2019-03-09 04:31:04 更新

概要

第一部 その②です。
長いので区切りました。


憧れと嫉妬とひとつの出口




【鎮守府内 執務室】



鈴谷(それにしても提督も鬼だよねえ、弥生をけしかけるなんてさ…)



弥生が去ってから少しの時間が経っていた。

満潮と武蔵はは立ち上がれないほどに落胆した卯月を部屋へ連れて行って、残ったのは摩耶、鈴谷、木曾、瑞鶴だった。



長月「おい、弥生がこっちに来なかったか?」



そこへ弥生が心配になって追いかけてきた長月と文月がやってきた。



摩耶「…」


木曾「…」


長月(な、なんだこの暗い雰囲気は?)


鈴谷「さ、さあ?執務室じゃないかな?」



沈黙に耐え切れなくなった鈴谷が辛うじて答える。



文月「そっかぁ…心配だねぇ…」



文月が心配そうに俯く。



鈴谷「どうかしたの?」


長月「ああ、弥生が遠征から帰ってきた司令官の顔を見るなり飛び出して行ってな」


鈴谷「ん?」


文月「しれーかん、階段から落ちたって言ってたねえ、すごく痛そうだったねぇ」


鈴谷(え…?階段から落ちた…?)



鈴谷は提督が自分達にやられたと弥生に言ってけしかけてきたんだと思っていたがその予想は外れた。

それどころか自分達がやったことを隠し、むしろ庇われていたことに驚いた。さらに…



長月「あのケガではな…帰ったら料理を作ってくれるって言ってたが今回は仕方ないな」


鈴谷「りょ、料理っ!?」



鈴谷の背中に先程の摩耶と同じような冷や汗が流れる。



長月「ああ、遠征に出る前にな、好きなものを聞かれた」


文月「帰ったらご褒美に作ってやるって言ってたのにね、時間が無かったって言ってたけど…」


長月「あれだけの大ケガだ、またの機会を楽しみとしよう」


鈴谷(ちょ、ちょっちょっと待って、料理って…え?嘘でしょ)



執務室で鈴谷が破壊した料理道具、あれは提督が長月達のために用意したものだと鈴谷は気づいた。

罪悪感からか長月達をまともに見れない。



鈴谷(私、摩耶のこと言えないじゃん…)


長月「じゃあ私達は執務室へ行ってみる、もし弥生を見かけたら教えてくれ」



長月と文月は弥生を探して執務室へ向かった。

鈴谷は二人が去るまで俯いたままだった。







_____________________








瑞鶴(まるでお通夜ね…)




成り行きでその場に留まっていた瑞鶴はある約束を守るため、協力を切り出すチャンスを伺っていた。


『次の演習で提督に従うこと』


それは加賀に言われた約束だった。


演習の後、加賀に出くわした。

どうせ嫌味の一つでも言われるのであろうと構えていた瑞鶴に対し加賀が放ったのは一言。




『約束、忘れないでね』



ただそれだけだった。


何か小言か嫌味を言われるのであれば反発してやろうと思っていた瑞鶴にとっては予想外で拍子抜けしてしまった。

それと同時にムキになって意地でも約束を守ってやろうと思った。

例え一人で出撃することになってでも、と思っていた。

しかし瑞鶴もプライドの高い正規空母であるため演習に出るなら勝ちたい、ましてやそれがあの厭味ったらしい上官の部隊なら尚更だ。



瑞鶴「ねえ」


沈んだままの摩耶、鈴谷、木曾に声を掛ける。



瑞鶴「私、明日の演習も出ようと思っているんだけど」


摩耶「え?」



何言っているのか余り理解できなかったのか摩耶が少し間の抜けた返事をする。



瑞鶴「え?じゃないわよ、明日の演習に出るって言ってるの。あなた達も協力してよね」


鈴谷「何言ってるの~、勝てる見込みなんてないよぉ」



机に突っ伏したまま鈴谷が答える。

先程の長月達の件が相当堪えたようだ。



瑞鶴「確かに無いわね、今のところは」


木曾「?」



含みを持たせた瑞鶴の言い方に木曾が気になって顔を上げる。



瑞鶴「作戦も対策も立てずに勝てる相手じゃないことくらい私にもわかるわよ、だったら作戦と対策を立ててもらおうじゃない」


摩耶「まさか…」


瑞鶴「そのまさかよ、提督にやってもらいましょ?」


木曾「無理に決まってるだろ…」


鈴谷「瑞鶴、今日の演習で頭おかしくなったんじゃない…?」


瑞鶴「しっつれいね!私は正常よ!」



せっかくの提案を失礼な返事で返されて頭に血が上る。



瑞鶴「そりゃあんた達は提督を事実無根の罪を擦り付けたうえ、容赦なく殴ってさらに思い出の品まで破壊したかもしれないけどさ」


摩耶「うぐっ…」


鈴谷「う~…」


木曾「…」


瑞鶴「弥生が言ってたじゃない、少しは信用してって。あの子にあれだけ泣かれて後味悪いでしょ?少しは行動起こしてもいいんじゃないの?」



瑞鶴とて提督は嫌いな存在だ。

しかし今は勝つため、そして弥生のことを考えて自分の気持ちを封印している。

そして同じ艦娘の弥生があれだけ悲しそうな思いをして放っておくことはできないらしい。



瑞鶴「それでも嫌ならいいわよ、私は一人でも行くから!」



そう言って瑞鶴は立ち上がり執務室に向かっていく。


その後ろで摩耶、鈴谷、木曾が立ち上がりゆっくりとついていった。









【鎮守府内 執務室前】


コンコンッ。


瑞鶴は執務室前に着くなりさっさとノックをした。

後ろの3人に考える間を与えないためだった。



弥生「…何?」



ドアを開けたのは提督ではなく弥生だった。

目は先程の泣いた後なのかまだ赤い。

不機嫌を通り越して敵意の眼差しを摩耶達に向ける。



弥生「何しに来たの…?」



また提督を傷つけられると警戒しているのだろうか、身構えて摩耶達から目を離さない。

その敵を見るような睨みに思わず怯みかけた。



摩耶「何もしねえよ、しないから、な」


鈴谷「そんな顔しないでよ…」



弥生から完全に敵として見られることが堪えるのか摩耶が両手を開いて何もしないアピールをする。



提督「弥生、いいよ、入ってもらえ」



奥から提督が部屋に入れるよう弥生に言ってくれた。

ぞろぞろと4人は執務室に入る。






提督は部屋に迎え入れたものの、4人を見ず弥生を手招きする。



提督「弥生」



弥生が近づいてきたところで優しく両の頬を掴む。



提督「弥生、そんな怒った顔をするな」


弥生「別に…怒ってないです…」



両の頬を離して頭を撫でてやる。



提督「怒ってばかりいると心まで怒って戻れなくなるぞ、な?」


弥生「…」



頭を撫でていると弥生が申し訳なさそうに俯く。

だが決して嫌そうな顔をせずじっとしている。



提督「心配してくれてありがとな」


弥生「うん…」



そんな二人のやりとりを4人は眺めていた。

明らかに弥生が提督に懐いており卯月の言っていたことが嘘(と言っても卯月も騙されたのだが)だということがわかる。



提督「で?お前らは何の用だ?」



弥生を撫でたまま目を合わせようとはせず提督が聞いた。


瑞鶴は摩耶を見る、摩耶は鈴谷を見る、鈴谷は木曾を見る、木曾は瑞鶴を指さす。

どうやら誰が主導権を握って話すか決めてなかったらしい、無言で喧嘩しているようだ。



提督「あー、もう、用があるから来たんだろう。瑞鶴、何の用だ」



この中で提督のリンチに参加しなかったので聞き易かった瑞鶴に聞いてみる。



瑞鶴「明日の演習で指揮を執ってほしい」



はっきりと要求を言ってきた。



瑞鶴「ってこいつらが言ってた」



と思ったら逃げ道を作ってきた。



摩耶「お、おい!?」



瑞鶴は明後日の方向を見て知らんぷりしてる。



摩耶「…あ、あの…」



下を見たり上を見たり弥生の方を見たり視線に落ち着きが無い。



摩耶「そういう、わけ…だ…です。」



結局下を向いてこちらを見なかった。



鈴谷「正直…今のところ勝てる見込み無いし…」



鈴谷も明後日の方向を見ながら言う。



木曾「……頼む…」



木曾はぺこりと頭を下げた。










提督「…」



正直何様のつもりだと思った。

あれだけのことをしておいてよくもそんなことが言えるな、と。

それが人に、ましてや司令官に頼む態度か、と。


その場で一喝するどころか全員の髪を引っ張って顔面に数発入れてやりたくなった。

(もちろん相手が反撃しないのを前提に、だが)



前も、その前も、さらにいくつかの着任した鎮守府でもそんな感情を持ったことは無かった。

艦娘に対してそのような気持ちになったのは初めてだった。



提督(くそ…!)



しかし目を閉じて、胸に手を当て、先程の泣いていた弥生のことを思い出す。


ごめんなさい、ごめんなさい、と。


彼女は何も悪いことはしていないのに仲間のために、仲間に代わって謝った。

そんな彼女の目の前で摩耶達に復讐したところで彼女は喜ぶだろうか。


考えるまでも無く弥生は悲しむだろう。

自分がここで艦娘達に手を上げてもきっと何も言わないだろう。

だがそんなことをしても何も変わらない、何も始まらない。


提督「怒った時ほど…」


鈴谷「え?」


提督「あ…」


思わず声に出していた、艦娘達によく言い聞かせていた言葉だ。

『怒ったとき、焦ったときほど冷静に』

自分の中でその言葉を反復させて気持ちを落ち着かせた。



目を開けて摩耶達を見る。



提督「お前達、ここに来て艦隊として出撃したことは?」


瑞鶴「え?」


提督「6人で陣形を組んで出撃したことはあるか?」


摩耶「無い、無いよ」


提督「誰がどこまでできてどこまでできないか、何が得意で何が苦手か、どの敵が得意でどの敵と戦い難いか、把握している者はいるか?」



鈴谷、木曾が顔を見合わせてこちらを見て首を横に振る。



提督「今の艦隊で旗艦を務められそうな者はいるか?」


瑞鶴「いないんじゃない?まとめる人もいなかったし」


提督はため息をついた。


提督(出撃中に提督よりも早く指示を出して臨機応変に対応できる者はいない、か…となると…)


つい神通の顔が思い浮かび苦笑いする。

前の鎮守府では出撃に関しては頼りになったのが神通だった。



提督(俺は彼女に頼り切りだったんだな…)



だがその神通はいない、自分の力で何とかするしかない。




提督「わかった、明日08:00に集合をかける、作戦を考えておくからそれまで待機していろ」


摩耶「じ、じゃあ指揮してくれるのか!?」


提督「ああ」


摩耶「よおし!これであの嫌味野郎に一泡ふかしてやれるぜ!」


提督(野郎?)


提督「…」


提督(そういうことか、相手の編隊が読めたかもしれんな)



提督は手を口元へやって考える仕草を見せる。



提督「条件がある」


瑞鶴「何よ」


鈴谷「…!」



瑞鶴以外の3人は後ろめたさを持ってか少し緊張した表情を見せる。



提督「編成、作戦、演習中の指示には全て従ってもらう、それができなかった時点でそれ以降の指示は一切しない」


木曾「な…」


提督「できるな?」



提督は強気の姿勢で4人を見る。



瑞鶴「わかったわ、どうせ今のままじゃ勝てないだろうし私は構わないけど」



瑞鶴はあっさりと了承した。

他の3人はそれにつられ首を縦に振った。



提督「よし、それじゃあ解散、今日はさっさと寝ろ」



この後すぐにでも作戦を練りたかったので艦娘達を部屋からさっさと出すことにした。



提督「弥生、お前も…」



早く寝ろ、と言い掛けたところで弥生が優しく手を握ってくる。



弥生「司令官…ありがとう…ありがとう…」



俯いて弥生がお礼を言ってくる。その声には元気が無く申し訳なさが伝わってくる。

彼女達を咎めることなく明日の演習の指揮の約束をしたからだろうか。

提督は優しく弥生の頭を撫でてあげる。



提督「弥生のおかげだよ、ありがとうな」


弥生「え…」


提督「俺はもう大丈夫だから休んでくれ」


弥生「うん…」



笑顔で言ってやると安心したのか弥生は離れ、振り返って頭を下げた後、執務室を出て行った。






提督「さて…」


提督は机の中で荒されても無事だった演習用の資料を取り出した。



_____________________



【鎮守府内 廊下】


弥生は廊下に出てすぐ走って摩耶達に追いついた。



摩耶「あ…弥生…」


鈴谷「えーっと…」



先程のこともあってかなんと声を掛けて良いものかわからないようだ。



木曾「さっきは…すまなかったな、嫌な思いをさせて…」


弥生「…」



弥生は怒ったような顔、ではなく明らかに怒りを露わにした表情で3人を見る。



瑞鶴(か、帰りたい…私関係ないよね…?)



自分は無関係と思っている瑞鶴も動けなくなるほどの雰囲気を出していた。


弥生「私のことなんてどうでもいい…」


鈴谷「え…でも…」


弥生「謝る相手が…違うんじゃない…?」



睨んだまま弥生が言う。

反論が許されないその雰囲気に皆黙って聞いていた。



弥生「司令官は…何も言わなかったけど…一番痛い思いも、辛い思いも、悲しい思いをしたのは…司令官でしょ?何で謝らないの…?ねえ…!」


摩耶「あっ…その…」


鈴谷「…」



段々と俯きながら弥生は絞り出すように言った。

その真剣さに4人とも声が出ない。

何と言っていいかもわからない。

少しの沈黙の後弥生が続ける。





弥生「明日の…演習…」


摩耶「え?」


弥生「明日の演習で…司令官の作戦で…勝てたら…謝って…」



弥生が演習の勝利を条件に提督に謝るよう言ってきた。

提督のことを心から信用していなければ言えないことかも知れない。



弥生「そして、少しでもいいから信用して…お願い…します…」



苦しそうに、悲しそうに弥生が頭を下げてお願いする。

先程まで怒ったように言ってきたのに最後は悲痛な願いとなっていた。



木曾「わかった、約束する」


鈴谷「私も」


摩耶「ああ、だからもうそんな顔しないでくれ」



そんな弥生の願いをしっかり聞き届け3人は約束した。

隣で瑞鶴がほっとしたかのようにため息をついた。




その日のうちに摩耶達には武蔵、満潮、朝潮に明日の演習に出てくれるようお願いをして回った。

卯月は部屋にいたがまるで反応しなかった。


弥生はさすがに今日は卯月と顔を合わせられないようで長月達の部屋で寝ることにした。




【翌朝 鎮守府内 執務室】


翌朝、08:00に館内放送を使って艦娘達を集めた。

執務室に集まった艦娘達は全員ではなく卯月が来ていなかった。


提督「卯月はどうしたんだ?」








全員から返事が無かった。


提督「弥生は同室じゃなかったか?」


弥生「知らない…」


弥生はそっぽ向いて返事をする、喧嘩でもしたのだろうか?


提督「まあいい、今日の演習のメンバーを発表する」


提督は机から資料を取り出して読み上げる。


提督「旗艦に満潮」


満潮「はぁ!?」


全員が耳を疑った。

セオリーで言えば装甲、耐久とも低めの駆逐艦を旗艦にするのはあり得ない。

提督は本当に勝つ気があるのだろうかと疑う。

その疑いを行動に移したのは摩耶でも鈴谷でも木曾でも瑞鶴でもなかった。


武蔵「…っ!!!」


武蔵に胸倉を掴まれて身体を引っ張られる。

まだ痛む身体が軋み顔をしかめる。


弥生「やめてっ!!!!!!!!」


殴られると勘違いしたのか、隣にいた弥生が突然叫び声を上げて武蔵の腕をつかむ。

しかし駆逐艦である弥生と最強クラスの戦艦である武蔵では力の差がありすぎてビクともしなかった。


提督「弥生、大丈夫だよ」


手を出されないことを確信してか提督は冷静に言った。


提督「武蔵、反論があるなら作戦を一通り聞いてからにしてくれないか?」


武蔵から目を逸らさず強気の姿勢で動じない提督を見て武蔵は手を離した。

そして反抗的な目を見せている満潮に視線を移す。


提督「満潮は不服か?」


満潮「当たり前でしょ!そんなふざけた旗艦誰がやるもんですか!」

満潮(私に報復するつもり?それとも…)


提督「そうか、今回の作戦は別にお前でなくてもいい」


満潮「え?」


そこで視線を満潮から朝潮へ移す。


提督「朝潮、旗艦頼めるか?」


朝潮「え!わ、私ですか!?」


満潮「な、何言っているの!!」


提督「駆逐艦であれば今回の旗艦は誰でもいい」


文月「しれぇか~ん、私は~」


提督「お前ら3人は長期遠征帰りだから今日はお休みだ、まだ疲れが残っているだろう?」


長月「そうなのか…いや、確かにそうだが」


朝潮は受けるか迷っているようで提督の方を見れず視線が定まらない。


提督「朝潮、受けてくれるか?」


朝潮「わ、私は、あのっ」


満潮「私がやる!やるから!朝潮にこんなことさせられるわけないでしょう!」


朝潮がこちらを向き受けてくれそうなところで満潮が割り込んだ。


提督「そうか、じゃあ次、旗艦近くの随伴に武蔵」


武蔵「…っ!」


目の前の艦娘達がまたざわつく。

通常なら戦艦の随伴に駆逐艦が付くはずなのだが提督の編成は真逆である。

そして武蔵はここに来て一度も出撃していない。

そんな彼女が演習に出て大丈夫なのだろうか。


提督「まあ旗艦の盾ってところだな、次」


武蔵が考え込むような反応を示したが提督は無視してさらに続ける。


提督「旗艦後方に摩耶、さらにその後ろは瑞鶴、左に木曾、右に鈴谷だ。次に装備だが…」


一々艦娘達の反応を気にしていたら進まないので一気に済ませることにした。

装備は摩耶に対空機銃をメインに、鈴谷に制空権を補助できる瑞雲を、瑞鶴には烈風を2つと爆戦、そして彩雲、満潮には対空電探と水上電探、そして高角砲、木曾には…


提督「木曾、魚雷を2つとも外して主砲と副砲に戻しておけ」


木曾「…了解」


装備を以前明石に作らせた主砲と副砲に戻すように言った、以前と違って渋々とではあるが了承してくれた。


提督「最後に武蔵、お前には主砲2つ明石に準備させている、それと増設バルジ、あと水上電探だな。今身に着けている電探はもう古い、それは外して…」


武蔵「ま、待ってくれ!この電探は…外せない、外したくないんだ…」


提督が装備を変更するよう言っている途中で武蔵が割り込んだ。

彼女の声を聴いたのはここにきて自己紹介依頼初めてかもしれない。

彼女の表情からは譲れない気持ちが感じられる。

誰かから贈られたものだろうか?


提督「わかった、電探はそのままで良い。その変わり明石にメンテナンスはしてもらえ。もう壊れかけているだろう」


武蔵「…ああ」


提督「全員装備を揃えて16:00の演習に間に合うように準備や試し撃ちをしておけ、じゃあ解散」


少し腑に落ち無い表情を見せながら皆執務室を出て行こうとする。


提督「ああ、摩耶、お前は少し残れ」


摩耶「あ、ああ?」


いきなり呼び止められ摩耶は怪訝な表情を見せる。

心配になったのか弥生が出て行こうとしたのに戻ってくる。


提督「弥生、大丈夫だから」


そう弥生を見て言ったら少しためらった後出て行った。




執務室には摩耶と提督が残された。








【鎮守府内 工廠】


木曾「…」


木曾は魚雷を外し主砲、副砲に換えようとしていたところだった。

外した魚雷を見つめ、過去のこと、姉達のことを思い出す…。








【過去 木曾のいた鎮守府】






俺には4人の姉がいた。


長女の球磨姉は分かり易いくらいの圧倒的火力で深海棲艦を沈めてきた。

敵重巡洋艦だって目じゃない、夜戦になれば尚更だ。


次女の多摩姉はバランス型。

野生の感…というのだろうか、味方の足りないところや危険なところを瞬時に見極め、砲撃、雷撃、対潜とそつなくこなしフォローが得意なタイプだ。


三女北上姉と四女大井姉は重雷装巡洋艦へ改装してからというもの、向かうところ敵無し、その雷撃の威力は戦艦すら一撃で沈めてしまう。あっという間に艦隊の主力となった。


そんな姉達の中で俺、木曾は球磨型軽巡5番艦として着任した。

着任当初から姉達同様に期待を掛けられてはいたが普通の軽巡洋艦である俺は能力が尖がっているわけでもなく、多摩姉みたいに器用に立ち回れるわけでもないため、いつの間にか期待は落胆へと変わっていった。


俺は姉達とは違う…そう自分に言い聞かせる毎日が続いた。





そんな自分に転機が訪れる。

重雷装巡洋艦への改装が決まった。

正直気に入らない提督だったがこの改装の話を持って来たことには素直に感謝をした。


湧き踊る心を抑えるのに必死だった。


周りも提督も、姉達も期待してくれているのがわかった。


俺もようやく姉達と肩を並べて活躍できるのだと、にやける自分の顔を戻そうとするのに必死だった。





しかしその期待も落胆に変わるのにそんなに時間が掛からなかった。





ここの提督は戦闘をとにかく先制で押し切るのが好きなタイプで空母や北上姉、大井姉を中心とした艦隊を組むことが多かった。

自分も重雷装巡洋艦へ改装されたことでこの主力艦隊の一員として選ばれた。

最初は誇らしくて、嬉しくて、姉達の喜ぶ顔が見れて本当に良かった、そう思っていた。








主力艦隊に選ばれた焦りからなのか、新しい改装がまだ馴染んでいなかったのか、自分は思うような結果が残せなかった。

先制のために装着した甲標的魚雷に更に魚雷を積んで威力を上げたがその魚雷が全く当たらない。

当たっても北上姉や大井姉のような威力が出ない。

自分は軽巡洋艦の時に腕に馴染みやすかった主砲メインで戦っていたため魚雷の扱いに関してはまだまだだった。


そんな過去のことは関係なく提督は自分に対し甲標的魚雷をひたすら使わせ続けた。

その結果…




主力から外され、別の部隊で出撃していた俺が焦って魚雷を乱発した際、大きな隙ができてしまい敵戦艦から砲撃を受けるところだった。


木曾「多摩姉!しっかりしろ!!」


それを庇ったのが多摩姉だった。


多摩「だ、大丈夫ニャ…問題、な…」


そのまま多摩姉は気を失ってしまった。

幸い大事には至らず多摩は無事修理することで復帰できた。


しかし自分は増々思考の悪循環に陥り立ち直れなくなった。

後日提督に呼び出され、姉達共々説教となった。







【過去 執務室】


提督「全く、お前にはがっかりしたぞ木曾。こんな出来損ないとは思わなかったわ」


木曾「…」


木曾は全く反論しない、それどころか反応すらしない。

すっかり自信を無くした木曾は提督の言われるがままだった。


提督「せっかく重雷装巡洋艦への改装となったのに、お前にどれだけの時間と金を費やしたと思っているんだ!この役立たずめ!」


そんな中で我慢の限界が来てしまった艦娘がいた。







大井「作戦が悪いのよ…」









北上「ちょ、大井っち」


その場にいる全員が大井を見た。

大井はボソッと言ったがその音量ははっきりと聞こえる声だった。


提督「なぁに~?大井、今なんと言った?」




やめろ、大井姉…





提督が徐々に怒りの表情を露わにして睨んでくるが大井は怯まず続ける。


大井「ついでに言うと指揮も最悪ね、木曾の長所も考えずただ魚雷ばかり無理に使わせて、おまけに疲労しているのも無理して出撃させれば何しても良い結果が出るわけないじゃない!」





これ以上俺を…





提督「キサマ…」


提督がポケットから特殊警棒を取り出した、あれはたまに見る提督の制裁用の警棒だ。

その凶器が大井に向けられていた。







木曾は我慢できなかった。自分のために庇う大井に、大井に制裁を加えようとする提督に、そして自分に…。






バキィッ!!




提督「ぐっ、木曾!この出来損ないがぁぁあああああ!!!」





木曾は提督に暴力を振るってしまった。

傍から見たらそれは大井を庇ったように見えたかもしれない。

だが本当は我慢できなかったのだ、自分に、自分自身の中の何かに。






これ以上俺を…憐れまないでくれ…







【過去 鎮守府内 独房】


処分が決定するまで木曾は独房に入れられた。

そんな木曾に北上と大井が面会に来た。


北上「全く、無茶するねー木曾は」


大井「ごめんね、私のせいで…」


木曾「…」


北上「ほら、すぐに出られるよう私達も提督に掛け合うからさ」


大井「出たらすぐに一緒に演習しようか、魚雷の使い方も教えてあげるから」


少し前に球磨と多摩も来た。

同じように励ましてくれた。




本当に良い姉達を持ったと思う。

優しくて、強くて、妹想いで……。




だが今の木曾にとってそれは別の感情を呼び起こす危険なものでしかなかった。






木曾「そうやって…」


大井「ん?」


木曾「上から見下ろして楽しいか…」







違う…






大井「え、どうしたの?」


木曾「出来損ないで悪かったな…」


大井「何言ってるの…!?」


大井が心配そうな、悲しそうな顔をする。

その表情も今は見るだけでイライラする。


木曾「球磨型姉妹の恥晒しで悪かったな!!!」







こんなこと、言いたくない…








北上「木曾、何言ってるのさ!」


木曾「うるせえ!どうせ俺は役立たずの落ちこぼれだ!」


大井「やめて!木曾!」


木曾「魚雷もまともに使えない、当たらない、おまけに庇われて大怪我までさせて…」







でも…吐き出したい…







木曾「俺は、俺は…」




気が付いたら泣いていた。




木曾「姉さん達みたいになれない…」




床に膝をついて顔を隠して泣いた、その間姉達はひたすらに慰め続けた。

その声は一切木曾には届いていなかった。




木曽「なんで…なんでだよくそっ!なんで俺はこんなにも…!うぐっ…うぅぅ…!」




木曾は壊れかけていた。

多くの期待、重圧、喜び、落胆、嫉妬、焦り。

それらの感情に振り回され続け、彼女の心に亀裂が入ってしまっていた。






木曾は泣いた、それらの感情を押し殺し、我慢した分すべて吐き出すかのように…










木曾はその後提督不在の無法鎮守府へと異動となった。

提督への暴力という罪は大きいものであったが彼女が現在でも貴重な重雷装巡洋艦ということもあり、今後受け入れ先があるかもしれないということで解体などの処分は見送りとなった。






彼女は今でも姉達の姿を追って魚雷を敵駆逐艦に浴びせ続けている。

羨ましかったが妬ましかった、でも彼女は姉達が今でも大好きなのだろう。









【現在 鎮守府内 工廠】




木曾は主砲と副砲を見ている。


魚雷を身に着けたときはいつも過去のことを思い出してしまうが、主砲と副砲を見ると今を見つめている気持ちになる。




木曾(そうだ、今回は命令を聞くという約束だ、だから装備は言われた通り…)







木曾は提督の言われた通り主砲、副砲をメインの装備に切り替え演習場へ向かった。

その表情にまだ迷いはあったかもしれない、ただもし結果が出なくても提督の責任にすることができるという開き直りも感じられた。









彼女の護りたかったもの




【鎮守府内 廊下】


摩耶「いい加減にしろ!」


摩耶に殴られ尻もちをついてしまった。


提督「っぐ…!いいから、言われた通りにしないと…」


摩耶「やっぱりてめえなんか信用できるか!クソ野郎!!」


摩耶は提督を放置してそのまま行ってしまった。


提督「ちくしょう…このままじゃ…」


提督は俯いてがっくりしている。

その様子を見ている者がいた。





上官「…うまくやっているようで安心したわ、クックック」




【鎮守府内 工廠】


提督はそのまま工廠へ向かい艦娘達の準備の様子を見に来た。

今は武蔵と明石が残っていてちょうど電探のメンテナンスをしているところだった。


明石「武蔵さん、やっぱりこの旧式の電探を使い続けるのはもう…」


武蔵「頼む、これだけは外したくないんだ、頼む…」


武蔵ははっきりと拒否の反応を示す。

その表情は悲しみを背負っているようだった。


提督「明石、可能の限りメンテナンスしてやってくれ」


明石「あ、提督」


提督の言葉に明石と武蔵は顔を上げる。


提督「だがな武蔵、お前にこれを渡した奴はこれを使い続けることでお前に沈まれて本望なのか?」


武蔵「それは…だが…」


提督「大事な人から贈られたものを手放せない気持ちはわかるがそれがどういう意図で贈られたものか、落ち着いたときにでも考えてくれ」


提督は武蔵に親が子に言い聞かせるような声で言った。

武蔵は頷きはしなかったが否定もしなかった。


提督「それよりも武蔵、戦えそうか?」


武蔵「…」


戦えそうか?というのは武蔵はずっと出撃していなかったので大丈夫か?という意味も込められている。

ブランクはもちろんのこと精神的なものだったら演習に出ても思うように成果が出せないかもしれない。


提督「お前には先に伝えておくが今回の演習は《大破艦を連れた撤退時に空母機動部隊と会敵した》場合を想定している、つまり…」


武蔵がこちらを見上げたため、その目をしっかりと見る。


提督「お前が旗艦を守り切れなければ、そいつは死ぬ」


無表情で冷徹に告げる、武蔵は震え自分を両手で抱きしめる。


提督「お前への命令はひとつ、旗艦を守れ」


心配そうに明石がこちらを見ているが提督は続ける。


提督「お前ならそれができるよ」


そう言って提督は工廠を出ていった。


提督(荒療治だが…この演習、存分に活かさせてもらおう)




明石「武蔵さん、メンテナンス終わりました」


明石がメンテナンスが終わった電探を武蔵に渡す。

武蔵が状態をチェックして壊れかけていた電探が問題なく動くことに嬉しくなったようで笑顔を見せた。


武蔵「感謝する」


武蔵は提督に言われた装備を全て揃え、工廠を後にした。

明石から見た武蔵の背中からは入ってきた時とは別人の力強さを感じた。





【演習場近辺】


球磨と多摩は今回の演習には出ないため観覧席へ向かっていた。

その途中でこれから演習に向かう木曾を見掛ける。


二人は声を掛けようと近づいていったがその足を止めた。


球磨「木曾…」


多摩「力みが取れた、良い顔してるニャ」


演習に向かう木曾は魚雷を外し、装備を主砲と副砲に換えたこと、例え失敗しても提督が責任を取ってくれること(と言っても本人はまだ気が付いていないが)で肩の荷が下りたのか楽な気持ちで演習場へと向かっていった。






【演習場 15:55】


提督の指示通りの装備を整えた6人は演習開始の合図を待っていた。

摩耶は相手艦隊の編成を改めて確認する。


正規空母、雲龍型を3人、軽空母隼鷹、重雷装巡洋艦北上と大井、明らかに先制攻撃をメインに考えた編成だ。


摩耶「あいつの言った通りになったな…」






【数時間前 鎮守府内 執務室】


皆が執務室を出て行こうとするところで声が掛かった。


提督「ああ、摩耶、お前は少し残れ」


鈴谷と目が合った、少し心配そうな表情をしていたが覚悟を決めて残ることにした。





提督「作戦が予定通り進められるよう少し念を押しておく必要がある」


二人だけになって少し間があった後提督から言ってきた。

最初は何のことかさっぱりわからなかった。


提督「摩耶、後で俺をぶん殴って罵倒を浴びせろ」


摩耶「は、はぁ!?」


てっきりこの場に残されたのは先日の暴力を振るった件と古鷹達のバックルを破壊した件で何か言われることだと思っていたので呆気に取られて変な声を出してしまった。


提督「ああ、すまん。説明が先だったな」


気を取り直して提督が資料を見ながら説明する。


提督「相手の司令官はこの演習での勝利を上へのアピール材料としたいはずだ、従ってスマートな勝ち方を狙ってくる可能性が高い。相手の編成は先制メインの空母機動部隊を予想しているのだがその編成が外れると正直今のうちの編成では勝つのが難しくなる」


先程の作戦内容をもう一度確認する。


提督「そこで、あの上官の前で俺を殴ってほしい。お前たちが俺に従っていないことを確認できれば安心して空母主体の編成で来るだろう、観戦もほとんど積まずに…な」


確かにあの嫌味な挑発をしてきた上官ならその策に引っかかりそうだ、わざわざ艦娘に対し挑発にやってきたのも演習に出てほしかったからだろう。

しかし今の摩耶にはそんなことはどうでも良かった。


摩耶「なんで…」


提督「ん?」


摩耶「どうしてそこまでするんだ?なんであたし達に協力してくれるんだ…なんで…」




何も言わないんだ…




ずっと提督に対して負の感情しか持ち合わせていなかった摩耶だったが申し訳なさが湧いてきて俯いてしまう。

それ以上は言葉にできなかった。





提督「なんであれだけ痛めつけたのに?」


摩耶「え?」


そんな摩耶に提督は平然と言ってくる。


提督「砲撃でぶっ殺そうとしたのに?」


摩耶「っぐ…」


提督「ある人から贈られたとても大事にしていたバックルを破壊されたのに?」


摩耶「うぅ…」


提督は恨みがましい声と表情で摩耶を責める。


提督「はっきり言ってお前らを許す気はさらさら無い」


摩耶「…」


やっぱり先日のことを責められ摩耶が俯く。

以前の自分だったら反論するか反抗してさっさと帰ってしまうのだが全て自分に責任があるため俯くしかできなかった。

そんな摩耶を見て提督はため息をつく。


提督「無い、と思っていたんだがなぁ。先日合同遠征から帰ってきた弥生が何て言ったと思う?」


摩耶「え?」


急に話題を変えられた?と勘違いして提督を見上げる。


提督「何度もごめんなさいって言われたよ、泣きながら」


摩耶「弥生が…」


あの卯月を殴り飛ばした夜のことだろう。

なんでごめんなさいなのか、摩耶はすぐにその想いを察した。


提督「そんな弥生を見たらな、何とかしてやりたくなるのはしょうがないだろうが」


提督のその表情は真剣そのもので本当に弥生を大事に思っていることが伝わってきた。


提督「そういうわけだ、今回は協力する。お前も力になってくれ」


弥生の気持ちに報いたいのは摩耶も同じだ。

顔を上げてはっきりと同意の意味を込めて頷く。


提督「ああ、それと…」


にやりと笑いながら提督が続ける。


提督「俺はあの上官が大っっっっ嫌いなんだ!あいつの慌てふためく顔が見させてくれ!」


お前も同じだろう?と言った顔で摩耶を見る、そんな提督を見て摩耶もニヤリと笑った。






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【鎮守府内 司令部施設】


演習場へ指示を送ったりモニターで状況を見ることができる司令部施設で提督と上官が対面した。


提督「今日は…よろしくお願い…します…」


上官「ふんっ」


頭を下げて挨拶する提督に対し上官は鼻で返事をする。

だが内心は元気のない提督を見て上機嫌だった。


上官(先日の件もあってやはり艦娘達と上手くやれていないようだな。この演習で綺麗に勝って評価を上げさせてもらおうか。そしてこの鎮守府の解散の足掛かりにさせてもらう)


モニターに向かい指示用のマイクの近くで二人とも座る。


先輩「お二人とも準備はよろしいですね?」


先輩が今回もアナウンスを務めてくれることになった。

提督のケガの具合が心配で自ら志願してくれた。


上官「いつでもいいぞ」


提督「はい…」


元気のない提督を先輩は心配そうに見たあとモニターとマイクに向かう。





先輩「3…2…1…全艦演習開始!」







【鎮守府近辺の演習場 16:00】


雲龍「稼働全機、発艦始め」


上官の部隊の旗艦、雲龍の号令と共に3隻の正規空母と軽空母隼鷹の艦載機が発進する。

その構成はほとんどが艦攻、艦爆で制空を取りにいくつもりは無いらしい。



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提督「鈴谷、相手の状況見えるか!?」


上官「なっ!?」


相手が動いたのと同時に提督がマイクに向かって声を掛ける。

その光景が信じられないのか上官は目を疑っている。

先輩もビックリしてモニターから目を離してこちらを見た。




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鈴谷「うるさっマイク近いっ!えーっと、うわぁ!艦載機が大量に向かってくるよ!」


先に瑞雲を飛ばしていた鈴谷が相手の状況を確認する。


提督『瑞鶴!準備は出来ているな!』


瑞鶴「言われなくても!全航空隊、発艦はじめ!」


瑞鶴が大量の観戦を飛ばし相手艦攻、艦爆を落としにかかる。


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加賀「あら…」


先日に続き観戦に来ていた加賀が嬉しそうな声を上げる。


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上官「貴様!どういうことだ!!」


上官がこちらを見て怒声を上げる、その表情に余裕は一切ない。


提督「すみません!指示を出してはいけなかったでしょうか!?」


提督は内心必死に笑いを堪えとぼけた返事をする。


上官「ぐ…大井!北上!やれ!」


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大井「ッチ、うっせーな…」


北上「大井っちー、聞こえないように言ってねー」


二人は余裕を見せながらもいつの間にか甲標的魚雷を発射させていた。


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上空では瑞鶴の放った烈風が次々と相手の艦攻、艦爆を撃ち落す。

しかし数が多すぎてどうしても限界が来る。


瑞鶴「結構残ってるよ!」


摩耶「よぉっし!出番だな!」


提督『摩耶!まだ早い!もう少し引き付けろ!』


摩耶が早速機銃を放とうとしたが提督から待ったが掛かる。


摩耶「りょ、了解!」


いきなり後ろに引っ張られるような気持ちになったが提督の指示にしっかりと従うことにした。


提督『武蔵、来るぞ!全力で守れ!!』


武蔵「ああ…」


武蔵は満潮の前で身構えて艦載機の攻撃に備える。


満潮「武蔵さん…」


武蔵「私の後ろから動くなよ?」


そう言った武蔵の顔は笑顔だった。


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隼鷹「ちょっと!次々と落されているよ!」


雲龍「提督の読みが外れた…!?」


上官の艦隊は想定外のことが起こり混乱し始めていた。


上官『開幕でケリをつけろ!徹底的に旗艦を狙え!!』

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提督『摩耶、今だ!撃てっ!!』


摩耶「よぉっし!全門斉射!!!」


摩耶が対空機銃を全力で放つ。

見たことも無いような大量の撃墜を見せた。


摩耶「くそがっ!これでも全部落せねえのかよ!!」


それでも敵艦載機の量は多く、残った艦載機は旗艦を狙って攻撃をしてきた。


木曾「武蔵!一緒に魚雷も来るかもしれない!備えてくれ!」


木曾が相手雷巡の攻撃を予想し武蔵に伝える、武蔵は頷き攻撃に備えている。





先輩『戦艦武蔵、中破』





満潮「武蔵さん!」


武蔵に艦攻、艦爆と大井、北上の魚雷が直撃した。

元々攻撃に備えてなかったら耐え切れなかっただろう。


武蔵「満潮…無事か…」


満潮の心配とは逆に武蔵は満潮を心配する。


満潮「武蔵さんのおかげで私は…」


武蔵「そうか…木曾、お前のアドバイスが無かったらやばかった、感謝する」


木曾「い、いや…俺は」


提督『木曾、魚雷を撃て!牽制だから適当で構わん!』


木曾「わ、わかった!」


指示を受け木曾が魚雷をすぐに放つ。

特に標的を決めず相手艦隊に向かって進んていく。


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大井「…!?魚雷接近!皆、気をつけて」


いち早く木曾の放った魚雷に気が付いた大井が注意を促す。

全員回避できたが次の艦載機の準備をしていた空母勢はバランスを崩しやり直しとなった。


上官『何をやってるんだ!あのポンコツ戦艦に対してこの様はなんだ!!』


上官から艦娘達への罵声が飛ぶ。

大井が隠す気も無い舌打ちをする。


上官『さっさと次の砲撃戦で旗艦を落とせ!あの戦艦もろともな!』


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提督『皆!良く凌いだ!武蔵、まだいけるな!?』


満潮「ちょっと!あんたまだ…!」


武蔵「ああ、問題ない、いつでもいけるぞ!」


満潮の心配をよそに武蔵は戦闘態勢を取る。





武蔵(この痛み…この匂い、この高ぶり…久々に戦場に戻ってきた気がしてきた!!)





武蔵「喰らえぇぇぇ!!!」


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葛城「うそっ!うわぁぁぁぁっ!!」


誰も、上官も予想していなかった武蔵からの砲撃が葛城を直撃した。

上官からは武蔵は一切戦えないと言われていて油断していたというのもあるだろう。





先輩『正規空母葛城 大破判定、撤退せよ』





雲龍「くっ負けられない…!」


雲龍が反撃とばかりに艦攻を放つ。

かなりの数を瑞鶴と摩耶に落とされたがそれでもまだ残っていた。


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武蔵「満潮!相手の攻撃がどこから近づいてくるか教えてくれ!私の電探では限界がある!」


満潮「は、はい!2時の方向!やや迂回してきます!」


再び武蔵は満潮の盾となり攻撃を防いだ。


武蔵「っぐ…、大丈夫か満潮…」


満潮「私は大丈夫です!でも武蔵さんが…」


武蔵「なら良かった、この後も相手の動きを見てくれ」


満潮「は、はい!」




この後も相手艦隊は全ての砲撃を旗艦の満潮を狙ってきた。

その度に武蔵が攻撃を防ぐ、なんとか中破状態で留まっていた。


相手空母の攻撃が止みそうになったところで反撃をする。


提督『よし!反撃だ!摩耶、鈴谷、木曾、装備を主砲に切り替えて接近、相手後方を狙え!瑞鶴、3人が狙いやすいように艦載機を飛ばして相手空母を牽制しろ!』


鈴谷「え!?空母の甲板を狙って攻撃できなくした方がよくない!?」


提督『相手空母はもうほとんど艦載機が残っていない!できるだけ今のうちに夜戦火力を減らしていくんだ!』


摩耶「夜戦待ちだったわけね…よし、狙いは後ろの雷巡だな!」


木曾「待てっ!」


攻撃目標を決めて砲撃にかかろうとした摩耶を木曾が止める。


木曾(北上姉と大井姉は俺の攻撃なら読んでくるはず…!)


木曾「俺が残った魚雷を放つ!その後の俺の砲撃に狙いを合わせて撃ってくれ!提督、いいな!」


木曾から提督へ逆に提案を出す。

当初は全て提督に従うつもりでいたが木曾はこの状況でどうしても提案したかったらしい。


提督『よし!木曾の言う通りにしよう!責任は俺が持つ!やってみろ!!』


提督から嬉しい返事が来て木曾は笑顔で魚雷を放つ。

戦場で笑顔を見せるのは初めてだった。

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大井「北上さん、木曾から魚雷が来るよ!」


北上「もう、本当にわかりやすいんだから」


魚雷の軌道をあっさり読んで大井と北上が回避する。

二人の間に距離ができた。


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木曾(俺の予想が当たっていれば…よし!)


木曾は回避行動をした直後の大井を目掛け主砲と副砲を放つ。


直撃とはいかなかったが少しだけ当たって大井がバランスを崩す。


木曾「今だ!やれ!!」


木曾は鈴谷と摩耶に砲撃の合図を掛ける。


鈴谷「うりゃぁー!!」


摩耶「当たれぇー!!」


二人の同時攻撃が大井に直撃した。


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先輩『重雷装巡洋艦大井 大破判定、撤退せよ』




大井「うそ…私が…」


木曾の魚雷がどう来るか予想するのは簡単だった、しかしその油断が木曾の砲撃に当たりバランスを崩すという油断を招いた。


北上「木曾…やってくれるじゃん」


上官『何をやっとるんだ!この役立た…』


大井は途中で通信を切った。


大井「作戦が悪いのよ…」


そして演習場から撤退した



天城「このっ行きますっ!」


天城から艦載機が発進された。


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鈴谷「木曾!危ないよ!」


木曾(まずい、前に出過ぎたか!?)


砲撃のために二人より前に接近をしたがその分戻るのが遅れてしまった。


瑞鶴「私を忘れないでよねっ!」


木曾に迫る艦載機を瑞鶴の烈風が撃ち落した。


木曾「瑞鶴、助かった!」


瑞鶴「このまま反撃するわよ!」


瑞鶴は制空権を確保していた艦載機の爆戦を攻撃に回す。


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隼鷹「わわわっこっちに来た!」


瑞鶴の爆戦が撃ち落されること無くそのまま隼鷹に攻撃を直撃させる。




先輩『軽空母隼鷹 大破判定、撤退せよ』




隼鷹「あっちゃー、油断したぁ…」


上官『お前ら!それでも我が主力艦隊か!恥ずかしくないのか!』


上官から容赦なく罵声が飛ぶ、その声には焦りが見え隠れしていた。

このまま夜戦にいったら正規空母は夜戦で攻撃ができないため上官の部隊は圧倒的不利になる。

どうしてもその前に決着を付けたかった。


上官『こちらの旗艦も無事なんだ!相手旗艦をどうにかして落せ!いいな!』


先に旗艦を落とせば演習は勝利となる。

上官の残された策はそれくらいだった。


雲龍、天城は最後の攻撃とばかりに艦載機を放つ。

北上も魚雷を構えて満潮、武蔵に狙いをつける。


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陣形を戻した提督の艦隊は相手の総攻撃に備えていた。


提督『武蔵!最後の総攻撃だ!耐えきれるか!?』


武蔵「わからん!だが守り切って見せる!」


木曾「北上姉はもう一度狙ってくるぞ!気を付けろ!」


提督『摩耶、鈴谷は相手攻撃後の隙を狙って砲撃!木曾は今から夜戦に備えろ、お前が一番手だ!瑞鶴は観戦を飛ばせ!満潮は武蔵のサポート!』


相手の総攻撃と言うこともあり提督は一気に指示を出す。

全員反論すること無く準備に移る。


武蔵「ぐっ!」


さすがに武蔵は攻撃を浴び続けたのか限界が近づく。

なんとか艦載機の攻撃をやり過ごしたが最後に魚雷が接近する。


その間に割り込んだ者がいた。


瑞鶴「う、うわああああああっ!!」


瑞鶴が武蔵の前に飛び出し満潮ごと庇った。


提督『お、おい!瑞鶴!?』


提督も全く予想していない瑞鶴の動きに驚いた。





先輩『正規空母瑞鶴 大破判定、撤退せよ』





武蔵「なぜ…」


瑞鶴「もう私にできることはこれくらいだったからね、それよりチャンスよ!」


演習場を離れながら瑞鶴が武蔵に目配せをする。

総攻撃の後に摩耶と鈴谷が反撃を開始して相手の陣形が大きく崩れていた。


武蔵「よし!これで最後だ!撃てぇぇぇ!」


残った弾薬を全て撃ち尽くすつもりで武蔵は砲撃を開始した。


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北上「は、早く帰りたい~」





先輩『重雷装巡洋艦北上 大破判定、撤退せよ』





武蔵の放った砲撃は北上に直撃し、撤退せざるを得なくなった。


上官『な、ななな…』


上官は開いた口が塞がらない。

もう夜戦に突入する時間になり自分の部隊は夜戦で戦えるものがいないのだ。


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先輩「さて、夜戦はどうします?」


先輩は上官と提督に聞いてくる。

もし二人ともここで終了と言えば両方の旗艦が残っているので引き分けとなる。


上官「夜戦などしない!貴様も、わかっているだろうな!」


上官が脅しに近い言い方で提督に終了を促す。


提督「はい!このチャンスを逃すなってことですね!夜戦突入お願いします!」


上官「なっ!?」


先輩「でっではこれより夜戦っに突入する」


よく見ると先輩が震えている、笑いを堪えているようだった。


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夜戦に突入すると同時に木曾が全速力で相手艦隊に接近する。


提督『摩耶、鈴谷、木曾、好きに戦っていいぞ!!』


そう指示が飛んだため先に準備をしていた木曾が真っ先に突撃した。

距離を取ってなんとか逃げ切ろうとした雲龍に追いつく。


木曾「それで逃げたつもりか!」


主砲、副砲と至近距離で攻撃を浴びせる。

避けようがない距離のため雲龍は直撃を免れなかった。





先輩『正規空母雲龍 大破判定、撤退せよ』




鈴谷「さてさて、突撃致しましょう!」


そしてさらに鈴谷が天城に接近して照準を定め砲撃をする。

雲龍と同じく至近距離での砲撃は天城に直撃した。




先輩『正規空母天城 大破判定、以上で演習は終了となる、全艦帰投せよ』





結果的に提督の艦隊は圧倒的勝利を納めた。


摩耶「は、はは、やった、やったぞ」


提督『皆よくやった、MVPは旗艦を守り切った武蔵だ、後で執務室に来るように』


提督からの通信はそこで途切れた。


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上官「貴様!よくも騙してくれたな!」


演習が終わるなり司令部施設で上官は提督に食って掛かった。


提督「は?なんのことです?」


上官「とぼけるな!さっき廊下でお前のところの艦娘に殴られていただろう!あれは演技だな!」


提督「廊下で…ああ!」


提督はポンと手を叩いた。


提督「いやぁ、実は摩耶に『お前はもっと露出の多い服に変えろ!』と迫ったところでぶん殴られました、ははは、お恥ずかしいところを見られましたな」


上官「ぐっ…」


上官は言い返す言葉が見つからずイライラして近くの椅子を蹴飛ばした後司令部施設から出て行った。



先輩「ぶっ…あっはっはっはっは!」


ついに笑いが堪え切れなかった先輩が大笑いしてしまう。

それにつられ提督も笑ってしまう。


久しぶりに大笑いして気持ちが良かった。

お互い笑い合った後、提督は武蔵を迎えるため執務室に向かった。


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パチパチパチパチ…


観覧席で演習を見ていた弥生は立ち上がって拍手をした。

それを見ていた文月、そして朝潮も拍手をした。


朝潮(やっぱり司令官はすごい…前と変わっていない…)


朝潮は知っている。

提督がこの演習のために日頃艦娘達の出撃した様子を観察したり過去のデータを全て確認して最善の戦い方を把握していたことを。


朝潮(私は…)


素直に提督のことを尊敬したいのにどうしても心の奥で引っ掛かりを覚える。

皐月、水無月に色々と言われたことがいつまでも気になっていた。


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長月「…」


長月は何かを我慢しているかのように震えている。


長月「すまん!文月、先に戻っていてくれ!」


そして飛び出すように走っていった。


文月「トイレかな~」


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木曾は身体の震えが止まらなかった。


木曾「勝った…勝ったのか…北上姉に、大井姉に…」


未だに勝利の実感が湧かなかった。

となりでは摩耶が鈴谷を思いっきり抱きしめ鈴谷が悲鳴を上げている。

それを見て思わず木曾にも笑顔がこぼれる。

近くでは武蔵が膝をついて倒れそうになっていた、思わず肩を貸すがその重量で自分も倒れそうになる。


木曾「大丈夫か?」


武蔵「ああ、なんとかな…」


そう言う武蔵だがその表情はとても晴れやかだった。

長年の憑き物が落ちたかのようにすっきりとしていて木曾は羨ましいとさえ思った。


満潮も木曾の反対側に回って肩を貸す。

二人で何とか武蔵を連れて行った。







【鎮守府内 執務室】


しばらくして武蔵が執務室にやってきた。


提督「来たか、体の調子はどうだ?」


武蔵「問題ない、むしろ気分が良い」


提督「そうか…」


提督も武蔵も達成感のある表情を見せた。

その後提督が机から何かを取り出す。


提督「間宮券だ、使い方は知っているだろう?演習で勝ったので全員に渡すがお前は2枚だ」


武蔵「おおっ!…あ、いや、何でもない…」


提督(今、半端なく嬉しそうな顔をしたな、甘味好きなのか)


意外な一面を見た気がして思わず苦笑いをする。


コンコンっと小さいノックが執務室のドアから聞こえる。

この小さめの音は駆逐艦の誰かだろう。


提督「どうぞー」


長月「失礼する」


入ってきたのは長月だった。

意外な客に提督も武蔵も目を丸くする。


長月「ひ、一言だけ言いたくてなっ」


焦ったような照れたような表情を見せる。


長月「む、武蔵さんっ!!」


武蔵「何だ?」


長月「あ、あの…今日の演習、今まで見たどの艦娘よりも格好良かったです!!それだけです!」


それだけ言って恥ずかしくなったのか長月は逃げ出してしまった。

その様子に提督は吹き出してしまう。


提督「はは、良かったじゃないか武蔵」


そう軽い口調で言ったが武蔵は少し表情に影を落とす。


武蔵「ふふ…なんで…」


提督「…?」


武蔵「どうして…早くできなかったんだろうなあ…」


頭を抱えて俯いてしまう。

心配になって提督が駆け寄った。


武蔵「提督よ、知っていたんだろ?前の鎮守府のこと…」


提督「あ…まあ、な…」


ばつが悪そうに提督は顔を背ける。







武蔵(清霜…みんな…)


以前いた鎮守府の仲間達を思い出す。


武蔵はそのまま気が付いたら涙を流していた。








【過去 武蔵のいた鎮守府】



武蔵「フッ、随分待たせたようだな……。大和型戦艦二番艦、武蔵。参る!」



提督「待ちわびたぞ!ようやく来てくれたか!」


待ちに待った待望の武蔵が来て提督は大喜びで迎えた。

大量の資材、資金を掛けてついに大型戦艦の武蔵を迎えることができたのだ。


提督「これからはお前を中心に艦隊を組む、存分に働いてくれ!」


武蔵「ありがたい、腕が鳴るな」



自分の腕を存分に奮える現場に来れたことを武蔵も喜んだ。

しかしその喜びは徐々に忘れ去られることとなる。




【過去 作戦海域】


武蔵「遠慮はしない!撃てぇ!!」


武蔵の46センチ連装砲が大きな音と共に砲撃をする。

相手の戦艦を一撃で屠り味方からも称賛の声が止まない。

これで作戦海域の攻略が完了した。



とても気分が良かった。


自分は頼りにされている。

自分は誰よりも強い。


そんな自画自賛をしても許されるような結果を残し続けた。


提督も帰ってくる武蔵を大喜びで迎えた。


提督「さすがは武蔵だ!それでこそ大戦艦だ、お前を意地でも迎えたかいがあったもんだ!!」


提督に認められ、仲間から頼りにされ、充実した艦隊生活をしていた。







だがそんな日々は長くは続かなかった…。




【過去 執務室】


提督「また大破か…それでもあの大和型の大戦艦かっ!!」


武蔵「…」


いつの間にか称賛は罵倒へと変わっていった。

ある大規模作戦の海域攻略を任されていた提督は出撃の度に大破して帰ってくる武蔵を責めた。


その海域では敵艦が空母主体で攻めてきて砲撃前の先制攻撃で損傷を負い砲撃戦で大破までさせられるといったパターンが多かった。

それは武蔵だけでなく仲間の随伴艦も同じだった。

ここの提督は大艦巨砲主義でとにかく戦艦、重巡などの力押しが好きなタイプだった。


しかし頭が固く柔軟な考えができないこの提督は順調に行っているときは良いが、海域攻略が滞り思ったように行かない状況が続くと増々凝り固まり自分の考えを変えないようになってしまった。


その考えはどんどん悪い方へ行ってしまい主力部隊の連続出撃が続き、疲労を無視して無理な進軍をさせられた武蔵の仲間達は敵の砲撃をまともに喰らって海の底へと次々と沈んでいった。

彼女は生き残った。

彼女は生き残ってしまった。

元々頑丈な大戦艦ということもあって装甲も耐久も並ではなかった。

故に彼女は次々と轟沈する仲間達を見送ることとなってしまった。


提督はあと一息、あと一押しといったところで海域攻略が終わるというところで詰まってしまい、最悪の作戦を執る。







捨て艦作戦







いよいよ追い詰められた提督は資源も残った艦娘も限りが来たということで最終で最悪の作戦と執った。


武蔵を旗艦に置いて残りの随伴を全て駆逐艦で行い武蔵を守るというものだった。

意外なことに志願者は集まり出撃を待つのみとなった。


武蔵は誰とも喋らなかった。


少しでも話してしまうともし沈んでしまったときに自分が辛くなるからだった。


そんな近寄りがたい武蔵に怖がらず話しかける駆逐艦がいた。






駆逐艦 清霜 


戦艦に憧れる純粋な艦娘だった。




清霜「む、武蔵さん、初めまして!夕雲型駆逐艦、清霜です!」


武蔵「…」


武蔵は無視して行ってしまった。


清霜「ああ!待ってくださいよ!」


そんなそっけない武蔵を清霜は追いかけていく。





飯の時も風呂の時も演習の時も纏わりついてきて武蔵はついに折れた。


武蔵「はあ…お前はなんで私なんかに付き纏うのだ?」


清霜「だ、だって武蔵さんにずっと憧れて…私も将来戦艦になりたくて…」


駆逐艦で生まれた艦娘は戦艦になることなんてできない。

そのことは武蔵も知っているが目の前の純粋な少女を前にしてどうしても言う気にならなかった。




気が付いたら清霜と話すのが当たり前になっていた。

彼女の夢、目標、姉妹艦等最初は聞いてばかりいた。


しかし次第に武蔵は心を開くようになり逆に話を聞いてもらう側になっていた。

そのうち愚痴も漏らすようになった。


清霜には難しい話もあっただろうが彼女は真剣に聞いてくれて武蔵の心はとても救われた。


ある日、砲弾が当たらないことを愚痴った武蔵に対し清霜は工廠に向かっていってあるものを作成した。

それは小型の電探ではあったが彼女が工廠で一生懸命に作成に協力し武蔵のために用意したものだった。


武蔵「これを…私に?」


清霜「はい!是非!小型ですが性能には自信があります!」


実際に装着すると以前よりも少しだけ視野が広がり砲撃も当たるような気がした。

効果は少しだったかもしれないが武蔵にとって嬉しい贈り物だったためか心が軽くなり気持ちに余裕ができた。

そのため効果は演習で試した限りでは予想以上のものだった。


彼女の想いに応えたい、そして勝利を掴みともに帰りたい。

武蔵の心はその想いで満たされていた。





その想いも長く続くことは無かった。





空母棲姫


その深海棲艦を倒すことによって作戦は終了を迎えるはずだった。

しかしその多彩な艦載機による攻撃でこれまで多くの仲間を失い、武蔵は決め手になる一撃を入れることができず悔しい思いをしていた。


そして今回も…






周りの駆逐艦達が次々と沈んでいく…






その中には…







清霜「武蔵さん…良かった…武蔵…さんを…守…れ…」






武蔵「うぐっ…うわああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁ」






ありったけの弾薬を全て空母棲姫に撃ち尽くす。

しかしそれでも奴は倒せなかった。

倒しきれなかった。




空母棲姫も無事では済まず逃げて行った。


武蔵「待て、待てえええええええぇぇぇぇ…」


大破状態に追い詰められてた武蔵は逃げる空母棲姫に追いつくことは出来ずその場で力尽きた。


武蔵「うぅ、うう…」


負けたこと、逃げられたことへの敗北感よりも仲間が沈んでしまったことの虚無感、喪失感に支配され声も上げず涙だけが流れ続けた。






武蔵の周りには敵も味方も、誰一人として残っていなかった…。







その後、鎮守府は捨て艦作戦を執ったことが明るみに出て提督はいなくなり、鎮守府も解散となった。

最後に残っていたのは武蔵一人だった。


大戦艦ということで引く手数多だった彼女だったがどの鎮守府でも出撃を拒み続け、戦えない大戦艦として無法鎮守府に追いやられることとなった。

彼女としては戦わなくて済む、味方の沈むところを見る必要も無くなると清々したことだろう。


だが艦娘として、戦艦としての本能がうずくのか仲間が出撃しているのを見るとどうしても目をやってしまうのだった。




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【現在 鎮守府内 執務室】


ぽつぽつと、武蔵が昔のことを語った。


武蔵「本当は、護りたかったのだ…皆を、沈んでいく友を、清霜を…」


その目には涙が溢れ、先程の勇ましい戦艦武蔵の姿は無く、後悔を語る一人の少女がいるだけだった。


提督「ある程度予想は付いていたよ、武蔵の過去の鎮守府、過去の戦績を調べた…」


提督は暇な時間を見つけここの鎮守府の艦娘達について調べていた。

武蔵が出撃しなくなった理由が気になり彼女の過去を洗ってみたのだ。


予想は当たっていた。

度重なる周りの艦娘達の轟沈により武蔵は自信と戦意を無くしてしまったのだ。


そんな武蔵に荒療治とばかりに今回の演習に出てもらったのだが…


提督「どうだった?今日の演習は」


涙を拭いて、武蔵は提督を見る。


武蔵「久しぶりに胸が躍る戦いだったよ、それに…」


武蔵は両手を胸の前に置いて少しだけ笑顔になる。


武蔵「最後まで…守れた…」


その顔には実感と安堵が込められていた。


提督「今後も戦えそうか?」


武蔵「協力…してくれるのか?」


提督「もちろんだ、正直なところお前ほどの戦力を眠らせるには惜しいにもほどがある」


明け透けな提督の言い方に武蔵は少し吹き出してしまう。

そして立ち上がり提督に簡単な敬礼をする。


武蔵「提督よ、戦艦武蔵だ。お前にはこれからも苦労を掛けるかもしれない、だが必ず活躍する。見ててくれ」


その表情は実に晴れやかで女ながらに男前で目を奪われるほどだった。


提督「ああ、頼りにしてくれ、俺もお前を頼りにさせてもらう」


そんな武蔵に笑顔で答えた。








武蔵「提督よ」


執務室を出て行こうとした武蔵に声を掛けられる。


武蔵「皆気になっていると思うのだが、前の鎮守府で何があった?」


提督「それは…」


武蔵「お前が秘書艦を沈めようとしたり横領するようにはとても見えないのだが」


提督「すまない…」


提督は机に両手を当てて俯く。


提督「言えないんだ…」


武蔵「…そうか、わかった。これ以上は聞かないようにする」


これ以上は聞こうとせず武蔵は退出していった。






俯いたまま沈んだ気持ちの提督が執務室に残されていた。









一部最終話 鎮守府に差す光明そして影



【演習場近辺】


木曾は武蔵を工廠へ送り届けた後、先程まで戦っていた演習場を眺めていた。

眺めていた、というのは身体だけで頭の中は先程の演習のことで一杯だった。


まだ先程の演習の昂りが消えない。

目を閉じれば演習の光景が瞼に焼き付いて離れない。


そして木曾には嬉しかったことがあった。


それは初めて姉達に勝てたことではなく…




木曾『俺が残った魚雷を放つ!その後の俺の砲撃に狙いを合わせて撃ってくれ!提督、いいな!』


提督『よし!木曾の言う通りにしよう!責任は俺が持つ!やってみろ!!』




あの瞬間がとても嬉しかった。

当初は《提督の指示に全て従わねばその時点で指揮は執らない》という約束であったが、あの場面、あの状況で、あの提案には自信があった。どうしても試してみたかった。

その作戦を、提案を受け入れてくれただけでなく責任も取ると言ってくれた。


目を閉じてあの場面をもう一度思い出してみる。




やはり胸の中で昂りが収まらない。




これまでに出撃した中で感じたことのない昂揚感だった。

木曾は目を開き、海面に写った自分の顔が少し笑顔になっていることにようやく気付いた。






北上「良い顔してるじゃんー」


大井「木曾、ここにいたのね」


後ろから声を掛けられて振り返ると北上と大井が木曾のところへやってきた。


木曾「大井姉、北上姉…」


少し前までは声を掛けられても正直困った。

顔を合わせ辛いはずだった。



だが今の木曾にはそのことが遠い昔のような気がした。



木曾『さっきの演習どうだった!?』

木曾『ど、どうだ?俺も少しは成長したか!?』

木曾『あの装備は…あの作戦は…あの時の動きは…』



言いたいことが噴き出してきそうで堪えるのに必死だった。

そんな挙動不審の木曾に大井が先に声を掛ける。


大井「あの装備は」


木曾「え?」


大井「主砲と副砲はどうしたの?自分で選んだの?」


木曾「あれは…ここへ来てすぐに提督に指示されて…」


北上「すぐに、ねー」


北上が関心したかのように頷いた。


北上「木曾、良い提督に会えたねー」


木曾(良い提督…か…)




木曾はここに来てからの提督のことを思い出した。


来て早々に自分達の出撃した様子を眺めていたこと。


すぐに呼び出され装備を魚雷から主砲、副砲へ変更するよう言われたが反抗したこと。


明石に言われ用意された装備をして出撃、思った以上に自分にフィットしたこと。


泣いている卯月を見て、弥生が提督に乱暴されたと聞かされて怒りで血が沸騰しそうになったこと。


提督に容赦なく理不尽な暴力を振るってしまったこと。


挑発に乗って姉達が見ている演習で無様な姿をさらしたこと。


卯月の嘘がわかり逆に自分達が弥生を泣かせてしまったこと。


正直不本意ながら提督に演習の指揮をお願いしに言ってそれが了承されたこと。





そして演習で自分に任せて責任を持ってくれたこと。





大井「木曾…?」


木曾「ああ」


木曾は顔を上げて大井と北上を見る。


木曾「良い、提督なんだと思う…」




木曾は晴れやかな笑顔を見せた。

その表情に大井と木曾は嬉しくなり安堵のため息をついた。




大井「ねえ、木曾さえ良ければまた一緒に」


木曾「いや…」


大井が言い切る前に木曾が遮った。


木曾「ここにも仲間はいるし…ここで色々試してみたいんだ」


ここにいる仲間達は来た当初不貞腐れ気味だった自分に気を使い一緒にいてくれた。

そんな仲間達のもとに居たい。

それにここの提督のもとでもう少し自分を見つめ成長したい。


木曾ははっきりとした意思を見せその姿に二人は安心した。


北上「そっか…」


大井「またね、木曾。次会う時も楽しみにしてる」


離れていく二人に慌てて声を掛けた。


木曾「あ、あの!会えて嬉しかったよ!またなっ!!」


その言葉に北上は心底嬉しそうな笑顔で答え、大井は涙目になって手を振っていた。








摩耶「おーい、木曾ーっ!」


二人を見送ってしばらく経った後、摩耶が呼びに来た。





【演習場近辺から少し離れたところ】


演習を終えて瑞鶴は部屋で休もうと戻っていく途中だった。

その途中加賀から声を掛けられる。


加賀「見ていたわよ今日の演習」


瑞鶴「な、何よ。無様に撤退をさらした私を笑いに来たつもり?」


加賀を見るなり瑞鶴が食って掛かる。


加賀「無様…?」


加賀は瑞鶴を見ながら首をかしげる。


加賀「あなた、自分で無様な撤退だったと思っているの?」


瑞鶴「え…?」


予想外の加賀の答えに瑞鶴は一瞬言葉に詰まるがすぐに切り返す。


瑞鶴「あの場面、私にもうできることは無いし、相手が満潮を狙っているのは丸わかりだったし…演習じゃなかったらあんな無茶はしないかもしれないけど…」


加賀「そう…」


もう十分、といった表情で加賀が頷く。その表情はどこか嬉しそうだった。


加賀「だったら何も恥じることは無いじゃない…今日のあなた、素敵だったわよ」


瑞鶴「な!?」


そう言って加賀は瑞鶴から去っていった。

瑞鶴はしばらくの間呆然としていた。


瑞鶴(何よあいつ、急にあんなこと…)


先程言われたことを思い出しながら瑞鶴は部屋へ戻っていった。






_____________________



文月「あれ~?」


文月は部屋へ戻る途中の瑞鶴をの後ろ姿を見た。

その足はスキップ気味だった。



_____________________






【鎮守府内 執務室】


武蔵が執務室を去ってしばらくした後、合同演習の報告書等を作成している提督のもとに摩耶、鈴谷、木曾がやってきた。


提督「どうした?何か用か?」


摩耶「…」


鈴谷「えーっと…」


入ってきたはいいが何も言い出さない、こちらから聞いてやろうかと思ったところに木曾が少し前に出て頭を下げる。


木曾「まずは今日の演習のお礼がしたい、見事な指揮だった、感謝する」


意外そうな顔で見たのは提督だけでなく摩耶、鈴谷も一緒だった。


木曾「それと先日までの提督への態度、行為を謝罪したい。許されることでは無いのは承知の上だ。だがそれでも謝りたい。本当に申し訳ありませんでした」


深々と頭を下げ直し木曾が提督へ謝罪する。木曾は先日の暴力だけでなくそれまでの態度も含め謝った。

呆気に取られていた摩耶、鈴谷も慌てて頭を下げる。


摩耶「も、申し訳ありませんでしたぁ!!!」


勢い余って摩耶は大声で謝罪する。


鈴谷「できる限りのことはさせていただきます、申し訳ありませんでした!」


何でもする、というのはうまい具合に避けながら鈴谷も謝罪した。

そんな三人を見ながら提督は苦笑いをしながら浅い溜息をつく。


提督「まぁ、俺のことは良いさ」


許された?と思い摩耶と鈴谷が顔を上げてこちらを見る、木曾は目を閉じて頭を下げたままだ。


提督「摩耶、あの壊されたバックルは古鷹達が作ってくれたものなんだ…」


摩耶「…え?」


提督「お前は古鷹に謝ってこい」


摩耶「んなっ!?」


雷に撃たれたかのようなショックで摩耶がのけぞる。


提督「鈴谷、お前が壊した料理道具は俺が自費で買って遠征組に料理を作ってやる予定だったんだ」


鈴谷「ま、まさか…」


提督「3人に謝ってこい」


鈴谷「や、やっぱりーーーーー!!!?」


鈴谷は頭を抱えてその場でがっくりと膝をつく。

そんな二人の様子を見て提督は満足げに笑った。


提督「木曾は…いいや、特に何も壊されてないし最初に謝ったからな」


木曾「…?」


木曾は顔を上げて意外そうな顔でこちらをみる。


提督「だが球磨と多摩にちゃんと会っておけよ、あいつらお前の心配してたからな」


木曾「あ、ああ、わかった」


摩耶「ず、ずるい…」


鈴谷「贔屓だ、木曾ばっかりひいきだー!」


木曾へ文句を言い始めたので提督は下がっていいぞと言い、3人は出て行った。






静かになった執務室で提督は目を閉じて椅子にもたれ掛かって伸びをする。

なんだが久しぶりに落ち着いた気分だ。


それに合わせ最近の疲れが出てきたのか眠くなり、そのまま眠気に身体を任せることにした。







【しばらく後 執務室】


皐月「しれいかーん!」


水無月「えへへっ遊びに来たよー!!」


神通「二人とも、静かに…」


執務室へ皐月、水無月、神通が遊びに来た。しかし…


提督「…」


提督は机に突っ伏して眠っているようだ。


皐月「あ…」


提督に飛びつこうと勢い良く入った皐月だがさすがに立ち止まった。


水無月「司令官?司令官ってば…」


皐月は提督を揺り起こそうとするが反応がまるで無い。


皐月「これは…」


水無月「絶対に起きないパターンだ…」


以前もこのようなことがあったのか二人とも諦めたようにがっかりする。


神通「二人とも、手伝って…」


提督を優しく抱えて神通と皐月水無月でベッドに運んでいく。

そのままベッドに寝かせると安らかな息使いが聞こえてきた。

そんな提督の顔を見た神通が嬉しそうに顔をほころばせる。


神通「さぁ、二人とも、戻りますよ」


皐月「えーっせっかく来たのにー」


水無月「目覚めるまで待っていようよー」


神通「…」


神通は無言で二人を見る。

それだけで皐月も水無月もすくみ上がってしまう。


皐月「わかったよ…」


水無月「我慢、します…」


名残惜しそうに二人は先に出て行った。


神通「提督…おやすみなさい…」


そして神通もゆっくりとドアを閉め自分達の部屋へ戻っていった。






【翌日 鎮守府内廊下】


朝潮(顔を合わせ辛いけど…)


朝潮は皐月と水無月の前で怒鳴り去っていったことを気にしていた。

なんとか帰る前にひとこと謝っておきたかったがその足取りは重い。

そこへ加賀が通りかかる。


朝潮「あ、加賀さん…」


加賀「朝潮、探していたのよ」


朝潮にとって意外なことに加賀が自分を探していたらしい。


加賀「皐月と水無月が謝りたいって、後で港で会いたいそうよ」


朝潮「そ、そうですか」


朝潮はほっとした、これなら気まずい別れ方をしないで済みそうだ。


加賀「じゃあ私はこれで…」


朝潮「あ、あの、加賀さん!」


その場を去ろうとした加賀を呼び止める。


朝潮「加賀さんは…加賀さんも、司令官のことが今でも好きなんですか…」


加賀「…ええ、今でも好きよ」


予想外で大胆な朝潮の質問に加賀も内心びっくりしたが平然と答える。


朝潮「どうしてみんな、皐月さんも水無月さんも、加賀さんも…」


言いながら朝潮は納得いかないように俯いてしまう。

そんな朝潮に加賀は近づき頭を撫でてやる。


加賀「朝潮…あなたがあの時のこと、どこまで知っているかはわからないけど…」


加賀は優しい笑みを見せる。


加賀「その溜め込んでいるもの、提督にぶつけてみてはどう?」


朝潮「え…?」


加賀「あなたは前からそう、何でも我慢しすぎ、溜め込みすぎ。発散しないと壊れてしまうわよ」


朝潮「で、でも」


加賀「提督の負担になるかもしれないから言えない?大丈夫よ、あの人は全て受け止めてくれるから」


自分の想いの奥底をあっさり加賀に言われてしまった気がして朝潮は顔が熱くなる。

何を言えばいいか迷っていると加賀が先に頭から手を離した。


加賀「私達はここを離れるけど、提督のことよろしく頼むわね」


朝潮「は、はい!わかりましたっ」


思わず了承の返事をしてしまい、焦って港の方へ走っていってしまった。

その姿に昔の朝潮と変わりがないことがわかり加賀は思わず笑ってしまった。








【鎮守府近海の港】


提督は自分達の鎮守府へ戻る先輩の艦隊を見送りに来た。

容赦なく全力で抱きついてきた皐月と水無月、心配そうに手を握ってきた古鷹、照れてこちらを中々見てくれなかった叢雲、静かに別れを言った加賀、これからもできる限り力になると言ってくれた先輩。


那珂「新しい曲2つも作ったんだよー!今度来るときにまとめて聞いてね!」


川内「提督身体に気をつけてね、無理しちゃだめだよ」


提督「二人とも、遠征ありがとうな、次に会う時も楽しみにしてるよ」


その後ろで神通がこちらを見ていた。


川内「神通、先に行っているよ、さ、皆さっさと乗り込んで」


気を利かせたのか川内は皆を船へ誘導し提督と神通の二人っきりにした。

波の音が聞こえるくらいで周りには誰もいない。


提督「神通、色々とありがとうな。いつになってもお前に頼りっきりですまない」


神通「そんな…私なんか…でも提督のお役に立てて、私嬉しいです…」


照れたような表情を見せ神通が俯く。


提督「そうだ、演習ではMVPだったんだな、おめでとう」


神通の頭を撫でてやる、神通はとても嬉しそうに目を細め、頬が赤くなった。


提督「何かできることはないか?と言ってももう時間も無いが…」


神通「では…」


神通は両の掌を提督の胸へ優しく当て、提督の胸へ飛び込んだ。


神通「少しだけ、こうさせて下さい…」


神通は目を閉じそのまま動かなくなった。


神通「…っ!!?」


予想外のことが神通に起こった、提督が抱きしめてくれたのだ。


神通「てい…とく…?」


提督「少しだけ…こうさせてくれ…」


神通「…」


神通(羽黒さん…)


抱きしめられながらも神通は仲間のことを思う。


神通(早く帰ってきてください…でないと…私やっぱり提督のことを…)


神通はそのまま提督に身を任せるが胸の鼓動が提督に聞こえてしまわないか心配だった。


少し経って提督は神通を離してあげる。

神通は首まで真っ赤だった。


神通「そ、それでは、失礼…します…」


その顔を見られたくないのか神通は走って船に乗り込んでしまった。


提督(しまった…つい…)


神通の可愛いらしさと健気なところについ身体が勝手に反応してしまった。


提督(神通…すまん…お前に甘えてばかりで…)


港から離れていく先輩たちを乗せた船を見送るため提督はそちらへ向かう。


提督(俺は…お前の想いに応えることは…)







【先輩達を乗せた船 甲板】


皐月「ばいばーーーーーい、しれいかーん!!!!」


水無月「元気でねーーーーー!またくるよーーーー!!」


離れていく船から二人が手を振り、港から提督が手を振って返す。

皆が甲板に集まって提督を見送る。

その中はもちろん神通もいて静かに離れていく提督を見送っていた。











しかし…







神通(え…?)








違和感を感じた。









神通(っ!?)








川内「神通っ!!」


神通がもう少しで船から飛び降りようとしたところで川内が神通を身体を張って止めた。


川内「何を考えているのっ!」


神通はそこでようやく川内に止められたと気づいた。

川内は神通の腕を掴みこちらを向かせた、その表情を見てハッとする。


神通の顔は真っ青だった。


神通「ね…姉さん…」


川内「どうしたのよ神通…」


神通は青い顔のまま震える声で川内に話す。


神通「嫌な…予感がして…」


川内「え?」


川内の背中に冷たいものが走る。


神通「もう、提督に会えないんじゃ…ないかと…」


神通は泣き始めた、その顔を他の者に見られたくないのか川内の胸に顔をうずめた。

幸いなことに船の音が大きいのか、二人は他の者と離れていたのか誰も気づいていない。


川内(嫌な予感…)


川内はもう港から離れてしまってほとんど見えない提督の方へ目をやった。






神通の予感、たまに戦場でも見せる野性的な感、それは仲間が危険な時に出ることがあり、その予感は当たることが多かった。

その悪い予感が提督に対してということは…。


川内「大丈夫、提督は大丈夫、大丈夫だから…」


泣いている神通を抱きしめて川内は気休めとわかっていても慰めの言葉を掛ける。







そして今回ばかりはその予感が外れることを祈るしかなかった。







【鎮守府近海の港】


提督「さて、帰るか」


船がかなり遠くに行ってしまったところで提督も執務室に戻ることにした。


朝潮「…」


振り返るとそこには朝潮がいた。


提督「どうした?」


朝潮「司令官っ!」


提督「な、なんだ!?」


いきなりでかい声で返事をされて提督がびっくりする。


朝潮「な、な…何でもありません失礼しますっ!」


そしてそのまま走り去ってしまった。


提督(何だったんだ一体…)


提督は唖然とした表情で朝潮を見送る。


提督(でも面と向かって司令官と呼ばれたのは久しぶりかもな…)


少しだけ、朝潮との関係が改善した気がして嬉しかった。

提督は軽い足取りでそのまま執務室へ戻ろうとしたところで今度は摩耶、鈴谷、木曾を見掛ける。


提督「どうした?気晴らしか?」


また勝手に出撃しそうな3人だったが今更それを咎めるつもりは無くそのまま見送るつもりだった。


木曾「ああ、もう少し自分の装備を試してみたくてな、余り無茶はしない。心配しないでくれ」


提督「お、おう?」


木曾が主砲、副砲を見ながら提督に返事をする。

その言葉が、態度が以前とは違いすぎて提督もびっくりした。


そんな二人の横を摩耶は速足で通り過ぎる。


摩耶「ふ、古鷹にはちゃんと謝ったからなっ」


捨て台詞のような言い方でそのまま行ってしまった。


木曾「ちゃんと言って許してもらったらしい、何を言われたかは知らないけどな」


提督「そっか、まあ古鷹なら変なことは言わんだろ」


振り返って今度は鈴谷に向き直る。


鈴谷「この…」


提督「ん?」


鈴谷「鬼!悪魔!鬼畜の所業っ!!ドSっ!」


言いたい放題言って鈴谷は海へ飛び込んで出撃した。


提督「な、なんだあ?」


木曾「ちゃんと文月と長月に謝ったらしいが文月に泣かれたらしい、それが効いたんだろう」


提督「ああ…でもちゃんと二人とも謝ったんだな」


義理堅い二人に提督も少し嬉しくなった。


提督「後で文月達にはフォローしておくさ、じゃ、気をつけてな」


木曾「ああ、では行ってくる」


木曾も海へ飛び込み二人を追った。











辛いこと、苦しいこと、痛いこと、悲しいこと、色々あった。

だがこの合同演習を機会にここの艦娘達と大きく関係が進んだ気がする。







提督「さて、演習のデータをまとめますか!」


この鎮守府に、そして提督に光明が差した気がした。


今後も辛いことがあるかもしれない。


でもこの鎮守府に残り続け、この光が絶えることのないよう


提督はこれからも頑張っていくことを改めて決意したのだった。












例えその結果が












この鎮守府にとって











提督にとって











最悪の結果を招くことになっても…。





                 第一部 完

________________________






第二部 予告






























あの時の選択




















あの時のことば



















ほんの少しのすれ違いだったのに…


















どうしてこんなことに…


















第弐部 嫌われ提督の過去へ続く






後書き

第二部をこちらに掲載するかどうか悩んでます


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4件コメントされています

1: SS好きの名無しさん 2019-02-11 07:59:34 ID: S:IbBkxJ

提督の過去がようやく明らかになるのですね。一体何があったのか、続きが気になります!

2: SS好きの名無しさん 2019-02-12 03:39:57 ID: S:heNZk-

木曾の過去のくだり、ある意味大本営も似た様な事白露型で
ふざけてやったから笑えないんだよなぁ。しかも無かった事の様に
扱ってるから失望半端無いし

3: SS好きの名無しさん 2019-03-08 23:40:00 ID: S:r8l6Zg

URL間違ってません?

4: SS好きの名無しさん 2019-03-08 23:41:28 ID: S:dUq0xi

あっ、貼られているURLに3が入ってないです


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