2019-09-16 19:45:11 更新

概要




海軍と艦娘に全てを奪われた提督のお話、
その②です。

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前書き

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【演習場海岸】




雲龍「ふぅ…」



演習場から引き揚げてもまだ勝利の余韻、先程までの高揚感を拭い去ることができない。

全身が火照り今すぐにでももう一戦したところなのだけれど…



雲龍「あ…」



向こうから天城と葛城がやって来て私の胸の奥が鈍い疼きを感じる。




もう…これまで通りじゃいられないわよね…



あんな狂気じみた戦い方をしては妹達から距離を取られても仕方ない。



それは…覚悟していたはずなのに…





天城「お疲れ様でした雲龍姉様。はい、タオルです」


雲龍「天城…」



予想に反して天城は明るい笑顔のまま私を労いに来た。

その笑顔に取り繕っている様子は無い。



天城「見事な戦いっぷりでした!」


雲龍「ありがとう…」



天城は私のことを理解し認めてくれたみたい。



でも…




葛城「…」




葛城の顔は暗いままで…



雲龍「あの…ね…」






私は…













『卑怯者っ!!』








雲龍「え…?」



_____________________







提督「いやー、良い演習でしたね。本日はありがとうございました」


舞鶴「ぐっ…」



司令部施設から舞鶴鎮守府の提督と一緒に艦娘の所へ向かう。


雲龍が見事相手二航戦の二人を討ち取り勝利を得てくれたので大変気分が良い。

かなり不利な相手に勝ったことでこの鎮守府の評価も上がったことだろう。




舞鶴「あんな無茶苦茶な戦い方をしおって!どういうつもりだ!?」


提督「はっはっは」


舞鶴「笑ってないで…」











『卑怯者っ!!』






提督「ん?」


舞鶴「なんだ?」



向こうの方から大きな声が聞こえる。


見ると加賀に肩を借りた飛龍が雲龍に向かって吠えていた。




飛龍「あんな戦い方をして…!どういうつもりよ!!」



先程舞鶴鎮守府の提督と同じようなことを飛龍が雲龍に言っている。

思わず笑いたくなったが何とか堪えた。



雲龍「…」


飛龍「黙っていないで何とか言いなさいよ!!」




飛龍に対し雲龍は何も答えない、いや答えられないのか。


隣に天城や葛城が居ては本音を言いにくいだろう。



加賀「飛龍、よしなさい」


飛龍「でも加賀さん!あんなのは…!」


天城「あ、あの…」


雲龍「…」



天城はしどろもどろになっていて雲龍は何も言い返せず黙っている。

仕方ない、ここは助け船を出してやるか。





提督「卑怯…か。こいつはおかしなことを言うな」


飛龍「え…」


雲龍「提督…」



俺の嘲笑うような声に全員の視線が集まる。



飛龍「何よ…!本当に卑怯な戦いを…」


提督「お前、それを深海棲艦相手にも言うつもりか?」


飛龍「え…」


提督「深海棲艦が突如予想を超える攻撃をしてきても『卑怯者』と言って負けるつもりかと聞いているんだ」


飛龍「そ…それは…」



俺の言葉に飛龍の言葉尻が重くなる。



提督「演習のための演習とうちの空母をなめてかかるからこうなるんだ」


飛龍「っぐ…!そんなつもり…」


提督「無かったと言えるか?改二艦2隻でうちの雲龍に負けてしまった二航戦さん」


飛龍「う…っ!っ…」




飛龍が悔しそうに顔を歪め顔を俯かせる。



加賀「今日は完敗よ飛龍」


飛龍「加賀さん…」


加賀「次は容赦しないわ。覚悟してなさい」


雲龍「…」



そんな飛龍を慰めつつ加賀が雲龍に再選の挑戦状を叩きつけた。




雲龍「いいわ…」




そんな加賀に対し雲龍が嬉しそうに微笑む。




雲龍「二度と私と戦いたくないと思えるよう全力で叩き潰してあげるわ」



しかしその笑みは演習場で見せた顔と同じで欲望に歪んでいた。
























提督(さて…)



艦娘達を引き上げさせてとっとと解散しようかと思ったがもう一仕事ありそうだ。



葛城「…」


雲龍「…」



先程の雲龍の戦いっぷりを見てショックを受けたのか葛城が暗い顔で俯いている。

俺に反抗的な態度を取る直情的なタイプなのだがこの手のタイプは予想外のことに弱いことがある。



提督「葛城」


葛城「な、なに…?」


提督「お前、あっちの鎮守府に異動するか?」


葛城「え…!?」


天城「て、提督…!何を…」



こういう奴は怒らせて反骨心を揺さぶるのが一番良い。



提督「こんな危ない姉の傍にはもう居たくないだろう?」


雲龍「…」



俺の言葉に雲龍が顔を暗くする。

『それも仕方ない』と何か諦めたような表情をしている。



葛城「バカに…バカにしないでよ!!そんなことくらいで私が雲龍姉を見限るわけないでしょう!!」


提督「無理するな」


葛城「無理なんかしてない!あなたなんかに…艦娘の、私達の絆の強さはわからないでしょう!!」



わかってるよ。

だからこうやって煽ってるんだろうが。



葛城「雲龍姉!!」


雲龍「な、なに…?」


葛城「私…正直びっくりしたけど…あれくらいで雲龍姉のこと嫌いになったりしないから!」


雲龍「葛城…」


葛城「だから…その…これからも、が、がんばって!!」


天城「頑張って?」


葛城「それじゃ!」



頭の中で言葉が上手くまとまらなかったのだろう、葛城は無理矢理言葉を絞り出した後恥ずかしそうにその場を走って逃げて行った。




提督「それじゃあこれからもよろしくな」


雲龍「ええ」


天城「提督、ありがとうございました」



雲龍の心配事もこれで無くなり思う存分に力を発揮してくれるだろう。



これからの艦隊運営に大きな力になるであろう3人に期待しつつ俺は執務室へと向かった。





_____________________




【鎮守府内 執務室】



提督「これからまた忙しくなりそうだな」



そう言いつつも提督は楽しそうな顔をしています。

余程今日の雲龍さんの戦いっぷりがお気に召したのでしょうか。



祥鳳「…」


提督「どうした?」




この調子で強い艦娘達を迎え、力を発揮させることで艦隊は増々強くなっていくことでしょう。


しかしそうなると私は…



後ろ向きな思考を振り払うように私は首を横に振る。



祥鳳「次は私にも雲龍さんのような機会を下さい」


提督「ん?」


祥鳳「いきなり途中で撤退させられてフラストレーションが溜まっていますから」


提督「そうか…くくっ、わかったよ」




私がどう思っているかなんてこの人には筒抜けだろう。


しかし艦娘として、この鎮守府の秘書艦として


ちっぽけかもしれないプライドを守るため


私はもっと自分を追い詰めて強くなりたいと心に誓う。



いつか訪れるかもしれない改二改装もある…


その時のために…!


















提督「さて…」



提督が書類仕事を終えて私を見る。


今日も提督の思惑通り事が運び高揚していることだろう。


この後はいつも通り…




提督「…」


祥鳳「どうしました?」




提督の視線が私の胸元に行っているような…




提督「やっぱりやめておこう、無理だろうし」


祥鳳「な…!」




きっと私の胸を雲龍さんや天城さんと比べているに違いない…!



祥鳳「なんですか!?私だってそれなりに自信は…!」


提督「ほほう、自信がなんだって?」


祥鳳「あ…!?」



しまったと思った時はもう遅かった。

私は今この時もこの人の掌の上で踊らされていたのだと…






























今日は胸を使って色々とさせられてしまった。























【鎮守府内 執務室】






祥鳳「んぅ…」




目が覚めるとそこは自室ではなく執務室の仮眠用のベッドだった。

昨日提督と一夜を共にしてそのままベッドで眠ってしまったらしい。


部屋にある時計を見ると時間はまだ朝の4時、起きて準備するにはまだ早い時間だ。

隣では上半身裸の提督が静かな寝息を立てている。どうやらまだ深い眠りにあるみたい。



祥鳳「…」



上半身裸の提督を見ていると私はいつもある場所へと目が行ってしまう。





提督のお腹の右側にある生々しい大き目の銃痕。

かつて提督が艦娘に撃たれたという傷痕だ。


銃痕だけではない、その周りにはまるでかきむしったような爪痕が残っている。

提督が言っていた。『まるで弾丸が残っているかのようでそれを掻き出そうとしてこうなった』と。




その傷を見るととても悲しい気持ちが湧いてくる。



もしも彼が家族を殺されるという悲劇が無かったら



もっと真面目で優しい提督になることができたのだろうか…


そんなありもしない理想にいつも思考が持って行かれる。



なんだかんだで提督は駆逐艦達と仲が良く気楽な付き合いをしていて

沖波さんを、間宮さんを大事にしてくれて

雲龍さん達の力を認めるだけでなくその本心・本領を発揮させて…



祥鳳「提督…」



眠っている彼の髪を優しく撫でる。







あなたは私の理想に最も近いというのに…



それなのに…それが全て復讐のためだなんて…







祥鳳(でも…)





このまま提督がどこかで心変わりをして


復讐を忘れ、理想の提督として艦隊運営を続けてくれるのではと少しの期待を持ち


今日も彼の力になれるよう艦隊運営を手伝おうと心に誓った





























そんな期待は



すぐに夢物語であったと思い知ることになってしまうのだけれど…












避けられない運命










【鎮守府 港】




雲龍達を中心に北方海域の攻略に乗り出した。


モーレイ海は正規空母達の活躍もあって何の問題も無く攻略出来たのだが…



提督「また海流か…」


雲龍「ええ」



キス島の攻略が一向に進まない。

何度出撃してもあの海域の主力艦隊の潜む地点まで進むことができないのだ。



天津風「あの…ちょっといいかしら?」


提督「なんだ?」



天津風が少し手を上げて意見を述べる。



天津風「あの海域は私達の様な小型の艦娘でないと突破できない気がするのよ。大型艦を中心にするとどうしても海流を避けることができなくて…」


提督「ふむ…」


祥鳳「私も同じ意見です、ここは小型艦中心で行ってみるのも手かと思いますが…」



思ってはいるが『実際に出撃となると難しい』と言っているのがわかる。

現在この鎮守府の小型艦は天津風達駆逐艦の4人、これだけで攻略するというのはさすがに無理がある。



天津風「誰か…私達を引っ張って指揮してくれる人がいれば…」


提督「そうだな…」



天津風の意見を耳に入れつつその場を解散させ執務室へと向かった。




【鎮守府内 執務室】




沖波「あの…司令官…」



執務室へ行き、これから新しい艦娘を迎えようかと思っていると沖波から声が掛かる。

今の彼女の肩書は『第二秘書艦』。

正式に役割を与えてやると今まで以上に働いてくれて今では艦隊運営に必要不可欠であると言っても過言ではない程に頼りになっている。


本当…こういう真面目なタイプは扱い易くて助かるのだが…。



提督「どうした?」


沖波「この鎮守府の資源のことですが…」



沖波が自分で作ったプリントをこちらに見せる。



提督「やはり赤字か」


沖波「はい…特にボーキサイトは大幅な赤字です…」



沖波には資源管理も任せていて彼女の作ってくれている資料はとてもわかりやすくこの鎮守府の状況が手に取るように分かった。


雲龍達正規空母3人をフル活用して南西諸島からずっと攻略を続けていたためこの赤字は仕方なかった。

しかしこのままだと鎮守府の資源は減り続けいずれ枯渇してしまうかもしれない。

遠征をメインにすること無く大本営から送られてくる資源を中心に回していた限界がきたようだ。



沖波「しばらく演習と出撃を控えめにして…後は…」


提督「遠征を回すためにも軽巡が必要だな」


沖波「え?そ、そうです!すごいです司令官!」


提督「…」



それくらい考えなくてもわかるっての…。



祥鳳「大丈夫でしょうか…最近の雲龍さんの演習の張り切りようを考えると…」


提督「仕方ないだろう、資源が無いんだから」


祥鳳「それは…そうですが…」



確かに祥鳳の心配もわかる。

最近の雲龍は生きる目的を見つけたかのように尋常ではないくらい演習に打ち込んでいる。


その演習での張り切りようが今回の資源消費に繋がっているわけだが…。



提督「その雲龍を不機嫌にさせないためにも早速行動だな」



俺は執務室にある電話の受話器を取って大本営に掛ける。

相手は艦娘の配属を取り仕切る人事担当者だ。



提督「俺だ、軽巡を2隻寄越せ」



無遠慮な物言いに祥鳳と沖波がギョッとしている。
























提督「ったく…」


祥鳳「どうでした?」



出し渋った人事担当を何とか脅しつつ説得してようやく着任が決まった。


だが…



提督「軽巡2人の着任は決まったが…どうやら問題児らしい」


沖波「だ、大丈夫でしょうか…?」


提督「今更問題児が一人二人増えたところで変わらんだろ」


祥鳳「そうですね。提督が一番の問題児ですし」


提督「なんだとこら」



呆れた顔で祥鳳が軽口を叩く。



沖波「あ、あはは…」


提督「何笑ってんだ沖波、眼鏡に指紋付けるぞ」


沖波「や、やめて下さいー!」


祥鳳「やっぱり子供じゃないですか…」







それにしても問題ありか…




『まあ何とかなるだろ』とこの時は油断していた。



















それから3日後。



新しい艦娘が鎮守府へとやって来た。











【鎮守府内 執務室】








天龍「俺の名は天龍…ふふ、怖いか?」


提督「…」



着任の挨拶に来た二人の内の一人、軽巡洋艦天龍が俺に近づき不敵な笑みを浮かべている。


いきなり『怖いか?』なんて聞かれ反応に困る。

問題児だと聞いていたがもしかしたら頭のネジが外れている奴なのかもしれない。



提督「怖いかどうかは知らんがお前には期待してるぞ」


天龍「お、おうっ」


提督「…?」




なんだ今の反応は…。


反応に困って適当に返事をしただけなのだが天龍は嬉しそうな顔をして引き下がった。



祥鳳「秘書艦の祥鳳です、よろしくお願いしますね」


天龍「おう!よろしくな!」



祥鳳の挨拶にも気持ちよく返していた。

扱い易いのかそうでないのかさっぱりわからん。




そしてもう一人、こいつには見覚えがある。




大井「…」




重雷装巡洋艦大井


確か以前は呉鎮守府で同型艦の北上とともに主力艦隊で大暴れしていたはず…


そんな彼女がどうして…



それに俺は軽巡洋艦の着任を申請したはずなのだが。



祥鳳「あ、あの…大井さん…?」


大井「はい…」



祥鳳に促され面倒くさそうに大井が一歩前に出て敬礼をする。



大井「軽巡、大井です」


提督「なに?」



大井はそれだけ言って敬礼を解いて一歩下がった。



提督「お前は重雷装巡洋艦じゃないのか?」


大井「軽巡ですよ?」


提督「だが呉鎮守府で見た時は…」


大井「…」



『呉鎮守府』という単語に大井が眉をひそめ不機嫌そうな顔をする。






大井「ちっ…うっせーな…軽巡だって言ってんだろ…」


天龍「い!?」


提督「は…?」


祥鳳「え…?」


大井「あ、いえ…つい本音が出てしまいました。ごめんなさい」


提督「…」


祥鳳「…」



大井の態度に俺も祥鳳も言葉を失う。

こいつ本音…隠すつもりなかっただろ。



提督「…2時間後に演習場へ来てくれ。今日は見学と説明だけだから艤装はつけなくてもいいぞ」


天龍「そうなのか?なんか物足りねえなぁ」


大井「わかりました、それでは失礼します」


天龍「お、おい待ってくれよ!」



さっさと部屋を出ようとする大井を天龍が慌てて追いかけて二人とも退室した。











提督「おい…」


祥鳳「はい?」


提督「なんだあいつらは…あんなおかしな奴を寄越しやがって、もっとまともな奴は来ないのか」


祥鳳(あなたが『問題があっても良いからさっさと寄越せ』って言ったんじゃないですか…)





俺は執務室にある電話機を取って大本営に電話をして早速天龍と大井の過去の戦績などの資料を送るよう依頼した。







送られてきた資料をメールにて受け取り俺は天龍を、祥鳳は大井の資料を確認する。


そこには…





提督(なるほどな)



天龍のことはとても詳しく書かれており彼女がどうして問題児と言われたのかが把握できた。


どうやら天龍は念願の改二改装を迎えることができたというのだが、その後も遠征部隊の旗艦を務めるよう言われ不満に感じていた。

『いつかは自分も主力艦隊として』という彼女の希望が叶えられることは無く不満が爆発。

前の鎮守府の提督や艦娘達と喧嘩をしてしまい艦隊から異動させられたらしい。



提督(期待しているという言葉に反応したわけだな)



あの手のタイプは煽ててその気にさせてやればしばらくは俺の言う通りに動いてくれそうだ。

しかし煽てに乗りやすい者は調子にも乗りやすくこちらの予想外の行動に出ることが多い。





その辺のさじ加減を間違えないよう気を付けることにしよう。




祥鳳「提督」


提督「何かわかったのか?」


祥鳳「それが…」



大井のことを調べていた祥鳳が自分のノートパソコンの画面を指差す。



提督「ん…?」



祥鳳が見ていたのは大井の戦績の資料だったのだが…



提督「どういうことだ…?」



祥鳳が指を差したある一定時期以降、大井の出撃がされていない。

それ以前は呉鎮守府の主力艦隊として華々しい戦績の数々が残されているというのに…。



提督「記録が無い、というのではなくて」


祥鳳「はい…『出撃していない』ということですね…」




残念ながら送られてきた資料にそれ以上の情報は載っておらずこの戦績表から何か掴もうとしたのだが…





あの何もかもどうでも良さそうな態度


そして一定時期以降出撃していないこと




これだけでは彼女がなぜ軽巡洋艦を名乗っているのかという謎に結びつくものを見つけられることは無かった。









_____________________










【鎮守府 演習場】




予定通りの時間に天龍と大井は現れた。


やる気の無さそうな顔で来ている大井も時間通り来るあたり根は真面目なのだろうと思わされる。



天龍「なあ、本当に良いのか?この天龍様はいきなり演習に出ても問題無いぞ」


提督「今日は普段の訓練風景を見てもらうだけだ」


天龍「ちぇー」


大井「…」



残念そうな顔をしている天龍と大井を連れて既に訓練を始めているであろう場所へと向かう。














雲龍「ほらほら、逃げないと捕まるわよ」


天津風「全艦!全力疾走で撤退!!」








天津風を中心にした駆逐艦4人が雲龍の艦載機から逃げる訓練をしている。

雲龍は全く手加減せず駆逐艦達を追い詰めようとする。

その雲龍の艦載機から駆逐艦達は必死の形相で逃げ回っていた。





天龍「な、何やってんだ…あれ…」


提督「見ての通りだ」


大井「…」




しばらく離れた位置から演習風景を眺めていた。


やがて疲れてきた者が追い付かれ雲龍の艦載機からの攻撃を受ける…



沖波「うぁぁっ!?」


時津風「ひぎゃっ!?」



雲龍の艦載機から機銃の攻撃がされる。

当然演習用の弾薬だがダメージは受けているだろう。



天龍「お、おい捕まったぞ!?やめさせろよ!」


提督「…」


天龍「おいってば!!」




天龍が本気で心配そうな顔を見せて俺に掴みかかる。


内心少し残念な気持ちが湧いてくる。

この程度の訓練で動揺するようでは彼女の底が知れてしまったからだ。






天津風「雪風!反転して!!機銃掃射準備!」


雪風「わかりました!」




天津風と雪風が反転し雲龍の艦載機を撃ち落としに掛かる。


何機か撃ち落としに成功するが如何せん数が多すぎる。



天津風「きゃああああああ!!」


雪風「うああああああっ!!」



撃ち落としに失敗し二人も攻撃を受けてしまい戦闘不能になる。









大井「ちっ…なんて指揮…」



提督「…?」




慌てて心配そうに見ている天龍とは対照的に大井は落ち着き払った顔で毒づいている。

華々しい戦績と経験を持つ彼女にとってこの駆逐艦達の様子は呆れるレベルということだろうか。



提督「雲龍、タイムは?」


雲龍「15分。まだまだね」


提督「そうか…天津風」



離れた位置にいる天津風に通信気を使って話しかける。



天津風『な、なに…?』


提督「全力疾走開始、15分」


天津風『うぐ…わかったわ…!みんな、いくわよ!!』




天津風の号令とともに駆逐艦達はよろよろと立ち上がり全力疾走を開始した。



天龍「お、おい…少しくらい休ませたって…」


提督「なんだお前。敵艦載機に追われている時も同じことを言うつもりか?」


天龍「う…でも俺だったらあのくらい撃ち落とせるし…」


提督「そうだな」


天龍「え?」



意見しようとする天龍に同意する。



提督「だからこそ対空面に秀でたお前が旗艦を務めてくれたらあいつらも助かるんだがな」


天龍「お、おう!もちろん力になるぜ!」




天龍が嬉しそうに胸を叩く。


やはり以前は不遇の日々を過ごしていたということもあって煽てに弱いらしい。



わざわざ今日の演習に対空訓練をねじ込んだ甲斐があるというものだ。




提督「ちなみに旗艦を任せるわけだからあの程度の訓練どうってことないよな?」


天龍「え…」



俺達が話している間も天津風達は全力疾走を続けている。

そろそろ限界なのか全員が死にそうな顔で走っていた。



天龍「も…もちろんだぜ…」




天龍の声が震えていた。



ビビッてはいるもののやる気のある顔を見せている天龍のこれからを期待することにするが…




もう一押ししておくか。




大井「…」




訓練の様子を黙って見ている大井にも刺激を与えたいからな。







俺がそう思っていたところに…




雲龍「ねえ」


大井「…?」



雲龍がいつの間にか大井に近づき声を掛けている。



雲龍「私と一対一で勝負してくれない?」


提督「…」



さすが雲龍…もう獣の匂いを嗅ぎつけたか。

勝利に、戦いにどん欲な雲龍に対し大井は冷めた目で見返す。



大井「嫌よ」


雲龍「…」



大井はあっさりと断る。

この手の挑戦はこれまでも多かったのだろうか手慣れた対応だ。


しかし雲龍は引き下がらない。



天龍「おい、何なら俺が相手をしてやろうか?この天龍様は改二改装を終えてから対空面が秀でて…」


雲龍「逃げる気?」


大井「挑発しても無駄よ。私の負けで良いから」


雲龍「…」




これ以上何を言っても無駄だと諦めたのか雲龍が不満そうにその場を離れて行った。




天龍「おいコラ無視すんなよぉ!!」




天龍の大きな声が虚しく響き渡っていた。




【鎮守府内 工廠】




提督「お疲れ」


沖波「あ、司令官」



工廠で演習の後片付けをしている沖波に天龍と大井を連れたまま声を掛ける。

沖波は義足の整備もあって他の者より片付けに時間が掛かる。


少し前までは他の者も気を遣って一緒に残っていたが、沖波が一人で行いたいということを言い続けようやく他の者達は先に上がるようになった。



提督「第二秘書艦もさせている沖波だ」


沖波「あ、新しく着任された軽巡洋艦の方ですね?夕雲型駆逐艦の沖波です!よろしくお願いします!」


天龍「お、おう…!」


大井「よろしく…」



立ち上がり深々と挨拶をする沖波に対し天龍は若干どもりながら、大井はだるそうに挨拶を返す。





大井「え…」




視線を下げた時に大井は何かに気づく。

視野が広いのかもう察したらしい。



天龍「ん?あ…」



その視線を追って天龍も気づいたようだ。



天龍「その足は…?」


沖波「あ、これ…ですか?以前の鎮守府で…その…」


大井「ごめんなさい…」


沖波「あ、そ、そんな顔しないで下さい。もう気にしていませんし、この義足があれば私も働けますから」



心配そうに、申し訳なさそうな顔をする二人に対し沖波は慌てながらも笑顔を見せる。



天龍「沖波ぃっ!!」


沖波「うわぁ!?」



感極まった天龍が目に涙を溜めながら沖波に抱き着く。



天龍「俺が絶対に守ってやるからな!!」


沖波「わ、わかりましたから放して…く、苦し…」





これで天龍はもう一切手を抜くようなことはできないだろう。

そう内心ほくそ笑みながらチラリと視線を大いに送る。




大井「…」




演習の時に見せた冷めた表情とは違い、今の大井は驚きと戸惑いの表情を見せていた。


信じられないものを見るかのようなその目…

どうやら感情の起伏はあるようで安心した。



さて、これからどう揺さぶってやろうかな…。





【鎮守府内 食堂】




提督「それでは自己紹介をしてくれ」



飾りつけがされ、間宮の豪華な料理が並べられた食堂で天龍と大井の歓迎会が催された。



天龍「俺の名は天龍…天龍型のネームシップ、生まれは横須賀の…」


提督「はい拍手ー」


天龍「コラァ!?」



食事を前に延々と話しそうだったので天龍の自己紹介は強制的に終わらせた。




提督「次、大井」


大井「軽巡大井です。よろしくお願いします」



逆に大井は簡潔に終わらせた。


しかしそれだけではなく…



大井「それじゃ失礼します」


間宮「え…?」


祥鳳「あ、あの…大井さん…?」





声を掛けて止めようとするのを無視して大井はさっさと食堂を出て行ってしまった。


まあこんなことになるだろうと予想はしていた。




間宮「…」


雪風「間宮さん…」



せっかく用意した料理を食べてもらえずに間宮が悲しそうな顔をしている。



沖波「間宮さん!少し料理頂きますね!」


間宮「え?」



沖波が立ち上がり、食器をもって間宮の料理を一通り盛り付ける。



沖波「何とか料理だけでも食べてもらえるように行ってきます!」


天津風「あ、ちょっと沖波!?」



そして急ぎ足で大井の後を追い掛けて行った。



間宮「沖波さん…」



間宮が涙を零しそうなほどに嬉しそうな顔をしている。





…ここまでは予想通り。




後は沖波がどこまでプラスアルファを持って来られるかだ。




提督「頼むぞ沖波」


祥鳳「?」



俺は両手を合わせ神に祈るかのように沖波の行動に期待した。






_____________________





【艦娘寮 大井の部屋前】




沖波「あ、あの!大井さん!」



大井の部屋の前に来た沖波がドアをノックをする。



沖波「沖波です!開けて下さい!」






大井「なによ…」



しつこくノックし続け声を掛け続けていると気怠そうな大井の声がドアの向こうから聞こえてきた。



沖波「あ、あの…!料理を持ってきました!」


大井「いらない…」


沖波「でも…」


大井「いらないって言ってるでしょう!帰って!!」


沖波「帰りませんっ!!」


大井「な…」



大人しいと思っていた沖波の思わぬ反論に大井が言葉を失う。



沖波「大井さんが食べてくれるまで私ここでずーっと待ってますから!明日になってもここに居ますからね!」


大井「な、なんなのよ…もう…」







観念したようで大井がドアを開けた。



沖波「あ…ど、どうぞ…」


大井「入りなさいよ。立ったまま食べさせるつもり?」


沖波「は、はい!」



嬉しそうに笑顔を見せる沖波に大井は溜息を吐くしかなかった。











大井の部屋はまだ必要最低限のベッドと机しか用意されていない。



沖波は大井と机を挟んで向き合いじっと食べるのを見つめている。

居心地悪そうにしているのは部屋の主である大井の方であった。


早く終わらせたいと大井は間宮の料理を口に運ぶが…



大井「美味しい…」


沖波「ほ、本当ですか!?」


大井「ええ…ここまで美味しいのって食べたこと無いかも…」




あまりの美味しさに思わず誉め言葉を零すのを我慢できなかった。




沖波「えへ、やったぁ…!」



裏表がなく嬉しそうにしている沖波を見て大井も苦笑いを隠すこともできなかった。

















大井「ごちそうさまでした」




全てしっかりと食べ終え、大井が料理の前で手を合わせる。



沖波「ありがとうございました!すみません、その…押しかけて…」


大井「良いのよ。こちらこそありがとうね」


沖波「は、はい!お邪魔しました!」



食器を持って沖波が食堂へ戻ろうとする。





大井「ねえ…」


沖波「はい?」


大井「どうして…」



大井に声を掛けられ沖波が振り返る。


大井の表情が先程見せていた少し寂しそうな笑みと違い、暗く辛そうな顔をしている。




大井「どうして沖波はそんなにも頑張れるの…?」


沖波「…」



沖波には大井がどういう意味で聞いているのかすぐに理解できた。



沖波「私が足を失うというハンデを負っているのに、という意味ですか?」


大井「ごめんなさい…気を悪くしたなら別に…」


沖波「いえ、大丈夫です…!」



申し訳なさそうな顔をする大井に対し沖波が明るい顔で応える。



沖波「このケガが原因で私、前の鎮守府を追い出されて…」



少し前の辛い毎日を思い出してか沖波の顔が少し暗くなる。



沖波「リハビリもさせてもらえずに孤児院の補助金のためだけに閉じ込められるような日々を送っていました…」


大井「…」


沖波「もう、何もかもどうでも良いって諦めかけていたのですけど…」




暗かった顔が一転、明るくなる。



沖波「司令官が来てくれて…私に『このままで良いのか』って言ってくれたんです」


大井「あいつが…?」


沖波「はい。司令官は私にチャンスをくれて…その後も辛いことあったけど…でも」



自信を持った沖波の笑顔に大井は眩しさすら感じる。



沖波「でも、司令官がチャンスをくれたおかげで今の私があります!」


大井「…」



眩しい沖波の笑顔に大井は目を逸らしてしまう。




沖波「大井さんはどうして…?その…」


大井「…」




反対に今度は沖波が大井の暗い表情の原因を探る。



沖波「あ…す、すみません!…出過ぎたことを…」


大井「ううん、気にしないで」



言いたく無さそうに顔を俯かせる大井に沖波は謝るが大井はそれを止める。


これ以上は聞けないと沖波が部屋を離れようとした時




大井「私はね」



大井は一言、こう言った。



大井「取り返しのつかないミスをして…大切な人を傷つけたのよ…」



大井の視線は部屋のある所へ向かう。




沖波(あれは…?)




大井の部屋に置いてある写真立て



そこには笑顔の多いともう一人



髪を結った黒髪の艦娘が笑顔で写っていた。






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【鎮守府内 食堂】




提督「ほいこれで上がりだ」


時津風「あーーーー!!」


天龍「ぐっ…!そんな…」



食堂に沖波が戻ると提督達がトランプでババ抜きをしていた。

どうやら間宮のデザートを巡って一勝負しているらしい。


間宮が用意したデザートは12個で6種類のケーキが並べられている。

欲しいものが被ってしまった複数人はこうして勝負するということになってしまったというわけだ。



提督「ではこのチョコレートケーキは俺が頂こう」


時津風「あーーー!あああーーーー!」


天龍「おい!俺の歓迎会だろ!?少しは遠慮しろよ!!」


提督「ふははははは!!悔しいか!?負けたお前らが悪いんだよ!」


祥鳳「なんて大人げない…」



先に上がった雪風が同じくチョコレートケーキを選んでいたためこれで品切れになってしまった。



提督「それではありがたく頂くとしようか」


間宮「うぅ…なぜかあまり嬉しくない…」


時津風「せ、せめて、せめて一口!しれぇ!」


提督「うるさい奴だな…ほれ、口開けろ」



やかましい時津風に観念したのか提督がフォークで一口分掬って時津風に向ける。



時津風「や、やった!あーん」


提督「なんてな」


時津風「あ、あーーーーーーー!!」



しかし時津風に向けたフォークを反転し自分で食べてしまった。



提督「うむ、間宮のチョコレートケーキは最高だな」


間宮「はぁ…ありがとうございます…」


時津風「ちくしょう!しれぇの阿保!バカ!インキンタムシ!」


提督「あはははは、負けたお前が悪いんだよ!この負け犬!負けコアラ!」


天龍「3番目に抜けたのになんでそんなに偉そうなんだよ!」




葛城「言いたい放題ね…」


天津風「二人とも子供なんだから」


天城「ふふ、でも楽しそうじゃないですか」



少し離れて勝負に参加しなかった面々が呆れながらその光景を眺めていた。




ちなみに1位は雪風。始まった時点で既に残り1枚という強運だった。


カスタードプティングが希望だった雲龍が2位、無表情で何を考えているか読めず提督も苦戦。先に上がられた。





沖波「も、戻りました」



その騒がしい食堂に食器をお盆に乗せた沖波が戻ってきた。



提督「お?戻ったか沖波。安心しろ、お前の好物のモンブランは取って…」


沖波「司令官、祥鳳さん、少しよろしいですか?」


祥鳳「はい?」


提督「モグ…ん、わかった」



沖波は神妙な面持ちで提督と祥鳳を呼び出した。




_____________________




【鎮守府内 執務室】




提督「大切な人を傷つけた…か」


沖波「はい…」


提督「痴情のもつれか」


沖波「違いますよ!多分…」



冗談を言ってやると沖波が自信無さげに否定する。

こいつのことだ、さらにもう一歩踏み込んで聞き出すことはしなかっただろう。


まあ…そんな下心が無いからこそここまでできたのだろう。



提督「十分だ、大井のことはこれから…」


祥鳳「あの…提督」


提督「ん?」



これから相談して対策を練ろうと思ったが祥鳳が少し手を上げてそれを止める。



祥鳳「大井さんの居た呉鎮守府に現在前の鎮守府で一緒だった龍鳳がいます。彼女と連絡を取って聞いてみますので明日までお待ちいただけますか?」


提督「そうか、わかった。俺は俺の方で大井を刺激することにしよう」


祥鳳「あまり無茶はしないで下さいね」


提督「善処する」



大井の詳細についてはとりあえず祥鳳に任せるとして…



沖波「あの…司令官」


提督「ん?」


沖波「大井さんを助けてあげて下さい…その、辛そうで見ていられなくて…」




やれやれ、そんなことまで期待されるとは…俺も随分と信用されたものだな。




提督「できる限りのことはする、しかしそれを大井が望むとは限らないぞ」


沖波「は、はい!それでも構いません!よろしくお願いします!!」


提督「できなかったらお前のメガネを没収するぞ」


沖波「ああ!?やめて下さいー!」


祥鳳「何をしているんですか…」







沖波のメガネを取り上げる悪戯をしながらこれからのことを考えていた。








【鎮守府 演習場】




提督「そんなわけで今日から軽巡である天龍と大井にも演習に参加してもらうわけだが…」



着任した二人を演習に参加させるため艤装を付けさせたのだが…



大井「…」


天龍「おっしゃあ!」



可能な限り対空兵装を身に着けたの天龍に対し、大井は必要最低限の主砲を一つ身に着けているだけだ。

それはまるで本来の姿である重雷装巡洋艦をわざと感じさせないようにしているかのように…



雲龍「…」



雲龍が不満そうな顔をしている。

きっと大井が魚雷を大量に身に着けてきたら演習を挑むつもりでいたのだろう。


最近出撃を減らされ、演習内容を必要最低限にされているのでフラストレーションも溜まっているのもあるだろうが…早いところ資源を確保しないとな。




提督「天龍と大井、それぞれに遠征部隊と出撃部隊を任せたいのだが」


天龍「出撃!俺は出撃したいぞ!」



…言うと思った。



大井「それじゃあ私は遠征部隊で良いわよ」


提督「…」



『遠征部隊の旗艦なんか誰でもできる』

『私はあなたとは経験が違うからこのくらい簡単』



そう内心思っているような言い方に少々頭にきたが今は何も言わないでおく。




提督「では演習の内容を…」





一通り演習の内容を伝え、天龍と大井を旗艦に水雷戦隊の演習に取り組む。




天龍「よーーーしお前ら!遅れるんじゃねえぞ!!」










天龍「ど、どうだ…!な、なに?まだ余裕…?」










天龍「ぜ、ぜぇ…ぜぇ…!こ、こんくらいなんてこと…おぇっ!」










天津風「大丈夫?」


天龍「な…んてこ…と…っぐ…うぐ…ゲホッ…」


時津風「それじゃもう一本行く?」


天龍「う…ま、まかせ…ろ…!うおおおぉぉぉっ!!」





天龍は限界を超えても虚勢を張り強気の姿勢を崩さない。



これまで出撃をさせてもらえず不遇の毎日だったこともあり、是が非でも出撃部隊の旗艦を務めたいのだろう。



雪風「頑張って下さい!いきますよ!!」


天龍「だあああああぁぁぁぁ!!」




そんな天龍のひたむきな姿勢に対し駆逐艦達からの言葉は暖かい。

この調子ならすぐにでも彼女達の信頼を得られ艦隊旗艦も問題無くこなしてくれそうだ。




提督(天龍は大丈夫そうだな…)






さて、問題は…









大井「…」




沖波「あ、あの…」


雪風「大井…さん?」




大井は何も言わずただ演習をこなしている。


駆逐艦達とコミュニケーションも取らずひたすら終わらせるという作業に思えた。



時津風「…」


天津風「…」



次第に駆逐艦達は委縮してしまい暗い雰囲気となってしまう。


訓練中に馴れ合いをするくらいならこれでも良いかも知れないのだろうが、訓練を終えても大井が誰かとコミュニケーションを取ることは無い。

こんな暗い雰囲気を蔓延させられては艦隊のモチベーションを下げてしまいかえって遠征効率が悪くなりかねない。




提督「…と思うのだが?」


大井「ちっ…」



自分の思ったことを臆せず余すことなく全部大井に伝えると彼女は忌々しいと言わんばかりの顔で俺を睨んだ。

その怖い顔に周りにいる駆逐艦達は増々怯えてしまう。


無理もない、大井はこの艦隊では一番練度が高く何度も修羅場を潜り抜けてきた武勲艦だ。

その威圧的な態度だけでなく艦娘にしかわからない力関係を感じているのかもしれない。




雲龍「…」




雲龍がまだ諦めずに大井と演習できないかとこちらを見ている。

今は無理だってさっき言っただろ。



提督「前の鎮守府で何があったか知らんがそんな態度だといつまで経っても…」


大井「あんたには関係ないでしょう。気に入らないならまた異動させるなりどこかへ飛ばせば?」



俺の忠告に全く耳を貸さず大井は鎮守府の方へと行ってしまった。




提督(やれやれ…予想以上に引きずっているな)




チャンスがあれば何があったのか聞き出そうとも思ったがどうやらそれは叶わないらしい。








祥鳳「提督、龍鳳と連絡が取れまして…」


提督「ああ」



呉鎮守府に居る龍鳳と連絡を取った祥鳳が戻ってくる。

『ここでは話し辛い』と言いたいのか鎮守府の方をチラチラと見て俺を移動させようとするが…



提督「ここで話せ」


祥鳳「ですが…」



全員の居る前で話せと言うが祥鳳が困った顔を見せる。



提督「このままだと誤解を招いたままになりそうだからな」


祥鳳「わかり…ました」



あたかも俺がこれからの大井を心配しているかのように言うと祥鳳は渋々と言った感じで話し始めた。







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【鎮守府内 大井の部屋】






なに…やってんだろうな…


私…




部屋に戻るとすぐに目がいくのは棚に置いてある写真立て







本当に…



何をやっているのだろう…



こんな小さな艦隊しかいない鎮守府で…






小さな鎮守府に…






逃げてきた私は…







大井「これから…どうすればいいんだろう…」








ねえ…







北上さん…















【過去 呉鎮守府】








ある大規模作戦海域に参加した時のことだった






大井「私と北上さんの前を遮る愚か者!沈みなさいっ!!」



いつものように最終海域の主力部隊と戦い…



北上「まぁ、ここは本気で殺っときましょうかね……うりゃあっ!」



私達の連撃が戦艦水鬼を捉え





大井「北上さん!やったわぁ!!」


北上「大井っちと組めば…最強だよね!」




見事撃沈することに成功した。





武蔵「良し!艦隊帰投を開始する!」




連合艦隊旗艦を務める武蔵の号令により私達は鎮守府の道を戻り始めた。





大井「大丈夫ですか北上さん、私の肩に掴まって」


北上「あ痛た…ありがとねー」




ほぼ無傷だった私と違い中破状態だった北上さんに肩を貸して私達も進み始めた。




青さを取り戻した海を眺め、達成感を味わいながら帰投の道を進み始めた




きつい戦いだったけれど…いつもの日常に違いなかったはずだったのに…


















武蔵「くっ…こんなにも天候が荒れるとは…」





帰投する途中に大嵐に遭ってしまい…




大井「北上さん!危な…きゃああっ!!」


北上「大井っち!?」




嵐の中を進む私達に大波が襲い掛かりそうだったので私は北上さんを半ば突き飛ばすような形で大波に巻き込まれないようにした。


しかし私はそのまま波にのまれ、艦隊から離れてしまう。







大井「う…っく…」




目が覚めた時、私は艦隊から離れてしまったようで一人海に孤立していた。



大井「北上さん…みんな…どこに…?」



こんな状況に陥った場合はとにかくその場に留まり助けを待つこと。

何度も演習をして確認してきたことだ。

私はその場に留まり仲間達との合流を待った。



きっとすぐ見つけてくれるはず…


そう自分に言い聞かせてその場に留まり続けたのだけど…





大井(陽が…)




太陽が沈み始め、辺りが徐々に暗くなっていく。



少しずつ、少しずつ暗くなる海に比例するかのように私の不安は大きくなっていった…








まだなの…?




闇が深くなり、徐々に視界が悪くなっていく。



この辺りはまだ作戦海域範囲で、主力を撃沈したといってもまだまだ強力な深海棲艦が多く…






大井「ひっ…!?」



暗くなった視界の向こうから何かが複数近づいてくる。




大井「来ないでぇっ!!」




恐怖感に支配された私は…


私はそれを何かと確認する前にありったけの魚雷を放った。





大井「あ…っ!!」



北上「え…」




私が魚雷を放った方に立っていたのは…






大井「よ、避け…」





避けるように言う間もなく私の魚雷が北上さんに…






大井「いやああああああああああああぁぁぁっ!!!」






___________





【現在 鎮守府 演習場】





天城「そんなことが…」




私が一通り話し終えると皆さんは神妙な面持ちになっています。



時津風「そりゃあそんなことがあったら引きずるよね…」


雪風「自分で自分の姉妹艦を…想像するだけで怖いです…」



先程まで見せていた大井さんへの不信感を少しでも拭うことができたようで話せて良かったとホッとしました。



提督「おかしいな」


祥鳳「え?」



そんな中、提督だけは何か疑うような目をしています。



提督「何か掴めないかと思って北上の情報を確認していたが、そいつは今でも戦っているぞ」


天津風「え?」


沖波「もう復帰しているってことですか」


提督「そのはずだが…」


祥鳳「はい…」




そう、既に北上さんは戦線に復帰していると龍鳳も言っていた。

再起不能かと思えるほどの損傷だったにも関わらず北上さんは懸命のリハビリによって戦線に復帰したのだ。


その場にいなくてもわかる。

きっと大井さんを心配させまいと必死だったのだろう。




…しかし自分で大事な姉妹艦を殺しかけたという事実は大井さんの心に深く傷をつけてしまったらしい。




仲間の労いや励まし、北上さんからの許しの言葉を貰っても彼女は自分を責め続け



戦線に戻ることはできなかったということだ…。




葛城「仕方ないかも…ね」




私も自分から瑞鳳を遠ざけようとした時は冷たく接したことがあり、時には手を出してでも彼女を傷つけたことがある。


それだけでも酷く心を痛めたというのに殺しかけるなんてこと…想像するだけで吐き気を催すほどに恐ろしい。





提督「でも生きてるんだろ?」


祥鳳「…?」




自分達のことに置き換えて大井さんのことを考える私達をよそに



提督はどこか苛立ったような顔をしていた…。







【鎮守府内 執務室】




提督「ふむ…」



執務室に戻った提督は大本営から送られてきた資料を確認しています。


手元にあるのは北上さんの資料。

何かを確認してうんうんと唸っている。



提督「…」


祥鳳「…?」



そしてチラリと私の方を見てまた資料に目を戻しました。


一体何なのだろう…?



提督「決めた」



提督は机の上にある館内放送用のマイクを手に取る。



提督「葛城、執務室に来てくれ」



そして放送で葛城さんを呼びました。



提督「沖波、これを用意してくれ」


沖波「え?あ、はい…でもこんなもの何に…」


提督「すぐにわかるよ」


沖波「はい…」



沖波さんにメモを渡し何かを取りに行かせました。







葛城「入るわよ」




入れ替わるように葛城さんが入って来ます。



提督「お前に頼みたいことがある」


葛城「な、何よ…」



真剣な雰囲気で聞いてくる提督に葛城さんが少したじろいでいます。


…しかし私にはなぜかわかります。



きっと提督はろくでもないことを考えて…



提督「大井を立ち直らせるため…」


葛城「ゴクリ」




沖波「司令官、これでよろしいでしょうか」




そこへ沖波さんが何かを抱えて戻ってきました。


沖波さんが持ってきた物、それは…




提督「お前に北上になってもらいたい!」


葛城「は、はぁ!?」



本当にろくでもないことを考えていたようで頭が痛くなりました…




【鎮守府内 大井の部屋前廊下】



葛城「ほ、本当にやるの…?」


提督「ああ」


葛城「本気?」


提督「本気だ」



葛城さんが何度も確認しています。

それはそうでしょう…こんな格好をさせられて普通はふざけているとしか思えません。



提督「それじゃ頑張れよ」


沖波「が、頑張って下さい…」


祥鳳「身の危険を感じたらすぐに逃げて下さいね…」


葛城「うう…そこまで言うなら止めてよう…」



すみません葛城さん…この行為がきっと大井さんのために…



提督「ふふっ…」



なっている…はず…?ですから…

楽しそうに笑う提督を見て不安しか感じませんでした。





意を決して葛城さんが大井さんの部屋のドアをノックします。

私達は少し距離を取ってその様子を伺います。








大井「誰…」



気怠そうな大井さんの声がドアの向こうから聞こえました。

どうやら部屋には居るようです。


葛城さんは何も答えずもう一度ノックします。



大井「何よ…もう…」



面倒くさそうに大井さんが部屋のドアを開けました。






大井「…」


葛城「…」





葛城さんは右足を前に出して

左足を後ろに下げて膝をついています。



両腕と両太ももに魚雷のレプリカが大量に付けられ

葛城さんの服装はクリーム色に近いスカートを着て

髪は三つ編みにされています。





葛城「き、北上、ですよ?」


大井「…」



本当の北上さんの口調もわからず葛城さんが困り顔でそう言うと…



大井「…」


葛城「ひぃっ!?」



大井さんがとても冷たい表情で葛城さんを見下ろしています。

その視線には殺気すら感じました。



葛城「あ、あれ?」



身構えていた葛城さんをよそに大井さんは部屋に戻ります。

呆れてしまったのだろうかと思ったのだけれど…



大井「…」



大井さんは部屋にあるテーブルを持ち上げて戻ってきました。




大井「バカにしてんのかぁっ!!!」


葛城「きゃあああああああ!!!」




そして持ってきたテーブルを葛城さんに投げつけました。

わざと外したのかはわかりませんが、テーブルは葛城さんに当たらずすぐ隣の壁に当たりテーブルは粉々に砕けました。


そのまま葛城さんを襟首を掴みなんと片手で持ち上げます。


危険な可能性もあるので提督が艤装を付けるように言っていたのに…なんて力でしょうか。



助けに行こうとする私と沖波さんの前に提督が邪魔をします。

もう少し様子を見ようというのでしょうか?

確かに葛城さんは艤装を装着していますから大丈夫でしょうけど…



大井「あんた!どういうつもりなのよ!?北上さんの真似なんかして死にたいの!?」


葛城「ひぃぃ!!ごめんなさい!提督がこうすれば大井さんが元気になるって…!」


大井「なんですって…!!」



大井さんの殺気を含んだ視線が提督に向けられました。





提督「げ…」



何が『げ』ですか、こうなるのは予想していたでしょうに。



提督「やっぱり無理だったか」


葛城「やっぱりって何よ!?」




鬼の形相をした大井さんが提督に迫ってきたので私と沖波さんが間に入って止めようと思ったのに…



祥鳳「きゃあっ!?」

沖波「きゃああ!!」



簡単に弾き飛ばされました。

艤装を付けていればと思っていたので油断しました。




提督「意外と元気そうで何よりだ」


大井「ふざけないで!!」


提督「っぐ!?」


祥鳳「提督っ!!」



大井さんが片手で提督の胸倉を掴み壁に押さえつけました。



大井「あんた何がしたいのよ!!こんなふざけた…北上さんの真似させて!!」


提督「っく…くくっ…決まってんだろ、拗ねてるフリしたバカ女を引きずり出すためだ」


大井「なん…ですって…!!」



押さえつけた手の反対側で大井さんが提督を殴ろうとしています。


まずい…!!



祥鳳「大井さん!」


沖波「やめて下さいぃ!!」



もう一度、私と沖波さんの二人掛で大井さんを止めます。



大井「は、放しなさい!!放せえええ!!」



とてつもない力でしたが今度はこちらも油断せず全力で抑え込み床に倒します。

私は大井さんを後ろから羽交い絞めにして沖波さんがこれ以上提督に近づけないよう腰の辺りを正面から押さえつけました。



提督「そんな元気があるならこんな小さな鎮守府に居る必要がないだろ」


大井「なにを…!!」


提督「そんなに北上の傍に居るのが怖かったのか?」


大井「…っ!!」



提督の言葉に大井さんが黙ってしまいます。



提督「図星か、情けない奴だ。こんなところに逃げてきやがって」


祥鳳「提督、何もそこまで…!」


大井「あんたに…」



大井さんが肩を震わせ涙を零します。



大井「あんたなんかに私の何がわかるっていうのよ!?」


提督「わかりたくもないな。罪の意識に耐え切れず逃げ出して、その後勝手に不貞腐れて引き籠っているバカ女の気持ちなんかわかるかよ」


大井「っぐ…!ああああぁぁ!!ふざけんなふざけんなぁ!!」


沖波「お、大井さんっ!」


葛城「提督!あなたいい加減にしなさいよ!!」




提督「付き合ってられん」



泣き叫ぶ大井さんに対し提督は背を向けて離れて行きます。





提督「失ったわけでも無いのに、やり直せるチャンスが転がっているのに…本当にもったいないな」





祥鳳(提督…)





離れて行く提督の背中が酷く寂しいものに思えました。



『失ったわけでも無いのに…』か…。







大井「放せ!放せえ!!あんた、許さない!!許さないからぁあ!!」






その後、大井さんが落ち着くまで私と沖波さんと葛城さんでしばらく引き留めた後



私は二人で話がしたいと沖波さんと葛城さんを先に帰らせることにしました。






祥鳳「大井さん」


大井「っぐ…ぅっ…」




大井さんはまだ泣いています。

私がハンカチで涙を拭うことを拒否せず受け入れていて、その弱々しい姿は初めて会った時の面影は全く見られませんでした。




祥鳳「…」




これから話すことを考えると少し躊躇ってしまいます。

しかしこれ以上大井さんと提督の関係を拗らせないようにするにはこれしかないと意を決して話すことにしました。





祥鳳「提督は…大井さんの気持ち、わかると思います」


大井「何がよ…」


祥鳳「提督は自分の家族を目の前で殺されたと言っていました…」


大井「え…!?」




さすがに艦娘に殺されたというのは伏せておきます。




祥鳳「きっと…どこか大井さんが羨ましいのかもしれません、まだ北上さんが生きていて…やり直せるチャンスがある大井さんのことが…」


大井「…」



瞳を涙に濡らしたままでも大井さんの表情が落ち着きます。

良かった…ちゃんと言葉は届いているようです。




祥鳳「あんな言い方したことはさすがにやりすぎですが…どうか…」


大井「…」





大井さんは何も答えず部屋に戻りました。


しかし先程までと全く違いとても落ち着いていた表情にこれからのことが少しでも良くなると思うことができました。





さて…次は執務室へと向かいます。



勝手に話したこと、提督に謝るためです。






【鎮守府内 執務室】




祥鳳「…大井さんにこう話してきました」


提督「そうか」



先程大井さんに話したことをしっかりと提督に伝えます。


勝手に提督の過去を話したことが後ろめたくてまともに顔を見ることができませんでした。




提督「そんな顔するな。別に気にしちゃいない」


祥鳳「ですが…」




提督「お前ならそうしてくれるとも思っていたからな」


祥鳳「え…!?」



提督の言葉に思わず顔を上げます。

こんな大事なことを話したというのに提督は余裕の笑みを浮かべていました。





もしかして私は…





祥鳳「…」


提督「どうした?」





私は…





祥鳳「バカに…」


提督「え?」





祥鳳「バカにしないで下さいっっっ!!!!!」






それだけを言い捨てて執務室を飛び出して






宛ても無く鎮守府の廊下を走りました






悔しくて悲しくて涙が止まりませんでした








私の考えが見透かされていたことよりも、



利用され提督の掌の上で踊らされていたことよりも、







自分のした行動がまた提督の復讐への一歩を進めてしまったような気がして…







祥鳳「っ…ぅっ…えぐっ…」





走り出した足は止まっても





涙が止まりませんでした。







『大丈夫ですか?』







そんな時…私に声を掛けてくれたのは…













【鎮守府内 天城の部屋】




天城「落ち着きましたか?」


祥鳳「すみません…」


天城「ふふ、良いんですよ」



泣いている私を自室へ招いてくれたのは天城さんでした。

彼女の部屋は和風の落ち着いた感じに彩られ、普段から落ち着いた姿を見せる彼女らしさをこの部屋にも感じます。




天城「何があったのですか?」


祥鳳「あ…の…」


天城「無理せず話せる範囲で良いですからね」


祥鳳「は、はい…」



にこやかに話す天城さんに私の胸の中が徐々に落ち着いていきます。


天城さんから不思議な優しい雰囲気を感じます。

もしかしてこういうことに慣れているのでしょうか?






祥鳳「その…さっき提督に…」







もちろん全てを話すわけにはいきません。


しかし私が最近持ち始めたもどかしい気持ちを天城さんに申し訳ないと思いつつぶつけてしまいました。

きっと誰かにも聞いて欲しかったのかもしれません。



天城「…」



私の話を天城さんは何度も頷いて真剣に聞いてくれました。




天城「祥鳳さんは提督を信じたいのですね」


祥鳳「え…?」



何か明確な答えが欲しかったわけではありませんでした。

しかしその天城さんの言葉は驚くほど自然に私の胸に響きました。



天城「ちゃんとその気持ち提督に伝えましたか?」


祥鳳「え…?いえ…こんなこと…」




提督に『復讐を忘れて生きて欲しい』なんて言えるはずもありません。

あの人がこれまでにどれだけの黒い感情を溜め込み生きてきたか、それを全て知っている私には…



天城「祥鳳さんは秘書艦なのですからしっかりと普段思っていることを伝えないといけません」


祥鳳「でも…」


天城「お二人はそういう気軽な関係に見えますよ?」


祥鳳「…」








気軽な関係…か…。





気が付いたら私と提督は


いえ、提督と艦娘達の関係はとても気軽で肩肘の張らない関係になっていました。




艦娘達に対し絶対に逆らうことの許されない厳しい『命令』をするときがあれば


時津風さんや雪風さんに言いたい放題暴言を浴びせるもありますけれど…


艦娘の皆さんはどこか安心して提督に心を許し命を預けています。



口ではお互い言うことはありませんがどこか強い信頼関係で結ばれているようで


私はそれを感じるたびに前の鎮守府では一切感じることの無かった心地よさを覚えていました。


それと同時に…その気軽な関係が全て提督の復讐のための関係に過ぎないのだと思うと


どうしようもない虚しさと悲しさを感じるようにもなってしまい…




祥鳳(おかしな話ですよね…)




あの人の全てを聞いて、身体を許して


復讐を成すために進む提督の行く末を見届けるためにこの鎮守府に秘書艦として残ったというのに…






いつの間にか…私は彼に自分の理想の提督像を追い求めるようになっていたのでしょうか…。






立ち位置を見失って勝手なことをしていたのは私なのでしょうか…






天城「ダメですよ」


祥鳳「え?」



天城さんの声に私はハッと顔を上げます。



天城「そうやって自分一人で抱え込んで、自分で解決してしまってはダメです」


祥鳳「天城さん…」


天城「ふふ、葛城もそういうところがあって良く誰かと喧嘩して一人で泣いてたりするんですよ?」




その後は私がもう少し落ち着くまで天城さんがお話してくれました。





雲龍さんは寡黙で人間関係で誤解を招くことがあり、『それでも良い』と諦めに入ってしまうこと。


反対に葛城さんは人当たりが良く良好な人間関係を作れる反面、反発を買うこともあり喧嘩になってしまうこと。




そんな姉、妹の間を取り持って天城さんが右往左往していたことなど…




祥鳳(何か手慣れていると思ったのはそういうことでしたか…)



泣いている私に対する対応があまりにも手慣れていて落ち着いていたのはこれまでの経験からのようでした。



思えば私の周りに天城さんのような人がいたことはありませんでした。



瑞鳳や龍鳳、囮機動部隊だった仲間達を慰めるたり鼓舞したりすることはあっても


誰かにこうやって話を聞いてもらって慰められるのって初めてのことかもしれませんでした。




天城「さて、祥鳳さんも落ち着いたようですし、提督の所へ行きましょうか」


祥鳳「え…」



私の返事も待たずに天城さんが立ち上がりました。



天城「大丈夫ですよ、私が間に入りますから」


祥鳳「でも…」


天城「それに…」



天城さんの何か確信の持った笑顔は



天城「提督もきっと祥鳳さんのことを心配してますよ」


祥鳳「天城さん…」




私をとても安心させてくれました。



_______




【鎮守府内 執務室】




提督(どうしたものか…)



祥鳳が怒って出て行ってからボーっと後頭部に両手をやって考えていた。





俺の過去のことを話した祥鳳に『気にしないように』と余裕ぶって対応したのがどうやらまずかったらしい。

俺の態度が祥鳳の逆鱗に触れたのか、あのような本気で怒った態度を見せたのはこの鎮守府に来て初めてかもしれない。



今の鎮守府の艦娘との関係は祥鳳を起点に作ったと言っても過言ではない。


その根元が揺らぐと全体に悪影響が及びかねないため早いところ解決したいのだが…





提督(謝る…?にしても何に対して謝れば?)




正直その解決の糸口が見当たらない。





…というより普段から、いや、ここへ来た当初から肉体関係を求めたりと無茶苦茶をしてきただけに謝ったりする基準がさっぱりわからない。



それがこんなところでツケを払うことになろうとは…




提督(考えていても仕方ない…)




とりあえずは行動と執務室から出ようとした時だった。





天城「提督、いらっしゃいますか?」


提督「え?あ、ああ…」



天城…?


珍しい来客に思わず返事をしてしまう。



天城「失礼します」


提督「どうかしたのか?珍しい」


天城「祥鳳さんが泣いているのを見掛けました」


提督「…」



なるほど、それならわざわざここへ来たのも頷ける。



提督「祥鳳はどこへ行った?」


天城「私の部屋で休ませています」


提督「わかった、案内してくれ」


天城「会ってどうするおつもりですか?」


提督「む…」



執務室を出て行こうとする俺の前に天城が立ち塞がる。



提督「何か気に入らないことが無いか聞き出す。それに対し自分に非があるようなら謝罪する」


天城「そうですか」



満足そうに頷いて天城がドアから離れる。



天城「それなら今ここでお願いします」


提督「なに…?」





執務室のドアがいつの間にか開いていて




祥鳳「…」




少し顔を俯かせた祥鳳が立っていた。





隣の天城が楽しそうな顔をしている。


こいつ…最初からそのつもりで一芝居やりやがったな…。




天城「どうしたんですか提督?先程の言葉は嘘ですか?」


提督「おい…」


天城「うふふ、このこと間宮さんにも相談しようかな?」


提督「っぐ…!」


祥鳳「あ、天城さん…!」



天城の奴…地味な嫌がらせを材料に使いやがって…



間宮に祥鳳を泣かせたことを知られてしまったら次の食事からどんな苦行を強いられるかわかったものではない。


初対面の時は天城がこんなことをしてくるタイプには思えなかったが…

やはり雲龍の妹ということもあってか色々と肝が据わっているらしいな。



しかしこれは天城からの助け舟と捉えても良いのかもしれない。

わざわざ祥鳳を連れて来てくれたのだ、話が通じる状態だということだろう。






提督「祥鳳」


祥鳳「は、はい…」




俺は祥鳳に対し深々と頭を下げる。



提督「不快な思いをさせてしまったようだな。すまなかった」


祥鳳「そ、そんな…わたしこそ…提督のことを話してしまったというのに…」



『誠意をもって謝ることも時には大事なことであり必要なこと』



…だったよな、グラーフ教官。



祥鳳「ごめんなさい…提督…」



俺の誠意を込めた謝罪は幸いにも祥鳳に届いたようで逆に祥鳳に謝れる不思議な結果がついてきた。




天城「良かった、これで元通りですね」




…食えない女だ、今後は天城も怒らせないように気を付けた方が良いな。


しかしこの問題を解決に導いてくれた天城に今回は感謝しておくことにした。






祥鳳「提督…お願いがあります」


提督「なんだ?」




もう用は済んで執務室を出ると思った祥鳳が俺にお願いをしてくる。



祥鳳「大井さんと…しっかりと話をしてもらえませんか?」


提督「…」


祥鳳「大井さんと真正面から向き合って話を受け止めてあげて下さい。お願いします」




祥鳳らしい真剣なお願いなのだが…

俺にとっては『その方が効果がある』という卑しい感想しか湧いてこなかった。

無論そんな態度はこの状況で絶対に見せないよう細心の注意を払うが。



提督「わかったよ、明日早速話してみる」


祥鳳「よろしくお願いします提督」



少し嬉しそうな顔をして祥鳳は執務室を出て行った。


その表情に俺は少し危機感を感じた。



最近艦隊運営を真面目にし過ぎたせいか、祥鳳や沖波ら近しい艦娘から妙な期待をされることが増えてきた気がする。



…今後は少しその距離感を考え直さなければならないな。



最悪その場合は…





天城「ふふ、これで元通りですね。良かったです」




考え事をしようとしていたので天城がまだ残っていることに気づいていなかった。




提督「感謝するぞ、正直どうすればいいのかわからずに途方に暮れていたからな」


天城「これくらい良いですよ、それよりもあまり祥鳳さんを泣かさないで下さいね」


提督「…前向きに努力する」



俺の返答に嬉しそうな顔を見せて天城が退室しようとする。

良い機会だから彼女に少しお願いをしておくか。






提督「お前に頼みがあるのだが…」







俺のお願いに天城は快く了承してくれた。






【鎮守府 演習場】




いつも通りの時間に演習場に行くと全員が揃っていた。

その中には大井もいる。


昨日あんなことがあったというのに真面目なものだ。

しかしさすがに顔を合わせ辛いのか俯いていた。



提督「大井、お前は俺と一緒に来い」


大井「え…?」


提督「祥鳳、演習は任せるぞ」


祥鳳「は、はい!」





演習を祥鳳に任せ俺は近くにある階段をのぼる。


少し躊躇った様子を見せながら大井が後をついてきた。





大井「あ、あの…!」


提督「ん?」



こちらから声を掛ける前に大井が話しかけてきた。



大井「昨日はその…ごめんなさい…」



意外なこと過ぎて一瞬頭がついて行かなかった。

これは昨日祥鳳が大井と話してくれた効果の一つだろうか。



提督「お前に掴まれた胸倉の辺りが真っ赤に腫れていることなんか気にするな」


大井「う…」


提督「以前間宮に顔面をぶん殴られたことに比べればこんなの大したことない」


大井「あんた…普段何やってんのよ…」



俺の少しおどけた返答に大井が呆れた顔を見せる。

しかしその表情は少し硬さを和らげリラックスできているようだ。




提督「案外スッキリしたんじゃないか?」


大井「え?」


提督「お前、誰にも相談もせず一人で抱え込んでいたのだろう?あんなに大声で感情を爆発させることはあったのか?」


大井「…」



大井が何も答えずに視線を下に向ける。


やはりな。

自室に閉じこもるような行動を取るからそうなのだろうと思っていた。


前の鎮守府でも誰にも相談できず、弱みを見せることもできず閉じこもっていたのだろう。


こいつにとって唯一の拠り所であった北上を自分で傷つけてしまったのだから。




提督「お前に頼みたいことがある」


大井「なに…?」




そんな大井に対しての対処法となるかはわからないが…



大井「…?」



俺は大井にノートとペンを渡す。



提督「ここは演習場が良く見えるだろう?」



大井と一緒に昇ったのは演習場近くにある観覧席だ。

合同演習などで見学しやすいように作られている。



提督「お前に駆逐艦達の演習を見て気づいた点を書き出して欲しい」


大井「…なんで私がそんなこと」


提督「嫌か?」


大井「嫌よ…」



不満そうに大井がノートとペンを返そうとする。



提督「そうか…残念だ…」



俺は大袈裟に残念そうな顔をする。



提督「お前が…艦娘でもトップレベルの練度の大井があいつらの特徴や弱点を見つけ指摘してくれたらもっと生存率も高くなりそうなのに…」


大井「は、はぁ?」


提督「あーあ、残念だ。沖波もせっかくあんなに頑張って立ち直りかけたというのに…」


大井「ちょ、ちょっと!」


提督「大井がちゃんと見てくれなかったからなー、あー残念だー」


大井「わかったわよ!やれば良いんでしょ!?」



俺の三文芝居に怒りながら大井がノートを持って演習場を向いて座った。



提督「それじゃ任せたぞ」



やると言ったからには手を抜くことはないだろう。

安心してその場を任せ俺も演習場へ向かう。






大井「ねえ…」




演習場へ向かおうとした俺に大井が声を掛けてくる。




大井「あんたはどうして立ち直れたの?」


提督「…」




『俺が目の前で家族を殺されてどうしてそんなに元気でいられるのか』



そう言いたいのだろう。


どう答えようか少し悩みそうになったが祥鳳から言われた『大井としっかり話して欲しい』という言葉を思い出した。




提督「立ち直っているように見えるか?」


大井「え…?」




あの光景が少しでも過ると腹部の銃痕が鈍い痛みを発する。


その痛みを気づかれないよう何とか取り繕った。



提督「今でも悪夢にうなされるよ」


大井「だったら…なんで…」


提督「そうだな…」



この場で言ってもきっとわからないだろう。



提督「その仕事をちゃんと終えたら教えてやるよ」


大井「あ、ちょっと…」




そう勿体ぶりながら俺は演習場へと足を進めた。








【鎮守府内 演習場】




時津風「ふぃ~…疲れた疲れた…」


雪風「今日もハードでしたね…」



艦娘達が演習を終えて演習場の入り口に戻る。



大井「あの…」



そこへ観覧席から大井も降りてきた。


先程俺が渡したノートを差し出してくる。



提督「ふむ…」



俺はそれを受け取りパラパラと見て大井に返した。



大井「え?」



それがどういう意図かわからず大井が疑問符を投げかける。





提督「天龍、それと駆逐艦達は集合しろ」


天龍「え?おい、集合だ」





俺の呼びかけに天龍達水雷戦隊が集まる。



予め準備していたメモとペンを5人に渡した。



天津風「何かしら?」


提督「お前達のために大井が演習の間ずっと見ててくれた」


大井「ちょ、ちょっと!?」


提督「それぞれの演習中の様子を見て色々と書きだしてくれた、俺は駆逐艦達を頼んだがご丁寧に天龍まで見ててくれたようだ」


天龍「ホントか?」


大井「や、やめてよ…」




『そんなこと言わないで』という顔で大井がこちらを見るが相手にしない。




沖波「大井さん…」


提督「それじゃ気づいたことを言ってやれ」


大井「わ、私が…?」



大井が困った顔をして天龍達を見るが彼女達は大井を興味津々の眼差しで見返している。




大井「それじゃあ…まず天津風から…」




ようやく観念したようで大井が自分のノートを広げながら話し始めた。




大井「雷撃回避の時に反転する負荷が強すぎるわ、1戦2戦くらいなら持つけど戦いが長引くと…」



大井「雪風は少し自己犠牲の突出が多いわね、避ける自信があるからなのかもしれないけど隊列が乱れて…」



大井「時津風は勢いに任せすぎるのに気を付けて、魚雷を放つときは一度呼吸をした方が良いわよ。そうすれば命中率も…」



大井「天龍、そんなに無理やり声を張り上げて指示しなくてもいいのよ。あんたの声はキレイで通るんだからもう少し余裕を持ちなさい。それでも不安なら腰の獲物で指示ができるよう話し合って…」



大井の話すことを駆逐艦達、そして天龍が必死になってメモを取っている。


ほんの数時間でここまで特徴を見つけ出せるのはさすがだ。

呉鎮守府で主力として戦ってきた経験がうちの鎮守府の艦娘の粗を余すことなく見つけてくれていた。




大井「それと…沖波…」



しかし沖波に関しては少し言い辛そうにしている。


これはきっと沖波のハンデのことだろうな。




沖波「良いですよ大井さん、教えて下さい」



しかし沖波は笑顔で堂々と受け入れる準備をしていた。



大井「義足でも大丈夫って逆に意識しすぎて逆に負荷を掛け過ぎている、一旦艦隊演習を離れて個人演習をした方が良いと思う」


沖波「それって…」


大井「リハビリをもう一度やり直すことを勧めるわ。焦って現場で戦いたいと思う気持ちはあると思うけど…」


沖波「は、はい!ありがとうございます!大井さんの言う通り一から出直します!」




沖波の嬉しそうな返事に…




大井「ええ、無理しないでね」




大井が初めて笑顔を見せた。




その笑顔に周りの艦娘達も暖かい空気を作っている。



きっとこれまで大井の周りにはこういうことはなかったのだろう。


彼女はその雰囲気に戸惑いどうして良いのかわからないようだが…




天津風「あ、あの…ここのところ…」


時津風「ねーねー、もっと教えてー」


大井「ちょ、ま、待って」



戸惑いつつも周りの艦娘達の行動に大井も付き合うしかなく


演習初日にあった堅苦しい雰囲気は完全に消え失せていた。





提督(さて、次の準備に入るかな)




俺はその場を離れ執務室へと向かった。




__________





祥鳳(…)




大井さんを囲んでの柔らかい雰囲気。


先日までの彼女のことを考えると想像以上の進展に思えます。




天城「良い雰囲気ですね」


葛城「ほんと、どうなってるのかしら」



その様子に他の人達からも感心の声が出ています。




しかし…私は素直に喜ぶことができません。


こんなにもあっさりと大井さんの心を揺さぶり、前を向かせ、他の艦娘達との和を作ってしまう。



あの人の手並みに正直恐怖すら感じていました。



どうしてこんなにも簡単に相手の心を揺さぶり動かすことができるのでしょうか?


私にはそれがただの復讐のための通過点だけには思えません…




そんな答えの見えない疑問に私はいつまでも心囚われていました。






【鎮守府内 執務室】





提督「ええ、ありがとうございました。それでは失礼します」



私が大井さんとともに執務室のドアの前に行くと中から提督が誰かと電話をしている声がしました。

電話は終えたようなので私はノックして入室して良いか確認をとります。



祥鳳「提督、入ってもよろしいでしょうか?」


提督「ああ」


大井「失礼します」


提督「ん?」



提督にとって意外な来客である大井さんも一緒に執務室に入りました。



提督「へぇ…」


大井「な、何よ…」



入室した大井さんを値踏みするかのように提督が見ています。



提督「下を見なくなったな」


大井「え…?」


提督「気持ちが前を向き始めた証拠だろう」


大井「あ…」


祥鳳「…」




大井さんはここへ来た時からずっと目線を逸らすか俯いて下を見ているかのどちらかでした。


それが今はまっすぐに提督を見ていました。

この鎮守府に来た時とはまるで別人です。




大井「とにかく…あなたに言われた通り仕事はしたわよ」


提督「そうだな」


大井「だから…その…」


提督「わかってるよ」




なんでしょうか…?

二人だけで何かを約束していたようです。




提督「どうして俺がそんなにも立ち直ったように見えるのか、だったな?」


大井「…」


祥鳳「え…」




立ち直ったように見える…?




提督「忘れているからだよ」


大井「忘れて…いる?」





忘れる…?


目の前で家族を殺されるなんて惨劇を?


復讐を目的としている提督にとってそれが本当の答えには到底思えませんでした。




でも…今の大井さんを前にして提督が嘘を言っているようにも見えません。





提督「思い出すから辛い」


大井「何を言って…」


提督「だから俺は…」





祥鳳(あ…)



その一瞬…


提督の表情がとても暗く辛そうに見えました。




提督「何かに全力で没頭して、思い出すことから逃げて…痛みを忘れているだけなんだよ」


大井「…」


提督「すまんな、こんなことしか言えなくて」


大井「いえ…」









大井さんは力無く提督に頭を下げて執務室を出て行きました。










提督「良し、これで第二段階だな」


祥鳳「え…?」


提督「完璧だ、これで後は仕上げに入るだけだな」


祥鳳「…」




いつも見せる提督の悪だくみの表情でしたが



それがなぜか遠く、取り繕ったように見えてしまいます。



提督のその艦娘を物扱いしている言動に苛立ちも怒りも感じずに



私はただただ悲しさだけを感じてしまいました。




__________





【鎮守府内 大井の部屋】









部屋でボーっとしながら今日のことを思い出していた。








『何かに全力で没頭』か…








私にとっては北上さんが全てだった。



北上さんがいれば


北上さんさえいてくれればそれで良かった




他のことなんてどうでも良い


他の仲間達のことなんてどうでも良い




ずっとそれだけで良いと思って生きて…戦ってきた





私が北上さんを傷つけて殺しかけてしまった時…



この世の全てが無くなり、何もかも見えなくなるような錯覚に陥った







いや…本当はわかっている




見えなくなったんじゃなくて…見ることが怖かったんだ







私が北上さんを傷つけたことで他の仲間達に恨まれ


厳しい罵倒を浴びせられるんじゃないか?


仲間達に傷つけられるんじゃないか?




そんな恐怖が襲い掛かってきた





だって私は…北上さんと違って仲間達に一度も心を開かなかったから…







そして何より…




傷つけてしまった北上さんと向き合うことを何よりも恐れ




顔も見れなくなった





北上さんは意識を取り戻した後



何度も、何度も何度も私に『気にしないで』と私に言ってくれたのだけれど



私はその慰めを受け止める勇気も強さも持ち合わせておらず



引き籠り、戦いを拒み続けた







『また北上さんを殺しかけるんじゃないか』という恐怖より



北上さんや他の仲間達と向き合えない情けなさの方が勝っていたような気がする








その結果…




呉鎮守府を追い出されるような形で異動を命じられ




私は拒みもせずに受け入れ、大本営の待機所へと向かった








異動を受け入れたと言えば聞こえは良いけど…






私は逃げ出しただけだ…














後日…北上さんから手紙が届いた




『無事に復帰して戦えるようになった、だから大井っちも…』





その手紙に湧いた感想は



『良かった』でも『私も頑張らないと』でもなく







『ああ、やっぱりね』という冷めた気持ちだった






北上さんは私がいなくても大丈夫なんだ



一人でも立ち直ることができるんだ



私なんか別に居ても居なくても同じなんだ






そんな後ろ向きな考えをもって



増々自分の殻に閉じこもった








もう…何もかもどうでも良い…








そんな閉じこもっていた私に






『変わった提督の居る鎮守府から異動の話が来ている』ということを聞かされた







変に期待されては嫌だったので





重雷装巡洋艦ではなく軽巡洋艦ということで大本営に戻っていたことが仇となったらしい





どこへ行っても私なんて、と投げやりな気持ちのまま





私は異動を受け入れ








この鎮守府へとやって来た

















『案外スッキリしたんじゃないか?』


『お前、誰にも相談もせず一人で抱え込んでいたのだろう?』


『あんなに大声で感情を爆発させることはあったのか?』





あいつの言う通りだった




私は一度でも自分の感情をさらけ出すことなく



一人、引き籠っていたのだから…






あいつの思惑通りに進められているようで正直腹が立つけど




心の中に溜め込んでいた黒い痛みも暗い感情も吐き出せたような気がした






そして…



『は、はい!ありがとうございます!大井さんの言う通り一から出直します!』


『あ、あの…ここのところ…』


『ねーねー、もっと教えてー』




駆逐艦の子達に感謝され、頼られていた時




あの子達が生きて帰れるように演習を見てそれぞれの特徴を捉えていた時




私は北上さんのことを忘れていた






思い出すこともせず



全力でそのことだけに没頭することができていて




あの事件以来、私は初めて心の中が軽くなって顔を上げることができた






今でも北上さんを傷つけたことを思い出すと辛いけど




以前のような例えようのない不安、絶望感が薄らいでいるのがわかる









ねえ…北上さん…








『っち…』





私、前を向いて…







『いっち…』









…?







え?






ドアの向こうから北上さんの声が…









幻聴なのか


夢でも見ているのかと思いつつドアを開けると




提督「…」



そこには携帯電話をこちらに向けている提督が立っていた。



北上『大井っち?そこに居るの?ねえ』


大井「き、北上さん!?」


北上『あ!?大井っちだ!本当にいた!?』




なんで…北上さんが…?




提督「ほれ」


大井「う、うわわっ」



提督はそのまま私に携帯電話を投げてよこす。



提督「安心させてやれ」




それだけ言って提督はその場を離れて行った。








大井「き、北上さん…」


北上『あはは、なんか久しぶりだねー』


大井「はい…」




不思議な感じ…



北上『ずっと心配してたんだよー?急に大本営から異動になったなんて聞かされてさー』



以前とは違ってとても心が落ち着いていて北上さんの声が優しく響いてくる。



大井「北上…さんっ、っ…っぐ…」


北上『な、なに?大井っち泣いてるの?』



北上さんへの申し訳なさ、謝りたい気持ちよりも

今は少しでも北上さんに私が思っている気持ちを伝えたいという衝動に駆られ


不思議と涙が流れ嗚咽が零れたけど





大井「私…わたし…ね…」


北上『うん…ゆっくりで良いよ』







私はこの後、携帯電話のバッテリー切れの警告音が鳴るまでの数時間



たくさんのことを北上さんと話すことができた






バッテリーが切れて電源が落ちる前…







大井「北上さん、私…やってみたいことができたの」










私はあることを伝えてから北上さんとの電話を切った。




_________




【鎮守府内 執務室】






あの演習を終えた翌日、大井さんから『一日時間を頂戴』というお願いがありました。

提督はそれを了承し、大井さんは休養日という形で休みを与えています。



祥鳳「大井さん、これからどうするのでしょうか…?」


提督「さあ?」




さあ?って…そんな投げやりな…。




提督「あいつがこの鎮守府に残るかどうかは五分五分といったところだろうな」


祥鳳「…」




五分五分と言っているわりに提督はとても自信にあふれた表情をしています。


きっと大井さんが残るという確信があるのでしょう。




大井「入っても良い?」


提督「どうぞ」



大井さんの声とノックが聞こえ、提督が入室を許します。







祥鳳「え…?」




入ってきた大井さんの姿に驚きました。




彼女の服装は軽巡洋艦のものではなく…






重雷装巡洋艦のものでもなく…





提督「何のプレイだ?」




大井さんの手には教官用の鞭が握られ


その服装は以前訓練所で見たことのある練習巡洋艦のものでした。




大井「提督、私を…」




大井さんは提督に向かって深々と頭を下げ




大井「私を練習巡洋艦としての着任を認めて下さい」


提督「…」




この姿には提督も予想外だったのか、呆気にとられ言葉を失っています。

その表情は残念そうにしているのが見て取れました。



大井「あら、なにその顔。重雷装巡洋艦じゃなくて残念だったかしら?」


提督「バレてる…」



バレバレですよ…。

そんな露骨に残念そうな顔してたら。



大井「言っておくけど…」


提督「っぐ!?」


祥鳳「お、大井さん!?」



突然大井さんが身を乗り出して提督の胸倉を掴みました。



大井「あなた程度のひよっこに私本来の姿である重雷装巡洋艦を扱う資格は無いわ」


提督「なんだと?」


大井「聞けばあなた、着任早々に駆逐艦の子達を監禁して教育したらしいじゃない?」


提督「そうだが?」



脅しとも取れる大井さんの威圧に提督は平然と返します。



大井「あんたごときの提督が偉そうなものね、私から言わせれば教育が必要なのはあんたよ」


提督「ほう…?」



大井さんは遠慮することなく口調も強くなってきました。



大井「これから私と一緒に地下室に来てもらうわ。まさか逃げるなんて言わないわよね?」


提督「はは…アハハハハハ!」



そんな大井さんに対し提督は嬉しそうに高笑いをしています。




提督「上等だ!調子に乗りやがってこのバカ女!!せいぜい吠え面かくなよ!」


大井「それはこっちのセリフよ!!腹を空かせて泣くんじゃないわよこのバカ男!」




売り言葉に買い言葉


二人は視線で火花を散らせながら執務室を出て行こうとしています。




提督「そういうわけだ!祥鳳!何日になるかわからんが任せたぞ!」


祥鳳「え…!?ちょ、ちょっと提督…!?」




そのまま二人は地下室に向かって行き



祥鳳「…」




後には私が一人、ポツンと残されました。







【鎮守府内 弓道場】




夜、私は一人弓道場で精神集中の訓練をしていました。




提督と大井さんからは音沙汰が無くまだ地下室に籠っています。


あの調子だと何日掛かることになるのでしょうか…



祥鳳(あ…)



私のお腹の音が鳴ります。




今日は昼食、夕食とも抜いているため空腹なのも仕方ありません。





天城「祥鳳さん」



いつの間にか天城さんが来ていました。



祥鳳「どうしました?」


天城「間宮さんにお弁当にしてもらいました」



そう言って天城さんは持ってきた重箱を開けました。



天城「お夕飯食べてませんよね?どうぞ」


祥鳳「で、でも…」


天城「これは提督の命令ですよ、俺に付き合ってあいつが食事を抜こうとしたら無理やりにでも食べさせてやってくれって言われてましたから」


祥鳳「え…?」




提督が…?




天城「先日、お二人が謝り合った後、提督から『沖波さんと一緒に第二秘書艦をして欲しい』と言われました」


祥鳳「第二秘書艦を?」


天城「はい、今後忙しくなるから力を貸して欲しい、そして…」



天城さんが楽しそうにこちらを見ます。



天城「祥鳳さんが無理をしないよう力になって欲しいって。うふふ」


祥鳳「…」


天城「提督は祥鳳さんのこと、やっぱり大事に想っていますよ!」






天城さんはそう言ってくれましたが…

私は素直に喜べません…



結局そうやって私を利用しようとしているに違いないというのに…



喜べない…はずなのに…



天城「ふふっ」



天城さんには気づかれてしまいました。




私が頬を緩め、笑顔を我慢できなかったことに。

















祥鳳「ごちそうさまでした…」




天城さんが持ってきてくれたお弁当を食べ終え



一息ついたところで私はあることを決意しました。







祥鳳「天城さん」


天城「はい?」


祥鳳「私、決めました」




私がこれからしようとしていることは


提督が望んでいることと真逆かもしれません




祥鳳「提督に…私の思っていること、全てぶつけようと思います」


天城「あらっ!ふふふ、頑張って下さい!」




きっと天城さんが思っていることとは違いますが



提督が地下室から戻った時、



私はここ数日考えていたことを伝えることを誓いました。











その結果…




私が提督から遠ざけられることになってしまうとしても…











【鎮守府内 執務室】






提督「ふはははははは!!ざまあみやがれ!」


大井「ちっ!あと3日は閉じ込めてやるつもりだったのに…!!」




提督と大井さんが地下室から戻ったのは3日後のことでした。


二人とも疲れてはいるものの元気いっぱいの虚勢を張っています。




大井「調子に乗ってんじゃないわよ!覚えてなさい!ふん!」


提督「おとといきやがれってんだ!!」



どうやら大井さんの『教育』を予想より早く終えられたようで提督は愉悦満面の顔でした。

対する大井さんは不満いっぱいで食堂の方へと向かって行きました。






提督「変わりは無いか?」


祥鳳「あ、はい…軍令部からのお手紙が少し溜まって…」


提督「わかった。腹減った、前に作ったアレを頼む」


祥鳳「は、はい」



前に提督が食事を抜いた後に作った卵粥のことでしょう。



しかしそれを作り始める前に私は提督に伝えなければならないことがあります。





祥鳳「あ、あの…!提督!」





私はこの時、提督に『復讐を忘れて生きて欲しい』と話そうとしました。






提督「…」





しかし提督は軍令部から送られてきた書類を見て固まっています。





祥鳳「提督…?」







次第に…






提督「くくっ…」





提督の顔が…





提督「あははは…」




私がこの鎮守府に来たあの日に見せた




提督「アハハハハハハ!!」




『復讐者』の表情へと変わっていきました。









祥鳳(一体何が…!?)




提督の持っている書類を覗き込みます。







提督「意外と早い再会だったな…!!」






その書類は次に着任する艦娘の資料でした。






提督「親潮ぉ…っ!!!」






その艦娘の名は




陽炎型駆逐艦・4番艦 親潮





提督の…家族の命を奪い




提督に一生消えない傷を残した艦娘でした…






提督「アハハハハハハ!!アッハッハッハッハッハッハッハ!!」









顔を歪め


壊れたように笑う提督を見て





私の願いなんて届かない



届くわけなんか無いと絶望するしかありません









復讐者と罪人の二人が再会するということは




避けようも無い運命だったのでしょうか…













第一部 戦力拡充編  終


_____________________




第二部 復讐のカタチ





【鎮守府内 提督の私室】





祥鳳「39度2分…」



提督の熱を測っていた体温計にはそう計測されています。



沖波「だ、大丈夫ですか司令官…」


提督「…頭痛い、喉痛い、身体がだるい、食欲がない、気持ち悪い」


間宮「典型的な風邪ですね…」

















提督が新しい艦娘の着任を知ってから翌日、いつもの時間通りに来なかった提督が心配になって私室に行ってみると彼は気怠そうにベッドに横になっていました。


額に手を当ててみると明らかに熱が高いのがわかり、すぐに間宮さんと沖波さんを呼んで休ませる体制を整えました。



提督が風邪をひくのは初めてのことです。

とても執務ができそうにないと判断し、今日は提督に一日休んで頂くようにしました。




時津風「やーい、風邪引いてやんの。日頃の行いが悪いからだよー」


天津風「ちょ、ちょっと時津風!」



ここぞとばかりに時津風さんが提督に攻勢を仕掛けます。



しかし…



提督「本当に申し訳ない…」


時津風「う…」



提督の弱々しく骨の無い返事に時津風さんもつまらなそうな顔をして黙るしかありません。

本当は提督を心配しているのでしょうか?もどかしそうにもしています。


提督も弱々しい表情でいつもの不敵な態度はなりを潜め…



沖波「司令官、後は私達がやっておきますからゆっくりと休んで下さいね」


提督「沖波は優しいな、誰かさんと違って」


時津風「ちょ…!」


提督「次の合同演習先で好きなもの買ってやるからな」


沖波「ええ!?」


時津風「しれぇのアホー!心配して損した!」



怒って時津風さんは出て行ってしまいました。

やっぱり心配しててくれたのね、それに対して提督ときたら…



沖波「司令官!私、新しい義足パーツが欲しいです!」


提督「…な!?」


天津風「あれ、高いのよね…」



確か数十万円はするものだった気が…



提督「抜け目ない奴…」


沖波「だ、ダメですか?」


提督「ちゃんと仕事したら買ってやる…」


天津風「あら?」


沖波「が、頑張ります!」



沖波さん…強くなりましたね。色々と。

この提督の下で働いているのですからそれも仕方ないのかもしれませんね。



大井「とにかく元気そうで良かったわ、大人しく寝てるのよ?」


提督「言われなくてもそうするよ、祥鳳、後は任せた。沖波と天城、大井と協力して俺が治るまで頼んだぞ」


祥鳳「わかりました」



提督はそのまま目を閉じて眠るようにしようとしました。




雪風「しれぇ…」



眠ろうとした提督の手を雪風さんが握りました。



雪風「本当に大丈夫ですか?雪風達が傍にいなくても…」


祥鳳(雪風さん…?)



いつもの快活で明るい雪風さんには見られない姿に思わず目が奪われます。




提督「…何言ってんだ、さっさと演習に向かえ」


雪風「あ…」



そんな雪風さんの手を振り払い、提督は身体を横に向けました。



『これ以上話すことはない』という提督の態度に私は雪風さんの背を押して部屋を出るよう促します。



雪風「大丈夫ですからね、絶対、大丈夫…」



名残惜しそうな雪風さんと一緒に私達は全員退室しました。





天津風「どうしたのよ雪風」


雪風「その…しれぇが何か怯えているように見えて…」


祥鳳「怯えて…?」


雪風「…」



作戦中でも雪風さんの勘は当たることが多く私達も助けられることがありました。

そんな雪風さんの言葉は気のせいのものとは思えません。



大井「無理させ過ぎたかしら…」



大井さんも先程部屋では見せなかった心配そうな表情をしています。

先日まで提督と一緒に地下室で食事抜きの勉強をしていただけに罪悪感があるのかもしれません。



祥鳳「提督には前に『こんなことをしているといつか身体を壊します』とくぎを刺しておきましたから気にしないで下さい」


大井「え?ええ…」



本当に体調を崩されると正直困惑しますが。



祥鳳「提督の様子は私が定期的に見ておきますから、皆さんは提督に言われた通りいつも通りの演習をお願いします」


大井「わかったわ」


天津風「雪風、行くわよ」


雪風「は、はい…」


祥鳳「沖波さんは一緒に書類を片付けてから皆さんに合流しましょう」


沖波「わかりました!司令官がいない分頑張らないと…!」



張り切っている沖波さんを見て私も頑張らないとと気を引き締めました。









祥鳳(それにしても…)









『怯えている』か…。








私には雪風さんの言った言葉がいつまでも頭の中に残ったままでした。











【鎮守府内 執務室】




提督のいない執務室で書類を整理しているとあるものが目に留まりました。



祥鳳(これは…)




提督が見ていた『新しく着任する艦娘』の資料でした。



提督には一人の艦娘のことで頭がいっぱいになっていましたが、着任予定の艦娘は2人。




夕雲型駆逐艦 三番艦 風雲



提督が『次は真面目な奴を寄越せ!』と大本営の人事部に文句を言った結果、彼女が来ることになったようです。

戦果、戦績とも輝かしく、資料を見る限りは彼女の真面目っぷりも伝わってきます。


改二改装も終えていて私達の艦隊に大きな戦力となってくれることは間違いなさそうです。

沖波さんのお姉さんということもあり、彼女もきっと喜んでくれるでしょう。






そして…





陽炎型駆逐艦 四番艦 親潮






提督の家族の命を奪い


提督に一生消えない傷を作り殺しかけた艦娘




彼女の資料を見た時の提督を思い出すだけで身震いがします。





祥鳳(提督…)





彼女がこの鎮守府に来た時


提督は一体どうするつもりなのでしょうか?



どのような復讐をするのでしょうか…。






悪い予感を振り払うことはできず




その現実から目を逸らすこともできず




いつまでも憂鬱な気持ちを抱えながら秘書艦の仕事をしていました。





__________



【鎮守府内 提督の私室】





風邪をひくのはいくつになっても嫌なものだ




必ずと言って良い程に悪夢を見てしまうからだ





提督(く…)





俺はふらつく身体を圧して部屋のドアにカギを掛ける。




そしてベッドに倒れ込んだ













このまま眠ったら…








必ずあの時の悪夢を見る









俺は覚悟を決めて目を閉じる









意識を取り戻した時、きっとまた新しい傷を作っているだろう









そんな憂鬱な気持ちを抱えながら意識を投げ出した













復讐者を生み出した惨劇と裏切り















【過去 提督の実家】










『ただいまー』



いつも通り学校から帰り家に入る。



弟「あ、兄ちゃんおかえりー」


妹「お帰りなさい~」



まだ小学生にもなっていない歳の離れた弟と妹が迎えてくれた。



母「あらお帰り」



台所にいる母さんにも声を掛ける。

いつもとは違い忙しそうに料理をしている。



『今日は父さん帰ってくるんだっけ?』


母「そうなのよ、それだけじゃなくってね」




どうやら新米の艦娘を2人一緒に連れてくるとのことらしい。

それを急に聞かされた母が忙しそうに追加の料理を準備していた。




父が帰ってくるまでに俺も何か手伝おうかと言ったが、弟と妹の子守を頼まれた。

そんなことはいつもしていることなので少し申し訳なかったが母の言われた通り、父が帰るまで弟と妹と遊んでやることにした。


俺はこの歳の離れた弟も妹も大好きだった。

おもちゃを買ってやるためにバイトをしていたくらいだ。


二人も俺に懐いてくれて誰から見てもきっと仲の良い兄妹にしか見えなかっただろう。



















父「ただいまー」


弟「あはは!兄ちゃんそっくりだ」




俺と同じような言い方をしながら父が玄関から家に帰ってきた。



妹「パパおかえりなさい~」


父「ただいま、良い子にしてたか?」


妹「うん」



まだ小さい妹は父が帰るといつも抱っこをしてもらっている。

そのほほえましい光景につい笑みが零れてしまう。


しかし今日は他の客人がいるのがいつもと違った。




父「紹介するよ。最近うちの鎮守府に来た艦娘だ」



父のその言葉に二人が一歩前に出る。




黒潮「陽炎型駆逐艦 3番艦の黒潮や、よろしゅうな」


親潮「陽炎型駆逐艦 4番艦の親潮です!よろしくお願いします!」



しっかりと敬礼して挨拶をする二人に思わず言葉を失った。




うちの弟や妹と少しくらい年上にしか見えないこの少女達は父と同じ軍人なのだと実感させられたからだ。





父「まだ着任したてで慣れないこともあるだろうから交流のためにも連れてきたんだ。話し相手になってやってくれよ?」





『え?俺が?』




確かに弟達だと話し相手どころか遊び相手になってもらう側だろう。




黒潮「まぁまぁ、そんなに固くならんでええからね」


親潮「どうかよろしくお願いします!司令には…お父様には日ごろ…」




『はは…よろしくな』




こんなにも対照的な二人を相手にするのかと少し苦笑いをするしかなかった。




父が家にいる3日間、俺が彼女達の話し相手になるこことなった。




























父は海軍提督であり、艦娘達を率いて国を守るのを仕事としていた。



そのため小さい頃から家を空けることが多く、俺も母も寂しい想いをすることが多かった。


しかしそんな父を周りの人達が『格好いい』『立派だ』と褒めてくれることもあって

いつしか寂しいなどという気持ちは消えて父を誇りに思うようになった。




黒潮「ははぁ、司令はんが…お父さんが大好きなんやねえ」


親潮「その気持ち、大変よくわかります!素晴らしいと思います!」


『恥ずかしいから父さんに言わないでくれよ?』



彼女達が父の部下ということもあってかいつもは口にしないことを話してしまった。

それほどまでに二人に対しどこか仲間意識のようなものを感じてしまっていた。


これまでに父が軍人であることなんて誰にも共有できなかったっけ…。



黒潮「あはは、どうしよっかなー?後でこっそり教えてあげよっかなー」


親潮「く、黒潮さん!?」


『お、おい、言うなって!』




気軽さが魅力的な黒潮とその真面目さが魅力の親潮



俺はすっかり彼女達を気に入ってしまい自然と仲良くするようになった。




翌日から学校が休みだったということもあり、二人を町に連れ出したり



自分の気に入っている料理が食べられる店を紹介して奢ってあげたり



景色の良い場所や遊べる所などを余すことなく紹介した。




この地を訪れた彼女達に少しでも良い思い出ができればという気持ちが強かった。



彼女達がこの国を護り、命を懸けて戦っている。



小さくても、少女にしか見えなくても…彼女達は軍人なのだ。




黒潮「おおきに、な」


親潮「本当に…ありがとうございました!」




いよいよ明日がお別れとなるという前の日、彼女達は俺に深々と頭を下げてお礼を言った。




どう返事をしてやろうか正直迷ったが…




『またいつでも来てくれ、待ってるからな』



そう彼女達に伝えた。



彼女達が無事でいてくれますように、と


再会したい、そんな願望を込めてしまったからだ。




俺の言葉に少し戸惑った二人だったが…




黒潮「ええよ、約束や」


親潮「私も!必ずまたお会いしましょう!」




そう笑顔で答えてくれた。































家に戻り夕飯を済ませて風呂から出た時のことだった




父「ああ…を変えるには…もうこれしか…」




『…?』




父が深刻そうな顔で誰かと電話をしていた。



あまり見たことの無い父の姿に少し不安になり俺はすぐにその場を離れ、黒潮と親潮を探した。

父のことを二人から聞き出すためだった。



しかし家のどこにも黒潮も親潮も見つからず…

心配になって外を見に行こうと思った時、玄関から親潮が家に入ってきた。



『こんな時間にどこへ…』



そう聞こうとした俺の言葉が詰まる。




親潮「…」




親潮が顔面蒼白で心ここにあらずといった感じだったからだ。




『お、おい大丈夫か?』


親潮「え…?」



ようやく俺から声を掛けられていることに気づいたようで親潮が顔を上げた。



親潮「な…なんでも…」


『しかし…』


親潮「失礼します…」



親潮はそのまま俺の隣をすり抜けるように部屋に向かって行った。



黒潮「た、ただいま…」



親潮と同じように黒潮が家に帰ってきた。

手には大き目のタブレット端末が握られている。



『な、なあ…黒潮、一体何が…』


黒潮「あの…その…な?」



黒潮は答え辛いのかしどろもどろになっている。

こんな彼女を見るのは初めてだった。




黒潮「今日はその…『あの日』なんや、ごめんな」


『え…そ、そっか…』



それがどういう意味かわからない歳では無かったのでこれ以上追及できなくなってしまった。 



申し訳なさそうな顔をして黒潮が家へと入って部屋へと向かった。





『…』





どうしようもない不安を残したまま俺は独り立ち尽くすことしかできなかった。






























深夜…



翌日も学校が休みということもあって俺は2階にある自室のベッドで天井を眺めていた。


何時になっても眠りにつくことができない。


さっきみた父の様子


黒潮と親潮のおかしな態度が気になってしまっているからだ。




『何事も無ければいいけど…』




そう心配しながら電気を消して無理やりにでも眠りにつこうとしたが…

















『え…?』






1階から妙な物音が聞こえた。



聞いたことが無い、何事か判明することのできない音だった。





1階の部屋ではいつも母と弟と妹が一緒に眠っている。

今は父がいるから4人一緒に眠っているだろう。



聞いたことの無い妙な物音が気になった俺は1階へと向かった。


























黒潮「終わったで…」




黒潮…?


両親と弟、妹が寝ているはずの部屋からなぜか黒潮の声が聞こえた。




親潮「う…あ…」




親潮の声もする。

声というには難しい呻き声のようなものに聞こえた。





黒潮「早う行かんと…!」


親潮「は、はい…」




(何を話しているんだ…?)



終わった?


何が終わったって…




俺は恐る恐る部屋を覗いてみる。






『…っ!!!』






黒潮と親潮は艤装を付け



その機銃からは硝煙が立ち込めていた






彼女達は返り血に染まっている




誰の…?



そんなことは考えるまでもなかった




まさか…




黒潮と親潮がその血をどこで浴びたのか…?




恐る恐る視線を向ける…






父が


母が


弟が


妹が




4人が眠っているはずのベッドが穴だらけになっていて



白いシーツが真っ赤に染まり



その面積を徐々に広げ



床にポタポタと血が滴り落ちていた…







『ぅぁ…っ!?』




俺はその事実に身体が耐え切れなかったのか、腰を抜かしてその場に尻もちをついてしまった。






黒潮「だ、誰や!?」


親潮「く…っ!!」




親潮が俺に機銃を向けて



躊躇なく引き金を引いた





音はほとんど聞こえなかった気がする



サイレンサーを装着していたのか詳しいことはわからないが大きな音がしなかったのは確かだ






『うぐっ!?ぐあああぁ!!うぎゃあああああ!!』







俺は腹部を撃たれ痛みと衝撃、受け入れがたい現実に断末魔のような悲鳴を上げた。




撃たれたのは1箇所だけだったのだがこの時は気づくこともできない程に混乱していた。





黒潮「親潮!何しとるんや!?」



親潮「あ…ああ…」





俺は床に倒れながらも家族を撃った仇を睨む。





『な…なんで…!っぐ!ど、どうして…!?』



なぜだ…


どうしてこんなことを…!



脳裏に過るのは今日の夕方、二人が見せてくれた笑顔と約束。


あれはいったい何だったんだ…どうして、どうしてこんなこと…





薄れゆく意識の中




黒潮「早う逃げるで!さっさと報告せんと!」



親潮「あ…は、はい…!」




俺を置いて逃げ出す彼女達の声を聞いていた




『ま…待て…』




俺の霞んだ声は虚しく消え



絶望的な光景から目を背けるように意識を失おうとした。







??「…ゲホッ…」





撃ち殺されていたはずのベッドの中から声が聞こえた。




まだ生きている!?



そう希望を持った俺は無理やり意識を覚醒させて這いずるようにベッドに移動した。




布団を剥ぐった時、全身を穴だらけにされた父と母、そして妹の無惨な死体が見えてしまったが




『だ、大丈夫…か…!?』



弟が手を伸ばしてこちらに助けを求めていた。




『今…兄ちゃんが…』




兄ちゃんが助けてやるからな。



そう言おうと思ったのに…





弟「ゲフォ…!ッグ…ゴポ…」





喉を撃ち抜かれていた弟は口と銃傷から血を流すだけで何も答えられない。



急がなければ…!!


自分はどうなっても良い…

せめて弟だけは…!



そう思って途切れそうな意識を保ち


痛む身体を圧して弟を抱えようとした。





しかし…





弟「…」





俺に伸ばしていた弱々しい手がベッドに落ちて




弟は目を開けたまま絶命してしまった…










『あ…ああ…』







大切なものが



家族が



一瞬にして命を奪われ





絶望的な光景が脳裏に刻まれていくのがわかった









『ぐああああああああああああああああ!ぎゃあああああああああああああああああああああ!!!!』







痛みも苦しみも忘れ、ありったけの力で叫んだ







殺してやる!!




殺してやる!!




黒潮!!親潮!!




絶対に殺してやるっ!!!








俺は這いずりながら玄関へ向かう




しかしすぐに限界が来たのか意識が途切れ始めた






死んでたまるか!!







死んでたまるか!!!!!






あいつらを殺すまで、絶対に死んでたまるか!!!!









憎悪の炎を滾らせながら俺は玄関へ向かった。











殺してやる…!!






絶対に…!






お前らを許して…





たまるか…











俺は心の中で復讐の想いを滾らせたまま




玄関を出たところで完全に意識が途切れさせてしまった。


















??「だ、大丈夫か…!?」





その後、父の友人である別の提督が家を訪れたため







??「必ず、助けてやるからな!!」






俺の命はギリギリのところで繋ぎとめることができた。


















独り




生き残ってしまったのだった…


























【3日後 ????】






『…』





ゆっくりと…意識を覚醒させる。




ここは…?




視界を右へ、左へと彷徨わせ状況を把握しようとするが一向に掴めない。





??「気が付いたか…!」




声のした方へと視線を向ける。




この人は…確か…




見覚えがあった。

確か父の友人で…同じ海軍の…






『…っ!!』





いきなり脳裏に何かが突き抜けるような感覚に襲われる。











血だらけのベッド




返り血を浴びた…艦娘と…




俺に手を伸ばしながら…命を喪った弟と








全身を穴だらけにされた父、母、妹の無惨な…



















『うわああああああああああああああああああああああああっ!!!!』






父友人「お、おい!!」







惨劇のフラッシュバックに俺の精神は焼き切れそうだった。








『あああああああああああ!!うっぐああああああああああ!!!!』



父友人「大淀!!先生を呼んでくれ!!」





ベッドから落ちて転げ回った



傷が開き、腹から血を流してもそれが治まることはなかった






その後複数人に捕らえられ



精神安定剤と鎮痛剤を投与され



俺は再び意識を闇へと放り出した。




























父友人「大丈夫か…?」




再び目を覚ましたのは2日後だったらしい。



心配そうに俺を覗き込む父の友人にようやく俺も少し状況を把握するよう脳を働かせ始めた。




ここは父の友人の伝手で入院することになった闇医者らしい。



彼はたまたま俺の家を訪れて倒れている俺を発見、ここへと運んでくれたらしい。




父も、母も、弟も妹も…助かるような状態では無かったと聞かされた。



それは知ってはいたけれど…改めてみんな殺されたのだと自覚し、悔しさと悲しさで涙が零れ続けた。






『あいつらは…?』



父友人「…」





俺の家族を殺した艦娘はどうなったのか?


そう問い掛けたが父の友人は口を噤んで黙ってしまう。




何度もしつこく聞いてきた俺に観念したのかあの日の2日後の新聞を持ってきてくれた。








『何だよ…これ…』







そこに書かれていた内容に俺は驚愕した。




《海軍中将宅で無理心中 家族5人の死亡が確認される》




何度も何度も、他の新聞を読み漁っても


艦娘の名はどこにもなく


どの新聞も無理心中と掲載されていた。


家族5人の死亡…そこには自分の名前もあり、既に死んだことにされていた。






『ふざ…けるな…!!ふざけるなぁあああ!!!』




真実は闇に葬られたのだと認めたくない事実を突きつけられていた。


父を褒めていた近所の人や関係者は掌を返したように父を侮辱し、貶している記事が書かれていた。





父友人「今回の事件は上からの圧力によって…」




そんなことだろうとは思ったがこの時は耳を貸さなかった。



尋常ではない程に強い怒りと悔しさの感情で自分が壊れそうだった。


食いしばった歯から血が流れ、握りしめた拳からも爪が喰い込み血が流れていた。




(あいつら…!絶対に許さない…!俺が…見つけ出して…!)




心の中で復讐を誓い繰り返しているが何の当てもないこの状況は徐々に自分を追い詰め、壊し始めていた。







父友人「なあ…」






そんな時だ、父の友人がある提案をして来た。






父友人「俺の養子に入る気は無いか?」




彼がなぜこんなことを言ってくれたのか、この時はわかるはずも無かった。




養子になることを提案しただけではない。



このまま俺が生きていることが公になってしまっては今回の事件を揉み消したい海軍の上の人間から俺自身の存在を消される可能性がある。


そのため父の友人は俺を生まれ変わらせようとする提案をしてきた。




声を変え


顔を変える。



今現在入院しているのこの闇医者なら可能だということだ。




そしてどこの誰ともわからないものの戸籍を取得し




名前を変えることを勧めてきた。







『そんな…』



父友人「そうでなければ君を護ることはできない…」




彼の言いたいことは理解できる。



だが心の中ではそれを拒絶したかった。




自分であることを捨てて…何が残るというのか…?











しかし…










『お願い…します…』









俺はその提案を受け入れた。




自分を捨てでも…あいつらに復讐してやりたい気持ちの方が圧倒的に大きかったからだ。





また悔しくて泣いた。




自分を捨てること



家族との絆を切ってしまったこと



家族を喪った悪夢と



艦娘達に裏切られた怒り




それらの感情が混ざり合い、自分の水分が枯渇するんじゃないかと思えるほどに泣き続けた。
































それから10年…




父の友人…いや、養父とともに暮らしていた俺は




海軍の訓練校に入った。






いよいよ復讐の本番に入ろうかという時だというのに














俺の復讐の気持ちは既に薄れようとしていた…

















【養父の家 リビング】





養父「訓練校での調子はどうだ…?」



養父とテーブルを挟んで朝食を摂る。

こうして養父と食事を摂るのは久しぶりだ。



『今日から特別訓練だとか、考えるだけで気が滅入るよ』


養父「何言ってるんだ、自分から海軍に行くって言ったくせに」


『そうなんだけどさ…』





俺が海軍に行くと言った時、穏やかな養父は猛反対した。



あんな惨劇があったのにも関わらずどうして!?

お前を海軍に関わらせたくない!

まさかお前、まだ復讐するつもりじゃないだろうな!



そう言って俺を海軍に行かせないようにと必死で止めようとした。


しかし俺が『この家を出て行ってでも考えを変えるつもりは無い』と言うとようやく折れてくれた。



心配してくれる養父には申し訳なかったが…俺の中で決着のついていないあの日の悪夢のことを考えるとどうしても海軍に入りたかった。



今でもあの日の悪夢に悩まされることはある。


しかしこの10年の間にその悪夢を見る頻度は減り始め、徐々に記憶の奥底へと追いやられていった。




そのことを自覚している自分に対し苛立ちを感じていたが…最近はそれでも良いと思っている自分がいた。


それは…




『身体は大丈夫?』


養父「ああ…お前が一人前になるまでは死ぬわけにはいかないさ」


『なに言ってんだよ…』



養父はここ数年、病の床についていた。


癌を発症し、入院・治療のため海軍を任意引退という形で離れ、今は自宅療養ということで家にいることが多い。



そんな養父のことを思うといつまでも自分の復讐のためにと囚われていてはいけないんじゃないかと思うことがある。







大淀「こちら、お下げしますね」


養父「ああ」




養父の元秘書艦の大淀が食べ終えた食器を下げる。


この艦娘大淀は養父が引退した後も甲斐甲斐しく世話を焼きにこの家を訪れていた。

最初は養父も遠慮気味にしていたが、そのうち一緒に暮らすようにもなった。



正直俺はこの大淀が苦手だった。



家族を殺した艦娘と同じということはもちろんあった。

最初は顔を見るだけで罵倒し物を投げつけたりもした。


そんな一方的に嫌っていた俺に対し、大淀は悲しそうに顔を伏せるだけで何の抵抗もしなかった。



その悲しそうな顔、俺に対する憐みを含んだ瞳がいつも気になっていた。


どうして彼女はここまで俺に対して何の抵抗もしないのだろう?

大淀が養父のことを愛しているのは普段の態度からわかっている。


だとすれば彼女にとって俺は邪魔な存在なだけだ。


そんな俺に対してどうして彼女は…





そう思い続けていたせいか、俺の艦娘に対する考えは徐々に軟化していった。




『ごちそうさまでした、それじゃ行ってきます』


大淀「あ、はい。いってらしゃい」


養父「身体に気を付けてな」


『それは俺のセリフだっての…大淀、養父さんのことお願い』


大淀「はいっ」




このように自分の感情を隠しながらではあるが大淀にも話し掛けられるようになった。


それが嬉しいのか大淀も養父も笑顔で俺を送り出してくれた。






(いつまでもこのままじゃいけないよな…)





そんなことを思いながら俺は訓練校へと歩き始めた。








【訓練校】




『艦娘と交流…だと…?』



まさか特別訓練の内容がこのようなものだとは想像していなかった。

訓練内容は艦娘との交流及び訓練の指示、その内容をまとめ報告することだった。


確かに今の海軍は艦娘達の力無くして国防はままならない状態ではあるのだろうが…。

俺は海軍に入っても海軍提督になるつもりは無かったのでこの訓練内容に頭を悩ませた。


大淀とは長い間一緒に暮らしたからこそ会話をできるようになっただけであって他の艦娘との交流など自信が全くなかった。



おまけに…




グラーフ「今日からお前らの教官を務めるグラーフ・ツェッペリンだ」



教官も艦娘だった。それも海外艦の正規空母。

とても気が強そうで逆らうことなどできそうにない雰囲気を身に纏っている。


変に波風を立てないように気を付けないと、と内心ため息を吐いた。





【訓練校外 海岸】




睦月「睦月ですー!張り切ってまいりましょー!!」


如月「如月と申します、おそばに置いて下さいね」




『よろしく…』




よりによって交流する艦娘が駆逐艦とは…



どうしても黒潮と親潮の影が頭を過り、顔をしかめないよう気を遣うので精一杯だった。

せめて大淀と同じ軽巡クラスだったなら…と思わざるを得ない。




如月「司令官…?」


睦月「大丈夫?」



俺がまともな返事ができなかったせいか二人が俺を心配そうにのぞき込んでいた。



『何でもない、それじゃあ始めようか』



俺は早速二人に指示をして訓練を開始するようにした。

















少し離れた位置の睦月と如月は自由に海を走り、演習場に立てられた的に次々と砲撃を繰り返し、撃ち倒す。




(くそ…)




親潮に撃たれた右の腹部が嫌な疼きに襲われる。



睦月達の砲撃を見ていると嫌でもあのことが頭を過る。




俺は視線では彼女達を見守っていても頭の中では嫌な記憶と戦い続けていた。












グラーフ「…」












遠くから教官が俺を見ていたことなど気づく余裕すら無かった。










『それでは今日はここまで、お疲れ様』



睦月「お疲れ様でしたー!」

如月「お疲れ様でした」



戻ってきた二人と挨拶をして足早にその場を離れた。


これ以上彼女達と接しては精神的に限界が来そうだったからだ。






_____________________







睦月「あの人…一回も目を合わせてくれなかったね…」


如月「うん…」



その場に残された二人は寂しそうにその場を離れて行く彼の背中を目で追っていた。




如月(でも…何か異様に疲れてた…一体どうしたのかしら…)






_____________________








訓練校へと戻る道を歩いていると別の訓練生と艦娘の組み合わせを見掛ける。



同期の白友と睦月型の…三日月と望月…だったか?




白友「よし、二人ともよく頑張ったな!」


三日月「お疲れ様です司令官!」


望月「お疲れお疲れ、はー疲れたー」


三日月「ちょ、ちょっと…そんなこと言って…」



望月の適当な言い方に三日月が窘める。



白友「いいよいいよ、本当に頑張ってくれたんだから。お礼と言っては何だがこの後一緒に甘味でもどうだ?もちろん奢らせてもらうよ」


望月「ほ、ホントに!?」


三日月「い、いいんですか…?そんな…」


白友「ああ。艦娘との交流も訓練のうちだからな。君達さえ良ければ…」


望月「やっりぃ!早く行こう行こう!」


三日月「司令官、ありがとうございます!」





誰かさんとは違い、白友と艦娘達は楽しそうに町への方へと歩いて行った。





同期の白友は小さい頃、艦娘に家族と自分の命を救われたことがあると入校式の首席挨拶の時に行っていた。


そのため彼は海軍提督を目指し海軍に入った。



命を救われた艦娘に恩返しがしたいという高い志を持って…



『…』



本当、誰かさんとは大違いだな。




俺は艦娘に家族の命を奪われ




白友は艦娘に家族の命を救われた





そんな彼との違いに俺は強い嫉妬を感じてしまう。



俺は…本当は…







グラーフ「おい」




思考を完全に白友のことに奪われていたためグラーフ教官の接近に気が付かなかった。


俺は慌てて彼女に敬礼を決める。



たとえ艦娘であっても今の彼女は俺達の教官、上司に当たる者だからだ。




グラーフ「なぜ手を抜いた」


『え…?』




一瞬何のことかと思ったがどうやら先程の睦月達とのことを言われているらしい。



『手を抜いたつもりは…』


グラーフ「…」


『…』




彼女の射貫く様な眼光に言葉を詰まらせる。



何度も戦場を経験した者の目だ。

俺なんかがまともに見返せるはずも無かった。




『申し訳…ございま…うっ!?』


グラーフ「お前…」



いきなり胸倉を掴まれ、強い力で引き寄せられる。




殴られるのか…!?と思わず身を竦ませてしまう。





グラーフ「何を隠している」


『…!?』



心臓を鷲掴みにされるような気持ちになった。





こいつ…俺のことを…!?





グラーフ「ほう…そんな顔もできるのだな。講習の時も艦娘と向かい合っている時も何の興味もないような顔を作っていたくせに、くくくっ」



いや…そうではない…?



グラーフ「安心しろ、私はお前の正体が何なのかは興味がない。あるのは…」



グラーフ教官が俺から手を放し、人差し指を立てて俺の胸を指す。




グラーフ「お前が閉じ込めている感情だ」


『え…』




感情…?



グラーフ「なぜ解放してやらない?」


『べ、別に…そんな…』





内心は胸の高鳴りで吐き気を覚える程だった。




俺が…閉じ込めているもの。


それは…







グラーフ「溜め込んだ感情を爆発させるのは気持ちが良いぞ」








考えを巡らせている俺を置いて



グラーフ教官は恐ろしい笑みを見せながらその場を離れて行った。



















その晩、久しぶりに悪夢を見た。









黒潮が



親潮が




俺の家族を皆殺しにして








その場に立っている俺の手が血で真っ赤に染まっている






そんな悪夢を見て





腹にある銃痕の周りを掻き毟ってしまい、また新たな傷を作ってしまった…




















【翌日 訓練校内教室】




寝覚めが悪く体調も最悪のまま翌日を迎えてしまった。


今日の午前中は講義中心のため外に出ることが無いのは助かった。


昨日のように艦娘と何かしろと言われたら精神的に参ってしまい途中でぶっ倒れる可能性もありそうだったからだ。




グラーフ「では講義を始める」




しかし教官は艦娘のグラーフツェッペリンだった。

こいつの存在が俺に悪夢を見せたということもあって気が滅入って仕方ない。


それだけでなく…



グラーフ「…」


『…っ!?』



時折俺に対して妙な視線を送ってくる。


観察したり何かを疑っているような目ではない。



俺を何かに誘うような妖艶さすら感じさせる目をしている。



『お前も早くこちらへ…』




そんなメッセージを送られている錯覚に陥る程にグラーフ教官からの嫌がらせは続いた。






おまけに…





グラーフ「最後にお前達のやりたいこと、してみたいことを発表しろ」




講義の締めにこんなことを言ってきた。

まるで小学生の発表みたいなことを言う教官にその場に居る多くの者が苦笑いをしていたのだが…



グラーフ「言っておくが…」



グラーフ教官が教壇の机を両手でバンッ!と叩く。


音が大きくて全員が身体をビクつかせたが、それだけではなく粉々に砕けた机にその場の者が全員震え上がった。



グラーフ「適当なことを言って本心を隠した者はこうなると思え」



こうして教壇に立って俺達に講義をしているとはいえやはり艦娘、危険であることには変わりないようだ。



グラーフ「心配するな、この講義はここだけの話にしておいてやる」



それにしても…『やりたいこと』か…。






グラーフ教官の威圧に負けて訓練生達が次々と自分の本当にやりたいことを発表しはじめる。




大金を持って夜の街を侍らせたい。


あのアイドルと一発やりたい。


本当は海軍なんか入らずに旅に出たい。




そんなそれぞれの隠された欲をさらけ出していく。


次第にそんな空気に当てられたのか、その場で講義を受けている同期生達の無遠慮な欲を発表するようになっていった。




しかしそんな中…




白友「私のやりたいことは穏健派のトップになり、海軍元帥となって艦娘達を護れる立場になることです!」




臆しもせず、恥ずかしげも無く白友は言い切った。

周りも『何を奇麗ごとを…』と思うことも無く唖然とするしかなかった。

白友の場合、本心から言っているからだ。


その証拠にグラーフ教官も何も言わず次を促したからだ。



そんな白友が羨ましいと思わざるを得ない。

あいつは艦娘に助けられたのだからな…




それに対して…俺は艦娘に家族を…




だとしたら俺のやりたいことは?


家族を殺された俺がやりたいこと?


本当に…やりたいこと…




『…!?』



一瞬自分を黒い影が包み込もうとする錯覚に襲われる。





俺は…俺を引き取り育ててくれた養父と、


冷たく接してきたにも関わらず優しくしてくれた大淀の顔を思い浮かべ、


悪い考えを振り払った。





同期「おい…お前の番だぞ…」



隣の同期生に声を掛けられてハッとする。


顔を上げると周りの同期達から注目を集め、グラーフ教官からは睨まれていた。




グラーフ「どうした、早く話せ」


『あ…ぅ…』




まるで蛇に睨まれた蛙のように固まってしまい何も話せなくなる。




いや…本当は自分の中の本音を言いたくなかっただけなのか…?



どうしようもできない状況で助けを求めるようにグラーフ教官を見てしまう。






奴は醜い笑みを浮かべ、俺を嘲笑っていた…。






グラーフ「お前は後で1階小会議室に来い、その性根を叩き直してやる」


『はい…』


グラーフ「それでは講義を終了する」





講義を終えても俺は呆然と立ち尽くすことしかできなかった。



他の同期生達の「お前だけ隠すなよー」「一体どんな欲望を隠してんだか…」という笑いと呆れの声が少しだけ励みになってくれた。






【1階小会議室】




グラーフ教官に言われた通り1階の小会議室を訪れる。


この後はまた睦月と如月との交流が待っているため二重に憂鬱な気持ちになってしまう。




グラーフ「来たか」



グラーフ教官は椅子では無く机に座って俺を待っていた。

どうやら真面目に話をするつもりは無いらしい。



『先程は…すみませんでした…』



内心ウンザリしながらも俺は先程の講義の時に何も答えられなかったことを謝った。




グラーフ「そんな上辺だけの謝罪などいらない」



グラーフ教官が机から降りて俺の方へ近づいてくる。



グラーフ「ここには私とお前だけだ」



彼女は俺に両手を伸ばしてきて頭をガッチリと固定してきた。




グラーフ「お前の本当に望むものを聞かせてみろ」



逃げ出そうにも艦娘の力は強く動くことができない。



グラーフ「目を逸らすな。私の目を見ろ」




彼女の力強さに抵抗できず、小会議室の壁に追い詰められる。



グラーフ「くくっ…お前は本当に良い目をしている」


『え…?』


グラーフ「人間でいるにも関わらずまるで深海棲艦のような目だ。一度死んでいるのに…その瞳の中に数えきれないほどの怨念を閉じ込めている…」





一度…死んでいる…



俺はあの時…親潮に撃たれ、生死の境を彷徨い



復讐を誓うために自分の姓を捨てて生きることを誓った…






グラーフ教官は両手を放し、俺の首の後ろに両手を回して優しく抱きしめる。


心地よい感触と彼女の香水の匂いに頭がクラクラとしてきた。








グラーフ「言葉にしなくてもいい…」








彼女が耳元で囁く。








グラーフ「お前のしたいことを頭に思い浮かべろ」










まるで催眠術に落ちるかのように




俺の意識は半分覚醒、半分夢の中という不思議な感覚に陥ってしまった



























俺が本当にしたいこと…?






そんなこと決まっている。






俺の家族を殺した黒潮と親潮…



そしてその背後にいる奴への復讐だ






ただ奴らの命を奪うだけじゃ物足りない




俺のように目の前で大切な者の命を奪われた苦しみを味わわせてやる






特に俺をも殺そうとした黒潮や親潮には簡単に済まされると思うなよ







お前らの同型艦を目の前で犯し、傷つけ、生きていることが絶望になるほどの恥辱を味わわせ





そのうえで命を奪ってやる







それから…その背後にいるであろう海軍の奴は…








俺の家族を殺したことで得たであろうものを全て奪い…












そう思うだけで全身の血が滾り、下半身が熱く昂り





今すぐにでもそのための行動に起こしたい衝動に駆られるが





























『っぅぐ…!?』





急に親潮に撃たれた傷に強烈な痛みが襲う。





グラーフ「くくっ、あははははははは!」





グラーフ教官の高笑いに俺の意識はハッとする。



グラーフ「どうやら私の想像以上のものを隠しているようだな!」



俺を嘲笑う彼女に恐怖と怒りが混ざった感情に襲われその場を逃げ出そうとする。

意外にも彼女はそれを止めることはしなかった。




グラーフ「どうせ逃げられはしない。お前はその感情を爆発させるか、お前自身が壊れるまで閉じ込め続けるか、そのどちらしかないのだからな。あははははははは!」




『くっ…!!』




耳を塞ぎたくなるような彼女の嘲笑に俺は小会議室から逃げ出した。























違う…




違う違う…!!





俺は…




復讐なんか望んでいない…!






養父と大淀が俺を育てて見守ってくれたことを思えば…こんな感情…!!







自分が壊れてでも閉じ込め続けてやるっ!!


















気が付くとシャワールームで服を着たまま頭から冷水を浴び続けていた







全身を滾る何かを無理やり押さえつけるようなその行為は






自分の歯がガチガチとなり、寒気に全身が震えても続けられた











【訓練校内教室】




同期「おい、大丈夫か?」


『ああ…』



きっと酷い顔をしているのだろう。

同期生の奴らが俺を心配してくれている。


グラーフ教官に絞られたのだと思われているだろうが、実際は冷水のシャワーを浴びすぎて身体が不調になっているだけだ。


昼飯を食い終えたら艦娘との交流か…増々憂鬱になるな…。





「どう?艦娘と上手くやれてる?」


「艦娘ったって女だもんなぁ…正直距離を測りかねているというか…」


「白友はすげーよな、さっそく街へ一緒に行ったんだって?」




そんな雑談が聞こえてくる。




白友「彼女達も人間と同じだよ。変に距離感を作ろうとすると向こうも気を遣うんじゃないか?」




その話に白友はしっかりと受け答えをしている。



そんな白友の話につい余計な口を開いてしまう。





『あんな兵器を乗せた人形に何言ってんだか…』





きっとグラーフ教官とのことで疲れていたのだろう。

いつもだったら飲み込めるはずの言葉が口に出てしまった。




白友「おい!それはどういう意味だ!」




案の定白友が怒って俺の胸倉を掴む。



『言ったままだよ。気を付けろよ白友。うっかりあいつらを怒らせたら危ないのはお前なんだからな』


白友「…お前っ!!」




周りの同期生達が止める間もなく俺は白友から顔面に一発お見舞いされる。


それがグーではなく平手だったのは彼なりの気遣いだろうか。



これだからこいつは嫌いになれないんだよな…。







その後、別の教官が何事かと教室を覗いたが『相撲してました』とか言って適当に誤魔化しておいた。












【訓練所 海岸】





如月「司令官…?」


睦月「大丈夫?」


『ん…?』




ずっと上の空で艦娘との交流の時間を過ごしていたため、またボーっとしていたのか睦月と如月に声を掛けられるまで彼女達が演習を終えていることに気が付かなかった。

先程白友に叩かれた頬が少し紅くなっているのだろうか?二人の視線は頬に注がれている。



『何でもない。それじゃあお疲れ様』



睦月「お疲れ様ー」

如月「お疲れ様でした」



この場に居るのも嫌になってさっさと寮に戻ろうとした。



しかし…このまま眠ってもまた悪夢を見ることは間違いなさそうだ。



(だったら…)



自分から行動を起こして何かを変えようと思った。


グラーフ教官の言う通りになってたまるかという反抗心もあったのかもしれない。




『なあ…』



如月「はい?」

睦月「なぁに?」



その相手が駆逐艦というのも自分の中の何かを変化させるのにはちょうど良い。




『艦娘って…何を贈られれば喜ぶんだ?』



しかしコミュニケーションの取りづらい艦娘が相手ということで中途半端な質問をしてしまう。



睦月「ふぇ?」

如月「えっと…」



二人の戸惑った反応に気まずくなり



『すまん、やっぱり忘れてくれ』



そう言ってその場を離れることにしたのだが…




如月「あ。待って」



如月が俺の服を優しく摘まみ笑顔を向けてくれる。




如月「誰に、どんな贈り物がしたいのか詳しく教えて。ね?」




彼女が一歩踏み出してくれたことで何かが動き始めてくれた。





そんな彼女に応えるために俺は大淀のこと、艦娘を苦手としていること


そして俺に優しくしてくれた大淀へ何か贈り物をしたいことを伝えた。



如月「だったら…」



如月が俺の手を優しく握る。



如月「一緒に選んであげるから街に行きましょう」


『え…』


睦月「うん!そういうことなら睦月も頑張って力になりますよー!」



反対の手を睦月が握る。





彼女達に引っ張られるまま、俺達は町の方へと歩いて行った。







【訓練所近郊 街】




色々と話し合った結果、睦月と如月を連れて花屋に入ることにした。


「ありきたりだが想いを伝えるのにはお花が一番」と二人が教えてくれたからだ。




如月「どんな花言葉を込めたい?」


『感謝…かな…』


睦月「えーっと…ピンクのバラと…」


如月「白いダリアね」




二人が花を見繕ってくれて奇麗な贈り物になるよう色々としてくれた。




如月「いつ届くようにするの?」


『えっと…』




カバンからスケジュール帳を取り出し、次に帰る日を確認する。



(元帥の就任パーティの翌日から2日休みか…帰るとしたらそこだけど…でも当日だとなんか恥ずかしい…)



少しだけ照れが勝り、自分が実家に帰ってこちらへ戻るであろう日にしておいた。



如月「すみませーん」



慣れているのか、如月が店員を呼んで贈り物が郵送されるよう手続きを手伝ってくれた。

睦月もより華やかになるよう、自分では思いつかないようなデコレーションをしてくれた。



睦月「準備完了にゃし!」


如月「後は…メッセージカードを入れて」


『わかった』



大淀へのメッセージを送るために先程書いたカードを入れて梱包を完了した。




『ありがとう、助かったよ。何か礼をさせてくれ』


睦月「そんな、別にこれくらい…」


如月「あら、そう?だったら…」



遠慮しようとする睦月と対照的に如月が店の中からひとつ花を選ぶ。



『こんなことで良いのか?』


如月「ええ、買ってくれるかしら?」


『ああ』


睦月「あ!だったら睦月も良い!?」


『好きなのを選んでくれ』




睦月は山茶花を、如月はアネモネを選んで1輪ずつプレゼントした。




睦月「ありがとう!提督!」


如月「ありがとう、司令官」


『こちらこそ礼を言う。今日は付き合ってくれてありがとう』




笑顔を見せてくれた二人に胸の中が暖かくなった気がした。



(なんだ…俺にもできるじゃないか)



しかし心の中ではいつまでもグラーフ教官への反抗心のようなものは無くなっていない。



(こうして…艦娘と笑い合うことも…)











そう思った瞬間…











『っぐ…!?』


睦月「どうしたの!?」


如月「司令官!!」










親潮に撃たれた傷が尋常ではない痛みを発する。









頭の奥底から何かが聞こえる。















艦娘と交流し




笑顔にした後…





どうなったと思う?







家族は艦娘に殺され




お前は傷つけられ




全てを喪ったんだろう…?














心の奥底にまとわりつくその声は





グラーフ教官のものと同じような気がした









「…れぃかん!」




「司令官!!」





『はっ…!?』





如月「一体どうしたの?急に苦しそうな顔をして…」


睦月「どこか痛いの…?」


『いや…大丈夫、少し古傷が痛んだだけだ…気にしないでくれ』


睦月「そう…?」


如月「今日はもう帰りましょうか」


『ああ…』






先程までとても気分良く彼女達と接していられたはずなのに…


急に恐ろしくなった気がして二人と目を合わすことができなくなっていた。















【訓練所 正門前】




街から訓練所に戻る間、二人が気遣って何かを話し掛けていたような気がする。


しかし俺はずっと上の空でその話を聞くことができなかった。




そしてようやく訓練所に戻ってきた。




『今日はありがとうな』



訓練所に戻り二人と別れることにした。

自然と早足になってしまいさっさと二人の居ない場所で休みたかったからだ。



如月「待って…!」



如月に袖を掴まれたがそれを振り払おうとする。

しかし彼女の力は強く振り払うことができなかった。




如月「こっちを見て…」


『…』


如月「お願い…こっちを見てよ…」




如月を振り切ることができず、渋々彼女を振り返る。


視線を合わせることができずに俺は俯いていたのだが…



如月「えいっ」


『…っ!?』



如月が両手を伸ばし俺の顔を掴む。


まるでグラーフ教官にされたみたいに強制的に視線を合わされた。




如月「司令官、今日は本当にありがとう。私、一緒にお出かけできて嬉しかった」



如月は俺に笑顔を向けてくれる。

先程とは違う、少し作られた笑みだった。


そんな気遣いが申し訳なくて視線を逸らしたかったが…



如月「きっと…司令官の想いは大淀さんに届くから…大丈夫だから、ね」



寂しそうな笑みを見せる彼女に目を逸らすことなんてできなかった。


そんな彼女に少しでも報いようと…




『ありがとうな』


如月「あ…」



俺は如月の頭を撫でた。

一瞬身体を竦めた彼女だったがそれを嬉しそうに受け入れてくれた。




如月「ふふっ」


睦月「あー!如月ちゃんだけずるい!私も私も!」


『わ、わかったよ…』



俺の手を引っ張り頭に寄せる睦月に驚きつつも同じように頭を撫でてやる。




睦月も如月も花が咲いたような可愛らしい笑顔を見せてくれた。



先程とは違う、作られたものじゃなく本当の笑みだった。


















これが彼女達の見せた最後の笑顔だなんて




この時は考えもしなかった…


























【大本営 パーティ会場】





今日は大本営の元帥就任記念パーティに出席することになった。


もちろん俺だけではなく訓練生全員だ。

と言ってもすることといえば料理を運んだり皿を洗ったり酒を注いだりする雑用だ。


訓練生達がその内容に内心ウンザリしながら言われた通りに雑用をこなしていた。



(さっさと帰りたい…)



俺も同じように養父と大淀の待つ家へ帰りたかった。


睦月と如月のしてくれた思いやりに、今なら大淀に対し正面から向かい合える気がしたからだ。





元帥「この度元帥に就任することとなりました…」




壇上で元帥が挨拶をした後、乾杯の音頭によりパーティーが開催された。



俺は各テーブルを回り酒を注いだり空いた皿を下げる役割を与えられていた。






もしも別の仕事が与えられていたなら



あの時、あのテーブルに近づかなければ







俺の運命は変わっていたのだろうか…






それともあれは偶然なんかじゃなく



必然だったのだろうか…






提督A「いい気なもんだな元帥さんは」


提督B「全くだな…あんなことしておいてよくもまあ堂々と…」




色んなテーブルを回っている時のこと。


あるテーブルで二人の提督が酔っ払い何かを愚痴っていた。



(かなり酔ってるな…)



既に泥酔になりそうな二人に巻き込まれぬようさっさとその場を離れようと思った時のことだ…




提督A「自分の保身のために一家皆殺しにしておいて…面の皮が厚いもんだ」









『え…』









その「一家皆殺し」という単語は自分が嫌になる程によく聞こえ、頭の中に入ってきた。




提督B「一体どんな秘密を握っていたんだか…その提督も悲惨だよな。自分だけじゃなく休暇中だったから家族まで巻き添えになって…」


提督A「当時の秘書艦は今でも無実を信じているとか…健気だねえ…重巡の…何て言ったかな」





『あの…』




提督A「ん?ああ、どうも」




俺は酒を注ぐフリをして彼らに近づく。


足元が何も無いようなフワフワとした気持ちで立っていることもままならない。




『今の話って…』


提督B「お?」


『…の家族の話ですか?有名ですよね』




俺は他人を装って自分の元苗字の話かどうか伺ってみた。


自分の元の名前を他人のフリして聞いてみる、こんな滑稽な話は無かった…。





提督A「ああ、若いのによく知ってるじゃないか」





やはり…




俺の家族を殺した黒幕は…!!







俺は壇上でまだ話している元帥を睨みつける。




頭の中で駆け巡っているのは「武器は?」「何を使って殺す?」「周りの奴らをどうする?」

そんなことだらけで埋め尽くされようとしたのだが…








張り裂けそうな気持ちと高鳴る鼓動を無理やり押さえつけようと目を閉じ、長い深呼吸をする。








やめろ…!


落ち着け…!



俺を引き取り大事に育ててくれた二人の顔を思い出せ…!!





そう言い聞かせて破滅的な衝動を堪える。


胸が苦しく、腹の銃傷がギリギリと痛む。



しかしそれでも自分を抑えようと歯を食いしばって耐えていた。










だが…




次の一言が全てを打ち砕いた







提督A「不憫な奴だよなぁ…まさか自分の親友に裏切られるなんて」








(親友…?)






それが誰のことか、否定したくて眩暈がした






提督B「その後癌に罹って引退したんだっけ?確か名前は…」








彼の口から出た名前




間違いなく養父の名前だった…





















嘘だ…



養父さんが…父を裏切ったなんて…




なんで…



なんでだよ…








足元がガラガラと崩れ



全身の感覚が消えていくような恐ろしい感覚に襲われ












自分の背後から黒い何かが包み込もうとしている



















「ぃ…」





「おい…」






「大丈夫か?」










いつの間にかパーティ会場を離れて皿洗いをしている厨房に立っていた






同期「お前大丈夫かよ、顔色やばいぞ…」



『え…』



同期「先に帰って良いぞ、後は皿洗いだけだから」



『すまん…』





何人かの同期生達に心配され、俺は一人大本営から離れた。





予定通り養父の家へ向かうために




















懐に銃を忍ばせて…














_____________________




【養父の家 食堂】




家に帰ると笑顔の大淀が「おかえりなさい」と出迎えてくれた。


さっそく食堂に通されるとテーブルの上には豪華な料理が並べられていた。

事前に今日帰ることを伝えていたからだろう。



養父「お帰り、元帥就任パーティは終わったのか?」


『うん…』



養父も楽しみに待っていてくれたようで、病弱な身体をおしながら食堂の椅子に座った。



さっそく大淀の作ってくれた料理を食べ始める。





味なんて全く分からなかった。



ただ口の中に入れて流し込む、そんな作業の繰り返しだった。





養父「もうすぐお前も訓練修了か…これで俺も安心していけるよ」


大淀「提督!冗談でもそんなこと言わないで下さい!」


養父「す、すまんすまん。でも嬉しくてな」



大淀に叱られながらも養父は嬉しそうに苦笑いをしていた。







『…』






いつもだったらその光景を見て自分も胸の中が暖かくなったというのに…




今の俺の胸の中は渇ききっていてどこまでも冷たかった…






『養父さん、聞きたいことがあるんだけど』




養父「ん?なんだ?」







聞かずに終われば二人の笑顔を奪うことなく




明日に届くであろう大淀への感謝とメッセージも併せて




きっとこれから幸せなまま過ごしていられただろうに…





『どうして…』






この事実を自分の中だけで解決するにはあまりにも大きすぎるものだった…


























『どうして…裏切ったの?』
























食事をしていた養父の手が止まり




隣に立つ大淀の表情が凍り付いた












その二人の動揺は





養父が父を裏切ったことが事実だということを物語っていた…
















『やっぱりそうなんだね…』



養父「どこで…それを…」




養父は見たことも無いようなうろたえた表情をしている。




怒りも悲しさも湧かず、ただただ空っぽのまま養父を見ていた。





養父「その…な…」





養父はポツポツと…当時のことを話し出した。




_____________________





養父はあの日の夜、父を止めようと電話をしていたらしい。




「なあ…考え直さないか?今ならまだ引き返せる…」


そう言った養父に対し父は「何を言っているんだ今更…!ここまできて何を…!?」と聞かなかったらしい。




父は当時の海軍中将の秘密を握った。


癒着、横領、情報漏洩などの背任。


そして艦娘達への非人道的な扱い…



酷使だけに留まらず金で艦娘達を買収したり売春させたり…





父は中将だけではなくその周辺の提督達を一掃できるような情報を掴んだらしい。




「どうしてもやるのか…」


「ああ…海軍を…艦娘達の待遇を変えるには…もうこれしかないんだ…」




父は最後まで考えを変えることは無く養父との最後の電話を切ってしまった。








養父「それがあいつとの最後の会話になった…」


『…』


養父「…」




俺は何も言わず「先を話せ」と目で訴える。



その視線を受けて養父は顔をひきつらせた。



養父「そ、それから俺は…艦娘用の艤装を手配し…」




家族を皆殺しにした黒潮と親潮の艤装を用意したのが養父で


あの惨劇の遭ったすぐに家に訪れたのは偶然ではなく父が死んだのを確認するためで


その後…証拠を隠滅するために家を焼いたのだという…





『…』


養父「本当に…取り返しのつかないことを…だから艦娘達は…」




黒潮と親潮は脅されていたと言った



しかしそんなことはどうでも良かった。





『…』



俺はなぜ養父がそんなことをしたのかという理由が知りたくて一掃視線を強めた




きっと俺の養父を見る目は…ゴミを見るような目をしていたに違いない…



俺を育ててくれた養父に対し…


そんな目で…




養父「俺達は寸でのところで…中将に尻尾を掴まれてしまった。奴の情報を握っていることを掴まれてしまったんだよ…」



悔しそうに、養父は顔を伏せて口元を震わせる。




養父「俺は中将から脅しを受けた。俺はその脅しに…」


大淀「それは…!!」


養父「俺は自分の保身に走って脅しに負けたんだよ!これまで築き上げた全てを失いたくなかったんだ!」






『…』




今…何かを隠したのは明白だった。



10年…



家族を喪って10年、ずっと一緒に暮らしてきたんだ。





養父が何かを誤魔化したのがわからないはずがない…






『この期に及んでまだ何か隠すの…?』


養父「う…ぁ…」


『…』



俺の責める視線に養父が言葉を失う。





家族を責めるなんて…本当に悲しいな…






大淀「私が捕まってしまったからです!!」


養父「大淀っ!?」


大淀「私が…中将の手の者に捕らえられて…!提督はその脅しに」


養父「やめろ!!お前は関係ない!!」


大淀「私のせいなんです!!お願いします!提督を責めないで下さい!!」




『…』










そんなことだろうと…思ったさ…










『なんで抵抗しなかったんだ』


大淀「え…」


『大淀…あんた艦娘だろ?強いんだろ?それなのにどうして逃げ出さなかったんだ?どうして反撃しなかったんだ?』


大淀「そ…それは…」



俺の責める言葉に大淀が悲しそうに視線を落とす。








おかしいな…




今日は大淀と正面からしっかりと話して




これから養父と幸せになって欲しいって言おうと思っていたのにな…






『黙ってないで何とか言えよ!!』


大淀「ひっ!?」



テーブルをバンと叩き、耐え切れずに大声を上げると大淀が身を竦ませる。



養父「大淀だけじゃない!俺の鎮守府の多くの艦娘達が捕らえられたんだ!」


大淀「提督!!」


養父「艤装を奪われ捕まって何もできなかったんだよ!!頼む!大淀を責めないでくれ!!」







なんで利用されているんだよ…!



あんなにも強くて…俺の家族の命を一瞬で奪うこともできるくせに…!!




養父は…艦娘の命を優先して俺の家族を殺した






こんな…兵器を積んだ人形なんかのために…!























テーブルの上に置いた自分の手に何かが落ちる。








自分の目からいつの間にか零れていた涙だった。










『ふざけんなよ…』




養父「あ…」


大淀「え…!!」




俺は懐に忍ばせていた銃を取り出して銃口を養父に向ける。




大淀「やめて下さい!!」




料理の並べられたテーブルをひっくり返し大淀が俺と養父との間に入る。





大淀「お願いします!銃を下ろして下さい!!」


養父「大淀…いいんだ…」


大淀「何を言っているのですか!!こんなの…こんなこと絶対にダメです!!」


養父「どけ!!こいつに殺されるのなら俺は構わない!!」


大淀「嫌です!!」






銃口を向けている俺をそっちのけで茶番を繰り広げている。







『…』






どうしてこんなにも…違うのだろうか。








『養父さんは…今もそうやって艦娘に守られているのに…俺は…何もかも奪われて…』







父は…艦娘の未来を護るために…殺されたのに…




母も弟も妹もその巻き添えになってしまったというのに…










養父はこうやって…今も護られて…








『なんなんだよ…っ…うぐ…もっ…もう…わかんねぇよ…なにもかも…っ…』








そんな受け入れられない様々な事実に絶望し、嗚咽か零れ







俺は銃を自分のこめかみに当てる








『もう…たくさんだ…』








俺はそのまま引き金を引いて








死を選んだ



















しかし弾丸は俺を貫くこと無く









天井に突き刺さっていた













養父「ハァ…!ハァ…!ハァ…!!」





病弱のはずの養父が俺に飛び掛かり銃口を俺の頭から離したせいだ。




命を懸けて俺を守ろうとしてくれた、一瞬そう思った…




養父「頼む…!」




銃を持つ俺の腕を必死で掴んでいる養父が泣いていた。




養父「死なないでくれ!頼む!お前だけは、お前だけには死なれたくないんだ!」



こんな必死な養父を見るのは初めてだった。








養父「せめてお前だけは…!生きて欲しいと…俺は…!お前にまで死なれたら俺はもう…!!」








『…』
















養父が父を裏切ったと知った時から疑問に思っていた




どうして養父は俺を助けたのだろうか?と









どうせ殺してしまうのなら4人も5人も変わりないはずだ、と









俺を助けただけでなく…




欲しいものをなんでも与えてくれて




行きたい学校に行かせてくれて




挙句に財産を全て俺に譲るとまで言ってくれたのは…

















なぜかって…?

















『養父さん…あんた…』





泣いている養父が涙濡れた顔を上げる















『俺を…逃げ場にしていたのか』




養父「ぁ…っぅ…」













どうして養父が俺に対してそこまでしてくれたと思う?








この男は自分の友人を裏切り、見殺しにして殺害に手を貸した罪の意識に耐え切れず…














『俺は…あんたの罪滅ぼしに利用されていたわけだ…』





養父「そ…それは…」










俺を生かし、育てることでその罪の意識から逃れていた






卑怯者だ






この男と俺の間に家族の絆なんてものは存在しない








俺は罪滅ぼしの道具でしかなかった








『う…ぐ…』









その事実は養父が父を裏切ったことよりも計り知れない程に重く












『うああああああああああああああああああああぁぁぁぁっ!!!!』











俺は家族を喪った時と同じように泣き叫んだ












『ぎゃああああああああああああああああああああぁぁ!!ああああああああああぁぁっ!!!』








あれから10年…もう歳も30に近づいているというのに






ありったけの力で喉が張り裂けそうなほどに声を上げて泣いた







養父「ゆ…許してくれ!すまない!俺は…」



大淀「ほ、本当に…申し訳ありません!あ、あの…私…私のせいで…!」










本当は…事実はそこまで残酷ではなく





俺と養父、大淀の間には絆ができていたのかもしれない












しかし…そんなことを冷静に判断できるほど俺の心は余裕がなく








疲れ切って








壊れ始めていた







『っぐ!?あああぁぁ!!』









次第に身体に異変が起こり始める









『うぎゃああああああああああああああああああ!!!!!!!』







養父「ど、どうした!?どうしたんだ!!おい!!」









親潮に撃たれた腹の傷が異常な熱を帯びて






中で何かが暴れているような痛みを発した













『っぐあああああああああぁぁぁ!!あああああぁ!ぎゃああああああああああああああ!!!』














腹の中から這いずりだしてきた”それ”は









俺の全身を包み込む








不思議と”それ”を抵抗することなく受け入れることができて











徐々に熱と痛みを和らいでいった













養父「大丈夫か!?おい、しっかりしろ!!」


大淀「い、今救急車を…!!」



『…養父さん』



養父「え…」



いきなり冷静な声を掛けられ養父がぎょっとする。




『悪いことしたと思ってる?』



養父「え…あ、ああ…。もちろん…取り返しのつかないことを…」



『俺のこと、家族だと…息子だと思ってくれている?』



養父「あ、ああ!もちろんだ!俺は確かにお前を積みの逃げ場にしていた…!だが…この10年は…」



『だったらさぁ!!』




俺は養父の頭を両手で掴み、俺の視線から逃げられないようにする。




『俺のために力になってくれるよな!?』



養父「な…」



『復讐してやる…』






ああ、そうか





俺が閉じ込めていたものは






俺が本当にやりたかったことは…







『俺の家族を奪い、地獄を味わわせた全てに復讐してやる!!』



養父「そんな…」



『あんたの財も人脈も全て使って協力しろ!!してくれるよな!?もちろん協力してくれるよな!?』



養父「し、しかし…」



『断ってみろ!?病気で理由に逃げてみろ!?あんたが一番望まない形で死んでやるからな!!』



養父「う…ぁ…」




『どうなんだ!?』




養父「わ、わかった!わかった!!頼むから!力になるから、頼むから…」






養父が一番望まないのは自分の心の拠り所である俺の死であることはわかっている





それを知っていて利用することを決めた






養父「お願いだ…死ぬようなことは選ばないでくれ…お願いだよぉ…」





弱々しく涙を零す養父に元軍人の面影は無く




罪の意識で逃げ続けた卑怯者の弱者にしか俺には映らなかった











『それじゃ、俺は訓練所に帰るよ。また連絡する』




そんな軽い言葉が自然と口に出てしまう






不思議な感覚だった




全身が軽く、胸の中がスッキリとしている




長年俺を苦しめていた悪い病が治った気分だった







大淀「…!!…!?…!」





大淀が俺に対して何か言っている








俺には何を言っているのか聞き取ることはできず








そのまま家を後にして訓練所へと戻り始めた…























【訓練所】






訓練所に戻ったのがいつかだったなんて覚えていない。



気が付いたら正門前に居て気が付いたら中へ入ろうとしていた。





受け止めきれない悪夢のような事実を突きつけられたままなので頭の中が全く整理されていなかったからなのかもしれない。





それなのに…俺の目的はハッキリとしていた。









彼女に会えば…




全てを…










しかし俺が訓練所に戻ってくると…





??「ぁ…!…」




艦娘が一人こちらに駆け寄ってきた。




こいつは確か…特別訓練の交流で…




??「…っ…ぃ……?」





何かを言っているのがわかるが耳に届かず頭の中に入って来ない。




??「ぁ…っ…ぃ…?」



彼女は何かを差し出してきた。




シルバーのネックレスである花をモチーフに作られている。


確かこの花は…アネモネ…?




??「ぃ…ん?」




どうしても俺に受け取って欲しいのか距離を詰めて近寄って来る。




『近寄るなっ!!!』




俺はその手を払いのける。



??「ぁ…!?」




彼女の持っていたシルバーのネックレスが床に音を立てて落ちてしまう。




『二度と俺の視界に入るな!この人形が!!』



??「ぇ…」





ショックを受けたようで彼女は身体を震わせ涙を零す。




『さっさとそのガラクタをもって消えろ!!』




??「ぅ…!!っ…!」







その艦娘は泣きながらネックレスを拾って走り去ってしまった。







『ふん…』






俺は邪魔者が消えたとしか思わずそのまま彼女の待つ部屋へと向かった。





















それがその艦娘を見た最後の姿だった。






 








【訓練校内 ある一室】





グラーフ「ほぅ…いい顔するようになったじゃないか…」




探していた彼女は偶然訓練校内の廊下で見つけた。


彼女は俺を見るなり胸倉を掴み、校内の空いている部屋へと引きずり込んだ。




不思議な感覚が続いている。


さっき見かけた艦娘が何を言っているのか全く聞こえなかったというのに、彼女からの声はしっかりと聞き取れている。




きっと…彼女が俺にっとっての『目的物』だからだろう…。




『あんたに艦娘のことを教えてもらいたい』


グラーフ「…理由は?」


『復讐のためだ』




目を背けてきたはずの復讐という言葉が自分でも驚くほど自然に口にしていた。




『俺から全てを奪った奴らへの復讐がしたい』


グラーフ「…」


『そのために海軍での出世が必要になる。今の海軍は艦娘達を使って昇り詰めるのが一番手っ取り早いからな』




なぜグラーフ教官に頼ることを決めたのか?


ひとつは彼女こそが俺の心の闇を暴き引き出させたから。


もうひとつは…




『俺のように歪んでいるあんたならそれくらい教えてくれるだろう?』


グラーフ「くくっ…」




彼女からは世の中の何かを恨んでいる暗い感情がヒシヒシと伝わってくるからだ。



グラーフ「いいだろう…だがっ…」


『…っ!?』



グラーフ教官が了承したかと思ったらいきなり距離を詰めて俺の胸倉を掴み、



『んむっ!?』


グラーフ「ん…」



いきなりキスをされた。


後頭部に手を回されて離れることもできない。



俺は全力で抵抗しようと彼女に力を入れて離れようとしたがそれは叶わない。

艦娘の力に人間が叶うはずもないからだ。




次第にグラーフ教官は舌を入れようとしてきた。

俺はそれを拒むために口に力を入れて閉じようとしたが、彼女は俺の首に指を突き立てめり込ませた。



『っぐ!?』



その首の後ろからの痛みに口に力が入らなくなり俺の口内を彼女の舌で蹂躙され始めた。
















艦娘である彼女の力を借りようとした




頭を下げることも土下座することも厭わないつもりだった




復讐のためならば、と思えば何にでも耐えられる気ではいたのだが…








『一体何を…』



長く深いディープキスが終わりようやくグラーフ教官の唇が離れる。




グラーフ「艦娘のことを知りたいのなら…」



そのままグラーフ教官は俺を机の上に押し倒して覆いかぶさってくる。




グラーフ「まずは私のことを知ってもらおうか…くくくっ…」



力の強い彼女に抵抗することもできず





この日、俺はグラーフ教官と身体を交わらせることとなった。









メスカマキリがオスを交尾中に食べてしまうように






俺はグラーフ教官に貪り食われるように身体を求められ…






受け入れることしかできなかった俺にとって、初めての女が彼女になってしまった










憎むべき艦娘が最初の女になってしまうという皮肉な状況に





俺の心は改めて蝕まれていったような気がした…。











それから約1ヶ月






俺は訓練・講義の合間や一日を終えた後、彼女の部屋を訪れるようになった。




ある時は一切休まずに翌日陽が昇るまで講義をし、



ある時は一晩中彼女と身体を交わらせた。






貪り合うような一夜は女の扱い方を学習し



脳が焼けつくような厳しい講義は艦娘の扱い方を俺に覚え込ませてくれた。









そんな日々の中でどうしても彼女の教えに納得のいかない部分があった




それは二人きりの講義ではなく他の訓練生もいるいつもの講義の時のこと





グラーフ「艦娘はお前らが束になっても敵わない程に強いが…」




それはそうだろう…俺達が一斉に掛かっても力では遠く及ばないし



距離を取られて艤装で攻撃されたらあっという間に皆殺しにされるだろうな。






グラーフ「艦娘は…ただの少女と変わりない、か弱い存在だ」







『…』






か弱い?



ただの少女?



あの兵器を積んだ化け物が?






俺の隣では真剣な表情で講義を受けている同期の白友がうんうんと頷いている。






グラーフ「…」




気が付いたらグラーフ教官に嘲るような視線を向けられていた。




彼女のことだ、きっと俺の事情をある程度予想していてほくそ笑んでいるに違いない。






(ふん…)




俺は彼女からの視線を外し、その後は納得のいかない気持ちを持ちながら講義を受け続けた。
















しかしその数日後






すぐにその状況に直面することになってしまう














【数日後 とある鎮守府の港】







訓練生数名ずつが近隣の鎮守府へと移動し、実際の鎮守府運営を見て回るという研修をしていた時のことだった。








「艦隊が帰投しました」という秘書艦の館内放送に全員で港へと向かう。



戦って帰ってきた艦娘達を出迎えるためだ。




(何をわざわざ出迎えなんか…)



そう思っていたのは俺だけではないだろうが、これは上からの指示であったため渋々港へと向かった。










一緒に迎えに行った艦娘達が悲鳴を上げ、顔を引きつらせている。








何事かと思ったがすぐにそれを理解する事となる。




帰投した艦娘が減っていたらしい。






誰が出撃していたなんて俺達訓練生は知らない。



「マジかよ…」

「轟沈したってことか…?」

「嫌な場面に立ち会ってしまったな…」



俺と一緒に見ている同期生達が戸惑いの声を上げている。


しかし俺は(間抜けが一匹死んだだけだろ…)と内心毒づいていて、さっさとしてくれないかなと呆れていた。





だが…





??「えぐっ…!ぅ…うぁ…ぁああああああああ!!」





帰投した艦娘の中でひと際大きな泣き声を上げている艦娘に目が行ってしまう。


耳をつんざくような泣き声に俺もうんざりしながら視線を送る。






(あいつは…)





見覚えのある艦娘だった。




あの日…


養父の裏切りを知った日からしばらくは艦娘の顔が見えず、声が聞こえなかった俺だったが、グラーフ教官と過ごす毎日がそれをいつの間にか改善させていた。



そのため、今の俺には泣いている艦娘の顔が見え、声がよく聞こえていた。






睦月「うぐっ…!あっ…うわああああああああああぁぁぁ!!如月ちゃああああああああああんっ如月ちゃああああああああああんっ!!!!」






俺の視界に入っていたのは以前特別訓練にて交流した睦月だった。





彼女は如月の名を口にしながら大きな声で泣いていて他の艦娘達に慰められていた。








(如月…?)







睦月と一緒に交流した如月



彼女の姿はどこを探しても見当たらなかった…











【鎮守府近海】




そのまま俺達訓練生は轟沈した艦娘の葬式らしきものに出席することになった。




鎮守府近海へ大型船に乗って向かい、ある程度陸から離れたところで海に向かって花を贈るというものだった。




睦月型駆逐艦達が集まり、涙を流しながら花を贈っていた。


その中には以前俺と一緒に買いに行ったアネモネも含まれている。





「司令官…お願い、こっちを見てよ…」




悲しそうな顔で俺にそう言っていた如月の表情が思い出される。



(呆気ないものだな)




いくら兵器を積んでいても、たった一度の海戦で命を落とす。

儚くてか弱いというのはこういうことなのだろうか?




「無茶な作戦だったらしいな…」

「駆逐艦達は囮にされたらしくて…」

「それって捨て艦…?やばいんじゃねえの?」



一緒に葬儀に参加している同期達がひそひそ話をしている。




どうやらこの鎮守府の提督は艦娘を囮に使った捨て艦作戦を実行したらしい。

艦娘を兵器や使い捨てとしか思わない過激派の提督だったようで、彼の下に着任したことが艦娘達にとって一番の不運だったのだろう。


捨て艦作戦を実行した提督はどうやら穏健派の提督達につるし上げられていて葬儀に参加していない。


現状の海軍の提督は穏健派が約80%を占めていて彼らの発言力の方が大きいというのもあり、捨て艦作戦は禁止されているはずだったからだ。




艦娘が轟沈するということの影響は想像していたよりはるかに大きな影響を与えるようだ。




他の艦娘達は暗い雰囲気を拭うことができず


姉妹艦は悲しみに暮れて当分使い物にならなさそうだ



俺達人間が束になっても敵わない一騎当千の艦娘


それが一隻沈むだけで計り知れない戦力ダウンになる



おまけに穏健派の提督達からつるし上げられる




(もっとうまく扱うべき、ということだろうな)




それだけの感想しか湧かず、そのまま無関心のまま彼女の葬儀を見送った。









【鎮守府 港】




大型船が港に着いて俺達は今日は解散となった。


明日の講義まで特にやることも無いので俺は鎮守府にてある調べごとをしようと向かう。






??「て、提督…!」




そんな俺に聞き覚えのある声が引き留める。





睦月「っ…ぅ…」




艦娘の睦月だった。



(まだ泣いてんのか)



どうやら如月が轟沈してしまった悲しみからまだ立ち直れていない様で、瞳は涙に濡れ赤くなっていた。




睦月「き…如月…ちゃん…に、あ、会ったよ…ね…」


『…?』



何のことかわからずに返答できずにいると睦月がポケットから何かを取り出した。




睦月「こ…これ…」




見覚えのあるシルバーのネックレスだった。




睦月「き、如月ちゃん…提督にって…お花のお礼したいって…」


『…』


睦月「この…危険な任務の前にっ…えぐっ…会いたいって…出て行って…」










あの時…聞こえていなかった如月の言葉がなぜか心の奥底から引き出される。





_____________________




【数日前 訓練所】





如月「あ…!司令官…」




訓練所に戻ると如月が一人、こちらに駆け寄ってきた。






如月「え…司令官…どうしたの…?」




彼女は俺の表情を覗き込むと心配そうな顔を見せる。


それはそうだろう。


俺はこの時、養父の裏切りを知ったばかりで頭の中が全く整理されていない状態だった。




如月「あ…あのねっ…司令官に…渡したい物があってね?」



如月が何かを差し出してきた。




シルバーのネックレスで、ある花をモチーフに作られている。


確かこの花は…アネモネ…?




如月「あなたのこれからの無事を祈って作ったの。受け取ってくれる…司令官?」




俺は受け取ろうとせずに黙っている。


そんな俺にどうしても受け取って欲しいのか、如月は距離を詰めて近寄って来る。




『近寄るなっ!!!』




俺はその手を払いのけた。



如月「あ…!?」




如月の持っていたシルバーのネックレスが床に音を立てて落ちてしまう。




『二度と俺の視界に入るな!この人形が!!』



如月「え…」





その言葉にショックを受けたようで如月は身体を震わせ涙を零す。




『さっさとそのガラクタをもって消えろ!!』




如月「う…!ご、ごめんなさい!ひっ…!うぅ…うぁあぁぁぁあぁ…!!」







如月は泣きながらネックレスを拾って走り去ってしまった。





_____________________







睦月「き、如月ちゃん…渡せなかったって…泣いて帰ってきて…」






不運なことに如月は鎮守府を無断で抜け出したことをその鎮守府の提督にバレてしまう。


厳しい折檻を受け、万全の状態ではないままに出撃を強いられてしまったらしい。




『…』



睦月「提督…なんで…どうして…っひっく…ぅ…」





なんでネックレスを受け取ってくれなかったのか?そう言っているのだろう。




『俺のせいか?』



睦月「え…」



『お前は俺のせいで如月が轟沈したのだと責めているんだな?』



睦月「ち、違…な、なんで…そんな…!」








もしもあの時、俺が如月に優しくしていたのなら


優しくできていたのだとしたら…




たとえ無断外出がバレて提督から折檻を受けたとしても、目的を果たすことができた如月は生き残れたのだろう


精神状態が不安定のまま出撃したためにこんなことに…



それは一緒に出撃した睦月が誰よりもわかっている


だからこそこうして間接的に俺を責めに来たのだろう






(たった一度、突き放しただけなのに…)




あの時の暴言と


冷たい態度を取ったことで


彼女が轟沈してしまったのだとしたら…






なんと脆くて儚い存在なのだろうか…






(そういうことか、グラーフ教官)



たった一度の冷たい態度が、冷たい言葉が彼女を傷つけ


メンタルコンディションにダメージを負っただけだというのに…





それだけで…







睦月「なんで…なんでよぉ…ひっく…なんでぇ…」




『失敗したんだよ』




睦月「え…?」




如月を喪い、やり場のない気持ちをぶつけに来た睦月に対し


中途半端な態度で接してはいけない


この状況では誤魔化し等は簡単に見透かされ


冷たく突き放したなら逆上した艦娘に殺されかねない






全てグラーフ教官から教わったことだ






『せっかく睦月と如月が用意してくれたのにな、全部台無しになってしまったんだ』


睦月「あの…お花…?」


『ああ…結局喧嘩になってしまって…家を飛び出してきたんだ』


睦月「提督…」



睦月は徐々に落ち着いてきている。




『その時…如月に会ってしまった…』


睦月「あ…」




『俺は…如月に八つ当たりしてしまったんだよ…』





涙が流れる




それが意識的に流されたものなのか、無意識のものなのか、今でもわからない






『もっと…優しくすべきだったんだろうな…すまない…本当に…』


睦月「ううん…」



睦月は首を横に振る。



睦月「提督の…せいじゃないのに…ひっぅごめんなさい…うっぅ…」




睦月の頭に手を置くと彼女は俺に縋りつくように胸の中にすり寄ってきた





『すまなかった…』



睦月「うぐっ…えぐ…うわああああああああああぁぁぁ…!如月ちゃん…うっぐ…うわああああああああああぁぁぁ!!」






改めて如月を喪ったことへの悲しさを吐き出すように俺の胸の中で泣き始めた。
















(簡単なものだな…)










少し涙を見せて謝っただけで許された




そんな単純な艦娘に対し、憐れみを感じる程に俺は内心呆れていた

















しかしこの夜






久しぶりに悪夢を見て







銃傷の周りを掻き毟ってしまい、また新しい傷を作ってしまった












【1ケ月後 訓練所】






グラーフ「…そういうわけで今日が最後の講義だ」




グラーフ教官の言葉に訓練生達がざわつく。



彼女はこの地を離れ、遠い祖国へと戻ることとなったらしい。



元々艦娘の正規空母である彼女がこんなところにいること自体がおかしいことなのだが…



『…』



俺はそれがどうしてなのか知っている。




彼女と一夜を共にしている時に聞いていたからだ。





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あんたは一体何を憎んでいるんだ?


そんな質問をしたときのことだった。




グラーフ「憎い?少し違うな。私はただ溜め込んできた苛立ちを全て解放している。今も誰かを憎んでいることなど無い」



『今も誰かを憎んでいることなど無い』…ね。


一体どれだけのことをしでかしたんだか…




俺に満足そうに語るグラーフ教官を見ていて俺は寒気を感じつつもどこか羨ましいと思っていた。










彼女は艦娘として、正規空母として生まれながらもその性能には恵まれず、不幸艦扱いをされ、蔑まれ煙たがられていた。



「国のためならば」と自分を言い聞かせ続け、ずっと自分を押し殺して任務に励んでいた。


しかし次第に前線から外され、辺境の基地へと異動を命じられ、より不遇な扱いを受けるようになってしまう。


理由は教えてもらえなかったらしい。

「私が不幸艦だったからだろう」とグラーフ教官は諦めきった顔で言っていた。




そんな不満がある日爆発し、基地を丸ごと一つ破壊してしまうほどに大規模な喧嘩をしてしまう。



解体処分も止む無しと本人は諦めていたが、たまたま訪れていたこの国の艦娘の穏健派提督がそれを止めた。


そして身柄預かりということで一度この国へと赴き、教官をしながら経過観察をするという流れになったらしい。





海外艦であり、正規空母である彼女がどうしてこんなところで教官なんかしているのかというのがそんな経緯だった。





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グラーフ「これからも国のために励めよ、諸君らの無事を遠い地より祈っている」





グラーフ教官の別れの言葉に全員が立ち上がり敬礼をする。





…何が無事を祈るだ。あんた、そんなこと絶対に思っていないだろ。




俺は内心呆れつつも他の同期生達と同じように敬礼をした。









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白友「ん…?」





白友の使用している机の中に何かが入っている。



A4用紙の入る無地の茶封筒だった。




宛名も内容も表紙には何も書かれていない。




怪訝な表情を見せつつも白友は中身を確かめる。





白友「こ、これは…!!」



彼はその資料を握りしめどこかへ走って行った。






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【グラーフの部屋】




グラーフ「お前とこうしているのもこれで最後だな」




校内での別れが済んだ後、グラーフ教官の部屋に呼ばれた。



『あんたには数えきれないほどのことを教えてもらった。感謝してる』


グラーフ「ふん、こちらこそ良い暇つぶしになったぞ」



お互い不敵な笑みを浮かべ合う。


これが別れの挨拶なのかと思わず笑ってしまった。




グラーフ「どうしてだ?」


『何が?』


グラーフ「なぜあの鎮守府の告発文を白友に渡した?お前の手柄にしておけば今後の出世も早まるだろう?」


『…』




睦月の居た鎮守府に研修で行っていたこともあって、あの鎮守府の杜撰な艦隊運営等を告発するために作戦計画を調べ上げた。


その作成したものを白友の机に忍ばせておいた。

先程彼は穏健派の提督達のところへ行き、その告発文を公表。

睦月達の提督は海軍提督を降ろされ辺境の地へと飛ばされることになった。



どうやらそれを俺が作っていたことをグラーフ教官は知っていたらしい。





『俺が穏健派の提督達に持って行っても信じられないだろうからな。同期の中の首席で艦娘達に優しい白友なら相手にされるだろうというのがひとつ』


グラーフ「…」


『もうひとつは出世するなら穏健派の提督達は必ず足枷になるだろうからな。奴らに媚びを売りたくないんだよ』


グラーフ「だったらそんな告発など最初からする必要はないだろう?お前が交流していた…如月だったか、喪った艦娘への弔いのつもりか?」


『まさか…艦娘の数を減らされたら将来的に面倒な思いをするのは俺達だ。今のうちに打てる手を打っただけだ』


グラーフ「ふん…まあそういうことにしておいてやろう」




微妙に納得のいかない表情を見せながらもグラーフ教官が俺の首に腕を回してきた。




グラーフ「最後の夜だ…」



いつもの流れで言えばこの後グラーフ教官と夜を共にすることとなる…



グラーフ「今夜は眠れると思うなよ」




しかし…





『断る』



グラーフ「なに…あぐっ!?」





俺は懐に忍ばせていた注射器をグラーフ教官の首に差し液体を注入する。



『あんたに抱かれるのはもう懲り懲りだ』



グラーフ「何を…した…」





俺の首に回していたグラーフ教官の腕が力無く落ちる。



その場に力無く膝をついてしまう。




『本当に効くんだな、この艦娘用の筋弛緩薬』


グラーフ「な…」


『養父のコネを使って取り寄せたが…心配するな。効果は一日くらいで切れるらしい』



力の抜けたグラーフ教官を持ち上げてベッドに仰向けに寝かせて覆いかぶさる。




『今日は俺があんたを抱く。これまで好き放題された分、たっぷり仕返しさせてもらうからな』


グラーフ「ぐ…減らず口を…」


『あんたを泣かすまでやめないからな。覚悟しておけよ』









この夜、これまでグラーフ教官に教わった礼とやりたい放題抱かれた仕返しをして


俺は彼女をベッドの鎖に繋いだまま最後に深いキスを交わした。




『じゃあな。いつかまた会える日を楽しみにしているよ』



グラーフ「…」





返事する気力もない程に疲れ果てたグラーフ教官は俺に一度視線を送ってから目を閉じた。












【訓練所近郊の港】




同期の中で海軍提督の最終試験に残ったのはごくわずかで、これから見習い提督としてある鎮守府へ行き、落ちこぼれた艦娘の復帰が俺の最終試験となっている。


その鎮守府へ向かうため、俺は港から船を待っていた。




睦月「て、提督!」



『睦月…』




そこへ睦月が走ってやって来る。



睦月「あ、あの…これ…」



睦月が差し出してきたのは如月が俺に渡そうとしていたシルバーのネックレスだった。

これを俺に受けとって欲しいということだろうが…



『それはお前が持っていてくれ』


睦月「で、でもこれは如月ちゃんが…」


『今の俺に受け取る資格は無いよ』


睦月「…」



俺の言葉に睦月はネックレスを差し出したまま俯く。



『いつか再会する時まで預かっていてくれるか?』


睦月「うん…」




それを受け取ってしまったら…俺はきっと後ろめたい想いを背負ってしまうような気がした



如月を喪ったという事実をこのシルバーのネックレスのように綺麗な思い出に変えたくない



自分の進む道に屍を生み出したというのなら、それを踏み越えていかなければならない





たとえそれが…彼女の気持ちを、想いを踏みにじるものとなってしまっても…










港に船が着く





睦月「さようなら…元気でね…」



『またな』





寂しそうな表情のままの睦月を残し、俺は船へと乗り込んだ


















右腹部にある銃傷がズキリと痛む








その痛みはこの復讐への道を後押ししているかのようだった

















               過去編 終

____________________











【現在 鎮守府内廊下】





祥鳳(ちゃんと眠れていると良いのだけど…)



演習を終えて私は提督の眠る私室へと向かっています。


手には間宮さん特製のお粥とすりおろしたリンゴを入れた器を持っています。

熱があって休んでいる提督のために用意されたものでした。



今朝は食欲がないということで何も食べていないでしょうから、と間宮さんが用意してくれていました。





祥鳳「提督、起きていらっしゃいますか?」



提督の私室の前に来てノックをしながら声を掛けます。


しかし返事が無く、眠っているのかもしれません。



それならと部屋に入り様子だけでも伺おうかと思った時…













「っぐ…ぅぅぅ!うぁぁ!!」







祥鳳「え…提督!?」




部屋の中から苦しそうな呻き声が聞こえてきました。




「ぐぁぁ!!うっうああああああああああああああああああああぁぁぁぁ!!!!」



祥鳳「提督っ!!」




思わず料理を床に落としてしまい、急いで部屋へと入ろうとしたのだけれど…




祥鳳「鍵が!?どうして!」



ドアには鍵が掛かっていました。


出るときは鍵なんて掛けなかったのに…!



「ああああああぁぁ!!!うわあああぁぁ!!」




一体何の悲鳴…!?

誰か他に部屋に居るの!?



祥鳳「提督…失礼します!!」




私は思いっきりドアへと体当たりをして壊し、部屋に入りました。





提督「ぐあああああぁぁ!!!」


祥鳳「て、提督!!」




提督は自分の腹部を押さえ床にのたうち回っています。



祥鳳「な、何をしているのですか!!」



腹部を押さえているのではありません、両手で銃傷の辺りを掻き毟っていました。




祥鳳「止めて下さい提督!落ち着いて!!」


提督「ううううっ!!?うっぐぁぁ!!うわあああぁぁ!!」



私は全力を以って提督の両腕を抑えます。

艦娘と人間では力の差は圧倒的なのに…油断すると振りほどかれそうでした。



祥鳳「提督!祥鳳です!わかりますか!?提督っ!!」


提督「ううっ…はぁ…!はぁ…!っぐ…」



徐々に落ち着きを取り戻したのか、悲鳴は止み、呼吸も静かになっていきました。




祥鳳「提督…」


提督「…」




落ち着いた提督を私は解放し、ベッドで休むよう誘導しようとしましたが、提督は机の方へ向かい何かを取り出しました。




祥鳳(これは…)




精神安定剤と鎮痛剤でした。



祥鳳「て、提督!そんな量…!」




提督は大量に口に含むと一気に飲み干しました。


慣れているのでしょうか?水も無く全部胃に流し込んだのです。








提督「くくっ…あははははは…」






落ち着いたのかと思えば今度は笑い始めました。




親潮さんがこの鎮守府に来ると知った時に見せた『復讐者』の笑み…







提督「アハハハハハハ!!アッハッハッハ!!」







私にはそれがなぜか泣いているようにしか見えなくなり…







祥鳳「提督…」







狂ったように笑い続ける彼の手を握り





どうか落ち着いて休んで欲しいと祈ることしかできませんでした…
















【3日後 鎮守府内 執務室】







提督が体調を取り戻したその日、ついに彼女は訪れました。









提督「…」




提督はいつも通りを装っていますが明らかに空気が違っています。



時津風(ねえ…しれぇどうしたの…)


雪風(心配です…)



挨拶に同席した艦娘達もそのおかしな雰囲気を感じないはずがありません。


それに気づいていないのは今日ここに訪れた…




風雲「夕雲型3番艦、風雲です!」




沖波さんの姉、風雲さんと…








親潮「陽炎型4番艦!親潮です!宜しくお願い致します!!」










親潮さん…












提督「久しぶりだな」







親潮「え…?」






















提督は…





どのような復讐のカタチを見せるのでしょうか…














憎悪の炎 罪人の試練








親潮「え…あの…司令と私は初対面では?」



提督は顔を変え、声を変え、名前を変えています。


今の親潮さんには初対面にしか思えないはずですが…どうして『久しぶり』なんて…




提督「…」





提督…




無表情を取り繕っているのがわかってしまう。


きっとあの表情の裏は怒りと憎しみで満たされて…



天龍「おいおい、提督よぉ駆逐艦に手をだすつもりか?」


葛城「古いナンパみたいなことしないでよ、もう」


提督「はは…すまんな、どうやら勘違いだったらしい」


親潮「はぁ…」



重苦しくなりそうな空気を天龍さんと葛城さんが変えてくれたのは助かりました。


私は隣に居て何もできず恥じることしかできません…。



提督「では解散する。風雲は沖波が、親潮は天津風が鎮守府を案内してやってくれ。2時間後から演習を始めるから演習場に集まるように」



風雲「よろしくね、沖波」


沖波「は、はい」


親潮「よろしくお願いしますね、天津風」


天津風「ええ、それじゃあまず部屋から案内するわ」



提督の言葉に皆さんが執務室を出て行きました。





時津風「ねぇ…」



全員が出たと思いましたが時津風さんは残っていました。




時津風「どうしたのしれぇ、まだ調子悪いの?」


提督「何ともない、心配しないでくれ」


時津風「なんかいつもと違うよ、ねえ、どうしたの?」


提督「大丈夫だ、ありがとうな時津風」


時津風「…」



礼を言う提督に対し時津風さんが言葉を失い身体を震わせています。




時津風「なんか…今のしれぇ嫌だっ!!」



大きな声でそう言うと時津風さんは飛び出すように出て行きました。



祥鳳「時津風さん…」




いつも気楽な距離感で提督と接していた時津風が提督の異変に気づいたみたいです…。







提督「…」





書類整理もせず、ペンも持たず何もせず黙っている提督



その姿にこれから何が起こるのか



何をしようとしているのかという不安しか感じられませんでした









【鎮守府内 演習場】




大井「それじゃあ二人の実力を見せてもらうわ。まずは航行速度から、始めて!」



風雲「はい!」


親潮「いきます!!」




指導役の大井さんの号令に二人のテストが開始されました。


今日は初日ということもあって風雲さんと親潮さんの実力を見てみるということですが…




祥鳳「…」




演習場の岸からこちらを見ている提督のペンが止まっているのが確認できます。


いつもだったら色んな点をチェックして書き留めているはずなのに…




天津風「ちょっと時津風、何荒れているのよ」


天龍「ちゃんと足並みを合わせなって!」


時津風「わかってるよ!!」



提督の異変に気づいているであろう時津風さんは苛立ちを持ったまま演習に参加しています。



雪風「時津風…」


沖波「あ、あの…どうしたのですか…?」



その空気の違いを感じてか周りにも不安が伝染しているようにも見えてきました。























大井「ねえ」



演習を終えて大井さんが声を掛けてきました。



大井「提督…どうしたのよ。さっき風雲と親潮のデータ渡したけど…なんか上の空だったわよ」


祥鳳「あ…その…」


大井「何か知ってる?」


祥鳳「それは…」



私がまごついて何も言えずにいると大井さんが浅いため息を吐きます。



大井「知ってるけど言いたくないってことね。まあいいわ、何か力になれることがあれば遠慮なく言ってよね」


祥鳳「はい、ありがとうございます」



少し呆れながらも笑顔を見せて励ましてくれたようで嬉しかったのですが…




祥鳳(こんなこと…)




こんなこと誰にも言えるはずがありません。



提督が親潮さんに対してどのような復讐を始めるのか…そんな心配をしていることなんて…。








提督『風雲、親潮は艤装を外したら順番に執務室に来てくれ』




いつの間にか鎮守府内に戻っていた提督の館内放送が聞こえました。



風雲「あ、呼ばれた。また後でね」


沖波「は、はい」


親潮「お先に失礼します」


天津風「ええ、お疲れ様」



風雲さんと親潮さんが工廠へ艤装を外しに向かいます。



祥鳳(急がないと…!)



私も慌てて工廠に行き、艤装を外した後執務室へと向かいました。





【鎮守府内 執務室】



提督「では次に対潜能力だが…」


風雲「あ、はい。それには自信があって…」



提督の質問に対し風雲さんはしっかりと自分の考えなどを伝えています。



一見新加入の艦娘に対し現状確認をする場を設けたように見えますが…



祥鳳(提督…)



提督の視線は上を向くこと無く、ずっと書類を見ながら事務的にこなしていました。


初対面の風雲さんからしたら普通に思えるかもしれませんが…



いつもの提督でしたら相手の表情、感情、挙動をしっかり見て話をします。



しかし…今は…




提督「以上だ、今日はもう休んでくれ」


風雲「失礼します」




話を終えて風雲さんは敬礼をして退室しました。




提督「廊下で待機している親潮を呼んでくれ」


祥鳳「は…はい」



提督に言われた通り親潮さんを呼びます。



その時チラリと提督の表情を伺います。




提督の目は何も見ておらず…



感情だけがむき出しになりそうなところで抑えている…歪んだ表情になっていました…




親潮「失礼します!」



しっかりとした敬礼を決めて親潮さんが入室しました。




提督「すまんな演習を終えたばかりなのに」


親潮「いえ、このくらい問題ありません」




提督と親潮さんとの距離はこんなにも近いというのに



提督「いくつか聞きたいことがある」


親潮「何でしょうか?」




提督はまるで遠くから獲物の様子を伺う猛獣のように見えました。

















提督「対潜能力に関しては…」


親潮「はい、それは…」





提督は風雲さんの時と同じ質問をして親潮さんはそれに答えます。



このままいけば何事もなく終わってくれるのかと思いましたが…




提督「経歴についてだが」


祥鳳(経歴…?)



ここからは違いました。




提督「ラバウル基地以前の経歴が無いが…艦娘の新人として配属されたのはこの時からか?」


親潮「え…は、はい…」




一瞬…親潮さんが動揺しました…




提督「…」



艦娘の感情を掴むのが得意な提督がそれに気づかないはずがありません。



親潮さんは最初にラバウル基地に配属されたと経歴書にありましたが…

本当はその前に提督のお父さんが着任していた択捉泊地に配属されているはずです。


しかし彼女の経歴はラバウル基地以前のものはなぜかありませんでした…。



提督「次に…」



それ以上追及することなく提督はそのまま質問を続けます。



提督「同型艦・陽炎型3番艦の黒潮だが」


親潮「…っ!」



親潮さんは身体を震わせ、その顔は戸惑いに染まります。



提督「彼女は今、どこで何をしているのか知らないか?」


親潮「い…いえ…」




彼女の表情は暗く、動揺して口元は震えていて




親潮「私は…何も知りません…会った…ことも…」





そして…嘘を吐いたのがわかりました…。






提督「そうか…」




提督は深くため息をついてペンを置きました。





提督「10数年前に…彼女にしてもらったことの『お礼』がしたかったのだがな、残念だ」


親潮「す、すみません…」


提督「何を謝る必要がある。話は以上だ。今日はもう休んでくれ」


親潮「し…失礼します…」




入ってきた時とは別人のような弱々しい敬礼をして親潮さんは退室しました。








提督「っく…」




祥鳳「て、提督!」





提督の呻き声に振り返ると苦しそうにお腹の辺りを押さえていました。


きっと親潮さんに撃たれた銃傷の辺りでしょう…



祥鳳「大丈夫ですか!?」


提督「何が…」


祥鳳「え…」



痛みを堪えながら提督の表情が憎しみに歪んでいます。



提督「なにが…知らないだ…なにが…配属されていないだ…嘘つきやがって…嘘つき…どいつもこいつも…嘘だらけだ…」




ブツブツと…恨み言を呟く提督に血の気が引いてしまいます。



祥鳳「提督…」



そんな彼に対し…私は何もできず




ただただ傍で提督の手を握ることしかできませんでした…。










【鎮守府内 親潮の部屋】




執務室を出た親潮さんを追って彼女の部屋を伺うことにしました。



親潮さんにある忠告をするためです。




祥鳳「親潮さん」


親潮「は、はいっ!」



ドアをノックすると慌てたような声が聞こえてきました。




親潮「ど、どうぞ!」


祥鳳「失礼しますね」



親潮さんがドアを開けてくれて部屋に入れてくれました。




前の鎮守府からある程度の荷物が送られてきたのか、一通り家具が揃えられています。


どれもとても奇麗に並べられ、彼女の几帳面さが窺えました。




親潮「今…お茶を…」


祥鳳「いえ、すぐに…」



すぐに要件を伝え部屋を出ようと思ったのですが…


棚に置かれている写真立てに視線が行ってしまいます。



親潮「あ…!!」



私の視線に気づいたようで親潮さんが私と写真立ての前に立ち視線を遮りました。




祥鳳「…」





空母の艦娘ということもあって私の目は遠くのものを見るのに優れています。


今、親潮さんが隠した写真に何が写っていたのかハッキリと見えてしまいました。




写真に写っていたのは3人。

親潮さんと黒髪のショートカットの艦娘、そして間には短いツインテールで二人に比べて少し大きい艦娘が写っていました。


その写真の親潮さんは今と比べて幼く、かなり前に写されたものだというのが理解できました。





親潮「…」




気まずそうに顔を伏せている親潮さんの態度に、その写真がどういうものなのかを物語っていました。




祥鳳「親潮さん」





これはやはり忠告しておくべきだと思い、彼女に少し咎めるような言い方をします。




祥鳳「提督は嘘を簡単に見破る人です」


親潮「…っ!」



親潮さんはドキッとして身体を震わせます。

何のことか身に覚えがあるのは一目瞭然でした。




祥鳳「これ以上…提督に嘘を吐かないで下さいね」




今、私から言えるのはこれだけです。





ただでさえ提督と親潮さんの間にはとてつもない大きな溝がある。


親潮さんが何かを誤魔化し隠すことで提督の憎悪の炎がこれ以上大きくならないようにと…




親潮「何も…う、嘘…なんて…」


祥鳳「…?」




親潮さん…?



顔を俯かせ、震えながらも親潮さんは否定します。



いえ、否定ではありません。



親潮さんの言葉は私には言っておらず、自分に言い聞かせているように見えます。






自分の殻に閉じこもって辛いことから目を逸らすこの親潮さんを見て…


この鎮守府に正式に迎えられる前の間宮さんのことを思い出しました。


間宮さんも自分の殻に閉じこもって辛い現実から目を逸らしながらも傷ついていました。



親潮さんも…




親潮「わ…私は…違う…だって…私には…」




念仏のように独り言を繰り返す親潮さんの姿が


先程の恨み言を繰り返す提督の姿を思い出させました




祥鳳「親潮さん…」



私は申し訳ないことをしてしまった気持ちになり、親潮さんを抱きしめます。


彼女は抵抗することなく私の胸の中に顔を埋めました。













提督は『大方海軍部の上の人間から脅されていたのだろう』と言っていました。




親潮さんはきっと提督の家族を手に掛けることを強制されたに違いありません。




提督がこの10数年、家族を喪った痛みと苦しみを味わってきたのなら




親潮さんはその罪を背負って生きてきたのでしょうか…





私は提督との距離が近く、彼の側から親潮さんを見てしまい咎めるようなことをしてしまいましたが…







親潮「私…は…こ…こんな…」







辛そうに独り言を呟く彼女を見て彼女の側からも今回のことを考えてみようと思ったのですが…





祥鳳(提督は…)





提督は黒潮さんも親潮さんも脅されて強制されたことは知っていても


いえ…頭ではわかっているけれど…


きっと心がついてきていない。



今、親潮さんが何を言っても提督の耳には届かないでしょう…



抑え続け、燃やし続けた憎悪の炎を彼女に向けることはきっと避けられません。









祥鳳(今…私にできること…)








震える親潮さんを抱きしめながら私はずっとこれからどうすべきか考えていました。











【鎮守府内 執務室】




翌日、いつものように早朝の執務室で私と提督は一日の予定を立てながら書類の整理をしています。




祥鳳「提督、軍令部からのお手紙が届いています」


提督「ああ」


祥鳳「…」




いつも通り書類に目を通しているように見えても提督の目はそれらを捉えていないことがわかります。


きっと今も提督の頭の中は親潮さんのことでいっぱいになっていることでしょう…



提督「今日からのスケジュールだが…」





…?



今日から?




提督が私にその予定を伝えました。



その内容とは…





【鎮守府内 工廠】




天龍「お、おい、そんなんで良いのかよ!?」


天津風「これって…なんかおかしくない?」


祥鳳「…」




これからの予定を集まってもらった艦娘の皆さんに伝えるとどよめきが起こりました。


この場には提督は居ません。

彼は執務室に籠ったまま今も何かを考えているのでしょう。



雲龍「鎮守府の防衛は良いの?」


祥鳳「1日くらいなら問題ないと提督は判断しました。私もそれで良いかと思っています」


葛城「でも…ねえ…」





皆さんが戸惑うのも無理はありません。





雪風「どうして親潮さんだけが…?」


親潮「…」




今、皆さんに伝えた予定。




ひとつは天龍さんを中心とした水雷戦隊の遠征。

それもかなりの距離の遠征で1日掛かりの大規模なものです。


着任したての風雲さんも参加するというのに親潮さんはこの鎮守府に待機ということになります。




もうひとつは雲龍さん達正規空母の別鎮守府への艦隊支援です。

制空確保のために出撃し、他の鎮守府の艦隊が戦いやすいよう支援に向かいます。


以前私達がしていた囮機動部隊とは違い正式な支援として派遣されることとなったのだけれど…



大井「私も?」


祥鳳「はい」




指導役の大井さんも同時に派遣されることとなりました。

『現場の判断を臨機応変に任せるため』ということを提督は言っていましたが…



大井「…」



勘の良い大井さんがどういう意図でこんなことを提督が言ったのかわからないはずありません。



”自分達を遠ざけるための遠征”



そんな意図を感じられる遠征内容に、普段艦娘の指導役を任されている大井さんが納得するはずは無いと思いましたが…





大井「必要なことなの?」



こう質問してくれたので





祥鳳「はい、これは必要なことだと私も判断しました」





自信を持ってそう返事をすることができました。






大井「そう…みんな!準備に取り掛かって!」


葛城「で、でも…」


天龍「本当に良いのかよ?」


大井「秘書艦が大丈夫って言ってんのよ!グズグズしない!」




大井さんの掛け声に全員が工廠で準備を始めてくれました。



祥鳳(ありがとうございます、大井さん)



私の気持ちを理解してくれた大井さんに心の中で礼を言い頭を下げると、大井さんは『良いのよ』と軽く手を上げてくれました。










時津風「なんだよ…昨日から顔も見せないでさ、ふん、もう知らないから…」


雪風「時津風…」




いつもでしたら提督は工廠で準備する艦娘達の艤装を一緒にチェックします。

その姿が見えないことに昨日から苛立ちを募らせている時津風さんが不満を漏らしています。



祥鳳「時津風さん、大丈夫ですよ」


時津風「わわっ!なに!?」



時津風さんの後ろに周り両肩にそっと手を置きます。



祥鳳「時津風さんが帰ってくる頃にはきっといつもの提督に戻っていますから、こちらは任せて下さいね」


時津風「うー…祥鳳さんがそう言うのずるい…」



不満な顔をしつつも時津風さんは納得してくれたようでホッとしました。



祥鳳「沖波さん、天城さん、そちらはよろしくお願いします」


沖波「はい!与えられた遠征、しっかりと終えてきます!」


天城「期待以上の戦果を上げて帰って来ますね」




第二秘書艦の二人に遠征部隊と支援部隊を任せ、次に私は食堂へと向かいます。




【鎮守府内 食堂】




間宮「え…お休みですか?」


祥鳳「はい、今日から2日間…皆さんはほとんど遠征で出払っていますし…間宮さん働きづめですからたまには休んでは如何かと提督からの提案です」


間宮「でも…」


祥鳳「留守の間は私と提督、そして親潮さんだけですから私にお任せ下さい」


間宮「うーん…」






この話は提督ではなく私の思い付きで提督に提案しました。




全員を遠ざけようとしている提督のため自分から提案し、間宮さんへも自分が話すことで変に不安を与えずに休んでもらうという魂胆でした。




間宮「でしたら…久しぶりに孤児院に行ってみます。みんながどうしているか気になりますからね。今から準備をして…午後にはここを離れようかと思います」


祥鳳「わかりました。書類などの手続きはこちらでしておきますので…」












これで間宮さんも鎮守府を離れることとなり







残されたのは私、提督と親潮さんの3人となりました











祥鳳「ふぅぅぅ…」








深いため息をつきながらこれからのことを考えます







提督はどのような行動に移り



何を始めようというのでしょうか…?




正直不安だらけで今にも逃げ出したい衝動に駆られそうになりますが





祥鳳(でも…)




それでも…私はこの場に残された




その事実が私を前に向かせ、提督のしようとしていることを後押しすると決断させました






祥鳳(私も…覚悟を決めないといけませんね)







そしてこれから起こるであろう提督と親潮さんのことを思いながら






私は胸の中である覚悟を決めて執務室への道を歩き始めました













【鎮守府内 執務室】




親潮「祥鳳さん、こちらは…」


祥鳳「はい、確認しますね」




私は親潮さんと共に執務室で書類整理をしています。



提督「…」




提督は静かに書類と向き合っているように見えます。

実際は何も手がついておらず上の空だというのはいつも見ている私からは丸わかりでした。



親潮「…」



親潮さんもその様子が気になるのかチラチラと提督に視線を送っています。





重苦しい執務室から離れたい気持ちは私も同じですが…今はここを離れるわけにはいきません。












提督「そろそろか…」



祥鳳「え?」




何に対して言ったのかわからず私も親潮さんも首を傾げました。




提督「遠征部隊のことだよ。そろそろ補給地帯に着いた頃だと思ってな」


祥鳳「そ、そうですね…」




いつもでしたらそんなこと気にも留めないのに…一体どうして…




祥鳳「司令部施設で天龍さんと連絡を取らなくてもよろしいのですか?」


提督「これくらいの遠征、今のあいつらなら余裕だろう。心配はいらん」




だったらどうしてわざわざ口に出したのでしょうか…?





親潮「司令は皆さんを信頼されているのですね」



私達の会話にずっと静かに仕事をしていた親潮さんも口を開きました。

きっと重苦しい空気に耐えられなかったのと提督とコミュニケーションを取ろうという気持ちからでしょう。



提督「そうだな。俺はあいつらを信頼しているし、あいつらも俺を信用してくれている」


親潮「それは…素晴らしい関係ですね」


提督「ああ…しかし…」




書類を見ていた提督が顔を上げ親潮さんを見ました。











提督「それも…今日で終わりだな」








え…?








親潮「それって…どういう…」





どういう意味なのか。





私も気になって提督に視線を送ってしまいます。






提督は…歪んだ笑みを見せていました





寒気を感じる、復讐者の笑みです






提督「遠征部隊の補給物資に毒を仕込んだ」




祥鳳「え…」


親潮「な…!?」



提督「艦娘でも耐えられずに悶え苦しむ代物だ、今頃はもう…ふふっ」



親潮「なんてことをっ!!正気ですか!?」





嘘…ですよね?




いくらなんでもそんなことは、そう思いたいのですけれど…




提督「天津風も、時津風も、雪風も…もう手遅れだな、あははははは」



壊れそうな笑いを漏らす提督に


それが本当のことなのかと疑いを持ってしまいました




親潮「っく…!!」


祥鳳「親潮さんっ!!」



親潮さんは血相を変えて執務室を飛び出していきました。



私はそれを追い掛けて同じように執務室を出ます。




親潮さんの向かっているのは司令部施設です。


遠征中の仲間達と連絡を取って無事を確かめるためです。







祥鳳(大丈夫…きっと…絶対にそんなことは無い…!!)






私は自分にそう言い聞かせ





早鐘を打つ胸の鼓動を押さえながら司令部施設への道を走りました








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提督「信頼していた者に裏切られる」







提督は独りになった執務室で呟く







提督「裏切りって…そういうものだよな?親潮」








笑みはいつの間にか消え失せ







まるで仮面をつけたような無表情になっていた






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【鎮守府内 司令部施設】





親潮「お願い!!繋がって!繋がってぇぇぇ!!」



私が司令部施設に着くと親潮さんが叫びながら通信機を構っていました。



祥鳳「代わって下さい!」


親潮「あっ!?」



私は強引に親潮さんを通信機から離し周波数を天龍さんの通信機に合わせます。

ここに着任したばかりの親潮さんがその周波数など知っているはずもありません。

きっとそれほどまでに冷静さを欠いていたのでしょう。




祥鳳「…」


親潮「お、お願い…無事でいて下さい…!」



私の心の中を代弁するように親潮さんが祈るような言葉を呟いています。



祥鳳「…天龍さん」



『…』




周波数を合わせ遠征部隊の旗艦である天龍さんに呼び掛けます。




祥鳳「天龍さん、聞こえますか?」




『…んだよ…』





声が聞こえてきました。





祥鳳「天龍さん」




『なんだよ…これ…』





放心したような声…




自分の胸が焦りで高鳴るのがわかってしまいます。


自分で自分に落ち着けと言い聞かせるので精一杯でした。





祥鳳「天龍さん、どうかしましたか?」



天龍『え?ああ、祥鳳か。こちら遠征部隊、今のところ順調だぜ。しかしな…』


親潮「補給地帯で…補給は済ませたのですか!?」


天龍『おわぁ!?親潮か!?いきなりでっけえ声出すんじゃねえよ!!』




いきなり親潮さんが通信機に向かって叫んだようで天龍さんが大きな声で返事をしました。



いつもの…いつも通りの元気な天龍さんです。




祥鳳(良かった…)




深いため息とともにホッと胸を撫で下ろしました。





どうやら提督が言っていた毒を補給した様子はありません。





親潮「どうなのですか!?補給物資に何か問題はありませんでしたか!?」


天龍『うっせーな!!落ち着けよ!補給物資が何だって!?補給なら1時間前にとっくに終わってんよ!!』


親潮「え…!?」


祥鳳「もう…済ませた…!?」



しかし通信機の向こうの天龍は元気いっぱいにしか思えません。



親潮「何か…何か変なものは入ってませんでしたか!?身体は何ともありませんか!?」


天龍『さっきから何わけわからんことを…なんともねーよ』


親潮「そ、それなら…」




どういうことなのか?と親潮さんが私を見ます。




祥鳳「どうやら提督に騙されたみたいですね…」


親潮「なん…で…」




なんでそんなことをするのか。


親潮さんは顔を怒りに歪め歯を食いしばっています。




祥鳳「天龍さん、先程何かに戸惑っているような声が聞こえたのですが…どうかしました?」


天龍『ああ、見たことも無いような渦潮が目の前に見えて来てな。どうやって迂回したものかと…まあ任務に支障がないように対処するから心配しないでくれ』


祥鳳「わかりました、ではお気を付けて…」






通信を切ってもう一度深いため息を吐きます。





祥鳳(良かった…本当に…)





そんなことをするはずがないとは思っていてもとても怖かった。



冷静に考えてみれば補給物資は間宮さんが管理をして遠征部隊にいつも持たせている。



彼女がここを離れたのは天龍さん達遠征部隊がここを離れた後だった。


提督が補給物資に毒を仕込むなんて無理な話だというのに…




どうして…こんなことを…?




まるで親潮さんにとっての姉妹艦…家族でもある天津風さん達陽炎型のみなさんを…






祥鳳(あ…)





もしかして提督は…






親潮「許せない…!!」



祥鳳「あ!親潮さん!!」





怒りに顔を歪めたまま親潮さんが司令部施設を飛び出していきました。





行き先は考えるまでもありません。



私は再び親潮さんを追い掛けて執務室への足を急ぎました。






【鎮守府内 執務室】







親潮「一体どういうことですか!!」




執務室に戻ると椅子に座っている提督の向かいに立ち、怒りに身を任せ叫んでいた。



提督「ただの冗談だよ、大切な駒であるあいつらを簡単に捨てたりしないさ。あははははっ」


親潮「な…なんてことを…!」



しかしそんな親潮さんに対して提督は平然とそう答えました。






親潮「何のつもりですか司令!何がしたくてあんな悪質な冗談を言ったのですか!?」



机に思いっきり両手をバンとついて提督に詰め寄ります。

親潮さんが怒るのも無理ありません。


あんなことをされては誰でも怒るに決まっています。



提督「悪質な冗談…ね…」



まるで動じることは無く提督は薄ら笑いを浮かべています。




提督「そうだよな。何も知らない大切な家族が理不尽に殺されるなんて…悪い冗談だよなぁ、親潮」


親潮「な…何が言いたいんですか…」









提督…








やはりさっきのことはあなたの…












提督「人を撃ったことはあるか?」


親潮「え…」




突然の提督の質問に親潮さんの勢いは消え言葉を失う。



提督「お前の…艦娘の艤装で人間を撃ったことはあるのかと聞いている」


親潮「あ…う…」




提督の質問に親潮さんが身体を震わせます。



徐々に顔は下を向いていき、血の気が引いて顔を青ざめさせました。




親潮「わ、私は…そんな…」


祥鳳「親潮さん」


親潮「…っ!!」



私は親潮さんの背中に手を添えて顔を上げるよう促します。

先日忠告したことを思い出させるためです。



これ以上…提督に嘘を吐いて欲しくなかったから…




親潮「わ…私は…!そんなこと…!」




でも…




親潮「私は…!そんなこと、し、したことありま…ありません!人を…撃ったことなんてありません!」


提督「…」




親潮さんはまたしても、提督の質問に対し正直に答えることができませんでした。



生真面目にしか見えない親潮さんがどうしてこのように何度も嘘を吐くのか?




きっと親潮さんは…そうすることで…そうすることでしか自分を…


しかしそんなことは今の提督にとっては逆鱗に触れる要素にしかなりません。



提督「…」




提督が深いため息を吐きました。




怒り、呆れ、憎しみ、そして悲しみを含んだようなその様子に私の背筋にも寒気が走りました。








提督「ある提督の話だ」






静かに親潮さんを睨み






提督「彼は新人として配属された艦娘を家に連れて帰ってきた」






語り掛けるように話し始めた。






提督「彼の家族もその艦娘を歓迎し、できる限りのもてなしをした」






親潮さんは黙って聞くことしかできません。






提督「しかしそんな提督の家族を待っていたのは艦娘の裏切り、そして殺戮だった」





親潮「ぅ…ぁ…」





提督「深夜、艦娘は眠っている家族の下へ艤装を装着して向かい…」






























提督「機銃を使って全員を穴だらけになるまで撃ち、皆殺しにした」

















親潮さんは腰を抜かしたようにその場に尻もちをつきます





親潮「なん…で…」





提督を見上げる親潮さんの顔から完全に血の気が引いて白くなっています






提督「それだけに留まらず…」












提督「その場に駆けつけた『俺』を」











提督は自分の服を捲り彼女にあの傷を見せつけます











提督「俺を殺そうと容赦なく機銃を撃ったよな?親潮」







私も何度も見た、あの腹部の銃傷です






先日見た悪夢の影響か、新たに掻き毟った傷はまだ癒えていませんでした











親潮「なん…で…どうして…あなたは…」




提督「私が撃ち殺したはず?」




親潮「あ…ぁ…」




提督「俺も死んだと記録されていたはずなのに?なぜ生きているのかって?」






提督の口調が徐々に責めるようになってきました





提督「俺を助けた奴がいるんだよ。もっとも…そいつは俺を利用していた卑怯者だがな」





以前…提督は今の養父に助けられたと言っていた…



でも…その関係は…とても悲しいものなのでしょうか…



隠していても、提督の表情が辛そうに歪んでいる気がしました…







提督「俺は顔を変え、声を変え、名前を変えて生きてきた」






親潮「ひっ…いや…」






提督「だってお前は俺にこう言ったよな?必ずまたお会いしましょうって」






親潮「あ…うぁ…あぁぁ…」






親潮さんの目から大粒の涙が零れ、嗚咽が漏れます






提督「その約束を果たすため…俺は生きてきたんだよ」







それに対し、提督は笑みを浮かべています










見たことも無いような…狂気を含んだ恐ろしい笑みでした






提督「改めて言おうか」





この10数年、家族を奪われ、痛みに苦しんできた提督と







その罪から逃げることでしか自分を護れなかった親潮さん













彼女にはもう逃げ道はありません



















提督「久しぶりだな、親潮」







































ゆっくりと、提督は腰を抜かして座り込んでいる親潮さんに近づきます。



親潮さんは後ずさり逃げようとしましたがすぐに背が壁に当たり追い詰められた。




提督「まさかラバウルのジジイの所に10年以上も居たとはな。道理で探しても見つからないはずだ」


親潮「ぁ…っ…」



提督はずっと親潮さんを探していた。

しかし彼女の居所がラバウル基地だったことを知ったのはこの鎮守府で経歴書を見てからだったらしい。



提督「あの穏健派筆頭のジジイならお前を匿うくらいのことはするよな?運のいい奴め」



ラバウル基地の提督は艦娘に対しての穏健派筆頭の者で、彼の所には何かしらの問題を抱えた艦娘が多く集まっていたらしい。


戦いが少なく戦果も期待されないラバウル基地はそのように傷ついた艦娘や戦えない艦娘達が集い立ち直らせる施設的な役割もしていた。



そのため艦娘の名は公にはされず復帰するまで表に出ないことは珍しくないとのことだった。






しかし数か月前、そのラバウル基地の提督が高齢により引退することになり、ラバウル基地は閉鎖されることとなった。





親潮さん達は大本営預かりの状態となり、新たに配属される鎮守府が決まるまで待機となっていた。




祥鳳(皮肉なものですね…)




まさか…こんな運命的な再会になろうとは提督も親潮さんも夢にも思わなかったことでしょう。




提督「俺の家族を皆殺しにしておいてのうのうと暮らしていたなんてな、神経の図太い奴だ」


親潮「ち…」


提督「あ?」


親潮「違…う…」



弱々しく、ゆっくりと親潮さんが首を横に振ります。



親潮「わ、私は…やりたくて…やったんじゃ…」


提督「脅されてたから仕方なく?」



今度はコクコクと首を縦に振ります。





提督「でも殺したのはお前だ」


親潮「え…」


提督「俺の家族を殺したのも、俺を撃ったのもお前。ほかの選択肢を選らばず、戦わず、抵抗もせず、相談もせず、一番楽で簡単で確実な方法を選んだのはお前だ。お前が殺したんだ、お前が殺す選択肢を選んだんだ」


親潮「ひっ…」


提督「艦娘が、同型艦が、姉妹艦が人質にされた?だったら俺の家族を殺しても良いってのか?それなら俺の復讐のためにお前らの家族を皆殺しにしてもかまわないよな?」


親潮「やめ…て…」


提督「心配するな。お前は生かしてやる。お前だけは生かしてやる。俺が大事なものを奪われ、裏切られ続けてきた想いを今度はお前が味わう番だ」


親潮「お願いです…お願いします、私は、私はどうなっても…ひっく…どうなっても良いんです、ですからお願いします、皆さんを巻きこま…ないで…下さい…」



泣きながら提督に縋りつく親潮さんですが、提督は冷たく見下ろすだけでした。



提督「お前に撃たれた俺の弟はな、喉を撃ち抜かれて血を吐き出しながら俺に助けを求めてきた。俺は自分がどうなっても良いから弟に助かって欲しいと願ったよ。しかしどうだ?俺の目の前で弟は息絶えた。何もできずに助けられなかった。何の関係もない小さい子供だった、それなのに殺されたんだ」


親潮「う…うぅ…えぐっ…」



恨みをぶつける提督とそれを受けることしかできない親潮さん。


他の誰かがこの状況を見掛けたら必ず止めに入る状況に違いありません。



祥鳳「…」



しかし私は何も言わずこの状況を見守ります。


下手に親潮さんを庇い提督を中途半端な形で止めようとしたならば提督のすることに歯止めが利かなくなると思ったからです。



今はこの提督の10数年分溜め続けたものを存分に解放して欲しい。


親潮さんにはとても辛いでしょうが…それを受け止めなければならない義務があります。





提督「…今度俺の質問に嘘で答えたら許さんぞ…」


親潮「…っ!」



身体を恐怖に震わせながら親潮さんがゆっくりと頷きました。














提督「黒潮はどこにいる…」










親潮「あ…」



提督から親潮さんへの2度目の質問でした。



親潮「ぅ…」


提督「…」




親潮さんがまた縋るように提督を見ます。


なんでしょうか…


親潮さんがこの先を答えたくないという態度を見せているような気がします。




提督「言え、黒潮はどこにいる」


親潮「その…」



提督の冷たい視線に耐えられず、親潮さんは泣きながら口を開きました。




親潮「黒潮さん…は…」






身体を震わせながら話す親潮さんに嫌な予感がしました。












親潮「もう…いません…」










祥鳳「え…」



黙って見守ると誓ったはずなのについ声が漏れてしまいました。


俯いて涙を零す親潮さんにその話が本当のことだと思わされます。




提督「この上まだ隠す気か」


親潮「ほ、本当…です…黒潮さん…は…うぐっ…ひっく…」




たくさんの涙を零す親潮さんを見ていて胸が痛くなってきます。



親潮「黒潮さん…は…あの、後…深海棲艦に襲われた私を…逃がすために…」


提督「…」


親潮「囮に…なって…ひっく…えぐっ…うぅぅ…」








祥鳳(親潮さん…)










それは…言いたくもないはずです…。


黒潮さんのことを思い出すのを拒んでいたというのもあるのでしょう。




二人はただでさえ提督の家族を手に掛けることを強要され、理不尽な罪を背負わされたというのに…


彼女にとってそんな悲惨な結末が待っていたなんて…





提督「ふん」





しかし…今の提督にとってそれは何の関係もありません。





提督「逃げやがったか。卑怯な奴だ」


親潮「え…」



吐き捨てるような提督の言い方に親潮さんが涙に濡れた顔を上げます。



提督「もしかしてお前、黒潮が助けてくれたとか勘違いしてないか?違うな。あいつは罪から逃げ出しただけだ。償いもせずに死んだ卑怯者だ」


親潮「ち…違う…」


提督「違わない、お前は背負わされたんだよ。あいつのしたことを、罪を全部背負わされて無理やり生かされたんだ、アハハハハハハ!」


親潮「っぐ…!!」




突如、親潮さんの顔が怒りに歪みました。





親潮「うあああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!」


提督「…っ!?」


祥鳳「提督っ!!」





親潮さんは提督に掴みかかり床へ倒しました。

そのまま提督に馬乗りになって両手で襟首を掴みます。



親潮「違う!違う違う違う!!黒潮さんは私を庇って、私を生かすために助けてくれたんだ!!私が生きて報告に行かないと助けられないから!!勝ち目のない深海棲艦と戦って、囮になって…!バカにするなぁぁぁ!!」


提督「ふ、ハハハ!本当におめでたいなお前は!そんなわけないだろ!逃げた奴を庇うのに必死だな!これが艦娘の家族愛か!アハハハハハハ!!」


親潮「それ以上黒潮さんをバカにしてみろ!!私は!あなたを…!」




いけない…!!




激昂した親潮さんの手が倒れている提督の首に向かおうとしている。



しかし提督は余裕の表情を崩すことなく不敵な笑みを浮かべたままだ。




止めるべきかと思ったけどその余裕の笑みは私をその場に留まらせた。





提督「…あの時の続きか?」


親潮「え…」


提督「また俺を殺すのか?」




提督の言葉に



親潮さんの両手から力が抜けました




提督「やれよ」




しかし提督は倒れたまま親潮さんの両手を掴み、自分の首元へと誘導します。




提督「お前の力なら俺の喉を握りつぶすくらい簡単だろ?」


親潮「あ…あ…」


提督「やれ」



提督の言葉に親潮さんは完全に意気消沈して先程まで激昂していたのが嘘のように放心しています。








提督「早く殺せええええぇぇ!!」



親潮「ひぃっ!!」




提督「殺せ!俺を殺してみろ!!俺の家族の命を奪ったようにやってみろよ!!俺を殺せ!!今殺さないと俺はお前の姉妹艦を全員最悪な目に遭わせてから殺してやるぞ!!」


親潮「あ…ぅ…」


提督「やれよ!どうした!早く殺せ!俺を殺してくれよ!!楽にしてくれよぉ!!頼む、殺してくれぇぇ!!」







祥鳳(提督…)






まるで悲鳴のように叫び続ける提督に思わず涙が零れてしまいました。






この人は一体どれだけの悲しみと恨みを積み上げてきたのでしょうか。






私の想像なんて及ばない程に深い怨嗟の中でどれだけ苦しんできたのでしょうか…










親潮「うっ…うああぁぁ…うわああああああああああああああああああああぁぁぁ!!」




親潮さんが提督から離れ、大きな声で顔を覆って泣き始めました。





親潮「ああああああああああああああぁぁ!!うわああああぁぁぁぁ!!ご、ごめんなさい!うっぐ、うわああああぁぁぁぁ!!!」



提督「なに…やってんだ…!殺せって言ってんだろ!!」



親潮「無理です!うっ…!うわあああああああああああぁぁ!!ごめんなさい!ごめんなさいぃ!うああああああぁぁああああああ!!!!!」



提督「くく…あはははははははは!!あっはっはっはっはっは」




これ以上無いくらいの大きな声で泣き始めた親潮さんに提督は対照的に笑い始めました。





提督「そうだよな!お前に俺が殺せるはずないもんな!お前も俺を利用するつもりなんだろう!?養父のように俺を贖罪の道具にする気だな!?どこまでも卑怯な奴らめ!!」


親潮「うあぁぁ!!?」



提督は泣いている親潮さんの髪を掴み無理やり顔を上げさせます。















提督「許されたいか?」





親潮「え…!?」








提督が何を言おうとしているのかわかりません。






提督「そんなに俺に許されたいか?許して欲しいのか?罪滅ぼしがしたいかって聞いてんだよ!?」



親潮「うぐ…えぐ…は、はい…はい…!ひっく…な、なんでも…なんでもします…!」



提督「そうか…」






急に冷静になって話し始めた提督に寒気がしました。






提督「ひとつだけ、お前の償いの仕方を教えてやる」





親潮さんは泣きながら首を縦に振ります。






提督「俺はこの先海軍のトップに近づくために最短距離で出世をしなければならない。そのために力を貸せ。命を懸けて俺のために働いてみせろ」


親潮「え…」





意外過ぎる優しい償いに親潮さんは信じられないものを見る表情になっています。



私は…まだこの先に何かあるのだろうと確信していました。




提督「お前が俺を支え、信頼を得て、過去のことを忘れ始めた頃…」




提督は親潮さんの顔を両手で掴み逃げられないようにします。










提督「お前から全てを奪ってやるっ!!!!!」



親潮「な…」



提督「お前をその時裏切って大事なものを奪ってからゴミのように捨ててやるからな!!それがお前のできる唯一の償いだ!あはははははははは!!」





狂気の悪魔に憑りつかれた提督の高笑いに親潮さんの顔が恐怖に引きつります。






提督「俺から逃げられるものなら逃げてみろ!!その瞬間にお前の姉妹艦を全員あの世に送ってやる!!天津風も!時津風も!雪風も!お前が逃げ出した瞬間に殺してやる!!お前のせいで死ぬんだ!!」


親潮「あ…あああああぁぁぁ…!!」



泣き止んでいた親潮さんが再び泣き始めました。





提督「お前はもう逃げられないんだよ!!俺がこの十数年苦しんだように、お前もこれから苦しむんだ!この逃げ出せない牢獄がお前の行きついた先なんだよ!!アハハハハハハハハハ!!あっはっはっはっはっはっは!!!」


親潮「うううぁああああ!うあああああああああああああああ!!あああああああああああああああああああぁぁぁぁ!!!」








提督が親潮さんを放すと親潮さんは再び顔を覆って大きな声で泣き始めました。









提督「アハハハハハハハハハ!せいぜい黒潮の分まで頑張るんだな!!アッハッハッハ!!うあっはっはっはっはっは!!」











提督はそのまま泣いている親潮さんを放置して執務室を出て行きました。















親潮「うああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁ!!!」





















大きな声で泣き叫ぶ親潮さんが泣き止むまで







かなりの時間を要しました。






その間私は親潮さんの傍に居てあげることしかできませんでした。













その後、親潮さんに肩を貸して彼女の自室へと連れて行った後





私は提督の私室へと向かいました。











【鎮守府内 提督の私室】




祥鳳「失礼します」



ノックをしても返事が無かったのでドアを開けて提督の私室に入ります。



提督「…」




提督は椅子に深くもたれ掛かり天を仰いでいます。



祥鳳「提督…」



提督は私の方を向こうともせず放心しています。




力無く身体を椅子に預け天井を見ている提督…



彼を見ているのが辛くなって要件を早く伝えることにしました。




祥鳳「親潮さんを部屋に連れて行き、休ませました」


提督「そうか…」


祥鳳「…」



返事はしてくれたものの、まるで関心が無いのは明らかです。




祥鳳「しかし…少しやり過ぎではないでしょうか…?親潮さんが強制されていることは提督もご存じのはずでしょう?」




危険ではありましたが…少々踏み込んだ意見をしてみます。

内心は胸が苦しくなるほど緊張しました。



でも…





提督「そうだな…」



提督は同じようにこちらを見ようとせず口を開きます。





提督「お前がそう言うんなら…そうなんじゃないか…?」













祥鳳(提督…)













私が一番見たくなかったもの





一番恐れていたこと





それは…提督が復讐の炎によって燃え尽きてしまうこと







いつか提督はその強すぎる復讐の炎によって自分を焼き尽くし






自分で自分の命を絶ってしまうんじゃないかって…








提督「…」




今の放心している提督の姿は




その復讐者の行く末が



未来を予言しているような辛そうな姿でした…







祥鳳「提督」




しかしここまではある程度予想していました







ここからが…私の仕事です…!





あなたが私を傍に置いてくれた意味




そして…着任した時に渡された物の意味を私なりに解釈して










あなたを…





そして親潮さんを…








祥鳳「もう一度、親潮さんの様子を見てきます。待っていて下さいね」




提督「…」




私は覚悟を決めて親潮さんの部屋へと向かいました。








【鎮守府内 親潮の部屋】



祥鳳「親潮さん…?」



先程の提督と同じようにノックしても返事が無かったのでそのままドアを開けて部屋に入りました。




親潮「…」


祥鳳「あ…」






部屋がメチャクチャに荒らされ、机や棚が倒され、壁には投げられたであろう椅子が突き刺さっていました。



先日見た親潮さんのきれいな部屋は見る影もありませんでした。




祥鳳「大丈夫ですか?」



彼女を見ると手から血を流していました。

この部屋で暴れた時に切ったのでしょうか?



膝を抱えながら部屋の隅で顔を隠して泣いている彼女の傍にあるものが落ちていました。




祥鳳(これは…)




バラバラにされた写真立て、そしてクシャクシャにされた写真。

先日見た幼い親潮さんと…隣に移っているショートヘアーの女の子。


黒潮さんと写っているであろう写真はクシャクシャにされていました。

その写真立てと写真にはまだ付いたばかりの新しい血があります。

この写真立てを壊した時に親潮さんが手を切ったのでしょうか。


彼女を見ると手からポタポタと血が流れています。



祥鳳「見せて下さい」


親潮「…っ!!」



私が手を取って止血しようとしましたが彼女は強引にその手を振り払いました。



祥鳳(…)



このまま放って置いては何も進展がありません。


提督も親潮さんも過去の悪夢に囚われたまま苦しむ未来しか見えないでしょう。





そんなことには…絶対にさせません。






祥鳳「これからどうするのですか?」





私は覚悟を持って二人の間に立つことを決めました。




後書き

あ、文字数制限が来ちゃった。

ここからの続きは→http://sstokosokuho.com/ss/read/17848

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《過去から今までのおさらい》


・12年前 
 提督17歳  黒潮・親潮10歳くらい
 提督宅にて黒潮と親潮が提督の家族を皆殺し 親潮が提督の腹部に機銃で銃弾を浴びせる

・2年前
 提督27歳 グラーフ、睦月、如月と出会う
 養父の裏切りを知り復讐を誓う

・1年前
 提督28歳 最上、祥鳳と出会う
 見習い提督として最上の復帰試験を終え、祥鳳を囮機動部隊から助け出す

・現在
 提督29歳 
 佐世保鎮守府にて親潮と再会する



出して欲しい艦娘がいたらリクエストして欲しいかもです。

いつも出勤前ギリギリに書いていくので誤字脱字多くてごめんなさい。
葛城が何でもするって言っているので許してください。


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1: SS好きの名無しさん 2019-06-20 17:37:26 ID: S:2fTpPY

この提督は良くも悪くも艦娘の心を
揺さぶるのが上手い。
あの事件さえ無ければ前作、前々作の様な良い提督になっただろうか…?

2: SS好きの名無しさん 2019-06-26 04:03:09 ID: S:0Aq3g7

毎度更新を楽しみにしています。
この世界の艦娘は重複しない感じですか?
主が書く加賀さんをもっと見たいのですが別艦隊に所属していますし...再登場でも新登場でも良いのでご検討して頂ければ幸いです

3: ウユシキザンカ 2019-06-26 08:31:11 ID: S:ZIJRc2

>>1 その辺の詳しいところは今後明かされていきます。
優しい提督にもなれたはずなのにと祥鳳ももどかしい気持ちを持っています。

>>2 ありがとうございます。
私の作品スタイルとしては同じ艦娘は存在しないというのを一貫していますので重複することはないです。仮に轟沈した場合二度と会えません。
今後登場するかは未定です、なんせ前前作の『ガラスの心』ではメインクラスの活躍でしたので。

4: みがめにさまはんさみかたき 2019-06-26 18:10:01 ID: S:9gWBbM

艦娘………うちの鎮守府には来てくれなかったタシュケントかな!(涙)

5: SS好きの名無しさん 2019-06-27 16:28:17 ID: S:c6mutG

あなた様の書く雪風や時津風が最高。
他の作品等では、雪風や時津風は幼くてアホっぽい感じで書かれる事が多いので。
雪風は武勲艦やぞι(`ロ´)ノ

6: ウユシキザンカ 2019-06-30 07:37:23 ID: S:n-fDnC

>>4 運上げとケッコンが完了しているうちのタシュケントかな?
もし出演するならかーなーり後半になりそう。

>>5 雪風と時津風はこの暗い作品の良き清涼剤です。
自分なりに結構やりたい放題気味に書いていたのですが…
その分提督に言いたい放題言われます。

7: SS好きの名無しさん 2019-07-01 18:29:29 ID: S:kU0xZH

この作品の更新が楽しみ(*´∀`)

8: かむかむレモン 2019-07-04 17:22:20 ID: S:LSGM3b

お前のSSが好きだったんだよ!

9: SS好きの名無しさん 2019-07-05 14:47:18 ID: S:ZYxRM2

声を掛けたのは
天津風かな?
だとすれば天津風にも
提督の過去を話しそうだ

10: SS好きの名無しさん 2019-07-07 01:04:24 ID: S:-BogX0

恐らくまだ甘い状況なんだろうなぁ
そのうち艦娘達を切り捨てまくるのだろうか
それともなんやかんやで自分だけが犠牲になるのだろうか
とりあえず今の状況をどこまで引っ張るのかすごく楽しみです

11: ウユシキザンカ 2019-07-07 06:27:21 ID: S:7VKQXL

>>7 皆様のこのような励ましのコメントも楽しみです。

>>8 俺もお前のSS大好きなんだよ!

>>9 惜しいいぃぃ!でも違う。

>>10 戦力拡充を優先させるために甘くしていたというのがありますね。
   今後そのことに対してどう対処するのか気にしてあげて下さい。

12: SS好きの名無しさん 2019-07-08 14:15:28 ID: S:wgdWML

なんやかんやで祥鳳と提督って、いい夫婦になりそうな気が!?

全てが終わった時に共に軍と他の艦娘達とも居場所が無くなった二人が、何処かのひなびた田舎でひっそり暮らす未来も有り得そうな?

13: SS好きの名無しさん 2019-07-11 00:24:32 ID: S:I4nnmz

それだと祥鳳に託した遺書が気になる。

14: SS好きの名無しさん 2019-07-14 13:28:41 ID: S:Nqnj9i

第二部、超~期待(*´∀`)

15: ドイツ騎兵 2019-07-16 19:22:40 ID: S:ieh54-

親潮に対しての復讐がめちゃくちゃ気になる!2部超楽しみw

16: ウユシキザンカ 2019-07-17 18:54:44 ID: S:nW_D-Y

>>12
全てが終わった時、どちらも生き残っていればそんな未来も良いですね・・・

>>13
その意味はいずれ明かされます。

>>14
期待して待っててね(*´ω`*)

>>15
祥鳳も目をそむけたくなるほどに深ーい闇がある提督が
どんな復讐をするのか、待ってて下さい。

17: SS好きの名無しさん 2019-07-18 07:06:23 ID: S:1bYFUi

面白くてあっという間に読んじゃいました!
第2部楽しみに待っています〜😊


もし、よろしければ、山風ちゃんが大好きなので、登場させていただけると嬉しいです!

18: SS好きの名無しさん 2019-07-25 20:47:53 ID: S:tdG3TW

雪風、良い子や(。´Д⊂)

19: SS好きの名無しさん 2019-08-02 14:13:27 ID: S:iB6jK1

多分、忘れることは出来ないよ、何かの切っ掛けで思いだし苦しむことになるんだ。自分の中でけりをつけない限り終わらないんだ。

20: SS好きの名無しさん 2019-08-05 13:05:04 ID: S:QQ-t5q

成る程ね。封印したとしても先延ばしに過ぎない。成らば封印された魔物を制御して見せろとグラーフは言いたいんだね。けどさ其には支えてくれる友が自分の半身とも言える存在が必要なんだ。彼が白ともに親近感持ってるのはある意味もう一人の自分を重ねて間接的に癒されてるんだ。そしてだからこそ今まで抑えられてたんだ。でも元凶と。その家族。陽炎型を見たら何てタイミングなんだろうなあ。

21: ウユシキザンカ 2019-08-05 19:07:28 ID: S:LcXX1K

>>17
ありがとうございます。山風か…作品に登場させてもなぜか泣いているイメージしか湧かない…

>>18
雪風は良い子、勘もさえている彼女が何かを感じ取ったようです。

>>19
いずれケリはつけなければなりません、たとえ本人が望んでないとしても。

>>20
良いところついてますね。
自ら克服したわけでは無くただ封印して先延ばしにしているというのは間違いありません。おっしゃる通り今の彼にとって刺激は大変危険です。

22: SS好きの名無しさん 2019-08-07 04:53:21 ID: S:yaAYsK

うーん…先の読めない展開…
面白いですねぇ…
提督のお父さんがしていた電話?が何かありそう…
親潮たちが何故あんなことをしたのか
提督の復讐はどういったものになるのか
それを実行したときの(現在実行中?)祥鳳達の反応は
見所の多い、良い作品ですねぇ…(上から目線で申し訳ない(-_-;))
第二部楽しみです、ご無理なさらない程度に執筆、頑張ってくださいm(__)m

23: SS好きの名無しさん 2019-08-07 18:19:17 ID: S:GJCwVl

雪風逃げろーガチで逃げろー!凝りゃ魔物を刈る狩人が魔物に魔獣に落ちる瞬間だ。一度でもその肉を復讐の肉を食べたらもうもどれん様になる。でも雪風はある意味自分と同じく陽炎型の唯一の生存者。だから見逃されてるのかな?それともメインディッシュは最後にと取って置いてるのか?まさか雪風にやらせる気か?おおおグラーフはなんちゅうもん呼び覚ましたんや。

24: SS好きの名無しさん 2019-08-07 18:28:13 ID: S:VvHL0Z

グラーフもある意味では死産とも言える子だしいろんな恨みも有るだろうけどさあ。君をてに入れるために何度も何度も何度も空母オバサンやケツダイソンヲ掘った私の中の苦労と無駄に洗礼されて無駄に上がっていく艦隊レベルとかいにまで上がった子の数を考えるとさあ!恨みよりも有り難うとしか言えないわw本当に犠牲の成ったダイソン様。有り難う!
そして来てくれて有り難う!あれ?何が書きたかったんだっけ?

25: SS好きの名無しさん 2019-08-09 18:21:39 ID: S:N4uKwu

彼の偽りの仮面の正体は温もりか
だから彼は彼女たちに温もりを与えて
その度に彼はその心と魂を凍えさせてるのかな?復讐が目的なんじゃない。
自分が撒いた種が最終的に軍のガンを
除去させる。詰まりは白ともに手柄を
与えて出世させて自分でやらずに育てた子達と白ともに後を託すエンディングに成りそう。だって復讐という目標は必ずしも力だけじゃなく回りにも影響を与えるからね。

26: ウユシキザンカ 2019-08-09 21:13:54 ID: S:XLRfM8

>>22
そんなこと言われたら無理したくなっちゃうんだぜ。
お褒めの言葉を励みに頑張ります。
気になる点はこれからどんどん回収していくのでお楽しみに。

>>23
彼の復讐がどのような道を辿るのか、何を使い、誰を傷つけるのか見守ってあげて下さい。

>>24
同じところで掘ってたのね、私は1回目で出ましたよ。
なお、その後の大和・大鳳建造で資源が跡形もなく消滅した模様。

>>25
かなり良い線いってますよ。
白友くんはわざわざ登場させただけに今後も深く深く関わってきます。
彼にとって提督と関わるのは災難ではありますが…

27: SS好きの名無しさん 2019-08-10 08:58:07 ID: S:GU6YZv

運命は残酷だ。余りにも彼から当たり前の幸せをあの忌まわしい事件を切っ掛けに動き出した。
哀れとかじゃなく運命に神様に持て遊ばれてる。
養父もある意味でガンに成ることでそして彼に親友を売った贖罪とち罪から逃れられると思ったんだろうなあ。親友を売りというよりも守る為に彼の家族を裏切った。多分養父の艦隊も人質にされたのかな?残酷すぎる

28: SS好きの名無しさん 2019-08-12 10:28:13 ID: S:3zlcRY

自らが手を汚さすとも養父の命は消える。永遠の後悔と共に、彼が手を汚すべき敵の姿を理解し所詮は守る物も人によっては弱さとなる。成らば心に仮面を着けて。偽りの温もりを彼が奪われた物で復讐を成そうと決めたか。しかし海軍を変えるという事は綺麗な道具と。汚れても棄てられる己が必要だ。彼は白ともに綺麗な事をさせてる間に自分が敵の隙を探り事を進める駒にしようというか。
彼には同士はいないんだよ。道具と操る自分だけなんだね。

29: SS好きの名無しさん 2019-08-12 20:44:03 ID: S:3UMY5t

どうか彼が復讐の対象が個人でなく
組織で有ることを思い出して。
個人の執着から海軍の改革という目標を
新たな指針として立ち上がり。親と養父の志を受け継ぎ。そのなかで癒される事を願う。人の温もりをしょうほうさんから受けて思い切り泣いて力に変えて欲しい。

30: SS好きの名無しさん 2019-08-13 21:35:19 ID: S:q9VuPM

やはりか。封じてた物の正体は本物の家族の絆。温もりか。養父は罪人の癖に自分を利用していたこと。大淀との間に家族の絆。奪われた物の正体をみたか。
其は愛彼が奪われて養父が自己犠牲に与えようとしても。所詮は偽物。成らば道具にも偽りの温もりと愛を与えて演技すれば良い。化け物の完成だ。しかし彼はもう元の自分の心の素顔を忘れてる。だから白ともに彼の素顔を見て嫌いに成れないんだ。だって人間は自分が一番好きなんだから。子供の価値観だがね。

31: SS好きの名無しさん 2019-08-17 20:06:25 ID: S:Uvzu0H

頼むから如月ショックは病めてね?
あれテレビで見ては?って素で言ってた。
日常8割と聞いてたのにガチのミリタリー物やろうとしてるのみて。馴れないことするなよと思ってたよ

32: ウユシキザンカ 2019-08-18 21:26:52 ID: S:-7Q769

>>30
まるでガラスのように脆くて儚い絆であり、壊れてしまって傷だらけになりましたね。

>>31
すまん、本当にすまん。

33: SS好きの名無しさん 2019-08-19 07:40:34 ID: S:BbHj0L

オーのー
家の遠征の大黒柱にして鬼怒ちゃんの相方がー。
なんでや。燃費良いやろ?まあ戦闘で使うには色々工夫が必要だけど。というかさ。無理に戦闘で使う子でも無いからねえ。あれから4年経って今ではもうアニメは無かったのよ?という感じになったけど。当時は黒く成ってたよwまさか如月だけか?他にも沈まんと不公平だよなあ?と
もうねwぐれてたよw

34: SS好きの名無しさん 2019-08-21 10:49:53 ID: S:nPSubI

彼には提督の才能と女を扱うホストの才能も
有るようだ。過去の彼と今の彼には似てるようで違いがあるね。其は彼の回りには彼が自分で認めた。曳かれたしょうほうさんの存在。彼女が彼の新たな光となるかそれとも弱点となるか?其は親潮に対しての態度でわかるだろうね。存外会ってみたら。怒りよりも呆れのほうが大きいのではないかな?家族を奪ったくせに未だに組織の下らない歯車の一つか?と嫌味の一つで終わりそうだ。
奪ったくせに幸せに見えないなあ?親潮君wこんな感じで

35: SS好きの名無しさん 2019-08-21 19:59:19 ID: S:IA-STO

しかし捨て艦とはバカな真似を。
その場を突破しても5人で強大なボスに
勝てるわけなかろうに。人はもっと効率的に死なすべきだ。下らない場所で兵を殺すは愚将の証なり。学生時代の彼は
其をこの場で学んだか。成る程ねえ。

36: SS好きの名無しさん 2019-08-21 20:02:26 ID: S:gJK6LE

重複しない・再ドロップ及び再建造不可の世界観での艦娘の価値を想像するに、酷使は兎も角轟沈の損失は例え駆逐艦でも相当なものでは無いかと思ったりします。

37: SS好きの名無しさん 2019-08-22 07:51:11 ID: S:jmOxyO

泣いている。その時点で彼はまだ自分の中の情
熱いものがまだ流れてることに気がついてない。
理屈ではわからないという理屈ではもっとうまく使えという。それだけならその熱い涙の理由には成らんよ。彼は棄てれない。本当の情を彼は求めてる。愛してくれる人が要ることを彼は知らない。しょうほうさんの理想の提督の姿じゃなく
日常での生活の中で彼がここのこらを守らねば成らぬと。気がついてくれ。此だけ背景が確りと描写去れて私も情が沸いてしまった。

38: SS好きの名無しさん 2019-08-23 18:08:26 ID: S:SmZFVB

復讐の手伝いをしろってかいw
今度は養父とその後ろめたい過去を武器にして。見事に薬でナチュラルハイってやつだー!になってましたねw
安定剤飲み過ぎるとダメになるぞ!
あれは一種の酒の成分を薄めて調整してるからイッキ飲みはかえってハイに成るのよね。しかしグラーフ弱いかな?まあ運は運だけどさ。まるゆ食わせとけw
取り敢えず50人な!

39: SS好きの名無しさん 2019-08-25 20:55:10 ID: S:Lg1USL

暴露するにしてもタイミングと言うものが有るからね。良く耐えたよ。問題は彼がどのタイミングで明かすか?誰を人質にするか?一番手頃なのは雪風よりも養父の言葉。頼むからお前だけは生きてくれ。その言葉を盾に養父が元親潮の提督であり家族を奪った張本人である罪悪感を武器にして心を縛ること。そして雪風は自分同様最後まで生き延びた幸運鑑
敵にするには危険な相手。其処まで読んで裏切り者。随分と幸せそうだなあ?最悪の人類殺しの罪人がと迫ること。此で裏切らない狗が手に入る。趣旨返しをしてやれ。実行犯に容赦はするな

40: ウユシキザンカ 2019-08-25 20:55:37 ID: S:7-BUJs

>>36
戦力的にも精神的にも計り知れないダメージを負います。
それは関わった提督も例外ではありません。

>>37
既に気づいているか、見てみぬふりをしているのか、それとも…?

>>38
搭載数という面では大きなハンデを負っている現在。
耐久は申し分ないのですけどね・・・

41: SS好きの名無しさん 2019-08-25 21:02:50 ID: S:HMA8va

そして彼は漸く自分の素顔を思い出すんだろうね。溜め込んだ痛み。騙され利用され。贖罪の罪滅ぼしで一人だけ残された苦しみと悲しみをぶつけてやれ。
グラーフ教官の溜め込んだ痛み。獣の解放でスッキリしちゃえw本当はもう一人の罪人の黒潮と合わせてやろうとするのは危険大。先ずは親潮から罰を与えてやれ。

42: Chrome 2019-08-25 22:01:37 ID: S:5jppgf

家族を殺された恨みで凄いことになりそうだよな……なんか親潮の復讐の時に周りの被害なども凄いことになりそう…

43: SS好きの名無しさん 2019-08-26 07:41:52 ID: S:-rzBci

ぜかまし出してほしいです。恐縮ですが。
初期の艦これの顔にして運の値以外全てが高性能なしまかぜに清き一票を!

44: SS好きの名無しさん 2019-08-26 21:42:12 ID: S:jKveRd

次の更新はいつかしら 楽しみだわぁ

45: ウユシキザンカ 2019-08-27 08:18:12 ID: S:MwjNH8

>>41
罪人は罰からは逃れられない

>>42
そして既に巻き込まれているのは祥鳳さん
これ以上広がらないことを祈るばかり

>>43
島風は本家で書いていた『ガラスの鉄仮面』で非常に重要な役割で出演しています。従って現状出す予定はありませんが…リクエストされたからには出さないと…!ちなみにうちの島風、運が49まで上がりました。

>>44
ここは本作の山場で作者も書いていてとても楽しいのでどんどん更新したいですね。

46: SS好きの名無しさん 2019-08-27 10:05:06 ID: S:mSK_yq

あーあ。此処で正直に話せなくとも
何か会ったことを相談してれば提督は
まだ手を振り上げることなくどういう命令で動いたか?誰が黒幕か知ってるか?
そして最後に親潮。自分が赦されない罪人であり。その罪を償う意志はあるかと。聴かれただろうに。なのに怯えから嘘ついた。彼も嘘つきだがお前ら兵器の方が人間に嘘ついてるじゃないか?其で艦娘?人間の真似事をしてる唯の兵器が嘘つくな!と償う事が出来ずに永遠に罪の牢獄に囚われたままになるぞ。彼の復讐の最終的目標は海軍の改革。其を支える事こそ贖罪なり。

47: SS好きの名無しさん 2019-08-27 10:19:42 ID: S:DWiVQg

家のぜかましは運の値30で止まってますwだってまるゆがでないんだよーーーw
大型のハズレの筈なのに。もうね
16分?いや4時間!ああ初めの頃なら当たり枠の金剛くんがwもうね涙止まらんのですよ!

48: SS好きの名無しさん 2019-08-27 19:27:03 ID: S:2-FQnL

彼はヒント与えてる。親潮からしたら隠して隠蔽してきたことを聴かれて同様するのは当然。だがその後に10年前のお礼という言葉を聞いた時点で養父が裏切った人間の親族か?それとも親友か?そう考えるチャンスがあった。なのに判るような誰でも理解できる形で嘘を付いた。
彼女が身内を守れる方法は逃げてきた過去と向き合い。自分から話すこと。まだ時間はある。早く提督に聞きなさい。そして罰を受けなさい。

49: SS好きの名無しさん 2019-08-28 01:41:17 ID: S:_GYqIf

すいません
pixivで「嫌われ提督」や「新崎リュウ」と検索してもたどり着けないのですが、どうすればたどり着けますか?
続きが気になってハゲそうです…σ(´・д・`)

50: ウユシキザンカ 2019-08-29 08:01:46 ID: S:NdaMTQ

>>47
だったら掘ればいいだろ!!(筋肉論破

>>48
もう手遅れなんだよなあ。
今から何言っても提督の耳には届かない。

>>49
新崎リュウ…って誰ですかね…
神崎シュウでググって下さい。

51: SS好きの名無しさん 2019-08-29 12:45:42 ID: S:5F-C_G

しょうほうさん。貴方は天使だ。
彼女の優しさだけは本物だ。
おおもう。親潮君からしたらもう彼
の正体に薄々気がついてるだろうね。
そして今度は自分がされると思ってる。
詰まりは親潮と黒潮だけ生き残らせるか
養父を人質にするか。大淀さんをどう利用して来るのか?使える者は全て使い報復を!

52: SS好きの名無しさん 2019-08-29 12:51:31 ID: S:sTCYe9

ああwレベル20まで育てたまるゆよ。
君はある意味艦これの最高の悲劇のヒロインだw海防艦は育てるのも楽だし運も上がるんだけど。期間限定でさw
その点まるゆは大型でも出るしレベリングのついでに手に入る機会も多いしね
うんを上げる要素をもっと増やして欲しいねw

53: SS好きの名無しさん 2019-08-31 13:21:26 ID: S:DXdhO3

さあどうなるのか?本当に良いところで切るなあw

54: SS好きの名無しさん 2019-08-31 14:22:24 ID: S:jNjcza

更新頻度が凄い

55: SS好きの名無しさん 2019-08-31 20:39:01 ID: S:716XsG

この作品のユッキー(雪風)トッキー(時津風)が良い感じで好きヽ(・∀・)ノ

56: Chrome 2019-09-01 11:09:09 ID: S:NT5nFC

え?これ本当に親潮以外にも被害出るんですかね?確かに信用していた相手に裏切るのは提督がされた事だけどもそれを実行するのか?せっかくいい感じだったのに対してそれを壊そうとするなんてマジで何考えてるんだろう…

57: SS好きの名無しさん 2019-09-01 20:19:33 ID: S:DxkEPL

無線に出るなと手紙に書いて輸送徐に付いた時に読めとかいたかな?そして今度は親潮に仇に誰が殺したんだろうなあ?
素直に自白してればこんな事にはならなかった!と追い詰める。ああどうなるか読めん!これ以上私を愉悦させてどうするつもりですか?妙高さん風に言ってみましたwあの人改2に成るまで中はの絵が凄いよねw

58: ウユシキザンカ 2019-09-04 07:04:57 ID: S:oEd99L

>>53
SS投稿速報ならではの随時更新ですからね、わざと良いところできりました

>>54
山場は書いている作者のテンションも高いですからね、筆が進みます

>>55
これからもっと振り回してあげるから出番も増えますよ

>>56
所詮はガラスの絆ですから。今回助かってもいずれ・・・

>>57
躍動感が凄いのは妙高さん、那智、川内だよね

59: SS好きの名無しさん 2019-09-04 17:21:46 ID: S:e0pgFh

此はもう駄目ですわ。擁護の仕様がない。親潮君?逃げても罪は追いかけて来るんだよ。そして必ず無関係な人まで巻き込んで大きくなって帰ってくる。だからねw罰を受けるんだよ。悪いことをしたらその罪に負けないだけの善光を積むんだ。けど君は自分は悪くないと逃げてきた。この化け物は君が生み出した罪なんだよ。さあギルテイですわw

60: SS好きの名無しさん 2019-09-04 17:37:50 ID: S:kRcSBJ

親潮君。彼に関係のない人のために戦ってきた。けどねそんな事は職務であり善行ではないんだよ。彼は君に対して振り上げようとする拳を何度も何度も見直し。親潮君が自分から負うことを期待していたんだ。そうすれば確実に黒潮は見逃されたろう。だがもうダメダメだ。赦す要素なし。艦娘?のクズは君だよ。

61: SS好きの名無しさん 2019-09-08 09:57:02 ID: S:n3HxeU

提督さん。恐らく黒潮は自分達の家族を守るためにブラック部隊暗殺部隊に所属してると思う。
詰まりは黒潮にとって彼の家族をやるのはただの職務だったんだよ。そして親潮は提督さんの親父さんの警戒を解くための餌に使われた。居場所を恐らく定めてない。若しくは逆にヤバい鎮守府所属だろうね。彼の次のターゲットは其処に成るんだろうなあ。そして結果海軍はよりクリーンになりその影の主役となる。しかし其を知るのはほうしょうさんだけでいい。どしてこんな事になつたんだろうなあ。ダークヒーロー過ぎる。

62: Chrome 2019-09-08 21:34:19 ID: S:eLjURT

何となく予想できてたけどやっぱ黒潮死んでたか…
どちらかは死んでると思ってたよ。
黒潮が罪から逃げる為に死んだのか、それとも親潮を助ける為に死んだかはなんとも言えないよな…
親潮の感じ、かなり心に来ていたみたいだし黒潮はもしかしたら罪から逃げる為に死んだんじゃないかな?

63: SS好きの名無しさん 2019-09-08 22:03:51 ID: S:LYNQ0u

此で絶対に裏切らない狗の完成だ。
しかし彼の本音はもう楽にはなりたいという本音と。コイツら全てに痛みとしを与えることの二つがせめぎあってたんだろうなあ。そして親潮は沈んだと言ったが其は本当か?一度嘘をついた相手がまた嘘をつく可能性もある。彼自信で確認してない以上。彼と同様に匿われてる可能性も捨てきれない。だからこそ。より海軍の中で目立ちすぎずに情報を集める必要があると思うよ。そう考えると。親潮にはまだ黒潮を炙り出す役目があると言える。白ともに目立たせて。その間に影として動き。手を汚させる奴等の正体を暴くのだよ。

64: SS好きの名無しさん 2019-09-08 22:28:02 ID: S:jZKu0l

例えば遅効性のダメコンなど有れば。
容易に沈んだと隠蔽できる。更にはこの世界では
この兵器は貴重だ。そんな簡単に手放すと思えん。黒潮の台詞で終わったでとあったけど手慣れすぎてる。詰まりは彼と同様に戦死扱いとし裏で更に悪事を重ねてるとしか思えんよ。敵を騙すには味方から。親潮はただ利用されただけにか見えんのだ。深読みしすぎかな?

65: SS好きの名無しさん 2019-09-08 23:51:37 ID: S:Y__9xO

面白くなってきたずい 親潮君 君もあの時黒潮みたいに楽になれたらよかったのにねぇ

66: SS好きの名無しさん 2019-09-11 03:26:44 ID: S:v7ApFA

いいssを読ませていただきました。続きが気になって眠れそうにありません。
結局はなんだかんだで自分が犠牲になったり...なんてことはせず、慈悲など一切なく、彼が復讐に徹する鬼であることを祈っています。

ガチ拷問シーンとかあったらもっと美味しいですね。

67: SS好きの名無しさん 2019-09-11 11:17:48 ID: S:1SP8D2

速くも次のスレを立てて欲しいですw
催促してるようで恥ずかしいですが。
速く続きが見たいです!
しかし彼の復讐はちゃんと自分の意思で
復讐の意味を伝えた時点で半分は達成去れたのですね。それは良いことであると同時に次の目標に向かって思考する。その始まりなんでしょうね。
詰まりは膝枕からの耳掻きの膝枕の段階なんですね。さあ少し膝の上で睡眠取ろうか。休みも大事だよ。

68: SS好きの名無しさん 2019-09-12 09:31:39 ID: S:s44ogZ

既に評価も応援もしているで御座る!
さあ速く御代わりを!続きをお願いするで御座る!しかしなあ。しょうほうさんも茨の道を進むんですね。詰まりは愛の一撃で提督さんのトラウマを粉砕するんじゃ!親潮君。彼が本気なら絶対に赦して奪うなど言わぬ!隠して最後の最後で無言で裏切る!彼は自分の意思で君に届け?
この忠告をといういわば無意識に救われる道を
提示したんや!雪風君やときつんに良く相談し今度こそ過ちを繰り返さず。隠さず。戦うんや!

69: SS好きの名無しさん 2019-09-12 09:41:03 ID: S:svjjG-

祥鳳が提督と親潮を救おうと
奮闘するのだが…最後に死んだ筈の
黒潮が出てきそうである。
黒幕の切り札として。

70: SS好きの名無しさん 2019-09-12 17:53:40 ID: S:G3ktMf

モチベーションが必要だって? なら好きなだけ応援してあげよう!…└(՞ةڼ◔)」

71: SS好きの名無しさん 2019-09-13 13:27:07 ID: S:F_5b0P

応援で足りないならお勧めもしてまうぜw
まあもうしてるんですがねw
1日一回はスレがないか調べてしまう癖がついたよw責任とってよ✨泣くぞw

72: SS好きの名無しさん 2019-09-13 13:32:47 ID: S:YXuHCF

続編を読むために皆さんの力を貸してください
ハッキリ言って長編の物ですが。最後まで読んだ時御代わりくださいと言いたくなる作品です!
是非とも応援を!

-: - 2019-09-13 21:54:45 ID: -

このコメントは削除されました

74: SS好きの名無しさん 2020-03-28 17:29:18 ID: S:UDUp8Y

ちょっと過去編なが!!!!ってなったけどめっちゃ面白かった。
ちょっと涙ポロリしたとこもあった


このSSへのオススメ

2件オススメされています

1: SS好きの名無しさん 2019-08-21 22:13:33 ID: S:nX0fTE

内容がしっかりと作り込まれており、ありがちな設定でありながらも似たような作品の中から一歩も二歩も抜きん出ている印象を受ける良作。しっかりとしたssを読みたい人にオススメ。

2: SS好きの名無しさん 2019-08-26 10:36:39 ID: S:tXUYc9

思わずオススメしてしまいました。
提督の内面が丁寧に描写去れており。
ダークヒーローとして黒いけど便りになる。
去れど闇を抱えた男の此れからの道を
最後まで見届けたくなります。


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