新しいわたしになるために
こんなやり取り、あったんじゃないでしょうか
pixivに上げたものをこちらにも。 何故か直せない文字化けがあります。ごめんなさい
これは、無事にファッションショーを終え二年生が修学旅行から帰ってくるまでの、短い物語。
感動のファッションショーの翌日。絵里が休養日と決めたため、練習は休み。
花陽は、秋葉原の駅前にて待ち合わせをしていた。もちろん初めてではないし、μ’sに入る前はほぼ毎週。それでも、“こんな事”は久しぶりだし、嫌でも服装から気合が入ってしまう。結果として、通りかかる人には視線を送られるし、中にはμ’sである事に気付いた人もいた。__流石に、話し掛けてくる人はいなかったが。
「…………」
つい自分の服装を見下ろして、少しだけ不安になる花陽。
にこや絵里と違い、ファッションには疎め。できる限りのお洒落はしてきたつもりだが、やはり自信は無い。そもそも、相手はつい先日__というか昨日、殻を破って成長したばかりである。気後れするなと言う方が無理である。特に、花陽の場合は。
花陽はケータイを取り出して、昨日の写真を眺める。
「やっぱり、可愛いなぁ……。私より、ずっと……」
「__か〜よちん!」
そこまで考えていると、遠くから聞き慣れた声が聞こえてきた。
「あ、凛ちゃん」
いくら悩んでいても、大好きな幼なじみの声。自然と口元が綻ぶ。
「お待たせー! かよちん、やっぱり早いにゃー。 凛、勝った事無いもん」
「楽しみだったから__」
笑顔でそこまで言った花陽は、凛の服装を見て目を丸くする。
「え、ええ⁉︎ 凛ちゃん、ズボンなの⁉︎」
「あ、うん」
凛の服装は、女の子としては些か__いやかなり地味なものだった。
「どうして……?」
せっかくコンプレックスを打ち破ったと思ったのに、これでは逆戻りではないか。
「うーん、やっぱりかよちんの格好可愛いにゃ〜。お洒落だよね!」
「そ、そんな事……」
凛の発言に相変わらず照れる花陽だが、問題はそこではない。幸い、凛の方から話を振ってきた。
「実は今日、服を買おうと思ってるんだ〜」
「え? 服を?」
「うん。かよちんやみんなみたいな、可愛い服! ……凛に似合うかは、分からないけど……」
「似合うよ! 絶対似合う!」
反射的に、花陽は叫んでいた。
「ホントに?」
「うん!」
すると凛は明るい笑みを浮かべると、
「じゃあかよちん、一緒に選んでよ!」
花陽の手を取って走り出した。
「わわっ、凛ちゃん、待ってよぉ〜……! 自分で走るからぁ!」
と言いながら、花陽は笑顔を止める事ができない。
__凛ちゃんは、変わろうとしている。もっと可愛く、大好きな存在へ。
最初に到着したのは、花陽がよく利用する大通りにある洋服屋だった。
「すごーい! 女の子っぽい服がこんなにたくさん!」
「凛ちゃん! お店で騒いだら迷惑だよ!」
案の定はしゃぎ回る凛をなだめる所から、このショッピングは始まる。それでも、花陽は嬉しい。少し前まで、二人でこんな場所に来るなんて思わなかったのだから。
「ね、ね、かよちん! どれがいいかなぁ!」
早速目を輝かせる凛に、花陽も真剣に考え始める。
「うーん……でもまずは、凛ちゃんがいいと思ったのを試着してみた方がいいんじゃないかな」
「そっかー。じゃあ、これとこれとこれとこれと__」
「そ、そんなに⁉︎」
凛は手当たり次第にも見える勢いで服をかき集めると、試着室へ消えていった。
「もう……凛ちゃんは……」
呆れながら見送った花陽は、小さく笑う。
「__じゃーん! どうどう?」
一着目に着替えた凛が、カーテンを開けた。
「わぁ…………」
フリル多めの長袖シャツに、膝上のプリーツスカート。花陽は一瞬、言葉を失った。文句無しに可愛かった。
しばらく眺めていたかった花陽だが、
「じゃあ次ね!」
と凛はカーテンを閉めてしまう。
「あ……」
何も言えなかった花陽の目の前で、再び開くカーテン。
「どうどう?」
今度は黄色のワンピース。
「可愛い……っ。可愛いよ凛ちゃん!」
「そ、そう? なんか照れるにゃ」
はにかんだ凛は、着替えるためカーテンを閉じる。
「…………」
その時間をぼんやりとしていた花陽は、
「__あ、」
ふとある事を思いついた。
「かよちんこれは? __かよちん?」
凛がカーテンを開けると、花陽はちょうど耳からケータイを離す所だった。
「どうかしたの?」
「うん、ちょっと」
首を傾げる凛に、すぐに分かるから、と花陽は笑う。
「__それより凛ちゃん、その服も似合うね!」
「ホントに?」
「うん!」
「じゃあ、もっと色々着てみるにゃ!」
そう言って、カーテンの往復運動が始まる。
時は飛んで、お昼時。場所は、凛常連のラーメン屋。
「凛ちゃん……凄かったね」
注文した後、花陽が呟いた。
結局凛の勢いは止まらず、あのまま十五着以上を試着した。
「__でも一つも買わなかったね……。どうして?」
凛の服装は、最初のズボンにシャツ。隣の花陽と比べると、どちらかは浮く。
質問をぶつけられた凛は、微妙な笑顔をする。
「う〜ん……。何かね、ホントに似合ってるのかな、って思っちゃって」
「ええ⁉︎ 似合ってたよ⁉︎」
「凛もそう思いたいけど……かよちん優しいから……」
「そんな事ないよ!」
「でもかよちん、同じ事しか言ってなかったし……」
「それは……」
花陽は自分の語彙力の無さを呪った。
「やっぱり凛は、今まで通り端っこで目立たないように__」
「そ、そんなのダメだよ!」
思わず花陽は立ち上がっていた。当然、周りから視線が集まる。
「か、かよちん?」
「凛ちゃんは可愛いよ! 可愛い服も絶対似合う!」
拳を握って力説する花陽に、凛は苦笑を向ける。
「____」
なおも花陽が何か言おうとしたが、
「あの……お待たせしました」
二人の空気を察してか、すこぶる言いにくそうにラーメンを持ってきた店員がトレーを置いた。
「来た来た! 美味しそうだにゃ〜。かよちん、食べよっ!」
話はお終い、とばかりに意識をラーメンへ向ける凛。
「う〜ん、やっぱりラーメンは最高にゃ!」
一見無邪気そうにラーメンをすする凛を横目に、
「凛ちゃん……」
花陽も箸を持った。
ラーメン屋を出た二人は、
「ちょっと、駅前に戻ろ」
という花陽の言葉で駅前に戻ってきた。
「どうかしたの?」
と凛が訊いても、
「うん、ちょっと」
としか言わない。__だがその疑問は、幸いすぐに解決した。
「あ、あれ? 真姫ちゃん?」
駅前でそわそわとしている人影を見つけたからだ。
「どうして真姫ちゃんが……?」
凛は別の疑問に首を傾げつつ、真姫に近づく。
「遅いわよ!」
「ええ⁉︎」
開口一番そう言われた。凛は慌てるしかない。
「でも待ち合わせの時間はまだだよ?」
その後ろから花陽が声をかける。
「い、いいじゃない早めに来たって!」
腕を組んでそっぽを向く真姫。
「待ち合わせ?」
「うん。私が呼んだの」
「なーんだ。言ってくれればよかったのに……」
「ごめんね」
「大丈夫にゃ!」
「はいはい、そのやり取りはもういいわ」
放っておいたら自分達だけで世界を構成しそうな二人を制し、真姫は先導するように歩き出す。
「花陽から大体の事情は聞いたわ。__凛」
「な、何?」
「あなた、私たちが言った事、忘れたの?」
「それは……覚えてるけど……」
「けど?」
「小学生の頃から、ずっと無理だ、似合わない、って思ってきたんだもん。ファッションショーの時は、みんなが、かよちんと真姫ちゃんがいてくれたから__」
「いつだって一緒よ!」
「……え?」
うつむきがちだった凛に、大きな声が飛ぶ。
「凛が困って、勇気が出せないなら、いつでも何度でも一緒にいてあげる! 背中を押してあげる!」
「真姫ちゃん……」
「私も同じだよ、凛ちゃん」
「かよちん……」
「昔からずっと思ってる……。__凛ちゃんは、可愛いよ!」
「…………!」
花陽は、凛の右手を取る。
「前にも言ったでしょ。可愛い格好ならメンバーの誰よりも似合うって。……まったく、何度も言わせないでよね!」
真姫は、凛の左手を取る。
「さっきの、服を選んでる凛ちゃん凄く可愛かった。絶対大丈夫!」
「私と花陽に考えがあるの。__行きましょ」
二人揃って凛の手を引っ張り、「どこに」と訊いた凛の質問に同時に答える。
「「____!」」
「__ええーっ⁉︎」
真姫を加えた三人は、再び洋服屋に戻ってきた。
「ね、ねえ、本当なの?」
「当たり前でしょ。そのくらい当然よ」
「はい、凛ちゃん!」
花陽は、選んできた服を手渡す。
「一着だけなの? もう幾つかあった方が__」
戸惑い気味な凛に手渡した花陽は、真姫に首を横に振る。
「ううん。これでいいの」
「これ……!」
受け取った服を見て、凛は目を丸くする。
「ずっと見ていたよね、凛ちゃん」
「……やっぱり、かよちんには敵わないにゃ」
苦笑を漏らした凛は、試着室へと消える。
それから音も無く移動してきた真姫が、
「ナイスアイデアね」
「うん、でも、真姫ちゃんがいなかったら、きっと説得できなかった」
「お人好しだものね」
「……うん。どうしても、凛ちゃんの気持ちを考えちゃって」
「どっちも間違ってないわよ」
「えっ?」
「凛の気持ちを考える事も、その結果がこのアイデアなのも」
「……そうだと、いいな」
「自信持ちなさい。誰よりも凛の事を理解できるのは、花陽なんだから」
「うん、ありがとう」
そこまで話した所で、カーテンが開く。
「ど、どう……?」
姿を現した凛に、
「すっごく可愛いよ! 凛ちゃん!」
「そうね。似合ってるわ」
花陽も一応真姫も、絶賛する。
「でも、やっぱりスカートは……」
「何言ってるの。似合ってるのにもったいないわよ」
「でもこれ……毎日着るものだよね?」
「そうよ。__練習着だもの」
普段からスカートを着用する。それこそが、花陽の考えたアイデアだった。
「凛ちゃん」
花陽は、いつかのように凛の手を優しく握る。
「私は心から思ってる。誰が何と言おうと、変わらない。__凛ちゃんは、可愛いよ!」
「!」
「私もそう思う。試しに来てみなさいよ、練習。みんなも笑ってくれるわよ」
「かよちん……。真姫ちゃん……」
「ほら、ちゃんと見てみなさいよ」
真姫が視線を試着室の鏡に向ける。釣られて凛がそちらを向くと、
二人は優しく、そして力強く、その背中を押してあげた。
数歩前に出た凛は、鏡に映る自分の姿を見つめる。
「…………」
そのまま一回転。
しばらくそうしていた凛は、二人に向き直る。
こんな自分に勇気をくれた、可愛いと言ってくれた、一緒にいてくれた。
そんな二人に、照れたようにはにかんだ。
その翌日。今日から練習が再開。少し準備に手間取ってしまった。みんなもう揃っているだろう。
一歩一歩、踏みしめるように階段を登る。踊り場で一息、深呼吸。それからドアを開けた。
真っ先に反応したのは、穂乃果だった。「おお!」と顔を輝かせる。三年生は、少なからず事情を知るせいか小さく微笑むにとどまった。
最後に凛は、視線を向ける。
花陽も真姫も、満面の笑み。自分の事のように喜んでくれている様子が伝わってきた。
笑みを浮かべた凛の頬を、そよ風が撫でる。
「__さあ! 今日も練習、行っくにゃーっ!」
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