園田海未生誕祭2017
海未ちゃんハッピーバースデー!
「海未ちゃん! 海未ちゃん海未ちゃん海未ちゃ〜ん! 海未ちゃんっ!」
放課後、元気すぎるアホの申し子リーダーが、作詞担当へ飛び跳ねながらハグをかました。
「一度呼べば分かります! あまり騒がないで下さい!」
案の定海未の注意が飛ぶが、今回ばかりは穂乃果も怯まない。
「だって明日は海未ちゃんの誕生日だよ! お祝いするよ!」
「まったく……」
本気で怒れば大人しくなるとは思うが、自分の為にはしゃぐ姿を見るとそう簡単な話ではない。
「海未ちゃん、誕生日プレゼント何が欲しい?」
「何でもいいですよ、穂乃果がくれる物なら」
「もう! 海未ちゃんそればっかり! 分かんないよぉ!」
本当に何でもいいのだ。穂乃果がくれる物なら。
「大体、穂乃果はちゃんと考えてプレゼントしてくれた事がありましたか?」
「へっ? えっとぉー……それは……」
「ご近所の犬を勝手に連れ出そうとして吠えられたり」
「うっ……」
「消しゴムを買おうと思ったら無駄遣いでお金が足りなくて駄々をこねたり」
「ううっ……」
「決められないからとことりに泣きついて、散々連れ回したり」
「うううっ……」
「サプライズにすると私の前で宣言して、頭を抱えたり」
「海未ちゃぁん!」
堪らず叫んだ穂乃果に、やれやれと苦笑を浮かべる。
「ーー頑張って作ったの! 海未ちゃんおめでとう!」
そんな海未に、ふとした記憶が蘇った。
「そういえば、一度だけ、ちゃんとしたプレゼントを貰った事がありましたね……」
「?」
独り言が聞こえなかったのか、穂乃果はキョトンと首を傾げた。
「……そうですね、穂乃果。一つだけ、欲しい物がありました」
「おっ、何々?」
「それはですね……」
夜、
「ああんもう分かんないよ〜!」
「お姉ちゃんうるさい! 勉強の邪魔!」
思わず叫んだ穂乃果に、雪穂から叱咤が飛んだ。
「いくらあんたでも、一人で作るのは無理じゃない? 手伝うわよ?」
「お母さんは下がってて! 海未ちゃんに頼まれたの! “穂乃果の作ったおまんじゅう”が食べたいって!」
「変な所で頑固なんだから……」
穂乃果は台所で、和菓子作りに格闘していた。普段手伝いはしていても、全行程を一人でやるとなると穂乃果でも分からない部分が出てくる。その度に叫んでは、失敗してを繰り返していた。
「せっかく海未ちゃんが食べたいって言ってくれたんだから、絶対に作ってみせるんだから……。あんこ飽きたけど!」
いらぬ一言を挟みながら、作業を続ける穂乃果。
「…………」
その背後に、近付く影。
「あ、お父さん。……お父さんでも手伝っちゃダメだからね! これは穂乃果一人で作るの!」
無下に拒否された父だったが、
「…………」
一枚の紙を差し出した。
「これ……簡単なおまんじゅうの作り方?」
「…………(グッ)」
「ありがとう! お父さん!」
親指を立てた父親の背中にお礼を言うと、穂乃果は向き直って腕まくりをする。
「よーし! 海未ちゃんがビックリするくらい、美味しいおまんじゅう作っちゃうんだから!」
翌日、待ち合わせ場所にやってきた穂乃果に、海未は挨拶する。
「おはようございます、穂乃果」
「あ、海未ちゃんおはよー。お誕生日おめでとう」
「あ、ありがとうございます……」
いやにローテンションの穂乃果に、海未は戸惑う。
「どこか……調子でも悪いんですか? それなら無理はしない方が……」
「んー、穂乃果は元気だよ。元気だけど……」
「?」
首を傾げた海未に、穂乃果は小さな紙袋を差し出した。
「これ、約束のおまんじゅう」
「ああ、ありがとうございます」
「けど……」
「?」
すでに紙袋を開け始めていた海未は、再度首を傾げる。そして、おまんじゅうを取り出す。
「これは……」
その手には、かなり歪なおまんじゅう。商品として売り出せば、間違いなくクレームが来るであろう出来だった。
「ごめんね、全然上手く、作れなくて……。和菓子屋の娘なのに……海未ちゃんの誕生日で、せっかく海未ちゃんが欲しいって言ってくれたのに……。穂乃果、下手くそで……」
「…………」
いつ以来だろうと思うほどにしおらしい元気印の幼馴染を見つめながら、
「……はむっ」
海未はおまんじゅうを口にした。
「海未ちゃん……?」
「ふむふむ……。確かに、お父様の足元にも及びませんね。まだまだ修行が足りないようです」
「……その通りです」
否定もできない穂乃果は、うなだれるのみ。
「……ですが、私が食べたかったのはこの味です」
「…………?」
「覚えていますか? もうずっと昔、穂乃果は私へのプレゼントとして、お店の材料を勝手に使っておまんじゅうを作った事がありました」
「そんな事……あったっけ……」
「ありましたよ。失敗してかなり材料を無駄にして、こっぴどく叱られてました」
「ぜ、全然覚えてない……」
「あなたは叱られすぎなんです。だから、毎回毎回反省が足りないんですよ。分かりますか?」
「はい……」
「話が逸れましたね。その時、何とか完成したおまんじゅうを、あなたは私にプレゼントとしてくれたのです。このおまんじゅうは、あの時と同じ味がします」
「それって穂乃果、全然成長できてないって事じゃ……」
「そうとも言いますね。ですが穂乃果、これだけは忘れないで下さい」
私が好きなおまんじゅうは、あなたが作ってくれた、このおまんじゅうの味なのですよ。
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