2017-04-15 09:14:55 更新

概要

千歌ちゃんが、イケメンになるべく奮闘するお話。


高海千歌は、自室で読書をしていた。

と言っても、その手に持っているのは少女漫画。目をキラキラさせ、一心不乱にページを繰っていた。

「ふわぁ〜……! これカッコいい!」

全十巻のそれを読破した千歌は、登場したキャラクターに憧れた。

「私も、あんなセリフ言ってみたいなぁ……。壁ドンして、『俺のものになれよ」とか! くぅ〜っ……カッコいい!」

ヒロインではなく、男主人公に。

「そうだ! Aqoursのみんなに試してみよう! だって私、リーダーだもんね! そろそろ私にも、威厳が欲しいもん!」

それでいいのかという動機はさて置き、千歌は拳を握って決意する。

「そうと決まれば早速……」

千歌がアホ毛を揺らす事、十数秒。

「おはヨーソロー!」

曜が襖を開けて、敬礼。

「千歌ちゃん、学校の準備はでき……」

「曜ちゃん」

曜の声を遮って、千歌はその敬礼する手を握った。

「え、ち、千歌ちゃん?」

そして顔を近付け、細めた目で一言。

「“今日の君は、いつもより綺麗だね”」

「え、えっ……えぇ⁉︎ い、いきなりどうしちゃったの……?」

急激に鼓動が早まる曜。その場で立ち尽くしてしまう。

そのまま五秒ほど経過し、

「よーし学校行こう!」

千歌は元気に部屋を出た。

「曜ちゃ〜ん! 早く行かないと遅刻しちゃうよ〜!」

「…………」

千歌の自室でへたり込む曜は、口から魂が抜けかけていた。



千歌がバス停に向かうと、

「あ、千歌ちゃん……と、曜ちゃん?」

そこで待っていた梨子が、足元が覚束ない曜を見て振る手を中途半端に止めた。

「どうしたの?」

「千歌ちゃんが……」

「千歌ちゃんが?」

火照る頬を押さえる曜に、梨子は疑問の表情を強める。

「梨子ちゃん!」

突然名前を呼ばれ、梨子は振り向く。ついでに疑問を解消しようとして、

「あ、千歌ちゃん。曜ちゃんの様子が変なんだけど、何か知らな……」

「壁クイ、して欲しかったんでしょう?」

バスの看板を背に、唐突の壁クイを食らった。

童顔で、無理矢理に妖艶な表情を浮かべる千歌。自分より高身長な梨子に、背伸びをして顔を近付ける様子は傍目には滑稽だったが、

「えええええええ?」

本人にはそんな余裕はないようで、看板を盛大に傾けていた。

「…………」

本来仲裁に入るべき人物も、冷め切らない頬の放熱に忙しい。

「ねえ……梨子ちゃん?」

「いいいいやそんな、私達まだ学生だし、スクールアイドルだし、まだ早いっていうか……」

看板の傾きが限界を迎える瞬間、

「あ、バス来た!」

急に素に戻った千歌が、梨子から離れた。

「な、何なのぉ……?」

ズリズリとへたり込んだ梨子は、

「どーしたのー? バス行っちゃうよー?」

の声で慌てて立ち上がった。



「……何なのよ、アレ」

バスの最後部座席で千歌の奇行を見ていた善子は、呆れた目で乗り込んできた三人を一瞥した。

「善子ちゃん、おはよー!」

「何度も言ってるでしょ、私はヨハネよ」

バスに乗るなり手を振った千歌に向かって、善子はいつもの挨拶を飛ばす。その返答は、

「へえ……でも堕天するのは、どっちかな?」

顎クイだった。

「へ? ち、ちょっと⁉︎」

「善子ちゃんは、堕天使なんだよねぇ? じゃあ、私が堕天を手伝ってあげるよ。いいでしょ?」

「いいいいいや私は、そこらの堕天使と違うのよ! ただの人間風情に、このヨハネが堕ちるワケないでしょ⁉︎」

口調はほぼ、自問自答である。

「ふーん……」

さらに少し、千歌は顔を寄せる。

「あわわわわわわ……」

善子はもはや身動きすら取れずに、千歌にいいようにされる。その暴走を止めてくれそうな二人は、

「…………」

「…………」

熱が抜けきらないまま放心していた。

「ーーそっか!」

「…………へ?」

目をも閉じた善子とは反対に、千歌は急に明るく発言すると座席に座り直した。

「やっぱりダメかー。堕天使には勝てないや!」

勝手に結論付ける千歌に、

「……どういう事よ」

善子はその横に座る二人に疑問を放る。

「さあ……」

「さあ……」

「……そうよね」



学校に到着し、部室に集まるメンバー。そこには、残りの一年生二人の姿が。

「ルビィ! ずら丸!」

「あ、善子ちゃん。おはよう」

「どうしたずらか? そんな慌てて」

部室に飛び込んできた善子に、ルビィと花丸は首を傾げる。

「早く逃げなさい!」

「「逃げる?」」

揃って首を傾げる同級生に、善子は畏怖の感情をそのまま伝える。

「今日のリトルデーモン一号は、別次元なのよ!」

「善子ちゃん……今から練習なのに、マル達を巻き込まないで欲しいずら」

「違うわよ! 話を聞きなさい!」

花丸にジト目で返された善子は、虚しく吠えた。

「よーしこちゃん」

「ヒィッ!」

背後から聞こえた声に、善子はダッシュでルビィと花丸の後ろに逃げる。

「ヨハネに挑戦したくば、先にこのリトルデーモンを倒してみせなさい!」

そして、二人の背中を押し出した。身代わりとして。

「あ、千歌さん」

「おはようずら」

ペコリと頭を下げた二人へ、千歌はニコニコ歩み寄る。そして肩に手を置くと、抱き締めるように引き寄せた。

「ピギッ⁉︎」

「ななな何ずらか⁉︎」

そして背筋を伸ばした二人へ、

「……私のモノになりなよ」

キザっぽく囁きかけた。

「「はわわわわ⁉︎」」

突然の事に目を白黒させていると、

「ねえ……私リーダーだよ? 私に全てを委ねて、みない?」

さらなる追撃。

「だ、駄目ずら……。マル達、まだそういうのは早いずら……」

「でも……何だか、これも悪くないかも……」

「ルビィちゃん、しっかりするずら……」

ルビィを叱咤する花丸だが、本人も骨抜きの様子で説得力が無い。

ルビィも花丸も、立っているのも限界、というタイミングになった時、

「ブッブーですわ!」

講堂の方から、鋭い声が飛んだ。

「あ、ダイヤさん」

こちら目掛けて歩み寄る生徒会長を視認した千歌は、ようやく二人を解放する。

「ピギ……」「ずら……」

そんな二人は、へたり込む。

「あなた……スクールアイドルという身でありながら、なんと淫らな行為を……! 私のルビィにまで手をかけるなんて……!」

目尻を釣り上げて千歌に詰め寄ったダイヤは、

「そんな事言って……実はダイヤさんも、羨ましかったんじゃないですか?」

据わった目で、逆に顔を寄せられた。

「な、何を言ってますの⁉︎ 私がそんな……」

思わず身体を反らせ、たじろぐダイヤ。千歌の追撃は止まない。

「あれぇ……? 否定しないんですか?」

「そ、それはその……」

目が泳ぐダイヤ。そのままブリッジができそうなほど身体が反った頃、ポンと千歌の肩に手が置かれた。

「Hey千歌っち〜、その辺にしてあげて?」

振り向くと、鞠莉がニヨニヨと見ていた。

「ダイヤってば実は硬度ゼロのおバカさんだから、そういうの弱いんだよ〜」

やれやれと肩をすくめる鞠莉にダイヤが反論するより早く、

「嫉妬ですか……?」

今度は鞠莉に詰め寄る千歌。

「What⁉︎ 千歌っち何を言ってるデェスカ⁉︎」

「あれれ〜? 焦ってます?」

悪戯っぽく目を細めた千歌は、

「大丈夫ですよ〜。ちゃんと鞠莉さんも一緒に……ですから」

「Oh⁉︎ 千歌っち、まさか本気なの……?」

思わず鞠莉が、一歩たじろぐ。

「ふっふっふ……どうでしょう?」

さらに千歌が一歩詰め寄った時、

「おはよう皆! 遅れてごめ……って、何この状況?」

部室に飛び込んできた果南が、放心するメンバーを見て怪訝な顔ををする。

「あ、果南ちゃん」

「逃げて果南!」

「は、はい?」

突如叫んだ鞠莉に、当然果南は首を傾げる。

スタスタと果南に歩み寄る千歌。

「もうこの千歌っちは……果南の知る千歌っちじゃないのよ!」

「鞠莉、何言って……」

「かーなんちゃん」

千歌が笑って、果南を見上げる。そして七人を墜としてきたように、セリフを放つ為に息を吸い込む。

「んー……ハグッ」

「ふえ?」

その前に、果南にハグされた。

「どうせまたマンガか何かに影響されたんでしょ? すぐにのめり込んじゃうんだから……」

ポンポンと、千歌の頭を叩く。

「う〜……果南ちゃぁん!」

「千歌は昔から全然変わってないね〜。よしよし」

「う〜〜〜〜……!」

バタバタ暴れながらも、千歌は果南の抱擁を解く事はしなかった。





こうして、高海千歌のイケメン騒動は、幕を閉じた。







後日、

「今度はワルになってみよう!」

「悪い事する千歌は、嫌いになっちゃうかもなー」

「ワルはやめた!」


このSSへの評価

3件評価されています


SS好きの名無しさんから
2018-03-23 02:51:03

SS好きの名無しさんから
2017-05-13 21:59:05

ばーむくーへんさんから
2017-04-15 09:37:25

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ばーむくーへんさんから
2017-04-15 09:37:32

このSSへのコメント

2件コメントされています

1: ばーむくーへん 2017-04-15 09:38:52 ID: 0E2oEjrA

すべてを包み込む果南ちゃんの包容力…
やっぱり果南ちゃんは強かった

2: シュウヤ 2017-04-15 19:36:18 ID: zUvXcUyx

個人的に、果南ちゃんのハグは最強なのです……


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