2020-06-14 21:36:18 更新

前書き

n番煎じしか出来ないんです。






明石「はい!一度押したら、その目の前の相手はもうデレデレですよ!」



提督「ほう、素晴らしいな。

流石明石と褒めてやりたいところだ。

…って事で、それ廃棄しといてくれ」



明石「!?な、何でですか!」



提督「昔ならまだしも、今はそんなん無くても好意を隠そうともしない奴らは甘えてくるからな。それで十分だ。だからそんなんいらねぇ…

…というか、興味が湧かない」



明石「い、いやいや!物は試し、まずは受け取って下さいって!」グイグイ



提督「嫌、だからいらねぇよ」



明石「まあまあまあ、ひとまず」グイグイ



提督「うおっ、ちょっ…いやに推しが強いな!これまでの発明品に付き合った時もそんなに推すこと無かったろうが!」



明石「なんてったって今回ばかりは他の人の依頼で作られてますからね。今迄のようににべもなく拒否される訳にはいかないんですよ!」



提督「…ん?このボタン、今迄とは違ってお前の独断で作ったわけじゃないのか?」



明石「…あ」



提督「…前言撤回、激しく興味が湧いて来た。

ちょっとそれについて話をしてくれないか?

話さないという選択肢は無いがな」



明石「あー…(悪い笑顔だなぁ…)

…わかりました、お話いたします。」




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提督「成る程、俺に甘えたい奴らが『絶対に口外をするな』という条件でこのボタンを依頼。で、それを明石から渡された俺は半信半疑ながらも好奇心に駆られボタンを押してそれから…という目論見だった訳か」



明石「説明お疲れ様です。」



提督「やかましい。…しかし成る程面白い。非常に面白いじゃないか」



明石「ほんと怖い笑顔してますね…」



提督「失敬な。爽やかな笑顔と言え、爽やかだと」



明石「アッハイ…

で、結局どうするつもりなんですか?

最初に言っていたように廃棄しますか?」



提督「…なあ明石?このボタンの有効射程はどれくらいだ?」



明石「え?えーと、相手の視界に入るくらいです。そうじゃないとそのボタンの存在意義が無いので。ボタン製作を頼んできた方にもそれは伝えてあります」



提督「成る程…更に好都合だ。さっきの質問だが、とりあえずこのボタンは捨てん」



明石「あ、そうですか。結構作るの大変だったのでそれは嬉しいですが…」



提督「で、だ。明石。一つ俺からも依頼させてもらっても良いかな?」



明石「それは構いませんが、一から何か作るとなると時間はかなり掛かりますよ?」



提督「何、大した事じゃあない。

このボタンを『もう一つ』作ってくれ」



明石「うーん…?出来ない事は無いですし、確かに一から作るよりは早く出来ますけど…

それでも最低でも二週間はかかりますよ?

それに、効果だけなら一つで事足りますし…」



提督「そんなに時間はかからない筈だ。

そのボタンには効果をつけなくていいからな」



明石「え?それって…」



提督「平たく言おう。

このボタンの精巧なダミーを作れ」



明石「…あっ、そう言う事ですか。

確かにそれなら直ぐに作れますけど…提督あなた、何て性格の悪い事を考えるんですか」



提督「ハ、そう褒めてくれるな。

勿論だがこの命令に拒否権は無い。

さあ作れ、今すぐに作り出すんだ」



明石「…ハァ、了解しましたぁ」



明石(ほんとに、何で皆がこんなクソ提督が大好きなのか分からないや……)



提督(皆の前では猫被りまくってるからな)



明石(この人、心の中に直接…!)







提督「このボタン本体の事は既に、この鎮守府中に広まっていると明石から聞いた」



提督「だがこのダミーは。この偽物の存在を知っている者は俺と明石以外には誰も居ない」



提督「さあ、面白くなってきたぞ…!いいだろう、俺はみんなの要望通り、甘えたいと思っている娘の目の前でボタンを押してやろう…」



提督「但し、何の機能も無いこっちをな…!」





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提督「さぁて執務室にまで着いた訳だが…

テステス、聞こえてるか?」



明石『バッチリです』←インカム装備



提督「よし(インカムの装着と執務室のカメラの監視…作ってもらう条件としては緩い方か)」←同じく



提督「にしても艦娘達が手玉に取る所を見たがるなんて…あんなに俺に対して性格悪いやらクソやらゴミクズやら言ってた割には、結構お前も良い性格してるじゃないか」



明石『そ、そんなには言ってません!それに私は、ただ本物を使った場合に作動するかを』



提督「じゃあ執務室に入るか」



明石『ちょっ!せめて言い訳を』




ギィィィィィ




提督「おはよう。今日の秘書艦は…五月雨か。

少し遅れてしまってすまないな」



五月雨「おはようございます、提督!

大丈夫です、私も先ほど来たばかりですよ!」



提督「ハハ…気を使わせてすまないな。

さて、仕事をしよう。」ニコリ



五月雨「は、はい!」



明石(本当に私の言い訳聞かなかったな…にしても何だあの爽やかな笑顔。逆にちょっと気味が悪い)


明石(そう言えば、ボタンの噂は広まってる筈だけど、五月雨ちゃんはそれを知っているのかな?)



五月雨「……」ソワソワ



明石(うん、知ってるみたいね。なら後は提督がボタンを押すだけだけれど…)



提督「……」カリカリ



明石(ボタンを出す気配すら無いわね…

また何か悪い事でも企んでるのかしら…)





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





提督「ふぅー…とりあえずひと段落ついたな。

少しだけ休憩しようか、五月雨?」



五月雨「あ、それなら私、お茶を淹れてきます」



提督「じゃあ頼もうかな…とその前に、ちょっとだけいいか?」



五月雨「?はい、何か御用でしょうか?」



提督「まあさっきの言い訳みたいなものでな。少しとはいえ遅れて来たのには理由があるんだ。というのも、明石にこんな物を渡されたんだよ」コトッ



五月雨「あっ!それ…」



提督「ん?知っているのか?」



五月雨「い、いえ!」



提督「そうか…まあ知る筈がないよな。実はこのボタン、明石に渡されたは良いがどんな機能なのかは知らされてないんだ。」



提督「で、だ。また何か変な事が起きる前に捨てたほうがいいんじゃないかと思っててな」



五月雨「!!そ、それはダメです!絶対捨てちゃダメですから!」



提督「…そうか?しかし、何の効果か解らないものをずっと持ってるわけにもなぁ」



五月雨「うっ… じゃ、じゃあ今私に使ってみてください!そうしたらきっと、そのボタンがどんな機能なのかが解りますから!」



提督「しかし、それは五月雨に悪いし…」



五月雨「大丈夫です!害を与えるようなものじゃありませんから!…多分!」



提督「(頬が朱に染まってるのは自覚無しか。やっぱり五月雨は隠し事が下手だな)

…そこまで言うなら、そうさせて貰うぞ」ニヤリ




ポチッ




五月雨「……」



五月雨(もうボタンの効果は出てるのかな…?

押されてすぐに効果は出るって聞いたし…)


五月雨(…そう言われてみれば、あ、甘えたくなってきた、ような気が……)///




提督(なんて思ってるかもしれないが、残念ながらそれはただの思い込みだ…さあ、どうする五月雨)




五月雨「……」



提督(無言のままこちらに向かい…!)



五月雨「………っ」///



トスン



提督(そのまま俺の膝に座る!…うん。まあ確かに、いつもの五月雨に比べると段違いの積極性だな。まったく、可愛らしい事だ)ナデリ



五月雨「!!」


五月雨(頭を…!うう、とっても嬉しいけど、それ以上に凄く恥ずかしい…!!)///


五月雨(で、でも!せっかくのチャンスなんだから、この際もっと甘えないと…!)




ダキッ




五月雨「きゃっ!?(だ、抱き締められた!?わ、私、今提督に抱き締められてる!)」



提督「五月雨」ボソッ



五月雨「〜〜〜っ!!」///


五月雨(提督が抱き締めたまま、う、後ろから私の名前をさ、囁いて…!)




提督「伝えたい事があるんだ…実はな、このボタn」



五月雨「わ、私!お茶を淹れてきまs」ガタッ





【五月雨の頭部と提督の顎部、衝突セリ】




提督「い、痛え…五月雨、お前…」



五月雨「すす、すいません!今救急箱を!」



提督「!待て!そんなに急に走り出したら…」




ドンガラガッシャーン




提督「さ、五月雨ーッ!!」





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明石『五月雨ちゃん、寮に戻してしまって良かったんですか?』



提督「ああ、秘書艦としての仕事は先程ので殆ど終わらせてもらったからな。気絶している間、寮で休ませても誰も文句は言わんさ」



明石『あ、さっきいやに真面目に仕事していたのはこういう事を見越しての事ですか?」



提督「いや、たださっさとこのボタンで遊びたかっただけだ。…にしても五月雨は可愛いかったな」



明石『その割には随分と機嫌が悪そうですが…』



提督「ああ…あいつ、五月雨。俺がネタばらしをする前に勝手に自爆してしまったからな。」



提督「可愛らしかったのは事実だが。俺は、俺の口でボタンについてのネタばらしをして、そして、俺の目の前でその娘が羞恥に震える様が見たいんだ。」



明石『またさらっと下衆な事を…』



提督「褒め言葉だ。

まあだから、次に執務室に来る娘には二人分の恥辱を味わわせてやるつもりでいる」



明石『ただの八つ当たりじゃないですか!』




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−




提督「さぁて、次は誰がくるのかなぁ」ウキウキ



明石(次の犠牲者は誰になっちゃうんだろう)



提督「そうだなぁ…出来ればこう…天龍とかそこらの弄りがいのあるような奴が来てくれたら個人的には嬉しいがな。まあ、そんな上手くはいかないか」



明石『そういえば、何で提督が艦娘の方に赴いたりはしないんですか?そっちの方が色々と確実じゃないですか』



提督「馬鹿言え、俺だって一応は皆を率いる身なんだし暇じゃ無いんだ。この部屋で色々やらなきゃならんのよ。専ら雑務だけどな。…それに……」



明石『それに?』



提督「誰が来るか判らない方が楽しいじゃないか」



明石『さいですか(こっちが主なんだろうな)』




コンコンコン




提督「お、噂をすればだな。さてさて、次の獲物は誰だろうな」



明石(コイツ、ついに獲物と言い切った…

…ん?今度はボタンは机の上に置くのね)




ガチャリ




鈴谷「提督、ちーっす!」



提督「おう、鈴谷か」



提督(ふむ…鈴谷か。色々と弄ってもなあなあな感じで終わりそうな気もするが…)



明石(鈴谷ちゃんかぁ…ちょっと気の毒だけど、反応が気になるわね。いつも面と向かって甘えていると甘えていないのボーダーな感じの子だから…)



提督(何、どちらにせよ面白い事に変わりは無い)



明石(あの、さっきからちょくちょく心を読むの止めてくれませんか)



鈴谷「んー?どうしたのさ黙っちゃってさー」



提督「いや、ただ考え事をしてただけさ。

ところで何しに来たんだ?お前今日非番だろ?」



鈴谷「む、何それ。非番の時は来ちゃいけないってのー?」



提督「そうじゃねえけど… 本当に何しに来たんだ?」



鈴谷「あー、えっとさ、提督ってもう昼ごはん食べた?」



提督「ああ、もうそんな時間か」



鈴谷「やっぱり食べてないんだ…

かなりのワーカホリックだよねぇ、提督」



提督「そんなつもりは無いんだがなぁ」



鈴谷「じゃあさ、一緒にご飯を…ん?」



提督(お、よし。ボタンに気付いたか)



鈴谷「ねえ提督、この机に置いてあるのって…」



提督「ああ、それは明石が作って来たもんだ。

曰く、押すだけで相手が甘えてくるようになるとか」



鈴谷「へー…やっぱりそれなんだ。

知ってる?結構それ、噂になってるんだよ」



提督「何?そうなのか(やっぱりか)」



鈴谷「うん、食堂がそれの話題で持ちきりになってるくらいにはね」



提督「結構どころか大感染してるじゃないか…

あ、そうだ。鈴谷」



鈴谷「ん?」



提督「ほい」ポチッ



鈴谷「ちょっ!?」




提督(さあ、どうなる)




鈴谷「……ッ!!」



鈴谷「……あれ?今それ、押したよね?」



提督「ん、ああ」



鈴谷「私、何とも無いんだけど…

あれれ、ひょっとして明石さんミスった?

それともそれ、サンプルとかだったとか?」




提督(…なるほど、そう来たか。いや、まあ確かに、そうなるのが普通の反応なのかもしれないな)


提督(…だが、諦めん。今の俺は不退転だ)




提督「いや、そんな筈は無いがな。

実際に明石が実演も見せてくれたし」



鈴谷「えー?でもさぁ」



提督「…一つだけ、考えられる要因がある」



鈴谷「?なあに?電池切れとか?」




提督「これは相手を甘えさせる為のボタンだ。だから、元々甘えている相手には効果が無いんだ」




鈴谷「………へ?」



鈴谷「い、いやいやいや!!それは違うでしょ!」



提督「だが、それしか考えられないぞ」



鈴谷「絶対違うから!そ、そもそも鈴谷、提督にそんな甘えたりなんかしてないし!」



提督「わざわざ非番の日に執務室に来て食事に誘うってのも結構甘えてくれてるとは思うがな」



鈴谷「うっ、うるさいなぁ!もう!

鈴谷もう行くからね!」




カツカツ




提督「おいおい、待ってくれよ鈴谷」




鈴谷「うっさいし!」




提督「…鈴谷」




ドンッ




鈴谷「えっ?」



提督「鈴谷。俺は本気で聴いてるんだ」←壁ドン



鈴谷「えっ…え、えっと。提督?」



提督「率直にだな。俺はお前から甘えて欲しい。

だからさっき、迷わずにボタンを押したし、今、女々しくお前を引き止めてる」



鈴谷「あの、わ、分かったからさ?

ちょーっと離れない?か、顔が近いんだけど…」



提督「…俺の事が嫌いか?」



鈴谷「!そんな事無いよ!寧ろ好きだっ……」



鈴谷「……い、いや、今のは勢いで…」///



鈴谷「…あの、さ。勿論嫌いじゃないんだけど、その、なんて言うかさあ…複雑っていうか…」



提督「…そうか」スッ




【提督、壁ドン解除セリ】




鈴谷「あっ…」




提督「…引き止めて悪かったな。行ってくれ」



提督「それと、こんな事を強要してすまなかった」




鈴谷「……あーもう!面倒くさいなぁ!

提督!やりにくいから、顔、少し上に上げて!」



提督「?こうか…?って…」





チュッ




鈴谷「…はい、おしまい!」パッ



鈴谷「それじゃ、今度こそ行くから!じゃね!」




ギィィ バタン




提督「…顔、赤リンゴみたいだったな」





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




鈴谷(ヤバいヤバいヤバい!何か調子に乗っちゃって、ちゅ、ちゅーしちゃった!!)



鈴谷(恥ずかしくって提督の反応見ないまま逃げてきちゃったし…

どうしよ、きっと呆れられてる!)





『お前に甘えて欲しい』





鈴谷「〜〜〜〜っ!////」



鈴谷(ああもう!絶対暫くマトモに顔見れないし!)



鈴谷「ああー、もうー!!」





−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−






提督「良し」



明石『なに気取ってるんですか…にしても、よくあんな嘘八百並べられましたね。正直今回はボタン押してダメだった時点で失敗かと思いましたよ』



提督「俺も正直ダメかと思ったが、まあまあ何とかなったな」



明石『…でも、何だか納得行かないって感じの顔してますね』



提督「ご明察だ。…今回、鈴谷に対して、まあ恥ずかしめることは出来たから確かに失敗ではない」



提督「だが、それはこのボタンによるものかって言われたら違う気がしてな。何か釈然としないんだ。

鈴谷も多少、自爆って感じもするし」



明石『えー…さっきので妥協しちゃダメなんですか』



提督「俺はだな、『このボタンは何の機能もないんだー』と言って…ていう下りをどうしてもやりたいんだ。それまでは妥協なんかしてたまるか」



明石『そうですか。じゃあ、頑張って下さい』



提督「そして今回も発散出来なかったこの鬱憤は今度こそ次の娘に対して味わわす」



明石『なんて理不尽な…』




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−







提督「そろそろ遠征の子らが帰ってくる時間帯だな」



明石『どうしたんですか急にまともな提督らしい事を言い出して』



提督「俺は常にまともだ。まあスケジュールを覚えておくのは上に立つ者として当然の事だからな」



明石『…どうせその遠征のメンバーの中にそのボタンの一連をやりたい娘がいるとかなんでしょう?』



提督「ハハ、何の事やら」



明石(図星か…)



提督「…なあ明石。駄目元で聞くんだが、このボタンの依頼者が誰かを聞く事は可能か?」



明石『?何ですかいきなり。

因みに、それは流石に教えません。ただでさえあまり高くない私への信頼が地に墜ちますからね』



提督「そうか…いやな、今聞いたのはだな」




コンコンコン




提督「!来たか。すまんが話は後だ」



明石『は、はい』





提督(遠征をしていた奴ら…そいつらはおそらく…否、確実にこのボタンの存在を知らない筈だ)



提督(ボタンの噂が流れたのは本当につい最近。

その間別の場所に行ってしまった彼女らには知る由もないからな)



提督(ただ、例外がいる。

それは、『このボタンを依頼した者』)



提督(俺の考え通りならば、『ヤツ』がボタンを依頼した。…いや、依頼した者の内の一人か。俺に面と向かって甘えれぬ者は多かったからな。…まあ、それはいい)



提督(ともかく遠征メンバーはボタンを知らない。

故にこの執務室にわざわざ報告をしに来たがる奴は…いるかもしれんが、それでも『ヤツ』が、自分が報告しに行くと立候補すれば譲るだろう。唯一この執務室にどうしても来たい『ヤツ』がな)



提督(…唯一の懸念は。あの罵倒が本当に俺を嫌って出てきたものという可能性。もしそうならば執務室には来ないだろう)



提督(だが逆に言うならば。もし執務室に来たならばがボタン依頼者の一人とほぼ確定する。

そうなら…凄く面白い!)



提督(さあ来い…来てくれ……来い!)






ガチャリ






曙「報告に来たわよ、クソ提督」




提督(来たぁ )ニッゴリ




曙「な、何よその顔。気色悪いわね」



提督「いやぁ…何でもないよ」



明石(曙ちゃん…かわいそうに。次の犠牲者は曙ちゃんかぁ。…それにしても)




曙「…」ソワソワ キョロキョロ




提督(なんか、すげえあからさまだな。一丁前に推理もどきしてたのがアホらしくなる位)



提督「…ひとまず、遠征お疲れ様。

ゆっくり休むといい」



曙「う、うん」



提督「心ここにあらずって感じだな。

どうした?疲れているのか?」



曙「!な、何でもないわよ!ジロジロ見んなこのクソ提督!」



曙(ああ、違う!そんな事が言いたいんじゃない!ほんとはもっと、違う事を言おうと思っているのに…!)


曙(ていうか、ボタンは持ってないの?

もしかして明石さん、失敗した?

目論見がバレちゃったりしたのかな?)




提督(何てコロコロと表情が変わるんだ… 可愛いらしいな)


提督(そして俺は、今からそんな可愛らしい子を恥辱に染め上げる。うーん、最高だな)スタスタ




ガチャリ




【提督、扉施錠セリ】




提督「さて、これで今この執務室で何をしても余程の事が無けりゃ誰も来ないだろう…」



曙「……は?何言ってんのよ?」



曙(ど、どう言う事?何をしてもって…まさか!)



提督「と言うことで、それポチッとな」ポチッ




曙(ま、まさか無理やりっ…て、ええ!?)



提督(さあ、曙。お前には考える時間をも与えん。

感じたままどんな反応をするかを俺に魅せてくれ。

…といっても、急には行動し辛いかな?ならば…)



提督「…今、この部屋は俺たち以外誰も居ないし、俺たち以外は誰も見ていない」



提督「だからさ、ほら。安心してこっちにおいで」



曙「……!てい、とく。」




明石(バッチリ私がカメラ越しに見てるけどね…ていうか今更だけどこれ、鈴谷ちゃんみたいに何の異変も無いと思われちゃったら終わりなんじゃ…)




曙「……」トコトコ



ダキッ




明石(躊躇無く行った!しかもそのまま抱きついた!駄目だ、完璧に騙されてる!)




提督「よしよし」



曙「……クソ提督」ギュー


曙(これは、ボタンのせいだから仕方ない…仕方なくクソ提督にこんな事してるんだから…///)



提督「おいおい、そんなに強く抱きしめ無くても、俺はどこにも逃げないぞ?」


提督「(って聞いちゃいねえな)…なあ曙。俺に何か、言いたい事は無いか?」



曙「…言いたい事?」ピタリ



提督「ああ。ひょっとして、普段言えない様な何かがあるんじゃないか?それを言うといい」



曙「…いいの?」



提督「勿論だとも」



曙「…うん、わかった」



曙「……ごめんなさい」



曙「…いつも提督がどれだけ頑張ってるか、私達の為に戦ってくれてるか知ってるのに。私はいつも暴言ばかりで。でもクソ提督…ううん、提督は。そんな私にも優しくしてくれて。私はそれに甘えてばっかりで」



提督「……」



曙「本当はいつだって、こうやって甘えたかったのに…いつだって、こうやって抱きつきたかったのに…本当に、ごめんなさい…!」ギュ



提督「いいんだよ謝罪なんて」



曙「ううん、謝らせて。ごめんなさい提督。

…その、それとね、もう一つ言いたい事があるの」



提督「ああ。この際何でも言うといい」



曙「うん…そ、その。私いっつも暴言や罵倒しか言わないけれどね。それでも私、提督が…」



曙「…その…大好きだから」




提督「」



提督(危ない危ない。もう少しで良心の呵責が発生する所だった)



明石(そこは人間として呵責を感じましょうよ)




提督「…そっか、ありがとうな。

お世辞でも嬉しいぞ」



曙「!お世辞なんかじゃない!

本当に好きなの!大好きなの!」



提督「そうか、取り敢えず落ち着け。

実は俺も一つ伝えたい事があってな」



曙「ッ!嘘じゃないわよ!何なら今すぐにでも」



提督「実はこのボタン、偽物なんだ」




曙「その、えっちな事も……って、え?」



曙「…………?」



曙「…………!?!?」




提督「あれ、もしもし?曙?」



曙「…そ、そのボタンが?何ですって?」



提督「ただの偽物だって」



曙「じゃ、じゃあ、効果は…」



提督「当然、まったく無い」



曙「……」


曙「〜〜〜〜ッ!!////////」ボンッ




提督「いやー、まさかなー。こんなにも曙が俺を思っててくれたとはなー。嬉しいよー」



提督「で、何だっけ?色々って何だ?キスしてくれるのか?じゃあまずはその俺に回したままの腕を解かないとなー。名残惜しいかもしれんが、しょうがないよなー」



曙「……こ、この、この……!」




ガシィ




提督「ッ!?」





曙「クソ提督ーーッ!!」





グチャ ゴキッ





提督「」




曙「ハァーっ、ハァーっ、…いっ…」///




曙「一遍死ね!!」




バタァァァン




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





曙(ど、どうしよう、どうしようどうしよう!

クソ提督にあ、あんな事を…!しかもボタンのせいじゃなくて、あ、あたし自身の意思で…!)



曙(今までの態度が全部強がりだってわかっちゃった…!全部、隠してたのが出ちゃった…!どうしよう、明日から、あたし…!)




曙(……)



曙(…でも、さっきみたいな態度だったら)



曙(…提督、可愛いとか思ってくれる、かな?)




曙「…って、違う!

そんなんじゃなくて、あたしは!」



曙「…うぅ〜〜〜!!」///




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提督「成功だ!」



明石『重傷ですよ』



提督「なあに、こんな傷…大した事は無い。たかが首が座らなくなって目から血が出始めただけだ」



明石『(その症状は)まずいですよ!』



提督「フ、フフ…何て、何て楽しいんだ。

これこそが本当の愉悦だな」ダラダラ



明石『ちょっ!その出血量はシャレになりませんって!待っててください、今そっち行きますから!』



提督「大きな星がついたり消えたりしている…大きい…彗星かなぁ?いや、違う、違うな。彗星はもっとこう…バァーて動くもんな…」



明石『それマジで見えちゃいけないヤツですって!

提督!?提督ーー!!』




【その後 明石がバケツをかけたら提督は完治した】




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





提督「よおし、気をとり直して。次は誰かな」



明石『へ!?まだやるんですか!?』



提督「当たり前だろ?まだまだ俺は満足してないからな」



明石『いやでも…曙ちゃんが駆逐艦だったから今回ギリギリ致命傷で済んだ(?)ものを、戦艦や空母クラスにやられたら死ぬどころか爆散しますよ?』



提督「なあに、爆散くらい日本軍人としての誉れさ」



明石『そろそろあなたを軍人どころか人して認めたく無くなってきましたよ』



提督「ふぅーむ…に、しても。あれだな」



明石『?』



提督「腹が減ってきた」



明石『ああ、何かと思えば…まあでも、そう言えばさっきから何も食べてませんもんね』



提督「そうだな…いかん、自覚すると余計腹が減ってきた」


提督「でも、食堂には行けないな。鈴谷の言う通りなら、今の俺が食堂に行くのなんて蟻の巣に角砂糖を置くようなもんだ。途端にとんでも無いことになるだろう」



明石『じゃあ諦めて下さい』



提督「…いや、かくなる上は…」




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鳳翔「少しだけ待ってて下さいね。

軽く、おにぎりとか作りますので」



提督「いや本当、すみません。

鳳翔さんはただでさえ忙しいのにこんな事…」



鳳翔「いえ、私が好んでやってる事ですから、気にする事はありませんよ?」



提督「そう言って貰えると助かります」




明石(執務室から離れたせいで映像は見れないけど、きっとあの薄気味悪い爽やかな笑いを浮かべてるんだろうな…)



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




明石『えっ?鳳翔さんの所にですか?』



提督『ああそうだ。昼時はそんなに人もいないだろうし、飯を食わせて貰おうと思ってな』



明石『めちゃくちゃ図々しいですね…』



提督『まあ流石に鳳翔が忙しそうだったら諦めるさ。

そんな事は無いだろうけど』



明石『はぁ…(どっからその確信は来てるのか)』



提督『そして、このボタンも持ってく』



明石『ああやっぱり。恩を仇で返すつもりですか』



提督『仇とは失敬な。俺はただ相手を素直にさせてやってるだけだよ。素直にな…』




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





提督「御馳走様でした。

とても美味しかったです」



鳳翔「すいません、大した物も出せなくて…」



提督「いやいやとんでもない。お世辞でも何でもなく、本当に美味しかったですよ」



鳳翔「ふふ、ありがとうございます。そうだ、お茶にしましょうか」



提督「お願いします。…そういえば、鳳翔さんもボタンの事は知っているんですか?」



鳳翔「ええ、流石に。相当噂になっていますからね」



提督「…そんなにですか」



鳳翔「おや、提督はそれを知っていたから私の所に来たのでは無かったんですか?」



提督「いや、まあそうなんですが…予想よりもずっと凄い事になってそうなので驚いてしまって」



鳳翔「みんな、提督の事が好きですからね。

…最近駆逐艦の子達が構って貰えていないって愚痴をこぼしていましたよ?」



提督「う。それ、誰が言ってました?」



鳳翔「それは言えません。ただ、提督もお忙しい身である事は分かっていますけど、少しでも気が向いたら最近話していない子とも話してあげて下さいね?」



提督「耳が痛いです…できるだけ平等に扱ってるつもりではあるんですけどね」



鳳翔「提督が一生懸命に仕事を為さっている事は私達誰もが知っています。でも、『人』とは欲張りなもので。どれだけ満たされても、もっともっと…と求めてしまいますからね。」



提督「そうですね…それでも、彼女達には不満を作ってやりたくはないと思いますよ」



提督「にしても、最近あまり構っていない娘…

うーん、咄嗟には1人しか思い浮かばないですね」



鳳翔「あら、誰ですか?」



提督「今、俺の目の前にいる娘ですよ」



鳳翔「…ふふ、そうですね。

確かに、こんなに話せたのは久しぶりです。

互いにずっと忙しかったですものね」



提督「ええ。本当に、久しぶりだ」



提督「…ねえ、鳳翔さん。まだしばらくは誰も来ないし、忙しくならないよね?

で、俺も仕事がひと段落ついた。

少しだけ休憩を取ってもいい筈だ」



鳳翔「…?」



提督「…今、俺の手元にこんな物があるんだ」コトリ



鳳翔「!それは…」




提督「そこで、質問なんですが。…鳳翔さんは、このボタンを押して欲しいですか?」




鳳翔「……!」



提督「…どうでしょうか?」



鳳翔「…あの…そのボタンって、やっぱり…?」



提督「…そうかもしれないですね」



鳳翔「…う……」



鳳翔「……///」




提督(黙りこくったか。まあ、思った通りだな。ボタンのくだりは他の子にやるとして、鳳翔はこれで終いに…)




鳳翔「…押して下さい」




提督「…え?」




鳳翔「…そのボタンを、押して貰いたい、です」




提督「…!」


提督(これは…ちょっと予想外だな。

…だが、ま、そんな大したことにはならんだろう)




提督「…ああ、わかった。じゃあ、押すよ」





ポチッ





提督「…気分はどうかな、鳳翔さん?」




鳳翔「…『鳳翔』」



提督「へ?」



鳳翔「鳳翔、と。そう呼んで下さい。

さん付けなんて、他人行儀過ぎます」



提督「!? あ、ああ…分かったよ、

ええと、鳳翔?」



鳳翔「はい。 …すみません、提督。その、そちらに座っても?」



提督「え?ああ、どうぞ?」



鳳翔「ふふっ、ありがとうございます」






【鳳翔、提督の隣に鎮座セリ】






提督「………!?」



提督(バカな、そちらっていったら普通はこのお座敷の向かい側だろう!まさかの横隣!

…というか近い!主に顔がすげぇ近い!)




鳳翔「…提督」ボソ



提督「!!な、何かな?鳳翔…さん?」



提督(咄嗟に『さん』をつけたのは…ここで呼び捨てにしたら、只でさえしなだれかかられているこんな状況が余計まずい事になる…そんな気がしたかr)




鳳翔「…提督はいけずですね。私の事を、親しく思ってはくれないのですか?」イジイジ



提督「い、いや。その…つい、癖が出てしまって」




鳳翔「…嘘つきな上に、意地悪なんですね。でも…」



鳳翔「…そんな意地悪な提督も大好きですよ?」




提督「」←耳へと口づけされる



提督(ど、どう足掻いてもまずかった!)



提督(まずいまずい!何で、何でこうなった!?

鳳翔さんの顔が紅くなってて、いつも見せないような表情もしてて、どこか艶めかしくて…)



提督(違う違う、そうじゃない!

ボタンには間違いなく効果が無い!なのに何故ここまでなるんだ!?)



提督(…まさか、五月雨の時のような『思い込み』でここまで?それだけでこんな、こんな…)




鳳翔「ふふ、提督。今ここで、口付けだけでは無く、その先もやってみませんか?」




提督(こんな…その、色っぽいというか…)




提督「あ、あの、鳳翔?ちょっと落ち着いて…」



鳳翔「あら、私とは嫌、ですか?」



提督「いやほら!誰かが来るかもしれないしさ!」



鳳翔「この時間帯は皆さん来ませんよ。

さっき、提督がそう言っていたじゃありませんか」



提督「そうだった!い、いや、一回落ち着こうって!」



鳳翔「……私の事が嫌いなら、そう言ってはっきりと拒絶して下さい」



提督「や!そう言う事では無くって…」



鳳翔「…では、愛していますか?」



提督「愛ッ…!?いや、あの…!」





ピーーーーーーーッ




提督「!!ほら鳳翔さんお湯が煮えたみたいですよ!やかんの火を止めにいかないと!」



鳳翔「!は、はい…」




提督「あ、こんな時間だ!すいません、やはりお茶はいいです!俺執務室に帰るんで!

また会いましょう!!」




鳳翔「あ、待っ…」




提督「それじゃ!」






【提督、遁走】






鳳翔「……」



鳳翔「…や、やりすぎちゃったかしら…?」///



鳳翔(ボタンが押されると、もっとこう勝手に身体が甘えちゃうとかになると思ってたけど…そうじゃ無かったのね)



鳳翔(あんな、だ、大胆な事…凄く恥ずかしかったけど…)



鳳翔(でも、ボタンのせいでもあるからしょうがない…わよね?)





−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





提督「…………」




明石『…いやはや、さっきの提督、ぜひとも映像付きで見たかったです』



提督「てめえ…」



明石『いやだって…どうしたんですか、あんなに狼狽えて。外道な提督らしくもない』



提督「…それ以上さっきの事に触れないでくれ」



明石『ひょっとして提督、典型的な攻められるとダメなタイプの人ですか?』



提督「触れるなと言ってるだろうが!…いや、まさか鳳翔がああなるなんて思わなくって…意表を突かれたっていうか…」



明石(ちょっと前までとは別人じゃないかってくらいのヘタレ具合だなぁ』



提督「声に出てんだよこん畜生が」



明石『そういえばあんなに急いで逃げてましたけど、偽ボタンも置いて来てしまいましたか?』



提督「いや、それは何とか回収してきた」



明石「ちゃっかりしてますねー…」




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−






提督「よっしゃ次行くぞ次ィ!」



明石『うわ、急に叫ばないで下さい耳が痛い!』



提督「ちっくしょうめ…次この部屋に来た奴…そいつには恥辱で三日三晩寝込むくらいの恥を与えてやる」



明石『その娘何の非も無いじゃないですか!」



提督「やかましい、俺の八つ当たりにあたるような時に来た奴が悪いんだ」



明石『控えめに言っても極悪ですよその思考』



提督「極悪結構、これはもう決定事項だ!」



明石『はぁ』



提督「…と。そうこう言ってる内に誰かが来たな。

この時間帯は…出撃が終わった頃だな。

となると、来るのはその内の誰かか。さぁて?」





ガチャリ





武蔵「提督、戦果が挙がったぞ」




提督(武蔵…武蔵か。…武蔵だと?)



提督(…ふむ…凄いな。パッと考えてみたが、どうなるのかまるで見当がつかないぞ)



提督(俺の事を相棒と呼んだり、それでなくともいつも頼れる姉御肌で、正直あまり甘えるなんてしなさそうな奴だが…)



提督(こういう武人肌な奴に限って案外乙女趣味だったりだとか、小動物的なものを抱えてるともいうよな…しかしそれにしてはあんまりにもボロが出なさ過ぎる気もする…俺は兎も角、誰もそんな様子が見た事がないと言うくらいだし)



提督(どうなんだ?このボタンを目の前で押されたらどうなる?甘えて来るのか、来ないのか?)



提督(うーむ、正直、本物の方のボタンを使ってみたい程には興味がある、が…)



提督(…だからこそ本物は使わない。

だからこそ、面白い!)



提督「おお、お疲れ様。どうだった?」



武蔵「上々と言った所だ。

…?提督、怪我でもしたのか?」



提督「?どうした急に」



武蔵「いや、血の香りがした気がしてな。

気のせいならそれで良い」



提督「(流石に聡いな)いや、確かに先程書類で指を切った。まあそれだけだ」


提督(まさか先ほど駆逐艦にぶっ壊されかけた時の血とは思うまい)



武蔵「そうか。菌が入ってしまわないように気をつけるんだぞ?」



提督「分かってるよっ…と」


ポチッ



提督(さ、どうなる。結構俺の事を気にしてるようだから、まあまあ甘えてくるだろうか?そもそもの話、武蔵が俺にラブの感情を持ってるかすらわからないからな)




武蔵「………」



武蔵「……提督?報告をしても良いか?」



提督「…ん?あ、ああ。どうぞしてくれ」



提督(おや…反応がないな。

目の前で押したし、見てないって事は絶対無いが)


提督(何だろう、何の変化もないから甘えボタンだと思わなかったとか?)


提督(…あ。いや、そもそも。結構早い内から出撃しに行ってたし、ボタンの事を知らないのか?)


提督(…だとしたら、馬鹿な事やっちまったな。

…まあいい、取り敢えずは報告を大人しく聞くか)




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武蔵「……以上だ。何か不明な点はあるか?」



提督「大丈夫だ。全て滞り無し。流石だな。

さて、出撃御苦労。この後はゆっくり休むといい」



武蔵「ああ、そうさせて貰うよ」




ガチャリ




提督(…?扉の鍵をおもむろに閉めた?一体何を…)



提督(…何だ?悪寒が…嫌な予感がする)



武蔵「ところで、だ。貴様がさっき私との会話中に押していたあのボタンだが…」



提督「あ、ああ。あのボタンは…」



武蔵「何、流石に知っているさ。何しろ鎮守府中が噂しているからな。だから、そのボタンを押したという意図も良くわかる」



武蔵「アレをこの武蔵の前で押したと言う事…つまり、私に甘えて欲しいんだろう?」



提督(…まずい、悪い予感がひしひしとするぞ)



武蔵「全く、提督も案外恥ずかしがり屋だな。

そんな物に頼らなくとも、私に言えばそうしてやったものを…」ガシッ



提督「む、武蔵。何故俺の手を掴む?何処に連れて行くつもりだ?おい?」



提督(うわやべぇ、ち、力強っ!ちょっと抵抗してもびくともしないぞ!)



武蔵「ははっ、そう怯えるな。…言っただろう?そういった事は凱旋の後で、って」



提督「そういった事…って…

(しかも俺は仮眠用の寝台に連れてかれて、そこに横たわらせられて…)



武蔵「おいおい、まだ惚けるつもりか?

…本当はもう解っているのだろう?」



提督「わ、わからないかなって…ハハ…

…あの、どうなさるつもりで?」




武蔵「一線を越える」




提督「やっぱりか!!ヤメロー!ヤメロー!」ジタバタ



武蔵「大丈夫、慌てなくてもいい。初めてだというなら心配するな。天井のシミでも数えている間に終わるさ」



提督「そういう問題じゃねぇ!!お前は上司に強制されたからって身体を差し出すような奴か?違うだろう?一旦落ち着け!ほら深呼吸!」



武蔵「?落ち着いているが」



提督「…いいか?お前は今錯乱しているだけだ。俺が変な事しちまったせいでな。それはほんとすまん。許してくれ」



提督「…で、だ。こういった事はお前も嫌々だろう?俺も望んだものじゃあない。だからさ。どうか無かった事にしてくれないか?…どうだ?」




武蔵「……ああ…そうだな」



提督(…よかった、分かってくれたか…)





武蔵「では始めようか」



提督「何も伝わって無かった!ヤメロー!!」



武蔵「まず提督は大きな勘違いをしている。

この武蔵、そのような事をもし他の人物に強制されようと、絶対に従うつもりはない」



武蔵「私がこういった事をするのは愛している貴様にだけだ。

だから当然、嫌々、という事は絶対に無い。寧ろ今が至福の時間といってもいい程だ」



提督「愛し…いやそれでも!一戦を交えて一線を越えるのはまだちょっと早すぎるって!

もう少しお付き合いをしてk」



武蔵「ええい、ごちゃごちゃと!

そろそろ覚悟を決めろ、男だろうが!

いい加減私も我慢の限界なんだ、抱かせろ!!」



提督(あらやだ男前)トゥンク…



提督(って、そんな悠長な事思ってる場合じゃねぇ!誰か助け…鍵は閉まってるし…!

戸も閉まってるから音はあまり漏れない!)



提督(…!そうだ、明石!明石、助けろ!!アイツはこの光景を聞いてるし見てるはずだ!アイツなら何とか出来るだろう!?)






明石(…とでも思ってるんでしょうか)



明石(ごめんなさい、提督。助けたい気持ちは…まあ少しはあるんですが…)



明石(どうやら武蔵さん、インカムどころか、裏方の私の事辺りまで気付いているっぽいんですよね。

さっきカメラ越しに2回くらい目合ったし)



明石(それでいてこういった行為を始めたって事は…多分、『邪魔をするな』って事ですよねー)



明石「…せめてもの情けとしてカメラの映像は切っておきますか。…ご武運を」







武蔵「さて、観念するんだな……♥︎」




提督「明石!何故来ない!明石ィィィ!」







アカ……アッーー!






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【工廠にて】





明石「…お疲れ様です、提督。

貞操は守り切れましたか?」



提督「聞かないでおいてくれ」



明石「あっ、そうですか…」



提督「…まあ、元はと言えば、相手を選ばずに不用意に押した俺が悪いんだ。その事に対しては誰かのせいにするつもりはねぇよ。

……だがな」



提督「明石てめえ!てめえ、よくも!!

貴様だけは絶対に許しちゃおかねぇ!!」



明石「!?な、何で私なんですか!

確かに見捨てはしましたけど、実際に行動を起こしたのは武蔵さんじゃないですか!

それに今、誰かのせいではないって…」



提督「それはそれ!これはこれだ!

裏切り者には死よりも辛い恥辱を与えてやる!」



明石「うわぁ、なんていう俺ルール!

って、それ!まさか本物の方のボタンを!

待って!それだけはやめてください!」




提督「ヒヒヒ、今更 命乞いしても遅いわ!

くらえスイッチ…」





明石「や、やめ……!!」





明石「…なんちゃって」ポチッ




提督「…へ?」



提督「……あれ?」




明石「…私がこの事態を警戒しなかったとでも思いますか?」



明石「私は提督が暴走した時用に、もう一つだけボタンを作っておいたんですよ。

…この、『提督が甘えてくるボタン』をね」



提督「な…に…?」



明石「…残念ながらあんまり時間が無く、そっちのボタンよりも射程距離は短い物にしか出来ませんでした」


明石「よって今のでは完璧な催眠状態にはできませんでしたが…あと少し…数歩ほど近づいてこれを押せば…」



提督「…お、おい馬鹿、止めろ。止めてくれ」



提督「と、いうか!お前俺の事があんまり好きでもないだろ!?やめといたほうが良いって!」



提督「ほら、ただのうざい上司から甘えられるなんて、たまったもんじゃないだろ!?」




明石「……その前提が、間違っていたとしたらどうです?」



提督(?前提が間違って…?一体何の…)



提督「…っておい!馬鹿、止まれ!こっちに来るな!!やめ…おま…お……!」





提督「俺の側に近寄るなァーーーッ!!」





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この時に何があったのか?それは、提督も明石も一言も語ろうとしない為に、今でも深い闇に包まれてる。



ただ、その後を見た娘の証言によると、提督は天国と地獄を同時に見たような魂の抜けた表情を。そして、明石はただひたすらに満足気な顔をしていたという。



また、この後、この時の明石が作った『提督が甘えてくるボタン』の存在を巡り、新たな戦いがこの鎮守府内では勃発するのだが、それはまた別の話……






おわり…?




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◆番外編[後日談な]◆





提督「……」



龍田「あら?どうしたんですか、提督?」



提督「!龍田か。いや、少し天龍に用がだな」




【現在位置:龍田+天龍部屋前】




龍田「そうなんですか?天龍ちゃんならさっき駆逐艦の娘達と何処かに行っちゃいましたけど」



提督「なんだ、そうか…それなら、また後で来よう」



龍田「あら、大事な用事じゃなかったんですか?」



提督「ん…まあ別に、大した用事でもないからな。

また時を改めて来るさ」



龍田「そうだ、提督。それなら私達の部屋で天龍ちゃんの帰りを待ちませんか?」



提督「……何?」



龍田「多分そんなに遅くならないと思いますし、少しくらいならいいですよ」



提督「……ッ」




提督(さて、俺が此処まで来た理由。

それは、言うまでも無くボタンの為である。)



提督(がしかし。ボタンといっても偽物の方では無い。と言うのも、明石に本物の方の実験をするように頼まれたのだ。)



提督(相手は誰でもいいとの事で、俺は天龍辺りを相手にその実験をやるつもりだったが…)



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明石『あ、そうだ。提督。

誰でも良いとは言え、相手は選んで下さいね?』



提督『あ?何でだよ』



明石『いや、提督がもしかしてこのボタンの事を都合よく勘違いしてるんじゃあないかと思いまして』



提督『…?いやに回りくどいな。何が言いたい?』



明石『つまり、それの効果を解除しても、都合よく記憶が無くなったりとかはしませんからって事です』



提督『…そうなのか』



明石『やっぱりそう思っていたんですか』



提督『…まあその可能性も無くはないと思っていたが…でも何だかんだそういった機能もついてるのかと』



明石『常識的に考えてそんなご都合的な機能あるわけないじゃないですか』



提督(それを言うならそのボタン自体…

…いやまあ、何も言うまい。)



明石『ともかく、もし押す相手に提督を嫌ってる娘…は居ないとしても、感情的になりやすい…所謂ヤバイ娘にやったら…』



提督『惨殺死体の一丁あがり、になりかねないという事か』



明石『ボタンの効果を解除した時、冗談抜きでそうなりかねませんからね…なので、相手はちゃんと選んで下さい』



提督『…ああ、十分解ったよ…』




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提督(俺も流石に死にたくはないからな…相手は選ぼうと心に決めて、結果天龍にしようとしたんだが…)



提督「…済まない、そうさせてもらおう」



龍田「じゃあ、ちょっとだけ待ってて貰えます?」



提督「ああ」



提督(天龍が居なく、部屋に龍田と2人きり、か…

…フフ、好奇心がツンツンと刺激されるな…)




提督「…済まんな明石、俺は死ぬかもしれん」ボソリ




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






提督「お邪魔するよ」



龍田「はい、どうぞ」



提督「おお、中々片付いてるじゃないか」



龍田「あまりじろじろと見ないで下さいねー?

あんまり見る様なら…」



提督「はは、済まん済まん。

すぐやめるから勘弁してくれ」



龍田「では其処にでも座ってください。

私はお茶でも淹れてきますので」



提督「ああ、頼む」




提督(…さて。)



提督(…部屋に入って、ボタンをすぐ押す事は出来た。なのに何故俺はそれをしなかった?)



提督(答えは簡単。俺は恐怖しているのだ)



提督(というのも、俺が恐怖しているのは死そのものではない。まして、龍田でもない。自分が死んで、こういった行為をする事が出来なくなってしまう事が怖いんだ)



提督(それ程までに俺はこの娘らの何時もと違う顔を見たい…それ程までに、俺は恥辱に塗れさせたい)



提督(…だからこそ、俺は自分を裏切れない。

こんな、絶好の獲物を逃せない!)




龍田「提督、お茶が入りましたよ〜」



提督「……」



龍田「提督?」



提督「…許せとは言わん。だが、済まん。」



龍田「?何を…」



提督「喰らえ、龍田!」




ポチリ




龍田「あ……」



龍田「………」トロン




提督(頬が紅潮し、いつも隙の無い龍田が夢うつつのように…成る程、本物はこうなるのか)


提督(さて、明石曰く、これが発動した状態の『甘える』は各人によって基準が異なるらしいが…

龍田は果たしてどうなるのか?)




龍田「…提督。急ですいませんが、一つお願い事を聞いてもらっても良いですか?」



提督「(早速来たか)…取り敢えず、内容を言え」



龍田「…そうですね。私のお願いは…」



提督「……ッ

(さあ、どうなる?鬼が出るか?蛇が出るか?)」



龍田「…右手を、出して貰ってもいいですか?」



提督「……?

(手?手だと?何を考えている?解らん、解らんぞ)



龍田「どうですか?」



提督「…わかった!良いだろう!」←ヤケクソ



龍田「ふふ、ありがとうございます。それじゃあ…」



提督(ッ!何だ?何が来る?…駄目だ解らん!

今、俺は初めてこいつが怖い!)



龍田「うふふ、準備は良いですか?」



提督「…っ!や、やっぱり待っ…!」




ギュッ




提督「…って、あれ?」



提督(手を…握ってきた。所謂恋人繋ぎ的な状態になってるな。…あれ?これで終わり?)



龍田「…う、ふふ。

提督の手って、大きくて格好良いです」



提督「えっと…龍田、さん?」



龍田「…もう少しだけ握らせてもらっても良いですよね?あとちょっとで良いので…」



提督(まさか…)



提督「…なあ、他の事はしないのか?」



龍田「?他の事…例えば、何ですか?」



提督「ほら、例えばキスとか、それこそセ」



龍田「…ッ!随分といやらしい事を考えてる様で!///」ギリギリ



提督「ッ!い痛ててて!

分かった分かった、俺が悪かったから!」



龍田「全く…そんな破廉恥な事、もう二度と言わないで下さいね?」




提督(……い…)



提督(意外!龍田は超ピュアだったッ!)



提督(いやいや、意外すぎるだろう!じゃあいつものあの余裕有りげな態度は何だったんだよ!)



提督(ていうか『甘える』の基準が手を繋ぐって…!思春期の中学生じゃあるまいし!)



提督(…じゃあ、もしかして今、こうやったら…)サワッ




龍田「きゃっ…!」ビクッ



提督(『きゃっ』だって?あの龍田が…?)



提督「…明石、お前やっぱり天才だ」ボソッ



龍田「て、提督…!その右手、切り落としますよ!」



提督「はは、済まなかった…なっ」



ポチリ



提督(さて、十分過ぎる程に可愛らしい事も分かったので、解除!…さあどうなる?)




龍田「あっ……」




提督(…せめて四肢が残ればいいが)




龍田「……」



提督「……?」




龍田「……」プルプル




提督(な、涙目に…!)



龍田「…そのボタンは、何なんですか?提督」



提督「あ、ああこのボタンは…」



提督「…『相手を素直にするボタン』だよ」


提督(…!何を言ってるんだ、俺は。

ここはせめて正直に事を言って謝るべきだろう。

なのに、何ゆえ嘘を重ねるんだ)



龍田「…素直に、なる…?」



提督「ああそうだ。で、素直にした結果が俺の手を繋ぐ、というお前の行動だ。」


提督(嗚呼 駄目だ。最早口が止まらん。

てか俺自身、もう止まれない)



龍田「…ふふ…」



提督「ちなみに、さっきの行動はどういう意図だったんだ?もしかして、甘えていたのか?

それなら俺は随分と慕われてる様だが…」



龍田「そ、それは…」



提督「『それは…』何なんだ?

ぜひとも、聞かせて貰いたい」



龍田「…それは…その…えっと…す…」



提督「聞こえないな、大きな声で言ってくれ」




龍田「……ば……」




提督「ば?」




龍田「……バカッ!」





パシーン





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明石「お帰りなさい提と…うわぁ凄い紅葉」



提督「ただいまー。いやぁ痛いの何の。

こりゃ腫れるな」



明石「もう既に腫れてますよ。だから相手は選ぶ様言ったのに…誰にやってきたんですか?」



提督「龍田だ」



明石「本当に馬鹿なんですか!?」



提督「確かに止めようとしたんだけどな…

囁いたんだよ、俺の中のゴーストが…」



明石「うっわ痛々しい。

…あれ?本当に龍田さんにやったんですか?」



提督「?ああ。こんな事で嘘を吐いてもしゃーないだろう」



明石「いやそうなんですけど…

…それの割には軽症すぎる、様な…」



提督「…どうやら、お前も彼女の事を誤解しているらしいな。さっきまでの俺のように」



明石「?それって…?」



提督「これ以上は言わん。ていうか頬が痛くて話す気になれん。つー事で湿布貼ってくる」



明石「アッハイ、どうぞいってらっしゃい…」




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【某日】





提督(ボタン騒動から数日たった。)



提督(ボタンについては今もかなり話題にはなっているらしい。だが、情報の流れとは激しいもので、今はこの話題で持ちきりとまではもういかないんだと)



提督(結果として多少は平穏な日常が戻ってきたという訳だ)



提督(…だがしかし。そうして少しでも周りが油断している時こそ、最も人を騙したり計ったりするのがやりやすい時期だ)



提督(だから俺は今日も今日とて仕事をしながら、誰かに向かってボタンを押す。ただ愉悦を得る為だけに)





提督「さて、今日も一日お仕事だ。

今日の秘書艦は不知火か。」



不知火「はい。どうぞ宜しくお願いします」



提督「はは、相変わらず堅いな。俺の前でくらいもう少し肩の力を抜いてもいいんだぞ?」



不知火「いえ、そういう訳にもいかないので」



提督「…ま、お前がそれを望んでるならいいさ」



提督(さて、今回も本物の方を使っていこう。

あと少しデータが欲しいとも言われたし、俺自身、こっちをやってみたかったからな)



提督(で、今回のターゲットは不知火か。

…無口で自他共に厳格な娘だが、はてさて。

一体どんな風に甘えてくるんだろうなぁ。)



提督(案外、ベタベタに甘えてきたりして?

全くイメージがつかないけど、前例的にそうならない可能性も無い訳じゃねえからなぁ)



提督(不知火の『甘える』の基準がどんななのかも少し気になるな。コイツの恋愛感というか、成熟具合というかも多少見てみたい…)



提督(……)



提督(…もしこれで、俺が偽の方のボタンを押すとどんな反応するだろうか…?)ウズリ



提督(顔を赤くして何かしてくるか?

はたまた、あくまで冷静なままで甘えてくる?)



提督(いや、それとも。これが偽物だと見破ったりして、たしなめてくるのか?)



提督(…うん、本物はまた別の娘でもいいな)



提督(という事で、明石すまん、データはとれない。不知火に対してはこっちを…ダミーの方を使おう。

もうそっちが気になってしょうがない。)



不知火「司令官?どうかしましたか?」



提督「ああいや、どうもしていないさ」



不知火「そうですか。どこか上の空だったように見えたので、声をかけたのですが…」



提督「何、大丈夫さ。

そんな事よりちゃっちゃと仕事をやっちまおう」



不知火「…解りました」




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提督「…良し、取り敢えずこんなもんかな」



不知火「ええ。お疲れ様でした、司令官」



提督「ああ、お前もな。」


提督「…そうだ。以前、美味そうな氷菓子を買ってきたんだ。それを出そう」



不知火「いえ、私は…」



提督「まあまあ、遠慮するな。秘書艦としての役得と思って貰っておくといい」



不知火「ではそうさせてもらいます」



提督(あと、これの謝罪って事でな)




ポチッ




提督(さあ、いざぁ)



不知火「…!」



不知火「…司令?如何なされましたか」



提督「…む」ポチッポチッ



不知火「どうしたのですか、そのような物を向けて。不知火に何か、落ち度でも?」



提督(…へえ?成る程ね)



提督「いやぁ、すまんな。どうしてもやってみたい事があってな。」



不知火「…そうですか」



提督「ああ。例えばこんな事とかな」



ポチッ



不知火「何を…… ッ!?」



提督「さあ、何だろうな?」



不知火「…あ、あの。司令、官?」モジモジ



提督「しぃーっ…言わなくていい。

言わずとも解るさ。今、猛烈に思ってるんだろう?『俺に甘えたい』ってな」



不知火「…っ!」///



提督(ひゅう、流石明石印の本物だな。

相変わらず効果はバツグンだ)



不知火「で、では…その…」




提督「駄目だ」




不知火「…え?」



提督「不知火。お前さっき、俺が偽物のボタンを押した時にまったく反応しなかったよな。何故だ?」



不知火「何故、とは…」



提督「俺の考えでは。お前はこの偽物の存在を、やられた誰かから、既に聞き出しておいたんだろう」



不知火「……!」



提督「全く、ずるい娘だよな?そんな娘には罰を与えない限り俺に甘えさせてやらない。」



不知火「…えっと、その、罰とは?」



提督「…俺が偽物を押した時、甘えなかった理由を言え。そして、その後に『甘えさせて下さい』ともな」



不知火「なっ…!」




提督(『本物』の効能。それは、相手はどうしようもなく俺に甘えたくなる、だ。)


提督(効能はただのそれだけ。それ以外は何も無い。解除した時記憶を消す事も無い)


提督(そう、羞恥を薄くしたり、無くしたりも無い。それでも甘えてくるのは、その欲が羞恥すら上回る為…)


提督(つまりはこういう事だ、俺がやりたいのは!ちと目論見とは違ったが、これはこれで良し!)



提督「さあ、言うのか?言わないのならば、俺は絶対に貴様を甘えさせたりはしない。

それも今だけではなく、二度とな」



不知火「…!」



不知火「……」



不知火「…し、不知火は。そのボタンについての真偽を知るべく情報を集めて、結果、その偽物の存在を知りました」


不知火「偽物とは言えボタンを押され、それでも甘えなかったのは… し、司令にはしたない娘だと思われたくは無かったからです」


不知火「…そのような小賢しい真似をしてしまい、申し訳ありません」



不知火「なので…その…」



不知火「…あ」




不知火「あ、甘え、させて下、さい…!」///




提督「……」



不知火「あ、あの…?」



提督(恥ずかしげに下を向きながら、顔を真っ赤にし、尚且つ俺の目を上目遣いで見ながらのこの懇願…

うーん、たまんないな)



提督「…良いだろう甘えさせてやる」



不知火「!!そ、それでは」



ポチッ



提督(但しこのボタンは解除するがな)



不知火「…し、司令官…」///



提督「どうした?来ないのか?」




不知火「……う」///



不知火「…うう…」プルプル



提督(愉しい)





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明石「で、その後はどうなったんです?」



提督「そこまで言ったらもう変わらないと思ったらしくてな。半分ヤケクソみたいな感じで甘えてきたよ。顔を赤墨みたいにしてな」



明石「そうですか…だからそんな、かつてない程に気味悪い顔をしているんですか」



提督「いやぁ楽しかった。ほんと楽しかった。

こういう事してるとなんか生きてるって感じがするよ。やっぱお前は天才だな」



明石「よ、よして下さいよ…正直、今そんな事言われても、ただ怖くて全然嬉しくないですって」



提督「はは。今度からはお前の発明品の実験にも幾つか付き合ってやろうかな」ニコニコ



明石「ハハ…ありがとうございます…」



明石(…今度からはできるだけ実験の事を提督に知らせないよう気をつけようかな)




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提督「とりあえずデータはとってきたが、どうだ?」



明石「かなり良いですね。どうやら、2回とも暴走や不発する事無く発動してるようです」



提督「実際そうだったよ。

…ん?不発はともかく暴走ってなんだ?」



明石「あーっとですね。…平たく言うと病みます」



提督「…精神病とかそういう意味じゃないよな、勿論」



明石「そうですね。まあ、例を挙げるとしたら監禁しようとしたり自傷行為をしようとしたり…

最悪、提督自身がそうなってたかも」



提督「なんだそりゃ。おっかねぇ…」



明石「今調整も入れるつもりなので、もうそんなことは無いでしょうけど」



提督「それでも、もしそうなってたらと思うと…ぞっとしないな。…ん?ていうか」


提督「お前、そうなる可能性があるような物を俺に渡し、しかもそれを言わないで実験させてたのか」



明石「…あっ」



提督「…前言撤回。お前の実験にはこれから付き合わん」



明石「えぇー…

…じゃあ、このボタンももう使わないんですか?」



提督「…いや、もうちょっと。もうちょっとだけ使う」



明石「…実験にはもう付き合わないんじゃあ」



提督「うん。実験云々ではなく俺自身がこれをもうちょいやってみたいからな。少年のような純粋な好奇心ってやつだ」



明石(うーん、この…本当、どうしてこの人が皆に好かれてるんだろう。ていうかどの口が純粋なんて言う、どの口が)



提督「では、そのお楽しみの時間に行ってくる」ヒョイ



明石「!?も、もう行かれるんですか!?

さっきここに来たばかりじゃないですか!」



提督「休息をする時間があるならば、俺はその分の時間をこのボタンに費やす。なんてったってそれが極上の癒しになるからな。と言う事で!」



明石「あっ、待っ…!!」




パタン




明石「…行っちゃった。ど、どうしよう…」



明石「…まだあのボタン、整備し終えて無いのに…」




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提督(さあ、工廠を出て…向かうは白露型の所だ。

アイツは多分そこにいるからな)



提督(アイツは…そう、山風はな)




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山風「……」



提督「!居た!」



山風「ひッ…!な、何…!?」



提督「おっと、すまん。声に出てしまった。

実はさっきから山風を探していてだな」



山風「わ、私?何か用なの…?」



提督「いや、大した用事じゃあ無いからな。

まあそんなに気を張らなくていい。

ただお前を猛烈に構いたくなっただけだ」



山風「や、やっぱり…!

放っておいてって言ってるのにぃ…!」



提督「ははは、すまんすまん」ワシワシ



山風「きゃっ…!や、やめてよ…!

撫でないでよ…!」



提督(口元が緩んでる事には気づいてないか。

全く、可愛い事だ)



山風「やめ、やめてよぉ…!」///



提督「……」ピタッ




山風「……?」



提督「…ごめん山風。少しでもお前と仲良くなろうと思って無理矢理やっていたが…もしかしなくとも有り難迷惑だったみたいだな」



山風「…え?」



提督「いやすまん山風。今までの拒否も嫌よ嫌よも好きの内的な風に都合よくとっていたんだが…急に本当に嫌がっているんじゃないかと思ってな」



山風「…え、えっと…提督?」




提督「というか、最初からお前は構わないでくれと俺に言っていたもんな。

それを勝手に良い方向に捉えたのは俺だ」



山風「あの、その…あ、あたし…」



提督「悪かったな山風。今度からはもうこういう事をしないから、安心してくれ」



山風「違…て、提督…待っ…」



山風「待って、その…」



山風「うぅ……」ジワリ




提督(で、ここで発動!)




ポチリ




山風「う……!?」



山風「……」



提督(さあ、お前が隠してるつもりの甘えっ子ぶりを見せるんだ、山風)



山風「……」スタスタ



ギュッ



提督「(やはりこう来るか)おいおい、どうした山風?そんな、無理しなくていいんだぞ?)



山風「…」ギュウウウ



提督「(反応なしか)それとも何だ?

まさか、本当は構って欲しかったとか?」



山風「……」



山風「構わ、ないで」



提督(おや?)



山風「構わないで」



提督(…?抱きついてきているのに、構わないで?

何と言うか…ちぐはぐだな)



提督「構うなと言われても…こうされちゃあな」



山風「あたしを見て」



提督「…?」



山風「あたしを見て。あたしを撫でて。あたしに触れていて。あたしを、愛してよ」



提督(…まずいな、雲行きが怪しい)



山風「提督、あたしを見つめ続けて。あたしから目を逸らさないで。…あたしに、ずっと体温を感じさせて。ずっと、貴方を感じさせて。

貴方を、ずっと、ずっと……」



山風「ねえ、だからお願い、提督…」





山風「あたし以外を構わないで…」





提督(……ッ!)



提督(…いやまあ、正直、そんな気はしてたが…!)



提督(山風は沈んだり、置いていかれる事を怖がる。…そりゃ皆多かれ少なかれそうだが。この娘は特にその傾向にある)


提督(それ故、誰かへ向ける愛情も重いとちょっと予測していた…いた、けれども…)




山風「お願い…だから…!」ギュウウ



提督(まさかここ迄とは…痛てて、これは抱きつきというよりちょっとした鯖折りだぞ山風)


提督(…何とか宥めようにも、俺に抱きつきながら顔を埋めているせいでどんな表情なのかすら解らないな)



提督「あー、悪いがちょっと離れてくれ。

話しにくくてかなわん」



山風「…答えて…!そうしたら…離れる、から…!」



提督(それまでは離さないつもりか。…あ、でも力は弱まってら。やっぱり危害を与えるつもりは無いんだな)



提督(さて、俺はどうすべきか?)


提督(自業自得とは言えこれで断って、結果危害を与えてこないとは限らないし。かといって嘘を吐くのもマズイ事になるだろう)



提督「…そうだな。

お前以外と話さないとなるとこの鎮守府が全く機能しなくなる。それは論外だ。」



提督「つまり、答えは『NO』だ」



山風「……!」



提督(…まあ、俺はあくまで『提督』として振る舞おう。なる様になるだろ)



山風「…嫌!」



山風「嫌だ、嫌だよ!あたし、あたし…!

皆に…提督に置いていかれたくない、捨てられたくない!」



山風「愛想を、尽かしてもいいから…!

あたしを嫌いになってもいいから…!

だから、お願い、お願い…!!」



山風「あたしを、見捨てないで…!

あたしを見つめて…見捨てないでよ…!」



提督「…落ち着け。山風」




山風「うう…ぐすっ」




提督「俺は確かに山風以外を構うなという要求に応じなかったけど、何でそれが置いていかれるとかの話になるんだ。

俺、そんな事言った事あったか?」



山風「……」フルフル



提督「…だよな。じゃあ、何でそう思ったんだ?…ほら、顔をちゃんと見せて言ってくれ」




【提督、半ば強引に顔を上げさせる】




山風「ぐすっ…だ、だって、あたし…」



山風「まだ練度もあまり高くないから、性能もあまり良くないし…他の娘はみんな強いし、かわいいから」


山風「だから!…だから、あたし以外と関わってたらあたしは要らなくなっちゃうから…!」



山風「だから提督は、あ、あたしだけを見てて欲しくて…!あたし…!!」



提督「…確かに、お前は練度は高くないな。

で、他の娘のが強いってのも確かだ」



山風「ッ!!」ビクッ



提督「でもな。重要な事を忘れてるぞ。

…どっちかって言うと勘違いかもしれないがな」



提督「それは、お前も可愛くて、魅力的で。

で、お前に変わる娘は何処にも居ないって事だよ」



山風「……」



提督「あー、だからな?俺が勘違いさせたかもわからないが、置いて行ったり、捨てるなんて事はしない」



山風「…ぐすっ」



提督「此れからも俺は他の娘にもお前にも構うし、

お前の事もずっと見守るつもりだよ。

…口約束じゃあ信じられないか?」



山風「…うん」



提督「そっかぁ…どうすりゃ信じてくれるかな…」



山風「…たら、信じる」



提督「ん?」



山風「…キスしてくれたら信じる…」



提督「」



提督「…いや、山風?それはちょっと」



山風「や、やっぱり嘘、なんだ…」



提督「いや、そんなまさか!しかし…」



山風「……ん///」




提督(ダメだ聞いてない!ただ目を閉じて待機してやがる!まずい、どうする?どうすればいい?この状況を何とかして切り抜けるには…)




提督「……ゆ……」



提督「…許せ!」



トンッ



山風「ぁ…」カクッ




【山風、気絶セリ】




提督「…済まんな、本当に済まん。

だが、これしか方法が無かったんだ…」



提督「あの状況で解除してたら恥ずか死んでたかもしれないし、かと言って本当にする訳にもいかんし…」



提督「…ま、これに免じて許してくれ」チュッ




【額へのキス→親愛】




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提督「ただいまー」



明石「あ、提督!無事に戻ってきましたか!

いや、というのもですね…」



提督「なあ明石。

このスイッチ、故障したんじゃねえか?」



明石「というか整備の途中だったんですって!

…でも、何事も無かったようですね。」



提督「いや有ったよ。相手が病んだぞ」



明石「……え?」



提督「ああ、そうだ。急に思いつめたり、口づけを要求してきたりした。信じたくないかも知れないが、これはれっきとした…」



明石「…いや、そんな筈はないですよ?

スイッチの故障でそうなった娘相手では、提督でもかなり危険な状況になりかねませんし」



提督「…何?」



明石「ああ、ほら。記録を見ると、実際正常に稼働してますよ。」



提督「……ええと、つまりさっきまでの相手は」



明石「ただの素、って事になりますね」



提督「……」



明石「…あの、提督。

どの娘に用いてたんですか?」



提督「ノーコメントで」




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提督「…ふーむ」



明石「…珍しく悩んでますね。まあまた碌でもない事についてなんでしょうけど」



提督「碌でもないとは心外な。

ただ単に次はどの娘にするかを考えてただけだ」



明石「やっぱり碌でもないじゃないですか」



提督「よし決めた、今度は長門に対してやってみるか」



明石「長門さん、ですか。

これまた意外と言うか何と言うか…」



提督「こんな機械でも無いとしてきそうに無いからな。まあ妥当っちゃ妥当だろうよ」




明石「そうかもしれませんが…

…その、大丈夫なんですか?」



提督「…何が言いたい?」



明石「その、何というか…

武蔵さんの時みたいに」



提督「あーやめろやめろ皆まで言うな」



明石(半ばトラウマになってるなぁ)



提督「…まあもしそうなったらダッシュで逃げるさ。で、アフターケアは翌日の俺に任せる」



提督「…本当はそうなったらお前に助けて貰えたら嬉しいんだが」チラッ



明石「?」チラッ



提督「後ろに誰も居ないわ」



明石「…まあ、行けたら行きますよ」



提督「来ないって事だな。OK、知ってた」



提督「…それじゃあまあ行ってくるよ。異様に遅れて来たり帰って来た俺がげっそりしてたら何かもう察してくれ」



明石「何故にそんな悲壮な覚悟を決めてまでわざわざ往くんですか…」



提督「勇猛で凛々しい娘を猫可愛がりするのって何かいいじゃん」



明石「知りませんよ」




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【in執務室】





長門「失礼する」



提督「おう長門。済まないなわざわざ」



長門「いや…ところで、用事というのは?」



提督「まあ、ちょっとな。

大事なんだが、騒ぐような事でも無く…」



長門「…随分とまどろっこしい言い方だな」



提督「ああ、うん。自覚してる。

…そうだな、取り敢えず扉の鍵閉めとけ」



長門「?ああ、解った」



ガチャ



提督「ん、すまんな」



長門「いや、構わないが…

一体、どうしたんだ?」



提督「わざわざ呼び立てた理由は、これだ」スッ



長門「これは…?」



提督「ほら、お前進水日だったろう?

丁度その日に祝う事ができなかったから、せめてものお祝いとして、プレゼントさ」



長門「…成る程。」クスッ


長門「ありがとう、提督。嬉しいよ。

ここで開けてもいいか?」



提督「ああ、良いぞ。

ただ…あー…大した物じゃ無いが…」



ガサガサ



長門「これは…ぬいぐるみ?」



提督「少し子供っぽいかも、とも思ったが…可愛いだろう?どうだ、気に入ったか?」



長門「…確かに可愛いが…少し、可愛らしすぎるよ。

もっと小さい娘達…駆逐艦の娘達なら似合ったかもしれないが、この長門には少々…」



提督「そんな事は無いがな。

俺にとっちゃ、お前もまだまだ小さい娘達の一人さ」



長門「背丈は貴方と同じくらいだろう?」



提督「いや、そういう意味の『小さい』じゃ無くてだな…まだまだうら若いというか」



長門「年齢も、提督よりずっとずっと上さ。

うら若いなんて言うような年齢じゃないぞ」



提督「実際の問題じゃ無いさ。俺個人はお前達の事をまだまだ年端もいかない娘位に思ってるんだ」


提督「…すまん、不愉快かもしれないが、お前達の指揮を執っているとどうしてもそうとしか思えなくてな」



長門「…いや、不愉快じゃないさ」



長門「私達をただの『兵器』と扱う者も居る中で、私達を指揮してくれている人物がそういう考えだというのは、個人的には有難く思う。…それに…」



長門「…このぬいぐるみ。

これでも結構気に入ったからな」



提督「そうか。…ま、じゃなきゃ、そんな嬉しそうな顔はして無いだろうしな」



長門「解っていたのに、わざわざ言っていたのか。全く、性格が良い事だ」



提督「はは、言葉通りに受け取っておくよ」



長門「…ところで、何故わざわざ鍵を?

これだけならばわざわざ閉めなくても…」



提督「ん?誰かが来ちまったら気恥ずかしいな、と思ってな。そんな大した理由では無いさ」


提督「…あと、そうだ、もう一つ理由がある」



長門「?それは?」




提督「用事はこれだけじゃあ無いから、かな」




ポチッ




提督(押したのは本物、状況も結構良い。

さあ、どんな反応を見せる?)




長門「……」ギュッ



提督「(うおう、いきなり抱き寄せられた)

お、おや、どうした長門?」



長門「…すまない。

急に愛しくて堪らなくなってしまってな。

…嫌ならば直ぐ離れる」



提督「う。いや、構わないが…」



長門「…そうか」



長門「…〜♪」




提督(咄嗟に許可してしまったが…

結構まずい状況だな。中々強い力で締められているせいで動く事もままならないし)


提督(にしても何というか…山風のが抱き付きなら、これは正に『抱擁』って感じのハグの仕方だな。相手を包み込む様で体温を直に感じて…)


提督(…で、俺の身体に当たってる、二つの柔らかいものは…胸だな。…まあ当然か)



提督(…気まずい)




長門「…どうだ?」



提督「…ん?」



長門「その…感想というか。

…この身体に触れて、どう思う」



提督「…あー、あったかい、かな」


提督(…我ながらなんつー間抜けな返事だ)



長門「ああ…うむ、そうか。私もだ。

少しばかり、胸と顔が熱い」



提督「そんなら、離しても…」



長門「いや、其れは遠慮しておく。

…もう少し、こうしていたい」



提督「いや、そろそろ俺も…」モゾモゾ



長門「んッ… て、提督。その、あまり動かないで欲しいんだが…」



提督「っ!す、すまん!」



長門「いや、その、何だ。

確かに私は、そういった事は吝かでは無いが…

だが、時間もまだ早いし…」



提督「わ、悪い。そういう意図じゃ無かった…というか、わざとじゃないんだ」



長門「そ、そうか。…済まない、早とちりをしてしまった」



提督(抱きしめられているからか、心音を直に感じる… …早鐘を打っている)



長門「…うう。やはり、慣れない事はあまりするものでは無いな」



長門「戦闘だけでなく、色恋沙汰にも長けていたのならば、もっと気の利いた言葉でも出るのだろうが…」



提督(心音は、より一層早くなってる…

…顔も、まるで熟れた苺だ)



長門「それで…その…何というか、だな」



長門「…私は、これでも貴方に感謝しているんだ。わざわざプレゼントを用意してくれた事、ずっと、指揮をしてくれている事、私たちを提督として未来に導いてくれている事…」



長門「そして、こんな私を。

…女として見ていてくれている事を」



長門「…その感謝を、こんな形でしか返せない事を、どうか許して欲しい」



提督「感謝なんてしなくても…んんっ!?」





【長門は深い口付けをした】






長門「…ぷはっ。…それではな、提督。

このぬいぐるみ、大切にするよ」





ギィィ バタン




提督「……」←茫然自失




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明石「あ、おかえ… あー…お疲れ様です」



提督「…お前が思ってる様な事にはなってない」



明石「え、そうなんですか?

その表情からしててっきりそうだと…」



提督「いや…うん。…なんかもう合意っぽい感じだったしもういいんじゃないかな」



明石「投げやりになってるじゃないですか…

しっかりして下さいよ」



提督「だって、俺はもっとこう…弱味を握れるレベルでのを期待していたのに。長門のやつ全然まだまだ凛々しいままだったし。結局、主導権もずっと握られっぱなしだったもんなぁ」



明石「弱味を握れるって…何というか下衆くて反応に困るんですが」



提督「…つーかそうだ、長門、あいつ俺がボタンを解除する前に出て行っちまったけどいいのか?」



明石「え、解除できなかったんですか」



提督「…やっぱりマズイ?」



明石「…えーっとですね。…あのボタン、効果の時間切れは有りません。つまり長門さんずーっとあの状態のまんまになってしまうかと…」



明石「まあ端的に言うと結構まずいです」



提督「…もう1回行けというのか…?

その状態のままの彼女の元に?部屋に?」



明石「自業自得って事で」