戦国ラブライブ! ♯5
時は乱世。現代から来たスクールアイドルを中心に、そのメンバー達が戦国でも伝説をつくる...!!この乱れた世界の光となれ。
5話目となります!ちょっと色々ありまして、後半の方駆け足となってしまっていますが、ご了承下さい。
では!戦国ラブライブ!ゆっくりとお楽しみ下さい♪
第六幕
番外編
第四幕
【前回のラブライブ!】
穂乃果達一行は福島の綺羅から届いた同盟の書状の返事の為、綺羅家本城、若松城いた。そこで穂乃果は綺羅家当主綺羅ツバサと会う。ツバサも穂乃果と同様に現代からタイムスリップして来たようで、仲間がいたと2人は喜んだ。自分達が見てきた平和な世界をこの時代の人にも見せたい、という同じ志を持った2人は同盟を結び、固い約束を交わした。しかしそこに綺羅を潰そうと上杉が伊達と手を組んで福島へ進軍してくる。ツバサが絶体絶命の状況にあることを知った穂乃果はツバサを助けるためにこの負け戦に出陣した。何とか戦場を駆け抜け、綺羅本陣まで辿り着いた穂乃果であったが、ツバサは逃げることは出来ない、と穂乃果の願いを断る。そして全ての思いを穂乃果へ託し、この乱世にツバサは散ったのであった。
ここ最近は天気がぐずついていた。最後に太陽を見たのはいつだっただろうか。
「穂乃果....?」
穂乃果が部屋から出て来なくなってからどれ位経ったのだろう。
「出て来てはくれませんか....?」
「....嫌だ」
このやり取りを何回繰り返したものか。海未にはもう分からなかった。
「....ではまた明日来ますので....。何かあったら呼んで下さいね」
「穂乃果はまだ出て来てくれないの?」
絵里の問いに海未は力なく首を振る。
「そう....。これはかなりやられてるわね...」
「あぁ、そうでした。にこはどうなりました?」
にこはこの度の戦で肩を撃ち抜かれる重傷を負っていた。
「部屋に行ってみたら?直接確認した方がいいと思うわよ?」
「....そうですね」
「にこ...?入っても良いですか?」
「いいわよー」
いつものにこの声が聞こえてくる。それに海未は少し救われた。
「失礼します、にこ」
「どうかした?....顔が酷いわよ」
そんなに酷い顔をしていたのだろうか、海未は手を顔にやる。
「いえ、にこの具合はどうかなと思い...」
「ん、にこはもう大丈夫よ。....それよりにこはあんたの方が心配なんだけど?」
「え、ええ。私は大丈夫ですから....」
「....そう。無理はしちゃだめよ」
「ありがとうございます...にこ」
次の日も雨だった。黒い雲が上空全てを覆っている。
「今日も雨ですか....」
海未は何日も続く雨にうんざりしていた。
「たまには太陽を見たいですね....」
心の声が漏れる。
『海未ちゃん!』
「ッ!?」
突然聞こえた穂乃果の声に海未は驚いて振り向く。
...しかしそこには誰もいない。
「.......。気のせいですか。....最近疲れてるのでしょうか...?」
「あーあ、今日も雨なの?別に雨の日は嫌いじゃないけど、こんなに続くとさすがに嫌になるわね」
「そうだねー....。そういえば真姫ちゃんとこうやって話すの初めてかもね♪」
「そういえばそうね。ことりとこうやって2人で話をしたことないかも」
「真姫ちゃんいっつもにこちゃんといるもんね〜♪」
「ヴェェ!?べっ別にそんなことないわよ!」
「わぁ、そんなに顔赤くしちゃって♡ 真姫ちゃん可愛い♡」
「うっうるさいわよ!!.....そういえば最近ことりって穂乃果や海未と一緒にいないわよね」
「穂乃果」と「海未」という名前を聞いて、ことりは少し俯いた。
「....うん。最近ちゃんと話してないかな...。穂乃果ちゃんは部屋から出て来ないし、海未ちゃんはそのせいでかなり弱っちゃってるし...」
「...なんかごめんね。変なこと聞いちゃって」
「ううん!全然いいの!真姫ちゃんの赤い顔が見れたしね♪」
「...そう。なら良かったわ。....ことりも無理はしないでね」
「...ありがとう」
「今日も雨やなぁ」
「ええ、そうね。もう嫌になっちゃうわよ」
「最近太陽を見てないなぁ....。高坂の太陽も、ね」
「あの子いつから引きこもってるんだっけ?もう分からなくなっちゃったわ。最近本当に何もないし、雨が降ってるせいで昼間でも真っ暗だし」
「うちも最近時間感覚がおかしくてなぁ。もうさっぱりや」
「太陽....。見たいわね」
「そうやんね。久しぶりに...」
「穂乃果....?」
今日も海未は穂乃果の部屋の前で名前を呼ぶ。
「今日も出て来てくれないのですか...?」
「嫌」
返答はいつもそれだけだった。
「......穂乃果ぁ....」
海未も遂に耐えられなくなったのか、涙腺が崩壊する。
「何で...っ!何で出て来てくれないんれすかぁ..! あいたいれすよぉ...穂乃果ぁっ!!」
今まで溜まっていた分の涙が全て出る。まるでダムが決壊したかのような勢いで流れていた。
「海未ちゃん...」
部屋の中から聞こえた声に即座に反応する。
「ほのか....?」
「入っていいよ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜武田家〜
「御屋形様。高坂攻め、いかがいたしますか」
「出陣はまだせぬ」
「しかし、今なら兵も50000は用意出来ますし、高坂も迎え討つ準備は出来ていないと思う故今攻めるのが得策かと」
「以前、我々は40000の兵で正面衝突して敗北した」
「しかしそれは勝頼殿の暴挙故...」
「いや、わしでも敗北していただろう。鉄砲の連射など、気づいておってもかわして突撃するのは不可能だ」
「では...いかがするおつもりなのですか」
「中から攻める」
「といいますと...?」
「高坂の重鎮、絢瀬にこちらに寝返ってもらい、中から崩壊させる」
「いや、しかし、かようにして」
「絢瀬には妹がいただろう?そいつをだしにしてあやつを脅せばすぐに寝返るはずだ」
「では... 絢瀬の妹を捕らえて参りますか?」
「いってこい」
「承知」
〜鹿嶋城〜
「さてと....。家臣の資料の整理はこの辺でいいかしらね...」
綺羅との同盟を結び、福島から帰ってきた日の夜、絵里は高坂全家臣の情報が載った資料の整理をしていた。
「亜里沙はもう寝たかしら?少し様子を見に行きましょうか」
そして絵里は亜里沙が眠っているはずの部屋へ向かった。
そしてその部屋の襖をそーっと開け、中を覗く。側から見れば女が寝る部屋を覗き見する変態のような仕草だった。
「ん...?」
そこで絵里は部屋の異変に気付いた。
「亜里沙がいない...?」
そして亜里沙が寝ているはずだった布団には一枚の紙切れが置いてある。
そこにはこう書かれていた。
ーー絢瀬亜里沙は預かった。妹を助けたければ我らが武田に寝返るのだ。もし寝返らないとあらば、絢瀬亜里沙の首は無いものと思え。寝返るのであれば明日の夕暮れまでに栃木に来い。 武田ーー
「なっ....!!亜里沙が危ない..!!...裏切りですって...!?」
究極の選択だった。妹をとるか、高坂の仲間をとるのか。
「そんな....。私は一体どうすれば....」
次の日、綺羅が連合軍に攻め入られた。
「「私は助けに行く...!!友情より大事だったものなんて、少なくとも私の人生ではなかった!!」」
穂乃果はそう言って絵里の言葉を無視し、絵里以外の家臣を引き連れ、ツバサを助けに向かった。たった1700の兵力で、彼女達は出陣したのであった。
(あの子達は確実に今回の戦でやられてしまう...。何とかして助けてあげたいけど....。)
「....亜里沙を助けに行こう」
絵里の心は決まった。
〜栃木〜
絵里は亜里沙を助けるため、栃木へ馬を走らせていた。その馬の走る速さはまさに神速であった。
僅かな時間で武田との約束の場所に着く。
「....ここでいいのよね?」
周りには誰もいなかった。
そして着いてから暫くたった時であろう。
「絢瀬絵里か?」
自分の名を呼ぶ声が聞こえた。
背後から声をかけられたため、絵里はすぐさま戦闘態勢に入った。
「何奴ッ!!!」
「おぉっと....。威勢がいいな...。さすが高坂筆頭家臣」
「早く名乗らないと切るわよ」
「おー、怖いねぇ...。...我は武田家家臣....、真田信繁と申す。御屋形様の命令により、お主の返答を聞きに参った」
「武田...?あなた武田の家臣なの!?」
「そういっておる」
「亜里沙は...!!亜里沙はどこなの!!」
絵里の勢いに真田は多少おされていた。
「おいおい、そう焦りなさんな....。それより、高坂はもういいのか?」
「...は?」
「高坂はたった少しの兵力で綺羅の援軍に出たのであろう?」
「...ええ。だから何よ」
「助けたくはないのか?」
「....」
「もし助けたいのであれば....。御屋形様から良い策を預かってきたが...?」
その言葉に絵里は目を見開く。
「本当!!?....でも何で武田が...」
「高坂を討つのは武田じゃ。上杉などに高坂の首は渡さぬ、ということなのだろう」
「...で?その策って何?」
「上杉に御屋形様の盟友がいるみたいでな....。その方が力を貸してくれるようじゃ」
「何故...」
「何でも武田に寝返りたいようでな。あちらにとってもいい機会なのであろう」
「....そう。じゃあそうさせてもらうわ。...亜里沙は?亜里沙はどうするの?」
「心配は無用だ。我らが真田で預かっておる。お主が御屋形様から命じられた仕事を全て終えた時に返してやる」
「絶対よ?あの子に何かしたら....わかってるわよね?」
「承知しておる。それ故、その様な顔をするのは止めてはくれぬか。結構恐ろしいのじゃ」
「......。じゃあ私行ってくるから」
「おいおい、待て待て。この書状を持って行くのじゃ」
「これは?」
「御屋形様直筆のものじゃ。これを力を貸してくれるという方に見せろ。さすれば分かってくれるであろう」
「.....。感謝します」
そういって絵里は僅かな絢瀬軍を引き連れ、穂乃果達を助けに向かったのであった。
「やっぱり凄いわね....」
戦場についた絵里の第一声はそれだった。戦場は上杉と伊達の兵達で覆われていた。高坂、綺羅の兵の姿はほとんど見えない。
「ここから穂乃果達を探さなきゃならないわけだけど....」
だが、実際それは不可能に近かった。あの僅かな軍隊をこの中からどの様にして探し出したらよいのであろう。
「10000の兵力がついたと言っても....。あの子達を見つけれなきゃ意味がないわ...」
絵里は必死に目を凝らし、戦場を見渡す。
その時だった。絵里の視界に1つの輪が目に入る。
「.....?連合軍の兵達は何であそこで輪を作って...!?」
絵里は見つけた。その輪の中心に。
「あそこよ!!!」
絵里の叫びに皆が反応する。そして絵里が指差す方向を見る。
その光景を見た絢瀬軍の兵達は、皆顔を見合わせ、頷いた。
「殿。行きましょう」
「ええ。....みんな。準備はいい?」
「「オォッ!!」」
「じゃあ行くわよ!!」
ワァァァァァア!!
こうして、何とか絵里は穂乃果達をツバサがいる本陣への道を開いたのであった。
....しかし、敵の兵力は圧倒的。今にも絵里の軍は壊滅しようとしていた。
「ここで死ぬわけにはいかないのよ...。亜里沙を助ける為にも!!」
その一心で絵里は槍を振るった。孤軍奮闘、絵里は周りの兵を次々となぎ倒していく。まるで戦いの神、毘沙門天がついたような強さであった。
そこに1人の叫び声が耳に入る。
「絵里ぃぃぃぃい!!!」
海未であった。穂乃果を引き連れ、目一杯の速さで馬を走らせている。
「海未...!!」
「絵里!逃げましょう!このままでは我々もやられてしまいます!!」
「ツバサさんは...?」
その問いに海未は小さく首を振る。
「....そう。なら私が殿をするわ」
(殿〈しんがり〉 撤退する部隊において、最後尾につくこと。逃げるためのおとり)
「なっ...!?それでは死んでしまいます!!」
「死ぬわけないでしょう?私を舐めないでくれる?」
「...ですが!!」
「大丈夫。これは誰かがやらなければならないこと。...絶対に生きて帰るから」
「....はい。分かりました。...約束ですよ?」
「ええ。勿論」
「ごめんね...海未...」
絵里は何とか殿の役目を果たし、その足で先ほど真田とあった場所へ向かった。
真田に戦が終わったらもう一度戻ってくるように言われていたのだ。
「お、死んでなかったか」
「....あなた、ずっとここにいたの?」
そこには真田信繁がいた。
「勿論。御屋形様の命令は絶対故」
「そう。...それで?亜里沙を助ける為には何をすればいいの?」
絵里は自ら話題をそちらに向けた。
「近いうちに武田は高坂に戦を仕掛ける」
「へぇ...。それで?」
「高坂が持っている鉄砲を気づかれぬように、全て廃棄して欲しい」
「....。いくら信玄でも三段構えには敵わないってことね」
「残念だがそういうことになる」
「...で?それだけかしら?」
「高坂の財産をこちらによこして欲しい」
「..は?」
「お主は高坂の重鎮故、高坂の財産の量であるとか、どこにあるかなど色々知っているであろう?」
「まぁ..」
「出来るだけ多くの財産をこちらに渡すのだ。...そしてその時にお主の妹を返してやろう」
「...そう。分かったわ。なるべく早く持っていくわよ」
「財産に関しては、我がお主の妹を連れ、鹿嶋付近に拠点をたてて待っている。そこへ持ってこい」
「....承知」
取り引きが成立した。
その後、絵里は鹿嶋城へと戻った。
「絵里...!!」
彼女を一番に向かえてくれたのは海未であった。
「....ただいま」
「無事で良かったです」
海未はその顔に満面の笑みを浮かべた。
「大丈夫って言ったでしょう? 私を誰だと思ってるのよ」
「そうでしたね。あなたは高坂筆頭の絢瀬様でした」
「意外と海未もおかしなこと言うのね... 新たな一面かしら♪」
「さぁ、どうでしょう?」
「あ、そうだ」
「どうかしました?」
「穂乃果はずっと部屋に引きこもってるの?」
「ええ。城に戻ってきてからずっと」
「かなり堪えてるわね....」
「それはそうでしょう。仲のよかった綺羅さんが討たれたのですから」
「あぁ、そういえばにこはどうなったの?」
「にこですか?」
「ええ。あの子1人で少しの騎馬隊を指揮してあの大群を相手にしてたんでしょう?」
「銃弾が肩を撃ち抜いたようで....。今真姫が看病しています」
「そう....。....やっぱり一番穂乃果が心配ね」
「ええ。精神をやられましたからね...」
「海未?穂乃果についていてくれるかしら?」
「それはもちろん。....絵里は何かする事があるのですか?」
「まあ、少し野暮用がね」
「....そうですか。なら私は穂乃果の元へ行きますので」
そう言って海未は穂乃果の部屋へと向かった。
「あの子今、私のこと疑り深い目で見てたわね...。海未は勘が鋭いからね...。気をつけなきゃ。...じゃないと亜里沙が助からない...!!」
こうして絵里は行動し始めた。
まずは鉄砲から。みんなが寝静まった夜を狙い、大量の鉄砲を持ち出し、海へと投げ捨てていく。
「...これも亜里沙を助けるため...」
絵里は自分にそう言い聞かせ、夜な夜な行動していた。
何日かかったであろう、約2万もあった鉄砲は全て無くなった。
「ようやく終わったわね....。雨にも濡れるし、大変だったわ....」
絵里はまず第一の使命を果たした。
「穂乃果はまだ出て来てくれないの?」
絵里の問いに海未は力なく首を振る。
「そう....。これはかなりやられてるわね...」
「あぁ、そうでした。にこはどうなりました?」
「部屋に行ってみたら?直接確認した方がいいと思うわよ?」
「....そうですね」
「....海未はかなり堪えているようね。これは好都合だわ...。あの子が一番危ないから...」
穂乃果は綺羅の戦以降部屋から出てこない。その為か、家臣達は皆元気を失っていた。
しかし、絵里にとってはかなりの好都合で、皆に警戒されることなく武田から与えられた使命を実行することが出来る。
「...にしても雨が酷いわね」
雨が降る外を見ながら、何もすることなくただ突っ立っていると、希が現れた。
「えりち?」
「ん?どうかした?希?」
「いや、珍しくえりちがボーっとしてたもんやから。心配になってしもうて」
「どういう意味よ」
「....今日も雨やなぁ」
「ええ、そうね。もう嫌になっちゃうわよ」
「最近太陽を見てないなぁ....。高坂の太陽も、ね」
「あの子いつから引きこもってるんだっけ?もう分からなくなっちゃったわ。最近本当に何もないし、雨が降ってるせいで昼間でも真っ暗だし」
「うちも最近時間感覚がおかしくてなぁ。もうさっぱりや」
「太陽....。見たいわね」
「そうやんね。久しぶりに...」
そう言った希からは、何かいつもとは違う雰囲気が漂っていた。
「....?どうかした?希?」
「ん?いや、何でもないんよ〜」
「そう。じゃあ、私ちょっとやることがあるから....」
「気をつけてな」
「....え?」
希はそう言い残し、自室へと戻って行った。
(まさか気づかれてる....? 希に...?)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「海未ちゃん、分かったから泣くのやめてよ...」
「ほのかのばかぁ....」
穂乃果は約一週間振りに自室に他人を入れた。なんせ、ツバサが死んでからの一週間、ずっと部屋から出ず、家臣の声にも耳を貸さず、ひたすら泣いていたのだから。
「何でずっと....!部屋から出てきてくれなかったんれすかぁ...!!」
相変わらず海未は号泣である。
「だって.... まだツバサさんのことが....」
「穂乃果は私達より...ツバサさんの方が大事なのですかぁ....!!」
その言葉は穂乃果の胸に深く刺さった。
「それは違....」
「じゃあ何で!!ずっと部屋に引きこもっていたんですか!! 私達家臣が毎日毎日あなたに声をかけていたというのに....!!あなたはッ!!」
「.....」
穂乃果には何も返せる言葉が無かった。
「あなたがいなければ私達は前には進めません...。ですからあなたが出てこなかったこの期間... 皆がどれだけ悲しんだと....!!」
海未の目からはいつの間にか涙が消えていた。
「ツバサさんも言いましたよね?後ろなんて振り向くな.... ひたすら前を向いて生きろ、と。なのでお願いです、穂乃果....。後ろはもう見ないで下さい。前を向いて下さい...。...そしていつまでも私達を照らす太陽でいて下さい....」
「海未ちゃん.....」
すると海未はこんな言葉を口にした。
「目の前に僕らの道がある....」
「....え?」
「今思いついた言葉です。今のあなたに贈る言葉としてはとても合っているかと」
「ありがとう、海未ちゃん....。元気出たよ...!やっぱり海未ちゃんには敵わないや」
そう言って穂乃果は笑った。
「その笑顔が見たかったんです」
「希ちゃん、お願いって何かにゃ?」
希は絵里と別れた後、凛を自室に呼んでいた。
「ちょっとな....。凛ちゃんにしか出来ないことなんやけど...」
珍しく歯切れの悪い希を見て、凛は疑問に思う。
「どうかした...?いつもの希ちゃんじゃないよ...?」
「うん...。それでな?お願いっていうのは....」
「絵里ちをつけてほしいんや」
「にゃ?...それは一体どういうことかにゃ?」
「....最近絵里ちの様子がおかしいんよ」
「凛にはそうは思えないけど...」
「うちには分かる。あれは何か隠してる。凛ちゃん?」
「....?」
「最近絵里ちが毎晩何かしてるの知っとるか?」
「え?そうなの?」
「うん。....もしかしたらあの子...うちらを裏切ってるのかもしれん」
希から放たれた言葉に凛は驚愕した。
「...!?希ちゃん!?何を言って...」
「ちょ、静かに...。うちだってな、そんなこと思いたくないんよ。でもな?最近の絵里ちの行動を見てるとそれしか考えられへんのよ」
「....分かったにゃ。今日1日絵里ちゃんについてみる」
「何かあったら報告頼むで」
「了解」
「さてと...。これで全部かしら?」
絵里は高坂の財産を持ち出そうと、鹿嶋城付近の洞窟にいた。そこに全ての財産が保管されていた。
「.....これも亜里沙を助ける為...。仕方ないのよ」
そう呟かなければ、絵里は罪悪感に押しつぶされそうになる。武田からの指令をこなしている間は、この言葉を呪文のように唱えていた。
「よいしょ... 意外と多いものね...」
荷物を全て何頭かの馬に乗せ、出発の準備は完了した。
「じゃあみんな、いくわよ」
絵里は何人かの馬借を雇っていた。
「....嘘... 絵里ちゃんがそんな...」
希のお願いをうけた凛は多少離れたところから、先ほど絵里が行っていた一部始終を見ていた。
「きっと何かの間違いにゃ....!」
目の前で繰り広げられた光景を凛はまだ信じられずにいた。
そうこうしている間に絵里達は出発してまった。
「...ついていかなきゃ」
「穂乃果..!ようやく出てきたのね...!」
「穂乃果ちゃん!!...良かった...!」
「みんなごめんね?ずっと1人でいじけてて...」
穂乃果が部屋から出てきたと聞き、皆は大広間に集まっていた。
「本当よ....。どれだけ心配したと思ってるのよ」
「ごめんね?真姫ちゃん。....真姫ちゃんも心配してくれたんだ♪」
「当たり前でしょう?あなた何日出てこなかったと思ってるのよ。海未にもことりにもあんなに心配かけて....。とんだ殿様だわ」
「....そうだよね」
「いいんだよ?穂乃果ちゃん!ことりはまた穂乃果ちゃんの笑顔が見れれば!」
「ありがとう、ことりちゃん。ことりちゃんはやっぱり優しいなぁ...♪」
「そういえば絵里と凛がいないけど...。希!知ってる?」
にこからの質問に希は少し焦った。
(にこっちってこういう時だけよく周り見えとるねんなぁ...)
「あー、うん。2人ならちょっと用事があるいうて出かけてったで」
「あら、そう。....ならいいけど」
何かある、その場にいた全員がその場の空気から感じ取っていた。
「あそこかしら?」
絵里は真田に言われた拠点を見つけていた。
「これでようやく...!亜里沙を助けられる!!」
すると、拠点から真田が出てきた。
「お、早かったな」
「もちろん。全部財産は持ってきたわ....」
「そうか。じゃあそこに置いてくれるか?」
真田に言われた通り、指定された場所へ財産が入った袋をおく。
「....亜里沙は?」
「中にいる。早く持っていけ」
絵里を尾行していた凛は今の光景も全て見ていた。
「あれは...真田? 真田に高坂の財産を....。やっぱり絵里ちゃんは....!!」
今まで何かの間違いだと信じていた凛であったが、全てを理解した。絵里は間違いなく高坂を裏切って、武田側についている。紛れも無い事実だった。
「早く希ちゃんに伝えなきゃ...」
凛はその俊足を飛ばし、鹿嶋城へと戻っていった。
「そういえば最近絵里がよく城から出ていますが....。何かあったんでしょうか?」
「そうなのよ。ここ最近ずっと夜とか1人で何かやってるのよね....。夜遅くまで勉強してるとよく見るわ」
「今まではずっと穂乃果のことで一杯一杯でしたが、次は少し絵里に目を向ける必要がありそうですね」
(さすが海未ちゃんと真姫ちゃんやなぁ....。2人とも策士として働いてるだけあるわ...)
「穂乃果もそれでいいですか?」
「いいけど... それって絵里ちゃんを疑うってこと?」
「いえ、別に疑うわけではありません。ただ夜に城を出たりだとかするのは少し異様ですので...。聞いておく必要があるかと」
「それって疑ってるよね」
「....。あくまで可能性の話ですよ?本当に仮の話です。絵里は...、高坂を裏切っているのかもしれません」
その言葉にその場が凍りつく。
「なっ... あなた何を言って...」
「そうだよ、海未ちゃん。絵里ちゃんが裏切るなんて....」
「ですから、あくまで可能性の話です。毎晩城を出たりだとか、最近出かけることが多いだとか...。少し行動が怪しすぎるため...」
「でもさすがにあのエリーに限って...」
「さすが海未ちゃんやね」
「え?」
突如口を開いた希の方を皆が驚いてみる。
「よく絵里ちのこと見とる。...今までの行動をみる限り、あの子は裏切ってる可能性がある」
「それは...」
「いいから聞き。うちかてそんなことは無いと思うけど....。もしそうだとしたら高坂は危ない。せやから今日1日凛ちゃんに尾行してもらってる。とりあえず凛ちゃんの報告待ちや」
「大丈夫よ。絵里がにこ達のことを裏切るなんてそんな...」
重く、暗い空気が漂う。
そこに、その空気を切り裂くかのような絶叫が聞こえてきた。
「「大変にゃ!!大変にゃ!!大変にゃぁぁあ!!!」」
「凛ちゃん!!!」
「絵里ちはどうやった!?」
「希ちゃん!!....それが....」
凛の表情を見て、全員がその意味を悟る。
「嘘だ....」
「そんな!!あのエリーよ!?あのエリーが...!!」
「やはりですか...」
「....それで?何をしとったんや」
「洞窟にあった高坂の財産全てを武田に渡してた.....」
「武田やて!?」
「よりによって武田ですか....!!」
「絵里が武田に寝返ったとなると....。もう打つ手はほとんど無いわね...」
全員が沈黙する。絵里は高坂で一番頼りになる家臣。それが武田に寝返るというのは、高坂の滅亡を意味していた。
「ただいま〜」
何くわぬ顔で絵里が城に戻ってきた。
「あら、みんなどうしたの?大広間なんかに集まって....。...あれ?穂乃果!?ようやく出てきたのね!!良かった...!!」
そう言って絵里は穂乃果に飛びつく。
...しかし穂乃果はそれを拒否した。
「え...?」
「絵里ちゃん。話があるんだけど」
それから大広間にて、絵里を他の8人が取り囲むような形で絵里への事情聴取が始まった。
「絵里ちゃん...。私達を裏切ってるって本当...?」
「...ッ!!」
穂乃果らしい、会心のドストレートであった。
「どうなの?答えてよ」
「それは....」
「絵里ち!!はよ答え!!!うちらみんな絵里ちのこと信じてたんよ!?疑惑が上がっても!!絵里ちに限ってそんなことあるはずないって!!それなのに...!!!」
皆が目を丸くしていた。あの希がここまで激怒している姿は初めてだからであろう。
「絵里ち....!!あんたって人は....!!!」
「希!!もういいですっ!!止めて下さいっ!!」
希が手を出しそうになったのを、海未が全ての力で阻止する。
「絵里ちゃん、早く。答えて」
「....。私は...。あなた達を裏切った....!」
絵里が自ら裏切りを認めた瞬間だった。
「どうして?どうして私達を裏切ったの...? はっきり言ってまだ穂乃果は信じられないよ...。いつも私達の事を考えてくれていたあの絵里ちゃんが....」
皆が絵里を見る目は蔑みの目であった。
「何か理由があるの?絵里ちゃん。理由も無しに絵里ちゃんが裏切ることなんて無いよね?....答えて」
「....亜里沙が...」
「亜里沙ちゃんが?」
「武田に連れ去られたの。...それであの子を助けたければ武田に寝返れって....!!」
「武田さんが...?そんな事したの....?」
「それで...。高坂にある鉄砲全てを捨て、財産全てを武田に渡したわ....」
「....そうですか、絵里。もうしてしまった事を嘆いてもどうしようもありません。...それで?どのようにして償うのですか?」
「償う...?」
「それはもちろん、腹を切るわ。それ程の事をしたんですもの...」
「腹を切る...?」
「そうですか。それが一番でしょう」
「じゃあうちが介錯するさかい、思いっきりやってええよ」
そう言うと、絵里は脇差を取り出し、着物をはだけさせた。
「え、絵里ちゃん...?何を...!?」
その絵里の後ろに希が刀を構えて立つ。
絵里は刃を自分の方向に向ける。
「穂乃果....。ごめんね...?こんな情け無い家臣で...」
そう言って、刀を動かした。
「ダメだよ!!絵里ちゃんっ!!!」
「穂乃果....?あなた何を!」
穂乃果は絵里の刀を持っている両手を思い切りつかんでいた。
「死んじゃだめだよっ!!絵里ちゃんは!!私の大事な...!!もう大事な人が死ぬのを見るのは嫌なの!!!」
穂乃果の力が勝り、刀をはじく。
「穂乃果....。いいから死なせてちょうだい...。武士として、せめてもの償いよ!!!」
「は?...償い?死ぬことが償いなの...?」
「ええ、そうよ...。裏切り者は死ぬことでしか償えないのよ!!」
パァァァァアアン!!!
「....え?」
穂乃果が絵里の顔をはたいていた。渾身の力を込めたものであった。
「ふざけないで。裏切り者は死ぬことでしか償えない...?そんなことないよ。むしろ死んで償うなんて...。それ程卑怯な手はないと思うよ」
「は...?卑怯ですって...?死んで償うことが..?」
「うん。凄く卑怯だよ。逃げてるだけじゃない」
「なっ...!?逃げてるですって...!?死んで償うことが武士としてのしきたりなのよ!?裏切りはどうやっても償うことは出来ない。それが武士の...」
「なら武士なんて辞めちゃえばいいじゃん」
「....!!」
「穂乃果はね...?絵里ちゃんにそばにいて欲しいの。武士なんかじゃなくていい。とにかく側にいて、みんなと一緒に高坂を強くしていけたら...。それが償いになると私は思うよ...?」
その言葉は絵里を救う言葉となった。
そして、絵里の目からは熱いものが流れていた。
「ありがとう....。穂乃果....。一生あなたについていくわよ...!」
「ありがとう、絵里ちゃん♪」
「さすが穂乃果ですね。素晴らしい判断だと思いますよ」
「はっきり言って、エリーが死んじゃったら高坂はそれこそ終わりだから。良かったわ」
「うちはまだ許せへん。...だから裏切り以上の働きを期待するで、絵里ち」
「みんな....。ありがとう....!!」
高坂の皆はとても温かく、罪人であった絵里をもう一度、武士ではなく、新たな仲間として迎えたのであった。
「さて、武田の策をもう一度考えなければなりませんね」
「ええ。私のせいで大変なことになっているから....」
「それなら心配ないわよ」
「真姫?それはどういうことでしょうか?」
「お金ならまだ余るほどあるのよ。とりあえず、それでもう一度鉄砲を大量輸入するわ」
「え?洞窟にあったのが全部じゃなかったの...?」
「そんなわけないでしょう?あんなの西木野が持っている財産のほんの一部よ。私達の財力を舐めないでくれる?」
「あれが一部...?ありえないわ...」
「とりあえず、前と同じ戦法で行きましょう。それが一番良いと思います」
「ええ。そうね。出来るだけ早く準備させるわ」
「あ、でも待って」
「絵里?どうかしましたか?」
「武田は近いうちに動くって言っていたわ...」
「それはつまり....。真姫!早くて何日かかりますか!?」
「うーん...。早くても二週間はかかるわね...」
「ということは、それ以前に攻めてこられたらまずいですね...」
「ええ。とりあえず近いうち、が二週間以上だと信じるしかないわね」
ドタドタドタドタドタドタドタドタ!!
とてつもなく大きな足音が聞こえてきた。
「大変にございます!!!」
「何事っ!!」
「武田軍が...!!約50000の軍勢でこちらに進軍を始めました!!!」
「...なっ!?」
「武田はタイミングを見計らってるのかしら?素晴らしいほどナイスタイミングじゃない」
「私のせいで...!!」
「大変ですね....。すぐに皆を呼んで下さい!!緊急会議ですっ!!」
「ハッ!」
「さてと...。で?何か策はあるの?」
「私にはないわ....」
「残念ながら私にも....」
「ということは...。そういうことよね」
「ええ...」
「はい...」
「「高坂の滅亡」」
戦国最強、甲斐の虎と超新星、関東の高坂の全面戦争が今、始まる。
最後まで見ていただき、ありがとうございました!
どうでしょう?内容は入ってきたでしょうか?分かりにくい部分がありましたら、アドバイスを頂けると幸いです。
よりよい作品にするために、感想も出来れば書いていただければなぁと思います。
では、6話目もよろしくお願いします!
かよちんが2話欠席となってしまいました...。その為、次あたりでかよちん回を番外編で作らせて頂きます。そちらの方もよろしくお願いします!
虜になりました…(///◦///)
ただし!ひとつアドバイスさせていただくと、誰がその台詞を言っているのかがもっと分かりやすくなったらな~~~。って
思いました。例えば、「絵里が…?高坂家の重鎮である絵里が裏切るなんて…!イミワカンナイ!」とか。~(キャラの名前)はなんとかかんとか…って入れると変になるなら、口癖を入れるとか。
そうしたら、もっと読みやすくて面白いSSになるかと。
参考までに‼