2020-01-02 20:38:19 更新

概要

かつてこれほどまでに応援を催促した作者がいただろうか…。
多数の応援ありがとうございます!

海軍と艦娘に全てを奪われた男のお話、その④です。


前書き

罪の意識と重圧で精神的に追い込まれ始めた親潮。
彼女が演習で単艦出撃を願い出るが皆はそれを止めようとする。

そんな中、焦りで祥鳳は出撃を煽ろうとしてしまい・・・


①→http://sstokosokuho.com/ss/read/15389

②→http://sstokosokuho.com/ss/read/16974


※本作で唯一名前のあるキャラ

《白友提督》 提督の同期で横須賀鎮守府の提督。
       艦娘に優しいホワイト鎮守府を運営している。
       提督の同期だったのが彼にとって最大の不運。



祥鳳「親潮さんの言う通り一人で出撃してもらいませんか?」








葛城「何を…」


風雲「祥鳳さん…?」



仲間達からの信じられないような表情と視線が痛く突き刺さります。

その視線に私は寒気を感じていました。



祥鳳「親潮さん?確かに単艦で演習に出たら相手の白友提督が棄権を申し出てくれるかもしれません」


大井「祥鳳…!やめてよ!」


祥鳳「しかし棄権しなかった場合一方的に撃たれて痛い思いをするだけですよ?提督は接待演習をした卑怯者と罵られ、何も得ることは無く批判されるだけになります。それでもやろうというのですか?相手が止めてくれなかった場合、負けることは許されませんよ?」


親潮「はい…!やります、やらせて下さいっ!」


天津風「な、なんで…!無理に決まってるでしょう!やめなさいよ!」



今の親潮さんには失敗した場合のリスクが見えていないことは明らかです。

しかし私の口は止まりませんでした…。


何かフワフワしたような浮いた気持ち。

地に足がついていないというのはこのようなことを言うのでしょうか…。



祥鳳「そこまでやりたいと言うなら仕方ありません」


沖波「え…」


祥鳳「親潮さん、私は確認しましたからね。本当にこれで良いのかと、でもあなたは自分から行くと言いました」





本当にこれで良いのか…?



自分に言ってやりたい言葉です…





祥鳳「提督は一切責任を負いません、良いですね?」


親潮「は、はい!行かせて下さい!わ、私、力の限り戦いますから!」


大井「祥鳳!なんで…なんで煽るようなこと言うのよ!!」






祥鳳(怖い…)





今まで築いてきたものが…音を立てて崩れていくような気がして…



突き刺さるような仲間達の視線に



怖くて怖くて逃げだしたくて



泣きたくて…叫びたいのに…







これが本当に提督と親潮さんのためになるなんて保証は無いのに…






祥鳳「それでは出撃の…て、手続きを…」





限界が来て…口元が震えてきました…














提督「そうだな」




祥鳳(え…?)




ずっと苦しそうにしていたはずの提督が顔を上げていました。




その表情は…




提督「俺は出撃を許可していない」


親潮「え…」




ここ最近は見ることが無かった『復讐者』のもので…




提督「お前が出撃を勝手に申請して勝手に出撃した、そうだな?」


親潮「あ…あの…」


提督「俺は棄権を申し出たはずなのにお前が勝手に出撃した」


時津風「し、しれー…?」


雪風「なんでそんなことを…」



その冷たい雰囲気に場の空気が一気に凍り付きました。




提督「どうなんだ親潮っ!!」


親潮「ひぃっ!?そ、そうです…!私が勝手に志願をして出撃をしましたっ!!」




突然の提督の大声に親潮さんは委縮しながらも出撃すると答えてしまいました。




提督「ふん、そういうことだ。午後からの艦隊戦は親潮一人、単艦での出撃だ」


天龍「おい!提督っ!!」


提督「俺は何も知らない、だから何の責任も無いからな。あははははっ」


葛城「どうしたのよ提督!なんで…どうしてよ!」




嘲笑うかのような提督の態度に寒気がしました。




時津風「しれー…そんな怖い顔しないでよぉ…」



提督の豹変ぶりに時津風さんが青い顔をして怯えていました。





先程まで和やかな空気だったのに…今は最悪という言葉しか浮かびません…





祥鳳(止めないと…)






早く何とかしなければならないと思っているのに…



身体も口も動かずに見ていることしかできません




このままでは提督と親潮さんの間を何とかするどころではなく




提督と艦娘の皆さんとの溝を作ってしまいそうだというのに…




雪風「しれぇ!」


風雲「何か理由があるんじゃないの!?ねえ!」


提督「止めさせたければ親潮を止めるんだな」


大井「ちょっと!待ちなさいよぉっ!!」



情けないことに…私は何もできずに立っていることしかできませんでした







その後、提督は批難を受けながら食堂から姿を消し




メンバー表を受け取った親潮さんは止める間もなくどこかへと走り去って行きました











ハッとして提督を追い掛けようとしましたがその姿は既に無く






食堂は険悪な空気を残したままとなっていました…







祥鳳「…」





フラフラとした足取りで廊下を歩いてました。




司令部施設に向かったであろう提督の所へと行くか



演習場に出る親潮さんを止めるべきか



思考の定まっていない私の足取りは安定することは無く、向かう先も決まっていません





天城「祥鳳さん」




後ろから天城さんに声を掛けられて恐る恐る振り返ります



天城「どこへ行くのですか?」



その表情は少し怒っているように見えます。


こんな天城さんを見るのは初めてかも知れません。



祥鳳「わ、私は…あの…て、提督と…親潮さんを…」


天城「…」



天城さんの咎めるような視線に思考の定まっていない私の答えはしどろもどろになってしまいます。




このうえ天城さんにまで見放されたら…



そんな恐怖もあって私は泣いてしまいそうなほどに身体が震えました。



天城「もう…せっかく提督が祥鳳さんを庇ったというのに、あなたがそんなことでどうするのですか?」


祥鳳「え…」



怒った顔から一転、天城さんが呆れながら笑顔を見せてくれました。







提督が私を庇った…?







天城「あ、あれ…?祥鳳さん気づいてませんでした?提督は祥鳳さんに向けられそうだった矛先を全部自分に向けるようにしてたじゃないですか」


祥鳳「…」



でも…提督はあの時復讐に支配された時と同じ顔をしていて…そんな余裕…



天城「提督のこと、信じているのですよね?」


祥鳳「はい…」



確信を持った天城さんの笑顔はそれが事実だと私を安心させてくれます。



天城「だったら今、祥鳳さんがすべきことは皆さんがバラバラにならないようにしっかりと言い聞かせてまとめることではありませんか?」


祥鳳「天城さん…」



そして今するべきことを導いてくれました。






祥鳳「っ…ぅ…っ…」


天城「祥鳳さん…」




その安心感からなのか、情けないことに涙が零れてしまいました。


するべきことは天城さんが教えてくれたというのに…。




祥鳳「わ、私が…もっと…ひっ…ぅっ…うまくやれていれば…こんなことには…っ…」




提督のことも、親潮さんのことも知っている私がもっと上手く立ち回れていれば…

そう思って自分を責めてしまいます。


天城さんの前では…つい弱い自分を出してしまいます。



天城「そうやって自分で何もかも背負い込むところ、祥鳳さんの悪い癖ですよ」


祥鳳「あ…」







『これは俺の問題だ。何でもかんでもお前が背負おうとするんじゃねえよ』







少し前の提督の言葉が思い出されます。



天城「中々言えない事情があるとは思いますけど…もっと遠慮なく私を頼って下さい。私達は改二艦にも負けないベストパートナーなんですからっ!」



そう言って天城さんは優しく私を抱きしめてくれました。





そのやさしさに甘え、涙が止まるまで胸を貸してもらうことになりました。










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その二人の様子を少し離れた位置から他の艦娘達が全員見守っていた。



風雲「祥鳳さん…」


沖波「やっぱり…無理してたんですね…」


大井「そういうことよ、これ以上祥鳳に負担を掛けないようにしないとね」



食堂に居たメンバーは大井が先導しその状況を見守るよう指示した。

祥鳳が抱えていたものを目の当たりにして仲間達は落ち着きを取り戻したが…



天津風「でも…あんな危険なこと…」


時津風「やっぱり止めて欲しいよー…」


雪風「親潮さん、心配です…」



親潮の姉妹艦達は心配そうな表情を隠せない。

このままでは演習場に飛び込みかねない程だった。



雲龍「中途半端に止めさせてはダメ」


葛城「雲龍姉…?」



ずっと成り行きを静かに見守っていた雲龍が珍しく口を開く。




雲龍「勝ち負けじゃなくて…親潮の気の済むようにさせてあげないと、いつまでもあのまま苦しむことになるわよ」




ずっと自分の気持ちを閉じ込めていた雲龍だけに説得力があり、天津風達は言葉を失うしかなかった。




天龍「おし!まずは笑顔で祥鳳を迎えようぜ!そんで親潮の勝利を祈って見守ろう!親潮が心配なら天津風達は工廠で艤装付けて待機しててくれ」



水雷戦隊旗艦らしい天龍の号令に全員が頷き、前向きに思考を持って行けるようになった。
















祥鳳「あ…あの…みなさん…」



風雲「あ、祥鳳さん」



沖波「もうすぐ時間ですよ、行きましょう」



時津風「全く…しれーも親潮も無茶するよねー」



大井「こうなったら全員で祈るしか無いわよね」










戻ってきた祥鳳を全員が笑顔で迎える




その笑顔はぎこちないものではあったが、仲間達の思いやりに祥鳳は再び涙を零した




先程とは違う嬉しさからくる涙だった










【横須賀鎮守府 演習場】






長門「準備は良いか」


大鳳「ええ!」


翔鶴「いつでも!」


熊野「発艦準備完了ですわ」


阿武隈「甲標的もいけるよっ!」


五十鈴「対空兵装、準備万端ね!」





白友『みんな、開始まであと1分だ。気を引き締めて掛かってくれ!』






白友提督の艦隊は6隻が準備完了



演習の開始を待っていた。




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親潮「…」







一方親潮は単艦で演習の開始を待つ



司令部施設から提督の通信も無い





ただ独り、心細さを感じながら前を見据えていた


















親潮(黒潮さん…私…本当にこんなことで…)
















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白友提督とは別の場所にある司令部施設で提督と祥鳳は開始を待っていた




6隻による艦隊戦は相手がどのような編成で来るのかは事前には知らされない


読み合いを含めての戦いで両提督の力量も問われるものだが


白友提督は相手が親潮一人などとは夢にも思わないだろう






祥鳳(親潮さん…頑張って下さい…!)





祥鳳は覚悟を決めて司令部施設の映像を見ていた





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天津風「…」


雪風「大丈夫…絶対…」


時津風「親潮…」



工廠では艤装を付けた天津風達がいつでも助けられるよう準備していた




大井「いい?演習終了の放送が入るまで絶対に飛び込んだらダメだからね」




彼女達が暴走しないよう大井が見張っていた。





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葛城「…」


風雲「…」





観覧席では仲間達が固唾を飲んで見守っている。
















陸奥「あ…あれ…?」









横須賀鎮守府の陸奥は相手の主力がほとんど観覧席に居ることに気づく。



陸奥(どういうことよ…)





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『演習開始っ!!』






熊野「私の偵察機が先導しますわ!」



熊野が勢いよく偵察機を飛ばし



大鳳「第一次攻撃隊!発艦!」


翔鶴「第一次攻撃隊、発艦始め!」



大鳳と翔鶴がそれに続いた。




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親潮「き…きた…」






足を震わせながら親潮は高角砲と対空機銃を艦載機に向ける。





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熊野「え…!?」







偵察機を通して熊野が見たものは





白友『熊野、相手の編成は!?』


熊野「い…一隻…」



口を震わせながら熊野が報告する。



熊野「駆逐艦親潮、一隻のみですわ!!」


白友『な、なんだって!?』


長門「どういうことだ!」


五十鈴「ちょ、ちょっと待ってよ、潜水艦っていないのよね!?対潜装備持ってきて無いわよ!?」



熊野の報告に白友の艦娘達が顔色を変えた。



白友『大鳳!翔鶴!一旦攻撃機を引き上げさせろ!』


大鳳「無理です!すでに攻撃態勢に入りました!」


翔鶴「もう止めることはできません!」


白友『な…』


熊野「なんてこと…」




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振り返っても誰もいない




通信機からの声もしない




嫌でもあの時のことを思い出してしまう






親潮(黒潮さん…)






司令の家族を手に掛けて



司令を殺しかけて



報告に向かう海域で黒潮さんが私を庇っていなくなって








独りになってしまったあの夜の海…








親潮「きた…!!」





私は高角砲と対空機銃を構え





親潮「うあああああああああぁぁぁぁ!!!」





弾薬が尽き果てるまで撃ち放った。




しかし私一人では到底太刀打ちできるものではなく…





親潮「きゃあああああああああああああっ!!」




艦載機からの雷撃、爆撃が襲い掛かってきた





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天津風「親潮っ!!」


時津風「やっぱ無理だよ!やめさせようよ!!」


大井「…」


雪風「大井さんっ!!」


大井「止めさせて親潮が本当に救われると思うなら行きなさいよ!!」


時津風「ひっ…!?」


雪風「あぅ…」



大井の一喝に駆逐艦は黙るしかなかった。




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海上では遠めに佐世保鎮守府の艦隊が親潮一人なのが目視できていた。



陸奥「ちょっと…!」




陸奥は観覧席で近くに居た天城に詰め寄る。



陸奥「何なのよあの編成は!あなた達一体どういうつもりで…!」


天城「…」


陸奥「え…」



天城の刺しかねない冷たい目線に陸奥が一気に勢いを失う。



天城「これは私達全員納得の上での編成です」


陸奥「な…!?」


天城「口出ししないで下さい」



そう言って天城は視線を海上に戻した。



陸奥が周りに目をやるが、他の艦娘達も黙って海上に立つ親潮を硬い表情で見守っていた。




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親潮「はぁ…はぁ…!なんとか…」




親潮は大鳳、翔鶴の艦載機による攻撃を何とか凌いだ。




親潮(これで後は…)




後は白友提督が棄権を申し出てくれたらこの作戦は成功する。





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大井「バカぁ!!気を抜いてんじゃないわよ!!」






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白友『あ、阿武隈!甲標的は…』



阿武隈「もう撃っちゃいましたぁ!止まりませんっ!」






阿武隈が開戦と同時に甲標的を放ち、相手艦隊に狙いをつけていた。





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親潮「え…」





酸素魚雷が接近する音を聞いた時には既に遅かった。





親潮「うわああああああぁぁぁぁっ!!!」




回避行動を取る間も無く、親潮は魚雷の直撃を受けてしまい何メートルも吹き飛ばされ海面に何度も身体を打ち付けた。。





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祥鳳「提督…!」


提督「…」



司令部施設の提督は何も言わずそれを見ているだけだった。





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天津風「親潮ぉっ!!」


雪風「大井さん…!もう…」


大井「まだ終わってないわよ…!」


時津風「で、でも…あ…」



大井の食いしばった口から血が流れている。

身体を震わせて親潮の下へ駆けつけたいのを我慢しているのが目に見えて3人は再びその場に留まった。





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親潮「ぁ…ぅぐ…」




親潮は倒れた身体を起き上がらせようとするが力が入らない。



損傷を受けたのもあるが戦意が消えかかっているのが大きいだろう。


演習終了かと思われたが、まだ審判からの放送は無い。

損傷はどうやらギリギリ中破で留まっていたようだ。



親潮(もう…このまま…)




このまま倒れていれば終わってくれるだろうと意識を落としてしまおうとした。






提督『親潮』




そこへ提督から初めて通信が入る。





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提督「お前が自分から始めた戦いだ」


親潮『え…』



提督の言葉からは全く暖かみが感じられない。




提督「負けることは許さん、死んでも勝て」


祥鳳「提督っ!」



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親潮「…」



力をくれる言葉では無かった




でも…



親潮「っぐ…ぅ…」



私は立ち上がった






そう…




私は自分から言った



『何かさせて下さい』と




本当はこう言いたかった



『何か償いをさせて下さい』と




あなたから家族を奪った償いをさせて欲しいと言いたかった…






でも…






本当にこんなことが…






こんなことをして償いになっているのでしょうか





親潮「う…ぐすっ…ぅ…」






ねえ…黒潮さん…








親潮「うあああああああああああああぁぁぁぁぁっ!!!!」








私は大きな泣き声を上げながら単騎、相手に突撃を開始した。







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大鳳「相手駆逐艦!こちらへ向かって進み始めました!」


長門「提督…どうする…?」


熊野「迷っている必要はありませんわ」


翔鶴「熊野さん…?」




熊野の表情が憎しみに染まっている。


周りの仲間達が青ざめる程の殺気を放っていた。




長門(まずい…!!)




長門はとっさに熊野を組み伏せる。




熊野「お放しなさい!一撃で終わらせて見せますわ!!」


長門「よせ…熊野…!提督っ!」




何とかして欲しいと長門は白友提督に通信で話す。



















『横須賀鎮守府、白友提督が棄権を申し出ました。佐世保鎮守府の勝利です』















熊野「あ…」


長門「提督…」







白友『みんな…すまない…』







単艦で戦う親潮の身の危険を思い、白友提督は審判に棄権を申し出てしまった。








佐世保鎮守府、3勝2敗によって今回の合同演習は勝ち越しが決まった。







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親潮「はぁ…!はぁ…!」





親潮はその放送が耳に入っておらず相手艦隊に突進を続けていた。










天津風「親潮ぉっ!!」


時津風「終わった!終わったよ!!」


雪風「もう戦わなくてもいいんですっ!!」




そこへ天津風達が親潮に飛びつき進軍を止めさせた。





親潮「え…」





その正面には大井も立っている。





大井「よく頑張ったわね、親潮」






親潮「あ…」




大井の言葉に安堵したのか





親潮はそのまま意識を失った






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天城「…」


雲龍「…」


天龍「…」


風雲「…」





その様子を見ていた仲間達は拍手を送ることも無く



立ち上がって演習場の観覧席から離れて行く









達成感も喜びも無い




勝者無き勝利は後味の悪さだけが残っていた







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金剛「正気の沙汰じゃないネ…!霧島…こんなところに行くのは絶対にやめるべきネ!」


霧島「…」



演習を見ていた金剛が怒りに顔を歪めながら霧島を諭そうとする。




霧島「それは…この後の彼女達を見てから決めようと思います」





しかし異動する意思がほとんど固まっていた霧島は冷静に今後の行く末を見守ることを決めていた。







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提督「ふん…」






勝利の報を聞いても提督はつまらなさそうな顔をしているだった。




そして何も言わずに司令部施設を出ようとする。





祥鳳「提督…!」



その行く手を祥鳳が遮る。




祥鳳「親潮さん、頑張りましたよ…!6隻相手に勝利をしました!」


提督「…」


祥鳳「怖くても逃げずに戦ったんです!あなたの…あなたのために戦ったのですよ!」



親潮の頑張りを祥鳳が必死に伝えようとする。


その目には涙が溜まっていた。




祥鳳「で…ですから…!どうか、ぅっ…お、親潮さんを労って…褒めてあげて下さい!お願いします!」










深々と頭を下げた祥鳳から涙が零れ床にポタポタと落ちた。










提督「…」








提督は何も言わずにそのまま司令部施設を出て行った。























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【横須賀鎮守府 廊下】





陸奥「なんて人達なの…!ありえないっ!!」



怒り心頭といった足取りで陸奥は佐世保鎮守府の提督を探し歩く。


いくらあの艦娘達が納得の上で親潮を単艦出撃させたとはいえ、それを実行した彼を許すことなどできなかった。



陸奥(場合によっては一発ぶん殴ってでも…!)



そんな危険思考に行きかかった時…



白友「陸奥」



廊下の反対側から白友が歩いてくる。

司令部施設にはいなかったと彼の表情が物語っていた。



白友「あいつを殴るのは俺の仕事だ」


陸奥「え…」



初めて見せる白友の本気怒りの表情に陸奥が言葉を失う。



白友は怒りの表情を見せたままどこかへ行こうとする。



陸奥「あ…待って…!」




陸奥はその後をついて行くしかできなかった。






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【横須賀鎮守府 医務室】









親潮「ぅ…ん…」


天津風「あ、気が付いた!?」




私が意識を取り戻した時は横須賀鎮守府の医務室のベッドの上でした。



時津風「よ、良かったよー…」


雪風「みんな心配したんですから!」


親潮「ごめんなさい…痛っ…!」


大井「無理しちゃダメよ。演習とはいえあれだけダメージを受けたんだから…」



身体のあちこちが痛みます。

艤装は付けていても肉体にダメージが残ってしまったみたい。



周りを見ると陽炎型の妹達以外にもたくさんの仲間達が心配そうに見ていました。

しかしあの人の姿が見当たりません。



親潮「司令は…」


葛城「わかんない…演習終わってから誰も見ていないって」


祥鳳「すみません、早く見つけてここに…」


親潮「いえ…」




今、あの人に会っても何を話して良いのかわかりません。



『演習に勝ちました、褒めて下さい』


『これで陸奥さんを勧誘できますね』


『あなたへの償いができたでしょうか?』



そんなことを聞けるはずも無く、私は顔を上げることもできずに黙っていることしかできません。


心配してくれる皆さんに気まずい空気を作ってしまい申し訳なくて増々閉じこもるようになりそうでした。





天津風「少し二人にしてもらえないかしら」




そこへ天津風が気を遣ってくれたのか二人きりにしてくれました。




天津風「これ…」


親潮「…?」



天津風が大きめの封筒を渡してきました。


中に入っていたのは…



親潮「異動申請書と…推薦状?」


天津風「親潮が私達の所に来た少し後にあの人から預かってたの」


親潮「…」




どうしてこんなものを…。



だって司令は私に…




『俺から逃げられるものなら逃げてみろ!!その瞬間にお前の姉妹艦を全員あの世に送ってやる!!』




親潮「ひぃっ!?」


天津風「親潮!?どうしたの!」




『天津風も!時津風も!雪風も!お前が逃げ出した瞬間に殺してやる!!』





司令から言われた言葉が全身を駆け巡り、強烈な寒気と恐怖に襲われた。



天津風「だ、大丈夫!?どこか痛むの!?」


親潮「い、いえ…!な、なんともありません…」





司令は…私にもう逃げられないと言ったのに…どうしてこんなものを…?






天津風「ねえ…親潮がそんなにも辛い想いをしてまであの人に尽くそうとするのはどうして?」


親潮「…」


天津風「言えないような事情があるのは…なんとなくわかってきたけど…」




言えるはずがありません。



『私は過去に司令の家族を皆殺しにして司令すら殺しかけて、その償いをしようとしている』



そんなことを言ったら…私だけでなく司令と皆さんの信頼関係すら歪めてしまいかねないから…。




天津風「そんなにも辛いのなら…ここを離れるのも…」


親潮「やめて下さい…」


天津風「言い辛ければ私から…」


親潮「いいんです…私のことは…」


天津風「親潮…」


親潮「一人にして下さい…」




心配してくれる天津風には申し訳なかったけど…


気持ちを整理するために一人にしてもらいました。











いつの間にか陽が沈みかけて窓から見える空がオレンジ色に染まっています












夕焼けを見るといつもあのことを思い出します。








『またいつでも来てくれ、待ってるからな』







10数年前、司令の家へと招かれて…



あの見晴らしの良い丘で司令とした約束…






『ええよ、約束や』






あの時はまだ黒潮さんも生きていて…


私も黒潮さんも笑っていられた…






最後の…笑顔だった気がする…










『必ず…ええことあるから…』








その後…司令の家族を手に掛けた後の夜の海



深海棲艦に襲われた私を逃がそうと…







『絶対に…死んだらあかんよ』






黒潮さんは…






『生きてさえいれば…きっとええことあるからね…』









親潮「…」







頬から零れた涙が先程天津風から渡された書類を濡らしました。






親潮「なん…で…」





どうして…




ねえ…黒潮さん…




私だってやりたくて司令の家族を手に掛けたわけじゃないのに…




自分の姉妹艦達が人質に取られて…そうせざるを得ない状況に追い込まれていたというのに…





『艦娘が、同型艦が、姉妹艦が人質にされた?だったら俺の家族を殺しても良いってのか?』



『俺の家族を殺したのも、俺を撃ったのもお前』


『ほかの選択肢を選らばず、戦わず、抵抗もせず、相談もせず、一番楽で簡単で確実な方法を選んだのはお前だ』


『お前が殺したんだ、お前が殺す選択肢を選んだんだ』




司令の言う通りです…




わかります…




あなたが私を恨む理由はわかります…






でも…それでも…






親潮「ぅ…っ…」





嗚咽が零れ、涙が勢いを増したような気がします




親潮「う…うぁ…ぁぁ…」




黒潮さん…


どうして…




どうして私を置いて行ってしまったの…?





親潮「黒潮さん…っ…黒潮さん…!」





私…辛いよ…!




私もあの時…死ねばよかった…!




そうすればこんな辛い想いしなくても…




親潮「黒潮さんっ…ぅ…うあぁぁぁぁ…!やだよぉ…!寂しいよっ…ぅ…うあぁぁぁぁぁぁ…!」


















その後しばらくは黒潮さんのことを思い…














一人で泣き続けました…


























どれだけの時間そうしていたのかわかりません
























医務室の外から離れた場所で大きな物音が聞こえ







私は這いずるようにベッドから出てその場へと向かいました














そこには…




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【横須賀鎮守府 外】





祥鳳「やっと見つけました…」




鎮守府内外を探し回ってようやく提督を見つけました。



私は提督に声を掛けて親潮さんの所へと連れて行こうと思ったのですが…





白友「おいっ!!」



私よりも先に白友提督が声を掛けました。



白友「この人でなしがぁっ!!」


提督「っぐ…!?」



止める間もなく白友提督が掴みかかり、提督の顔面を平手で殴りました。




祥鳳「提督っ!!あ…」


陸奥「…」



止めようとした私を陸奥さんが遮ります。

どかせようとしても私の力ではどうにもなりません。



白友「少しは艦娘達と仲良くやれていると感心したのに…!恥を知れっ!!」


提督「…」



提督は白友提督に胸倉を掴まれたまま抵抗しようとしません。





祥鳳(あ…)




成すがままにされている提督の表情…見覚えがあります。



あれは親潮さんに全てをぶつけたあの日に見せた…







親潮「や、やめて下さいっ!」




そこにまだ傷の残っている親潮さんが駆けつけました。



親潮さんの姿に気を取られた白友提督は提督を放しました。

陸奥さんも意識をそちらへ向けていたため私はすり抜けるようにして提督の所へと行きます。



祥鳳「提督…」


提督「…」



提督は尻もちをついたまま何も言わず俯いていました。




親潮「わ、私は自分で志願して演習に出たんです!司令を責めないで下さい!」


白友「それがどうした…!」


親潮「え…」


白友「たとえどのような理由があってもあんな危険な行為をさせるべきではないだろう!それでもお前は海軍提督か!!お前にこの子を預かる資格は無い!!」


親潮「…」



親潮さんの言葉に対し白友提督がすぐに反論します。

その勢いと艦娘を想う気持ちに親潮さんは何も言えなくなってしまいました。




提督「そうだな…」


祥鳳「え…?」



ずっと俯いて黙っていた提督が口を開きました。



提督「白友の言う通りだ。俺はこのままだと親潮に今後も酷い目に遭わせ続けるかもしれない」


親潮「し、司令…」


白友「お前…!」



提督のその表情は…






疲れ切って…放心しているあの時と同じ…





提督「だから…異動しろ、親潮」


親潮「え…」


提督「白友の所に行け」




な…何を言って…!!



祥鳳「提督っ!」


親潮「でも…そんなこと…」


提督「ああ、他の奴らが心配か?だったらそいつらも異動させてやる。天津風も時津風も雪風も。これでいいだろ?」


祥鳳「やめて下さい!何を言っているのですか!!」





それだけは…



それだけはやめさせないと…!





そんなことをしたら提督も親潮さんも…二度と…





提督「お前のしたことは忘れてやる…」


親潮「…」


白友「さっきから何を…」





でも…何と言って止めれば良いのかわかりません…






提督「消えろ。二度と俺の前に現れるな…」





今…提督に何を言っても届かないのが嫌でもわかってしまいます。



私にはどうすることもできない…






祥鳳「…」





私は助けを求めるように親潮さんを見上げます




この状況をどうにかできるのは…




提督に言葉を届かせることができるのはあなただけ…









しかし…









親潮「…」








親潮さんの表情を見て愕然としました。





親潮さんは…




親潮「…えへ…へ…」




口元を緩め…笑っていました





あの笑みには見覚えがあります









私が以前の鎮守府で捨て艦に近い囮機動部隊として戦っていた時のこと




戦歴の少ない龍鳳や天霧さん、狭霧さんが命懸けの戦いを終えて危険海域を脱した時に見せていた







安堵の半笑い…











祥鳳(もう…ダメかもしれない…)








親潮さんは私がそう諦めてしまいそうになるような半笑いをしていました









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親潮「えへ…ぅ…ふ…」







逃げられる…?



司令の傍から離れることができる…?





艦娘達を優しく守ってくれる白友提督の所へ行っても良い…?





そう考えるだけで頬も口元もだらしなく緩めてしまう。






私の足は…自然と白友提督の所へと近づいて行く。






祥鳳「親潮さん!ダメよ!絶対にダメ!お願い、考え直して!!」






余計なこと言わないで下さい祥鳳さん





良いじゃないですかもう…司令が良いって言ったんですよ?





どうせこんな出口の無い牢獄みたいな贖罪をしても





私が司令に許されることは絶対にないのだから…








一歩…また一歩と白友提督の所に近づく








優しい彼は私に手を差し伸べてくれている







隣の陸奥さんも私が来るのを歓迎してくれている












助かる…








もう…苦しまなくても良い…










その安堵から私の目から涙が零れました









































『ホンマにええの?』































突如





世界が真っ白になり





誰かに肩を掴まれました






















私が振り返ると














そこには…

























親潮「黒潮…さん…」






















悲しそうな顔をした黒潮さんが








ゆっくりと首を横に振っていました



























親潮「え…」




ハッとすると黒潮さんはいなくて



世界に色が戻りました





白友「どうかしたのか?」


親潮「…」






今のは…夢…?


それとも幻…?





黒潮さんの悲しそうな顔をした幻のお陰か



私の心は不思議と落ち着いていました







祥鳳「親潮さん!お願いします、どうか…どうか行かないで下さいっ!」






私を引き留めようとする祥鳳さんを見ると…



彼女は目に涙を溜めながら私に助けを求めているようでした






助けを求めている…?


何に対して…?





祥鳳さんの隣で何も言わず俯いている司令を見ると…





親潮「あ…」





あの放心して疲れ切っていて、何もかもがどうでも良いという表情








私がラバウル基地に保護されて、




司令の家族を手に掛けて、黒潮さんを喪ったショックから立ち直れずに




何日も放心してベッドの上で過ごした私と同じ…





あの時の自分の顔なんて見ていないのに…なぜかそう思うことができてしまった…











司令は『私のしたことを忘れてやる』と先程言いました




でも…私はあの日のことを一日たりとも忘れたことなんてありません




それなのに…家族を奪われた司令が忘れることなんてできるのでしょうか?







もう一度、視線を祥鳳さんに向けます







彼女は先程と変わりなく、私に縋るような目で助けを求めていました







親潮(祥鳳さん…)





祥鳳さん…あなたがが助けて欲しいのは…司令なのですね





司令は今でもあの時の悪夢を見続けているのですね









私が見てきた悪夢とは比にならないくらい…











『忘れる』なんて




絶対にできるはずがない…!










だったら…私は…





私がすべきことは…











親潮「すみません」




いつの間にか私は白友提督に頭を下げていて





親潮「私を心配して頂きありがとうございました。でも…」



しっかりと自分の口で、自分の言葉で言うことができていた



親潮「私は異動するつもりはありません。このまま司令の下で…」



私の言葉に祥鳳さんと…



司令も顔を上げて見ていてくれました



親潮「私と…私のために命を落とした大切な仲間の償いが終わるまで、司令の下で戦い続けようと思います」






なぜでしょうか



私が自分の想いを言うことができたことに



黒潮さんが笑顔で喜んでくれているような気がしました




提督「後悔するぞ」


祥鳳「て、提督…」


白友「お前…この期に及んで…!」



司令は脅しとも取れるような言い方で私に問い掛けます。



親潮「同じ後悔するのなら…」



しかし私の胸の内は決まっていました。



親潮「私は…あなたの傍で後悔したいです」


提督「…」


親潮「たとえそれが命を落とすこととなっても、私は最期まで前を向いていたいです!」




口調が自然と強くなりました。


司令の脅しから無理やり自分を発奮させたような気もしますけど…


それを大きな声で言うことができてとても気持ちが良かった。








私は初めて…




自分の一番やりたかったことを口にできました。










提督「ま、そういうことだ白友」


白友「な…」



司令がいつの間にか立ち上がっていていつもの明るい調子を取り戻していました。


その司令の調子に隣の祥鳳さんがとても嬉しそうな顔をしていました。




白友提督はまだ私を心配そうに見ていて…



その隣の…




親潮「あっ…」




私はあることを思い出しました。




親潮「あ、あの…!陸奥さん!」


陸奥「え…?」



ずっとこの場に居た陸奥さんに声を掛けます。



親潮「私達の鎮守府に異動してもらえませんか!?」


陸奥「な…!?」


白友「何を言って…!」


親潮「陸奥さんの力を司令は高く買っています!どうかお願いします!」




合同演習を勝ち越すことが最低条件だって司令は言っていました。


だとしたらこの好機を逃すわけにはいきません!




陸奥「わ…私は…っ…!」




しかし陸奥さんは答えを出すことなく早足でその場を離れてしまいました。




白友「陸奥っ!」


提督「おい」


親潮「え…うわぁ!」



私は司令に腕を掴まれて引っ張られます。


少し強い力でその場を離れ、歩かざるを得なくなりました。




提督「お前から言われてあいつが来ても意味無いんだよ」


親潮「し…司令…?」


提督「勝手なことをするな」


親潮「あ…」




また私は…一人突っ走って…


勝手なことを…



提督「と言っても効果はあったがな」


親潮「え?」




振り返って陸奥さんを見る司令が少し悪そうな顔で笑みを浮かべていました。

その笑みは普段見せている司令の笑顔で…



私の前で…初めて見せてくれました。



提督「しかし最終的には自分で決断してもらうことが大事なんだ」


親潮「え…あっ!」



司令が私の頭に手を置きました。




提督「お前のように、な」




少しだけ撫でてくれて…


司令はそのまま私の先を歩いて行きました。










もしかして…




褒めてくれた…?






その嬉しさに私の胸の高鳴りが大きくなってきました






祥鳳「親潮さんっ!」


親潮「うわっ!?」



急に祥鳳さんに手を掴まれてビックリしました。




祥鳳「ありがとう…本当に…ありがとう…!」


親潮「祥鳳さん…」




祥鳳さんは泣きながら私の両手をギュッと握っています。



親潮(そっか…祥鳳さんは…)



祥鳳さんはずっと私と司令の橋渡し役をしてくれていました。

普通だったらこんな役、投げ出しても仕方ない程の辛いことだったと思います。


その重圧は私が感じていたものと同じ…いえ、それ以上のものだったのかもしれません。


私と司令の板挟みになって…本当に辛い想いをさせてしまっていた祥鳳さんを救える結果になってまた嬉しさが湧いてきました。



親潮「あの…祥鳳さん、何かできることはありませんか?」


祥鳳「え…?」



その湧き上がる嬉しさに押されて何か行動を起こしたくなります。



親潮「司令のために、皆さんのために…今、何かできることはないでしょうか」


祥鳳「でも…身体は大丈夫なのですか…?」


親潮「はい!このくらいどうってことはありません!」



本当はまだ少し身体が痛むけど…気持ちがそれを掻き消してくれました。



祥鳳「まずは仲間達に元気な顔を見せてあげましょう!それから横須賀鎮守府の皆さんの誤解を解いて回らなければなりません、行けますか!?」


親潮「はいっ!!」




私の大きな返事に祥鳳さんは嬉しそうに笑顔を見せてくれました。





司令のために、力になるために歩き始めた私を


そっと誰かが後押ししてくれているような気がします






しかし私は振り返りません



もう、後ろを見て生きることは終わりにしたのだから






ずっと過去に囚われ続けていた私にとって




あの惨劇の日から初めて一歩目を進んだような気がしました





【横須賀鎮守府 食堂】




横須賀鎮守府の食堂が奇麗に飾り付けがされている。


どうやらこの合同演習のお疲れ様会みたいなものが始まるらしい。




俺は参加したら場の空気が気まずいことになると思ったので参加せずに中華街でも行こうかと思ったが白友に引っ張られ出席することになった。



白友が気を遣ってくれたこと、祥鳳と親潮が根回しをしたことでどうやら気まずい空気になることは無かったようだ。




鳥海「身体の方は大丈夫なの?」


親潮「はい!ご心配をおかけして申し訳ありませんでした!」


熊野「元気いっぱいですのね、そんな顔されたら何も言えませんわ…」


大井「色々と迷惑かけたわ、ごめんね」





隼鷹「どうだ、別れに一杯」


祥鳳「わ、私お酒は…」


隼鷹「遠慮すんなよー!ほれほれ」


祥鳳「うわわ!?零れます零れます!」






あちこちで楽しそうな声が聞こえて食事会は滞りなく進んでいるようで少し安心した。






??「佐世保の提督さんっ!」



それぞれが楽しそうに交流をしている中、俺に物怖じもせずに話しかけてくる



吹雪「どうですか!?」


提督「…」




地味な女がやってきた。



もしかして俺に気を遣ってわざわざ来たのか?

もしそうなら本気で感心するところだが…。



吹雪「どうですか!」


提督「…何が?」


吹雪「き、気づきませんか?ほら、ほら!」



何かをアピールしているようだが中々わからない。


吹雪は自分の肩のあたりに手を…



提督「暑いのか?」


吹雪「違います!セクシーさをアピールしているんです!」


提督「…?」



セクシー?


何のこと…と思ったが今こいつが着ている服は両肩が見える少しはだけたものだった。



吹雪「何も無理やりイメチェンをしなくったってこうしてセクシーさを司令官にアピールできれば…」


提督「はっ!セクシーさ!お前が!?はっ!」


吹雪「お、思いっきり鼻で笑わないで下さい!」



これが笑わずにいられるか。

笑うと言っても嘲笑だけど。



提督「いいか?セクシーアピールとはこうやるんだ、えーっと…」




今、俺の命令に逆らわないのは…



提督「天龍」


天龍「なんだ?」



俺は手招きをして天龍を呼ぶ。



提督「これに着替えてきてくれないか?」


天龍「は?」


提督「頼む」


天龍「お、おう…」



俺はメモに要望を書いて天龍に渡した。









しばらくして…





天龍「何なんだよ…Tシャツになれって…」




白いTシャツ姿の天龍が戻ってきた。



吹雪「う…あ…!」


提督「どうだ?」



軽巡洋艦の中では天龍はかなりの巨乳だ。

それに男性の視線をあまり意識しないのか白いTシャツでもブラジャーは色付きの紫のままで中が透けて見える。


そのため大きい胸がより強調されてセクシーさを際立たせていた。



提督「仕上げに、これだ」



俺は手に持っていたペンを白友の足元に投げつける。



白友「なんだ?」


提督「天龍、拾って来てくれ」


天龍「はぁ?なんでそんなこと…」


提督「これで今回の命令違反は許してやるから」


天龍「わーったよ…」




天龍が白友の前で身体を屈めてペンを拾う。




白友「…!?」



白友の視線は天龍の屈んだTシャツの隙間から除くブラジャーに行ってしまった。


顔を真っ赤にした白友は口元を押さえながら顔を逸らした。

童貞で女性に免疫の無いこのムッツリスケベの脳裏に天龍の巨乳が焼き付いたことだろう。



天龍「ほらよ」


提督「ご苦労さん、もう行っていいぞ」


天龍「何だったんだ…」


吹雪「…」



その間吹雪はずっと言葉を失って見ていることしかできなかったようだ。




提督「よぉく覚えておけ、芋」


吹雪「い、芋!?」


提督「お前にセクシーさは皆無だ、無駄な努力はやめておくこったな」


吹雪「う…うぅぅぅぅ!!このまま諦めませんからぁ!今に見てて下さいよぉぉぉ!!」



モブくさい捨て台詞を残して吹雪が走り去ってしまった。





あいつはあの元気さ、ひたむきさだけで十分なアピールになっていると思うのだがな。

面白いから放っておこう。








榛名「失礼します」


提督「お?」



続いて榛名が俺の隣に座ってきた。



榛名「霧島のこと、よろしくお願いします。どうかこれまで溜め込んできた鬱憤を晴らせるように暴れさせてくださいね」


提督「ん…ああ…」


榛名「…」


提督「…」



急に黙ってこちらを見てくる。


榛名に殺気は無いが獣の目をしていた。

どうやら霧島のことをお願いしに来たのは建前らしい。



提督「…何の用だ?」


榛名「教えて下さい」


提督「…」



榛名が聞きに来たのは『白友提督を落とす方法』のようだ。

その貪欲さには恐れ入る。



提督「簡単なことだ、夜這いを掛けてあいつと一晩過ごせばいい」


榛名「夜這っ!?」


提督「一晩ってのはわかるな?セック…むぐぅ!?」


榛名「しー…!!」



榛名に手で口を塞がれた。

そして周りには聞こえないよう小声で話しかけてくる。



榛名「な、なんてことを言うのですか…!そんなこと…」


提督「できないのなら諦めろ。お前と白友の距離感は一生変わらん」


榛名「…」



榛名が黙って俺に耳を寄せる。

どうやら続きを聞く覚悟を決めたようだ。



提督「まず服装だ。脱ぐ手間も必要無いくらい薄着で行け」



榛名は顔を赤くしながらも真剣に聞いている。



提督「女を知らない白友は薄着のお前を前にしても手が出せないチキン野郎だ。徹底的にリードしてやれ、一切躊躇うな」


榛名「で、でも…榛名はそんな経験…」


提督「無いなら今からでも知識をつけろ。見様見真似でも良いが、いざという時に手が止まらないようネットでもなんでも駆使して情報を頭に入れておけ」


榛名「…」


提督「それでも白友が日和ったら泣き落とせ。あいつは艦娘の涙には死ぬほど弱いから絶対に受け入れざるを得なくなる」



我ながらこんなに言っても良いのかと自問自答したくなるような内容だった。



榛名「本当に良いのでしょうか…?榛名がこんなことしたら皆さんの関係が…」



今度は榛名がこの期に及んで日和ってきやがった。



提督「関係なんか既に綻んでいるだろうが」


榛名「え…?」


提督「遅かれ早かれあいつの下ではこういうことが起きるんだよ。だったら早めにやって対処した方がいいんじゃないか?」


榛名「…」



榛名は俺の言葉を聞いた後、少しフラフラしながらその場を離れて行った。






あれはヤルな…。




白友喜べ、お前の童貞卒業は目の前に来ているぞ。










磯波「あの…」


提督「…」




今日は何だか来客が多いな。



提督「白雪だったか?」


磯波「い、磯波です…!これを…」


提督「…?」




磯波が持ってきたのは手紙だった。






____________________






【横須賀鎮守府内 演習場】





陸奥「来てくれたのね」




夕食が終わってしばらくした後、陸奥は演習場で誰かを待っていた。





長門「…」



陸奥が待っていたのは長門だった。


彼女は既に艤装を付けていつでも戦える準備ができている。





陸奥「それじゃあ始めましょうか」




陸奥も艤装を付けて演習の準備が完了していた。








陸奥は夕食の時、長門に勝負を挑んでいた。


こんなことは初めてで長門も最初は戸惑った。


しかし真剣な陸奥のお願いにそれを断ることはできなかった。





陸奥「ねえ長門、もし私が勝ったら連合艦隊旗艦を譲ってくれない?勝った方が今後の連合艦隊旗艦ってことで」


長門「負けたら?」


陸奥「ここを去る、っていうのはどうかしら?」


長門「…」



陸奥の言葉に長門が俯き小さくため息を吐いた。




長門「良いだろう…」


陸奥「…!?」




顔を上げた長門に陸奥の血の気が引く。



長門は妹の陸奥に対し、敵を見るかのような目をしていたからだ。




長門「全力で勝たせてもらう」


陸奥「じょ…上等じゃない…!」






長門の本気の眼光に陸奥は既に気圧されていて




この時点で既に勝負は決まっていた。























勝負の時間はそれほど掛からずに決着がつき








陸奥「あはは…」


長門「…」




陸奥の艤装は何度も長門の砲撃を受けてボロボロになっていて



立ち上がれない程にダメージを負った陸奥は海面に仰向けに倒れていた。




陸奥「やっぱり強いわね…長門は…」



自嘲気味の笑いを漏らしながら陸奥が天を仰ぎながら呟く。



陸奥「それとも…私が弱いのかな…」


長門「…」



陸奥の言葉に長門は暗い顔をして俯くだけで何も答えられなかった。


そんな長門を見て陸奥は『意地悪なことを言ったかな』と苦笑いをしてしまう。







長門「…?」




長門が誰かの視線を感じて演習場の外に視線を向ける。



陸奥「少しあの人と二人にしてくれない…?」



それが誰なのか陸奥にはわかっているようだ。




長門「わかった…」




力の無い返事をして長門は演習場を出て行った。





【横須賀鎮守府 演習場外】





陸奥「見ててくれたのね」


提督「最初から最後までな」



二人の演習を見ていたのは提督だった。

先程受け取った手紙には『後で演習場に来て欲しい』という内容が書かれていた。


差出人は掛かれていなかったが提督を呼び出したのは陸奥だった。





陸奥「無様だったでしょう…?」


提督「呆れるくらいにな、正直お前がここまで弱いとは思わなかったぞ」


陸奥「歯に衣着せない人ね」


提督「慰めても上辺だけになるだろ」


陸奥「そうね…」



少し俯いたままの陸奥が寂しそうな声を漏らす。




陸奥「正直に言ってくれる方が…良い、かな…」
































陸奥は過去の鎮守府で有望な戦艦として歓迎された。



実力を遺憾なく発揮し、改二改装までは順調に進み連合艦隊旗艦を任されるようになったのだが…



その責任は彼女が思っていた以上に重く辛いものだった。




失敗や大破を繰り返した陸奥は次第に委縮して出撃ができなくなるほどに閉じこもるようになった。



当時の提督はそんな陸奥を励ますどころか叱咤し、責め立てて責任を擦り付けて



演習に無理やり狩りだして指導という名の虐待をしていた








そんな時、白友が演習場に現われ、陸奥を救出したのだった



『どうせ助けられても…』と半ばやさぐれていた陸奥に長門の姿が映る



傷だらけの陸奥を長門が強く抱きしめる





『もう大丈夫だ』





その言葉に陸奥は大声で泣き、安堵した





(長門がいてくれるのなら…)





陸奥にとって長門は心の大きな拠り所になり、忙しくとも彼女には平穏が戻った












はずだったのだが…












次第にその安堵が不安を生み出し始める




(このままでいいのだろうか?)




長門の傍にいて



長門の陰に隠れて



自分は成長できていないどころか弱くなっていないか?





艦娘であり、ビッグセブン級の大戦艦である陸奥のプライドが揺れ始めていた





(これでいい、前みたいなのは嫌だ)

(このままではダメだ)



そんな理性のせめぎ合いが続き、陸奥の心は疲れ始めていた















陸奥「いきなり図星を指されてビックリしたわ。『長門の陰に隠れて成長もできないカス』だなんて…よくそんなことまでわかったわね」


提督「顔に書いてあったからな」


陸奥「何よそれ、ふふふ…」



笑ってはいるが陸奥の声に力が無い。










提督と会ったことで陸奥は自分が逃げていたことと向き合うことを余儀なくされた



それでも今の自分が正しいと言い聞かせようとしていたのに…









自分よりも重く辛いものを抱えたであろう親潮が前を向いたことに驚きを隠せず、



逃げ続けていた自分を深く恥じることとなってしまったのだった…










陸奥「悔しい…」




俯いた陸奥の目から涙が零れる。




陸奥「悔しいなんて感情…捨てていたと思っていたのに…っく…ぅ…」




陸奥は自分自身への怒り、情けなさで声を震わせる。


陸奥の涙、それは長門の胸で泣いたあの日以来見せた涙だった。





陸奥「ねえ…私は、強くなれるの…?」


提督「さあな、それはお前次第だ」


陸奥「言うと思った…うふふっ…」



陸奥は涙を拭い顔を上げる。



陸奥「私を受け入れてくれる?もっと強くなりたい、弱い自分を変えて…長門を超えたいの」


提督「ああ、大歓迎だ。明日の出発までに準備を済ませてこい」


陸奥「ええ…!」



提督の返事に陸奥は満足そうに頷いた。




提督「そうそう、俺がお前を勧誘しようと思った理由はな」


陸奥「え?」



準備に走ろうとした陸奥に提督が背中から声を掛ける。



提督「お前にまだ伸びしろがあると思ったからだ」


陸奥「私に…?」


提督「それじゃまた明日」







陸奥には提督の言葉が励ましなのかはわからなかったが…



そんな気を遣って励ますような者には見えない彼からのその言葉は陸奥の足を速め、軽くしてくれた。





















霧島「…」





霧島はその様子を離れた所から見ていて



彼女も決断をするために執務室へと向かった







その顔は陸奥と同じように決意に満ちていた





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【横須賀鎮守府 執務室】




白友「それで…異動がしたいと…」


霧島「はい」


白友「…」



霧島の異動申請に白友が暗い顔になる。



白友「金剛と…比叡から俺に話があったよ」


霧島「え…?」


白友「金剛は何とか引き留めて欲しいと、比叡は行かせてあげて欲しいって…」


霧島「…」


白友「比叡が金剛の意見と反対のことを言うなんてな…初めて見たよ」


霧島「比叡姉様…」


白友「あんな真剣な比叡を見たら…君を引き留めることなんてできなくなる…」


霧島「司令…ありがとうございます」




『笑顔で霧島の門出を見送りたい』




比叡はその約束をしっかりと護ってくれたようで霧島はその嬉しさで胸がいっぱいになった。




白友「陸奥に続き…霧島も…すまない」


霧島「ど、どうして司令が謝るのですか」


白友「俺の起用が上手くいかなかったせいだろ…しっかり見てやれなくてすまなかった」



白友が深々と頭を下げる。

その姿に霧島には申し訳なさが湧いてくるが決意を変えるつもりは無かった。



霧島「…この際だから言わせてもらいます」


白友「え?」



霧島はこの鎮守府を離れるということで自分の思っていたことを白友に伝える覚悟を決めていた。




霧島「司令が艦娘に対してとても大事にしてくれていること、優しくしてくれることは素晴らしいことだと思います」


白友「…?」


霧島「ですが…その優しさは壁を作りだしているような気がします」


白友「壁…?」



自分のことを言われているが白友は理解できていない。



霧島「優しすぎて…司令は一人で頑張りすぎて、何もかも抱えてしまって…」



しかしずっと悩みを抱えていた霧島には見えていたらしい。



霧島「その姿に、そして優しさに艦娘は甘えてしまったり気を遣って何も言えなくなってしまったりしています」


白友「そ…んな…」


霧島「司令と艦娘の間にはそんな見えない優しさの壁ができている、そんな気がします」


白友「…」



霧島の私的に白友が肩を落とす。




白友「俺は…どうすれば…」




自分のやり方を真っ向から否定されたような気がして白友の表情が増々暗くなった。



霧島「簡単なことですよ」



それとは対照的に霧島の表情は明るい。



霧島「もっと皆さんに甘えて楽をして下さい」


白友「甘えて…楽をする…?しかし…」


霧島「助けて欲しい、力になって欲しい、そう言うだけで充分です。ここの皆さんは司令の力になれることなら喜んで力になりますよ」


白友「しかし本来君達は…」


霧島「確かに私達は艦娘で戦うことこそが本分です」



白友の言葉を予想していたかのように霧島がすぐに言葉を返す。



霧島「しかし私達にも心があって人と変わらないはずです。戦うだけじゃなくて…もっと色んな事をさせて下さい。色んな事をさせて司令の力になれるようにして下さい」


白友「はは…」



自信を持って笑顔で話す霧島に白友が参ったといった困り顔をみせた。



白友「自分がどれだけ視野が狭くなっていたか…教えられた気がするよ」


霧島「無理もありません、傷つけられた艦娘を片っ端から助けて…大本営の役員たちから艦娘を無理矢理着任させられて…みんなにずっと気を遣い続けていたら誰だって余裕がなくなりますよ」



諭すような霧島の言葉には優しさと感謝が込められているのがわかった。



白友「少しはあいつのように…気楽になれば良いのかな」



あいつとは佐世保鎮守府の提督のことだろう。




霧島「あまり参考にしない方が良いですよ?あそこまで破天荒だと周りが絶対苦労しますって」


白友「その鎮守府に行こうとしている者のセリフか?」


霧島「それもそうですね、ふふふっ」


白友「ふ、あはははっ」




久しぶりに見せた白友の楽しそうな笑顔に霧島も満面の笑みで応える。







異動を申請し、別れを告げに来たとは思えない程に楽しそうな雰囲気の中




白友「霧島の異動を認める。金剛には俺からも言っておくから心配しないでくれ」


霧島「はい!司令、今まで本当にありがとうございました!!」




白友は笑顔で霧島の新しい出発を承諾した。





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【横須賀鎮守府内 廊下】




祥鳳「…ですからあまり身体的特徴を貶してはいけませんよ?本当は吹雪さんも落ち込んでいるかもしれませんから」


提督「わーってるよ」


祥鳳「本当にわかっているのですか?」


提督「自信無い」


祥鳳「もう…」



陸奥との話を終えて祥鳳に捕まり小言を聞かされる。



以前グラーフ教官にも『どのようなことがあっても艦娘の身体的特徴と貶してはならない』と教えられたこともあって自分の鎮守府の艦娘にはなるべく言わないように気を付けていた(はず)。


しかし先程の俺と吹雪のやり取りをどこからか見ていたのか祥鳳に注意される羽目になってしまった。




長門「ここにいたか」


提督「ん?」


祥鳳「長門さん」



俺と祥鳳を追い掛けてきたのか長門が後ろから声を掛けてきた。



長門「話が…いや、頼みがある」



長門が真剣な表情で少し頭を下げた。



提督「ちょうどいい、俺もお前に話があった。祥鳳」


祥鳳「は、はい」


提督「沖波と天城、それに大井を呼んで来い。第一会議室で良いか?」


長門「ああ」


祥鳳「わ、わかりました」



何をするのかわからないといった表情をしながら祥鳳が艦娘達を呼びに行った。




提督「明日も寝不足確定だな」


長門「…?」




俺は長門と共に第一会議室へ準備に向かった。








【翌朝 横須賀鎮守府内 食堂】




提督「…」


時津風「しれー、どうしたの?」


雪風「目が真っ赤ですよ?」



朝、横須賀鎮守府では食事が用意されていてそれを頂いてから自分達の鎮守府に帰ることとなっていた。



大井「ふぁぁぁぁ…さすがにニ徹はきっついわ…」


天津風「昨日も徹夜って…何をしてたのよ」


提督「人には言えないようなこと」


風雲「はぁ!?な、何よそれ!」


大井「…」


提督「…」



大井が黙ったのでそれに続く。

もはや反論する気力も無いのか、ふざけているのかはわからないが風雲の反応が面白いので放っておこう。



祥鳳「提督…」


天城「変な誤解を招くような言い方は止めて下さい」



そこへ同じく徹夜を共にした祥鳳と天城、そして…




親潮「…」




後ろから親潮が料理を持って顔を覗かせていた。

緊張の面持ちではあるがしっかりとこちらを見ている。



祥鳳「ほら、親潮さん」


親潮「し、司令っ!お、お隣よろしいでしょうか!」


提督「好きにしてくれ…」


親潮「は、はい!ありがとうございます!!」



デカい返事をして親潮が隣に座る。

その大きな声が疲れた頭に響き渡るが文句を言う気力も無い。



天津風「もう大丈夫そうね」


親潮「色々と心配を掛けましたが…大丈夫です」


風雲「もうあんな無茶しないでよね」



駆逐艦達は親潮の身体を心配し労っている。

俺も何か声を掛けるべきか悩むが何を言えば良いのか思いつかない、というか頭が働かない。



時津風「ねえしれー、親潮は6対1で勝ったんだよー。なんかご褒美あげなよー」


提督「…?」



何かコアラが面倒くさいことを言いだした。



親潮「と、時津風…私は別にそんな…」


提督「じゃあ親潮にはこれをやる」



俺は自分の皿に配膳されていたトマトを箸で掴み親潮の皿に乗せた。



時津風「雑っ!雑過ぎだよ!」


親潮「あ、ありがとうございます司令!」


天津風「お礼言ってんじゃないわよ!この人は苦手なものを貴方に…」


親潮「ふふ、司令にプレゼントしてもらえました」


天津風「聞いちゃいない…」



こんなもので喜ぶ親潮に対し俺も反応に困った。


今後はこうやって苦手なものを親潮に…



祥鳳「次、同じことをしたら間宮さんに言いつけますよ?」


提督「…」



祥鳳の鋭い牽制にその作戦は見送りするしかなかった。



風雲「天城さんも祥鳳さんもご褒美をもらったらどうですか?」


祥鳳「え…」


天城「あ、それなら私新しい艦載機が欲しいです!!」


提督「言うと思った…沖波」


沖波「はい、大型艦申請に用意していた資源を艦載機開発に回しますね」


天城「うふふっ、楽しみです」



何だかんだでこいつも雲龍の妹なのだと思わされる一面だった。



雪風「祥鳳さんは?」


祥鳳「わ、私は特にそういったものは…」


提督「よし、特に無いんだな。この話は終わり」


天龍「おい!少しは祥鳳を労えよ!祥鳳はお前が知らない所で…ムグッ!?」


祥鳳「ななな、なんでもありません!!」



何かを言おうとした天龍を祥鳳が口を塞いで遮った。



…どうやらまた俺の知らない所で苦労を掛けたらしいな。




白友「少しいいか…?」


提督「あ、同期の白友君」




祥鳳にどう応えるべきか考えているところに白友がやって来て俺を食堂の外へ連れ出した。






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【前の日の夜 横須賀鎮守府 第一会議室】





提督「…とまあ現在のうちの鎮守府の体制はこんな感じだ」


長門「ふむ…」



俺は天城、沖波、大井、そして祥鳳の作成した資料を余すことなく長門に見せる。



大井「いいの?そんなことまで教えて、白友提督は…」


提督「大事な同期なんだから力を貸すのは当然だろ」


天城「耳を疑う発言です…」


沖波「司令官、熱でもあるんでしょうか…」


提督「聞こえてるぞコラ」


沖波「ああ!す、すみません!メガネ返してくださいぃ」



小声で失礼なことを言う沖波のメガネを取り上げる。



提督「それにこのまま放っておいたら白友の奴が過労とストレスで倒れかねないからな」


長門「う…」


提督「海軍のホープで俺達同期の星の白友君を殺す気ですか?ああ?」


長門「すまない…」


祥鳳「提督…長門さん泣きそうな顔していますよ?それくらいに…」


提督「ダメだな。一番の責任は秘書艦であるこいつにある。大方白友に気を遣い過ぎて踏み込むようなことをしなかったんだろ」


長門「…」



長門の暗い顔が俯き増々落ち込んでしまう。



『白友に気を遣った』とは言うが本当は白友に恋をしてしまい関係を動かせないためにこんなことになったのだろう。

そこまで指摘するとこの先話が進まないから今は言わないでおいたが。



提督「まあいい、説教はこれくらいで勘弁してやる」


大井「偉そうに」


提督「今後の横須賀鎮守府の艦隊運営に必要になりそうなものを全部教えてやるから気合入れて脳裏に焼き付けやがれ」


長門「わ、わかった!よろしく頼む!」






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白友「今朝、長門から今後のことを色々と提案された」


提督「へぇー」


白友「第二秘書艦のこと、作戦担当、水雷戦隊・駆逐艦のまとめ役から遠征効率のことまで…」


提督「長門もやるねぇー」


白友「とぼけるな、お前のアドバイスだったと長門から聞いているぞ」



長門の奴…黙っとけって言ったのに。

こういう義理堅いところはあいつらしいけどな。



白友「どういうつもりだ」


提督「何が?」


白友「どうして俺なんかを助けようとする。お前は俺のことは嫌いじゃなかったのか?」


提督「いつも言ってるじゃねえか、俺はお前が大好きだって」


白友「ぐ…相変わらず気色の悪いことを…」


提督「困っている同期を助けようとするのに一々理由なんか必要無いだろ」


白友「…」



爽やかなスマイルで答えるが白友の疑いの目が消えてはいなかった。

まあ今までが今までだから仕方あるまい。



白友「もうひとつ、お前と…親潮は一体どういう関係なんだ」


提督「…」


白友「普通の関係で無いことは…昨日の二人を見てわかった。何か力になれることは…」




まーたこいつは面倒なことに足を突っ込もうとする。




提督「うーわ!最低!」


白友「は?」


提督「白友君ってば人のプライベートにズカズカと土足で踏み入れようとしてる!最低!見損なったわ!」


白友「茶化すなっ!俺はお前達を本気で…」




わかってるよ、本気で心配してくれてるってことは。

だからこそお前には余計なことをに足を突っ込んで欲しくは無いんだよ。



今はな…




提督「そうだな…俺とお前がこの海軍でトップクラスに上り詰めた時…その時に教えてやるよ」


白友「なんだそれは…?」


提督「以上でーす、それでは失礼しまーす」


白友「お、おい!」



これ以上絡まれても面倒なだけなので強制的に話を切り上げた。












時津風「へー、司令も良いとこあるんだねー」


提督「あ?」



食事を終えていた時津風と雪風が俺についてきた。



雪風「同期の白友提督のために…雪風感動しました!」



どうやら昨日何をしていたのか祥鳳達から聞かされたらしい。



提督「なあ、痩せた家畜と肥えた家畜、どっちが食べ応えあると思う?」


雪風「え…」


時津風「もしかして…」



これ以上勘違いしないようからかってやることにした。



提督「美味しく食べるためには栄養を与えるのは当たり前じゃないか…あははははは!」


時津風「うーわ!最低!最低だこいつ!」


雪風「雪風失望しました!」




そんな冗談を言いながら横須賀鎮守府を去るための準備を始めることにした。






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【横須賀鎮守府 正門】





金剛「元気でネ…霧島…っぅ…えぐ…」


比叡「金剛お姉様、笑顔で見送るって言ってたじゃないですか」


金剛「で…でも…寂しくなるネ…」


榛名「ほら、涙を拭いて下さい」



霧島の見送りに来た金剛が妹二人に慰められていた。



金剛「ちゃんと手紙書くネ…身体に気を付けて…ひっく…」


霧島「金剛姉様」


金剛「あ…」



泣いている金剛の手を霧島が両手で包み込む。



霧島「金剛姉様の、金剛型姉妹の名に恥じぬよう頑張って来ますから…帰ってきた時は一回り成長した私を見せられるよう頑張りますから、どうかそれまでお元気で」


金剛「霧島…」


霧島「比叡姉様、榛名、金剛姉様をお願いね」


比叡「任せて!」


榛名「はい!」






霧島「それでは…行ってきます!」





霧島は美しい敬礼を決めて出発した。




ずっと泣き顔を見せていた金剛も霧島の堂々とした姿に最後には笑顔を見せていた。






陸奥「それじゃあ行ってくるわね」


長門「…」


陸奥「長門?」



同じく陸奥の見送りに来た長門の表情は暗かった。




長門「すまなかった…」


陸奥「え?」



長門が暗い顔のまま陸奥に対し頭を下げる。




長門「本当は…気づいていたんだ、陸奥が何を悩み苦しんでいるのか…」


陸奥「長門…?」


長門「でも言い出せなかった…もし言ってしまったら…その…」



言い辛そうに、恥ずかしそうに、そして申し訳なさそうにしている。

あれほど堂々として皆を惹きつける長門のこんな姿は見たことが無かった。



長門「その…陸奥がどこかへ行ってしまうと思って…」


陸奥「…」


長門「ずっと一緒に居たくて…」


陸奥「…」


長門「本当に…すまなかった…」



深々と長門が陸奥に対して頭を下げた。



陸奥「その言葉だけで十分よ」


長門「え…」



顔を上げた長門を陸奥が抱きしめる。



陸奥「私だけじゃなくて長門も悩んでくれていたって知れて良かった。私、てっきり長門に嫌われてしまっていたのかと思ってて…」


長門「そ、そんなわけないだろう!大事な妹なんだ、嫌うなんてそんなことは絶対ない!」


陸奥「うん…ありがとう」



陸奥の目から嬉し涙が零れる。




本当に強いだけかと思っていた姉の長門と別れ際に弱い面が見ることができたのは、これから未踏の地に足を踏み込む陸奥にとって何よりの後押しとなった。



__________





【横須賀鎮守府 第一会議室】




白友「ではこれから第二秘書艦を発表する」



佐世保鎮守府の面々と別れた白友達は第一会議室に集合していた。


早速長門から提案されたことを実行に移すためだった。



白友「翔鶴と白雪、よろしく頼む」


翔鶴「はい!」


白雪「お力になれるよう頑張ります!」


白友「続いて作戦参謀と艦隊指導役を熊野、鳥海、五十鈴に頼みたい」


熊野「よろしくってよ」


鳥海「作戦指揮は得意です!」


五十鈴「五十鈴にお任せよ!」


白友「駆逐艦のまとめ役は吹雪」


吹雪「はい!司令官!」




白友「それと…」




その後はそれぞれのチーム分けとリーダーを決める。


『少しでも白友提督の力になれるのなら』と艦娘達は喜んでその役を受け入れた。




白友「まだ新体制で慣れないこともあるだろうが…みんな、よろしく頼む。それと…」



白友は立ち上がり全員に向けて頭を下げる。




白友「俺一人では限界がある。どうかみんなの力を貸して欲しい」




その白友の姿に艦娘達は胸を打たれた。



『初めて白友提督が心の底から自分達に助力を求めてくれた』





その嬉しさに艦娘達は笑顔で答え、これからも彼の力になろうと発奮した。






やる気に満ちた白友の艦娘達が会議室を出た後、白友と秘書艦の長門が二人残る。





白友「しかし…」


長門「…?」


白友「これもあいつの掌で踊らされているような気がする…」


長門「まさか…」


白友「ああ!もう、俺はやっぱりあいつは好きになれんっ!!」


長門「そうか、ふふ…」






怒った顔をする白友に長門は楽しそうに笑っていた。








長門(あなたは気づいていないのだろうけど…)






佐世保鎮守府の提督と接するたびに白友の張りつめていた表情が少しずつ和らいでいったことに長門は気づいていた。




慣れない女性だらけの艦隊運営



艦娘を護らなければならないという強すぎる正義感



上層部からの期待と重圧、そして彼に取り込もうとする輩からの阻害





それらは白友を苦しめ徐々に追い詰めていった。


彼の周りの艦娘も白友に踏み込むことが難しく、関係は知らぬところでギクシャクし始めていた。




そこに彼が現れた。




欲望剥き出しで白友と接してからかい、振り回す彼に余計なストレスを与えられているのではないかと長門も警戒していた。


しかし壁を感じさせない彼とのやり取りは白友に少しでも辛い重圧の日々を忘れさせていたようだった。



結果、重圧を少しでも和らぐことができた白友は周りを見る余裕ができて新たな取り組みを受け入れることができた。




白友「な、何を笑っているんだ長門!行くぞ!」


長門「ああ!」









この後、白友の艦隊は急速な成長をし




大本営の期待を大きく超える戦果を上げることに成功する。




その急成長と昇進ぶりに上層部からは賞賛と焦燥を生み




新たな問題に巻き込まれてしまうのはまだ先の話










________________








【横須賀鎮守府近郊 港】





俺達が港で帰りの船に物資を運んでいると陸奥と霧島がやって来るのが見えた。




提督「全員を集合させてくれ」


祥鳳「はい」



荷物運びを一旦止めさせ艦娘達を全員集めた。




全員が揃ってから陸奥と霧島を前に立たせ挨拶をさせる。








陸奥「長門型戦艦、二番艦の陸奥よ。みんなよろしくね」


霧島「金剛型四番艦の霧島です。金剛姉妹の名に恥じぬような奮闘をお約束します」




二人の挨拶に全員が拍手で応える。



提督「白友の承認を得て異動しているので正式にうちの鎮守府に着任することになった」


大井「いつの間に…」


提督「全力で働かせてやるから覚悟しておけよ。使えないと見なしたら白友に突き返すからな」


陸奥「ふん、上等よ」


霧島「司令こそ、私達を満足させる指揮を執って下さいね」




俺の脅しに近い言い方に二人とも堂々と言い返した。



その姿に周りの艦娘達は一瞬呆気に取られたがすぐに笑いに包まれた。







提督「よし、では2時間後の13:00に出発する。昼飯食うなり遊ぶなり好きにしてろ。船に来なかった奴は置いていくからな」




艦娘達を解散させて出発の時間までは自由行動とすることにした。






天龍「昼飯何にすっかな」


陸奥「この辺りは詳しいから美味しいレストランを紹介しようか?」


時津風「ほんと!?」


雪風「連れて行って下さい!」





沖波「霧島さん、この辺りに本屋はありますか?」


霧島「向こうのデパートの3階に大きな本屋があるわよ。行きましょうか?」


沖波「はい!」


風雲「デパートならフードコートもあるわよね?効率よく回れそう」







早速着任した二人を交えながら艦娘達が思い思いに好きな場所へと向かって行く。


そんな艦娘達を尻目に俺は船に乗り込もうとした。




祥鳳「提督?」


提督「ん?」



後ろからした声を振り返ると祥鳳が立っていた。


どうやらあいつらと一緒に街へは行かなかったらしい。



祥鳳「出発までどうするのですか?」


提督「寝る。二徹で身体がクタクタだ」


祥鳳「そうですか…」



俺の答えに祥鳳が残念そうに少し顔を俯かせる。



提督「…」


祥鳳「提督…?」







ここ最近、こいつには迷惑を掛け通しだったな。



演習勝利の褒美もやってないし…




提督「どこか行きたいところはあるか?」


祥鳳「え?」


提督「欲しい物は無いか?無いなら…」


祥鳳「あ、あります!行きたいところあります!一緒に行きましょう!」



祥鳳の急な大声に耳がキーンとする。



今後はこいつと会話する場合は距離を取ろうかと思えるくらいに耳が痛かった。




提督「どこへ行きたいんだ?」


祥鳳「え、あ、そ…その…!」



祥鳳がキョロキョロとあちこち視線を彷徨わせる。



こいつ…行きたいところ決まってなかったな?




祥鳳「あ、あれ!あそこにしましょう!!」




祥鳳が指を差した建物にはイルカの大きなオブジェが建てられていた。







【横須賀鎮守府 水族館】





祥鳳「わぁ…入口にこんなに大きなマンボウが…!」



入って早々の水槽にはマンボウがのんびりと泳いでいた。


祥鳳は嬉しそうに指を差して子供のようにはしゃいでいる。



提督「海なら毎日出ているだろ。なんで今更水族館に…」


祥鳳「海と言っても私達は海上を走っているだけですし、中を見ることはありませんから」


提督「それもそうか」


祥鳳「あ、こちらは深海魚コーナーですね。みんなゆっくりしてる…」








その後は祥鳳の気の済むまで水族館を回り


館内にあるレストランで昼食を摂ることにした。




祥鳳「それにしても良いのですか?」


提督「何が?」


祥鳳「白友提督の…長門さんにあそこまでアドバイスをして、次演習で戦う時には今よりももっと強くなりそうですよ?」


提督「いいんだよ」



『それがどうしてなのか』と祥鳳が聞きたそうにこちらを見る。



提督「あいつにはこれからのためにもっと力をつけて出世をしてもらわなければならないんだよ。その方が色々とやりやすくなるからな」


祥鳳「そう…ですか?」


提督「何か言いたそうだな」


祥鳳「あの…提督は白友提督に対して何か特別な感情を抱いているような気がして…」





…変なところで鋭い奴だな。





提督「俺はノンケだ」


祥鳳「そ、そういう意味ではありませんっ!真面目に答えて下さい」


提督「この話は終わり、もう時間が無いぞ。船が出発してしまう」


祥鳳「あ…もう…」



食事も終わっていたので無理やり話を終わらせて切り上げることにした。


俺がこれ以上聞いて欲しくないということは祥鳳にもわかったのか、この後追及してくることは無かった。











【横須賀鎮守府近郊 商店街】





店主「見ていくだけで良いからどうぞどうぞ!」





港に戻る道中、商店街の路上で露店をしている男が大きな声で客引きをしていた。

俺が警察なら職務質問をしているレベルの怪しい風貌の男だったが…



祥鳳「キレイですね…」



祥鳳は露店にあるアクセサリーに目を奪われていた。



店主「お客さんお目が高いねえ!このアクセサリーは願いの叶う神秘のアクセサリーですよぉ!」


祥鳳「願いが叶う?」


提督「だったら職務質問に遭わないように願っておけ、行くぞ」


店主「なっ!?」


祥鳳「て、提督!そんな失礼なこと…」



これ以上絡まれても面倒なだけなのでさっさと行こうとしたが祥鳳が離れようとしなかった。




祥鳳「これ…」


店主「シルバーのネックレスですね!どうぞどうぞ!4,000円です!」


祥鳳「え?え?あ、あの…」



祥鳳が手に取った瞬間値段を言いやがった。

こいつ中々の商売人だな。



提督(…ったく、しょうがねえな)



さっさと切り上げるため俺は財布から万札を取り出して店主に渡す。



祥鳳「提督…」


店主「お!ありがとうございます!さすが彼氏、彼女の前では格好つけたいよねえ!」


提督「あ?」


店主「それとも夫婦だったかなぁ?失礼しやしたーーー!」


提督「…」




店主の言い方に腹が立って懐の銃を向けてやろうかと思ったがさすがに問題になりそうなので我慢しておいた。




店主「ありがとうございましたーーー!また来てください!」


提督「二度と来ねえよ」




元気の良い店主からお釣りとネックレスを受け取った。



提督「ほれ」


祥鳳「あ、あの…」



財布を取り出そうとする祥鳳の手を止める。



提督「これは演習の対空戦勝利の褒美だ」


祥鳳「提督…」



祥鳳が嬉しそうな顔をしてネックレスを握りしめる。




祥鳳「ありがとうございます!私、一生大事にしますね!」




そして花が咲いたような美しい笑顔を見せた。







一瞬





命を落とした駆逐艦の如月の姿が脳裏をよぎる





しかしそれは不快なものではなく




なぜか胸を暖かくしてくれるものだった








そのことを祥鳳に気づかれないよう俺はすぐに背を向けた





提督「それじゃ行くか」


祥鳳「はい!」









その後俺達は船に乗って佐世保鎮守府へと戻る




長かったようで短い5日間の横須賀鎮守府との合同演習は終わりを迎えた。








【佐世保鎮守府 港】



時津風「あ!間宮さんが来てる!」


雪風「間宮さーん!ただいま帰りました!」



船から降りた駆逐艦達が間宮に飛びつく。



間宮「わわっ、おかえりなさい皆さん」


天津風「これ、お土産です。どうぞ」


間宮「ありがとう、これは…杏仁プリンですか!美味しそうです!」


雪風「しれぇが買ってくれたんですよ!」



無理矢理俺を買いに引っ張っていったくせに…



間宮「ありがとうございます提督。実はお話がありまして…」


提督「話?」



間宮の後ろに隠れていた駆逐艦が顔を覗かせる。



大潮「朝潮型駆逐艦、大潮です!」


霰「同じく…霰です…」



小さめの駆逐艦が二人、俺に対して敬礼をする。


こいつら確か改二艦で大発が積める遠征もできる有能な奴らだったな。

留守中の鎮守府防衛にこんな有能な奴を寄越すとは…



提督「でかしたぞ間宮」


間宮「え?」



出発前に言っていた『餌付け』をちゃんとやっていたようだ。



提督「ようこそ佐世保鎮守府へ、さっそく君達の部屋を用意する」


大潮「はい?」


霰「よろしく…」


大潮「霰!よろしくじゃないですよ!」


間宮「提督、何を勘違いしているのですか?」


提督「は…?」



話がかみ合わない。



大潮「実はお願いがありまして…」


霰「助けて…欲しいの」


提督「だから君達はここに保護してやると」


霰「そうなの…?よろしく…」


提督「うむ」


大潮「だからよろしくじゃないってば!」


間宮「提督、話をしっかり聞いて下さいっ!」


提督「あ…?」



霰も天然なのか、話が繋がらず余計にややこしくなってしまったようだ。




【鎮守府内 執務室】




一旦話をまとめるため大潮と霰、そして間宮を執務室に連れて行く。


霰が話すと話がごっちゃになるため、彼女は少し離れてこちらを見ている。




大潮「実は…」




大潮の話では自分達の所属する大湊鎮守府の話をし出した。


どうやらその鎮守府では一部の艦娘が酷い扱いを受けているらしい。

疲労出撃や単艦出撃など常識では考えられないような起用をされているとこのことだ。




提督「…」



その話を聞いて俺は無表情で間宮を見る。



間宮「そんな『面倒なことを持ってくるな』って顔しないで下さいっ」



どうやら間宮がその話を食事中に伺ったようで俺の所に相談に来たという流れだ。

『餌付けしてうちの鎮守府に迎え入れろ』って言ったのに…持ってきたのは厄介ごとだけじゃねーか。



大潮「お願いします…」


霰「力を…貸して下さい…」



大潮と霰が真剣な顔をして俺に深々と頭を下げた。





面倒くさい以外の言葉が浮かばない。


ここは正義感の強い白友に全部押し付けて…



提督「良い提督を紹介…」

霰「潜水艦の人達…疲れてて…見てられなくて…」



提督「…ん?」




『良い提督を紹介してやる』と言い掛けたところで霰と言葉が重なる。



提督「今、なんて言った?」


霰「え…見てられないって…」


提督「いや、その前」


霰「疲れてて」


提督「もう少し前」


霰「…」


提督「…」


霰「…お願いします?」


提督「行き過ぎだ、戻れ」


霰「…?」



こっちまで混乱しそうだ。



大潮「霰、潜水艦の人達ですよ」


霰「そうだった…」



そこは重要な部分のはずだろうが。



提督「…」


祥鳳「提督?」



しかし潜水艦か…



提督「酷い目に遭っている潜水艦ってのはどれだけいるんだ?」


大潮「えっと…4人です、伊号潜水艦の皆さんで…」




4人も…






こいつは思わぬ拾い物かもしれない。




提督「でかしたぞ間宮」


間宮「はい?」


提督「大潮、霰、後は俺に任せておけ。全て上手くいくよう解決してやる」


大潮「本当ですか!?」


霰「あ、ありがとう…ございます?」


間宮「よ、よろしくお願いします提督…」



頭を下げて大潮と霰は間宮に連れられて執務室を出て行った。




提督「祥鳳、沖波を呼んでくれ」


祥鳳「え?は、はい…」



沖波を呼ぶのが意外だったのか祥鳳は一旦戸惑ったがすぐに内線を使って沖波を呼び出した。


























沖波「はい、司令官の言う通りです…」


提督「だよな…」



沖波の用意した資料を見て予想が当たっていたと天を仰ぐ。





今後の艦隊運営の演習、海域突破の資源消費や定期的に与えられる任務達成のために使う資源消費の予定を沖波と一緒に確認をした。


陸奥と霧島を迎えたのは良いが彼女達は戦艦の改二艦。

並の資源消費量ではなく、このままでは定期任務達成のための資源確保ができそうにない。



提督「そこでだ、もしも潜水艦を4隻迎えて…」


沖波「あ…そうですね、これなら…はい、大きく改善されると思います」




これまで全力出撃して任務達成に回していた艦娘と資源を潜水艦隊に置き換えると見違えるほどに資源消費が抑えられるようになった。



提督「では早速潜水艦隊の編成のために異動させるか」


祥鳳「提督?異動させるといっても4隻の潜水艦をそう簡単に異動させるなんて…」


提督「心配するな、今回は簡単だよ」



俺は携帯を取り出してある人物に連絡をする。



??「はい」


提督「俺だ、大湊鎮守府の提督の弱みを探れ。潜水艦達を酷い扱いするような奴だ、簡単に尻尾を握れると思う」


??「了解しました」



電話の向こうの主はあっさり了承した。

この調子ならば明日には情報を持ってくることだろう。



祥鳳「一体どなたに連絡を取っているのですか?」


提督「秘密」


祥鳳「もう…」


提督「ヤキモチを焼くな」


祥鳳「そんなんじゃありませんっ」


沖波「あはは…お二人は本当に仲が良いですね」


提督「まあな。さてと…」



明日まで時間ができたということであることを実行に移す。



提督『陸奥、霧島、それと親潮は11:00に会議室へ』



俺は放送で3人を呼び出して準備のために立ち上がる。



提督「それじゃ祥鳳、明日まで艦隊運営を頼む」


祥鳳「え?え?提督?」



俺は呆気に取られている祥鳳を置いてそのまま執務室を出て行った。



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【鎮守府内 執務室】



祥鳳「あ…」



止める間もなく提督は執務室を出て行ってしまいました。


この後恐らく3人の戦略指導のため丸一日会議室に籠るつもりでしょう。

前みたいに地下牢を使わないのはもしかして親潮さんへの配慮でしょうか?




祥鳳「はぁ…」




思わずため息が漏れて胸の辺りをギュッと握ってしまいます。


服の中の胸の辺りには提督から貰ったネックレスが隠されていて、私と提督の間の何かを確かめるようにしてしまいます。





合同演習も終わって少しは落ち着いた日々が戻ると思ったのだけど…そうもいかないですよね…。



最近は何かあるたびに提督のことを意識してしまうようになってしまった。




それは以前のような危機感や焦燥感とは違い…何か胸の辺りがモヤモヤするような…




沖波「祥鳳さん?」


祥鳳「え?」



沖波さんがここに居たことをすっかりと忘れていました。



沖波「どうしたのですか?何か寂しそうな顔をしていましたけど…」


祥鳳「な、なんでもありません!それでは行きましょうか!」


沖波「え?ええ?は、はい…」




今は提督から任されたことをしっかりこなそうと思い、私達も執務室を出ました。




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【鎮守府内 会議室】




親潮「司令!入ってもよろしいでしょうか!」


提督「ああ…」


親潮「失礼しますっ!!」



ノックの後に親潮の声が会議室にしっかりと聞こえてきた。

そんなデカい声で確認しなくてもいいってのに…



陸奥「どうしたの?」


霧島「何か御用ですか?」



親潮に続き陸奥と霧島も入ってきた。



提督「それぞれの名前が書かれた位置に座ってくれ」


親潮「はい!」


陸奥「何かしら?」


霧島「あ…これは…」



それぞれの机には資料が置かれている。



陸奥「作戦指南…?」


提督「そうだ。艦隊全員の動きのものとそれぞれの特性を活かした戦い方が書かれている」


霧島「もしかして…」


提督「早速始めるぞ、終わるまで休憩は一切無しだ」



『この量を…?』



そういう表情で陸奥と霧島がこちらを見る。



提督「霧島には作戦を身体で覚えてもらう、戦場に出たときに考える必要が無くなるくらいにな。陸奥にはうちの連合艦隊旗艦を務めてもらうことを考えると一番やることと覚えることが多いからな、休む暇は無いと思え」


霧島「は、はい…!」


陸奥「わ、わかってるわ…」



二人の顔が期待と不安が半分といった表情に変わった。



提督「そして親潮、お前は他の艦に比べて出遅れている」


親潮「は…はい…」


提督「それを取り戻すための講習だ、やるか?」


親潮「はいっ!!光栄です!司令のために全身全霊で頭に叩き込みます!」



そこまで気合入れなくでもいいが…だが親潮のこの真剣さは利用できる。




提督「親潮はやる気だがお前らはどうすんだ?」


陸奥「やるわ!負けてられないもの!」


霧島「私も、全力で挑ませていただきます!」



ほらこの通り。



提督「それでは始める、まずは…」




この後、長時間にも及ぶ戦術指南が開始された。





思いのほか3人の指導に手こずり1日で終わらせるはずが2日掛かってしまい、終わるころには3人ともぐったりとしていた。








【鎮守府内 食堂】




提督「疲れた…」


祥鳳「お疲れ様です」



食堂に行くと俺用に卵粥が用意されていた。

親潮と陸奥、霧島は既に食事を済ませているのかこの場にはいなかった。



間宮「提督、量はそれだけでよろしいのですか?」


提督「ああ…この空腹状態で食い過ぎると胃もたれするからな」


祥鳳「もう少しお身体を大切にして下さい」


提督「前向きに検討することを努力する」


間宮「改善する気ないですよね…それ」


提督「大潮と霰は?」


祥鳳「元の鎮守府に帰りましたよ」


提督「ちっ…大発使える艦娘が欲しかったのに…餌付け失敗か」


間宮「餌付けとか言わないで下さいっ!」



俺が悪態をついていると間宮が冷蔵庫から何かを持ってきた。



間宮「せっかく提督が大湊鎮守府の潜水艦達を助けてくれるって言うから…景気づけに張り切って作ったのに」



間宮は呆れながらも俺の前に皿を置く。

美味しそうな色どりと形をしたガトーショコラだった。



提督「食べ物で釣るとか…子供扱いにも程があるぞ」


間宮「ではいりませんか?」


提督「食べるに決まってんだろ」


間宮「卵粥を食べてからですよ?」


提督「へいへい」



言われた通り卵粥を平らげてからガトーショコラを食べる。


2日間食事を抜いたせいか半端なく美味しく感じてしまった。



祥鳳「それにしても大湊鎮守府の艦娘達を助けるなんて、どうやるのですか?」


提督「ああ、今回は簡単だ」



そこに俺の持っている携帯が鳴る。



提督「ま、見ててくれ。ちょうど準備が終わったらしい」


祥鳳「え?」


間宮「準備?」





俺は携帯電話に出て目的の人物から情報を得た。











潜水艦 イムヤの日記


















【大湊鎮守府】





イムヤ「伊号潜水艦、イムヤです。司令官、よろしくね」



私が鎮守府に着任した時には既に一人伊号潜水艦の仲間が着任していた。



ゴーヤ「イムヤ、久しぶりでち!」


イムヤ「ゴーヤ!訓練校以来ね!」



挨拶を済ませて寮に行くとゴーヤが笑顔で出迎えてくれた。



しかし何か違和感を感じる。



イムヤ「…なにしてるの?他のみんなは出撃とか演習で…」


ゴーヤ「待機でち、てーとくは『運用方法がわかるまで待機してろ』って言ってたでち」


イムヤ「そう…」





確かに当時は私達伊号潜水艦が艦娘として最初の潜水艦で運用方法がわからなくても仕方なかった。





私に与えられた最初の任務、それは『運用方法がわかるまで待機』だった。
















イク「イムヤ、ゴーヤ、久しぶりなのね!」



次に着任したのはイクだった。


相変わらず楽しそうな子で何もせずに沈みがちだった私達の気持ちは少しだけ紛れてくれた。







ハチ「お久しぶりです、ハチ、着任しました」



そしてハチもやってきて私達が4人揃い、陣形も組めるようになった頃



初めての任務が与えられた。







大湊「合同演習に出ろ」



一度も私達の前に顔を出さなかった司令官が初めて私達を呼んで出した任務は合同演習への出撃




相手は戦艦と空母の部隊だった。




イク「おっきい相手ばかりなのね」


ゴーヤ「勝ち目なんて無いよぉ…」


イムヤ「こうなったらやるしかないわよ…!」


ハチ「練習通り…やるしかないですね」



相手艦隊がどのような攻撃をしてくるのか知りもしない私達は怯えながらも合同演習に出撃した。

編成は私達潜水艦4人だけ、他の艦は誰もいなかった。



イムヤ「みんな!私に続いて!」



自主練を欠かさなかった私達は練習通りの陣形を組み、一斉に魚雷を発射した。


大したダメージを与えている様には思えないけどとにかく装填と発射を繰り返した。



たとえ負けることになっても…これが私達の初の実戦なんだ!



そう思って自分達を発奮させていたけど…




イムヤ「…?」



おかしなことにすぐに気づいた。


相手からの反撃が一切無かったからだ。




仕方ないじゃない、戦艦や空母が対潜水艦の対処ができないなんて知らなかったんだから。







私達は戸惑いつつもそのまま魚雷の発射を続けた。






『大湊鎮守府の戦略的勝利です』





相手が引き揚げ始めたので私達は浮上して海面に顔を出した。


対戦相手の戦艦や空母の人達が私達を睨む。




『卑怯者…!』



どうして私達が卑怯者なんて…?



後から知ったことだけど、私達の司令官が出撃する艦隊をいきなり変更したんだって。

戦艦と空母同士の戦いにするはずが、私達を出撃させて演習に勝つようにしたとか…



演習に勝って評価を上げたいとか、何も知らせず出撃させたことよりも



相手の艦娘達に卑怯者と罵られたことの方が精神的にきつかった




それは私だけじゃなくてゴーヤもイクもハチも同じだったようで



初めての演習に、それも大型艦相手に勝利したというのに



その味は酷く苦いものとなってしまった…















大湊「チームを二つに分ける」




数日後、『お前達の運用が決まった』と司令官から呼び出された。



大湊「お前とお前はこっち、そして…」




私達は名前も憶えられておらず『お前』と言われながら二つのチームに分けられた。



チームは私とハチ、ゴーヤとイクに分けられた。



お互い不安そうな視線を交わらせながらそれぞれ言われた通りの場所へと向かった。











地獄のような日々が始まった。














イムヤ「はぁ…!はぁ…!!…!!」




私は必死になって海中で相手の爆雷を躱す。



イムヤ「うあぁぁぁぁっ!!」



しかし数が多すぎて躱すことなんてできなかった。



それも仕方なかった、だって相手が水雷戦隊なんだもの。



深海棲艦が全部私を目掛けて襲い掛かってくる。



それが本能なのか定石なのかはわからない、だってそんなこと一切教えてくれないし、知らせてもくれなかったんだから。



海上の上では水上部隊のみんなが深海棲艦を片付けている。



その死骸が海中に落ちていくのを見るのがいつもの光景だった。



きっと水上部隊のみんなは今日も無傷だろう。



だって相手の攻撃は全部私に向けられていたんだから…









そう、私とハチは…『弾除け』




水上部隊のみんなが無傷で戦えるようにするためのデコイとして使われていた。







『潜水艦、イムヤが大破しました。これより帰還します』




水上部隊の旗艦が撤退を申請する。


通信機の向こうで司令官の了承と舌打ちが聞こえたような気がした。






鎮守府に戻って顔を出す私にみんなが心配そうな視線を向ける。



『大丈夫?』



『肩を貸そうか?』



そう言って労ってくれるのはわかる。



「ありがとう…でも大丈夫だから…」



でも本音はこう言ってやりたかった。





「心配するよりこのふざけた作戦をどうにかしてよ!」


「あんた達はいつも安全でいいわよね!」




そんなこと言える勇気も無く



私は痛む身体を引きずって入渠ドッグより先に待機室へ向かう。




イムヤ「ごめんね…交代」


ハチ「はい…」



待機室で本を読んでいたハチが疲れた顔を上げる。


最近は彼女に申し訳ないという気持ちも薄れてきた。


そんな自分が嫌で鬱屈した気持ちを持ったまま、私は艤装を治すために入渠ドッグへと向かった。








私とハチはこのような弾除けを交代でずっと繰り返していた。



傷ついては交代、疲労が溜まったら交代の2交代制。



水上部隊のみんなが無傷で実戦経験を積むために毎日休むことなく出撃をさせられていた。






最初は出撃機会もできて私達も活躍できるなんて思っていたけど



すぐにそれが弾除けだと実感して期待はどん底に突き落とされた






あまりにもきついローテーションで出撃するため



最近はどれだけ眠っても疲れが取れなくなってきた



ハチは逆に眠ろうとしない



寝ると自分が沈む悪夢にうなされて逆に疲れるんだって…










…一度だけ司令官に待遇をどうにかして欲しいって言ったわ



そしたら…どうなったと思う?




司令官は『わかった、考えておく。追加要員の準備をする』と言ってくれた



私はこれでようやく少しは楽になるのだろうとホッとした













でもね…その次の出撃のこと










イムヤ「きゃああああああああああっ!?」




出撃中にまた水雷戦隊の集中爆雷を浴びてしまい、私は大破してしまった。


いつものこととはいえ痛いものは痛い。



早く鎮守府に戻って傷を癒したいと思っていたのだけど…




『え…?進軍ですか!?』



(え…?)



『イムヤは大破していますよ!司令官、撤退を…』




胸の嫌な鼓動で苦しくなる。




(なんで…どうしてよ、私…大破しているんだよ…?このままじゃ…)






『わ…わかり…ました…』






通信機を通して旗艦の子の力無い返事が聞こえた。




(嘘…嘘よ…やだ、やだやだやだ!)




海上を見上げると皆が移動し始めていた。




「待って!撤退してよ!私このままじゃ…!」



通信を使って旗艦の子と司令部施設に居るであろう司令官に話し掛ける。



『ごめん…ね…命令だから…』



命令だからと旗艦の子は進撃を止めようとはせず



司令部施設からは返事すらなかった。





それも仕方ない



大湊鎮守府の司令官には優しさがかけらも無く、よく艦娘達を傷つけていたのだから



命令に背いたりしたら自分達がどうなるかわからない



それはわかる、わかるんだけど…




(どうしよう…!)



このままここに残ったら1隻孤立してより危険になってしまう。



逃げるか進むか、



私は進むことを選んだ。









この海域での2度目の交戦が始まって




私は恐怖に身体を震わせながらいつ攻撃されるのかと身構えていた。




だってあと一発でも爆雷を喰らってしまったら轟沈するのがわかってたから…



どんな小さな損傷でも自分が死んでしまうことを思うと怖くて涙が出た



もっともその涙はすぐに海中と混ざり消えてしまうのだけど…






私も…同じように消えてしまうの…?






そんな恐怖で身体が縛り付けられて何もできずにいたのだけど




海上の皆が死に物狂いで私を護るよう戦ってくれたおかげで私は生き延びることができた
















その後、何とか鎮守府に戻った私を港で司令官が出迎えた。




『運のいい奴だ』



司令官は嘲笑しながら私を出迎えた。



その嫌らしい笑顔に再び寒気がする。






こいつ…私を本気で殺す気だったんだ…




『お前の代わりなんかいくらでもいるんだ』



追い打ちを掛けるように私を責め始める




『お前だけじゃない、他の潜水艦どもも必要が無いと見なしたら切り捨てるぞ?それでもいいのか?』



私は何も反論できずに言われるがままにしているしかない。



『待遇改善しろとは随分と偉そうなことを言ってくれたな?ああ?兵器の分際で提督様に逆らうからこうなるんだ、わかったか?』


「はい…」


『それじゃあ謝罪しろ、謝れ、地べたに頭を擦り付けて謝れ』


「…」




言われた通り私は傷ついた身体を押して両膝を地面につけて




「申し訳ございませんでした…」




額を地面につけて土下座をして司令官に謝った。




司令官はそれに満足したのか高笑いをしながら鎮守府の方へ戻って行った。






「ぅ…っぐ…ぅぅ…ぁぁぁ…!」





悔しくて情けなくて涙が零れた。




あんな最低な奴に土下座しなければならないなんて…!




だって仕方ないじゃない!自分のせいでゴーヤやイクやハチが危険に晒されるなんて耐えられないから!




こうするしか無かったのよ!!









その後は泣いている私を他のみんなが立たせて入渠ドッグまで連れて行ってくれた。






「みんな…ありがとう…助けてくれて…」





私のために死に物狂いで戦ってくれた仲間達に礼を言う。


彼女達は寂しそうな笑顔を見せてくれた。





「もう二度と…余計なことはしないから…」







そう言って今後は心を閉ざしてしまおうと思っていた。















それから数日後のこと…











「休み?」



『ええ…』




耳を疑った。


最低限の見回り以外、艦娘達全員が1日休みと言われた。


理由は簡単、司令官が大本営に行っていないからだ。




でも…それでも嬉しかった。





「ゴーヤとイクに会える…!」



空いた時間に彼女達の部屋を覗いてみてもいつも出撃しているのか不在だった。


だからこの休みの間ならば会えると私は喜んだ。




早速ハチを連れてふたりの部屋を訪れる。





でも…





「いい加減その笑顔をやめるでちっ!!」




ドア越しにゴーヤの大声が聞こえてきた。




何事かと私は部屋へと入った。




そこには…





ゴーヤ「何がおかしいでちか!ゴーヤがそんなに哀れでちか!?」


イムヤ「ちょ、ちょっとやめなさいよ!!」




イクに掴みかかっているゴーヤがいた。



その表情は私の知っているゴーヤではなく、痩せこけて疲れた顔をしていた。



イムヤ「何があったのよ!落ち着いてよ!」


ゴーヤ「こいつがニヤニヤヘラヘラしてゴーヤをバカにするから…!」



私がイクを見ると彼女は薄い笑顔を見せていた。



イムヤ「イクはいつも笑顔でいるじゃない!今更どうしたのよ!」


ゴーヤ「え…!でも…」


イク「いいのね、ゴーヤの気が済むのならイクは何されても平気なのね」


イムヤ「でも…え…!?」



落ち着いてイクを見ると…


笑顔だと思ったその顔は精巧な作り笑いだと気づいた。



イク「だから気にしないで、いくらでも怒っていいのね」


イムヤ「イク…」


ゴーヤ「う…うぅぅぅぅ!あぁぁあぁ!!」


イムヤ「ゴーヤ!」



ゴーヤは目に涙を溜めながら部屋を飛び出していった。




イムヤ「イク…あなた達になにがあったの…?」


イク「あのね…」









イクの話は想像が絶するほどに過酷なものだった。




私とハチ、ゴーヤとイクの二人ずつに分けられてから


ゴーヤとイクに与えられた任務は『資源拾い』だった。




二人は来る日も来る日もオリョール海に単艦出撃をして燃料の確保を強いられてきた。


往復して燃料を補給してまた出撃をたった二人のローテーションで繰り返し行ってきた。


ある時は大波にさらわれ、ある時は深海棲艦に追われ恐怖と疲労の板挟みの生活が続いた。




イク「ある時から…ゴーヤが物に当たるようになったのね…」




そんな毎日にゴーヤの精神状態はおかしくなったのか、心は荒み攻撃的になってしまったのだという。

その証拠に部屋の中を見渡すとあちこちで家具が壊れ、部屋の壁が穴だらけになっていた。



イク「怒ってばっかりじゃ辛そうだから…せめてイクはゴーヤの前では笑っていられるようにって思ったのね…」


イムヤ「…」



そっか…だからイクは作り物のような笑みでも必死に作って…



イク「でも…それが逆にゴーヤは気に入らなかったみたいで…逆効果だったのね…」


イムヤ「イク…」






イク「もう…疲れたのね…」






イクの目から涙が零れる。


作り物の笑顔の頬を伝って涙が零れ落ちた。




イムヤ「ハチ…イクを任せてもいい?私はゴーヤと話を…」


ハチ「…」


イムヤ「ハチ…?」



ハチに声を掛けても何も答えてはくれなかった。



ハチ「もう部屋に帰って休んでもいいでしょうか?」


イムヤ「え…今なんて…」


ハチ「早く帰って休みたいと言ったのです」


イムヤ「なに…言ってるのよ…!こんな状況放っておくわけに…!」


ハチ「…」


イムヤ「あ…」




ハチの顔を見てゾッとした。


ハチの顔には表情が無い。



まるで心を閉ざしてしまっているのがそのまま表情に出ているかのようだった。




どうして今まで気づかなかったのだろう



いつも大破して帰ってくる私と交代する時、ハチは文句ひとつ言わなかった



でもそれは心を閉ざして何も考えないようにしていたからだったなんて…



私の中で『ハチは強い』『ハチは大丈夫』なんて勝手に結論を出していた



それが大きな間違いだったなんて今更気づくなんて…








イムヤ「ハ、ハチ!待って…!」




私が止めるのを聞かず、ハチは部屋からいなくなってしまった。







イムヤ「う…っぅ…うぅぅ…」




その状況に私も我慢できずに涙を零す。




イムヤ「うあああぁぁぁ!あああああぁぁあぁぁっ!もうやだよぉぉっ!」




ゴーヤは心が荒み


イクは心が壊れ


ハチは心を閉ざし




イク「泣かないでイムヤ、ね、笑っているのが一番なのね…」




そんな状況に絶望しながら私の心は疲れ切ってしまった…





















もう…終わりだ…








何もかも…





















そう絶望していた私達の状況は



翌日司令官が帰って来た日に一気に変わることとなった。





【大湊鎮守府 執務室】




イムヤ「異動…?」




司令官が帰って来た日、私達潜水艦は執務室に呼び出された。


『何をされるのだろう』ど内心ビクついていたけど、司令官から言われたのは意外過ぎる言葉だった。



大湊「そうだ、さっさと出て行く準備をしろ。あのクソッタレ野郎…!何が『黙っててやるから潜水艦を全員寄越せ』だ!」


イムヤ「…」



不機嫌そうにぶつくさ言っている司令官。

どうやら大本営で誰かに何か言われたみたい。




でも…



この地獄のような日々が終わる…?






そう思えただけで涙を零しそうなほどに嬉しい気持ちが湧いてしまう。





大湊「なに嬉しそうな顔してんだ、言っておくがお前の行くところはこことは比較にならん程に過酷だぞ」


イムヤ「え…」




でも司令官のその言葉に身も凍り付くような気持ちになる。



大湊「その鎮守府の提督は若造だがおかしな勢いで戦果を上げている。そんな奴がまともな艦隊運営をしているはずがない」



どの口が言うんだか…



大湊「おまけに先日の演習で駆逐艦を単艦出撃させたとか滅茶苦茶な起用をしたらしいぞ。あはははは、残念だったな。お前らの行きつく先は地獄だ」


イムヤ「失礼します…」




これ以上話を聞くのも嫌なので私は3人を出るように促しながら執務室を出た。










イムヤ「…」


イク「…」


ハチ「…」




廊下に出ても私達は顔を上げることもできなかった。


この先が彼の言う通りまだ地獄のような日々が続くと思うと…暗い気持ちになってしまうのは仕方ないもの…




ゴーヤ「どうせ…どこに行っても同じでち…」



ゴーヤの言う通りなのだと思ってしまいそうなほどに…私達の雰囲気は最悪だった。










その後は艤装を取りに行くために私は一人工廠へと向かった。



ゴーヤもイクもハチもどうしているかはわからない。




あの日から私達は会話もできずにいて…バラバラになっているんだから…









??「イムヤさんっ!」



私が一人荷造りをしていると工廠に誰かやってくる



イムヤ「大潮…?霰も…」



駆逐艦の大潮と霰だった。



大潮「異動、決まったんですね!」


霰「良かった…あの人、本当に助けてくれた…」


イムヤ「もしかして二人が…?」


大潮「はい!先日派遣された時にお願いしてきました!」



そういえば二人は留守になる鎮守府の防衛のために派遣されてたっけ…

その行き先は佐世保鎮守府で…




イムヤ「なんてこと…してくれたのよ…」


大潮「え?」


イムヤ「私達の行き先はここよりも酷いところじゃないの!どうしてくれるのよ!!」



そんなこと決まっているわけじゃないのに…


私は二人に対して八つ当たりをしてしまった。




霰「大丈夫…」



でも霰はそんな私に対し物怖じせず近寄って手を握ってくれた。



霰「あの人…おかしくて…なんか変わった人だったけど…」


大潮「それフォローになってないですよぉ…」


霰「でもね…」




霰がしっかりと私の顔を見る。



霰「なんだか…楽しそうな人だったよ…?」



霰はうっすらと笑顔を浮かべていた。


先日見たイクの作り笑いとは違う、本当の笑みだった。




霰「だから…きっと大丈夫だから…」







霰の笑顔に私は少しだけ救われたような気がして





異動するその日まで私の胸の中が不安でいっぱいになるようなことは無かった



















そして…私達は佐世保鎮守府へと着任した





【佐世保鎮守府 執務室】





祥鳳「提督、入りますよ」


提督「ああ」



私達を正門で出迎えてくれた秘書艦の祥鳳さんに連れられて4人揃って執務室に通される。


中には司令官だけじゃなくてメガネを掛けた小さい子と着物を着た大人びた人が仕事をしていた。



天城「第二秘書艦の天城です」


沖波「同じく第二秘書艦の沖波です、よろしくお願いします」



二人は私達を見るとすぐに立ち上がって挨拶をした。


先程祥鳳さんに挨拶された時も思ったけどここの秘書艦は本当にしっかりしているわね…。



提督「簡単に自己紹介してくれ」



そう言われて私達は彼の前に4人並ぶ。




イムヤ「い、伊号潜水艦、イ…イムヤ…です」



しっかりと自己紹介しようと思ったのだけど…自然と声が震えてしまった。



前の鎮守府での色んな事が過って身体も震え始める。

隣を見るとゴーヤもイクもハチも同じように震えていた。







提督「…話にならんな」






イムヤ(え…!?)



司令官の呆れた声にドキッとして顔を上げると彼は立ち上がっていた。




…折檻される!?




イク「え…」


ゴーヤ「イ、イムヤ…」



そう思って思わず3人の前に出て身構えてしまったのだけど…




提督「話はお前らが聞いてくれ。俺は会議室に行ってる」


祥鳳「わかりました」




司令官はその場を秘書艦に任せて出て行った。





イムヤ(助かった…)




ヘナヘナと力無く膝をついてしまい、緊張から解き放たれた私は涙を零してしまった。





祥鳳「大丈夫ですよ」




私を心配して抱きしめてくれる秘書艦に縋りつき、私は落ち着くまでしばらく胸を借りて泣かせてもらった。


祥鳳さんの『大丈夫ですよ』という何かの確信を持った言葉に私はどこか安堵してしまっていたのかもしれない…。






私が泣き止んだ後、これまで自分達がどのような扱いをされていたのかを話した。


3人とも私達の話を真剣に聞いてくれた。

時折辛そうに、そして安心させてくれるような優しい表情を見せながら真剣に聞き取ってくれた。





祥鳳「提督に意見を伺ってきます、談話室で待ってて下さい。天城さん、沖波さん、案内をお願いします」




祥鳳さんは私達の話をさっきの司令官に話に行くみたい。


てっきり司令官をこの場に戻して報告するかと思ったけどそうでもないみたい。



私達の話を歪曲したりする人には見えないけど…どのように、どこまで伝えてくれるのか正直心配。



イムヤ「わ、私も…い、一緒に行く…」



怖くて声が震えたけど…これからの私達の鎮守府生活のことを考えるとそう言わないわけにはいかなかった。



祥鳳「無理しなくてもいいですよ、まだ怖いでしょう?」


イムヤ「行かせて…お願いします」


祥鳳「わかりました。怖かったら話が聞こえる範囲で隠れていても構いませんからね」



祥鳳さんは私の考えを理解してくれたのか、また優しい笑みを見せてくれて了承してくれた。








【鎮守府内 会議室】




祥鳳「提督、失礼しますね」


提督「ああ」


イムヤ「…!」



中から司令官の声が聞こえて私は身を竦ませた。



祥鳳「…」



祥鳳さんが人差し指を立てて口元に寄せる。


『静かにしてここで聞いてて』ということだろうか。



祥鳳さんはそのまま会議室に入って司令官に話し始めた。






それからしばらくの間。


祥鳳さんが私達のことを司令官に話していた。


心配していたことは杞憂に終わったようで、私は祥鳳さんを疑ってしまったことを恥じた。




でも…重要なのはこの先だ…。




祥鳳「…以上がこれまで彼女達の置かれていた状況です」


提督「さっきのあいつらの態度も頷ける内容だな」


??「酷い話ね…反吐が出るわ…!」



二人以外にも誰かがいたみたいで、私達の話を聞いて怒ってくれているみたい。



祥鳳「提督、どうしますか?」


提督「そうだな…」



少し司令官の考えるような声が聞こえて…



提督「4人とも無期限休暇にしてやるか」


イムヤ「ぇ…!?」



思わず声が漏れそうになるのを堪えた。



無期限休暇って…?


その意味を理解しようと必死で頭を働かせるけど彼の意図が掴めなかった。



??「いいの?あんたの言ってた計画はどうするわけ?」



計画…?


というか司令官のこと『あんた』とか言ってなかった?


身内の人でも来てるのかな…



提督「このままじゃ何してもいい結果にはならんだろ。祥鳳、沖波に言って当分遊べるだけの金を用意させろ。あいつらに何不自由ない生活をさせてやれ」


祥鳳「わかりました」






夢のような話ではあったけど…



この休暇は何か裏があるんじゃないかという疑いでいっぱいだった。








【鎮守府内 談話室】




祥鳳「…というわけで皆さんは当分の間お休みとなります」



さっきの司令官の言葉を祥鳳さんがそのまま伝える。



イク「ほ、本当なのね?」


祥鳳「はい」


ハチ「何もしなくてもよいのですか…?」


祥鳳「はい」



イクは信じられないといった顔になっていて、ハチは無表情のままだけどどこか疑うような声色だった。



ゴーヤ「…何するにしてもお金が無いでち…」



ゴーヤがやさぐれ気味な言い方をする。



祥鳳「当面はお金に困らないよう、提督から渡すように言われています」


ゴーヤ「え…」



そう言って祥鳳さんがそれぞれに封筒を渡す。

中にはお金がギッシリと詰まっていて本当に当分お金に困りそうにないくらい入っていた。



ゴーヤ「こ、こんなに…で、でも後で返せとか言われても…」


祥鳳「提督からは『大湊の馬鹿野郎からふんだくってやるから心配するな』とのことですから安心して下さい」


イク「む、無茶苦茶なのね…」


ハチ「…」


祥鳳「後はこの鎮守府での食事時間ですが…」



その後は祥鳳さんから食事時間や寮の設備の使い方などを一通り聞いた。





イムヤ「…」


ゴーヤ「…」


イク「…」


ハチ「…」




祥鳳さんが私達の前からいなくなって何も言わずに寮への部屋向かった。




イムヤ「うわ…」


イク「おっきいのね…」



ドアに自分の名前が書かれている部屋の中を見ると思っていたよりもかなり大きくて奇麗にされている。

今は最低限の家具しかなかったけど『自分で好きなものを買い入れて良い』って祥鳳さんが言ってたっけ…。


ゴーヤもハチも目を丸くしている。

そりゃそうだよね、私達は前はあんなにも狭い部屋で相部屋だったんだから。



イムヤ「ね、ねえ…休みとお金をもらったんだしさ、明日みんなでどこかへ行かない?」



ずっと夢見てた環境に私は久しぶりにみんなで一緒に楽しく過ごしたいと思った。



ゴーヤ「ゴーヤは一人でゆっくりしたいでち、放っておいて欲しいでち」


イムヤ「え…」


ハチ「はっちゃんも同意見です」


イムヤ「ちょ、ちょっと…」



私の提案を跳ね除けてゴーヤとハチはさっさと部屋に行ってしまった。



イク「イクも休むのね…イムヤも少し休んだ方が良いと思うのね…」


イムヤ「な…ま、待ってよ…」



そしてイクもいなくなってしまった。





















イムヤ「なによ…」




悲しさで身体が震え、涙が零れた。




イムヤ「なによなによぉ!!せっかく環境が変わったんだから、す、少しでもっ…ぅ…楽しもうと思ったのにぃ…!!バカぁ!!もうあんた達なんか知らないからぁぁ!大っ嫌いっ!!」



私は廊下に響き渡る大声で怒鳴って部屋に入ってベッドの中でしばらく泣きわめいた。






どれだけの時間泣いていたのかわからない



そのまま泣き疲れて私は眠りについた







これが佐世保鎮守府に異動した一日目だった。







【鎮守府内 イムヤの部屋】





イムヤ「んぅ…」




目が覚めると陽が窓から射していた。


時計を見ると朝の8時頃だったのだけど…




イムヤ「うそ…」




日付が2日進んでいた。

40時間くらい寝てたらしい。


自分でも自覚できないくらいの疲れが溜まっていたのだろうか。


その間起こされることも無かったことを考えると私達に与えられた無期限休暇は本物だったことが伺える。



意識が覚醒してくると空腹感からお腹が鳴る。


私は立ち上がって祥鳳さんから貰ったこの鎮守府の案内表を見ながら食堂へと向かった。







【鎮守府内 食堂】




食堂に行くと既にほとんど人がいない状態だった。


来るのが遅かったからなので今から食べられるのかな?と思ったのだけど…



葛城「ん?あ、新人さんだ。間宮さーーーん!1人来ましたよーー!」



私を見てすぐに声を掛けてくれた。



イムヤ「あ、ありがとう…私は潜水艦のイムヤ…」


葛城「航空母艦葛城よ、よろしくね」



ハキハキとした葛城に少し怯んだけど何とか挨拶ができた。



間宮「準備ができましたよー!」


葛城「ほら、取りに行って」


イムヤ「う、うん…」



料理を乗せたトレーを受け取って座る。


どれも美味しそうで口から涎が零れそうになるのを堪えることとなった。


実際に料理はとても美味しくて数分の内に全部平らげてしまった。



葛城「ふふーん、間宮さんの料理はどう?世界一でしょ!」


イムヤ「う、うん…!」



どうして葛城が得意満面なのかわからないけど私は思わず頷いてしまった。



間宮「お口に合ったようで何よりです」



料理を作ってくれた間宮さんが厨房から出てきた。



イムヤ「あ、ご、ごちそうさまでした」


間宮「いえいえ、お粗末様でした。それにしても良かったです」


イムヤ「え?」


間宮「大潮さんと霰さんからのお願いだったのですよ。私達の鎮守府の潜水艦隊を助けてって」


イムヤ「あの二人が…」


間宮「はい、提督は本当にあなた達を助けるよう動いてくれたのですね」



そっか…あの二人がこの鎮守府に一時派遣されていた時に助けを求めてくれたんだ…


その気持ちは嬉しいんだけど、私の中ではまだ不安が消えてはいない。



イムヤ「あの人って…司令官ってどんな人なの?」


葛城「え”…!?」


間宮「あ…ぅ…」



私の質問に二人が固まってしまう。

その二人の反応に不安が湧いてきそうになるけど…



葛城「無茶苦茶な奴よ」

間宮「メチャクチャな人ですね」



二人の答えは呆れながらのものだった。


その反応には恐怖感といったものが一切感じられず、私の中の不安はすぐに引っ込んだ。




イムヤ「…悪い人なの?」


葛城「悪い人じゃないわよ、多分…」

間宮「悪い人でないとは思うんですけどね…だ、大丈夫ですよ。むやみやたらに傷つけるような人じゃないですから」


イムヤ「…」



やっぱり呆れながらの答えだった。



イムヤ(そういえば霰もおかしな奴だって言ってたっけ…)




結局私の中で明確な答えは見えてこず、少し3人で雑談をした後その場を離れることにした。







【鎮守府内 艦娘寮】




イムヤ「あ…」


ゴーヤ「あ…」



寮に戻って来ると部屋からゴーヤが出てきた。



イムヤ「ふんっ」



私はそっぽを向いて自分の部屋に入る。



何を話して良いのかわかんないし、どう接すれば良いのかもわからない。


異動してばかりで心細い気持ちはあったけど、それを振り払うように私はお出かけ用の服に着替えて街に出ることにした。





街に出てこれからの生活に必要なものを買ったり、家具を注文したり、スマホを最新型にしたりしたのだけど



その間、『ずっと他のみんながどうしているか』という思考に持って行かれてその考えを振り払うということを何度も繰り返した。




【鎮守府内 艦娘寮イムヤの部屋】





イムヤ「なにしよう…」




この鎮守府に来て4日目、早くも手持ち無沙汰になってきた。


寝ようと思っても疲れが取れてしまったのか眠気がやってこない。



スマホのゲームで時間をつぶそうと思ってもすぐに飽きて投げ出してしまった。



何しても楽しめない理由はわかってる。



ひとつは潜水艦隊のみんながいないこと


もうひとつは出撃も遠征も演習もしていなくて体力が有り余っているからだ。



何もせずに休暇だけっていうのが後ろめたいという気持ちもある。




イムヤ「どうしよっかな…」



時計を見ると時間はお昼の12時が過ぎ、13時になろうとしていた。





私は悩みながらも部屋を出て食堂へと向かった。





【鎮守府内 食堂】




食堂へ向かおうとすると向こうから司令官がやって来るのが見える。



提督「よぉ」


イムヤ「あ…う…はい…」



いきなり司令官に挨拶されて落ち着かない返事になってしまった。



時津風「こんちはー」


雪風「おはようございます!」



その後ろに二人の駆逐艦が隠れてたみたい。

まさか隠れているとは思わなかったため、ビックリして返事ができなかった。



時津風「ねえしれー、もうすぐクリスマスだよ。ケーキ頼んでよー」


提督「なんで俺が…そんなもん間宮に作ってもらえよ」


雪風「間宮さん、料理の準備で忙しいって言ってました!ケーキまでは手が回らない可能性があるって!」


提督「あっそ、後は任せた」


時津風「こらー!無視すんなー!!」


雪風「クリスマスケーキが食べられなくなってもいいんですか!!」


提督「うるせえぇぇぇぇっ!!」



なんてやりとりをしながら3人は行ってしまった。

司令官は終始二人の駆逐艦に背中から服を引っ張られていた。

その構図はお父さんと我が儘を言う二人の娘というものに見えた。



イムヤ「…」



司令官に対して物怖じしない子達ね…

いつもああなのかしら?





私が思っている以上にこの鎮守府の雰囲気は良いのかしら?


そんなことを思えると気持ちが軽くなった気がして私は顔を上げることができた。









【鎮守府内 執務室前】




昼食を終えた後、私は意を決して司令官に会いに行くことにした。

深呼吸をしながら執務室のドアをノックする。



イムヤ「し、司令官、イムヤです」



いざ会おうと思うとやっぱり緊張して声が少し震えてしまった。



祥鳳「どうぞ」



中から返事をしたのは祥鳳さんだった。

一対一で話せる自信があまりないので彼女がいてくれるのは心強かった。


それだけでなく執務室の中には先日と同じように二人の第二秘書艦もいてくれた。



提督「疲れは取れたか?」


イムヤ「え?は、はい…」


提督「何か用か?」


イムヤ「あ…ぅ…」




正直何か用があるわけではなかったため何も答えられずしどろもどろになってしまう。




提督「暇になったんだろ?」


イムヤ「ち、違…」


提督「はは、心配すんな。暇になったのはお前だけじゃないぞ」


イムヤ「え…?」



司令官が指を差した先を見ると…



イムヤ「ハチ…」


ハチ「…」



ハチが執務室のソファに座っていた。

私の視線に気づくと手に持っていた本で顔を隠した。



提督「こいつは昨日やってきた。ここで俺がどんな悪だくみをしているか監視するんだと」


ハチ「そこまで…言ってません…」


提督「似たようなこと言ってたじゃねえか」


ハチ「…」



司令官の挑発するような言い方にハチが少し不貞腐れたような顔をした。



イムヤ(ハチ…)



あの大湊鎮守府での毎日で疲れ果てて表情を無くしてしまったと思ったのに…

以前のハチが少しでも戻ってきてくれたような気がして嬉しかった。



提督「ちなみにここに来たのはお前が一番最後だからな」


イムヤ「え?」



司令官がそう言った時、執務室のドアが開いた。



イク「提督ー、今日も来たのね」


提督「ノックしろって言ってんだろ」


イク「えへへ、ごめんなのね。あ…」



イクは私に気づくと少し気まずそうな笑みを浮かべる。


それでも以前の作り物の笑顔とは少し違う気がした。



イク「今日も肩揉んであげるのね」


イムヤ「ちょ、ちょっと何をさせて…」


提督「こいつがやりたいって言うからさせてる」


イク「そうなのね」


イムヤ「で、でも…」


提督「死ぬほど下手だからただの拷問だけどな」


イク「酷いのね!」


祥鳳「提督の全力で痛がる悲鳴という貴重なものが聞けましたよ。ふふっ」


提督「笑うな」


イムヤ「…」



司令官が強制している様には見えないし…祥鳳さんも咎めようとしていない。

イクも自分から積極的にしているようにも見えるし…



一体どういう状況なのか飲み込めない所に…




ゴーヤ「ていとく、ゴーヤでち」




ゴーヤもノックをしてから執務室に入ってきた。



ゴーヤ「演習用の魚雷、10本使ったでち。報告に…」


イムヤ「ゴーヤ…」


ゴーヤ「あ…ぅ…」



私を見るとゴーヤも気まずそうに視線を逸らした。





提督「ちょうど全員集まったな、そこに並べ」





司令官にそう言われ、私達はこの鎮守府に来た時と同じように司令官の前に4人並んだ。




提督「ふーん…」


イク「…」


ゴーヤ「…」


ハチ「…」


イムヤ「な…なに…?」



私達を観察するかのような司令官の視線に少し居心地が悪い。



提督「俺の顔を見れるようになったな」


イムヤ「え…?」


提督「この鎮守府に来た時とはえらい違いだな。疲れが取れて余裕が出てきた証拠だな」



司令官が満足そうな顔を見せている。



言われてみればこの鎮守府に来た時はみんな顔を上げることすらできなかった。



提督「まだ休みが必要な奴は申し出て良いぞ」



司令官がそう言ったけど誰も申し出ることは無かった。

それはそうだろう、みんな余裕ができて暇になったからこそ執務室を訪れたんだ。






提督「ふむ、それではお前らのこれからについて話そう。会議室に移動する。祥鳳、大井を呼んでくれ」


祥鳳「はい」



司令官は立ち上がり、私達はそれについて行くことしかできなかった。





【鎮守府内 会議室】




大井「始めまして、作戦担当兼指導役の大井です」




会議室に行って少し待つと教鞭を持った艦娘が挨拶に来た。


どうやらこの鎮守府の艦娘を指導しているみたいだけど…どうして私達に会わせたのだろうか。



提督「しばらくの間はこの大井がお前達の演習指導役になる。こいつを怒らせんように精々頑張れよ」


大井「あんたもう少し言い方を考えなさいよ」


イムヤ「…」



お互いの無遠慮な言い方に二人の間の絶妙な距離感を感じる。

口は悪いけど二人は信頼し合っているんだなっていうのが見て取れた。



大井「あなた達には潜水艦隊、4人1チームを基本として行動してもらうわ」



チームという言葉に私はドキッとしてしまう。


思い出されるのはあの大湊鎮守府での全員バラバラになってしまっていた出来事。

それを思い出すだけで胸の奥から憂鬱な気持ちが湧いてしまう。



大井「まずは個々の能力を…」


イムヤ「無理…です…」


大井「え?」


イク「イムヤ…?」


イムヤ「わ、私達…バラバラですから…」


ハチ「なにを…」



これから新しい生活が始まるって言うのに…


私、何を…



イムヤ「ま、まとまりなんて無い…み、みんな…無関心で…」


提督「お互い嫌い合ってるってのか?」


イムヤ「…」



司令官の言葉に頷きはしなかったけど…否定もできなかった。






でも…あんな想いをまたしてしまうのなら、と


私の思考は逃げに全てを持って行かれていた







提督「そう思っているのはお前だけじゃないか?」


イムヤ「…え?」




てっきり罰を与えられるんじゃないかって内心ビクビクしていたけど、司令官からの言葉は意外なものだった。




私が顔を上げると司令官が胸ポケットからスマホを取り出す。



何かの動画を準備して私に見せてくれた。






そこには…







ハチ『お願いがあります…』



ハチが映っていた。



ハチ「あ…う…!」



私の隣のハチがスマホに映る自分を見てうろたえている。




ハチ『私が…みんなの分まで頑張りますので…その、みんなには無理をさせないで下さい…!』



怖がりながらも深々と頭を下げていた。





ゴーヤ『ゴーヤ…演習していっぱい強くなるから、他のみんなは休ませて欲しいでち…』



ゴーヤ「なんで撮っているでちかっ!?」



次に映ったのはゴーヤで




イク『イク、提督にいっぱい尽くすから…肩揉みでもなんでもするから、その分みんなに楽をさせて欲しいのね…』



イク「うぅ…」




同じようにイクもみんなのことを考えてお願いをしていた。





大井「あんた、いつの間に撮ってたのよ」


提督「ここだよ」



司令官が自分の胸に指を差す。


よく見ると司令官の胸ポケットには穴が開いていてカメラを映せるようになっていた。



提督「証拠映像は残すに限る。説得力が違うからな」


大井「威張ってんじゃないわよ、あんたがやってんのは盗撮。祥鳳が知ったら泣くわよ」



大井さんが頭を抱えて本気で呆れてる。



司令官は…どうしてこんなことを…




周りを見ると3人とも顔を俯かせて黙っている。

それは以前の暗い表情と違って照れ臭そうにしているのが見て取れた。



イムヤ「みんながちゃんと考えてくれていたのに…私…情けないよね…」



それに対して私は自分を恥じるだけで暗い気持ちに…



提督「そうでもないだろ」


イムヤ「え…」


提督「お前はここに着任した時、仲間を庇うように俺の前に立ちはだかっただろ」



気づいてたんだ…。



提督「他の奴らがビクビクして顔も上げられない時にな」



なんだかわざと他の3人にわかりやすく説明しているような口調…。




ゴーヤ「イムヤ…」



あれこれと考えてしまう私の手をゴーヤが握ってくれた。



ゴーヤ「その…色々と迷惑かけて…ごめんでち…」


イムヤ「ゴーヤ…?」


イク「イムヤはみんなを心配して…ずっとがんばっててくれたのに…」


ハチ「私達は…それなのに…」


イムヤ「イク、ハチも…」




バラバラだったと思っていたみんなが私に向かって謝っている。



提督「余裕が出てきたら見えなかったものも見えるようになるだろ?」


イムヤ「…」



司令官の言う通り、余裕が出てくると冷静になって自分を見つめ直すことができる。



…でもなんだろうな?司令官の言葉って自分でも同じ体験をしたんじゃないかってくらい妙に説得力がある。




提督「それでどうするんだ?」


イムヤ「え…?」


提督「潜水艦隊としての演習を受けるかどうか」


イムヤ「…」




ゴーヤ、イク、ハチを見ると私の方を見て頷いてくれた。



イムヤ「やるわ…!伊号潜水艦隊として演習に参加させて下さい!」



私に続き、ゴーヤ、イク、ハチも司令官に頭を下げた。







これが私達、潜水艦隊の鎮守府生活の本当の始まりになったような気がした。










でも…




あの大湊鎮守府での生活で抱えてしまった心の傷





それは簡単に癒えるものではなかった…













【鎮守府内 工廠】




工廠に集められた艦娘達の前に私達4人が並ぶ。



提督「先日言った通り潜水艦の艦娘達が着任した、ほれ」


イムヤ「は、はい!伊号潜水艦、伊168です。イムヤって呼んでね!」



私に続き他の3人も自己紹介をする。


この鎮守府に来て早々に無期限休暇を与えられた私達に対してもみんなは暖かい拍手で応えてくれた。



提督「こいつらは当分大井と一緒に演習してもらう」


時津風「うわ…」


雪風「ご愁傷様です…」


大井「こら!聞こえてるわよ!あんた達も演習に連れて行くわよ!!」


時津風「ご、ごめんなさいー!」


雪風「嘘です!大井さんは怖いけどいい人です!」


天津風「怖いってのは前提なのね…」



駆逐艦の子達の反応を見る限り楽な演習じゃないことは嫌でも理解できた。




提督「続いて、北方海域の制圧に乗り出す。旗艦に陸奥」


陸奥「え!?」



呼ばれた本人が一番驚いていた。



陸奥「私で…良いの?」


提督「自信無いか?」


陸奥「いいえ、やるわ!この私に任せなさい!」



少し緊張しつつも陸奥さんは嬉しそうに返事をした。



提督「続いてメンバーは霧島」


霧島「よぉぉぉっし!」



気合の入った返事に周りのみんながビックリしていた。

インテリ風な見た目と違って随分と血の気が多そうな人だった。



提督「後は雲龍、天城、葛城、祥鳳…」



重量編成の艦隊が6人選ばれてそれぞれがやる気を見せていた。


前の鎮守府とは違う、強制された空気の無いこの雰囲気はとても居心地が良かった。



提督「続いて鎮守府近海の対潜哨戒、天龍を旗艦に沖波、風雲…」



どうやら2艦隊の同時出撃をするみたい。

と言っても対潜哨戒くらいなら司令官の指示が無くてもやれそうだけど。



提督「親潮」


親潮「はいぃぃっ!!」



さっきの霧島より大きな返事だった。



天津風「ちょっと…気負い過ぎよ」


時津風「仕方ないよ、初出撃だもんね」


雪風「頑張って下さいっ!」


親潮「はい!この命を懸けて…!私はぁっ!!」


天龍「気負うなって言ってんだろ!」



任務達成への意欲なのかな?


でもあの子危なっかしくて見てられない。

大丈夫かな?と他の人の心配をする余裕を持ちながら私達は演習場へと向かった。






【鎮守府内 演習場】





正直、大井さんを甘く見てた。




大井「ほらほら!そんなんじゃ爆雷の回避できないわよ!やる気あんの!?」




演習の始めは個々の能力を見るためのものだったので楽だった。


しかし実戦訓練を開始すると大井さんの容赦ない集中爆雷が待っていた。




ハチ「きゃあああああ!?」


イク「あの人おかしいのね!どうしてこんなにも位置が簡単に特定できるのね!?」


イムヤ「知らないわよ!急速潜航して!」


ゴーヤ「爆雷持った6隻より恐ろしいでち!!」





私達は潜水艦用の通信を使いながら上から襲い掛かって来る爆雷を回避する。


しかし大井さんはソナーと爆雷を見事に使いこなし、手加減無用で私達に爆雷を浴びせてきた。

演習用のものとはいえ当たると痛いので私達は必死に逃げ続けた…






【鎮守府内 工廠】





ゴーヤ「ううぅ…痛いでち…」


イムヤ「疲れたね…」




演習が終わって艤装を外しに工廠へ来た私達はもうヘトヘトだった。



大井「お疲れ様、明日もよろしくね」


ハチ「あ、明日も…」


イク「うぅ…少しは手加減して欲しいのね…」


大井「手加減したら訓練にならないでしょうが」



思わず愚痴ってしまう私達に大井さんが呆れ顔で答えた。




提督「どうだった?」


イムヤ「あ…!」



司令官が工廠にやって来たので私達は急いで立ち上がり敬礼をする。



提督「敬礼はいらん、休んでろ。敬礼は秘書艦の号令以外はせんでいい」



そんな私達に気を遣ってか司令官が座らせるように言ってくれた。



大井「さすがに修羅場をくぐり抜けてきただけあって個々の能力は高いわね。これなら計画を前倒しで進められると思う」


イムヤ「計画…」


提督「そうか。ふふっ、そいつは楽しみだ」



司令官の顔が悪だくみをするような顔になる。

その顔に若干怯んだけど不思議と恐怖心を感じなかった。



大井「みんなは?」


提督「もうすぐここに戻るはずだが…」


陸奥「ただいまっ!」



そこに出撃していた部隊が帰ってきた。



祥鳳「提督、6隻全員無事に帰投しました」


提督「お疲れ、傷を負っている者はさっさと直してこい」


陸奥「ふう…さすがに北方海域はしんどかったわ」


霧島「でも気持ちよかったです!司令、次の出撃はいつですか!?」


提督「次は西方に手を伸ばす予定だ。興奮してないでさっさとドックへ行け」


霧島「はい!」



戦艦の二人は嬉しそうに、そして満足そうにドックへと向かう。

傷だらけだったのに笑顔だった二人を見て羨ましいという感情が湧いてしまう。


私達潜水艦にもあんな華やかな活躍ができたらな…

そんな嫉妬めいたものさえ感じてしまった。







天龍「戻ったぜ…」



同時出撃をしていた対潜哨戒の艦隊も帰ってきた。


その帰投は先程の北方海域攻略部隊とは違い…




親潮「ぅっく…ぐす…」



とても暗いものだった。





天龍「報告通りだ…敵主力に到達する前の戦いで先制対潜爆雷に失敗、親潮に魚雷が直撃、被害は見ての通り…」



見ると先程張り切って出撃して行った親潮の艤装が大破している。



天龍「進軍は危険と見て撤退した」


提督「ああ。お疲れさん」



司令官が天龍の肩を叩いて泣いている親潮の所へ行く。



親潮「司令…大変申し訳ありません!せ、せっかく任務を与えて下さったのに私…っ…ひっく…申し訳…ぐす…」


沖波「親潮さん…そんなに落ち込まないで下さい…」


提督「…」



親潮の悲観的な反省は周りに伝染して暗い雰囲気を作り出している。


も、もしかして任務失敗したら酷い罰が与えられるとか…?



誰かに何とかして欲しいと願うように周りを見るけど…



提督「ふんっ!」


親潮「あだっ!?」



そんな親潮に対し司令官がしたのは額にチョップだった。



提督「痛って…!」



しかしチョップした本人が手を痛そうに振っている。

そりゃ今の親潮は艤装を着けているから人間に比べると頑丈だから…



提督「…ったく、大破しただけでならまだしも全員の士気を奪う気ですかお前は?ああ?」


親潮「す、すみませ…」


提督「そんなんじゃこれからやっていけんぞ、さっさと切り替えろ。少しは能天気な時津風を見習え」


時津風「なんだとこらー!」



そう時津風をからかって司令官はその場を離れて行った。




イムヤ(それだけ…?)




てっきり悲観に暮れる親潮を見てかなり重い罰を与えられると思っていた私達は拍子抜けしてしまった。



親潮「え…あ、あれ…?」


祥鳳「つまりですね」



どう反応したら良いのかわからない親潮に祥鳳さんが後ろから両肩に優しく手を置いて囁く。



祥鳳「提督は『悲観的にならず、切り替えて明日からも頑張れ』と言ったのですよ」


親潮「そ…そう…なのですか…?」


天龍「そんな好意的に解釈して良いのか?」


祥鳳「あら天龍さん、私のことも信用してくれていないのですか?」


天龍「そ、そんなことねえよ!なんか祥鳳がそう言うのずるいぞ!」


祥鳳「ふふっ」





そのやり取りに悲観的な空気が一掃された。

まるでそれが秘書艦の…祥鳳さんの役割だと現しているかのような見事なフォローだった。




親潮「わ、私…!次こそは…!この親潮、司令に与えられた任務を遂行すべく…!」


風雲「はいはい、わかったから早く入渠しましょ」


親潮「わわっ!?風雲さん、引っ張らないで下さい!」


沖波「大破してるんですから早く治して下さいっ!」



そして親潮は風雲と親潮に引っ張られるようにドッグへと運ばれていった。







ハチ「良い雰囲気ですね」


イムヤ「うん」




そんな仲間達の空気に当てられてか、私達は自然と笑顔になっていた。








ゴーヤ「でも…」


イク「何か言ったのね?」


ゴーヤ「なんでもないでち…」





一人、暗い顔をしたゴーヤを除いて…







【鎮守府内 工廠】





イムヤ「バシー島へ?」


提督「そうだ」



演習を繰り返してから数日後、私達に任務が与えられることになった。



任務内容は敵補給艦の撃沈と南西諸島の定期防衛。

ずっと単艦で戦ってきたゴーヤとイクや弾除けにされていた私とハチにとって初めての正規任務だった。



祥鳳「私と葛城さんも同行します」


イムヤ「そうなんだ」



空母が二人も一緒だととても心強い。



提督「やるか?」


イムヤ「やらせて!」



即答してしまい『しまった』と思った。

仲間と相談もせずに決めてしまったことに不安になってみんなを見るけど…



イク「頑張るの!」


ハチ「特訓の成果を見せてあげましょう」



イクとハチは快く受けてくれた。



ゴーヤ「頑張る…でち」



しかしゴーヤが不安そうだったのが気がかりだった。















イムヤ「どうしたのゴーヤ」


ゴーヤ「え…?」



司令官がその場を離れてから私は不安そうな顔のゴーヤに声を掛ける。



イムヤ「ずっと浮かない顔をして…何か作戦に対しての心配事でもあるの?」


ゴーヤ「うぅん…大丈夫でち…」


イク「ゴーヤ…」


ハチ「もし不安なら今回は…」


ゴーヤ「し、心配いらないでち。これはゴーヤが勝手に思ってるだけだから、作戦が始まったらしっかりやるでち!」


イムヤ「そ、そう…?」




何だか納得し辛い返答だった。



ゴーヤが勝手に思っているだけ?



一体何のことだろうか…





【バシー島】




祥鳳『敵艦隊接近!攻撃準備に備えて下さい!』


イムヤ「了解っ!」



祥鳳さんからの通信を受けて私達は魚雷を構える。



イムヤ「潜水艦隊!魚雷一斉発射!!」



そして祥鳳さんと葛城の艦載機攻撃に続き深海棲艦に向かって魚雷を発射した。




イムヤ「あ…」




敵旗艦の空母と思われる深海棲艦に私の魚雷が吸い込まれるように命中し…




祥鳳『敵主力部隊の旗艦の撃沈を確認、作戦終了です!イムヤさん、お見事です!』



祥鳳さんからの通信に心が躍った。




イムヤ(気持ちいい~!!)



嬉しさから隣にいたハチに抱き着いてしまう。


そんなハチも嬉しそうにしていて笑顔を見せていた。









ずっと夢に見ていた私達潜水艦隊のデビュー



それだけでも嬉しいのに私達は早速結果を残すことができて最高の気分だった。









そんなバシー島の任務を何度か繰り返したある日のこと





【鎮守府内 会議室】




提督「…以上が今後の出撃予定だ。この鎮守府で大規模作戦への参加は初めてとなる。全員準備に抜かりの無いようにな」



艦娘全員を集めての作戦会議。


大井さんの用意した資料に目を通し、提督の説明を聞きながら私達は作戦内容を確認した。




イムヤ(さすがに私達に出番は無い…か)



出撃メンバーは水雷戦隊と主力重量編成のふたつ。

私達潜水艦隊のメンバーの名前は無かった。



提督「イムヤ」


イムヤ「…」



仕方ないよね…こういう華やかな場での活躍はいつだって…




ハチ「イムヤ…!」


イムヤ「?」



ハチに肘で突かれて何事かと思ったら司令官の方を指差している。



提督「呼んでいるのだが?」


イムヤ「ご、ごめんなさいっ!」


提督「立て」



言われた通り恐る恐る立つ。


確かに会議中にボーっとしてたのはまずかったけど…



提督「ハチ、イク、ゴーヤも立て」


イムヤ「え…!?」



どうして他の3人も…?



そういえば天津風が言っていた。

司令官の命令に逆らうと連帯責任でとてもきつい罰が与えられるって…

私の身体が恐怖で竦んでしまう。



イムヤ「あ…あの…」


司令官「沖波」


沖波「はい」



そんな私をよそに司令官が沖波に資料を配らせる。


そこには…



提督「見ての通りこの潜水艦隊の頑張りで大規模作戦用の資源確保が可能になった」



私達が着任してからの資源状況の変化が事細かに書かれていた。



沖波「週刊任務の大半が潜水艦隊のみなさんの頑張りで達成できました。使用資源はこれまでより80%以上も抑えることができました」



沖波の言葉に周りのみんながざわつきながらこちらを見る。

その視線がくすぐったくて俯いてしまった。



提督「お前ら、こいつらへの感謝を忘れるんじゃねえぞ」



司令官の言葉に続いてか艦娘全員から感謝の言葉をもらう。


私達はその言葉に少し恥ずかしくもなったけど、それを超える嬉しさから涙が零れそうになった。




たとえ華々しい活躍ができなくったって、こうやってみんなを支えることができるんだと実感ができた。











でも…






嬉しそうにしている仲間達の中でゴーヤだけがどこか笑顔を作っているように見えていた。






【鎮守府内 工廠】




イムヤ「よし、明日からもがんばろっ!」


ハチ「はい!」


イク「がんばるのね!」



みんなが大規模作戦海域へ出撃している合間も私達は南西諸島への出撃を予定していた。


先日みんなの前で褒められたこともあってかイクもハチもやる気が見て取れた。





ゴーヤ「もし…」


イムヤ「ん?」


ゴーヤ「大規模作戦で資源が無くなったら…また資源拾いに行かされるでちか…?」


イムヤ「え…そんなこと…」



不安そうにしているゴーヤに対し私は元気づけようとしたけど不思議と言葉が続かなかった。



どうしてなのだろうか…?

今は真っ先にゴーヤの不安を拭い去ることが大事なのにその言葉が浮かんでこない。







提督「その可能性はあるかもな」





そこへ司令官が一人でやってきた。



ゴーヤ「え…」


提督「大湊のバカ提督はそれで資源確保をしていたらしいな。俺もやってみようか?」


ゴーヤ「ひっ…!」


イク「てーとく!」


イムヤ「じょ…冗談だよね…!?」


ハチ「そんなこと…!」




司令官が冷たい表情をしてゴーヤを見下ろす。









私の頭の中で大湊鎮守府での生活とあの提督の嫌らしい笑みがチラついて



吐き気を覚える程に嫌な感情が湧き上がろうとしていた。









提督「冗談に決まってんだろ」


イムヤ「え…?」


提督「そんな効率の悪いこと誰がやるか。あんなのは資源管理もまともにできない奴のやることだろ」


ハチ「テートク…」


イク「冗談きっついのね…」


提督「はは、すまんな」




冗談だったことに心底ホッとした。









でも…胸の中の嫌な気持ちが消えていない。











ゴーヤ「嫌…でち…」


イムヤ「え…」



冗談だと言った司令官の言葉は…



ゴーヤには届いていなかった。





ゴーヤ「もう…嫌、いやでち!もう、一人は嫌でち!!」




ゴーヤは半狂乱になって叫び出した。



イムヤ「ちょっと待って!どこ行くのよ!!」








そしてひとり艤装を着けたまま工廠を飛び出していった。








私達はそのままゴーヤを追い掛けたけど…








イムヤ「な…!?」





ゴーヤはそのまま海に飛び込んで潜ってどこかへ行ってしまった。



艤装を着けていない私達は追い掛けることができない。




急がないと…!




私達はもう一度工廠へ行って艤装を着けようと思ったのだけど…






提督「イムヤ」



司令官は冷静な顔つきのまま私に声を掛ける。



イムヤ「なに…!?話は後にしてよ!」


提督「これを」


イムヤ「…?」



焦って跳ねのけようかと思ったけど司令官が差し出してきた物に私はその場に留まることができた。







イムヤ「え…」





司令官が私に渡したもの



それは…




____________________






【鎮守府近海】







陽が傾き、夕暮れに染まる海を泳いでようやくゴーヤを見つけた。





イムヤ「やっと見つけた…!」


ゴーヤ「イムヤ…」




ゴーヤは海にある岩場に座っていた。


すぐに見つけることができたのは祥鳳さん達が艦載機でゴーヤを追い、駆逐艦の子達がソナーを使って行き先を追ってくれたからだった。


居場所をある程度特定したところでみんなには一旦下がってもらい



イク「心配したのね!」


ハチ「でも怪我が無いようで良かったです」


ゴーヤ「イク、ハチも…」



私達潜水艦隊だけに行かせてもらった。



イムヤ「みんな心配してるよ」


ゴーヤ「…」


イムヤ「帰ろうよ、ね」


ゴーヤ「嫌…でち…」



ゴーヤはこちらを見ようとせずに顔を俯かせる。



ゴーヤ「もうあんな…一人で行ったり来たりの毎日は嫌でち…」


イムヤ「ゴーヤ…」


ゴーヤ「一人で…怖くて寂しくて…いつか沈むことになっても誰にも気づかれずに…」




私とハチは艦隊の随伴で『弾除け』になっていて一人じゃなかったけど…



イク「気持ち…わかるのね…」



ゴーヤとイクはずっと独りで…





ゴーヤ「もう…独りは嫌でち…」




最近は潜水艦隊として行動することが多かったから気づきにくかったけど…


私が思っていた以上にゴーヤの負った傷は大きかったみたい…



イムヤ「だったら…」




でも…




イムヤ「もっと安全で優しくしてくれる鎮守府に異動したら?」


ゴーヤ「え…」


ハチ「何を…」





私はここで終わりにしたくない。




イムヤ「ゴーヤを探しに出る前にね、司令官からあるものを渡されたの」


イク「あるもの…?」


イムヤ「さすがにここへは持ってきてないけど…」




私はそれを3人に伝える。



ハチ「異動申請書と…」


イク「他の鎮守府への推薦状…?」


イムヤ「うん。万が一ゴーヤが別の鎮守府の人に発見されてまずいことにならないようにするのと…」




艦娘の逃亡は重罪だ。


他の鎮守府に見つかったりすると下手したら解体処分になりかねない。

そうならないようにするために司令官が用意したのがひとつ。



ゴーヤ「もうひとつは…?」


イムヤ「この鎮守府が嫌になったら他の所へ行かせてやるって」


ゴーヤ「え…」


イムヤ「無理して居られても逆に迷惑だって…」



司令官の言葉を思い出しながらゴーヤに伝える。


自然と苛立ちが湧いてきて唇を噛み締めてしまう。



イムヤ「…悔しくないの?」


ゴーヤ「…」


イムヤ「私達が艦隊の根元を支えているって言ったくせに、司令官はやる気がないならどこかへ行けって言ったのよ?」




本当はそこまでのことは言われていない。

でも私にとってはそう解釈してゴーヤに伝えた。




イムヤ「私は…悔しいよ…!!」




色んな複雑な感情が湧いてきて涙が零れる。




イムヤ「せっかくあんな最低な生活から抜け出して潜水艦隊としてみんな一緒にやれるっていうのに…そんなこと言われて悔しくないの!?」


ゴーヤ「…」




私の言葉にゴーヤは答えずに深く俯く。



イムヤ「私は悔しいよ!司令官には絶対に私達が必要だって言わせるまで戦うって決めたんだから…!」


ゴーヤ「イムヤ…」


イムヤ「嫌ならどこへでも行きなさいよ!私は一人になったって戦い続けてやるんだから!!」


イク「ちょっとイムヤ…」


ハチ「少し落ち着いて下さい…」




自分でも何を言っているかわからないくらい興奮しちゃってイクとハチに止められるまで私はゴーヤを睨んでしまっていた。













その後はしばらく波の音が聞こえているだけの時間が流れ…











ゴーヤ「もう…泣かないでち…」



ゴーヤが涙を拭い、岩場から降りてきて私達の所へと近づく。



ゴーヤ「イムヤも…泣かないで欲しいでち…」


イムヤ「ゴーヤ…」



弱々しい表情を見せていたゴーヤが顔を上げている。



その表情は少しだけゴーヤの決意を感じさせてくれた。





ゴーヤ「一緒に帰ろ…?」




そのゴーヤの言葉を受け取り私達は鎮守府への道を戻り始めた。



【鎮守府内 港】




提督「戻ったか」



私達が港に戻ると艦娘達と司令官が待っていた。




ゴーヤ「てーとく…みんな…ごめんなさいでち…」



ゴーヤはすぐにみんなの前に行って頭を下げる。



ゴーヤ「ゴーヤ…ううん、潜水艦隊はこれからもみんなで頑張りますので…どうか…よろしくお願いします…!」



そしてこれからの決意を表明してくれた。


まだ少し怯えているような気もするけど…それでもゴーヤの目は司令官を捉えていた。



提督「ああ、頼りにしているぞ」


ゴーヤ「だからその…みんなに罰を与えないで欲しいでち…」



例の連帯責任のことを言っているのだろうか?

真剣に謝るゴーヤに対し司令官は…



提督「まあ元々俺が余計なことを言わなければ良かったんだ、罰なんか与える必要は無い。こちらこそすまんな」


ゴーヤ「てーとく…!ありがとうでち!」


葛城「本当よ」


大井「余計なこと言わないでよね」


時津風「しれーはいっつも一言多いよねー」


提督「うっさい」



司令官をフォローしようとしない周りの反応に思わずみんなから笑いが出ていた。



そんな暖かな空気の中、私はこの鎮守府に来て良かったと思えた。















はずなのに…















イムヤ「謝れ…」






急に『それ』は私を支配し始めた。







ハチ「イムヤ…?」


イムヤ「謝れ」


イク「どうしたのね…?」




あっという間に私は支配されて何をしているのかわからなくなる。




イムヤ「謝れって…言ってんのよっ!!」


ゴーヤ「イ、イムヤ…!?」



司令官に対し掴みかかろうとする私をゴーヤが引き留める。




イムヤ「謝れ!土下座しろ!!地べたに這いつくばれぇぇ!!!!」



それでも私が振り切って司令官に詰め寄ろうとすると今度は祥鳳さんと天城さんが行く手を塞ぐ。



祥鳳「イムヤさん!」


天城「一体どうしたんですか!?」


ハチ「なに、ど、どうしたのですかイムヤ!」


イク「どうしてそんな…」


イムヤ「謝れ!あんたが全部悪いのよ!よくもゴーヤを傷つけたわね!?絶対に許さない!!謝れ!土下座して謝れぇぇぇ!!」







何を言っているのか


何をしているのかなんてわからない




自分が得体の知れない何かに支配されて止めることができない






これから潜水艦隊として新たな出発を誓ったばかりなのに…





どうしてこんな台無しにするようなこと…










私の中でずっと燻り続けていた何かは歯止めが聞かず、何もかも壊してしまおうとしていた。






提督「わかった」



そんな中、司令官は躊躇うことなく地面に両膝をついて




イムヤ「え…!?」


提督「本当に申し訳ありませんでした…」




私に言われた通り



みんなの前で土下座をした…。





イムヤ「なん…で…」


提督「これで良いか?」


イムヤ「あ…ぅ…」




その信じられない光景に何も言うことができなくなった。


司令官の行動に私の昂っていた気持ちが一気に冷え込み周りが見えるようになる。


周りのみんなもあり得ないものを見るような目になっていた。




こんなことを普段からするような人じゃないというのがみんなの態度から理解できた。



提督「それじゃあ大規模作戦に向けて準備に向かってくれ」



立ち上がった提督は先に鎮守府の方へと向かう。






私も仲間達も何も言わずしばらくはその場に立ち尽くしていた。




【鎮守府内 執務室前 廊下】




イムヤ(どうしよう…!)



私はなんてことをしてしまったんだろうと今更後悔で満たされていた。




口の中が渇いて寒気で身体が震える。



深海でもこんなことにはならないというのに尋常ではない恐怖が全身を包み込んでいて歯がガチガチと鳴り出した。







鎮守府のトップである司令官にあんなことを強要して許されるはずが無い。


せっかく始まったと思っていたこの鎮守府での新しい生活を…みんなの平穏を…



イムヤ(私が…)



自分が台無しにしてしまったことに強い後悔を感じていた。




イムヤ(こ、ここで悩んでいても…)




今はとにかく行動すべきと私は意を決してドアをノックする。



イムヤ「し、司令官…い、イムヤです…」


祥鳳「どうぞ」



中にはまた祥鳳さんがいてくれるみたい。


でも祥鳳さんも怒っていたら…



そんな不安を抱えながら私は執務室に入る。




イムヤ「あ…あの…」



怖くて司令官の顔をまともに見られない。




イムヤ「さ、先程…は…その…」




口元が震えてまともに言葉を繋ぐこともできなかった。





提督「大丈夫か?この鎮守府に来た時みたいになってんぞ」


イムヤ「え…?」




司令官のいつも通りと思える言い方につい顔をあげてしまう。


そこにはいつも通りの祥鳳さんと司令官がいた。

今は第二秘書艦の天城さんと沖波はいないみたい。



祥鳳「大丈夫ですか?今は無理しなくても…」



祥鳳さんから声を掛けられて少し精神的に余裕ができる。


呼吸も整い鼓動が落ち着いてくるのがわかった。




提督「また土下座でもしようか?」


イムヤ「え!?ええ!?」


祥鳳「もう、提督っ!」


提督「ははははは、冗談だ」



冗談めかしてからかう司令官の態度に、さっきの事が何でもないのだと言ってくれているのだと感じ取ることができた。







イムヤ「司令官…どうして?」


提督「何が?」


イムヤ「その…」


提督「どうして躊躇なく土下座したのかって?」


イムヤ「うん…」



私の言い出せない質問を司令官が感じ取ってくれた。



提督「理由は3つある。まずはあの場を収めるには最適の行動だと思ったからだ」


イムヤ「最適…?」


提督「もしあの場で俺が土下座を拒絶していたらどうなっていたと思う?」


イムヤ「あ…」



もしその場合…

私は増々歯止めが利かなくなってしまっていたと思う…



提督「それに俺はゴーヤをあんなに追い詰めてしまって本当に申し訳ないと思っていたからな。自分が悪いと思っている謝罪ならそんなに悪いものでもないぞ」


イムヤ「謝罪…」


提督「お前の時はそうじゃなかったんだろ?」


イムヤ「え…!?」




どうして…








私の頭の中で過っていたのはあの大湊鎮守府で強要された土下座




憎たらしい司令官に理不尽なことを言われ、殺されかけたにも拘わらず土下座をさせられた最悪の記憶




イムヤ「なんで…」


提督「何となくだよ。詳しいことは知らんが、ああまで土下座を強要するってことはそれに対して相当の恨み憎しみを隠していたんじゃないかってな」


イムヤ「…」



この司令官は…なんでこんなところまで鋭いの…?


驚きよりも感心よりもその鋭さには恐怖すら感じてしまった。







でも…それと同時に違和感を感じる。




イムヤ「ねえ…もしかしてゴーヤの前であんなこと言ったのはわざとなの?」


提督「そうだな」


イムヤ「やっぱり…」



司令官が当然のように認めた。


こんなにも心の機微に鋭い司令官がゴーヤのことに気づかないわけが無いと思えた。



イムヤ「どうしてそんなこと…!」


提督「今ならどうしてなのかわかるんじゃないのか?」


イムヤ「何がよっ!?」


祥鳳「イムヤさん」




いつの間にか私の後ろに居た祥鳳さんがそっと両手を渡しの両肩に置いてきた。


私に落ち着くように促しているのがわかる。




祥鳳「提督は無意味なことはしません」


イムヤ「なにを言って…」


祥鳳「その結果がどうなったか、考えてみて下さい」




結果…?



ゴーヤが司令官の言葉に恐怖して鎮守府を飛び出して…



私達はそれを追い掛けて…説得して…



帰ってきたゴーヤは司令官に…






笑顔を見せていた…






イムヤ「ゴーヤのためにやってくれたってこと…?」


提督「それもある」


イムヤ「あ…あれ…?」



その言い方だとターゲットは別にあったみたいな…




提督「俺が一番刺激したかったのはお前だよ」


イムヤ「わ…私…?」




私のためにやったってこと…?



どうして私が…




提督「俺に言わせれば潜水艦隊の中で一番ヤバかったのはお前だぞ」


イムヤ「え…?」


提督「他の奴らは良い。イクは不安になった時、誰かにすり寄ろうとする。ハチは本を読むという趣味を活用しながら安らいでいる。ゴーヤはたまに不安で満たされているが、自分が何に対して怯えているのかしっかりと自覚している」



やっぱり…この人はみんなのことをよく見ている。



提督「だがお前はどうだ?何に怒り、何を憎んでいたのか、どんな辛いことがあったのか、無理やり気持ちに蓋をしたんじゃないのか?」


イムヤ「う…」



何も言い返せない。


それほどまでに司令官の言葉が的を射ていたからだ。



提督「そんなことではこの先とんでもないタイミングで蓋をしていた感情が暴れ出しかねないからな」


イムヤ「…」



確かに、さっきみたいなのが出撃中に起こったらどんな結果になるのか想像するだけでも恐ろしい。



提督「お前は新しい生活を始めたことで以前の記憶も感情も無理矢理自分の奥底に閉じ込めようとした」


イムヤ「閉じ込めた…?」


提督「例えるならその扉はしっかりと閉まったように見えてもガラス製だ。少しの刺激を与えるだけで簡単にヒビが入って割れて中に閉じ込めた感情は爆発的な勢いで飛び出してくる」



わかりやすい例えだった。


自分にも同じ体験があったかのように…




提督「そのための対処だ、少し荒療治ではあったけどな。どうだ?」


イムヤ「な、何が…?」


提督「少しは自分を蝕んでいたものが自覚できてスッキリしたんじゃないか?」


イムヤ「あ…」




言われた通り、これまでの自分と違い胸の奥に渦巻いていた何かが少し抜けて軽くなっている。



イムヤ「どうしてそこまでしてくれたの?」


提督「は?」


イムヤ「なんか…わかんない…。司令官が何を考えて、どうして優しくしてくれるのか…頭がこんがらがってくる…」




次に湧いてきた疑問は彼をどこまで信用して良いのか、前のような酷い扱いは今後あるのかという不安だ。



提督「そうだな…お前には勘違いされないように言っておこうか」


イムヤ「え?」


提督「俺がお前達のためにここまでやるのは自分の出世のためだ。俺はお前達を駒としか思っていない」


イムヤ「…」




突き放すような言い方だったけど冷たさまでは感じなかった。



提督「その駒を全力で使いこなすためにやったことだ。艦娘をどう扱うかなんて俺には造作の無いことだからな」


祥鳳「提督…そこまで言わなくても…」


イムヤ「いいよ、祥鳳さん」




確かに冷たくて不快に思わせる言葉と取られるかもしれないけど…




イムヤ「使いこなすってことはこれからも潜水艦隊として使い続けてくれるって…活躍させてくれるってことよね」


提督「そういうことだ」




司令官が満足そうに頷いた。


この人の思惑通りに使われるのは正直癪だけど、その代わりに彼は私達に酷いことをしたりしないし、むやみやたらに危険な任務をさせたりしない。


なぜかそう確信できてしまった。



そして…余計な感情を持たないよう、一定の距離感を保とうとしたことも…









イムヤ「今日のことは本当に申し訳ございませんでした!明日からも艦隊を支えられるよう頑張りますので許して下さい!」


提督「許してやるから死ぬ気で働け」


イムヤ「はいっ!」





司令官のことが少しわかったような気がして嬉しくなったのか自然と大きな声が出てしまった。




イムヤ「あ…そうだ…」



執務室を出る前に聞きたいことがあった。



イムヤ「さっきの『土下座した3つの理由』のもうひとつは?」


提督「ん?ああ」




一瞬…


司令官の表情が歪む




提督「ずっと地べたを這いつくばる屈辱的な日々を送ったからな…」



その歪みは…



提督「それに比べれば造作も無い、ということだ」




怒りと憎しみよりも…



イムヤ「そっか…」




悲しさを隠しているような気がした。







【鎮守府内 廊下】




祥鳳「一人で大丈夫ですか?工廠には一緒に行きましょうか?」


イムヤ「いえ、大丈夫です」



祥鳳さんが心配してついてきてくれた。



今、廊下には私達二人なので司令官のことを聞く良い機会だと思った。




イムヤ「祥鳳さん、司令官は…」


祥鳳「はい?」


イムヤ「司令官って…何かとても辛い経験をしたのですか?」


祥鳳「…」





祥鳳さんが黙ってしまい顔を俯かせてしまう。


その悲しそうな顔にこれ以上何も聞けない、聞いてはいけないのだと理解した。



イムヤ「やっぱり何でもない!行ってきます!」






私はそう言って工廠への道を駆け出した。






【鎮守府内 工廠】





イク「あ!イムヤ!」



工廠に行くと潜水艦隊のみんなが心配して近づいてきた。



ハチ「だ、大丈夫でしたか?」


イムヤ「うん、お咎めなしだよ」


ゴーヤ「ほ、本当に…?」


イムヤ「本当よっ」



仲間達に心配を掛けまいと明るく返事をする。


私の言葉を信用してくれたのかホッと胸を撫で下ろしているみたいだった。




イムヤ(それよりも…)



司令官にあんなことをさせた私を他の艦娘のみんなは受け入れてくれるのだろうか…


そんな不安が過った時…




近くに居る全員のスマホが何かの受信する音を鳴らす。





それは艦娘用の連絡掲示板だった。


いつもだったら連絡事項などに使われているものだけど…






時津風「ぶっ!?あははははははは!!」


天津風「うふ、ふ、わ、笑っちゃダメよ時津風…あ、あはははは!」




そこには写真付きでメッセージがつけられていた。







イムヤ「な、な、なんで!?」






その写真は先程司令官が土下座しているもので




メッセージには祥鳳さんから『貴重な画像です。永久保存ものですよ』と書かれていた。






葛城「でかしたわよイムヤ!これで一生あいつを弄れるわ!」


天龍「うわはははははは!よくやったぞ!」


天城「あら、これは良い素材…うふふふ」




それを見た艦娘達から笑いながら賞賛された。



あんなことがあったというのに…





イムヤ「もう、ふふ、あははははははっ」





楽しくて楽しくてしょうがなかった。







笑顔溢れる工廠は





これからの私達の明るい未来を予感させてくれた。






【おまけ】





提督「やってくれたな?祥鳳」


祥鳳「フォローをしろとのサインが出てましたので。私なりに解釈し最善の行動をしました」


提督「誰があんなフォローを予想するか!お前わざとやってんだろ!」


祥鳳「ふふふ、言葉にせずともフォローするって言うのは難しいですね」


提督「あのなあ…」


祥鳳「でもこれでイムヤさんもみんなも引きずること無く大規模作戦に臨めますよ」



俺が文句を言っても祥鳳はどこ吹く風と言った感じで聞こうとしない。




親潮「し、司令!いち艦娘に地べたを這いつくばって謝る姿は賞賛に値すると思います!」


提督「それはフォローしてるつもりですか?ああ!?」



下手糞すぎるフォローをする親潮の両頬を摘まむ。



親潮「ふ、ふみまふぇん!」





____________________




天城「完成しました!」




天城がいきなり大声を上げる。




天城「見て下さい!自信作です!」


時津風「あっははははははは!」


天龍「す、すげえ!俺にも作ってくれよ!」



天城は俺の土下座画像を加工して、食堂の床に土下座している画像を作っていた。

土下座している相手は包丁を持った間宮だった。




提督「もしもし、食堂の番人さんですか?」



そんな奴らを尻目に俺は内線を使って間宮を呼ぶ。
















間宮「楽しそうですね?天城さん」


天城「はっ!?」





自分が隠し撮りされたことが気に入らなかったのか、間宮が天城のデザートを1日抜きを言い渡した。


それは天城にとって想像以上のショックだったのか、間宮に泣きながら縋っていた。

いつかやり返すために俺はその絵をしっかりと写真に収めておいた。
























数日後…





【鎮守府内 執務室】




祥鳳「提督、司令部よりお手紙と小包が」


提督「小包…?」




まずは送られてきた書類を確認する。







『更なる練度向上のための特別艤装の案内』





提督「いまいち要領を得ないな」


祥鳳「提督…こんなのもが…」


提督「ん?」




小包を開けさせていた祥鳳が小さな箱を取り出してこちらに見せてきた。





提督「指輪?」





飾られた小箱の中には指輪が入っていた。


















あの日以降



私の司令官に対する見方が変わった。




イムヤ「司令官、おはよ」


提督「ああ」




以前は顔を見るのも少し怖かったというのに今はしっかりと顔を見て挨拶ができるようになった。


それだけに留まらず私は彼に気づかれないよう観察する。



司令官がどんなことを考えているのか、どんな人なのか、純粋に興味が湧いてしまったのだ。




【鎮守府内 食堂】




提督「…」



食事を前に司令官が少し不機嫌そうにしている。



間宮「残してはダメですよ?」


提督「ぐ…」



司令官の皿にはトマトが乗っている。

どうやらトマトが苦手みたいね。


司令官に子供っぽいところもあるようでおかしくなった。


おまけに司令官を監視する間宮さんの姿は完全にお母さんだ。



葛城「またやってる」


天津風「ほんと、いつまで経っても慣れないわよね」



いつもの光景なのか周りのみんなが呆れながらその光景を見ていた。



時津風「やーい、また残してやんのー」


提督「くそっ…!コアラてめえ…」



いつもだったら時津風がこんなこと言ったら時津風の髪をボサボサになるまでかき回すのに間宮さんの手前、それはしないみたい。



イムヤ「司令官って食事中はいつもこうなの?」


天龍「いや…間宮の前では本当に大人しいんだよな。なんでだろうな?」


イムヤ「へえ…」




間宮さんの前では、か…。



司令官は間宮さんに特別な感情を抱いて…




提督「鬼ババァ…」


間宮「な、なんですか!そんなこと言うともう食べさせてあげませんよ!!」





イムヤ(…)



特別な感情を抱いているようには到底思えない…。




あ…祥鳳さんだ。



祥鳳「提督、いい加減にしないとダメですよ」



司令官がこれ以上余計なことを言わないように注意してる。


祥鳳さんに言われて司令官が渋々間宮さんに頭を下げてる。



まるで悪いことをした子供が親と一緒に謝っているような構図に思わず苦笑いが漏れてしまった。

















司令官はこう言っていた。



『艦娘を駒としか思っていない』と。



確かに司令官の言う通り、司令官は艦娘と一定の距離を保っているような気がする。




天龍や時津風、雪風とトランプで遊んでいる時。




雪風「あーーーー!しれぇ!今ずるしましたね!?」


提督「あ!?証拠あんのか!」



イムヤ(何やってんだか…)



時津風「袖からエースが出てるぞー!卑怯者ー!」


ゴーヤ「正々堂々戦うでち!」



イムヤ(ゴーヤ…すっかり溶け込んじゃって)



天龍「そうまでして勝ちてえのかよ!?恥ずかしくねえのか!」


提督「当たり前だ!勝てばいいんだよ勝てば!おら!フルハウス!!」


時津風「恥知らず!」



ポーカーをやっていたみたいで司令官のフルハウスで決着がついたように思えた。



雪風「あ、見て下さい。ジョーカーと同じ数字が4つ並びました!」


ゴーヤ「ファ…ファイブカード」


天龍「すげー!初めて見た!」


提督「てめえカピバラ!トランプ禁止にするぞコラぁ!」


雪風「なんでですかぁ!?」




…一定の距離ってなんだっけと思わせるような関係に見えてしまう。



雪風も時津風も天龍も司令官とは気楽な関係に見えて、そこには上司と部下という壁みたいなものは感じられない。

作戦中はしっかりとお互いやるべきことをわかっていてしっかりしているんだけどね…。


その気楽な付き合いは司令官の言う『駒を全力で使いこなす』ための行動なのかな?

そんな感じには全く見えないんだけど…。








艦娘との距離感と言えば、この鎮守府の真面目な子達から逆に距離を取られているような気がする。




例えば…




葛城「作戦中は真面目なんだけどね…普段の言動やら行動やらメチャクチャで…」


風雲「しっかりしているとは思うんだけどね…100%信用すると変に裏をかかれるから油断できないというか…」


天津風「色々としてくれるのはわかるんだけど…もう少しやり方は無いのかしら…」




過去に何があったのかわからないけど司令官に対しての警戒をしてる艦娘は結構いるみたい。



司令官もそれで構わないのか普段の行動を直そうともしていないみたい。


あの人なら彼女達の印象を変えるくらい造作も無いことだと思うけど…あえて今の距離感を保っているようにも見えた。



だって司令官は仕事以外でほとんど艦娘と交流しようとしていない。


正しく言うなら司令官から交流しようとしない。

時津風や雪風が無理やり引っ張って司令官と遊ぼうとはするけど…


何か自然と壁が作り出されているような気がして少し悲しくなってしまった。



親潮「し、司令!親潮に何かできることはありませんか!?」


提督「うおっ!耳元でデカい声だすんじゃねえ!」


親潮「す、すみません…!」



同じ真面目でも親潮はなんか複雑な事情を匂わせているけど…








でも…例外が一人だけいる…









祥鳳「提督、こちら司令部からの連絡です」




祥鳳「提督、コーヒーです。少し休憩にしませんか?」




祥鳳「提督、そんな言い方はダメですよ。謝って下さい」






秘書艦の祥鳳さんだ。



真面目を絵に描いたような人なのに、他の真面目な艦娘と違って司令官を警戒するどころか100%信用しているように見える。


司令官と絶妙な距離感で常に離れようとせず何かと世話を焼いたり注意したりしている。



『そんなことまで言って大丈夫なの?』と心配することもあったりするけど、司令官は面倒くさそうにするだけで怒ったりしない。

司令官の方も祥鳳さんを何かと頼りにしているし、他の艦娘と違って距離を取ろうとしないようにも見える。



『秘書艦だから』といえばそれまでなんだろうけど…二人の間には何か特別な絆ができているように見えた。



ただ…その絆は親愛、恋愛感情とは違う…とても複雑な言葉では言い表せないものだと思えた。








そういえばこんなことがあった。






【鎮守府内 会議室】




提督「大本営からこんなものが送られてきた」




大規模作戦に挑む前の最後の会議で司令官が終了前にその送られてきた物を見せる。



時津風「指輪?」


雪風「何ですか?これ」


大井「ああ…」



大井さんが何か知っているみたい。



陸奥「知ってるの?」


大井「艦娘の練度の更なる向上を目的としたもの」


霧島「へえ…そんなものが」


大井「それと…提督との硬い絆の証ね」


葛城「う…」


陸奥「硬い絆って…」



『提督との硬い絆の証』という部分に反応して何人かが嫌そうな顔をする。



提督「んな顔するな。絆がどうとかは知らんが条件を満たせば更に強くなるための手段となる」


風雲「条件?」


提督「艦娘としての練度が最高になった者だ。この鎮守府での対象者は…」



提督が資料を持ち替えて最高練度の艦娘の名前を上げる。



提督「雲龍、祥鳳、陸奥、イク、大井だな」


イムヤ「え…?」



5人も…?


それに…



イムヤ「イク…いつの間に…」


イク「し、知らなかったのね…」


ハチ「自分で気づいてなかったのですか?」


イク「うん…」



確かに練度なんて曖昧なものは自分で測りようがない。

司令官の話によると何やら特殊な測定方法で私達にはわかり辛いらしい。



まあ練度の話は置いておいて…





イムヤ「誰にあげるの…?」



私の言葉に会議室の空気が引き締まった。

一番気になるのは司令官が誰を選ぶか…



提督「祥鳳」


祥鳳「えっ?」




…って思ってたんだけど司令官は躊躇なく祥鳳さんの名前を上げた。

全く迷うことなく、それが自然で当然のような行動に一瞬静まり返る。



沖波「わぁ…!」


天城「ふふ、やっぱりそうですよね」


間宮「おめでとうございます祥鳳さん!」


親潮「司令!最高の選択だと思います!」


祥鳳「あ、え?そ、その…」



何人かの艦娘がまるで祝福するかのような言葉を祥鳳さんに贈っている。

…まあ、祥鳳さん以外にあげた方がもめ事が発生しそうな気がするもんね。




提督「これからも頑張れよ」



そう言って司令官は指輪を祥鳳さんに渡した。



祥鳳「…」



箱ごと…







時津風「あーあ」


雪風「しれぇ…」


提督「なんだよ?」


陸奥「少しはムードってものを…はぁぁ…」


天城「祥鳳さん…可哀想…」



司令官のやったことにその場に居る全員が呆れ果てる。


確かに指輪っていうとリングを相手の左手薬指に嵌めるって印象が強いもんね。

ましてや相手が祥鳳さんなら尚更…



提督「だったら俺がお前らの指に嵌めようとしたらどう思うんだよ」


葛城「ありえない」


天津風「ありえない」


風雲「ごめんなさい」


提督「ほら見ろ…」



鎮守府の真面目組が躊躇なく拒絶した。



提督「勘違いしないように言っておくが今後欲しい奴には随時渡していくからな。欲しい奴は申し出ろ」


祥鳳「…」





うわ…隣で祥鳳さんが複雑そうな顔してる…もう見てらんないよ…。






雲龍「私はもう少し自分を見つめ直したいから…後日改めてお願いするわ」


陸奥「私も…まだそれを受け取るにはふさわしくないわ」


提督「そうか」


大井「私には必要無いわ。出撃するつもりは今のところないし」



そんな空気を読んでか雲龍さん、陸奥さん、大井さんはこの場での申請をしなかったけど…



イク「イクは欲しいのね!てーとく、お願いするのね!」


イムヤ「ちょ、ちょっとぉ…!」



イクは問答無用で指輪の申請をした。



提督「わかった、後日届いたら連絡する。では解散」



司令官はそれを了承してさっさと行ってしまった。






イムヤ「イク…あなたどうして…」



会議が終わってからイクにさっきのことを聞いてみる。

まずいことをしたのだと少し問い詰めるような口調になってしまった。



イク「ごめんなさいなのね…でも、てーとくがイクを…潜水艦隊を大事に扱って…平等に扱ってくれるのか…試してみたかったのね…」


ハチ「イクさん…」


ゴーヤ「そうだったでちか…」



そんなことを言われたらもう何も言えない。



イムヤ「そっか…ありがとうね、イク」



私は怒ってないとイクにわからせるためにイクの頭を優しく撫でた。








天城「どうですか?何か変わりましたか?」


祥鳳「艤装を着けてみないと何とも…」




向こうでは祥鳳さんが早速指輪を嵌めていた。


左手薬指ではなく人差し指に嵌めている。




時津風「しれーにも困ったものだよねー…」


天龍「少しくらい祥鳳の想いに応えようって気はねーのかよ」


祥鳳「お、想いって…私と提督はそのような関係じゃありませんよ」




祥鳳さんはそう言うけど…ここにいるみんなが祥鳳さんが司令官をどう思っているのかなんて丸わかりだもの。




祥鳳「あの人に…そういうことを期待してはダメですよ」




祥鳳さんのその言葉、みんなを納得させようとしているのはわかる。




でも…その言葉の裏側には『そんな期待をしてしまう自分への戒め』

そういう意味が隠されているような気がした。




そんな少し寂しそうな祥鳳さんに解散した後、ついお節介なことを言ってしまう。





イムヤ「でも…司令官は祥鳳さんを何のためらいも無く選んだよね?」


祥鳳「え?」


イムヤ「もしも司令官が本当に艦隊運営を優先させるのなら…あの…気を悪くさせちゃうかもしれないけど、指輪は大型艦の陸奥さんか雲龍さんに渡すはずだと思う」


祥鳳「イムヤさん…」


イムヤ「それでも…それでも司令官は祥鳳さんを優先させたんだよ?他の人が指輪を拒否しても『命令だ』って言って渡すこともできたのに。だから祥鳳さん、そんな寂しそうな顔しないで。自信もって良いと思うよ」



落ち込んでいる祥鳳さんをどうにかしたいと思ってつい余計なことまで口走ったような気がする。



祥鳳「ありがとうイムヤさん。でも私と提督はそんな関係じゃないから」


イムヤ「祥鳳さん…」


祥鳳「私はね…この鎮守府の…艦隊をまとめるためにこうやって何事も優先されるの。そういう約束でここに居るのだから、ね…」


イムヤ「…」




また…自分に言い聞かせるような言い方だった。



そういう約束か…。

二人の間には誰にも言えない約束事があるみたい。

励ますつもりがなんか余計に祥鳳さんを落ち込ませてしまったようで申し訳なかった。


















その日の夜、大規模作戦の出発を控えているということもあって、今のうちに祥鳳さんに今日の事を謝ろうと思って部屋を訪れた時…



イムヤ「祥鳳さん?」



ドアをノックしても返事が無かったので部屋に入ってみる。





そこには…






祥鳳「うふふっ」







祥鳳さんが鏡の前で指輪を左手薬指に嵌めて幸せそうにしていた







イムヤ(そりゃそうだよね)



惚れた相手から指輪を最優先に贈られて嬉しくないはずないもんね。






私はそんな幸せそうな祥鳳さんを見て何も言わず部屋を出る。






そしてその想いがいつか届くようにと心から願うのだった。











でも…その数日後














イク「イムヤー!!イクも指輪を貰ったのねー!!」


イムヤ「ちょっ!?」




イクが嬉しそうに指輪を嵌めて報告に来た。

左手薬指に嵌めて…それも祥鳳さんの前で。




祥鳳「お…おめでとうございますイクさん」





笑顔の祥鳳さんの眉と口元が震えているのがわかり、見ていられなかった…







陸奥『戦艦棲鬼撃破!作戦完了よ!』




司令部施設に連合艦隊旗艦の陸奥さんからの報告が入る。



提督「お疲れさん、イムヤ、迎えに行ってやれ」


イムヤ「わかったわ!」



大規模作戦に参加した私達の艦隊は無事に作戦を完遂した。



初の連合艦隊としての戦いだったけど特に躓くことも無く無事にやり遂げたみたい。




イムヤ(でも…こんなにあっけなくて良いのかな?)




作戦は思っていた以上に順調に進みあっという間に終わってしまった。


それぞれの鎮守府に作戦担当海域が割り当てられるのだけど…司令官はあえて簡単な海域を選んだような気がする。




なぜそんなことをしたのかって?

それはすぐにわかった。







【鎮守府内 会議室】





提督「南方海域に進出するぞ」




司令官の言葉に全員がざわつく。


それも仕方ない、南方海域の深海棲艦は強力なものがウヨウヨしていてまだ手付かずのところが多い。



陸奥「大規模作戦で簡単な作戦を選んで資源を温存したのは…」


提督「ああ、このためだ。これで他の鎮守府の奴らを出し抜くことができるからな。くくくっ」


葛城「そんな大事なこと…どうして作戦前に言わなかったのよ」


提督「お前らが大規模作戦に集中できるようにするためだ。できるだけ温存しろなんて言ったら調子狂うだろ?」


霧島「それはまあ…そうですけど」



司令官が悪そうな顔で笑ってる。

ああ、これはもう何を言っても聞かない絶好調の顔ね。



大井「そういうことだから祥鳳、そんな不機嫌を誤魔化すような顔しないで。私はちゃーんと提督に『祥鳳に言わなくても良いの?』って聞いたから」


提督「おいコラ」


祥鳳「べ、別に怒ってなんかいませんよ」



このことは大井さんは知っていてたみたいだけど祥鳳さんが聞かされてなかったことが少し気に入らなかったみたい。

でも司令官が『祥鳳には作戦に集中してもらいたい、初の大規模作戦だから』って気を遣ったんだって。


そんなことをわざわざみんなの前で言うなんて…大井さんも少し意地悪だ。


でもそのおかげでみんな意識を南方海域攻略に向けることができたみたい。





そしてこの南方海域攻略が…



私達、潜水艦隊の本当の戦いの始まりだった。






____________________







南方海域、しばらくは順調に攻略が進んでいた。



陸奥『敵戦艦部隊撃破!南方海域進出完了よ!』



提督「うむ」

















祥鳳『提督…珊瑚諸島沖、制圧完了です!ぐすっ…』



提督「何泣いてんだ」






しかし…艦隊がサブ島沖海域、サーモン海域攻略に差し掛かった時…






【鎮守府内 司令部施設】






霧島『申し訳ありません司令…すでに3名大破で…』



提督「さっさと帰投準備に入れ。帰投経路に殿要員が準備してある」







…もうこれで10度目の大破撤退だ。




提督「資源状況は?」


大井「まだ十分残っているけど…」


陸奥「ねえ提督、もう一度私に行かせてよ!」


提督「ダメだ。また潜水艦に狙い撃ちにされたいのか?」


陸奥「でも…!」





水上部隊にてサーモン海域の攻略に行っているけど、道中は夜戦状態で激しい戦いが繰り広げられている。

現状で可能な限り力のある艦娘を集めて編成はしているけど…それ以上に厳しいみたい。




【鎮守府内 工廠】




工廠に損傷を負った仲間達が戻って来る。



霧島「すみません…司令…」


風雲「ごめんなさい、力及ばなくて…」


雪風「ゆ、雪風…沈みませんでしたけど…痛た…」



大破した仲間を他の仲間が肩を貸して連れてくる。




珊瑚諸島沖まで順調に行っていたのに、攻略が進まない重い空気に誰も何も言えなくなっている。


出撃を繰り返している部隊に疲労が見え始め、やる気はあってもこのままじゃ良い結果が生まれるようには見えなかった。





提督「10度出撃して敵主力部隊も把握できないとはな」



傷ついた仲間達がドックに行ってから司令官が口を開く。


彼にしては珍しく神妙な面持ちになっている。




大井「正直戦力的に厳しいわね」


祥鳳「空母も行けない海域ですし…私達には重巡洋艦もいませんから…」



本来なら軽巡洋艦や重巡洋艦を中心にして攻略をする海域だとか…

それと…



提督「…」


大井「そんな顔して見てもダメよ。私は出撃するつもりは無いから」


提督「だよな」




重雷装巡洋艦である艦娘が主力となる海域のはず。

しかし大井さんは元は重雷装巡洋艦だけど今は練習巡洋艦としてこの鎮守府に居るから行くつもりは無いみたい。


何か色々と事情はあるみたいだけど…




提督「勇み足だったかな」



提督が少し残念そうな顔をしている。



天龍「お、おい待てよ。このまま諦めちまうのかよ」


提督「俺の戦力分析の見誤りと勇み足だ。お前らに非はねえよ」


天津風「でも…」


時津風「悔しいよ…!」



司令官が艦娘を労いながら諦めの言葉を口にする。


でも…勝ち目のない戦いだというのは出撃している本人達が一番わかっているのか、あまり強く言い返しはしなかった。








提督「…」


イムヤ(?)



何だか司令官がこっちを見ているような…



提督「なあ大井」


大井「え?」



そして大井さんに何やら相談していた。





【鎮守府内 執務室】




ゴーヤ「え、ええええぇぇ!?」


ハチ「わ、私達が…!?」


イク「出撃するの!?」



そんな気はしてたので私は何も言わなかった。




提督「出撃部隊の報告によると道中の敵はほとんど対潜装備はしていないらしい。大丈夫だ」


ゴーヤ「ほ、本当でちか…?」


ハチ「でも私達が攻略するなんて…」


大井「心配しないで、別に攻略までは期待してないわ」


イク「え?」


提督「お前達には道中を突破して敵主力部隊の編成を見て来てもらいたい。それ次第で今後の方針を決めようと思ってな」


イムヤ「そういうことね」




私達がついに最前線に出る機会が与えられるのかと思ったけど…さすがにそうはいかないよね。


少し残念な気持ちになりつつも私はみんなを見る。



3人とも無言で強い視線を送りながら頷いた。




イムヤ「潜水艦隊、準備完了次第出撃するわ!」





今は私達に与えられた任務をこなすだけだ…!

それが艦隊の力になり、司令官への償いと恩返しになるのなら。



そう発奮して私達4人は出撃した。





【南方海域 サーモン海域】





司令官と大井さんの言った通り、道中は思っていたよりもすんなりと進むことができた。



イムヤ「司令官、もうすぐ敵主力艦隊と交戦するわ」


提督『無理な交戦はするなよ。相手編成がわかるだけで上出来だ』


イムヤ「了解!」



司令官と通信を終えて敵主力と会敵した。



イムヤ「みんな、行くよ!ハチ!」


ハチ「いつでも準備完了です!」



私とイク、ゴーヤが攻撃している隙に敵の編成がわかるようハチが艦載機を飛ばす。



司令官に言われた通り私達は敵編成を確認して撤退するつもりだった。





ゴーヤ「余った魚雷さん、全部あげるでち!」





撤退間際、ゴーヤが魚雷を一斉発射する。


魚雷は敵主力を通り抜けて補給艦に命中した。



ゴーヤ「やったでち!」


イク「てーとくに少しでもお土産ができたのね」


イムヤ「それじゃあ撤退するよ。ハチ、敵編成は…」


ハチ「バッチリ記憶しました」



作戦通り敵編成の確認が確認できたということで私達は鎮守府へ戻った。





【鎮守府内 司令部施設】




イムヤ「というわけで編成は…」


ハチ「今お伝えした…通…り…」



提督「…」


祥鳳「…」


大井「…」




鎮守府に戻って編成を伝えると司令官も祥鳳さんも大井さんも黙ってしまっている。

何かあったのかな…?



提督「…敵主力部隊の補給艦を撃沈したって?」


イムヤ「え…?うん、ゴーヤが…」


ゴーヤ「な、何かまずかったでちか?」



敵補給艦を撃沈したことがそんなに…




大井「ゴーヤァッ!!!」


ゴーヤ「ぎゃああああ!!」



いきなり大井さんに両肩を掴まれてゴーヤが悲鳴を上げた。


いつも演習中叱られてるから…気持ちはわからないでもない。



大井「あんた凄いじゃない!この海域の討伐対象はあの補給艦なのよ!」


イク「え…?」


祥鳳「それを一撃で仕留めるなんて…凄いことですよ!」


ゴーヤ「あ、あれ…?」


ハチ「敵主力は南方棲戦姫じゃないのですか?」


提督「ああ。この海域での作戦は敵補給艦の撃破によって補給路を断つことだ。後4隻撃沈すれば先に進むことができる」


イムヤ「そうだったんだ…」



そういえば自分達が主力じゃないってことで討伐対象まで詳しく聞いてなかった。

今回の出撃も偵察だけの予定だったし…



提督「なあお前ら、このまま出撃を繰り返してこの海域攻略をしてみる気はあるか?」


イムヤ「え…?」


ゴーヤ「ゴーヤ達が…?」


提督「強制はしない。お前らで決めてくれ」


イク「…」


ハチ「…」



私達は顔を見合わせる。




私達が…主力部隊として海域攻略。




ずっと夢見てたことでいきなりそんな事を言われても現実味が感じられない。




イムヤ「ね…ねえ…もしも私達だけで海域攻略できたら…それって凄いことなの?」


提督「もちろんだ」


大井「前代未聞よ。歴史に名を遺すって言っても過言じゃないわ」


イムヤ「…」





私としてはやってみたかった。



もしもこの作戦を私達だけで達成できるとしたら…




私はもう…後ろめたい何かに追われることは無く



自分自身の殻を破り、あの鎮守府での悪夢を振り払えるような気がしたから…






ゴーヤ「イムヤ、やるでち」



いつの間にかゴーヤが私の手を握ってくれていた。



イク「潜水艦隊の力、見せつけてやるのね!」


ハチ「私達なら…絶対できます!」


イムヤ「みんな…」



私の気持ちを汲んでくれたのか、ゴーヤもハチもイクもやる気満々の笑みを見せてくれた。





イムヤ「やるわ…!伊号潜水艦隊、サーモン海域を攻略に取り掛かります!」





こうして私達の本当の戦いが始まった。





















思えば最初が順調すぎたのかもしれない。




イク「また海流なのねーーー!!」




道中を突破できても敵主力を前にして海流に巻き込まれ辿り着けないことも多く




ゴーヤ「い、痛いでち…!」




夜戦だと思って油断してたら一撃で大破に追い込まれたり…




ハチ「く…!敵補給艦、取り逃がしました…!!」




やっとのことで敵主力部隊に辿り着いても討伐対象を逃すこともあった。











でも…




提督「まだやれるか?」


イムヤ「ええ!ここまで来て諦められないわ!」




司令官は私達が諦めない限り何度でもチャンスをくれて





祥鳳「お疲れ様でした、後はゆっくりと休んで下さい」


沖波「艤装は私達が整備しておきます」


天城「少しでも疲れを癒して下さいね」




仲間達が




時津風「がんばれー!あと少しだぞー!」


葛城「諦めないで!きっとできるわ!」


間宮「特製のモナカとアイスを用意しました!どうぞ!」




私達を後押ししてくれて













ついに…






【鎮守府内 司令部施設】




イムヤ「ぐすっ…し、司令官…」



私達は帰投し、敬礼をする。



イムヤ「サーモン海域、補給艦討伐任務、完了しました…!」






私達は作戦を完遂することが…





提督「それじゃ、次も頼む」


イムヤ「…へ?」





完…遂…




提督「何泣いてんだ、サーモン海域はまだ終わってないぞ。後半戦もよろしく頼む」


ゴーヤ「後半…?」


イムヤ「ま、まだあるのね…?」


提督「そうだ。やるか?」


イムヤ「…」


提督「無理なら別に良いぞ?後半戦は別に潜水艦隊でなくても…」



達成感に浸る間もなく次の任務が与えられた。

司令官は私達を認めてくれるどころか悪そうな笑みをしながら次の任務を与えてきた。



イムヤ「やるわ…!」


ハチ「イムヤ…?」


イムヤ「やってやるわよ!次は何よ!?絶対に任務達成して私達潜水艦隊を認めさせてやるんだからぁ!!!」


イク「ちょ、ちょっと落ち着くのね!」


ゴーヤ「うう…オリョールクルージングの方がまだマシだったなんて…」


提督「わははは、頑張れ。本当にサーモン海域攻略したらなんでも言うこと聞いてやるよ」


イムヤ「本当ね!?その言葉忘れるんじゃないわよ!!」


提督「おう!提督様に二言はねえ!とっとと攻略に取り掛かりやがれ!!」



売り言葉に買い言葉と言った感じに私達は勢いそのままにサーモン海域後半の攻略に取り掛かった。






祥鳳「もう…」





祥鳳さんの呆れた溜息が聞こえた気がした。

















数日後…





イムヤ「どうよ司令官!これで作戦完了よ!文句ある!?」



サーモン海域の攻略が終わり、私は修理もせずに司令官に報告に来た。



提督「文句なんかねえよ…」


祥鳳「い、イムヤさん…早く傷を治しに…」


イムヤ「これで十分恩返ししたわ!私達潜水艦隊を少しは認めてよね!ふん!」


提督「恩返し?」


イムヤ「あ…」



勢い余って余計なことまで口走ってしまった。



提督「ふーん」


イムヤ「な、何よ…」



司令官の悪そうな笑みに立場を逆転されたような気持ちになる。



提督「別に恩を感じる必要は無いぞ、俺はお前らが使えると思ったからここに連れてきたって言っただろ」



この司令官ならそう言うと思った。



イムヤ「良いのよ!私が勝手に思ってるだけだから!!じゃあね!」



恥ずかしさを隠すような大声を上げてさっさと執務室を出ようと思った。






提督「だがお前らは想像以上の働きをしてくれた」




執務室を出る間際、司令官が背中から声を掛けてくれる。





提督「大した奴らだ」





その言葉には返事をせずにそのまま執務室を出た。












ゴーヤ「イムヤ、どこ行ってたでちか!早く傷を…」



私を呼びに来たゴーヤがいきなり固まる。



イムヤ「なに?」


ゴーヤ「…鏡で自分の顔を見た方が良いでちよ」



それだけ言ってゴーヤはどこかへ行ってしまった。




顔…?



私は窓ガラスに映る自分の顔を見た。







そこにはだらしなく頬を緩め、笑っている自分の顔が映っていた。



イムヤ「うふ…ふふふふ、あははははは!」



溢れ出る嬉しさの笑顔を我慢できず、私は廊下で大きな声で笑ってしまっていた。







あの辛い大湊鎮守府での生活以降…


初めての心からの笑いで




最高に気持ちが良かった。







【鎮守府内 会議室】




提督「…そんなわけで潜水艦隊を連れて大本営に行くことになった」




私達潜水艦隊がサーモン海域の攻略を終えて数日後、こんなことを言われた。



ゴーヤ「しゅ、祝勝会って…」


ハチ「私達が…ですか?」


提督「ああ、それだけじゃない。南方海域攻略の優秀艦隊として表彰も受けてもらう」


イク「ほ、本当!?」


イムヤ「で、でも…私達だけが表彰なんて…」



南方海域は鎮守府の全員で突破したのだから…



提督「いらんのなら他の奴にやる」


イムヤ「い、いらないなんて言ってないわよ!」



司令官は選択肢を与えないような言い方をして私はつい誘導させられた。



陸奥「胸張って貰ってきなさいよ」


雲龍「あなた達がいなければ私達は途中で南方海域攻略を諦めるしかなかったわ」


天龍「次はお前らに負けないくらい活躍してやるからな!」



しかし仲間達は私達を後押しして祝勝会への参加を促してくれた。




その言葉に私達は祝勝会参加のための準備に移ろうとした。






提督「そうそう、この南方海域攻略中にゴーヤ、ハチ、そしてイムヤの練度が上限に達した」



司令官の言葉に場の空気が凍り付く。



提督「指輪を受け取る気はあるか?」


祥鳳「…」




うわ…祥鳳さん、また複雑そうな顔を隠してる。

見てらんないよ…もう…。




ゴーヤ「欲しいでち!ゴーヤ、これからも頑張るでち!」


ハチ「はっちゃんも…がんばった証を頂けますか?」


提督「わかった」



提督はすんなりと了承し、指輪の準備に移るみたいだった。


これで潜水艦隊はイク、ゴーヤ、ハチが指輪を受け取ることとなった。






イク「イムヤはどうするの?」








イムヤ「私は…」








【鎮守府内 会議室】




祥鳳「イムヤさん、よろしかったのですか?指輪を受け取らなくて」


イムヤ「うん…」




結局私は指輪を受け取ることはしなかった。




イムヤ「私はまだ…司令官を100%信用できていないから…」


祥鳳「イムヤさん…」





あの人は言った。


『私達は駒でしかない』と。



あの言葉が事実である限り、私は100%信用することは無い。



イムヤ「みんなは…他のみんなはそれで良いけど…せめて私は少し離れた視線であの人を監視してなきゃってね」


祥鳳「そうですか…」



司令官を何もかも信用しきってしまうと…


いつの日か必ず痛いしっぺ返しを受けることになる。




そんな気がして指輪を受け取ることは拒否したのだった。





祥鳳「そうそう。あなた達潜水艦隊が南方海域攻略をしたって大本営に報告をしてから他の鎮守府からの引き抜きの電話が鳴りやまなくってね」


イムヤ「そうなんですか?」


祥鳳「ええ。でも提督は『国家予算を積んだら考えてやる』って全く聞こうともしませんでしたよ」




祥鳳さんはそう言って提督が私達を大事にしているということを知らせてくれる。



それがきっと私達のためであり、司令官のための行動であることはわかる。









でも…私の背中に何か冷たいものが走る。










もしも…




もしも司令官が出世のために私達を…



祥鳳さんを見捨ててどこかに行ってしまうことになったら…







祥鳳さんは…


その時…正気でいられるのだろうか…









そんな不安が過る。






祥鳳「イムヤさん?」


イムヤ「え?」


祥鳳「どうかしましたか?」


イムヤ「えーっと…やっぱり指輪、受け取らなくてよかったって…」


祥鳳「え?」


イムヤ「司令官はまだまだ油断ならないってこと、じゃね!」





私は祥鳳さんが心配しないよう笑顔を見せて走り出した








今は見えない不安よりも







これからも潜水艦隊が活躍できる未来に向かって










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          潜水艦 イムヤの日記 終











【大本営近くのホテル 祝勝会場】





提督「まだ準備終わらないのか」


祥鳳「こういうのは時間が掛かるものなのですよ」


提督「そういうものかね」




大本営での祝勝会場で提督が待ちきれないとばかりに悪態をついています。

私達はイムヤさん達潜水艦隊が表彰されるということもあってパーティ衣装に着替えているのを待っていました。



イムヤ「お待たせー」


提督「遅い…ぞ…」



ドレスアップしたイムヤさん達がやってきました。

4人とも華やかな衣装に身を包み、このパーティにふさわしい…いえ、それ以上の印象を与えてくれました。



提督「どちら様ですか?」



しかしその中で見慣れない人が混じっています。



イク「イクなのね」


提督「マジかよ…」



いつも結んでいる髪を解いてストレートにし、白をメインとしたドレスを着ているイクさんに提督が驚きを隠せませんでした。

私も誰なのか一正直瞬わかりませんでした。



祥鳳「…」



イクさんに見惚れてしまっている提督に対しムッとした感情が湧いてきます。





提督「よし、イク。パーティ中は口を開くな。オツムが弱いのがバレる」


イク「ひ、酷いのねー!」



提督がなぜこんなことを言ったのかがわかってしまいます。

提督の態度に少し胸の中がモヤモヤした気持ちに包まれるような気がして少しからかってみます。



祥鳳「イクさんがあまりにも似合っているから提督は照れ隠しでこんなこと言ってるのですよ」


提督「おい」


イク「そ、そうなのね?」


ゴーヤ「イク!やったでち!てーとくが見惚れてたって!」


提督「黙れでち公」


祥鳳「うふふっ」


イムヤ「あははははは。イク嬉しそうね」


ハチ「イクも着替える時はあんなに『水着がいいのー!』って嘆いていましたのに」


イク「それは言わないで欲しいのね!」




集まった皆さんでつい盛り上がってしまいました。




雪風「すごいです!皆さんバッチリ似合ってます!」


ハチ「ふふ、ありがとうございます」


天津風「写真撮っておきましょう」


時津風「いいなー、みんな良いなあー」


提督「おう雑用。油売ってないでさっさと仕事して来い」


時津風「雑用言うなー!こんなことなら連れてこなくても良かっただろー!」




実は私と潜水艦隊の他に陽炎型駆逐艦の4名も同行しています。



親潮「この親潮、パーティが円滑に進められるよう全力でサポートに当たります!」


提督「親潮はこう言ってるが?」


時津風「っぐ…!覚えてろよー!」




提督は駆逐艦達がパーティの雑用をしなければならないことを一切伝えずに連れてきました。

『騙された』と時津風さんはずっと悪態をついていましたが親潮さんの手前、手を抜くこともできなさそうです。



提督「くくっ…やはり親潮を連れてきたのは正解だったな」


天津風「あ、あんた…もしかして時津風をからかうためだけに親潮を…」


提督「そんなわけないだろ。それじゃ頼むぞ親潮」


親潮「はい!お任せ下さい!」


提督「…」


天津風「そんな『親潮はやる気だぞ?』って目で見なくてもしっかりやるわよ!」


雪風「ちゃんと真面目にやりますからお土産買ってください!」


提督「検討する」



提督は最近親潮さんに対し自然に話し掛けられるようになっているように見えます。

古傷を堪えたり痛みを隠したりする仕草も見られませんし…


そんな二人の関係は少しずつでも変わって…いえ、進んでいるのだと思うと嬉しい気持ちが湧いてきます。



親潮「それでは失礼します!」



陽炎型の4名がお手伝いのため離れて行きます。




提督「それじゃ俺達も行くか」


祥鳳「はい」



私達もパーティ会場に入りました。









祥鳳(いいなあ…)



ドレスアップされた潜水艦隊と違って私はいつもの恰好でした。


『秘書艦は普段着で参加すること』という話らしいのですが…




私もいつもと違う恰好をしたかった。




提督に見てもらいたかった…。







そんな少し残念な気持ちを抱えながらパーティは開催されました。









イムヤ「ふぅぅ…緊張したぁ…」


ゴーヤ「壇上に上がるなんて思ってもみなかったでち」


イク「いっぱい見られたのね」


ハチ「恥ずかしかったです…」




潜水艦隊の皆さんが南方海域攻略の表彰から戻ってきました。




『続きまして優秀鎮守府の発表です、呉鎮守府、横須賀鎮守府、佐世保鎮守府』




今度は提督が呼ばれました。




提督「くくく…これで昇格は間違いなしだな」


祥鳳「提督、そんな悪い顔のまま壇上に行ってはいけませんよ」



この1年の間で優秀な戦果を上げたということで提督も表彰されるみたいです。

横須賀鎮守府の白友提督も優秀提督として呼ばれていました。


隣に長門さんがいて目が合いましたので会釈をして挨拶をします。





提督「白友ー!!会いたかったぜーー!!」


白友「お、おい!壇上の上だぞ!静かにしろ!」




相変わらず白友提督が好きなようで…思わず苦笑いが漏れてしまいます。







??「少しよろしいですかな?」


祥鳳「はい?」




提督が離れ一人になった私に誰かが声を掛けてきました。


初めて見る男性でジャラジャラと宝石を着飾った人です。

どこかのお偉い様だというのは一目でわかりますが…正直生理的に受け付けないタイプです。



??「失礼、私はこういう者で…」



彼が名刺を差し出してきたので受け取ります。

どうやら艦娘の艤装等の部品を扱う会社の社長らしい。



社長「あなたの鎮守府の…佐世保鎮守府の提督ですが、ここだけの話…ある不正に関わっていることがわかりましてね」


祥鳳「え…」


社長「このままだと昇格取り消しどころか提督が降ろされる可能性も…」


祥鳳「…」


社長「少し席を外しましょうか?ここでできる話ではありませんので…」





今までの様々な経験がこの男の魂胆をあっさりと見通すことができました。


以前の私だったらこの男の言うがままにされていたのかもしれません。


ですが提督との、親潮さんとの、仲間達との毎日が私を強くしてくれたみたいです。




祥鳳「それが何か?」


社長「は…?」


祥鳳「どんな不正に絡もうが何をしようがあの人の自己責任です」


社長「ちょっと…」


祥鳳「失礼します」




さっさと話を切り上げて壇上から降りてきた提督の所へと向かいました。


















提督「くそっ…榛名の奴日和りやがって…あいつ童貞のままじゃねーか」


祥鳳「あの…提督」


提督「なんだ?」






意味不明なことを言っている提督に今あったことを話しました。



















祥鳳「…ということがありまして」


提督「ふーん、ついてかなくて正解だな。そいつはそうやって弱みに付け込んで艦娘を部屋に連れ込む変態野郎だぞ」


祥鳳「やっぱり…」



私の予想は当たっていたようでした。


どうやらあの男は提督達の間でも噂になっているようです。

中々お縄につかないのは海軍にとって影響力がある方だからだそうで…




提督「それにしても…」


祥鳳「はい」


提督「お前、俺を庇う気は無いわけ?」


祥鳳「なぜ庇わないといけないのですか?何があっても自業自得ですよね?」


提督「それはそうだが…ったく」


祥鳳「ふふっ」



このやり取りが提督との信頼感を表しているようでなんだか嬉しくなりました。









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社長「チッ…見た目と違って…なんて奴だ…」



祥鳳を取り逃がした社長は他の獲物を探すべく視線を彷徨わせていた。


彼は提督の言う通り、真面目そうな艦娘を標的にし、『お前の鎮守府の提督が…』などと言って肉体関係を迫る最低な男だった。



そんな彼の視界にまた真面目そうな艦娘が入る。




社長「あいつにするか…少し子供だが…それもまた良い」




きびきびと雑用をこなす彼女に舌を舐めずりしながら彼は一人になるところを見計らって近づいた。





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祥鳳「他の艦娘の皆さんにも注意しておきましょうか?」


提督「大丈夫だろ。普段から死ぬほどからかっているからこんなことに引っかからんだろ、イムヤ達は大体複数人で一緒にいるし声を掛け辛いだろうしな。むしろ心配なのは…」



提督の視線が白友提督の所に行きます。



提督「長門は…大丈夫か、ああ見えて堅物過ぎるわけじゃないからな」


祥鳳「もう、そんなこと言ってはいけませんよ」




確かに提督の言う通り普段からからかい合っている時津風さんや雪風さん、真面目ですけどいつも提督を警戒している天津風さんなら引っかかることは無さそうですね。








提督「…」



祥鳳「…」







提督「あ」

祥鳳「あっ」








ひとりだけ



こういうことに引っかかりそうな子が…


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ハチ「ふぅ…」



少しパーティの熱を冷まそうとハチはパーティ会場から出て休んでいた。


目を閉じると先程壇上から浴びた拍手の雨が思い出される。



それに続きイムヤ、イク、ゴーヤの笑顔が瞼の裏に映り幸せな気持ちになる。




ハチ(本当に…夢のようです)



ハチは心の底からこの鎮守府に来て良かったという気持ちを噛み締めていた。





『さ…早く』


『は、はい…』





ハチ(…?)




聞き慣れない男性の声と聞き慣れた女性の声がする。



ハチがその声の先に視線を向け、目を開けるとエレベーターのドアが閉まるところだった。






ハチ「親潮さん…?」






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時津風「親潮?あれ…?どこ行ったんだろ?」


雪風「さっきから見てないですね」


天津風「割り当てられた仕事が別だったから…パーティが始まってからは…」



私は心配になって携帯に連絡を入れます。



祥鳳「親潮さん…」



繋がって欲しいと焦りながら願うも電話に出てくれません。



イムヤ「ラインも既読にならないわね」


ゴーヤ「親潮は真面目でちから…携帯はここに持ってきてないかも…」


イク「ありえるのね…」



こんな時にあの子の生真面目さが仇となるなんて…


ただ別の場所で仕事をしているだけなのだと祈り様な気持ちになります。



提督「…」



提督もパーティ会場を見まわしながら親潮さんを探していてくれるようでした。




ハチ「どうかしましたか?」




そこへハチさんが戻ってきました。



祥鳳「ハチさん、親潮さんを見ませんでしたか?」


ハチ「え?たった今、エレベーターに乗って行くのを見ましたけど…」


提督「なに?」


ハチ「すぐにエレベーターのドアが閉まって一瞬しか見てませんけど…知らない男性の人と一緒でした」






まずいことになったと背筋に冷たいものが走りました。







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【大本営近郊ホテル ある一室】





社長「さ、ベッドに座って」


親潮「…」



私は言われた通りベッドに座ります。


胸が嫌な高鳴り襲われ身体が震えます。



社長は躊躇なく私のすぐ隣に座りました。



彼から『お前達の提督の秘密を握っている。バラされたくなければ言う通りにしろ』と言われ、私は司令に迷惑を掛けたくないという気持ちから彼に同行しました。



親潮「あ…あの…司令の秘密って…」



もしかしたら司令の過去を知っていて私に接触したのではないかと思い、恐る恐る聞いてみます。



社長「まあそんなこと良いじゃないか」


親潮「え…きゃあ!?」



いきなり彼は私に覆いかぶさり、ベッドに押し倒してきた。



親潮「な、何をするのですか!」


社長「話は後で、今は、…この、暴れるな!」



この男…!


もしかしてこんなことをするために私を…!?



ようやくそう気づいて彼を突き飛ばすそうとする。



親潮「え…!?」



首の後ろに鋭い痛みが走ったと思ったら急に身体に力が抜けていくのがわかった。



親潮「な…に…」


社長「相変わらず効果覿面だな、この艦娘用の筋弛緩薬は」



彼はいつの間にか手に小さな注射器を握っていてその中身を私に…



社長「心配せずとも効果は一日で切れる。さて、その間に…」


親潮「ひぃ…!?」


社長「あは、あはははは!」


親潮「きゃあああああああああっ!!」



彼は私の服を掴むと思いっきり引っ張ってくる。

その勢いにシャツのボタンが飛び、肌が露わになってしまった。




親潮「いやぁ!!いやだぁ!やめて、やめて下さいぃ!!」


社長「あはははは!叫びたければ好きなだけ叫べ!ここは完全防音だ!もっと悲鳴を聞かせろ!!」



彼の手は止まることなく私のスカートも脱がそうとしてきた。



親潮「いやあぁぁぁッ!!!」



脚を這いまわる手の感触が気持ち悪くて払いのけようとするけれど全く力が入らない。

男は私の太ももを無遠慮に舐めさすり、徐々に付け根に手を伸ばしてくる。



親潮「助けて!助けてぇ!!いやぁ!!司令!しれぇ!!助けてぇぇぇぇっ!!!」




この期に及んで私は泣き叫びながら司令に助けを求めてしまった。









司令のためならばどんなことでもと覚悟していたのに







あろうことか司令に助けを求めるなんて…







今の司令との関係を壊したくない




そんな私のどこか後ろめたい想いが生み出した結果…







罰なのでしょうか






これまでずっと過去から目を背け、逃げ続けてきた私への…本当の罰…















そんなことを思ってしまい




心の中が絶望感で満たされ始めました












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【大本営近郊ホテル 廊下】





祥鳳「ハチさん!何階ですか!?」



私達はすぐにハチさんの言った階へと行こうとします。



ハチ「た、確か…エレベーターは30階で止まりました」


イムヤ「早く親潮を助けに…って司令官!何してるのよ!」



焦る私達をよそに司令官はのんびりとしています。




提督「あーあーあーあー、あいつは本っ当に…」



面倒くさそうに頭を掻いて悪態をついています。


もしかしてこのまま助けに行かないなんてことは…




提督「エレベーターに行っても30階のVIPルームに昇るには暗証番号が必要だぞ」


イムヤ「え…!?」


提督「エレベーターの中には常にボーイがいて部屋のカードキーを見せないと暗証番号を入力してくれないはずだ」


ハチ「で、でも…!」





提督はこのホテルには訪れたことがあるみたいで、私達だけでVIPルームに行けないことを教えてくれましたが…

その顔は落ち着き払っていて焦る様子が全く見られません。



提督「おまけに部屋番号がわからん。居留守使われて出てこなかったら手の出しようがないだろ」


祥鳳「そ、それはそうですが…!ここで何もしないよりは…せめて…」


提督「今から行っても手遅れかもしれんしぞ」


イムヤ「だ、だったらどうしろっていうのよ!」



焦る私達に対し、提督は余裕を持っているみたいです。



提督「こうするんだよ」




余裕の…いつもの悪そうな笑みを見せていました。
















ジリリリリリリリリッ!!!





ホテル内に大きな金属音が鳴り響きます。




ゴーヤ「うわぁ!?」


イク「なんなの!?」



いきなりの大きな音に皆さんがびっくりしています。


提督は火災報知器のボタンを押していました。




提督「そいつはジャラジャラと着飾った奴だったな?」


祥鳳「え?は、はい」


提督「宝石をたくさん身につけるような奴は自分の権威を誇張して見せびらかそうとする臆病者が多い」




火災報知器の音を聞いたパーティ会場の参加者がホテルマンの誘導で血相を変えて出てきます。




提督「こうすりゃビビって萎えちまうだろう、あはははは!」


イク「め、メチャクチャなのね…」


提督「ハチ、エレベーターのある場所を教えろ。非常事態になった場合暗証番号無しでもエレベーターが使えるはずだ」


ハチ「はい、こっちです!」



そしてハチさんを誘導してすぐに私達はエレベーターに乗り込みました。





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いきなりけたたましい金属音が部屋に鳴り響きました。




社長「な、なんだぁ!?」



私の太ももの間に顔を入れようとしていた男が驚いて立ち上がりました。



そして着の身着のまま急いで部屋を出ました。






「いました!あの人です!!」




部屋の外から聞き覚えのある声がしました。





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祥鳳「いました!あの人です!!」



私達が30階に着くと血相を変えた社長が部屋から出てきました。




社長「な、なんだお前達は!?」


提督「サンダーパンチ」


社長「ぎゃあああああああああああああああ!!」



提督はいきなり社長に近づくと懐からスタンガンを取り出してわき腹にお見舞いしてました。

彼は悶絶しながらその場に倒れました。



イムヤ「い、いつもそんなもの持ち歩いているの?」


提督「護身用だ」


ゴーヤ「てーとくが一番危険でち…」



社長が部屋を開けっぱなしにしたおかげでどこの部屋から出てきたかハッキリとわかります。



祥鳳「親潮さんっ!!」



部屋に入ると親潮さんがベッドに寝かされたままでした。



祥鳳「大丈夫ですか!?」


親潮「は、はい…」



見ると服が破れてはいるものの、それ以上のことはされてないように見えます。



祥鳳「よかった…!」



間に合ったのだと心底ほっとして親潮さんを抱きしめてしまいました。



親潮「祥鳳さ…っぅ…うぁ…うあぁぁぁぁぁ…!わあああああああぁぁ!!」




親潮さんも怖かったのか大きな声で泣き始めました。







提督「うぉ!?うるさっ…!祥鳳、お前は艦娘達を連れてさっさと鎮守府へ帰れ。命令だ」


親潮「し、司令…」


祥鳳「え…?提督は…」


提督「後始末」




提督は親潮さんをそっちのけで何かを探しています。



提督「スマホみーっけ」



社長の置いていたジャケットからスマホを抜き取りました。

そして自分の携帯電話で誰かと連絡を取っています。



提督「俺だ、面白いもの見つけた。そっちに送るからパスワード解析してくれ。ああ、その後のことは全部白友に押し付けて…」



以前もそうでしたが提督は海軍に誰かを潜り込ませているような気がします。

それもかなり腕利きの艦娘を…




祥鳳「立てますか?」



私は部屋にあったバスローブを親潮さんに被せ立ち上がらせようとします。

しかし足に力が入ってません。



親潮「何か…薬のようなものをうたれて…」


祥鳳「え…」


提督「艦娘用の筋弛緩薬だな、見覚えがある。心配せんでも効果は明日には切れる」



提督が床に落ちていた小さな注射器を見てそう言ってますが…



イムヤ「なんか…使ったことがあるよな言い方ね」


提督「さあどうだろうな」


社長「お、おい…!」



いつの間にやら社長が立ち上がりよろよろとしながらこちらに近づいてきました。



社長「こんなことをしてタダで済むと思うなよ…!お前らなんか俺の」


提督「イク、捕まえろ」


イク「はいなのね」


社長「な、おい!?」



社長の後ろに居たイクさんが両手で社長を捕まえました。




社長「放せこのっ!こんなふざけたことをして…!お前ら」


提督「サンダーパンチ改」


社長「んぎゃあああああああああああああ!!!!?」




今度は社長の首にスタンガンを押し付けて気絶させました。



イク「ざまあみろなのね」


ゴーヤ「天罰でち」



イクさんもゴーヤさんもゴミを見るような目で倒れた社長を笑っていました。



提督「おら、さっさと帰れ」


祥鳳「わ、わかりました」


ハチ「親潮さん、肩貸します」



私とハチさんで親潮さんを抱え、提督の言う通り部屋を出て鎮守府へと戻ろうと思いました。




親潮「あ…あの…司令…。わ…私は…」



親潮さんが申し訳なさそうな顔で提督を縋るように見ています。



提督「親潮、お前は帰ったら説教だ」


親潮「え…」





それだけ言って提督は私達を締め出すと部屋のドアを閉めてしまいました。



『これ以上話す気は無い』


そう態度で表しているかのように。







____________________










イムヤ「大丈夫かな…」


イク「え?」




帰りの電車内、イムヤさんが心配そうな顔をしています。



イムヤ「司令官よ。あれだけの騒ぎを起こしてタダで済むと思えないけど」


親潮「…」


ゴーヤ「イ、イムヤ…!」


イムヤ「あ、ごめん…」



確かにパーティ中にあんなことをしては提督に処分があってもおかしくはありません。


私はみんなが心配しないよう声を掛けようと思いましたが…



ハチ「大丈夫だと思いますよ」


イク「ハチ?」



ハチさんが楽しそうな顔をして代弁してくれました。



ハチ「テートク、余裕の表情をしていました。何か勝算があると思います」


イムヤ「確かに…悪そうに笑ってたわよね」


祥鳳「ハチさんの言う通りです。ですから親潮さん、そんな深刻そうな顔をしなくても大丈夫ですよ」


親潮「は…はい…」



ハチさんのおかげで皆さんの不安を上手く拭えたような気がしました。











私達が鎮守府に帰った翌日の夜





提督が帰って来ました。






____________________






【鎮守府内 執務室】





提督「天城、沖波は先に上がれ」



提督は執務室に帰って連絡事項を一通り聞いた後、天城さんと沖波さんを執務室から出そうとしました。



沖波「え?」


天城「提督?」



いきなりの提督の言葉に沖波さんと天城さんが首を傾げています。



祥鳳「私からもお願いします」


天城「祥鳳さんもそう言うなら、お先に上がらせてもらいますね」


沖波「お、お先に失礼します!」


提督「ああ」



沖波さんと天城さんが執務室を出た後、提督が放送設備を使おうとしました。



祥鳳「提督、親潮さんは部屋で待機させてます。呼んできますね」


提督「頼む」



放送設備を使うと他の方々が押し寄せそうな気がしたので私が呼びに行くことにしました。


















親潮「お、親潮…は、入ります…!」



迎えに行った親潮さんがビクビクしながら執務室に入りました。



提督「…」



提督は何も言わず親潮さんを迎えました。



親潮「あ、あの…し、司令…」


提督「…」



立ち上がって親潮さんに近づきます。

無言のプレッシャーに親潮さんが少し後ずさりました。




私は…なぜかその様子を余裕をもって見守ることができました。




親潮「す、すみませんっ、わ、私が余計な事をしたせいで…そ、その後は…」


提督「取り消し」


親潮「え…?」




何のことでしょうか?




提督「火災報知器を誤って鳴らしてパーティを台無しにした罰として昇格が取り消しになった」


親潮「そ、そんな…」


提督「おまけに丸一日見たくもねえ大本営のクソ役員共の説教だ。死ぬほどの屈辱だ」


親潮「わ、私のせいで…ひっ!?」



提督がゆっくりと親潮さんの両肩に手を置きました。

その行動に親潮さんが一瞬身体をビクつかせます。



提督「目を閉じろ」


親潮「え…」


提督「命令だ、目を閉じろ」


親潮「は、はいっ!」



提督に言われた通り親潮さんが慌てて目を閉じます。


パッと見てキスでもしそうな絵面に見えないことも無いですが…










提督「ふんっ!!」


親潮「んがっ!?」





提督は勢いよく親潮さんの額に自分の額をくっつけました。


要するに頭突きです。




提督「…!?…ぐっ…!」


祥鳳「て、提督…」


親潮「し、司令!大丈夫ですか!?」



しかし親潮さんの頭は想像以上に硬かったみたいで、痛みに提督が悶絶していました。



提督「くそ…!文字通り頭の硬い奴め…!」


親潮「司令…?」


提督「そんなんだからあんな馬鹿社長に連れていかれるんだろ!少しはその硬い頭を何とかしやがれ!」


親潮「そ、そんなこと言われても…」



そうですよ。

理不尽にもほどがありますよ?



親潮「だ、だって司令の秘密握ってるって…!このままじゃ迷惑が掛かると思って…わ、私なんか放っておけば昇格取り消しなんて…」


提督「ほほぉ…それじゃお前、あのまま馬鹿社長に犯されて帰ってきて平然としてられたってのか?」


親潮「そ、それは…」


提督「演技力ゼロでオリハルコン頭のお前にそんなことできるわけねーだろ!鎮守府の雰囲気が最悪になって運営が滞るだろうが!」




それはそうですが…



祥鳳「うふふっ」


提督「何笑ってんだコラ!」



こんなの…笑わずにはいられませんよ。






提督「とにかく…今後は勝手に突っ走って余計なことするんじゃねえぞ!わかったな!」






提督は自分の額を痛そうに擦りながら執務室を出て行きました。










____________________






祥鳳(さて…)




提督はこの執務室に来てからずっと胸ポケットにペンを刺していました。






親潮「わ…私、勝手なことして…司令の足を引っ張って…ぐすっ…」



後に残された親潮さんがひとり涙を零しています。



祥鳳「本当ですね。昇格取り消しなんて失態、取り返しようが無いですよ」


親潮「…!」



私の追い詰めるような言葉に親潮さんの顔が増々暗くなりました。

匙加減を間違えたかもしれませんのですぐにフォローに入ります。




祥鳳「でもね親潮さん、昇格取り消しされたにも拘らず提督は頭突き一発で罰を終えましたよ?」


親潮「え…」


祥鳳「おまけに自分の方が痛そうにしてて…うふふふ」



あの痛そうな姿は中々見物でした。



祥鳳「提督は昇格とあなたを天秤にかけて…あなたを選んだのですよ」


親潮「なんで…」


祥鳳「え?」


親潮「わ、私は司令に迷惑を掛けて…それだけじゃなくて家族も奪って…どうして私なんかを…」


祥鳳「どうしてなのかは私にもはっきりとはわかりませんけど…」




私は正面から親潮さんの両肩に手を置きます。



祥鳳「今はそんな難しいことは良いじゃないですか」


親潮「祥鳳さん…?」


祥鳳「提督は自分の昇格を蹴ってあなたを助けた、それだけですよ」


親潮「は…はい…」



生真面目な親潮さんはそれでも中々納得してくれません。

本当に提督の言う通りオリハルコン頭なのかもしれませんね。





祥鳳「親潮さんはどう思ったのですか?」


親潮「え…」


祥鳳「あの時…提督が助けに来てくれて嬉しくは無かったのですか?」




私の言葉に親潮さんが身体を震わせます。

あの時のことを思い出したからでしょうか。



親潮「わ、私…あの時、司令のためだとわかっていても…怖くて、嫌で…逃げられなくて…」


祥鳳「…」


親潮「でも私…司令に助けを求めて…叫んで…そ、そして…」



俯いている親潮さんが涙をまた零しました。



親潮「司令が助けに来てくれて…わ、私のために色々してくれたって聞いて…嬉しくて嬉しくて…ぐす…」


祥鳳「そうですよね」


親潮「こ、心の底から嬉しかったです…!っ…ぅっ…」


祥鳳「はい、それで良いのですよ」




泣き始めた親潮さんをギュッと抱きしめます。


緊張が緩んで泣き始めた親潮さんをしばらく慰めるように頭を撫でてあげました。








祥鳳「焦る必要はありませんよ親潮さん。短期間でも提督とこんな素敵な関係を作れたのですから、これからゆっくりと力になってあげて下さいね」


親潮「はいっ!!」







最後には元気の良い返事をもらいました。



その元気な返事はこの先提督と親潮さんの間にもっと固い絆を作ってくれること予感させてくれました。






【鎮守府内 提督の私室】




祥鳳「提督、入りますよ」


提督「あー…」



ドアをノックすると提督の力無い返事が聞こえました。



部屋に入ると提督が額を抑えながらベッドに寝ていました。



提督「頭痛え…」


祥鳳「ふふ、少し待ってて下さい」



私は氷とビニール袋、そしてタオルを使って簡易の氷嚢を作りました。




祥鳳「どうぞ。そういえばあの社長はどうなったのですか?」


提督「知らん。白友に全部任せた。もう二度と見ることは無いだろ」



そのようなことを電話で誰かに依頼してましたね。

提督は痛む額を氷嚢で抑えながらぐったりしてます。




提督「くそっ…あいつは本当に頭硬えな…」


祥鳳「そうですね」


提督「先が思いやられるぜ…ったく…」



それはこの先も親潮さんとの関係が続くのだと解釈し、嬉しくて笑顔が零れてしまいます。




提督「また笑いやがって…!」


祥鳳「きゃっ…!」




提督が氷嚢を床に置いて私の手を引っ張ります。

そしてそのままベッドに寝かされ、提督が覆いかぶさってきます。



提督「ここのところ忙しくてできなかったな。色々と溜まってて抑えられそうにない。今日は寝られると思うなよ」



提督の言葉に…



湧いてきたのは溢れんばかりの嬉しさ




祥鳳「抱いてくれるのですか?」


提督「は?んむぅ…!」




覆いかぶさる提督の顔を両手で掴みキスをしました。



祥鳳「んみゅ…ちゅ…じゅりゅ…んちゅっ…」



優しいキスじゃなくて…私の全部をぶつけるような深いキス。



私からキスをするのは初めてのことです。



キスを終えて離れると私と提督の口の間に唾液の橋ができました。




祥鳳「私も…今日は抱かれたい気分です」


提督「は、生意気な奴だな。覚悟しろよ」




そうして私は提督と久しぶりに一晩を共にすることになりました。




























提督が見せてくれた復讐のカタチ














親潮さんに向けた刃のような鋭いカタチをしていたこともあるけれど







あなたが見せてくれた親潮さんへの優しさのカタチは







私をも幸せな気分にさせてくれました




















あなたを信じて良かった










これからも祥鳳はずっとあなたの傍にいますからね








提督…
















愛しています



























提督と私の甘い夜は





夜が更けても続く長い夜となりました












































____________________







誰も知らないところで生まれたある感情






提督への熱い想い




純粋な気持ち













それは心を大きく揺さぶってしまい







ガラスに亀裂を作る最初のきっかけになってしまうことに







この時は誰も気づくことなどできなかった…







____________________


         第二部 復讐のカタチ 終








【予告】






































私は…過去からは逃げられない…




















































教えてよ…!


あの後どうなったの…!?


ねえ…親潮!




















































お姉ちゃん…私…


ここに居てもいいのかなあ…




















































僕は…もう…ダメだ…みんな…ごめんね…

僕は諦めない!提督ともう一度会うって決めたんだ!




















































秘書艦になりたい…




















































嘘…

嘘よ…

何でよ…!



手を伸ばしても

全速力で追い掛けても



沈んでいく○○に追いつくことはできなかった




















































私達は…死と隣り合わせなんだって…




















































何とか言いなさいよ!

嘘だよね…!

認めちゃうわけ…!?

最低…!!

信じてたのに!

絶対に許さない…!



















































ふふ、何人いなくなるでしょうか?

何人…残るのでしょうか…




















































____________________



第三部 ガラスの残骸







体験版はここまでです。


4月31日発売の『ガラスの絆 本編』にご期待ください。




嘘です。



後書き

プロローグ
第一部
第二部
第三部← 3部に入るかも?
第四部
最終章

先は長い…

実家(pixiv)では他にも色んな作品を掲載しています。
この作品『ガラスの絆』も上げています。
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2019-11-21 05:44:24

SS好きの名無しさんから
2019-11-20 23:05:10

SS好きの名無しさんから
2019-11-20 14:50:29

zちゃんさんから
2019-11-19 14:59:31

SS好きの名無しさんから
2019-11-19 09:27:23

SS好きの名無しさんから
2019-11-18 10:21:55

SS好きの名無しさんから
2019-11-18 04:44:06

SS好きの名無しさんから
2019-11-17 22:29:42

SS好きの名無しさんから
2019-11-17 20:00:01

SS好きの名無しさんから
2019-11-17 19:33:51

SS好きの名無しさんから
2019-11-17 15:00:38

SS好きの名無しさんから
2019-11-17 10:43:46

SS好きの名無しさんから
2019-11-17 00:56:47

SS好きの名無しさんから
2019-11-16 23:53:57

SS好きの名無しさんから
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SS好きの名無しさんから
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SS好きの名無しさんから
2019-11-16 12:05:05

SS好きの名無しさんから
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SS好きの名無しさんから
2019-11-15 22:28:59

SS好きの名無しさんから
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SS好きの名無しさんから
2019-11-15 19:30:58

SS好きの名無しさんから
2019-11-15 18:27:14

SS好きの名無しさんから
2019-11-15 17:41:31

SS好きの名無しさんから
2019-11-15 12:38:01

ryさんから
2019-11-15 10:49:42

SS好きの名無しさんから
2019-11-15 04:54:19

しゃけさんから
2019-11-14 18:09:01

SS好きの名無しさんから
2019-11-14 15:54:10

SS好きの名無しさんから
2019-11-14 10:59:40

tm_brotherさんから
2019-11-14 10:53:25

シルビア@凛さんから
2019-11-14 09:18:00

ドイツ騎兵さんから
2019-11-14 02:53:06

SS好きの名無しさんから
2019-11-14 01:06:13

SS好きの名無しさんから
2019-11-13 23:35:59

刹那@川内提督さんから
2019-11-13 23:23:40

SS好きの名無しさんから
2019-11-13 23:15:11

SS好きの名無しさんから
2019-11-13 22:21:22

SS好きの名無しさんから
2019-11-13 21:52:45

SS好きの名無しさんから
2019-11-13 20:58:16

SS好きの名無しさんから
2019-11-13 20:54:08

SS好きの名無しさんから
2019-11-13 20:33:34

SS好きの名無しさんから
2019-11-13 20:12:40

2019-11-13 19:48:18

SS好きの名無しさんから
2019-11-13 19:03:29

しょーごさんから
2019-11-13 18:18:14

SS好きの名無しさんから
2019-11-13 17:59:56

ゔぁ〜さんさんから
2019-11-13 17:59:22

Chromeさんから
2019-11-13 16:17:25

Us2さんから
2019-11-13 14:23:04

名無しの憲兵さんから
2019-11-13 14:17:14

SS好きの名無しさんから
2019-11-13 14:08:19

SS好きの名無しさんから
2019-11-13 12:29:07

SS好きの名無しさんから
2019-11-13 12:01:04

SS好きの名無しさんから
2019-11-13 11:51:12

ぴぃすうさんから
2019-11-13 11:25:24

ニンニク2さんから
2019-11-13 11:22:26

seiさんから
2019-11-13 10:56:02

SS好きの名無しさんから
2019-11-13 10:36:12

お布団さんから
2019-11-13 10:34:43

SS好きの名無しさんから
2019-11-13 10:16:56

かむかむレモンさんから
2019-11-13 10:11:17

MARZさんから
2019-11-13 10:05:20

SS好きの名無しさんから
2019-11-13 09:48:01

このSSへのコメント

29件コメントされています

1: sei 2019-11-13 10:56:19 ID: S:LpZtgj

待ってました!

2: SS好きの名無しさん 2019-11-13 11:41:10 ID: S:-S20lx

いつもお疲れ様です!
これからの展開に目が離せません。

3: みがめにさまはんさみかたき 2019-11-13 19:48:49 ID: S:26B0Iw

ようやく追い付いたぁぁぁぁ!
さいっっっっっこうです!はやく!はやく次はウオオオオオオオアアアアアアアアアアアアア(壊)(((

4: SS好きの名無しさん 2019-11-13 20:15:56 ID: S:zFnTks

また来てる(歓喜)
頑張ってくだせぇ

5: 刹那@川内提督 2019-11-13 23:23:22 ID: S:tK4uC4

マジで未完なのかと一瞬背筋が凍りましたが今日から安心して眠れます!
これからも応援し続けるので完走まで頑張って下さい!!

6: ドイツ騎兵 2019-11-14 03:05:20 ID: S:9ultQE

お疲れ様です!!続きが気になって気になって夜しか寝られません!どうすれば良いですか?

7: SS好きの名無しさん 2019-11-14 15:56:48 ID: S:YC2nTo

応援が1回しかポチれ無い(´Д`)
応援しますので、何卒、続きを書いて下せぇm(__)m

8: かむかむレモン 2019-11-16 07:27:57 ID: S:pxq4zk

お前のSSが好きだったんだよ!

9: SS好きの名無しさん 2019-11-16 16:45:25 ID: S:VDmMrj

艦上機の制御できないとか無能過ぎだろ翔鶴と大鳳…

個人的に金剛がとてもムカつく、同調圧力で個人の意見を潰したりとかしてるくせに、自分のこと棚に上げて周囲の非難だけはしっかりするとか何様のつもりだよ…
白友のところの金剛はタダのいじめグループのリーダーだな

そこら辺を主人公提督に散々指摘されてメンタルボコボコにしてもらいたい

10: ウユシキザンカ 2019-11-16 18:51:13 ID: S:oJMrCn

>>1 待たせたな!
>>2 瞬き禁止するぜよ?
>>3 落ち着いてのんびりとお待ちください。
>>4 頑張ります!CV雪風
>>5 めっちゃ応援されたのでこれからも頑張ります!
>>6 昼間に寝てもいいんだよ?
>>7 応援の次はオススメもお願いします!
>>8 いつも応援ありがとナス!

11: SS好きの名無しさん 2019-11-17 15:46:14 ID: S:XKDqjK

提督…自分を犠牲にして親潮を
異動させようとしてるのか?
無理だろうな。
提督自身が救いの手を差しのべなくては
ならないだろう。
あまりにも周りに敵を作りすぎては
復讐達成出来ないよ。

12: SS好きの名無しさん 2019-11-17 15:52:20 ID: S:sMY4r7

どんな結末になるのか楽しみ!!

13: SS好きの名無しさん 2019-11-17 19:25:57 ID: S:GAEglW

白友君結局の所自分の考え押し通してるだけで結局相手の事何も見てないんだな~と。白友君が提督ぶん殴っても親潮にとっては何も救いにならないし提督の歪さを直せる訳でなし。陸奥や霧島の鬱屈とした部分にも気が付いてないしいつか足元掬われるやろうな~

14: SS好きの名無しさん 2019-11-17 20:26:27 ID: S:ZsDyAZ

それな。
優しさだけでは艦娘を救えない。
結局の所、艦娘を幸福か不幸にするのも提督次第だな

15: SS好きの名無しさん 2019-11-18 23:28:02 ID: S:hiij-m

いいや。白ともの言葉だけは親潮に通じよう。何故なら白ともは彼の半身。つまり鏡なのだ。そして白ともは今まで見たことのない彼の姿を燃え尽き灰となりそうな彼を見たら。こういうだろう。彼を今救えるのは親潮だけで。誰も彼を救えない状態になると。突き放せ。それこそが真の優しさであり救済なり。彼が此処で鬼神となり。復讐の為に全てを利用し食い荒らす破壊神となるか。それとも彼が目的を為した後に悪では在るがゆえに後を託す人材を育てた。ダークヒーロとなるか。その境目だね白ともが自分の事だけをみて自分の中の一方的な正義を押し付ける愚か者か試される時だ。

16: sei 2019-11-19 09:49:00 ID: S:tMn6L_

白友は『熱血漢のいいやつ』かと思ったが、「それがどうした…!」の一言で自分の善意を押し付けるただの『熱血漢のヤバイやつ』だった。

しっかりと相手の気持ちを考えて行動できる主人公の方が『いいやつ』だわ。

17: 焼き鳥 2019-11-21 16:56:12 ID: S:Ke-6r1

おいおい、感動して目の前がよく見えないゾ
これからも頑張って(・∀・)ニヤニヤ

18: No way234 2019-11-21 19:52:05 ID: S:YQvT7N

親潮ちゃん、救われてよかったね。
ゆっくりでいいのでこれからも頑張って下さい。

19: Chrome 2019-11-22 17:04:22 ID: S:o0VRye

白友よかったなw

20: Us2 2019-11-23 12:35:03 ID: S:Kh89-8

本番は書かなくていいからワタワタ狼狽する白友君と泣き落とし作戦に入った榛名のシーンを是非見てみたい笑

21: みがめにさまはんさみかたき 2019-11-26 08:03:18 ID: S:vRTCGC

白友さんご結婚おめでとうございます!
結婚にいたった経緯はなんなんでしょうか!?

22: ウユシキザンカ 2019-11-27 21:16:26 ID: S:lB0Wrs

>>16 疲れて視野が狭くなってるだけだったから許してあげてね
>>17 もーっと頑張ります
>>18 ゆっくりになりますが頑張って更新します
>>19 結果オーライやね
>>20 本番も書きたいなあ
>>21 急に榛名が来たので・・・

23: みがめにさまはんさみかたき 2019-11-28 00:04:42 ID: S:XKLafd

水……水を………

ハッ!更新されとうじゃないですかぁ!

それも一行や二行じゃない……全部だ!((

24: sei 2019-12-08 20:42:54 ID: S:qoXyyY

我が鎮守府も潜水艦の子達は無期限休暇の状態です。


ごめんよ。運用方法がよく分からなくて(´・ω・`)

25: Us2 2019-12-10 06:32:22 ID: S:wAkJov

秋イベ攻略と小説更新両立できる提督すごい…
確かに1期に比べて活躍の場が少なくなったしねぇ
自分の潜水艦達は1-4い号消化で大活躍中
さて提督の運用方法が気になる所

26: No way234 2019-12-21 13:23:41 ID: S:9U0YG1

ハッピーエンドどこ?・・・ここ?

27: Chrome 2019-12-27 22:25:25 ID: S:DUs3nC

この作品にしては珍しくハッピーエンドみたいになったな(失礼

今後も更新頑張ってください!応援してます!

28: No way234 2020-01-03 01:06:48 ID: S:LY1_b7

第二部完結おめでとうございます!!
予告が気になりすぎてやばい!

29: ウユシキザンカ 2020-01-05 21:33:06 ID: S:UX_eqz

>>23 更新して欲しければ畑を耕せ

>>24 1期で酷使しまくった反動か2期は暇ですよね。

>>25 秋イベで戦っているとなりで小説書いてました。

>>26 大分先だよ(遠い目)

>>27 今後も頑張って更新していきますよー!

>>28 予告通りにいくかも含め注目して下さいね。


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19件オススメされています

1: かむかむレモン 2019-11-16 07:28:12 ID: S:RMK7pB

もっと伸びろ

2: SS好きの名無しさん 2019-11-16 22:35:22 ID: S:NYaleJ

一読の価値ありヽ(・∀・)ノ

3: ドイツ騎兵 2019-11-16 23:42:13 ID: S:bM6UGb

伸びない方がおかしい作品

4: SS好きの名無しさん 2019-11-18 23:54:43 ID: S:fjADCb

復讐と云うものによって。個人の満足だけで終わらずに。奪われたもの達の無念を晴らすこと。そして復讐とは個人の行いが帰ってきたものでしかなく。奪われたものがどう救われるのが良いのか?考えさせられる作品です。

5: しゃけ 2019-11-19 12:54:40 ID: S:er0HPl

もっともっと伸びて完結してほしい

6: SS好きの名無しさん 2019-11-20 23:12:51 ID: S:1khxrc

無理せず毎秒投稿してほしい

7: SS好きの名無しさん 2019-11-21 00:36:28 ID: S:oVlDKd

結末が楽しみすぎて手が震えてくる…!

8: 焼き鳥 2019-11-21 16:56:41 ID: S:FmmafC

続きが気になるいい作品

9: Chrome 2019-11-22 17:04:08 ID: S:EGmXqk

もっと伸びてもっと応援してもっと更新回数多くして(切実

10: SS好きの名無しさん 2019-11-23 01:28:55 ID: S:t8D_1l

さいこうにつきる

11: Us2 2019-11-23 12:38:09 ID: S:KdADd-

本家のデイリー任務消化が日常の一部になってるのと同じくらい
ここに来る日課になってます 応援しております

12: SS好きの名無しさん 2019-11-23 22:35:25 ID: S:IL612t

この作者のガラスのシリーズ最高ヽ(・∀・)ノ

13: SS好きの名無しさん 2019-11-25 15:49:40 ID: S:QXfzKW

最高!!!

期待してます!!!!

頑張って下さい!!!!!

14: みがめにさまはんさみかたき 2019-11-28 00:03:37 ID: S:rk7PvM

体に気を付けながら毎コンマ秒更新して

15: SS好きの名無しさん 2019-12-02 23:43:22 ID: S:L_lFTc

一回読めばわかるおもろいやつやん!!

16: SS好きの名無しさん 2019-12-14 23:22:21 ID: S:7hstx9

生きがい
まだまだ続きそうなので何年もお供しますよ!

17: SS好きの名無しさん 2019-12-20 17:16:15 ID: S:dJbtmf

続きが死ぬほど楽しみ

18: SS好きの名無しさん 2019-12-21 10:53:30 ID: S:j3bxZ7

お、カッコカリ来た!?

19: SS好きの名無しさん 2020-01-02 23:09:42 ID: S:wNJ7vJ

危険、かなりの中毒性あり。もう、この作品から逃げられない。
最高です(* ̄∇ ̄)ノ


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