星空凛生誕祭2016
凛ちゃんハッピーバースデー!
優しそうな笑顔。ふわふわした声。サラサラな髪。
「今日もお疲れ様、凛ちゃん♪」
こんなお姉ちゃんが欲しかった、と一度は思ってしまう先輩。
それが、ことりちゃん。
その日の夜、
「凛ちゃん、凛ちゃん、起きるのです」
「んにゅぅ……? 誰にゃこんな夜中に……」
目を開けるとそこには、
「ちゅんちゅん! 私は天使なのですっ」
可愛くて綺麗なお姉さんが立っていた。ちょっとことりちゃんに似てるにゃ。
「日付が変わりました! 十一月一日の今日は、凛ちゃんのお誕生日ですっ。おめでとう♪」
「ありがとにゃ」
そっかあ。凛もちょびっと大人になれたかな。
「それで天使さんは、何しに来たにゃ?」
「そうでした。めでたくお誕生日を迎えた凛ちゃんの、お願いを一つ叶えてあげますっ」
「お願い?」
「そうなのです。何でも一つ、お願い事を叶えてあげます」
お願い事かぁ……。何がいいかなぁ……。
「ラーメン一年分でもいいよ?」
何で凛の好きな食べ物知ってるにゃ⁉︎
「私は天使なのですっ」
ほぇ〜。天使さん凄いにゃ。
「無ければ無いでもいいよ?」
待って! あるある!
「う〜んと……う〜んと……」
一つって言われると、悩んじゃうにゃ……。
「ーーあっ! 決めた! 凛、髪を伸ばしたい!」
「髪を?」
「うん。ほら、凛ってずっと短いままだったし、ことりちゃんみたいな髪の毛見て、いいなぁって思ってたの。だからお願い!」
「分かりました♪ そのお願い、叶えてあげましょうっ。ーーマカマ〜カマカロン、おいしいっ♪」
「ーーはっ!」
目を覚まして飛び起きた。いつも通りの、自分の部屋。
「……なーんだ夢か〜」
不思議な夢だったなぁ。……でもちょっと残念。
「っと! 早く準備しなきゃ!」
ベッドから飛び降りて、……何か違和感。頭が……重い?
ふと部屋にある姿鏡を見やると、
「な、何これ〜⁉︎」
凛の髪が……凛の髪が……、
「長くなってるにゃぁ!」
「え、え、どういう事⁉︎ 何で凛の髪が伸びてるの⁉︎」
ことりちゃんや海未ちゃんと同じくらいの長さ……。しかも、寝癖でボサボサ。
「……あっ! もしかして昨日の夢⁉︎ まさか本当に……正夢になっちゃったにゃ⁉︎」
突然の非日常事態に、凛の頭はパニック。
「と、とりあえず寝癖直さなきゃ! えっと……櫛どこだっけ……」
普段はあまり用を成さない櫛を引っ張り出すと、凛は髪を梳かしにかかる。が、
「ぜ、全然直らないよぉ……!」
癖が強いのか普段やらないせいで慣れないのか、ハネはちっとも直らない。
凛が寝癖に悪戦苦闘していると、
ピンポーン
と。間延びしたインターホンが鳴った。
「あっ……。もしかしてかよちん⁉︎」
もうそんな時間かと、慌てて時計を見る。
「えと……えと……。と、とにかく後で!」
凛は即行で制服に着替えると、部屋を飛び出した。
「お、おはようかよちん!」
「あ、おはよう。凛ちゃ……
ん……?」
花陽の声が中途半端に疑問系に終わった。
「どうしたの? 帽子なんて珍しいね」
「う、うん。ちょっとイメチェンにゃ」
凛は苦肉の策として、帽子を被り、その中に伸びてしまった髪の毛を隠すという手に出た。
「…………? 何だか帽子、フワフワしてない?」
「き、気のせい気のせい! さあかよちん! 遅刻しちゃうから早く行くにゃ!」
誤魔化すように花陽の手を取ると、勢いよく駆け出した。ーー事が仇となった。
勢いと風圧にまくられた帽子が、凛の頭から飛んでしまった。
「あっ……!」
慌てて頭を押さえるが、時すでに遅し。隠していた髪が、フワリと凛の背中に流れた。
「り、凛ちゃん……? その髪の毛は一体……?」
「え、えーっと……」
どう説明すべきか悩んだが、相手はお互いを知り尽くした花陽なのだ。凛は開き直って、夢の内容と今朝の状況を説明した。
「そんな事があるんだねぇ……」
「かよちんお願い! 寝癖が直らないの!」
「……へ? そっち?」
「何がにゃ?」
「ううん、何でもない……。…………きっとすぐ気付くよね」
花陽はひとまず、学校に着いたら直すからと凛を納得させた。
「ヴェェ⁉︎ 凛、何よその髪!」
学校に到着すると、ちょうど昇降口にいた真姫と遭遇。
「あ、真姫ちゃん。実はね、凛ちゃんが天使さんにお願い事言ったら正夢になっちゃったの」
「……さっぱり分からないわ」
それもそうだと凛も加わって説明をする。
「……そんな非科学的な事が……」
「実際に起きちゃったの」
「…………」
真姫は少し黙ると、
「……痛たたたたた⁉︎ 何するの真姫ちゃん!」
凛の長髪を軽く引っ張った。
「いや、もしかしてウィッグなんじゃないかと思って」
「凛そんなの持ってないにゃあ!」
「そ、そうよね。ごめん」
真姫は軽く頭を下げると、
「……ふむ」
改めて髪の伸びた凛を見やる。
「? 真姫ちゃん、どうかしたにゃ?」
「花陽、ちょっと」
首を傾げる凛を横目に、花陽と顔を寄せる。
「何なのよあれ」
「私に訊かれても……。原因はよく分からないし、解決方法も謎のままーー」
「可愛すぎない?」
「……はい?」
「前の凛も女の子らしさあったけど、今は反則級だと思わない?」
「……凄く、分かる」
「そうよね。これは早く、みんなに見てもらわないと」
「うん、賛成」
二人は顔を離すと、
「どうしたにゃ〜。二人で何の話?」
退屈そうな凛に向き直った。
「凛ちゃん! 今すぐ部室に行くよ!」
「え? うん、朝練あるから、そのつもりだったし……」
「さあ早く行くわよ。モタモタしないで」
「ま、真姫ちゃん? そ、そんな引っ張らなくても自分で歩けるよ〜!」
「みんな! ビッグニュースよ!」
真姫が部室のドアを開け放つと、すでに揃っていた六人は少なからず肩を震わせた。
「な、何ですか。朝から騒々しい」
「朝からハイテンションな真姫ちゃんも珍しいなぁ」
「何々? どうしたの?」
真姫の勢いに当てられたのか、六人は注目する。
「さあ凛!」
「ほら、凛ちゃん」
「そ、そんな押さなくてもいいってば!」
普段二人を引っ張っている新リーダーが控えめな事に、みな疑問を感じる。
だがそれも、
『わあ……!』
凛の姿を見て解消された。
「どうしたのよその髪の毛……」
「ウィッグ……やない?」
「あ、違うのよ。実は……」
今度は真姫が、夢云々の説明をする。
にわかには信じがたい説明に無理矢理納得する中、
「凛ちゃん……。か、可愛い〜……っ」
その辺どうでもよさそうな衣装担当が一人。
「ちょっと、ハネてるね。ことりが直してあげる♪」
「え……いいの?」
「もちろん♪」
やっぱりことりちゃんは優しいなぁ。
「ワン、ツー、スリー、フォー!」
髪が伸びても、凛はいつでも絶好調!
……って、思ってたんだけど……。
「はい、ストップ。……凛、ちょっと遅れてるわね」
「ええぇ〜⁉︎ 絵里ちゃん、凛、遅れてたの⁉︎」
そんなぁ! どこか調子悪いのかなぁ……。
「何かを気にしてるような……。ひょっとして、その髪の毛じゃないかしら」
「え?」
ことりに梳かしてもらい、今はサラサラと流れる凛の髪。
「いつもは無い髪の毛が、少し邪魔なんじゃないかしら?」
「んー確かに、そのままにするのはちょっと鬱陶しいのかもなあ」
「でもどうすれば……」
やっぱり凛には、長い髪は合わないのかな……。
「大丈夫よ。私達に任せて」
「ウチらが凛ちゃんを、コーディネートしてあげるんよ」
「え、面白そう! 穂乃果もやる!」
「遊びじゃないですよ! それに練習はどうするんです!」
「ぶー! 海未ちゃんは凛ちゃんのコーディネートに興味ないんだ」
「そ、そんな事は……い、言ってません!」
「じゃあ満場一致ね。今日は朝練を切り上げて、HRまでに凛の髪をコーディネートするわよ!」
『おー!』
「え、えっと……。そこまでしてもらわなくても、いいのににゃって……」
凛の控えめな遠慮は、誰の耳にも入らない。
「やっぱり、穂乃果と同じ髪型がいいよ!」
どこからか予備のリボンを取り出した穂乃果がそう息巻く。
「いいえ。ここは私と同じようにポニーテールにすべきよ! ここまで長いと、邪魔になるでしょう」
同じくシュシュを取り出した絵里が、それに張り合う。
「正統派アイドルなら、にこにーみたいなツインテールに決まってるでしょ!」
「凛ちゃん、ことりと同じように結ってあげよっか?」
こちらも負けずと、櫛とヘアゴムを手ににじり寄る。
「凛ちゃん、どんな風に可愛くなるのかなぁ……」
「……別に凛の髪型なんて、何だっていいでしょ」
ウットリ親友を見つめる花陽と、そう言いつつチラチラと視線を送る真姫。
「……希は何をしてるんです」
「ウチは撮影係や。こんなチャンス、二度と無いかもしれんやん」
「希は自分の髪型を布教しなくていいんですか?」
「ライバルが減った頃に、じっくりやるからええんや♪ それより、海未ちゃんはええの?」
「私はストレートですし」
「とか言って、弓道の時の髪型はどうとか思っとるんやないの〜?」
「なっ……! どうしてそれを⁉︎」
ワイワイガヤガヤと。自分の髪型を巡って論争を始めるメンバー達。
「…………」
それを眺めながら、凛はにんまり笑っていた。
「えへへ……。やっぱり誕生日っていいにゃ♪」
だって、こんな凛でも主役になれるんだもん!
みんな大好き! ありがとにゃ!
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