第1巻 第207話 チョコヲ
2017年10月20日(金) 15:00
弥柳宅(みやなぎたく)
その日の講義を終わらせた小咲は、
自身の洋菓子メニュー1のショートケーキに次ぐ、洋菓子メニュー2を作る為に、
大学帰りに弥柳の家に再び来ていた。
弥柳 「それじゃあ小野寺さん、今日は甘くて美味しいチョコレートを作るよ。」
小咲 「はい。
でもアレ?
次の私の洋菓子メニューで、弥柳君との大学祭でのケーキ屋さんで出すのは、
チョコレートじゃ無くて、
チョコケーキじゃなかったっけ?」
弥柳 「だからぁ、
そのチョコレートケーキに使うチョコレートを作るんだよ。
同じレシピを使ったチョコケーキでも、
材料のチョコが美味い(うまい)方が良いに決まってるだろ?」
小咲 「あ!そっか。
流石弥柳君、お菓子作りに関して、
そこまで考えてるんだ。」
弥柳 「てゆーか、そんな事、
菓子職人(パティシエ)や料理人じゃ無くても、
普通に考えれば誰でも気付くし、
真剣に料理をやってる人間なら、
誰でもしてると思うんだけどな。」
小咲 「アハハ………、そうだね。
私、まだまだ努力不足だね………。
チョコも今日、始めて作るし………。」
蓮 「え?
小野寺さんあんた、今まで自作のチョコも作った事無かったのか?」
小咲 「はい。
私が通ってる料理教室の菓子科で
チョコレートを使ったお菓子を作る時は、
大体いつもスーパーで安売りされてたチョコを使ってたから………。」
蓮 「努力不足だな………。
菓子職人(パティシエ)を本格的に目指し出して、
もう半年目なんでしょ?
よーし、なんだかあんたに美味いチョコの作り方をなんとしてでも教えたくなって来た。
1から10まで教えてやるよ。」
小咲 「はい!よろしくお願いします。」
そして2人は、チョコの調理に取り掛かり………。
弥柳 「まずは、
チョコを細かく刻んで耐熱ボウルに入れる。」
小咲 「はい。」
トントン
小咲は、蓮に言われた通りチョコを包丁で細かく刻み出した。
蓮 「おお。
あんた、中々包丁さばきが上手くなったな。」
スッ
蓮はチョコを切っている小咲に近付いて、
小咲の包丁の切り方を見て感心した。
小咲 ドキッ
蓮と顔が近付いた小咲はドキッとして、
思わず顔を赤らめた。
蓮 「ん?どーした。
顔赤いぞ?」
小咲 「な、何でも無いです!」
蓮 「じゃあ次は、
鍋で生クリームを沸騰寸前まで温めて、
チョコの入ってるボールに流し込む。」
小咲 「は、はい………。」
カチッ
小咲は鍋に生クリームを入れて、
火を付けた。
蓮 「この、沸騰寸前がどこか、
見ただけで判断出来る目が大事なんだ。
生クリームを温める時だけじゃ無くて、
温める料理全部で役に立つ大事な目だ。
小野寺さん、あんたのその目がどれくらいか見てみたい。
自分で沸騰寸前だと思ったら、火を止めてくれ。」
小咲 「は、はい………。」
蓮は、普段のお人好しなどこか楽に似た優しい態度から打って変わって、
真剣な菓子職人(パティシエ)の口調だった。
小咲 (弥柳くん、普段と何だか雰囲気が違う。
スッゴく真剣………。)
グツグツ………
生クリームを入れた鍋は、
沸騰が近付いて来た。
ボシュウッ
小咲 「今!」
カチッ
小咲は火を止めた。
蓮 「おお………!」
小咲 「ど、どうでしたか?
私の火を止めるタイミング?」
蓮 「初めてにしては、
大分いい方だったよ。
ホントなら、あと2〜3秒早く火を止めた方が良かったけど、
初めての沸騰直前での火止め(ひどめ)なんて、10秒以上もズレる奴だっているのに、
やっぱりあんた、料理の筋(すじ)が大分良いよ。」
小咲 「!私、そんな事人に言われたの初めてです………。」
蓮 「そうなのか?」
小咲 「はい。
私、高校の時は料理もお菓子作りも
スッゴく下手だったから………。」
蓮 「そうなのか?
まあ、あんたの高校時代なんて俺が知る訳無いが………、
まあいいや、
で、次はチョコを……………」
そして、2人のチョコの調理は進み………
小咲 「出来たーー!
初めての、私特製のチョコだーー!」
蓮 「いい出来だ。
これならいいチョコレートケーキができそうだ。」
小咲 「………あのー、弥柳くん。」
蓮 「ん?」
小咲 「今日は本当に、ありがとうございました。」
蓮 「ん?あ、ああ………。」
小咲 「弥柳くんって、お菓子作りの時になると、普段から打って変わって
真剣になるんだね。
なんだか、カッコよかったよ。」
蓮 ドキッ
小咲の言葉に、蓮はドキッとした。
第1巻 第207話 完
このSSへのコメント