たとえ不幸でも・・・弥生の章
長らくお待たせしております。結末の構想が完全に練りきれておりません故、今しばらくの時間をください。(少し更新はしました)
まだ、まだ
三月と言えば、日本だと春の始まりのようなイメージが持たれている。実際その通りで、暫くの間大地を白く染めていた雪は綺麗さっぱりとけて(東北以北は別として)多くの地域では下旬に桜の花が咲き始める。気温の上昇と共に日も少しずつ長くなり、コタツなどの暖房器具とも数ヶ月単位のお別れをすることになる。
また、そんな季節の節目であると共に年度の節目でもあるので、学生や新社会人にはこれまた小さく無い転機とも言えよう。また、前述の者達以外にも、心機一転をはかる者は多いはずだ。
まあそんなことはさておき(ホワイトデー?知らんなぁ)、提督の勤める名もなき鎮守府では、間も無く訪れるであろう移動に備えて、平時よりも少しだけ館内は忙しなくなっていた。そんな今日の補佐艦は弥生であり、自分の月がようやく回って来たからかとても張り切っている。その勢いは凄まじく、残りの日数全ての補佐艦シフトに自分を起用しろとまで進言してきた。(全てとは言っても、せいぜい二週間程なので提督はあっさりと承諾した)
弥生「司令官、大本営から電文届いてましたよ。」
提督「お、また新しい指令書か、ありがとう。弥生は色々と気配りができるな。」
弥生「いえ、これが仕事だから…」
提督「弥生は褒めるといつもそれだな。」
弥生「あ、ぅ…ごめんなさい……」
提督「別に責めてるわけじゃない、けどもう少し褒められてくれよ。」
弥生「褒められる…?」
提督「皐月とか卯月みたいにさ、あんな風に誇ってもらえると、褒める側は気持ちがいいわけだ。」
弥生「で、でも…そんな誇るほど大したことじゃないですし……」
提督 (あー、性格的に無理ってことか…)
提督「そうかぁ……じゃあポイント制とかどうだ?」
弥生「ポイント、制…?」
提督「褒められる度にスタンプ1つ。10個貯まったら、弥生の願いを何でも聞いてあげよう。」
弥生「そんな、そこまで気を遣ってくれなくていいです…それに、褒められるために補佐艦やってるわけじゃないから……」
グサッ
提督「すまん弥生、俺が愚かだった…」
弥生「ふぇ!?そ、そんな…司令官は何も悪くないですよ…」
提督「いや、俺が馬鹿だったんだ…そうだよな、褒められたいだけでやってくれてるんじゃないもんな。悪かった。」
弥生「べ、別に謝らなくてもいいです…司令官は弥生のために考えてくれただけだから……」
提督「……弥生は優しいな。じゃあそんな優しい弥生に1つ、何でも願い事を俺に叶えさせる権利を与えよう。」
弥生「え、いいんですか…?」
提督「それでチャラにしてくれ。その代わり、本当に何でもいいぞ。」
弥生「うぅ、急に言われても…どうしよう……」
提督「ゆっくり考えていいぞ、いつでも聞いてやるから。」
弥生「あ、待って……えっと、みんなで…」
提督「みんなで?」
弥生「おやつ、が食べたいです…」
提督「姉妹全員でか?」
弥生「あと、司令官とも…」
提督「俺も一緒でいいのか?」
弥生 コクン
提督「わかった、でも今日は無理だから、後で上手くシフト組んでおく。」
弥生「……ありがとうございます。」
提督「気にするな、俺も指名もらえて嬉しいぞ。」
なでなで
弥生「……//」
提督「そうなると、その日の分まで頑張らないといけないな。今日は終わるのが少し遅めになりそうだ、付き合ってくれるか?」
弥生「大丈夫、です…弥生も頑張ります…」
提督「それは心強い。じゃあ早速だけど、この紙束をシュレッダーにかけて来てくれ。それが終わったら隣の部屋の棚から去年作成された資料を一、二冊ここに運んで欲しい。」
弥生「わかりました、ではちょっと行ってきます…」
顔は机上に向けたまま、上目でチラリと弥生の姿を見送る。小走りしている後ろ姿は、見るからに楽しそうにしているのがわかって、何だか無性に微笑ましい。
提督「思えば、いつも弥生達に元気をもらってたよな…」
少しばかり取っつきにくいのも若干名いたが、それでも皆本当に楽しんでいる時は、全員が全員感情が溢れ出すというか、楽しいですオーラをあたりに振り撒くことが多い。
当然、駆逐艦である彼女達が発するそれはかなり強力であり、周りにもそれを伝染させるのだ。
傍らで分厚いファイルに綴じられた重量のある資料をせっせと運ぶ弥生を目の端で捉えながら、手は書類にペンを走らせ、それでいて頭の片隅では皆で食べる間食のメニューは何にしようかを考えていた。正直非効率極まりない上に、座っているのにも関わらず忙しない。
提督 (ケーキでもいいけど、少し時間がかかり過ぎるな……それに折角だから全員に手伝わせてみるか?となると、簡単にできるものは…ホットケーキとかになるか。でもさすがに手抜き過ぎる気もする…)
提督「お、ドーナツとかいいかもしれないな。」
だが急に声を上げるものだから、弥生に少々怪訝な顔をされてしまった。確かに、つい今しがた黙って机に向かっていた人間がいきなり何かを呟けば、周りとしてはそんな反応になってしまうだろう。
提督「気にするな、茶会のこと考えてただけだ。」
弥生「あぁ、そうでしたか……それは、嬉しいですけど…あまり、お仕事に差し支えないようにしてくださいね…?」
提督「わかってるよ。」
本当、よく出来た補佐艦だ。
提督「弥生、ここどうも計算が合わくてな、悪いんだが再度見直すように連絡取ってくれるか?」
弥生「りょ、了解……」
提督「あ、いややっぱり…」
弥生「大丈夫、大丈夫ですから…」
提督「そうか?なら頼んだ。」
提督 (しまった、弥生が電話苦手なの忘れてた)
声が小さい上にお世辞にもハキハキとしているとは言えない彼女の口調は、正直電話で会話することに向いていない。
だが、それでも彼女がやると言うのだ、その気持ちは尊重すべきである。人は失敗を経ることでしか成長できない、恐れていては後退するだけだ。
(とか何とか言って、結局は気がかりで仕方なくなって、ついいつでもフォローに回れるように身構えてしまう所が、提督の甘いと言われる所以でもある)
執務室に備え付けてある電話機では、万が一(ここ不幸鎮守府の場合、それは文字通りの意味を持つ)提督へ火急の連絡が入ってきた場合に、それを阻害してしまう恐れがあるため、弥生は執務室の外に置かれた固定電話の元へ向かった。(先述の通り、提督もバレないように後を追っている)
望月「なんだー、司令官じゃん。どしたの?」
提督「望月、あまり大きな声出すな。」
望月「別に大きくないと思うけどなー。で、何を見て……あー、そゆこと。過保護だねぇ。」
提督「事が事だから、心配でな。」
望月「んまあ、あれで結構頑張ってんのよ?司令官の元に置いてもらえるようにならないとって。」
望月「だからさ、偶には大船に乗った気でいてあげてもいんじゃない?」
提督「弥生が凹むの見るのも、見る側としてはかなり気が滅入るんだよな…」
気合いが入ってる分、反動が大きいのだろう。それと、ここに来るまでずっと必要とされていなかった事が、重しになって今もぶら下がっているようにも思える。不甲斐ない所を見せれば、必要無いと言われてしまうのではないか、そうなったらまた忘れられるのではないか。彼女にとって上官の要求は、応えるべき絶対のものであり、それに応える事でしか期待を寄せられない世界を、彼女は知っている。
望月「まあでも、最近はそればっかりじゃないみたいだけどねぇ。」
提督「ん、どういうことだ?」
望月「お払い箱になりたくないから、ああして頑張ってるわけじゃないってこと。司令官たまにアメくれるじゃん?そーゆーのも、楽しみに頑張ってたりすんだって。」
望月「だから今楽しんだってさ。」
提督「へぇ、そんなことを……」
それを改善しようと何か特別に意識したことは無かった、アメだってほんのおすそ分けのようなノリだ。糖分補給のためにスタックしておいたのを、理由に頑張ってるからと付け足して渡していただけ。
提督「そんなことでそう思ってもらえるなら、万々歳だな。」
となれば、心配して見にくる必要は無い。失敗したら慰めてやればいい。成功したらとびっきり褒めてやればいい。
そう思って執務室に戻ろうと立ち上がると、丁度通話が終わったのだろう、受話器をとても嬉しそうな顔をして置く弥生の横顔が見えた。
望月「ほら、大丈夫だった。」
提督「そのようだな。」
2人に気付いた弥生が、一瞬嬉しいやら恥ずかしいやらで困った顔をしたが、それでも嬉しい方に針が振り切れたらしい。提督の元へ駆け寄ってきて、勝利の報告をしてきた。
提督「良くやったな。」
弥生「はい…//」
彼女の頰には、一足先に春がやって来ていた。
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事が起こったのは三月に入って一週間が過ぎた頃、丁度日本各地で、それも沿岸を中心に頻繁に小規模な地震が多発していると様々なメディアが引っ切り無しに報道していた時だ。被害こそ未だ出ていないものの、人々の間で様々な憶測を飛び交わさせるのには十分な程の頻度であったため、巨大地震の予兆ではないか、富士山が活動を再開するのではないか、果ては世界の終焉が近いのではないかという荒唐無稽な物までが専門家を呼んでまで取り扱われ、情報社会を混乱させた。
実際に被害が起こっていないのだから、何もそこまで取り沙汰して人々に不安を与えなくとも良いだろうと、半ば呆れながらそれを横目で流していた提督。少しばかり受け身過ぎるそのスタンスは、確かに批判の対象となってもおかしくはない。しかし、それすらも許されてしまう、積極的な対策も水泡に帰すような災厄が、この時人類のすぐ後ろまで迫っていた。
提督「よし全て異常なし、これで水回りの点検はいいな。業者を呼んだりしないっていうのに、よくまあ保ってるもんだ。」
明石「当然じゃないですか、何と言ってもこの私が担当してますし。」
提督「え、嘘だろ…もう一回点検して来る。」
明石「ちょっと!流石に理不尽を感じます!!」
提督「いや、レプリカとか言って本気で原爆作ろうとするマッドサイエンティストにどうやって信頼を置けと…」
明石「あれはちょっとだけ機構に興味があって、それが偶々試行錯誤の末にあんな形になってしまっただけで、しかも多少というか大幅に威力は下げてあって…」
提督「万が一爆発した時のことを考えろよ、この建物丸々吹っ飛ぶだけじゃなくて、この地を一切の生物も寄せ付けない死の土地に変えてしまうかもしれないんだからな。」
明石「で、でも、安全に配慮していれば…」
提督「じゃあ秘匿性もその考慮にちゃんといれておけ、先月のあれ、危うく卯月が誤爆しかけるところだったんだぞ。」
明石「あれは予想外でしたね、いやぁどこから情報が漏れたのやら。」
提督「子供にできる隠し事なんてないんだ。ちゃんと人を殺せる腕を持ってる事を自覚しろ。」
明石「はい、すみませんでした…」
提督「はぁ……それで、そっちに任せておいた配電の点検はどうだったんだ?」
明石「はい、こちらも全て問題なく…少しだけ電球を取り替えないといけないですけど、それ以外は大丈夫です。」
提督「よしわかった、じゃあ明石は工廠に行って引き続き設備品の点検も頼む。使い物にならないのがあれば処分してしまってくれ、代わりに新しいのを導入できるかこっちで上奏文出しておく。」
明石「ありがとうございます!それはありがたいですね、何しろどれもこれもオンボロで、使う度に直して延命させ続けてましたから…良かったあ、これであの地獄から解放される!」
提督「はは、まあ実現できるかどうかは別だからな。そこは履き違えるなよ。」
明石「わかってます!じゃあ早速行ってきますね!」
提督「はは、現金なやつ……さて、今度は館の外装見て来るか…おわっ!!」
ぐらりっ
提督「何だ、地震か?最近多いって言うけど、ここらにはこんなデカいのは来てないはずなのに…」
ガタガタ!!
提督「くっ、あ、止みそうにない上に何だこの揺れ!くそっ、こうしちゃられない!総員落下物に備えろ!!大至急だ!!」
ガタガタガタガタ!!
提督「ああくそっ!走りにくい!」
ピシッ、パリン!
提督 (うわっ、危ねえ。危うく目に刺さる所だ…)
提督「揺れが収まるのを、待つしかないか…」
ガタガタガタガタ
提督「一体、何だって言うんだ…」
ガタガタガタ
ガタガタ
カタカタ
……
提督「収まったか…」
提督「全員聞け!!第二波が来る恐れがある!!今のうちに避難経路を確保して脱出!!慌てるな!だが迅速に行動しろ!怪我人は最優先だ!!あと、避難の際はなるべく内地に逃げろ!!高台に行け!!」
提督 (ここで怒鳴っても足りないよな、急いで執務室に戻るか。)
提督「執務室…そうだ弥生!あいつ大丈夫か!?」
ダダダッ
ーーーーーーーー
提督「弥生!無事か!!」
バンッ!!
弥生「しれ、いか…ん……」
提督「どこだ!待ってろ、今行く!」
提督「くっそ、足の踏み場もない!弥生もう一度返事してくれ!」
弥生「こ、ここに……」
提督「大体わかった!今助けるからな!」
提督「くそっ、棚から何から全部倒れてる…耐震性に関して今まで何も気にしなかったのは迂闊だったな…」
提督「この下か、この大きさは早く助けないと手遅れになるぞ……弥生!しっかりしろ、まだ意識保たせろよ!」
扶桑「提督!ご無事でしたか!?」
提督「扶桑さんか、山城は?」
山城「私もいるわ。何ともないみたいね良かった。」
提督「俺の心配はいい!それより弥生が下敷きになってる!」
扶桑「まあ大変!山城、提督を手伝いましょう。」
山城「はい、姉様。」
提督「いくぞ、せぇーの!!」
グイッ
提督「山城、早く弥生を!」
山城「わかった!」
弥生「たす…け……」
山城「大丈夫!今出してあげるから!」
山城「提督!もう少し上げて!!」
提督「任せ、ろ!らあああ!!」
扶桑「うぅっ…!!」
山城「早く、掴まって!」
弥生「うぅ……」
ギュッ
山城「そのまま掴んでて、引っ張るわよ!」
扶桑「山城…早く!」
提督「ぐぁぁ…扶桑さん頑張れ、あと少し…!」
山城「よいっ、しょ…!!出たわ!!」
ドシン…
提督「はぁ……弥生、大丈夫か!?」
弥生「しれい、かん……」
提督「良かった、助けられたみたいだな……くそっ、中は滅茶苦茶、こりゃ放送もかけられないな。」
提督「二人はこのまま弥生を連れて外へ、それもなるべく高い所に他のやつらをまとめて逃げろ。俺は館内に残った奴がいないか見て来る。」
扶桑「そんな、危険です!」
提督「いいから早く!俺もなるべく早く脱出する。」
山城「姉様行きましょう、この子の手当ても急がないといけません。」
提督「悪いな。」
山城「本当は提督のこと引き止めたいの、でも提督がして欲しいことだって、同じくらいしたいから…」
提督「なら後者で頼む、扶桑さんもありがとう。」
扶桑「くれぐれも気をつけてください!」
提督「承知した!」
ーーーーーーーー
提督「誰か残ってる奴はいないか!!いたら返事しろ!!」
卯月「司令官!!」
提督「おお卯月か、怪我はないか?」
卯月「うーちゃんは大丈夫ピョン。睦月ちゃん達も、ちゃんと避難してるはずピョン。」
提督「そうか、こっちは執務室にいた弥生が棚の下敷きになってな。助け出すことはできたけど、負傷してしまった。ドックも使えないし、しばらく不自由させることになるな。」
卯月「そうだったピョン…でも助かったならそれでいいピョン、うーちゃん達姉妹は強いから。」
提督「そうだな、取り敢えずお前もちょっとついて来い。館内の見回りをする。」
卯月「了解ピョン。でも、それにしても珍しい、司令官がうーちゃんに逃げろって言わないなんて。」
提督「俺が死にそうになったら、近くに助けられる奴がいないと困るからな。」
卯月「おお!ついに司令官が素直にうーちゃんを頼りにする日が!」
提督「俺の人生史上最大級の災害だ、見栄なんぞ張ってたら屍を晒すことになるかもしれない。」
卯月「そういうことなら、うーちゃんに万事お任せピョン!」
提督「ああ、頼りにしてるぞ…」
提督「まだ避難を始めてない奴は早く逃げろ!それか身動きが取れないなら返事をしろ!津波が来る可能性もある!時間は無いぞ!!」
卯月「……司令官、なんか臭いピョン。」
提督「臭いって、こんな時にふざけてる場合じゃ…」
卯月「違う、なんか焦げ臭い…」
提督「まさか火災か!?ますます厄介だな……火元の確認頼む、おそらく報知器もスプリンクラーも作動してないと思うから、確認だけしたらすぐ戻って来い。」
卯月「了解ピョン!じゃあちょっと行ってきます!」
提督「……こっちも急ぐか、誰か残ってないか!!助けが必要なら返事しろ!!」
ポーラ「あ〜……昨日飲み過ぎましたかねぇ、すごくフラフラしたしさっきから幻が見える…」
提督「ポーラ!?こんな所で何してるんだ!」
ポーラ「あ、ていとくだ〜どうしました〜?そんな血相変えて〜」
提督「どうしたじゃない!早く逃げろ!」
ポーラ「逃げろって……あ、じゃあまた幻覚かぁ〜…困ったなぁ〜そんなに飲んでないのにな〜」
提督「寝ぼけてる場合か!早く逃げないと死ぬぞ!」
スパンッ!
ポーラ「あいたた…もう、急に何するんですか〜?」
ポーラ「あれ、痛い……?」
ポーラ「まさかここにいる提督は本物?」
提督「偽物がいてたまるか!とにかく早く逃げろ!津波にのまれるぞ!」
ポーラ「本物!?え、え!津波ってどういうことですか〜!?」
提督「地震あったの気付かなかったのか!!この床の状況見て!?」
ポーラ「はっ、本当だガラスがいっぱい……あああどうしましょう!地震ですよ地震!地面が揺れるんですよ!また次が来るんですか!?揺れるんですか!?」
提督「落ち着け!こんな沿岸にいて地震が来た時一番怖いのは揺れじゃなくて津波だ!早くここから離れて高台に避難しろ、ほら大至急!急げ!!」
ポーラ「は、はい!ポーラ逃げます!」
ダダダッ
提督「はぁ、あの阿呆…現実と夢の区別つけておけよ……」
ポーラ「提督ー!!大変ですー!!ポーラ高台の場所知りませーん!!」
提督「はあ!?仕方ない、お前も一緒に来い!卯月が合流し次第俺達も避難する!それまで残ってるやつがいないか確認するのを手伝え!」
ポーラ「はい!わかりました!」
ーーーーーーーー
卯月「しれいかーん!火元の確認済んだピョン!食堂から出火、もう消化器ぐらいじゃ止まりそうにないピョン。それと周りには誰もいなかったピョン。」
提督「ご苦労、じゃあすぐにここを出る!急げ!」
卯月「あれ、なんでポーラさんが一緒?」
提督「飲み過ぎで地震に気づかなかったんだと!」
ポーラ「そんなに飲んでないはずなんですけどね〜。」
卯月「いや、普通気付くピョン。」
提督「こんな子供に常識語られてるぞ、一ヶ月禁酒チャレンジするか!」
ポーラ「それはダメー!ポーラ死んじゃいます〜!!」
提督「酒飲まないくらいで人間死んだりしないだろ!」
ポーラ「します!過度なストレスでポックリ逝っちゃいます!!」
提督「お前いつもどんな生活してるんだ!?」
ズゴゴ…
提督「っ!なんだ…!?」
ポーラ「ヒイッ!地震ですか!?」
ズゴゴゴゴゴ…
卯月「司令官あれ!!」
提督「……なんだ、あれは。」
すり鉢状になった岩山の頂上から、巨大な影が顔を出した。
それは優に高さ100mは超えているであろう、身近な生物に例えるなら蛇に近いフォルムをした巨大な怪物だった。全身が海の底のようにドス黒く、目が無い。その代わり顔と思しき部位にはツルリとした玉のようなオーブが幾多も規則正しく配置されており、紅い光を迸らせている。
お歯黒を拭き取ったばかりのような灰色の歯は一見すると、戦艦レ級の尾を彷彿とさせるが、滲み出る禍々しさと凶悪さはこちらの方が断然上だ。
提督「こんなのが深海棲艦にいたのか…」
規格外の一言では済まないレベルの怪物だ。こんなのが最初期から暴れまわっていたら、人類は皆黙って滅亡を受け入れただろう。否、深海棲艦に対抗しある力を手にた今でさえ多くの人々が自分の生を諦めるだろう。それ程までに圧倒的な存在だった。
気がつけば、体が言うことを聞かない。膝は笑うどころか、自分が立っているのか座っているかもわからなくなり、空気がガラスに成り代わったように肺に入らなくなり、頭まで真っ白になり始める。視界がグラつき、見えている世界が滅明した。
卯月「司令官!しっかりするピョン!!」
バシンッ
提督「ぐあっ!」
ポーラ「おお、いい音。」
提督「急に何するんだ!」
卯月「気を失いそうだったから助けてあげたんだピョン!」
提督「気を……ああそうか、助かった。」
提督「しっかし、デカイな……」
ポーラ「酒樽何個分でしょうね?」
提督「そんなので数えられるほど小さくないと思うぞ…」
提督「取り敢えず、何かしてくるでもなさそうだ。あれを放っておくのは少し無理がありそうだが、とにかく先に避難したやつらと合流しよう。迎撃するにしても俺がいないとな……ん?」
提督「何故、このタイミングで戻ってくるんだ。」
早霜「しばらくお会いしないうちに、随分と冷たくなりましたね…」
提督「あんな怪しい実験場で何ヶ月もコソコソ引きこもってた奴が、こんな非常事態に出てきたら嫌でも疑いたくなるっていう人間の本能を、理解できないわけじゃないだろ。」
早霜「そんなことを言われてしまうと…私が人間ではないと言われたようで悲しいです……」
提督「俺にそんな気は無いと知ってるだろ、妙な芝居は止めてくれ。」
早霜「フフ…相変わらず女の涙には弱いのですね…」
提督「ああもう、見ない間に人の心をおちょくるのが得意になったな。そんな悪い子に育てた覚えはないぞ。」
早霜「だって久しぶりのお父様との会話…楽しくて仕方ないです…」
卯月「何早霜ちゃんのペースに乗せられてるピョン、とっとと言いたいこと言えばいいピョン。」
早霜「卯月さんの言う通り…言いたいことは始めにハッキリと伝えた方が、会話はスムーズになります…」
提督「逸らされるから困ってるんだろ……まあいい、あのデカ物とここ最近日本中で起こっている地震。あれは全部お前の仕業か?」
早霜「さて…どうなのでしょう…私はただ巨大な地震に身の危険を感じて地下から逃げてきただけ…ということは……」
提督「はぐらかすな、疑問形で言ったけど、もう俺の中では結論が出てる。」
早霜「そう…たった数ヶ月で私の信用は失われてしまったのですね……」
提督「いや素直に、ごめんなさいって言ってあの怪物をどうにかしてくれると、
俺は信じてる。」
早霜「まるで子供のイタズラですね…」
提督「ああ、今ならまだその程度で済む。」
早霜「なら、ごめんなさいと言っても、許してもらえなくなってしまいますね…」
提督「改めて言うぞ、戻って来い。今すぐお前がしようとしてることを止めろ。」
早霜「拒否したら…?」
提督「力づくでも引き戻す。」
早霜「そうですか……なら、やってみてください。」
パチンッ!
怪物「……ヒュォォォオオオオ!!」
提督「ぐあぁ…」
卯月「うぅ、耳が痛いピョン……」
ポーラ「うぅ……あ!提督!あれ!」
ギュィィィイイイイイン!
提督「レーザーか?というかあいつどこ向いて……おいまさか!止めろ早霜!!そっちは…!!」
ドギュウウウウウンン!!
提督「嘘だろ……あの方向には町があるんだぞ!!」
早霜「ご安心を…いずれ世界中が同じ運命を辿りますから…」
提督「止めさせろ!今すぐに!!」
早霜「もう手遅れです…ここ数日の間に各地で育てておいた個体が世界中に散らばりました…北米は米国、南米は伯剌西爾、、亜細亜は中国、露西亞、欧州は英国、仏国、そして阿弗利加……この子は間も無く東京に向かうでしょう…」
提督「何故そんなことができる!!何故守るはずのものを殺す!!」
早霜「守るもの……そうですね、ほとんどの方にとっては、とばっちりでしかありませんね…」
提督「だったら……」
早霜「でも構いません…この世界の住人など、もう不必要です…変わろう変わろうと言って変わろうとしない愚かな人間の世界を、私が代わりに作り直してあげます…」
提督「神にでもなったつもりか!お前こそただの人間だろ!」
早霜「いいえ、私は艦娘……元は人間の少女であったはずなのに、未来を全て奪われモルモットにされ記憶を奪われ戦うことを強いられた化け物です……」
提督「……なんだ、その話は…記憶を奪われた?モルモット?どういうことだ……」
早霜「失礼、司令官には関係の無い話でしたね……そろそろお暇させていただきます…タイムリミットは3時間、それまでに…」
提督「おい待て!まだ話は…」
パァンッ!!
提督「かはっ……」
卯月「司令官!!」
早霜「私を殺せれば、世界の崩壊は終わります…」
早霜「さようなら、素敵な時間をありがとうございました……」
提督「待て……行く、な……」
卯月「司令官!!司令官!!死んじゃいやピョン!!司令官!!」
ーーーーーーーー
提督「う、うぅ……」
卯月「あ!気が付いたピョン!!」
扶桑「提督!聞こえますか!?」
提督「卯月に、扶桑さんか……ここは…うっ!」
卯月「ああ、まだ動いちゃだめピョン。」
扶桑「高台です、一先ず皆さんが休めるようにとテントを設営しました。」
提督「そうか、ご苦労だったな……怪物は、どうした?」
扶桑「それが……」
卯月「太刀打ち、できなかったピョン……戦える人全員で挑んだけど、敵わなかったピョン…」
提督「作戦も立てずにあんなのに立ち向かおうとするな…こちらの被害は?」
扶桑「私達二人だけ、小破で済みました……っ、山城が」
提督「山城に何か…うぐっ、何かあったのか?」
扶桑「私を庇って……」
提督「まさか、嘘だろ…止めてくれ、非常事態にそんな冗談…」
卯月「食べられちゃったんだピョン、あの怪物に……」
扶桑「うぅっ……!」
提督「そんな……」
扶桑「山城っ……私のせいで、山城が…」
提督「くっ……」
扶桑「私が、もっとしっかりしていれば、こんな事には…」
提督「……卯月、手を貸せ。」
卯月「司令官?」
提督「ゔっ……扶桑さんは夕張か明石、動ける方に声をかけて通信手段を確保させてくれ、大本営に掛け合う…」
卯月「そんな、寝てないとダメピョン!」
提督「こんな時に、寝てられないだろ…世界が滅ぶかもしれないんだぞ。それに…」
提督「山城を殺されて、黙ってられるか……」
卯月「司令官…」
卯月「わかったピョン。でも司令官はここにいて、明石さんの所にはうーちゃんが行って、すぐに通信機もって来るピョン。」
提督「頼む…」
タタタ
提督「……涙1つ見せない俺を、薄情だって思うか?」
扶桑「……」
提督「正直実感がわかない、今もいろんな事で頭がいっぱいだ……」
扶桑「……そんなこと言って、強がらないで。だって…」
扶桑「そんなに、涙流してるじゃない……」
提督「っ……扶桑さんには、敵わないなぁ…」
扶桑「伴侶ですもの…」
提督「俺がしっりしないと、いけないのに…これ以上何人殺されるかわからないのに…」
扶桑「こんな時に、涙の1つも見せられないなら…この指輪、海に投げ捨ててしまいますから……」
提督「……ごめん扶桑、もう耐えられそうにない…」
扶桑「私も、胸を貸してください…」
提督「っ……!」
ギュウウ
提督「山城…山城ぉ……」
提督「うああぁぁ…!!」
扶桑「うっ、うぅ……」
ーーーーーーーー
提督「……ええ、それでは火急の対策をお願いします。何百万の国民の命がかかってる……それでは、はい、失礼します。」
ガチャ
提督「はぁ…やっと話がついた…」
卯月「お疲れ様ピョン、お水どうぞ。」
提督「ありがとう……ふう、悪いな、さっきは気を遣わせた。」
卯月「うーちゃんと司令官の仲だから、気にすることないピョン。それに、司令官のことだったら扶桑さんにだって負けてない自信あるピョン。」
提督「言ったな、本人が寝てるのをいい事にこいつったら。」
卯月「一緒にいた時間なら圧倒的に勝手るんだから、そのくらい当然ピョン。」
提督「そうか?お前が立ち入れない夜の……おっと、これ以上はいけないな。」
卯月「うわ、この人こんな年端もいかない美少女に下ネタ振ろうとしたピョン。」
提督「実際そこまで意味わかってないだろ、この耳年増。」
卯月「な、何故バレた……!」
提督「いつまでもその手に乗らせないぞ、俺だって学習するわけだからな。」
卯月「くっ、また司令官いじりのネタが1つ減った…」
提督「相変わらず嫌な言い方するやつだな。」
卯月「まあいいピョン、ところでお話はどうだったピョン?」
提督「首都圏全域の住人の避難を取り付けた。それと総力戦の宣言、お膝元に太平洋沿岸にある各地の鎮守府から主力艦隊を集めてくれるとさ。」
卯月「短い間にそんなに…!」
提督「……さっき町を焼かれたのが伝わったらしい、不幸中の幸いってところだな。」
卯月「でも、その程度じゃ…」
提督「まず、無理だろうな。あいつを…あいつの言った通りに、早霜を、殺さない限りは……けど、」
提督「できるはず、ないだろ……」
提督「勝手に目の届かないところで引きこもって、気に掛けて迎えに行けば来るなって突っぱねて、かと思えば肝心な時に顔出しで頼んでもないのに助けて、それなのにもうすぐお別れだって時にこんな馬鹿なことやらかして、俺の事半殺しにして、何も言わせないままさようならって言って……」
提督「全部一人で抱えて、誰にも見せない話さない聞かせない、世界を壊そうと思うくらい追い込まれて擦り切れているくせに泣き顔1つ見せない、本当は誰かと一緒にいるのが好きなくせして、暗いとこに閉じこもって……」
提督「酒弱い俺を気遣えて、酷いことしてもほんの軽い罪滅ぼしで簡単に許して、妙に忠誠心強くて、褒め言葉に弱くて、綺麗な顔してるくせに前髪で隠して、笑い声怖いのに無邪気に笑った時はとても魅力的で、すごく優しいのに……そんな奴を、俺にどうして殺せって言うんだ!」
提督「……優柔不断だな、俺は。大勢の命背負って、嫁を殺されて、それでも元凶を無情に切り捨てられない。」
提督「一番大事なことを言わないで、早霜の捜索と殺害を願い出なかった。本当に、助ける気はあるんだか、復讐するつもりはあるのか……つくづく、馬鹿だな。」
卯月「そんなことないピョン、司令官は本当に大事な時は、ちゃんと決められる人ピョン。」
提督「普段からやれって話になるんだが、それだと平行線だろうな。」
卯月「ううん、普段から決断できても、普段でしか決断できない人だっているピョン。」
提督「そういうもんかね。というか、今は普段じゃない気がするが。」
卯月「もっともっと大事な時ピョン。復讐と最大多数の幸福と、大事な人を天秤にかけられるのは、無駄なことじゃないピョン。」
提督「無駄じゃないか……そうだといいけどな。」
卯月「そうピョン、友達を殺されたからって親友を殺そうとする人と、多くの人が幸せになればそれでいいって言える人はうーちゃんきらいピョン。」
提督「じゃあそうだな……俺が睦月に殺されたらどうする?」
卯月「睦月ちゃんはそんなことしないピョン。」
提督「お前の身近な人物だと例えにならないか……なら、ある刑務所に見る人全てを殺そうとする殺人鬼がいました。そして俺は彼に殺された。でもそんな彼にも友達はいます。友達は彼を釈放してあげたい……友達の考えること、お前は受け入れられるか?」
卯月「うぅ…そういうのはズルいピョン。」
提督「あり得る話だ。お前が嫌ってるのは、そういう殺人鬼は外に出すな!って言ってる人だということになる……嫌な話だよな、現に怪物によって何千人も殺されてる。俺はさっきの話で言えば、友達に当たるわけだ。」
卯月「でも……それでもうーちゃんは司令官がいいピョン!一見冴えないし、大して才能があるわけじゃないけど、いつも頑張ってるし、うーちゃん達と仲良くしてくれるし、料理上手だし、お人好しだし、いじってて楽しいし!」
提督「後ろの2っは褒められたのか…?」
卯月「自分のことは2の次にして、みんなのこと大事にしてくれるピョン!」
卯月「だからちょっとくらい、ワガママ言ってもいいと思うピョン……」
提督「我儘なんて、他の人が許してくれたらいいけどな。」
卯月「ごめんなさい…うーちゃん、こういう時何言えばいいのか、全然わからないピョン……司令官のこと、間違ってないって言ってあげたいのに、わからないピョン……」
提督「はは、そうか間違ってないか……なら、その一言で十分伝わった。ありがとう。」
提督「さてと、そうまで言われてしまえば、こんな所でいつまでもうじうじ考えてるわけにはいかないな。」
提督「手を貸せ、東京に行くぞ。」
卯月「でも、司令官怪我してるピョン。」
提督「無理すればなんとかなる。それよりも、早く早霜の所に行くぞ。」
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提督「……あと1時間か、間に合うかどうかってところだな。」
卯月「いっそ飛ばしたらいいピョン。」
提督「今から東京に行こうなんて馬鹿は俺らぐらいだから、確かにそれでもいいけど……でもさすがに駄目だな、あちこちで警察が避難誘導やってる、目を付けられたらコトだ。」
提督「そして、飛ばしたら哀れな後ろの二人がもっと悲惨なことになるしな。」
チラ
リコリス棲姫
「ハ、ハヤクオロセェ……」
防空棲姫「オェ、気持チワルイ……」
卯月「うわぁ、深海のお姫様二人があられもない姿に……」
提督「はぁ……リコリスは陸上型だから、まだ車酔いしてもおかしくないけど…防空棲姫、お前水上艦だろ。」
防空棲姫「知ラナイ…漫画読ンデタラ急二……」
提督「その程度で酔うとか三半規管どうなってるんだよ……よく海の上にいた頃は船酔いとか無かったな。」
卯月「あ、そう言えばこの車酔い止めがあったような……」
ゴソゴソ
提督「あれは消費期限切れたから捨てたぞ、それにこいつらに効くとは思えないしな。」
提督「兎も角、しばらくは休憩も取れないから窓開けて風にでも当たってろ。」
リコリス棲姫
「マッタク…人使イノ荒イコトダ……」
リコリス棲姫
「……トコロデ、ドウヤッテ開ケレバイイ?割ルノカ…?」
提督「……そうだったな、車に乗るの初めてなら知る由も無かったな。悪い、今こっちで開ける。」
ガー
防空棲姫「ア゛ー、風ダー…」
提督「手を出したりするなよ、なんかの間違いでもぎ取れるかもしれないからな。」
バキッ!!
提督「何だ!?」
防空棲姫「アー、間違エテ棒折ッチャッタ。」
提督「おいおい、視線誘導票折るなよ。誰かに見られてたらアウトだぞ。」
防空棲姫「コレモラッテイイ?」
提督「車内に持ち込むな、その辺に捨てろ。」
防空棲姫「チェー…」
ポイ
防空棲姫「……」
バキッ!!
提督「おいまたか!?」
防空棲姫「私ジャナイモーン。」
提督「オーケー、車酔いが治ったようなのでぶっ飛ばすからしっかり掴まってろよ!!」
リコリス棲姫「オイ!待テヤメ…」
ブウウウウン!!
防空棲姫「アアアア!!ヤメテゴメンナサイ!!私ガヤリマシタダカラ許シテー!!」
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防空棲姫「ア゛ー……生キテルッテアリガタイ……」
リコリス棲姫
「私ニ力ガアレバ…今頃八ツ裂キにシテイルゾ……」
提督「まあ、おかげで早く着いたし、苦しい時間も短縮されて一石二鳥だったろ?」
卯月「司令官だって誰かをイジるときは大概ピョン……」
提督「ん、なんか言ったか?」
卯月「今しがた司令官をイジる大義名分を獲得したところピョン。」
提督「うわ、嫌な大義名分だなそりゃ。」
提督「……さて、もう戦闘は始まってるみたいだな。」
卯月「こんなに離れてるのにあんなに大きく見えるなんて、とんでもない大きさピョン。」
防空棲姫「強ソーダケド、アンナノ戦力ニ欲シイッテ言ウヤツウチニイルカナ?」
リコリス棲姫
「サテナ、私ハオマエ以外ノ深海棲艦ト呼バレル者達ヲ見タコトガナイ。」
防空棲姫「アア、ソウイエバソウダッタ。」
提督「物騒な話はやめてくれるか?これ以上敵を増やしたくない。」
防空棲姫「ダイジョーブ、アンナノト一緒ニ戦オウナンテ、何回沈ンデモキリガナイ。」
リコリス棲姫
「同感ダ、タダ破壊スルタメダケニ存在シテイルヨウニシカ見エテナラナイ。」
提督「お前らみたいにそれなりに頭良いやつばかりならいいけどな。」
防空棲姫「流石ニイーチャン達モ怖ガッテ近ヅカナイッテ。」
提督「それならいいが…」
リコリス棲姫
「トリアエズオシャベリハソノ位ニシヨウ、アレノ弱点ガシリタイトイッタナ?」
提督「ああそうだ、殺すのは無理らしいからせめて足止めくらいはしたい。」
リコリス棲姫
「ハヤシモトイッタナ、アレヲ殺サナケレバ決定打ニハナラナイノダロウ?ドウスル、行方スラ掴メテイナイノデハナイカ?」
提督「俺の勘が正しいなら、今頃あの化け物と一緒にいる。あいつならどっかに身を隠してしまえるだろうけど、そんなズルはしないだろうからな。」
リコリス棲姫
「ワカラナンナ、目的ノタメナラ手段ヲ選バナクテ当タリ前ダロウニ。」
提督「俺らのことナメてるんだよ。どーせあの化け物すら止められないんだろってな。今に見てろ、大人の悪知恵ってやつを見せてやる。」
卯月「かっこいいと思ったら最後で落とされたピョン。」
提督「悪かったな、他に言えることがなくて。」
防空棲姫「事実ソウダモンネー、アノ子前カラ凄カッタモン。」
リコリス棲姫
「ナンデモイイ、トニカク推測デキルアイツノ弱点を教エテヤロウ。」
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ある所に、一人の少女がいた。極々普通の少女だ。
その少女には、至極ありきたりで平凡ではあるが、仲睦まじい両親がいて、弟がいて、少し刺激が欲しくなる程度に平和な暮らしがあった。隣人に住む少年とも、小さい頃から仲が良く、年を重ねると共に友情が愛情に変わる程度には、好ましく思っていた。
しかし、ある時父親の仕事の都合で長らく暮らしていた家を離れることとなった。当然少年とも別れることになってしまい、その時は初めて、思い描く未来が単なる絵空事にしか過ぎないのだと知り、大いに涙を流した。
だが、それでも少女には幸運が続いた。引っ越し先の土地でも持ち前の長所を生かして友を作り、勉学ではそれなりに良好な成績を修めた。やがて心身ともに成熟し、大人の女性になった彼女は、社会の荒波にもまれながらも、それでも十分に幸せを享受していた。
だが、そんな彼女の幸せは一夜にして奪われた。
夜道を一人で歩いていた時、突然屈強な男たちの手によって拉致されたのだ。
行き先はわからない、ただそこではモルモットとして体を化け物に変えられる研究の材料とされた。
無理やり体を拘束され、ありとあらゆる薬を投与され、体を強引に作り変えられていく苦しみは、毎日休むことなく続いた。自らと同じように拉致された他の女性、中には年端もいかない少女が苦しみの中次々と生き絶えていくのも見た。何故、このような目に遭わせられるのか。何故、自分なのか。問うた回数は数知れず、ただ死にたいという願望だけを抱いて生き長らえていた。
そして、実験に成功してしまった彼女は、完全に化け物となった。他にも幾人か同じように姿を醜く変えられてしまった者達もいたが、どれも人間であった時の記憶など忘れていた。
時を経て、降って湧いた人間への憎悪に取り憑かれて毎日人間を殺すことばかり考えていた頃、彼女は艦娘と呼ばれる人のような姿をした者達に討ち取られた。
これでようやく楽になれると思ったのもつかの間、今度は自分を殺した艦娘になり、自分を苦しめた人間の道具として扱われることになった。
早霜「そして、それを隠れ蓑に力をつけ復讐を誓ったのが私……」
正直、もう人間であった頃の記憶など無い。そういう人物であったという事実を知っているだけ、それでも人間を滅ぼそうと考えている理由は、わからない。
早霜「だけども……本当の私なら、それを望んだのでしょうからね…」
言わば大罪を犯したわけでもない哀れな少女の弔い合戦だ。許されざることをしているのは理解しているが、行動するには十分な動機を持つ以上、大衆道徳に従うかどうかは別問題である。
早霜「さあ、私の最後の司令官……貴方なら、どう止めるのでしょうね…」
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見事に四月に縺れ込みましたね。ですがキチンと仕上げたいので、まだ時間をかけさせていただきます。
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