2016-09-12 15:43:49 更新

概要

ことりちゃんハッピーバースデー!


「ふ〜んふふふ〜ん♪」

場所は自宅のキッチン。ことりは鼻歌を歌いながら、マカロンを作っていた。

「あら、ことり」

「あ、お母さん! おかえり」

帰宅した母親に、ことりはできたてのマカロンを差し出した。

「明日は私の誕生日だから、作ったの! 今年はμ'sみんながいるから、大変なの」

何か違うような気がしたが、毎年の事なので気にしても仕方ない。

「ありがとう、いただくわね」

マカロンを口に放り込み、

「あら、何だかいつもより美味しいわね」

「ホント? 実は、少し高そうなお砂糖を使ってみたの!」

「お砂糖?」

「うん! 小瓶に入ったお砂糖でね、鞄の中にあったから間違えて持ってたんだろうなー、って思って。フワフワッとした甘みがとっても美味しいの!」

「そ、そう……。そんなお砂糖、うちにあったかしら……?」

首をひねったが、理事長という立場、色々な人から贈り物が届く。きっとその一つなのだろうと結論付けた。

「ーーあむっ。うん、これならきっと、穂乃果ちゃんも喜んでくれる!」

もはや誰の誕生日か分からないが、毎年の事なので気にしても仕方ない。





翌日。

「んぅ……。…………?」

目を覚ましたことりは、何か違和感を感じた。そしてすぐに分かった。

「枕が違う……⁉︎」

自分の後頭部を包み込んでくれる相棒。かつてメンバーに迷惑をかけてでも必要とした枕が、無い。

「ど、どこ……?」

ベッドの上を探すが、代わりにあるのは、見覚えのある枕。

「え……?」

見覚えが、ある。

「これ……お母さんの枕だ!」

ことりがそう叫ぶのと、

「ことり!」

何者かが部屋に飛び込んできたのは同時だった。

二人暮らしのこの家では、相手は一人しかいない。

「お母さ……ん……?」

一人しかいない、はずである。

ことりの目の前でこちらを見るのは、どう見ても自分。南ことり本人だったのだ。





「ーーそれじゃあことり、お願いね。頑張って」

「う、うん。お母さんもね」

南親子は、お互い自分を見送るという奇妙な状況に慣れぬまま、家を出た。

何故か心身が入れ替わってしまった二人。そんな超常現象に打開策など思いつく訳もなく、平日なので休む訳にもいかず、現状保留という形で一日を過ごす事になった。

だが今日は九月の十二日。ことりの誕生日である。メンバーからのお祝いもあるし、何より幼馴染二人が今日という日を黙っていない。

方や理事長としても、

「今日に限って、取材だなんて……」

「ごめんなさい。でも、ことりとμ'sに関する取材だから、何とかできると思うの」

「うん、頑張っては、みるけど……」

外せない予定が入っているとの事。

騒ぎを大きくしたくない、という意見が合致し、二人はお互いを演じる事になったのである。



「こっとりちゃ〜ん! お誕生日おめでとう〜っ!」

ことりに教えてもらった待ち合わせ場所に行くと、すでに待っていた穂乃果が唐突なハグ。

「ほ、穂乃果ちゃん……」

仲良しなのはいい事だけれど、高校生でこのスキンシップは苛烈過ぎないかと若干心配になる理事長。

「いきなりすぎますよ穂乃果! ーーと、ことり、誕生日おめでとうございます」

それを引き剥がす海未。しっかり者の海未ちゃんのおかげで、バランスが取れているのだろうな、と推測。

「ありがとう、二人共」

この大事なお祝いの言葉を、本人が聞けなかった事に心で謝りつつ、こうして娘を祝ってくれる友達がいる事にお礼を言った。

「……ん〜?」

すると突然、穂乃果が目を細めた。ジトッとした視線で、こちらを見やる。

「……何か、いつものことりちゃんと違うような……」

「⁉︎」

幼馴染のカンに戦慄しながら、

「何を突然、訳の分からない事を言っているんですか」

「多分、年に一度の誕生日だから浮かれちゃったのかも……。あはは……」

海未の無自覚な助け舟に乗って取り繕う。

「ちょっと大人っぽく見えたんだけど、気のせいかな!」

よもや入れ替わっているとは思わず、穂乃果はそれ以上の言及をやめた。

穂乃果ちゃんは、絢瀬さん並みに警戒した方がよさそうね、と理事長は早速不安を覚えていた。



一方その頃、学校に到着したことりは、

「あれ、理事長何やってるんです? そっちは生徒用ですよ?」

うっかりいつもの昇降口へ向かいそうになり、近くを通った数学教師に笑われた。

「そ、そうだった……。私は今はお母さんだったんだ……」

「はい?」

「な、何でもないです」

「ああそうだ。今日は娘さんの誕生日ですよね。おめでとうございます」

「え、知ってたんですか?」

ことりが話した記憶は無いが、母が話したのだろうか。

すると数学教師は、

「いや、二年を担当する教員はみんな知ってると思いますよ。高坂のヤツが、二学期始まった辺りからうるさいので」

苦笑して答える。

「穂乃果ちゃん……」

そういえば小学校の頃、勝手に日めくりカレンダーでカウントダウンをして怒られたんだっけ、とどうでもいい過去を思い出すと、

「ありがとうございます」

余計なボロを出す前に、会釈で理事長室へ向かった。



仮にも理事長であり大学を出た身としては、一般高校レベルの授業はさほど問題ではなかった。

やたらとテンションの高いほの字の幼馴染さえ気にしなければ、放課後までは比較的平和に過ぎていった。

そして帰りのホームルームが終わり、担任の教師が教室から出て行く。

分かっている。ここからが本番なのだと。

「さあ! ことりちゃん部室に行くよ! もうみんな準備はバッチリだって!」

一息つく余裕もなく、穂乃果が手を取って駆け出した。

これでは飼い犬に振り回される飼い主みたいだ、と思ったのも束の間、

「穂乃果! 廊下を走ってはいけません!」

途端にスピードが落ちる。

「ぶ〜。せっかくの誕生日なんだから、急いでもいいじゃん〜!」

「それはそれ、これはこれです。ことりの誕生日なんですし、ケーキは逃げません」

「海未ちゃんのケチ〜!」

「誰がケチですか!」

「あ、あの……ケンカは……」

少し慌てて周りを見るが、またやってるよ、くらいの軽い反応である。これが娘の日常なのか。これは確かに退屈はしないなあ、と大人はしみじみ思うのであった。

部室に到着すると、

「誕生日おめでと、ことり」

赤髪の一年生、真姫が言葉をくれた。

「……ねえ、いきなりで悪いんだけど、ちょっと探し物をしてるの」

そして、顔を寄せてそんな事を訊いてきた。

「昨日部室で、薬みたいなの見なかった?」

「薬?」

「そう。パパの病院で開発中の薬なんだけど、間違えて持ってきちゃって……。まだどんな効果が出るか分からないから、摂取厳禁って言われてて……。昨日最後に部室出たの、ことりでしょ?」

昨日娘が何をしたかは分からないので、大人しく無難に答えるしかない理事長。

「私は、知らな」

「小さな小瓶に入った白い薬で、甘い味がするから砂糖と間違えるかも、なんて言われてて「それだわっ!」……ヴェ⁉︎ いきなり大声出さないでよ!」

あまりにもドンピシャリすぎて、思わず叫んでしまった。

「ご、ごめんなさい。えっと……真姫ちゃん、……で、呼び方合ってたかしら。……その薬、私の家にあるわ」

「ホントに?」

「ええ。昨日ことりが……私の鞄に入ってたみたいだから、転がって入ってしまったのかもしれないわ」

「そ、そう! それなら良かった!」

「帰ったら、元に戻ってすぐに届けに行くわね!」

「元に、戻ったら……?」

「な、何でもないわ。ちょっとごめんなさい」

キョトンとする真姫に手を振ると、携帯電話を取り出す。

「ことり、原因が分かったわ……。だから出てちょうだい……」

コール音が、虚しく続く。



一方その頃、

「だから、μ'sは穂乃果ちゃんが作ったんです! 海未ちゃんやみんなを誘って、仲間になって、今のμ'sができたんです!」

「そ、そうだったんですね。随分、お詳しいようで……」

ことりは、μ's結成のプロセスを熱く語っていた。その冒頭には、「穂乃果ちゃんは」「穂乃果ちゃんが」「穂乃果ちゃんだから」が必ずくっついている事に、本人は気付いていない。

「えっと……、ではとても有意義な話が聞けましたし、本日はこの辺りで……。…………理事長という立場からの、μ'sが知りたかったんだけどなぁ……」

最終的に、記者が折れて帰るという不思議な状況ができあがった。

語りに語って満足したことりは、

「あ、お母さんから電話?」

携帯電話を耳に当てた。





ーーおよそ一時間後、

「も……戻った!」

「良かったわ……」

南親子は、自宅のリビングで手鏡を見せ合っていた。

「まさかあのお砂糖が、真姫ちゃんの家の薬だっただなんて……」

「それをことりがマカロンに使って、今回の事件が起きたのね……。入れ替わるなんて信じられないけれど」

「もう一回食べれば元に戻れるなんて、お母さんよく気付いたね」

「テレビとかではよくある話でしょう? うまくいってよかったわ」

微笑んだ理事長は、ふと真顔になった。

「お母さん?」

「ごめんなさい……ことり。せっかくの誕生日なのに、こんなバタバタしてしまって。お友達のお祝いも、私が聞いてしまったわ……」

「お母さん……。ううん、私は楽しかったよ。お母さんになれて、普段できない経験ができて、面白かった。だから、謝らなくて大丈夫だよ」

「ことり……」

ことりは、優しく母親の両手を握る。

「穂乃果ちゃん達には、また今度お祝いしてもらうから。だから今日は、お母さんと過ごしたいな」

「…………」

「えへへ、一緒にご飯作ろ?」

キッチンへと笑顔で手を引っ張る娘を、

「……ことり」

後ろから優しく抱きしめる。

「お母さん……」

「お誕生日おめでとう。遅くなってしまったけれど、これからもよろしくね。私の可愛い、一人娘さん」

「……うん。ありがとう。私も、大好きだよ」

ことりも、向きを変えて腕を回す。





その日、家の灯りは、夜遅くまでついていましたとさ。


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SS好きの名無しさんから
2016-10-02 21:50:58

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このSSへのコメント

5件コメントされています

1: 蒼バ 2016-09-13 05:51:57 ID: 5h5fUwKU

1行あけたら?

2: 蒼バ 2016-09-13 05:53:01 ID: 5h5fUwKU

おもしろいからそうすれば見やすくていいと思うよー(^_^)

3: シュウヤ 2016-09-13 13:52:15 ID: 2iVVQngA

やはり見にくいですか……
SSではないので平気かな、と思ったのですが……

4: 蒼バ 2016-09-14 05:09:57 ID: NfeTIsWX

3
偉そうな文体だったかも、謝。
まあ...これはこれで出る雰囲気もあるとは思うよ。
ラブライブSS意外と少ないからいろいろ書きましょ~笑
絵里ちゃんが言ってたアキバは何でも受け入れてくれる...的なサイトだし。
勉強させてもらいます(ºvº )

5: 蒼バ 2016-09-14 05:12:02 ID: NfeTIsWX

あ、自分の方とかにも意見ばんばんくれて構いませんので...
ではまた。


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