高坂穂乃果生誕祭2015
穂乃果ハピバ!
pixivに上げたものをこちらにも。 何故か直せない文字化けがあります。ごめんなさい
八月三日。
今日もμ'sの練習は大忙し。夏休み明けの九月に予定しているライブに向けて、発生練習。振り付け練習。そして歌の練習。予定では午後の四時頃に終わり。
最近は雨も降らず、気温は三十五度越えの連日猛暑日。今日も暑くなりそうです。
そんな状況が続けば、おのずと不満を持つ人が出て来ます。そう、例えば__
「……ぅ暑い! 暑すぎるよ! 穂乃果たちを殺す気だ!」
はいこの人。μ'sのリーダーでもある高坂穂乃果です。自他共に認める存在ではあるのに、一度は首を捻りたくなる事実です。
時間は朝の九時半。一通り発生練習が終わって、軽い給水タイム。それでも、メンバーの頬には汗が伝います。穂乃果が叫んだのは、そんな時でした。
「暑いよ!」
休憩中に叫べば、それは当然視線が集まります。
「……暑い!」
繰り返し。他の言葉を忘れてしまったのではないかと思ってしまいます。
「……それは分かったわよ」
いつもの事だと言えばいつもの事ですが、我慢できなかった真姫が応えます。放っておいて静かになるリーダーなら、そもそも真姫はここにいません。
「真姫ちゃんは暑くないの?」
「暑いけど……叫ぶほどじゃないでしょ」
「えーっ⁉︎」
「うーんじゃあ、穂乃果ちゃんはどうしたいん?」
ここで本音を聞き出すのは希。だてに面倒な生徒会長を補佐してきていません。
「プール!」
これまた即答。小学生の質問返答並みに早かったです。
「プールだよ! 夏と言ったらプールか海だよね!」
「私に夏というイメージはあまり無いと思いますが……」
これまたお約束の天然ボケ。「いや、アンタじゃないでしょ」というにこのツッコミに海未は軽く驚きます。
「おおぅ! プール! 行きたいにゃー!」
賛同するのは一年生の凛。メンバーとしては見慣れた光景。
「だよねだよね! 暑い日にはプールで決まりだよね!」
やれやれとため息をつくのは絵里。あはは……と笑うのはことり。二人は分かっています。自分たちでは、暴走した幼なじみや後輩を止められない事を。
「穂乃果、こんな事もあろうかと水着を買っておいたのだ!」
「えー! いいにゃあ〜。凛も可愛い水着欲しいなぁ〜。かよちんと一緒に!」
「わ、私⁉︎」
何だか行く雰囲気を作り出している二人ですが、別に決定事項ではありません。この後には、練習メニューが控えています。
そして何より、そんな暴挙を一喝できる存在がμ'sにはいます。
「……ふぅ」
何気なく吐き出された息。盛り上がっていた二人は、ビクリと肩を震わせます。
恐る恐る振り向くと、若干俯いて目を閉じた海未の姿が。
「う、海未……ちゃん?」
「お、怒ってる……にゃ?」
先ほどのテンションはどこへやら。まるでイタズラが見つかったペットのようです。
他のメンバーはとばっちりが怖いので、我関せず。
「…………」
海未は何も言いません。
「ほ、ほら、暑いとやる気も出ないし!」
「…………」
「熱中症だって怖いでしょ?」
「…………」
「気分転換にもなるかなー、って……」
「…………」
どんどん語尾が弱くなる穂乃果。海未の俯く角度が少し深くなった気がします。はしゃいでいた凛含め、他のメンバーは察しました。ああ、これは雷落ちるヤツだ、と。
「海未……ちゃん……?」
いよいよ角度が深くなった所で、海未が口を開きます。
「__……はぁ」
出てきたのは、叱咤や怒鳴り声ではなく、全てを吐き出したようなため息でした。
「……?」
穂乃果も、不思議に思って幼なじみを見ます。実際は喜ばしい事なのですが。
「……そうですね。あまり毎日炎天下で練習すると、パフォーマンスにも影響しそうですし、息抜きも悪くないかもしれません」
「うぇえ⁉︎」
「何を驚いているのです? あなたが言い出したのでしょう、穂乃果」
「う、うん。そうだけど……」
素直すぎて逆に怖いです。しかし海未に限ってそれは無い、というより機嫌を損ねたくないと考えた穂乃果は、とりあえず頷いておきました。
「ありがとう! 海未ちゃん大好き!」
海未の方も、苦笑で返します。
「今日だけですよ」
「__プールだ! プールだ! プールだーっ!」
「そんなに叫ばないで下さい。他のお客さんもいるのですから」
「でも穂乃果ちゃんの気持ちも分かるなぁ〜。暑い日は、プールに行きたくなっちゃうよね♪」
あれから練習を切り上げた穂乃果たちは、一度帰宅して荷物を用意すると、
「せっかくの息抜きなんだから、全力で楽しまないとね」
という絵里の言葉もあり、電車を乗り継いで海沿いの大型プールへ来ていました。
気温は相変わらず上昇中。セミの大合唱も凄まじいです。
そんな状況で、目の前に涼しげな水が湛えられています。
「一番乗りー!」
「あ、ずるい凛が最初!」
我慢できるはずがありません。早速駆け出す二人。しかし、
「プールサイドを走ってはいけません! それに、準備運動がまだです!」
μ'sの保護者に首根っこを掴まれました。
「「…………」」
勢いを削がれた恨みをジト目で伝えてみますが、
「何か?」
正論なので言い返せません。大人しく海未の音頭で準備運動。それが終わったら、
「いやっほー!」
飛び込みます。
「飛び込みは禁止です!」
怒られました。近くにいた監視員さん、
「あの子たちは、危なっかしいけど注意しなくても平気かなー」
と呟いたとか呟いていないとか。
さて穂乃果たちは、ウォータースライダーの真下に来ていました。
浮き輪を使うものらしく長さも結構あり、階段もそれなりに登ります。
「かよちん行こ!」
「凛ちゃん引っ張らないでぇ〜!」
一年生二人は、早速駆け上がって行きました。
「大きな滑り台でしょ? そのためにわざわざ暑い思いして階段登るなんて、意味分かんない。涼みに来たんだから」
「真姫ちゃ〜ん? もしかして高い所が怖いのぉ〜? それとも、大人な真姫ちゃんは、滑り台なんてできないのかなぁ〜?」
「そ、そんな事言ってないでしょ! ただ私、こういうプールに来た事ないから……。何が楽しいとか分かんないし」
「仕方ないわねぇ。このにこにー直々に、ウォータースライダーの楽しみ方を教えてあげるわ! プールとアイドルは、切っても切れない関係なんだから!」
「何それ、意味分かんない」
いつも通りのやり取りを一通り繰り広げ、にこと真姫は階段を登っていきます。
「絵里ち、顔が不安げやなぁ。どうかしたん?」
「……実は私も、こういうプール施設に来た事なくて……」
「あー確かに、絵里ちはプライベートでも来そうにないなぁ」
「これはどういうものなの? ジェットコースターみたいな感じかしら……」
「んー。間違ってはないかなぁ。__でも、それを生身で滑るんや。……過酷やでぇ?」
「そ、そうなの? 皆凄いわね……。私には難しそうだわ。見学していようかしら」
「わーウソウソ! 冗談やから本気にせんでええよ。何も怖くない楽しいヤツや!」
「そうなの? もう……希ったら……」
「百聞は一見にしかずや。一緒に行こ」
「ええ」
希と絵里は、二人だけの絆らしきものを見せつけて登っていきました。
残るはこの三人。
「二人乗りと一人乗りがあるんだね……」
「三人乗りは無いのかぁ」
「穂乃果はどちらと乗りたいですか?」
「えぇ⁉︎ そう言われても困っちゃうよ……。海未ちゃん? ことりちゃん? __うああ無理! 穂乃果には選べないよ!」
頭を抱えてしまう穂乃果。
「穂乃果ちゃんらしいと言えば、」
「穂乃果らしいですが……」
二人は苦笑しながらそのつむじを見下ろします。
「__そうだ!」
そして穂乃果は、顔を輝かせて立ち上がります。スクールアイドルを閃いた時と似ています。
「私が一人で乗ればいいんじゃん! そうすれば万事解決!」
「駄目です」
「えっ⁉︎」
即答でした。もしかしたら、スクールアイドルの時より早かったかもしれません。
「海未ちゃん……?」
穂乃果はポカンとして海未を見ます。隣のことりは、のほほんと微笑むだけ。
「あなたを一人にはさせません。あなたはリーダーなのですよ?」
「う、うん……」
そんな重い話かなぁ、と思いつつ、穂乃果は頷きます。
「でもそうすると、海未ちゃんかことりちゃんが一人になっちゃうけど……」
「私が待ちます」
凛々しく、海未が言い放ちました。
「穂乃果とことりで、先に行ってきて下さい。私はここで待っていますから」
「海未ちゃん……」
穂乃果はしばらくそうやって、海未を見ていました。
「穂乃果ちゃん」
ことりがいつものように微笑むと、
「……うん。待っててね海未ちゃん! 行こうことりちゃん!」
「わわっ、速すぎるよ穂乃果ちゃぁ〜ん!」
穂乃果はことりの手を掴むと、ダッシュで駆け上がって行きました。
その姿を見上げながら、
「まったく……穂乃果は穂乃果なんですから」
優しく微笑みました。
その五分後、
「暑いですね……」
流石の海未も太陽の輝きに顔をしかめた時、
「お待たせ海未ちゃん!」
「穂乃果⁉︎」
穂乃果がやって来ました。少なからずプールに入って涼んだはずなのに、穂乃果は練習後のように汗だくです。
「…………。まったく……。あなたが暑いと言うから、プールに来たのに……。意味ないじゃありませんか」
「え? あはは……。そうかもね。でも、海未ちゃんが待ってるって思ったら、つい急いじゃった」
海未はやれやれと頭を振ります。
「……まあいいです。やはり、穂乃果はいつでも穂乃果でしたね」
「? どういう事?」
「そのままの意味ですよ」
「ええ〜? それじゃ分かんないよ〜!」
後ろで騒ぐ穂乃果の声を聞きながら、海未は誰にも聞こえないように呟きます。
「……今日くらいは、あなたのわがままに振り回されてあげます。あなたにとって特別な日ですからね。__誕生日おめでとうございます、穂乃果」
「ありがとう海未ちゃん! 大好き!」
「聞いていたのですか⁉︎」
ほのことうみのバランスの良さ