2022-07-01 12:41:30 更新

概要

ある女子高生が、授業中に母親に怒鳴られたという。母親は「なんであの人にカリカリしていたんだろう」と呆れた様子だった。母親は「お前は助からないだろう」と話しかけ、その後も会話を続けた。


室伏楓《むろふしかえで》が寝返りを打つと柔肌の温もりがあった。沈み込んだ半身をトーションバーの反発が受け止める。正直なところ点と面で支える寝床は苦手だ。身を預けた側に突起が集中してどうしても意識してしまう。細かい毛羽立ちが皮膚に刺さる。腰回りだけ薄絹の表面張力を感じる。

「あら、起きたのね」

目の高さにサヴォナローラの腰があった。面積の狭い純白が褐色を斜めに支配している。

「先生!」

楓が慌ててシーツを寄せる。教授は構わず脂肪を揺らしながらカップに白湯を注ぐ。ローズヒップがかぐわしい。進められるまま一口含むと完熟トマト風の甘いまろやかさと僅かな酸味が残る。高揚感とともに睡魔の淵から断片が浮上する。東空が白むまで二人で議論した。

感情論って何だろう。そもそも理論と論理はどう違う。澪の反射した命題は刺さったまま疼いている。ハーブティーでも癒せない。夢うつつで記憶を探る。結論に至った、という感触はあった。それともあれは夢か。

「寝落ちする前にメモしたでしょ」

サヴォナローラは化粧台の紙片を拾った。蛇行する筆跡は身に覚えがないものの自分の癖字だ。

"論《ロジック》とは順序立てた思考の連続であり時系列の一貫性であり…”

「なにこれ、わけがわからない」

楓は丸めた紙をベッドサイドの屑籠に放った。

「それだわよ。わからない?」

教授が目くばせをする。

「こんなゴミが解答なんですか?」

怪訝そうに質問を投げ返す。屑が葛城澪《かつらぎみお》を打つ礫だというのか。

「落ち着いて考えてみて。今、貴方は感情のまま行動し問題提起している。ゴミが解決の糸口になるのか」

指摘されて頭の霧が晴れた。感情とは外部刺激に対する反射だ。五感を入力値として行動をアウトプットする。運動として行われる筋肉の収縮は一連の判定、条件分岐、選択項目の決定である。

「感情と論理は相反するものではなくロジック…」

「だから感情【論】なのよ」

サヴォナローラが結論づける間に楓はそそくさとスカートを穿いた。


Output text:

下着は必要ないのだ。

「先生はどう考えてるんですか?」

「問題が起こっても感情の展開に変わりはない。だから冷静に考えられ。問題ならその都度考えましょう」

教授との対話はいつも決まっていた。楓は眠りについている間に教授が考えたことに応じて行動を変えた。

「問題の提示ではないなら、感情の展開に変化はあるの?」

「あります」

教授が言うように今までの議論では感情的反応が展開していた。問題だとすればその感情の形に変化が表れているはずだ。

「つまり、感情がないのはどうだと言いたいのね」

「そんなこと!」

答えを急かすように楓はそう言い切った。教授は「んー」と思案した末のような間があって、「………」と一言漏らして口を噤んだ。そして再び口を開く。

「感情は変化しない」

それが答えだと聞こえた。この声はまるで思考の海に投げ込まれたかのように重かった。

「先生は感情論のこと、知ってますよね?」

「言わないって決めたわ」

「じゃあ、今の俺を知ってますよね。感情論って?」

言葉の意味を突き止めるどころでなく、事実として理解し始める。

「『感情論とは感情だ』と言ったのは誰だ?」

この言葉は単なる願望だ。言えないのは当たり前のことだ。

「………」

言えないことを否定した。

「君は『感情論者』か」

教授が言うとまたもや声を詰まらせる。

「どうした?」

そう問われて、また沈黙に陥る。

「感情は動かなかった」

「先生は感情論してるから?」

沈黙が返って、その後また沈黙が続いた。

「そうか。感情とは感情で考えるべきものだ」

「なんですか?」

「感情は感情だろ。そのために言葉は作られる。感情という問題解決の鍵になる何かが必要だろ。感情っていう単語が『この感情は…』の部分なのか、『この感情を…』の部分なのか。そうした感情的思考を考えている。それによって何かが作られて、それこそ感情論という言葉が出来上がる。そして、僕はそれができない。感情とは、感情論は…感情であってはいけないんだ。感情ではない、と言わなければならない」

教授はまた続けざまに言葉を発する。

「そうだな。感情という問題解決の鍵にも繋がる、感情論だ。感情論は人を納得させる、感情論とは感情論においてそう呼ばれるものだ。感情論は感情論なのだ」

「………その感情論こそが問題に繋がる。ならどうすればいい?」

「それについてだ」

教授は私も今まで以上に真剣な表情をして、

「これは感情論における話の内容によるだが、感情論で問題解決をしようということを最初に話したい。それによって、感情論とは、人を納得させるだけの感情であるという事を説明できないのは悲しい。そのために、感情論における問題解決の鍵となる、感情論の説明を話そう。僕らは感情論という言葉が好きだからそうなっているが、感情論と感情論はいつも違う。感情論では感情から起こる問題を解決するのだが、感情論での問題は僕は僕なりに考える。感情論でいい。僕ならこういう時に感情論という言葉がつくまで説明したい。それで話してくれないか」

これが教授の最初の話だった。

僕がその問題を考え、問題、感情論と出たからそれを聞きたくて、その問題は…こうして説明したいと言う気持ちだったから感情論でいいという話をしたのだ。

それでこの日の講義は終わった。

教授が去ってからしばらくの時が流れていた。

「感情論」が何を意味するとしても、「感情」も「感情論」もあまり意味が無いことだ。

それは言葉にしなくてはならないためだ。

つまり、感情とはなんだ?

それはいったい何なのか、考えている。

それはいったいなんなのか。

その答

流れよわが涙、と警官は言った

だが警官は誰のために泣くのだろう

犠牲者のためか

いやそれは遺族の役目だ

では警官は自分のために泣くのか

「このままだと、あの子が死んでしまいます……」

警官が見つめる先の暗闇がさらに暗くなっていた

その時、何かが警官の顔を撫でた

「……ごめん」

「ごめんな……、ごめんな……!」

それは何の謝罪だろうか 警官は泣いていた

「俺はお前を助けてやれない」

助けるとは何を指すのか それは何を救うのか それは誰を助けるのか 「お前は助からないだろう」

なぜそう言える なぜそう決めつけられる その問いが答えられたことはなかった そして、闇はさらに深くなった そして、闇の中から何かが飛び出してきた

「……」

「なぁ……! おい!!」

「なんなんだよ!!?」

「返事をしろよ!!!!」

「俺が悪かったからさぁ!!!」

警官はその声に気がついた

「なぁ、聞いてくれよ!」

「なあ、頼むよぉ!」

「なぁ!」

それは声だ

「……………………」「なんで黙ってるんだ……?」

「もう喋らないのか?」

「なんなんだよ」

「ふざけんじゃねぇよ」

「おら!」

そして声は途絶えた 闇の中に警官の声が響く

「……?」

「誰かいるのか?」

しかし、

「誰もいないな……」

警官が目をこらすと暗闇が見えた そこには何もなかった ただの真っ暗があるだけだ

「……」

「おいっ!」

そしてまた声が途絶える

「おい、返事をしろ!」

何も聞こえない そして、また

「お、おーい!」

「おーーーーーーい!」

闇の中に向かって叫ぶ しかし、やはり返事はない それでもなお、叫び続ける そして ふと あることに気づいた さっきから ずっと 自分の周りをぐるりと囲むように 何かが いる気がした それも、1つではなく 複数の ものがだ でも、見えない そこに、なにかいる でも、見えなくてよかったかもしれない なぜなら それを目にしたら、自分がおかしくなると思ったからだ そう思った矢先に、あるものを見た 見たものを、信じられなくなった そして、気づいたときには、遅かった 闇は濃くなり、目の前に、なにかが現れた それは、大きな黒い物体で、 とても、大きいものだった それに目があったような気がした すると ソレは口を開いた そして そして 、その口が開き、なにかを言った それがなんなのかは分からないが、確かに、口が動いていて、言葉を発しているのは分かった そこで、意識が戻ったのか 夢は、途切れた 目覚めても、その声が耳に残っていた まだ残っているその声をかき消すように、

「うるせぇ!!!」

叫んだ 朝になっても声は消えず、

「クソっ!」

イラついたのか、頭を掻く。そのまま洗面所に向かい、鏡を見ると、顔に大量の脂汗が浮いていた

「……ッ」

「ハァー……」

「…………はあーーー」

息を吐き出し、心を落ち着かせるように深呼吸した。しばらくして、気分が良くなったのか、彼は再び眠りについた 昼になると、再び起きてリビングに向かうと、母がいた。彼女は台所に立って料理をしていた。

「おはようございます。お父さんは?」

そう言うと、母は少し怒った様子を見せた。父はまだ帰ってきてないのだ。昨日の夜から帰ってきていない。いつもなら夜遅くには帰るのに、今回は遅い。

「どこに行ったんですか?」

そう聞くと、

「さあ」

と一言だけ返ってきた。どうも不機嫌そうだ。理由は分からなかったが、これ以上は詮索しないことにした。そうして、テーブルに朝食が並べられた。ご飯に味噌汁に目玉焼きに漬物、といった普通の和食である。

「いただきます」

「……どうぞ」

母の態度がどこか冷たいのを感じながらも食事を始める。

「……美味しいです」

そう言うと母は安心したのか、微笑んだ。

そして食べ終わり、食器を片付けようとすると、母は何か思い出したように、「あっ!」と声を上げた。

「今日から、学校よね?」

「そうですよ」

「ちゃんとお弁当持った?」

そう言って母は鞄を漁り始める。その言葉を聞いて楓は眉をひそめた。その質問の意味がわからなかったためだ。そもそも弁当なんて持って行ったことは無いのだから。

「いえ、行ってませんけど」

「……は?」

「だって必要無いでしょう」

「何を言っているの」

「なんで必要なのですか?」

「あなたは小学生でしょ」

「そうですね」

楓の表情は変わらなかった。そんな彼に母親は、

「もったいなでしょ。せっかく作ったのだし」と言った。それに対して彼は、「あー」と言った。それから、しばらく間が空いて、彼は再び口を開けた。

「もしかして俺のために作ってくれたんですか?」と、聞いた。

「え?」と、

「だから、もしかして、わざわざ俺のために、弁当を……?」

「そうよ」と当然と言わんばかりに答えた。「……ありがとう」と小さな声で言った。そのあとに、続けて言葉を続けた。

「……やっぱり行きます」

そう言った途端、

「そう」と嬉しそうな表情で返した。だが、すぐに険しい顔になり、「じゃあ用意するわね」と言った。その後、急いで部屋に戻る。

しばらくして出てきた母はなぜか着替えていた。

「……なんで服を変えたんですか」

「当たり前でしょ」と呆れた口調で返される。「今から行くんだから」と言って玄関に向かった。

「ほら、行くわよ」

「……はい」

そうして2人は家を出た。外に出ると、太陽の眩しさと、風が吹いていることに気がつく。そういえば、外に出るのは久しぶりだ。最後に外へ出たのはいつだっただろうか?覚えてはいない。まあ、いい。とりあえず行こう。目的地まで歩いて30分かかる。そう考えると、遠いな。道すがら、会話はなかった。というより、無かった。お互い何も話さず、ただひたすら歩き続けていた。沈黙が支配していた。それを破ったのは、母であった。

「ねえ」と、急に話しかけられる。楓はビクっと反応する。そしてゆっくりと振り向いた。「なんですか」と、恐る恐る返事をした。怒っているのではないか?と怖くなったためだ。

「あんた……どうして行かないとか言い出したわけ」

そう言われて一瞬固まる。答えていいものかどうか、悩んだが素直に答える。「興味がなかったからです」と。その答えを聞いた母は驚いたような顔をした後、しばらく考えた後、「……そう」と呟いただけだった。それきり、無言のまま時間が過ぎた。そしてようやく目的地に到着した。その公園は楓が小さい頃によく来ていた場所だ。今でも、来たくなることがある。その時、ある人がいることに気づいた。向こうもこちらに気づいて、声をかけてきた。見知った人だった。名前は知らないが、確か近所のおじさんだ。その人が近づいてきた。その瞬間、体が震え始めた。だが、我慢して平静を装うようにする。だが、

「おう!」と言われた瞬間、限界に達してしまった。頭が混乱しているのか、何も考えられない。ただひたすら恐怖心だけが溢れてくる。だが次の瞬間には、その恐怖の理由がわかった気がした。おそらくは昔の記憶だろうと思う。あの日以来の記憶は曖昧になっていた。

「……どうしましたか?」

母の声が聞こえると我に帰ることができたが、体の緊張は解けていなかった。なんとか体を動かそうと努力するが、上手くいかないようだ。足は動かない、頭も働かない、何も考えれない状態だ。そんな中、どうにかこうにか言葉を発したが、

「なんでもないです……」

と、掠れ声で言うのが精一杯だった。「大丈夫?」と母が聞いてくる。それに対して「はい」と答えた。そう答えたものの体は硬直したままだ。「そう……」と言うだけで母はそれ以上は何も言わなかった。

「ちょっと、飲み物買ってくるから、ここで待ってなさいよ」と母は言って、その場から離れていった。その間、おじさんとは目が合っていたが、特に気にした様子は無かった。しばらく経った時、やっと動かせるようになったのか、手や足の感覚を確かめるように動かしていると声をかけられた。

「よう」と気さくな声色で話しかけられた。「こんにちは……」と返すと、「お前は変わらねぇな」と苦笑しながら言った。

「昔っからそうだもんなぁ……」

「昔からって……」

「初めて会った時からそうだろ」

「……」そう言われると何も返せなかった。確かに、初めてあった時はこんな風にはならなかったはずだ。もっと酷かったような気がする……。

そんなことを考えているとおじさんが話題を変えてきた。

それは最近のニュースについてである。この辺りの地域で不審者が出没していて、しかも若い男性を狙うらしいとのことで、警察も注意を呼びかけているそうだ。さらに最近通り魔事件が多発しており、その被害者に共通点は無く、犯人像についても全く分からないままだという。その話を聞いて楓はゾッとした。自分が狙われる可能性があるかもしれないと不安になったのだ。

そしておじさんはその事件の話をした後に、ある提案をしてきた。それは、自分も一緒に付いていくというものだった。最初は断ったのだが、結局押し切られてしまい、仕方なく了承することにした。

そして、3人で行動する事になった。母とおじさんに挟まれる形で歩いている。周りの人達は親子だと認識しているようで、微笑ましい視線を送ってきていたが、楓にとっては居心地の悪いものだった。そしてしばらく歩くと、目的の場所が見えてきた。それは小学校だ。

「懐かしいなぁ」と、おじさんが言う。「私達は違うけどね」とおばさんが言う。その言葉に「あ、そっか」と思い出す。

そのあとに校門を通って中に入る。するとそこには1人の少年がいた。彼はこっちに気づくと、走って向かってきた。そして目の前に立つと、口を開いた。

「お久しぶりです!」

元気な声だった。その様子に圧倒されて思わず後退りしてしまう。その姿を見て「相変わらずですね」と彼は言った。それから、「さあ!早く行きましょう!」と言って、手を掴んで引っ張ってきた。抵抗しようと思ったものの、その力があまりにも強くて出来なかった。「おい、離せ」と、楓が言うと「あ、すいません!」と言って彼はパッと手を放した。すると楓が倒れそうになったので、母がその身体を支えた。それから、何事もなかったかのように「じゃあ行きますよー」と言いながら再び走り出した。「……まったくもう」と呆れた声で言ったが、少し楽しげにも聞こえた。

「どこに行くんですか?」と楓が聞くと、その問いに対して母は答えず、前を走っている彼に聞くと、「体育館です!」と笑顔で返された。「なんでだよ」と聞くと、「先輩達が集まってるんですよ!」と言った。「は?」と思っているうちに着いてしまった。

そうして扉を開けると大勢の人がいて歓声が上がった。中には拍手をしている人もいるくらいだ。

「なんだこれ?」と楓が疑問に思ってると隣にいた彼が、「今日は文化祭ですよ!」と教えてくれた。楓の表情を見て、「あれ?知らなかったんですか?」と言われてしまったので、慌てて取り繕った。

「知ってますよ」と答えると、「へぇ……そうですか」と含みのあるような言い方をして、そのまま黙ってしまった。それに違和感を覚えながらも楓は舞台を見た。そういえば演劇をすると言ってたな……そう思っているといきなり後ろから抱きつかれた。突然のことでびっくりしたが、

「ひさしぶり!」と聞き覚えのある声が耳元で囁くように発せられた。

そうして振り向いた先にいたのは、やはり美香であった。「ああ……久しぶり」と返すと彼女は満足げに「うん!」とだけ言って離れた。

「……なんだよ」

「え?なにが?」

「いや……別に」

「ふーん」と、それだけを言うと、また離れていった。そして、今度は母に向かって、「久しぶり」と言った。

「ええ、そうね」と返した後、

「ところで、どうしてここにいるの?」と聞いた。それに対して、美香は「え?」と首を傾げた。

「だから、どうしてここに来たのかって聞いてるんだけど」

「えっと……それは……その……いろいろあって」

「いろいろ?」

「うっ……」という反応を見せた後、「ごめん……」と言って去っていった。それを見送ったあと母はこちらを振り向いて言った。

「まあいいわ。とにかく挨拶回りをしなくちゃいけないからついてきて」と言われたので、ついて行くことにする。そうやって連れ回されること数件、

「あ、いたいた。お〜い、2人とも〜」という声が聞こえたので振り返るとそこにいたのは亮太だと思われる人物であった。だがしかし…… そこで、視界が真っ暗になる。意識は途切れていく…… 〜プロローグ・終〜

「ねぇ、あんた。起きなさい」と誰かの声がする……?

「ねえ、早くしないと遅れちゃうよ」

誰だろう?そう思い目を覚ますと目の前に見知らぬ少女がいた。その容姿は綺麗でとても美しいものだ。髪色は金色で長く伸びていて腰まで届いている。

「おはよう!」と言われたので起きたことを伝えると、満面の笑みを浮かべていた。その笑顔はとても輝いているように見えた。そのせいなのかは分からないが、楓は顔が熱くなるのを感じた。そこで「なんですか」と、ぶっきらぼうに言ってしまう。そのことに後悔しつつも、とりあえず「ここは何処ですか?」と聞いてみた。

「ここは学校よ?」と当たり前のように言われた。「そうですか」と返し、そのことについて考えていると、彼女が何かを言っているのが聞こえたが、よく分からなかったのでスルーしてしまった。そうしていると、「ねえ、ちょっと聞いてるの!?」と怒鳴られてしまった。その声に驚いてしまい、「はい」と反射的に返事をしてしまう。

そうすると「ちゃんと聞いてよね」と、ため息混じりに言われてしまう。どうすればいいのか悩んでいると、「ほら、さっさと行くわよ」と急かすように言われて、腕を引っ張られる。そして、半ば強制的に連れて行かれることになった。

教室に着くとそこにはたくさんの人がいて、賑やかな雰囲気だった。それを見た瞬間、自分の知っている場所ではないと感じ取った。なぜなら、その光景は楓が通っていた小学校に似ていたからだ。だがすぐにそんなわけがないと思い、頭を振って否定した。すると横にいる彼女に「どうしたの?」と心配される。なんでもないと誤魔化すと彼女は、「そうなんだ……」と悲しそうな顔をする。それが嫌で咄嵯に、「あ、あの……」と話しかけようとした時、黒板の文字が目に入った。

「三角関数は不要!」

デカデカとそう書いてあった。しかし楓は意味が分からなかった。そんな様子に気づいたのか、彼女は「どうしたの?」と質問してきた。それに対し、

「あの……」と言葉を続けようとしたが、ちょうどその時にチャイムが鳴ってしまい話すタイミングを逃してしまう。仕方なく授業に集中することにした。

(……この先生は見たことがあるような気がする)

すらりとしたグラマー。

三角不要論の急先鋒。四角四面楚歌教授。数学の担任だ。そう思い出した時、

「……ってちょっと待ってくださいよ」

楓は声を上げた。そして、勢いのまま立ち上がって、こう続けた。

「三角関数は絶対必要なんですか?」

その発言に対しクラスは静まり返っていた。そんな中で「あ、え……」とかなんとか言って狼惑していた。すると教授は少し考えてから、

「必要だよ」と言ったのだ。それに続けて周りからも声が上がるようになる。それを聞いた楓が何も言わずに座ると、彼女も続いて席に着き始めた。それからしばらくして、ようやく授業が終わった。

放課後、四角いトーストが給食に出た。それが四角四面楚歌教授の癪に障ったらしくキーキー声で生徒に八つ当たりしている。「あぁぁぁ!!このパンは角が4つも生えてやがる!これは私の事をバカにしているに違いない!」

その言葉を聞いて皆笑っていたが、一人だけが違かった。それは楓だった。

「何を笑ってるの!!」と叫ぶように言うと、さらに大笑いし始める生徒たち。そして、楓も笑うのを止められず、とうとう吹き出してしまう。それを見ていた四角四面の教授がさらに怒り狂うが、誰も気にしない。結局、最後は諦めたように去って行った。そして、楓はその様子に違和感を感じていた。いつもの授業風景とはどこか違った気がしたからだ。そこで、先程のことを思い出してみると、ある事に気がついた。

(……あれ?俺なんで怒ってないんだ?)

それは普段なら確実に起こる出来事だ。なのに何故か起こらなかったのだ。そう思った直後、

「あ、三角関係って恋愛において茶飯事じゃないの。なんであの人にカリカリしていたんだろう。二股でもいいじゃない」と呟いた。そしてその言葉の意味を考えて理解した。

それは…… 自分は怒らない性格だということだ。今までは怒るということをしなかった。いや、できなかったと言うべきかもしれない。だって、そういう風に育てられてきたのだ。楓の家庭環境はかなり厳しいもので、幼い頃から勉強ばかりさせられてきた。食事の時間もほとんど無いような状況で、お腹いっぱいに食べたことは数えるほどしかない。そのため楓は食べ物の好き嫌いが無くなってしまったし、食べたいとも思わなかった。だから怒ったり泣いたりすることはなかった。いや、そもそも無かったと言っても良いのかもしれない。

だからサヴォナローラの浮気も許せるし不倫相手とも友達になれる気がした。「いいじゃん。みんなお互いが好きならば」そう思うだけで終わるはずなのだ。

そう、きっと、楓の初恋は叶わないはずだし、楓は人を信用できないと思う。何故なら、人はすぐに裏切るから。でもそれでいいと思った。だって仕方がないではないか。もう既に手遅れなのだ。楓の気持ちがもう止まらない。

三角関数は不要? いやいやいやいや、三角関数は上等だ。絶対に要るよ!!!!


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