2015-11-01 23:49:03 更新

概要

凛ちゃんハッピーバースデー!


「じゃあ今日の練習はここまで! 次からは通しでやるから、みんなステップのおさらいをしておくように!」

絵里の号令で、本日の練習はお開き。

それぞれ返事をすると、帰り支度を始める。

花陽が簡単に荷物をまとめると、

「凛ちゃ__」

「凛、さっきのステップ、ちょっと見てもらえないかしら。よければ見本を見せて欲しいの」

花陽の声を遮って、絵里が声をかける。

「凛が? 絵里ちゃんに?」

本人はキョトンとしていたが、

「凛の運動神経は、μ'sの誰も敵わないわよ。ね、だから教えて欲しいの」

絵里は笑顔で返す。

「おお! そういう事なら任せるにゃ!」

そう言われた凛は顔を輝かせると、颯爽と華麗なステップを踏む。

「タッタラッタララランタンッ♪ ここでターン!」

「こうかしら……?」

「うーん……ちょっと勢いが弱いにゃ。もっと力強くやるとうまくいくよ!」

「なるほど……分かったわ。帰ったら復習してみる。ありがとう、凛」

「どういたしましてにゃ!」

凛と絵里が仲良く言葉を交わす間、花陽は何も言わなかった。言えなかった。もはや遥か先を走る大切な友達を、ただただ凄いなぁ、と見つめていた。





その翌日、十一月一日。

今日は一年に一度訪れる、大切な日。花陽にとっては、自分が主役となる日よりも、待ち遠しい日。

夕方から学校に集まり、みんなで簡単なパーティーを開く予定になっている。

その午前中。自宅で何もせずに座っていた。本当は今すぐ凛の家に赴き、真っ先におめでとうと伝えたい。

「…………」

だがそれをさせない何かが、花陽を縛っていた。

__凛ちゃんは変わった。ファッションショーを成功させ、自らのコンプレックスをも打ち破った彼女は、もう追い付けないほど遠くへ行ってしまった。誰よりも可愛く、魅力的な存在に。

そんな考えが、花陽にのしかかっていた。考えすぎ。そうだとしても、不安は拭いきれない。

「どうしよう……」

そういえば、プレゼントも用意していない。今の彼女に何をあげればいいのか、分からないのだ。

「…………」

気持ちがモヤモヤした時は、散歩が一番。意を決して立ち上がった花陽は、靴を履くと玄関のドアを開けた。

「__あ、かよちん!」

目の前に、凛がいた。

「凛ちゃん⁉︎ どうしたの⁉︎」

「今日は凛の誕生日でしょ?」

「あ、うん。__お誕生日、おめでとう」

「ありがとにゃ〜。__でねでね、夕方まで退屈だったから、かよちんと遊びに行こうと思って!」

「へっ?」

そこまで言った凛は、花陽の格好を見て顔を輝かせる。

「もしかして、かよちんも同じだった? すごーい! 凛たち息ピッタリだね!」

凛は花陽の手を掴むと、

「さあ行っくにゃ〜!」

勢いよく走り出した。





かよちんは凛の大切な友達。小さい頃からずっと一緒だし、今もこれからも一緒にいたい。ちょっと頼りなく見える部分もあるけど、それでも凛よりずっと強くて可愛い、誰よりもアイドルらしい女の子。

そんな花陽を連れ出した凛は、早速自分の無計画さに困っていた。街に繰り出したはいいものの、目的地を決めていなかったのだ。

夕方からはみんなでパーティー。そこでご飯を食べるので、今食べる訳にはいかない。

「かよちん、どうしよう?」

「うーん……じゃあ、洋服を見に行くのはどう?」

「! それいいにゃ! そうしよう!」

ナイスアイデアかよちん!

自分では思いつけないアイデアも、あっさりと考えてのける。やっぱり敵わない。花陽の手を引きながら、凛はそんな事を考えていた。



「あ、これ可愛いにゃ」

凛が手に取ったスカートを見て、花陽も賛同する。

「ほんとだね〜」

「じゃあかよちん、着てみるにゃ!」

「へ? 凛ちゃんが着るんじゃないの?」

花陽は目を丸くする。

「だってかよちんの方が似合うもん。ほらほら、早く早く!」

半ば強引に、凛は花陽を試着室に押し込んだ。

「…………」

花陽やメンバーがいくら可愛いと言ってくれても、自分のレベルは身に染みて分かっているのだ。あんなにも可愛い仲間と一緒にいれば、そう思ってしまうのも当然だろう。

ずっと一緒だった花陽も、いつかは凄いアイドルになって、自分とはまったく別の世界へと羽ばたいていくのだろう。

「__あ、そうだ! せっかくだから、かよちんに似合うアクセサリーとかも選んであげよう!」

そう呟いて小物を探しに行く凛。

心の想いは、表には出さない。自分が思っているだけなのだ。そんな理由で、友達を引き止める訳にはいかないから。



「__かーよちん! お待たせ!」

凛が小物を抱えて試着室の前に戻ると、

「あれ? かよちん……?」

試着室は空。花陽の姿も無い。

「んー……」

凛はしばらく考えていたのだが、

「きっと別の服を探しに行ったんだ!」

そう結論づけた。

__だからなのか。

「凛ちゃん!」

「あ、かよち__」

自分を呼ぶ花陽の顔が今にも泣き出しそうであった事に、面食らったのは。

「ど、どうしたの? そんな顔して……。凛、何かした……?」

慌てて謝る凛の声には答えず、

「凛ちゃん……!」

花陽は勢いよく抱き付いてきた。

「かよちん……?」

「嫌だよ、凛ちゃん……。私、嫌だよ……」

耳元で、消え入りそうな声でそう言われ、凛も言葉に詰まる。__やはり、このままの自分といるのは__

「いなくなっちゃ、嫌だよ!」

「……え?」

ようやく体を離した花陽は、凛に向かって訴える。大粒の涙を零しながら。

「私よりずっと凄くて可愛い凛ちゃんなら、もっと新しい世界に行ける事は分かってる! それが、私にはできない事も……。__でも! 私は凛ちゃんと一緒にいたい。遠くに行かないで!」

「…………」

凛は目の前の景色が、急激に明るくなる錯覚に陥った。置いて行かれると思っていたのは、自分だけではなかったのだ。花陽もまた、同じように悩んでいた。

「かよちんは……凛を置いて遠くに行ったりしない……?」

「もちろんだよ! 私は凛ちゃんを追いかけるので精一杯だけど、もし追い抜いちゃったら、止まってあげる!」

「__あは……あははっ」

「__ぷっ……あははっ」

気が付けば、凛は笑っていた。涙を流しながら、笑っていた。嬉しかった。

気にする必要はないのだ。かよちんが遠くへ行ってしまうなら、凛も追いかける。もしも凛が先に行ってしまったなら、待ってあげる。それだけの、簡単な事だったのだ。



__大好きな、大好きなかよちんと、いつまでも一緒にいるために。


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2016-10-02 21:32:06

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