2017-01-21 08:47:11 更新

概要

刀剣乱舞のチュートリアルを終わった感想と書いて妄想

注意

当方、花丸を見た程度の知識しかありません
設定やら何やらのご指摘はごもっともですが
そこは2次創作、ご容赦頂けますようお願い申し上げます

誤字脱字、その他2次創作にありがちな色々


はじめての 思い出




それは、朧気に照らす月であり

それは、静かに そよぐ風であったり

それは、夜虫の合唱であったり

それは、真闇の世であったり

それは、誰にも等しく、何時にも変わらない夜であった


そこは山の奥

日本家屋、武家屋敷と呼ばれるに相違ない建物

その一室。更け込んだ夜を切り取るように灯りが一つ灯っていた


「可愛らしいお客様、ですね…」


聞こえてきたのは しっとりとした女の声

締め切った障子には、確かにその影が見て取れるが

それの一人きりで、とうの「お客様」と呼ばれる影は見受けられない


「ふふっ、都合のよろしい話ですわ…」


しかし、やはりか誰かと会話をしているようではある

言い争うわけでもなく、淡々と渋々と

嫌味の一つも交えながらも、終始落ち着いた様子で話が続いていた


「それもまた歴史でしょう?いっそ、皆でご破産も運命では?」


それきり、しんと静まり返る室内

身じろぎ一つの音もなく、時が止まったかのように過ぎていく


何時からだろう、何時の間にか浮かび上がる一つの音

鈴虫だったり、コオロギだったりの夜鳴きの中に紛れ込む音

彼らの音色に合わせるように、一つ、また一つと連なって、旋律を作り流れていった




部屋の中

4半程度の畳間で、それらしい書院造という以外に特に特徴の無い部屋だった


その部屋の中で、一つ、音が鳴っている

そして、また一つと連なっていけば、それは確かな旋律であった


部屋の真中に置かれた琴

その張り詰められた弦の上を流れていく細い指が、音を作り旋律を奏でていた

どこか、懐かしい琴の音

それは子守唄のようでもあり、別れを惜しむ様な鎮魂歌にも聞こえた


それを奏でているのは一人の女

たおやかな物腰と柔らかな表情、線を引いた様な赤い唇

閉じられた瞳、長い睫毛と細い柳眉、黒く長い髪は艶やかに流れていた


日本人形を人に作り直せばこうもあろうかという風体

不健康、という程でもないが、長く陽に当たってないであろう白い肌

それがまた、夜を纏った様な紺色の着物のせいで一際に目立っていた


「流れる血は…あなた方のものでないでしょうに」


戦だ、それは分かっていた、時間の問題かと

そうして、偉い人は皆こういうのだ

国のためにと、あるいは神の為にと

嫌らしい時は、家族だ恋人だと…まるで人質にでもしたかのように


そうして血は流れる

戦だ、それは良い、致し方もない話

人が人と隣り合えば相争うのは自明の理なのだから


なればこそ


血が流れるのならば、流れる血で何かを得るなら

流れる血が歴史を作るというのなら


それは


流した者達の、戦った武士達のものでなければならないと


「一体、誰のための戦なのでしょうね」


ふいと止んだ旋律が、あぶれた言葉と共に溶けていった


ー願わくば、せめてもの、それが彼らのものでありますようー




離れの小屋。その戸を引き開いてみれば

いの一番に、煌々と眩い炉の熱が頬を撫でていった


「お嬢か…」


炉の前に座った男が振り返りもせずに声を掛けてくる

簡素な着物に襷を巻いて、如何にも職人だと見える様なその男


否、男というには、以前に人と言うには いと小さき その姿

肩に乗せられそうで、鷹匠の様に片手で扱いそうにもある背丈は

童話に語られるような、小人や妖精といった言葉がよく似合っていた


「もう「くれは」と、ちゃんと名がありますのに」


もう何度そうしただろうかと、ため息を付き付きて

遠回しにも、名前で呼んで欲しいと頼んでは見るものの


「そうかい、嬢ちゃん」

「意地の悪いこと」

「性分でな」


相も変わらず炉の火を見つめている意地の悪い背中に

諦めるように肩を落とすと「で?」と、先を促す声が聞こえてきた


意地悪な上にせっかちだこと、雑談を楽しむ暇もくれないとは

さりとて、遊びに来たわけでもないのは事実

茶の一つを入れたくなるその前に、要件を口にした


「つまらない話と、面白くもない話、どちらを先に聞きたいですか?」


せっかちな背中に、そう問いかけてみれば

「要件だけがききてぇな」と、今度は つれないお言葉だ

長い睫毛と柳眉をハの字に下げて、どうにもこうにもとため息が出てしまう

致し方の無きこと、そうまでは言われては手短に答えるくらいしか出来ない


「戦ですわ…支度を。その縋は張り子ではないのでしょう?」

「ぉぅっ」




わたしきりざとくれはがねがいます

やおろずのかみにつくものかみに

そのときそのおもいそのたましい

いまいちどはくじんにやどりて

わがいちねんわがのぞみをききとどけたまうこと

かしこみかしこみもうす




4半程度の畳間に男女が二人、互いに向かい合って正座をしていた

片や柔らかに微笑みながら、片や丁寧に頭を下げている


「歌仙、歌仙兼定と申します。主様に置かれましては…」

「待って」

「は?」


固い、余りにも固すぎるその挨拶に、どうにも口を挟んでしまった

歌仙と名乗った その青年

端正な顔立ちに、落ち着いた所作、武系というより文系の趣を感じてしまう

なるほどどうして、武士というのは筋肉達磨の猪ばかりと早合点していたが

そればかりではないのだと、目の前の青年が教えてくれている


「「くれは」と、どうぞ「くれは」とお呼びください」


主様、ではどうにもむず痒くなってしまう

私はそんな大したものではないと、私自身こそが分かりきっているのだから

本来ならこうして、付喪の神々に頭を下げられるような立場ですら


「あ、難でしたら「くれはちゃん」でも、愛らしくて良いですわね」


ほんの戯れ、真に受けるのなら それも一興とは考えもしたが

呆けた様に口を開けたまま、こちらを見て固まってしまっている

どうにも失敗したらしい、取り繕うにもなんといったものやらと

それぞれの思惑の内に沈黙が続いた後「ふっ」と吹き出すような笑い声


「そうだね。では、間を取って「くれは様」と」

「はい、ではそのように「歌仙さま」」


そうして、小さく微笑み合う二人だった




戦場

その文字通りに、血生臭さが土煙に乗って漂ってきそうなその場所


「骸骨のお化けね…ほんとうに」


時間遡行軍。それを始めてみた感想は そんな所だった

精々湧いた疑問と言えば、骸骨もお化けもさして変わらないんじゃないかという程度で

それさえも「まぁ、骨は自立しませんか…」と、自問の内に解決してしまった


「にしても…」


目下の所の問題に目を向ける

雲が行き怪しい…2対1なら致し方もないのか

いや…にしたって、歌仙さまったらどうにも


あれから、2・3と言葉を交わして見れば、文系を自称する歌仙さま

言うだけはあって、所作も礼もきっちりとしていて、自分が恥ずかしくなるほど

ならばそうなのだと、特に疑いもはしなかったが

こうして戦っている お姿を拝見していると…いやさどうにも不思議に思える


「あら、いけないわ…」


怪しかった雲行きが、ぐずり始めて今にも土砂を降らせそう


あまり、あまりこういうのは いけないと思うのだけど

厄介な人たちに見つかるのも嫌ですし…まぁ、少しだけ…少しだけ、ね




「首を、差し出せっ!」


力任せに振り下ろした一刀が、長い骨組みを叩き折る

首、と言ってもどれがそこに当るのか

短刀を咥えている以上、あの辺りがそうだとも言えるだろうか

いや、人型ですらないのだ、案外と尾先がそうであったかもしれない


だが、それも詮のない話

振り下ろした刀は、骨の化物の咥えていた短刀ごと叩き折っているし

残骸でさえも今しがた、塵芥となって消えていっている


「くっ…」


視界が一段下がる。膝を地面に打ち据え、刀を杖にようやくと体を支えている

切合の度に増えた痛手が、今になって悲鳴から実害へと変わっていた


なんという無様か

「無作法者の始末は任せておいてくれ」などと、どの口が言ったものか


あと一太刀


笑う膝を黙らせて、なんとしても立ち上がり

構え直した刀を滲むほどに握りしめた


「我こそはっ、之定が一振り、歌仙兼定なり!」


裂帛の叫び。口にしたのはその覚悟

そうなのだ、そうであるなら、この身の銘において

散る最後の一瞬にまで華を添えるのが本道というもの


せめて雅に…


「いけませんわ、歌仙さま…」

「なっ…」

「文系というのは、存外と力任せなものなのですね…」


それは、散歩にでも来たような足取りで

それは、いつもと変わらぬ出で立ちのまま

それは、逸る幼子を窘めるような声音だった


拍子抜けに、緩んだ歌仙の手から刀をスリとると

扇を手に舞うかの如く、ありもしない首を跳ね飛ばした


「お目汚しを失礼…」


自制する様なため息。軽く頭を下げた後

口元を、その朱が差した頬を隠すように着物の裾で顔を隠すと


「お転婆などと、じゃじゃ馬などと思わないで下さいましね…」




4半程度の畳間に、手入れの道具がとっちらかって広がっていた

その中心には、上着を開けさせられ、不機嫌そうな顔をした歌仙が あぐらをかいて座っている


「…じゃじゃ馬」


不機嫌に耐えかねたのだろう

ついぞ引き締まっていた口からは、そんな恨み言漏れ聞こえてくる


「…お転婆」


続く言葉も同様に

今も自分の手をとり、手入れを続けている くれはに向けられていた


「意地悪ですわ…歌仙さま。言わないでと、泣く泣く申し上げましたのに」


その表情は、当然の事と受け入れながらも

羞恥と落胆に俯いていた


「何を馬鹿な。戦場に迷い込んで来た挙句に、あのような所業を

御身に何かあればどうなるか、分からぬほど馬鹿では…いっ」


くどくどと続きそうな説教

そこへ、傷口を乱暴に扱われ二の句が告げなくなる


「私だってね…。ほんとなら歌仙さまの凛々しいお姿に現を抜かしたり

生時間遡行軍の鑑賞に勤しみたかったものを、この様な展開、こちらとて予想外というもの

だいたいに置いて不外がないものだから

いやさ、それは良しとしましても、助けてもらっておいて、その言い草

それを恩着せがましいと申されるのでしたら、たしかに出過ぎた真似ではありましたが

けれどけれど、その女心を傷つけるような物言い、雅さとはなんぞやと、どこへやらと

それに、私を「じゃじゃ馬」とか「お転婆と」称されるのでしたら

歌仙さま なんて「猪武者」ではありませんか、となれば「じゃじゃ馬」と「猪武者」でお似合いというものでなくて?

ほんとうに、文系とは何ぞやと問いたださずにはいられませんわ」


そうして、膨らませた頬を ふい と横にし

機嫌ごと、体を斜めに向ける


「い、いのしし…この、僕が…」


がくりと、肩を落とす

間に間に言葉を返そうとしたが、流れるような言葉の羅列に口を挟めず

最後まで聞いてしまえば「猪」と称される

そんな獣のような雅さの欠片もない呼称は、戦の手傷よりも深く胸に突き刺さっていた




そんな喧嘩とも言えない痴話喧嘩が

「お互い様」の一言で手打ちになって数日


4半程度の畳間で、朝の空気を感じながら書をしたためていると

顔を見せた歌仙から声が掛けられる


「お早うございます、くれは様」

「はい。お早うございます、歌仙さま」


筆を置き、向き直ると、丁寧に挨拶を返す

それから「ちょうど良いところに」と、書いていた書を取り

見やすいようにと、歌仙の前へと広げてみせた


そこに書かれていたのは、3文字の言葉


ー審神者ー


「審神者(これ)って、なんと読むのでしょう?」

「…」


その言葉に、思わず眉間を抑える歌仙であった


ーおしまいー


「さにわ、です…」

「…? ああ、土に埋まっていそうな?」

「それは、はにわ」

「…? では、表の…」

「それは、お庭…」

「大阪といえば?」

「なにわ…。ではなく、くれは様」

「うふふ。ごめんなさい歌仙さま、つい」



後書き

さて、最後までご覧いただきありがとうございました
少しでも、楽しんで頂ければ何よりです
また、こんなの歌仙さまではないと思われた方には 誠、失礼を致しました

この物語は、勢いと妄想と息抜きで出来ております
ゲーム本編では、蛍丸がでないかと玉鋼を溶かしつつ、延々と演練を繰り返す程度
下手をすれば、2500年程続けることになるやもしれませんね

さて、それでは私、霧里 くれは がお送り致しました


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