2019-12-14 05:15:25 更新

概要

かつてこれほどまでに応援を催促した作者がいただろうか…。
多数の応援ありがとうございます!

海軍と艦娘に全てを奪われた男のお話、その④です。


前書き

罪の意識と重圧で精神的に追い込まれ始めた親潮。
彼女が演習で単艦出撃を願い出るが皆はそれを止めようとする。

そんな中、焦りで祥鳳は出撃を煽ろうとしてしまい・・・


①→http://sstokosokuho.com/ss/read/15389

②→http://sstokosokuho.com/ss/read/16974


※本作で唯一名前のあるキャラ

《白友提督》 提督の同期で横須賀鎮守府の提督。
       艦娘に優しいホワイト鎮守府を運営している。
       提督の同期だったのが彼にとって最大の不運。



祥鳳「親潮さんの言う通り一人で出撃してもらいませんか?」








葛城「何を…」


風雲「祥鳳さん…?」



仲間達からの信じられないような表情と視線が痛く突き刺さります。

その視線に私は寒気を感じていました。



祥鳳「親潮さん?確かに単艦で演習に出たら相手の白友提督が棄権を申し出てくれるかもしれません」


大井「祥鳳…!やめてよ!」


祥鳳「しかし棄権しなかった場合一方的に撃たれて痛い思いをするだけですよ?提督は接待演習をした卑怯者と罵られ、何も得ることは無く批判されるだけになります。それでもやろうというのですか?相手が止めてくれなかった場合、負けることは許されませんよ?」


親潮「はい…!やります、やらせて下さいっ!」


天津風「な、なんで…!無理に決まってるでしょう!やめなさいよ!」



今の親潮さんには失敗した場合のリスクが見えていないことは明らかです。

しかし私の口は止まりませんでした…。


何かフワフワしたような浮いた気持ち。

地に足がついていないというのはこのようなことを言うのでしょうか…。



祥鳳「そこまでやりたいと言うなら仕方ありません」


沖波「え…」


祥鳳「親潮さん、私は確認しましたからね。本当にこれで良いのかと、でもあなたは自分から行くと言いました」





本当にこれで良いのか…?



自分に言ってやりたい言葉です…





祥鳳「提督は一切責任を負いません、良いですね?」


親潮「は、はい!行かせて下さい!わ、私、力の限り戦いますから!」


大井「祥鳳!なんで…なんで煽るようなこと言うのよ!!」






祥鳳(怖い…)





今まで築いてきたものが…音を立てて崩れていくような気がして…



突き刺さるような仲間達の視線に



怖くて怖くて逃げだしたくて



泣きたくて…叫びたいのに…







これが本当に提督と親潮さんのためになるなんて保証は無いのに…






祥鳳「それでは出撃の…て、手続きを…」





限界が来て…口元が震えてきました…














提督「そうだな」




祥鳳(え…?)




ずっと苦しそうにしていたはずの提督が顔を上げていました。




その表情は…




提督「俺は出撃を許可していない」


親潮「え…」




ここ最近は見ることが無かった『復讐者』のもので…




提督「お前が出撃を勝手に申請して勝手に出撃した、そうだな?」


親潮「あ…あの…」


提督「俺は棄権を申し出たはずなのにお前が勝手に出撃した」


時津風「し、しれー…?」


雪風「なんでそんなことを…」



その冷たい雰囲気に場の空気が一気に凍り付きました。




提督「どうなんだ親潮っ!!」


親潮「ひぃっ!?そ、そうです…!私が勝手に志願をして出撃をしましたっ!!」




突然の提督の大声に親潮さんは委縮しながらも出撃すると答えてしまいました。




提督「ふん、そういうことだ。午後からの艦隊戦は親潮一人、単艦での出撃だ」


天龍「おい!提督っ!!」


提督「俺は何も知らない、だから何の責任も無いからな。あははははっ」


葛城「どうしたのよ提督!なんで…どうしてよ!」




嘲笑うかのような提督の態度に寒気がしました。




時津風「しれー…そんな怖い顔しないでよぉ…」



提督の豹変ぶりに時津風さんが青い顔をして怯えていました。





先程まで和やかな空気だったのに…今は最悪という言葉しか浮かびません…





祥鳳(止めないと…)






早く何とかしなければならないと思っているのに…



身体も口も動かずに見ていることしかできません




このままでは提督と親潮さんの間を何とかするどころではなく




提督と艦娘の皆さんとの溝を作ってしまいそうだというのに…




雪風「しれぇ!」


風雲「何か理由があるんじゃないの!?ねえ!」


提督「止めさせたければ親潮を止めるんだな」


大井「ちょっと!待ちなさいよぉっ!!」



情けないことに…私は何もできずに立っていることしかできませんでした







その後、提督は批難を受けながら食堂から姿を消し




メンバー表を受け取った親潮さんは止める間もなくどこかへと走り去って行きました











ハッとして提督を追い掛けようとしましたがその姿は既に無く






食堂は険悪な空気を残したままとなっていました…







祥鳳「…」





フラフラとした足取りで廊下を歩いてました。




司令部施設に向かったであろう提督の所へと行くか



演習場に出る親潮さんを止めるべきか



思考の定まっていない私の足取りは安定することは無く、向かう先も決まっていません





天城「祥鳳さん」




後ろから天城さんに声を掛けられて恐る恐る振り返ります



天城「どこへ行くのですか?」



その表情は少し怒っているように見えます。


こんな天城さんを見るのは初めてかも知れません。



祥鳳「わ、私は…あの…て、提督と…親潮さんを…」


天城「…」



天城さんの咎めるような視線に思考の定まっていない私の答えはしどろもどろになってしまいます。




このうえ天城さんにまで見放されたら…



そんな恐怖もあって私は泣いてしまいそうなほどに身体が震えました。



天城「もう…せっかく提督が祥鳳さんを庇ったというのに、あなたがそんなことでどうするのですか?」


祥鳳「え…」



怒った顔から一転、天城さんが呆れながら笑顔を見せてくれました。







提督が私を庇った…?







天城「あ、あれ…?祥鳳さん気づいてませんでした?提督は祥鳳さんに向けられそうだった矛先を全部自分に向けるようにしてたじゃないですか」


祥鳳「…」



でも…提督はあの時復讐に支配された時と同じ顔をしていて…そんな余裕…



天城「提督のこと、信じているのですよね?」


祥鳳「はい…」



確信を持った天城さんの笑顔はそれが事実だと私を安心させてくれます。



天城「だったら今、祥鳳さんがすべきことは皆さんがバラバラにならないようにしっかりと言い聞かせてまとめることではありませんか?」


祥鳳「天城さん…」



そして今するべきことを導いてくれました。






祥鳳「っ…ぅ…っ…」


天城「祥鳳さん…」




その安心感からなのか、情けないことに涙が零れてしまいました。


するべきことは天城さんが教えてくれたというのに…。




祥鳳「わ、私が…もっと…ひっ…ぅっ…うまくやれていれば…こんなことには…っ…」




提督のことも、親潮さんのことも知っている私がもっと上手く立ち回れていれば…

そう思って自分を責めてしまいます。


天城さんの前では…つい弱い自分を出してしまいます。



天城「そうやって自分で何もかも背負い込むところ、祥鳳さんの悪い癖ですよ」


祥鳳「あ…」







『これは俺の問題だ。何でもかんでもお前が背負おうとするんじゃねえよ』







少し前の提督の言葉が思い出されます。



天城「中々言えない事情があるとは思いますけど…もっと遠慮なく私を頼って下さい。私達は改二艦にも負けないベストパートナーなんですからっ!」



そう言って天城さんは優しく私を抱きしめてくれました。





そのやさしさに甘え、涙が止まるまで胸を貸してもらうことになりました。










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その二人の様子を少し離れた位置から他の艦娘達が全員見守っていた。



風雲「祥鳳さん…」


沖波「やっぱり…無理してたんですね…」


大井「そういうことよ、これ以上祥鳳に負担を掛けないようにしないとね」



食堂に居たメンバーは大井が先導しその状況を見守るよう指示した。

祥鳳が抱えていたものを目の当たりにして仲間達は落ち着きを取り戻したが…



天津風「でも…あんな危険なこと…」


時津風「やっぱり止めて欲しいよー…」


雪風「親潮さん、心配です…」



親潮の姉妹艦達は心配そうな表情を隠せない。

このままでは演習場に飛び込みかねない程だった。



雲龍「中途半端に止めさせてはダメ」


葛城「雲龍姉…?」



ずっと成り行きを静かに見守っていた雲龍が珍しく口を開く。




雲龍「勝ち負けじゃなくて…親潮の気の済むようにさせてあげないと、いつまでもあのまま苦しむことになるわよ」




ずっと自分の気持ちを閉じ込めていた雲龍だけに説得力があり、天津風達は言葉を失うしかなかった。




天龍「おし!まずは笑顔で祥鳳を迎えようぜ!そんで親潮の勝利を祈って見守ろう!親潮が心配なら天津風達は工廠で艤装付けて待機しててくれ」



水雷戦隊旗艦らしい天龍の号令に全員が頷き、前向きに思考を持って行けるようになった。
















祥鳳「あ…あの…みなさん…」



風雲「あ、祥鳳さん」



沖波「もうすぐ時間ですよ、行きましょう」



時津風「全く…しれーも親潮も無茶するよねー」



大井「こうなったら全員で祈るしか無いわよね」










戻ってきた祥鳳を全員が笑顔で迎える




その笑顔はぎこちないものではあったが、仲間達の思いやりに祥鳳は再び涙を零した




先程とは違う嬉しさからくる涙だった










【横須賀鎮守府 演習場】






長門「準備は良いか」


大鳳「ええ!」


翔鶴「いつでも!」


熊野「発艦準備完了ですわ」


阿武隈「甲標的もいけるよっ!」


五十鈴「対空兵装、準備万端ね!」





白友『みんな、開始まであと1分だ。気を引き締めて掛かってくれ!』






白友提督の艦隊は6隻が準備完了



演習の開始を待っていた。




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親潮「…」







一方親潮は単艦で演習の開始を待つ



司令部施設から提督の通信も無い





ただ独り、心細さを感じながら前を見据えていた


















親潮(黒潮さん…私…本当にこんなことで…)
















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白友提督とは別の場所にある司令部施設で提督と祥鳳は開始を待っていた




6隻による艦隊戦は相手がどのような編成で来るのかは事前には知らされない


読み合いを含めての戦いで両提督の力量も問われるものだが


白友提督は相手が親潮一人などとは夢にも思わないだろう






祥鳳(親潮さん…頑張って下さい…!)





祥鳳は覚悟を決めて司令部施設の映像を見ていた





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天津風「…」


雪風「大丈夫…絶対…」


時津風「親潮…」



工廠では艤装を付けた天津風達がいつでも助けられるよう準備していた




大井「いい?演習終了の放送が入るまで絶対に飛び込んだらダメだからね」




彼女達が暴走しないよう大井が見張っていた。





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葛城「…」


風雲「…」





観覧席では仲間達が固唾を飲んで見守っている。
















陸奥「あ…あれ…?」









横須賀鎮守府の陸奥は相手の主力がほとんど観覧席に居ることに気づく。



陸奥(どういうことよ…)





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『演習開始っ!!』






熊野「私の偵察機が先導しますわ!」



熊野が勢いよく偵察機を飛ばし



大鳳「第一次攻撃隊!発艦!」


翔鶴「第一次攻撃隊、発艦始め!」



大鳳と翔鶴がそれに続いた。




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親潮「き…きた…」






足を震わせながら親潮は高角砲と対空機銃を艦載機に向ける。





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熊野「え…!?」







偵察機を通して熊野が見たものは





白友『熊野、相手の編成は!?』


熊野「い…一隻…」



口を震わせながら熊野が報告する。



熊野「駆逐艦親潮、一隻のみですわ!!」


白友『な、なんだって!?』


長門「どういうことだ!」


五十鈴「ちょ、ちょっと待ってよ、潜水艦っていないのよね!?対潜装備持ってきて無いわよ!?」



熊野の報告に白友の艦娘達が顔色を変えた。



白友『大鳳!翔鶴!一旦攻撃機を引き上げさせろ!』


大鳳「無理です!すでに攻撃態勢に入りました!」


翔鶴「もう止めることはできません!」


白友『な…』


熊野「なんてこと…」




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振り返っても誰もいない




通信機からの声もしない




嫌でもあの時のことを思い出してしまう






親潮(黒潮さん…)






司令の家族を手に掛けて



司令を殺しかけて



報告に向かう海域で黒潮さんが私を庇っていなくなって








独りになってしまったあの夜の海…








親潮「きた…!!」





私は高角砲と対空機銃を構え





親潮「うあああああああああぁぁぁぁ!!!」





弾薬が尽き果てるまで撃ち放った。




しかし私一人では到底太刀打ちできるものではなく…





親潮「きゃあああああああああああああっ!!」




艦載機からの雷撃、爆撃が襲い掛かってきた





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天津風「親潮っ!!」


時津風「やっぱ無理だよ!やめさせようよ!!」


大井「…」


雪風「大井さんっ!!」


大井「止めさせて親潮が本当に救われると思うなら行きなさいよ!!」


時津風「ひっ…!?」


雪風「あぅ…」



大井の一喝に駆逐艦は黙るしかなかった。




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海上では遠めに佐世保鎮守府の艦隊が親潮一人なのが目視できていた。



陸奥「ちょっと…!」




陸奥は観覧席で近くに居た天城に詰め寄る。



陸奥「何なのよあの編成は!あなた達一体どういうつもりで…!」


天城「…」


陸奥「え…」



天城の刺しかねない冷たい目線に陸奥が一気に勢いを失う。



天城「これは私達全員納得の上での編成です」


陸奥「な…!?」


天城「口出ししないで下さい」



そう言って天城は視線を海上に戻した。



陸奥が周りに目をやるが、他の艦娘達も黙って海上に立つ親潮を硬い表情で見守っていた。




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親潮「はぁ…はぁ…!なんとか…」




親潮は大鳳、翔鶴の艦載機による攻撃を何とか凌いだ。




親潮(これで後は…)




後は白友提督が棄権を申し出てくれたらこの作戦は成功する。





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大井「バカぁ!!気を抜いてんじゃないわよ!!」






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白友『あ、阿武隈!甲標的は…』



阿武隈「もう撃っちゃいましたぁ!止まりませんっ!」






阿武隈が開戦と同時に甲標的を放ち、相手艦隊に狙いをつけていた。





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親潮「え…」





酸素魚雷が接近する音を聞いた時には既に遅かった。





親潮「うわああああああぁぁぁぁっ!!!」




回避行動を取る間も無く、親潮は魚雷の直撃を受けてしまい何メートルも吹き飛ばされ海面に何度も身体を打ち付けた。。





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祥鳳「提督…!」


提督「…」



司令部施設の提督は何も言わずそれを見ているだけだった。





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天津風「親潮ぉっ!!」


雪風「大井さん…!もう…」


大井「まだ終わってないわよ…!」


時津風「で、でも…あ…」



大井の食いしばった口から血が流れている。

身体を震わせて親潮の下へ駆けつけたいのを我慢しているのが目に見えて3人は再びその場に留まった。





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親潮「ぁ…ぅぐ…」




親潮は倒れた身体を起き上がらせようとするが力が入らない。



損傷を受けたのもあるが戦意が消えかかっているのが大きいだろう。


演習終了かと思われたが、まだ審判からの放送は無い。

損傷はどうやらギリギリ中破で留まっていたようだ。



親潮(もう…このまま…)




このまま倒れていれば終わってくれるだろうと意識を落としてしまおうとした。






提督『親潮』




そこへ提督から初めて通信が入る。





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提督「お前が自分から始めた戦いだ」


親潮『え…』



提督の言葉からは全く暖かみが感じられない。




提督「負けることは許さん、死んでも勝て」


祥鳳「提督っ!」



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親潮「…」



力をくれる言葉では無かった




でも…



親潮「っぐ…ぅ…」



私は立ち上がった






そう…




私は自分から言った



『何かさせて下さい』と




本当はこう言いたかった



『何か償いをさせて下さい』と




あなたから家族を奪った償いをさせて欲しいと言いたかった…






でも…






本当にこんなことが…






こんなことをして償いになっているのでしょうか





親潮「う…ぐすっ…ぅ…」






ねえ…黒潮さん…








親潮「うあああああああああああああぁぁぁぁぁっ!!!!」








私は大きな泣き声を上げながら単騎、相手に突撃を開始した。







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大鳳「相手駆逐艦!こちらへ向かって進み始めました!」


長門「提督…どうする…?」


熊野「迷っている必要はありませんわ」


翔鶴「熊野さん…?」




熊野の表情が憎しみに染まっている。


周りの仲間達が青ざめる程の殺気を放っていた。




長門(まずい…!!)




長門はとっさに熊野を組み伏せる。




熊野「お放しなさい!一撃で終わらせて見せますわ!!」


長門「よせ…熊野…!提督っ!」




何とかして欲しいと長門は白友提督に通信で話す。



















『横須賀鎮守府、白友提督が棄権を申し出ました。佐世保鎮守府の勝利です』















熊野「あ…」


長門「提督…」







白友『みんな…すまない…』







単艦で戦う親潮の身の危険を思い、白友提督は審判に棄権を申し出てしまった。








佐世保鎮守府、3勝2敗によって今回の合同演習は勝ち越しが決まった。







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親潮「はぁ…!はぁ…!」





親潮はその放送が耳に入っておらず相手艦隊に突進を続けていた。










天津風「親潮ぉっ!!」


時津風「終わった!終わったよ!!」


雪風「もう戦わなくてもいいんですっ!!」




そこへ天津風達が親潮に飛びつき進軍を止めさせた。





親潮「え…」





その正面には大井も立っている。





大井「よく頑張ったわね、親潮」






親潮「あ…」




大井の言葉に安堵したのか





親潮はそのまま意識を失った






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天城「…」


雲龍「…」


天龍「…」


風雲「…」





その様子を見ていた仲間達は拍手を送ることも無く



立ち上がって演習場の観覧席から離れて行く









達成感も喜びも無い




勝者無き勝利は後味の悪さだけが残っていた







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金剛「正気の沙汰じゃないネ…!霧島…こんなところに行くのは絶対にやめるべきネ!」


霧島「…」



演習を見ていた金剛が怒りに顔を歪めながら霧島を諭そうとする。




霧島「それは…この後の彼女達を見てから決めようと思います」





しかし異動する意思がほとんど固まっていた霧島は冷静に今後の行く末を見守ることを決めていた。







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提督「ふん…」






勝利の報を聞いても提督はつまらなさそうな顔をしているだった。




そして何も言わずに司令部施設を出ようとする。





祥鳳「提督…!」



その行く手を祥鳳が遮る。




祥鳳「親潮さん、頑張りましたよ…!6隻相手に勝利をしました!」


提督「…」


祥鳳「怖くても逃げずに戦ったんです!あなたの…あなたのために戦ったのですよ!」



親潮の頑張りを祥鳳が必死に伝えようとする。


その目には涙が溜まっていた。




祥鳳「で…ですから…!どうか、ぅっ…お、親潮さんを労って…褒めてあげて下さい!お願いします!」










深々と頭を下げた祥鳳から涙が零れ床にポタポタと落ちた。










提督「…」








提督は何も言わずにそのまま司令部施設を出て行った。























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【横須賀鎮守府 廊下】





陸奥「なんて人達なの…!ありえないっ!!」



怒り心頭といった足取りで陸奥は佐世保鎮守府の提督を探し歩く。


いくらあの艦娘達が納得の上で親潮を単艦出撃させたとはいえ、それを実行した彼を許すことなどできなかった。



陸奥(場合によっては一発ぶん殴ってでも…!)



そんな危険思考に行きかかった時…



白友「陸奥」



廊下の反対側から白友が歩いてくる。

司令部施設にはいなかったと彼の表情が物語っていた。



白友「あいつを殴るのは俺の仕事だ」


陸奥「え…」



初めて見せる白友の本気怒りの表情に陸奥が言葉を失う。



白友は怒りの表情を見せたままどこかへ行こうとする。



陸奥「あ…待って…!」




陸奥はその後をついて行くしかできなかった。






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【横須賀鎮守府 医務室】









親潮「ぅ…ん…」


天津風「あ、気が付いた!?」




私が意識を取り戻した時は横須賀鎮守府の医務室のベッドの上でした。



時津風「よ、良かったよー…」


雪風「みんな心配したんですから!」


親潮「ごめんなさい…痛っ…!」


大井「無理しちゃダメよ。演習とはいえあれだけダメージを受けたんだから…」



身体のあちこちが痛みます。

艤装は付けていても肉体にダメージが残ってしまったみたい。



周りを見ると陽炎型の妹達以外にもたくさんの仲間達が心配そうに見ていました。

しかしあの人の姿が見当たりません。



親潮「司令は…」


葛城「わかんない…演習終わってから誰も見ていないって」


祥鳳「すみません、早く見つけてここに…」


親潮「いえ…」




今、あの人に会っても何を話して良いのかわかりません。



『演習に勝ちました、褒めて下さい』


『これで陸奥さんを勧誘できますね』


『あなたへの償いができたでしょうか?』



そんなことを聞けるはずも無く、私は顔を上げることもできずに黙っていることしかできません。


心配してくれる皆さんに気まずい空気を作ってしまい申し訳なくて増々閉じこもるようになりそうでした。





天津風「少し二人にしてもらえないかしら」




そこへ天津風が気を遣ってくれたのか二人きりにしてくれました。




天津風「これ…」


親潮「…?」



天津風が大きめの封筒を渡してきました。


中に入っていたのは…



親潮「異動申請書と…推薦状?」


天津風「親潮が私達の所に来た少し後にあの人から預かってたの」


親潮「…」




どうしてこんなものを…。



だって司令は私に…




『俺から逃げられるものなら逃げてみろ!!その瞬間にお前の姉妹艦を全員あの世に送ってやる!!』




親潮「ひぃっ!?」


天津風「親潮!?どうしたの!」




『天津風も!時津風も!雪風も!お前が逃げ出した瞬間に殺してやる!!』





司令から言われた言葉が全身を駆け巡り、強烈な寒気と恐怖に襲われた。



天津風「だ、大丈夫!?どこか痛むの!?」


親潮「い、いえ…!な、なんともありません…」





司令は…私にもう逃げられないと言ったのに…どうしてこんなものを…?






天津風「ねえ…親潮がそんなにも辛い想いをしてまであの人に尽くそうとするのはどうして?」


親潮「…」


天津風「言えないような事情があるのは…なんとなくわかってきたけど…」




言えるはずがありません。



『私は過去に司令の家族を皆殺しにして司令すら殺しかけて、その償いをしようとしている』



そんなことを言ったら…私だけでなく司令と皆さんの信頼関係すら歪めてしまいかねないから…。




天津風「そんなにも辛いのなら…ここを離れるのも…」


親潮「やめて下さい…」


天津風「言い辛ければ私から…」


親潮「いいんです…私のことは…」


天津風「親潮…」


親潮「一人にして下さい…」




心配してくれる天津風には申し訳なかったけど…


気持ちを整理するために一人にしてもらいました。











いつの間にか陽が沈みかけて窓から見える空がオレンジ色に染まっています












夕焼けを見るといつもあのことを思い出します。








『またいつでも来てくれ、待ってるからな』







10数年前、司令の家へと招かれて…



あの見晴らしの良い丘で司令とした約束…






『ええよ、約束や』






あの時はまだ黒潮さんも生きていて…


私も黒潮さんも笑っていられた…






最後の…笑顔だった気がする…










『必ず…ええことあるから…』








その後…司令の家族を手に掛けた後の夜の海



深海棲艦に襲われた私を逃がそうと…







『絶対に…死んだらあかんよ』






黒潮さんは…






『生きてさえいれば…きっとええことあるからね…』









親潮「…」







頬から零れた涙が先程天津風から渡された書類を濡らしました。






親潮「なん…で…」





どうして…




ねえ…黒潮さん…




私だってやりたくて司令の家族を手に掛けたわけじゃないのに…




自分の姉妹艦達が人質に取られて…そうせざるを得ない状況に追い込まれていたというのに…





『艦娘が、同型艦が、姉妹艦が人質にされた?だったら俺の家族を殺しても良いってのか?』



『俺の家族を殺したのも、俺を撃ったのもお前』


『ほかの選択肢を選らばず、戦わず、抵抗もせず、相談もせず、一番楽で簡単で確実な方法を選んだのはお前だ』


『お前が殺したんだ、お前が殺す選択肢を選んだんだ』




司令の言う通りです…




わかります…




あなたが私を恨む理由はわかります…






でも…それでも…






親潮「ぅ…っ…」





嗚咽が零れ、涙が勢いを増したような気がします




親潮「う…うぁ…ぁぁ…」




黒潮さん…


どうして…




どうして私を置いて行ってしまったの…?





親潮「黒潮さん…っ…黒潮さん…!」





私…辛いよ…!




私もあの時…死ねばよかった…!




そうすればこんな辛い想いしなくても…




親潮「黒潮さんっ…ぅ…うあぁぁぁぁ…!やだよぉ…!寂しいよっ…ぅ…うあぁぁぁぁぁぁ…!」


















その後しばらくは黒潮さんのことを思い…














一人で泣き続けました…


























どれだけの時間そうしていたのかわかりません
























医務室の外から離れた場所で大きな物音が聞こえ







私は這いずるようにベッドから出てその場へと向かいました














そこには…




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【横須賀鎮守府 外】





祥鳳「やっと見つけました…」




鎮守府内外を探し回ってようやく提督を見つけました。



私は提督に声を掛けて親潮さんの所へと連れて行こうと思ったのですが…





白友「おいっ!!」



私よりも先に白友提督が声を掛けました。



白友「この人でなしがぁっ!!」


提督「っぐ…!?」



止める間もなく白友提督が掴みかかり、提督の顔面を平手で殴りました。




祥鳳「提督っ!!あ…」


陸奥「…」



止めようとした私を陸奥さんが遮ります。

どかせようとしても私の力ではどうにもなりません。



白友「少しは艦娘達と仲良くやれていると感心したのに…!恥を知れっ!!」


提督「…」



提督は白友提督に胸倉を掴まれたまま抵抗しようとしません。





祥鳳(あ…)




成すがままにされている提督の表情…見覚えがあります。



あれは親潮さんに全てをぶつけたあの日に見せた…







親潮「や、やめて下さいっ!」




そこにまだ傷の残っている親潮さんが駆けつけました。



親潮さんの姿に気を取られた白友提督は提督を放しました。

陸奥さんも意識をそちらへ向けていたため私はすり抜けるようにして提督の所へと行きます。



祥鳳「提督…」


提督「…」



提督は尻もちをついたまま何も言わず俯いていました。




親潮「わ、私は自分で志願して演習に出たんです!司令を責めないで下さい!」


白友「それがどうした…!」


親潮「え…」


白友「たとえどのような理由があってもあんな危険な行為をさせるべきではないだろう!それでもお前は海軍提督か!!お前にこの子を預かる資格は無い!!」


親潮「…」



親潮さんの言葉に対し白友提督がすぐに反論します。

その勢いと艦娘を想う気持ちに親潮さんは何も言えなくなってしまいました。




提督「そうだな…」


祥鳳「え…?」



ずっと俯いて黙っていた提督が口を開きました。



提督「白友の言う通りだ。俺はこのままだと親潮に今後も酷い目に遭わせ続けるかもしれない」


親潮「し、司令…」


白友「お前…!」



提督のその表情は…






疲れ切って…放心しているあの時と同じ…





提督「だから…異動しろ、親潮」


親潮「え…」


提督「白友の所に行け」




な…何を言って…!!



祥鳳「提督っ!」


親潮「でも…そんなこと…」


提督「ああ、他の奴らが心配か?だったらそいつらも異動させてやる。天津風も時津風も雪風も。これでいいだろ?」


祥鳳「やめて下さい!何を言っているのですか!!」





それだけは…



それだけはやめさせないと…!





そんなことをしたら提督も親潮さんも…二度と…





提督「お前のしたことは忘れてやる…」


親潮「…」


白友「さっきから何を…」





でも…何と言って止めれば良いのかわかりません…






提督「消えろ。二度と俺の前に現れるな…」





今…提督に何を言っても届かないのが嫌でもわかってしまいます。



私にはどうすることもできない…






祥鳳「…」





私は助けを求めるように親潮さんを見上げます




この状況をどうにかできるのは…




提督に言葉を届かせることができるのはあなただけ…









しかし…









親潮「…」








親潮さんの表情を見て愕然としました。





親潮さんは…




親潮「…えへ…へ…」




口元を緩め…笑っていました





あの笑みには見覚えがあります









私が以前の鎮守府で捨て艦に近い囮機動部隊として戦っていた時のこと




戦歴の少ない龍鳳や天霧さん、狭霧さんが命懸けの戦いを終えて危険海域を脱した時に見せていた







安堵の半笑い…











祥鳳(もう…ダメかもしれない…)








親潮さんは私がそう諦めてしまいそうになるような半笑いをしていました









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親潮「えへ…ぅ…ふ…」







逃げられる…?



司令の傍から離れることができる…?





艦娘達を優しく守ってくれる白友提督の所へ行っても良い…?





そう考えるだけで頬も口元もだらしなく緩めてしまう。






私の足は…自然と白友提督の所へと近づいて行く。






祥鳳「親潮さん!ダメよ!絶対にダメ!お願い、考え直して!!」






余計なこと言わないで下さい祥鳳さん





良いじゃないですかもう…司令が良いって言ったんですよ?





どうせこんな出口の無い牢獄みたいな贖罪をしても





私が司令に許されることは絶対にないのだから…








一歩…また一歩と白友提督の所に近づく








優しい彼は私に手を差し伸べてくれている







隣の陸奥さんも私が来るのを歓迎してくれている












助かる…








もう…苦しまなくても良い…










その安堵から私の目から涙が零れました









































『ホンマにええの?』































突如





世界が真っ白になり





誰かに肩を掴まれました






















私が振り返ると














そこには…

























親潮「黒潮…さん…」






















悲しそうな顔をした黒潮さんが








ゆっくりと首を横に振っていました



























親潮「え…」




ハッとすると黒潮さんはいなくて



世界に色が戻りました





白友「どうかしたのか?」


親潮「…」






今のは…夢…?


それとも幻…?





黒潮さんの悲しそうな顔をした幻のお陰か



私の心は不思議と落ち着いていました







祥鳳「親潮さん!お願いします、どうか…どうか行かないで下さいっ!」






私を引き留めようとする祥鳳さんを見ると…



彼女は目に涙を溜めながら私に助けを求めているようでした






助けを求めている…?


何に対して…?





祥鳳さんの隣で何も言わず俯いている司令を見ると…





親潮「あ…」





あの放心して疲れ切っていて、何もかもがどうでも良いという表情








私がラバウル基地に保護されて、




司令の家族を手に掛けて、黒潮さんを喪ったショックから立ち直れずに




何日も放心してベッドの上で過ごした私と同じ…





あの時の自分の顔なんて見ていないのに…なぜかそう思うことができてしまった…











司令は『私のしたことを忘れてやる』と先程言いました




でも…私はあの日のことを一日たりとも忘れたことなんてありません




それなのに…家族を奪われた司令が忘れることなんてできるのでしょうか?







もう一度、視線を祥鳳さんに向けます







彼女は先程と変わりなく、私に縋るような目で助けを求めていました







親潮(祥鳳さん…)





祥鳳さん…あなたがが助けて欲しいのは…司令なのですね





司令は今でもあの時の悪夢を見続けているのですね









私が見てきた悪夢とは比にならないくらい…











『忘れる』なんて




絶対にできるはずがない…!










だったら…私は…





私がすべきことは…











親潮「すみません」




いつの間にか私は白友提督に頭を下げていて





親潮「私を心配して頂きありがとうございました。でも…」



しっかりと自分の口で、自分の言葉で言うことができていた



親潮「私は異動するつもりはありません。このまま司令の下で…」



私の言葉に祥鳳さんと…



司令も顔を上げて見ていてくれました



親潮「私と…私のために命を落とした大切な仲間の償いが終わるまで、司令の下で戦い続けようと思います」






なぜでしょうか



私が自分の想いを言うことができたことに



黒潮さんが笑顔で喜んでくれているような気がしました




提督「後悔するぞ」


祥鳳「て、提督…」


白友「お前…この期に及んで…!」



司令は脅しとも取れるような言い方で私に問い掛けます。



親潮「同じ後悔するのなら…」



しかし私の胸の内は決まっていました。



親潮「私は…あなたの傍で後悔したいです」


提督「…」


親潮「たとえそれが命を落とすこととなっても、私は最期まで前を向いていたいです!」




口調が自然と強くなりました。


司令の脅しから無理やり自分を発奮させたような気もしますけど…


それを大きな声で言うことができてとても気持ちが良かった。








私は初めて…




自分の一番やりたかったことを口にできました。










提督「ま、そういうことだ白友」


白友「な…」



司令がいつの間にか立ち上がっていていつもの明るい調子を取り戻していました。


その司令の調子に隣の祥鳳さんがとても嬉しそうな顔をしていました。




白友提督はまだ私を心配そうに見ていて…



その隣の…




親潮「あっ…」




私はあることを思い出しました。




親潮「あ、あの…!陸奥さん!」


陸奥「え…?」



ずっとこの場に居た陸奥さんに声を掛けます。



親潮「私達の鎮守府に異動してもらえませんか!?」


陸奥「な…!?」


白友「何を言って…!」


親潮「陸奥さんの力を司令は高く買っています!どうかお願いします!」




合同演習を勝ち越すことが最低条件だって司令は言っていました。


だとしたらこの好機を逃すわけにはいきません!




陸奥「わ…私は…っ…!」




しかし陸奥さんは答えを出すことなく早足でその場を離れてしまいました。




白友「陸奥っ!」


提督「おい」


親潮「え…うわぁ!」



私は司令に腕を掴まれて引っ張られます。


少し強い力でその場を離れ、歩かざるを得なくなりました。




提督「お前から言われてあいつが来ても意味無いんだよ」


親潮「し…司令…?」


提督「勝手なことをするな」


親潮「あ…」




また私は…一人突っ走って…


勝手なことを…



提督「と言っても効果はあったがな」


親潮「え?」




振り返って陸奥さんを見る司令が少し悪そうな顔で笑みを浮かべていました。

その笑みは普段見せている司令の笑顔で…



私の前で…初めて見せてくれました。



提督「しかし最終的には自分で決断してもらうことが大事なんだ」


親潮「え…あっ!」



司令が私の頭に手を置きました。




提督「お前のように、な」




少しだけ撫でてくれて…


司令はそのまま私の先を歩いて行きました。










もしかして…




褒めてくれた…?






その嬉しさに私の胸の高鳴りが大きくなってきました






祥鳳「親潮さんっ!」


親潮「うわっ!?」



急に祥鳳さんに手を掴まれてビックリしました。




祥鳳「ありがとう…本当に…ありがとう…!」


親潮「祥鳳さん…」




祥鳳さんは泣きながら私の両手をギュッと握っています。



親潮(そっか…祥鳳さんは…)



祥鳳さんはずっと私と司令の橋渡し役をしてくれていました。

普通だったらこんな役、投げ出しても仕方ない程の辛いことだったと思います。


その重圧は私が感じていたものと同じ…いえ、それ以上のものだったのかもしれません。


私と司令の板挟みになって…本当に辛い想いをさせてしまっていた祥鳳さんを救える結果になってまた嬉しさが湧いてきました。



親潮「あの…祥鳳さん、何かできることはありませんか?」


祥鳳「え…?」



その湧き上がる嬉しさに押されて何か行動を起こしたくなります。



親潮「司令のために、皆さんのために…今、何かできることはないでしょうか」


祥鳳「でも…身体は大丈夫なのですか…?」


親潮「はい!このくらいどうってことはありません!」



本当はまだ少し身体が痛むけど…気持ちがそれを掻き消してくれました。



祥鳳「まずは仲間達に元気な顔を見せてあげましょう!それから横須賀鎮守府の皆さんの誤解を解いて回らなければなりません、行けますか!?」


親潮「はいっ!!」




私の大きな返事に祥鳳さんは嬉しそうに笑顔を見せてくれました。





司令のために、力になるために歩き始めた私を


そっと誰かが後押ししてくれているような気がします






しかし私は振り返りません



もう、後ろを見て生きることは終わりにしたのだから






ずっと過去に囚われ続けていた私にとって




あの惨劇の日から初めて一歩目を進んだような気がしました





【横須賀鎮守府 食堂】




横須賀鎮守府の食堂が奇麗に飾り付けがされている。


どうやらこの合同演習のお疲れ様会みたいなものが始まるらしい。




俺は参加したら場の空気が気まずいことになると思ったので参加せずに中華街でも行こうかと思ったが白友に引っ張られ出席することになった。



白友が気を遣ってくれたこと、祥鳳と親潮が根回しをしたことでどうやら気まずい空気になることは無かったようだ。




鳥海「身体の方は大丈夫なの?」


親潮「はい!ご心配をおかけして申し訳ありませんでした!」


熊野「元気いっぱいですのね、そんな顔されたら何も言えませんわ…」


大井「色々と迷惑かけたわ、ごめんね」





隼鷹「どうだ、別れに一杯」


祥鳳「わ、私お酒は…」


隼鷹「遠慮すんなよー!ほれほれ」


祥鳳「うわわ!?零れます零れます!」






あちこちで楽しそうな声が聞こえて食事会は滞りなく進んでいるようで少し安心した。






??「佐世保の提督さんっ!」



それぞれが楽しそうに交流をしている中、俺に物怖じもせずに話しかけてくる



吹雪「どうですか!?」


提督「…」




地味な女がやってきた。



もしかして俺に気を遣ってわざわざ来たのか?

もしそうなら本気で感心するところだが…。



吹雪「どうですか!」


提督「…何が?」


吹雪「き、気づきませんか?ほら、ほら!」



何かをアピールしているようだが中々わからない。


吹雪は自分の肩のあたりに手を…



提督「暑いのか?」


吹雪「違います!セクシーさをアピールしているんです!」


提督「…?」



セクシー?


何のこと…と思ったが今こいつが着ている服は両肩が見える少しはだけたものだった。



吹雪「何も無理やりイメチェンをしなくったってこうしてセクシーさを司令官にアピールできれば…」


提督「はっ!セクシーさ!お前が!?はっ!」


吹雪「お、思いっきり鼻で笑わないで下さい!」



これが笑わずにいられるか。

笑うと言っても嘲笑だけど。



提督「いいか?セクシーアピールとはこうやるんだ、えーっと…」




今、俺の命令に逆らわないのは…



提督「天龍」


天龍「なんだ?」



俺は手招きをして天龍を呼ぶ。



提督「これに着替えてきてくれないか?」


天龍「は?」


提督「頼む」


天龍「お、おう…」



俺はメモに要望を書いて天龍に渡した。









しばらくして…





天龍「何なんだよ…Tシャツになれって…」




白いTシャツ姿の天龍が戻ってきた。



吹雪「う…あ…!」


提督「どうだ?」



軽巡洋艦の中では天龍はかなりの巨乳だ。

それに男性の視線をあまり意識しないのか白いTシャツでもブラジャーは色付きの紫のままで中が透けて見える。


そのため大きい胸がより強調されてセクシーさを際立たせていた。



提督「仕上げに、これだ」



俺は手に持っていたペンを白友の足元に投げつける。



白友「なんだ?」


提督「天龍、拾って来てくれ」


天龍「はぁ?なんでそんなこと…」


提督「これで今回の命令違反は許してやるから」


天龍「わーったよ…」




天龍が白友の前で身体を屈めてペンを拾う。




白友「…!?」



白友の視線は天龍の屈んだTシャツの隙間から除くブラジャーに行ってしまった。


顔を真っ赤にした白友は口元を押さえながら顔を逸らした。

童貞で女性に免疫の無いこのムッツリスケベの脳裏に天龍の巨乳が焼き付いたことだろう。



天龍「ほらよ」


提督「ご苦労さん、もう行っていいぞ」


天龍「何だったんだ…」


吹雪「…」



その間吹雪はずっと言葉を失って見ていることしかできなかったようだ。




提督「よぉく覚えておけ、芋」


吹雪「い、芋!?」


提督「お前にセクシーさは皆無だ、無駄な努力はやめておくこったな」


吹雪「う…うぅぅぅぅ!!このまま諦めませんからぁ!今に見てて下さいよぉぉぉ!!」



モブくさい捨て台詞を残して吹雪が走り去ってしまった。





あいつはあの元気さ、ひたむきさだけで十分なアピールになっていると思うのだがな。

面白いから放っておこう。








榛名「失礼します」


提督「お?」



続いて榛名が俺の隣に座ってきた。



榛名「霧島のこと、よろしくお願いします。どうかこれまで溜め込んできた鬱憤を晴らせるように暴れさせてくださいね」


提督「ん…ああ…」


榛名「…」


提督「…」



急に黙ってこちらを見てくる。


榛名に殺気は無いが獣の目をしていた。

どうやら霧島のことをお願いしに来たのは建前らしい。



提督「…何の用だ?」


榛名「教えて下さい」


提督「…」



榛名が聞きに来たのは『白友提督を落とす方法』のようだ。

その貪欲さには恐れ入る。



提督「簡単なことだ、夜這いを掛けてあいつと一晩過ごせばいい」


榛名「夜這っ!?」


提督「一晩ってのはわかるな?セック…むぐぅ!?」


榛名「しー…!!」



榛名に手で口を塞がれた。

そして周りには聞こえないよう小声で話しかけてくる。



榛名「な、なんてことを言うのですか…!そんなこと…」


提督「できないのなら諦めろ。お前と白友の距離感は一生変わらん」


榛名「…」



榛名が黙って俺に耳を寄せる。

どうやら続きを聞く覚悟を決めたようだ。



提督「まず服装だ。脱ぐ手間も必要無いくらい薄着で行け」



榛名は顔を赤くしながらも真剣に聞いている。



提督「女を知らない白友は薄着のお前を前にしても手が出せないチキン野郎だ。徹底的にリードしてやれ、一切躊躇うな」


榛名「で、でも…榛名はそんな経験…」


提督「無いなら今からでも知識をつけろ。見様見真似でも良いが、いざという時に手が止まらないようネットでもなんでも駆使して情報を頭に入れておけ」


榛名「…」


提督「それでも白友が日和ったら泣き落とせ。あいつは艦娘の涙には死ぬほど弱いから絶対に受け入れざるを得なくなる」



我ながらこんなに言っても良いのかと自問自答したくなるような内容だった。



榛名「本当に良いのでしょうか…?榛名がこんなことしたら皆さんの関係が…」



今度は榛名がこの期に及んで日和ってきやがった。



提督「関係なんか既に綻んでいるだろうが」


榛名「え…?」


提督「遅かれ早かれあいつの下ではこういうことが起きるんだよ。だったら早めにやって対処した方がいいんじゃないか?」


榛名「…」



榛名は俺の言葉を聞いた後、少しフラフラしながらその場を離れて行った。






あれはヤルな…。




白友喜べ、お前の童貞卒業は目の前に来ているぞ。










磯波「あの…」


提督「…」




今日は何だか来客が多いな。



提督「白雪だったか?」


磯波「い、磯波です…!これを…」


提督「…?」




磯波が持ってきたのは手紙だった。






____________________






【横須賀鎮守府内 演習場】





陸奥「来てくれたのね」




夕食が終わってしばらくした後、陸奥は演習場で誰かを待っていた。





長門「…」



陸奥が待っていたのは長門だった。


彼女は既に艤装を付けていつでも戦える準備ができている。





陸奥「それじゃあ始めましょうか」




陸奥も艤装を付けて演習の準備が完了していた。








陸奥は夕食の時、長門に勝負を挑んでいた。


こんなことは初めてで長門も最初は戸惑った。


しかし真剣な陸奥のお願いにそれを断ることはできなかった。





陸奥「ねえ長門、もし私が勝ったら連合艦隊旗艦を譲ってくれない?勝った方が今後の連合艦隊旗艦ってことで」


長門「負けたら?」


陸奥「ここを去る、っていうのはどうかしら?」


長門「…」



陸奥の言葉に長門が俯き小さくため息を吐いた。




長門「良いだろう…」


陸奥「…!?」




顔を上げた長門に陸奥の血の気が引く。



長門は妹の陸奥に対し、敵を見るかのような目をしていたからだ。




長門「全力で勝たせてもらう」


陸奥「じょ…上等じゃない…!」






長門の本気の眼光に陸奥は既に気圧されていて




この時点で既に勝負は決まっていた。























勝負の時間はそれほど掛からずに決着がつき








陸奥「あはは…」


長門「…」




陸奥の艤装は何度も長門の砲撃を受けてボロボロになっていて



立ち上がれない程にダメージを負った陸奥は海面に仰向けに倒れていた。




陸奥「やっぱり強いわね…長門は…」



自嘲気味の笑いを漏らしながら陸奥が天を仰ぎながら呟く。



陸奥「それとも…私が弱いのかな…」


長門「…」



陸奥の言葉に長門は暗い顔をして俯くだけで何も答えられなかった。


そんな長門を見て陸奥は『意地悪なことを言ったかな』と苦笑いをしてしまう。







長門「…?」




長門が誰かの視線を感じて演習場の外に視線を向ける。



陸奥「少しあの人と二人にしてくれない…?」



それが誰なのか陸奥にはわかっているようだ。




長門「わかった…」




力の無い返事をして長門は演習場を出て行った。





【横須賀鎮守府 演習場外】





陸奥「見ててくれたのね」


提督「最初から最後までな」



二人の演習を見ていたのは提督だった。

先程受け取った手紙には『後で演習場に来て欲しい』という内容が書かれていた。


差出人は掛かれていなかったが提督を呼び出したのは陸奥だった。





陸奥「無様だったでしょう…?」


提督「呆れるくらいにな、正直お前がここまで弱いとは思わなかったぞ」


陸奥「歯に衣着せない人ね」


提督「慰めても上辺だけになるだろ」


陸奥「そうね…」



少し俯いたままの陸奥が寂しそうな声を漏らす。




陸奥「正直に言ってくれる方が…良い、かな…」
































陸奥は過去の鎮守府で有望な戦艦として歓迎された。



実力を遺憾なく発揮し、改二改装までは順調に進み連合艦隊旗艦を任されるようになったのだが…



その責任は彼女が思っていた以上に重く辛いものだった。




失敗や大破を繰り返した陸奥は次第に委縮して出撃ができなくなるほどに閉じこもるようになった。



当時の提督はそんな陸奥を励ますどころか叱咤し、責め立てて責任を擦り付けて



演習に無理やり狩りだして指導という名の虐待をしていた








そんな時、白友が演習場に現われ、陸奥を救出したのだった



『どうせ助けられても…』と半ばやさぐれていた陸奥に長門の姿が映る



傷だらけの陸奥を長門が強く抱きしめる





『もう大丈夫だ』





その言葉に陸奥は大声で泣き、安堵した





(長門がいてくれるのなら…)





陸奥にとって長門は心の大きな拠り所になり、忙しくとも彼女には平穏が戻った












はずだったのだが…












次第にその安堵が不安を生み出し始める




(このままでいいのだろうか?)




長門の傍にいて



長門の陰に隠れて



自分は成長できていないどころか弱くなっていない