「提督の辞任」
「ある艦娘たちの日々」2の続編で、上のやり方に激怒して提督を辞任した元提督。
今後上層部と敵対することになるが・・・
参考までにキャラ紹介(主に主要キャラ)、
提督:司令レベル最下位の通称「クズ提督」、肩書きに興味がなく自由気ままに生活している。
戦闘も可能で、普段は「深夜副業」のみの出撃だが、艦娘たちの緊急時のみ出撃する。
使用している武器(剣や鎌)から「死神」と言われているとか。
霧島:提督の秘書艦で唯一の理解者。
村雨:提督の事が好きな、駆逐艦の女の子。
蒼龍:霧島の鎮守府で一番の実力を持つ航空母艦。
最高司令官:総司令部に所属し、この世界を統括している指揮官。
提督のやり方が気に入らなく強硬手段を取った結果、提督を敵に回す。
自己中心的で他人の命すら簡単に切り捨てる。
「提督(司令)・・・今何と?」
鎮守府の皆が口をそろえて聞いた。
「だから、オレは提督を辞める。」
提督の言葉に皆は驚く。
霧島とサラトガも何度か止めたが、提督の決意は変わらず辞任と言う形になった。
原因は・・・最後に出張に行った鎮守府での出来事。
鎮守府内は荒れ、提督は失踪・・・傷ついた艦娘達だけが残っており、中には・・・力尽きた艦娘もいた。
報告したにも関わらず、上層部は一切の責任を放棄し、この問題を提督に押し付けた。
提督の必死の復旧でこの鎮守府に希望が戻ったが、上層部がこの鎮守府を破壊してしまったことで提督が遂に切れ、
上層部に必ず報復する気で、鎮守府内に残った駆逐艦の子達を連れて戻ってきたのであった。
その場にいた霧島とサラも提督の意見が一致しており、「一度総司令部を懲らしめてやろう!」と言う気持ちを持っていた。
いきなり提督を辞めると言われて混乱していた皆だったが、事情を2人から聞くとこれまた皆の態度が一変、
「私たちを道具としか思っていないんですか!?」 「散々提督に押し付けた挙句に証拠隠滅ですか!?」と提督に同情的だ。
しかし、提督業を辞めるとなると話は別で・・・
この世界にいる限りでは、提督が辞任・懲戒免職した場合は現存する艦娘は原則解体されるか、違う鎮守府へと異動させられる。
提督の怒りの原因は最もだが、艦娘たちにとっては「辞める」ということは自分たちの死活問題でもあった。
「確かに提督を「辞める」がお前たちを見捨てようとは思っていない。」
意味ありげな提督の言葉に皆は耳を傾ける。
「昔のように提督の肩書きが無い生活に戻るだけだ・・・もちろん、出撃と遠征は引き続き継続する。
違うことは、上との上下関係を断ち切ると言うだけだ・・・当然上の人間とそれに従う艦娘達とは敵対することになるけどな。」
皆「・・・・・・」
「オレの意見に賛同できる艦娘は来て欲しい、だが姉妹艦を敵に回したくない・オレの意見に賛同できない艦娘は無理に来なくていい。
別の鎮守府で幸せに暮らしてほしい。」
そう言って提督はその場から去った。
皆「・・・・・・」
皆は悩む。
・・・・・・
提督の言う「姉妹艦を敵に回す」と言うのは、別の鎮守府で生活している姉妹とも敵対すると言う意味である。
その中には、村雨や蒼龍・霧島などが挙げられる。
普通に考えれば、戦闘で姉妹と戦うことは誰でも嫌な事である・・・ましてや、演習ではなく殺し合いになると・・・
皆は悩んだ・・・提督について行けば、周りを敵に回し・・・かと言って別の鎮守府に行けば今度は提督を敵に回す。
提督はこの世界で一番、深海棲艦撃沈数を叩き出しており、敵対すれば間違いなく負けることも皆わかっていた。
元々、姉妹がいない艦娘は提督について行くことになったが、蒼龍や霧島は葛藤があった。
「飛龍と・・・もしかしたら戦うことになるのよねぇ・・・」
「金剛お姉さまと戦いはしたくありませんが・・・でも、今の私の気持ちは!」
それでも、ここにいる艦娘のほとんどが過去に提督に助けられた経緯がある艦娘・・・それを考慮して皆が提督に
ついて行くことになった。
それでも、決められない艦娘には提督から条件を出されて・・・
「姉妹艦に説得が出来るなら、オレの鎮守府に入れてもいい。」の条件で、賛同したのだ。
・・・・・・
「思えば私は司令に助けられた身でしたね。」
霧島は昔を思い出した。
「私もです・・・売られていた所を提督が引き取ってくれて・・・」
海風も過去を思い出した。 ←「提督と海風」参照
「そうなんだ・・・皆、本当に「訳アリ」なのね。」
そういう蒼龍も提督に対して恩義を持っていた。 ←「提督と蒼龍」改 参照
霧島たちがそう呟くと、それに続いて「私も!」 「私もです!」と皆、言ってくる。
「五月雨も提督に助けられました。」 ←「提督と五月雨」参照
「私も~!」
「私もです~!!」
「・・・では、私たちが誰に着くべきか決まったようですね?」
霧島の言葉と共に、皆の意見が合った。
「私たちはこれからも、司令のために尽くします!」
気持ちを改めて、提督について行く皆であった。
・・・・・・
それから、提督と皆は今いる鎮守府から離れ、元々提督が計画していたのか鎮守府よりも大きい大型施設に
着任することとなった。
外見は何かの施設だが、中に入れば広い鎮守府そのもので、皆はすぐに慣れた。
施設が大きいだけあって、設備も整っており、本来ならば不可能な編成数も増加して最大で10編成まで(通常は4編成まで)
出撃・遠征が可能である。
艦娘保有数も多く数百人が着任可能であるが、今いる艦娘の数を考えると多過ぎな感じである。
しかし、提督がこんなにも拡張したのには理由があった。
・・・・・・
・・・
・
コンコン・・・(扉を叩く音)
「・・・誰かしら?」
彼女が扉を開けると・・・
「・・・提督。」
「久しぶりだな、ビスマルク・・・少し話をしたいがいいかな?」
「・・・どうぞ。」
ビスマルクは提督を部屋に入れた。
・・・・・・
「あの場所から引っ越したって聞いて・・・気になって来てみた。 生活の方はどうだ?」
「見てわかるでしょ? そんな贅沢も出来ないから、家財道具も置いてないわよ。」
前の住居と同じで、この部屋にもほとんど家財道具が置かれていない。
「プリンツの調子はどうだ?」 ←「ある海外艦の苦悩」参照
「あの子なら、体調が良くなって、今マックスたちと買い物に行っているわ。」
「そうか、良くなったか・・・それは良かった。」
「・・・それで? 何の用で来たのかしら?」
「ん?」
「わざわざここに来て、話だけをしに来たわけではないでしょ?」
「・・・お見通しか。」
「あなたが「提督を辞めた」話も聞いてるわ。 上の人間とぶつかった話もね。」
「そうか。」
「その元提督が一体私たちに何の用で来たのかしら?」
「・・・・・・」
提督はビスマルクに事情を話した。
「そう、そんなことがあったの・・・」
「恐らくビスマルクたちもこの場所に引っ越したのも上の圧力からじゃないのか?」
「・・・・・・」
「図星か・・・オレは上のやり方に我慢できなくてな、それで提督を辞めたんだ。」
「・・・・・・」
「でも、肩書きを捨てただけだ・・・後はいつものように出撃と遠征は継続している。」
「・・・提督を辞めたのに、提督としての仕事を続けている・・・あなたっていまいちわからない人間ね。」
「それで、ここに来たのはビスマルクたちを引き取りに来た。」
「? 私たちを引き取りに?」
「ああ、オレは決めたんだ。 「全ての艦娘を助けたい」と。 上の好き勝手な考えと命令で苦しんでいる艦娘がまだたくさんいる・・・
オレはそんな艦娘たちを救ってやりたいんだ。」
「・・・・・・」
「もし、ビスマルクたちが「艦娘」として戻りたい気持ちがあるのなら、オレのいる新しい鎮守府に来て欲しい。
強制ではない・・・ビスマルクが上の人間に着くと言うなら否定もしない、考えが違うだけだからな。」
「・・・・・・」
「だが、その時はお互い「敵」として判断する・・・それは仕方がないけどね。」
「・・・・・・」
「ビスマルクたちが決めることだ・・・オレが決める事じゃない。 今日はそれを言いに来たんだ。」
そう言って提督は出て行った。
「・・・・・・」
去って行く提督を見つめ、
「私たちは上から「用済み」と扱われている身なんだから、上に着くわけないでしょ!」
彼女は愚痴ると、
「プリンツたちが帰ってきたら荷物の準備でもしようかしら・・・」
そう思いつつ、ビスマルクはプリンツたちの帰りを待ち続けた。
・・・・・・
翌日、
ビスマルク、プリンツ、Z1、Z3は提督のいる鎮守府に着任、元々交流があったビスマルクは主力部隊の編成に配置され、
新しく入ったプリンツは同じ重巡の子と一緒に出撃任務に従事・・・Z1、Z3は遠征任務に従事したのだった。
・・・・・・
「司令、また上層部から警告の手紙が来ました。」
霧島が持ってきた手紙、それは総司令部からの警告で・・・
「早急にその場から立ち去らなければ、空母機動部隊で貴君の鎮守府を破壊する」と言うもの・・・
「これで何度目だ? 確か・・・」
「3度目です、司令。」
「そうだったな、霧島はよく覚えているよ。」
そう、これで3度目・・・1度目は重巡部隊で、2度目は駆逐艦編成で襲撃があったが、提督がそれを阻止した。
「襲撃してきた艦娘の中にはここの艦娘の「姉妹艦」もいたそうだな?」
「はい、説得して今はこの鎮守府で生活しています。 残りの艦娘も一部は撤退して、一部は上のやり方に不満を持っていた
方たちがこの鎮守府に残っています。」
「結局上も艦娘の力なしでは物も言えない立場なんだな。」
「ですが、キリがありません・・・何かもっと効果的な方法とかはないんでしょうか?」
「ああ、それなら・・・昨日の深夜副業のついでに対策を取ってきた。」
「・・・昨日の夜・・・ですか?」
霧島は一体何の対策を取ったのかがわからず、
「それは・・・具体的にはどういった対策なんでしょうか?」
「そうだな・・・「オレに構っている暇が無くなる」・・・かな。」
「・・・はい?」
「そんな深く考えるな、もう少し経てばわかることだ。」
そこまで言って提督はまた執務をこなし始めた。
・・・・・・
ここは総司令部・・・
「空母機動部隊、出撃準備が整いました。」
「よし、あの鎮守府に襲撃、完全に破壊しろ!」
「・・・了解、出撃します!」
旗艦の加賀が皆を連れて出撃をした。
「・・・くそっ!」
総司令部の最高司令官は怒り心頭である。
「第1、第2と部隊を襲撃に向かわせたが、結果は・・・失敗。 しかも、一部の艦娘共が寝返りだと・・・面汚しもいい所だ。
あの提督の戦力も徐々に増えつつある・・・くそっ!!」
司令官は苛立ち、
「まぁいい。 今度の空母部隊で上手くいくだろう・・・この私を怒らせた罪は重いぞ、あの無能提督が!!」
「た、大変です!」
秘書艦が慌てて駆けつけて、
「し、深海棲艦がこの場所に接近しています!」
「何? 深海棲艦が!?」
司令官は驚きを隠せない、それもそのはず・・・
司令官がいるこの総司令部は、他の鎮守府や施設と比べて深海棲艦の目撃がほとんどないことから「安全地帯」として
この場所に建設した施設である。ここ数年深海棲艦の目撃が無かったため、突如出現したことに驚いたのだ。
「ふむ・・・駆逐艦と軽巡を配置に着かせろ! 直ちに出撃し、敵を討て!」
「・・・・・・」
「どうした? 何をしている? さっさと出撃に向かわせろ!」
「・・・そ、それが・・・」
「?」
秘書艦の顔が青ざめていることに気づいて、
「何だ・・・まだ何か問題があるのか?」
「・・・・・・」
「何だ・・・はっきり言え!」
「・・・し、深海棲艦の接近が確認・・・その数は・・・」
「・・・その数は。」
「・・・1000を超えます!」
「!? 何ぃ!?」
・・・・・・
「敵、深海棲艦を確認! ・・・数が多すぎます! 全員退避・・・退避~~!!」
今まで経験したことのない圧倒的な数の敵に艦娘たちは驚き、建物の中に逃げ込む。
容赦なく敵からの砲撃が始まり・・・
「負傷者が出ました! すぐに救助、建物の中に退避を!」
大淀が各艦娘たちに冷静に対応していく。
「戦闘可能な艦娘たちは直ちに迎撃開始! 敵を撃破してください!」
駆逐艦・軽巡・重巡の艦娘たちが配置に着き、応戦をするが・・・
「駆逐艦3名大破! 撤退します!」
「軽巡2名、敵戦艦からの砲撃で中、大破・・・撤退します!」
「こちら重巡・・・敵の攻撃が激しすぎます! ・・・3名被弾、戦闘続行は不可能・・・撤退します!」
短時間で艦娘たちの被害は甚大、撤退を余儀なくされる。
「くっ・・・全員建物の中に退避してください! 今すぐに!」
大淀の指示で、艦娘含む全員が鎮守府内に避難した。
それでも、敵の猛攻は続き・・・
・・・・・・
・・・
・
「司令、第6~10の遠征部隊が帰還しました。」
提督の鎮守府は前にいた時と比べて大忙しだ、編成数が実質2,5倍になったのだから当然ではあるが・・・
「ご苦労だった・・・皆上手くいったか?」
「はい! 司令の的確な指示により、全編成「大成功」です! 資源もたくさん入手できました!」
「よし、しばらく休憩させた後、再び遠征に行ってもらう・・・各編成の旗艦に報告してくれ。」
「了解しました!」
資源も豊富に溜まり、誰にも評価されることはないが、多大な活躍を見せる提督であった。
・・・・・・
ここは総司令部・・・
「敵の砲撃により、ほぼ全ての倉庫が破壊されました!」
これでは補給も修復も装備も出来なくなった。
総司令部の大半の設備が破壊され、機能を失いかけていた。
「戦闘可能な艦娘は直ちに迎撃! 敵を迎え撃て!」
司令官が指示するが・・・
「司令官・・・戦闘可能な艦娘は・・・もう・・・」
秘書艦がこの鎮守府に戦力が無い旨を報告したが・・・
「何を言っている? 中破の艦娘たちがいるだろ? さっさと迎撃に向かわせろ!」
「で、ですが・・・」
「これは命令だ! 貴様、私の命令が聞けないのか!!」
「・・・わかりました。 今すぐに中破部隊を向かわせます。」
秘書艦は執務室から出て行った。
・・・・・・
・・・
・
「司令! 第1~5の出撃部隊、中破、大破と被害が出ましたが・・・無事帰還しました。」
「負傷した者はすぐに入渠、大破した者には修復済を使用しろ!」
「わかりました、入渠場の艦娘たちに指示をします!」
「ここの海域は戦艦が密集していて・・・ふむ、次は戦艦と空母編成で行かせるか・・・」
各海域の情報も詳しく解読、対策を取った編成で迎え撃つ・・・提督は辞めているはずなのに提督以上の仕事をこなしている。
「司令・・・新たに入った情報ですが・・・」
「ああ・・・そうそう霧島。」
「はい、何でしょう?」
「オレは「提督を辞めた」人間だ、別にオレの事を提督と呼ばなくてもいいんだぞ?」
「・・・私たちにとっては司令なんです!」
「・・・・・・」
「・・・話に戻りますが、新たに入った海域の敵編成ですが・・いかがなさいましょう?」
提督は霧島と多忙な日々を送っている。
・・・・・・
「司令! 総司令部からの刺客がまた来ました。」
「そうか・・・オレが行こう。」
「待ってください提督。」
蒼龍が呼び止める。
「飛龍がいるんです・・・私も行かせてください。」
「・・・わかった、すぐに準備しろ。」
提督の指示で蒼龍は戦闘準備を行った。
・・・・・・
「航空母艦の加賀です、素直に降伏してください。」
旗艦の加賀が弓を構えていた。
「それは無理だ、オレは何も悪いことはしていない。」
「あなたはこの世界で反逆者として総司令部から捕縛命令を受けています。」
「ふむ・・・提督を辞めただけで反逆罪扱いとはね・・・」
「降伏しないのでしたら、攻撃します!」
加賀は弓を引こうとして、
「飛龍! 私よ、蒼龍よ!」
蒼龍が目の前に出てきて、
「蒼龍・・・」
飛龍が反応して前に出る。
「弓を下ろして・・・提督は何も悪いことはしていないの・・・ただ皆を助けたいだけよ。」
「・・・・・・」
飛龍は弓を下ろさない。
「飛龍、聞いてる? 提督はただ・・・」
「蒼龍、あなたは提督の下についている側、だからあなた・・・ここの艦娘たちも反逆者として判断されているわ!」
「!? そ、そんな・・・」
「弓を捨てなさい、蒼龍! そして降伏して! そうすれば痛い目に遭わなくて済む・・・さぁ、早く降伏して!」
「・・・・・・」
蒼龍は弓を構えて・・・
「蒼龍! お願い! 弓を捨てて・・・」
「提督に危害を加えるなら・・・私は・・・飛龍! あなたであっても許さない!」
「・・・そう。」
蒼龍の答えに飛龍も弓を改めて構え・・・
「残念ね、蒼龍・・・ここで私たちの手によって沈むことになるなんて。」
「やってみれば? 逆の結末にならなければいいんだけど。」
「・・・放て!!」
加賀の指示で一斉に弓が放たれ・・・艦載機に変化し、蒼龍たちに襲い掛かる。
「蒼龍! 迎撃します!」
蒼龍が弓を構えるが・・・
「・・・下がっていろ。」
提督は蒼龍を後ろに下げると、武器を取り出し・・・
ヒュン! ヒュン! サン! (武器を振る音)
提督の軽い斬撃で、艦載機が全て真っ二つに裂け、墜落した。
「!? そんなバカな!」
「これで終わりか? 総司令部の精鋭たちさんよ!」
「・・・全艦載機を提督に放て!!」
加賀達は猛攻撃をした。
・・・・・・
「艦載機が切れたか・・・次はどうする? 素手で向かってくるか?」
「・・・・・・」
矢を全部使ったことで、空母側の攻撃は無力化された。
「・・・・・・」
咄嗟に飛龍が武器を下ろした提督に向けて弓を構えた。
「させない!」
蒼龍が先に弾き、矢は飛龍の腕に命中、
「痛っ!!」
弓を捨て、腕を抱える飛龍。
「さっさと撤退しろ、そして2度と来るな。」
「・・・提督、あなたを必ず捕縛します・・・その時まで、油断なさらない事ね。」
加賀達は撤退した。
「飛龍!」
蒼龍が叫び、
「この借りはきっちり返すから・・・覚えてなさい、蒼龍!」
「・・・・・・」
あの表情・・・蒼龍には何度も見覚えがあった。
”敵に対して睨みつける表情”
「・・・・・・」
まさか自分が敵として判断されるなんて思いもよらなかった。
「蒼龍・・・」
提督が肩に手を添える、
「・・・大丈夫です、帰りましょう・・・皆の所へ。」
提督達は鎮守府へと戻った。
・・・・・・
「司令! よくぞご無事で!」
心配していた霧島たちが入り口に立っていた。
「ああ、問題ない・・・各艦娘たちはいつもように行動してくれ。」
提督の指示で皆はいつも通りの仕事に取り掛かった。
「また来ると思いますか、司令?」
霧島は心配している。
「・・・いや、もう来ないと思う。」
意味ありげな言葉に、
「何か知っているんですか、司令?」
「いや、予想しているだけ。」
提督はまた椅子に座り執務をこなし始める。
「・・・・・・」
霧島もそれ以上の言及はせずに書類整理を始めた。
・・・・・・
「!? 一体何があったの!!?」
加賀達が見た光景、それは総司令部が攻撃を受けて崩壊している光景。
「倉庫もほとんどが破壊されています・・・これでは、補給も装填も出来ません。」
「まだ何か潜んでいるかもしれないわ、皆慎重に進んで。」
加賀の指示で慎重に鎮守府に戻った皆・・・
「・・・・・・」
敵の監視を避け、辛うじて鎮守府内に入ることが出来た加賀達・・・しかし、内部にも侵入しているようで、
「私が囮になります!」
飛龍が加賀達の道を作った。
「矢はまだ残っています、私が応戦します! その間に加賀さんたちは司令官を!」
「・・・わかりました、飛龍さん・・・どうかご武運を!」
加賀たちは急いで走っていった。
・・・・・・
「司令官、ご無事ですか!?」
執務室の扉を開けると、そこには・・・
「・・・神通さん、大丈夫ですか!?」
司令官の秘書艦である神通が負傷して倒れていた。
「もう、ここには提督はいません。」
息が荒く、体の怪我も重体だ。
「何があったんですか・・・それに司令官は一体どこへ?」
「・・・・・・」
神通はゆっくりと説明していく・・・
「加賀さんたちが行った直後に・・・いきなり深海棲艦が現れて・・・」
「・・・・・・」
・・・・・・
「司令、総司令部が多数の深海棲艦に襲撃され、大破・・・機能を完全に失いました。」
「・・・そうか。」
「総司令部の司令官は行方不明、応戦にあたった艦娘たちは全員大破で鎮守府に留まっています。」
「・・・そうか。」
「・・・・・・」
「? どうした霧島?」
「いえ・・・意外にも冷静ですね。」
「まぁな、オレは提督を辞めた身だから総司令部がどうなろうが関係ない。 それに辞めたら「反逆者」扱いする
所なんて辞めてなかったにしても、同情はしないよ。」
「・・・・・・」
「話が変わるが、1つ報告がある・・・〇〇鎮守府の〇〇中将、〇〇鎮守府の〇〇新米提督をこの施設に呼んだ。
今、着いたらしいから、〇〇中将と〇〇新米提督たちに部屋を案内してくれ。」
「〇〇中将と〇〇新米提督? ・・・あっ、秘書艦が由良さんと翔鶴さん!?」 ←「提督と由良」参照
「ある艦娘たちの日々」参照
「同じ境遇だからな・・・一時的にこの施設に避難するように呼んでおいた。」
「・・・・・・」
司令は抜かりない、と思った霧島。
「わかりました・・・今すぐに対応をしてきます!」
霧島は執務室から出て行った。
・・・・・・
一時的とはいえ、鎮守府に新たな人間が加わったことで、忙しくなっていった。
総司令部の状態も気になっていたが、今は目の前の状況に精一杯で、次第に他の事など忘れてしまっていた。
・・・・・・
少しずつ落ち着いてきたある日の事、
鎮守府に誰かがやってきました、それは・・・
「司令、加賀さんと赤城さん・・・そして重体の神通さんがやってきました。」
「・・・そうか。」
「いかがなさいますか?」
「敵意はないだろう・・・話くらいは聞いてやるか。」
そう言って提督は外に出た。
・・・・・・
「提督、お話が・・・」
「霧島、その軽巡を入渠場に連れて行け。」
提督が指示すると、霧島は神通を担いで入渠場に向かった。
「えっと・・・何だっけ?」
「・・・・・・」
加賀は腰を下ろし、
「私たちを少しの間、ここに居させてもらえませんか?」
「・・・なぜ?」
「司令官が行方不明になり、指揮官がいなくなった今、私たちにできることは何もありません。」
「・・・・・・」
「神通さんからも・・・司令官は「私たち艦娘たちを盾にして1人で逃げた」と聞かされ・・・もうそんな司令官に未練がありません。」
「・・・・・・」
「前にした無礼は謝罪します・・・どうか私たちを許してもらえませんか?」
「・・・飛龍はどうした? あの子も一緒だったよな?」
「・・・飛龍はまだあの鎮守府に残っています。」
「・・・・・・」
「恐らく・・・手遅れですが・・・」
「つまり、お前らは仲間を見捨てて、のこのこと来たわけね。」
「・・・・・・」
「睦月達の住んでいた鎮守府は覚えているか?」
「・・・?」
「空爆でお前らが破壊した施設だよ・・・命令とはいえ、あの攻撃で施設が崩壊した・・・あそこにはまだ艦娘たちがいたんだ。」
「仕方なかったのです・・・私たちは艦娘・・・提督に従うためにいるのです。」
「この鎮守府にはあの施設での生き残りもいる、それでもお前らは平然と居させてくれと言えるのか?」
「・・・・・・」
「さっさと帰れ、次に見た時は今度は容赦なく叩き切る、早々に引き上げることだな。」
「・・・・・・」
加賀達は諦めてその場から去った。
「さて・・・と。」
提督は何やら準備をし始めた。
・・・・・・
提督が急遽号令をかけ、
「今から崩壊した総司令部に残っている艦娘たちの救助に向かう、出撃と遠征任務に参加していない艦娘は
すぐに会議室に集まること!」
提督の号令によって、待機状態の艦娘たちが集まった。
・・・・・・
ここは崩壊した総司令部・・・
「酷い・・・」
この場所に着いた艦娘たちの第一声は恐らくこの言葉だろう・・・
それは、鎮守府が崩壊した光景に対して言っているのではなく、辺りで倒れていて、救助すらされていない艦娘たちに
言っている言葉だ。
「すぐに負傷者を運べ・・・いいか、全員見つける事! 邪魔な瓦礫や壁は砲撃で破壊しろ!」
皆「了解!」
提督達による救助作戦が行われた。
・・・・・・
「司令・・・この鎮守府の艦娘滞在記録です・・・運良く燃えずに残っていました。」
「そうか、これで全員の艦娘が特定できるな・・・」
皆が負傷者を運び、提督が印を打って行く・・・
「・・・・・・」
瓦礫をどかしながら、必死に誰かを探す艦娘・・・
「飛龍! どこにいるの! 飛龍!」
蒼龍は残っているはずの飛龍を探し続ける。
「・・・・・・」
蒼龍の目に倒壊寸前の執務室への入り口が目に入り・・・
「・・・・・・」
直感だろうか、もしくは呼ばれたのだろうか・・・その中に入って行った。
「飛龍~ 飛龍~!」
しばらく探し続けて・・・
「!? ひ、飛龍!!」
床で倒れている飛龍を見つける、弓は折れ矢は打ち尽くし・・・周りには飛龍しかいない・・・1人での攻防だったことが伺えた。
「飛龍!!」
蒼龍はすぐに駆け付け、手をやる。
「・・・・・・」
微かに聞こえる息遣い・・・まだ飛龍は生きていた。
「待ってて飛龍! 今すぐに治療場に連れて行くから・・・」
蒼龍は飛龍を担ぐと、少しずつ歩いて行った。
・・・・・・
「・・・誰、加賀さん?」
わずかに目を開き・・・
「・・・何だ、蒼龍かぁ・・・」
飛龍は目をそらした。
「もう少しで治療場に着くから。」
「・・・・・・」
わずかだが、飛龍が口を開く。
「散々威勢を張った挙句に・・・このザマなんて・・・惨めよね・・・」
「・・・もう気にしてないから。」
「・・・蒼龍。」
「・・・・・・」
「・・・ごめんなさい、蒼龍。」
「もういいよ、だから早く治して復帰して!」
「蒼龍は・・・」
「? 何、飛龍?」
「いい提督を持ったわね・・・」
飛龍はニコッと笑い、そのまま意識を失った。
「!? 飛龍! ねぇ飛龍!!」
蒼龍は叫ぶが・・・飛龍からの応答がない。
「ふざけないで・・・ふざけないでよ!」
蒼龍は泣きつつ治療場へと運んでいく。
「勝手に死なないでよ! 私だってリハビリを兼ねてやっと海に戻れたのに・・・それを見ることもなく先に逝っちゃうの?
そんなことが許されると思っているの!?」
蒼龍は叫び続けるが、応答はない。
「絶対に・・・絶対に死なせないから! ・・・絶対に!!」
蒼龍は治療場へと運んでいった。
・・・・・・
「これで全員か?」
最後に意識を失った飛龍を乗せた所で、艦娘名簿が埋まった。
「飛龍! 飛龍~!!」
側で泣き叫び続ける蒼龍を霧島が寄り添う。
「・・・鎮守府に運べ!」
提督の指示で皆は鎮守府へと帰還した。
・・・・・・
鎮守府に帰還し、負傷した艦娘たちを入渠場に連れて行く。
意識がある艦娘にはすぐに高速修復済を使い、復帰させるが・・・
飛龍のように大破で意識が無い場合・・・修復済の効果があまりない。
「飛龍・・・」
飛龍は集中治療室へと運ばれ、口に管を付けられた状態で辛うじて一命を取り留めていた。
飛龍を除くと、重体の艦娘はほとんどいなく、運が良かったのかもしれない・・・だが、
大破で戦闘不能の状態で助けが望めなく、司令官に見捨てられたという恐怖と絶望の中でほとんどの艦娘が
心の傷となって残ってしまった。
軽い症状の艦娘は少し落ち着かせれば治る程度だったが、重い症状の艦娘は・・・
夜中に急に泣き叫んだり、うめき声を上げたりで精神が崩壊しかかっているのが伺えた。
それでも、在住の艦娘たちは必死に看護にあたってくれた。
・・・・・・
司令官は相変わらず行方不明である。
遠くに逃げたか、もしくは深海棲艦に見つかって襲われたか・・・
治療した神通からの話によれば、司令官は艦娘たちを置いて1人で逃げたと言う・・・
中でも秘書艦であった神通は司令官の盾にされて被弾・・・そして司令官は被弾した神通を振り向くこともなく逃げて行ったとか・・・
「私にはもう未練はありません、どうかこの鎮守府に置いてください。」
神通はこの鎮守府に着任することとなった。
・・・・・・
負傷した艦娘の治療を終え、ほとんどの艦娘たちはこの鎮守府の着任を願った。
提督は皆の要望を受け入れ、前の保有数と比べ実に3倍以上の艦娘がこの鎮守府に着任した。
しかし、未だ飛龍の意識は回復せず蒼龍は常に側にいて看病していた。
心に深い傷を負った艦娘の中には白露型の春雨もいて、毎晩体を震わせて泣き叫ぶ姿は村雨もただ側に
寄り添って落ち着かせるしかなかった。
・・・・・・
「どうだ、飛龍の様子は?」
「ダメです・・・息はしているものの、目が覚めません。」
「・・・そうか・・・春雨もまだ・・・か。」
「元々違う鎮守府にいた春雨がなぜあの場所にいたのかわかりません。」
春雨は総司令部から少し離れた海域で大破状態で発見された。
「恐らく総司令部に呼び出され、向かう途中だったんでしょう・・・その時に狙われたんです・・・」
「・・・そうか、もう少し時間が掛かりそうだな。」
2人が落ち込む中、提督は2人に慰めの言葉を掛けるのだった。
・・・・・・
それから数日の事・・・
艦娘を置いて逃げた司令官を見つけたという情報が・・・
提督は連れてくるように指示をした。
・・・・・・
・・・
・
ここは鎮守府地下、
椅子に拘束した最高司令官の目の前に提督が腰かける。
「何だその目は? 私に復讐したそうな目だな。」
「・・・・・・」
「考えてみろ、艦娘はこの世界では戦うためにいる存在、それを人間のように扱う事態がおかしいことだ。」
「・・・・・・」
「兵器や道具でも故障すれば利用価値がなくなる、それは艦娘だって同じことだ。 私は早急に処分しただけの事、何が問題だ?」
「・・・・・・」
「わかったならさっさとこの拘束を解いて私を自由にしたまえ! 無能提督でも階級の意味位は分かっているだろう?
さっさと拘束具を解かんか!」
相変わらずの態度である・・・この人間には反省と言う気持ちは無いのか・・・
「しかし、何でいきなり深海棲艦が襲ってきたんだ?」
司令官は考える。
「あの場所は「安全地帯」のはず・・・それが突如襲来するなんて初めての事だ・・・」
「安全地帯? 一体何を言っているんだ?」
提督が口を開いて、
「あの場所は本当は「危険地帯」だった。」
「ああ? 貴様は一体何を言っている?」
司令官が苛立ち・・・
「さっさとこの拘束具を解け! 貴様! この私にこんな真似をしてただで済むと思っているのか!」
「・・・良く吠えるな~。」
提督は呆れ、
「当分そのままでいろ・・・本当は睦月達の分の借りを返したい所だが・・・オレは手を出さない。」
「はぁ? あんな捨て艦だった用済みにいちいち同情していたらキリがないだろう!」
「相変わらず司令官殿は自分の事しか考えていないようで・・・」
「黙れ! 能書きはいいからさっさと解け! 何度も言わせるな!」
「・・・仕方ない。」
提督が立ち上がると、それが合図だったように艦娘たちが次々と入ってくる。
「何だ貴様ら・・・何だその目は?」
艦娘たちは司令官を見下した、まるでゴミを見るかのような目をした。
「や、やめろ! この私に危害を加えたら無事では済まないぞ!」
「まぁ、ほどほどにね。」
提督はそう言うと、その場から去って行った。
「おい、貴様! 話が終わってないぞ! 早く私を解放しろ!」
「全く自分の立場が分かっていないのですか? これから地獄を見ると言うのに・・・」
「じ、地獄だと・・・!?」
「・・・・・・」
朝潮が前に出て、
「睦月さんたちを・・・返して。」
「はぁ?」
「司令官が・・・いえ、あなたが命令して鎮守府を爆撃したんでしょ?」
「・・・・・・」
「そのせいで、あの鎮守府はなくなって・・・睦月さんたちまで巻き添えに・・・ねぇ、どうして? 何でそんなことをしたの!?」
「・・・・・・」
「睦月さんたちは何をしたって言うの!? 捨て艦扱いされて、挙句に不要だなんて・・・それが司令官のすることなの!?」
そう言って持っていた艤装で司令官を殴りつけた。
バキィッ!! 「ぐはっ!」
「睦月さんたちを返して・・・返して・・・返してよぉ!!」
バキッ! グシャ!! ボキィっ!!
「や、やめろ・・・ぜぇぜぇ・・・やめてくれ。」
「・・・朝潮ちゃん。」
霧島に抱き着かれ、朝潮は堪えきれず涙を流した。
「早く・・・この拘束具を解いてくれ・・・額の血が止まらない・・・早く止血を・・・」
司令官の言葉などお構いなしに今度は蒼龍が前に出る。
「あんたのせいで飛龍は重体で意識を失ったまま・・・」
「な、何だって?」
「飛龍はね、あんたを助けに行くためにたった1人で防衛して・・・そのせいで重体になったのよ!」
「・・・・・・」
「それなのにあんたは・・・皆を置いて逃げて・・・それでも司令官なの!?」
「・・・・・・」
「あんたにとって艦娘は何よ! 道具? 都合のいい存在? ふざけないでよ!」
「・・・・・・」
「あんたに「司令官」なんて口にする資格はないわ! あんたには飛龍や他の皆の苦しみを十分に味合わせてやるから!」
「・・・ううっ。」
さっきまで威勢を張っていた司令官が急に静かになり、これから起こるであろう艦娘たちからの行為に怯え始める。
「・・・・・・」
今度は村雨。
「春雨は今、心身に傷を負っている。」
「・・・・・・」
「本来違う鎮守府で遠征をしているはずの春雨が何故かあなたの鎮守府の近くで見つかったのよ!」
「・・・うう。」
「各鎮守府に召集でもしたんでしょ! 遠征中だった皆も強制的に呼び出しして・・・春雨も恐らくそれであなたの鎮守府に・・・」
「・・・・・・」
「被弾して助けが来なかった影響で、毎晩体を震わせてずっと泣き叫んだまま・・・どうして、春雨が何をしたって言うの?」
「・・・・・・」
「あんなに素直で優しい子が、何であんなに苦しまなきゃいけないのよ! ねぇ何でよ!!」
「そ、そんなことオレは知らない!」
「あなたには春雨の分まで苦しんでもらうわ・・・楽に死ねると思わないでよね?」
「ひっ!」
村雨が話し終えると次から次へと目の前に他の艦娘が立ち・・・
「このクズどうします?」
「簡単には死なせないわ、指を1本1本折るのはどう?」
「生温いわねぇ~・・・皮膚を徐々に剝ぎ取って行くのはどう?」
「刺しても死なない箇所を何度も刺して苦しめる?」
「や、や、や、やめろ・・・」
「一番手はどうする? 村雨さんからする? いいわよ・・・でも殺しちゃ駄目よ。」
「はいは~い♪・・・大丈夫ですよ、私はこれでも優しい方なんで♡」
「やめろ、頼む・・・やめてくれ・・・」
「それじゃあ、司令官・・・楽しんでね♡」
「や、やめろ・・・ぎゃあああああ!!!!」
・・・・・・
「お~怖い怖い。」
地下室から聞こえる命乞いをする声と皆の笑い声、
「ほどほどにと言っておいたけど・・・この様子ではあの司令官も助からないかもね。」
「・・・・・・」
「まぁ、オレには関係のないことだ、ここは皆に任せてオレたちは執務室に戻ろう。」
「・・・わかりました。」
提督達は地下室を後にした。
・・・・・・
「総司令部は崩壊、司令官は見つかり皆からの熱烈な洗礼・・・終わったな。」
「・・・・・・」
「後は・・・一時的に避難させた提督達を元の鎮守府に返して・・・残った艦娘たちの名簿を作成しないと・・・」
「・・・・・・」
「? どうした霧島?」
「・・・・・・」
霧島にはまだ謎が解けていなかった・・・それは総司令部に突如現れた深海棲艦の襲撃。
今までそんな事態になったことが無いのに、なぜタイミングよく襲撃が起きたのか・・・
「・・・司令。」
提督に聞いてみた・・・すると、
「あれはあの司令官が引き起こした事さ。」
提督の言葉に霧島は首を傾げる。
「説明すると長くなるが・・・知りたいようだから、話してやるよ。」
そう言って提督は詳細を話し始めた。
・・・・・・
・・・
・
(過去に遡って)
「この海域の敵は全て片づけたか・・・」
提督はいつものように深夜副業のため、海に出ていた。
「しかし・・・この海域はやたら敵の出現率が多いな。」
実はこの海域に来たのは今日が初めてではなかった・・・一昨日もこの海域で敵の殲滅に来ていた。
「・・・・・・」
気配がして、提督は陰に隠れる。
「・・・・・・」
提督が見た光景・・・それは、深海棲艦がまた海中から出現する光景。
「なるほど・・・この海域は奴らの「拠点」と言うわけか・・・」
拠点を潰そうかと考えたが、深海棲艦は海中から出現している・・・つまり、拠点は「海の底」という事になる。
流石の提督も、潜水装備を持っていなかったため、破壊は難しいと考えた。
「拠点が違う場所なら良かったのだが・・・」
運が悪く、その拠点の真上は鎮守府・・・提督に毎回依頼を申し出るのは、その鎮守府に所属する提督である。
「・・・潰せないなら、「抑制」でもするか・・・」
そう言って、提督は拠点があるらしき場所に装置を投げ込む。
「特殊な電磁波が出る装置・・・これに干渉した生物は電磁波に触れた瞬間、仮死状態になる。」
効果はすぐに表れ、浮上した深海棲艦が次々と意識を失い、海底に沈んでいく。
「これでしばらくはあの鎮守府も安全に暮らせるな。」
提督は鎮守府に戻って行った。
・・・・・・
・・・
・
(ここから現実)
「それからあの鎮守府が総司令部だったことを後になって知った・・・まぁその時の司令官はあれほど酷くはなかったが。」
「・・・つまり、元々あの海域は・・・「危険地帯」だったと?」
「ああ、一応上には何度か呼び掛けたが、ランク最下位のオレの言葉に耳すら傾けなかったけどな。」
「・・・それでも司令は放っておけず、あの海域を「危険地帯」から一時的に「安全地帯」に変えたのですね? でも、上の人間は完全に
「安全地帯」と勘違いして生活していたわけですね。」
「そう・・・ずっと深海棲艦が浮上しなかったからよかったのだが・・・」
「それがどうしてまた敵が浮上することになったのですか?」
「最近総司令部で大規模な実験があっただろう?」
「・・・はい。」
詳しくは不明であるが、総司令部で新たな武器の開発で、毎日工廠場が稼働していて時には爆発音が聞こえたりしたらしい。
「毎日実験を続け、爆発などの衝撃が発生した結果、その余波が海底にまで干渉され、電磁波装置の故障と敵の目覚めの助けに
なってしまった・・・と言うわけだ。」
「・・・なるほど。」
「更に運の悪いことに、拠点を破壊していないのだから、当然敵の数は増え続ける一方・・・そして装置の故障と仮死状態だった
敵の目覚めで数は膨大に膨らみ、結果総司令部を取り囲むほどの大軍勢になってしまったと言うわけ。」
「・・・せっかく司令が対策を取っていたのに・・・」
「仕方がない・・・もう起きてしまったのだから・・・悔やんでも何も始まらない。」
「・・・そうですね。」
霧島は納得して、仕事に戻った。
・・・・・・
それから一時的に避難していた提督達は元の鎮守府に戻ることになった。
「最高司令官は地下で幽閉されているから、現状この世界でのトップはお前になる。」
提督の先には、先日大将に昇進したばかりの提督が・・・秘書艦は由良である。
「そんな・・・私としてはあなたが最高司令官として、なるにふさわしいですよ。」
それを聞いて提督は苦笑いする。
「やめてくれ、オレは提督を辞めた身だ・・・それに、最高司令官の肩書きなんてオレには退屈で仕方がない・・・
ランク最下位の方が自由に行動出来ていいんだよ。」
「なるほど。」
彼の自由奔放な態度はこの世界の提督なら誰もが知っている。
「クズ提督」や「無能提督」と呼んでいたのはほとんどが上層部の人間で、その下の提督たちは彼の功績を高く評価していた。
「もし、提督業に戻る気があるなら、私の所に来てください・・・いつでも歓迎します。」
「ああ、わかった・・・戻る気はないけどね。」
そう言って、提督達は自分の鎮守府へと帰還した。
・・・・・・
「どうだ、村雨・・・春雨の具合は?」
「・・・・・・」
村雨は首を横に振る。
「そうか・・・辛いな。」
「はい・・・でも、私がずっと側にいるつもりです・・・毎晩震えて泣いていますから。」
「・・・・・・」
「? どうかしましたか?」
「いや・・・今の春雨を見てると、村雨が「あの日」を境に眠れなくなった時と同じように見えてな。」
「・・・・・・」
村雨は思い出す・・・「あの日」が近くなるほど眠れなくなり、毎晩うなされる・・・朝起きれば呼吸が荒く、汗も流して・・・
でも、提督が側にいてくれて、見守っていましたよね・・・ ←「提督と村雨」 参照
「そうですね・・・でも、どうしてそんな昔の話を?」
「オレが村雨にしたように、今度は村雨が春雨にするべきことがあるんじゃないかなって。」
「・・・・・・」
「大丈夫、村雨ならできるよ・・・時間が掛かるけど、春雨も絶対治るよ・・・だから諦めるな。」
「・・・はい、ありがとうございます。」
村雨はまた春雨がいる部屋に向かった。
・・・・・・
「提督、提督!!」
蒼龍が駆け付けて、
「どうした、蒼龍?」
「飛龍が、飛龍が・・・目を覚ましました!」
「・・・そうか。」
すぐに治療室に向かう。
・・・・・・
「飛龍。」
蒼龍が手をやり、
「・・・蒼龍。」
管が外れ、口を開く飛龍。
「もう、心配かけて・・・ずっと看病してたんだからね!」
「そう・・・ごめんなさい。」
「いいわよ、そんなこと・・・でも、今度復帰したら何か奢ってよね。」
「・・・・・・」
飛龍は少し苦笑して、
「相変わらずね・・・いいわ。 その時は店のメニューを全て奢ってあげる!」
「全部!? 蒼龍、そんなに食べられるかなぁ?」
「・・・・・・」
2人の会話を見た提督は、静かに立ち去った。
・・・・・・
その後、飛龍は無事に退院・・・出撃はまだできないが、1人で歩けるまでに回復した。
毎晩震えて泣き叫んでいた春雨も、村雨の必死の看病でやっと落ち着いたようだ。
春雨の手にはあの青く輝くペンダントを肌身離さず持っていた・・・
他の艦娘たちも治療の甲斐あって、出撃・遠征ができるまでに回復し、
今では代わり代わりの交代任務で、提督の指示を忠実に従っている。
提督は相変わらず忙しく、執務室で書類にまみれて仕事をしていた・・・確か、提督を辞めているはずなのだが・・・
それから、遠征数の増加に伴い、資材が豊富に集まり、提督は「深夜副業」を辞めた。
これからは艦娘たちの交流を優先して、いつまでも見守って行こうと決めた提督だった。
・・・・・・
「え~っと・・・コホン、皆集まったかな?」
朝礼室に皆を集め、提督が挨拶を始めた。
「改めて、この施設に着任してくれた皆に感謝する・・・これからも仕事と任務を行いつつ、皆との交流を深めたいと思う。」
提督は更にこう言った。
「オレは堅苦しいのが苦手でな・・・用がある時は「提督」でいいが、普段はオレの事を友人や他の艦娘に接する
程度の対応で構わない、その方がオレも気楽になれるからな。」
提督は苦笑し、一部の艦娘達も少し笑顔だ。
「後、これだけは約束してほしい! 敵の深追いはするな! 中破の時点で撤退をすること! 皆は艦娘だが、オレにとっては
家族のような存在だ、だからオレも言おう・・・ここにいる皆の誰か1人でも轟沈した場合、オレも一緒に沈んでやる!
いいか、1人でもだからな!」
提督の言葉に驚きを隠せない皆。
「1人の艦娘すら守れない提督が全員の艦娘を守れるわけがない、今一度その約束を胸に刻んでおいてくれ。」
そこまで言って、提督の話は終わった。
・・・・・・
「司令に会いたいと言う艦娘が来ました。」
「わかった・・・通してくれ。」
提督の指示で執務室に入ってきた、その人は・・・大淀さん。
「お久しぶりです、提督。」
「ああ、久しぶり・・・それで、任務担当の艦娘がオレに何の用かな?」
「・・・・・・」
大淀は何かの資料を取り出し・・・
「・・・今までの提督の活躍を拝見させていただきました。」
「? オレの活躍を?」
どうやら、大淀は前から提督の活躍を記録していたようだ。
「はい、率直に言えば・・・お見事です! これまでの提督の功績や、艦娘に対する思いやり・・・
負傷した艦娘たちに対しての的確な処置・・・見事としか言いようがありません。」
「それはどうも。」
「それらの功績を考慮し・・・提督に新たな席を御用意いたしました。」
「? オレの新しい席?」
「はい、今日からあなたの階級を「最下位」から「元帥」に昇進させていただきます。」
「・・・・・・」
元帥と聞いて、提督はため息をつき、
「何度も言うが・・・オレにそんな肩書きは・・・」
昇進を断ろうとする提督に、
「ちなみにこの昇進願いを出したのは、秘書艦の霧島さん含む、施設の全員です。」
「・・・・・・」
「皆は提督の昇進を願っています・・・これからも信頼ある生活をして行きたいのであれば、この昇進を受け入れてください。」
「・・・・・・」
いつになく悩む提督であった。
・・・・・・
結局、提督は大淀の案に応じる事にした。
「はっきり言ってオレには「元帥」の肩書きは必要ないと思うのだが・・・」
正直な気持ちだが、今まで「最下位」だったため、周りからの不評や罵声に霧島たちが我慢していた時期もあり、
「彼女たちがこれから楽になってほしい」と言う想いから、「元帥」の昇進を選んだ。
・・・・・・
・・・
・
「司令・・・いえ、最高司令官! 今日1日の書類と各鎮守府の戦績等の資料をお持ちしました!」
「・・・・・・」
提督は頭を抱えて、
「いや・・・そんな「最高司令官」なんて呼ばなくてもいいよ・・・今まで通り「司令」「提督」でいいからさ。」
「何を言ってるんですか? 上司に対しての礼儀ですよ!」
「・・・・・・」
霧島に言われると何故か言い返せない・・・いいことを思いついた。
「・・・ならば全艦娘たちに命ずる! オレの事は「提督」と呼べ! わかったな?」
「・・・最高司令官の命令とあれば、従います・・・司令。」
「・・・ふぅ~。」
「元帥」=「最高司令官」になってからいつもこの調子である。
昔は「最下位」だったことで、皆が同じ目線で対応してくれていた(提督はこの方が良かった)が、
「最高司令官」になったことで、全員が目上に対しての態度になり・・・正直やりづらい。
「後・・・この予定表もご確認ください。」
「・・・・・・」
提督に渡された予定表・・・月曜日は霧島、火曜日は村雨・・・次の日はサラ? その次の日は・・・大鳳?
「これは一体何の予定表だ?」
「深夜の夜戦(夜伽)予定表です。」
「はい?」
「司令は「深夜副業」を辞めましたよね? でしたら深夜は時間空いていますよね? 今までずっと我慢をしていた
方たちが夜戦希望を出しています。」
「・・・・・・」
「あくまで予定表ですので・・・急遽予定が出来た等は、事前に報告をお願いします! まぁ司令の事ですから
予定通り行動できるかと思われますが♡」
「・・・・・・」
予定表を見ると・・・1か月全てが艦娘の名前で埋まっていて・・・
「いや、それ以上にオレの休みは1日も無いの?」と思った提督だった。
・・・・・・
「第1部隊から第5部隊! この海域の調査と敵の殲滅が今回の任務です!」
秘書艦の霧島が舞台に指示を出す。
「いいですか? 司令の言っていましたが、深追いはダメです! 後、中破が出た時点で撤退をしてください! 以上です!」
皆「了解!」
各部隊は艤装を装着して、海へと駆け出した。
「どうだった、皆は?」
「はい、いつもと同じように出撃いたしました!」
「そうか・・・」
何事もない・・・何の問題もない・・・それが提督にとっての唯一の安らぎ。
「・・・・・・」
しかし、何の問題もない・・・は、これから何か起きる前触れとなる時がある。
・・・・・・
「秋月被弾! ・・・大破しました!」
戦闘中に秋月が被弾、第1部隊は撤退を余儀なくする。
「今日は残念ですが・・・撤退します、皆・・・秋月さんを護衛しつつ鎮守府へ帰還します!」
旗艦の指示で、第1部隊は撤退を開始した・・・が、
「!? 緊急事態! 敵に包囲されました!」
部隊の1人が気づくがすでに遅く、完全に輪のように囲まれた状態であった。
「くっ! 各員! 秋月さんを護衛しつつ応戦してください!」
「了解!」
・・・・・・
「司令! 大変です! 秋月さん含む第1部隊が敵の罠にかかり、苦戦しています!」
「負傷者はいるか?」
「はい・・・秋月さんが大破・・・他重巡1人、軽巡1人も・・・中破です!」
「・・・他の部隊へ応援は出来るか?」
「お待ちください・・・ダメです! 一番早くても10分以上は掛かります!」
「くっ・・・応援は無理か・・・」
「司令! いかがなさいますか?」
「・・・・・・」
提督は立ち上がり、
「オレが出よう! 旗艦に後数分粘るように伝えるんだ。」
「司令が!? それなら私も側で護衛します!」
「いや、霧島はオレの代わりに指揮を執ってくれ! 執務室に誰もいなかったらそれこそ混乱してしまう!」
「ですが・・・」
「心配するな・・・必ず皆を帰還させる・・・もちろんオレもな!」
「・・・・・・」
霧島は決意したのか、
「わかりました・・・今すぐに旗艦に知らせます! 司令もどうか、ご無事で!」
「ああ、行ってくる!」
そう言って、提督は執務室から出た。
・・・・・・
「皆聞いて! 今すぐに応援を要請してくれるって!」
「それは助かります!」
「後、数分後に到着するとのことです・・・皆! もう少しの辛抱です! 踏ん張って!!」
「はい!!」
・・・・・・
「敵の包囲網を突破! 速度を最大にして敵を振り切ります!」
「了解!」
皆が面舵を一杯にする中・・・秋月だけは艤装が損傷していて、速度が出せない。
「皆! 後ろにいますか?」
皆「います、問題ありません!」
「・・・秋月も問題ありません!」
皆の後ろで大声で叫び・・・
「・・・よし! これよりこの海域から完全に撤退します!」
秋月を除いた全員がその場から脱した。
「・・・ふぅ~。」
秋月はその場に腰かけた。
「覚悟は決めた方がいいですね・・・」
秋月の目の前には、残りの敵部隊が進軍していた。
「司令・・・」
秋月は指輪を見て、
「司令・・・こんな私を引き取ってくれて・・・指輪までいただき・・・秋月は幸せでした。 もう、悔いはありません!」
敵の砲撃が容赦なく秋月に降り注ぐ、
「・・・・・・」
秋月は目を閉じ・・・覚悟を決めた。
・・・・・・
「・・・?」
再び目を開けた時はまだ同じ場所に座っていた。
「大丈夫か?」
聞き覚えのある声・・・それはもちろん、
「し、司令!」
目の前に提督が立っていた。
「遅れて悪い、何とか間に合ったな。」
提督は武器を取り出し、
「さてと・・・お前らの相手はこのオレだよ!」
身軽なのか、一気に間合いを詰めて各敵を容赦なく切り捨てる・・・敵も一瞬の刹那に成すすべもなく、気づいた時には
「切られていた」と感じる程の一瞬の一撃だった。
「・・・・・・」
瞬く間に全滅させて、
「帰るか・・・皆の所へ。」
秋月を担ぐと、提督は鎮守府へと帰還した。
・・・・・・
「申し訳ありません、司令・・・」
大破したことを謝る秋月、
「いいよ、無事で良かった。」
「・・・・・・」
「いつ何が起きるかわからない・・・今度は警戒を怠るなよ?」
「はい、司令!」
秋月は頷いた。
・・・・・・
「鎮守府が見えて来たぞ。」
鎮守府近海まで着いたところで、秋月を下ろした。
「ありがとうございます・・・後は秋月1人でも歩けますので・・・」
「そうか・・・無理するなよ。」
「はい、お気遣いありがとうございます!」
秋月は敬礼して鎮守府に戻ろうとした・・・が、
「・・・・・・」
背後に敵潜水艦が・・・どうやら尾行されていたようだ。
しかし、提督と秋月はまだ気づいていない・・・
敵は秋月に向けて魚雷を発射・・・徐々に秋月との距離が狭まり・・・
「・・・えっ?」
ドォオオオオンンンン!!!!
目の前に広がる爆風と耳に響く爆発音、
「・・・・・・」
秋月は大量の血を流す・・・いや、それは返り血だった。
「し・・・司令!!」
受けたのは提督・・・秋月を庇って代わりに被弾した。
「秋月・・・無事か?」
出血しつつも秋月の安否を気遣う提督。
「秋月は無事です・・・でも・・・司令が・・・司令が!!」
「ああ・・・少し・・・油断・・・したかな。」
その言葉を発して、提督は海に沈んだ。
「司令! 司令!!」
秋月は叫んだ。
司令!! 司令ィィィィッ!!!!
・・・・・・
・・・
・
「提督の辞任」 終
続きは「深海棲艦本拠地」にて。
続編期待
面白い!続きに期待!
提督は危険地帯であることを上には報告しなかったのか
面白い!
この提督は駄目だ、ハッキリ言ってただの自己満のゲスにしか見えない…
5:へ
・・・と言うか、キャラ紹介にはっきりと
提督:司令レベル最下位の通称「クズ提督」、肩書きに興味がなく自由気ままに生活している。
・・・と書いてある時点で、
自己満足(自己中心的)なゲス(クズ)提督というのは、わかるはず。
はっきり言うと、「えっ、今更!?」が正直な感想かな。
死神(笑)