雪舞う聖夜は、温もりと共に
オリジナルのクリスマス小説。とりあえずリア充爆ぜろ(祝砲)
十二月二十一日。高校生になって初めての冬休みまで、残り一週間。月曜日でありながら、校内のテンションは高い。
この高校このクラスに明確なカーストは存在しないが、リーダーシップを発揮し率先して前に出たがるグループは存在する。
男子二人、女子三人のそんな彼らは、終業式の日、クリスマスにどこに行くかを楽しそうに話し合っている。
部活をやっていようがお構いなしだ。ほとんどは恋人を作り、リア充ライフを満喫しているのだ。
「__どうせなら、クラスみんなで遊ばない?」「いいねえ! 賑やかな方が楽しいもんね!」「なるべく多くの人を集めたいよね!」「目指せ全員集合!」
そんな会話が聞こえてくる。そして、周りのクラスメイトに予定を訊いて回り始めた。……正直な感想としては、彼らは決して『嫌なヤツら』ではない。シッカリ周りを見て、なるべく大勢で楽しもうとする。よくマンガで見るような『腐った一軍』みたいな性格の人は一人もいない。
「__竹木君は? クリスマスパーティ行けそう?」
だからこうして、教室の隅で一人ゲームをしている俺にも声をかけてくる。
「あー……まだ分からないけど、考えておくよ」
だが俺だって、クラス内の立場は分かっている。俺がいても盛り上がるはずないし、何なら盛り下げる自信がある。……言ってて悲しいな。
「おーそっか。じゃあ行けるか分かったら教えてな!」
俺の曖昧な返事にも、笑顔で応える。……人間できすぎじゃないですかね。
彼らはさらに他のクラスメイトに訊いて回り、俺も注意をゲーム内に戻す。__あ、理想個体産まれた。
「__それ何のゲーム?」
「っ⁉」
いきなり背後から声をかけられ、情けない事にビクッと肩が跳ねた。
振り返ったそこには、
「あ、もしかしてポケモン? 懐かしい! 今ってこんな感じなんだ〜!」
無邪気な声を上げる女子生徒。
日向短冊(ひなたいのり)。その珍しい名前は勿論、若干天然混じりの裏表なく明るくフレンドリーな性格で、中心グループの一人だ。グループで唯一恋人がいないが、『友達付き合いの方が楽しい』という周囲の認識も納得のポジションにいる。
「奏多(かなた)君、ポケモンやるんだね!」
「ああうん……まあね」
というより、空き時間のほぼ全てをつぎ込むくらいのめり込んでいるのだが、言わない方がいいだろうな。
「ね、ね、奏多君は何のポケモンが好きなの?」
そう言って日向さんは、肩越しにゲーム画面を覗き込む。
「え、えっと……」
真横、ゼロ距離に異性の顔があれば、免疫の無い男子は思考が停止してしまう。シャンプーらしき匂いが鼻腔をくすぐり、さらに……その、微妙に胸部の膨らみが……。本人は気付いていないようだが。
「あ、もしかして秘密、とか?」
「いや、そうじゃないけど……」
「む〜、分かった! それならこっちにも考えがあるもんね!」
考え? というか話聞いて欲しい。
ようやく身体を離した日向さんは、キラキラした顔をこちらに向ける。
「明日、楽しみにしててね!」
そう言って、他の輪に混ざっていく。
「__短冊、どうかしたの?」「ちょっとね! 楽しくなりそうな事見つけちゃったかも!」「えー? 何それ教えて教えて!」「ふっふっふ、まだ秘密〜!」
「…………」
俺は呆然としながら、ゲーム画面に視線を落とす。……とりあえず、今はこれ以上プレイするのは難しそうだ。
翌日、昼休み。日向さんは何も言ってこないし、教室は騒がしくて苦手なので屋上へ向かう。
この時期は風が冷たいし、何より暖房が無いので屋上はかなり寒い。
だがそれが幸いしたのか、晴れた日でもまったく人がいない。
購買のパンをミルクティーで流し込むと、ゲーム再開。昨日は途中で終わっちゃったし、今日は別のポケモンを__
「奏多君、発見!」
座り込んだ俺を真上から覗き込むように、日向さんが笑顔を見せた。顔を上げれば、当然至近距離で目が合う。
「え、な……」
「も〜、探したよ? こんな寒い日に屋上にいるなんて、普通思わないよ〜」
じゃあ何で分かったんだ? という俺の疑問を感じたのか、
「超能力!」
とVサインを作る日向さん。いやいやいや……。
「というのは冗談で、コッソリ尾行してきたの! ワクワクしたな〜」
尾行されてたのかよ。考えもしなかったよ。
「それで……わざわざ寒い屋上まで来て何か用?」
すると日向さん、少し頬を膨らませた。
「むう。昨日ちゃんと、『楽しみにしててね』って言ったじゃん!」
いや言ってたけどさ、クラスの中心人物がぼっちに用事とか、普通あると思わないじゃん。
「実はね……」
日向さんはポケットをまさぐると、
「__じゃーん!」
取り出したそれを目の前に掲げてみせた。
「これ……DS?」
「うん。昨日奏多君がやってるの見て、懐かしくなっちゃって。買っちゃいました!」
マジかよ。凄い行動力だな。
「でも、最初のポケモン何にしていいか分からないし、色々新しくなってて不安だから……」
日向さんは一度言葉を切ると、俺の横に腰を下ろす。それからこっちを向くと、
「だから、教えて下さい!」
いつもの笑顔を見せた。
肩が触れ合う近さに緊張しながら
「ええとまあ……最初は何選んでも平気だと思う」
なんとかそれだけを口にする。
「欲しいポケモンがいれば、あげるよ」
「ホントに⁉ 嬉しい!」
日向さんはDSを起動し、プレイ開始。とはいえ、昼休みの時間は限られている。十分ほどプレイした所で、予鈴が鳴ってしまった。
「もう時間かー。家帰ったら続きやろっと!」
日向さんは勢いよく立ち上がると、
「うぅ〜……やっぱり寒いよここ」
「そうかな……?」
「明日から教室でやらない?」
「……人が多いの、苦手なんだ。それに俺、割と寒いの平気だから」
「そっか。分かった! でも寒いの平気なんて、羨ましいなぁ……。__そうだ! ちょっと手、出してくれる?」
「?」
俺が両手を差し出すと、
「ギュッ!」
「⁉⁉⁉」
いきなり手を握られた。
「お、ホントだあったか〜い!」
俺が目を白黒させていると、
「これなら明日もここでやっても大丈夫だね! 先に教室戻ってるよ〜」
日向さんは手を振って階段を降りていった。
……ああ、これは夢か。ってそんなワケあるか。
仄かに残る手の温もりを感じながら、俺も階段を降りた。
翌日、授業が終わるとすぐに屋上へ向かい一人パンをパクつく。……今日は風が強いな。
日向さんはいない。恋人無しであの性格だ。クラスでの人気は、隠せないほど高い。そんな彼女が俺と並んで歩いた日には、どうなるか分からない。
「__お待たせ奏多君! 今日もポケモン頑張ろう!」
元気よく屋上のドアを開け放つ人影。……いやまあ、昼休みにこうして二人きりでいる時点で、すでに色々アウトな気がするのだが。
「見て見て! バッジ三つ目までゲットしたよ!」
日向さんが嬉々として見せてくれた画面を見て、正直驚いた。
どれだけプレイしたのか知らないが、効率を知らなければかなり早いペースだ。
「日向さん、ポケモンの才能あるのかもね」
「む……」
褒めたつもりだったのに、機嫌を損ねたっぽい。……何で?
「奏多君、その『日向さん』ってやめてくれない?」
「はい……?」
「私には『短冊』って名前があるの。だから、そう呼んで」
「え、いきなりそう言われても……」
同年代の女子を名前で呼んだ経験など、勿論ない。抵抗どころの話じゃない。
「私だって、『奏多君』って呼んでるじゃん。……それとも、お互い呼び捨ての方がいい?」
ごめん絶対無理。
「じゃあ名前で呼んでね! ハイ決定よろしく!」
そう言って、俺の右手を握ってブンブン振る。……ナチュラルに手を握ったりしないで欲しいなぁ……、日向さ__短冊さん。
「よしそれじゃあ今日もポケモンやろっか!」
俺の隣に腰を下ろし、ゲーム開始。……と言っても、ストーリーなどとっくに終えて厳選孵化作業に勤しむ俺と短冊さんでは、通信してもほとんど意味が無い。
なので、
「あ、ソイツの弱点は水タイプだよ」
とか、
「そこの民家でアイテム貰えるよ」
とか、
「次のジムリーダーは炎タイプの使い手だよ」
とか、進める短冊さんに適宜アドバイスを出すくらいだ。その間、俺の主人公はひたすら自転車を漕いでいる。
「奏多君、物知りだね〜。何でも知ってる!」
「何でもは知らないよ。知ってる事だけ」
人生で一度は言ってみたいセリフの一つだろう。……まさか言う機会があるとは思わなかったけど。
「ほぇ〜、名言だね。じゃあ経験知識の差かな? __プレイ時間どのくらい?」
「俺はもうすぐ四〇〇時間。孵化したタマゴは三〇〇〇体ちょっと」
「四〇〇⁉ 三〇〇〇⁉」
ポケモン廃人以外に話すと大体返ってくる反応だ。結構楽しい。
「それは詳しいワケだよ……。五時間の私なんて、初心者ですらなかったんだね……」
まあぶっちゃけその通りなのだが、そう言うワケにもいかないので、
「これからだよ」
とフォローしておく。
「あ、ポケモンゲットできた! __っ」
楽しそうにプレイしていた短冊さんが、急に震えた。
「どうかした?」
「ちょっと、寒くなってきちゃった……」
ああ、今日は風が強いからな……。短冊さんの校内での服装は、カッターシャツの上にセーターを着ただけだ。そりゃあ寒いよな。
「……これ、よかったら」
俺はブレザーを脱いで、差し出す。……う、やっぱり寒いな。
「いいの? 奏多君寒くない?」
「昨日も言ったけど、寒いのは割と平気だから」
「じゃあ、遠慮なく……」
短冊さんは俺のブレザーを着込むと、サイズ違いからか袖口から指先だけを出した。……あ、『萌え袖』ってヤツだ。無自覚でやるあたり、短冊さんらしい。
「えへへ……あったかい」
これは……本気で勘違いしそうになるな。自分に言い聞かせないと、あらぬ方向へ突っ走りそうだ。
翌々日。クリスマスイブ。今日の授業は午前中で終わりだ。
……昨日の天皇誕生日? ニートに決まっているだろう。
午前授業である以上、昼休みも無い。短冊さんも放課後はクラスメイトとの付き合いがあるだろうし、帰宅部の俺はさっさと帰る。今日はネットに潜ってランダム対戦でもしようか。
「__ドーン!」
「っ⁉」
唐突に、背後に衝撃。一瞬詰まった息を吐き出しながら振り向くと、
「えへへ、ビックリした?」
短冊さん。こんな俺に絡んでくれるのは、彼女くらいだしな。
「一人なの?」
その口ぶりから、この人には『ぼっち』という観念が存在しない事を痛感させられる。
「そうだけど……短冊さんは?」
「みんな部活とか役員活動とかで、どこか行っちゃった」
「ああ、そうなんだ」
そういえば、短冊さんは帰宅部なんだっけ。
「奏多君は? 部活とかは?」
「帰宅部だよ。今日は帰るだけ」
「おっ、じゃあ一緒に帰ろっか!」
「え……?」
あまりにも唐突すぎて、言葉を失ってしまった。
するとそれを否定と受け取ったのか、短冊さんは悲しい顔をする。
「嫌だった……?」
「い、いや全然! ちょっとびっくりしただけで」
「ホント? よかった〜」
安堵の表情を浮かべた短冊さん。
「あ、どこか寄り道してく? マック? ミスド?」
当たり前のように出てくるその選択肢、俺は未体験なんですが。
「うーんでも、今月厳しくて……」
「奢ろっか?」
「いやそれはマジで大丈夫」
クラスメイトに奢らせるとか、できるワケないだろう。
「ん〜じゃあ寄り道はまた今度だね」
短冊さんのその言葉に、密かにホッとする。金欠なのはウソではないが、本当の理由は別にある。__と言うのも、一年で知らぬ者などほぼいない短冊さんが、学校帰りに俺なんかと寄り道している現場を目撃されてみろ。最悪転校を考える必要があるかもしれない。
短冊さんと並んで帰りながら、ポケモン談義に花を咲かせる。正確には、彼女の質問に俺が答える形なのだが、そのくらいの語弊は許してもらおう。
短冊さんの元々お喋りな性格が功を奏したのか、質疑応答の形式でも沈黙が訪れない。そのまま電車に乗り、先に到着した短冊さんの最寄り駅まで会話が途絶える事は無かった。
「はー楽しかった! また明日ね奏多君!」
俺は緊張しっぱなしだったが、確かに楽しかった。こんなに話をしたのは久しぶりだ。
降りる間際、
「__あ、奏多君、明日二人でポケモンショップ行こっか!」
短冊さんはそんな事を口にした。
「は__?」
俺が訊き返そうとした時には、電車のドアは閉まっていた。その向こうで笑顔で手を振る姿。
「…………」
短冊さんの連絡先を知らない俺は、先ほどの言葉の真偽を確認できない。というか、明日ってクラス会みたいな事するって話してなかったか? 俺は元から行く気なかったからいいけど、短冊さん行かないつもりか……?
翌日、クリスマス。疑問でモヤモヤしたまま、学校へ向かう。
何事もなく終業式が終わり、芳しくない通知表を貰うのも小学校から変わらない。
今日はそのまま放課となり、俺の記憶通りガヤガヤとクラス会の企画を話し合い始めた。俺も空気を読んで、その場に残る。……本音は今すぐ帰りたいけど。
「短冊は? 何かいい案ない?」
一人が短冊さんへと意見を求めると、
「あーごめん! 実は今日、予定が入っちゃって……。行けなくなっちゃったの!」
短冊さんはそんな事を言い出した。
どよめきと驚きが教室を包み込んだ。……だが一番驚いたのは、間違いなく俺だ。
「え、マジで? 家庭の事情的な?」
「うーん違うんだけど、個人的な用事があって」
「そっかー……。短冊来られないのはマジ残念だけど、仕方ないか。__また改めて遊ぼうな!」
「うん!」
そう頷いた短冊さんが、一瞬こちらに視線を向けたのに、気付いてしまった。……いや、嘘だろ? クラスの付き合い放り出してまで優先する事か?
__結局短冊さん抜きで話が進んだクラス会は、ファミレスでの食事会に決まった。
ようやく解放された俺は、あえて短冊さんに気付かれぬよう教室を出た。あまり深い意味は無い。ただ、昨日の短冊さんの言葉が、冗談だと信じたかったのだ。きっともっと大事な、別の用事があるに違いない。
駅に到着した所で、
「__おーい奏多君! どうして先に行っちゃうの〜!」
短冊さんに追いつかれた。
「昨日、一緒に出掛けようって言ったじゃん!」
プンスカ怒っている短冊さんは、やっぱり可愛い。けどそれが、俺に向いているという事実が謎すぎる。
「……ごめん、本気だと思わなくて」
「どうして?」
「どうして、って……それはこっちのセリフだよ。どうしてクラス会を断ってまで、俺なんかと……」
すると短冊さん、俺の言葉を遮って人差し指を立てた右手を突き出した。
「俺“なんか”っていうのはよくないよ?」
イタズラっぽい笑み。
「……ごめん。__でもどうして……」
「それは、後で教えてあげる。__だから絶対に来てね! 一時間後に奏多君の駅ね!」
そう言って短冊さんは、改札口への階段を駆け上っていった。
「…………」
……最近俺、こうやって取り残されてばっかだな。
五十分後、準備を済ませて駅に向かった。女子と出掛けるなんて人生初だから、どんな格好すればいいのか分からなかった。できるだけオシャレをしたつもりだが、そもそも素材が地味だった事に気付いた。……豚に真珠だ。
待つ事五分。
「お待たせ〜! 奏多君早いね!」
短冊さんがプラットホームからやってきた。
「いや、今来た所だよ」
「本当は?」
「五分前__あっ」
「奏多君、正直だね〜」
「…………」
言い慣れないセリフを口走った結果がこれか。
「じゃあ行こっか。__ちゃんとポケモン持ってきた?」
「まあ一応」
「じゃあ色々教えてね! 殿堂入りまでもうすぐだから!」
電車に揺られ、横浜へ到着。
「横浜には何度か来た事あるけど、ポケモンショップには来た事なかったな〜」
「ポケモンセンターっていうんだよ」
「何を回復してくれるの?」
「っ…………」
笑わせないでくれ……!
「いやいや、そういう店の名前なんだよ」
「え、そうだったの⁉ 私今、凄い恥ずかしい事言ったかも! ……忘れて、ね?」
変なタイミングで上目遣いしないでくれ……! 天然怖い。
だが短冊さん、一歩店に入ると、
「あ、可愛い〜! これピカチュウ? あ、ぬいぐるみもある! ストラップも可愛い〜!」
全てを忘れたかのようにはしゃぎまくる。何だか一気に幼くなったな。
さて、じゃあ俺も目的を果たすかな。__ここでしか配信されない特別なポケモンをゲットするために!
ポケモンセンターでの買い物を終えて外に出ると、すでに真っ暗だった。
「わ、見て、イルミネーション!」
短冊さんが指差した先には、赤、青、緑、オレンジ、白、色とりどりに輝くイルミネーション。
「きれい……」
イルミネーションを見つめる、負けじと輝くその瞳に見とれていると、
「ん?」
不意に目が合った。
「あっ、ごめん」
「何で謝ったの?」
「……何となく」
会話が途切れる。
「……あの、」
たまらず、ずっと疑問に思っていた事を訊いてみる。
「何で、俺と一緒にいるの? 本当なら、もっと楽しいクラス会にいるハズだったのに……」
「それ、今訊いちゃうの?」
半ば呆れ声で、短冊さんは苦笑する。
「だって、気になってたから」
「まあいつか言おうと思ってたから、同じ事か」
短冊さんは俺に向き直ると、目を閉じて大きく息を吸った。それから目を開けて、俺を見据えた。
「__私、奏多君の事が好きなの」
「………………………………え?」
「もう! 何その反応!」
「ご、ごめん。だって、どうして急に……」
「奏多君が言えって言ったんじゃん! 気付かなかったの?」
「うん……全然。考えもしなかった」
「最初は、何のゲームしてるんだろうな〜、って思って声を掛けたんだ。ほら、奏多君、クラスから孤立気味だったし、同じ趣味を持てば少しは打ち解けられるかな、って思って」
その考えに脱帽だよ。いい人すぎる。
「でも、やってみたポケモンは凄く面白くて、それに詳しい奏多君は凄いなって思って……」
段々声が小さくなっていき、
「も、もうおしまい! これ以上はダメ!」
ええー……? 結局、きっかけ分からないんだけど……。
「……返事、聞かせてもらえる……?」
「…………」
正直、迷っていた。何しろ、今までこんな体験無いのだ。……ドッキリを、疑ってしまう。
「……もしかして、私の事嫌い?」
「そんな事ない」
「……じゃあ、疑ってるの?」
「っ⁉」
咄嗟に否定、できなかった。
「私って、信用ないんだなぁ……」
少しだけ寂しそうな顔をした短冊さん。
「いやそれは__」
「__んっ」
唇を塞がれた。__キス、された。
「な…………」
「……私の、本気の気持ち。私の、ファーストキス」
顔を真っ赤にして微笑むその表情は、演技で作るのは到底不可能だった。
「答え、聞かせて欲しいな」
答えだと? こんな事までされて、選択肢があるハズがない。
「__俺なんかでよければ、喜んで」
「…………! もう、“なんか”は禁止って言ったでしょ」
泣きそうな笑顔でそう言う短冊さんの顔は、今まで以上に輝いて見えた。
「__あ、見て! 雪! 雪が降ってきた!」
はしゃぐ短冊さんにつられて空を見上げると、白く小さな欠片が、ふわりふわりと舞っていた。
「ホワイトクリスマスだね……」
ぼんやり呟く短冊さんの右手を、俺はそっと握ってみる。
「!」
「や、ほら……冷えるからさ」
「……ふふふっ、そうだね」
短冊さんは笑って、握り返してくれた。
「__さっきの話。何で俺を好きになったの?」
「それ蒸し返すの?」
「だって、気になるし……」
短冊さんは空を見上げながら、
「奏多君は、どうして人間が地球上に生きてるか、考えた事はある?」
「はい?」
突拍子の無さすぎる質問に、素で訊き返してしまう。
「無いでしょ? 私だって無いもん。__だから、」
短冊さんはこっちを向いて笑ってみせる。
「奏多君を好きになった事に、理由なんて無いの。私はそんな賢くないから、ちょうどいい言葉なんて見つけられない。__だから、好きだから好き。それが私の初恋だよ」
「…………」
ははっ、こりゃ敵わないや。
優しく舞い散る雪は、周囲を朧げにしてくれる。そのせいか、繋いだ手の温もりと、その温もりを持つ存在だけが、明確に感じられる。
この手を離したくない。いつまでも、いつまでも。
__ああ……。
メリー、クリスマス。
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