New Year μ'sic!
あけましておめでとうございます。今年も一年、よろしくお願いします。
ホカホカと身体を温めるコタツ。その魔力は、時にあらゆる誘惑を凌駕する。
「ぐぅ…………」
その誘惑に、早速屈しようとしている人物が一人。
机に置かれたミカンをつまんでいたのは少し前。今にも涎を垂らしそうな幸せそうな笑顔で眠るのは、穂乃果。
時は年の瀬、その夜。紅白歌合戦も終わり、後はカウントダウンを待つのみとなった時間。
「えへへ……雪穂、お茶……」
寝言を漏らす穂乃果。ちなみに呼んだ名前の本人は、穂乃果の横でコタツに収まり呆れた目をしている。
「まったく……ハイ、お茶」
雪穂は、机の上にあった湯のみを姉の頬に当てる。先ほど淹れたばかりの、お茶の入った。
「あっっっっつぅいっ⁉︎ 雪穂何するの⁉︎」
当然飛び起きた穂乃果は、涙目で妹を睨む。
「お茶って言われたから、渡しただけだよ」
あくまで雪穂は、澄まして返す。
「ぐぬぬ……」
「それにホラ、もうすぐ年明けるよ」
雪穂はテレビの画面を指差し、そこに映されたカウントダウン表記を見やる。
「…………」
穂乃果は無言で座り直すと、釈然としない表情で雪穂に視線を送った。
「お姉ちゃんはさ、やっぱり凄いよね」
「……? どうしたの突然」
「だって、本当にスクールアイドルで有名になって、学校を廃校から救っちゃったんだよ?」
「それは、私一人の力じゃないよ」
「うん。でもさ、お姉ちゃんがいなかったら、μ'sは生まれて来なかっただろうし、廃校も救えなかった。それってやっぱり、凄い事なんだと思う」
「……どうしたの? 急に真面目になって」
「私だって、スクールアイドルの端くれだもん。お姉ちゃんがどれだけ凄いのかは、よく分かってる」
「雪穂……」
「だから、ありがとね。私に、私達に、道を残してくれて」
穂乃果の顔を見据えて、雪穂は小さく笑った。
釣られるように、穂乃果も笑う。
「……さ、もうすぐ新年だよ! カウントダウンしなきゃ!」
気まずい空気を打ち消すように、雪穂が手を叩いてテレビに視線を向ける。
「新年、かぁ……」
穂乃果も、お茶をすすりながらその時を待つ。
十、九、八、七、六、五、四、三、二、一…………
「あっけおめにゃぁ〜っ!」
「ぶっ⁉︎」
新年で最初にやってきたのは、超元気な猫の声。
「あちゃちゃちゃ⁉︎」
思わずお茶を噴き出した穂乃果は、その熱湯に悲鳴を上げる。
「り、凛ちゃん⁉︎」
涙目で振り返った穂乃果の目の前には、居間の襖を開け放ち、エッヘンと胸を張る新リーダーの姿が。
「な、何でここに⁉︎」
「サプライズしたかったんだにゃ! 大成功!」
笑顔でVサインを突き出した凛に、高坂姉妹は口を開けるしかない。
「ちょっと凛、一応夜中なんだから、静かにしなさいよ」
「穂乃果ちゃん、ご、ごめんね〜?」
その後ろから、仁王立ちのクラスメイトが顔を覗かせた。
「真姫ちゃん、花陽ちゃん!」
「明けましておめでと、穂乃果」
「今年も一年、よろしくお願いします」
ついで、というように挨拶する真姫と、深々と頭を下げた花陽。
「お、おめでとう……よろしく……」
状況が整理できない穂乃果。そして、彼女達はその暇を与えない。
「いつまで部屋着でいるのよ。早く初詣行くわよ!」
「穂乃果ちゃん、おめでと〜」
「サプライズは成功、って所かしら?」
一年生の後ろから、ビシッと指を差され、マイペースに手を振られ、ドヤ顔を向けられた。
「にこちゃん! 希ちゃん! 絵里ちゃん!」
「おめでとうございます! 穂乃果さん! 雪穂も!」
「亜里沙ちゃんも!」
混乱しているせいか、名前を呼ぶ事しかできない穂乃果。
「え、え、何で? どうしてみんながここに……?」
「新年は、μ'sで祝いたいとの事でしたので」
「あけましておめでとう、穂乃果ちゃん」
三年生のさらに後ろ、そこから、
「海未ちゃん! ことりちゃん!」
幼馴染の二人が顔を見せた。
ようやく頭の整理が追いついてきた穂乃果は、
「みんな……外で待ってたの?」
口々に肯定の返事が返ってくる。
「あは、ははは……ありがとう。みんなありがとう!」
少しずつ笑顔になっていく穂乃果。一度全員の顔を眺め、それからいつもの満面の笑みを浮かべた。そして、
「みんな、あけましておめでとう! 今年もよろしくね!」
全力で新年の挨拶を送った。
「近所迷惑です! そのくらいは考えなさい!」
「……はい」
新年一発目の説教を食らった。
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