2016-10-20 20:54:09 更新

憧れの人。初めて会った時は、そんな印象だった。美人で、クールで、優しくて、頭もいい。完璧な人。……お姉ちゃんとは、大違い。



「ーーねえ雪穂! プレゼントしたいの!」

「は、はい?」

学校での休み時間、亜里沙がいきなりそんな事を言ってきた。……まあ、亜里沙のいきなりは今に始まった話じゃないけど。スクールアイドルの練習だって、いきなりだったし。

「いや、何の話?」

「もう! 雪穂ったら!」

えー、何で私が怒られてるの。

「お姉ちゃんにあげるプレゼントだよ! 誕生日プレゼント!」

「ああ」

なるほど。今日は亜里沙のお姉さん、絵里さんの誕生日だ。

「というか、何で当日に言うの? もう時間ないじゃん」

「亜里沙も悩んでたんだけど……全然決まらなくて。だから雪穂に頼んだの!」

悩みすぎ。

「でも私、絵里さんの好みとか全然知らないよ?」

「チョコレートが好きで、梅干しが嫌い!」

「食べ物の話じゃなくて」

「あと、穂乃果さんと希さんが好き!」

「ぶっ⁉︎ 何言ってんの⁉︎」

「だって、お姉ちゃん家では二人の話ばっかりだから」

「そういう問題じゃ……」

まったく、亜里沙は変な所が天然なんだから。

「とにかく、学校終わったらプレゼント探すよ。時間ないから、急ぐよ!」

「うん! ありがとう雪穂!」

私は、亜里沙に甘いのだ。



放課後、秋葉原の街に繰り出してはみたものの、どうもしっくりこない。

「うーん……。何がいいんだろ……」

お姉ちゃんだったら、ハンカチとかをポイっと投げればいいんだけどな……。

「雪穂! 雪穂!」

駆け寄ってきた亜里沙。

「いいの見つかった?」

「見て! マトリョシカ! アキバの街にもあったよ! xoрoшo!」

「真面目に探してよ!」

まったくもう……。マイペースなんだから……。

「ーーあら、亜里沙じゃない。それに雪穂ちゃんも」

「えっ⁉︎」

唐突に名前を呼ばれて振り向くと、

「買い物かしら?」

話の種だった、絵里さんが立っていた。

「えっと……まあ」

流石に、あなたのプレゼント探してましたとは言えない。頭のいい絵里さんには、見抜かれてそうだけど。

「そうね……せっかく会えたんだし、うちに寄ってく?」

「へ……?」

いきなりな申し出。それに反応したのは亜里沙だ。

「そうしようよ! おいで雪穂!」

ってプレゼントはどうするの。



「飲み物は、紅茶でいいかしら」

「あ、はい」

結局、断れずに流されて来てしまった……。亜里沙も亜里沙だよ。まだプレゼント選べてないじゃん。

「はい、どうぞ」

「あ。ありがとうございます」

私と亜里沙に紅茶を淹れてくれた絵里さんは、私達の正面に座った。

「それで? 何をしていたのかしら?」

その楽しそうな顔で、私は悟った。私がよく知らないだけで、この人は意外と茶目っ気なのかもしれない。

「お姉ちゃんのプレゼントを探してたの!」

同じように気付いたのか、亜里沙が白状した。

「そうだったのね。雪穂ちゃんも?」

「亜里沙にお願いされて……。ーーあ、お誕生日おめでとうございます」

「ふふっ、ありがとう」

「……でもごめんなさい。お姉ちゃんにピッタリのプレゼントが見つからなかったの……」

マトリョシカなんか見てるからだよ……。

「いいのよ。その気持ちだけで充分嬉しいわ」

「おお……」

お姉ちゃんだったらあり得ないセリフだ……! “穂乃果のプレゼントは⁉︎”って駄々こねるに決まってるもん。

「でも……それじゃあプレゼントが無くなっちゃうから……。ーーそうだ! お姉ちゃん、何かお願いして!」

「お願い?」

「うんっ! そのお願いを、叶えてあげる! 私と雪穂で!」

「私も⁉︎」

サラッと巻き込まれたよ⁉︎

「うーん……いきなり言われてもね……。何も考えてなかったわ……」

真剣に悩む絵里さん。……今からでも遅くないから、プレゼント探してきた方がいいんじゃ……。

「ーーあ、そうだわ!」

急に、思いついたように手を叩いた絵里さん。何か閃いたのかな?

「雪穂ちゃん」

絵里さんが、私を手招きする。

「?」

何だろ? 分からぬまま、私は膝立ちで絵里さんの傍に行く。

「ふふふ……」

ガッ、と。肩を掴まれた。笑顔が、ちょっと怖い。

「えっと…………」

「えいっ」

身体を左右に振られ、右側に倒された。そこにあったのは、絵里さんの太もも。

「お姉ちゃん⁉︎」

「なななな何ですか⁉︎」

これは俗に言う、膝枕では。

「うふふっ、一度やってみたかったのよね。亜里沙ってば恥ずかしがってやらせてくれないし、雪穂ちゃんみたいに真面目な子に甘えて欲しかったのよ」

そう言って、絵里さんが頭を撫でてくる。

ど、どうしようこの状況……。絵里さんの手、白くて綺麗だしあったかいし……じゃなくて! てかドキドキ止まらないし!

「雪穂!」

「亜里沙、どうにかして……」

「ずるい! 亜里沙もやって欲しい!」

「違くて!」

「あら、前に言った時は断られたのに」

「今日はお姉ちゃんの誕生日だから、お姉ちゃんがお願いするのに聞かないとダメだもん!」

何その無茶苦茶な理論……。

「じゃあ、亜里沙は反対側ね」

「やったぁ!」

本音漏れてるし!

「雪穂ちゃんは、穂乃果とこんな風にしたりするのかしら?」

「あーいえ、しないですねー」

というか、お姉ちゃんが絵里さんにされてそう。

「穂乃果も勿体ないわね。こんな可愛い妹がいるのに……」

か、可愛いのかな……私……。

「お姉ちゃん! 亜里沙は⁉︎」

「亜里沙も可愛いわよ。自慢の妹よ」

「わーい!」

もう……、亜里沙は無邪気なんだから……。

「二人共、ありがとうね。私の為に。それだけで、本当に嬉しいのよ?」

髪の毛を手櫛されながら、そんな声を聞く。

「…………」

ま、いっか。普段できないんだし、今日は思いっ切り甘えちゃおう。

私の、憧れの人。お誕生日、おめでとうございます。


このSSへの評価

このSSへの応援

このSSへのコメント


このSSへのオススメ


オススメ度を★で指定してください