μ'sic Christmas!
クリスマスと言えばサンタさん。サンタさんと言えば……?
かなりコメディ寄りの暴走気味です
十二月二十四日、クリスマスイブ。
音ノ木坂学園は今日が終業式。明日にメンバーでクリスマスパーティをやるという事で、今日の練習は休み。
一度部室に集まり、明日の段取りを決める。
「集合時間は午後二時。それから飾り付け班、料理班に分かれて準備よ」
絵里が大まかな流れをホワイトボードに記入する。
「それから、プレゼント交換をするから各自プレゼントを用意しておく事。あまり高価なモノはダメよ? __特ににこ」
「何で私なのよ!」
にこが音を立てて立ち上がると、
「にこの事だし、余計な見栄張って背伸びしそうだもの」
「今の内に釘を刺しておかんとな〜」
元生徒会コンビに言われ、
「ぐぬぬ……」
実際図星だったにこは押し黙るしかない。
「というか、プレゼントの金額だったらもっと気をつけるべき人がいるでしょ」
にこは反撃、とばかりに隣に座る一年生を指差す。
「?」
完全にとばっちりを受けた真姫は、キョトンとした顔を向ける。
「まあ真姫は良識あるからね……。にこほど心配はしてないわ」
「どんだけ信頼ないのよ私は!」
にこのツッコミは、
「プレゼントって……どうして私が買わなくちゃならないのよ」
真姫のセリフで流された。
「ええ〜? だって真姫ちゃん、プレゼント交換したくないの?」
正面に座る穂乃果が、駄々をこねるようにテーブルを叩く。
「うるさいので大人しくしていて下さい!」
そして海未に叱られる。
「もちろんしたいわよ。でも、プレゼントを自分で用意するわけないじゃない」
真姫は髪の毛をクルクルいじりながら、どこかドヤ顔で続けた。
この時メンバーは、“ああ、両親に頼むのかな”とか“そう言いつつ悩んで買っちゃうんだにゃ”とか“素直じゃないわねぇ〜”とか思っていたのだが、紡がれたセリフはその斜め上を行った。
「だって、プレゼントはサンタさんが届けてくれるのよ!」
キラッキラした笑顔で放たれたそれは、ブリザードとなってメンバーを凍りつかせた。
多くのメンバーは「え、あー……ソウダッタネー」と半ば無意識に話を合わせたが、彼女だけはいつもの癖でつい反射的に噛み付いてしまった。
「ぷぷっ、真姫ちゃ〜ん? サンタさんは実はひいぃぃぃぃぃっ⁉︎」
「にこっち〜? 何を言おうとしたんかな〜?」
そして希に阻止された。__わしわしで。
「……何よにこちゃん。まさか……!」
目を見開いた真姫に、誰もがショックを受ける姿を覚悟した。
「__サンタさんでも風邪ひいちゃったりするのかしら⁉︎」
『『『…………』』』
素晴らしい変化球に、全員再度固まる。
「ああどうしよう……! 医学部志望として、何かできる事は無いのかしら……。やっぱりクリスマスは冬で寒いから、体調管理は大切よね……。手紙に書いて、すぐ届くかしら……」
一人暴走する真姫を見て絵里は、
「……オーストラリアのクリスマスは、夏よ」
「絵里ち、そういう問題じゃないと思うで」
「ああサンタさん……真姫は今年もいい子にしていたと思います……。なので、風邪に気を付けてプレゼントを届けて下さい!」
何やらお祈りまで始めた真姫を尻目に、
「……ちょっと集合」
残り八人は顔を寄せる。
「……さてどうしましょうか」
「にこっち、いつもみたいにダル絡みで何とかならへん?」
「ダル絡みって何よ!」
「真姫のサンタの話は、合宿で知ってはいましたが……」
「実際にクリスマスが来ると、やっぱり本気なんだって思っちゃうよね……」
「あの真姫ちゃん、見ていて面白いにゃ」
「でもこのままじゃ、真姫ちゃん本当にプレゼント買ってこないかも……」
「ええ⁉︎ プレゼント交換できないよ⁉︎」
とにかく、と絵里がそれぞれの顔を見渡す。
「ひとまず真姫を説得してみましょう。もちろん、サンタ云々の話は隠して」
みんなも神妙な面持ちで頷く。内容が内容なので、シュールこの上ない。
「みんな、集まって何を話してるのよ。__もしかしてプレゼントの相談?」
お祈りが終わったらしい真姫が、怪訝な顔で近づく。
「え⁉︎ あ、まあそうね。そんな所よ。__ねえ真姫」
「何?」
「真姫はサンタさん、見た事あるの?」
「サンタさんは寝てるいい子の所にだけくるのよ⁉︎ 見られる訳ないじゃない!」
クワッ、と放たれた言葉に、
「ご、ごめんなさい!」
絵里、返り討ち。
「ダメだったわ……」
「諦めるの早すぎでしょ。情けないわね……」
にこがため息をつくと、
「じゃあにこちゃんやってみてよ!」
後輩が挑発。
「ふふん、私にかかれば、こんなの朝飯前よ。ちょっと現実を教えてあげれば__」
「にこっち、真姫ちゃんの夢壊したらスーパーわしわしマックスやで?」
「…………」
にこ、退散。
「話せてすらいないにゃ」
「そこうっさいわよ! じゃあ凛やってきなさいよ!」
「凛、頭よくないからできないもーん」
絶妙な回避をされ、にこは歯嚙み。
「__分かった!」
唐突に、現リーダーが叫んだ。
「穂乃果?」
「真姫ちゃん、穂乃果達がサンタさん呼んであげるよ!」
「ホントに⁉︎」
メンバーの誰もが初めて見るほどの輝いた表情に、真実を知る誰もが少しだけ心を傷める。
「任せて!」
そんな中、穂乃果はドンと胸を叩いた。
真姫と別れた後、穂むらに八人が集合。
「__で、どうするのよ」
何となく察してはいるにこだが、一応リーダーに訊いてみる。
「穂乃果達がサンタさんになる!」
「言うと思ったわ……」
「__というわけでことりちゃん、サンタの衣装とか無い?」
ノータイムでことりを頼った穂乃果に、にこがツッコミを入れそうになった時、
「あるよ」
「あるんかい!」
ツッコミ、変化。
「__ほら!」
そして何故か、部屋の押し入れからミニスカサンタ服を取り出すことり。
「な、何で穂乃果の部屋にあるの⁉︎」
「えへへ〜。秘密♪」
こう言われてしまえばことりは頑ななので、言及は諦める。
「ことり、衣装は一着だけ?」
「うん。これも試作品だから……」
そこで誰が着るのか、という空気が流れ、
「うーんやっぱり、発案者の穂乃果ちゃんじゃないかなぁ?」
花陽の言葉に、
「ま、言い出しっぺが妥当よね」
「何かアイデアありそうやしな〜」
各々賛成する。
「うん分かった! じゃあ穂乃果がサンタさんになる!」
穂乃果は勢いよく立ち上がり、しかしその横でことりが、
「あ、でもサイズは海未ちゃんに合わせてあるから、手直ししないとかな」
そう呟いた。
「……ことり、今何と言いました?」
「え? __あっ」
ゆらりと自分を見た幼なじみに、ことりは自分の失言に気付く。
「…………ナンデモナイヨ?」
「ことり……! 後で覚えておきなさい……!」
「__じゃーん!」
サンタ服に着替えた穂乃果は、その姿をみんなにお披露目。
「穂乃果ちゃん、可愛い……♪」
うっとりすることりに、
「私も、あの服を着させられる所だったのですね……」
海未は軽く戦慄する。
「いいなぁ〜……。凛も着たかった〜!」
「今度、凛ちゃんの衣装も作ってあげるね♪ __そうだ。いっその事次の衣装はこんな感じのサンタ服で__」
「お願いだからそれはやめて」
「やめて下さいことり」
暴走しかけたことりを、絵里と海未が全力で止める。
「え〜? うちは見てみたいな〜。絵里ちのセクシーサンタ服」
「希もからかうのはやめて……」
何もしていないのにぐったりした絵里を無視して、
「__じゃあ今から真姫ちゃんの家行ってくるね!」
穂乃果は部屋を飛び出した。
「今から行くんですか⁉︎」
「というか、その格好で外に出ちゃうの⁉︎」
驚く海未と花陽。
「真姫ちゃんの反応が楽しみだにゃ!」
「これはシャッターチャンスの予感や!」
「今後のからかうネタになりそうだわ……。ぷくく」
楽しそうな凛と希とにこ。
「絵里ちゃぁ〜ん、ミニスカとノースリーブ、どっちがいい〜?」
「待ちなさいことり。私はそんな衣装許可した覚えは……。そもそもどうしてその二択なの⁉︎」
何だかもう関係ないことりと絵里。
何だかんだで気になった七人が穂乃果を追いかけて西木野宅へ向かうと、
「__どうしてせっかく煙突掃除したのに玄関から来ちゃうのよサンタさんのバカァ!」
「ご、ごめん真姫ちゃん!」
「しかも一年間いい子にして楽しみにしてたのに、プレゼント忘れるってサンタさん何しに来たのよぉぉぉぉぉぉぉ…………」
「ホントごめん!」
大泣きする真姫と、その前で平謝りするほのサンタ。
『『『…………』』』
色々と予想外すぎる光景に、七人は言葉を失った。
「__出直してきなさい!」
「ごめんなさ〜い!」
ピュアな高校生に追い返されるサンタ。
「……何コレ」
誰ともなく呟いた言葉通り、タダでは転ばない、μ'sのクリスマスであった。
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