絢瀬絵里生誕祭2016
憧れの人。初めて会った時は、そんな印象だった。美人で、クールで、優しくて、頭もいい。完璧な人。……お姉ちゃんとは、大違い。
「ーーねえ雪穂! プレゼントしたいの!」
「は、はい?」
学校での休み時間、亜里沙がいきなりそんな事を言ってきた。……まあ、亜里沙のいきなりは今に始まった話じゃないけど。スクールアイドルの練習だって、いきなりだったし。
「いや、何の話?」
「もう! 雪穂ったら!」
えー、何で私が怒られてるの。
「お姉ちゃんにあげるプレゼントだよ! 誕生日プレゼント!」
「ああ」
なるほど。今日は亜里沙のお姉さん、絵里さんの誕生日だ。
「というか、何で当日に言うの? もう時間ないじゃん」
「亜里沙も悩んでたんだけど……全然決まらなくて。だから雪穂に頼んだの!」
悩みすぎ。
「でも私、絵里さんの好みとか全然知らないよ?」
「チョコレートが好きで、梅干しが嫌い!」
「食べ物の話じゃなくて」
「あと、穂乃果さんと希さんが好き!」
「ぶっ⁉︎ 何言ってんの⁉︎」
「だって、お姉ちゃん家では二人の話ばっかりだから」
「そういう問題じゃ……」
まったく、亜里沙は変な所が天然なんだから。
「とにかく、学校終わったらプレゼント探すよ。時間ないから、急ぐよ!」
「うん! ありがとう雪穂!」
私は、亜里沙に甘いのだ。
放課後、秋葉原の街に繰り出してはみたものの、どうもしっくりこない。
「うーん……。何がいいんだろ……」
お姉ちゃんだったら、ハンカチとかをポイっと投げればいいんだけどな……。
「雪穂! 雪穂!」
駆け寄ってきた亜里沙。
「いいの見つかった?」
「見て! マトリョシカ! アキバの街にもあったよ! xoрoшo!」
「真面目に探してよ!」
まったくもう……。マイペースなんだから……。
「ーーあら、亜里沙じゃない。それに雪穂ちゃんも」
「えっ⁉︎」
唐突に名前を呼ばれて振り向くと、
「買い物かしら?」
話の種だった、絵里さんが立っていた。
「えっと……まあ」
流石に、あなたのプレゼント探してましたとは言えない。頭のいい絵里さんには、見抜かれてそうだけど。
「そうね……せっかく会えたんだし、うちに寄ってく?」
「へ……?」
いきなりな申し出。それに反応したのは亜里沙だ。
「そうしようよ! おいで雪穂!」
ってプレゼントはどうするの。
「飲み物は、紅茶でいいかしら」
「あ、はい」
結局、断れずに流されて来てしまった……。亜里沙も亜里沙だよ。まだプレゼント選べてないじゃん。
「はい、どうぞ」
「あ。ありがとうございます」
私と亜里沙に紅茶を淹れてくれた絵里さんは、私達の正面に座った。
「それで? 何をしていたのかしら?」
その楽しそうな顔で、私は悟った。私がよく知らないだけで、この人は意外と茶目っ気なのかもしれない。
「お姉ちゃんのプレゼントを探してたの!」
同じように気付いたのか、亜里沙が白状した。
「そうだったのね。雪穂ちゃんも?」
「亜里沙にお願いされて……。ーーあ、お誕生日おめでとうございます」
「ふふっ、ありがとう」
「……でもごめんなさい。お姉ちゃんにピッタリのプレゼントが見つからなかったの……」
マトリョシカなんか見てるからだよ……。
「いいのよ。その気持ちだけで充分嬉しいわ」
「おお……」
お姉ちゃんだったらあり得ないセリフだ……! “穂乃果のプレゼントは⁉︎”って駄々こねるに決まってるもん。
「でも……それじゃあプレゼントが無くなっちゃうから……。ーーそうだ! お姉ちゃん、何かお願いして!」
「お願い?」
「うんっ! そのお願いを、叶えてあげる! 私と雪穂で!」
「私も⁉︎」
サラッと巻き込まれたよ⁉︎
「うーん……いきなり言われてもね……。何も考えてなかったわ……」
真剣に悩む絵里さん。……今からでも遅くないから、プレゼント探してきた方がいいんじゃ……。
「ーーあ、そうだわ!」
急に、思いついたように手を叩いた絵里さん。何か閃いたのかな?
「雪穂ちゃん」
絵里さんが、私を手招きする。
「?」
何だろ? 分からぬまま、私は膝立ちで絵里さんの傍に行く。
「ふふふ……」
ガッ、と。肩を掴まれた。笑顔が、ちょっと怖い。
「えっと…………」
「えいっ」
身体を左右に振られ、右側に倒された。そこにあったのは、絵里さんの太もも。
「お姉ちゃん⁉︎」
「なななな何ですか⁉︎」
これは俗に言う、膝枕では。
「うふふっ、一度やってみたかったのよね。亜里沙ってば恥ずかしがってやらせてくれないし、雪穂ちゃんみたいに真面目な子に甘えて欲しかったのよ」
そう言って、絵里さんが頭を撫でてくる。
ど、どうしようこの状況……。絵里さんの手、白くて綺麗だしあったかいし……じゃなくて! てかドキドキ止まらないし!
「雪穂!」
「亜里沙、どうにかして……」
「ずるい! 亜里沙もやって欲しい!」
「違くて!」
「あら、前に言った時は断られたのに」
「今日はお姉ちゃんの誕生日だから、お姉ちゃんがお願いするのに聞かないとダメだもん!」
何その無茶苦茶な理論……。
「じゃあ、亜里沙は反対側ね」
「やったぁ!」
本音漏れてるし!
「雪穂ちゃんは、穂乃果とこんな風にしたりするのかしら?」
「あーいえ、しないですねー」
というか、お姉ちゃんが絵里さんにされてそう。
「穂乃果も勿体ないわね。こんな可愛い妹がいるのに……」
か、可愛いのかな……私……。
「お姉ちゃん! 亜里沙は⁉︎」
「亜里沙も可愛いわよ。自慢の妹よ」
「わーい!」
もう……、亜里沙は無邪気なんだから……。
「二人共、ありがとうね。私の為に。それだけで、本当に嬉しいのよ?」
髪の毛を手櫛されながら、そんな声を聞く。
「…………」
ま、いっか。普段できないんだし、今日は思いっ切り甘えちゃおう。
私の、憧れの人。お誕生日、おめでとうございます。
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