西木野真姫生誕祭2017
真姫ちゃんハッピーバースデー!
「え、西木野さん誕生日過ぎてたの⁉︎」
「まあ……うん」
「そんなー、言ってくれればお祝いしたのに〜」
「ごめんなさい」
中学の頃の話だ。こういうやり取りがあったのはこれだけだったが、早すぎる私の誕生日。日にちを覚えた頃から、こうなる事は自覚していた。仕方ないじゃない。ちょっと聡明な真姫ちゃんは、余計な所まで考えちゃうんだから。
だから、クラスメイトに誕生日を祝ってもらった事はない。友達と呼べる友達もいなかったし、上辺だけの祝ぎ言葉を貰っても困るだけだ。
毎年パパとママが祝ってくれる。それだけで充分だった。
「真姫ちゃん! お誕生日おっめでとうにゃ〜!」
「おめでとう、真姫ちゃん」
だから、高校一年の誕生日当日。待ち合わせ場所にいた凛と花陽が、いきなりそんな言葉を放ってきた時は、本当に驚いた。というより面食らった。
「な、何で私の誕生日知ってるの?」
まず真っ先に浮かんだのは、そんな疑問。
「ご、ごめんね」
「いや、どうして謝るのよ」
頭を下げた花陽に、私は首を傾げる。
「生徒手帳……」
「生徒手帳? ああっ。あの時の」
以前、μ'sに入る前に、花陽が落とした生徒手帳を届けに来てくれた事があったんだった。確かに、あそこには誕生日が書いてある。
「かよちん、一回見ただけなのにちゃーんと真姫ちゃんの誕生日覚えてたんだって! 凄いよね〜。凛だったら絶対忘れてたにゃ」
「早いな、って印象に残ったから……」
「…………」
思えば、あの時あの出来事があったから、私は今ここにいるのだ。あの時拾ったのが花陽じゃなかったら……職員室に預けていたら……そもそも中身を確かめていなかったら……なんて、全部仮定の話でしかないけれど。私が今こうしてスクールアイドルをしているのはある種の奇跡かもしれない。
「それにしても、凛も花陽も物好きね」
「「?」」
首を傾げた二人に、私は思った事をそのまま口にしてしまう。
「同じクラスとは言っても、まだ出会って一ヶ月も経ってないのに……その誕生日を祝おうだなんデブッ⁉︎」
いきなり、凛が両手で顔を挟んできた。バチンといい音がした。……結構、痛いんですケド。
「まぁ〜きぃ〜ちゃぁ〜んっ?」
「な、何よ」
ひょっとして、怒ってる? 私、そんな変な事言った?
「凛達は、友達でしょ! μ'sでスクールアイドルやってる仲間でしょ!」
「友、達……」
凛の手から、感じる温もり。
「真姫ちゃん」
ようやく手を離した凛に代わって、今度は花陽が、ニコニコと笑顔で、頬をつねってきた。
「うにぃー」
「……何ふんのよ」
ヒリヒリ痛む頬を引っ張られて、思わず涙が滲んだ。
「真姫ちゃんが、悲しい事言うから。花陽達はもう友達なんだよ? お祝いするのは当たり前ですっ」
ちょっと怒った顔を寄せて、花陽はそう叱った。
「……分かったわよ」
仕方ないじゃない。今まで、友達らしい友達なんていなかったんだから。こんな風に怒られるなんて、思わなかった。
……これが、友達なんだ。
「真姫ちゃん、これあげる!」
凛が、紙袋を差し出してきた。
「……これは?」
「私と凛ちゃんから、真姫ちゃんへ。お誕生日プレゼント。あまり大した物じゃないんだけど……」
誕生日、プレゼント……。私が、友達から貰う日が来るなんて……。
「……あ、ありがと」
私はニヤけそうになる顔を、必死に堪えた。
「ね、ね! 開けてみて!」
「何で凛がワクワクしてるのよ」
とはいえ、私も中身は気になる。なるべく急がないように、なるべく平静を装って、紙袋から取り出したそれは、
「……帽子?」
黒地にピンクの星が入った、つば付きキャップだった。
「これからμ'sの練習も始まって、季節も暑くなるからって、かよちんが!」
「いつも使える物がいいって、凛ちゃんが」
「……あり、がとう」
口元が緩むのを、これ以上止められそうにない。私は顔を隠す為、キャップを深くかぶった。
「真姫ちゃん、似合うにゃ〜」
「気に入ってくれたかな?」
「し、仕方ないから使ってあげるわ!」
素直になれない言葉。それでも凛と花陽は、顔を見合わせて笑った。
「さあ真姫ちゃん、朝練行くにゃ!」
「これから一緒に、頑張ろうねっ」
駆け出す二人が、笑顔で私の手を取った。
「自分で走れるわよ」
二人に引っ張られながら、自然と私も笑っていた。
誕生日って、こんなに嬉しい日だったんだ。友達がいるって、こんなに楽しい事だったんだ。
「……ありがと、凛、花陽」
今日という日を、私は忘れない。
このSSへのコメント