2019-11-13 08:21:27 更新

概要


海軍と艦娘に全てを奪われた提督のお話、
その③です。


皆様の応援が・・・作者を強くする!


前書き

家族を奪った張本人である親潮と再会した提督。
提督は親潮にある償いの仕方を教える。
しかしそれは償いというにはあまりにも酷な時限爆弾を抱えさせるものだった…

①→http://sstokosokuho.com/ss/read/15389

②→http://sstokosokuho.com/ss/read/16974


※本作で唯一名前のあるキャラ

《白友提督》 提督の同期で横須賀鎮守府の提督。
       艦娘に優しいホワイト鎮守府を運営している。
       提督の同期だったのが彼にとって最大の不運。







秘書艦の覚悟







【鎮守府内 親潮の部屋】





祥鳳「親潮さん、これからどうするのですか?」


親潮「え…」




私の言葉に親潮さんがようやく顔を上げる。



目は涙を流し続けた影響か真っ赤に腫れ、顔はクシャクシャなってに疲れ切っていた。




親潮「どう…するって…」


祥鳳「ここに残って…提督のために働くのかどうか、です」


親潮「そん…な…の…」



再び顔を伏せて嗚咽を漏らし始めました。




親潮「む…無理…です…そんなのっ…ぅっ…」


祥鳳「…」


親潮「どんな顔していればいいのか…わかりません…あんなこと…して…」


祥鳳「では…いつまでもここに閉じこもっているつもりですか?」


親潮「…!!」



私の咎めるような言い方に親潮さんが顔を歪めて睨みつけてきました。



祥鳳「提督への償いもせず、力になろうともせず、何もしないままいつまでも引き籠っているつもりですか?」


親潮「…さい…」


祥鳳「提督がこの10数年、どれだけ苦しんだか、あなたなら…」


親潮「うるさいいいいいぃぃぃぃっ!!!」



いきなり親潮さんが私に平手を頬にぶつけてきた。


私は避けようともせずそれを受け入れる。




バチン!という高い音が耳の奥に響き、衝撃で少し目が眩んだ。




親潮「あなたに何がわかるんですか!!私だって…私達だってあんなことを強制させられて、ずっと…ずっと…」


祥鳳「それは提督にとって何の関係もありません。今、あの人にとってあなたに全てを奪われたとしか思っていませんから」


親潮「だ、だったらどうすればいいんですか!!私、ずっとずっとどうすればいいのかわかんなくって…もう死ぬしかないんだって何度も何度も考えたのに…!でも…でも…」



辛そうに涙を零し震える親潮さん


少しずつ激昂した勢いが無くなっていく




親潮「黒潮さんが…最後に『生きろ』って…生きていれば絶対に良いことあるって、言って…わ、私は…うっ…ひっく…」





深海棲艦から逃がしてくれた姉妹艦のために親潮さんは生きてきたのでしょう。


それを生きる原動力として今まで過ごしてきたのでしょうが…




親潮「うっ…っ…わ、私…どう…すれば…っ…」




これまでずっと心の奥底では罪の意識を持っていたのでしょう。



隠し続け、目を背け、逃げ続けてきた分、その当事者に会って…いきなり過去のことに向き合うことを余儀なくされて親潮さんの心は滅茶苦茶に荒れています。


冷静になって考えろというには無理がありますが…



今は少し冷静さを欠いているくらいがちょうど良いのかも知れません。






祥鳳「どうするのですか?」




もう一度同じ質問をします。




祥鳳「ここで提督のために働きますか?」


親潮「…っ!」



親潮さんはきつく目を閉じて首を横に振ります。




それはそうでしょう。


提督は先程『罪を忘れた頃に全てを奪い取って裏切り、捨ててやる』なんて言ってたのですから。


そんな彼の下に居たいと思うはずがありません。




そうなると親潮さんに残された選択肢は一つしかありません。





祥鳳「それとも…ここから逃げ出しますか?」


親潮「え…?」




私の言葉に再び親潮さんが顔を上げます。




親潮「そんなこと…できるわけ…だって司令は…」




そう、提督は親潮さんが逃げ出した場合も『その瞬間に姉妹艦を全員殺す』なんて脅しをしていました。


言葉だけの脅しではありません。


もしも親潮さんが本当にこの鎮守府から逃げ出したら…今のあの人ならばそれを実行してもおかしくはありません。





祥鳳「させません」


親潮「え…」









ですから…私は覚悟を決めました。







祥鳳「もしも…提督が無関係の艦娘にその矛先を向け始めたのなら…」







そんなこと…本当は望んでいなくても…やるしかありません。



























祥鳳「提督を…殺します」

























親潮「え…?」



親潮さんが信じられないものを見るかのような顔をしています。



親潮「なん…で…そんなこと…」


祥鳳「艦娘に対してそんなことをする提督はもう必要ありませんから」


親潮「で、でも…そんなことしたら…」




通常であれば艦娘が提督の命を奪うようなことがあっては連帯責任でその鎮守府の艦娘は全員解体を余儀なくされます。



過去にそんな鎮守府があったことはどの艦娘も知っていることです。


艦娘の暴走を抑制するために訓練所や鎮守府でもよく耳にする話です。




祥鳳「心配しないで下さい。私はこの鎮守府に配属となった日にその権利を与えられていますから」


親潮「そ…そんな…」




その権利を誰に与えられたかは彼女に言うつもりはありません。


それが今の、そしてこれからの親潮さんにとっての逃げ道になるような気がしたからです。












私はこの鎮守府に来た翌日


提督から遺書を託されました。



この時は提督が『運悪く命を落とすこともあるからその時のために』と言っていましたが…




本当は提督は気づいていたのかもしれません。



自分が復讐に囚われた時、自分で自分を抑えることができずに制御不能に陥ってしまうこと


自分でも何をするかわからずに道を踏み外してしまうことに





それに…あの時提督は言っていました。






『もしも俺が復讐のために大きく道を外れるようなことをしたら…』


『事故に見せかけて俺の命を奪え』




それがどういうことなのか


どういう意味だったのか、今なら理解できます。






私は提督から託された




彼の本当の目的のために道を踏み外さないよう見張る監視者としての役割を





祥鳳(でも…本当は…)







提督の命を奪うようなことはしたくありません




このまま彼の傍で秘書艦として支え続けたいというのが私の望みだからです





もしも…本当に提督の命を奪うようなことになってしまったら…








私はきっと…その後を…









親潮「ダメ…です…そんな…こと…絶対に…」





膝を抱え、泣きながらも親潮さんは首を横に振ってくれました。



その回答に少しホッとしつつも罪悪感も湧いてきました。





私はこう言ったことで親潮さんの逃げ道を塞ぎ、提督の下に居るようにさせたからです。




親潮「でも…私…私は…っ…」




今度は過去のことに向き合い、提督のために償っていかなければなりません。


彼女にとって想像以上の恐怖と戦っていかなければならなくなりました。





祥鳳「親潮さん、良い方に捉えればこの再会はチャンスだと思います」


親潮「え…」



どういう意味なのかわからず親潮さんが視線を投げかけてきます。




祥鳳「親潮さんはずっと独りで罪の意識を抱えてきたのでしょう?」


親潮「…」


祥鳳「ですが…今は独りではありません。あなたのことを知り、想いを共有できる提督がいます」


親潮「そんなの…」


祥鳳「償って…許されるチャンスは必ずあると思いますよ」


親潮「…」




『そんなことは無い』と親潮さんは言い掛けたけれど…言いませんでした。




きっと…親潮さんも心のどこかではそう思っていたのかもしれません。


そんな重い罪を背負わされて楽になりたくないわけがありませんから…










祥鳳「これで良し…っと」




大人しくなった親潮さんの手の応急処置を終えて私は明るい声を絞り出して立ち上がります。



祥鳳「お部屋、キレイにしましょうか。このままですと天津風さん達が帰ってきたらビックリしますからね」


親潮「…」





その後は壊れた家具を廊下へ運び出したり、辺りに散らばったガラスの破片等を片付けました。


しばらくは何もせず私を見ていた親潮さんも途中から手伝ってくれました。





親潮「どうして…」


祥鳳「はい?」


親潮「どうして祥鳳さんは…そんなにもあの人のことを信じられるのですか…?」


祥鳳「…」



親潮さんからの質問に、以前天城さんから言われた言葉を思い出しました。






『祥鳳さんは提督を信じたいのですね』






そう、信じたい。



提督の中には復讐以外の道を選んでくれるという想いが存在していることと…



いつか親潮さんを許してくれるのではないかという希望…






甘いのかもしれませんが…今は…







祥鳳「どうしてなのかは…説明するのは難しいです」




親潮さんには自信を持ってこう答えます。





祥鳳「でも…私は…提督を信じています」























その後、親潮さんと共にお部屋を片付け



彼女を私の部屋の布団で寝かせた後







再び提督の下へと向かいました。













【鎮守府内 提督の私室】





祥鳳「失礼します」




先程と同じようにノックもせずに提督の部屋に入ります。




提督「…」




提督は先程と同じように椅子に深くもたれ掛かり天を仰いでいました。






まるで抜け殻です。



祥鳳「提督」



そんな提督の姿を見ていられなくて私は彼に近づきました。




祥鳳「親潮さんはこの鎮守府に残ることを決めてくれました」


提督「…」


祥鳳「提督への償いのために…明日からもこの鎮守府に残って働いてくれることを誓ってくれました」


提督「そうか…」



投げやりな返答でした。


何もかもどうでも良い


どうなっても知ったことではないというような力の無い返事でした。



提督「今日はもう寝ろ…」




そう言って提督は机の引き出しを開けました。



あの中には確か精神安定剤と鎮痛剤が入っています。



以前熱にうなされて暴れ回っていた提督が飲んでいたものでした。








祥鳳「…」









私は提督と距離を詰めて







そっと机の引き出しを閉めて







提督「おい…」






椅子に座ったままの提督の顔を自分の胸に引き寄せ






提督「やめろ…」






強く抱きしめました。
























提督…












私は…自分がどうしてこの鎮守府に残ることを決めたのか思い出しました










愛でもなく



恋でもなく





あなたに惹かれ、導かれ、あなたの行く末を見たいというのは…表向きの理由







本当は…













提督「やめてくれ…」












胸の中で提督は弱々しい声を出しつつも私から離れませんでした。
















本当は…










私がここに残った本当の理由は…
















過去を話し、復讐に憑りつかれているあなたが…















可哀想で…















見ていられなかったから…




















祥鳳「提督…」







提督はどこまで計算していたのか



私がそう思うことで離れられないようにしていたのかはわかりません









でも…







祥鳳「私が傍にいますから…」







今はそれ以上は必要ありません…







祥鳳「私がずっと傍にいますから…ね…」



提督「…」






今はこの感情を否定することなく、想いのままに提督を抱きしめ続けました









祥鳳「…」


提督「…」








しばらくそうしていると





提督から静かな寝息が聞こえてきました





親潮さんがこの鎮守府に来ると知り



体調を崩し、悪夢にうなされ続けた提督にとって



『久しぶりの休息となりますように』と心から願います。










私はゆっくりと提督をベッドに運び






提督が、そして親潮さんが悪夢にうなされないようにと心の中で祈り






ベッドで眠る提督の手を握りながら私も眠りにつきました



































長かった一日が




ようやく終わりました…

















____________________



償いの単艦







【遠征部隊 作戦海域】



風雲「沖波、大丈夫?無理してない?」


沖波「大丈夫です、風雲姉さん」


風雲「そう…」






天龍を旗艦とした遠征部隊は遠征先から物資を受け取り帰り道を進み始めていた。



天津風「天龍って遠征に慣れているわね」


天龍「万年遠征部隊だったからな…ちきしょう…」


天津風「褒めてるのよ。みんなが安心していられるってことよ」


天龍「そ、そうか?ふふん、凄いだろう」



調子の良い天龍に天津風達は苦笑いするしかなかった。



時津風「風雲も慣れているよね」


風雲「ええ。私も下積みが長かったからね」


雪風「それが今では改二艦ですね、羨ましいです!」


時津風「演習見てたけどさ、すっごく頼りになりそうだよね」


風雲「そ、そんなに期待しないでよ」



雪風と時津風の誉め言葉に風雲は少し顔を紅くして照れ臭そうにしていた。













沖波「…」








そんな風雲を見ている沖波の胸の奥で嫌な疼きを感じていた。







沖波(嫌だな…こんな感情…)







沸き上がってきそうなある感情から逃れるように、沖波は首を横に振って遠征に集中した。







_____________________





【鎮守府内 提督の私室】






提督「…」








ベッドで目が覚めた。




祥鳳「すー…」



祥鳳が床に両膝をつき、ベッドに顔を埋め俺の手を握りながら寝息を立てていた。








提督(嘘だろ…)







ここ数日、親潮のこともあってか毎日悪夢にうなされろくに睡眠が取れていなかった。



今日も必ず悪夢にうなされると覚悟していたのだが…


自分でも驚くほどにぐっすりと眠れて頭がスッキリとしている。




提督「…」





風邪をひいた時や過去のことに関わってしまった時、必ずと言って良い程に悪夢にうなされてきた。


昨日の親潮とのやり取り、あれだけ深く過去に関わったのなら悪夢は避けられないはずだった。




しかし…本当に驚くほどよく眠れた。





それがなぜなのか…?








『私がずっと傍にいますから…ね…』








まるで夢の中で聞かされたような祥鳳の言葉







彼女が傍に…








俺は手を伸ばし祥鳳の頭を撫でる。






祥鳳「ん…んぅ…」


提督「あ…」




頭を撫でたせいか祥鳳が起きてしまった。




提督「起きろコラ、いつまで寝てんだ」


祥鳳「あぅっ…」




急に恥ずかしくなって祥鳳の頭を軽く叩いた。



祥鳳「あ…提督…おはようござ…いまぅ…」


提督「…」




まだ寝ぼけているのか微妙に呂律が回っていない。



祥鳳「だ、大丈夫ですか提督…?あの…眠れましたか…?」


提督「ああ」


祥鳳「本当ですか…?」


提督「本当だ」


祥鳳「良かった…」





心底嬉しそうにホッとしている祥鳳を見て何とも言えない気持ちになった。




提督「涎の痕がついているぞ」


祥鳳「え…えええ!?」


提督「おまけに髪もボッサボサだ」


祥鳳「う、うそ!?」



慌てて立ち上がり部屋にある鏡で自分の顔を確認する。



祥鳳「あ、あれ…?」


提督「嘘だ」


祥鳳「て、提督っ!!」



ようやく騙されたのだと気づいたみたいで顔を紅くしながら怒ってきた。



提督「腹減った」


祥鳳「ちょ、ちょっと…!?」


提督「何か作ってくれ」


祥鳳「もう…少し待ってて下さい」





俺に話が通じないことに観念して部屋にある冷蔵庫から簡単な朝食を作ってくれた。





祥鳳「それでは私は親潮さんと食堂で朝食を済ませますね」


提督「ああ…」



親潮のことを考えると腹部の銃傷が嫌な疼きに襲われる。


祥鳳に気取られないよう取り繕っているが彼女は気づいているのか心配そうな目をしていた。




祥鳳「提督」




気を取り直して、と言った感じに祥鳳が真剣な表情になる。




祥鳳「あなたにはもっと大きな目標があるはずです」


提督「…」


祥鳳「こんなところで立ち止まっているつもりはありませんよね?」






大きな目標…か…。



こいつの言う通りだな。







提督「お前に言われなくてもわかっている」


祥鳳「はい…」


提督「遠征部隊の出迎えを頼む。全員が集まったら教えてくれ」


祥鳳「わかりました、それでは失礼します」




深々と頭を下げて祥鳳は部屋を出て行った。





提督(大きな目標…)



それは海軍のトップに昇りつめて海軍を叩き潰すこと。


俺にとってのもうひとつの復讐…




だが…お前はそれを望んでいなかったんじゃないのか?





彼女にそんな気を遣わせたことに自分を恥じた。








腹の銃傷の疼きはいつの間にか治まっていた。




_____________________




【鎮守府内 廊下】





祥鳳「ふぅ…」




廊下に出て一息つきました。



提督は本当に眠れたようでここ最近のどこか疲れたような表情ではなくて安心しました。




この調子ならいつもの提督に戻ってくれるはずです。







でも…





祥鳳(皮肉なものですね…)





あの人に前を向かせ、親潮さんへ刃を向けないようにするためとはいえ…



もうひとつの大きな復讐に向かって進ませようとするなんて…




祥鳳(私は…それを望んでいなかったはずなのに…)




油断をすると気持ちと共に顔も沈んでしまいそう。




祥鳳(いけない…!こんな気持ちでは…!!)




これから親潮さんと共に遠征部隊を迎えるというのにこんな暗い顔で、暗い気持ちでいてはみんなに不安が伝染する。


秘書艦としてそんなことにはならないようにと自分を発奮させる。




祥鳳「今日も…いつものように頑張ろう!うん!」





そう声に出して私は親潮さんの待つ自分の部屋へと歩き始めました。











【鎮守府 港】




天龍「戻ったぜ、無事遠征終了だ」


祥鳳「お疲れ様でした」




ドラム缶に資源をたくさん抱えた天龍さん旗艦の遠征部隊が港に戻りました。



親潮「み、皆さん…お疲れ様でした」


天津風「ただいま…って親潮、どうしたのその顔。すごく疲れてない?」


親潮「え…いえ…これは…」


祥鳳「少し馴れないことがありまして…無理させてしまいました」


天津風「そっか…まだ来たばかりだものね、あまり無理しちゃダメよ?」


親潮「は、はい…すみません…」



せっかく迎えに来たというのに親潮さんが顔を暗く俯いてしまいます。

気晴らしにと思ったのが裏目に出てしまい彼女に申し訳なく思いました。




時津風「…」




時津風さんが港に着くなりキョロキョロしています。



雪風「しれぇ…来てませんね」


時津風「別にー…あんな奴どうでも…」



そういう時津風さんですがつまんなさそうに、そしてどこか残念そうに口を尖らせています。



祥鳳「大丈夫ですよ時津風さん。今提督はこれからの予定を組んでくれています。後で全員集合させて欲しいって言っていましたから」


時津風「し、心配なんかしてないったらっ」


雪風「そうは言いますけど時津風は遠征中もずっと…」


時津風「あーーーー!疲れたなー!工廠行って艤装外そうっと!」




恥ずかしそうに時津風さんが工廠へ逃げるように走って行きました。





祥鳳「お疲れ様でした風雲さん。初めての遠征任務でしたが大丈夫ですか?」


風雲「はい。前の鎮守府でも遠征中心でしたからこれくらいなんともありません。わざわざのお出迎えありがとうございます」



深々と頭を下げる風雲さんに彼女の真面目さが伺えます。


さすがに改二艦ということもあって彼女の表情からは疲れを感じさせませんでした。

今後の活躍に期待が持てそうです。





沖波「…」


祥鳳「沖波さん…?」


沖波「あ!すみません祥鳳さん!沖波、戻りました!そちらはお変わりありませんか?」


祥鳳「ええ、大丈夫よ。こちらのことは心配せずに休んでいてね」





しかし一緒に戻ってきた沖波さんの様子が少し気になりました。


チラチラと風雲さんを見ているような…



祥鳳(これは本人の問題ね)



自分で解決しなければならない問題と判断してこれ以上踏み込まないようにしました。














大井「戻ったわ」


祥鳳「お疲れ様でした」



遠征部隊が工廠へ向かって行くのと入れ替わるように他の鎮守府へ派遣されていた大井さん率いる支援部隊が戻ってきました。



大井「戦果は上々よ。3人が自分の役割をしっかりこなして本隊を勝利に導いたわ」


祥鳳「そうでしたか。それは何より…」


大井「ただ…」


祥鳳「?」




視線を雲龍さん、天城さん、葛城さんに送ると雲龍さんだけが暗い顔で何かを呟いています。






雲龍「物足りない物足りない物足りない物足りない物足りない…」


天城「もう…雲龍姉様ったら」


葛城「いい加減切り替えてよ。作戦攻略中の相手が演習なんかしてくれるわけないでしょ」



何となく何があったかわかりました。



大井「見ての通りよ…」




やはり雲龍さんは支援先の艦娘に演習を挑んだようでした。

海外艦の正規空母が配属されていたそうで戦いたくて仕方なかったようです。




祥鳳「お疲れ様でした、後で提督が全員に集合を掛けますからそれまで休んでいて下さい」


大井「わかったわ」


親潮「お疲れ様でした…」



私の隣の親潮さんも同じように労いの言葉を掛けます。









大井「祥鳳」


祥鳳「はい?」




そんな親潮さんの様子を見て大井さんが私を手招きしました。


親潮さんに聞こえないようにと小声で話しかけてきます。





大井「提督と親潮の間に何があったのか…何となく予想がついたけど…」


祥鳳「…」




大井さんは提督の家族が殺されていることを話しています。


そのことから予想すればある程度の結論に辿り着くのは仕方ありません。



大井「でも…私は関わらない方が良いのよね?」


祥鳳「はい…これは当人達の問題で…」


大井「わかったわ」



そう言って大井さんがポンと軽く私の背を叩きます。



大井「色々と大変でしょうけど…力になれることがあればいつでも言うのよ?」


祥鳳「はい、ありがとうございます」


大井「それじゃ工廠に行ってくるわ。後でね」




全て察してくれた大井さんの言葉に元気づけられて心の内が少し楽になりました。





祥鳳「私達は食堂で皆さんの昼食を用意しましょうか」


親潮「はい…」




しかし親潮さんは暗い顔を隠しきれていません。

無理もありません、親潮さんにとってこれからの生活は不安でいっぱいでしょうから。



祥鳳「そんな暗い顔でいては美味しい料理は作れませんよっ」


親潮「は、はいっ。すみません」




私は彼女が下を向かないよう発奮させることくらいしかできません。





でも…これから親潮さんが行動することが


少しずつでも前進するのだと信じて前を向いて歩き始めました。







_____________________





【鎮守府内 執務室】





祥鳳『提督、遠征部隊と支援部隊の皆さんが戻りました』



内線で祥鳳が艦隊帰投の連絡をくれた。


時間を見ると昼の12時を過ぎている。



提督「14:00に会議室へ集合するよう言っておいてくれ。こちらはもうすぐ準備が終わる」


祥鳳『わかりました。間宮さんがいないからといってカップ麵を食べてはいけませんよ?』


提督「たまには良いだろうが」


祥鳳『ダメです、こちらの準備が済み次第提督の所へ持って行きますので待っていて下さいね』


提督「おい、あ…」




俺の返事を聞かず祥鳳が内線を切ってしまった。


祥鳳らしくない強引さに思わず苦笑いをしてしまう。




彼女に気を遣わせっぱなしなのは少し申し訳なく思うが今はそれに甘えることにした。







俺は手元の資料に目をやる。





大本営からきている『合同演習』の案内だ。




その相手とは…











提督「悪いな白友。俺の同期だったのが最大の不運だと諦めてくれ」







横須賀鎮守府に着任した同期の白友だった。





_____________________




【鎮守府内 会議室】




祥鳳「提督が来ました。全員敬礼っ!」



14:00。


私の声に全員が立ち上がり提督の方を向いて敬礼しました。




提督「遠征に支援、皆お疲れだったな」



提督の労いを合図に全員が着席します。


会議室の空気はいつもと違い少し緊張感に包まれています。




時津風「…」


雪風「…」



時津風さんと雪風さんが上目遣いで提督の様子をチラチラと伺っています。



『いつも通りなのかそうでないのか』



そんな心配をして見ているのがわかります。




親潮「…」




親潮さんは私の隣に座って視線を下に向けています。


顔を上げて提督を見るようにするように言うのは今はまだ酷だと思い特に何も言いませんでした。





提督「近々横須賀鎮守府との合同訓練、そして合同演習が行われることとなった」




提督が手元の資料を私に寄越します。


全員分あるようでその資料を皆さんに配りました。





葛城「うわっ」


天城「これは…」


天津風「凄いわね…」





資料を見て何人かが声を上げています。



無理もありません、相手である横須賀鎮守府に配属されている艦娘を見たら誰だって驚きます。






横須賀鎮守府に配属されている艦娘



【戦艦】



長門改二 陸奥改二


金剛改二丙 比叡改二 榛名改二 霧島改二



【空母】



大鳳改


翔鶴改二甲 瑞鶴改二甲


隼鷹改二



【重巡洋艦】



鳥海改二



【航空巡洋艦】



熊野改二



【軽巡洋艦】



阿武隈改二


五十鈴改二



【駆逐艦】



吹雪改二 白雪 初雪 深雪 叢雲改二 磯波


三日月 望月





…以上が横須賀鎮守府に配属されている艦娘でした。




提督「葛城、どう思う?」


葛城「え…?相手がこのメンツだと相当厳しいわよね…」



いきなり話を振られた葛城さんでしたがしっかりと答えました。



提督「では天津風はどう思う?」


天津風「私も…かなり厳しいと思うけど…?」


提督「まあそれが戦う側の普通の意見だな」



その意見を予想していたように提督が頷きます。

『何が言いたいのかな?』と思っていると次に提督が意見を聞いたのは…



提督「では大井、お前はどう思う?」



同じ質問を大井さんに問い掛けました。




大井「そうね…」




資料が配られてからずっと手を口元に当てて考えていた大井さんが口を開きました。




大井「明らかな戦力過剰ね。こんなにも主力になれそうな艦娘が多かったら自分なら見る余裕が無いと思う」


提督「うむ」




大井さんの意見に提督は満足そうに頷きました。



天城「でもどうしてこんなにも強力な艦娘が配属されているのですか?横須賀鎮守府の白友提督は確か提督と同期のはず…」


提督「あいつは同期の中でも期待の星なんだ。上からも期待されているのか強い艦娘が優先的に配属されているらしい。おまけにあいつは艦娘に優しくてな、他の鎮守府で酷い目に遭っている艦娘を助けて自分の艦隊に迎え続けたからこんなにも膨れ上がったんだろう」






白友提督は艦娘に対する穏健派の方から有望視されている提督らしく将来海軍のトップに立つ男だと以前提督が言っているのを思い出しました。


その時の表情はなぜか自慢げで楽しそうにしていたのを覚えています。


そして…悪だくみをするときの笑顔をしていたのも…





時津風「ふーん、誰かさんとは大違いだねー」


雪風「と、時津風…?」



その話を聞いていた時津風さんがまるで挑発するように提督に言ってきます。



時津風「あたしも優しい提督さんのとこに行っちゃおうっかなー」


天津風「ちょっと…やめなさいよ…!」



挑発をやめない時津風さんに天津風さんがやめさせようと肩を掴みます。




提督「なんだコアラ、お前異動したかったのか?」


時津風「え…」


提督「よーし、では後で異動願を書いてやる。今までお疲れだったな、向こうでも頑張れよ」


風雲「な、なんてことを…!」


時津風「な、なんでそうなるんだよ!冗談だってば、しれー!」




平然と異動させようとする提督に時津風が慌てて首を横に振りました。






時津風「…あれ?」






時津風がハッとして提督を見ます。




今の一連のやり取り



それはきっと





時津風「へへっ」




時津風さんが望んでいた、いつもの提督でした。


嬉しそうにはにかんでいる時津風さんを見て私も嬉しくなります。



祥鳳(ずっと心配してくれていましたものね…時津風さん)



その時津風さんの様子に他の皆さんの緊張が解かれ場の空気が和らいだような気がします。




提督「さて沖波」


沖波「は、はいっ」


提督「大型の艦娘を鎮守府に迎える条件は?」


沖波「え…えっと…」



あ…


なぜこの話をしたのかがわかりました。




沖波「大本営に大量の資源を納めて申請するのと…」


提督「もうひとつは?」


沖波「双方の鎮守府の提督、そして艦娘の間で異動するかを話し合って…」


提督「そうだな」





大型の艦娘を私達の鎮守府に迎える方法



それは他の鎮守府から異動させるというものでした。





提督「これだけ戦力過剰の鎮守府なら必ず持て余している者、活躍の機会を与えられずあぶれているものがいるはずだ」



提督は楽しそうに笑みを見せています。



提督「あぶれた艦娘を白友のところからぶん捕ってやる、お前ら、そんな感情を持っていそうな奴を炙り出せ。異動でこの鎮守府に来るのなら無駄に資源消費しなくて済むからな。あははははは」



いつもの…野望に燃えている楽しそうな提督でした。




風雲「ちょっと…何てこと言うのよ!…そんな人だと思わなかったわ!」




風雲さんが立ち上がって抗議しようとします。




風雲「あ、あれ…?」



しかし誰も賛同しません。




葛城「そっか…風雲は来たばっかりだったもんね」


天龍「早く慣れておいた方が良いぞ、こいつはいつもこんな感じだからな」


風雲「うそ…」




諦めたような葛城さんと天龍さんの言葉に風雲さんががっくりと肩を落としました。





提督「話は以上だ、詳しい合同訓練と合同演習の内容は後日伝える。解散」




提督の号令に皆さんが立ち上がりそれぞれ会議室を出て行きます。







雲龍「…」


提督「わかってるよ、お前の望みそうな演習を組んでやる」



その言葉に満足して雲龍さんが訓練所へ向かいました。




時津風「しれー、演習に勝ったらなんか買ってよねー」


提督「てめえコアラ!調子こいてんじゃねえ!汚ねえ手で服を掴むな!汚れるだろうが!!」


時津風「なんだよー」



時津風さんが嬉しそうに提督の服を引っ張っていました。




天津風「全く…名前で呼ばれない方が嬉しいなんてね」


雪風「でもいつものしれぇが戻って来て本当に良かったです!」





昨日あれだけのことがあったのです。


提督もどこか無理をしていつも通りに振舞っているのでしょうけど…




祥鳳「そうです…ね、いつも通りですよね」




今はこの久しぶりに感じられた暖かい空気にいつまでも浸っていたい気分でした。
























_____________________




親潮「…」






ずっと下を向いていた親潮は何かを決意したかのように顔上げて




訓練所の方へと走って行った。










大井「…」










そんな親潮を見て大井も彼女の後を追って訓練所の方へと向かった。








_____________________





【鎮守府内 工廠】





沖波「ふぅ…」



演習を終えていつものように義足の整備をしている。



沖波「だいぶ消耗してきたなぁ…」



整備している義足を見て沖波が溜息をつく。


この鎮守府に来た時に他の艦娘達がお金を出し合って買った義足に限界が近づいていた。



艦娘用の義足は特注品で値段も高く、今の自分の給料では中々新しいものに手が出せなかった。


提督からこの鎮守府に着任する際に『そんなことに金は掛けられない』と言われたことに対し『自分で何とかする』と言ってしまったため、今更お願いすることには気が引けてしまう。




沖波(あ、でも…この前…)



熱で提督が休んでいる時に『ちゃんと仕事したら買ってやる』と言っていたのを思い出した。




沖波(よしっ、次の合同演習先で…)





新しい義足パーツを買って貰えるように頼もうかと思っていた時だった。




風雲「沖波」


沖波「あ、風雲姉さん」




姉である風雲が沖波に声を掛けた。



風雲「何か手伝えることは無い?」


沖波「あ、大丈夫ですよ。もう終わりますから、ありがとうございます」



慌てて整備を終えて沖波が立ち上がる。


そんな沖波に対し風雲は心配そうな視線を送る。



風雲「ねえ沖波…無理してない?大丈夫なの?」


沖波「え…」


風雲「ただでさえその…沖波はケガしているのに…第二秘書艦まで…私が代ろうか?」


沖波「…っ!」



風雲の提案に沖波が身体を震わせる。



沖波「そ、そんな…無理なんて…」


風雲「もしかしてあの提督に無理強いさせられているんじゃないの?もし言い辛いなら私から…」


沖波「私が自分からやるって言ったんです!!」


風雲「お、沖波…!?」




心配する風雲に対し沖波が口調を強くして答えた。




沖波「お願いですから…私の仕事を取らないで下さいっ!!」


風雲「あ!沖波っ!」





逃げるように沖波は工廠を後にした。






走っていると涙が零れる。




風雲が心配して言ってくれているのは頭ではわかっている。



しかしそんな風雲に対し嫉妬めいた感情を持った自分



そしてこんな拒絶するかのような言い方をしてしまった自分を恥じながら沖波は何度も零れる涙を拭っていた。







_____________________









【鎮守府内 執務室】




翌日、俺は秘書艦を集めてあることを頼んでみた。




祥鳳「ほ、本気ですか…?」


提督「ああ」


天城「な、なんでそんなことを…」


沖波「…」



俺の提案に祥鳳、沖波、天城が信じられないような顔をする。



天城「良いんですか?本当にそんなことして…」


提督「確実に演習に勝つためだ。それと…俺が楽しいからだな」


祥鳳「もう…本当は楽しむ気持ちの方が強いのでしょう?」


提督「まあな」




これから俺のすることで白友の奴がどんな反応をするか想像するだけで笑みが零れてしまう。


あいつには本当に申し訳ないが今回の合同演習を戦力増強とストレス解消にさせてもらおう。




後は…




提督「大井、手が空いたら執務室に来てくれ」




演習の作戦を練るために大井を呼び出した。



祥鳳「合同演習の種目は何があるのですか?」


提督「ああ…今回は…」



合同演習は艦隊同士の戦闘という場合が多いのだが今回はいくつかの種目がある。




①駆逐艦4隻によるリレー



②空母2隻による対空戦



③艦種指定無し2隻による戦闘



④軽巡1隻、駆逐艦4隻の水雷戦隊による戦闘



⑤艦種指定無し6隻による艦隊戦




以上の5種目だった。



提督「これから大井とメンバーを選ぼうかと思ってな」


祥鳳「提督」


提督「なんだ?」


祥鳳「2種目目の対空戦ですが…」




祥鳳が一度視線を天城に送る。


天城はそれに対し真剣な表情で頷いた。



祥鳳「私と天城さんに出させてもらえませんか?」


提督「ほぉ?」



珍しいな、祥鳳と天城がこういうことに自分から意見するのは。



提督「大丈夫か?相手は百戦錬磨の装甲空母か改二艦だぞ?」


祥鳳「必ず勝ちます」


天城「よろしくお願いしますっ!」



少し脅すような口調で言ったが祥鳳も天城もそれに負けることなく言い返してきた。


この二人が最近ずっと一緒に居残り演習をしているのは知っている。

そんなこともあってかどうやら自信もあるらしいな。



提督「良いだろう。だが必ず勝てよ。負けたらどうなるかわかっているな?」


天城「なにするつもりなんですか…」


祥鳳「天城さんに手を出したら許しませんよ?」


提督「そんな危ないことできるか」


天城「あ、危ないって…酷いです…」




天城に手を出そうものなら後でどんな報復が待っているか想像できないのでやめておく。


その分祥鳳をベッドの上で徹底的にいじめてやろう。






提督(さて…)





そんな俺達のやり取りを前に辛気臭い顔をしているのが一人。



沖波「あの…司令官…」


提督「なんだ?」


沖波「風雲姉さんは…どうですか?」


提督「どうって…何がだ?」



辛気臭い顔しながら沖波がマゴマゴとしている。

その雰囲気に苛立ってメガネを取り上げようかと思ったが祥鳳と天城の手前やめておいた。



沖波「改二艦ですし…今回の演習も…活躍しますよね…?」


提督「…」




上目遣いで不安そうな顔で聞いてくる。


聞く内容と表情が全く一致しておらず『どういうことだ』と祥鳳に視線を送ると彼女は心配そうな視線を返してきた。




提督(そういうことか)



大方風雲の実力を目の前で見せつけられて居場所を失うとか面倒なことを考えているに違いない。


それを中々言い出せないのは相手が姉妹艦ということで自分がそう思いたくない、そんなこと思っていないと必死に否定して抑え込んでいるのだろう。



提督(最上の時と同じだな。やれやれだ)



以前海軍提督になるための最終試験で会った最上のことを思い出した。


あいつも妹二人に改二改装を先に越されて極度のスランプに陥っていた。




その時のことを思い出させるような今の沖波の状態。


艦娘の姉妹艦同士の絆は強く仲が良い。

その反面負の感情が生まれた時はこのように悩み解決の糸口を見いだせにくくなってしまうのだ。



自力で解決したり這い上がったりする者もいるが、沖波はそういったタイプには見えない。





ここは…





俺は一旦ペンの蓋を閉じて胸ポケットに差した。





提督「俺は使えない奴を傍に置くほど暇じゃない」


沖波「…っ!!」




俺の言葉に沖波が肩を震わせた。




提督「お前が使えないと判断して風雲が使えると思ったら容赦なく切り捨てるぞ」


沖波「そう…ですよね…」



俯いた沖波の目から涙が零れた。




沖波「っ…ごめんなさ…!っ!」



弾かれるように執務室のドアへと走り執務室を出て行った。




天城「沖波さん!」




すぐにその後を天城が追いかけて行く。



祥鳳「…」



対照的に祥鳳は落ち着いた表情で執務室を出て行った。























大井「なんか沖波が泣きながら走って行ったけど…どうしたの?」



3人が出て行った後、先程呼んでいた大井が執務室に来た。



提督「別に大したことではない、気にするな」


大井「そう」



大井も大して気にする様子を見せなかった。

きっとすれ違う時に祥鳳にも会っているのだろう。



大井「要件は合同演習のメンバー選びかしら?」


提督「ああ。まずはリレーのメンバーなのだが…」








【鎮守府内 工廠】




沖波「ぅっ…ぐすっ…」


天城「沖波さん…」



工廠の奥で膝をついて涙を拭っている沖波さんを見つけました。



祥鳳「不安なのですね」



私に声を掛けられた沖波さんが涙顔のままこちらを向きました。



沖波「わ…私なんて…っ…風雲姉さんの…足元にも…何しても…ひっく…」



足を失うという大きなハンデを乗り越えて、自分だけの仕事を与えられ始めた沖波さんでしたが、風雲さんという姉妹艦の着任により自分の居場所を奪われたりしないかという不安でいっぱいなのが手に取るようにわかりました。



祥鳳「気持ち、わかりますよ」


沖波「え…」


祥鳳「少し前…妹の瑞鳳から手紙が来ました」




手紙に書かれた内容



近々行われるレイテ沖海戦のメンバーに選ばれたこと


そして…



沖波「改二改装…ですか…?」


祥鳳「ええ…」




その下準備のために瑞鳳の改二改装が決まったと書いてありました。



手紙を読んだ時、私に沸き上がってきた感情




出撃する瑞鳳への心配より、改二改装が決まった瑞鳳への喜びよりも強く感じたものは…





祥鳳「妹に対して…強い嫉妬と焦りを感じました」


沖波「祥鳳さん…」


祥鳳「同時に寂しくもありました。瑞鳳が遠い所へ行ってしまったようで…」




恥ずべきことではあるのだけど…包み隠さず沖波さんに伝えます。



祥鳳「そこで自分を見つめ直したの。今、私は秘書艦という立場を与えられてはいるのだけれど…本当にこのままで良いのかって」



私はこのことを天城さんに相談しました。



天城「ふふ、私もね、色んな鎮守府をたらい回しにされてまたいつ異動させられるのかって危機感がありました」


祥鳳「二人で決めたの。実力でこの立場を確立させて見せるって」


沖波「だから今回の…」


祥鳳「はい、合同演習の対空戦に立候補させていただきました」


天城「雲龍姉様と葛城には申し訳ないけど…譲るわけにはいきませんから」


沖波「…」



相手を考えるとかなり厳しい戦いになることが予想されますが…私も天城さんもこの日のためにずっと特訓をしてきました。

自分のためにという自己満足めいた戦いではありますが…絶対に負けるわけにはいきません。



祥鳳「沖波さんはどうするのですか?」


沖波「…」


祥鳳「このまま与えられた立場に甘え、いつ奪われるかという恐怖に怯えて生活するのですか?」



少し挑発めいた言い方になってしまいましたが…



沖波「嫌…です…」



沖波さんは涙を自分の袖で拭いながら顔を上げます。



沖波「私…負けません…!風雲姉さんにだって、せっかく得られた生きがいを…奪われたりしません…!」


天城「その意気ですよっ」



沖波さんが立ち直ってくれそうで少しホッとしました。


正直私はそんなに心配はしていませんでした、だって…



祥鳳「足を失うというこの鎮守府で誰よりも大きなハンデを持っていても立ち直れた沖波さんなら…このくらいどうってことないですよね!」


沖波「はいっ!!」




沖波さんはもう自分の力で立ち直ったことがあるのですから。




天城「ひとつ良いことを教えてあげましょうか。提督が沖波さんに任せている事務仕事はね、本来艦娘に任せられるようなことではないのですよ?」


沖波「え…それってどういう…」


天城「私は渡り歩いてきた鎮守府でも秘書艦をしたことがあるのですが…提督は沖波さんにこの鎮守府の資金管理もさせていますよね。それって凄いことなんですよ?」




沖波さんを更に勇気づけようと天城さんが色々と話してくれている傍で私は少しの達成感を味わいながらその光景を眺めていました。






















天城「それにしても…」



沖波さんが演習場の方へと走って行った後、二人で執務室に戻ろうとしている時天城さんが話しかけてきました。



天城「前は『提督に利用されていることが悲しい』みたいなこと言っていたのに…今日はやけに落ち着いていますね」


祥鳳「え…」



鋭い天城さんの指摘に思わず言葉に詰まる。



天城「お二人の間に何かあったのですか?」


祥鳳「えっと…」















少し前、大井さんが着任して間もなかった頃



知らず知らずのうちに提督に利用され、彼の復讐を後押ししたような形になってしまい、そのモヤモヤした気持ちを提督にぶつけてしまったことがありました。



その数日後、提督がこう提案してきたのです。





『もし俺がペンの蓋を閉じて胸ポケットに入れたら…』





それは何も言わずフォローに回って欲しいというサイン



私と提督の間で決めた二人だけのサインでした





『自分では動かない方が良い場面で祥鳳に動いて欲しい』という提督からのお願いでした。



そして…私がこれ以上不安にならないようにしてくれる配慮にも思えました。






今回はそれがピタリとはまったような気がして…





祥鳳「ふふ、秘密ですよ」





私は嬉しさを噛み殺すのに必死になってしまいました。




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【鎮守府内 執務室】



提督「艦隊戦の勝機はあると思うか?」


大井「正直厳しいと思う。相手の編成次第では隙を見つけることすら困難ね」


提督「相手の提督の考えそうなことは大体わかるんだが…如何せん戦力差がこれではな」


大井「今回はできる限りのメンバーで行くしかないんじゃない?」


提督「だな…」




大井のアドバイスを基に5種目目の編成案を書き出した。




提督「これで全種目決まったな」


大井「意外ね」


提督「何が?」


大井「風雲を出撃させないことよ。あんたが本気で勝ちにいくのならあの子を出しても良いんじゃないの?」


提督「まあな…」



大井の視線は一種目目の『駆逐艦4隻によるリレー』に注がれている。



大井「相手に改二艦がいることを考えれば風雲を出すのがベストだと思ってはいたのだけど…」


提督「普通にやるのなら大井の意見が正しいのだろうな」



しかし今回の相手が白友の艦隊ということで、ある構想が俺の中で浮かんでいた。



提督「心配するな、必ず勝てるステージを作りだしてやる。くっくっく…」


大井「あんまり無理するんじゃないわよ…」



これからのことを思うと俺は楽しくなって笑いを堪えることができなかった。








大井「あのさ…」



大井が執務室を出ようとした時に真剣な表情でこちらを見た。



大井「祥鳳…あまり無理させないでよね」


提督「なに?」


大井「あんたと親潮の間に何があったのか知らないけど…その間に立っている祥鳳のことを考えてあげてね」


提督「…」




『お前には関係ない』と言おうと思ったがその言葉を呑み込む。


それほどまでに大井が真剣で心配な顔をしていたからだ。



大井「祥鳳はさ…自分がどれだけ無理をしてでもあんたの力になろうと動くはずよ、だから…」


提督「無理させないように…余分な負担を与えないように気を付ける」


大井「…」



提督「忠告感謝するよ」


大井「お願いね」



少し頭を下げて大井はそのまま退室していった。




提督(大井の言う通りだな…)



俺は自分のこと手一杯で祥鳳のことをしっかりと考えてやれなかった。

今でも親潮のことは頭の中で整理がついていない。

少しでもあいつのことを考えると嫌な痛みを感じるからだ。


考えないようにしているだけで何も向き合えていないのが現状だった。



提督(どうしたものか…)



大井にはああ言ったがどうすることが解決の道なのか、考えを巡らせても糸口を見いだせなかった。










【鎮守府内 会議室】




提督「合同演習の種目内容は以上だ」



再び艦娘達を会議室に集合させて合同演習の打ち合わせをする。



提督「次に各種目のメンバーだが…」



手元の資料を持ち替え大井と決めたメンバー表を見る。




提督「駆逐艦4隻によるリレー、沖波、時津風、雪風、天津風の順だ」


沖波「え…!?」



先頭に選ばれた沖波が驚きの声を上げ全員の注目が集まる。



風雲「あ…あのっ、提督、沖波は…!私、いつでも…」



風雲はこう言いたいのだろう。

『沖波には足にハンデがある、だから私が…』と。


姉妹艦を心配しての発言だが沖波に気を遣ってかハッキリとは言い出せないようだ。



…そんなお前の反応は予想済みだがな。




提督「どうするんだ沖波」


沖波「やります…!やらせてください!!」



俺の問いに沖波は即座に反応して答える。

どうやら先程祥鳳と天城に励まされたのが効いているようだな。



提督「期待してるぞ」


沖波「は…はいっ!!」



嬉しそうに沖波は笑顔を見せながら大きな声で返事をした。




せいぜい頑張ってくれ、お前の頑張りは全員に良い影響を生んでくれるからな。くくくっ



風雲「…」



お前に心配な眼差しと俺に懐疑の視線を送ってくる風雲のためにも頑張れよ。



時津風「しれー、あたし達には期待してないのー?」


提督「いつも通りやれば勝てる。余計な事したら溶鉱炉に放り込むぞ」


時津風「なんだとーーー!」


天津風「まったく…」


雪風「いつも通りですね、よしっ!頑張ります!」








提督「次に空母2隻による対空戦。祥鳳と天城」


祥鳳「はい!」

天城「はい!」



二人仲良く息ピッタリの返答だった。



提督「特に指示は無い、勝てるもんなら勝ってみろ」


祥鳳「必ず勝ちます!」


天城「特訓の成果、見せてあげますね!」



普段大人しい祥鳳と天城の自信に会議室の空気は驚きに包まれていた。






提督「艦種指定無し2隻による戦闘は…雲龍と葛城」


葛城「よぉし!やってやるわ!」


雲龍「…」



やる気満々の返事をする葛城と対照的に雲龍は不満そうにこちらを睨む。



提督「…だったのだが…葛城、悪いけどお前は休んでくれ」


葛城「はぁ!?なんでよ!!」


雲龍「よし」



『よし』じゃねえよ…ったく…。



葛城「ちょっと!話はまだ…ムググ!!」


天城「はいはい会議中はお静かに、ね」



喧しい葛城を天城が黙らせてくれたおかげで先に進めることができそうだ。



提督「では軽巡1隻、駆逐艦4隻の水雷戦隊による戦闘は…天龍」


天龍「おっしゃー!」


提督「それと天津風、時津風、雪風と沖波だ」


風雲「…」



いつも通りのメンバーだが風雲が納得いってなさそうな顔をしている。



提督「風雲と…親潮は今回出番は無い。お前達は着任して日が浅いから艦隊の連携は難しいだろうからな」


風雲「そう…」


親潮「はい…」



二人の暗い返事をほとんど無視しながら先へと進む。



提督「最後に艦種指定無し6隻による艦隊戦だが…旗艦に祥鳳、そして雲龍、天城、葛城、天龍と雪風だ。しかしこのメンバーは仮で当日のコンディションを見ながら変更するかもしれないので他の者も心の準備はしておいてくれ。相手との戦力差を考えると現状で勝つことは難しい。この艦隊戦に関しては勝てなくても…」


天龍「何言ってんだよ!勝つに決まってんだろ!」


提督「3日後に出発する。それまで合同演習のための訓練に取り掛かってくれ」


天龍「こらぁ!ムシすんな!」



他の艦娘達は天龍を苦笑いで見ながら演習場へと向かって行った。




提督「間宮、留守は頼んだぞ。他の鎮守府から防衛用の艦娘が一時派遣されてくるから存分に腕を振るってやれ」


間宮「あ…はいっ。お任せ下さい」


提督「使えそうな艦娘がいたらちゃんと餌付けしておけ。後でそいつも…」


間宮「なんですって?」



俺の言葉に間宮が冷たい視線を返す。



提督「冗談だよ…」


間宮「本気のくせに…でも…」


提督「なんだ?」


間宮「元気な顔が見れて良かったです。最近提督食堂にいらしてくれませんでしたから…」


提督「…」



言われてみれば親潮が来て以来体調を崩したりなんなりしていたら間宮の飯から遠ざかっていたようだ。



提督「…肉じゃがが食いたい」


間宮「わかりました!今日のお夕飯楽しみにしていて下さいね!」



鼻歌を歌いそうなほどに上機嫌になった間宮に内心苦笑いをした。






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【鎮守府内 演習場】





親潮「はぁっ!はぁっ!っぐ…」







祥鳳「…」



夜遅く誰もいない演習場で親潮が一人訓練をしていた。


その様子を心配そうに祥鳳が物陰から見守っている。




親潮の息は荒れ、フォームはバラバラになっていて見ていられない程に疲れ切っている。



祥鳳「親潮さん…」



止めるべきかどうか祥鳳が悩んでいると後ろから誰かが近づいてきた。




大井「彼女のことは私に任せてもらえるかしら?」



両手に書類を抱えた大井だった。

その恰好はいつもの指導用の制服を身に纏っている。



祥鳳「大井さん…」


大井「あなたは少し休むべきよ。最近大変だったでしょう?」


祥鳳「…」



少し悩むような顔をして親潮に視線を送った祥鳳だったが大井の厚意に甘えその場を離れることにした。



祥鳳「お願いします…」


大井「ええ」









祥鳳が離れて行ったのを確認して大井は息を乱し疲れ切って水上に倒れている親潮のところへと向かう。




大井「満足かしら?」


親潮「え…」



大井の冷たい声に汗で濡れた顔を上げる。



大井「くたくたになるまで疲れた訓練ができて満足かって聞いているのよ」


親潮「…」



まるで挑発するような大井の言い方に親潮は目を逸らす。



親潮「放っておいてください…私はもっと…強くなって皆さんに追いつかないと…」


大井「そのやり方に無駄が多いって言ってんのよ」


親潮「で、ですから…」






大井「こっちを見ろっ!!!」


親潮「ひっ!?」




いきなりの大井の怒号に親潮が背筋を伸ばして顔を向けた。


そこには…




親潮「これは…」


大井「あんたのこれまでの戦歴、過去の実戦データ、最近の演習を見て私が見つけておいた課題と訓練内容よ」



大井が持ってきた資料を親潮に手渡す。



大井「どうせ居残り訓練するなら少しでも早く強くなれる方があんたにとっても良いでしょう?」


親潮「…」



大井の言う通りだがそれでも親潮の表情には放っておいて欲しいという態度が見え隠れしている。




大井「…あんたと提督の間に何があったのか…私には関係ない」


親潮「…っ!」



大井の言葉に親潮が表情を硬くする。



大井「でもね、私は練習巡洋艦として一切手を抜くつもりは無いから。無駄な訓練をやっているあんたを放っておくわけにはいかないのよ」


親潮「…」


大井「それにね…」


親潮「いっ!?」



大井は親潮の胸倉を掴んで引き寄せた。



大井「無茶苦茶な訓練して疲れ果てて出撃中に他の子達を巻き込むようなことはして欲しくないわけ!わかってんの!?」


親潮「も、申し訳ありません!」


大井「ふんっ」



大井の勢いに圧された親潮が顔を引きつらせながら謝った。

そんな態度に満足したのか掴んだ胸倉を離してやる。



大井「早く強くなりたいのなら私の言う通りになさい。あんたがみんなに早く追いつけるように私がちゃんと見ててあげるから」


親潮「大井さん…」



親潮の頭を優しく撫でながら今度は諭すように言う。

大井なりの飴と鞭の使い分けだった。



親潮「はい…!正直自分では…どうすればいいのか、わかっていなくて…どうかよろしくお願いします!」


大井「よし…それじゃ早速…」












この後、親潮は大井の指導の下に訓練を続けた。







それは親潮が個人で行っていたものとは比較にならない程に厳しい訓練内容ではあったが







親潮の感じたその疲労感はいつもとは違うどこか達成感のようなものが混じっていた











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【鎮守府内 提督の私室】




祥鳳「提督、祥鳳です」


提督「ん…?」



私室でこれからの作戦を見直しているとノックの音と祥鳳の声がした。



提督「夜這いか?」


祥鳳「ち、違います!」



からかうと恥ずかしそうに顔を赤らめる。


何度も抱いたというのにこいつのこういうところはちっとも変わらんな。



祥鳳「あの…親潮さんですが…」


提督「ん…」



まあ…こいつがわざわざ来たのはこんな理由だろうな。



祥鳳「あなたのお役に立てるように居残り訓練をしています、本当にその…真剣で頑張って…」



不安そうな表情を見せながらチラチラとこちらを覗き込んでいる。




提督(やれやれ…俺はどれだけこいつに気を遣わせているんだか…)




そんな自分を恥じるとともにさっさと楽にしてやりたいと思った。



提督「俺のことは良い。今日はもう休め」


祥鳳「で、でも…あの…提督、眠れますか?もしよろしければ私が…」


提督「…」




俺が悪夢にうなされて眠れないかもしれないと心配そうに見ている。



確かに一人で眠るとそんな不安があるといえばあるのだが…




今はそんな自分のことよりも…




『祥鳳…あまり無理させないでよね』





大井に言われた通り彼女を休ませることを優先させる。




提督「…」


祥鳳「提督…?」




しかしそのための言葉が出ない。


いや、出せない。



自分の言うべきことはわかっているのだが…なぜか恥ずかしくなって言うことができない。



以前グラーフ教官に言われた『言うべきことはしっかり言え、相手が察してくれるなどと甘ったれるな』という言葉が思い出される。



わかってはいる、わかっているのだが…






祥鳳「あ…あの…どうしましたか?何か…その…不快な思いを…」





これ以上何も言わずにいると祥鳳が不安に押しつぶされそうなので意を決して言うことにした。




提督「祥鳳…」


祥鳳「あ…」




祥鳳の頭に手を置いて優しく撫でる。




提督「俺のことは心配しなくても良い」


祥鳳「提督…」


提督「その…な…」



この先を言うのがとても恥ずかしい。



提督「お前のおかげで…俺は…大丈夫だ。親潮のことで何かしたりしない、約束する」


祥鳳「…」


提督「だからお前はもう休め、これまで無理させてすまなかったな」


祥鳳「いえ…」



嬉しそうに少し笑顔を見せる祥鳳をまともに見れなくて視線を逸らす。



祥鳳「それでは失礼します、早めに休んで明日に備えて下さいね」


提督「ああ…」




嬉しそうに笑顔を見せたまま祥鳳が部屋を出て行った。








提督「くそっ…!」




言葉で艦娘を利用するのにこれまで何の躊躇も無かったはずなのにこんなに心苦しくなることはなかった。




机に座って合同演習の作戦のことを考えようとしたが全く集中できない。




提督(やめだやめだ、さっさと寝よう)




服を着替え電気を消す前に鎮痛剤と精神安定剤を飲もうかと考える。


だが今は必要ないと思いそのままベッドで眠ることにした。



















その日は自分が驚くほどによく眠れた。






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【鎮守府内 廊下】





祥鳳(いけない…こんなことでは…)




夜の廊下にある窓に自分の顔が映る。



自分じゃないと思えるくらいに頬が緩んでいました。




今…私の胸の中を支配する感情



嬉しいという心からの気持ち。それが胸いっぱいに広がっています。





祥鳳(だめ…今日はもう何も手につかない…)





空いた時間で天城さんと作戦会議でもしようかと思ったけど今日はもう無理です…





祥鳳「提督…私…もうひとつ、覚悟を決めましたからね」





提督の私室に視線を向けて独り言を呟き、自分の部屋へと歩き始めました。











その足は…ここに着任してから一番軽かったような気がしました。









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【横須賀鎮守府 白友提督の執務室】





白友「な…なんだこれは!!」




書類を持つ白友の手が怒りに震えていた。




長門「どうかしたのか?」


白友「あいつ…やっぱりこんなことを!!」



ダンッ!と白友の手が机を叩く。



いつもの優しい提督の姿じゃないことに秘書艦の長門が心配そうに書類を覗き込む。




そこには…




長門「駆逐艦に対する暴言…罰として地下牢への監禁…演習中の折檻…」




あの鎮守府からの内部告発と思える手紙だった。




白友「あいつ…!!少しは改心したと思っていたのに…!!くそぉ!!」


長門「落ち着け提督。この鎮守府とは3日後の…」


白友「ああ!合同演習で会う!しっかり問い詰めて…場合によっては…!!」


長門「無茶はするなよ」


白友「わかってる!」




そうは言っても落ち着かない白友に長門は浅いため息をついた。





3日後の演習に合わせ『助けて欲しい』とあの鎮守府の誰かが書いて送ってきた物だとわかるが…




長門(しかしなぜこの鎮守府に送ってきた…?)





長門はその妙なタイミングの良さに少し違和感を覚えていた。













【三日後 横須賀鎮守府】






合同演習が始まる横須賀鎮守府に到着した。





到着早々に合同訓練を開始するため全員で一旦工廠へ移動し艤装の準備をしている。




長門「横須賀鎮守府の秘書艦をしている長門だ」


祥鳳「佐世保鎮守府の秘書艦、祥鳳です。本日よりよろしくお願い致します」



長門が差し出した手を祥鳳がしっかりと握り挨拶をしている。



長門「…」


祥鳳「…?」



長門の視線は祥鳳だけでなく周りの艦娘、そしてさりげなく俺にも注がれていた。



提督(ああ、そういうことね)



大方白友の奴に『様子を探ってきてくれ』とでも言われたのだろう。

全く…あいつの秘書艦だと色々苦労しそうだな、原因作ったのは俺だけど。



陸奥「こちらは今日からのスケジュール表になります」


提督「ああ、どうも」



長門ばかりに目がいっていたがもう一人来ていたらしい。


長門の姉妹艦の陸奥で、彼女は俺に書類を持って来てくれた。




書類を見ると予定通り今日の午後から合同訓練が行われるようだった。




長門「それでは午後から」


陸奥「13:00に演習場で。待ってるわね」




二人がこちらに頭を下げて工廠を離れて行った。





提督「集合してくれ」




二人が離れたのを確認してから艦娘達を集める。




提督「今日が合同訓練、明日からが合同演習だ。早速だがお前達に命令がある」




俺の『命令』に緊張感のある面持ちに変わる者がいる。

命令違反の罰の恐ろしさを身をもって体験したからだろう。




提督「今日の合同訓練だが…向こうの鎮守府のペースに合わせろ」


時津風「へ?」


雪風「それって…」


提督「わかりやすく言うと本気を出すなってことだな」


時津風「あー…」


天津風「そういうことね」


大井「全く…あんたらしいわ…」



すぐにその意図を理解した者



風雲「え?え?どういうこと?」


天龍「なんだよそれ…」



意図を理解できずに戸惑う者と反応は様々だ。



提督「以上だ、俺は司令部施設から見ているから現場は祥鳳、天城、大井、お前らに任すぞ」


祥鳳「はい」


天城「了解しましたっ」


大井「ええ」



要件を伝え終えて離れようとするがまだ納得いってない者が2名。



風雲「ちょ、ちょっとまだ話は…」


天龍「おい!本当にそんなんで良いのかよ!」


提督「命令違反は連帯責任で重い罰を与えるぞ。天津風、言い聞かせておいてくれ」


天津風「わかったわ」



罰の重みを知っている天津風に後は任せ、俺は司令部施設へと向かった。





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【横須賀鎮守府 演習場】



阿武隈「みなさーん、よろしくお願いしますぅ」


五十鈴「よろしくね!」


陸奥「合同訓練はこちらを主導にしても良いってあなた達の提督が言っていたけど…」


祥鳳「はい、よろしくお願い致します」



演習場に出ると横須賀鎮守府の艦娘の皆さんが私達を訓練しやすいように誘導してくれました。



水雷戦隊は水雷戦隊、空母は空母同士と別れそれぞれの演習を行いました。





阿武隈「え、えっと…大井さんは…」


大井「私はこの子達の指導役だからここで見てるわ。気にしないで」


阿武隈「は、はいっ」



向こうのことは大井さんに任せておけば大丈夫そうなので私は私の演習に集中しました。



















金剛「テートクのハートを掴むのは私デーーーーーーーース!!バーーーーーニングーーーーー!!ラーーァーーーーーーーーッブ!!!」


祥鳳「うわっ!」




離れた位置から聞こえる金剛さんの大きな声と砲撃音に思わずビックリしました。




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【横須賀鎮守府 司令部施設】




金剛のでかい声は通信機を通じてビリビリと司令部施設に響き渡った。




提督「なんだあれ…なあ白友、お前あんなこと言わせてんのか?」


白友「こ、金剛が自主的に言っているだけだ!俺は何も指示していない!」



恥ずかしそうに白友が反論してくる。




ああ…こいつは未だに女性と関係を持ったことが無いな。


艦娘どころか今でも女性と付き合ったことは無いのだろう…女に対する態度に余裕が無いのを見れば明らかだ。

相変わらずの堅物で同期として少し心配となる。




提督「今度良い女を紹介してやるからな」


白友「演習中に何を言っているんだ!集中しろ!」



ホント、堅物だよな。




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祥鳳「ふぅ…」




提督は『相手のペースに合わせろ』なんて言っていましたが正直あまり余裕はありませんでした。



大鳳「さあ!次いきますよ!!」


祥鳳「はい!」



さすがに相手は百戦錬磨の装甲空母と改二艦。


しかし負けていられないと自分の心の中を熱くさせ、訓練をこなしていきました。




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雲龍「…」



演習中、雲龍は何度も翔鶴と瑞鶴に視線を送っていた。



瑞鶴「な…何よ…」


翔鶴「あの…雲龍さん?」



提督に『あぶれている者を見つけ出せ』と言われたからではない。

その目は獲物を捕獲する準備をしている獣の目だった。



天城「雲龍姉様!今日はまだ我慢して下さい!」


葛城「明後日まで我慢してよね!もう!すみませんでした!」





雲龍は天城と葛城に引っ張られその場を離れて行った。





瑞鶴「何なのよ…」


翔鶴「さ、さあ…」



妙な寒気だけを感じた翔鶴と瑞鶴は顔を見合わせた。





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提督「しかし随分と強力な艦娘を集めたな白友。お前の人望の良さが伺えるよ」


白友「嫌味のつもりか…?」


提督「は?」


白友「大本営から送られすぎて正直戦力過剰だ。おまけに改二艦の改装を優先させろなんて…駆逐艦達のことを何だと思っているんだ…!」




そんなことだろうと思った。


これだけ改二艦が多いのに改二改装の無い駆逐艦が改造されていないのはどうやら上からの重圧があってのことらしい。


上の人間は白友に大型艦を送った結果が欲しいということもあって、無理に改二改装を優先させてきたのだろう。



艦娘達に平等な愛を注ぐ彼にとって悔しいことだろうな。



白友「しかし…ようやく…」


提督「ようやく…なんだ?」


白友「ハッ!お前となんで雑談をしなければならないんだ!」



急に我に返って白友は司令部施設の画面に視線を戻した。


どうせ『ようやく駆逐艦達の改装に目途が着いた』とかそんなことだろう。

若干嬉しそうな顔を見せた白友の態度に俺が気づかないはずがなかった。




それにしても…


提督(大丈夫かよ…)



誰にも言えないストレスを溜め込んでこいつも相当苦労しているんだろうと同情した。



提督「あんまり無理すると禿げるぞ」


白友「はぁ!?」



ストレスの原因は俺にもあるんだろうけどな。




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大鳳「これで訓練は終わりです、お疲れ様でした」


祥鳳「ありがとうございました」



私達空母の演習はどうやら戦艦の皆さんより先に終わったらしく、まだ主砲の大きな砲撃音が鳴り響いていました。







長門「艦隊!!この長門に続けっ!!!」





向こうの秘書艦であり、艦隊を率いる長門さんの大きな声が響き渡ります。



その声を合図に5名の戦艦の方が一斉に砲撃をしました。



葛城「うわ…」


天城「凄いですね」


祥鳳「はい…」



まだ戦艦のいない私達にとっては驚きを隠せません。



霧島「比叡姉様!もう少し先を狙って!榛名!金剛姉様に続いて!」


比叡「はい!」


榛名「いきます!!」


金剛「全砲門!!!ファイヤーーーー!!」



個々の能力だけではなくそれぞれの連携もしっかりとしていて彼女達の日ごろの訓練の姿勢が伺えました。







でも…




陸奥「今日も絶好調ね、長門」


長門「ああ!引き続き砲撃を開始する!」


金剛「撃ちます!!ファイヤーーーーー!」


比叡「お姉様に続きますっ!!」


榛名「榛名!全力で参ります!!」


霧島「主砲!全問斉射ーーー!!」









祥鳳(あ…)






一瞬



本当にしっかりと見ていないと気づけない程の一瞬




彼女の笑顔が消えかかったような気がしました。








祥鳳「…」




このことを提督に伝えるべきか…



祥鳳(その前に一応探りを入れて…あ)





自分の考えに思わずハッとしました。


考えることが既に提督に染まっているような気がして自分を恥じましたけど…




どこかそんな状況を楽しんでいる自分がいることを否定できませんでした。






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雲龍「…」





戦艦達が演習を終えるまでずっと雲龍はある一人に視線を送り続けていた。






長門「それでは解散っ!!」




旗艦の長門の号令により戦艦達が演習を終えて戻ってきた。






霧島「あの…」


雲龍「…」




しかしその中で霧島は戻らず雲龍の方へ来る。


その表情は訝し気で不機嫌そうにも見えた。



霧島「さっきから何なのですか?私の方をジロジロと…」





空母達の演習を終えてから雲龍はその場に留まりずっと観察するように見ていた。


視線は霧島に注がれていて彼女もその視線に気づいていた。




雲龍「どうして本気を出さないの?」


霧島「え…」





雲龍の言葉に霧島の表情が硬く凍り付く。




霧島「何を…わ、私は今の現状で満足しています!あなたに何が…」


雲龍「ふふっ…」


霧島「あ…!」




雲龍の笑みを見て霧島が我に返る。


雲龍は『現状に満足しているのか?』などと聞いていない。

霧島のその答えは『今の自分に満足していない』と答えてしまったようなものだった。





雲龍「本気を出すのは…とても気持ち良いわよ。うふふっ…」




それだけ言って雲龍は霧島を置いて離れて行った。




霧島「…」




後に残された霧島は雲龍の言葉に憑りつかれたようにしばらくその場を動けなかった。





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【横須賀鎮守府 食堂】





「「「「いただきまーす!」」」」




食堂には私達を歓迎するかのように豪華な料理が用意されていました。


演習を終えた私達は食堂へ通され夕食を頂くことになりました。




天城「他の鎮守府との演習は新鮮ですね」


祥鳳「ええ、色んな刺激を受けて今後に活かせそうです」



演習を終えて一息ついた私達は豪華で美味しい料理を頂きながら笑みが零れてしまいます。

周りを見渡すと水雷戦隊の皆さんも楽しそうに横須賀鎮守府の皆さんと交流をしていました。



翔鶴「どんどん食べて下さいね、たくさん用意してますから」


瑞鶴「いつもみんないっぱい食べるからね…遠慮しないでね」


葛城「はい!ありがとうございます!」




先程の演習中、相手の瑞鶴さんから色々と教わった葛城さんが嬉しそうに大きな返事をしていました。



天城「葛城ったら…すっかり瑞鶴さんに懐いちゃって」


祥鳳「あんな感じの先輩に憧れていたのかもしれませんね」



空母同士の新鮮な刺激にこの合同演習は成功なのかなと思わされました。





提督の思惑はこの先にあるのですけど…






ある程度食事を終えて落ち着いたところで私は行動を起こしました。




祥鳳「今日はありがとうございました」


陸奥「あら、秘書艦の祥鳳さんよね」


祥鳳「はい」


陸奥「礼は私より長門か大鳳に言ってよ、私は特に何もしていないから」



デザートを食べ終えてお茶を飲んでいる陸奥さんの隣に座りました。



祥鳳「普段もあのお二人が指揮を?」


陸奥「あらあら、さっそく情報収集かしら?」


祥鳳「ふふ、バレてしまいましたか。明日の合同演習からはライバル同士ですからね」


陸奥「抜け目ないわね。あなたの提督の指示?」


祥鳳「そんなところです」




本当は偵察の指示なんか出されていませんけど…

そう言われているようなものなので提督のせいにしました。




陸奥「私に聞いても何も出ないわよ?何か探りたいのなら阿武隈か大鳳、長門からじゃないと有用な情報は得られないんじゃない?」


祥鳳「そうですか…」




いえ、収穫ありです。




やはり先程のは見間違いではありませんでした。




祥鳳「失礼しました、明日からの合同演習よろしくお願いしますね」


陸奥「ええ。と言っても私は出番無いかもしれないけど」




自然と漏れてしまう小さな愚痴。



仲間や姉妹艦には言えない…艦娘ならではの綻び。





祥鳳(提督はどこからしら…)




それを伝えるため私は提督を探しに行きました。





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【横須賀鎮守府 廊下】




提督「なぁなぁ、飯食いに連れて行ってくれよ。中華街で美味いチャーハンがあるって聞いてさ、気になって仕方ないんだよ」


白友「なんでお前と食事に出なければならないんだ!一人で行け!」


提督「連れないこと言うなよ、俺達同期だろ?」


白友「今から大本営の役員を迎えるんだ!むしろお前がそれに付き合え!」



ああ、明日からの合同演習の審判を務める大本営の役員か。

そんな面倒くさいのには付き合いたくない。



提督「後は任せた、じゃあな」


白友「おいこらぁっ!!」



俺は逃げるように白友から離れ食堂へ向かおうとした。




そこへ…



役員「やあ白友君、ここにいたのか」


白友「あ!すみません!出迎えもせず…」


役員「約束の時間よりかなり早く着いてしまってね、気にしないでくれ」



明日からの審判を務める大本営の役員が出迎えるまでも無く向こうからやって来たようだ。



提督「お疲れ様です」


役員「うむ」



頭を下げた俺に対しこちらを見ようともせず返事をした。


白友との態度の違いに蹴りでも入れてやろうかと思ったがそこをグッと堪えた。




役員「聞いてくれ、また君のところに大型戦艦を配属させることができそうだ!」


白友「え…」


提督(はぁ?)



既に戦艦が6隻もいるのにか?



白友「ちょ、ちょっと待って下さい!これ以上の戦力強化は必要ないと先日お断りしたはずです!」


役員「まあまあ、そんな遠慮することは無いよ。あなたはちゃんと配属させた艦娘を改二にしてくれただけではなく結果も残せている。大本営の穏健派達の希望の星なんだよ」


白友「そ…それはあなた達が…!せめて駆逐艦達の改装を優先させて下さい!ようやく落ち着いて今から取り掛かれるところなのですから…」



そうだそうだ、余っているならこっちに寄越せってんだ。



役員「まあ良いじゃないか、艦娘は数多く居て困ることは無いだろうし。それに今度の戦艦はすごいぞ!大型の海外戦艦か大和型戦艦を配属させられそうだ!」


白友「ですから話を…」



役員はまるで白友の話を聞こうとせず、自分の実績の欲しさに戦艦を横須賀鎮守府に配属させようとしている。


白友にも白友の都合と計画があるだろうに…ストレスで倒れたらどうしてくれるんだ。




役員「では失礼する、明日からの演習楽しみにしているよ」


白友「あ、ちょっと待っ…」




結局白友の話を聞こうとせず役員はどこかへ行ってしまった。



提督「苦労してんだな…」


白友「なんでお前に労われなきゃならんのだ…」



ガックリと肩を落とし頭を抱える白友が不憫でならなかった。




しかしそんな可哀想な同期に対し俺はここぞとばかりに追撃を仕掛けることにした。


どう切り出すか悩んでいたが…今が一番好都合だ。




提督「なあ白友、良ければうちの鎮守府に何人か異動させたらどうだ?」


白友「…なに?」


提督「お前の鎮守府は明らかな戦力過剰で管理が行き届かないだろう?落ち着くまで異動させて…」


白友「断るっ!!!なんでうちの子達をお前の鎮守府なんかに異動させなければならないんだ!!」


提督「…」



酷い言われようだ。


まあ俺が白友の立場なら同じこと言うだろうけど。



提督「案外手を余していて異動したい奴もいるんじゃないか?」


白友「そんなことは無い!!誰もそんな態度を見せたことも無い!俺の大事な艦娘達をお前なんかに預けられるか!!」





甘いな白友…



お前が優しいから、艦娘を大事にするからこそ奴らも言えない可能性もあるんだぞ。



提督「ではもし艦娘から俺の鎮守府に異動したいと言い出したら?」


白友「その時は潔く異動させてやる!そんな子はいないだろうがな!ふん!」



怒って白友は怒った足取りでどこかへ行ってしまった。




…言ったな、異動させてやるって。




あいつは一度言ったことを引っ込められるほど器用な性格はしていない。


これで艦娘が『異動したい』と言ったら異動させるしかなくなったな。




予め色んな手を使って白友の頭に血を昇らせたのは正解だったようだ。














祥鳳「提督」


提督「ん?」



これからうちの艦娘達から白友の艦娘達の情報を聞き出そうと思ったら




祥鳳「あの…」








提督「ふむ…」





祥鳳が早速情報を持ってやって来た。




提督「お前も悪くなったな」


祥鳳「や、やめて下さい!」




情報を持ってきた祥鳳の案内で俺は早速艦娘とのコンタクトを始めることにした。





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【横須賀鎮守府 演習場】




親潮「はぁ…!はぁ…!っぐ…!!」


大井「よし!そこまでっ!!」


親潮「あ…ありがとうございましたっ!!」



呼吸を荒らしながらも親潮は大井に深々と頭を下げて礼を言った。



大井「礼なら熊野と鳥海にも言いなさい。この二人があなたのために演習場を貸してくれたんだからね」


親潮「は、はい!ありがとうございました!!」


鳥海「いいのですよ、このくらい」


熊野「旧友の大井さんの頼みですもの。このくらい容易いことですわ」



お礼を言う親潮に対し二人は少し照れ臭そうに返事をした。



大井と鳥海、熊野は以前別の鎮守府で戦ったことのある仲でお互い顔見知りだった。

その縁もあって大井は親潮のために合同演習先でも訓練できるよう取り計らってくれたのだ。



鳥海「あの大井がね…変わったわね」


大井「何がよ?」


熊野「以前でしたら北上さんにベッタリで私達と交流なんて考えられもしませんでしたよね?」


親潮「え…」


大井「か、過去のことは関係ないでしょう!」


鳥海「ふふっ、そうね」



恥ずかしそうに顔を真っ赤にする大井に鳥海も熊野も楽しくなって笑顔を見せた。




大井「先に上がりなさい。私はもう少し二人と話してから行くから、お疲れ様」


親潮「お疲れ様でした!お先に失礼します!!」



大きな声であいさつをして親潮は駆け足で演習場を後にした。





熊野「練習巡洋艦…ですか…」


大井「え?」


熊野「意外と言ったら失礼になりますけど…様になってますわよ?」


大井「本当?」


鳥海「そうね。あの超強力スナイパーだった大井の面影がすっかり成りを潜めて…」


大井「変な二つ名言わないでよ」




3人はお互い顔を見合わせ笑い合った。



それは以前の大井では考えられなかった空気で



そんな自分は変わったのだなと実感しながらも大井は充実感で満たされていた。




熊野「もう重雷装巡洋艦には戻られませんの?」


大井「今は考えていない…」



一瞬北上のことが頭を過り少し胸の中で寂しさを感じる。




大井「今は…一人でも多く強くして…皆が生き残れるようにすることでいっぱいだから…ね」


鳥海「そう…。ふふ、頑張ってね」


大井「ありがとう」




自然と顔は前を向き始め、大井はこのまま練習巡洋艦としての自分を大事にしていくことを改めて誓った。





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【横須賀鎮守府 談話室】




祥鳳「あの、陸奥さん」


陸奥「あら?そちらは佐世保の提督さん?こんばんは」


提督「どうも」




早速提督が陸奥さんに会わせろと言って来たので私は提督を連れて陸奥さんに会いに来ました。



都合の良いことに今は陸奥さんは談話室で一人のようでした。



陸奥「うちの提督が眉を吊り上げてあなたのこと怒ってたわよ?『あいつはどんな鎮守府運営をしているんだー!』って」


提督「ははは、そうだろうな」



陸奥さんの目が提督に探りを入れているのがわかります。

もしかして向こうの提督に彼のことを探るよう言われているのかもしれません。



陸奥「でもホッとしたわ。聞いていた人と違って」


提督「そうなのか?」


陸奥「ええ。今日一日みんなの演習風景を眺めさせてもらったけど…みんな伸び伸びとしていたわ。強制されているような雰囲気も嫌な空気も無くて、普段どのように過ごしているのかが垣間見えたわ。水雷戦隊の子達もうちの子達の演習についてきていたし…しっかりしているわね」



陸奥さんはそう笑顔で話しましたがその笑顔にどこか陰りのようなものが見えました。



もしかして陸奥さんは…




提督「どうやら以前は酷いところに居たようだな?」


陸奥「ええ…」



提督はすぐに何があったのか察していました。

相変わらずこの人の洞察力は恐ろしいくらい鋭いです。



提督「まあその話は良いか。今は別の要件で来たわけだからな」


陸奥「それは?」


提督「お前、うちの鎮守府に来る気は無いか?」


陸奥「…」




提督の言葉に陸奥さんが眉をひそめます。



そして視線を私に投げかけてきました。


私は申し訳ないと思いつつその視線を見つめ返します。




陸奥「そういうこと、ね」




私が提督にスカウトするよう言ったのは事実です。


多少後ろめたくてもその事実は変わらないので私は反省しつつも堂々とすることにしました。




陸奥「悪いけどあなたの艦隊程度では私を扱うにふさわしくないわ」


提督「それはどういう意味だ?」


陸奥「言葉通りの意味よ。あなたの艦隊は力不足ってことよ、私を扱いたいのならもっと…」


提督「俺の艦隊が白友の艦隊より弱いとでも?」


陸奥「だってそうじゃない。あなたの艦隊には改二艦は少ないし戦艦だって…」


提督「…」




提督が思いっきり呆れた顔で溜息を吐きました。



陸奥「なによ」


提督「祥鳳…」


祥鳳「は、はい…」




そして提督が私を睨みます。




提督「お前、こんな奴をうちの艦隊に迎えようとしたのか?」


祥鳳「え…」


陸奥「な…!?」



不機嫌そうに提督が私を睨むのでその視線を避けるように俯きます。




提督「こんな戦力分析もまともにできないような落ちこぼれにうちの連合艦隊旗艦が務まるわけないだろ、見る目が無いなお前は」


祥鳳「す、すみません…」


陸奥「ちょっと!!それはどういう意味よ!?」



掴みかからんばかりの勢いで陸奥さんが立ち上がりました。




提督「邪魔したな」


陸奥「待ちなさいよ!!私のどこが戦力分析をまともにできないって!?何が落ちこぼれなのよ!言いなさいよ!!」


提督「ふん…」



面倒くさそうに提督が陸奥さんを睨み返します。




提督「艦娘達には今日の訓練を手抜きさせていたというのに…それにも気づけなかった奴が笑わせるな」


陸奥「え…!?」


提督「長門の陰に隠れて成長もできないカスが、だからお前はいつまで経っても二番手なんだよ」


陸奥「っぐ…!!あんたぁ…!!」



長門さんの名前を出され陸奥さんの顔の歪みが一層深くなりました。




祥鳳(やはり…陸奥さんは…)




私の目論見通り陸奥さんは長門さんにどこかコンプレックスのようなものを感じていたようです。


私が瑞鳳に感じたように、沖波さんが風雲さんに感じたように



陸奥さんも…




提督「明日からの演習でうちの艦隊の方が優れていることを証明してやるよ、じゃあな。行くぞ祥鳳」


祥鳳「は、はい。失礼します」


陸奥「ちょっと…まだ話は…!」




食い下がろうとする陸奥さんを無視して提督はさっさと行ってしまいました。























提督「名演技だったぞ祥鳳、お前本当に悪くなったな」


祥鳳「もう…悪くなったって言わないで下さい」




先程の陸奥さんとのやり取りは全て事前に提督と打ち合わせをしていました。


陸奥さんを騙すようで気が引けて少し躊躇しましたが…




祥鳳(これも…きっと陸奥さんを救う結果になるはず…)




私はそう信じて提督の言うことに従いました。





















私は…道を踏み外した提督を手に掛ける覚悟を持ってこの場にいますが





先日もうひとつ決めたことがあります。








それは…




『提督を手に掛けるその日が訪れるまで何があっても提督を信じ従う』というものです。






それを自分自身の決め事にした時、驚くほど心の中が軽くなりました。



提督を殺さなけらばならないという最悪の結末から目を逸らすようなものかもしれません。



ですが私は提督を信じたい




いつか親潮さんを許してくれる日が来て



みんな笑顔で提督の傍にいられる



そんな明るい未来の訪れを信じて提督の傍に居続けられるよう…






祥鳳(まずは…明日の演習ですね…!)





その一歩目となれるよう明日の対空戦に勝利できるよう自分を発奮させました。






提督「明日の08:00に作戦会議だ、全員を会議室に集めておけよ」


祥鳳「はいっ!」





その気持ちが溢れてしまったのか、自分でも驚くほど大きな声で返事をしてしまいました。






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陸奥「私…だって…」









後に残された陸奥は一人悔しそうに肩を震わせていた。









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【翌日 横須賀鎮守府 会議室】




祥鳳「提督がお見えになりました、全員敬礼!」



08:00に会議室を訪れると全員がしっかりと集まっていた。




提督「みんなお疲れだったな。天津風、昨日の合同訓練はどうだった?」


天津風「向こうの艦隊は個々の能力が高くて連携もしっかりしていたわ。いつもの自分達だけの演習と違って良い刺激になったわ」


提督「実に優等生らしい回答だ」


天津風「な、なによ…」



予想通り過ぎる天津風の答えに思わず苦笑いが出てしまう。



提督「時津風、どうだった?」


時津風「あー…」


提督「遠慮せずハッキリと言え。お前が遠慮なんかしたら台風が来るぞ」


時津風「な、なんだよそれー!」



時津風らしくない言葉の詰まりを解消させるべく冗談を言ってやる。



時津風「正直…楽だったかなー。ちっとも疲れなかった」


提督「では雪風は?」


雪風「いつもの訓練の方が厳しいです!阿武隈さんも五十鈴さんも優しくて大井さんの方がよっぽど怖いです!」


大井「なんですって!?」


提督「だろうな」


大井「ちょっと!」



最近は大井による容赦のない訓練も追加されて鍛えられたこいつらにとって昨日の訓練程度などは大したこと無いのだろう。



時津風「天龍止める方が大変だったよねー」


天津風「本当よ、命令違反は絶対にダメって何度言ったことか」


天龍「だ、だってよぉ…」



天龍のことだ、相手に軽巡改二艦と張り合おうとしたんだろう。



提督「水雷戦隊旗艦であるお前が命令違反しようとしてどうする、今後は気を付けろ」


天龍「…わかった」



本当にわかってるのか?


こいつは合同演習を終えたら一度きついお灸を据えた方が良さそうだな。



今はそんなことより今日のリレー種目で勝つことが大事だ。



沖波「司令官、ルールを確認したいのですが」


提督「ああ」



駆逐艦4人を集めてリレー種目のルールを確認する。





駆逐艦によるリレーは一人水上1km、4人で4kmをタスキリレーしながら交代して走る競技だ。


艦娘の航行速度がモノをいう競技でとにかく性能の高いものが有利である。



風雲「…」



風雲が少し離れた位置から不満そうにこちらを見ている。



本来ならば改二艦である風雲を出すのが定石ではあるが俺は天津風、時津風、雪風と沖波の4人を選んだ。



天津風「1人2分ってとこかしら?」


提督「そんなところだな」



こいつらの速度ならば1km2分くらいで走り抜けるだろう。



時津風「勝てるかなぁ?」


沖波「が、頑張ればきっと…」


提督「…」



今のままでは勝率は良くて5割、いや、性能差のことを考えればもう少し悪いかも知れない。



後ろを見ると大井が『どうするの?』と覗き込んでいた。




俺はその心配そうな視線を余裕を持って見返す。




提督「心配するな。俺がお前達を勝てる舞台に上がらせてやる、くくくっ」


時津風「出たよ悪だくみ顔…」


天津風「こうなったら信じるしか無いわね、不本意だけど」


雪風「しれぇがこうなったら最強ですよね!絶対敵に回したくないです!」




言いたい放題言いやがって…




提督「それじゃ行ってくる、お前らは演習場へ向かってくれ」


祥鳳「提督、行くってどちらに…」


提督「ははは、秘密だ。じゃあな」






俺はさっさと舞台を整えるためあいつのところへと向かった。






【横須賀鎮守府 工廠】




提督「お邪魔するぞ」


白友「な!?おい!!」



工廠へ行くと予想通り白友率いる艦娘達が準備を始めていた。



白友「何をしにきた!こちらは準備で…」


提督「はいよメンバー表」


白友「…なに?」



白友には第一種目に出る予定の艦娘のメンバー表を渡した。



白友「…なぜ渡す?」


提督「別に深い意味は無い」


叢雲「…?」



工廠で艤装の準備をしていた艦娘達が集まりメンバー表を覗き込む。


こいつは叢雲だっけか、一人だけ特徴的かつ改二艦だからすぐに覚えられた。



叢雲「そっちにも改二艦がいたはずだけど…」


提督「ああ、今回は出さないようにした。出るまでもないからな」


叢雲「な…!なんですって!」



軽く挑発をしてやるとあっさりと乗ってきた。


これはやりやすくなるなと内心ほくそ笑む。




提督「リレー種目について提案があってきたのだが」


白友「お前の言うことは聞かん!」


提督「リレー種目について提案があってきたのだが」


白友「聞かないと言っているだろ!!!」


提督「リレー種目について提案があってきたのだが」


白友「ぐ…」



俺が無視して話すことに諦めがついたのか白友が黙った。




提督「一人約1kmの距離だが5倍くらいに伸ばさないか?」


白友「は、はぁ!?」


提督「そんな短い距離では訓練にならないだろうと思ってな」



このままだと不利だからな。




叢雲「ふん、長距離にして勝機を得ようとでも思っているの?」


提督「黙ってろクソガキ。自信が無いなら無いって言え」


叢雲「な!?誰が自信無いって!?バカにしないでよ!!」


白友「叢雲!やめろ、挑発に乗るな!」



そうそう。

気を付けるのは挑発だけじゃないぞ。


俺はターゲットを変えるべく他の艦娘に話し掛ける。




確かもう一人の駆逐艦の改二は…




提督「お前が吹雪か?」


白雪「わ、私は白雪です!」


提督「ではお前が吹雪か?」


磯波「私は…磯波です…」


提督「じゃあお前は深雪?」


吹雪「私が吹雪ですっ!!」




…見分けがつかん。


うちの駆逐艦達ならハッキリと区別できるのだが。




吹雪「うぅ…どうせ吹雪型は地味ですよ…陽炎型や夕雲型も皆さんみたいに華やかじゃないし…」


提督「そうだな」


吹雪「す、少しは否定して下さいよぉ!!」



半泣きになりながら吹雪が叫ぶ。

地味な見た目は本人的にもどうにかしたいらしいな。



提督「なあ吹雪、実際の海域に出て深海棲艦から撤退する時に2分で振り切れるか?」


吹雪「え…む、無理だと思います…そんな短時間では…」


提督「だな。さすが改二艦の吹雪だ、実戦経験もあってか冷静な回答だな」


吹雪「え?そうですか?えへへ」


白友「お、おい吹雪!」


叢雲「なに乗せられてんのよ!」



挑発にあっさり乗ったお前らが言うな。



提督「同じリレーするなら少しでも距離を伸ばして実戦に近い方が良いとは思わないか?」


吹雪「え…」


提督「相手も必死で追い掛けてくるだろうしお前達も本気で走ることができた方が良いだろう?」


吹雪「は、はい!そう私もそう思います!」


提督「実戦形式により近い方が訓練にもなるし、仲間達が生き残る可能性を少しでも高くできると思わないか?」


吹雪「はい!素晴らしい考えだと思います!」


提督「君ならそう言ってくれると思っていたよ」



ほい準備完了。




吹雪「司令官!やりましょう!距離を伸ばして実戦に近くして良い演習にしましょう!」


白友「お、おい吹雪!?」


吹雪「大丈夫です!私達は負けませんから!毎日司令官に鍛えてもらった成果を見せる時ですよね!ね、叢雲!」


叢雲「ふん!当然よ!この偉そうな提督の鼻を明かしてやるわ!」


白友「叢雲まで…」



こうなると他の駆逐艦達も同じように『頑張る!』『やらせて欲しい!』と続いてしまう。


優しい白友にはそんな駆逐艦達の想いを抑えることなんかできないだろうな。






白友「わかった、わかったよ!みんな、突然のルール変更だが頑張ってくれよ!」




「「「「「「はいっ!!」」」」」」





提督「それじゃ審判にルール変更を伝えてくる、また後でな」




用が済んだのでその場を離れようと思ったが少しちょっかいを出すことにした。




提督「ああそうだ、吹雪。もっと白友の目に留まりたいのなら髪を染めてみたらどうだ?」


吹雪「え?」


白友「お前何を!?」


提督「そうすれば新しい自分が発見できて生まれ変わった気分になるぞ」


吹雪「髪を…染める…」


提督「金髪とかどうだ?」


吹雪「金髪…金の…吹雪…スーパー吹雪…」



普段地味な自分が相当嫌なのか口元を震わせて本気で考えているようだ。


改二艦でネームシップなのに…不憫な奴。



叢雲「やめなさいよ吹雪!吹雪型のアイデンティティーが失われるって!」


吹雪「華やか…叢雲ちゃんは…一人だけ…ずるい…」


白雪「ああ!戻って来て!」


磯波「し、司令官…!」


白友「おい!吹雪!しっかりしろ!!」




混乱する白友達を尻目に俺はさっさと退散することにした。





【横須賀鎮守府 廊下】




司令部施設へと向かう前に祥鳳が向こうからやって来た。



祥鳳「提督、ここに居ましたか」


提督「どうかしたか?」


祥鳳「あの…審判の方が準備はまだかと…提督を呼んで来いとのことでして…」



やれやれ、白友の準備の邪魔をしたら変なところに影響が出たな。



提督(面倒くさいな…)


祥鳳「提督?面倒だとか思ってはいけませんよ?顔に出てしまいますから」


提督「面倒くさいな」


祥鳳「口に出してはもっとダメです」



最近何かと口に出すようになった祥鳳を窘めながら歩き始めると向こうから陸奥がやって来た。






陸奥「あら佐世保の提督さん。うちの提督に何か御用かしら?」



少し嫌味の入った言い方だ。

昨日の事をまだ引きずっているようだな。



提督「なに、宣戦布告をしてきただけだ。この3日間の5種目で勝ち越してやるってな」


陸奥「ふーん」



本当はそんなこと言ってないが。


興味無さそうに取り繕っているこいつをもう少し揺さぶってやるか。




提督「勝ち越した場合は長門か金剛型の一人をうちの鎮守府に勧誘する権利を貰う予定だ」


陸奥「な…!!」


提督「なにショック受けたような顔してる、お前はうちの鎮守府に来たくないって自分で言ってただろう?」


陸奥「ぐ…!」


提督「『賭けに負けたから仕方無く』なんて理由で来られては迷惑だからな、あはははは」


陸奥「ふ、ふざけないで…!!」



少しの揺さぶりであっさりと仮面が剥げかけた陸奥に思わず笑いが零れてしまう。




陸奥「何よ…!なによバカにして!!だったらあんたが負け越したら全員の前で土下座でもしてもらおうかしら!?」


提督「いいぞ、そのくらい」


祥鳳「提督…」


陸奥「そのくらいって…!」




ずっと地べたを這いつくばるようにして生きてきた俺にとってそんなことは造作もない。


陸奥としては俺のプライドでも傷つけられると思ったのだろうが…そんなものはとっくに投げ捨てている。




自分の名前を捨てた時にな…




提督「じゃあな、結果を楽しみにしていろ」




怒りに肩を震わせる陸奥を置いてさっさとその場を離れた。










提督「祥鳳、わざと負ければ俺の無様な姿が見られるぞ?」



戻り際に祥鳳をからかってみる。



祥鳳「提督に頭を下げさせるわけにはいきません。必ず勝ってみせますからね?」


提督「…?」




それに対し祥鳳は余裕の表情で言い返してきた。









そういえばこいつ…前のように俺を止めようとしなかったな。


以前だったら陸奥にあれだけのことを言ったのなら必ず止めようとしたくせに。





提督「生意気」


祥鳳「あぅっ」




祥鳳の頭を軽く叩き、司令部施設へと向かった。















二人とも審判に呼ばれていることはすっかり忘れていた。










【横須賀鎮守府 司令部施設】





白友「準備は良いか?叢雲」


叢雲『いつでも良いわ!』



司令部施設に叢雲の元気の良い声が響き渡る。



白友「白雪、深雪、コンディションは?」


白雪『問題ありません!』


深雪『大丈夫だぜ!』


白友「吹雪、最後は任せたぞ」


吹雪『はい!司令官!』



一人一人状態を確かめるように白友が出場する4人に声を掛けていた。




提督「大井、悪いが少し頼まれてくれるか?」


大井「え?」



俺は大井に用意しておいたメモを渡す。



大井「うん…了解、リレーの後で良いかしら?」


提督「ああ」


白友「少しはこれから出る駆逐艦達に声を掛けろよ…!」


祥鳳「すみません」


白友「どうしてあなたが謝るんだ…」



文句を言う白友を無視して司令部施設に映る映像を見る。




沖波がやや緊張の面持ちでリレー用のタスキをギュッと握っていた。




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沖波(大丈夫…司令官が準備してくれたんだもの…!)




走る距離が5倍に伸びた時は驚いたが、それはいつも訓練の締めに行っている『10分全力疾走』に近いものになると知って納得がいった。




天津風「沖波、落ち着いて」


沖波「あ、天津風さん」



アンカーを務める天津風が沖波に声を掛ける。



時津風「いつも通りやれば大丈夫だよー」


雪風「いつも通り!死ぬ気で走れば良いんです!」




時津風と雪風の言葉に白友提督の駆逐艦達がギョッとする。


その顔は『いつもこんなことをしているの…?』と戸惑いに染まっていた。




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風雲「沖波…」




演習場を一望できる観覧席で風雲は心配そうに沖波を見つめていた。





沖波がリレーに出ると聞いた後、風雲は何度も提督に代われないかと聞いた。


提督は『沖波に聞け』というだけで代えようとしてくれず、一度掴みかかりながら怒りに任せて代えることを強要しようともした。




提督から返ってきた返答は『お前と代えたら沖波は二度と立ち上がれなくなるぞ』というものだった。


その言葉に何も言うことはできなくなり今日という日を迎えてしまったのだった。






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『よーい…』





開始の号砲が鳴らされタスキリレーが始まった。




叢雲(一気に突き放すわっ!!)





叢雲は開始早々全力で沖波を突き放しにかかる。



沖波「…!!」



その速さに沖波は一瞬呆気に取られそうになるがすぐに自分も全力で走り始めた。





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1km通過





白友「良いぞ叢雲!その調子だ!」


長門「飛ばし過ぎるなよ!まだ4km残っているぞ」



白友と秘書艦の長門が叢雲に通信機を使って応援している。



提督「…」




叢雲と沖波の距離はかなり離れてしまったが司令部施設の提督はどこ吹く風といった感じでまるで動じていない。



祥鳳「…」


大井「…」



隣に控える祥鳳も静かに見守り、大井は資料を見ていて映像すら見ていなかった。




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2km通過





叢雲(そろそろ…!)





全力で飛ばし過ぎたため叢雲は少しペースダウンする。





後ろを振り返ると…





叢雲(あ…あれ…?)





沖波との距離は自分が思っていたほど離れていなかった。





叢雲(くっ!!)





その事実に叢雲はペースダウンを止め、再び速度を上げた。






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3km通過





提督「そろそろかな」





司令部施設の映像を見ると沖波が叢雲の後方約3mまで近づいていた。





白友「む、叢雲…!」







映像から見える叢雲の顔が苦痛と恐怖に歪んでいた。







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4km






叢雲(嘘…そんな…!!)






ぜぇぜぇと息がメチャクチャに荒れて何とか速度を保とうとするが限界が訪れた






叢雲が後ろを振り返ると必死の形相で追い掛けてくる沖波が視界に入る






叢雲「ひぃっ!?」






まるで深海棲艦に追われているかのようなその恐怖感に叢雲の緊張の糸が切れてしまった






叢雲(もう…無理…)






叢雲は両手を膝について大きくペースダウンをした







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天龍「よっしゃぁーーー!!抜いた!!」



天城「あと少しですよ!!」



葛城「頑張って!!そのまま行っちゃえ!!」



観覧席の仲間達が大きな歓声を上げた





風雲「…」








途中から風雲は沖波の姿を見ることができず顔を俯かせていた






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沖波(やった…!!)







大きくペースダウンした叢雲を抜いてそのまま全力疾走を続ける






一瞬だけ後ろを振り返ると叢雲がどんどん離れて行くのがわかった








沖波(私だって…できるんだ!勝てるんだ…!!)






勝利への光明が見えて沖波は増々速度を上げて時津風の待つゴールへと向かった















沖波(私でも…勝てる…!そうですよね…祥鳳さん、天城さん、司令官!!)














最後のコーナーに差し掛かって時津風の姿が見えた















その時だった























バキィッ!!と右足から音がした









沖波「え…!?」





その音の方へ視線を向ける






沖波の義足が折れ壊れているのが視界に入る





沖波「きゃああああああああああああああああああああ!!!!!」





最高速度に達していた沖波はバランスを大きく崩して海面に倒れ、そのまま速度が落ちず何度も全身を海面に叩きつけられた






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大井「あっ!!」


祥鳳「沖波さん!?」





司令部施設の映像にもその姿が映り祥鳳と大井が声を上げてしまう





提督「義足が限界だったか…」







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観覧席から上がる悲鳴に風雲が顔を上げた






風雲「お、沖波ぃ!!!」





海面に叩きつけられる妹の姿に風雲が立ち上がり走り出そうとしていた





雲龍「どこへ行くの?」




風雲「な…!放して下さい!!沖波のところへ向かわないと!!」





雲龍が風雲の腕を掴み行かせないようにする



振り払おうとするが力の強い雲龍の手を放すことはできなかった





雲龍「行ってどうするの?」




風雲「決まっています!沖波を助けて…」




天城「風雲さん、沖波さんを見て下さい」




風雲「え…」






いつの間にか行き先を塞いでいた天城が演習場を指差した






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白友「おい!倒れてしまったぞ!早く助けてやらないと!!」





提督「…」





映像を見ると沖波は義足が壊れたショックなのか、全身を叩きつけられた痛みなのか



うつ伏せになって呻き声を上げているだけだ






白友「おい!何とか言ったらどうだ!!お前が行かないなら俺が…!!」






沖波に対しては一言で十分だ


















提督「どうするんだ?」














俺は通信機を使ってこう言った





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どうするかなんて…決まっている…!!





沖波「うぁぁぁ!!!」





両手を海面について無理やり身体を起こす




義足は海面に叩きつけられた衝撃で折れた先がどこかへ行ってしまい



自分の艤装はあちこち損傷していて破片が辺りに転がっていた





全力疾走で走っていた状態で倒れてしまったため息がメチャクチャに荒れて胸が痛い



油断するとその場で吐いてしまいそうなくらいに胃の奥も気持ち悪い







でも私は顔を上げて時津風さんを探した






「こっちだよ沖波ぃぃ!!!」





その声の方へ顔を向けると時津風さんが大きく手を振っていた




沖波「あっ!?」




立ち上がって近づこうとしてもすぐにバランスを崩して倒れてしまう





もう…まともに走ることなんて叶わない…






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風雲「沖波ぃ!!」




風雲の視線に映る沖波が立ち上がろうとして海面に倒れた





風雲「放して雲龍さん!早く行かないと!」




雲龍「沖波を傷つける気?」



風雲「何を言って!現に沖波はあんなにも傷ついて…!」



雲龍「身体のことじゃない、沖波のプライドを傷つける気かって言ってるの」



風雲「え…」




沖波は倒れたまま、まるで這うようにしてゴールの時津風に近づこうとしている




風雲「なんで…そんな…」




風雲にはなぜそこまで頑張れるのか信じられなかった




雲龍「どんなにきつい訓練でも、誰にも理解できない辛いハンデを負っていても…あの子は一度も泣きごとを言わなかったわ」



這うように進む沖波が徐々に時津風との距離を詰めていく



後方からはペースダウンしたままだが叢雲が近づいてきていた




雲龍「あの子はね…あなたが思っているほど…」





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提督「あいつはお前が思っているほど弱くはない」




白友「…」





助けに行こうとした白友が這い進む沖波を見て固まっていた。





がんばれ沖波





お前がそうやってがんばってくれるのなら面倒ごとがまた一つ片付きそうだ




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時津風「沖波!もう少しだよ!!」




時津風の伸ばす手まであと少し




しかし後方には叢雲が迫っていた




沖波「うぁぁぁぁ!!!」




最後の力を振り絞って沖波は飛びつくように手に持ったタスキを時津風に届くように手を伸ばし





時津風「よーーーーーーーーーぉっし!!!」





タスキを時津風が受け取り全速力で発進した




雪風「沖波さん!!」




天津風「本当…よく頑張ったわ!!!」




沖波「え…へへ…」





疲れ切って海面に倒れている沖波を雪風と天津風が抱き起した





叢雲「なん…なんなのよ…」



白雪「こっち!!」




その少し後に叢雲が白雪にタスキを繋いだ




白雪「え…!?」




その間にもう目で追えない程に時津風と距離を離されていた






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風雲「あ…」





天津風と雪風に両肩を貸している沖波は




風雲「どうして…」




見たことも無い華やかな笑みを見せていた





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提督「終わったら教えてくれ」



祥鳳「はい」




提督は深く帽子を被り、椅子に深く腰を掛けて眠りについた




その余裕の姿はまるで勝利を確信しているかのようだった



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雪風「あと少しですっ!!」




沖波「天津風さん!頑張って!!」




時津風「楽勝だよーー!!後ろ来てないよーーー!」







仲間達の声援を受けながらアンカーの天津風が走り終えた。






天津風「っぐ…!!はぁ!はぁ!はぁ…!」




天津風は一切手を抜くこと無く5kmを全力疾走で駆け抜けた。



天津風だけではない、時津風も雪風もいつも通り全速力を維持したまま走り終えタスキを繋いだ。





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天龍「ははは!やった!やったぞあいつら!」



葛城「みんなすごい走りだったわよーー!お疲れ様!!」





自分達の艦隊の勝利に立ち上がって歓声を上げる。






風雲「…」





そんな中、風雲は俯き涙を零していた。




嬉し涙ではない、自分を恥じる涙だった。




天城「どうしてそんな顔をするのですか?」


風雲「え…」




そんな風雲の前に膝をついて天城が覗き込む。



風雲「だ、だって私…沖波のこと…何もわかってなくって…信じてあげられなくて…っ…ぅ…」


天城「心配だった、ただそれだけですよね?」


風雲「ぁ…」



何もかもわかってくれそうな天城の言葉に涙に濡れたままの顔を上げる。

そんな風雲の涙を天城はハンカチで優しく拭ってくれた。



天城「姉妹艦だったとしても何もかもわかるなんて難しいですよ、多少のすれ違いや考えの違いなんてよくあることですよ、そうですよね?雲龍姉様」


雲龍「ごめんなさい…」



雲龍がなぜか謝った。

普段天城に苦労を掛けていることを一応自覚していたらしい。



天城「心配してても自分の気持ちをわかってくれないなんて珍しいことでもないですからね、ねえ?葛城?」


葛城「う…ごめんなさい…」



葛城も同じように天城に謝った。

そんな3人のやり取りを見て風雲の胸の内が少し和らぐ。



天城「一度沖波さんと正面から向き合って話してみてもいいかもしれませんね。今の風雲さんが思っている気持ちと一緒に、ね?」


風雲「天城さん…」



天城の笑顔に風雲は涙を拭い顔を上げることができた。



風雲「はいっ!一度沖波としっかりと話して…話を聞いてみます!」


天城「うふふ、その意気です。さて…」



風雲が立ち直ったのを見て天城が安心したように立ち上がり演習場を見る。





天城「次は…私の番ですね」




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祥鳳「提督、終わりましたよ」


提督「ん…」



祥鳳が肩を揺らし提督を起こした。


深く被った帽子を上げて司令部施設の映像を見ると演習場で駆逐艦達が手を取り合って喜んでいた。




白友「…」



隣を見ると白友が肩を落としてガックリとしている。


そんなにショック受けることないだろうに…後でからかう…いや、励ましてやろうか。



祥鳳「私は準備に移ります、失礼しますね」


提督「指示は無いぞ、せいぜい頑張れ」


祥鳳「はいっ!」



俺の適当な返事にも祥鳳はハッキリと答えた。




…本当に最近のこいつは何か開き直ったように元気だな。





大井「がんばってね、あなた達なら大丈夫よ」


祥鳳「ありがとうございます、勝利の報告を待っていて下さい!」




自信満々といった表情のまま祥鳳は司令部施設を出て演習場へ向かった。





提督「さてと」




俺は立ち上がり、この後駆逐艦達が来るであろう工廠へと向かった。




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吹雪「はぁ…!はぁ…!ま、全く、追いつける気がしなかった…」




大きく遅れて吹雪がやっとゴールインした。



叢雲「屈辱…だわ…!」


白雪「これが今の実力なんだね…」


深雪「あいつら…一体どんな訓練してきてんだよ…!」



悔しそうに吹雪型駆逐艦が歯を食いしばる。



白友『みんな…すまない、俺がルール変更なんて受け入れなければ…』


叢雲「司令官、それは私達が…!」


白雪「そうです!自分達で変更を受け入れたんですよ!」


深雪「負けは負けだよ、な」



通信機を通した自分達の提督の落ち込んだ声に艦娘達は励ますような声を上げる。




吹雪「司令官、みんな、今日は私達の完敗です」


白友『吹雪…』


吹雪「負けを認めて…訓練方法をみんなで見直して、また一から頑張りましょう!」


白友『ああ…!がんばろう、みんな!』



吹雪の前向きな姿勢に艦娘達も白友も気持ちを切り替えてこれからのことを考え始めた。





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親潮「お疲れ様でしたみなさん…」





一人、親潮は観覧席で静かに拍手を送った。






親潮(…)




肩を落とすと気持ちも一緒に落ち込んでしまいそうになる。



親潮(まだまだ大きな差がある…肉体的にも…精神的にも…)



他の駆逐艦達との差に親潮は一人疎外感のようなものを感じていた。




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『艦娘達には今日の訓練を手抜きさせていたというのに…それにも気づけなかった奴が笑わせるな』



陸奥「…」



他の仲間達と同じように観覧席から自分の艦隊を見守っていた陸奥は提督から言われていた言葉を思い出していた。


勝利した佐世保鎮守府の艦娘達が笑顔で引き上げていく。



彼女達の姿はまるで強制されたり脅されたりしている雰囲気は感じられない。


その達成感を感じる笑顔に彼女達が自分達の意志で厳しい訓練をして来たというのが垣間見えた。



陸奥が自分の掌を見るとじっとりと汗で濡れていて、腕には鳥肌が立っていた。




陸奥「なんで…」




自分の胸の中に感じたもの、無意識に考えていたこと




『私にもあのような必死な姿勢があったなら』


『もしも私があの鎮守府に行ったのなら』




そんな考えを必死に否定するように陸奥は強く首を振った。




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【鎮守府内 工廠】





提督「お疲れ」


雪風「あ!しれぇ!」


時津風「しれー!勝ったよー!見てた!?」


提督「ああ、見てた見てた」




7割くらい寝てたけど。




提督「限界だったみたいだな、義足」


沖波「はい、皆さんに買って貰った思い入れのあるものだったんですけど…」


天津風「大丈夫?身体痛むでしょう?」


沖波「あはは…あちこち打ち付けましたから…でもこのくらいは修復材でもなんとか直ります」



沖波を見ると壊れたのは義足だけでなく艦娘の艤装もかなりの損傷を負っていた。




提督「すまなかったな」


沖波「え…」


時津風「うっそ…」



俺は沖波に対し頭を下げる。



提督「しっかりと俺もチェックすべきだった、大丈夫か?」


沖波「あ、はい!大丈夫です!司令官が謝ること無いですよ、全部自己責任でやるべきことなんですから」



沖波が慌てて両手を振って俺に応える。


まあお前ならそう言うと思ってたけど。



雪風「しれぇが謝るなんて…明日は雪が降りますよ!?」


天津風「だ、誰かカメラ持ってない!?貴重映像よ!」



お前らな…




確かにこいつらが言う通り俺が頭を下げるのは滅多にない。

それだけ貴重で目にしないのを今、どうして行ったのか…



風雲「…」



後ろから風雲が近づいてきていたことを知っていたからだ。


俺に対してやたら反抗的なこいつを従順にさせるためのひとつ目の行動だった。



雲龍「みんな、お疲れ様」


天龍「いやー!凄かったぜ!見ていて気持ちよかったな!」


葛城「沖波、大丈夫?」


親潮「お疲れ…さまでした…」



観覧席から他の艦娘達も来たようだ。



時津風「あれ?天城さんと祥鳳さんは?」


雪風「大井さんもいませんね、せっかく勝った報告しようと思ったのに…」


提督「大井はちゃんとお前らが走り終えるまで見てたぞ。今は少し頼みごとをしたから資料室に行っているだろう」


時津風「ほんと?」


提督「ああ。祥鳳と天城は次の種目の準備だろう、もうすぐ始まるぞ。さっさと艤装を外して観覧室に向かえ」


天津風「わかったわ。みんな、行きましょう」


雪風「それじゃ沖波さん、掴まって」


沖波「あの…」



ベンチに腰を掛けたままの沖波が少し申し訳なさそうに視線を風雲に送った。



沖波「少し風雲姉さんと二人にしてくれませんか?」


風雲「え…」


提督「わかった、ほら行くぞ」




沖波の頼みを聞いて全員をその場から引き揚げさせた。





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風雲「ごめんね…沖波」


沖波「え…?」



仲間達がいなくなってから先に口を開いたのは風雲だった。



風雲「私…沖波が大きなケガしたって知って…助けなきゃって思ってばかりで…何かしないといけないとばっかり…」


沖波「風雲姉さん…」


風雲「知らず知らずのうちに…その…」



力無く風雲が肩を落とし俯く。



風雲「沖波を…可哀想とか思って…下に…見て…」


沖波「…」



そのまま深々と頭を下げた。



風雲「ごめんなさい…傷ついたよね…」



真面目な風雲らしい正直な謝罪だった。


そんな風雲の姿に沖波は自然と笑顔になっていた。。





沖波「辛いですよ」


風雲「…え?」



沖波の予想外の反応に風雲が顔を上げる。



沖波「本当は…辛いです。右足を失ったことも、ハンデを負って何するにしても気を遣わなければならないことも…」



笑顔を見せてはいたが寂しそうな笑顔になっていた。



沖波「自分の居場所を護ることに必死になって…風雲姉さんを遠ざけようとしたことも…」


風雲「沖波…」


沖波「正直…風雲姉さんに嫉妬しました。何でもできて…気遣いができて…改二改装も…」



悔しそうに歯を噛み締めながらも少し顔を赤らめていた。


それは沖波が本当に思っていたことを言っている証拠でもあった。



沖波「いつ誰かに取って代わられるか、そう考えるだけで不安になってしまって…本当に辛いんです…」



沖波は松葉杖を使ってゆっくりと立ち上がり



沖波「だから…」



沖波はゆっくりと風雲に近づきその胸へと飛び込んだ。



風雲「え…」


沖波「辛いときは…」



少し恥ずかしそうに顔を風雲の胸に埋める。



沖波「こうやって…甘えさせてくれますか?」


風雲「沖波…」


沖波「風雲…お姉ちゃん…」



上目づかいで照れながら言う沖波に風雲は嬉しくなって顔を綻ばせた。



風雲「もちろんよ、辛いときはいつでも言ってよね。私がいつでもついているんだから!」


沖波「うんっ。えへへ…」






自分の気持ちを正直に打ち明けた沖波に風雲は少し涙を零しながら



姉妹の絆を確かめ合うようにしばらくそのまま優しく抱きしめ続けた








改二艦である叢雲のリレーで勝利し



自分の弱い気持ちを姉妹艦である風雲に話すことができた沖波にとって



この演習は彼女の成長の大きな一歩となった




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【横須賀鎮守府 演習場】




祥鳳「行きましょう、天城さん!」


天城「はい!」




準備を終えた祥鳳と天城が演習場に立つ。



向こうには大鳳と隼鷹が準備を終えて待ち構えていた。




空母の艦娘2隻による対空戦はお互いが発艦した艦載機を撃ち落とすもので、両者の艦載機全て無くなるまで行われる。


従って艦載機の数が多く搭載できる方が有利となりやすい。



祥鳳「第一次攻撃隊!発艦始め!」



数以外に必要となってくるのはどの陣形で相手に挑むか、相手がどのような陣形で来るかを予測するか。



そして…



天城「天城が参ります!!」



今回の対空戦は2隻対2隻ということもあって二人の連携が重要となってくる。




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大鳳「第一次攻撃隊、発艦!」



隼鷹「よーし!一気に決めちゃうよ!抜錨!!」



同じように反対側から大鳳、隼鷹が艦載機を発艦した。



大鳳と隼鷹の艦載機は横並びに並走し、祥鳳と天城の艦載機に攻撃を開始。




大鳳「な…!?」


隼鷹「なんだあれ!?」



艦載機を通して映った相手の陣形に思わず二人とも声を上げた。



大鳳と隼鷹の横並びの陣形に対し祥鳳、天城の艦載機は縦の陣形を作っていた。


艦載機の攻撃が前方の味方に当たるリスクがあるため通常であれば縦の陣形を作ることは無い。




しかし…




隼鷹「げっ…!?やられた!」





祥鳳、天城の艦載機は攻撃をしながら中央突破をした。





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雲龍「奇麗ね」



観覧席からその様子を見ていた雲龍が思わず感心し楽しそうな顔をしている。




祥鳳、天城の艦載機は第一次攻撃で見事被弾することなく相手の多くの艦載機を撃ち落とすことに成功していた。



葛城「うう…思わず妬いちゃいそうな連携…」



姉妹艦でもない祥鳳と天城の連携に葛城は嬉しそうにしつつも少し悔しそうな顔をしていた。




第一次攻撃隊は2人の奇襲成功によりお互いの艦載機の残機をほぼ互角の状態に持ち込んだ。








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その後、2次攻撃、3次とお互いの艦載機がぶつかり合う。




徐々に両者の艦載機の数を減らしていき、残りは数機となった。











隼鷹「ごめん!こっちはもう残機無しだ!」



隼鷹の艦載機は全て撃ち落とされ



祥鳳「っく…ここまでですか…!」



同じように祥鳳の艦載機も残っていなかった。








大鳳「これで…決めます!!」



大鳳が残り数機で最後の攻撃に移る。











大鳳「や、やった…!」





天城の艦載機を撃ち落とし、空には大鳳の艦載機1機のみが残った。





隼鷹「あっぶねー!ギリギリだったよ!」





その様子を見ていた隼鷹が喜びの声を上げた。














祥鳳「天城さん!」


天城「はいっ!!」




天城から3機の艦載機が発艦された。





大鳳「そんな…!!まだ残していたなんて…」



勝利を確信していた大鳳にとっては信じられない光景だった。



3対1の艦載機同士の戦いは多数対多数と違い少ない方には勝機が見えない圧倒的不利




隼鷹「うっそ…」



その不利を覆すことなどできずに大鳳の艦載機は成す術もなく撃ち落とされた。














その後、大鳳と隼鷹がゆっくりと演習場から離れる。




祥鳳「や…」


天城「やりました…ね!」




それは祥鳳と天城が勝利を現実のものとした光景だった。













祥鳳「やったーーーーーーーーーー!!!!やりましたーーーーー!!」



天城「うわぁっ!?祥鳳さん!?」




祥鳳の大声での歓喜に隣の天城はビックリして手を取り合って喜ぶのを忘れてしまった。






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祥鳳『やったーーーーーーーーーー!!!!やりましたーーーーー!!』





提督「うぉ!!うるさっ!?声でっか!!」




祥鳳の歓喜の大声は通信機を通して司令部施設に響き渡った。


それどころか声が完全に割れて窓ガラスを揺らすほどの騒音だった。





祥鳳『提督!見ていましたか!私、嬉しい!嬉しいです!!』



提督「ああ!見てたよ!うるせえ!!声でかすぎだろ!!」


祥鳳『ありがとうございます!!これからも頑張りますね!!!』


提督「わかった!わかったから切るぞ!!」




会話もままならないくらいはしゃいでいる祥鳳との通信を切った。

このままでは騒音で耳がイかれそうだったからだ。



提督「ったく…」



俺は立ち上がり二人の出迎えに工廠へと向かおうと思った。



提督(しかし本当に勝つとはな…変な賭けをしていなくて正解だった)



こちらから一方的に『負けたら覚悟しておけ』などと言っていたため『勝ったらどうするのか』とは何も言っていない。



提督(特別ボーナスとか言って何か適当なものを出して…ん?)



司令部施設を出ようと思ったら肩を落としながら艦娘と通信で話している白友が視界に入る。




大鳳『申し訳ありません提督…』


隼鷹『あはは…相手を見くびったつもりはないんだけどさー…』


白友「俺の方こそ…何の手立ても指示もできず…」



白友が申し訳なさそうに肩を落としながら落ち込んだ声で艦娘達を労っていた。



提督「いやー白友提督の艦隊に二回も勝っちゃったよ、あー嬉しいなー!!!」


白友「な…!?」



俺はわざと相手の通信機にも聞こえるでかい声を出した。



提督「白友提督の艦隊も大したことないなー!あはははは!」


白友「お前…!っぐ…」


大鳳『提督…私、悔しいです…!』


隼鷹『次は絶対に負けないからさ!気持ち切り替えて頑張ろうぜ!』



通信機越しに艦娘達から悔しそうな声と前向きな声が聞こえてきた。



白友「お前達…ああ、そうだな!少し考えすぎていたよ、すまなかった!」



艦娘達からの励ましで白友も立ち直り顔を上げていた。






そうそう、お前はそうやって前を向いていてくれ。


そうでなきゃ潰し甲斐が無いからな。







大井「勝ったのね」



両手に資料を抱えた大井が司令部施設に戻ってきた。



提督「ああ、まさか本当に勝つとはな」


大井「そう」



素っ気無い言い方だったが大井はとても嬉しそうな笑顔を見せていた。



提督「できたか?」


大井「ええ、これよ」


大井から頼んでいた資料を受け取る。

その量は厚さ10cm程となっていた。


大井「雲龍の言ってたこと、当たっているかもしれないわ」


提督「ふむ…」



大井の作った資料を確認する。

俺の要望通り、いや、それ以上のものを作ってくれたようで思わず見入ってしまった。



提督「さすが大井だ。有効に使わせてもらう」


大井「程々にしなさいよ」



俺に牽制を入れつつも大井は褒められたことに嬉しそうな顔を見せていた。



大井「それじゃ私は祥鳳達を労いに工廠へ行くわ」


提督「ああ。俺も少ししたら向かう、先に行っててくれ」



一旦大井と別れ、演習場へと足を運ぶ。



提督「さて…」



俺は本格的に艦娘の勧誘に動くため演習場に向かいながら大井の資料を見ながら歩き始めた。







【横須賀鎮守府 演習場】




祥鳳達の対空戦が終わった後、出番の無かった白友提督の戦艦達は演習場に出て砲撃訓練を行っていた。



長門「全艦!砲撃用意!!」



長門率いる6隻の戦艦部隊の一斉砲撃が開始された。


俺は双眼鏡を使い、ある一人に注目する。




提督(ふむ…)




雲龍が昨日の訓練を終えた後、『面白い子を見つけた』と情報をくれた。



双眼鏡のレンズの向こうに彼女が映し出される。






他の活き活きとしている艦娘達と違い、その表情には迷いが見られた。




提督(さすが雲龍、相変わらず優れた嗅覚をしている)



より強い相手を求める雲龍の戦闘本能がどうやら彼女を炙り出したらしい。







俺は長門達の演習が終わるまで大井の用意してくれた資料と彼女を交互に見ていた。








陸奥「な、なんであんたが…!」




演習を終えて対岸に向かってやって来た艦娘達に近づくとさっそく陸奥が顔をしかめて睨んできた。

まあ散々挑発したから警戒されてて当然だろうな。



長門「何か用か?」


提督「勧誘に来た」


長門「なに?」


陸奥「長門、耳を貸しちゃダメよ!こいつは…」


提督「心配するな、残念ながらお前ではない。陸奥は元々眼中に無いしな」


陸奥「あんた…!また…!!」


長門「…」



怒って掴みかかりそうな陸奥を長門が間に入って制す。



陸奥「長門…?」


長門「…」


提督「へぇ…」



長門の視線は俺を警戒しているわけでも嫌悪しているわけでも無い。

何か興味のあるようなそんな視線を感じた。



提督「さすが連合艦隊旗艦の長門だけあって冷静な判断と公平な目を持っているようだな」


長門「…」


提督「お前は実力ではこの横須賀鎮守府でトップなのは間違いない。ぜひともうちの鎮守府に来てもらいたい逸材ではあるのだが…」



長門は何も言わず先を話せと態度で示していた。



提督「お前はもうこの鎮守府で、白友の下で完成されている。今から俺の鎮守府に来ても実力の発揮は難しいだろうな」


長門「ふん…」



興味の無さそうに鼻を鳴らしたが本心は褒められて嬉しいというのが伝わってきた。



陸奥「…」



そんな長門を見て陸奥が何とも言えない顔をしている。

本当にこいつは…



長門「その勧誘は私達の提督は許したのか?」


提督「『彼女達がそれを望むなら』と言ってたぞ。『そんな子はいないがな!』って怒鳴られたけど」


長門「そうか…なら好きにするが良い」


陸奥「な、長門っ!?」



それだけ確認して長門はその場を離れて行った。




提督「はは、これで連合艦隊旗艦兼秘書艦から許可を得たな」


陸奥「ぐっ…!あんた…この合同演習に勝ち越したら勧誘する権利をもらえるって自分で言ってたわよね」


提督「それ嘘」


陸奥「う…!なんて滅茶苦茶な…!」



俺の言葉にここまで簡単に振り回されやがって…

どんだけ不安定何だか…。



陸奥「そ、それで…一体誰を勧誘する気なのよ」


提督「ああ、来た来た」



ようやく待っていた艦娘がやって来た。




提督「霧島」


霧島「え…?」



俺に声を掛けられて霧島がギョっとする。


他の金剛型の姉妹艦も疑いの目でこちらを見ている。

どうやら今の話を聞かれていたらしい。



提督「うちの鎮守府に来る気はあるか?」


霧島「あ…」


陸奥「霧島、無視しなさい、こんな人の話は聞かない方が…」


提督「邪魔するな、誘われなかったからって僻んでんじゃねえよ」


陸奥「な、誰がぁ!!」



すーぐ挑発に乗る…



比叡「ちょ、ちょっとやめて下さい!」


榛名「問題になってしまいますよ!」




殴りかかりそうな陸奥を比叡と榛名が止めてくれた。



提督「どうだ?」


霧島「い、いきなりそんな…」



…?


全然拒否する気配が感じられない。



このまま押し込んだら簡単に来てくれるのかもしれないと思った時…




金剛「ヘーーーーーーーイ、佐世保鎮守府の提督ぅ!!私の目が黒いうちハァ!勧誘は許さないネーーーーー!!」


提督「…」




やかましいのが邪魔してきた。



提督「後で白友提督を落とす方法を教えてやるからどっか行ってくれ」


榛名「本当ですか!?」


提督「うぉ!?」



想定外の奴が大声で返事をした。



金剛「榛名ぁ!!」


比叡「そんな甘い誘いに乗らないで!」


榛名「す…すみません…」



謝ってはいるものの榛名の視線は俺を捉えている。

その目は『後で教えろ』と脅迫しているような目だった。



提督「まあ良い、これを受け取ってくれ」



俺は手に持っていた資料を霧島に渡す。



霧島「これは…?」


提督「もしも君をうちの鎮守府に迎えた場合、どのような戦術を取るのかが書かれている」



霧島は受け取った資料を躊躇なく開いた。





…やはりな、こいつは色々と今の自分に不満を持っているらしい。




陸奥「霧島!突っ返しなさい!」


金剛「そうネ、申し訳ないケド、これは…」


霧島「は、はい…あの…」


提督「これはうちの練習巡洋艦の大井が君のために作ったものだ、それを返すというのか?」


霧島「う…」


提督「せっかく大井が頑張って作ったのにな…ああ、可哀想な大井、せっかく霧島のために…」


霧島「わ、わかりました!これはちゃんと読ませてもらいますから!」


陸奥「ちょっと!?」



俺の棒演技にあっさりと引っかかった霧島は大事そうに資料を持って行った。


それを追い掛けて金剛、比叡もその場を離れた。




榛名(後で教えて下さいね…)




榛名は小声でそう言ってから3人を追いかけて行った。







白友…




どうやら童貞卒業は近い将来ありそうだぞ。






陸奥「なんでよ…」



陸奥は一人取り残されその場で呆然としていた。



提督「なぜなのか、本当はわかっているんじゃないか?」


陸奥「うるさい…!どこかへ行ってよ!」


提督「はいはい」



肩を震わせ悔しそうに俯いている陸奥を置いて俺はさっさとその場を後にした。






提督(そろそろ飴をやるかな)





そんなことを考えながら俺は白友が居るであろう執務室へと向かった。










【横須賀鎮守府近郊 港町】




提督「こっちか?」


沖波「あ、はい。こちらで合っています」




夕方、俺は沖波を連れて港町に出ていた。


沖波は地図を片手に俺を誘導してくれている。



先程の演習で義足は壊れてしまっていたため今の沖波は車椅子で移動している。



風雲「一体どこへ向かっているの?」



その車椅子を引いているのは同行すると言ってきた風雲だった。



提督「着けばわかるよ」


沖波「え?」


風雲「なーんか怪しいなあ…」



訝しげに俺を見る風雲を無視して俺はさっさと先へ進んだ。



こいつのこの疑わしい目も今日で終わりにしてやるか。




提督「ここだな」


沖波「え…」


風雲「ここって…」



着いた場所は港町の入り組んだ場所にあった販売店。



沖波「あ…!」



沖波がハッとして嬉しそうな顔を俺に向けた。



提督「約束通り好きなのを選んでこい」


沖波「はいっ!」




沖波を連れてきた場所。


そこは船のパーツ等を扱っているところで艦娘の艤装も扱っている。

それだけでなく沖波が欲していた艦娘用の義足パーツも売られていた。


ここは先程白友から聞き出した。

『沖波に新しい義足を買ってやりたいから』と言ってもあいつは信じてくれなかったが…。



沖波「うわぁ…たくさんある!」



沖波は自分で車椅子を移動し嬉々としてパーツを選んでいた。



風雲「…」


提督「なんだよ」



風雲が俺を見ている。

その目はまだ疑わしいものが混じっていた。



風雲「どうしてそんなにも沖波に優しくしてくれるの?」


提督「あいつが使えるからだが?」


風雲「使えるって…」


提督「使えない奴に俺は優しくなんてしない、沖波が不要だと思ったらさっさと異動させるなりして放り出すつもりだった」


風雲「なんて人…」



俺の言葉に風雲が眉を顰める。



提督「あいつがうちの鎮守府に来た時にテストをした」


風雲「テスト?」


提督「演習の全力疾走で置き去りにしたり1対1で徹底的に痛めつけてやった」


風雲「はぁっ!?なんでそんなこと!!」



風雲が俺に詰め寄って胸倉を掴んだ。

その大きな声に周りの人から注目を集めてしまう。



提督「だが沖波は何度も立ち上がり演習を続けた。演習の後には地べたに額を付けて『ここに置いてくれ』って俺に懇願したよ」


風雲「え…」


提督「その後はリハビリから始まり必死に演習を続けてきた。今では遠征も出撃にこなせるようになり、第二秘書艦の座も掴み取った」



視線の先には沖波が楽しそうに義足パーツを選んでいた。



提督「今回はそんなあいつへの報酬だ。努力じゃない、結果を見せてきた沖波に対してのな」


風雲「提督…」



ようやく俺への疑いの視線が消えてきた。




沖波「司令官!見つかりました!」




そこへ沖波が義足パーツを持って戻ってきた。


それを受け取ってレジへと持って行く。



レジカウンターに出た値段は…



提督「120万…」


風雲「高いのね、義足パーツって…」


沖波「…」



風雲と沖波が不安そうな顔で見上げてくるのでさっさと支払いをすることにした。



提督「支払いはこれで頼む」



店員にカードを渡し、支払いを済ませようとする。



沖波「ちょ、ちょっと待って下さい司令官!支払いは海軍ではないのですか…?」



さすが賢い沖波、すぐに気づいたな。

いつも資金管理を任せているだけにこういうことには鋭いな。



風雲「え?え?どういうこと?」



俺の財布から出したカードは俺個人のクレジットカードだった。



提督「普通の性能しかない一駆逐艦であるお前の義足を買うのに上があっさり稟議を通すと思うか?」


沖波「あ…」


風雲「ちょ、ちょっと…」


提督「そんなわけで今回は俺の奢りだ。ありがたく思え」


沖波「で、でもこんな高額なもの…ああ!!」



まごついている沖波のメガネを取り上げる。



提督「へー、沖波さんはせっかくの俺の厚意を無駄にする気なんだー。俺が懐を痛める覚悟を持って支払いしようとしたのにそんなこと言うんだー、へぇー」


沖波「あ、ああ…わ、わかりました。わかりましたからメガネ返して下さいー!」



メガネを返して支払いを終えると沖波は嬉しそうにしながらもまだ申し訳なさそうな顔をしていた。



提督「んな顔するな、これから…」


風雲「これからも提督の…みんなの力になって返していけば良いのよ」


沖波「え…?」


風雲「そうよね、提督」





ここに来るまでとは打って変わって風雲が優しい笑顔を俺に向けてきた。



よし…これでもう風雲は俺に逆らったりせんだろう。




提督「そういうことだ、これからも頼むぞ」


沖波「はい…!沖波、精一杯頑張って力になりますね!」




沖波は嬉しそうに新しい義足パーツを抱きしめ、目に涙を溜めながら笑顔を向けた。










帰り道、車椅子を引かれている沖波が俺に少し申し訳なさそうな顔で話しかけてきた。



沖波「あの…司令官、明日の水雷戦隊の演習ですけど…」



沖波の視線は新しい義足パーツに注がれている。



沖波「新しい義足を調整しなければならないので…その…」



そして視線は風雲へ向けられた。



沖波「風雲姉さんに…お願いしたいのですけど…」



居場所を奪われると思っていた風雲に対し自分からそう願い出た。



提督「どうするんだ?」



俺は風雲に視線を向け風雲に意見を求めた。

俺としては交代に賛成だが…



風雲「任せて沖波!あなたの分まで働いてみせるわ!」


沖波「よろしくお願いします!」



風雲は快く了承し、二人は笑顔を見せあった。










【横須賀鎮守府 食堂】





「「「「「いただきまーーーす!」」」」」





艦娘の合掌の声が食堂に響く。


それを開始の合図に夕飯を頂いた。



大鳳「あの陣形は一体…」


祥鳳「あれはですね、こう息を合わせて…」




深雪「普段からあんな訓練してんのかよ…すげーな」


時津風「やりたくてやってるわけじゃないけどねー…はは…」



周りを見渡すと空母は空母同士、駆逐艦は駆逐艦同士仲良く交流をしていた。



俺はというと白友と一緒に今日も中華街へ行こうと誘ったが残念ながら断られた。


白友を酔わせまくって風俗街に連れ込もうと思ったのに…残念だ。




吹雪「佐世保の提督さんっ!」



一人寂しく夕食を頂いていると吹雪が声を掛けてきた。



吹雪「どうですかっ!」


提督「…」



吹雪は人差し指と親指でメガネを摘まんでアピールしている。




あれ…?こいつメガネなんか掛けてたっけ?




望月「こらー吹雪、メガネ返せよー!」


白雪「ダメよ吹雪ちゃん…食事の邪魔をしたら…」



どうやら望月のメガネを奪ったらしい。

何やってんだこいつ…



吹雪「どうですか!?」


提督「何が…?」


吹雪「何も髪を金髪に染めなくっても十分に変われるってことです!これなら私の司令官にもアピールできますよね!」


提督「…」




愉快な奴だな。




提督「やめろよ…サブキャラがモブキャラになってんぞ…」


吹雪「な…!モブキャラって…!」



俺の言葉に吹雪が一歩後ずさる。




吹雪「そもそもサブキャラってなんですか!酷いです!」


提督「酷いのはお前の存在そのものだ」


吹雪「うぐ…なんて容赦のない人…!」



それでもめげずに挑戦的な目を向けてくる。


この直向きさはこいつの長所なのだろうな、教えてやらんけど。



提督「そもそも…」


吹雪「あっ!メガネ…!」



吹雪の掛けているメガネを取り上げる。



提督「白雪だったな」


白雪「え?」



俺は白雪を手招きしてこっちに近づける。


そしてメガネを掛けさせ、俺の持っているメモ帳を渡し、椅子に座らせた。

白雪に小声で簡単な指示をする。


戸惑いながらも白雪はそれに従った。





提督「どうだ?」


吹雪「わぁ…」




白雪がメモ帳を片手で開き、人差し指と親指で掛けたメガネを摘まみ、少し上目遣いでこちらを見る。



提督「できる女の完成だ」


吹雪「う…本当にできる女っぽい…」


白雪「そ…そんな…」



恥ずかしそうにしつつも白雪は少し嬉しそうにしているように見えた。



提督「わかったか?お前にはメガネの特性が無い。諦めろ」


吹雪「うぅ…嫌です!このまま諦めませんからー!!」



吹雪は半泣きになりながらその場を走り去って行った。



白雪「あ、吹雪ちゃん!待って!」


望月「白雪が待てって!メガネ返せったらー!」




それを白雪と望月が追いかけて行った。



提督(やれやれ…)




呆れつつも吹雪の存在感に感心していた。


うちの鎮守府には不要なタイプだが、改装の遅れている白友の駆逐艦達の間ではきっと彼女は欠かせない存在だろう。

ムードメーカーをしつつも駆逐艦達をまとめている。

あれは天性のもので中々真似できないあいつの最大の長所だろう、教えてやらんけど。



落ち着いたところで食事を進めながら視線をある所へ送る。




視線の先には霧島が食事を摂りながらも先程渡した資料を確認していた。


食事を摂りながらと思ったが食事の手は進んでおらず資料の手ばかりが動いている。

どうやら読みふけってしまい食べることを忘れているらしい。



あの調子なら後2、3手用意したらうちの鎮守府に…




金剛「ヘーーーーーーーイ!佐世保鎮守府の提督ぅ!」


提督「…」




またやかましいのが俺の視線を遮った。



金剛「霧島にそんな熱い視線を送っても無駄デーーース!私の目の黒いうちはぁ!大事な妹は渡さないネーーーー!諦めて下サーーーーーイ!」


提督「断る」


金剛「どうしてもというのならーーー!私を倒してからにするデーーーーース!」


提督「金剛に脅されたと大本営に通報してやる」


金剛「権力の乱用は無しデーーーーース!!!」


提督「…」




俺の冗談にあっさりと対応してきやがった。

吹雪とは違い肝が据わっているらしく対処に困りそうだ。



ここは…




提督「白友のハートを掴む方法だがな」


金剛「そ、そんなことで取引しようとしても無駄デーーース!」



動揺したくせに。


ん…?

金剛の後ろにいるのは…



提督「お前の妹が獣の目をしながら聞こうとしているが?」


榛名「…」


金剛「は、榛名ぁ!!」



いつの間にか金剛の後ろに潜んでいた榛名が金剛に首根っこを捕まれ引きずられて行った。



金剛「そんなことに耳を傾けようとするなんて…!説教してやるデーース!」


榛名「で、でも金剛お姉様!他の皆さんを出し抜いて提督を手に入れるチャンスですよ!逃しても良いのですか!?あ!ああぁ!私は諦めませんからーー…」



榛名…見た目と違って腹黒い奴だな。

あいつはうちの鎮守府向きだが白友の下を離れたら何をしでかすかわからんから勧誘はやめておこう。





比叡「どうもすみませんでした…騒がしくして」


提督「ん?」


金剛と榛名がいなくなったら今度は比叡がやってきた。

さりげなく俺の視線を霧島から遮るようにして立ちはだかっている。



比叡「霧島のこと、諦めてもらえませんか?あの子の頭脳は私達に必要で…あの子の考えてくれた戦術で私達はこれまでやってこられたんです」


提督「…」



金剛とは打って変わってしっかりとした理由を述べてきた。



確かに比叡の言う通り、先程の演習でも霧島が他の者達に指示をしていた。

元々そういうことが得意なのか、金剛姉妹の中では戦術も任されているらしい。



しかし…



提督「その現状が霧島の成長を妨げているとしたら?それでも手元に置きたいか?」


比叡「え…」



俺の言葉に比叡が言葉を失う。


こいつの反応を見てわかった。

どうやら一度はそう思ったことがあるらしいな。


仲の良いことで…。

こいつなりに霧島のことを考えているのだろうな。



提督「霧島に伝えてくれ。明日、うちの雲龍が艦隊戦に出る。それを見てうちに来るか決めてくれってな」


比叡「あ…」




妹想いのこいつならしっかり伝えてくれると確信し、俺は食事を終えて食堂を後にした。





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陸奥「…」



今の一連のやり取りを陸奥は離れた場所から見ていた。


その目はまるで監視しているかのようで、提督が金剛達とやり取りをしている間ずっと厳しい視線を送っていた。




大井「そんな怖い顔してると疲れるわよ」


陸奥「え…?」



そんな誰も近寄らない雰囲気を醸し出していた陸奥に声を掛けたのは大井だった。



大井「あいつに散々振り回されたようね、同情するわ」


陸奥「…」


大井「警戒しないでよ。確かにあなたを勧誘するようには言われているけどね」


陸奥「勧誘…?私を?」



大井の言葉に陸奥が眉を潜める。



陸奥「あいつは私に対してカスとかいらないとか随分なこと言ってくれたわよ?何を今更…」



憎々しい顔になって陸奥が悪態をつく。



陸奥「おまけに秘書官までグルになって…!何なのよあなた達は…」


大井「はい、これ」


陸奥「…?」



陸奥の言葉を遮るように大井は持っていた書類を陸奥に渡す。



大井「あなたをうちの鎮守府に迎えた場合の訓練内容や作戦内容が書かれているわ」


陸奥「は…?」



霧島と同じように今後のことが書かれた書類を渡され陸奥が戸惑いながら勢いを弱めた。



陸奥「なんで…」


大井「さあ?なんか『散々鞭を与えて痛めつけたから今度は飴を与えてやれ』とか言ってたわ」


陸奥「バカにして…!こんなものいらな…」


大井「確かに渡したから、じゃあね」


陸奥「ちょっと!?」



要件は済んだと言わんばかりに大井は書類を返そうとした陸奥を無視してその場を離れようとした。



大井「そうそう、あのバカのことはいくら悪く言っても構わないけど」



大井は離れ際に一度振り返る。


あのバカとは提督のことだろうと理解しているのか陸奥は何も言わなかった。



大井「秘書艦の…祥鳳のことはあまり悪く言わないで上げてね。一生懸命なだけだから」


陸奥「…」



先程とは違う真剣な表情の大井に陸奥はただ聞いていることしかできなかった。



テーブルには大井の持ってきた厚さ5cm程の書類が置かれたままだった。







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【横須賀鎮守府 廊下】





時津風「ねー、しれーってば、聞いてんのー」


提督「うるせぇな、自分で行けって言ってんだろ」



廊下に出て会議室に向かう途中、駆逐艦達に掴まった。



雪風「是非とも間宮さんのお土産に買って行ってあげたいんです!」


時津風「ねーねー、良いでしょー。今日の演習勝ったんだからさー、買ってよー」


天津風「中華街の特製杏仁プリンよね、そう高い物じゃないから」


提督「てめーで買えよ、給料払ってんだろうが」


雪風「しれぇに買って欲しいんです!」


時津風「ねー、沖波には凄いの買ってあげたんでしょー?ねー、買ってよー。聞いてんの!?ねーー!!しれーってばーーー!ねぇーーーー!!」


提督「うるせえええぇぇ!!」



俺の背中から服を引っ張りゴチャゴチャぬかすガキどもを怒鳴るが全く離れようとしなかった。











そこへ…









白友「…」


提督「あ、白友じゃん」




廊下の反対側から秘書艦の長門を連れた白友が何も言わずこっちを見ていた。



提督「ちょうど良かった、このバカ3匹やるから熊野と鳥海くれ」


時津風「な!?」


雪風「し、しれぇ!酷いです!」


天津風「なんて雑なトレード…」



天津風が呆れた声をしている。

俺が本気でないことくらいこいつならすぐにわかるだろう。





白友「なあ長門…」



しかし白友は俺の言葉を聞いていない様で隣の長門に話し掛けている。



白友「お前から見て…こいつと彼女達の関係はどう見える…?」


長門「口は悪いが仲良くじゃれ合っているようにしか見えない」


白友「だよな…」



ああ、そういえば演習前に送ったアレの誤解を解くのを忘れてたな。

誤解じゃなくて全部事実だけど。



時津風「ねー、早く行こうよー。売り切れちゃったらどうするんだよー」


提督「あーもう、うるせえな、ほれ」



俺は財布から万札を取り出して時津風に投げつけた。



時津風「雑な扱いすんなー!」


提督「痛てっ!!」



俺の投げやりな対応に腹を立てたのか尻に蹴りを入れやがった。



提督「痛えなこのクソガキ!解体すんぞコラ!!」


時津風「早く行こうって言ってんのー!」


提督「金払っただろうが、勝手に行けよ!」


雪風「しれぇと一緒に行きたいって言ってるんです!」


提督「ああ!おい!引っ張んな!離せこの馬鹿力!!」


時津風「おらー!行くぞー!」


天津風「あまり無理しちゃダメよ、服が伸びちゃうわ」




雪風が俺を強引に引っ張り始めるとそれに時津風も続き引っ張り始めた。


艦娘2人分の力に抵抗できず、この後約1kmほど抵抗したところで抵抗を諦めた。




中華街で杏仁プリンを買うまで二人は俺を解放せず、4箱レジに通すまで捕まった宇宙人の気分を味わうこととなった。





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長門「君…天津風だったな?」


天津風「あ、はい」



中華街に行く少し前、長門は天津風に声を掛けていた。




長門「後で少し良いか?」








【横須賀鎮守府 談話室】



談話室に今艦娘達はおらず、対面で座っている長門と天津風の二人だけだった。



長門「演習の前にこんな物が送られてきてな…」



長門は合同演習の前に送られてきた内部告発書を天津風に見せる。



天津風「えーっと…」



天津風はその告発書を一通り読み終え長門を見る。



天津風「全部事実ね」


長門「な…事実なのか…!?」



信じられない顔をして天津風を見返した。




長門「駆逐艦に対する暴言というのは…」


天津風「さっきの見たでしょう?いつもあんな感じよ」


長門「罰として地下牢への監禁は…?」


天津風「配属されて早々に3日も監禁されて作戦指南漬けにされたわ。おまけに食事を抜かれて…」


長門「なんてことを…」


天津風「でもね、あの人もそれを一緒に付き合ったの。だから文句言えないのよね。その後はそんなこと無かったし」


長門「…」



嫌そうな顔を見せず話す天津風に対し長門は何も言えなくなった。



長門「では演習中の折檻とは…」


天津風「空母の攻撃から逃れる訓練のことね、緊張感があって良いと思ってるけど」


長門「なるほどな」



納得したように頷いて長門は告発書を仕舞った。



天津風「その告発書だけど…多分出どころは…」


長門「君のところの提督か?」


天津風「だと思う…。あなたの提督をからかうために送ったんだわ。そういうことする人だから…」


長門「やはりな…」



頭を抱え呆れる天津風に長門は苦笑いをするしかなかった。







長門「最後に…」




長門が少し顔を赤らめて恥ずかしそうにしている。




長門「君のところの艦娘が提督の…その…夜の相手をしている…というのは…?」


天津風「…っ!!?」



長門の言葉に天津風が身体をビクつかせる。



天津風「あ、あの…それは…」


長門「すまない、言い辛ければ別に…」


天津風「だ、大丈夫っ!それは同意のもとにしていることだから!」



顔を真っ赤にして焦って言う天津風に長門が眉をひそめた。



長門「も…もしかして君が…」


天津風「ち、ちち、違う!私じゃないわ!で、でもちゃんと確認したから!」


長門「そ、そうか…?しかし確認って…」


天津風「い、いいじゃないそんなこと!大丈夫よ!最近の祥鳳さん本当に楽しそうなんだからっ!」


長門「え…祥鳳…それは秘書艦の…?」


天津風「ああっ!!!」



思わずしまったという顔をして天津風は両手で自分の口を塞いだが時すでに遅し。



天津風「…」


長門「…」


天津風「今の…聞かなかったことに…」


長門「ああ…他言はしない…プライベートなことだからな…」






顔を真っ赤にしながら天津風は力無くうなだれた。





長門「しかし羨ましいな、君達が」


天津風「え?」



長門の意外な言葉に天津風が顔を上げる。



長門「君達と提督の関係は肩肘の張らない気楽な関係で…言いたいことも言えるのだろうし…」


天津風「言いたい放題とも言うけどね…。でもあなた達の提督は素敵な人格者だと思うけど?」


長門「そうなのだが…如何せん堅物でな…」


天津風「あら」



少し顔を赤らめて顔を俯かせる長門に天津風が何かに気づいた。



天津風「もしかしてあなた…」


長門「…」


天津風「そう、そういうことなの。ふーん」


長門「な、なんだその顔は…」






この後しばらくは天津風が長門をからかうことになった。



白友提督と同じように頭の固そうな長門のそのギャップに天津風は親しみを感じながら色んなことをアドバイスしてあげた。






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【横須賀鎮守府 ?????】





親潮「ん…」






深夜、親潮はベッドで眠りながら自分の身体に違和感を感じた。









身体の自由が利かない。



誰かが自分を押さえつけているかのように…






親潮(え…?)





ゆっくりと意識を覚醒させ目を開ける。






親潮「な…!?」





息が止まりそうなほどのショックだった。





提督が親潮に覆いかぶさっていたからだ。






親潮「なん…で…司令が…」


提督「…」





提督は何も言わず親潮のパジャマの胸もとを掴み





親潮「いやぁぁぁっ!!」




思いっきり両手に力を入れて胸もとを開いた。


その拍子にパジャマのボタンが弾け飛び、親潮のブラジャーに包まれた胸が露出された。





親潮「や…!?やめて下さい司令!どうしてこんな…んむぅ!んんん!んむぅぅぅ!?」




提督は掌で親潮の口を塞ぎ







提督「抵抗したければ…」






冷たい目をしながら親潮を睨みつける






提督「抵抗したければ…俺を殺せ…」






その言葉に親潮は何も言えなくなり…






そのまま抵抗せず…








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【横須賀鎮守府 提督が借りている客室前】




祥鳳「提督、祥鳳です」




提督の部屋の前でノックをしても返事がありません。


夜遅くに提督の部屋を訪れたのはある相談のためでした。



祥鳳(親潮さんとのこと…少し話しておきたかったのですが…)



夕食前に提督は沖波さんと風雲さん、夕食後は天津風さんと時津風さん、そして雪風さんと出掛けたと聞きました。


しかし親潮さんだけは提督と一緒に出掛けることはありませんでした。



雪風さんが帰ってきて『しれぇと一緒に中華街に行ってきました!』と嬉しそうに親潮さんに報告していた時に見せた親潮さんの複雑な笑顔が脳裏に焼き付いて離れません。





あの日、提督が親潮さんに全ての恨みをぶつけて以降…


一度でも会話ができていたのでしょうか?



いくら姉妹艦が居るとはいえ、親潮さんも心苦しい鎮守府生活を送っていることでしょう。



二人が少しでも前進できるよう覚悟を決めて提督の部屋へと来たのですが…



祥鳳(いない…?)



ノックをして何度声を掛けても返事がありませんでした。


ドアノブを回すと鍵が掛かっておらず中に入ることができましたが…



祥鳳(いないみたいですね…)



提督はいませんでした。


こんな時間にどこへ…?




私はある予感と経験を基に提督を探して歩き始めました。






【横須賀鎮守府 会議室】





祥鳳「やっぱり…」


提督「ぐー…」



会議室の電気は点けっぱなしで、提督は机に突っ伏し、書類を広げたまま眠っていました。


書類を見ると明日の水雷戦隊同士の艦隊戦、その作戦内容が書かれていました。



以前も提督は私達が海域攻略に出る時もこうやって夜中まで作戦内容を見直してくれていました。


その姿勢はとても好感が持てることですが…それも私達に良い所を見せるためのパフォーマンスなのかもしれません。



しかし今の私にとってそんなことはどうでも良いことです。



ただその提督の姿に好感を持つだけで良いと思うととても気が楽になり、思わず笑みが零れてしまいました。




祥鳳「提督、起きて下さい。また風邪をひきますよ」


提督「ん…んぉ…」



提督の肩を揺らすとようやく起きてくれました。



提督「何時…?」


祥鳳「もうすぐ夜中の1時です、書類は私が片付けておきますからお部屋で休んで下さいね」


提督「頼む…」


祥鳳「おやすみなさい」



寝ぼけまなこの提督に親潮さんの話をする気にもならず、今日は仕方ないと諦めることにしました。




祥鳳(そういえば…)




最近提督に抱かれていませんね…



もう私に飽きたのでしょうか…?





祥鳳「わ、私ったら何をっ!?」




思わず頭の中で浮かんだ卑猥な考えを振り払うように強く首を振りました。





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親潮「…ひっ!?ぅぁ…!」






目が覚めるとそこは見慣れない部屋だった。






荒れた呼吸を整えて辺りを見るとまだ外から陽は差し込んでおらず、隣では天津風が静かな寝息を立てていた。






親潮(夢…?)




全身が冷や汗で濡れて冷たくなっている。


その冷たさが少しずつ冷静な心を取り戻させた。




横須賀鎮守府との合同演習で天津風と同じ部屋で寝ることになっていたにも関わらず




親潮(あんな夢…)




自分が提督に対してどのように思っているかを体現したような夢を見てしまい、罪悪感で胸を痛めてしまった。




『自分は何をされても仕方ない』

『許されるためならどんなことでもする』



そう頭の中では理解していたつもりだったが…




親潮(怖い…)




先日提督から言われた言葉がいつまで経っても頭を離れない。










親潮「黒潮さん…」








その寂しい親潮の呟きは誰の耳にも届くことは無かった…







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【横須賀鎮守府 会議室】






提督「予定通り今日の2隻による艦隊戦は雲龍のみとなる」


葛城「うー…」


提督「唸るな葛城、今日は姉に花を持たしてやれ」


葛城「わかったわよぉ…」



残念そうにしょぼくれる葛城とは対照的に雲龍はキラキラしていた。



雲龍「ふふ、うふふふ…腕が鳴るわ…ふふふ」


時津風「うわ…もうやる気満々だ」


天城「頑張って下さいね、雲龍姉様」


提督「…」


大井「…」



俺が大井に視線を送ると彼女は何も言わず見返してきた。

その反応に満足して話を先に進めることにした。



提督「次に水雷戦隊同士の艦隊戦だが…沖波は義足パーツの調整のため風雲と交代となる」


天龍「そうなのか?」


雪風「風雲さん!よろしくお願いします!」


風雲「こちらこそ!全力を尽くして沖波の分まで頑張るわ!」


沖波「みなさん、風雲姉さん、お願いします」


風雲「任せて!」




ここ最近あった沖波と風雲のわだかまりは無くなったようで二人とも笑顔で見合っていた。



提督「では解散、雲龍は10:00に演習場に立つように。水雷戦隊は13:00だ、忘れんなよ」



俺はこの後の準備のため、白友提督率いる艦娘がいる場所へと向かった。




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親潮「…」



親潮はまた疎外感を感じていた。


自分と同時期に着任した風雲に出番は与えられたというのに自分は…

そんな気持ちが胸の中を支配し始めていた。


風雲が改二艦であり、自分よりも性能の良い艦娘だということはわかっている。


しかしそれでも焦りが湧いてきて動かずにはいられなかった。



親潮「あの…!祥鳳さん、大井さん!」


祥鳳「は、はい!?」


大井「どうしたのよ、そんな大声で」



いきなりの親潮の大声に祥鳳はビックリして背筋を伸ばしてしまった。



親潮「何か…何かできませんか!親潮に何かできることはありませんか!?」


祥鳳「親潮さん…」


大井「…」



顔に焦りが出つつも真剣な表情の親潮に祥鳳がどう答えようかと困っていた。

そんな祥鳳を見かねてか、大井が答えようと一歩前に出る。



大井「何かって?」


親潮「た、例えば…艦隊戦に出たり…その…」



いつも指導中に怒鳴られている大井を前にして親潮の勢いが止まる。

それほどまでに大井は不機嫌そうな顔をして親潮に対し威圧的な態度を見せていた。



大井「親潮…あんた、何のために夜に訓練しているの?」


親潮「え…それは…早く皆さんに追いつけるように…」


大井「そうね、自分が力不足だって自覚しているからよね?」


親潮「あ…」



大井の言葉に親潮が顔を俯かせた。



大井「そんな艦隊の一番力不足のあんたを出せると思うの?」


親潮「…!」


祥鳳「大井さん…何もそこまで…」



大井の容赦のない言い方に祥鳳が止めようとする。

その祥鳳の動きを知ってか大井はすぐに威圧的な態度を解いた。



大井「気持ちはわかるけどね」



大井は両手を優しく親潮の肩に置いた。



大井「焦っちゃダメよ。早く結果が欲しいのはわかるけど今のあなたは力不足、この後にある2隻の艦隊戦、水雷戦隊、6隻の艦隊戦であなたの活躍できる場面はあるの?」


親潮「いえ…」


大井「自分でそれがわかっているのなら今回は諦めなさい。今後必ず活躍できるようするのが私の仕事なんだから」


親潮「はい…」



残念そうに顔を俯かせた親潮さんに大井さんが浅いため息を吐く。


言い聞かせたものの納得がいってないのが親潮さんから見て取れたからでしょう。




しかし大井さんの言う通り今回の演習で親潮さんの出られそうな種目は無く今回は諦めてもらうしかありませんが…




祥鳳(早めに行動したほうが良いのかもしれませんが…)



複雑な提督と親潮さんの関係を前に進めようとするのは改めて慎重にすべきと昨日の自分の行動を恥じながらも心に留めるようにしました。



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【横須賀鎮守府 演習場】





『それでは2隻による艦隊戦を行います』




演習場に放送設備からの声が響く。





翔鶴「瑞鶴…」


瑞鶴「本当に一人で出てきたね…」




相手を見て翔鶴と瑞鶴が驚きを噛み殺す表情になっている。





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雲龍「ふふ、うふふふ…あはははは…」




対する雲龍は不敵に笑い、気を昂らせていた。



メンバー表には葛城の名も記載されてはいたが『艤装の不調』ということで控えてもらった。




そのため雲龍は一人で出撃し、装甲空母である翔鶴と瑞鶴を相手にすることになった。




尤も…その状況を望んだのは他ならぬ雲龍本人ではあるのだが。





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白友「おい…本当に良いのか?1対2になってしまって…」


提督「仕方ないだろう、本人がそれでもやるって言ってんだから」


白友「だからと言って…」



心配しているのは提督ではなく対戦相手の白友だった。



白友「翔鶴、瑞鶴、気を付けろ。何をしてくるかわからんからな」



それでもここまで2敗している白友は油断することなく緊張の面持ちで司令部施設の画面を見ていた。



それに対し提督は昨日と同じように司令部施設の画面も見ずに無関心な態度だったが…



大井「…」


白友「…?」



指導役の大井の表情は少し強張っていた。





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時津風「がんばれー!」


雪風「応援してますよー!」




演習場の観覧席から仲間達の声援が飛び交う。



吹雪「頑張って下さい!」


叢雲「負けんじゃないわよ!私達は負けたけど…」


白雪「そんな…今反省しなくても…」




そんな騒がしい仲間達から少し離れた位置から見ている戦艦が一人。




霧島「…」




雲龍の演習を見に来るよう言われていた霧島だった。




霧島(一体どんな戦いを…?)




少しの不安と期待の中、開始前から手に汗を掻いていた。






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『演習開始っ!』














雲龍「ひひ、あはははは、キャハハハハハハハハハハッ!!!」






先日の対二航戦の時と同じように雲龍は発艦もせずに翔鶴、瑞鶴へと突撃を開始した。






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瑞鶴「うわぁ!本当に突っ込んできた!」



翔鶴「落ち着いて瑞鶴!予定通りいくわよ!」



瑞鶴「了解!第一次攻撃隊!発艦!!」



一瞬怯んだ瑞鶴だったが翔鶴の声に落ち着きを取り戻し艦載機を発艦させる。



翔鶴は瑞鶴の前に立って盾になるよう身構えた。





蒼龍、飛龍は2対1の優位性を活かし挟み撃ちにしたが、翔鶴と瑞鶴は正面から挑む体制を取っている。




瑞鶴「嘘!本当に艦載機が勝手に守って…翔鶴姉、このまま来るわよ!」



瑞鶴の艦載機による攻撃を雲龍の艦戦が防ぎ、雲龍は猛スピードで二人に接近していた。






雲龍「ああああああああああああああああああっ!!!!」




そのまま距離を縮め副砲で攻撃しながら肉弾戦に持ち込み、発艦させる隙を与えない戦法を取ろうとした。









しかし…








雲龍「な…!?」





雲龍の撃った副砲を翔鶴は装甲されている飛行甲板で防ぎ、反対に雲龍に対し副砲を構えていた。




翔鶴「いきますよっ!!」



雲龍「っぐ…!うあぁぁ!?」




翔鶴の副砲が真正面から雲龍に直撃し、その衝撃で雲竜が吹き飛ばされた。





翔鶴「今よ!!」


瑞鶴「第二次攻撃隊!発艦開始っ!!」




倒れて起き上がる前に瑞鶴の攻撃隊が雲龍を襲う。







雲龍「う、うわああああああああああああ!!!」






今度は雲龍から艦載機が発艦されることなく、まともに喰らってしまった。



その損傷は中破以上でもう既に空母としては戦うことはできないはずなのだが…





雲龍「ウガアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!」


瑞鶴「ひぃ!?」


翔鶴「な…!」




雲龍は傷だらけのまま立ち上がり、瑞鶴の髪を掴み海面へ叩きつけた。



瑞鶴「きゃああああああ!?」



そのまま瑞鶴に襲い掛かり拳を振り上げる。



翔鶴「させませんっ!!」


雲龍「ギャアアアッ!?」



翔鶴は落ち着いていて雲龍に再び副砲を浴びせた。


雲龍がまたも吹き飛ばされ、二人の距離が開く。




翔鶴「瑞鶴!最後まで油断しちゃダメって言ってたでしょう!」


瑞鶴「ご、ごめん翔鶴姉!第三次攻撃隊!行くわよ!!」




体勢を立て直し、翔鶴が壁となり瑞鶴が攻撃をする見事な雲龍対策をして攻撃を開始した。











その落ち着いた五航戦を雲龍は打ち崩すことはできず…













雲龍「ゥ…ァ…」










瑞鶴の5回目の艦載機の攻撃によってついに海面にうつぶせに倒れてしまった。









『横須賀鎮守府、翔鶴と瑞鶴の勝利』





その放送の声が聞こえて翔鶴と瑞鶴はようやく戦闘態勢を解いた。





翔鶴「やっと…終わった…」


瑞鶴「何なのよ…深海棲艦よりも肝を冷やしたわ…」




勝利した喜びに浸ることもできず、二人は疲れた顔で倒れた雲龍を見ていた。





天城「雲龍姉様!」


葛城「しっかり…!大丈夫なの!?」




演習場に飛び込んできた天城と葛城を見て、翔鶴と瑞鶴は演習場を引き上げ始めた。




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祥鳳「どういうことですか提督」


提督「ん?」



演習を終えて司令部施設を引き上げようと思ったら祥鳳が怖い顔をして俺に声を掛けてきた。




祥鳳「雲龍さんの情報をあの二人に流しましたね?」


提督「そうだが?」


白友「な…!?」



俺の言葉に隣にいた白友の方が驚いていた。



祥鳳「やはり…翔鶴さんと瑞鶴さんの対応があまりにも落ち着いていたので…」



祥鳳の視線は大井にも注がれる。



祥鳳「大井さんは知っていたのですね?」


大井「ええ…事前に提督から相談されていたわ」


提督「他の者に気取られるとまずいからお前には話しておかなかったんだよ。そうでなきゃ向こうもこっちも本気でやれなくなるからな」


祥鳳「そうですか…」



祥鳳が微妙に納得のいかない顔をする。

そんなに今回のことを黙っていたことが気に入らなかったのか?



大井「提督はこう言ってるけど本当は『祥鳳は昨日の疲れもあるだろうから余分な情報を与えて気を遣わせないようにする』って言ってたわよ」


提督「てめえ大井!」



それは黙ってろって言っただろうが。



大井「私は『祥鳳に言わなくてもいいの?』って聞いたから。じゃあね」


提督「待っ…くそっ…!」



大井の奴め…ベラベラといらんことを…

大体祥鳳に気を遣えって言ったのはお前だろうが…!



祥鳳「提督…」



そんなに嬉しそうな顔すんな。



祥鳳「コホン…気を遣って頂けるのは嬉しいですが、今後はこれくらいのことで内緒にしないで下さいね?」


提督「へいへい」


祥鳳「返事は一回ですよ?」


提督「わかったっての…」



いらんことするんじゃなかったと祥鳳の嬉しそうな顔を見ながら後悔していた。





さて、敗北者の顔を拝みにいくとするかな。





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【少し前 横須賀鎮守府内 工廠】




提督「ああ、ここに居たか」


瑞鶴「な、なに…?」


翔鶴「佐世保の提督さんと…」


大井「指導役の大井です」



一緒に来た大井が二人に頭を下げる。



瑞鶴「一体何の用…?」


提督「聞いたぞ、次の演習に出るんだってな?」


瑞鶴「な、なんで知ってるのよ!?」


翔鶴「ず、瑞鶴!」


瑞鶴「あ…!!」



瑞鶴がしまったという顔を見せる。

わかり易過ぎて苦笑いが出てしまう。



提督「ふーん…やっぱり装甲空母2隻で来たか。予想通りだな」


翔鶴「あ…あの…」


提督「心配するな、お前らから聞いたなんて誰にも言わんよ」


瑞鶴「何しに来たのよ…悪いけどあなたの言う通り今から準備で忙しいのよ!」


提督「要件はすぐ終わるよ」



そう言って俺は大井に視線を向ける。



大井「これは今から相手をする雲龍の映像よ」



大井はタブレット端末を取り出して翔鶴、瑞鶴に見せる。



翔鶴「え…」


瑞鶴「何よ…これ…」



タブレット端末に映し出された雲龍は狂ったように笑い、蒼龍に副砲を浴びせ続け、海上で飛龍に殴りかかる様子が映し出されていた。


先日舞鶴鎮守府との合同演習をした時の映像だった。



提督「君達には雲龍に勝って欲しい」


瑞鶴「は…?」


翔鶴「どうしてそんな…」


提督「それが彼女のためになるからだ」



そう言っても翔鶴と瑞鶴が俺に対して疑いの視線を投げかけてくる。


それはそうか、俺の悪評は白友を通じて知っていることだろうからな。



その対策として連れてきたのが…



大井「どうか雲龍を止めて欲しいの。お願いします」



深々と頭を下げる大井に対して翔鶴も瑞鶴も複雑そうな顔に変わっていた。



翔鶴「…」


瑞鶴「…」


提督「では失礼する」



用件だけさっさと伝えてその場を離れた。

この場に白友や陸奥が来たらまたややこしくなると思ったからだ。



大井「良いの?特に作戦とか伝えなくて」


提督「あの二人なら大丈夫だろ」



経験もあり戦績も十分な二人なら雲龍を負かしてくれるだろうと確信し、俺は司令部施設へと向かった。





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【横須賀鎮守府 工廠】





提督「ということがあったんだ」


雲龍「…」



俺は工廠で意識を取り戻した雲龍に余すことなく伝えた。

その内容と事実に周りの艦娘の表情が凍り付いている。



葛城「あんた…!」


提督「っぐ…!?」



葛城に胸倉を掴まれて苦しくなる。

こいつがこうしてくるのは想定内だが如何せん力が予想以上に強かった。




祥鳳「葛城さんっ!!」


葛城「えっ!?」



しかしすぐに祥鳳が葛城の手を掴み振り払った。

その祥鳳の行動に葛城の表情は驚きに包まれ周りの艦娘達も目を丸くしていた。


俺も驚いた。

以前だったら声は出すものの、間に入るようなことはしなかったはずだが…。



祥鳳「まずは提督の意図を聞いてみませんか?吊るし上げるのはその後にしましょう」


提督「おい…」



助けてくれたと思ったのに逃げ場を塞がれた。

本当に最近のこいつは…中身が別人じゃないかと疑いたくなる。



天城「提督…どうして雲龍姉様の情報を相手に?」


時津風「わざわざ負けるなんてしれーらしくないよねー」


天津風「雲龍さんが勝てば勝ち越しだったのに…どうしてなのよ」



しかし祥鳳のおかげか艦娘達が冷静に耳を傾けてくれたようだ。



提督「決まっている。雲龍の鼻っ柱を叩き折るためだ」


雲龍「え…」



俺の言葉に雲龍から初めて声が漏れた。



提督「随分と相手を舐めていたな」


雲龍「私…そんなつもり…」


提督「そうか?お前は何の対策も作戦も立てずにただ突っ込んでいった。二航戦の時と同じようにな」


雲龍「あ…」


提督「こうすれば勝てると、相手は怯んでくれると高を括っていただろう。違うか?」


雲龍「…」



俺の言葉に雲龍が顔を俯かせた。

どうやらようやく自覚したらしいな。


あの興奮状態ではそう分析するのは難しいが…



大井「あんたは止まってるのよ」



俺の言葉を繋げたのは大井だった。



大井「二航戦との演習から成長していないんじゃない?自分では演習に撃ち込んでたつもりだろうけど、何も考えずただ勝ちたい、勝ってまたあの快感を味わいたい。それだけじゃないの?その結果がこれよ、映像ひとつ見せただけであっさりと敗北。それが現実よ」



大井の視線は近くで心配そうな顔をしている天城に注がれる。



大井「天城と祥鳳はね、自分の実力を真摯に受け止めて少しでも何かできないかと模索し続けて努力し続けてたわよ。その結果、大鳳と隼鷹に勝つことができた。圧倒的な戦力差をひっくり返してね。あんたとは大違いよ」


雲龍「ぅ…」



ようやく雲龍が何かを言うのかと思ったら…



雲龍「うっ…ぐす…っ…」


天城「雲龍姉様…」



悔しそうに涙を零し嗚咽を漏らした。

その意外過ぎる光景に周りの艦娘が言葉を失った。



葛城「ちょっと…何もそこまで言わなくったって…」



それを見かねてか葛城が大井に声を掛けてくる。

俺はそれを遮るように追い打ちをかける。



提督「この程度で立ち直れなくなるようなら追い出すからな」


葛城「な、何よそれ!!」


提督「前に雲龍に言ったんだよ。『実力不足とみなしたら他の鎮守府に放り出す』ってな」


葛城「そ…そんな…そんなの…!」


風雲「だったら…」


提督「…?」



悔しそうに唇を噛み締め睨む葛城の後ろから風雲が俺を見ている。



風雲「雲龍さんが立ち直って頑張り続ける限り、提督は見捨てないってことよね?」


沖波「風雲姉さん…?」


提督「…」



意外な奴が声を上げたおかげで葛城の勢いが止まり空気が変わる。

風雲は何かを期待するような真剣な眼差しを送ってくる。


そんな目を向けられたら茶化すことも何も言わずに去ることもできんな。



提督「雲龍が本気で強くなろうとするかぎり俺も大井も力の限りサポートするさ、その方が艦隊も強くなるうえ俺の評価も上がるからな」


風雲「そうよね!雲龍さん、頑張りましょうよ!」


雲龍「ぐすっ…風雲…」



俺の回答に風雲が嬉しそうに笑顔を見せ雲龍を励ましていた。



提督(へえ…)



この絞め辛い空気を見事収束させてくれた。

こいつの初めて見せたリーダーシップぶりに感心させられた。










提督「…?」




その場を離れ、次の演習に作戦を確認しようと思ったが誰かの視線が俺の足を止まらせた。



提督(祥鳳…誰が見てる?)


俺は祥鳳に近づき小声で確認をする。

自分が目を合わせると逃げられる可能性があるので俺は背を向けたままだ。



祥鳳(霧島さんと…陸奥さんです…)



ほう…霧島は予想していたが陸奥も…。



これは今後の勧誘がやりやすくなると楽しくなってきた。





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霧島「…」





胸の奥が熱く滾ったままだ。



雲龍の戦いを見た影響か、口元は震え足取りが覚束ない。




自分の艦隊の翔鶴と瑞鶴が勝利したというのに喜びを感じている余裕も無かった。





『あんな狂気を曝け出した戦いをして姉妹艦は、仲間達はどう思っているのか?』




それが知りたくて負けた陣営の方に顔を見せてしまっていた。






陸奥「霧島、どこ行くのよ!?」




誰かが止めてくれたような気がしたけど私の足は止まらなかった。







工廠に着くと雲龍を囲んで仲間達が励ましていた。



その中に重苦しい空気は感じられない。





霧島(受け入れられているんだ…)



姉妹艦も仲間達も本気になって雲龍を叱咤し慰め、励ましていた。

そんな光景を見て私は羨ましいという感情だけで支配され、次に湧いてきたのは…




霧島(私…も…)




この艦隊の中なら…




もう…手加減する必要も…










金剛「霧島ー!ここにいたネー!!」


霧島「っ!?」




後ろから聞こえてきた金剛姉様の声に私は思考を中断せざるを得なかった。






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【横須賀鎮守府 工廠】




提督「来たか」




金剛の大きな声が聞こえたのでようやく霧島に視線を向ける。

金剛だけではない、比叡も榛名も来ていて金剛型姉妹が勢ぞろいだ。


これはやりやすいと内心ほくそ笑む。



提督「見てくれたか霧島」


霧島「あ…その…」



さっきから近くに居たのを知っていたが、それを知らないフリをして霧島に話し掛ける。

霧島は戸惑いながら視線を俺と金剛の間を右往左往させていた。



提督「どうだ?考えてくれたか?うちの鎮守府に来てくれるか?」


霧島「え…わ、私…」



矢継ぎ早に問い掛ける俺を遮ることもできず霧島は困った顔を見せていた。

断れない時点で答えはもう決まっているようなものだがこれ以上推すようなことはしない。



金剛「ヘーーーーーーーイ!佐世保の提督ゥーーー!!これ以上霧島にちょっかい出さないで欲しいネーーー!!」



やかましいのが邪魔してくるのを想定していたからだ。



金剛「私達にとって霧島は大事な大事な妹デーーーーース!!絶対に渡すわけにはいかないネーーー!!」


霧島「金剛姉様…」



庇われている霧島は嬉しそうな顔をする。


いや…嬉しそうな顔を作った。



比叡「…」


榛名「霧島…」



内心どう思っているかなんて背を向けている金剛以外の姉、比叡と榛名には丸わかりだろう。




後一手で詰みだな。





提督「わかったよ金剛、これで最後にする」


金剛「何ですカー!!霧島に近づくと容赦しないネーーー!!」



そんな威嚇した猫みたいな顔すんな。



提督「霧島、君をうちの鎮守府に迎えたい。どうだ?来てくれないか?見ての通りうちにはまだ戦艦がおらず、君の着任を心待ちにしている」


霧島「あの…」


金剛「霧島…」



金剛に続き比叡も榛名も不安そうな視線を送っている。






霧島「すみません…お気持ちは嬉しいのですが…」







深々と霧島は俺に頭を下げて勧誘を断った。





金剛「よ、良かったデース…」




霧島の隣で金剛はホッと胸をなでおろした。





提督「そうか、残念だが諦めよう…」


時津風「し、しれーが諦める!?」


雪風「天変地異の前触れですか!?」




うるさいぞガキども。




提督「では失礼する、この後の水雷戦隊の演習があるからな。行くぞ祥鳳」


祥鳳「え?は、はい…!」



祥鳳も俺が諦めたのが予想外だったのか呆気に取られていたらしい。





俺は霧島を振り返ること無く司令部施設へと向かった。




その目の前に…





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陸奥(断った…か…)




一部始終を少し離れた所からずっと見ていた。



私と同じように勧誘を受けた霧島がどうするのか気になって仕方がなかった。


目の前では金剛達が嬉しそうに霧島を囲んでいる。




陸奥「これで良かったのよ…」




私の小さな呟きは誰にも聞こえない。








もしも霧島が異動すると言ったなら…


言ってくれていたのなら…




私が異動したとしても…





そんな自分の決断を霧島に委ねていた自分に気づき、恥ずかしくなってその場を去ろうと思ったのだけど…






提督「くくっ…」


陸奥「…!?」




私の横を通り過ぎようとしていた佐世保鎮守府の提督





彼は霧島の勧誘を失敗したというのに





勝利を確信したような余裕の笑みを浮かべていた










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【横須賀鎮守府 司令部施設】




午後、水雷戦隊同士の艦隊戦のため、俺達は司令部施設にて開始を待っていた。



提督(白友の編成は予想通りだが…)



白友の編成は旗艦に阿武隈改二・吹雪改二・叢雲改二・深雪・白雪。

リレーメンバーに阿武隈を加えた形で恐らく現状の白友の艦隊で最善の編成だろう。


厄介なのは阿武隈だ。

奴の艤装である甲標的は戦闘開始直後に誰かを狙って魚雷を放ってくる。


開幕直後に魚雷が直撃して一人離脱されたら戦況が一気に不利になってしまう。



一人離脱された場合の戦略も立ててはあるが…



俺は当たっても中破程度で凌いでくれと祈るような気持ちを持ちながら画面を見ていた。




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『演習開始!』






審判の声に天龍率いる水雷戦隊が構える。





天龍「来るぞっ!!」




相手艦隊接近前に全員が意識を集中させる。




天津風「今よ!避けて!」



天津風の声に全員が一斉に散らばった。





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阿武隈「嘘っ!?」





甲標的魚雷が回避され阿武隈が驚きの声を上げる。






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白友「なにぃ!?」

提督「なにぃ!?」





白友と俺も驚きの声をハモってしまった。




大井「なんであんたまで驚いてんのよ!?魚雷を避ける訓練は散々やらせてたでしょう!!」


提督「す…すまん…」



それでも避けるのは難しいと思っていたので思わず声を上げてしまった。




提督「よし、天龍。作戦通り消耗戦に移れ、戦果に焦って突出するなよ」


天龍『わかってるって!いくぞオラァ!!』




これで戦況は五分のままだ。


いや、あいつらの実力ならそれ以上に有利だと確信する。

後は作戦通り戦えば勝てる確率はかなり高いはずだ。






天龍『全艦砲撃用意!撃てええぇ!!』


阿武隈『みなさーん!狙ってください!!』





その後砲雷撃戦が続き、徐々にお互いの艦隊が消耗していく。






そして舞台は夜戦を迎えた。







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夜戦開始まであと数分






阿武隈「ごめんなさい提督…私がもっと魚雷を当てられれば…」


白友『まだ戦いは終わっていない、諦めるな!』


吹雪「阿武隈さん!顔を上げましょう!」


叢雲「このまま終わるわけにはいかないわよね!」




白友の艦隊は白雪と深雪が離脱し残りは3人となっていた。





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提督『よく堪えた。最後まで気を抜くなよ』



対して提督の艦隊は5人が残っている。


時津風と雪風が被弾し中破となっているがまだ戦える状態だ。




提督『天龍、お前は一旦後方に下がれ。旗艦がやられたらその時点で負けになるからな』


天龍「…」


提督『おい天龍、聞いているのか?』


天龍「…ああ、わかってんよ」




不機嫌そうな天龍の返事に周りの駆逐艦達から不安そうな視線を受ける。





天龍(くそ…こんなんじゃ何の結果も…)






天龍にとって


ずっと遠征部隊をさせられ出撃の機会を他の改二艦に奪われ続けていた彼女にとって


阿武隈との演習は自分の存在を知らしめる絶好の機会だというのに…


このままでは艦隊の勝利を得ることはできても自分の中の勝利を得ることはできない。




その苛立ちは自分が艦隊旗艦であるということを徐々に忘れさせ始めていた






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吹雪「ここから逆転するには相手の旗艦を倒すしかないかと…」


阿武隈「でもどうやって?3対5じゃ絶対相手は消極策を取ってくるよぉ…」


叢雲「うーん…」




夜戦開始ギリギリまで3人は何か策は無いかと話し合っていた。





叢雲「イチかバチか、やってみるしかないわね。阿武隈、準備はいい?」


阿武隈「えっ?」



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阿武隈「おーーーーーーーーい!!」




間もなく夜戦開始というところで向こうの艦隊から声がした。




かなり距離は離れているはずなのに阿武隈の高い声は天龍達のところまで聞こえてきた。




風雲「な、なに?」


天津風「急に大声なんか出して…的になりたいのかしら?」




視界の悪い夜戦海上では相手に場所を特定されることは危険な行為で通常ならばありえない。




阿武隈「かかって…こいーーーーー!!」




その意図が掴めずに全員が阿武隈の声に耳を傾けるしかなかったが…






阿武隈「旗艦の…て、天龍さ…天龍の弱虫ぃーーーー!!」





天龍「な!?」






天龍を挑発し、引きずり出そうとする行為なのだと艦隊も通信を聞いている提督達も気づいた。







天龍「なんだとコラァ!!!」






天龍を除いて…



____________________






阿武隈「えっと…甲標的も積めないのかーーーー!!」



オロオロしながらも阿武隈が挑発を続ける。




阿武隈「…次は?」


叢雲「この万年遠征組でどう?」


阿武隈「そんなの言えないよぉ…」


叢雲「言えなきゃ挑発にならないでしょ!」


吹雪「阿武隈さん頑張って下さい!あなたの高い声ならきっと届きますから!」


阿武隈「うう…わかったよぉ…」





暴言に全く慣れていない阿武隈は良心を痛めながら艦隊のために叫び続けた。



___________________








阿武隈「この万年補欠の遠征組ぃーーーーーー!!!」





天龍「っぐ…!!」




その阿武隈の『遠征組』という単語が天龍の痛いところを突いてしまい…






天龍「ふざけんなぁぁぁ!!!!!」


時津風「あ!天龍!」


雪風「ダメですよぉ!!」


提督『天龍!戻れ!!何をしている!!』



仲間も提督も天龍に声を掛けるが彼女にはもう聞こえてなかった。




___________________




大井「あんのバカ天龍~!!!」





大井の持っていたボールペンがバキバキと音を立てて砕けていた。





提督「…」





俺は頭を抱え敗北を覚悟した。



___________________





阿武隈「うわぁ!?本当に来たんじゃないの!?」




天龍が単騎で阿武隈へ向かって突っ込んでくるのを一瞬だが確認できた。




叢雲「今よ吹雪!!」


吹雪「はい!」




吹雪が照明弾を飛ばし天龍の位置を照らす。





阿武隈「よぉし!撃ちます!」


叢雲「当たれぇぇ!!」


吹雪「これで最後です!!」




そして3人が一斉に魚雷を天龍に向けて発射した。






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天龍「え…!?」





天龍は気が付いた時には魚雷直撃の衝撃で何メートルも吹き飛ばされていた。









海面に背中を打ち、自分が撃たれたのだと自覚して何とか立ち上がろうとするが…









『佐世保鎮守府旗艦大破、横須賀鎮守府の勝利。演習を終了します』



天龍「な…そ、そんな…」






演習場に聞こえてきた放送を耳にして自分が何をしたのかようやく自覚し始めた。







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白友「よ、よくやった!あの状況からよく逆転してくれた!」


阿武隈『はい!みんなのおかげです!』


叢雲『これで2勝2敗よ!やったわね!』


吹雪『明日の艦隊戦で勝って勝ち越しましょう!司令官!』


白友「ああ!」




歓喜する白友の艦隊とは対照的に





提督「…」


大井「…」


祥鳳「…」



佐世保鎮守府の者達は通信もせず無言になっていた。





提督「なあ白友、この鎮守府に牢屋はあるか?」


白友「は…はぁ!?お前何をする気だ!」


提督「反省会」


白友「反省会…?そんなのが信用できるか!そもそも牢屋なんか無い!諦めろ!」


提督「そうか…」




仕方ないと諦めた顔で提督が立ち上がる。



提督「それじゃ会議室でいいや。明日まで借りるぞ」


白友「明日までってお前何を…」


提督「それと…すまん、明日の艦隊戦は不戦敗になるかもしれん」


白友「は…?」


提督「今日の夕食も準備してくれたのに頂くことはできない、申し訳ないな」


白友「おい!人の話を…」




そのまま提督は司令部を出て行った。


祥鳳も大井も白友に頭を下げ、後をついて行った。






祥鳳(長くならなければ良いのですが…)





祥鳳はそんな心配をしながらこの後に何があるのかを覚悟していた。












【横須賀鎮守府 工廠】




提督「…」


大井「…」


天龍「…」



演習から戻ってきた艦隊を無言で出迎える。


天龍は俯いたままでこちらを見ようともしない。



大井「何か言い訳は無いのかしら?」


天龍「…」



謝罪ひとつしないその態度に俺よりも大井が怒りの表情を深めていた。



天津風「天龍…謝るべきだと思うわ」



そんな空気に耐え切れないのか天津風が謝罪を促すが、それでも天龍は何も言わなかった。



提督「なあ天龍」



俺は溜息を吐きながら天龍に向き合う。



提督「もしもお前達が実力不足による敗北だったら俺は何も言わない。大井から課題を与えられて次に活かせば良いからだ。こちらの戦略ミスだったら俺も大井も責任を取るつもりでいる」


天龍「…」


提督「だが今回のお前の行動は自分勝手な暴走で命令違反だ。勝てる戦いを自分の感情に身を任せて落としてしまった。違うか?」


天龍「っぐ…!」



俺の言葉にようやく天龍が反応する。

歯を食いしばって悔しそうに顔をしかめた。



提督「相応の罰が必要だな」


時津風「そ…」


雪風「それって…もしかして…」



さすがに経験している者は勘が良いな。



提督「連帯責任で出撃したメンバーはこれから会議室で作戦指南を開始する。当然終わるまで食事抜きだ」


風雲「え、ええ…!?」


時津風「やっぱりねー…」


天津風「覚悟はしてたけど…」



未経験の風雲を除いて3人は諦め顔をしていた。



提督「安心しろ。真面目に取り組めば明日の昼前には終わるだろう」


葛城「でも…そんなんじゃ明日の午後からの艦隊戦は…?」


提督「棄権だろうな。そんなコンディションではまともに戦えんだろ」



当然のように棄権だと伝えると艦娘達が言葉を失う。

それだけこれからの作戦指南が重要だと伝わったはずだが。



提督「出撃した5名はさっさと会議室へ移動しろ。他の者は好きにしててくれ。祥鳳、何かあったら連絡頼む」


祥鳳「はい」



俺の号令に天津風、時津風、雪風は諦めた顔で立ち上がり風雲が戸惑いつつもそれに続く。


しかし…




大井「天龍、さっさと来なさいよ」


天龍「嫌だ…」


大井「は?」



天龍は顔を悔しそうにしかめたまま動こうとしない。




大井「あんた何を…」


天龍「悪いのは俺だけだろ?他のやつらまで巻き込むんじゃねーよ」


提督「連帯責任と言っただろう。さっさと従え」


天龍「何だよ連帯責任って!俺一人が勝手にやったことだろう!!他の奴は関係ねぇだろ!」


祥鳳「天龍さん、落ち着いて…」


天龍「良いじゃねえか演習なんだから少しくらい好きに戦ってよぉ!雲龍だって好きに戦ってたじゃねえか!俺だってあいつらに一泡吹かせてやりたかったんだよ!!!」


提督「…」



なるほどな、こいつの根底にあるものは他の軽巡洋艦改二へのコンプレックスか。


万年遠征部隊だった天龍にとっては根深い怨念めいた感情が今回の合同演習で顕著に出てしまったか。



その前触れは合同訓練の時から見え隠れしていたが…対処が少し遅れたか。




おまけに…




天龍「それでも提督がこいつらを連帯責任だって巻き込むならこっちにも考えがあるぜ!」



拗ねてやがる。


勇んで単騎で戦いに行って見事に返り討ちにされたことが天龍のプライドを大きく傷つけたようだ。

これは無理やり連れて行っても良い結果は生まれなさそうだ。

それに…



大井「あんた…!いい加減に…!」




このままでは先に大井の怒りの方が爆発しそうだ。


俺は大井と天龍の間に入ってそうならないように遮る。



大井「提督…?」


提督「…」


天龍「な…なんだよ!」



俺が黙って一睨みすると天龍が少し怯んだ。


どうやら自分が間違ったことをしているという自覚は一応あるらしいな。





提督「俺の見込み違いだったかな」


天龍「え…」



深いため息を吐きながらそう言うと天龍の顔色が一気に青くなった。

全く…そんなにも不安になるなら拗ねなきゃいいだろうに…。




提督「反省会は無しだ。解散」


時津風「え!?嘘でしょ!?」


雪風「しれぇ…」



俺が諦めて解散させることがどういうことなのか、こいつらにはすぐにわかったようだな。



天津風「ま、待ちなさいよ…もう少し話を…」


提督「反省もできず自分を見直さないような奴は必要無い」


風雲「あ…」



俺がその場を離れようとすると祥鳳が行く手を遮る。




祥鳳「少しだけお時間を頂けませんか?天龍さんを必ず会議室へ行かせますので」


天龍「お、おい…勝手に…」


提督「ふむ」



祥鳳の言葉を聞いて俺は携帯電話のタイマーをセットする。



提督「10分だけ待ってやる。行くぞ大井」


大井「え?ちょっと…?」



大井に行くよう促して俺は一足先に会議室へと向かった。




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時津風「ねえ、早く行こうよー。今ならしれーも許してくれるって」


天龍「…」



時津風さんが天龍さんを引っ張って行こうとしています。



時津風さんが進んで罰を受けに行こうとしているなんて…

時津風さんの提督に対する信頼感を垣間見た気がして嬉しくなりました。






提督は工廠で天龍さん達を迎えた時からずっと胸ポケットにペンを刺していました。

『何も言わずフォローしてくれ』というサインです。


いつがそのタイミングなのか伺っていましたが、どうやらタイミングは外すことは無かったようです。




提督はこの場を私に任せてくれました。


ここからは私の仕事ですね。




祥鳳「天龍さん、提督はこの合同演習に来てから横須賀鎮守府の艦娘をスカウトしていることを知っていますよね」


天龍「それが…?」



まだ天龍さんは不貞腐れています。

私の予想ですが天龍さんはきっと気持ちの持って行き場がわからないような気がします。


ここは上手に誘導してあげなければいけません。



祥鳳「この横須賀鎮守府には改二艦が多く、他の鎮守府に行ってもすぐに主力になれそうな艦娘がたくさんいらっしゃいます。今、提督が声を掛けている戦艦の方達もそうですよね」


天龍「何が言いたいんだよ…」


祥鳳「軽巡洋艦改二の方達も同様です。阿武隈さんも五十鈴さんも強い力を持っていらっしゃいます」


天龍「…っ!!」



軽巡洋艦の艦娘の名に天龍さんが怒りに顔をしかめます。



雪風「しょ、祥鳳さん…」



雪風さんが心配そうに私を見ています。

あまり刺激するようなことは言わないで欲しいということなのでしょうが…


大丈夫です、今のはわざと刺激しました。


重要なのはここからです。





祥鳳「それなのに提督は軽巡洋艦の方達に全く興味を持とうとしていません、どういうことかわかりますか?」


天龍「な…なんで…」


祥鳳「提督はこの鎮守府の合同演習に来る前、艦娘の資料は一通り見ていました。軽巡洋艦に関しては『天龍がいるから良いか』とまともに見ようともしませんでしたよ?」


天龍「え…」



それがどういうことなのか。

私はここで言葉を区切り天津風さんと風雲さんを見ます。



天津風さんはハッとしてすぐに気づいてくれました。



天津風「それだけ天龍が期待されてるってことよ!」


風雲「そうよ!それに提督は負けて帰ってきてもすぐに天龍さんを見限るようなことはしなかったよね!」


天龍「…」



天津風さんに続き風雲さんが上手く言葉を繋いでくれたのはありがたいです。

私ばかりが話していては信憑性が薄れますからね。




祥鳳「天龍さん…どうか提督の期待に応えてあげて下さい。天龍さんが頑張る限り提督はずっと見ていてくれますよ」


天龍「うん…」



ずっと俯いていた天龍さんが顔を上げてくれました。



天龍「そう…だよな…」



そして立ち上がり一緒に出撃した皆さんの方を向きます。




天龍「ごめんみんな…一緒に付き合ってくれるか?」


時津風「仕方ないなあ、もうすぐ時間だから早く行こう」


雪風「しっかりやれば明日の昼までに終わるって言ってましたから!頑張りましょう!」



謝る天龍さんに対し、時津風さんと雪風さんが明るく返事をしてくれました。



天津風「急がないと、もう時間が無いわ!」


天龍「おう!」



そして勢いのままに出撃したメンバーは提督と大井さんの待つ会議室へと向かって行きました。





祥鳳「ふぅ…」





上手くいったと私はホッとして一息つきました。


一旦天龍さんをムキにさせてから彼女が大きな期待を持たれていることを伝え誘導することができました。




…何だかやることまで提督に毒されてきたような気がしますが…


それでも少し達成感を味わうことができて嬉しくなってしまいます。





葛城「なんか…祥鳳さん変わったよね」


祥鳳「え?」



変わった…?



葛城「前は…なんか提督に振り回されてて…『どうしてあんな人の秘書艦なんかやってるんだろう』って思って心配してたけど…」


祥鳳「…」


葛城「今は提督のことを理解して信用してるっていうか…祥鳳さん、迷いがなくなったよね。なんか堂々としているし」


祥鳳「そう…ですか?」


葛城「あ…気を悪くしたらごめんなさい…!」


祥鳳「い、いいえ。大丈夫ですよ」




理解して…信用…


堂々としている…か。



天城「ふふ、祥鳳さん、笑ってますよ」


祥鳳「え…」




天城さんに指摘されるまで私は自分が嬉しさから笑っていることに気づいていませんでした。





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親潮「…」





そんな中、親潮はまた強い疎外感を感じていた。




提督を信頼しているのは祥鳳だけではない。


同じ陽炎型の駆逐艦達も提督がどう考え、何を思っているかをしっかりと理解している。




親潮(私だけが…)








艦娘としての力だけでなく、提督との距離感も他の艦娘達と大きな違いを実感し




未だに何の贖罪もできていない自分への焦りに親潮は増々追い詰められていった。








【横須賀鎮守府 会議室】




大井「来るかしら…」




大井の質問は提督に聞きながら時計を気にしている。



提督「時間ぎりぎりに来るに間宮のデザートを賭けてやる」


大井「随分と自信満々ですこと。勝手にデザートを賭けたことを間宮さんが聞いたら怒るわよ?」


提督「…頼む、あいつには黙っててくれ。何をされるかわからん」


大井「あんたって本当に間宮さん苦手ね…」



天龍と接していた時とは打って変わって二人は和やかな談笑をしている。



提督「天龍は拗ねているだけだからな。俺や大井に対して本当は申し訳ない気持ちはあるのだろうが今はその感情が整理できていないのだろう。その手の対処は下手そうだからな」


大井「それで私も一緒に連れてきたわけ?」


提督「ああ。一旦席を外せば気持ちの整理をつけやすいだろうからな。後は祥鳳が何とかするだろう」


大井「ふーん…」



余裕をもって話す提督に大井が意味ありげな視線を送る。



提督「なんだ?」


大井「やっぱり祥鳳と何かしらの打ち合わせをしていたのね。あんたも祥鳳もやけに落ち着いていたからもしかしたらと思っていたけど」


提督「妬いてんのか?」


大井「戯言は寝て言いなさいよ」


提督「口の悪い奴だ」


大井「あんたに言われたくないわよ」



時間を忘れるような和やかな雰囲気だった。


しかし大井の質問が一瞬にしてその空気を変えてしまう。





大井「ねえ、親潮のことだけど…」


提督「…なんだ」



親潮の名を出しただけで空気が一瞬にして冷え込む。

しかし大井は覚悟を決めて踏み込むことにした。



大井「何かさせてあげられることは無いかしら…?あの子、自分は何もできなくて…力になれなくてって精神的に追い込まれているわよ」


提督「…」



提督は大井の視線を避ける。

『やはり踏み込むべきじゃなかった』かと大井は少し後悔した。



提督「お前から見てもこの合同演習中にさせられることは無かったんだろう?」


大井「え…?ええ…」


提督「だったら今は何も無い」



それだけ言って提督は口を噤んだ。


これ以上聞くことはできないと大井は諦める。




大井「ごめんなさいね…」


提督「ああ…」




自分は関わらないつもりでいた大井だったが、親潮のことを考えてつい踏み込んでしまった。

その大井の気持ちを知ってか知らずか提督も可能な限り怒っていないという雰囲気を出そうとする。



提督「さ、切り替えよう。もうすぐ奴らも来るだろうし」


大井「そうね」



この提督と親潮の関係は根深くデリケートな問題なのだと大井は改めて自分に言い聞かせ、今後は慎重にすべきと心に留めた。















天龍「き、来たぜ!まだ10分経ってないよな!」




そこへ天龍達がドタドタと慌てた足取りでやってきた。







提督「ふむ、10秒遅い」


天龍「い!?嘘だろう!?」


提督「嘘だ。それじゃあ始めようか」


天龍「おいぃ!!」




提督のいつも通りな対応に他の艦娘達がホッとする。


これならば雰囲気が息苦しいままの反省会にならないと思ったからだ。




その手際に大井は呆れながら感心しつつ全員に用意していたプリントを渡す。





天龍「うぉ!?」


天津風「な…なによ…この量は…」




大井が用意していたプリントは厚さ20センチはあろうかという紙束になっていた。




提督「早く終われるかどうかは天龍次第だ、せいぜい頑張れよ。くくくっ…」


天龍「じょ…上等だ!やってやろうじゃねーかよ、ちきしょう!」





こうして天龍率いる水雷戦隊の反省会は始まり、日付が変わっても眠ること無く続けられた。








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【横須賀鎮守府 演習場】





親潮「はぁ…!はぁ…!っぐ…!」




大井が不在でも親潮は一人、演習場で自主的に訓練を行っていた。




鳥海「親潮さん、そろそろ…」


熊野「もうお止めになったら?」



しかし親潮は演習場を貸してくれた鳥海と熊野が心配になるほどに打ち込んでいた。



熊野「仕方ありませんわね」



何か不安から逃れるような親潮の姿に熊野が親潮に近づきストップをかけた。




親潮「あ…」


熊野「それくらいにしておきませんこと?これ以上やっても疲れが溜まるばかりで良い結果があるとは思えませんわ」


親潮「…」



親潮は納得いかないといわんばかりに悔しそうに顔を俯かせた。

その親潮の姿に熊野が『これはわかってないな』と呆れた顔をする。




結果が出せず



結果を焦り



その機会が与えられず






提督からの見えないプレッシャーに追い詰められていた親潮は…






親潮「あの…私と演習をしてもらえませんかっ!?」


熊野「…」


鳥海「ちょ、ちょっと親潮さん…!?」






無謀にも







熊野「はぁ?」





大井と肩を並べる程に強い艦娘である熊野に演習を挑んでしまった。






熊野「何の冗談かしら?」


親潮「わ、私が勝ったら…その…私達の鎮守府へ来てもらえませんか!?」


鳥海「何を言ってるの…」






親潮(司令は…力のある艦娘を欲しているはず…だったら…!)






焦りと重圧で親潮は自分が何を言っているのか冷静に考えることができていない。







熊野「…」






そんな親潮の状況を理解しているにも拘らず…






親潮「ぃ…!?」





熊野は冷たい視線を容赦なく浴びせる。




熊野「いいですわよ。相手をして差し上げます」


鳥海「ちょ、ちょっと熊野…!」



鳥海が止めようとするが、熊野には聞くような気配が感じられない。




熊野「私が負けたらあなたの言う通り異動して差し上げます。親潮さんは何を賭けるのですか?」


親潮「え…」



勢い余って言ってしまったことなので、親潮には何を賭ければよいのか思いつかない。



熊野「あなたが負けたら…命をもらおうかしら?」


親潮「…!!」


鳥海「熊野っ!?」


熊野「ふふ、冗談です。何も賭けなくてよくってよ?私が負ける可能性なんて毛ほどもありませんから」



不敵に笑う熊野に親潮はただ恐怖し、背筋を凍らせていた。




その後、準備のために熊野が艤装を付けている間に親潮の闘志は消え去ってしまい


既に演習を挑んだことを後悔し始めた。





熊野「ねえ親潮さん」





艤装を付け終えて熊野が親潮に対峙する。






熊野「私はね、あなたのように自分と相手との実力を測ることもできず出しゃばった事をする駆逐艦が死ぬほど嫌いですの」




熊野は敵意を超えた殺意を親潮に見せていた。




熊野「徹底的に叩き潰して差し上げますから…覚悟はよろしくって?」






熊野の威圧感に親潮は蛇に睨まれた蛙のようになり、全身を恐怖で震わせながら挑むことになってしまった。


















その結果は語るまでも無く






親潮「…ぐ…ぅ…」


熊野「無様ね」



熊野によって徹底的に痛めつけられた親潮が海面にうつぶせになって倒れてしまっている。






親潮は熊野に艦載機と砲撃による攻撃を受け、魚雷もまともに喰らってしまった。

それだけでも勝負は着いていたにも拘わらず熊野は親潮を海上で引きずり回し、機銃と副砲で更に痛めつけた。


それはまるで雲龍が暴れ回るときと同じような狂気を感じるほどのものであり、親潮がどうにかできるレベルでは無かった。




熊野「興冷めですわ、鳥海さん、後はお任せします」


鳥海「わかったわ…」




そんな熊野を咎めることなく鳥海は見送り親潮の下へと向かう。





鳥海「大丈夫?」



倒れている親潮を鳥海は助け起こす。



親潮「ぅ…えぐ…うぅ…」



親潮の顔は涙に濡れていた。



鳥海「ごめんなさい、大丈夫…なわけない…よね」



鳥海は心配そうにしながら親潮に肩を貸してゆっくりと演習場から引き揚げさせる。






鳥海「熊野はね、前に居た鎮守府で数えきれないほどの犠牲を見てきたのよ」






熊野の態度を庇ってか、鳥海が熊野の過去を話し始めた。






鳥海の話では熊野が最初に着任した鎮守府では駆逐艦達は使い捨ての弾除けとして使われていたらしい。


遠征だけでなく出撃もさせられていた駆逐艦達は馬車馬のように遠征で酷使させられた挙句、補給も無しに弾除けとして出撃させられそのまま轟沈するというのが常の最悪な鎮守府だったらしい。


何も知らされずに着任して消えていく駆逐艦達を見るのは本当に辛かったと熊野は言っていた。



そんな中、他の駆逐艦達とは少し違った実力を持った艦娘が熊野と行動を共にすることなる。


他の艦娘達と違い、少し長い付き合いをすることができたその駆逐艦は、ある日『熊野を護るためならば』と勇んで熊野を庇おうと壁になったのだが…


相手の力量を図り切れずに熊野の目の前で轟沈することとなってしまった。





鳥海「熊野はね、今もその夢を見るんだって言ってたわ。許してあげてとは言わないけど…ね?」




どうやら熊野の逆鱗に触れてしまったことは親潮も理解はした。


しかし親潮にとって今はもっと彼女自身を追い詰めているものがある。




親潮(やっぱり…私は…何をしても…)





精神的に追い詰められ、熊野に返り討ちにされ




親潮の孤独な贖罪は行方を迷わせ続けていた















親潮(黒潮さん…私…もう…ダメかもしれません…)













親潮は自分から提督への贖罪を誓ったわけでは無い


あくまで逃げ道を塞がれてそう選択せざるを得なかった



そんな彼女の決心は脆く、今にも折れそうなほどになってしまっていた。



___________________












熊野「あら?」


祥鳳「…」



演習場から引き揚げる時に熊野は出口付近で祥鳳を見つける。

親潮を徹底的に痛めつけた熊野に対して…



祥鳳「お手間をおかけして申し訳ありませんでした」



まるで保護者のように祥鳳は熊野に対し謝罪をした。



熊野「あの子に今度舐めた口を利いたら艤装をバラバラにして二度と戦えないようにしてあげるって言っておいて下さらない?」


祥鳳「はい」


熊野「それじゃ失礼しますわ」




まだ殺意の冷めきっていない熊野の威圧感に若干圧されながら祥鳳は返事をした後、親潮に視線を送る。






悔しさ、情けなさ、やるせなさ



色んな負の感情が混ざりながらの涙顔を見せている。





祥鳳(親潮さん…)





提督からの目に見えない重圧が彼女を苦しめ、追い詰めているのは承知していた。

しかしそれは自分が想像している以上に親潮にとって重く苦しいものなのだろう。



すぐにでも提督のところへ行って親潮のことを相談したかったが、彼は今艦娘達と重要な反省会を行っている。

それを邪魔して親潮のことを話すというのはさすがに躊躇われたが…





辛そうに泣いている親潮を見て祥鳳はこれからどうすべきなのか、どうすれば親潮の苦しみを和らげてやることができるのかと考えを巡らせたが…



現状はその糸口すら見出せることはできなかった。










【深夜 横須賀鎮守府 演習場】





??「…」







皆が寝静まった深夜、誰かが演習場に艤装を付けて現れた。



海面には彼女が並べた的がズラリと置かれている。



彼女の艤装は主砲を中心とした火力装備。


いつもならば遠慮して姉達に譲る艤装だった。




勝手に装着して後ろめたい気持ちもあったが、この艤装を付けた時に言葉では言い表せない昂りが下半身から背中に突き抜けた。


息は荒れ、ゾクゾクした快感が全身を走り、今すぐにでも全弾放ちたいという衝動に駆られ、演習場には的が並べられている。









??「全主砲…!一斉…」









主砲を構え、撃ち始めるかと思われたが







??「…」






しかし構えていた主砲を降ろす





??「なに…やっているんだろうな…私…」






気持ちが萎え、暗い気持ちが彼女を支配し始めた




(もうやめよう…私はここに残ると自分から言ったのだから…)






そう諦めて演習場から引き揚げようとした時…






比叡「霧島…」


霧島「あ…っ!!」




いつの間にか比叡が近づいてきていた。




比叡「その主砲…」


霧島「あ、あの…これは…」


比叡「いつも金剛お姉様と私が使っているやつだよね」


霧島「ち、違う…違うんです…!」


比叡「それに…」




比叡の視線は演習場に並べられた大量の的に向かう。



霧島「これはその…!で、出来心でっ、あ、あの…的が大量に余ってて…」


比叡「…」


霧島「う…っぐ…っ…」



比叡から向けられる悲し気な視線に耐え切れず霧島が目に涙を溜める。



霧島「ご、ごめんなさい…!わ、私、二度とこんなこと…」


比叡「霧島」


霧島「わっ…」



頭を下げて謝る霧島を比叡が優しく抱きしめた。



比叡「ごめんね、霧島…」


霧島「え…」


比叡「ずっと我慢させてきて…」


霧島「比叡姉様…」




泣いている霧島を優しく胸の中に抱きしめながら髪を撫でる。




比叡「本当は気づいてたの…霧島が我慢して私達の言う通りにして…私達のために我慢してくれてたこと」


霧島「え…」


比叡「ずっと霧島に…辛い想いをさせてたのに…」


霧島「い、いいえ、私は別にそんな…お姉様達と一緒にいられればそれで…」


比叡「それが本音?」


霧島「え…」



霧島を解放した比叡が真剣な表情で見ている。



比叡「本当にそれで良いのなら私はもう何も言わないよ」


霧島「…」


比叡「霧島は…本当はどうしたいの?」




顔を俯かせながら霧島は身体を震わせ、涙を海面にポトリと落とした。





霧島「本当は…もっと戦いたいんです…」



俯いた霧島は拳を握り悔しそうに顔をしかめた。




霧島「もっと…もっと前線に出て、主砲を撃ちこんで深海棲艦達をガンガン沈めてやりたいんです…!」


比叡「うん」


霧島「本当は作戦担当なんかせずに前に出て大暴れしたいです!戦いたいんです私はぁ!!」




霧島がこれまでずっと溜め込んでいた者を初めて姉妹の前で曝け出した。


本当は戦闘本能が姉妹の誰よりも強く戦いの衝動に身を任せ、弾薬が尽き果てるまで主砲を撃ちまくりたい。


しかし姉妹たちの前でどうしてもそれを出すことはできなかった。



『嫌われるかもしれない』


『見放されるかもしれない』



そんな悪いイメージがどうしても拭えなくていつしか自分の気持ちに蓋をするようになり


ある日、戦闘中に自分が考えた作戦を姉の金剛に伝え、それが大成功をもたらした時


姉達から自分が作戦担当として頼られるようになったことで何もかも忘れ姉たちのために戦おうと決めた。




しかし…そんな気持ちに蓋をして来た日々は雲龍の一言で亀裂が入ることになる。






『どうして本気を出さないの?』







誰にもわからないよう取り繕っていたはずなのにあっさりと見破られた。



その言葉を聞いた時に湧いてきたのは『あなたは本気で戦えるの?』『それならなんて羨ましいのだろうか…』

そんな感情に支配されそうになってしまう。



比叡「行きたいんだね、佐世保鎮守府に」


霧島「はい…!」



それをきっかけにしたのかはわからないが佐世保鎮守府の提督が自分をスカウトし始めた。

今後の育成プランまで提示されて夢中になる程その内容にのめり込んでしまう。


自分を必要としてくれるだけじゃない。

自分が望む戦いをさせてくれるその内容は耐え難い程に魅力的だった。



比叡「この合同演習が終わったら金剛お姉様と榛名には私から言っておくね」


霧島「で…でも…」


比叡「大丈夫、きっとわかってくれるから。司令にはちゃんと自分から言わなきゃダメだよ?」


霧島「比叡姉様…あ、ありがとう…っぅ…」



自分の気持ちをしっかりと受け止めてくれた比叡に霧島は嬉しさから涙を零してしまう。





比叡「さぁ、せっかく的を並べたんだからさ。全部倒しちゃいなよ」






そう言って比叡は的に視線を送って霧島を促す。


















霧島「全主砲…」










霧島は深い呼吸と共に主砲を構え












霧島「ぶっ飛べええええええええええええええぇぇぇぇーーーーー!!!!!」













装着した主砲から弾が無くなるまで撃ち尽くし、全ての的を破壊した。









的をぶち壊す快感に霧島は知らず知らずのうちに笑顔を浮かべる





その笑顔は昼間に演習で戦っていた雲龍の狂気の笑顔を思い出させるものだったが





比叡はそれを新しい妹の門出だと満面の笑みで見守っていた。






____________________







【翌日 横須賀鎮守府 執務室】






5種目目の6隻による艦隊戦を午後に控え、白友は艦娘達を集め編成を相談していた。



白友「相手には潜水艦がいないが空母が多い。ここは五十鈴に対空面を任せたい」


五十鈴「わかったわ」


白友「旗艦には長門、空母は大鳳と翔鶴、阿武隈も先制攻撃に入ってくれ」


阿武隈「はいっ!」


白友「もう一人は鳥海か熊野を…」


熊野「提督」




最後の一人を選ぼうとした時、熊野がスッと手を上げる。



熊野「最後の一人は私にして頂けませんこと?少しフラストレーションが溜まっていまして」


白友「…?そうなのか?」



白友は視線を鳥海に送る。



鳥海「今回は熊野に譲ります」


白友「わかった。ではこれで決まりだな」


熊野「よろしくお願いいたします」



熊野は昨日親潮をあれだけ痛めつけたにも拘らずまだ怒りが収まっていないらしい。

それを知ってか鳥海もすんなりと出番を譲った。




白友「メンバーは…」



白友がメンバー表に名前を書き込む。



旗艦に長門 


以下は大鳳・翔鶴・熊野・五十鈴・阿武隈となり、隙の無い艦隊となった。



長門「向こうがどのような艦隊で来ても問題無いな」


白友「ああ、正規空母中心の艦隊で来ることは間違いないが…それでも奴のことだ、皆油断せずに演習に取り組んでくれ!」



白友の号令に艦娘達が解散し準備に取り掛かった。






陸奥「…」






そんな中、陸奥はずっと浮かない顔をしていた。





陸奥(さすがにもう…私達の勝ちで決まりよね…)




自分達の艦隊の勝利を確信しているにも拘らず陸奥の気持ちは沈んでいる。


佐世保鎮守府の提督は『この演習に勝ち越して自分達の強さを証明する』と言っていた。

しかしそれはもう現実的では無くなった。


だがそれは陸奥があの鎮守府へと異動する可能性が無くなったことも意味する。




陸奥(これで…良かったのよ、これで…)



そう自分に言い聞かせている間、陸奥の心は晴れないままだった。





















長門「…」









そんな妹の様子に長門が気づかないはずが無かった。






____________________






【横須賀鎮守府内 会議室外】





提督「これで…終わりだな」





ドアの向こうから提督の声が聞こえました。





天龍「や、やっと終わった…」


時津風「疲れたよー…」


雪風「お腹すきました…」


風雲「前はこんなこと3日もやったなんて…本当なの?」


天津風「ええ…本当に辛かったわ…今回もきつかったけど…」




水雷戦隊の皆さんは演習後にすぐ反省会を行いました。

その疲労は大変なものでクタクタなのが声だけでもわかります。



大井「食堂に料理が準備してあるって天城から連絡があったわ」


提督「解散だ、お疲れ」




お腹を空かせているであろう皆さんが会議室のドアを開け放ち廊下を走って行きました。






時津風「あ!おはよー祥鳳さん!」


雪風「ご飯いって来まーす!!」


天龍「うぉぉぉぉ!飯いぃぃぃ!!」


祥鳳「廊下を走ってはいけませ…もういない…」



あっという間に走り去ってしまったため注意する間もありませんでした。


普段真面目な風雲さんも天津風さんも走って行って…余程お腹を空かせていたのでしょうね。




提督「ん?何してんだ祥鳳」



会議室から少し疲れた顔をした提督と大井さんが出てきました。



祥鳳「あ、提督、大井さん、お疲れ様でした」


大井「何かあったの?」


祥鳳「…」




ここには私と提督、大井さんしかいません。

話すなら今が良いのかもしれません。





祥鳳「あの…親潮さんのことですが…」


提督「…」





提督は親潮さんの話になると視線を逸らします。


それが今の提督と親潮さんの距離感を表しているようで少し悲しくなりましたが…




祥鳳「その…昨日の夜…演習場で…」




私は少し躊躇いながら昨日親潮さんが熊野さんに挑んだことを話しました。





大井「あんのバカ…!何やってんのよ!熊野に敵うはずないじゃない!!」



先に怒りを露にしたのは大井さんでした。

先日親潮さんに『焦らないように』と忠告したこと、熊野さんの実力をよく知っていたこともあっての怒りでしょう。



提督「…」



提督は静かに深いため息を吐きました。


勝手なことをされての怒りでしょうか?それとも…

内心は不安で押し潰されそうですがここは二人のためにも引くわけにはいきません。



祥鳳「提督…親潮さんは想像以上に追い詰められています。このままでは近いうちに限界が来てしまうのではないかと思います…」


提督「…」


祥鳳「この演習中でさせてあげられることは無くても…何か…提督から何かお声を掛けてあげて頂けませんか?」


提督「…」



簡単にそれができる問題じゃないことはわかっています。

現に提督は無表情を取り繕っていても、どこか痛みを堪えるように顔をしかめます。

もしかしたら親潮さんに撃たれた傷が痛んでいるのかもしれません…。



大井「提督…私からもお願いするわ。何かあの子に声を掛けてあげられないかな…」


祥鳳(大井さん…)



黙っている提督に対し大井さんも頭を下げてお願いしてくれました。

親潮さんに厳しい言葉を掛けていてもやっぱり彼女のことを考えてくれているのですね。



提督「…」


大井「…」


祥鳳「提督…」




緊張で喉がカラカラです。


ここまで踏み込んでしまってよいのかという後悔が少し過りました。




無言だった提督は少しの沈黙の後…



提督「…大井、親潮の資料はあるか?」


大井「え?タブレットにまとめてあるけど…」


提督「今回の演習はもう何も無いが…今後の任務でさせられることを探してみる」


祥鳳「提督…」


大井「わかったわ!早速取ってくる!」



大井さんが嬉しそうな顔をしてその場を走り去って行きました。




祥鳳「あ、あの…ありがとうございます提督、その…すみません、私出過ぎたことを言って…」




嬉しい気持ちでいっぱいなはずはのに…

私は同時に提督に不快な思いをさせてしまったのではないかと不安になりました。


その不安に口が上手く回らずしどろもどろになっていると…



提督「おい」


祥鳳「ふむぁぁ!?」



いきなり両頬を提督に摘ままれて変な声が出てしまいました。



提督「そんな怖い顔すんな」


祥鳳「へいほふ…?」


提督「これは俺の問題だ。何でもかんでもお前が背負おうとするんじゃねえよ」


祥鳳「あぅっ…」



両頬を放され提督はそのまま食堂の方へ歩いて行きました。






祥鳳(提督…)





もしかして…私を心配してくれたの…?



祥鳳「あ…待って下さいっ提督」




慌てて提督を追い掛けました。



私の胸は嬉しさに高鳴っていて




少しだけ…追い掛ける提督の背中に抱き着きたい衝動に駆られてしまいました…。








【横須賀鎮守府 食堂】




三日月「みなさーん、料理はこちらにありますから」


望月「好きに配膳して食べてくれよー。そんじゃ」


祥鳳「ありがとうございます」



食堂には私達のための昼食が用意されていました。


準備してくれた三日月さんと望月さんはこれからの艦隊戦の準備なのかせきを外しました。

今この場に居るのは佐世保鎮守府の私達だけです。


先に来ていた水雷戦隊の方達は既に食べているようですが…




雪風「すー…」


時津風「くかー…」



雪風さんと時津風さんは食べながら眠ってしまっていました。



天津風「うぅ…お腹いっぱいになったら急に眠くなってきた…」


風雲「昨日から一睡もしてないもんね…」



天津風さんと風雲さんも眠そうに目を擦りあくびをしていました。




提督「食事中に寝るな、起きろボケ」


時津風「あー…う~」



提督が時津風さんの頭を掴みぐるぐると回します。

時津風さんは特に抵抗もせずに成すがままになっていました。


本当に仲が良いですねこの二人は。



天城「提督…今日の午後からの艦隊戦は…」


提督「無理に決まってんだろこんな状態じゃ」


葛城「そうよね…」



艦隊戦を諦めることに何人かが残念そうな顔を見せます。

どう声を掛けるか考えているところへ…




比叡「あの…佐世保鎮守府の提督さん、少しよろしいですか?」


提督「ん?」




横須賀鎮守府の比叡さんが食堂にいらっしゃいました。



比叡「実は…妹の霧島のことですけど…」




もしかして…



提督は勝利を確信したかのような笑みを見せていました。




比叡「あなたの所へ行かせたいと思っていますけど…どうでしょうか…?」




その比叡さんの言葉に周りの皆さんから静かな歓声が聞こえました。




提督「大歓迎だ。その本人は?」


比叡「今準備に取り掛かってまして…この合同演習が終わった後に正式に挨拶させようと思っています」


提督「金剛と榛名は何と言っている?」


比叡「榛名は寂しそうにしてましたけど納得してくれました。金剛お姉様は…泣いてお部屋に引き籠ってしまいました…」



何だかその金剛さんの姿が容易に想像できました。



比叡「でも必ず説得してみせます、霧島の新しい門出はみんな笑顔で送りたいですからね!」


提督「わかった。霧島には歓迎すると伝えてくれ」


比叡「はい!それでは失礼します!」





元気の良い敬礼をして比叡さんは駆け足で食堂を出て行きました。






提督「くくくっ…これで今回の合同演習は収穫ありだな」


祥鳳「もう…またそんな悪そうな顔をして…」




提督のしてやったりといった顔に私は苦笑いをするしかありませんでした。








雪風「戦艦ですかぁ…楽しみですね。ふぁぁぁ…」


沖波「でも司令官…陸奥さんは…?」


風雲「そうよ、もう一人戦艦に目を付けてたじゃない」



いつの間にか他の皆さんも提督が陸奥さんに狙いをつけてたことを知っていたようです。



提督「今回の合同演習で勝ち越すことが最低条件だからな…今回は諦めるとしよう」


天津風「いつの間にそんな賭けをしてたのよ…」


天龍「その…すまねえ…俺のせいでチャンス潰しちまって…」


提督「雲龍を負けさせて結果負け越しになったのは俺の采配だ。お前が気に病むことはねえよ」


天龍「ああ…」



天龍さん…まだ少し負けのことを引きずっているみたいですね。

その暗い表情に周りの皆さんも心配そうな視線を送っています。




そういえば提督は陸奥さんに対し『うちの艦隊の方が優れていることを証明してやる』と言っていました。

それができなくなってしまい、潔く負けを認める辺りは素直に好感が持てます。

普段メチャクチャな人ですがこういうところはしっかりとしていますよね…。



しかしこの合同演習に負け越した場合は…




祥鳳「提督、このままでは陸奥さんに土下座をすることになりますよ?」


葛城「な、なにそれ…?」


提督「おい祥鳳」



提督が『なんで言うんだよ』という目で訴えてきます。

しかしそんな提督の視線は無視させて頂きます。



祥鳳「負け越した場合提督は陸奥さんに土下座して詫びることになってまして…」


天龍「そんなことを…」


祥鳳「あら…提督、てっきり天龍さんに言って責めたりしてたと思ってましたけど…?」


提督「は?」


祥鳳「隠していたなんて…お優しいところもあるのですね、見直しました」


提督「あのなあ…」



『なんの茶番だ』と提督は呆れた顔を見せてました。

他の皆さんも目を丸くしています。



天龍「提督…」



しかし天龍さんは提督を感謝を含む眼差しで見ていました。



提督「ったく…」


祥鳳「土下座する時は私も同席させて下さいね」


提督「なに?」


風雲「祥鳳さん?」


沖波「もしかして…」



多分皆さんの予想はハズレです。



提督「そんなことさせられるわけないだろ…」


祥鳳「提督、何か勘違いしていませんか?」


提督「あ?」


祥鳳「私が同席するのは提督の土下座姿を撮影するためですよ?」



そう言って私は携帯電話を取り出しました。



提督「あのなぁ…」


時津風「ぷっ…!」


天津風「ふふ、あははっ」


葛城「あははは!提督、一本取られたわね!」



食堂が笑いに包まれました。


私は自分の目論見通りに事が運んで嬉しくなりました。




今日の演習が棄権となってしまっても暗い雰囲気を引きずりたくない。


この合同演習に負け越して帰ることになってもみんな笑顔で鎮守府に帰りたい。



そんな私の願いは旨くいったみたいです。




提督「くっそ…!おい天龍!お前単艦で出撃して来い!」


天龍「はぁ!?なんだそれ!」


提督「単艦で相手の先制攻撃さえ防げば優しい白友がお前を心配して棄権してくれるぞ!」


天龍「アホかっ!できるわけねーだろ!!」



そんな無茶苦茶な作戦、大井さんに聞かれたら首を絞められますよ?



提督「じゃあコアラ!行け!」


時津風「そんなしれーの冗談に付き合ってらんないよー…」


提督「っぐ…」



まだ眠そうな時津風さんはまるで相手にもしてくれません。


他の皆さんもそのやり取りを笑顔で見ています。

提督が本気でそんな作戦を実行しないことなんて承知しているからでしょう。


それが艦娘の皆さんから提督への信頼を表しているかのようで嬉しくなってしまい



祥鳳「ふふっ…」



私も思わず笑いが漏れてしまいました。




いつまでもこの暖かな雰囲気の中に居たい。


そう思っていました…



















思えば私はこの時、浮かれていたのかもしれません。







親潮「あの…」








先程、提督に心配をしてもらった嬉しさは私を想像以上に高揚させていたのでしょうか?








親潮「その役目…」







親潮さんが悩み、追い詰められていたことが頭から抜けてしまうほどに…











親潮「私にさせて頂けないでしょうか!」








提督「…」


時津風「え…?」


雪風「親潮さん…?」


天津風「なに…言ってるのよ…」









精神的に追い詰められていた親潮さんは







親潮「お願いします!私を出撃させて下さい!」






先程提督の言った冗談を本気にしてしまっていて







その真剣すぎる表情と雰囲気はその場の空気を完全に凍り付かせてしまいました。









提督「何を言っているんだ…」



提督は親潮さんの視線から目を逸らし、呆れた溜息を吐きます。



天津風「どうしたのよ親潮…こんな冗談真に受けたらダメよ」


親潮「お、お願いします司令!」


風雲「ちょっと…落ち着いてよ…」


親潮「私に…私に何かさせて下さい!!」



周りの皆さんが止めるのも聞かず親潮さんは提督に詰め寄ります。




提督「…!!」





親潮さんを無視するかのように視線を逸らしていた提督が顔色を変えて身体をビクつかせました。



その表情は怒りでも呆れでもなく




苦痛と恐怖に染まっていました。









祥鳳(いけない…!!)







親潮さんのいきなりの接触に提督のトラウマが呼び起こされた可能性があります。



祥鳳「親潮さんっ!!」



私は急いで提督と親潮さんの間に入りこれ以上近づかせないようにしました。




親潮「し、司令!お、お願いします!私に出撃させて下さい!」



しかし親潮さんには何も見えていないのか私をどかせようとしてでも提督に近づこうとしています。



雲龍「やめなさい親潮…!」


天城「落ち着いて、落ち着いて下さい!」



親潮さんの後ろから雲龍さんと天城さんが取り押さえてくれたのでようやく止まりました。



親潮「お願いです司令!お願いします!何かさせて下さいぃ!!」



それでも親潮さんは藻掻き提督に詰め寄ろうとします。



提督「っぐ…!ぅ…」


祥鳳「提督っ!!」



苦しそうな呻き声を上げる提督に視線を送りました。


提督は腹部を抑え…苦しそうにしています。

やはり親潮さんに撃たれた古傷が痛むようで…




大井「ちょっと!?何やってんのよ!!」


雪風「お、大井さん…!」


時津風「な、なんか急に親潮がしれーに詰め寄って…」



そこにタブレット端末を取りに行っていた大井さんが来てくれました。



大井「親潮…あんたいい加減にしなさいよぉぉっ!!!」


親潮「あぐっ!!」



大井さんは何があったのかすぐに把握したようで、暴れようとする親潮さんの頬を叩きました。



大井「戦果に焦って勝手なことばかりして…!せっかくこれから提督があんたのために色々と考えてやろうってしていたのに、台無しにするんじゃないわよ!!」


天津風「お、大井さん…!」


葛城「そ、そこまでしなくっても…!」



あまりの大井さんの剣幕に他の皆さんが間に入って大井さんを止めました。

大井さんがここまで激怒するところは皆さんも滅多に見ることが無いため表情が引きつっている人もいました。


いつもだったらその大井さんに対し皆さんは怯んで勢いが止まるはずなのに…




親潮「む、無理です…!もう無理です!耐えられません!お、お願いです…うっ…えぐ…お願い、ですからぁ…!」



今の親潮さんにはそれが通じることはありません。











祥鳳(このままでは…)










私はこの時…



急いでこの場を納めなければならないという焦り



親潮さんと提督の間を何とかしたいという望み



大井さんがこれ以上他の皆さんとの距離が空いてしまわないようにしたいという危機感




それら全てが混ざり合って思考がぐちゃぐちゃになっていたような気がします








だからこそ…






祥鳳「良いじゃないですか提督」


提督「…?」





よく考えもせずこんなことを口走ってしまったのでしょうか…





祥鳳「親潮さんの言う通り一人で出撃してもらいませんか?」




















その④に続きます。






後書き

ウシユキザンカ先生の次回作にご期待下さい。


続きが見たい方は応援して下さい。


編集「応援が足りなかったら打ち切りかな~」


プロローグ
第一部
第二部← 今ここの後編に入ったくらい
第三部
第四部
最終章

先は長い…

実家(pixiv)では他にも色んな作品を掲載しています。
この作品『ガラスの絆』も大幅加筆修正版を上げています。
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2019-10-29 14:24:25

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2019-10-27 23:24:01

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這い寄る混沌さんから
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2019-10-25 09:04:43

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2019-10-19 20:32:58

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2019-10-18 22:58:41

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2019-10-14 10:00:13

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2019-10-12 20:34:52

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2019-10-11 02:11:31

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2019-10-08 16:14:24

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2019-10-07 23:40:34

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かむかむレモンさんから
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2019-10-05 20:35:18

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2019-10-04 00:36:09

朝潮型は天使さんから
2019-09-30 20:00:36

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2019-09-30 13:04:49

しょーごさんから
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2019-09-23 23:33:13

しゃけさんから
2019-09-22 20:34:25

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2019-09-21 14:06:30

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2019-09-20 17:24:17

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2019-09-19 12:30:39

seiさんから
2019-09-18 20:37:16

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2019-09-18 03:07:35

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2019-09-17 21:37:47

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2019-09-17 14:30:11

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シルビア@凛さんから
2019-09-17 12:10:31

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2019-09-17 08:12:47

MARZさんから
2019-09-16 22:58:14

SS好きの名無しさんから
2019-09-16 22:44:54

ニンニク2さんから
2019-09-16 18:17:06

Chromeさんから
2019-09-16 18:05:43

ryさんから
2019-09-16 18:00:36

SS好きの名無しさんから
2019-09-16 14:32:15

このSSへのコメント

96件コメントされています

1: SS好きの名無しさん 2019-09-16 14:32:24 ID: S:hrEpSx

いつの間にか来てる!
楽しみで仕方なかったんだ!早く続きを(中毒)

2: SS好きの名無しさん 2019-09-17 11:42:46 ID: S:lOQQRT

待ってましたwしかし漸く彼は
本来なら受けるべき母の愛をしょうほうさんから受けることが出来たんやなあ。
しかし彼を動かすものが此で大きく換わることに成るね。個人の復讐から今度は組織の上の腐った部分の改革。海軍の腐敗と下らない捨てかんの廃止に向けて白ともと一時の協力をしたあとにまた考えればいいさね。

3: SS好きの名無しさん 2019-09-17 14:31:35 ID: S:UhlIx4

君が続きを書くまで!
応援するのを!
止めない!
応援してますよw

4: SS好きの名無しさん 2019-09-18 17:51:35 ID: S:4qM1Zl

彼もまた親潮君を許したいんだ。だが彼の心とは別の魂の苦痛が其を否定してるんだね。
成らば切っ掛けさえあればまだ許すことは無理でも折り合いを付けてもう親潮達の事は諦めて軍を改革し元帥にけじめをつけた後に皆で平和に生きることも出来ましょう。幸せに成るんだ。家族の分も含めて幸せになるんだよ

5: sei 2019-09-18 20:47:25 ID: S:yPDPJk

なんだろうか。提督は復讐の感情に囚われているんだろうが、それでも彼自信の本当の心の優しさのようなものが滲み出てるから見てると辛くなる。

提督の未来が明るいものになろうとも滅びのものになろうともこれからの展開が待ち遠しいですね。頑張って下さい‼

6: ウユシキザンカ 2019-09-19 07:41:48 ID: S:DFYuZs

>>1
中毒症状を悪化させるよう頑張ります!

7: ウユシキザンカ 2019-09-19 07:44:23 ID: S:DaDyN4

>>2
白友提督は利用されるよ。この後可哀そうなくらい。
>>3
もーっと応援しても良いのよ?
>>4
頭ではわかっていても心がね・・・
>>5
復讐の狭間に揺れる彼の行く末をこれからも見守ってあげて下さい。

8: SS好きの名無しさん 2019-09-19 08:38:26 ID: S:yz3fC-

遂に分岐点の一つが来ましたね。
天竜達に本心の一部。軍の改革と
全体的な質の向上。捨てかんの禁止を
目指す!けど全ては見せれないよね。
其を感づきそうなのは大井くんとときつんくらいかな?でも雪風は嫌な感じ?まだ何かあると本能で察しそうです。

9: SS好きの名無しさん 2019-09-19 08:56:10 ID: S:8Y2pPb

そうだ!しょうほうさんを抱き枕にして
安眠枕として協力してもらえば良いんだよ!
セラピーの基本は苦痛を遠ざけること。
成らば此は聖なる医療行為で不純では無いのだ!
レッツゴーしょうほうさん!負けるな!
提督さんおとなしくしょうほうさんの抱き枕に成るんだよ!

10: SS好きの名無しさん 2019-09-20 17:24:11 ID: S:1aLe24

やりますねぇ!いいゾ~これ^
応援してるゾ(^ω^)

11: SS好きの名無しさん 2019-09-20 17:39:12 ID: S:5Lrncw

なんか、提督の目的が復讐ってあるけども、個人的には祥鳳と提督が結ばれて欲しい感あるw

12: SS好きの名無しさん 2019-09-21 02:05:31 ID: S:p7Vq9H

薬等に頼るよりも其処のしょうほうさんの抱き枕でぐっすりと安眠を取るのだ!何も恥ずかしくない!しょうほうさんに命預けてる以上はこの位は常識なんだよ!常識に囚われて安眠妨害去れるなら常識など吹っ飛ばせ❗

13: SS好きの名無しさん 2019-09-21 08:35:24 ID: S:ECzFQD

提督さんを悪夢から守る為にも。
しょうほうさんが常に彼を抱き枕にして
彼の心を守るんだ!何ですと?恥ずかしいですと?それは違います。此は医療行為何ですから!時津風。雪風。あまつん
彼を取り押さえるのを手伝ってください!4にんに勝てるわけないだろ!大人しく観念して皆のパパに成るんだよ!
うん何かいてんだろw私はw

14: ウユシキザンカ 2019-09-21 08:59:31 ID: S:Fmw4Q1

>>8
過去を知っているの大井っち。彼女は気づきます。

>>9
既に実行済みだったりする。

>>10
ありがたや、もーっとオススメしても良いのよ?

>>11
作者もそう思っています、しかし現実は非情…

>>12
幸せだろうな、彼女に抱きしめられると

>>13
提督「悪いな、このベッドは巨乳専用なんだ」

15: SS好きの名無しさん 2019-09-21 09:53:21 ID: S:SXiQns

素直に見るなら装甲空母は三人も要らんよね。先ずはタイホウ君かな?そしてあと一人は軽巡洋艦五十鈴君かな?確かに対空と対潜水艦に眼を見張るものがあるが。あぶうが便利過ぎる。まあ素直に見て予想した結果だけどねw

16: SS好きの名無しさん 2019-09-21 09:57:00 ID: S:aweBM3

お風呂の中に入って全裸で体を暖めながら更新されるのを待ってたんだよ!
寒くなってきたから作者さん風邪を曳かんように気を付けてね。

17: SS好きの名無しさん 2019-09-21 10:01:23 ID: S:Fibzc3

今回のイベントで風雲君が来てくれました!けどごめんなさい。君のことかざぐもと名前で呼ばず。風雲たけしじょうと読んでたよwだってさ。漢字で変換されるとかざぐもじゃなくふううんで変換去れるんだものw

18: SS好きの名無しさん 2019-09-21 10:17:05 ID: S:CiMlqi

大丈夫だ!沖波くんよ。私が運営に何度も眼鏡の良さと素晴らしさをメールしているからw必ず君にも改2いやもうこの才だ!沖波くん改2乙まで実装去れるさ!
ただねえ。運営よ眼鏡をはずしては行けないよ。眼鏡こそ沖波なんだからw

19: SS好きの名無しさん 2019-09-21 10:23:20 ID: S:lpDi65

先ずは論理的に見るならば戦艦は溢れない。特にながむつ砲を考えると。はずせない。また高速戦艦は様々な戦場に投入し最短ルートを狙うのにはずせない。そう見ると金剛姉妹ははずせない。白ともの性格からしてはずせない。

20: SS好きの名無しさん 2019-09-21 10:28:59 ID: S:mTtTWn

空母で見ると。装甲空母は三人も要らんよね。そして隼鷹改二は改修レベルが高く更に言えば軽空母でも破格の使い勝手を誇る。そう見ると金剛姉妹同様に姉妹は引き剥がせずに白ともにアタックしてると予想される。其処から先ずはタイホウ君一人めの予想

21: SS好きの名無しさん 2019-09-21 10:37:26 ID: S:7b0zYC

となると残るは軽巡洋艦の二人と駆逐艦だが。駆逐艦は遠征の主役から夜戦のフィニッシュを決める謂わば隠れたフィニッシャー。焙れるとは思えず。軽順も遠征の主役に成れるが白ともは大本営から十分な支援を受けている事を考えると。余計な遠征で資源をえらんでもやっていけてると予測去れる。そうなると縁の下の力持ち五十鈴君を焙らせて要るのではないか?そう予測しました。あぶうはなあ改2で完全に化けた。あの軽巡洋艦の癖に先制雷撃は便利過ぎる

22: SS好きの名無しさん 2019-09-21 10:42:23 ID: S:26IO4o

因みに家の五十鈴ちゃん。穴開けて対空は勿論潜水艦エリアの1の5で大暴れしてますw海防艦の護衛に更に1の6では駆逐艦の護衛まで幅広く運用してますwレベルが132になった今でも困ったときは頼ってるなあw

23: SS好きの名無しさん 2019-09-21 13:23:30 ID: S:mOiwah

吹雪と叢雲以外の駆逐艦勢は改になってないん?まだ新人かな。

24: SS好きの名無しさん 2019-09-21 14:25:20 ID: S:Ga32pg

多分ですが他所から拾った子達が駆逐艦の未熟な子達なんでしょうね。そしてそのぶんメンタルケアを彼とは違う方法で行うが故にてがかかり。姉妹かんのいないたいほうくんは孤独を感じてる。軽空母隼鷹は酒でも飲んでまあしょうがないと言うめで見てるんじゃないかな?でも五十鈴ちゃんはあぶうとの間の決定的な戦力の違いからのコンプレックスと言った感じかな?もし白ともにもっと非情になれる心があり手当たり次第に駆逐艦を拾わなければ五十鈴ちゃんを別の意味で差別化して運用して自信を持たせただろうに。甘すぎる故に今回はいい勉強させて貰えるんじゃないかな?全ては救えない。取得選択そして自分の足で立てるように鼓舞することこそ提督の資質だと。優しさだけじゃだめなんだと

25: SS好きの名無しさん 2019-09-21 19:34:29 ID: S:Xq2N2a

白ともとの演習で確実にあぶう出して来ると思うよ。だから生まれ変わった大井くんにその貫禄を見せ付けて欲しいと思うのですよw多分向こうは此方の戦力を見てフェアに勝負しようと戦艦は使わないか使うとしても金剛型一人だと思うよ。詰まりは空母対決。けど此方には暴走エヴァンゲリオンこと雲竜君が居るからなあwさぞかし満足出来るんだろうねw装甲空母はしつこいぞwその装甲を剥がすまで噛むのを止めないw

26: SS好きの名無しさん 2019-09-23 19:12:26 ID: S:5NbBK-

親潮君。君は今でも責任を感じてるのなら。一人で1の1で綺羅付けして遠征の手伝いをするんだ!死ぬことは救いではない。大井くん其処のアホしおを縛り上げて。吊るして置くのだ!

27: SS好きの名無しさん 2019-09-23 20:01:37 ID: S:vxayGE

不器用だねえw詰まりは沖波くんを彼が選んだ。
数あるこの中から彼が選んだんだ。詰まりは彼はしょうほうさん同様にその能力を認めているからこそ第二秘書何だよねwその事が解ってるからこそしょうほうさん何だよなあwしかしねえw風雲姉さんに嫉妬してるのは兵器ではなく人間の感情。その証明だね。兵器は只。使われるものによって大抵は破壊に使われる。親潮君のようにね。

28: SS好きの名無しさん 2019-09-23 20:06:35 ID: S:6rORvw

天城君も大概の戦場を渡り歩いた猛者で。正直な所を言うと経験では誰よりも戦場を見れる子。
装甲空母は強いが制空権争いとなると。自分なら翔鶴型じゃなく軽空母とバランスの取れたたいほうくんの二人かな?

29: SS好きの名無しさん 2019-09-30 08:39:39 ID: S:8mj0Or

しょうほうさんが奥さんなら大井くんは彼の軍師。正に懐刀よ。はあおきなみん可愛いなあw
風雲姉さんに嫉妬する姿がいとおしい。
守らねばと思ってしまう。

30: SS好きの名無しさん 2019-09-30 14:22:18 ID: S:3GUE04

寧ろ沖波くんを。義足だからと言って。出すな!
何て言ってきたら。白ともよ。君は努力して義足でも普通に闘える。寧ろ普通のものよりも苦労してる文遥かに器用な沖波くんを艦娘を人間の可能性をバカにしてる事に成るんだぞ!と甘い坊やに渇を入れて成長させたれw

31: 朝潮型は天使 2019-09-30 20:01:38 ID: S:pmBiFo

毎度安定の文章力っすねー あ〜レベルたっけ 白友との演習楽しみだなぁ

32: SS好きの名無しさん 2019-10-03 11:01:57 ID: S:Hfgqsq

しょうほうさんが飴なら大井くんは愛のある鞭。完璧な布陣だ。しかしまあw
物事の表面しか見えないか?未熟よなあ。白とも。もっと深く考えよ。彼は
鬼畜だが外道ではない事に。知ってるのに表面の情報ですぐに判断する。危険だなあ。こういう子は。一を助けるために十を殺すタイプだ。

33: SS好きの名無しさん 2019-10-03 21:33:41 ID: S:glqr8d

白ともは自分の所の子達に。優しいと言われてるね。けど私には彼が兵に死力を尽くしてでも生き残る底力を兵に与える訓練をしているとは思えない。優しい虐待だ。彼は少なくともあまつんやとっきー。ゆっきに生き延びる為の教育を化した。
あの食べ物がない極限の状態で彼も独房に入り。共に学んだんだ。白ともに此は出来ない。故に兵は甘く。故に彼自信で育てた兵でも無いので負けるのだ。兵の特性を理解し使いこなす。此を素質といい。兵の才能だけで戦うのを資質と言うんだ。

34: 朝潮型は天使 2019-10-03 22:40:21 ID: S:FhAoSF

白友嵌められてんなぁwww

35: SS好きの名無しさん 2019-10-03 23:08:24 ID: S:U1AzZ_

白ともにはまだまだ伸び代がある。
しかし悲しいかな。彼は決定的な敗北を
彼は取り返しのつく内に敗けを知り。兵を生かす
その為には憎まれ役が必要なんだね。そして今後彼を利用して暗躍するためにも白ともにも学んでもらう必要があり。大本営のタヌキどもを化かせる強かさと彼の特有の甘さが必要なんだね。
敗けから学び。勝利に酔い。その上で全てを理解したときこそ。白ともが一人前の提督に成れた瞬間だと。

36: SS好きの名無しさん 2019-10-05 07:26:54 ID: S:TToKeB

あかんw家の高速戦艦の若頭霧島様が欲求不満であらせられるぞwこの子も暴走するんかなw金剛型一番の火力でインテリを名乗るインテリヤクザ殿よw

37: SS好きの名無しさん 2019-10-05 07:46:54 ID: S:SCwedw

しょうほうさん。好きな男の子の
好みに染まるのは当たり前のことなんやで。詰まりは本能何や!何も心配することはあらへん。自然なことや。それでいいんや。それでいいんやでw

38: SS好きの名無しさん 2019-10-05 09:19:39 ID: S:TSzw4F

成る程なあ。此処の金剛型筆頭若頭霧島殿は
生粋の武人なんだろうね。死地に自分の生きる価値を見出だす武人。所が送られた所は平和な。あくびの出る安全地帯。しかも他の金剛型の前ではそんな姿は見せたくなくてストレス溜めてるんだろうね。まあ自分の予想ですが。首の裏がチリチリするワンパン中破の世界こそ!戦艦の居場所だと思ってる。彼と相性が良さそうだw

39: SS好きの名無しさん 2019-10-05 09:40:17 ID: S:WfTm_t

ああ本当に深いなあ。本当に奥深い。
しかしまあ自分の五十鈴ちゃんの予測は外れそうですなw

40: SS好きの名無しさん 2019-10-06 12:27:33 ID: S:0-VElF

役員さんがネルソンなんて贈ってきたら。ながむつ砲が埋もれてしまう!おいおい。そういうのはいかんよ役員さん。戦力の一点集中はそこ破られたら。即座に終わるぞ。海軍大丈夫かいな。此はもう彼が救出するしかないねえwしかしなあ。戦艦と空母も確かに大事だが一番の夜戦火力は駆逐艦と五連装酸素魚雷のコンボなのに。其を軽視して大型ばかりじゃ資源がとけるぞおw

41: かむかむレモン 2019-10-06 21:09:19 ID: S:VFvis_

毎日楽しみに待ってるゾ

42: ウユシキザンカ 2019-10-06 22:34:31 ID: S:rFXL6f

>>41
毎日は無理でも頑張って更新していきますゾ

43: SS好きの名無しさん 2019-10-07 07:41:51 ID: S:h_j5_I

しかしなあ。此だけ育てた戦力を
新人の白ともに奪われる提督の恨みは
凄いだろうねえ。いくら期待の星なぞ
言われても。所詮は新人の癖に。
手塩に掛けて育てた育て上げた戦力を
横から奪われたら。白ともの好感度は
駄々下がりだろうにね。はあ役員はそこら辺を考慮しない。空気の読めない人なんだろうなあ。

44: SS好きの名無しさん 2019-10-07 18:28:04 ID: S:4TAC2r

失礼しました。此まで他の提督が育てた戦力をでした。

45: SS好きの名無しさん 2019-10-08 01:51:33 ID: S:PYzdyN

うーん。単純な戦力なら白ともだが
彼の所にはあの幸運艦雪風と次世代プロトタイプの天津風が居るからねえw
この二人は別格。更に彼が揺さぶるんだろうなあw悪い人w大井くんの辛く当たるのは生き残るために。敢えて鬼を演じてる。しかし疲れちゃうよね。旧友に会って少しは休めてるといいんだけどね。
しかしむっちゃんか。予想できなんだ。
家のむっちゃんは。運の値も20以上に上げて。陸戦装備で今月も6面で大暴れですよwながむつ砲便利なのになあ。勿体無い。

46: SS好きの名無しさん 2019-10-08 19:13:40 ID: S:Kzsnhw

その内。ゲームの方の大井くんも練習巡洋艦にコンバートとか実装されると良いな。そうすれば二人めの大井くんも含めて艦隊のレベル上げに大いに貢献してくれると思うんだよね。運営さん。きよしもの戦艦のコンバートも待ってますぞ!

47: Chrome 2019-10-08 19:53:03 ID: S:TcNF4v

やっぱり文章力凄い高いですね……休憩時間中にpixivの作品も読みましたがほんと完成度高いです!更新待ってます!

48: ウユシキザンカ 2019-10-08 22:36:08 ID: S:mHsO7l

>>47
同じ書き手さんからそうお褒め頂くのは大変嬉しいです。
今後もどうぞよろしくお願い致します。

49: SS好きの名無しさん 2019-10-10 07:49:38 ID: S:PS_aUB

提督としょうほうさんの関係が最早熟年夫婦のようだwそれとふぶきんw金髪はいかん。あのお芋ぽさが君のトレードマークだ!せめて其処は叢雲君と同じで青にしたらどうかな?

50: SS好きの名無しさん 2019-10-10 11:37:46 ID: S:sYbcxP

すごいです。読んでいて、時間が経つのを忘れるほどの作品は久しぶりです。続きが気になって8時間しか眠れません助けてください。

51: 朝潮型は天使 2019-10-10 23:37:05 ID: S:fmdyKg

更新速度が早くて嬉しいなぁ

52: SS好きの名無しさん 2019-10-11 19:54:18 ID: S:I-vKTQ

体に気をつけて毎秒投稿してください!!

53: ウユシキザンカ 2019-10-11 21:44:13 ID: S:pGXRkv

>>50
私は6時間しか寝ていないのであと2時間は大丈夫やね。

>>51
更新しといたよ。

>>52
身体は万全なので可能な限り投稿するよん。

54: SS好きの名無しさん 2019-10-11 23:12:25 ID: S:-1BK-S

真の子供の成長には。手を差し出す事よりも。信じて突き放して。自らの真の脚で立つ必要があるのだよ。其処には厳しさのなかの真の信頼という優しさが有るんだよ。白ともよ。君はまだこの子達を信じきれてない。人間は守られるだけの生き物じゃない。時に自分を認めて弱さを結束に変えることが出来る生き物なんだ。今の時津風は是かましでも勝てんだろうね。その襷は多分、どんな武器よりも強い。

55: SS好きの名無しさん 2019-10-11 23:34:27 ID: S:TS1XZr

白ともの鎮守府は白ともを中心としている。
しかし彼の鎮守府は彼を中心としながらも回りに複数のグループで出来ている。詰まりは彼に依存していない。故に彼の指示はただ一言。
どうするんだ?と彼女の信念に問いかける。
そして彼女はそれに答えた。詰まりは提督ではなく鎮守府全ての仲間の信頼に答えたからこその笑顔なんだ。白ともよ。君の鎮守府でこんな笑顔が出来る。心から自分の脚で自立した子供はいるのかい?居ないから叢雲は恐怖したんだよ。人は。そしてガラスの絆は決して脆いものじゃない。防弾ガラスはライフルすら防ぐぞw

56: SS好きの名無しさん 2019-10-12 20:43:27 ID: S:GecTZV

雪風と時津風が出ると嬉しいo(^o^)o
だから、ユッキーとトッキーをもっと出してもええんやで。

57: SS好きの名無しさん 2019-10-13 01:04:41 ID: S:MwqwDa

相手はたいほうと隼鷹の二人か。
装備スロットのバランスの取れた
二人か。隼鷹の改2まで長いけど。
其処まで育てた場合は。一千級の猛者だ。こりゃ熱い航空機バトルに成りそうだ!しかしまあ。こんな戦力を。自分で育てずでは苦労する楽しさを味わえない分。詰まらないだろうなあ。自分で育てるからこそ、絆も生まれるのに。

58: SS好きの名無しさん 2019-10-13 01:56:07 ID: S:JUFFS3

相変わらず希望と絶望の匙加減が素晴らしい
今後も期待してます!

59: SS好きの名無しさん 2019-10-13 10:38:25 ID: S:SuxAr8

雲龍姉様が普通でない以上は。天城さんも何か隠してそうだよねwゴルゴ13並みのボススナイパー立ったりしてw若しくはガトリング並の連射で圧倒的衝撃力を披露するのかな?そのかわり射った後は必ず筋肉痛になるw必殺技w

60: SS好きの名無しさん 2019-10-14 09:42:00 ID: S:0On7cp

驚くよねwあれw普段から冷静なしょうほうさんの貴重なぶっ壊れる姿wいきなりやったーwとか私嬉しい!うんわかってるからさwもう少し落ち着こうしょうほうさんw

61: SS好きの名無しさん 2019-10-14 18:50:14 ID: S:Enchbk

しかし流石は歴戦の猛者天城さん。
そしてそれに会わせることの出来る
しょうほうさんよ。彼女はスペックで劣っても。見てきた地獄の数が違い過ぎる。たいほうくんも今回は相手が悪すぎた。正に奇策にして奇襲の状態から良く戸々まで建て直せたものだよ。

62: SS好きの名無しさん 2019-10-16 16:18:44 ID: S:FPCPEg

さて残りの一人は誰だろうか?
うーん。予測がつかんね。五十鈴ちゃんでもないみたいだし。性能で見てた自分が恥ずかしい。

63: SS好きの名無しさん 2019-10-16 23:14:31 ID: S:Ecdh-l

最高です。!!!

64: SS好きの名無しさん 2019-10-17 23:47:17 ID: S:wBSRlG

余裕のない陸奥見てて楽しい!

65: SS好きの名無しさん 2019-10-18 01:35:32 ID: S:zJgMjQ

白ともにげろーw
高速戦艦の三人に勝てるわけないだろ!
今のうちに安全な空母の所に逃げるんだ
まあうん。そういう定め立ったのだ。金剛石。
外国名でダイヤモンド。詰まりは給料三ヶ月分かあw祝電くらいは送りなよw提督さんw

66: sei 2019-10-18 12:01:51 ID: S:YDTrgb

なんと面白いssか。いつも先の展開が気になって仕方ない‼

ウユシキさんのペースで頑張って下さい!

67: SS好きの名無しさん 2019-10-18 13:59:30 ID: S:pl8aE-

予想外ですなあwいやはや姉妹だからこその悩みが今回の演習のテーマですね。此はやられたなあ
自分は性能だけで誰が焙れてるか予想してみたけど。子の子達の感情ゆえの問題に目が届かなかったなあw

68: ウユシキザンカ 2019-10-18 21:51:56 ID: S:tldDc6

>>63
ありがとうございます!

>>64
余裕無いからこそ提督に振り回されるんですよね

>>66
そんな応援もらってしまうと全力で更新したくなるんだよね。

69: SS好きの名無しさん 2019-10-19 00:55:28 ID: S:9JSKfI

勿論彼の目標の為に。沖波を利用したのも有るだろうが。人間って奴は不思議と。色んな理由を付けて。頑張って期待に応えてくれた友に何かをぢたいと思うものだ。風雲も此で彼は鬼畜だが外道に有らず、生きるために試練を課したのだと理解したのだろうね。そして今度は自分が答える番だと。強いぞ。信頼で。結ばれた兵は死力を出せる。綺羅付け状態だろうねえw

70: SS好きの名無しさん 2019-10-19 00:57:44 ID: S:AgnVDa

誤字がw何かを贈りたいとおもうでした。いやお恥ずかしい。

71: SS好きの名無しさん 2019-10-19 09:55:15 ID: S:mFKfSF

想うが故に頼り。その人も想われるが故に答えてきた。しかしそれが依存となり全体の成長を妨げることになった上手くいかんねえ。霧島の姉御は一番の攻撃力を持つ金剛型の戦艦なのにね。
妹達の為に道を譲るのは姉の務め。しかし姉達があれじゃなあw苦労してるんだろうなあ。

72: SS好きの名無しさん 2019-10-20 15:55:42 ID: S:IWkFod

親潮君に反骨の意志があるか?それとも諦めてしまったかの確認かな?しかし夢オチという事もあるねえ。まあなんというか。今度は親潮が過去に追われる番となったか。彼女にはここの鎮守府で支えとなる存在が居ないものなあ。だからこそ容易な赦しに逃げるんだ。親潮を抱いた所で彼の過去が変わるわけでもないし。それに彼の側には今ではハムスターに一度抱きついたら離れないコアラにやたら色気を放つあまつんは何だろうなあ?
まあ動物に囲まれて動けんだろw特にコアラは強いよwもうねw離れないw

73: SS好きの名無しさん 2019-10-20 18:52:17 ID: S:7Uh1Oq

これは親潮の許されたいという願望なのか、それとも憎さ余って性欲に直結してしまった提督の獣生なのか・・・そもそも夢か幻か現実か
また良い所で切ってくれたものだっw

74: SS好きの名無しさん 2019-10-21 01:38:48 ID: S:hl9Jyc

『ここからしばらくは平和な話になります』

なんか親潮がレ○プされかけてるんですが(白目)

75: sei 2019-10-21 07:51:33 ID: S:-rS2PG

『平和な話が続きます』
「互いの鎮守府の交流が新鮮で面白いなぁ」

➡最後 「あるぇ(´・ω・`)」

76: 朝潮型は天使 2019-10-21 15:40:07 ID: S:Z4ojuf

夢だろ…夢なんだろ なぁ

77: SS好きの名無しさん 2019-10-21 18:42:43 ID: S:VfT8wq

沖波くんに対して言った言葉。どうするんだ?
それは親潮君にも放たれた言葉で有ると言えるね。お前はどうするんだ?親潮。と
彼女も過去に。忌まわしい人形から再び。
誇りある戦士に戻るためにも。親潮君も自分の
中で答えを出さんといかんね。従うのか?命令に
それとも己自身のなかの無念を晴らすために自分自身に従うのか?親潮。お前はどうしたいんだ?

78: SS好きの名無しさん 2019-10-22 08:03:03 ID: S:dTgsGK

一人で海域の攻略を進めるよりも
回りと連動して動いたほうが確率は上がるよ。
戦略ゲームでも援軍頼んだほうが上手くいくでしょ。白ともと軍義して今後の攻略方針を固める良い機会だよ。もっと回りを頼りなさいな。

79: ウユシキザンカ 2019-10-23 08:16:43 ID: S:vQuZEf

>>74>>75>>76
ね?夢だったでしょ?(夢なら何をしても良いと思っている)

80: SS好きの名無しさん 2019-10-23 13:38:36 ID: S:Hg2DYX

雲竜姉さんが別の意味でロックオンしたようですwさぞかし楽しい演習だったんだろうなあw
多分次はもう止まれない止まらない。第二段階の恐ろしい雲竜ねえ様が見れることでしょうw
獣は進化するんやでwこの敗北は敗北に有らず。進化の為の通過点に成るのだよw次はかみかみ出来るといいねw

81: SS好きの名無しさん 2019-10-23 17:32:58 ID: S:h0hPdk

さてこの暴走空母の雲龍ねえ様を見て霧島はどう感じたか?自分ならこの子と波長を合わせて暴走出来る。寧ろこの子とパートナーになりたいw何て思ったかもねw自分たち二人なら完璧に勝てたと。
ある意味頭脳的というよりも勘で決めるほうが上手くいくものだよ。霧島くん。

82: SS好きの名無しさん 2019-10-25 07:34:49 ID: S:YCUbPf

彼は言葉こそ乱暴だが。決して見捨てない言い方を変えれば進化の為の踏み台にもなる覚悟がある。地獄から氏の狭間から生還した人だけ持てる優しさと言うものだ。しかしそのままでは燃え尽きる。しょうほうさんのような支えが必要なんだね。

83: SS好きの名無しさん 2019-10-27 16:12:27 ID: S:Aat4lE

優しさは時として人を傷つける。
彼はもう勝利を確信してるなw
本当に怖い人。表面上は失敗に見えるが
その心の根の部分を侵食してる。
愚かで恐ろしい人ですよ。
そしてその毒が堪らない魅力を出している。このダーティこそが彼の魔力なのでしょうね。

84: SS好きの名無しさん 2019-10-27 17:36:04 ID: S:VymWmV

早く続きを。気になって夜しか眠れない

85: SS好きの名無しさん 2019-10-28 19:11:07 ID: S:u14Rzr

我慢しているものはやがて爆弾となり
爆発する。彼がしたことは爆弾の導火線に火を付けたことですね。此で霧島くんは姉妹の束縛から解放される事でしょう。その切っ掛けが雲竜姉さんの敗北したあとの反省会。其処で攻めもするが励ます姿は温い世界と厳しい世界の両立
白ともの指揮では経験では励ますだけで終わってしまう。それは前進出はなく後退のようなものなのですよ。

86: SS好きの名無しさん 2019-10-29 13:07:34 ID: S:yVDVpG

レベルが85まで上がるまで耐えるんや!
まあそれでも。一千級の神通さんやあぶうには敵わんのだけどなあ。それと遠征なら鬼怒君がダイハツ内臓のお陰で。今じゃもう遠征の鬼やwそして特殊対空迎撃お陰で守備の全てを任せられる子になったなあ。天さん下積みが長すぎる上に。更に上を行く伝説を越えることは出来なんだ!ボスキラーに成れる攻撃力さえあればなあ。

87: SS好きの名無しさん 2019-10-29 13:17:36 ID: S:5-Bk_k

しかし此で判っただろうね。彼は彼女等を兵器と言いながらも守戦での魚雷の回避に驚いていた。それはこの子達が成長出来るのが生命体。つまり生き物だからこそだと。其処は誉める部分。でも感情と。自分の性能という兵器の部分のコンプレックスを付かれて負けた。つまり深海は挑発などしないのだと。彼もまだまだ伸び代があるね。今回の演習で誉める部分は誉めて。そして天さんを確りと叱ってあげなさい。実戦でも戦果を焦り突撃すれば簡単に沈む。つまり死ぬのだと。叱って上げなさい。君の中に残ってる。身内を死なせたくないがゆえの怒りで確りと愛を教えて上げなさいなw

88: SS好きの名無しさん 2019-10-29 15:07:00 ID: S:aq5KWr

しかしなあ。白ともよ
この勝利を喜ぶか?私ならば屈辱以外の
何物でもないがね。だって考えてみ?
君は自分達が負けそうに成ったら相手の頭を挑発して勝てと。指示したのかい?
此は君が完全に兵器の性能に救われた証拠だよ。此だけの戦力で正面から負けて。最後には運だけで勝ったようなものだ。運の使い道は生き残るときだけ。後は自分達の努力と訓練以外。宛に成らんよ。運で掴んだ勝利を喜ぶ辺り甘過ぎる。自分にも兵器にも甘過ぎる。その甘さ故に。切り捨てるべきときの決断が出来ず信じずに余計な被害を出さんと良いがね。

89: SS好きの名無しさん 2019-10-29 15:20:46 ID: S:DMX7zX

大井くん今こそ封印を一時解き放ち。
ハイパーズとしての力を。見せ付けるんや!此が先制雷撃の。多くの戦艦を一撃で沈めてきた!ボスを沈めてきた!鬼や姫を仕留めてきた!必殺の一撃を見せ付けるんだ!

90: sei 2019-11-02 13:31:48 ID: S:OhXzgC

天龍は刀を使ってバリバリの近接戦闘を行うと化ける気がする。ゲームじゃ当然できないけど、艦娘は船の力を宿した人間であって船そのものでは無いからそういった戦い方も有りだと思う。

91: No way234 2019-11-08 20:07:22 ID: S:ABhvHr

最近提督が優男すぎてやばい

92: ウユシキザンカ 2019-11-08 22:12:17 ID: S:Aq1UZX

>>90
悲しいかな、艦隊戦で近接戦闘はないからね。
木曾の刀もただの飾りですな。

>>91
怒ってばかりじゃ疲れるからね、提督も作者も。

93: 焼き鳥 2019-11-11 00:42:08 ID: S:7wuKtH

( ・∀・) イイネ!泣きそうになったジャマイカ
応援してるから頑張って(^ω^)

94: 朝潮型は天使 2019-11-11 20:58:49 ID: S:laCez-

3お疲れ様です! 4も応援してます!

95: sei 2019-11-12 10:20:36 ID: S:uBtsdB

応援してるんですよ。応援してるんですけどこれ以上評価ボタン押せない(・ω・)ノП(ぽちぽち

96: Us2 2019-11-12 12:56:05 ID: S:PGaf_u

なんで応援ボタンが1回しか押せないんでしょうか?カチカチカチカチ…
続きが気になって秋刀魚と鰯漁ができない…更新ボタンカチカチカチカチ


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5件オススメされています

1: SS好きの名無しさん 2019-09-18 20:50:16 ID: S:dbsPY1

愛ゆえに辛い道を救済とする
艦娘と人間の感情の葛藤を描いています
其処には人間の醜い保身に流された人形の感情ある兵器と。提督の辛い過去と向き合う人間のごとき兵器の姿が描かれており。艦これの世界を更に広げていると言えましょう。おすすめ出来る作品です!

2: SS好きの名無しさん 2019-10-16 23:14:14 ID: S:A8GKsO

最高だ!

3: sei 2019-10-18 12:02:30 ID: S:gfb992

こんなに読んでいて時間を忘れてしまうssは初めてだ。

4: SS好きの名無しさん 2019-10-31 20:51:42 ID: S:uH9N1K

ええでええで

5: しゃけ 2019-11-11 18:05:56 ID: S:pimj2M

応援したいのに既に応援している…クソッ…


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