矢澤にこ生誕祭2015
にこにーハピバ!
pixivで上げたものをこちらにも。 何故か直せない文字化けがあります。ごめんなさい
七月二十日。某刻。
「明後日はにこちゃんの誕生日だね〜」
「そうだね〜。私、ケーキ作ろうと思うんだ」
「おおっ! ことりちゃんのケーキ! 楽しみぃ〜」
「あなたの誕生日ではありませんよ、穂乃果」
「もう、分かってるよ海未ちゃん」
いつも通りな会話を繰り広げる三人に、
「あー、三人共、ちょっとええ?」
「希ちゃん、どうしたの?」
希が声をかける。
「にこっちの誕生日やけど、ウチらに任せてくれへん?」
「“ウチら”?」
「ウチと、」
「私よ」
「絵里ちゃん!」
「任せるのは構いませんが、具体的にはどうするつもりですか?」
海未のもっともな質問は、
「任せて言うたやろ? 今はまだ秘密♪」
そこに浮かんだ笑顔は、超楽しそう。
「あはは……」
ことりは微妙な笑顔を作る。
「……まあ私たち二人でできる事は限られているから、皆にもお願いする事があると思うわ。その時はよろしくね」
同じく苦笑する絵里が、元生徒会長らしくまとめる。
「手伝ってもらう内容が決まったら、また連絡するから。それまで待ってぇな?」
「うん、分かった! 穂乃果たちにできる事なら、何でも言ってね!」
「にこの誕生日ですからね。盛大にお祝いしたい所です」
「希ちゃんの企画、喜んでくれるといいね〜」
場所は飛んで、一年生帰宅中。
「もうすぐにこちゃんの誕生日だね」
「楽しみにゃ〜!」
「あなたが楽しんでどうするのよ」
二年生とほぼ同じようなやり取りが繰り広げられる。
「プレゼントとか、どうしよっか」
「にこちゃん、結構面倒臭いもんねー」
「……別に、何でもいいじゃない」
素っ気ない真姫に、すかさず凛が攻撃。
「またまた〜。凛見たよ〜? この前真姫ちゃんが一人でアイドルショップに入ってくの。オススメとか訊いちゃってさ〜」
「ヴェェ……。あ、あれは別人よ!」
「私も見たけど……」
「かよちんも言ってるよ〜?」
「たまたまよ! たまたま通りかかったから気になって入っただけで、にこちゃんのプレゼントを物色していたとかじゃないから!」
「「…………」」
すでに答えは言っているようなものだが、
「「ふふっ」」
二人は小さく笑うだけだった。
「な、何よ!」
__そんな三人に、穂乃果から希の案が連絡される。
そして二日後がやってくる。
七月二十二日。
音ノ木坂学院は、今日から夏休み。だがμ'sの練習はあると連絡が来ているので、にこはまだ涼しい内に家を出る。
すでにその強すぎる存在を主張し始めた太陽を見上げながら、
「今日も暑くなりそうね……。こんな日に練習とか……。プールにでも行きたいわ」
忌々しげに呟く。
だが、
「……ま、今日くらいは我慢するか」
向かう足取りは軽い。
今日は一年に一度の主役の日。
「宇宙ナンバーワンの可愛さを持つにこにーはいつだって主役だけど、今日は誰にも文句は言わせないわ!」
特に、赤毛でつり目の後輩とか。他にも、我がコンプレックスを主張しまくる同級生とか。
早い時間ながらうっすらと汗をかいたにこは、屋上に向かう。
「__ま、当然よね」
集合時間より早いせいか、屋上は無人。
「仕方ないわねぇ〜。私の意識の高さには、誰も敵わないもんね〜」
怪しく自画自賛しながら、とりあえず着替える。
体操とストレッチで体をほぐしながら、他のメンバーが来るのを待つ。
「……おかしいわね」
一時間ほどが経過したが、誰も来ない。真面目な絵里や海未は、この時間になれば大体来るのだが。
日にちを間違えたか。そう思いメールを確認するが、そうではない様子。変更の連絡も無い。
「…………」
さらにしばらく待つ。集合時間になったのに、誰も来ない。すでに太陽は高く昇り、日陰を少なくしていく。
「どういう事よ……」
流石におかしい。若干苛つきが混じったにこの頬を、汗が伝う。
「みんな何やってんのよ……!」
当然、我慢の限界。手始めににこは、練習“だけ”は真面目なリーダーへ電話。
プルルルル__
コールは一回で切れた。
「ちょっと穂乃果! アンタ練習サボって何やって__」
『お掛けの番号は、現在拒否されております』
「な、ん、で、着拒してるのよぉぉぉぉぉっ!」
哀しい雄叫びが、屋上に木霊した。
にこは、頗る憤慨しながら廊下を歩いていた。
夏休みで人通りは皆無だが、もし誰かいたら、“スクールアイドルにこにー”の存在意義を疑うような表情をしていた。
「せっかく来たんだし……部室行こ」
そのまま帰ったのでは、本当に来た意味が無い。何か寄り道しないとやってられなかった。
「ホント……どこ行って何やってんのよ……」
ガチャリと。にこがドアを開ける。
「__あ」
「__あ?」
何故か中にいた衣装担当が、動きを止めた。
「……ことり? 何やってんのよここで」
「にこ……ちゃん……⁉」
見た事のない衣装を持つことりは、驚愕に目を見開く。
「練習あったでしょ」
「ちょっと……部室の整理を……」
「はあ?」
にこの目が怪訝そうに細められる。
「練習サボってまでする事?」
「それは……その……」
歯切れが悪いことり。だが幸い、にこの意識は別に転移する。
「__そうよ! 穂乃果! ことり、穂乃果知らない⁉」
「あ、穂乃果ちゃんなら__」
ことりが素で答えそうになった時、
ガチャッ、と勢いよくドアが開き、
バゴッ、とにこの後頭部を直撃した。
「…………っ⁉」
「にこちゃん⁉」
もはやアイドルスマイルなど忘却の彼方。憤怒の表情で振り返る。
「にゃにゃ? にこちゃん!」
そこにいたのは、元気すぎる後輩。
「凛! アンタ気を付けなさ」「あったあった! コレコレ!」
「話聞きなさいよ! てか謝りなさいよ!」
「後でね!」
憤慨するにこを超スルースキルで回避した凛は、何かを持って出ていった。
「今謝りなさいよぉぉぉぉぉっ!」
にこ、ダッシュで追尾開始。
二分後、
「はぁ……はぁ……はぁ……。凛、足速すぎ……」
凛は自覚していなかったが、振り切られてしまった。
そのまま捜索を続けるか諦めて帰宅するか逡巡していると、
「__あら?」
何かを呟きながら、曲がり角からやって来る作曲担当。
「……ちょうどいいわ。洗いざらい吐いて貰おうじゃない」
すでに発言がアイドルのそれではないが、にこにはそんな余裕も無い。
「真姫ちゃぁ〜ん? ちょっといいかなぁ〜?」
「うっ、にこちゃん……」
「……何よその“会いたくなかった”みたいな顔は!」
「だ、誰もそんな事言ってないでしょ!」
「顔が言ってんのよ!」
「にこちゃんが言える事じゃないでしょ!」
「何ですって⁉」
にこ、本来の目的を忘れてヒートアップ。ギャーギャー言い合っていると、真姫の背後に忍び寄る何者かの影。にこが一瞬早く気が付いたが、
「__ほい!」
「キャー________ッ!」
間に合わず。
「ん〜、まだまだ発展途上やなぁ」
「な、なななな何すんのよ!」
「ウチのわしわしを受ければ、すぐに大きくなるで?」
「いらないわよ!」
逃げるように立ち去る真姫を見送り、
「真姫ちゃんは喋ってしまうかもしれへんしな……」
そう呟いた占い大好き同級生は、にこに向き直る。
「や、にこっち。学校来てたんか」
「……練習あったハズでしょ。ていうか、希も何やってんのよ」
そろそろこめかみが痛くなってきそうなにこは、実際額を押さえながら訊ねる。
「それには答えられへんなぁ」
「はあ?」
「……ただ、ウチの特製わしわしを受ける元気があるなら、教えてあげてもええで? うっふっふ……」
そう言って浮かべる笑顔は、まるで魔王。
誰だ、女神様とか言ったの。
遁走を開始しながら、にこは金髪の同級生を思い浮かべた。
「いるとすればここね……」
にこがいるのは、生徒会室の前。
「入るわよ」
もはやノックも無し。まるで自室のようにドアを開け放つ。
「にこ⁉」
「……あ、ホントにいた」
驚いたようにこちらを振り返る元生徒会長。まさかいるとは思わなかったにこも、少し戸惑う。
「ど、どうしたのかしら……」
「どうしたのじゃないわよ。揃って練習サボる上に、私を避ける。何か恨みでもあるわけ?」
「そんな……恨みなんて。μ'sの仲間であるにこにそんな事ある訳ないじゃない」
絵里は、よく見せる困った表情を作る。暴走する後輩をなだめる時にする、あの表情。
「じゃあどうして__」
「私もよく分からないけど……」
絵里は少し考えると、
「ほら、にこのキャラって、少し面倒な所があるじゃない?」
「面倒⁉」
「鬱陶しいとも言えるわね」
「鬱陶しい⁉」
「もちろん、言ったのは真姫や凛で、絶対に軽口だと思うけど__」
「絵里のバカ______ッ!」
「ちょ……にこ⁉」
絵里の声を最後まで聞かず、にこは生徒会室を飛び出していた。
片手を中途半端に上げたまま見送った絵里は、
「……ちょっと、正直に言い過ぎたかしら……。ごめんなさいにこ」
それはそれで酷い。
「何なのよもうみんなして……。私に言いたい放題言って……。私が一体何を__それなりにしているかもしれないけどぉ……」
少なからず自覚はある様子。
「だからってあの態度は無いでしょ! 曲がりなりにもμ'sの一員なのに!」
愚痴という名の独り言を零し続けながら、にこは廊下を歩く。
「__って……あれ?」
調理室の前を通りかかった時、中から声が聞こえた。そしてそれが、自分以上に怪しく何かを呟くのも。
「もしかしなくても……」
「お米……洗米完了……。後は炊飯器に入れて……均等に炊き上がるように綺麗に均して……。しばらくお水を浸透させて、それからスイッチを押して……。__ああ! た・の・し・み……♡」
そこにいたのは、誰よりもご飯に情熱を注ぐ後輩。
「……花陽よね。絶対花陽だと思ったわ」
もはやご飯への興奮にツッコむ気すら起きず、にこはドアを開ける。
「花陽、アンタ何でこんな時間にご飯なんて炊いてんのよ」
「お米……。ご飯……。えへへ♡」
「……話聞きなさいよ」
心底呆れながら、にこは花陽の肩に手を置く。
「今はダメ!」
「はい⁉」
突然、花陽が叫ぶ。こちらを振り向く事すらしない。
「お米を炊くためのタイミングを逃しちゃう……! だから今の私には話しかけないで……!」
「は、花陽……」
何かオーラのようなものさえ感じたにこは、
「ダメだこの子……。話が通じない……」
諦めて調理室を出た。__そのしばらく後、
「……あれ? そういえばさっきの、誰だったんだろう……」
と花陽が首を傾げた事を、にこは知らない。
調理室を出ると、
「__にこ。来ていたのですね」
作詞担当とバッタリ出くわした。
「ああ海未ね。花陽に用?」
自分に、と少なからず期待したが、
「ええ」
あっさり砕かれた。
微妙に肩を落としたにこには気付かず、
「どうやら世界に入ってしまったようですね……。仕方ありません、出直しますか」
海未は調理室を覗いて呟いた。
「……海未ちゃぁん? ちょっといいかしら〜?」
そこへ、にこの声が飛ぶ。
「……何ですか? 急に気持ち悪い声を出して」
「気持ち悪いとか言うんじゃないわよ!」
「あ……すみません。私、隠し事は苦手なので……」
「そこは隠しなさいよ! 優秀な頭持ってるんだから!」
「にこや穂乃果が問題なだけだと思いますが……」
「自分を基準にしないでよ! あと、さりげなく幼なじみを攻撃するのやめなさいよ」
「穂乃果はこの程度では折れませんので」
「嫌な愛情表現ね……」
リーダーに一瞬同情してから、にこは大きく肩を落とす。
「にこ、元気が無いようですが……」
「……別に、大丈夫よ」
「分かっています」
「じゃあ訊くんじゃないわよ!」
噛み付かんばかりの勢いで詰め寄ったにこを、
「私はまだ用事がありますので、失礼します」
海未は華麗にスルー。にこに反論する隙を与えず、歩き去ってしまった。
「__はぁ……」
立て続けの出来事に、にこの自称不屈の精神も限界が近かった。
「誰も私を相手にしてくれない……。今日は主役の日のハズなのに……」
肩を落としつつ歩いていたにこは、窓の外の空を見上げる。
高い位置から差し込む太陽のせいで、廊下には影が濃い。
「……帰ろうかな」
にこは、三年前の錯覚に陥った。一人となったアイドル研究部、漫然と過ごしたあの日々を。
メンバーは何やら忙しい様子。事情を話してくれそうにもない。
昇降口から、照りつける太陽の下へと出る。
「あっつ……」
うんざりした表情を浮かべながら、一度校舎を振り返り、
「……何しに来たのかしら」
そう呟く。
そして再び前を向いた所で、
「__にこちゃーんっ!」
自分を呼ぶ声。
もう一度振り返ったにこの目に映ったのは、
「間に合った!」
こちらへダッシュするμ'sのリーダー。ついでに、着信拒否された相手。
「穂乃果!」
「おっとっとぉ!」
穂乃果は急ブレーキをかけると、にこの目の前で停止する。
「ちょうどいい所に来たわね! まずは着拒した理由を教えてもらおうかしら!」
「うっ……それはごめん! ちゃんと後で謝るから! 今はいいから来て!」
私に対するスルースキルは全メンバー共通なのか、そう思ったにこの手を、穂乃果は掴む。
そして校舎内へダッシュ。
「ちょ……ちょっとぉ⁉ いきなり何なの⁉」
「いいから! にこちゃんのためにみんな頑張ったんだから!」
「私の……ため?」
あれだけスルーしてイジって、一体何を私のために。
穂乃果に強制連行されながら、にこは疑問を強めた。
「__これは……?」
連れてこられたのは、講堂、の舞台裏。
「にこっち! 帰らずに待ってくれてたんやな!」
希が顔を輝かせて来た。
「……待ってたワケじゃないわよ。急に連れてこられたの」
状況が分からないにこは、まだトゲが残る。
「どちらにしろ、よかったわ。妹さん達に連絡しなくて済んだもの」
「絵里? アンタもいたの?」
「あら、皆いるわよ?」
絵里が一歩身を引くと、そこには楽しそうに笑う五人のメンバー。
「アンタたち……」
にこの前で、八人は簡単に整列すると、
『ごめんなさい!』
頭を下げた。
「は、はい?」
思い当たる節は多すぎるが、いきなりすぎる。にこは困惑。
「まず、穂乃果ちゃんに着信拒否させたのはウチや。真姫ちゃんや凛ちゃんにもしとったけど……。万が一にも気付かれたくなかったんや。ごめんな、にこっち」
希が一歩進み出てもう一度頭を下げる。
「気付かれるって……何がよ」
「にこっちが一番分かってるやん? 今日が何の日か」
「!」
「ウチらが……忘れるワケないやん。みんな、この日を楽しみにしてたんよ? にこっちと同じか、それ以上」
「希……」
頭に手を置く同級生を、にこは呆然と見上げる。
「にこちゃん」
今度は真姫が進み出て、その手を掴む。
「来て」
優しく引っ張り、舞台袖に連れて行く。
「見て」
そう言って、座席を覗かせる。
「…………!」
そこには、音ノ木坂学院の生徒達。期待に顔を輝かせ、何かを待っているようだった。その手に持つのは、サイリウム。しかも、ピンク一色。
「どうして……」
夏休みなのに、どうしてここに集まっているのか。事実、校舎内には誰もいなかったではないか。
「私達が招待したの。__皆で、にこちゃんをお祝いしようって」
「真姫……」
「大変だったんだから! 本当は屋上で待ってもらうはずだったのに、にこちゃん降りて来ちゃうんだもん!」
「しょうがないでしょ! あんな暑い場所に居られるワケないわよ!」
「普段練習してるじゃない!」
「つっ立ってるだけなんて苦痛よ!」
「忍耐力の問題でしょ?」
「何ですって⁉」
「何よ!」
呼吸するように口論が始まった二人を、
「ま、まあまあ……」
ことりがなだめる。
「はいこれ、にこちゃんの衣装」
「これ……」
手渡された衣装は、つい先ほど、部室で見たもの。
「時間が無かったから、前からあった衣装をアレンジしただけだけど……。きっと似合うと思うよ♪」
「ことり……みんな……」
「にこっちの、にこっちによる、にこっちのためのサプライズライブ。ウチらμ'sからの、プレゼントや!」
『ハッピーバースデー!』
笑顔で放たれた言葉に、にこの視界は滲む。
だがそれも一瞬。浮かんだ涙を拭い飛ばすと、力強い笑みを見せる。
そんなにこを見て、真姫は手を差し出す。
「見せてみてよ。宇宙ナンバーワンアイドルさんの、スペシャルライブ」
「もちろんよ! 驚いたからって、遅れたりしたら許さないからね!」
にこは目を閉じると、
「……ありがとう、みんな。凄く嬉しい」
誰にも聞こえないように呟いた。それから、
「__にっこにっこぉ……にーっ!」
最高の笑顔で、今日限定のバースデーライブへと、飛び出していった。
このSSへのコメント