2017-06-08 23:55:59 更新

概要

希ハッピーバースデー!


「え、希って明日が誕生日なの?」

「そうなのよ」

「言ってくれれば……」

「そうなのよねぇ。希ってば、そういうの全然言ってくれないから……」

「でもとにかく、教えてくれてありがと」

「どういたしまして。どんなお祝いするのか、楽しみね」

「からかわないでよ」





翌日。

学校に向かっていた希は、

「あれ?」

普段は見かけない者を見かけた。

「真姫ちゃんやん。どうしたんこんな所で」

「あ、えっと……」

真姫は開きかけた口を、再び閉じてしまう、

「お家こっちじゃなかったやん?」

「…………」

「あ、もしかして凛ちゃんと花陽ちゃんと待ち合わせ? でも、今までここで見た事ないしなぁ」

「だからその……」

「こーんな地元で、迷っちゃったん〜?」

「…………あ〜もうっ! 鋭いのか鈍いのかハッキリしなさいよ!」

「ま、真姫ちゃん……?」

突然声を張った真姫に、希は戸惑ったような笑顔を浮かべる。

真姫は鞄から何か紙包みを取り出すと、

「はいコレ!」

半ば押し当てるようにそれを手渡した。

「えっと……?」

「プレゼントよ! あなた、今日誕生日なんでしょ?」

「ああ、そういう……って、どうして真姫ちゃんがウチの誕生日知ってるん?」

「絵里から聞いたの。そして、希がそれを全然教えようとしない事も」

「絵里ち……」

希の脳裏に、金髪のポニーテールが浮かぶ。

「わ、渡すもの渡したし、私はこれで行くわね!」

「おっと、ちょい待ち」

歩き出そうとした真姫の手を、希は掴む。

「……何よ」

「せっかくやし、一緒に行こ? 同じ所に行くんやし」

「まあ……そうね」

「わーい、真姫ちゃんと登校デートや〜」

「バカな事言わないで!」



真姫と希は並んで歩きながら、

「……ねえ、一つ訊いていい?」

「んー?」

「どうして、誕生日を教えないの?」

「んー、どうしてかって言われると、答えにくいなぁ。祝って欲しくない訳じゃないんよ? でもほら、ウチ転校が多かったし、昔から友達と呼べる友達が全然いなかったんよ」

希は空を見上げながら、独り言のように話す。

「誕生日を教えて、そんなに仲良くないのにお祝いされてもお互い気まずいやん? だからいつの間にか、話さなくなっちゃったんよ。その癖が残ってるん」

「…………」

自分も同じだ。隣を歩く先輩に、真姫は自分と似た影を感じた。

仲良くなれなくて、距離をとって、それでいいと思っていた。誕生日なんて、大した事ない普通の日だ、と。早い誕生日を言い訳にして、自分の気持ちを押し隠していた。

「……今も」

「ん?」

「今も、そう思ってるの?」

真姫は歩みを止めた。数歩先を歩いた希は、立ち止まって振り返る。

「私達は、誕生日を知っても祝わないって。そう思ってるの?」

「ちょ、そんな事言ってへんやん。ウチはただ、ちょっと昔話を……」

「昔の話なんてどうでもいいわよ!」

思わず叫んでしまった。そうしないといけない気がした。でないと、目の前の人は本音を隠してしまいそうだったから。

「私はμ'sに入って、今まで知らなかった事を沢山知ったわ。こんな私でも、居場所があるんだって。そう思えた」

「真姫ちゃん……」

「μ'sはそういう場所。それは希、あなたも同じ」

真姫は歩み寄る。正面から見据えて、瞳の奥を覗き込む。

「本音を隠して逃げようだなんて、私が許さないわ」

一切の揺るぎなく、真姫は希を見据え続ける。希もまた、それを受け止め続ける。

「…………はー」

不意に、希が目を閉じて息を吐いた。

「あんなに不器用で頑固だった真姫ちゃんが、こんなになるなんてなぁ」

「な、何よ」

「どこぞのリーダーの影響力は、凄まじいなぁ……」

やれやれとかぶりを振る希。その様子に、真姫はその態度に戸惑い、耐え切れずさらに一歩近付く。

「あの……」

その瞬間、希の目が怪しく光る。

「わしっ」

「キャアァァァァッ⁉︎」

唐突に胸部を掴まれ、真姫は悲鳴を上げる。

「うーむ、あの頃から特に発達はしてへんなあ」

「な、何すんのよ!」

「ウチなりのお礼の仕方やん。嬉しかったやろ?」

「嬉しくないわよ!」

うずくまって睨みつけてくる真姫に、希はニッコリと笑顔を向ける。

「ありがとな、真姫ちゃん。ウチだって、迷ってたんよ。まだ、μ'sに入ったばかりやしね」

「…………」

若干憮然とした表情の残しつつ、真姫は立ち上がる。そして、

「ほら、行くわよ」

希の手を取った。

「え、いや、自分で歩けるよ?」

「いいから」

真姫は顔だけ向けて、強気な笑顔を見せる。

「μ'sに入った以上、どうなるのか教えてあげるわ」

希を引っ張ったまま、音ノ木坂学院へ到着する二人。そこで、

「のっぞみちゃ〜ん! お誕生日おっめでと〜!」

七人が出迎えた。

「え、え、みんなどうしたん?」

「真姫ちゃんが教えてくれたんだ〜!」

希が横を見ると、

「……言ったでしょ。μ'sにいるとどうなるか、って」

ちょっとだけ赤く染まりそっぽ向く顔があった。

「やーん真姫ちゃん可愛い〜」

「からかわないでよっ」

思い出したように、希は右手に握られていた存在を見やる。

「プレゼント、開けてええ?」

「……ご自由に」

「え、真姫ちゃんプレゼント用意してたの⁉︎ 穂乃果何にも準備してないのに〜!」

「昨日の今日で、やるじゃない、真姫」

「〜〜〜〜〜〜っ」

トマトのように染まっていく真姫の顔。

それをニヤニヤしながら包みを開けた希は、

「これ……」

中身を見て、表情が変わった。

希の両手に握られていたのは、

「交換日記……?」

「そ。みんなが希と、希がみんなと話せるようにって」

「…………」

「な、何か言いなさいよ!」

固まってしまった希と、メンバーからの生温かい視線に耐え切れなくなり、真姫は声を上げた。

「……やー。嬉しくて。嬉しくてビックリしてもうたん。こういうプレゼント貰えるなんて、思ってもなかったから……」

希は交換日記を胸に抱くと、

「ありがとう、真姫ちゃん。大切にするね」

柔らかく微笑んだ。

「…………!」

唐突な標準語に真姫が不意打ちを食らっている間に、

「みんな〜、沢山書いてな〜!」

『わー!』

希はいつもの調子に戻る。

その切り替わりの早さで言葉に困った真姫は、

「……面倒な人」

苦笑して呟いた。





近くて遠い、似ていて違う、そんな不思議な、お姉さん。今日はその、誕生日。


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