提督生活⑥【鎮守府海域突破】
着任早々あまりにも色々な事が起こり何とか過ぎた初日。
一晩休んだら気持ちを入れ替えて提督としての責務を全うしよう。
まずは一つ、海域を攻略を目標にしよう。
課題は山積み、みんな初心者、さてどこから手を付けようか。
下手なりの努力の結果がこうりなました。
流れや勢いを含みつつ、ダラダラした部分もとか思ったらこんなになってしまいました。
下手の横好きですが今回も最後までお読みいただけると幸いです。
脇腹に何かが刺さるような感覚に身の危険を感じ飛び起きる。
布団をめくってみるとそこにはどんぐりが落ちていた。
どうやらとがった部分が脇腹にあたり刺さるような感覚を与えていたようだ。
何でどんぐりが落ちてるんだと寝起きの頭で考えていた所思い出した。
そういえば寝間着に着替えた記憶が無い。
ポケットに入れていたのが落ちたのかと、拾いなおした所でポケットの中にまだどんぐりがある事に気付いて寒気が走る。
寝ている最中もこんな不可思議な現象が起きているのに、不利益はないと言われたのが非常に不安でしょうがない。
「さすがに醒めたな、今何時だ?」
時計を見ると七時を指していた。
起きるには都合の良い時間帯だ、目覚ましも掛けていなかったから危うく寝過す可能があった。
…出来過ぎとは思うがあまりに都合が良すぎだと思った。
どんぐりがあったからこそ頭はしゃっきりし、活動する時間的にも都合が良い。
えも言われぬ恐怖感はあるが確かに不利益な事にはなっていないと自分に言い聞かす。
「ある意味どんぐりには感謝だな」
どうにかしてでも自分を騙そうと声を出すことで思い込もうとする。
「風呂入って、飯食って、初出撃だな」
寝間着に着替えず寝たせいでしわくちゃの服を脱ぎ、風呂入ってから替えの服に着替える。
準備が終わり食堂に向かう。
さすがに三食連続でカレーじゃないよな…と不安になるが
献立表を見ると朝食は、ご飯、味噌汁、出し巻卵、納豆、海苔、漬物と純和風で一貫した内容だった。
まだ人員が少ないせいかガラガラの食堂で一人黙々と朝食を取る。
食堂で一息入れてから提督室に向かい、約束の時間まで窓から外を眺めて時間を潰す。
マルキュウマルマル
定刻通りに駆逐艦の三人がやってきた。
それから少し後に任務娘が来室してきた。
「失礼します。昨日お話した新規配属要員をお連れしました」
「お疲れ様です。それで君が新しく配属される艦娘か。私は提督だ、よろしく頼む」
「白雪です。よろしくお願いします」
「…とか、やってた頃が懐かしいなぁ」
最近の鎮守府というか提督室のかしましさについ現実逃避してしまった。
「何勝手に逃避しようとしてるんですか。まだこのような状況になった経緯についてしっかり話してもらいますからね?」
かなりお怒りになっているようです、我が婚約者様は…。
と言うのも、提督室の現状を考えると怒るのは仕方ないと思う。
「HI!今日もイイ天気ネー!こういう日に飲む紅茶は格別デース。それに榛名が焼いてくれたビスケットも最高デース」
「特別な評価なんて…もったいないです」
少し離れた所で金剛四姉妹が応接セットを持ち込んでのティーパーティーを行っているし
「クマをこんな姿にするなんて…これじゃ多摩の事叱れないクマ…」
窓際では球磨が日差しが暖かいせいなのか船を漕いで寝かけているし
「青葉―、待ちなさーい!」
外では青葉を追いかけているような声が聞こえる。今度は何しでかしたんだ?
どうしてこうなったのかなー
「最初からあなたの心構えに問題があったんじゃ あ り ま せ ん か ? 先程から聞いている限り、明らかに自業自得としか思えない事ばかりです」
「あ、いや、それはちょっと違うと思うなーと」
「な に が ち が う と ?」
最近、婚約者様の笑顔がとてつもない。
こっちに呼んでから一か月くらいしか経ってないのに、純粋な戦力は除外すると鎮守府トップは婚約者様とみんなに認識されているくらいだ。
そして何気に電が腹黒くなったのも大問題だ。
そもそも今こうやって追求されているのも電が着任当初の失敗を面白おかしく婚約者様に聞かせた事が発端だったりする。
鎮守府に呼び寄せてからというもの艦娘達からのスキンシップにストレスが溜まっていたのだろう、主に金剛のせいだが。
そこを狙って電が着任当初の失敗談を告げれば、誰だって追求したくなる。
ただ、婚約者様はどうにも最近恐いので電にはしてやられた感が否めない。
(電め、俺にだけわかるようにしたり顔してやがる。狙ってたな)
「で、この際ですから着任から今までに何をしでかしてきたのか、洗いざらい話して下さいます よ ね ?」
笑顔なのだが夜叉が見える…
「え、え~とですね。着任するにあたって秘書艦を一名与えられまして、それがそこにいる電でね?」
「次」
「初日はちょっとこっちも確認不足というか連携不備というかゴタゴタがありまして…」
「そのゴタゴタを聞きたい ん で す !」
…どうしたらいいのかなー
「…専属秘書が来るものだと思ってまして、まさか娘っ子が来るとは思わなくてちょ~っとばかしからかいましてー」
「へぇ…」
「恥ずかし(い思いをさせ)られたのです」
「辱められたですって?!」
「そんな事はしていない!」
違う、そんな事はしていない!電誤解を招く言い回しを止めろ!と必死に視線を送るが
電は第六駆逐隊のみんなに見られているせいか泣きそうな顔をしている。
が、断じてそんな事はない!
みんなで過ごしてきたから分かった事だが、電は相手によって露骨に人が変わる。
第六駆逐隊のみんなで過ごす時は大人しくみんなに合わせひ弱な印象を与えるが
一人でいる時はかなりドギツイ悪戯を仕掛けてきたりする。
第六駆逐隊で揃っていると安心した自分がバカなのか…
「本当にちょっとからかっただけで、問題ある行動は決してとってませんから!」
「証明出来ないでしょ?」
「あ、えーと…あ!任務娘!着任当日に任務娘がその時いたから無実は証明できるっ」
「…後でしっかり聞いておきますね?」
あれ…何か自分で自分を追い込んだ?
電は他の三人に慰められてるし…
「え、次に進んでいいでしょうか?」
「はい、ど う ぞ」
「で、電が秘書艦である事が判明してお互いに挨拶した後、鎮守府内の散策と任務を遂行して所属艦娘が三名になった所で日が暮れて初日は終わりました。二日目からは初出撃と鎮守府海域の攻略が始まりました。ここら辺は省くよ?ほとんど艦娘の育成と攻略、遠征による資材集めの繰り返しだから」
「その間に何も起こしてないのなら省いていいです」
「じゃあ大丈夫。金剛きてないから」
少し離れたソファーから恨めしい視線がきているような気がする。
「で、鎮守府海域を攻略し南西諸島海域の攻略に入った所で育成不足から攻略を抑え気味にしまして」
「期間。どのくらい時間経過したのかわからない」
「あ、鎮守府海域は四か月程で攻略です。そんで南西諸島海域攻略に入って金剛四姉妹が着任した所で艦隊の練度を高めてた所で、大本営から緊急で大規模作戦通達がありそちらの攻略をしてました」
「はい、それから」
「大規模作戦が終了した所で半年以上経過していたのに気付きまして、急いで連絡を取りました。そこからはこちらで一緒に生活しているので先程答えた通りです。以上」
「…多少の遅れがあったのはそう、ふぅ~ん」
「忙しさで遅れたのは悪かったよ?!」
回りから盛大な溜息と「忘れてた事が問題なのです/デース」と言われて事態に気付き、冷や汗が止まらない。
恐る恐る婚約者様の顔色を伺うが笑顔が消え据えた目でこちらを見ている。
どう声をかけようか迷っていた所で
「おう提督、作戦完了で艦隊帰投したぜー」
救いの手とでも言うべきか天龍と龍田が同時に帰投してくれた。
労いの言葉をかけようとしたが婚約者様に機先を取られた。
「天龍ちゃん、龍田ちゃん、お帰りなさ~い。帰投して早々で悪いんだけど、提督宅から急ぎで畳を一畳、剥がして持ってきてもらえないかしら?」
「? あぁ、別にいいぜ?」
ヤ バ イ !
殺す気だ。
回りは正座でもさせるのかと大して気にして無いようだが、実家で話した事を実現させる気だと俺には解る。
見苦しくてもいい、艦娘に蔑まれるだろうが命が惜しい。縋り付いてでも機嫌を取るべきだが、何と言えば許してもらえるのだろうか。しかも下手な事は言えない状況だっ。
「ほらっ司令官、ちゃんとレディーとして扱わないからダメなのよ。婚約者ならちゃんと一人前のレディーとして扱ってあげてよね!そんなんじゃ半人前の司令官よっ」
暁から救いの手が差し伸べられた。
予想外の救援に思わず暁の顔をじっと見た所、思わず暁が怯んだ。
「な、何よ!」
「いや、暁の言う通りだと思って」
どうやら暁は意図したようではないみたいだが、折角の機会を逃すわけにはいかない。
「すまなかった!忙しさを理由に言い訳をしてしまった」
勢いよく土下座する。
そのままの姿勢で続けて謝罪する。
「だが、君を大事では無いなんて事は一片たりとも思った事はない。君が大事だ!もうこのような事は二度と起こさない。だから、許してください」
「……」
「…………」
息苦しいくらいの静寂が続く。
静寂を破るように、これ見よがしの溜息が聞こえた。
「はぁ…、暁ちゃんに感謝する事ね。今回は許してあげる。ほら、いつまで土下座してるの顔を上げなさい」
素直に顔を上げ暁に感謝の言葉を述べる。
「暁ありがとな、命拾いしたよ」
「な、何よ。大袈裟すぎるのよっ」
「ハラショー。言った本人が意図してない所が特に」
響、結構お前もキツイ事言うのな。そして何気に危険だったと気づいてるのな?
「さて、電ちゃん。私と一緒にちょっとさっきの話の確認に行きましょう」
「…はい、なのです」
あ、電がちょっと嘘がばれるかもしれないって顔してる。いい気味だ。
「そうそう、話を聞いてくる間に多分畳が運ばれるでしょうけど、一応敷いておいて下さいね。内容次第じゃやっぱ必要かもしれないしね」
さらっと死刑宣告は保留中とこちらに伝えて二人で出ていった。
普通、試練って立て続けに来ないよね?
あれ?この状態って俺ここで待機してなきゃいけないの…?
あんな醜態さらした上に、晒されるわけ?
…逃げだしてぇ。
しかし逃げるわけにも行かないので書類整理でもして時間を潰す事にする。
その書類整理ですら、天龍の煩い声で出来なかった。
「よっしゃぁっ到着!畳持ってきたぜ」
書類から顔を上げ二人に対して
「ああ、ありがとう二人とも。畳だがそこの日の当たらない壁にでも立てかけておいてくれ」
「おぅ!で、次はどうすんだ?たまには俺に作戦をくれよ!感覚が鈍っちまうぜ」
「私は~どっちでもいいんだけどね~」
どうしたものか。
資材が困窮気味な現在、資材消費するのは演習だけにしたい。
かと言って二人をまた遠征に行ってくれと言うのも申し訳ない気もする。
さすがに同じ事の繰り返しをさせ過ぎるとどうなるか、58達で思い知らされている。
帰投直後に畳を運んでくれたんだし、休息を取らせるかと考えた所で全身に電流が走った。
思い至った最悪の予想をまとめるために何度か二人と畳を交互に見る。
「天龍、龍田!両名は今すぐに駆逐艦を引き連れ南西諸島海域に遠征に出てくれ。駆け足!」
「はぁ?! 遠征終了してさらにお使いまでこなした挙句がコレかよ!作戦命令ならともかく遠征するならせめて休憩くらいくれよ」
「二人にはすまないが今すぐ行けばそれだけ早く戻れる。しかし休息を挟むとな…」
「はいはい、わーったよ。つくづく貧乏くじ引かされるぜ」
大仰に頭を振ってお手上げといった態度を示す、何とか行ってくれるようだ。
隣で龍田が冷たい視線でこちらの顔を見つめてくるが内心を悟られても困るので早く行かせよう。
「どうした龍田?」
「いえ~、うふふふふふっ♪ 行ってきます♪」
「二人ともすまんな。頼んだ」
何とか最悪の事態を起こす人物は排除出来た。
思い出せて良かったが、天龍に対しても悪戯しかけた事あったんだよな…あの時は青葉と電も居たが。
知られないように遠ざけるが吉だ。
書類整理も大した量ではなかったため手持ち無沙汰で暇を持て余していると、三人が話しながら戻ってきた。
「あなた、今任務娘さんと話し込んでたですけど」
「は、はいっ!」
声が裏返る。これでは疚しい事があると自白してるようなものだ、マズイ。
「もう怒ってないですから緊張しないでいいですよ。で、みんな戦闘で衣類がダメになった際に帰投後そのままの格好でいるのは女性として問題だと思うの。でね、みんなが上から羽織れる外套みたいなものを用意したいんだけど、どうかしら?」
「あぁそうだね、良いと思う。どういうものにするかは任せていいか?」
「じゃあこちらで進めますね」
どうやら金剛達と相談するようだ。まぁ着るのは彼女達だし話を聞くのは当たり前か。
「提督よろしいでしょうか」
「あ、何でしょう」
「前に申請されていた車両の件ですが、許可が下りました」
「ホントに?!」
ちょっと予想外だった、艦隊指揮とは関係ないものだし許可が下りないか無視されるものだろうと半ば諦めていたくらいだ。
「それで普通自動車を公用車として四台まわしてくれるそうです」
軍用車じゃなく普通自動車を四台も!太っ腹だ。
あぁ試練掻い潜ったご褒美だな、うん。
「後日、倉庫に搬入されますので、こちらで受領してしまって構わないでしょうか」
「ええ、お願いします」
災い転じて何とやら、このまま資材が溜まったら一気に沖ノ島海域を攻略してしまおう。
羅針盤に苦しめられ、大規模作戦で資材が枯渇したが、今ならいける気がする。
俺の戦意は充分だし資材さえあれば演習にて連動確認後攻略に行こう、行っちゃおう。
と、決意を固めていた所にバタンと誰かが倒れる音がした。
音のする方を見ると金剛がテーブルに突っ伏している。
…何があったんだろうか。
「お姉さま?!」
比叡の焦り声が室内に響く。
榛名と霧島は目の前で突然倒れた姉に対して全く動けずにいる。
ただ一人婚約者様だけが笑顔でこちらを見返してきた。
「気にしないで、ちょっと意見の相違で揉めただけだから」
「揉めただけで普通倒れないぞ!」
「大丈夫よ、外套のデザインであまりに予算掛けすぎるから黙らせるために『比素』入りクッキーを食べさせただけよ」
その言葉を聞いた瞬間、鎮守府内に衝撃が走った。
今までのやり取りがあっても起きてこなかった球磨が髪の毛を逆立てて飛び起き
外であれほど煩かった青葉の悲鳴と追いかけまわして声が消え
第六駆逐隊の四人はへたり込み身を寄せ合って震え
榛名・霧島の二人は比叡を凝視し
比叡は無実だと頭を振り
鎮守府内に非常警報が鳴り響き
任務娘は気配を消して逃げようとしていた。
取り敢えず敵前逃亡は許さんという感じで任務娘の肩を掴み引き留める。
「ひぃっ!?」
その声が引き金となり第六駆逐隊が大泣きしてしまった。
鼓動が異常な程上昇しているのを自覚しながらも何とか声を出す。
「今『比素』って言ったよね?」
「ええ、言いましたよ」
笑顔で肯定してきた。
「何であるの?アレ全部捨てたよね?」
「これは私が一から作ったものですから」
何という事だ…
ちょっと前に金剛四姉妹が料理番になった際に鎮守府内に地獄絵図を引き起こしたあの惨物を作り出せるという事実に戦慄する。
あの時はカレーの日だった事もあり、みんな気付かず食べ鎮守府内が阿鼻叫喚に包まれた。
金剛が料理中、長姉として三人に料理で一番大事なのは何かと説いたのだが、それを曲解した比叡で仕出かした。
そもそも金剛は一番大事なのは「『愛情と言う名の隠し味』デース」と言ったそうなのだが
比叡は「『愛情と言う名の隠し味』=『隠し味と言うのだからばれない程度に何かしら入れる』、何せお姉さまのいう事に間違いは無い」と信者の思考をして自分で用意した素材をカレーに投入。
カレーだった事もあり匂いもわからず、しかもムラがあったせいで症状に個人差があり原因を特定するのに非常に苦労した。
原因が特定され比叡がまだ持っていると申告したので全て回収し、素材の作成方法を聞き出したのだが、理解出来なかった。
それを作り出せるって…?
処分するだけでも一苦労したのに?
恐 怖 で 気 が 狂 い そ う だ 。
「大丈夫ですよ、今回のコレ完璧に再現は出来なかったから」
は?
「ほとんど再現出来てるんだけど、ちょっとだけ違うのよね。それでも『比素(比叡用意謎素材)』と言っていい代物だと思うんだけど」
「その『比素』入りクッキー…後どのくらいあるんだ…?」
「もう無いわよ?クッキーに混ぜるようにごく少量作っただけだし」
「本当だな? よーし警報止め。通常体制に戻る。金剛を医務室に運んでくれ」
みんなそれぞれ役割分担して通常体制に戻っていった。
取り敢えず金剛の体調確認する意味でも一日休ませよう。
資材が貯まるのにも後数日かかるし許容範囲内だ。
その後婚約者様に怯えていたせいか自宅に戻るまでの記憶があやふやだ。
明日にでも何をしてたのか見直そう。
夜に自宅で畳を戻しつつ婚約者様に話しかけてみた。
「何であんなモノ用意してたの?」
「んー、ここの所あなたに対して鬱憤が溜まってたから、問い詰めるついでに罰を与えようと用意してたのよ。まぁ第二候補者に被害を与えられたからすっきりしたけど」
平然と恐ろしい事を言ってくれる、しかも第一候補は自分だったと言われて、また鼓動が高まる。
声を出せずにいると婚約者様は声を抑えて笑い出し
「大丈夫よ、日中も言ったけど完全に再現は出来なかったの。そしてその差が結構大きくてねー。本物は様々な症状を起こして悲惨だったけど、私が作れたのは意識が飛ぶのと軽い痺れが出る程度よ。痺れもすぐ消えるわ、健康に害なし」
「へ、へー…」
何とか相槌を打っておく。
「それより大丈夫なの?私が仕出かした事とは言え主力の一角が気絶しちゃったでしょ、それにあの騒ぎでみんなの戦意が下がったりしてないかちょっと不安です」
「んー大丈夫だろ。良くも悪くもみんな毎日を全力で生きてるからな。戦闘となれば沈むかもしれない、だから日常を大事にするしその分表現も直接的になる。まぁそのせいでお前も不安になったのだろうけど」
「すいみません…」
「謝る必要はないさ、俺も不安にさせて悪かった。なぁ」
「はい」
「資材をもう少し貯めた後に練度確認のための演習を行うが、問題なければそのまま沖ノ島海域を攻略する。そしたら式を挙げよう」
「また『たら』ですか?そんなんじゃ攻略出来るものも出来なくなりますよ?」
「今度は違うさ、ただの順番の話だからね。待たせてすまない、俺の妻になって下さい」
そういって手を差し伸べる。
「そういう言葉は日中に聞きたかったのですが」
そっと手を重ねてきた。
「さすがにそれはちょっと難しかったかなー、やったら被害甚大だろうなぁ。そう思わない?」
「あらあら甲斐性の無い人ですこと」
お互い苦笑いで答える。
お互いを理解し合えているからこそ言える軽口
今俺たちは幸せの最中にいるのだろう。
「一つ譲りますが式は挙げなくていいです。式を挙げるというのは見せつける事になりますから結局被害甚大でしょう」
「あ…」
開いた口が塞がらない。
「貴方は隙が多いですよ」
「貴女への好きが多いです。愛してます」
自然と口にしたが、思ったより効いたらしい、顔が一瞬で真っ赤になった。
珍しく見せる隙を逃さず引き寄せ抱きしめる。
最愛の人が腕の中にいる幸せを感じつつ事に及ぼうとしたが「料理番で朝早いからお預け」と躱されてしまった。
初めてってわけじゃないから我慢しておこう。…ちょっと寂しいけど。
翌朝は食堂で金剛達と相席して具合を確認した。
舌が火傷したみたいにちょっと痺れマースと口を突き出してきたがグラスに口づけさせてやった。
比叡から猛烈な嫉妬の視線と榛名と霧島のチラチラ見てくるのを曖昧な笑顔で流し、間宮券を差し出しながら話題を振る。
「資材が貯まったらの話だが、戦艦四名、空母二名の編成で沖ノ島を攻略する」
先程までとは打って変わって姿勢を正し真面目な視線を送ってくる。
「大規模作戦では期限、夜戦、羅針盤、資材枯渇と悔しい思いをしたが沖ノ島にはそういった類は一切ない。思う存分力を揮ってくれ」
「Yes!」
「「「はい!」」」
この時の会話で気合が入ったのか、大規模作戦での鬱憤が溜まっていたのか資材が貯まりきるまでの演習では金剛四姉妹に赤城加賀の六名は八面六臂の活躍をした。
中でも沖ノ島中核艦隊の仮想編成と言っても良い戦艦四名駆逐艦二名(大和型、長門型、夕立・時雨改二)相手に夜戦を残して勝利してみせた時は拳を握ってしまった。
そして攻略当日
「本日これより沖ノ島攻略を再開する。大規模作戦で尽きた資材や高速修復剤もほぼ以前と変わらないくらいまで備蓄出来た、遠征艦隊に潜水艦のみんな良くやった。ろくな休みも無しに備蓄優先で頑張ってくれた事感謝する。そして攻略艦隊、待たせたな、まずはお前達からだ。遠征艦隊や待機を強いられてたみんなの分も合わせて、思う存分戦果を挙げてくれ。それでは作戦を開始する、第一艦隊出撃」
作戦司令室の通信設備を使い遠征艦隊用待機室にいるみんなへの謝意と発艦場の第一艦隊に檄を飛ばす。
一発で攻略出来るとは思っていない、何度も出撃する羽目になるだろう。
今までも途中撤退や羅針盤の不備で最深部までたどり着けなかった事が多かった。
辿り着けた時でも艦隊が半壊してたり、消耗が酷くてまともに戦闘が出来なかった事も多々ある。
だが、それらの経験を糧に今がある。
以前のような遮二無二に進撃させ消耗する事もない。
だから今は信じて送り出すだけだ。
一度目は道中で燃料と開発資材を拾った事から東に進んだ事が分かった後、南へ進行、それから西へ逸れ最深部へは辿り着けなかった。
二度目は一度目と途中まで同じく南へ進行したが、最深部からは逸れていたようで気付いたら海域を超えていたので帰投。
三、四度目に至っては弾薬を手に入れたとの報告があったので帰投させた。検証からこの場合は搭載している燃料と弾薬が尽きてしまう。
幾ら戦意高揚しているとは言え、何度も繰り返し出撃させれば疲労が溜まり実力が発揮出来なくなる、少々休息を取らせる必要があった。
羅針盤だけが問題なので、こちらから何か言う気は無かった。
静寂が支配する作戦司令室を訪れる者がいた。
「提督、少々よろしいでしょうか」
「入れ」
赤城だった。
「どうした。今は休息を取れと命令していたはずだが?」
「編成に関して進言があります」
「なんだ?」
「現在空母二名の割り振りの内一人を軽空母にする事で、今までの経験から進行方向を比較的制限出来ると推測されております。編成を私から隼鷹に変更しては如何かと」
「揺らぐな。たかが四度だ、それに途中撤退しなければいけないような事態は今の所一度も起きていない。お前はただ一射一射に心を籠めろ。何、次辺りあっさり辿り着くかもしれないぞ。俺はそんな気がしてる」
「…わかり、ました」
そして五度目の出撃となった。
少々風が吹いてきて波が立ってきているが天候は悪くない。
道中で敵巡洋艦隊と水上打撃艦隊を全滅させたが、こちらの損傷は軽微で問題ない。
羅針盤に従い進んでいると「偵察機から敵影確認、戦闘に入る」との報告後、艦隊と連絡が一時遮断された。
「敵影確認、空母二、戦艦及び軽巡一、駆逐二!」
霧島が敵機の編成を教えてくれる。
「単縦陣形で行きます!赤城さん、加賀さんお願いします」
「「第一次攻撃隊、発艦!」」
こちらの艦載機が勢いよく飛んでいくのを見送りさっと陣形に乱れがないか確認する。
敵側も艦載機を飛ばしてきており航空戦が開始されていた。
戦線は開かれました、次は榛名達の出番です!
「主砲!砲撃開始!!」
掛け声と共に姉妹全員で砲撃を行いながら徐々に距離を縮めて行くように弧を描いて進む。
砲撃が飛び交う戦線で至近距離に砲撃が着弾し始めた。
陣形が乱れ始めた頃、着弾の水飛沫で赤城さんが一瞬視界を失いその瞬間を狙いすましたように敵艦載機が爆撃を行ってきました。
そこからは時間が延ばされたような感覚と共に全てがゆっくり見えました。
赤城さんに危険を知らせようと声を出したつもりでしたが、自分の声は聞こえませんでした。
赤城さんは経験から危険を悟ったようで、飛行甲板を盾のように構え身を捩った所で吹き飛ばされ
赤城さんの前にいた比叡お姉さまは、艦載機を撃ち落そうと構えた瞬間に敵戦艦からと思わしき砲撃が艤装に着弾しました。
一瞬で二名が被弾し損傷状態が気になる所ですが、既にこちらも狙いをつけ終わっている以上報復とばかりに打ち込むしかありません。
榛名の砲撃が空に軌跡を描きその先には敵空母がいるように見えました。
当たるという確信があり、事実砲弾が敵空母の一体を穿ち撃沈したのを確認出来ました。
霧島も落としきれなかったもののもう一体の空母に一撃を入れたようです。
金剛お姉さまと加賀さんが被弾した御二人に声を掛け安否を確認すると、即座に「「大丈夫!」」と御二方から声が聞こえました。
「敵機残り戦艦、軽巡、空母!」
霧島が声を張り上げ状況を教えてくれます。
空母と軽巡は煙を上げまともに動けないように見えました。
なら敵戦艦さえどうにかすれば勝てます!
被弾しないように気を付けて戦艦を狙っていたせいで危うく軽巡を逃す所でしたが比叡お姉さまが撃沈させてくれました。
戦闘が終了し被弾した御二人の状態を提督に報告したほうが良さそうですね。
「榛名です」
「榛名です、只今戦闘が終了しこちらの被害状況を報告致します。比叡お姉さまが左舷砲塔を破損、赤城さんが飛行甲板中破と瞼を切り右視界に難ありです」
戦闘終了報告で思わぬ被害を知らされた。
羅針盤による方角決定がなされている以上、次辺りで海域最深部だろう。
目で見れない以上どのくらいの被害か詳細に知る事は出来ない。
当人の思っている以上の被害があり命を落とす可能性もある。
しかし聞き取りに時間をかけると敵にそれだけ猶予を与えてしまう。
取り敢えず、被弾した二人と旗艦を務める榛名の判断で進撃するかどうかを決めようと思った。
「榛名!被弾した二人と話がしたい。変わってくれ」
通信が切り替わったのか一瞬雑音が入る。
「赤城です。すいませんご心配をお掛けしまして。私は大丈夫です、このまま進撃して大丈夫です」
一航戦の矜持なのか、隠しておこうとしやがる。
「艤装及び身体の状態を嘘偽りなく報告しろ、赤城」
艦娘と提督の繋がりを利用し強引に聞き出す。
「…報告します。榛名さんの報告とほぼ同じですが、弓矢は無事ですが飛行甲板が中破、艦載機が着艦出来ません。身体についてですが被弾した際に瞼を切ったため血で右目が染まっている状態です。他の部分は、現状痛みや痺れ等無い状態です」
「わかった。次、比叡」
「比叡です。司令、私は身体の被害はありません。左舷砲塔が破損したので火力が下がったのはありますが…」
「比叡、気にするな。最後に榛名、君の判断を聞きたい。現状六名、艦隊として見て戦闘は可能か?」
「…榛名です。戦闘は可能ですが御期待に添えられる戦果を出せるかどうか…」
ここまで来た以上、戦果を出せるかどうかが気になって仕方ないようだ。
俺自身も迷っているから意見を求めているのが分かる。
迷った挙句の判断は必ず悪い結果をもたらす。
深呼吸して気分を落ち着かせる。
ふと、気付いた事があった。
俺は次に戦闘に入った際、全員無事に帰投出来るかどうかで問いかけた。
榛名の回答は俺の期待する戦果が出せないかもしれないという代物だった。
「榛名、端的に回答して欲しい。進撃しても全員帰投出来そうなのか?」
「はい、それは問題ないです」
「よし、なら進撃だ。戦果は気にしなくていい。全員無事に帰投するのを第一とせよ」
「はい、ご命令承りました。では進撃します」
提督は優しいのですね、とこちらにだけ聞こえるように小声で言ってきたが心配するのは当たり前だ。
「進撃します。ですが全員無事帰投が第一だそうです、戦果は二の次で良いと言われました」
そう言いみなさんの顔を見ると、どうやら元から全員進撃するのが当たり前だと言う顔をしていました。
「HI!榛名、折角の活躍の場デース。ここで引き返す!?な訳無いデショ」
「ここまで来て引き返すなんて、戦況分析的にないです」
「私も第一次攻撃隊くらいは出せます。ここで引き返すなんてありません」
「砲撃戦の間は赤城さんの分も私が努力するわ」
「私も!気合!入れて!行きます!」
口ぐちに言われたが、みんな思うところは一つだった事に嬉しさを覚える。
「ええ、どうせなら戦果も挙げて提督を驚かせましょう!」
提督からの命令は全員無事帰投でしたけれど、ここまで意見が揃っているなら進撃して戦果を挙げて全員で帰投するのが至上でしょう。
全員どこか損傷しているけれど戦意は充分、後は最深部の敵中核艦隊を叩くだけです。
みんなと気持ちが一つになれた事に喜びを感じると共に士気高く海域最深部へ進んでいると敵影を発見したとの報告がきました。
気持ちを切り替え戦闘に集中しましょう、これが最後です。
戦闘の激化は予想してました、救いだったのは敵側に空母が無くしかも演習での仮想編成と違い戦艦三、雷巡一、駆逐二とこちらの先制攻撃が可能だった事です。
赤城さん、加賀さんの第一次攻撃隊の活躍により敵駆逐艦一体を撃沈、戦艦・駆逐艦の一体ずつに軽微とは言え損害を与えほぼ五分の戦力差に戻した所で砲撃戦に移行です。
「主砲!砲撃開始!!」
しかしながら敵もやるもので、こちらの弱い所を集中して攻撃してきます。
敵戦艦三体に集中砲火され比叡お姉さまが航行不能寸前に陥り赤城さん、加賀さんとの距離がかなり空いてしまいました。
その隙を逃さないとばかりに敵雷巡と駆逐艦が御二人に襲い掛かり
同航戦だった事もあり、こちらは敵戦艦を引きはがせないまま艦隊が分断されてしまいました。
後ろにばかり気を取られてはいられないので目の前の敵に集中しようと視線を外す直前に私の視界に映り込んだのは赤城さんが駆逐艦の体当たりを受け弾き飛ばされる瞬間でした。
不安に潰されそうになる心を信頼で上書きし目の前の敵を一秒でも早く撃沈させる事に専念します。
しばらく砲弾が飛び交い均衡状態が生まれましたが、些細な事で壊れてしまいました。
少し高い波に霧島が乗ってしまい姿勢を崩し、そこを狙われてしまいました。
「きゃあっ!」
足元と艤装に被弾し戦列から弾かれてしまいました。
敵が一点集中した隙を逃さず金剛お姉さまが損傷していた敵戦艦を打ち抜き撃沈させて下さいましたが未だに状況は変わってません。
むしろ波が来る瞬間を狙っていたような素早い行動に疑惑が頭をよぎりました。
(ここらの波を調べ尽くしているのでしょうか…)
いくら考えても答えの出る問題ではないので頭から追い出しましょう。
数はお互い同じですが、こちらは前後に離れたため金剛お姉さまが十字砲火を狙おうと動いたのを見て榛名は時間を稼ぎます。
敵も気づいているようですが榛名一人に的を絞ったようで狙いをこちらに向けてきました。
金剛お姉さまが敵の後ろに陣取り十字砲火が出来る状態になりました。
榛名も被弾覚悟で敵を狙い打ちます!
再び金剛お姉さまの手によって戦艦一体が撃沈されました。
残る戦艦は一体です。
このまま十字砲火を続ければ撃沈出来る!と思っていた矢先に榛名の身体を押し上げる何かが足元からきました。
かなりの高波です。
完全に波に乗ってしまい照準が外れてしまいました。
距離が縮んでいたせいか戦艦は狙っていましたとばかりの歪んだ笑顔を向けてきました。
榛名はここで終わってしまうのでしょうか…。
(「絶対、大丈夫!」)
どこからともなく声が聞こえ、榛名はおかしくなってしまったのでしょうか、これが死ぬ直前で希望に縋っているのでしょうかと諦めかけた瞬間
榛名の目には波飛沫が雪のようにゆっくり降り注いでいるように映りました。
そして風が榛名の背中を押し体勢が腰を落とすような形になり、おかげで波を切り裂くように加速するに至りました。
その結果、敵戦艦の砲弾は榛名の測距儀を砕くも他は頭上ギリギリを抜けて空を切りました。
加速を利用して一気に近づき、砲門を全て敵戦艦の中心に狙いを付けます。
砲弾が装填されると同時に主砲を一斉発射
敵戦艦を食い尽くすべく飛んでいった砲弾は照準違わず身体の中心にぶつかりその威力を解放しました。
一瞬で胴体が吹き飛び、体を守ろうとした両腕は一瞬遅かったせいで艤装と共に飛沫を上げ海に沈んでいった。
「榛名ー!大丈夫デース?」
金剛お姉さまが心配して声を掛けて下さいました。
「はい、榛名は大丈夫です!」
「波で持ち上げられた瞬間は心臓が止まるかと思ったデース!でも、反撃に出た瞬間はワルキューレに見えましたデース!」
感情が昂りすぎたのか戦闘が終了したかわからないのに金剛お姉さまが抱き付いてきました。
「お姉さま、く、苦しいです。それにまだ戦闘は終了してないです」
「大丈夫ネー!戦闘は終了してマース!」
そう言われて辺りを見渡すと遠くから霧島の声が聞こえました。
「榛名ー、金剛お姉さまー、ご無事ですかー」
袖が無くなり両腕丸出し、服の至る所に焼け焦げた跡があるがしっかりした足取りでこちらに近づいてくる霧島
そしてさらにその後ろからは、加賀さんに抱えられてやってくる比叡お姉さまと赤城さんが見えました。
(戦いは終わったのですね)
思った瞬間全身から力が抜け落ち、金剛お姉さまに抱きしめてくれて居なかったらへたり込んでしまうところでした。
どうやら分断された後、加賀さんが獅子奮迅の活躍で敵雷巡と駆逐艦を相手取っていたようで、その間に赤城さんは比叡お姉さまと安全な距離を取ったそうです。そして最後は霧島の一撃で敵を倒したと赤城さんが教えてくれました。
沖ノ島海域攻略です。
「あー!やっときたー!おっそーいー!」
そう言って島側から何か黒い兎の耳みたいなのを付けた娘がやってきました。
話を聞いてみると敵に囲まれ動くに動けなかったようです。
海域で発見される他の艦娘と同じで何故ここに居たのかはわからないとの事でした。
慣例に従い鎮守府に迎え入れるために連れて帰る事を伝え、お名前をお聞きした所
「駆逐艦島風です。スピードなら誰にも負けません。速きこと、島風の如し、です!」
どうやら元気いっぱいのようです。
自己紹介も済み、帰投している最中もこの娘は常に駆け回り加賀さんの機嫌を損ね続けました…。
余りに落ち着きなく駆け回るため、加賀さんが珍しく声を荒げ怒鳴りつけ、罰として比叡お姉さまと赤城さんを曳航する事になり、やっと静かになりました。
…忘れてました、提督へのご報告がまだです。
「提督、戦闘終了しました」
通常の戦闘では有り得ないくらい長い間、通信が来なかった。
まさか、大丈夫だ、と頭の中がこんがらがりそうになる。
時計を見ても平均的な戦闘の時間よりかかっているがそこまで時間が経過してるわけではない事実に気付く。
どうしようもなく作戦司令室を歩き回り電から「少しは落ち着くのです」と窘められてしまった。
歩き回るのは止めたが、座っていても落ち着かない。
また立ち上がろうとした時に通信が入った。
「提督、戦闘終了しました。沖ノ島海域攻略です!」
言葉に詰まった…。
“良くやった”とか”心配させ過ぎだ”とか色々頭に言葉が湧くもののどれも声にならない。
通じてないと思われたのか再度声が掛けられた所で何とか応答する。
「提督だ、聞こえている。返事が遅れてすまない、何と言うか…言葉に詰まってな」
「榛名達は大丈夫です」
明るい声で言われ、こちらも落ち着かなかったモノが急速に纏まっていった。
「みんなよくやってくれた、最高だ」
「当然のことをしたまでです」
澄ました声で言ってくるが、本心は隠しきれないようだ。
いつもならその後に「特別な評価なんて…」と続くからな。
「すまないが俺の心の平穏のためにも全員の状態を報告してくれるかな」
「はい、ご報告します。比叡お姉さまと赤城さんが艤装大破、動くのがやっとの状態です。霧島は艤装中破、加賀さんは飛行甲板小破、金剛お姉さまと榛名は損傷軽微です」
「そうか、わかった。無事帰投は厳命だからな、特に比叡と赤城には釘を刺しておいてくれ」
苦笑いされた。
「提督、もう一つ報告があります。海域付近で駆逐艦を保護致しました。名前は」
「駆逐艦島風です。スピードなら誰にも負けません。速きこと、島風の如し、です!」
通信に割り込んでの自己紹介がきた。
どうやら聞き耳を立てていたようだ、そして通信先ではひと悶着あるようで急に騒がしくなっていた。
「島風と言ったな。正式な着任式は後でしてもらうが、ようこそ我が鎮守府へ、歓迎しよう盛大にな」
「ひゃいっ!?」
「所で脚に自信があるようだな、私も少々足には自信があってね」
「駆けっこしたいんですか?負けませんよ?」
「なら鎮守府で競争だな」
「にひひっ」
「HEY!提督ぅー。私の活躍聞いてくだサーイ!」
こちらの返事も待たず金剛が話しかけてくるがヘッドセットを外し、放置する。
それでも声は聞こえてくるのだが。
さすがにずっと流していると後でむくれるのでそろそろ返事をするか。
「そうか、今回のMVPは金剛だな」
「うー…私の話を聞いてないデース。今回のMVPは榛名ネー!ワルキューレみたいに恰好良かったんですヨー」
「そ、そうか。聞いてはいたが「私の活躍」と言うから聞き間違えたよ」
笑って誤魔化す。
「榛名、よくやってくれた。ありがとう」
「勿体ないお言葉です」
「そんなことは無い。榛名は艦隊を率いてさらに全員無事で海域攻略まで成功させたんだ。素晴らしい戦功だ。誇らしく思うよ。」
「本当にありがとうございます。榛名、感激です!」
そういえば不思議な事が起こったんです、と榛名が言ってきた。
波に乗り上げて照準が外れ、敵の攻撃を回避出来そうになかった瞬間どこからともなく励ましてくれる声が聞こえ、そして背中を押してくれる風で助かったそうだ。
それを聞いた瞬間、ポケットに入れていた二つのどんぐりを取り出し確認してしまった。
増えたりしていない事に安心したが見てみると片方が割れている。
色々込み上げてくるものがあったが何とか堪え、再度無事に帰投せよと命令する。
「早く戻ってこい、大規模作戦は残念会だったんだ。今度は海域攻略したのだから祝勝会と派手な打ち上げにしようじゃないか。それには主役が居ないと始まらないぞ?」
榛名に対して伝えたつもりが回りにも聞こえていたようで「Wow!提督からのPresentsネー!」「御飯!」等と言う声が聞こえた。
準備に忙しくなりそうだ、と顔がにやけてしまう。
じゃあ切るぞと声を掛け電と二人作戦司令室から出て隣の提督室に戻る。
取り敢えず手すきで調理出来るのを選定しなきゃな。
妻と鳳翔さんは確定として、足柄も必要だな。調理班の手伝いは第六駆逐隊に頼むか。
次は…酒だな。まぁこいつは隼鷹に言えば勝手に揃えるだろ。
後は、折角の記念だ。青葉には少々真面目なカメラマンとして働いてもらうとするか。
色々思考をまとめながら館内放送で該当艦娘の呼び出しをかけた。
「提督です。鳳翔さん、足柄、第六駆逐隊、隼鷹、青葉。以上の名前を呼ばれた艦娘は提督室まで集合して下さい。繰り返します、鳳翔さん、足柄、第六駆逐隊、隼鷹、青葉…」
館内放送を終え、妻にも手伝ってもらうために一旦自室に向かう。
「電、すまないが人を呼んでくる。先にみんなが揃ったら悪いが待たせてくれ」
「はいなのです」
…さすがに館内放送で妻の名前を呼ぶのは恥ずかしい、追求等も怖いし。
「ただいまー。おーい、いるー?」
「はいはいはい。居ますよ」
わざわざ玄関まで出向いて来てくれる妻。
「ちょっと提督室まで一緒に来て欲しいんだ。すぐ出れる?」
「何をする気です?」
嬉しさが表情に出ているのか、妻も悪戯顔で乗ってくる。
「第一艦隊のみんなが頑張ってくれてな、沖ノ島海域を攻略してくれた。まだ先が長いのはわかっちゃいるが折角の朗報だ、祝勝会を開くことにしたんだ。大規模作戦は残念会だったし、新しく増える艦娘の自己紹介等もまとめてやろうとしてるから、かなり大掛かりにしたいんで手伝ってくれないか?」
「えぇ、そういう事でしたら喜んで。ですが、何故館内放送で呼び出さなかったのです?」
「あー、うん、ちょっとな…」
「?? まぁ、向かいませんか、大掛かりと言うからには私一人ではないのでしょう?」
「ああ、鳳翔さんと足柄も調理班として呼び出してる。それぞれ分担して調理して欲しい。手伝いには第六駆逐隊に頼む予定。後、酒は隼鷹、カメラマンは青葉」
提督室に着くまでに粗方話し合い、もう少し人手を増やす事にした。
提督室には先程呼び出した艦娘は全員揃っていた。
「全員もう揃っていたか。待たせてすまない…」
状況を説明し、祝勝会を開くための手伝いを頼むと皆二つ返事で引き受けてくれた。
最終的に調理班に川内と黒潮に間宮さん、酒とつまみの用意に飛鷹、ジュースやお菓子の用意に天龍と龍田を追加し、会場の設営は鎮守府内の残り全員が担当という事になった。
それぞれの担当に分かれて作業開始になり突然暇ができ、まだ第一艦隊のみんなが帰投するには時間が掛かるので久しぶりに散歩でもしようとふらりと歩き始めた。
足の向くまま歩いていくと工廠が見えた。
工廠では、工場長が休憩中のようで壁に背を預け地面に座り込んでいた。
「調子はどうですか?」
「いつもと変わりねーよ、そっちは?」
「ちょっと時間が空いて暇だったので散歩です。それと、後で分かりますが先に伝えときます、打ち上げがあるので都合を付けて下さい」
「酒は?」
「隼鷹と飛鷹が用意しますよ」
「なら行く。所でどうする?来たついでだ、何かしてったらどうだ?」
言われてふと考える。
資材も充分戻ってきた、予想より早く海域攻略出来た、だったら、ちょっとくらいいいかな。
「そうですね、ちょいとやってみますか」
「おう、じゃあ好きに使え」
開発を行いたい所だが折角貯まった資材を使い込んで叱られるのも避けたいし、ここは一回だけ建造してみるか。
操作盤の前に立ち投入する資材の数値を弄っていく。
海域攻略で余った資材も追加して…
浮かれていたが、建造開始する前にいつもの戒めを思い出す。
・素体となる娘が艤装を装備する事によって艦娘となる事。
(艦娘は兵器である)
・艦娘の素体はあくまで人である、道具のように扱わない事
(道具は使うためにある。使われない道具に価値は無い)
・提督として命令はするが、それは決して死地へ送り込むためではない事
(戦争とは兵を死地へ送り出すものだ、送った時点で死ねと命令したも同然だ)
忘れてはならないと改めて心に刻みこむ。
悪魔の囁きに耳を貸して外道に落ちるつもりはない。
戦争をしている、終着点が見えない状態で戦い続けている、それでも人でありたいのだ。
じっとりと汗をかいていたので拭おうとポケットからハンカチを取り出そうとして引っかかっていたどんぐりが飛び出た。
つい空中で拾おうとしてお手玉をして何度か撥ねた後、扉の向こうに弾き飛ばしてしまった挙句見失う。
「げ、扉の内側に入った…」
素体でも無い人間が内部に入った場合どうなるか聞かされていないが碌な事にはならないだろう。
それに内部には設定した資材と素体が投入寸前で止まっている。
何かしらの不具合で内部に取り残された場合の事を考えると黙って内部に入るのは躊躇われた。
「工場長に怒られるかぁ…殴られなきゃいいなー」
先程までは打ち上げの楽しみでスキップしそうな気分だったのが
今は非常に苦く重たい足取りで工場長を呼びに行った。
「それくらいなら大丈夫、問題ない」
非常にあっけらかんと回答してくれた。
工場長からの太鼓判をもらったので安心して建造を実行したが、同時に無くしたものを惜しむ気持ちが湧いてきた。
工場長に手伝ってもらい見つけ出してから建造すべきじゃなかったのかと。
色々不安な気持ちにもさせられたが、結果だけ見ると自分にとって悪い結果になった事はなかった。
早まったな、勿体なかったなと後悔しながら建造終了を待つ。
……
…
そして建造が終了した。
気持ちを切り替えるために大きく息を吸ってから扉を開く。
「陽炎型駆逐艦8番艦、雪風です!どうぞ、宜しくお願い致しますっ!」
「私が提督だ、雪風よろしく頼む。所で雪風、扉の内部にどんぐりがあったりしなかったか?」
「?」
小首を傾げてこちらを見てきた。
「そうか…ならいいんだ。所で雪風、突然だがみんなの前でもう一度自己紹介をしてもらう事になる。大丈夫か?」
「はいっ!頑張ります!」
「本当に大丈夫かぁ?」
気持ちを切り替えようとちょっと意地悪気味に言う。
「絶対、大丈夫!」
全身を電流が駆け巡る
(お前だった、のか…?)
顔を見つめるが雪風はわからないとでも言いたげに小首を傾げてこちらを見返してくる。
詮無きことか…。
「じゃあ皆が準備している間に鎮守府内の案内をするよ」
着任したての頃とは違い広くなった鎮守府を手慣れた様子で案内していく。
その途中、昔の自分が親指を上げ笑顔で何か言ってきたような気がした。
見る事も聞き取る事も出来なかったが、何となく自分は上手くやれているようだと感じた。
階級:大佐
まず謝罪です。
1.やってみたかった、タイトル詐欺。
2.推測で書いてる部分がありまして、状況を検証とかすると間違ってる所があると思います。
3.短めの文(自分で読んで5分くらい)で読み切れるものとマイルールでいたのに盛り上がりに欠けると思い増やしたらこうなった。
4.前回から期間経ちすぎ
以上四点は特に申し訳なく思っております。
それと内部で造語を使用させて頂きました。
『比素』と記載してますが、原子番号33のAsと言われるヒ素は漢字だと『砒素』となりますのでお間違えの無いようお願いします。
"比"叡が用意していた謎"素"材を省略して『比素』という造語にしました。
表現力と文章力のために始めてみた投稿、難しさと恥ずかしさと不安でいっぱいです。
暇つぶしでも何でも読んでくれる方に感謝です。
そして楽しかったと思ってくれれば幸いです、ありがとうございます。
でわ。
このSSへのコメント