2015-10-23 13:10:13 更新

概要

にこにーハピバ!
pixivで上げたものをこちらにも。 何故か直せない文字化けがあります。ごめんなさい



七月二十日。某刻。

「明後日はにこちゃんの誕生日だね〜」

「そうだね〜。私、ケーキ作ろうと思うんだ」

「おおっ! ことりちゃんのケーキ! 楽しみぃ〜」

「あなたの誕生日ではありませんよ、穂乃果」

「もう、分かってるよ海未ちゃん」

いつも通りな会話を繰り広げる三人に、

「あー、三人共、ちょっとええ?」

「希ちゃん、どうしたの?」

希が声をかける。

「にこっちの誕生日やけど、ウチらに任せてくれへん?」

「“ウチら”?」

「ウチと、」

「私よ」

「絵里ちゃん!」

「任せるのは構いませんが、具体的にはどうするつもりですか?」

海未のもっともな質問は、

「任せて言うたやろ? 今はまだ秘密♪」

そこに浮かんだ笑顔は、超楽しそう。

「あはは……」

ことりは微妙な笑顔を作る。

「……まあ私たち二人でできる事は限られているから、皆にもお願いする事があると思うわ。その時はよろしくね」

同じく苦笑する絵里が、元生徒会長らしくまとめる。

「手伝ってもらう内容が決まったら、また連絡するから。それまで待ってぇな?」

「うん、分かった! 穂乃果たちにできる事なら、何でも言ってね!」

「にこの誕生日ですからね。盛大にお祝いしたい所です」

「希ちゃんの企画、喜んでくれるといいね〜」





場所は飛んで、一年生帰宅中。

「もうすぐにこちゃんの誕生日だね」

「楽しみにゃ〜!」

「あなたが楽しんでどうするのよ」

二年生とほぼ同じようなやり取りが繰り広げられる。

「プレゼントとか、どうしよっか」

「にこちゃん、結構面倒臭いもんねー」

「……別に、何でもいいじゃない」

素っ気ない真姫に、すかさず凛が攻撃。

「またまた〜。凛見たよ〜? この前真姫ちゃんが一人でアイドルショップに入ってくの。オススメとか訊いちゃってさ〜」

「ヴェェ……。あ、あれは別人よ!」

「私も見たけど……」

「かよちんも言ってるよ〜?」

「たまたまよ! たまたま通りかかったから気になって入っただけで、にこちゃんのプレゼントを物色していたとかじゃないから!」

「「…………」」

すでに答えは言っているようなものだが、

「「ふふっ」」

二人は小さく笑うだけだった。

「な、何よ!」

__そんな三人に、穂乃果から希の案が連絡される。





そして二日後がやってくる。






七月二十二日。

音ノ木坂学院は、今日から夏休み。だがμ'sの練習はあると連絡が来ているので、にこはまだ涼しい内に家を出る。

すでにその強すぎる存在を主張し始めた太陽を見上げながら、

「今日も暑くなりそうね……。こんな日に練習とか……。プールにでも行きたいわ」

忌々しげに呟く。

だが、

「……ま、今日くらいは我慢するか」

向かう足取りは軽い。

今日は一年に一度の主役の日。

「宇宙ナンバーワンの可愛さを持つにこにーはいつだって主役だけど、今日は誰にも文句は言わせないわ!」

特に、赤毛でつり目の後輩とか。他にも、我がコンプレックスを主張しまくる同級生とか。

早い時間ながらうっすらと汗をかいたにこは、屋上に向かう。

「__ま、当然よね」

集合時間より早いせいか、屋上は無人。

「仕方ないわねぇ〜。私の意識の高さには、誰も敵わないもんね〜」

怪しく自画自賛しながら、とりあえず着替える。

体操とストレッチで体をほぐしながら、他のメンバーが来るのを待つ。

「……おかしいわね」

一時間ほどが経過したが、誰も来ない。真面目な絵里や海未は、この時間になれば大体来るのだが。

日にちを間違えたか。そう思いメールを確認するが、そうではない様子。変更の連絡も無い。

「…………」

さらにしばらく待つ。集合時間になったのに、誰も来ない。すでに太陽は高く昇り、日陰を少なくしていく。

「どういう事よ……」

流石におかしい。若干苛つきが混じったにこの頬を、汗が伝う。

「みんな何やってんのよ……!」

当然、我慢の限界。手始めににこは、練習“だけ”は真面目なリーダーへ電話。

プルルルル__

コールは一回で切れた。

「ちょっと穂乃果! アンタ練習サボって何やって__」

『お掛けの番号は、現在拒否されております』

「な、ん、で、着拒してるのよぉぉぉぉぉっ!」

哀しい雄叫びが、屋上に木霊した。





にこは、頗る憤慨しながら廊下を歩いていた。

夏休みで人通りは皆無だが、もし誰かいたら、“スクールアイドルにこにー”の存在意義を疑うような表情をしていた。

「せっかく来たんだし……部室行こ」

そのまま帰ったのでは、本当に来た意味が無い。何か寄り道しないとやってられなかった。

「ホント……どこ行って何やってんのよ……」

ガチャリと。にこがドアを開ける。

「__あ」

「__あ?」

何故か中にいた衣装担当が、動きを止めた。

「……ことり? 何やってんのよここで」

「にこ……ちゃん……⁉」

見た事のない衣装を持つことりは、驚愕に目を見開く。

「練習あったでしょ」

「ちょっと……部室の整理を……」

「はあ?」

にこの目が怪訝そうに細められる。

「練習サボってまでする事?」

「それは……その……」

歯切れが悪いことり。だが幸い、にこの意識は別に転移する。

「__そうよ! 穂乃果! ことり、穂乃果知らない⁉」

「あ、穂乃果ちゃんなら__」

ことりが素で答えそうになった時、

ガチャッ、と勢いよくドアが開き、

バゴッ、とにこの後頭部を直撃した。

「…………っ⁉」

「にこちゃん⁉」

もはやアイドルスマイルなど忘却の彼方。憤怒の表情で振り返る。

「にゃにゃ? にこちゃん!」

そこにいたのは、元気すぎる後輩。

「凛! アンタ気を付けなさ」「あったあった! コレコレ!」

「話聞きなさいよ! てか謝りなさいよ!」

「後でね!」

憤慨するにこを超スルースキルで回避した凛は、何かを持って出ていった。

「今謝りなさいよぉぉぉぉぉっ!」

にこ、ダッシュで追尾開始。





二分後、

「はぁ……はぁ……はぁ……。凛、足速すぎ……」

凛は自覚していなかったが、振り切られてしまった。

そのまま捜索を続けるか諦めて帰宅するか逡巡していると、

「__あら?」

何かを呟きながら、曲がり角からやって来る作曲担当。

「……ちょうどいいわ。洗いざらい吐いて貰おうじゃない」

すでに発言がアイドルのそれではないが、にこにはそんな余裕も無い。

「真姫ちゃぁ〜ん? ちょっといいかなぁ〜?」

「うっ、にこちゃん……」

「……何よその“会いたくなかった”みたいな顔は!」

「だ、誰もそんな事言ってないでしょ!」

「顔が言ってんのよ!」

「にこちゃんが言える事じゃないでしょ!」

「何ですって⁉」

にこ、本来の目的を忘れてヒートアップ。ギャーギャー言い合っていると、真姫の背後に忍び寄る何者かの影。にこが一瞬早く気が付いたが、

「__ほい!」

「キャー________ッ!」

間に合わず。

「ん〜、まだまだ発展途上やなぁ」

「な、なななな何すんのよ!」

「ウチのわしわしを受ければ、すぐに大きくなるで?」

「いらないわよ!」

逃げるように立ち去る真姫を見送り、

「真姫ちゃんは喋ってしまうかもしれへんしな……」

そう呟いた占い大好き同級生は、にこに向き直る。

「や、にこっち。学校来てたんか」

「……練習あったハズでしょ。ていうか、希も何やってんのよ」

そろそろこめかみが痛くなってきそうなにこは、実際額を押さえながら訊ねる。

「それには答えられへんなぁ」

「はあ?」

「……ただ、ウチの特製わしわしを受ける元気があるなら、教えてあげてもええで? うっふっふ……」

そう言って浮かべる笑顔は、まるで魔王。

誰だ、女神様とか言ったの。

遁走を開始しながら、にこは金髪の同級生を思い浮かべた。





「いるとすればここね……」

にこがいるのは、生徒会室の前。

「入るわよ」

もはやノックも無し。まるで自室のようにドアを開け放つ。

「にこ⁉」

「……あ、ホントにいた」

驚いたようにこちらを振り返る元生徒会長。まさかいるとは思わなかったにこも、少し戸惑う。

「ど、どうしたのかしら……」

「どうしたのじゃないわよ。揃って練習サボる上に、私を避ける。何か恨みでもあるわけ?」

「そんな……恨みなんて。μ'sの仲間であるにこにそんな事ある訳ないじゃない」

絵里は、よく見せる困った表情を作る。暴走する後輩をなだめる時にする、あの表情。

「じゃあどうして__」

「私もよく分からないけど……」

絵里は少し考えると、

「ほら、にこのキャラって、少し面倒な所があるじゃない?」

「面倒⁉」

「鬱陶しいとも言えるわね」

「鬱陶しい⁉」

「もちろん、言ったのは真姫や凛で、絶対に軽口だと思うけど__」

「絵里のバカ______ッ!」

「ちょ……にこ⁉」

絵里の声を最後まで聞かず、にこは生徒会室を飛び出していた。

片手を中途半端に上げたまま見送った絵里は、

「……ちょっと、正直に言い過ぎたかしら……。ごめんなさいにこ」

それはそれで酷い。





「何なのよもうみんなして……。私に言いたい放題言って……。私が一体何を__それなりにしているかもしれないけどぉ……」

少なからず自覚はある様子。

「だからってあの態度は無いでしょ! 曲がりなりにもμ'sの一員なのに!」

愚痴という名の独り言を零し続けながら、にこは廊下を歩く。

「__って……あれ?」

調理室の前を通りかかった時、中から声が聞こえた。そしてそれが、自分以上に怪しく何かを呟くのも。

「もしかしなくても……」

「お米……洗米完了……。後は炊飯器に入れて……均等に炊き上がるように綺麗に均して……。しばらくお水を浸透させて、それからスイッチを押して……。__ああ! た・の・し・み……♡」

そこにいたのは、誰よりもご飯に情熱を注ぐ後輩。

「……花陽よね。絶対花陽だと思ったわ」

もはやご飯への興奮にツッコむ気すら起きず、にこはドアを開ける。

「花陽、アンタ何でこんな時間にご飯なんて炊いてんのよ」

「お米……。ご飯……。えへへ♡」

「……話聞きなさいよ」

心底呆れながら、にこは花陽の肩に手を置く。

「今はダメ!」

「はい⁉」

突然、花陽が叫ぶ。こちらを振り向く事すらしない。

「お米を炊くためのタイミングを逃しちゃう……! だから今の私には話しかけないで……!」

「は、花陽……」

何かオーラのようなものさえ感じたにこは、

「ダメだこの子……。話が通じない……」

諦めて調理室を出た。__そのしばらく後、

「……あれ? そういえばさっきの、誰だったんだろう……」

と花陽が首を傾げた事を、にこは知らない。





調理室を出ると、

「__にこ。来ていたのですね」

作詞担当とバッタリ出くわした。

「ああ海未ね。花陽に用?」

自分に、と少なからず期待したが、

「ええ」

あっさり砕かれた。

微妙に肩を落としたにこには気付かず、

「どうやら世界に入ってしまったようですね……。仕方ありません、出直しますか」

海未は調理室を覗いて呟いた。

「……海未ちゃぁん? ちょっといいかしら〜?」

そこへ、にこの声が飛ぶ。

「……何ですか? 急に気持ち悪い声を出して」

「気持ち悪いとか言うんじゃないわよ!」

「あ……すみません。私、隠し事は苦手なので……」

「そこは隠しなさいよ! 優秀な頭持ってるんだから!」

「にこや穂乃果が問題なだけだと思いますが……」

「自分を基準にしないでよ! あと、さりげなく幼なじみを攻撃するのやめなさいよ」

「穂乃果はこの程度では折れませんので」

「嫌な愛情表現ね……」

リーダーに一瞬同情してから、にこは大きく肩を落とす。

「にこ、元気が無いようですが……」

「……別に、大丈夫よ」

「分かっています」

「じゃあ訊くんじゃないわよ!」

噛み付かんばかりの勢いで詰め寄ったにこを、

「私はまだ用事がありますので、失礼します」

海未は華麗にスルー。にこに反論する隙を与えず、歩き去ってしまった。





「__はぁ……」

立て続けの出来事に、にこの自称不屈の精神も限界が近かった。

「誰も私を相手にしてくれない……。今日は主役の日のハズなのに……」

肩を落としつつ歩いていたにこは、窓の外の空を見上げる。

高い位置から差し込む太陽のせいで、廊下には影が濃い。

「……帰ろうかな」

にこは、三年前の錯覚に陥った。一人となったアイドル研究部、漫然と過ごしたあの日々を。

メンバーは何やら忙しい様子。事情を話してくれそうにもない。

昇降口から、照りつける太陽の下へと出る。

「あっつ……」

うんざりした表情を浮かべながら、一度校舎を振り返り、

「……何しに来たのかしら」

そう呟く。

そして再び前を向いた所で、

「__にこちゃーんっ!」

自分を呼ぶ声。

もう一度振り返ったにこの目に映ったのは、

「間に合った!」

こちらへダッシュするμ'sのリーダー。ついでに、着信拒否された相手。

「穂乃果!」

「おっとっとぉ!」

穂乃果は急ブレーキをかけると、にこの目の前で停止する。

「ちょうどいい所に来たわね! まずは着拒した理由を教えてもらおうかしら!」

「うっ……それはごめん! ちゃんと後で謝るから! 今はいいから来て!」

私に対するスルースキルは全メンバー共通なのか、そう思ったにこの手を、穂乃果は掴む。

そして校舎内へダッシュ。

「ちょ……ちょっとぉ⁉ いきなり何なの⁉」

「いいから! にこちゃんのためにみんな頑張ったんだから!」

「私の……ため?」

あれだけスルーしてイジって、一体何を私のために。

穂乃果に強制連行されながら、にこは疑問を強めた。








「__これは……?」

連れてこられたのは、講堂、の舞台裏。

「にこっち! 帰らずに待ってくれてたんやな!」

希が顔を輝かせて来た。

「……待ってたワケじゃないわよ。急に連れてこられたの」

状況が分からないにこは、まだトゲが残る。

「どちらにしろ、よかったわ。妹さん達に連絡しなくて済んだもの」

「絵里? アンタもいたの?」

「あら、皆いるわよ?」

絵里が一歩身を引くと、そこには楽しそうに笑う五人のメンバー。

「アンタたち……」

にこの前で、八人は簡単に整列すると、

『ごめんなさい!』

頭を下げた。

「は、はい?」

思い当たる節は多すぎるが、いきなりすぎる。にこは困惑。

「まず、穂乃果ちゃんに着信拒否させたのはウチや。真姫ちゃんや凛ちゃんにもしとったけど……。万が一にも気付かれたくなかったんや。ごめんな、にこっち」

希が一歩進み出てもう一度頭を下げる。

「気付かれるって……何がよ」

「にこっちが一番分かってるやん? 今日が何の日か」

「!」

「ウチらが……忘れるワケないやん。みんな、この日を楽しみにしてたんよ? にこっちと同じか、それ以上」

「希……」

頭に手を置く同級生を、にこは呆然と見上げる。

「にこちゃん」

今度は真姫が進み出て、その手を掴む。

「来て」

優しく引っ張り、舞台袖に連れて行く。

「見て」

そう言って、座席を覗かせる。

「…………!」

そこには、音ノ木坂学院の生徒達。期待に顔を輝かせ、何かを待っているようだった。その手に持つのは、サイリウム。しかも、ピンク一色。

「どうして……」

夏休みなのに、どうしてここに集まっているのか。事実、校舎内には誰もいなかったではないか。

「私達が招待したの。__皆で、にこちゃんをお祝いしようって」

「真姫……」

「大変だったんだから! 本当は屋上で待ってもらうはずだったのに、にこちゃん降りて来ちゃうんだもん!」

「しょうがないでしょ! あんな暑い場所に居られるワケないわよ!」

「普段練習してるじゃない!」

「つっ立ってるだけなんて苦痛よ!」

「忍耐力の問題でしょ?」

「何ですって⁉」

「何よ!」

呼吸するように口論が始まった二人を、

「ま、まあまあ……」

ことりがなだめる。

「はいこれ、にこちゃんの衣装」

「これ……」

手渡された衣装は、つい先ほど、部室で見たもの。

「時間が無かったから、前からあった衣装をアレンジしただけだけど……。きっと似合うと思うよ♪」

「ことり……みんな……」

「にこっちの、にこっちによる、にこっちのためのサプライズライブ。ウチらμ'sからの、プレゼントや!」

『ハッピーバースデー!』

笑顔で放たれた言葉に、にこの視界は滲む。

だがそれも一瞬。浮かんだ涙を拭い飛ばすと、力強い笑みを見せる。

そんなにこを見て、真姫は手を差し出す。

「見せてみてよ。宇宙ナンバーワンアイドルさんの、スペシャルライブ」

「もちろんよ! 驚いたからって、遅れたりしたら許さないからね!」

にこは目を閉じると、

「……ありがとう、みんな。凄く嬉しい」

誰にも聞こえないように呟いた。それから、

「__にっこにっこぉ……にーっ!」

最高の笑顔で、今日限定のバースデーライブへと、飛び出していった。


このSSへの評価

このSSへの応援

このSSへのコメント


このSSへのオススメ


オススメ度を★で指定してください