感謝してるばんざーい!
アニメでは、最初は一人きりで、最後にはみんな一緒に歌った曲ですよね。そんな妄想が爆発して書きました。
「お願い真姫ちゃん!」
突然、穂乃果に手を合わされた。
「な、何よいきなり」
今日が何の日か知らない訳ではないだろう。こんな所で油を売っている暇があるのだろうか。
「真姫ちゃんにしかできない事なの! だからお願い!」
「わ、分かってるわよ。そんな大声出さなくても、ちゃんとやるから」
「ホントに⁉︎ ありがとう真姫ちゃん!」
そう言って笑顔で走り去っていく。
「まったく……忙しないんだから」
苦笑でその背中を見送って、私は音楽室へ向かう。
ドアを開け、無人の音楽室へ入る。ピアノの前に座り、鍵盤に指をかける。
「…………」
ふと、視線を上げると入ってきたドアが見えた。そこにある、ガラス窓も。
「……不思議よね」
まさか自分が、アイドルとして歌って踊るなんて。自分の曲が、信じられないほど多くの人に聞かれたなんて。
思えばあの日、全てが始まったのだ。
『アイドル、やってみない?』
今思い返しても、非現実的な話だ。突拍子もないし、そもそも面識すら無かったのだ。それが押し負けて作曲し、クラスメイトを勇気付けたらいつの間にか一緒に入ってて。何故こうなったのか、本当に分からない。
「……これでも、感謝はしてるのよ」
私の音楽に、色は無かった。透明で、誰の目にも残らない。残すつもりも無かった。私の音楽は、もう終わっていたのだ。そう、思い込んで。毎日誰とも触れ合わず、ただひたすらに無意味な音楽を奏でて。
『凄い! 凄いよ!』
それを見つけて、色を付けてくれた。私の音楽に、光を与えてくれた。ひょっとしたら、私は無意識に、SOSを奏でていたのではないのだろうか。
「……まさか、ね」
ただ単に、あの前向きさが成せる技なのだろう。自分の為、皆の為、全てを巻き込んで、夢を叶える。
私は上がる口角を押さえられないまま、優しく鍵盤を指で叩く。何度も弾いた、何度も聴いた旋律。誰に聴かせるつもりも無かった曲を、まさか今日使うなんて。やっぱり、あの意外性には感心するしかない。私は、もう隠すつもりもない笑顔のまま、大きく息を吸い込んだ。
「愛してるばんざーい! ここでよかった〜。わたしたちの今が、ここにある〜」
私の伴奏と一緒に、穂乃果が歌い出す。卒業式の送辞で歌うなんて、歴代初ではないだろうか。
「愛してるばんざーい! 始まったばかり〜。明日もよろしくね、まだ〜ゴールじゃな〜い」
いかにも、穂乃果らしい。
笑ってよ悲しいなら 吹き飛ばそうよ
笑えたら変わる景色 晴れ間がのぞく
『軽いからよ』『興味ないです!』
『真姫ちゃんのピアノ、大好きなんだ!』
『二人はどうするの?』『まだまだメンバーは、募集中ですよ』
不安でもしあわせへと 繋がる道が
見えてきたよな 青空
『名前で呼ぶから……。凛。花陽』
『真姫ちゃーん! 真姫ちゃん真姫ちゃん真姫ちゃーん!』
『ふふっ、真姫ちゃん』
時々雨が降るけど 水がなくちゃたいへん
乾いちゃだめだよ みんなの夢の木よ育て
『友達、なんだから』『にこちゃん達のいないμ'sなんて嫌なの!』
『ハラショー!』『ホント、面倒くさい人やね』『私を本気にさせたらどうなるか、見せてあげるわ!』
「さあ!」
歌えなかった。これ以上声を出したら、涙が止まらなくなりそうだったから。
だってこの曲は、私だけの曲だったのだ。誰に聴かせるつもりも無い、どうせ無理な道だと勝手に諦めて、くすぶるように作った曲。それが、その曲が、
大好きだばんざーい!
『μ'sの曲は私が作ったんだから!』
『真姫ちゃんが作ってくれた曲だから!』
『あそこのステップ、私が考えたのですが』『大好きだよ♪』
まけないゆうき 私たちは今を楽しもう
『私も少しは応援してあげるって言ったでしょ?』『一番似合うわよ、凛が』
『……うん、楽しい』『待たせた罰だよっ!』
大好きだばんざーい!
『参考までに貸して、部長のオススメ』『……ありがとう』
頑張れるから 昨日に手を振って
『音楽が大好きで』
ほら前向いて
『μ'sミュージックスタート!』
私一人の曲だったのに、広がった。繋がった。皆に伝わった。
「ねえ、みんな一緒に!」
ラララ ラララララララ ラララ ラララ ララララララララ
私の音楽に光が灯って、皆が歌ってくれている。
ラララ ラララララララ ラララララララララララ
音ノ木坂の、全校生徒が、歌っている。私はもう、涙をこらえるのに必死だった。それでも、鍵盤を叩く指は止めない。この時間を、終わらせないように。この奇跡が、少しでも長く続くように。
ラララララララララララ
本当に、ありがとう。私にとって、μ'sはかけがえのない宝物。
大好きです。
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