「提督と由良2」
中将の称号を経て活躍中の丁提督、秘書艦であり結婚艦でもある由良と一緒に頑張り続けるも、
失敗続きで次第に自信を無くしていく、悩んだ末に丁提督は自信の精魂を鍛え直すために提督に
助けを求めるも・・・
キャラ紹介、
提督:提督として再着任した提督、階級は元帥で村雨と海風と結婚している。
海風:改白露型の女の子で、提督の奥さん。多忙な提督に代わって丁提督の鎮守府に視察をしに行く。
丁提督:中将として活躍している、元駄目提督。更なる高み(大将昇進)に向けて戦果を取り続ける
ものの、中大破撤退が続き自信を失い掛けている。
由良:軽巡の女の子で丁提督の奥さん、結婚後も提督の側で仕え、鎮守府の皆を常に
支えている存在である。
「被弾しました! 1人中破2人大破です!」
無線から聞こえる負傷者の報告。
「くっ・・・仕方がない、各員撤退するんだ!」
提督の指示で、これ以上の進軍を断念する艦娘たち。
「負傷している方はすぐに入渠してください!」
秘書艦である由良が、帰還した艦娘たちに呼びかける。
「高速修復材は・・・もう少しで底をついちゃう。」
遠征で備蓄していた修復材が残り少ない。
「由良さん、帰還した第2、第3の部隊も中大破者が続出しています!」
立て続けに押し寄せる負傷者の艦娘たち。
「・・・仕方がありません! 入渠している方に修復材を投入します! 他の方は順に入渠して下さい!」
残り少ない修復材を投入して、負傷者を次々に回復させる由良。
・・・4時間後、
「ふぅ~、何とか主力部隊と遠征部隊の修復は完了致しました。」
残りは軽微な損傷の艦娘たち、修復材を使う程では無い物の、
「でも修復材が・・・無くなってしまいました。」
僅かしか無かった高速修復材が、今回の部隊の入渠短縮によって、底を尽いてしまう。
「・・・提督さんに報告しないと。」
由良は重い足取りで執務室へと向かう。
「提督さん、少しよろしいでしょうか?」
恐る恐る執務室に入ると、
「どうした由良? オレは次の作戦を考えないと行けないんだ。」
海域情報が書かれた書類を見ながら、次の作戦を練っている丁提督、
「・・・」
「? どうした由良? 黙っていても分からないぞ?」
丁提督の問いに、
「とても言いづらい事なのですが・・・」
由良は意を決して、
「高速修復材が・・・遂に底を尽きました。」
それを聞いた丁提督は、
「何、本当か? あれだけ備蓄してあった修復材が、もう無くなったのか?」
信じられないようで、再び尋ねる丁提督。
「はいっ、先程底を尽きました。」
由良は正直に答える。
「・・・」
丁提督は持っていた書類を床に落として、
「そうか、無くなったのか・・・なら出撃はもう無理だな・・・」
自信を無くしたのか、急に声が小さくなる。
・・・
・・
・
丁提督、昔は戦果をロクに取れず、秘書艦の由良に頼りがちだった駄目提督で、
適当な出撃と遠征で失敗を繰り返し、今回と同じ資材枯渇を起こす事態となる。
その後、ある提督から”援助”の申し出があり、彼の条件を飲むことで資材の確保が出来たものの、
援助の条件が”由良との交換”であったため、一時期由良を悲しませる事となったが、
同時に「由良に頼りきりだった」事を自覚して、再び彼女を迎えるために猛勉強をして必死に戦果を取り続ける。
その甲斐あって、戦力は安定し昇進の話が出たため、由良を連れ戻してプロポーズをする。
そして、今では中将まで昇進をし、秘書艦の由良も彼のためにずっと仕えているのだが・・・
今、丁提督が行っている出撃は本営からの指示・・・言うなれば、更なる昇進(大将)への昇進試験とも言える。
遠征で備蓄した資材と更に強化した部隊で、指定された難度の高い海域の制圧を計ろうとするも、
悉く中大破を繰り返し撤退を余儀なくされる。
昔と違い、自信を持った丁提督は一切怯まず、何度も作戦を練り何度も出撃をさせたが、一向に損害が減る事は無かった。
修復材が切れ掛かり、焦った丁提督は主力となる部隊で一気に決着を図ろうとするも、
それでも中大破が減る様子は無く、遂に修復材が底を尽いてしまったのだ。
・・・
「期間はまだ1週間程ある・・・それまでに資材と修復材の確保をすれば。」
そうは言ったものの、
「提督さん、たった1週間しかないと言った方がいいのではないですか?」
「・・・」
由良の言葉で丁提督はまた落ち込む。
由良の言っていることは正しく、実際に中大破を受けている海域は中盤で、
そこから最低でも2度戦闘をしなければ勝利に辿り着けない。
既に修復材が尽きている状態で、残り1週間で一体何が出来るのだろうか?
「由良、オレは一体どうしたらいいと思う?」
丁提督の言葉に、
「提督さんは頑張っていると思います・・・でも今回は難度が高過ぎたのでしょうか。」
目の前の結果に、由良も既に諦め気味。
「何故だ、装備は最新の武器を装備して艦娘たちの練度も充実しているのに。」
いくら考えても理由が分からない丁提督。
「・・・提督さん、1つだけ提案があります。」
由良は何かを思いついたようだ。
「何だ由良、言って見てくれ。」
「はい・・・ただ、この状況を打開出来るかどうか分かりませんが・・・」
由良は思いのたけを漏らす。
・・・
「改白露型の海風です、よろしくお願いします。」
由良の提案で、前に援助をして貰った提督から知恵を借りようと思いついたのだが、
「すいません、提督さんの方は?」
提督の姿が見えず、海風に尋ねるも、
「申し訳ありません、提督は今多忙で執務室から離れられなくて・・・それで急遽、海風のみが赴き、
この鎮守府の視察をしに参ったのです。」
「そうですか、それなら仕方がありません・・・では、執務室にご案内します。」
そう言って、由良は海風を執務室へと案内する。
執務室に着き、すぐに丁提督から今回の高難度海域と出撃部隊の情報が伝えられる。
同時に由良からも、資材と修復材が枯渇した事も告げられ、
「成程・・・資材はまだ残っているとして、修復材が無くなり出撃が出来ないという事ですね?」
海風の質問に、
「はいっ、お恥ずかしながら・・・」
由良は素直に答えて行く。
「それから部隊と兵装ですが・・・全く問題ないです、むしろ私たちがいる鎮守府より遥かに装備が潤っていますね。」
「そうですか、それを聞いて安心しました。」
「そして、今回の出撃海域ですが・・・ふむふむ、提督の説明の通りこの海域に適した兵装と編成で出撃しています。
作戦自体は何の問題は無いようですね。」
「ありがとうございます・・・でしたら何故こんなに損害が出るのでしょうか?」
由良の質問に、
「1つお聞きしますが、1日の出撃で修復材を最高いくつ消費した事がありますか?」
「最高で、ですか? 少しお待ちください。」
由良が海域に出撃したこれまでの修復材消費数を調べて行き、
「お待たせいたしました・・・1日の修復材消費は最高で、100個を超えていますね。」
「ひゃ、100個ですか・・・」
海風は驚く。
「はいっ、そして本営から指示された海域攻略への期間は3週間、内2週間を全力出撃したにも関わらず、
全て撤退せざるを得ず、消費した修復材は1000個を超えています。」
丁提督は念入りにこれでもかと言う程、資材と修復材を確保していたようだが現実は甘く、
大幅に消費する事態となり、修復材は無くなり資材は残り1週間分も残っていないと言う。
「うわぁ~、使い過ぎですね・・・」
海風は驚いたと言うか呆れたと言うか。
「申し訳ありません、それでも海域攻略は叶わず、今こうして海風さんの提督さんに知恵を借りたいと
私と私の提督さんと一緒にお願いをしたかったのです。」
恥ずかしそうに由良は顔を赤くしながらも深く礼をする。
「話は分かりました、ですが海風は視察をしに来ただけですので、お力にはなれませんが・・・」
海風は1つお願いをする。
「1度だけ、この海域への出撃をお願いして貰えませんか?」
「えっ? それは何故です?」
海風のお願いに由良は首を傾げる。
「提督からこの装置・・・え~っと、録音装置を渡されています、これで提督と由良さんの作戦指示を
録音してきて欲しいとの命令を受けたのです。」
そう言って、海風がポケットから出した録音装置を見せる。
「・・・分かりました。それで提督さんから何か知恵を頂けると言うのなら。」
そう言って、由良は丁提督に許可を得た後、無線で主力部隊に出撃を命じる。
・・・
いつもと同じ様に、丁提督が出撃中の艦娘に攻撃支持と陣形の指示をして行く。
「・・・」
海風は録音をしつつ、丁提督と由良の動きを観察していた。
序盤と2戦目は順調である、敵は駆逐艦と重巡・軽空母との混成部隊で軽微な損傷ながらも、
出撃には支障が無く問題なく進軍して行ったが、
「!? 重巡と空母が被弾! くそっ、またやられたか!」
3戦目に入った瞬間に、部隊が激しく損傷した。
3戦目には潜水艦がいる・・・潜水艦の魚雷で、艦娘たちが被弾したようだ。
「報告! 重巡と空母が中破! 敵空母の後続攻撃で戦艦が大破しました!!」
主力である戦艦と空母が中大破した事で撤退を命じる丁提督。
「撤退を始めました・・・お恥ずかしい所を見せてしまいましたね。」
由良は申し訳なさそうに顔を赤くする。
その後、海風は録音装置を持って鎮守府に帰還、
提督に録音装置を渡し、再生する。
「ふ~ん、成程ね~。」
少し聞いただけなのに、既に理由が分かった様で、
「出撃期間は残り1週間だったっけ?」
「はいっ、今から遠征に向かわせ、残りの数日に全力出撃を行うとの事です!」
「そうか、でも結果は目に見えているがな・・・ふぅ、全く世話が焼ける。」
提督は無線を取って誰かに連絡を入れ始める。
・・・
2日後、
「提督さん、修復材が手に入りました。」
「良くやった! それで? 今の時点でいくつある?」
「少しお待ち下さい・・・残念ながらまだ30個手前ですね。」
「そうか・・・」
2日間の遠征で多少の資材と修復材の確保が出来た丁提督だが、この量では出撃にはまだ遠い。
「提督、正門にお客様が2人来ています。」
「客? こんな時にどうして・・・分かった、通してくれ。」
丁提督の指示で、執務室に案内するように指示をする。
「久しぶりだね、提督殿。」
現れたのは、2日前に視察をしに来た海風とその提督である。
「おお、提督殿! 久しぶりであります!」
丁提督は敬礼する。
※今更であるが、提督は元帥で丁提督は中将である。
「海風に視察を頼み、この録音装置を聞いて提督殿の出撃内容を参考にさせて貰ったよ。」
「そうですか! それで、我々の何が原因ですか? 是非とも意見をお聞かせ願いたいのでありますが!」
丁提督は知恵を頂けるとばかり思っていたが、
「結論を言うと、提督殿の指示が原因だね。 確かにあの指示では簡単に被弾してしまうよ。」
提督から発せられた予想外の言葉に、
「なっ! お言葉ですが元帥殿! 私はこれまで過去の経験からひたすら勉学に励み、その甲斐あって数々の戦果を
取って来ました! それなのに、私の作戦に何の問題があるのですか?」
否定されたと思い、丁提督は反論する。
「うん、全体的に見れば指示には問題ないよ。 きちんと戦果を取れているし、今は中将にまで昇進している。
見事と言う他はないけど、ただ重要な事を忘れているね。」
提督は説明する。
「攻撃の指示、装填のタイミング、陣形の選択に関しては文句のない的確な指示だ。
そして、兵装と各艦娘たちの練度も十分と言えるほどに育成されているね。」
「そ、それでは元帥殿! 私の一体何が不足していると言うのですか?」
丁提督の質問に、
「回避に対しての指示が悪いね。」
提督は率直に答えた。
・・・
会議室を設け、丁提督と由良を呼び、提督が前に立ち海風が側で控える。
「忙しい所悪いね。 今日は前の出撃時に頼んで録音して貰った音声を聞いて貰いたい。」
そう言って、海風に指示すると録音した音声を再生する、
音声内容は・・・当然、丁提督の指示内容と出撃中の艦娘たちの無線連絡、そして攻撃時に響く爆音に
敵からの砲撃等、様々な音が交錯して流れて行く。
そして、3戦目の潜水艦たちの魚雷攻撃で艦娘たちが被弾した所に差し掛かり、
「どうだ、提督殿? 何か気になった事は無いかな?」
突然の提督からの質問、
「えっ? いえ、私には何の変化があるのかさっぱり。」
丁提督は「分からない」と回答。
「そうか、では由良はどうかな? ここまでの音声を聞いて何か気になった事は無いかな?」
今度は由良に尋ねる提督。
「・・・いいえ、提督さんと同じ特に気になった事は・・・」
由良も同じ回答をする。
「それが答えだ、今度の出撃での中大破撤退、それは2人による指示のミスが最大の原因だよ。」
提督は音声をまた最初から流す。
「良く聞け、なんなら目を閉じた方がいい。 全集中を耳に集中させてよく聞くんだ。」
そう言って、録音した内容をまた再生していく。
何度再生しただろう? 3、4回? いや、もっとだ。
提督は2人がある事に気付くまで、何度も再生を試みるも、
「元帥殿! 一体何がしたいのですか? 私はこんな事に時間を無駄にする場合では無いのです!」
丁提督が根を上げ、怒り出す。
「・・・結構聞かせているんだが、全く分からないって事かな?」
提督は怯まず、丁提督に質問する。
「分からないから意見してるのであります! 先ほどからずっと音声を流し続けて・・・私のミスを永遠に聞かせたいだけですか?
元帥殿も趣味が悪くなりましたなぁ!!」
次第に苛立ち、今度は提督に猛反論する始末の丁提督。
「そうか、これでも分からないと言うなら、これ以上再生しても無意味だな。」
提督は「はぁ~」とため息をついて、
「では、提督殿。 今回の出撃は間違いなく失敗に終わる、それでも頑張るのであれば否定はしないよ。」
そう言って、音声を止めようとした、その時、
「待ってください! 今の所! もう一度再生してくれませんか?」
由良が何かに気付き、再生するように要求する。
「・・・」
もう一度再生して由良は耳を澄ませると、
「ゴポゴポ・・・! 確かに、何か海中から僅かですが、別の音が聞こえます!!」
由良の声に丁提督も耳を澄ませると、
「・・・! 確かに! 何か泡を出しながら進んでいるようにも聞こえる。」
2人の回答に、提督は静かに、
「それは”魚雷が艦娘たちに進んでいく音”だよ。」
提督は回答する。
・・・
「つまり、どう言う事ですか提督さん?」
由良の質問に、
「そのままの意味だよ、敵が放った攻撃や敵の進軍位置・・・全ては音からある程度の推定位置が掴めるって事だ。」
提督は説明して行く。
「確かに提督殿は攻撃に関しては十分と言える指示だけど、回避に至っては全くと言っていい程不十分だ。
敵の応戦前に殲滅する仕様にしているんだろうけど、長期戦になればそれだけ不利になる戦い方をしているって事だよ。」
「・・・」
「何度も聞かせたのは、提督が敵の砲撃や魚雷の進む音をどの位置から放ったのかを、
正確に聞き取れているのかを確かめるため。提督は回避は艦娘たちが行う行動と勘違いしているが、
最初にやるべきなのは提督自身なんだよ。」
「・・・」
「最も、艦娘たちも攻撃を受けたくないから、あくまで回避は”艦娘たちの役目”と思っているようだが、今のように、
敵の魚雷の音が正確に聞き取れれば事前に無線で知らせることが出来るはずだ。 「9字の方向に魚雷接近」とかね。
その報告があるだけで、艦娘たちの回避行動も随分と変わるんだよ。」
「・・・」
「提督の指示も何もない・・・つまり、艦娘たちの”目視による回避”では、いくら人間より目が良くても、見失うことだってある。
それで、目の前の魚雷に気づいた時点で被弾・・・負傷者が出るのは当然の理由だろう?」
「・・・」
「もちろん攻撃は大事であるが、敵が先制攻撃する事を忘れないで欲しい。 艦娘たちが回避するから自分は攻撃のみ指示、
と言う考えは間違っている、オレの言っている事は分かるかな?」
提督の言葉に、
「さ、参考になりました! 数々のご無礼をお許しください! 今一度兵装を見直して海域攻略を目指す所存であります!」
丁提督は恐れ入った様で、敬礼をする。
・・・
提督からの補足を受け、丁提督はこれからの出撃に向けて作戦を立てるが、
提督が言った、”敵の砲撃音に対しての事前報告”・・・いくら訓練すればいいからと言って、実際の残り時間は少ない。
しかも、出撃中に無線から聞こえる様々な音が聞こえる中、敵の砲撃音のみを聞き分け艦娘たちに報告をするなど、
今の丁提督にはとてもじゃないが無理である。
「提督さん、資材と修復材が手に入りました。」
由良が執務室に入り、数回の出撃可能の報告をするも、
「・・・」
丁提督は録音装置から流れる音を集中して聞いている・・・由良の報告すら耳に届かない程に。
「・・・失礼します、提督さん。」
状況を理解して、すぐに立ち去る由良。
出撃期間が残り数日となり、
数回の出撃が可能な程の資材と修復材が確保出来た時の事。
「提督さん、何とか数回の出撃分の資材を確保出来ました! 皆に指示を出して下さい!」
由良が執務室に入ると、
「!!? 提督さん! どうしたんですか、提督さん!!」
由良が見た物、それは机の側で倒れている丁提督の姿が、
「提督さん、しっかりしてください!!」
由良は駆け付け、丁提督の安否を確認する。
・・・
「海風です・・・提督ですか? はいっ、お待ちください。」
海風は無線機を提督に渡す。
「もしもし、ああ由良か? どうした、遂に提督が海域突破でもしたか?」
出撃期間も残り僅か、提督はてっきり攻略した物と思ったが、
「・・・何だって、提督が?」
由良から聞かされた、丁提督が倒れたとの報告、
「分かった、すぐそっちに向かう。」
提督は無線機を切り、すぐに外出準備をし始める。
「由良の提督が倒れたらしい、今すぐに向かうから海風もついて来てくれ。」
提督の言葉に、
「由良さんの提督が!? わ、分かりました!」
海風も急いで支度をする。
鎮守府に着き、由良に休憩所へ案内される2人。
「それで、容態は?」
「ただの過労だそうです、残り1週間と言う限られた時間の中でずっと録音装置を聞き返していたので・・・」
由良によると、提督が去った後も丁提督はずっと録音内容をずっと聞いて、音の区別を聞き分けようとしていたらしい。
「う~ん、何と言うか。」
提督は困惑して、
「オレとしては、あれを参考にして次の出撃の際に、耳を澄ませて回避指示を出せと言ったつもりだったんだけど。」
提督の意見に由良は、
「はい、私もそう思って提督さんに何度も言ったのですが、提督さんは全く聞いてくれなくて・・・」
丁提督は負けず嫌いな面もあるようで、提督に指摘された事を根に持ったのか、やけになって聞き分けの訓練をしていた模様。
「全く、訓練している最中に今度は本人が倒れて療養中とは・・・」
提督は呆れてしまう。
「でも、そんな熱心な提督さんが由良は好きです。」
由良は口を開く。
「少し頼り無いけど、それでも皆の事、由良の事をずっと思ってくれて・・・熱心でいつも一生懸命な提督さんが。」
由良の気持ちに、
「そうか、話に戻るが資材と修復材はそれなりに確保出来たのかな?」
提督が質問すると、
「はい・・・ですが、提督さんが倒れてしまっては出撃すら出来ない状況で・・・」
由良が下を向く、
「ふむ、提督は寝込んで当面は起き上がれない状態・・・資材と修復材は確保出来て出撃は可能。
そして昇進のための出撃期間は後2日程度・・・と。」
提督は海風を見つめ、
「海風、この状況をどうすれば打開できると思う?」
提督は何故かにやけ始め、
「・・・」
海風は「またですか?」とばかりの呆れた表情になるも、
「そうですね~・・・海風から提案があるのですが由良さん、意見具申してもよろしいでしょうか?」
「? はい、何でしょうか?」
由良は不思議そうな顔で海風の意見を聞く。
・・・
・・
・
「う、う~ん。」
丁提督は夜に目を覚ます。
「て、提督さん!」
側で看病をしていた由良が声を掛ける。
「・・・由良? お、オレは一体?」
「提督さんが数日間ずっと無理をして、過労で倒れてしまったんですよ。」
由良の報告に、
「・・・そうか、オレはずっと眠ったままだったのか。」
丁提督は納得するも、
「! 行かん、まだ出撃は完了していない! 時間が残り少ない! 早く出撃指示を出さないと!」
そう言って、丁提督は布団から出ようとして、
「何を言っているのですか提督さん? 出撃は見事達成しましたよ?」
「えっ? いや、そんなはずは! オレはずっと音の聞き分けをしていて、それから急に意識を失ってそれで。」
丁提督は説明するも、
「いいえ、提督さん。 出撃は無事達成しました。 ほら、ここに本営から大将への辞令書が届いてあります。」
由良は持っていた大将昇格の辞令書と、大将のバッジを丁提督に見せる。
「なっ? いや、オレは出撃をさせた記憶なんて・・・」
「それだけ提督さんは疲れていたんですよ、記憶が無くなるくらいに。」
「・・・」
「提督さんはいつ倒れるか分からない状況で出撃指示を出し・・・皆も中破まで追い詰められたものの、
最終的に海域深部にまで到達し、無事に勝利を勝ち取りました、それで緊張が解けたのか、
提督さんはそのまま過労で倒れてしまったのです。」
由良の説明に、
「そうなのか? 全然覚えていないけど・・・由良が言うのなら間違いないだろう。
そうか・・・達成出来た嬉しさのあまり、倒れてしまったのか。」
丁提督は一瞬恥ずかしかったのか、顔を赤くするも、
「でも、無事に達成出来たんだな・・・良かった、本当に良かった!」
大将のバッジを手に取って、「やったぞぉ!」と意気込む丁提督。
「・・・」
由良は何も言わず素直な気持ちで、
「おめでとうございます、提督さん♪」
と声を掛ける。
・・・
・・
・
あの時、海風は由良に思いもよらない提案を出す。
「出撃? 海風さん、何を言っているのですか?」
聞き間違えたのか、由良はもう一度訪ねる、
「出撃期間は残り僅か、そして資材は十分に確保出来たのです! ですから、今すぐに出撃しましょう。
と、言ったつもりなのですが?」
「・・・それは分かっています、でも海風さん・・・由良の言った事をお忘れでは無いですか?」
由良は丁提督を差し、
「出撃指示を出す提督さんが倒れているのです、その状態で一体誰が指揮を出せると言うのですか?」
由良の言葉に、
「いるじゃないですか・・・提督ならもう1人。」
海風は自身の提督を名指しする。
「そ、それは駄目です! この出撃は提督さんの昇進に向けての任務です、他の提督さんが受けていいわけではありません!
それにいくら事情があろうとも、提督さんが違う鎮守府の指揮を勝手にすれば厳罰ですよ!」
由良の言う通り、提督が別鎮守府の指揮を執ること等、規律上禁止されている。
例外で療養中や失踪などで、一時的に別の提督が着任する事はあるが、今回は確かにそれに該当する。
しかし、今回の出撃は丁提督の昇進試験でもあり、他者が手出しするなどあってはならない。
「提督さん、それに海風さん! お気持ちは嬉しいです、でも今回は私たちの準備が万全でなかっただけの話・・・
ですから、今回の任務未達成は素直に受け入れますので。」
由良はもう諦めていた様子だ。
「大丈夫! 少しだけ指示してすぐにここから立ち去るから、オレに任せて置け!」
由良の言い分などお構いなしに、提督は無線機を手に取ろうとする。
「提督さん、駄目ですって!! 本当に本営から、厳罰を受けたいのですか!?」
流石の由良も怒って提督に意見するも、
「大丈夫ですよ由良さん、提督にはある特技がありますので♪」
「? 特技、ですか?」
海風の言葉に由良は困惑する。
「要は、”丁提督になり切ればいい”って事だろ?」
そう言いつつ、提督は一度「コホン」と咳をし、無線機に向かって指示を出すと、
「嘘、どうして?」
由良は一瞬驚く、
「どうして、由良の提督さんの声がするの?」
無線機で指示を出しているのは、紛れもなく海風の提督・・・だが、声は明らかに丁提督の声である。
「提督は”相手の声真似”が得意なんです。」
海風の言う通り、提督は丁提督の口調で艦娘たちに指示を出して行く、
指示された艦娘たちも、全く疑う事も無く既に出撃態勢に取り掛かっていた。
「艦娘の声だって真似出来るんですよ、そうですよね提督?」
海風が聞くと、
「はいっ、海風です♪ 何てな(笑)」
質問通り提督は海風の声真似をする。
「た、確かに海風さんの声です・・・」
由良は提督の特技に茫然とする。
・・・
その後、丁提督の声真似をした提督が艦娘たちに指示をするが、
「先に言っておく・・・オレが指示したらすぐに動いてくれ、慣れていないと思うが皆のためだ。」
意味深な発言をした後に、遂に海域へと進軍する艦娘たち。
最初の第1戦目、艦娘たちは戦闘態勢に入るが、
「敵は・・・軽空母2に重巡2駆逐艦2だな、赤城と加賀はすぐに先制攻撃を開始! 高雄と愛宕は砲撃準備を!」
本来は旗艦から敵情報を通達されるが、提督はその前に敵の情報を把握し艦娘たちに指示を出す。
「待て、敵の艦載機が近づいている、各員9時の方向に回避!」
突然の提督の回避指示、艦娘たちは一巡戸惑いながらも指示通りに動くと、
「か、回避成功です! 提督、ありがとうございます!!」
すぐに無線機から感謝の言葉と攻撃合図が求められる。
「高雄と愛宕、敵の中央・・・いや、2と5番目に向けて砲撃、駆逐艦2人は中心に魚雷を発射、急げ!」
またも、提督からいつもと違う指示が発令、艦娘たちはすぐに行動に映す。
「高雄と愛宕! 砲撃します!!」
提督の指示で2,5番目の敵に砲撃・・・見事に命中し、撃沈する。
同時に駆逐艦たちが放った魚雷が中央に到達し、撃沈された敵部隊が態勢を整えるために中央で再編成した所を
先程放った魚雷が敵を見事に撃ち抜く。
「魚雷が命中! 敵部隊の沈黙を確認! 我々の勝利です・・・そして被弾なしの無傷です!」
「良くやった! そのまま進軍せよ! 目標は海域深部に待ち受ける敵本隊の殲滅だ!!」
提督はその後も的確な指示で艦娘たちに回避と攻撃の指示をして行く。
「す、凄い・・・」
側で見ていた由良は驚きの連続である。
「音を完全に聞き分けているんですか・・・皆が報告する前に敵の数と艦種を判別して・・・
敵の艦載機や砲撃の回避まで完璧、攻撃の誤差の狂いもほとんどない。」
これが”音の聞き分けを極めた人の戦術なの?”と思う由良。
「提督は本当に凄い人ですよ。」
海風が口を開く。
「修復材もここ最近一度も消費してないですから。」
当たり前のように口から出た海風の言葉に、
「!? 修復材を一度も消費していないんですか!?」
由良は驚き、思わず尋ねる。
「最後に消費したのはいつ頃なのですか?」
「そうですね、う~ん・・・」
海風は少し考え、
「最後に消費したのは確か・・・半年前位だった気がします。」
「・・・」
海風の言葉に由良は言葉も出ない。
・・・
その後も、提督の指示は続き魔の3戦目である潜水艦を率いる戦艦と空母部隊も、軽微な損傷を負いつつも勝利。
残りは海域深部の住まう敵主力部隊である。
「敵戦艦の撃沈を確認! 残りは空母棲姫のみです!」
加賀からの報告、提督は気を抜かずに指示を出し続ける。
「高雄と愛宕、赤城と加賀の援護。駆逐艦たちは空母棲姫の各側面から魚雷を発射!」
提督の指示で艦娘たちが別々に攻撃を開始、対する空母棲姫は艦娘たちの別行動に翻弄され続け、攻撃目標を定めづらい。
「赤城と加賀、いつでも攻撃可能です!!」
加賀からの報告で、
「よし、高雄と愛宕・・・今だ! 魚雷を撃て! そしてそれに続き赤城と加賀は艦載機を発艦!!」
提督の指示、それは正真正銘最後の全力攻撃となろう・・・損傷のほとんどない艦娘たちの攻撃は、
空母棲姫を撃滅させるのに十分と言える火力だ。
「敵、空母棲姫の撃沈を確認!! 我々の勝利です、提督!!」
同時に無線機から皆の歓声が上がる。
「良くやった、すぐに帰還せよ! 被弾した者はすぐに入渠し、それ以外の者はすぐに補給をする事!」
そう言って、提督は無線機を切る。
「よし、これでいいかな。 では海風、帰るとしようか。」
「はい、提督。」
役目を終えたようで、提督と海風は帰る準備を始める。
「あ、あの。提督さん!」
由良が口を開く。
「あ、ありがとうございました!!」
礼を言う由良に、
「・・・すぐに本営に達成した旨を報告してそれから、提督の側で看病をしておあげ。」
そう言って、提督は去り際に、
「今日の事は絶対に他言無用ね?」
「は、はい。 誰にも言いません! 約束します!」
「頼むよ・・・それじゃあ、今後の提督殿の昇進に伴い、更なる発展に向けて幸運を祈る!」
そう言って、提督たちは鎮守府から去る。
その後、由良はすぐさま本営に任務達成した旨を報告。
翌日に、大将昇進の辞令と大将バッジが届き、丁提督の意識が戻ったのはそれから夜の事だった。
「提督と由良2」 終
確かに丁提督には無理だよ。
これは遠回しに特殊電探を開発せよとの
事かもね。
妖精さんに貢ぎまくって頑張って
もらうしか無いかなぁ?
もしくは現場を信じて。彼女等の意思で。回避行動等を勘でさせるか?だね。ベテランの勘はもう神の領域だよ。彼女等ほどその海域を知り尽くしてるこは居るまいよ。