2015-10-23 13:12:12 更新

概要

穂乃果ハピバ!
pixivに上げたものをこちらにも。 何故か直せない文字化けがあります。ごめんなさい


八月三日。

今日もμ'sの練習は大忙し。夏休み明けの九月に予定しているライブに向けて、発生練習。振り付け練習。そして歌の練習。予定では午後の四時頃に終わり。

最近は雨も降らず、気温は三十五度越えの連日猛暑日。今日も暑くなりそうです。

そんな状況が続けば、おのずと不満を持つ人が出て来ます。そう、例えば__

「……ぅ暑い! 暑すぎるよ! 穂乃果たちを殺す気だ!」

はいこの人。μ'sのリーダーでもある高坂穂乃果です。自他共に認める存在ではあるのに、一度は首を捻りたくなる事実です。

時間は朝の九時半。一通り発生練習が終わって、軽い給水タイム。それでも、メンバーの頬には汗が伝います。穂乃果が叫んだのは、そんな時でした。

「暑いよ!」

休憩中に叫べば、それは当然視線が集まります。

「……暑い!」

繰り返し。他の言葉を忘れてしまったのではないかと思ってしまいます。

「……それは分かったわよ」

いつもの事だと言えばいつもの事ですが、我慢できなかった真姫が応えます。放っておいて静かになるリーダーなら、そもそも真姫はここにいません。

「真姫ちゃんは暑くないの?」

「暑いけど……叫ぶほどじゃないでしょ」

「えーっ⁉︎」

「うーんじゃあ、穂乃果ちゃんはどうしたいん?」

ここで本音を聞き出すのは希。だてに面倒な生徒会長を補佐してきていません。

「プール!」

これまた即答。小学生の質問返答並みに早かったです。

「プールだよ! 夏と言ったらプールか海だよね!」

「私に夏というイメージはあまり無いと思いますが……」

これまたお約束の天然ボケ。「いや、アンタじゃないでしょ」というにこのツッコミに海未は軽く驚きます。

「おおぅ! プール! 行きたいにゃー!」

賛同するのは一年生の凛。メンバーとしては見慣れた光景。

「だよねだよね! 暑い日にはプールで決まりだよね!」

やれやれとため息をつくのは絵里。あはは……と笑うのはことり。二人は分かっています。自分たちでは、暴走した幼なじみや後輩を止められない事を。

「穂乃果、こんな事もあろうかと水着を買っておいたのだ!」

「えー! いいにゃあ〜。凛も可愛い水着欲しいなぁ〜。かよちんと一緒に!」

「わ、私⁉︎」

何だか行く雰囲気を作り出している二人ですが、別に決定事項ではありません。この後には、練習メニューが控えています。

そして何より、そんな暴挙を一喝できる存在がμ'sにはいます。

「……ふぅ」

何気なく吐き出された息。盛り上がっていた二人は、ビクリと肩を震わせます。

恐る恐る振り向くと、若干俯いて目を閉じた海未の姿が。

「う、海未……ちゃん?」

「お、怒ってる……にゃ?」

先ほどのテンションはどこへやら。まるでイタズラが見つかったペットのようです。

他のメンバーはとばっちりが怖いので、我関せず。

「…………」

海未は何も言いません。

「ほ、ほら、暑いとやる気も出ないし!」

「…………」

「熱中症だって怖いでしょ?」

「…………」

「気分転換にもなるかなー、って……」

「…………」

どんどん語尾が弱くなる穂乃果。海未の俯く角度が少し深くなった気がします。はしゃいでいた凛含め、他のメンバーは察しました。ああ、これは雷落ちるヤツだ、と。

「海未……ちゃん……?」

いよいよ角度が深くなった所で、海未が口を開きます。

「__……はぁ」

出てきたのは、叱咤や怒鳴り声ではなく、全てを吐き出したようなため息でした。

「……?」

穂乃果も、不思議に思って幼なじみを見ます。実際は喜ばしい事なのですが。

「……そうですね。あまり毎日炎天下で練習すると、パフォーマンスにも影響しそうですし、息抜きも悪くないかもしれません」

「うぇえ⁉︎」

「何を驚いているのです? あなたが言い出したのでしょう、穂乃果」

「う、うん。そうだけど……」

素直すぎて逆に怖いです。しかし海未に限ってそれは無い、というより機嫌を損ねたくないと考えた穂乃果は、とりあえず頷いておきました。

「ありがとう! 海未ちゃん大好き!」

海未の方も、苦笑で返します。

「今日だけですよ」






「__プールだ! プールだ! プールだーっ!」

「そんなに叫ばないで下さい。他のお客さんもいるのですから」

「でも穂乃果ちゃんの気持ちも分かるなぁ〜。暑い日は、プールに行きたくなっちゃうよね♪」

あれから練習を切り上げた穂乃果たちは、一度帰宅して荷物を用意すると、

「せっかくの息抜きなんだから、全力で楽しまないとね」

という絵里の言葉もあり、電車を乗り継いで海沿いの大型プールへ来ていました。

気温は相変わらず上昇中。セミの大合唱も凄まじいです。

そんな状況で、目の前に涼しげな水が湛えられています。

「一番乗りー!」

「あ、ずるい凛が最初!」

我慢できるはずがありません。早速駆け出す二人。しかし、

「プールサイドを走ってはいけません! それに、準備運動がまだです!」

μ'sの保護者に首根っこを掴まれました。

「「…………」」

勢いを削がれた恨みをジト目で伝えてみますが、

「何か?」

正論なので言い返せません。大人しく海未の音頭で準備運動。それが終わったら、

「いやっほー!」

飛び込みます。

「飛び込みは禁止です!」

怒られました。近くにいた監視員さん、

「あの子たちは、危なっかしいけど注意しなくても平気かなー」

と呟いたとか呟いていないとか。






さて穂乃果たちは、ウォータースライダーの真下に来ていました。

浮き輪を使うものらしく長さも結構あり、階段もそれなりに登ります。

「かよちん行こ!」

「凛ちゃん引っ張らないでぇ〜!」

一年生二人は、早速駆け上がって行きました。

「大きな滑り台でしょ? そのためにわざわざ暑い思いして階段登るなんて、意味分かんない。涼みに来たんだから」

「真姫ちゃ〜ん? もしかして高い所が怖いのぉ〜? それとも、大人な真姫ちゃんは、滑り台なんてできないのかなぁ〜?」

「そ、そんな事言ってないでしょ! ただ私、こういうプールに来た事ないから……。何が楽しいとか分かんないし」

「仕方ないわねぇ。このにこにー直々に、ウォータースライダーの楽しみ方を教えてあげるわ! プールとアイドルは、切っても切れない関係なんだから!」

「何それ、意味分かんない」

いつも通りのやり取りを一通り繰り広げ、にこと真姫は階段を登っていきます。

「絵里ち、顔が不安げやなぁ。どうかしたん?」

「……実は私も、こういうプール施設に来た事なくて……」

「あー確かに、絵里ちはプライベートでも来そうにないなぁ」

「これはどういうものなの? ジェットコースターみたいな感じかしら……」

「んー。間違ってはないかなぁ。__でも、それを生身で滑るんや。……過酷やでぇ?」

「そ、そうなの? 皆凄いわね……。私には難しそうだわ。見学していようかしら」

「わーウソウソ! 冗談やから本気にせんでええよ。何も怖くない楽しいヤツや!」

「そうなの? もう……希ったら……」

「百聞は一見にしかずや。一緒に行こ」

「ええ」

希と絵里は、二人だけの絆らしきものを見せつけて登っていきました。

残るはこの三人。

「二人乗りと一人乗りがあるんだね……」

「三人乗りは無いのかぁ」

「穂乃果はどちらと乗りたいですか?」

「えぇ⁉︎ そう言われても困っちゃうよ……。海未ちゃん? ことりちゃん? __うああ無理! 穂乃果には選べないよ!」

頭を抱えてしまう穂乃果。

「穂乃果ちゃんらしいと言えば、」

「穂乃果らしいですが……」

二人は苦笑しながらそのつむじを見下ろします。

「__そうだ!」

そして穂乃果は、顔を輝かせて立ち上がります。スクールアイドルを閃いた時と似ています。

「私が一人で乗ればいいんじゃん! そうすれば万事解決!」

「駄目です」

「えっ⁉︎」

即答でした。もしかしたら、スクールアイドルの時より早かったかもしれません。

「海未ちゃん……?」

穂乃果はポカンとして海未を見ます。隣のことりは、のほほんと微笑むだけ。

「あなたを一人にはさせません。あなたはリーダーなのですよ?」

「う、うん……」

そんな重い話かなぁ、と思いつつ、穂乃果は頷きます。

「でもそうすると、海未ちゃんかことりちゃんが一人になっちゃうけど……」

「私が待ちます」

凛々しく、海未が言い放ちました。

「穂乃果とことりで、先に行ってきて下さい。私はここで待っていますから」

「海未ちゃん……」

穂乃果はしばらくそうやって、海未を見ていました。

「穂乃果ちゃん」

ことりがいつものように微笑むと、

「……うん。待っててね海未ちゃん! 行こうことりちゃん!」

「わわっ、速すぎるよ穂乃果ちゃぁ〜ん!」

穂乃果はことりの手を掴むと、ダッシュで駆け上がって行きました。

その姿を見上げながら、

「まったく……穂乃果は穂乃果なんですから」

優しく微笑みました。






その五分後、

「暑いですね……」

流石の海未も太陽の輝きに顔をしかめた時、

「お待たせ海未ちゃん!」

「穂乃果⁉︎」

穂乃果がやって来ました。少なからずプールに入って涼んだはずなのに、穂乃果は練習後のように汗だくです。

「…………。まったく……。あなたが暑いと言うから、プールに来たのに……。意味ないじゃありませんか」

「え? あはは……。そうかもね。でも、海未ちゃんが待ってるって思ったら、つい急いじゃった」

海未はやれやれと頭を振ります。

「……まあいいです。やはり、穂乃果はいつでも穂乃果でしたね」

「? どういう事?」

「そのままの意味ですよ」

「ええ〜? それじゃ分かんないよ〜!」

後ろで騒ぐ穂乃果の声を聞きながら、海未は誰にも聞こえないように呟きます。

「……今日くらいは、あなたのわがままに振り回されてあげます。あなたにとって特別な日ですからね。__誕生日おめでとうございます、穂乃果」

「ありがとう海未ちゃん! 大好き!」

「聞いていたのですか⁉︎」


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1件コメントされています

1: SS好きの名無しさん 2015-12-10 22:47:15 ID: 6347JeQE

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