提督生活②【チュートリアル:任務編】
何か勘違いしたようだが、何故だろう。誤解を解いてそれからだ。
前途多難
「はわわ、いきなり妻だなんて」
頭の中がピンク色になっているのがわかる。
「何を勘違いしているの?私はただ、名前を呼ぼうとしただけだ」
「はわわ、失礼しましたなのです。勘違いしてしまったのです…」
恥ずかしいのか顔が真っ赤になった。
「それに私には婚約者がいる」
「はわわ、そうなのですか!?」
混乱しているのか手を動かしたり、視線が泳いだりと非常に落ち着かない。
見ていて楽しいのだが、これでは話が進まないので気になった部分を質問してみる事にした。
「君は先ほど秘書官と言ったね。それはどういうことか説明してくれるかな?」
「秘書官ではないのです。『秘書艦』なのです」
「秘書『艦』?」
「はいなのです。電は暁型 4番艦 駆逐艦で司令官さんの着任に伴い初期艦そして秘書艦として当鎮守府に配属される事になったのです」
「君が艦娘?」
にわかに信じられない、余りの見た目に訝しげな視線を送る。
どう見たって子どもに見える。
頭の天辺からつま先まで眺めるが、うん、少女にしか見えない。
「?」
電と名乗った少女は小首を傾げてこちらを見つめ返してきた。
艦娘の知識は与えられていたが、ここまで幼い子が艦娘とは想像できなかった。
言葉は理解出来たが、頭がそれを受け入れようとはしてくれない。
一度試してみる事にした。
「お嬢ちゃん、君はここに一人で来たのかな?ここは危険な所なのだよー。ゲヘヘ」
明らかに変態な言葉だが制服は着ている、そもそも一般人はココには来ない。
艦娘と言うのなら、ちょっとくらいからかっても気づくだろう、それくらいの観察力はあるだろうと思っていたら
「ふぇぇ…え~ん!」
泣き出してしまった、ヤバい、予想外だ!泣くとは思わなかった!
「ごめん!今の冗談!」
何とかしようと思い声をかけたが逆効果だった、大声を上げて泣き出してしまった。
どうにかして泣き止ませようと肩を揺すりながら頭を撫でようとした瞬間
隣室のドアが勢いよく開いた。
「何をしているんですか!この変態!」
ドアが勢いよく壁にぶつかる音と怒鳴り声に驚き思わず顔を向けるが、目の前には塊が飛んできていた。
あ、顔面直撃だ…そう思った通りに激突した。
それは分厚く固い表紙のついた本だった。
重量と速度の乗ったその本は砲弾の如く自分の顔に直撃しそれに当たった自分は弾かれるように後ろに倒れる。
「ひっ!」
泣いていた電と言った少女は、肩を竦め怯えていた。
「大丈夫ですか?!変な事はされてませんね?私が来たからもう安心です」
隣室から出てきた女は電に駆け寄り優しく抱きしめ自分から距離を取った。
そこで何かに気付いたのか訝しげな表情を浮かべこちらを観察してきた。
「…制服、帽子?」
顔を抑えながら立ち上がる。
隣室から出てきた女にぶつけられた本を返しながら自己紹介する。
「本日付で当鎮守府に着任する事になった、提督だ。貴女は?」
鼻が痛い、鼻血出てないか?触ってみるが血は出ていないようだ一安心。
しかし目の前の女は非常に険しい顔をしつつ、少女を後ろにかくまってから自己紹介をしてきた。
「私は任務娘と言います。当鎮守府と大本営との連絡役として派遣されました」
「ご苦労様です、連絡役。して、隣室では一体何を?」
着任早々不祥事で解任とか洒落にならない。大本営へ連絡される事態は出来る限り避けたかった。
「作戦司令室内の通信設備の確認です」
あ、隣ってそうなんだ…と思ったと瞬間、その言葉の危険性に気付く。
「あの、通信の実施は…」
平静を装いたかったが上手くいかなかった、明らかに声がかすれていた。
「最終点検でしたので通信は行っております。通信機自体には不備はありませんでした」
最悪かもしれない…恰好つけておきながら初日で解任なんて殺されかねない…婚約者に。
「…大体何を考えてるかは想像が付きますが、例年何人も似たような提督が居ましたのでこれくらいでは問題にはしません。た だ し 今後は節度を守る事を心掛けてください。理解しましたか?」
「は、はい!今時点より節度を守る事を誓います!」
思わず敬礼し、宣誓をしてしまった。
「…はぁ。」
溜息をつかれた。
「この度は当鎮守府の着任お疲れ様でした。改めまして自己紹介させて頂きます、私は任務娘。大本営から提示される任務の遂行及び達成の確認、また海域攻略に関する報告を任されています。何か質問はありますか」
一息に言われたので条件反射で「ありません」と言いかけたが、今後に関わる事なので真剣に考える。
「まず、任務についてはどのようなものがあるのでしょうか」
「任務には単発任務と定期的な任務があります。単発任務は一度完了すると再度遂行することは出来ません。定期的な任務は提示される度に繰り返し遂行する事が可能です」
「任務の種類や内容についての資料はありますか」
「こちらに用意してありますのでお持ちください。提督は着任したばかりなので現在提示されている任務は少ないですが、今後は進行状況と共に提示される任務も増加する事となります」
渡された資料は数枚しかなかったが、達成すると増えるようだ。
「任務ですが、それを全て遂行しろという事でよろしいでしょうか」
「いえ違います。任務は達成した場合、大本営から報酬を受け取る事が出来ます。あくまでどの任務を実施するかは個人の自由です。報酬の内容は先ほど渡した資料に記載されてますので詳細は割愛します」
「報酬以外で資材を入手する方法はありますか」
「そういった内容は秘書艦から聞いてください。私は説明係ではありませんので」
「失礼しました。次の質問ですが海域を攻略したかどうかをどのように確認するのでしょうか?」
「各海域には敵性勢力の拠点が存在しますが、既に大まかな座標は確認されております。そのため、出撃した艦隊の進路や戦闘に関する報告を頂いた結果の判断となります」
「攻略が確認された場合、次の海域の攻略を許可するという事でいいでしょうか」
「そういう事です。他、何かありますでしょうか。無ければ私は他の確認もありますので、艦娘や艦隊の運用に関する質問は秘書艦からお願いします。私の居場所は鎮守府内の配置図を確認してください。そ れ と くれぐれも節度を守った質問でお願いしますね。」
そういって提督室を任務娘は去って行った。
さて、先ほどの少女とまた二人きりになった訳だが、ここから先は真面目にやろう。
少々ダレてきているからな。
「先ほどはすまなかった。今後は不真面目な行いは控える」
先程からかった事に対して詫びた。
「はわわ、大丈夫なのです。電はもう平気なのです」
「そっか。じゃあ電。ご飯にでもしよっか」
「すでのなっ?!」
予定より長くなった…orz
お蔭で前後編に分ける事にしました。もっと文章を簡潔にわかりやすくする技量が欲しい。
また電の正式名称ですが、wikiでは吹雪型(特型)の24番艦(III型の4番艦)となっていますが、艦これの図鑑表示での記載に準拠しています。
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