第1巻 第11話 フタリノ
PM:5:00 楽は一人でスペクトル凡矢理に歩いて向かっていた。
楽 「………………」
楽 (まだ、ほっぺに千棘の唇の感触が残ってる。)
楽 (そうだよな………俺はこれからあいつと一緒に暮らして、2人で生きていく事にしたんだ。
これくらい当たり前だよな。)
楽 (考えてみたらカフェでもラーメン屋でも、あいつは俺に積極的に恋人らしくしてくれた………)
楽 (そうだよな。あいつと一緒に生きて、あいつと2人で想像もしなかった世界に行きたい。
あいつを幸せにしてあげたい。
そう思って千棘を選んだのは俺だ。
俺からもあいつを楽しませて大事にしてやらなきゃ。)
レオン 「随分悩んでるみたいだねぇ、楽。」
楽 「わっ、レオン?」
レオン 「千棘ってこの事がだいぶ好きなんだねぇ?」
楽 「お前、いつから星匣から出てた?それに何でそれを?俺声に出しても無いのに?」
レオン 「アレ、聞いてないの?契約星獣のボクは君の心の声をいつでも聞けるんだよ。」
楽 「は?そうなのか?」
レオン 「星の光はその人間の感情が惑星の光でエネルギー化したものだからね。
星の光の集合体のボクには筒抜けなんだよ。」
楽 (マジかよ………じゃあ俺が千棘の事を考えてるのをコイツに筒抜けじゃねーか。
コイツが普通の人には見えなくてホントに良かった。)
レオンと戦闘以外で何気に初めての会話をしてるうちに、スペクトル凡矢理の下に到着。
エレベーター
楽 「ふぅ………」
楽 (そうだ、千棘との同棲が始まったんだ。
もっとあいつを大事にしてやらなきゃ)
エレベーター 「7階ー」
705号室の前
ガチャ
楽 「ただいまー」
千棘 「あ、楽。おかえりー」
千棘はそう言いながら、エプロン姿でテーブルに料理を並べていた。
楽 「え?コレお前が作ったのか?」
千棘 「そうよ?初日の料理だから腕によりを掛けたわよ。」
楽 「アレ?でもお前の料理なのに、別に見た目フツーじゃねぇか?」
テーブルには野菜ソースの添えられたハンバーグ、マカロニサラダ、パンが並べられている。
とても高校時代に底なし沼状のお粥や、正方形の卵焼きを作っていた千棘の料理とは思えない。
千棘 「私、外国をスミレさんと回ってる時に料理もスミレさんから習ったの。
食べてみてよ!」
楽 「お…おう。」
楽 (しかし、小野寺みたいに盛り付けだけが上達したって事も。)
楽は不安半分に箸を取り、ハンバーグを一口口に運んだ。
パクッ
楽 「ん?……?」
千棘 「ど…どう?」
楽 「う…美味い!」
千棘 「ホント?やったぁ!」
昔とは全然違う、肉の濃厚な旨味がした。
楽 「お前、こんなに料理上手くなってたのかよ?」
千棘 「うん!帰って来たら楽の本当の彼女になるんだからって思って、頑張ったんだ!」
千棘 (楽の事を考えながら作ってたら、どんどん上手くなってったけど、恥ずかしくてとてもいえないわ………)
パクパク モグモグ
楽はマカロニサラダやパンにも手を伸ばした。
千棘 「はい楽、お酒飲も〜」
楽 「お…おう。」
トクトク……
今やお酒を飲む時の定番となった千棘にお酌して貰って、楽は赤ワインを呑んだ。
ふぅ〜
楽 「じゃあ明日から大学始まるし。
そろそろ寝るか?」
千棘 「そうねぇ、私もLAB ファッション学院が始まるし。」
楽 「そんな名前だったのか、お前の入った専門?」
千棘 「うん。スミレさんもそこの卒業生なんだけど、日本中からファッションデザイナーを目指している子達が集まって、色々凄いのよ?」
楽 「ふーん……」
カチャ
楽は部屋の電気を消してベッドに入った。
楽 「じゃあ、おやすみ千棘。」
千棘 「うん、おやすみ。」
約5分後
カタカタ
楽 (ん?何だ?何かが震える音?
いやその前に、何かに掴まれてるような………)
楽 (ハッ!)
楽は8ヶ月ぶりで忘れていた千棘の弱点の一つを思い出した。
楽 「そ〜〜」
千棘 (ブルブル……ガタガタ)
楽 「あっそうだ、思い出した!
お前、暗いところダメだったよな?」
千棘 「うん。ビーハイブの私の家は大きい部屋だったから大丈夫だったけど、この部屋3KDしか無いし、スッゴく怖い………」
楽 「大丈夫か?」
千棘 「うん、楽といれば。ねぇ楽、寝る時こうやって背中に寄り添っていい?」
楽 「な………?」
千棘 「ダメ?」
楽 (……………………)
そういう千棘の目には、楽から手を離すと今にも溢れそうな程、涙が溜まっていた。
楽 「分かったよ。」
千棘 「ありがとう………」
第11話 完
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