提督生活①【提督が鎮守府に着任しました】
学校を卒業し、赴任先も決まったものの、そこはまだ空っぽで、何をしようか、何でも出来るか。
着任する前の提督ってどんなものかなって。
こんな人もいるんじゃね?
「これにて第…期海兵学校の卒業式を終了する。卒業者には郵送にて着任先を連絡する、他詳しい事は同封する指示書に従う事。以上」
そう言われて実家で待機する事、三日。
その間、同期に連絡を取ったり、家の前に出て郵便を待ち続けたり、配達されない不安から自室でジタバタしたりした。
翌日、午前中に同期の一人から郵送が届いたとの連絡が来たのを皮切りに他の同期達も続々と配達されたと連絡がきた。
不安と焦りで汗が止まらなくなってきた頃に呼び鈴が鳴る。
思わず飛び上がり、玄関へと走り勢いよく戸を開く。
あまりにも勢いよく開いたので驚いたのか、戸の前にいた人物は大きく目を見開いていた。
「あ…」
そこに居たのは自分の彼女だった。
焦りから郵便だと思い飛び出したが、今日来ると聞いたのを忘れていた。
「驚かせてごめん。そこにいるのもなんだから、さ、上がって上がって」
「お邪魔しますね」
そういって一礼する彼女からは仄かに甘い香りがした。
見惚れるわけにもいかないので、すぐに部屋へ通そうとした瞬間
「そんなに私が来るのが待ち遠しかったのですか?」
彼女はそう言って微笑んだ。
真実は違うのだが、彼女を喜ばせておいた方が良いだろうと思い言葉を選ぶ。
「あぁ、いつ来るかなーって思って。待ちわびたよ」
「嘘ばっかり」
そう口にして溜息をついた。
「本当はこれ、待ってたんでしょ?」
そういってどこからともなく、封書を取り出した。
重要機密と印の押されている封書に目が釘づけになり言葉が出ない。
彼女が差し出してきた封書をひったくる勢いで取ろうとしたら手を引っ込められた。
「受け取る前に私に一言も無いのでしょうか?」
「あ、持ってきてくれてありがとう」
「何か投げやりですけどいいでしょう。はい、どうぞ」
封書を受け取ったはいいが固まってしまう。
「お邪魔しますね」
その一言で我に返り、二人で居間に向かう。
両親が不在で良かった…
座卓を挟み対面する自分と彼女、卓上に置かれた封書。
待ちわびていたはずなのに、いざ開封となると体が動かない。
心臓がバクバクと音を鳴らし、手が汗で濡れ、息苦しさまで感じ始めた時、目の前の封書に向かって彼女が手を伸ばした。
彼女より早く封書を確保する。
正面を見てみたが、彼女は微笑みを浮かべたまま何も言ってこなかった。
「あ、開けます…」
のりしろから丁寧に封書を開け中身を取り出す。
警備府じゃなかった事が思ったより堪えたのか茫然としていた。
地元を希望していたとは言え配属は大本営が決定するため、どこに召集されるかわからない。
東の鎮守府で良かったのかもしれないそう思った瞬間、彼女とは離れ離れになってしまう事に気付いた。
「おめでとうございます」
「ありがとう…あの、その着任先なんだけど、××鎮守府だった」
彼女は何も言わない、が、その顔は哀しげだった。
「それで申し訳ないけど、当分離れ離れになると思う。だけど落ち着いたら必ず迎えに行くからその時は一緒に来てくれないか?」
「聞いていて非常に不安になる言い回しですね。死ぬ気ですか?」
言われて気付いた、これ死地で戦友に話して自分は死んじゃう結果になる言い方だ。
このまま暗くなるのは非常に危険と思ったが笑いを誘えるような言葉も思いつかず、思った事をそのまま口にした。
「そう簡単には死ねないよ。孫の顔も見たいし、何より二人で一緒にいきたいからな。それに死ぬ時はヨボヨボの爺になってから畳の上で家族に看取ってもらうって決めてるから」
「それなら畳を一畳、鎮守府に送りましょう」
「殺す気か」
本気ではないとわかっているが若干顔が引きつってしまう。
「勝手に死なれるくらいならいっそ?」
微笑みながら言われたが非常に判断に困る。冗談半分本気半分だろうな…。
まぁ慣れているのであまり気にしないようにしているがキツイと思う時もある、今が正にそう。
彼女は基本、人前では猫を被る。
逆に言えばこういった姿を見せるというのは、それだけ心を許していると理解している。
「まぁ少し待ってろ。数か月くらいかかるかもしれないけど。迎えに行くだろうが待てなかったら勝手に来い。一人くらいなら何とかなるだろ」
「全く、たまには男らしく決めて欲しいのですが…その言葉忘れないでくださいね。待ち疲れたら行きますので」
笑顔が怖かった。
それからは彼女の両親に挨拶したり、自分の親に報告したり、新天地への荷造りで出発日まで忙しかった。
出発当日は快晴、雲一つない真っ青な空。
汽車に乗り故郷を出て首都に戻り、そこから鎮守府へと向かった。
令状を頼りに鎮守府内にあるはずの提督室を探し当てた頃には召集時刻五分前になっていた。
ドアをノックしてみるが返事はないので勝手に入り荷物を置く。
ものの見事に何もない、机の一つもない状態でどうしたらよいのか考えなければならなかった。
取り敢えずここで秘書官と合流し着任となるはずだが、居ない。
定刻と同時にドアがノックされた。
「どうぞ」
思わず呼び入れてしまったが、相手が誰かも確認せず答えたのはマズかったと焦る。
しかし入室してきたのはセーラー服を着た小さな女の子だった。
「失礼します、なのです。本日着任予定の司令官さんで間違えないでしょうか?」
「あ、はい。えっと君は?」
「申し遅れましたなのです。秘書艦の電です。どうか、よろしくお願いいたします。」
「い゙?」
「なづまなのです」
自分の言葉を引き継ぐように言われた。
「な…、づま?」
「はわわ、いきなり妻だなんて」
何かよくわからないがぶっ飛んだ思考をしている子のようだ。
『前途多難』という言葉が頭をよぎった。
階級:新米少佐
時代考証なんざ考えていません。
現地調査も行っておりません。
召集令状なんざネットで見つけたのをコピー、文面が正しいのかもわかりません。
こんな状態なので広い心で読んでいただけると幸いです。
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