2016-11-01 00:01:04 更新

概要

凛ちゃんハッピーバースデー!


優しそうな笑顔。ふわふわした声。サラサラな髪。

「今日もお疲れ様、凛ちゃん♪」

こんなお姉ちゃんが欲しかった、と一度は思ってしまう先輩。

それが、ことりちゃん。





その日の夜、

「凛ちゃん、凛ちゃん、起きるのです」

「んにゅぅ……? 誰にゃこんな夜中に……」

目を開けるとそこには、

「ちゅんちゅん! 私は天使なのですっ」

可愛くて綺麗なお姉さんが立っていた。ちょっとことりちゃんに似てるにゃ。

「日付が変わりました! 十一月一日の今日は、凛ちゃんのお誕生日ですっ。おめでとう♪」

「ありがとにゃ」

そっかあ。凛もちょびっと大人になれたかな。

「それで天使さんは、何しに来たにゃ?」

「そうでした。めでたくお誕生日を迎えた凛ちゃんの、お願いを一つ叶えてあげますっ」

「お願い?」

「そうなのです。何でも一つ、お願い事を叶えてあげます」

お願い事かぁ……。何がいいかなぁ……。

「ラーメン一年分でもいいよ?」

何で凛の好きな食べ物知ってるにゃ⁉︎

「私は天使なのですっ」

ほぇ〜。天使さん凄いにゃ。

「無ければ無いでもいいよ?」

待って! あるある!

「う〜んと……う〜んと……」

一つって言われると、悩んじゃうにゃ……。

「ーーあっ! 決めた! 凛、髪を伸ばしたい!」

「髪を?」

「うん。ほら、凛ってずっと短いままだったし、ことりちゃんみたいな髪の毛見て、いいなぁって思ってたの。だからお願い!」

「分かりました♪ そのお願い、叶えてあげましょうっ。ーーマカマ〜カマカロン、おいしいっ♪」





「ーーはっ!」

目を覚まして飛び起きた。いつも通りの、自分の部屋。

「……なーんだ夢か〜」

不思議な夢だったなぁ。……でもちょっと残念。

「っと! 早く準備しなきゃ!」

ベッドから飛び降りて、……何か違和感。頭が……重い?

ふと部屋にある姿鏡を見やると、

「な、何これ〜⁉︎」

凛の髪が……凛の髪が……、

「長くなってるにゃぁ!」



「え、え、どういう事⁉︎ 何で凛の髪が伸びてるの⁉︎」

ことりちゃんや海未ちゃんと同じくらいの長さ……。しかも、寝癖でボサボサ。

「……あっ! もしかして昨日の夢⁉︎ まさか本当に……正夢になっちゃったにゃ⁉︎」

突然の非日常事態に、凛の頭はパニック。

「と、とりあえず寝癖直さなきゃ! えっと……櫛どこだっけ……」

普段はあまり用を成さない櫛を引っ張り出すと、凛は髪を梳かしにかかる。が、

「ぜ、全然直らないよぉ……!」

癖が強いのか普段やらないせいで慣れないのか、ハネはちっとも直らない。

凛が寝癖に悪戦苦闘していると、

ピンポーン

と。間延びしたインターホンが鳴った。

「あっ……。もしかしてかよちん⁉︎」

もうそんな時間かと、慌てて時計を見る。

「えと……えと……。と、とにかく後で!」

凛は即行で制服に着替えると、部屋を飛び出した。



「お、おはようかよちん!」

「あ、おはよう。凛ちゃ……

ん……?」

花陽の声が中途半端に疑問系に終わった。

「どうしたの? 帽子なんて珍しいね」

「う、うん。ちょっとイメチェンにゃ」

凛は苦肉の策として、帽子を被り、その中に伸びてしまった髪の毛を隠すという手に出た。

「…………? 何だか帽子、フワフワしてない?」

「き、気のせい気のせい! さあかよちん! 遅刻しちゃうから早く行くにゃ!」

誤魔化すように花陽の手を取ると、勢いよく駆け出した。ーー事が仇となった。

勢いと風圧にまくられた帽子が、凛の頭から飛んでしまった。

「あっ……!」

慌てて頭を押さえるが、時すでに遅し。隠していた髪が、フワリと凛の背中に流れた。

「り、凛ちゃん……? その髪の毛は一体……?」

「え、えーっと……」

どう説明すべきか悩んだが、相手はお互いを知り尽くした花陽なのだ。凛は開き直って、夢の内容と今朝の状況を説明した。

「そんな事があるんだねぇ……」

「かよちんお願い! 寝癖が直らないの!」

「……へ? そっち?」

「何がにゃ?」

「ううん、何でもない……。…………きっとすぐ気付くよね」

花陽はひとまず、学校に着いたら直すからと凛を納得させた。





「ヴェェ⁉︎ 凛、何よその髪!」

学校に到着すると、ちょうど昇降口にいた真姫と遭遇。

「あ、真姫ちゃん。実はね、凛ちゃんが天使さんにお願い事言ったら正夢になっちゃったの」

「……さっぱり分からないわ」

それもそうだと凛も加わって説明をする。

「……そんな非科学的な事が……」

「実際に起きちゃったの」

「…………」

真姫は少し黙ると、

「……痛たたたたた⁉︎ 何するの真姫ちゃん!」

凛の長髪を軽く引っ張った。

「いや、もしかしてウィッグなんじゃないかと思って」

「凛そんなの持ってないにゃあ!」

「そ、そうよね。ごめん」

真姫は軽く頭を下げると、

「……ふむ」

改めて髪の伸びた凛を見やる。

「? 真姫ちゃん、どうかしたにゃ?」

「花陽、ちょっと」

首を傾げる凛を横目に、花陽と顔を寄せる。

「何なのよあれ」

「私に訊かれても……。原因はよく分からないし、解決方法も謎のままーー」

「可愛すぎない?」

「……はい?」

「前の凛も女の子らしさあったけど、今は反則級だと思わない?」

「……凄く、分かる」

「そうよね。これは早く、みんなに見てもらわないと」

「うん、賛成」

二人は顔を離すと、

「どうしたにゃ〜。二人で何の話?」

退屈そうな凛に向き直った。

「凛ちゃん! 今すぐ部室に行くよ!」

「え? うん、朝練あるから、そのつもりだったし……」

「さあ早く行くわよ。モタモタしないで」

「ま、真姫ちゃん? そ、そんな引っ張らなくても自分で歩けるよ〜!」





「みんな! ビッグニュースよ!」

真姫が部室のドアを開け放つと、すでに揃っていた六人は少なからず肩を震わせた。

「な、何ですか。朝から騒々しい」

「朝からハイテンションな真姫ちゃんも珍しいなぁ」

「何々? どうしたの?」

真姫の勢いに当てられたのか、六人は注目する。

「さあ凛!」

「ほら、凛ちゃん」

「そ、そんな押さなくてもいいってば!」

普段二人を引っ張っている新リーダーが控えめな事に、みな疑問を感じる。

だがそれも、

『わあ……!』

凛の姿を見て解消された。

「どうしたのよその髪の毛……」

「ウィッグ……やない?」

「あ、違うのよ。実は……」

今度は真姫が、夢云々の説明をする。

にわかには信じがたい説明に無理矢理納得する中、

「凛ちゃん……。か、可愛い〜……っ」

その辺どうでもよさそうな衣装担当が一人。

「ちょっと、ハネてるね。ことりが直してあげる♪」

「え……いいの?」

「もちろん♪」

やっぱりことりちゃんは優しいなぁ。



「ワン、ツー、スリー、フォー!」

髪が伸びても、凛はいつでも絶好調!

……って、思ってたんだけど……。

「はい、ストップ。……凛、ちょっと遅れてるわね」

「ええぇ〜⁉︎ 絵里ちゃん、凛、遅れてたの⁉︎」

そんなぁ! どこか調子悪いのかなぁ……。

「何かを気にしてるような……。ひょっとして、その髪の毛じゃないかしら」

「え?」

ことりに梳かしてもらい、今はサラサラと流れる凛の髪。

「いつもは無い髪の毛が、少し邪魔なんじゃないかしら?」

「んー確かに、そのままにするのはちょっと鬱陶しいのかもなあ」

「でもどうすれば……」

やっぱり凛には、長い髪は合わないのかな……。

「大丈夫よ。私達に任せて」

「ウチらが凛ちゃんを、コーディネートしてあげるんよ」

「え、面白そう! 穂乃果もやる!」

「遊びじゃないですよ! それに練習はどうするんです!」

「ぶー! 海未ちゃんは凛ちゃんのコーディネートに興味ないんだ」

「そ、そんな事は……い、言ってません!」

「じゃあ満場一致ね。今日は朝練を切り上げて、HRまでに凛の髪をコーディネートするわよ!」

『おー!』

「え、えっと……。そこまでしてもらわなくても、いいのににゃって……」

凛の控えめな遠慮は、誰の耳にも入らない。






「やっぱり、穂乃果と同じ髪型がいいよ!」

どこからか予備のリボンを取り出した穂乃果がそう息巻く。

「いいえ。ここは私と同じようにポニーテールにすべきよ! ここまで長いと、邪魔になるでしょう」

同じくシュシュを取り出した絵里が、それに張り合う。

「正統派アイドルなら、にこにーみたいなツインテールに決まってるでしょ!」

「凛ちゃん、ことりと同じように結ってあげよっか?」

こちらも負けずと、櫛とヘアゴムを手ににじり寄る。

「凛ちゃん、どんな風に可愛くなるのかなぁ……」

「……別に凛の髪型なんて、何だっていいでしょ」

ウットリ親友を見つめる花陽と、そう言いつつチラチラと視線を送る真姫。

「……希は何をしてるんです」

「ウチは撮影係や。こんなチャンス、二度と無いかもしれんやん」

「希は自分の髪型を布教しなくていいんですか?」

「ライバルが減った頃に、じっくりやるからええんや♪ それより、海未ちゃんはええの?」

「私はストレートですし」

「とか言って、弓道の時の髪型はどうとか思っとるんやないの〜?」

「なっ……! どうしてそれを⁉︎」

ワイワイガヤガヤと。自分の髪型を巡って論争を始めるメンバー達。

「…………」

それを眺めながら、凛はにんまり笑っていた。

「えへへ……。やっぱり誕生日っていいにゃ♪」

だって、こんな凛でも主役になれるんだもん!

みんな大好き! ありがとにゃ!


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