この数字を元に罰を決める。この紙に対応する数字を照らし合わせて、書いてある中身を実行してもらうことになる。因みに中身は月一で変更だ」


黒潮「それは強制なん?」


提督「無論。拒否した場合はその罪を更に重くさせることもあれば、まあ気分によっては連帯責任で他の姉妹たちを巻き込ませることもあるぞ?」


黒潮「うわ〜………えらいこっちやなぁ………」


扶桑「あら? 陽炎も受けるのだから、あなたも下手すれば巻き添えを食らうのよ?」


黒潮「…………えっ!?」


提督「川内の罰は………これだ!」





1と8


一日 の間 砂糖水を常備する






川内「あれ? 意外と楽そう?」


瑞鶴「じゃあはい。これが砂糖水ね。既に蟻が集って砂糖水に溺れているけど、まあ気にしたら負けだよ♪」


川内「はぁ!? なんでそんなすぐ作った砂糖水に蟻が群がるわけ!?」


満潮「えっ………普通にやばくないあれ?」


瑞鶴「あっ、手が滑った」ツルッ



バッシャ-ン



川内「うわあぁぁぁぁ!??!!!? かかったあぁぁ!!! 頭から砂糖水かかったんだけどぉぉぉぉ!!!!」


提督「うっ………匂いが………」


瑞鶴「頑張って1kg分を溶かしちゃった♪ てへっ☆」


川内「はあぁぁぁ!?! バッカじゃないのあんたぁぁぁぁ!!!!」




カサカサカサカサカサ………





川内「うわあぁ!! なんか背中這ってる!!! やめてやめてキモいキモいキモい!!!!」ジタバタ



提督 (蟻だな)


扶桑 (蟻ですね)


吹雪 (あれだけ集ってたから当たり前だけど、川内さん砂糖の塊みたいに甘い匂いが……)



川内「うわっ! 馬鹿こっち来んなあぁぁぁ!!!!」ダッ



そう言って逃げ回る川内の周りには、蝶が集まって来ている。かなり大型のものも飛んで来た。


早霜「川内さんが気の毒ね………。可哀想だけどなんか笑ってしまう………ふふっ」


満潮「常備って………そういうことなの………? ぷっ………くくく」フルフル




既に殆どの艦娘が川内の姿を面白がっている。静かだった早霜や、あれだけつっけんどんだった満潮も笑っている。


川内にとっては気の毒だが、場の雰囲気は明るくなっている。それは間違いない。



提督「とまぁ、恐ろしい罰が待っているからあまり問題を起こさないでくれ。やる方としても準備が面倒なんだ」


陽炎「面倒ならやめましょうよ! ねぇ! 話せばわかるでしょ? 止めようよこんなこと!」


川内「うわぁぁぁ!! ちょっと取ってよこれぇぇぇ!!」



提督「さて、次は陽炎の番だ。スロットを止めるのは早霜と黒潮だな」



秋月 (川内さんはスルーなんですね……)



早霜「陽炎さんには申し訳ないけれど………」ポチッ


黒潮「頼むから軽いやつにしたってやぁ………うちが巻き込まれませんように………」ポチッ



提督「9と9のゾロ目か!! これは珍しいな。運がいいぞ陽炎は!」


陽炎「嘘つくの止めてよ! 絶対悪いことが起きるに決まってるわ!!!」


提督「ゾロ目は扱いが別だからな。9のゾロ目はこれだ!!」







9のゾロ目


雷撃処分(仮)





提督「あー………これは川内か陽炎が執行役だったな……」


陽炎「よし、これで助かった」ボソッ


提督「後で北上にやらせておこう。新しい魚雷のテストを頼みたいといえば喜んで受けるだろう。実際新しい装備も入って来たからな」


陽炎「……………」


秋月「北上さんって、確か魚雷に関しては右に出る者がいないと聞いたことがありますけど………」


吹雪「実際のところ、ここにいる艦娘の中で魚雷にかけては北上さんには誰も勝てませんよ。以前深海棲艦と戦った時も、敵の周りをサイドキックで旋回して魚雷で囲んでましたから」


朝潮「何をどうすればそんな攻撃を思いつくんですか!?」



提督「まあお前にも後で装備させる。威力を自分の体でもって確かめられるなら良いだろう?」


陽炎「何よその「自分の作った薬品を自分に投薬する」みたいな!? 自分の研究成果を自分で試そうみたいな変な心構えは何なの!?」


朝潮「それって………普通じゃないですか?」


秋月「自身を被験体にするのはよくある事ですよね?」


提督「そうだな。一応は理にかなった考え方だ。まあ運が悪かったと諦めな」


陽炎「何よもぉー!! 踏んだり蹴ったりじゃない!!!」


川内「うわぁぁぁ!! 取ってよぉー!! 取ってよコレェー!!!」


瑞鶴「川内うるさい!!」


秋月 (元帥閣下からは歴戦の猛者揃いって聞いていたからどんな人たちかと思ったら………)


吹雪「幻滅しました?」


秋月「えっ!? あっ、その……」


吹雪「秋月ちゃん、考えが顔に出やすいみたいで。期待を裏切られたような顔をしていたから……」


秋月「ご、ごめんなさい。そう思いました………でも、そんな悪い意味じゃなくて、正直のところ厳しい人たちばかりだと思ってましたから………」


吹雪「厳しい………うーん。まあ時には厳しい時もありますけど、なんやかんやで楽しい集まりですよ」


北上「んじゃ、これ借りてもいいの?」


提督「もちろん。魚雷の数は沢山あるし、的も丈夫だ。思う存分使ってやってくれ」


満潮「はっ? いつの間に!?」


北上「んー、今さっき? じゃあ借りてくよ〜」


陽炎「ちょ、離してよ!! 離せって!! 離してえぇぇぇぇぇ…………」



一同「」ポカ-ン



提督「ああ見えても、川内と陽炎はここリンガ泊地では百戦錬磨の艦娘だ。2人には数多くのことを学ぶ機会があることだろう」


提督「君たちがここに来るまでにどのような過ごし方をしていたかについては、こちらは余り言及しない」


提督「ただ、話した方が気が楽になると言うのならこちらは黙って耳を傾ける。私でなくても川内や陽炎や吹雪。他の艦娘でも良い。口止めさせても構わない」


提督「………そのような話をこちらがするのは訳があるからだ。もともと私たちはろくでなしの集まりだった。誰もが凄惨な過去を送り、そういった者たちの集いだったからだ」


提督「そういった連中だらけの場所だ。せめて仲間内では気を楽にしたいだろう? ………っと、少し喋りすぎたか。吹雪、全員をそれぞれの部屋に送ってくれ」


吹雪「わかりました!」


提督「今日は伊良湖も停泊している。新人が来た時には決まって大盤振る舞いをするのがうちの決まりでね。今日は豪華にパーティを開かせてもらう。楽しみにしていてくれ」


一同「ありがとうございます!」


提督「では解散だ。吹雪、頼んだぞ」


吹雪「はい! みなさん、こっちです」




吹雪の先導でぞろぞろと部屋を出て行く新人たち。さっきまで騒いでいた川内が大人しくなったことに気づくと、ショックで床に倒れ込んでいたのだ。




翔鶴「川内さん? 大丈夫?」


川内「アァ-………モォ……イヤダ」 ピクピク


提督「川内、泡吹いてないで早く連中の所に行ってこい。瑞鶴、無理やりで良いから叩き起こせ。それで連中を追わせろ」


瑞鶴「人使いの荒いことで。ほら川内! さっさと追っかけて」ペシッ ペシッ


川内「はっ! なになに!? 敵襲!? 」


瑞鶴「新人さんのとこに向かって。吹雪がいま出てった所だから追いつける。ほら早く!!」


川内「あっ、提督! 後で覚えといてよね。絶対寝首掻いてやるから!」バタンッ



提督「わかった。楽しみに待ってるよ。さて、お前たちも下がって良いぞ。こっちも書類が片付いたら食堂でパーティの仕込みを済ませなくてはな。お前たちも16時までには食堂に来い。少しは手伝って貰うからな?」


扶桑「わかりました。それでは私も失礼します」



提督に一礼して部屋を出る一行。この4人が並んで歩いていることは珍しい光景だ。出撃準備か、或いは招集時の時だ。



翔鶴「扶桑さん。今回は?」


扶桑「そうねぇ………どうしようかしら?」



とりあえず、鳳翔と合流しようと考えた一行は彼女の部屋へと向かった。この中で、今月はルームメイトが居ないのは彼女だけだからだ。




鳳翔「お待ちしていました。どうぞ、入ってください」


扶桑「…………ここに来るまでに、2人から意見が出ました。2人とも、もう一度私たちにその意見を聞かせて?」


山城「はい、姉様。あくまで私個人の意見ですが、今回も招集をかけるべきかと。川内と陽炎がこちらに来れない以上、出来るだけ先手を打ったほうが良いと私は思います」


瑞鶴「私はそうは思わないわ。むしろ2人にも招集をかけて、川内と陽炎から話を聞いて対策をとるべきよ。新人の懐に入り込めるのはあの2人だけだからね」


鳳翔「なるほど。それで?」


扶桑「山城の考えにも一理あるわ。でもまだ早すぎる気もします。瑞鶴さんの意見も尤もですが、それでは………」


鳳翔「………そういうことですか。瑞鶴さんの考えだと、もう1人を呼ばないとならない。そうですね?」



扶桑は静かに首を縦に振る。その反応を見て、鳳翔は再び思案する。



鳳翔「前提として、今回も招集をかけることは既に決定済みなのですか?」


扶桑「………それすらも迷っています。海軍に所属すると提督が決めた以上、私たちのこの話し合いすら無用になるのではないかと」


翔鶴「確かにそうですね。以前と状況は変わって、私たちの敵となる存在もいません。………ただ、海軍の中には私たちを敵対視する勢力はまだ残っています。現に先日も………」


瑞鶴「確かにね。そんな連中が居たんじゃ、集めた方が良いんじゃない?この前だってかなり危なかったし。やっぱ今まで通りにするべきよ」


山城「私も、今まで通りにした方が良いと思います」


鳳翔「…………扶桑さん、貴女はどのように考えて?」


扶桑「………この際、また招集をかけるなら新しく誰かを加えても良いかもしれませんね。私たちの見えないところを見渡せる目を持つ誰かを」


鳳翔「その誰かというのは、皆さんの中では決まっていると捉えてよろしいですね?」


山城「………実際、何度もあの子に助けられました」


翔鶴「提督の命も救ってくれましたし」


扶桑「私たちの悲願も、彼女の助けがなければ果たせなかったかもしれません」


瑞鶴「問題は、誰が打ち明けるかってことよね? 私はパス。余り仲良くないし」


扶桑「それは問題ないわ。私が直接あの子に話します」


鳳翔「それでは………」


扶桑「ええ。あの子も私たちの仲間に加えましょう。そうするなら、皆の前で加えた方が良いでしょう?」


翔鶴「そうですね。異論はありません」


扶桑「みなさんも、それでよろしいですね?」



その言葉に全員が頷いた。全員が納得し、ひとまずこの場は開かれることとなった。




・・・・・




ところ変わって演習場。吹雪と秋月、朝潮の3人はこの場所で行われていた演習を見学することになった。



例の「雷撃処分 (仮)」 をなんとか逃れようと、あれから陽炎は提督に談判を繰り返したらしい。



それを提督が折れて「せっかくだから自分たちの演習風景を見てもらえ」と、今に至るのだ。



また、陽炎が談判をしたことを耳にした川内も提督に押しかけ、せめてシャワーを浴びるくらいは許可してもらおうとしたのだ。


そうして提督の計らいで、川内と陽炎で艦隊を組んで演習し、勝った方の言い分を聞くという取り決めがなされた。



見学は強制ではないとのことで、見学者は少ない。もっとも秋月ら新任の者達はここに早く馴染めるようにと集まって来ている。



またどういう気まぐれか、提督も扶桑と山城、鳳翔を連れて演習の見学をしている。



提督「それではこれより、川内率いる艦隊と陽炎率いる艦隊の対抗演習を開始する。各々、思い切り撃ち合え」


提督「なお本演習は、模擬戦を意識したものであり、弾薬は演習用のものに変えてある。勝敗は簡単だ。1時間以内に多く残っていた方が勝ちとする。準備は出来ているか!!」



一同「はい!!」


提督「それでは対抗演習、始め!!!」



川内が率いる第3艦隊は、北上と由良の軽巡3隻。瑞鳳と敷波、暁を含めたバランスの良い艦隊だ。


反対に陽炎匹いる第4艦隊は、夕立、Верный、山雲の駆逐艦4隻と、阿武隈、名取の軽巡2隻を加えた艦隊だ。




提督の合図と共に先手を打ったのは川内の艦隊だ。瑞鳳が艦載機を発艦させて、陽炎方に空爆を行う。


すると山雲が対空砲を用いて、艦載機を墜としていく。名取も続いて対空攻撃を行ったため、陽炎方に届いた瑞鳳の艦載機は僅か数機だ。そのため、空爆による攻撃は当たることはなかった。


次に仕掛けたのは北上と阿武隈だった。お互いが魚雷を発射して、両艦隊に損害を与えようと試みる。


手数では北上に劣る阿武隈だが、正確に敵方に当たるように発射された魚雷だ。川内ら一人一人の動きを予測して放たれた魚雷は、一直線に彼女たちに向かっていく。



すると、瑞鳳がすかさず艦載機を再び発艦させる。阿武隈が撃った魚雷を水面から機銃で爆破しようという魂胆だ。



丁字不利の形に艦載機を持って行き、左右に進んでいく魚雷を爆破しようとする。すると、水面に大きな水しぶきが2つほど上がった。



由良「阿武隈の魚雷は合計で6つ。2つ壊したから、あと4つですね」


瑞鳳「ごめーん! 私と由良さんのは何とか防げたけど、後の4つは自力でどうにかしてー!!」


北上「いや、普通自分は後で周りをどうにかするべきじゃ………」


川内「話は後! 艦隊、速度落として反転! 最大戦速で連中の土手っ腹に突っ込むよ!!」


敷波「りょーかい。って……うわぁぁぁ!!」


瑞鳳「敷波ちゃん!?」



突如、敷波の近くで爆発が起きた。阿武隈の魚雷が川内たちの想定より早く到達したのだ。瑞鳳が安否を確認しようと、敷波に近づいた。



川内「やばいね。思ったより厳しいよ……見捨てるわけにもいかないし………」


由良「みんな、急いで下がって! …………そこっ!!」ブンッ



すると、由良が先頭に出て水中に爆雷を投下した。直撃を受けるよりはマシだろうと、爆雷をデコイに使って魚雷を堕とそうという作戦だ。



投下した爆雷の1つが爆発し、大きな水しぶきをあげた。それに呼応するようにあちこちで爆発が起こる。


先ほど爆発した爆雷の誘爆で、全ての魚雷と爆雷が爆発した。先制雷撃で敷波が大破。由良が爆雷の誘爆を受けて小破という結果になった。



一方、陽炎方は北上の魚雷をどうにか避けようとする。駆逐艦と軽巡という比較的速力のあるもの達が集まった艦隊なので、速力頼みで避けようとする。


すると、最後尾に控えていた名取に魚雷が当たった。何とか中破止まりで済んだが、軽巡に当たったことで艦隊の火力が衰えてしまった。



提督「状況は?」


扶桑「川内さんの艦隊は、敷波さんが大破。由良さんが小破。陽炎さんの方は名取さんが中破です」


朝潮「す、すごい………!」


秋月「こんなに迫力ある戦いを見たのは久しぶりかもしれません!!」


鳳翔「お互いに加減が出来るほどの理性が残っていられればいいのですが………」


山城「多分無理でしょうね。満足するまでやりあうと思うわ」


吹雪「司令官………」


提督「なんだ? お前も参加したかったか?」


吹雪「いえ、そういうわけでは………。怪我人が出たりしないですよね?」


提督「それくらいはあいつらも分かっているだろう。多少の加減はするさ」




・・・・・・



いつの間にかお互いの距離が狭まり、少人数での乱戦が始まっていた。陽炎と川内、阿武隈と北上といった好敵手同士の戦いから、暁とВерный、名取と由良の姉妹同士の戦いも始まっている。


瑞鳳は艦載機の殆ど堕とされたので、敷波の援護に向かう。そこを夕立、山雲が狙い撃ちにしていく。



瑞鳳「ちょっと!! 後ろから撃ってくるなんて卑怯じゃないの!?」


山雲「それは心外ですね〜」ダンッ


夕立「近くで背中を向けてる方がわるいっぽい!!」ダァンッ



瑞鳳「まっ、危なっ! きゃあぁぁぁ!!!」


敷波「ちょっ、待てって! うわぁぁ!!」



苛烈な砲撃に対処する間も無く、瑞鳳も大破状態になる。更に近くにいた敷波も巻き込まれ、2人ともこれ以上の攻撃は不可能となった。



夕立「次行くっぽい!!」


山雲「悪く思わないでくださいね〜」


敷波「マジかよぉ………、おっかないなぁホントに」


瑞鳳「くぅぅ、やられた………もう、あの子たち怖すぎよぉ〜」




一方、陽炎方にも脱落者が出た。既に中破となっていた名取だ。由良と一対一で戦っており、いくら由良も傷を負っているとはいえ互角に渡り合ってた。



由良「っ………!! ちょっと不味いかも………」


名取「これで……立場は同じ、いきます!!」


由良 (左舷から魚雷っ!! これは……北上さんの!? …………よし!)



突如、由良は反転して全速力で名取と距離を取る。逃すわけにはいかないと名取も追いかけるが、次の瞬間、足元から大きな衝撃と水しぶきが上がった。


名取「ひゃあぁぁ!! ふぇぇ……やられたぁ………」


由良「ごめんね。北上さんの流れ弾を利用させてもらったの。正々堂々じゃないのは分かってる。でも、悪く思わないで、ね?」




・・・・・・




扶桑「第3艦隊、瑞鳳さん大破。敷波さん、瑞鳳さん戦闘続行不可能です。また第4艦隊では名取さんが戦闘不能、由良さんが中破に持ち込まれました」



瑞鳳「うぅ………酷い目にあったぁ………」


敷波「うわぁ………お互いに結構ひどくやられたもんだなぁ………」


名取「うぅ………」


提督「お疲れさん。演習が終わるまでここで見ているか? なんなら先に戻っていても構わないぞ?」


瑞鳳「いえ、見ていきます。どっちが勝つか興味あるし?」


敷波「うーん、あたしは戻るわ。ちょっと疲れた」


提督「わかった。大淀が既に補給の手はずを整えている。そのまま工廠に向かって補給を済ませてから戻ってくれ」


敷波「りょーかい」


名取「では、わたしもこれで………」


提督「わかったよ。必ず補給は済ませてから戻れよー!」


吹雪「ゆ、夕立ちゃんやりすぎじゃない…………?」


秋月「うわぁ…………」


朝潮「す、凄いですね…………」




演習とは名ばかりの乱戦に、もはや言葉を失ってしまう2人。敷波の砲口はひしゃげており、撃つことさえままならないだろう。


そもそも演習で使われる弾は出撃に使われるものより威力を抑えて作られたものだ。当たれば多少の痛みは感じるし、艤装も傷を負う。


だが艦砲が使えなくなるほどの威力を出すとなれば、相当な力を必要とする。並の駆逐艦ではこうはいかないが、夕立に於いては本人曰く、力の加減が出来ないとのことだ。


もともと好戦的で大きな力を秘めている夕立だが、勝負となると全力を持って相手を叩きのめそうとしてしまうのだ。


これも夕立が負ってきた過去の出来事が原因ではあるのだが、それは今ここで語られるべきものではない。



一方その頃、数で言えば優勢にある陽炎率いる第4艦隊。そこでまた脱落者が出た。



阿武隈「うぅ〜、やられたぁ〜」


北上「ふっふーん、これが軽巡と雷巡の違いってやつよ!」



小競り合いが始まってから、お互いに緊迫した戦闘が続いていたが、それも今さっき決着がついたところだ。



北上「まっ、魚雷の撃てる数が違うわけだし、手数の多さにゃ負けないからね〜」


阿武隈「もぉ〜! 本当に悔しいぃ〜!!」


北上「さーて、こっちも数が減ってるし、手薄なところに向かわないと。じゃーねー」



北上がその場を後にしようと後ろを向いた瞬間、Верныйが砲口を向けて立っていた。



Верный「お疲れ様。ついでに言うけど、"おつかれさま"」




北上は一歩引いて臨戦態勢を取ろうと試みるも間に合わず、Верныйの砲撃が直撃した。


艤装から煙がもくもくと立ち込めてくる。かなりの損傷だ。北上はВерныйを距離を取ろうとするが、満足に動かず、立ち込める煙で視界が遮られていた。


そしてその煙によって、自身はВерныйの姿を見失ってしまう。この煙は自身の視界を奪うだけでなく、敵に位置を知らせてしまう。まさに最悪な状態だ。



北上「くぅ〜、装甲は薄いって言ってるのにあんな近距離で撃ってくるかね普通!?」



そこで更に追撃を喰らった。見失ったВерныйと、合流した山雲が後方から砲撃を行ってきたのだ。



北上「うわっ!! ちょっと、待っ……!!」



そこにどこからともなく夕立が接近し、手に持った2本の魚雷を近距離で投げつけた。どちらも見事に命中し、大破に追い込まれた。



北上「ちょっと!! 今さっき阿武隈と闘ってたの知ってるでしょ!?」


夕立「近くにいるのが悪いっぽい!!」


北上「ちょ、これ以上食らったら沈むって!!」


夕立「演習弾だから沈むなんてあり得ない………っ!!」




後ろから魚雷の接近を探知した夕立は、すぐさま回避行動をとった。北上の横を通り過ぎた魚雷は、そのまま進み続けた。


魚雷を撃ってきたのは由良だ。夕立は由良に敵意を向けて、まるで威嚇するように睨みつけた。


夕立の気が逸れているうちに北上は戦線を離脱して、提督らの元に戻ってきた。そこに阿武隈も北上より少し遅れて戻って来たのだ。




北上「はぁ〜、駆逐艦ホントにウザい………だいたい阿武隈、駆逐艦とツルんで嵌めようなんて汚くない!?」


阿武隈「そんなことしてませんよー!! あの子たちの視界に偶然北上さんが入ったから悪いんじゃないですかー!」



提督「お前たち、喧嘩している暇があったら早いところ補給済ませてこい」


北上「だいたい、たかが駆逐艦一隻がこっちの三隻も落とすなんてレギュレーション違反でしょ!?」


阿武隈「そんなこと言ったら、たかが数発の魚雷で2隻に大損害与える方もどっこいどっこいですよ!!」


鳳翔「全くこの2人は……いい加減にしなさい!」グイッ


2人「痛い痛い痛い!! 」グググ


扶桑「これ以上喧嘩を続けるつもりなら命令違反として例の罰を受けて頂くか、沈めるかの処置を取らせていただきますが、どちらがお好みですか?」ニコッ


提督「扶桑、目が笑ってないぞ。私が見てもその表情は怖い」


扶桑「あら、ごめんなさい。あまりの苛立ちについ怒りを露わにしてしまって」


提督「はぁ………まあいい。お前たちはここに残るか?」


阿武隈「私は見ていきます」


北上「ん〜、私も見てくとしますかね〜。補給と修理を済ませてからだけど」


提督「わかった。なら艤装を工廠の明石に引き渡しておいてくれ。あとは向こうで整備班がやってくれる」


阿武隈・北上「はーい」




・・・・・・




川内率いる第3艦隊は、川内と由良を残すのみとなった。一方、陽炎が率いる第4艦隊は陽炎とВерный、山雲と夕立が残っており、川内方は不利な状況だ。



このような状況に置かれても、陽炎と川内は一騎打ちの状態で撃っては避け、撃っては避けの攻防が繰り広げられている。



川内「前より、腕あげたじゃない!」


陽炎「それは、こっちの台詞よ!!」




お互いに一歩も引かない激しい攻撃を拡げていく。その頃、2人から遠く離れた海上では、由良が駆逐艦3人を相手に奮闘している。



山雲「本当にしつこいですね〜」


夕立「いい加減に沈んで欲しいっぽい!!」


Верный「沈めるのはやり過ぎだよ。でも、私たちも色々と不満はあるからね。ここらで憂さ晴らしっていうのも粋じゃないかい?」


由良「私……何もしてないと思うけど……うわっ!」


夕立「理由なんていらないっぽい! とりあえず、目に付いた敵は沈める!!」


山雲「あらまあ怖〜い。私も同じ考えだけど〜」


Верный「やれやれ。言っても聞きそうにないし、それじゃあ私もやりますか」


由良「だから……私は夕立ちゃん達には何もしてないって………危ない!」


夕立「さっきからぽいぽいぽいぽい避け過ぎっぽい!!」ムッキ-!


山雲「避けるだけじゃ〜、いつまで経っても終わりませんよ〜!」


由良「確かに……このままだとこっちが保たない……かも……」



そう言って、由良は速度を落とした。まるで降参するかのような雰囲気を醸し出している。



Верный「…………」



由良「ねえ、『ヘッジホッグ』ていう武器を聞いたことがある?」


山雲「戦いの最中に〜、講義を開くなんて〜、随分と余裕ありますね〜」


由良「質問にはちゃんと答えなさい?」ニコッ



言葉の圧力と笑顔がどう見ても合っていない。それくらいの覇気を込めた声で語りかけた。



提督「あいつ………何をする気だ?」


吹雪「全く動きませんね………」


提督「…………扶桑、吹雪を連れてあいつらの近くに控えてくれ。万が一の事が起きては困るからな」


扶桑「わかりました。吹雪さん、行きますよ!」


吹雪「は、はい!!」



2人は大急ぎでドックへと向かい、艤装を身につけて由良達の元へと向かう。



扶桑「………吹雪さん、一度しか言わないからよく聞いて」


吹雪「はい、何ですか?」


扶桑「今日の夜、20:30に会議室の扉をノックして、周りに誰もいないことを確認してから、この言葉を言って下さい」



そういって、吹雪の耳元で小さい声でその言葉を伝える。それを聞いて、吹雪は小さく首を縦に振って理解したことを伝える。


そして由良の居る場所に近づく。すると、由良と夕立達の会話が聞こえてくる。



由良「ーーいま由良の手に持ってる爆雷。これに同じ原理が使われているって言ったら………どうする?」ニッ


Верный「っ!!」


夕立「何を言うかと思ったらハッタリ? そんな嘘にひっかかる夕立じゃないっぽい!」


山雲「でも〜、本物だったら大変ですよ〜? 由良さんだって巻き添えくらいますよ〜?」


由良「もともと由良たちは、捨て身の戦いをしてきたでしょ? それくらいは覚悟してるのよ?」


由良は日頃から冗談を口にするタイプではない。夕立たちを見る目は本気だ。


そして、手に持っていた一つを海面に落とすと、数十秒後には海の底から鈍く低い音が響いてくる。一つや二つではなく、何重にも重なって聞こえてくるのだ。



由良「わかったでしょ? 今からこれを真上に投げて空中で破壊するから。そうすると中の弾薬がここ一帯に降り注ぐことになるけれど、どうする?」


夕立「そ、そんなハッタリに引っ掛かるわけないっぽい」


由良「ならハッタリかどうか、見せてあげる。それっ!」



次の瞬間、由良は手に持っていた爆雷を空高く放り投げた。



Верный「っ!! 伏せて!!」バッ


夕立「わわっ!!」バッ


山雲「っ………。あら〜? 爆発しませーー」



由良を嘲笑うように発したその言葉を打ち消すかのように、周りで爆発が起きた。


その正体は、少し離れた位置で陽炎と接戦を繰り広げていた川内の放った魚雷だったのだ。




Верный「わっ……! 魚雷!?」


夕立「ぽっ、ぽい〜!!」


山雲「あ、あれ〜? みんな〜、やられちゃったの〜?」



辺りを見ると、優勢だった状態が一気にひっくり返った。惚けているように見える山雲だが、その実、打開策を見つけようと思考を巡らせている。




由良「少しだけ、ほんの少しだけで良かったの。3人の意識を少しでもこっちに向けられれば、ねっ」



常に周りを確認しながら陽炎と戦っていた川内は、どうにか由良を救い出し、こちらに加勢してもらおうと、駆逐艦3隻に向けて攻撃することを考えていた。


だが、どれだけ高い命中率を誇る射手と言えども、動く的を射止めるのはそう容易いことではない。


そこでそれを察知した由良は、少しの間だけでも3人の動きを止めようとしたのだ。


また、魚雷がこちらに向かっているということも悟られてはならない。下手をすれば、川内は陽炎だけで精一杯のところを手負いとはいえ、4隻の駆逐艦を相手にすると言う最悪な環境を作り出してしまうからだ。


それも踏まえて、由良はある考えを持って川内に有利な状況を作り出したのだ。


ハッタリをかますこと。ありもしないでっち上げで注意をこちらに向けようと画策したのだ。


間に合わせで作り出した嘘話と、即興で作り上げた仕掛けでまんまと3人を欺くことが出来たのだ。



由良「ヘッジホッグ? そんな大それたものを直ぐに作れるわけないじゃない? だから少し機転を利かせてあらゆる所に爆雷を投下しておいたの」


Верный「なるほど、予め沈めていた爆雷を爆発させていただけということか……」ケホッ


夕立「道理で爆発が遅かったっぽいもんね〜……」ガクッ



由良「由良だって嘘、得意ですからね? 嘘で塗り固めた嘘は本当か冗談か。本当を知ってるのは由良だけ……なんてね」



由良「そうじゃなかったら、傭兵の真似事なんて出来ないでしょ? ほら、あと5秒で魚雷が当たるよ? 4、3……」


山雲「うわ〜! 」ド-ン



避けようとしたのだが、既に魚雷は数センチしか離れていなかった。どちらにしても、間に合うことはなかっただろう。


由良「あー……目測間違えちゃったみたい……ごめんね?」



山雲「た、唯の天然さんなのか〜、本気なのか〜、分からな過ぎますよ〜……」バタンキュ-



由良「よし、これで後は川内さんのところにーー」



次の瞬間、目の前で爆発が起きた。陽炎の放った流れ弾によって、由良も夕立らと同じ道を辿ることとなったのだ。




山雲「あら〜………」


夕立「バチが当たったっぽい?」


Верный「当然の報いだね。まあ、策士策に溺れるってところかな」


由良「うぅ〜、悔しいなぁ……」



しばらくして、とぼとぼと皆のもとに帰って行った4人。どうにも由良の気分が余り優れないようだ。


あれだけの見栄を張って、早々に退場させられてはそうなるのも当たり前だ。提督は取り敢えず由良の機嫌を取り直そうと慰めの言葉を掛けていくが、どうにも良くはならなかった。


そのため、取り敢えず補給の手はずは整えてあることを伝えて、そっとしておこうという結論に至った。無理に詮索するよりかは、こちらの方がお互いにとって楽だろう。


すると、先ほど由良たちの動向を伺うために向かわせた吹雪が戻ってきた。扶桑はどうしたのかと提督が尋ねると、後の2人を止めに入ると言って、吹雪だけを先に戻らせたとのことだ。




・・・・・・





陽炎「さっさと……沈んでくれればいいのに………」ハァハァ


川内「バカじゃないの………演習弾で………沈むわけないでしょ……」ゼェゼェ



お互いに攻撃をかわし続けて一発も当たらないまま、燃料も切れかけ、疲労困憊となっているにもかかわらず、互いに一歩も引こうとしない。


そんな2人の姿を遠くで見守っていた扶桑だが、ついに痺れを切らして2人の前に出る。


川内「うわっ!! ちょっと! 前に出てこないでよ!」


陽炎「当たったらどうすんのよ!」



扶桑「今のところあなた達しか残っていないけれど、いつまで続けるつもりですか?」


川内「っ………」


扶桑「そもそも、あなた達がこうやって砲口を向け合う理由はなんだったかしら?」


陽炎「それは……司令が………」


扶桑「提督があなた達に罰を与えたのはどうしてかを聞いているのよ? まさか濡れ衣を着せられて罰を受けたなんて言わないわよね?」



扶桑の言葉に、2人は黙り込むしかなかった。思い返せば、お互いに煽り、罵り合いが発端だった。


それがここリンガ泊地の全体を巻き込んだ大事になったことを振り返ってみると、急に2人は恥ずかしくなった。


子供染みた意地と悪戯心で勝手に盛り上がり、覚めてみると何をしているのだろうと我に返る。



扶桑「………それで、どうしますか? まだ続けるつもりならば私が無理矢理にでも動けなくして、皆の所にあなた達を連れて帰りますが?」



川内「………わかったよ。私が悪かった。これでいいでしょ?」


陽炎「私も……やり過ぎた。ごめん………」


扶桑「はい、仲直りも出来たことですし、戻りましょう?」



扶桑が2人を連れて皆のところへ戻ると、全員が扶桑達の帰りを待っていた。それはまるで家族の帰りを待つようだった。



提督「少しは気が紛れたか?」


川内「その………ごめんなさい」


陽炎「私たちの意地で、皆に迷惑かけました」


提督「………結局、最後に残ったのは扶桑だ。後はお前に任せる。2人の処罰は好きにしろ」


扶桑「そうですね………。2人とも反省していますし、提督も本当に怒っているわけではないはずです。そうですよね?」


提督「………わかった。今回はもういい。だが、これからはしっかりと新人の世話に従事してもらう。これが破られれば、問答無用で罪に処す。いいな?」


陽炎・川内「すいませんでした」



そう言って2人は深々と頭を下げた。心底反省したような顔つきでおり、誠意を持って謝ったことで、周りの者も納得したような面持ちだ。




提督「よし、今日はこれで解散だ。18:00には歓迎会だ。それまでにしっかり体を休めておくんだぞ? せっかくのパーティに参加できなくては悔やんでも悔やみきれんからな」




・・・・・・



同日、18:00。秋月らを始めとした新人達の歓迎会がリンガ泊地の大食堂にて執り行われていた。


特に堅苦しい集まりでもなく、ただ美味しいものを口にしながら親睦を深めようというものだ。


リンガ泊地には料理が出来る艦娘が多く存在するので、普段から曜日毎のローテーションで料理番を決めているが、本日は提督も入り混じって一緒に調理を行なっている。


以前は海軍の糧食班に属していたものだから、料理の腕は鳳翔らのお墨付きだ。


リンガ泊地も大所帯となり、数年前にたった6人で始めた頃とは大きく姿を変えてしまった。今では30近くの艦娘を有する程のものになり、料理を作るのも一苦労だ。



提督「ビーフストロガノフ出来たぞー!!………ふぅ、これでいくつ料理を作ったことか」


扶桑「全部で40品。そのうち28品が、食材不足で完食済み。少し追い込んでいかないと、ですね」


提督「そろそろこっちもレパートリが無くなってきたぞ………。米はまだあるか?」


山城「ありますよ。いま炊飯器総出で焚いているので、残ってる分は使って頂いても問題ありませんから」


提督「後は何が余ってる?」


鳳翔「駆逐艦の子達が食べないのでピーマンやパプリカなどが残ってますね」


翔鶴「あとは魚介類ですかね。主に貝類が残ってます。蒸し焼きにするのにも数が多すぎますし……」


瑞鶴「肉類もそこそこ残ってるけど、細かいものしか残ってないし、これ使える料理なんてあるのかな…………?」


提督「仕方ない、パエリア………の様なものでも作るか。1つの器に具材を入れて炊いてしまえば同じ様なものだ」


翔鶴「では、私たちはどうすれば?」


提督「翔鶴は魚介類の下ごしらえを頼む。瑞鶴は残った肉の切れ端を軽く焼いてくれ。鳳翔は適当な大きさでいいから野菜の方を頼む」


山城「それじゃあ、私は器を探しておきます」


提督「任せた。後はそうだな……扶桑、皆の様子を見て来てもらえるか?」


扶桑「分かりました」




厨房を抜けて会場に向かうと、皆が思い思いに箸を進めていた。殆どが仲の良いものたちとともに語らいながら食事をしており、美味しそうに頬張る姿は、作った方として冥利に尽きると言えるだろう。



皆の様子を見ていると後ろから不意に声をかけられた。声の主は吹雪だった。


吹雪「すいません、急に声を掛けて。ご迷惑でしたか?」



扶桑「いいえ、ちょうど皆の姿を見に来たので。でも、その様子を見れば満足してくれたみたいで良かったわ」



吹雪「………なんだか不思議な気持ちです。初めてここに来た時、初めて皆さんと会った時は、こんな時間を過ごせるなんて思ってもみませんでした」


扶桑「…………そうね。私も同じ気持ちよ。でも、それを作ってくれたのは、吹雪さん。あなたの力があったからでもあるのよ?」


吹雪「私が? ………なんでだろう、迷惑かけたことくらいしか思い出せません。 "お前は人の心にズカズカと入って来る奴だ" なんて言われてましたから 」


扶桑「それは私も否定しませんよ? でも、今はその性格に感謝もしていますから」


吹雪「感謝………ですか?」


扶桑「そうよ。………吹雪さん、私から………いえ、リンガ泊地に居る全ての艦娘に成り代わって御礼を言わせて欲しいの。ありがとうございます、私たちを助けてくれて」


吹雪「扶桑さん………。こちらこそ、ありがとうございます! 行き場のなかった私を、もう、上を見ることが出来なくなっていた私を大切にしてくれて。私、ここに来て、皆さんに出会えて、本当に良かったです!」


扶桑「………ありがとう。あらやだ、せっかくのパーティなのにしんみりさせてしまったわ。それじゃあ、私は厨房に戻りますね。まだまだみんなの為に、料理をたくさん作らないと」


吹雪「はい! あっ、あの! お昼に話していたあの件についてですけど………」



演習の時に交わした約束。とある部屋での集まりに出て欲しいというものだが、何かと不安があるのだろう。扶桑を引き止めて何かを聞き出そうとする。



扶桑「………そうね。吹雪さん、ここに来る艦娘は、過去に何かの出来事を抱えてやって来るという話は知っているわよね?」


吹雪「はい。私もその1人ですから」


扶桑「その中にも、ここに居る艦娘は2つに分けることができるの。 "目的を果たす為" か、 "提督に付き従いたい者" の2つ。あなたはどちらかしら?」


吹雪「私は………」



吹雪は足元を見つめて、自分自身に問いかけている。自分の目的は既に達成したようなものだ。『あの過酷な環境から逃げ出すこと』に他ならない。


今はとても満足した生活ができている。ともに語らい合う仲間がいて、何不自由ない生活ができて、今までの時間よりも何倍も楽しい時間が送れている。


そしてそれを与えてくれた司令官には、感謝しても仕切れない。初めはぶつかる事もあったけど、今はその時の苦悩を埋め尽くすほどに幸せだ。


提督に付き従いたいというのも、あながち間違いではないが、それでは何かが足りない気がする。


そんな押し問答を繰り返して、吹雪がゆっくりと口を開いた。



吹雪「私は、そのどちらでもありません。指揮官に恩義もありますが、それだけでは足りない気がするんですーー」





ーー「だから、私は」ーー




吹雪「ーーみんなを守りたいです!! 司令官のことも、扶桑さんのことも。ここにいるみんなの命も、時間も、幸せも!!」


吹雪「…………なんて、見栄を張りすぎですか、ね?」


扶桑「…………そんなことないわ。立派な目的よ。あなたなら………いいえ、あなたにしか出来ないことを、私たちからお願いしたいの。だから、さっきの約束は忘れないでね?」




そう言って、吹雪の前から去っていく。そして厨房に戻って再び料理を作っていった。


しばらくすると皆が満足したのか、食事の減りが遅くなる。それに合わせて厨房に居たものも調理を止め、食事をする。


そして数時間後、扶桑は例の会議室に入る。すると、川内、陽炎、衣笠の3人が既に待機していた。そこで扶桑は、先ほど5人で決めていた案を伝えた。




扶桑「今日、新たに1人、この場に加えようという意見が出ていました。既に私たち5人でそれを良しとしましたが、3人は反対意見等はありますか?」


川内「別に。うちらに反対する権利もないし、するつもりもないよ。まあ、いつかはその日が来ると思ってたけど……まさかねぇ………」


陽炎「その話聞いていると、まるでことの詳細を知っているみたいな言い方だけど?」


川内「別に盗み聞きしたわけじゃないよ。…………勘、かな? あんただって分かってんでしょ?」


陽炎「…………」



などといったやり取りをしていると、扉をノックする音が部屋に響く。そして扶桑が扉の前に立ち、ある言葉を発する。



扶桑「『主に永久の忠義を』」


吹雪「えっと………『同胞に名誉と栄光を』」


2人「「『全ては我らの大業の為に』」」



少しの沈黙を挟み、扉を開ける扶桑。誰にも尾行されていないことを確認して、吹雪を中に入れる。



扶桑「ごめんなさいね、回りくどいやり方で。でもこれが規則なものだから………」


吹雪「いえ、別に気にしてはいませんけど………一体これはどういった集まりなんですか?」


扶桑「単刀直入に話しますね。あなたを私たちの仲間に加えたいの」


翔鶴「私たちは以前。そう、傭兵として動いていた時に立ち上げた集まりの様なものよ。提督の負担を少しでも減らそうと私たちにできることを考えてのことよ」


川内「些細なことだったら私たちで解決していこうってつもりで立ち上げたんだけど………」


陽炎「いつのまにか当時の目的と少しづつ変わっていっちゃってね。うちらの考えた意見とか、扶桑の口から司令に伝えればそれが採用されるようになってさ」


衣笠「まあ、平たく言えば裏で牛耳る連中みたいな感じになっちゃって。かと思えばただの集会になっちゃったりと、とにかく存在意義がわからなくなっちゃったのよ」


吹雪「はあ………それで、私はどうしてここに? 私は何をすれば?」


扶桑「今回、新しく入って来た子がいるでしょう? その子達の動向をチェックして欲しいの。それで、定期的にここにいる皆に報告をしてもらいたいのよ」


吹雪「…………話は分かりました。ですけど、いくつか聞いてもいいですか?」


扶桑「あら、何かしら?」


吹雪「教導役を終えた後も、私は扶桑さんたちと行動することになるんですか?」


扶桑「ええ、もちろんよ。今回の件を持って、あなたを私たちの仲間に加えたいの」


吹雪「秋月さんたちの行動を報告するだけならまだしも、今後の活動を考えたら、私より大淀さんの方がいいのでは?」


扶桑「………大淀は、提督の側にいてもらえた方が何かと都合がいいのよ。正直、私たちが大淀を上手く扱えるとは思っていないから」




吹雪「じゃあ、最後にもう1つだけ。今ここにいる方々。翔鶴さんと鳳翔さん、陽炎さんに川内さんは私がここに来た時、比較的近くに居ましたよね? それとこの集まりは関係あるんですか?」


扶桑「…………ここまで来たら、ちゃんとお話ししないとね。そうよ。私たちは、あなたを警戒していたのよ」


川内「まー、敵対視していた側からやって来たとあれば警戒はしないといけないし」


陽炎「もちろん、許してもらおうなんて思ってるわけじゃないけどね」


吹雪「…………そうですか。もし私が、この話を断ったとしたどうするつもりですか?」


扶桑「そうね………一応私たちはあなたの能力を買っているわけだから、別に危害を加えたりはしません。けど、私たちと一緒にいることはデメリットではないということは伝えておきますね?」


吹雪「…………正直、針のむしろ状態で、とても過ごしやすい時期とは言えませんでした。それを作ったのが皆さんだと思うと、とても協力したいとは思えません」






扶桑「………そうですか。ならーー」




吹雪「でも、私と同じ思いを秋月さん達にさせたくない。その為には私が皆さんと一緒にいる方がいい。ですから、お2人の監視役は請け負います。でもその後の活動は、もう少し考えさせてください」



扶桑「…………分かりました。では、お2人の監視をお願いします」



・・・・・



翌日、さっそくここでの生活に慣れてもらおうと、吹雪は秋月、朝潮を連れてリンガ泊地の建物を見て回っている。ここは食堂だとか、ここが執務室だとか色々と説明を交えつつ案内しているので、2人も聞き入っている。




吹雪「一応、一通り回って来ましたけど………何か気になることとかありますか?」


秋月「あ、ありがとうございます。1から丁寧に教えて頂けて……。今のところは特にはないですよ?」


朝潮「朝潮も特に疑問視する点はありません。丁寧に教えて頂けたので早く馴染めそうです」


吹雪「そ、そうかな? 私、教えるのあまり得意じゃないから心配だったんだけど……そう言ってもらえると、安心できます」


秋月「それにしても、リンガ泊地ってかなり広くないですか? 入渠ドックも食堂も……」


朝潮「朝潮たちが以前に配属していた場所とは規模も実力も全然比べ物にならなくて………」


吹雪「………2人は同じところに所属していたんですか?」


秋月「はい! 同時期に配属になって。部隊は一緒になったことはないですけど………」


吹雪「そうなんだ………。2人は、ここに来る艦娘の共通点を知っていますか?」


秋月「いえ………わかりません」


吹雪「………私も始めは同じ気持ちだったなぁ」


朝潮「? 何か言いましたか?」


吹雪「えっ!? あ、いや、何でもないです! えっと………そう、ここに来る艦娘の共通点の話! ここに来る艦娘は皆、過酷な境遇にあったことがある艦娘なんですよ」


吹雪「川内さんも、陽炎さんも、もちろん私も。だから苦しいことには慣れているし、苦しい気持ちも誰よりも理解できるはず。だから、何かあったら遠慮なく相談してください。力になりますから」


朝潮「は、はい!」




突如、建物全体に館内放送が響いた。緊迫した声で提督が全員に呼びかけている。



提督《全員に通達。緊急の依頼が入ったために至急食堂に集合せよ。繰り返すーー》



吹雪「………珍しいですね。仕事が来るなんて。皆さんも行きますよ」


秋月・朝潮「はい!」




食堂に向かうと、ほぼ全ての艦娘が既に集まっていた。提督は全員が到着したのを見計らって軍議を開いた。



提督「これより、海軍から舞い込んで来た任務について皆に伝える。概要を大淀、皆に伝えてくれ」


大淀「はい。任務の内容は、マレーシアの近海を通過する深海棲艦の船団を叩くというものです。ごく単純なものですが、一艦隊で作戦に当たるようにという海軍からの要望があります」


提督「この依頼には少し引っかかることがあってな。指示がいちいち細かすぎる。旗艦は戦艦を、空母を2隻加えて重巡、軽巡、駆逐艦を各1隻ずつの艦隊にしろとな」


衣笠「それくらいなら、普通にありそうな任務だと思うけど?」


神通「そういった任務は少なからず遂行していった記憶があります。あまりお気になさらずとも………」


提督「確かに2人の言葉にも一理ある。だが、私にはこの様にも読み取れる。 "海軍の正式な依頼だと思い込ませる作為的なものではないか" とな」


熊野「では、海軍からの依頼と見せかけた偽の依頼を私たちが請けることを何者かが望んでいる。提督はその様に考えていると?」


鈴谷「にしたって随分と手が凝ってるきがするんだよね〜。誰が鈴谷たちを狙おうってのよ」


提督「さあな。心当たりがありすぎる。しかし、この文章は海軍の正式なものだ。無下にすれば、とやかく言ってくるものも出てくるかもしれん」


翔鶴「つまり、怪しいと疑いながらも請けさせざるを得ない状況を何者かに作られたと言うことですね?」


瑞鶴「そしてその誰かってのが分からない。それは心当たりがありすぎるから」


山城「まさかとは思いますけど、提督はこの中に裏切り者がいるなんて考えていませんよね?」


提督「内通者か…………。可能性は無くはないが、ここに引き入れた時点で疑うことはしない。疑わしきは用いず、使うと決めれば疑心は持たない」


大淀「取り敢えず、この任務は請けざるを得ません。さほど難しい内容では無いとは言え、万全の対策を持ってこの作戦に当たることにします」


提督「今回はビスマルクに旗艦を任せる。赤城、加賀の両名に航空隊を任せ、鈴谷はビスマルクと共に敵に当たり、由良は対潜を。吹雪は参謀として参加してもらうと共に、臨機応変に動いてもらう」


大淀「吹雪さんには砲雷撃、対潜、対空と全ての仕事をお任せする事になってしまいますが、引き受けていただけますか?」


吹雪「もちろんです!」


提督「では、出撃時刻は翌早朝の04:00で構わない。明石は全員の艤装のメンテナンス。吹雪にはこれから細かな作戦を練ってもらうことになる」


提督「それでは以上だ。解散してくれ」



全員がどことなくピリピリした雰囲気を醸し出す。全員が出撃するわけでは無いのだが、待機する者たちも気を抜いている様には見えず、それはまるで、リンガ泊地に所属する艦娘全員で作戦に当たろうとしている様にも見えるのだ。


ビスマルク達が明石と共に艤装の確認を行う間、吹雪は提督と大淀、さらに扶桑や翔鶴、鳳翔と言った歴戦の者達と臨機応変に対応出来るように作戦を練っていた。


その中に更にもう1人、提督が加えたいと呼び出した者がいた。つい先日、ここに配属されたばかりであるWarspiteだ。


彼女と提督の出会いは古く、この艦隊の古参の筆頭に挙げられる川内と陽炎の両名とほぼ同時期と言えるだろう。


この古くからの付き合いのある彼女を仲間としなかったのはとある理由があっての事なのだ。


当時、彼女には「まだ共にする時期では無い」と言い残し、彼女を隊列に加えることを良しとはしなかった。


それも彼の本心ではあるのだが、実はもう1つの理由があるのだ。


warspiteは本来、イギリス海軍の所有する船であり、日本に来ること自体が疑問視されるほどに縁遠い存在だった。


彼女は日本海軍を査察するために、イギリス海軍からの出向を言い渡されていたのだ。そして出向の原因を作ったのが、彼と当時の元帥の息子であった島原啓治の衝突による横須賀のクーデターなのだ。


そこで彼女は彼と僅かな間だが時間を共にし、彼を慕う存在となったが、提督からしてみれば彼女は敵方の存在である。それを易々と受け入れるのは信念に悖るとはいえ、力を持っていない当時では起動した爆弾を背負うが如くの所業である。



しかし今は状況が大きく動いた。彼を取り巻く障害はほぼ無くなり、今の彼女は出向としてでなく、彼女自身の意思で日本に居る。



それを提督は確信した上で、彼女を仲間としたのだ。最も、彼女と大淀が知り合いであったこと、横須賀に長く停泊して誰の下にも付かなかったことは彼の知り得ないことだった。



それはさておき、提督の招きによって皆の前に現れたwarspiteは、一通り皆に挨拶をした後に作戦会議に参加する。



提督「さて、今回の作戦で重要視すべき箇所は2つ。これが正式な任務であるか否か。またそれぞれである場合はどのように対処するかだ」


大淀「正式な物と判断できればその通りにすべきですが、誰かの策略とあれば、先ずは心当たりがあるの者を片端から洗い出すべきかと」


提督「まあ、それが妥当な所だろうな」



心当たりが多すぎるというのは決して冗談ではない。彼は数年前、傭兵のように艦隊を派遣しており、その中で多くの人間に疎まれている。


多くは怨恨によるものだ。親族や友人を殺されたもの、出世を阻まれ者である。時には逆恨みをする者もおり、何かと気苦労が絶えない。



もう1つは、正義の味方を気取った者だ。彼の過去は海軍が所有する資料には、ほぼ残されていない。とある取り決めによるものだ。


しかし、それだけで彼の過去を秘匿することは不可能だ。当時の関係者や知人からの話で、彼のした事を悪だと判断して、正義の味方を気取った輩が事を起こしてもおかしくはない。




提督「取り敢えず、今回は逆恨みの線で考えていくとするか。正義の味方気取りの阿呆だとしたら何処の誰かも知らない奴だ。仮定の話をするのはきりが無い」


翔鶴「以前、私たちに噛みついた者で海軍に拘留中の者は除くと考えてよろしいのでしょうか?」


提督「…………どういう意味だ?」


翔鶴「つまりは、そういった者たちの息がかかった輩の1人や2人は居てもおかしくは無いかと」


提督「なるほどな。確かにその可能性も考えられるか………」


鳳翔「かつて私たちに依頼をした司令官の1人という可能性は如何でしょうか?」


扶桑「確かに………。あれだけの法外な報酬を要求していましたから、恨み言の1つや2つはありそうですが………」


吹雪「ですけど、それくらいで事を起こすとは考え難いです。海軍に所属した今、同胞に手を出せば反逆罪として処罰されます。それほどの危険を負ってまで復讐したがる存在が居るかどうか………」


提督「確かにな。表向きにはそうだが、以前身に起きた事を考えてみろ。私を呼び出して始末しようとした者が居ただろう? 復讐に駆られればそれくらいはやり兼ねない」


大淀「しかし、以前襲ってきた指揮官の階級は大将。軍においてもそれなりの地位です。その彼がしくじったとなれば、手を下す者は居ないのでは?」


提督「ならば、一度しくじった連中かもしれんな。何も失うものがない分、突発的な事をやり兼ねない。それを私たちは身をもって味わっているはずだ」



ここまで様々な可能性を導き出してきたが、一向に拉致があかない。その状況を打ち破るように、warspiteが提督に投げかけた。


warspite「1つ、聞いてもいいかしら。任務や依頼は普段から文章で通達を受けているのかしら?」


提督「いや、とあるルートを伝って口頭で伝えられるものが多いな。そもそもこういった任務が来る事自体がない」


提督「というのも、近年は深海棲艦の動きも沈静化しつつある。深海棲艦の本体を叩きたいが、居場所を特定するに到っていないために、ここ最近は防衛という形で座している指揮官も少なくはない」


warspite「では、海軍の発行する正式な書類等を見る機会は少ないということでよろしいかしら?」


大淀「基本的な任務等は件のルートを辿って私に直接来るようになっていますし、ほぼ見ることはないですね。因みにこれがその任務です」



warspiteはそれを一通り見る。そして1分も掛からずにきっぱりと言い放った。



warspite「これ、正式な書類ではないわね」


提督「なぜ分かる?」


warspite「私は横須賀に長い間留まっていたわ。私室に篭っていたとは言え、文章を見る機会は幾らでもあるもの」


吹雪「…………最後に見たのは4年前ですけど、はっきり覚えてます。違いなんてどこにもありませんよ?」


warspite「2年くらい前かしら? 作戦の一部が外部に漏れているかもしれないと疑っていた時期があったのよ。その時を境に、任務状を改変する動きがあって………」



warspiteは指令書のサインや判を指差す。曰く、以前までは署名の上に判を押していたが、それを逆にするようになったと言うのだ。


つまり、署名が判の上に掛かっていなければおかしいのだと指摘したのだ。送られてきた依頼書は、署名の上に判が押されている。



吹雪「つまり、これを送った者はここ数年の内に関わった者ではなく、もっと前に関わった海軍から除籍された者、ということは………」


warspite「確かにずっと前に海軍から除籍された者とも言えるけど、私が言いたいのはそうじゃないの」


提督「………なるほどな。つまりこの依頼主は "あいつら" かも知れないな」



何か一人で納得したように頷いて、この場を解散させた提督。一人になった執務室で、窓から見える港を眺めながら呟くのだった。



提督「腕は買っていたんだがな。それほどまで私を恨み続けるというのか。お前たちは…………」




・・・・・・




そして翌早朝の04:00。ビスマルクを旗艦とした艦隊は定刻にリンガ泊地を出立した。


特に大きな問題もなく、謎の指令書に指定された海域へと突入し、深海棲艦の通過予定時刻まで待機していた。


そして予定時刻ちょうどに、水平線から影が見えた。それらは間違いなくこちらに近づいている。標的の深海棲艦だろう。ひとまず空母は偵察機を飛ばして確認を取る。



そして偵察機から敵艦の確認を受けると、全員が同じ顔をした。こちらに向かっているのは深海棲艦ではなく艦娘だった。




ビスマルク「・・・やっぱりね。何度でも立ち塞がろうとするなんて、馬鹿な連中」


足柄「お久しぶりね。あれ以来、みんなは元気にやっているのかしら?」


鈴谷「ふーん、そうやってこっちに付け入ろうってわけ? やっぱり他人を売るような何処ぞの誰かの考えはそれはそれは素晴らしいことで」


青葉「・・・・」


由良「それで、何の用なの? 今さら由良たちに何をさせるつもり?」


足柄「・・・正直、悔しくて堪らないのよね。てっきり扶桑か山城を出撃させるつもりだと踏んでいたのに」


ビスマルク「あら、私では不満だって言いたいの? あんたたち二人を沈めるくらい、彼女たちの手を煩わすこともないっていうアドミラールからのメッセージよ」


足柄「確かに、私たちに対してうらみつらみを持つのは当然よね。けど、今回はそうは言っていられない」


青葉「いま、海軍の一部で暴動が起きています。何者かが、海軍の秘匿した情報を開示させたと。この中に、指揮官のことも含まれています」



それを聞いた皆が目を見開いた。自分達を殺そうとした連中が、今やこちらを助けようとしていることに。その真意を問いただそうと、吹雪がゆっくりと言葉を選びながら声を放った。



吹雪「仮にその話が真実だとして、信頼してもらえると?」


青葉「思ってませんよそんなこと。でも、手遅れになる前に出来ることはしておかないといけない。そう思ったからここに皆を呼んだんです」


足柄「秘匿した情報の殆どは戦闘の結果。私たちが何処に攻め込んだのか、そこでどんな深海棲艦を沈めたのか、被害状況はどうか等の情報よ」


青葉「勿論、戦果や被害状況は逐一全指令、国の御偉方に伝えられますが、唯一報告しなかった出来事があるはずです」


ビスマルク「それが、アドミラールのことだっていうの? それは変よ。情報を跡形も残さないことを海軍は納得したはずでしょう?」


青葉「確かに、情報の殆どは約束通りに抹消されました。でも、その情報が何者かに復元された後に横須賀に所属する全司令官の元に流出させられました」


鈴谷「その口ぶりだと、犯人が誰か知ってるみたいじゃん?」


足柄「犯人は外洋に所属する指揮官よ。そして、その指揮官の元にいた艦娘はあなた達のリンガ泊地に潜り込んでる」


青葉「海軍に属すと決めたのなら、せめて受け入れる艦娘の経歴ぐらいは知っておくべきですよ。だから足元を掬われる」



皆が2人の話を黙って聞いている中で、ただ1人、吹雪がそわそわと落ち着かず、痺れを切らしたかのように言い放った。



吹雪「・・・一つだけ、聞いてもいいですか?」


足柄「なにかしら?」


吹雪「私たちの足元を彷徨いている存在は、足柄さんたちのご友人ですか?」



次の瞬間、水中で爆発が起きた。近くで水柱がそびえ立ち、そこから深海棲艦の姿が見えた。投下した爆雷で潜水艦が打ち上げられたのだ。



由良「あら? 相手が深海棲艦だったら遠慮する必要はありませんでしたね。えいっ!」



もう一度、爆雷を投下すると更に多くの深海棲艦が打ちあがってくる。その様はダイナマイト漁だ。



足柄「なっ、何で深海棲艦がここに!?」


青葉「事前の偵察じゃあそんな話しは一度も・・・」


鈴谷「良かったじゃん。嘘がホントになったわけだし?」


赤城「偵察機より通達、北東より深海棲艦が襲来。数は凡そ30です!!」


ビスマルク「いつも通りで宜しく」


一同「了解!!」




全員が陣形を崩し、個々で戦闘を始めた。ビスマルク、鈴谷、由良が敵を遊撃。赤城と加賀は航空機を発艦させ、吹雪が2人を護衛している。




ビスマルク「feure!!」


鈴谷「うりゃぁ!!」



由良「全く、荒くれ者ばっかりね。てぇーっ!!」


赤城「加賀さん! 同時に艦載機を発艦させて海域一帯を爆撃します!」


加賀「わかったわ。発艦準備は出来ています。タイミングは赤城さんに合わせます」


赤城「赤城から、艦隊各位に伝達! 通信終了から3秒後に海域一帯を爆撃します。繰り返します。通信終了から3秒後に海域一帯を爆撃します!」


ビスマルク『了解したわ。思い切りやってちょうだい!』



鈴谷『見境なく爆撃とかは止めてよねー!』


由良『由良達の心配は必要ありません。ちょっとやそっとじゃ沈みませんから!』



前線で遊撃を行っていた3人からの返答を受け、予定通りに全戦闘機を発艦。敵艦隊に偵察機などが哨戒した形跡がないことから、制空権は問題なくこちらが奪取した。


発艦作業中の空母はあまり余裕がないため、吹雪がより一層警戒を厳としていた。


敵の潜水艦隊は、由良の一方的な蹂躙によってほぼ壊滅状態。水上艦隊もビスマルクと鈴谷の遊撃、撹乱によって浮き足立っていた。


その上での爆撃だ。いかに戦艦を10近い数を揃えようと、浮き足立てば陸に上がった魚も同然だ。なす術なく的となるだけである。



30隻もいた敵艦隊も、ものの十数分でカタがついた。消費したのは弾幕や燃料のみで、全員が大きな損傷もなく遂行できたのは並大抵のことではない。




鈴谷「んじゃ、これにて一件落着ってことで」


ビスマルク「詳しく聞かせてもらうわよ? 私たちのリンガ泊地で」


由良「少しでも怪しい動きをすれば私と吹雪さんが遠慮なく撃ち抜きますから、気を付けてくださいね?」



・・・・・



数日後、青葉、足柄の両名を連れてきたビスマルク率いる艦隊は何事もなく帰還した。


事の子細は予め聞いていたので、そのまま2人を執務室に通した。


ビスマルク「Admiral. 約束通り連れてきたわ」


提督「ご苦労。ひとまずは下がってもらって構わない。補給や入渠の手配は済んでいる。何かあれば明石か大淀に話を通してくれ」



それを聞いてビスマルクは2人を残して執務室を後にした。それを見届けた提督はゆっくりと話始める。



提督「………よく私の前に出られたものだな」



足柄「そうね。それは否定しないわ」


青葉「ですけど、こんなことをするのはこれっきりですよ。今日ここに来たのは助けられた恩を返すためだけですから」


提督「・・・用件は?」


足柄「既に話を聞いているかもしれないけど、始めに謝っておくわ。あれは嘘なのよ」


提督「何だと?」


足柄「ああでも言わないと、連中が納得してくれるとは思えなくてね。少しだけ利用させてもらったわ」


提督「・・・本題は?」


青葉「その前に、青葉たちのいまの所属はご存じですか?」


提督「興味がないな」


足柄「でしょうね。けど、話を円滑に進めるために伝えておくわ。横須賀鎮守府の第一艦隊。これで納得してもらえるんじゃない?」


提督「・・・証拠は?」


青葉「伝言を預かってます。"おほけなく うき世の民に おほふかな わがたつ杣に 墨染の袖" と」


提督「・・・・・分かった。アイツらしい伝言だ。ならばこちらも納得してやるしかないな。それで?」


足柄「・・・早い話が、上層部の人員配置のミスよ。横須賀で戦果を挙げていた指揮官がいて、彼に位を与えたら手のひら返しのようにってこと」


青葉「具体的にいえば、戦争を放棄して艦娘と色恋沙汰に明け暮れる日々を過ごすようになったってことです」


提督「・・・遠回しにおちょくっているのか?」


足柄「なんでそうなるのよ。むしろ逆。警告してるのよ。その指揮官が艦娘を手込めにして色々やってくれたものだから」


提督「その話が私と何の関係がある?」


青葉「つまり、あなたたちが狙われているってことですよ。それも汚い理由で」


提督「・・・ほう、随分と大胆な奴がいたものだ。人の部下を手に掛けようとは豪胆なのか、ただの大馬鹿か」


足柄「とりあえず、私たちの仕事はこれで終わりよ。あとはあなたに任せるわ」


青葉「青葉たちにはもう一つの命令が言い渡されました。二度と帰ってこなくていい。足柄と青葉の両名の首は、あなたの裁量に委ねるようにと」


提督「・・・・・あいつが言ったのか?」


足柄「そうよ、間違いないわ」


提督「・・・・」




提督は考える。彼がそのようなことを言うだろうか。


伝言に使った詩は、百人一首に纏められた一つである、慈円という和尚が読んだ詩だ。「非力ながらも私の墨染めの袖。仏の教えで世を覆い、民を救いたい」という意味である。


捨てられる身である彼女たちを救ってやりたいという、「艦娘は兵器ではなく人間」という彼の信念に基づいた伝言だ。


そんなあいつが私を目の敵にしている二人をこれ見よがしに送りつけるものか。暫く考えていると、ある一つの答えにたどり着いた。




提督「そうか。そういうことか」




それを聞いた二人はきょとんとしている。何がそういうことなのだろうか。




提督「青葉、足柄の両名に伝える。本当の主を見つけられるまで、私のもとで闘え」



足柄「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!! あなた、自分がされたことを分かってそんなこと言ってるの!?」


青葉「青葉たち、2回もあなたを裏切ったんですよ?」


提督「もちろん忘れた訳じゃない。だからお前たちにチャンスを与えてやると言ってるだけだ」


青葉「チャンス?」


提督「お前たちに行く当てがないなら私がお前達の身を預かる。だが、もし自分の主と仰げるものがいればそいつの元に行くことを許す」


足柄「ど、どうしてそんなことを・・・」


提督「お前が私に伝えた伝言は、百人一首の中にある詩だ。仏の加護で世を救いたいという意味のある詩だ」


提督「それをお前たちの口から聞いた。それはつまり、自分達には世を救う意志、戦う意志があることを私に示した」


提督「戦う意志があるのならば、何の権限も持たない私が勝手にお前たちの命を奪うわけにはいかない。ましてや人様の部下、それが私の弟、元帥閣下の艦娘とあれば尚更な」


提督「まったく、あいつらしい汚いやり方だ。相手を絡め取って詰まらせる。全く誰に似てか敵を作りやすいやり方を取ってくれる」



皮肉混じりで弟を罵倒するものの、どこか嬉しそうな声色でそう話している彼の言葉を遮るように、執務室のドアがノックされた。


吹雪「失礼します! 指揮官、出撃した艦娘の補給と修理が完了しました。あっ・・・、出直した方がよろしいですか?」


提督「もうすぐ終わる。中に入って待ってくれて構わない。・・・いや、一仕事頼んでも構わないか?」


吹雪「分かりました。それで、私は何をすれば?」


提督「今から言う者たちを連れてきてくれ。まずはあの5人。それと、青葉と足柄の姉妹、それからビスマルクと鈴谷、あとは熊野と大淀、Warspiteだ」



吹雪「分かりました。大淀さんに頼んで、放送をかけさせますか?」


提督「そうだな。その方が手っ取り早い。まずは大淀に話を付けてくれ。あとは奴が勝手にやるだろう」



吹雪は一礼して部屋を後にした。数分後には放送がかかり、10分後には先ほど名前をあげた全員が執務室へとやって来た。



提督「よし、集まったな。話を簡潔に進めたいので、批判や質問は最後に受け付ける。まず一つ目、青葉と足柄の両名を一時的ではあるがこちらで引き取ることになった」


提督「二つ目は、両名からの密告で、我々を狙っている者がいるらしい。それの対処法を練るために皆を呼び寄せた。さて、批判や質問は?」


扶桑「提督が決められたのであれば反論は致しません。が、この二人を受け入れるのならば、監視するものを付けるべきでは?」


鳳翔「私も扶桑さんの意見に賛成します。外出禁止等の命は出さないにしても、監視は付けるべきです」


提督「いや、そこまでする必要はない。無闇に監視をつけたりすれば、2人が自分たちの主を見つけることが出来なくなってしまうだろう?」


瑞鶴「だ、だからって・・・」


提督「ともかく、2人の処遇に関しては特に制限は持たせない。去ると決めればそれもよし、残ると決めればそれでも構わない」



提督「問題は二つ目だ。我々を狙っている連中がいるらしい。それも目標は私ではなく、お前たちだ。詳しい話は2人に任せた」


足柄「あなたたちを狙っているのは今の海軍大佐。呉鎮守府所属の "木下勝" という男よ。これが彼の写真」



そう言って、青葉が取り出した彼の写真を見せる。そして拡大してプリントしたものを執務室のホワイトボードへと貼る。



青葉「これは元帥閣下から頂いたものなので、信憑性は高いはずです。青葉が言う必要はないと思いますけど」



それを見た艦娘の反応は様々だ。中でも異常な反応を示した者は、静かに憤りを見せている。



提督「・・・ひとまず、その男が何かしらを起こしてくる可能性は高いそうだ。それを知らせるために、横須賀から2人が送られたのだからな。とりあえず話は以上だ」



それを聞いて少しずつ艦娘が退出していく。人数が減ってから、提督があるものに慰めるような声で話しかけた。


提督「お前はどうしたいんだ? 鈴谷?」



鈴谷「・・・今それを言うかなぁ? せめて2人の時とか、事情を知ってる艦娘だけを集めてとか、ムードってもんがあるじゃん」



提督「・・・そうだな。すまん、軽率だった」



鈴谷「・・・ごめん。ちょっと外の空気吸ってくるわ」



そう言って、鈴谷は1人で執務室を後にする。たまたま扶桑に用があった吹雪が話を聞いており、それとなく事情を聞いてみようと思ったのだが、皆の反応はあまり良くない。



提督「・・・こればかりは、私もどうしようがない。あれは奴の問題だからな。さすがに他人の事情を口にするのは私も気が引けるからな。鈴谷本人から聞くしかないが、あいつがそう簡単に話してくれるかは保証できんな」




・・・・・




吹雪は執務室を出て港に行くと、座って海を眺めていた鈴谷が居た。声をかけると、いつもの調子とは呼べず、弱々しい声で返事をした。



鈴谷「・・・ごめんね。皆の前で提督を突き放すようなこと言って。何か言ってた?」


吹雪「いえ、そんなことは。・・・じつは、司令から鈴谷さんの話を聞こうとしました。けど、話すのは気が引けるって」


鈴谷「・・・だよねぇ。鈴谷も自分で話すのも嫌になるし。でも、良いよ。話したげる」



そう言って、鈴谷は水平線を見ながら話し始めた。




鈴谷「実はさ、吹雪と初めて会った時のことなんだけど、嘘ついてたんだ」


吹雪「嘘・・・ですか?」


鈴谷「本当は、提督達とは長い付き合いでさ。もう、3年目くらいかな。吹雪が来るよりもっと前からの付き合いなんだ」


鈴谷「あの時は皆で海軍を恨んでいてさ、提督や扶桑の話は知ってるでしょ? その他の艦娘も、大抵は嫌な目に会ってきて、それで海軍を恨んでるってこと」


鈴谷「んで、鈴谷の場合はさっき話に上がってた木下勝って奴ね。あいつに会ったのは提督に合う一年前でさ。・・・・・・そこであいつに襲われたんだぁ」


鈴谷「始めは仲良かったんだよ?けど、1ヶ月くらい経った頃に部屋に呼ばれて、押し倒されてそのまま」



鈴谷「・・・・・・とっても怖かった。少しからかうつもりだったんだけどさ、そしたら本当に。とっても怖い思いをしてさ、ただされるがままだった」


鈴谷「それから、鈴谷の人生は滅茶苦茶。そいつから逃げたと思ったら別の奴がまた鈴谷の体目当てで近づいてきて。何度も何度も犯された」



目を背けたくなる話。聞くのも辛すぎる。吹雪はかける言葉がないくらい、なにもしてやれない事にただ無力を感じるしかない。



鈴谷「ある時、もう何人目だったかわからない頃に、鈴谷に乗ってきた男をね、撃ったの。殺したんだよ。鈴谷が」



鈴谷「だって・・・、だってそうでもしないと、私はずっとそうやって生きていくしかないじゃん!? 艦娘として皆を守るために戦わなきゃいけないのに、なんで? なんで!?」



吹雪の方をみて、訴えかけるように話す鈴谷。吹雪も鈴谷を見るが、吹雪の顔を見て我に帰ったようにまた海を見始める。



鈴谷「・・・・・・ごめんね。勝手にエキサイトしちゃって。まあ、そこから鈴谷は上官殺しなんて理由で海軍から追われ続けて、人間不振に成りながらも今の提督と一緒に居るってわけ」



鈴谷「・・・他人を裏切るのって、とっても簡単なんだよね。とっても簡単なんだけど、裏切られた方は、一生残らない傷を負うことになる」


鈴谷「反対に、信頼を得るのって本当に難しいんだ。鈴谷の場合は余計だよ。裏切ったことあるし、裏切られたこともあるし。多分、提督にとっても迷惑かけたかもしれないよね」


鈴谷「でも、いま鈴谷がこうしていられるのって提督のおかげなんだよね。何があってもちゃんと鈴谷と向き合ってくれた。鈴谷を信じてくれた」


鈴谷「だから私は、提督を信じたい。提督のためなら何だってしたい。そう思うんだよね」




鈴谷「・・・今回ばかりは、鈴谷も黙っていられない。私の人生を狂わせた奴だもん、復讐しないと気がすまない!!」



鈴谷は目を瞑ってゆっくり、大きく、ひと呼吸をする。もう一度。すると、何となく体が軽くなった気がしていた。



鈴谷「・・・吹雪、ありがとね。ちょっち体が軽くなったかも。言いたいこと言って気が晴れたのかねぇ? まあいいや!」



さっきとは違う。いつも通りの鈴谷が戻ってきた。勢いよく立ち上がると吹雪に手を差しのべる。



鈴谷「行こ? 提督が心配してるかも知れないし!」




・・・・・




執務室に2人で戻ると、翔鶴、瑞鶴と入れ替わって由良と熊野が居た。この2人は、鈴谷の事情を知る数少ない者達だ。


何でも、鈴谷の機嫌を損ねてしまったとのことで提督が呼び寄せたらしい。しかし、執務室に入ってきた鈴谷は出ていく前とは違っていつもの調子を取り戻していた。



鈴谷「ごめんごめん! ちょっちおセンチになってたわ。心配かけたお詫びに、皆で食べよ食べよ!」



そう言って手に持っていた袋からアイスクリームを取り出して皆に配った。部屋を出る前と人数は変わらなかったので全員に行き渡った。



鈴谷が和気あいあいとしている姿を見て、提督は安心したようだ。自分が機嫌を損ねさせてしまったと思っていたが、寧ろ鈴谷に謝られたことに驚きを隠せなかった。




鈴谷「提督、勝手に出ていっちゃってごめんね。吹雪に話を聞いてもらってさ、何か吹っ切れた」


提督「・・・1つだけ、約束してくれないか?」


鈴谷「ん? どしたの?」


提督「お前が受けた仕打ち。お前の辛さは私たちも分かっているつもりだ。だから辛いことがあっても無理矢理溜め込もうとしないでくれ」


鈴谷「・・・ん、分かった。じゃあ、鈴谷のお願いも聞いてくれる? 色々これからも迷惑かけるかもしれないけど、鈴谷のこと、よろしくお願いします」


提督「もちろんだ。私だけじゃない。お前には熊野に由良、このリンガ泊地の全員がお前の味方だ」


鈴谷「あ、改まって言われると何か恥ずかしいっていうかこそばゆいっていうか・・・」


提督「お前・・・早く食わんとアイス溶けるぞ?」


鈴谷「え? わわっ! もう溶け始めてるしぃ~!」




それから鈴谷は急いでアイスを頬張る。大量のアイスを口に入れたので、辛そうに頭を抱えている。



鈴谷「んあぁ~っっ! いったぁ~」


熊野「鈴谷ったら、そんなに急いで食べなくてもまだ溶け始めだというのに・・・あっ・・・痛い!」


鈴谷「く、熊野だって・・・人のこと言えないじゃ・・・う~・・…まだキンキンするぅ~」



提督 (この時をもって、私は昔のことを思い出した。軍に入隊した時のことだ)


提督 (皆が笑って暮らせる時代。その実現のために私は提督となったのだ。こうしている姿を見るだけでも、私の夢は叶ったのだろう)


提督 (だが、これはまだ仮初めの一時に過ぎない。こいつらが戦うことのない、笑顔で歩めるように時間を作ってやるとするならば、私に何が出来るだろうか・・・)




扶桑「提督? どうかなさいました?」


提督「ん? いや、昔のことを思い出していただけだ・・・」


扶桑「そうですか・・・。いつか聞かせて下さいね。昔のことも、これからのことも・・・」


提督「話をするとなれば高く付くぞ?」


扶桑「あらあら、それでは何でお支払するべきかしら? お料理? 時間? それとも・・・」



そう言って、椅子に座っている提督の後ろから首に手を回し、耳元で囁いた。



扶桑「それとも、ご奉仕・・・とか?」



それを聞いた提督はふっと笑い、扶桑の方を向く。



提督「それはそれはとても魅力的だな。ま、気が向いたらいつか・・・な」




・・・・・




その日の夜、提督は自室で酒を嗜んでいた。執務室に少しばかり手を加え、隣に自室を作ったのだ。


そして手を加えた自室の中でも特に気に入っているのは縁側だ。リンガ島一体は熱帯に部類される地域だが、それでも夜に吹く海風は心地よい。


その心地よい海風に打たれながら、酒を飲む。これこそ風流だと彼は確信しており、また1日の終わりの楽しみなのだ。


そんな1日の楽しみの最中、部屋の戸を叩く音がした。入ってもよろしいですかと扶桑が訪ねてきたのだ。


もちろん断る理由もなく、彼は素直に招き入れた。普段は余り酒を飲まない彼女だが、折角なので共に楽しむことにしたのだ。



提督「珍しいじゃないか。お前の方から一緒に飲もうなんてな」


扶桑「せっかくの命ですから。生きている内は楽しみたいですし、愛している方との時間となればなおさらのこと。違いますか?」


提督「いや、全くもって正しいことだと思うがね。願わくは一生。いや、来世で何度でもお前と出会ってはこうして楽しみたいものだ」


扶桑「もう酔っておいでなのですか? 」


提督「ふふっ。さあな。だが酒はまだいけるぞ? 酔ってるとすればそうだな・・・。お前に、かな?」


扶桑「・・・もうそろそろ横になっては如何ですか?」


提督「そんなこと言いながら、お前の顔も赤くなってきたぞ? もう酔ったのか?」


扶桑「そんなことありません。私もお酒には強い方ですから」


提督「はっ、本当に食えないやつだな」


扶桑「誉め言葉として受け取らせて頂きます」


お互いの顔を見合って一呼吸置く。そして何故か面白くなった。似た者同士だと感じ、またこの間が滑稽に思えて笑えてくるのだ。


提督「しかし、出会ってから7年か。お前は本当に変わらないな。相も変わらず美しいままだ」


提督「反対に私はどうだ? 体も衰えを感じ、髪や髭にも僅かながら白いのが混じった。歳を取ったな」


扶桑「もう・・・・。あなたのそんな話は聞きたくありません。それでは私がまるで年寄り趣味の変わり者の女みたいじゃないですか」


提督「なんだ? 違うのか?」




そう嘲笑う提督。もちろん酔ってのことだと分かっているので、一々口を挟みはしない。



扶桑「・・・7年ですか。7年・・・、長いようで、あっという間にも感じますね」


提督「そうだな。失ったものも大きいが、それよりも得たものの方が大きく感じるよ」


扶桑「例えば?」


提督「・・・自由な時間・・・とか? 横須賀にいた時は上からも下にもと忙しかったからな。部下の後始末をやるときもあれば、上からの圧力もあったりな」


扶桑「そうでしたか? 今と同じように接していただけた記憶もありますけど?」


提督「・・・これの話はやめた。"やってあげた感" がするからな。別にそんな恩着せがましく言うつもりもない」



そして軽く咳払いをして、また酒を口に運びながら話し始めた。



提督「まあ、横須賀にいた時もそれなりの時間は与えられたが、ここに来てからは、ほぼ復讐心で動いていたようなものだ」


扶桑「・・・今でも後悔しているのですか? 復讐に駆られて、皆が皆、己を失ったように・・・いいえ。きっとそれが皆の中に潜んだ本心であったとしても、私たちのしたことは許されることではありませんから」


提督「そうだな。後悔はしていると言えばしているのかもしれない。だが、それを認めたくはない。大事なのはこれから。そうだろう?」


扶桑「・・・そうですね。今を、これからを大切にしたいです。ねぇ、あなた。10年後には私たち夫婦はどうなってるでしょうね?」


提督「10年後か・・・。きっと戦いが終わってるんだろうな。私は軍を除籍して、お前は1人の女性として生活していくことになる。朝も、昼も、夜も。私の傍らに居てくれるだけで十分だよ」


扶桑「それでは今と大して変わらないのでは?」


提督「ははっ、それもそうだな。もしかすると、今のままで有り続けて欲しいのかもしれないな」


扶桑「慣れてしまいましたからね。皆との暮らしも、何もかもが」


提督「私は元々は民間の出だからな。軍人としての誇りとか、名声や富とか、国の威信とかは、さして興味がなかった」




何かを懐かしむような、憐れむような目で話し始める。それを黙って聞き始める扶桑。提督も昔を思い出しながら、ゆっくりと言葉を選ぶ。


提督「ただ、こんな俺でも誰かの力になりたい。誰かを救いたいと思って、自衛官になったんだ」


提督「だが、深海棲艦の出現で日本の軍事は大きく変化した。自衛隊という立場では、深海棲艦や隣国との情勢悪化に対応できない」


提督「だからあくまで防衛に重点を置き、日本海軍として深海棲艦に対抗した。そして・・・」


扶桑「そして?」



提督は扶桑の方を向く。それを横目で見えた扶桑は不思議そうな顔で提督を見る。




提督「お前と出逢えた。深海棲艦と戦うための人員として志願した私は、お前達を従える提督となって、未来のために戦い始めた」



そういいながら微笑み、扶桑の顔を見続けた。それに何故か恥じらいを覚えて、扶桑は顔を逸らしてしまう。



扶桑「飲み過ぎですよ。明日もお仕事はあるのですから、お酒はほどほどにしてください」



冷たい態度を取ろうとする扶桑だが、提督は照れ隠しであることを分かっている。それを指摘するとどんな顔をするのか見てみたいと思う提督だが、そこは触らぬ神になんとやらだ。



提督「わかったわかった。これで最後の一杯だ」




そう言って杯に酒を注ぎ、それを一気に飲み干す。




提督「・・・扶桑、実は相談したいことがあるんだが、いいか?」


扶桑「え? えぇ、構いませんが・・・」


提督「実は、あいつから横須賀に来ないかと言われていてな」


扶桑「弟君にですか?」


提督「あぁ。横須賀でなくとも、呉や舞鶴。日本国内で提督として国を守ってくれないかと」


扶桑「日本にですか・・・」


提督「正直な所、前線で守りを固めるのも吝かではないんだが・・・」


扶桑「と言いますと?」


提督「ここ数ヵ月で、西方の深海棲艦が勢い付いているらしい。ここらで西方に願い出てみるのもどうかと思ってな。直訴のため に一旦国に戻ろうと」


扶桑「そうですね・・・。後方に下がって後進に道を譲るのも悪くはないかも知れませんけど・・・」


提督「それじゃあ面白くないからな。少しは暴れておきたいだろう? ・・・なんてな。本当は、実家が気になっているだけだ」


扶桑「提督のご実家ですか?」


提督「広島にあってな。東京生まれの東京育ちだが、高校生の時に広島に越したんだ。両親は亡くなったし、後のことは全て終わらせてあるとあいつから聞いてはいるんだが」


扶桑「広島ですか・・・。戦艦扶桑も呉で造られた船ですから同郷ですね」


提督「ちょっと意味が違わないか? まあそれはいいとして、私の私物などが残っているかも知れないと思ってな。売り払ったとは聞いていないから、多分家自体は残ってるだろう」


扶桑「そうですか・・・。暫く休暇を頂くというのは?」


提督「前線を守る身としては、あまり長期間の休暇は避けるべきだと思うのだがな」


扶桑「でも、昔と違ってここも大きくなりましたから。みんなが守ってくれますよ」


提督「・・・そうだな。近々行ってみるとしようか。あぁ、いかん。酔ったなぁ・・・」


扶桑「ちゃんと布団に寝てください。南国とはいえ、風邪引きますよ」


提督「分かってるよ・・・。お前は随分と余裕あるな」


扶桑「さほど多くは飲んでいませんもの。介抱しますから、布団に行きましょう?」


提督「すまんが・・・そうしてくれると助かる・・・。久しぶりにここまで来たな・・・」


扶桑「本当に大丈夫ですか?」


提督「多分・・・大丈夫だ。愛しの奥さんと晩酌が出来て感極まったみたいだな・・・」


扶桑「もう・・・」




ぐでーんと布団に倒れこむ提督。そうとう酔いが回ったようで、ぼーっと天井を眺めているだけだった。




扶桑「提督? 大丈夫ですか?」


提督「うー・・・・」


扶桑「本当に大丈夫ですか!?」


提督「・・・大丈夫だ」


扶桑「・・・ここにおりますから、何かあれば言ってくださいね?」


提督「・・・なら、もう少し、側に居てくれないか?」




布団をポンポンと叩いて扶桑を促す提督。促されてやれやれといった顔をしながらも満更ではなく、いそいそと隣に寝転ぶ。


2人は布団の中で向かい合い、そのまま静寂が流れる。




提督「・・・少し、側に居てくれると、助かる」


扶桑「・・・はい」


提督「すまんな・・・。迷惑かけて・・・」


扶桑「・・・はい」


提督「・・・愛してるよ。扶桑」


扶桑「・・・はい。もちろん、私も」





2人はいつの間にか、まぶたを閉じていた。





・・・・・


後書き

まさかの1年も触っていなかったとは思わなかった…。

次回の更新ではちょっとした戦闘を書いていこうかなと。そろそろ終わらせても言いかもしれんね。


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