2019-08-12 14:22:23 更新

概要

提督と艦娘たちが鎮守府でなんやかやしてるだけのお話です

注意書き
誤字脱字があったらごめんなさい
基本艦娘たちの好感度は高めです
アニメとかなんかのネタとかパロディとか
二次創作にありがちな色々


前書き

70回目になりました
楽しんでいただければ幸いです お目汚しになったらごめんなさい
ネタかぶってたら目も当てられませんね

それでは本編を始めましょう


 ↑ 前 「提督と会話」








金剛「へーいっ、テ・イ・ト・クーっ!!」


朝一番に、開口一番


執務室の扉を開け放った金剛が、素っ頓狂な声を上げて飛び込んできた


金剛「デートに行きまっしょっ?」


可愛らしく小首を傾げ、わざとらしく頬に両手を添える


あざとい


が、あざといだけに、その仕草は可愛らしい

相手が提督じゃなければ、きっと二つ返事で頷いていたことだろうが


提督「えー」


寝ぼけ眼をこすり、枕を抱きかかえたまま、みるからに嫌そうな顔を浮かべる提督


金剛「えーってなんですかっ、えーってっ!?」


それにつられてか「ぶー」と唇を尖らせた金剛が、渋る提督に詰め寄っていった


提督「だって仕事中」


そういった口が布団の中に消えていく


金剛「してないでしょーよっ!」


その布団を剥ぎ取り、形見のように抱きしめる枕を奪い去る金剛


提督「休憩中だったんだよ」

金剛「おはようの時間から寝る人がありますかっ」

提督「皐月が寝かせてくれないんだもん」

金剛「皐月っ!?」

皐月「もう朝だっての…」


ボクを巻き込まないでと、おざなりに手を振る皐月

その隣で三日月が挙動不審になっているが、見ない振りをするのが優しさだとさえ思っていた


金剛「ほーらー」

提督「でーもー」


ああ言えばこう言って、ついには勢い余った金剛が、提督を押し倒していた


しかし、これはこれでチャンスに思う


金剛「もうっ、あんまりワガママいうとね…」


ちゅーと 言いながら、ちゅーっと顔を寄せていく


金剛「キス…しちゃうんだから…」


素直じゃない提督の事、きっと金剛の思い通りにはしないでしょう

きっと良い感じの所でお預けを食らうけど、結果としてデートの算段は付くはず


意地を張るか?


あるいは、提督がそうする可能性も無くはないが

その時は遠慮なく唇を奪えばいい、どっちに転んでも金剛の勝ちです


未来はバラ色、心は桃色


広がるお花畑


無慈悲に撒かれた除草剤




提督「でも、これで行くって言ったら、私が金剛とちゅーしたくないみたいじゃない?」


勝った


とか思ったんだろう


次の言葉を探して、目を泳がせている金剛を眺めながら、内心でほくそ笑む


多分に金剛の思惑は正しい。そうされれば、きっと私は天の邪鬼に動くだろう

外に出るのも億劫ではあったし、せがまれて嬉しくないわけもない


ただ…


なんとなく、なんともなく、なんともなしに、金剛の事をからいかいたくなっていた

ただ花を持たせても似合いはするだろうが、ただ勝ちを譲るのも面白くはない


金剛「え…あ、じゃー…ちゅ、ちゅーしてあげるから…」


まあ、そうなる


そうなるのも分かるし、その通りだっただけに、次の言葉も簡単なものだった


提督「それではちゅー目当てみたいでない?」


多分に、その顔が見たかった


お預けをくらった犬みたいな、思い通りにいかないと泣く娘のような


「じゃぁっ」と、伸びてきた手に「どーしろってんですかっ、あなたはっ」と、揺さぶられる事に感動すら覚える


その頬に手を伸ばし、涙が流れる前に抱き寄せて


提督「こうするの」

金剛「ぁ…」






提督「皐月、ちょっと出てくる」


剥ぎ取られた布団の代わりに羽織を纏って部屋をでる


皐月「さっさと行って、邪魔だから」


手を振る皐月に振り返す


いや、正しくは追い払っているようではあったけど








見慣れた商店街を、金剛と二人で歩いていた


いつまでそうしてるのだろう? と、大人しく手を引かれているだけだった金剛も

そのうちに調子を取り戻して、店先に並ぶ あれやこれやを飛びつくように見て回る


何がそんなに楽しいのか?


特に目新しいものがあるわけでもないし、これが初めてのデートという事もない

何度も同じような道を通ったし、それでも同じ様にはしゃいでいた金剛を思い出す

目を引くのは季節の新商品くらいなものだが、それもやはり定番と化してはいる


提督「良いか…」


思わず口からこぼれた言葉が全部だった

それで金剛が楽しそうなら、何に構うことも無いのだし

出先でからかい倒した埋め合わせといえば、小賢しいのだろうけど


金剛「提督っ、あれ飲みましょ?」


ちょこちょこ動き回る金剛を眺めていると、大層元気よく手招きされる

なにか面白いものでも見つけたかと思い視線を向けると



用意されたのは大きめのカップにストローが二本

いわんや、よくよくと見ればそれが途中で一つに繋がっていた


提督「実物…初めて見たわ」


定番といえばそうなんだけど

実物を見る機会にはとんと恵まれない類の奴だった


金剛「だめ?」


カップを抱えた金剛が遠慮がちに見上げてくる


提督「良いけど…」

金剛「Yes!」


観念するしかなかった


提督「飲みづらいな…」

金剛「そう…ね…」


二人でストローに口をつけたまでは良かったが、あまりに余裕がない

油断すれば、そのままおでこがぶつかってしまいそうだったし

ストローの奪い合いにならないようにと、力加減をするのも面倒だ


こつん…


案の定、二人のおでこが触れ合うのに時間はかからなかったが

案外と、この体勢が楽なことにも気づく


金剛「んふふふふ…」

提督「なに?」

金剛「べっつにー…」


眼の前にはご満悦の金剛

飲み物のことなんて忘れて、ぐりぐりとおでこを押し付けてくる


提督「飲まないの?」

金剛「んー」


いちご色の液体が、ストローの中を通っていく

途中のハート型に色をつけて、金剛の口の中へと吸い込まれていった


正直に言えば目のやり場に困った


限定された視界の中、普通にカップだけを見ているつもりが、それでも彼女の胸元が目に入るし

苦し紛れに上を向けば、その唇が、いちご色に染まってもいる


ふと、今朝の感覚を思い出す


惚気ていたとはいえ、やはりか正気でやるものではないな


提督「ふっ…」


まるで、ロウソクの火でも吹き消すように息を吐いた


それが、わずかにカップの表面を泡立たせると

いちご色に染まるストローの中、ハート型にできる僅かな隙間が吸い上げられていき


金剛「けほっ」


むせた


突然、口の中に飛び込んできた空気を思い切り吸い込んだ金剛が、顔を伏せて肩を震わせる


提督「くくくくく…」

金剛「あなたねぇ…」


提督が笑っている


多分、今日一番に楽しそうなんじゃないだろうか


それは良いし、それは嬉しいんだけど


そんな悪戯をされて、やり返さないのは嘘だと思う


提督に届け、私の吐息


溜め込んだ空気を押し付けるように、ストローの中に一気に息を吹き込んだ

一瞬、驚いた顔をする提督だったけど、お返しとばかりに息を送り返してくる


空になったストロー中


沸騰したように泡立つカップの表面


いちご色の液体が、遠慮なしに飛び跳ねて二人の服を汚していく


ぶくぶく、ぶくぶくと、音がなっている


それは、不満そうでもあったし、どこか笑い合ってるようでもあった







戻ってきた金剛達を、ゆーが不思議そうに眺めていた


朝とはまるで逆の光景


大人しく提督に手を引かれていた金剛が、今や元気に提督を引きずって歩いている


何があったらそうなるのか、一体何が彼女をそうさせたのか


興味と疑問が重なって、重みに負けた小さな首が傾いでいく


弥生「ゆー?」


掛けられた声に振り返ると、弥生が不思議そうな顔をしていた

きっと、ゆーも同じ顔をしていたんだろう。その不思議そうな顔のままに「どうしたの?」って問い掛けられた


あるいは、弥生なら知っているだろうか?


自分の知らないことを たくさん知っている彼女のこと、なにか答えをくれるだろうと、興味の理由を指し示す


ゆー「あれ…」


指を指した所には、晴れ晴れ愉快な金剛と、引きずられながらも好きにさせているAdmiral

「背中をながしたげるよっ」とかなんとか言いながら、行く先はお風呂なんだろうけど


羞恥心は無いのでしょうか?


郷に入れば郷に従えって? そんな疑問も今更ではあるけれど、改めて見ると首が真横になりそうだった


弥生「二人がどうかしたの?」


それ自体は珍しいものじゃない

提督を引きずり回す金剛なんて、ここにいれば一週間も経たずに見慣るだろう光景に

「どうかしたの?」と、言われれば「どうもしないけど」と、言い返せるが


ゆー「朝と逆だなって…」


見送った二人の情景と、迎えた二人の光景に


ゆー「デートって楽しいの?」


そんな疑問を抱かずにいられなかった



弥生「そうだね…」


楽しいか?


そう問われればどうだろう?


そんなの、金剛さんを見れば一発で解決しそうなものだけに

それ以上を求められるとその答えに窮するものがある


いや、違うかな?


見れば分かると、そんなの ゆーだって分かっているはず

それでも聞かずにいられないなら、足りてないのは その実感なんだろう


弥生「誘ってみれば?」


「何を?」と返してくる瞳に「でーと」と答えを返す


ゆー「そう…そうだね」


2・3の沈黙


悩むような素振りもそこそこに切り上げると素直に「うん」と頷いてくる


弥生「そんな ゆーに魔法の言葉をプレゼント」


まさかとは思うが、やりかねないという期待はあった


あの司令官が素直に頷くかって疑問と、女の子困らせて楽しいのかって愚問

少なくとも、金剛さん相手には100%伸びる食指を、ゆーにまで伸ばすのかどうか




一瞬だけ、思い浮かんだ光景に笑いそうになってしまった


駄々をこねる司令官に、WG42を突きつける ゆーの姿


「良いから」「たって」「きりきりあるいてって」


無いとは断言出来るけど、そんな光景が流れるように浮かんでくる


これも成長か


おぼろげだった彼女の輪郭が、いつしかこんなにはっきりと想像出来ているのは


ゆー「やーよ?」

弥生「おっと、ごめんごめん」


袖を引かれて、先を想像しそうになった思考を打ち切った

連行される司令官の行末も気にはなるが、それよりも可愛い妹の行末の方が大事だ


弥生「良い? もし司令官が駄々を捏ねるようだったらね?」


そんな前置きで伝えた魔法の言葉


ゆー「そんなんで良いの?」

弥生「そんなんで良いの」

ゆー「ふーん」


納得はしていないが、弥生が言うならそうなんだろうといった具合に頷くゆー だった






次の日


執務室に ゆーが顔を出したかと思えば、そのまま すっぽりと提督の膝の上に収まっていた


そんな甘えん坊の事


微笑ましいというくらいで、その時点では誰も気にも止めず、銘々にやることをやっていたのだが


ゆー「Admiral、でーとに行きましょうって?」


空気が静まり返る


足音も、ペンを走らせる音でさえ億劫となり、誰もがその続きをと耳をそばだてていた


提督「また…唐突に…どうしたの?」


誘われた方からしても困惑していた

言葉以上の意味は無いにしろ、その意図を測りかねるには十分に過ぎる


ゆー「だめ?」

提督「ダメっていうか…」


再びの静寂


読めるはずのない空気を読み取って、誰もがありもしない答えを探していた


ゆー「一つ提案」


そんな中、一人だけ淡々と話を進める ゆー


分かっていた話だ


前にAdmiralも言っていた「人の言うことを素直に聞いたら負けだと思うの」って

正直にどうなのっては思うけど「構ってほしいだけなんよ」と言われれば、まあ納得の出来た話


ゆー「ゲームをしましょ?」


罰ゲーム


その不文律を笠に着れば、いくらAdmiralだって文句も言えなくなる

問題は、どうやってAdmiralに勝つか。ゆーがAdmiralに勝てるゲームは何なのか


だってAdmiralはズルっ子だから…


ゆー「今から一個だけ質問するから、答えられなかったらAdmiralの負けで良い?」


弥生の教えてくれた魔法の言葉

適当にはぐらかされるんじゃないかと思ったけれど


弥生の言うこと、多分に大丈夫な気はしていた


提督「ドイツ語講座とかだったらイヤだよ?」

ゆー「・・・その手があったか」


だとしても、苦笑するAdmiralには首を振って返しておく

その分の悪さではAdmiralが受ける理由がないもの


ああ、でも、今度少しくらい教えておくのも良いかもしれません


ゆー「平気。ゆーは良い子だもの」


「そうでしょう?」と、言外に含めてにAdmiralを見上げる


それはいつもAdmiralが言ってくれる言葉で

それ自体を本人が否定できるはずもなく、ようやくと諦めたように頷いた


勝ちました


弥生の言葉を信じるならば、これで ゆーの勝ちですって


勝負に乗ってこないんじゃないかって懸念も「別に、行きたくないわけじゃないから」って弥生の言葉通り

本当に、ただ戯れたいんだけなんだって、困ったAdmiralだけれども


ゆー「質問…」


そう小さく前置きをして、ゆーに注目を集めた上で一言…


ゆー「金剛とは行ったのに、ゆーとは行ってくれないの?」


自信を持って弥生は言った


「こう言えば、司令官は何も言えなくなるよ。きっとね?」


理由はわからないけれど、そう言って微笑む弥生が とても頼もしくみえました






文月「悪女だね、弥生お姉ちゃんは」


そう言って、悪戯に微笑む文月


弥生「そうでもないよ。素直じゃない司令官が悪い」

文月「司令官のせいに出来るのは楽で良いけどねー」


ゆーは上手くやっただろうかと、なんともなしに執務室の方へ顔を向ける二人


弥生「まあ、平気かな…」


確かに ゆーは色々不器用な娘だけれど、言われたことは存外と器用にこなす娘でもある

その噛み合わない器用さが、不器用さに拍車を駆けるわけだけど、それはそれで可愛いものでもある


それよりも、気になることが出来た


自分を悪女と評した妹が、その妹ならどうしたのだろうかと

そうは言うのだ、きっときっと綺麗な方法を提案してくれるんじゃないかって


なんて、思いもしないことを聞いていた


弥生「文月ならどうしてた?」

文月「あたし?」


「えー?」とか「そーだねー?」とか、わざとらしい前置きを並べた後

まるで、決めたあった答えを披露するみたいに顔を輝かせて言ってのけたのだ


文月「私のことが嫌いなの? って言う。もう、泣きながら言っちゃうねぇ」


流石に自分の妹だ、感心するより他がない


弥生「困る顔した司令官が目に浮かぶね」

文月「おまけに「好き」って言ってもらえる」


照れ隠しのように、染めてみせた頬に「きゃー♪」と両手を置く文月


弥生「そうだね…本当に…」


いや、ちがう


そんな事思っちゃないな


「好き」って言われて喜んだその裏で、惚れた弱みを握れたと勝ち誇ってるのが目に浮かぶ


弥生「悪い妹だね」

文月「ひどいなぁ、お姉ちゃんはー」


言葉以上に目が笑っている


誰も何もは言わないのに、その内心は見え透いていた






二人がでかけた後の執務室は沈痛な空気が漂っていた


このあと、予想されるであろう展開から逃げるように こっそりと

二人の後を追いかける金剛ではあったけど


かちゃんっ…


いつの間にか、先回りしていた望月に扉の鍵を落とされた

そうして、そこに驚いている暇もなく、背中越しに掛かる声


皐月「金剛さん、ちょっと手伝ってくれないかな?」


言葉自体は常のものでは合ったけれど

自分だけ遊びに行った手前、なんとも反論しづらいものがあった


金剛「いえ、その、ほら? 私も演習の準備とかありますし?」


何よりも、一番聞きたくなかった言葉がこれだった


皐月「司令官とはデートに行ったのに?」


詰まる所


からかわれるのが目に見えていたのだ


望月「少しはゆーは見習ったらどうよ? 毎回さぁ…ほんと」

金剛「ゆーと張り合ってどうすんのよっ!?」


そう言って金剛の肩を叩き、一仕事終えたとソファに戻る望月と


三日月「あの、今度私も使っていいですか?」

金剛 「許可を求めないでっ!?」


遠慮がちに了承を求めてくる三日月


金剛「皐月もっ! 笑ってないで書類よこしなさいよっ、もうっ」

皐月「あはははは。それでも手伝ってくれる金剛さんが好きだよ」

金剛「そうですかっ。私も大好きですよバーカっ!」


それから数日、そんな言い回しが流行ったのは言うまでもなかった






さて、改めてデートと言われても、行動範囲が変わらない以上、やることもそう変わるわけもなく

街を歩いてお買い物をして…いや、お買い物というほど ゆーは何もは欲しがらなかったけれど

それでも、知らず傾き出したお日様に気づいた時、存外と自分が楽しんでいたことを自覚させられた


赤い夕日に照らされて、堤防に出来た尾根道を器用に歩いている ゆー

潮風に長い髪を遊ばせて、照り返す夕日は線香花火の様に儚いでいた


提督「今日はどうしたの?」


そんなデートの帰り道


今更ながらに、一番最初の疑問を口にする


お出かけしたいならそう言えばいい、それは初めてではないのだし

違いと言えば、なんのかんので誰かが付いて来てたくらいで、終始二人というのは今回が初めてだったか


あるいは今までだって、そんなつもりだったのだろうか? そんな風には見えなかっただけで


ゆー「どうもしないよ?」


だが、そんな心配を吹き消すみたいに あっさりと首を振られる


ゆー「なんとなく…」

提督「なんとなく?」

ゆー「はい…」


「なんとなく」けれど、そう言った口は何かを探しているようで

やがて、それを見つけたようにゆっくりと次の言葉を付け加える


ゆー「こんごう が楽しそうだったから」


ゆっくりと、堤防の上を歩く小さな背中

読み取れるほどの喜怒哀楽もなく ただ淡々と


それは、金剛を基準にしたら何でもそう見えるかもしれない

泣くも笑うもまるで遠慮がない彼女のことを、羨ましいと、私でさえ そう思う


ゆーもそんな事を考えたのだろうか?


金剛と同じものを見れば、なにかその秘訣のようなものが分かるんじゃないかって


いや…


そこまで考えて、そんな面白くもない思考を振り払う


何のことはない


デートに行きたい理由なんて、その好意を素直に受け取れば良い話

たとえばそう、ドイツ語でらぶゆーとはなんと言ったか、そんな風に考えるのが自然な様に思う




提督「楽しかった?」


Admiralにそんな事を聞かれて、少し答えに困ってしまった


「はい」と、言いそうになった口が途中で止まり、その口を塞いでいたのは金剛の笑顔


ゆーは、本当に楽しかったのだろうか?


見比べてしまった。自分と金剛の笑顔とに、どうしようもない違和感を感じてしまう


違うのは分かる


金剛の真似をして、いっぱい笑って、抱きついて、それでAdmiralが喜ぶなら ゆーも困らないけれど


きっと違う


それをやったらAdmiralが困るだけ

それをやるなら最初からするべきだったし、あの時のゆーにそんな度胸はなかったし


ねぇ、ゆー? 本当に今日は楽しくなかった?


煮えきれない自分にもう一度問い掛けてみると、それは以外にあっさりとしたものだった

楽しかった? に悩んでいた割には、楽しくなかった? にはあっさりと首を振れる


だって


Admiralがゆーの事見てくれていて、ゆーもAdmiralの事を見ていて

ゆーって呼んでもらえて、Admiralって呼んでみて

でもそれは、デートじゃなくても出来ることで、むしろ人前でやりづらそうにしてるAdmiralが可哀想で


それでもと…それでも? なに? なんだろう?


唐突に浮かんできたもの、心がちょっとだけ軽くなる、温かくなる、少しだけ隙間が埋まるような


ああ…そう…きっとそう


そうは言っても、ゆーはとっても満足したんだなって



堤防の終わり、晴れ晴れとした気持ちで足が止まる

お日様も終わって、デートの時間ももうおしまい


ゆー「Admiral」


狭い足場の上で、足を踊らせて提督に振り返る


いつもより高い視線


見上げているばっかりだった提督の顔を見下ろす自分

影になっているばっかりだった提督の顔がこんなにもはっきりと目に映る


身体から力を抜いていく


悪戯に吹いた風に煽られて、バランスを崩すと、そのまま提督の方へと身体が傾いていた


提督「っと…あぶないな」


気づけば提督の腕の中


咎める提督に「ごめんなさい」とは口にしても、言うほど悪びれてはいなかった

信頼とか期待とか、きっとそんな風にして、提督が受け止めてくれるって思っていたから

それに、提督だって、それ以上は落ちないように、しっかりと抱きしめてくれている


もう、十分だった


ゆー「かえろ?」


提督に抱きしめられたまま、その耳元でそんな風に呟いた


子供みたいだと


きっと帰ったら からかわれるのかもしれないけれど

もう少しだけ、もうちょっとだけ、今日だけは、最後まで、そうしていたかった



ーおしまいー



おまけ




金剛「デートは楽しかったですか?」


あるお茶会の日


何処か楽しそうに、そんな事を聞いてくる金剛に多少は仕方がないと思う


だからちょっとだけ、そう思ったのかもしれない


いつも提督に抱きついて、いつも提督を引っ張り回して

あるいはそれを やきもち だと誰かは言うかもしれないけれど


ゆー「はい。こんごう は欲張りだって思いました」


かちゃり…


不躾に音を立てて、金剛の動きが固まっていた


金剛「よ、欲張り? 金剛が?」


二度は言うまい


ただ、恐る恐る聞いてきた金剛に小さく頷いた


金剛「へ、へーい、ながなが、菊月、わ、わたし、欲張りですか?」


軋みを上げるブリキのおもちゃの様に首を回し、同席していた二人に声をかける金剛


そうして、二人は顔を見合わせた後


「「うん」」


それはもう、はっきりと頷いていた


「ぁぁぁぁぁぁぁ…」


何処から声を出しているのだろう声を、ホラー映画もかくやという限りに口にしてテーブルに突っ伏す金剛


長月「いや、悪い意味じゃないぞ」

金剛「欲張りが良い意味に聞こえますか…」


確かに、そう言われれば苦笑するしか無いのだが


長月「泣くも笑うも全力だからな、金剛は。私は少し羨ましいくらいだよ」


きっと、ゆーもそうなんだろう


「金剛が楽しそうだったから」そんな理由でデートに行くくらいだ

はしゃいでは見たかったけど、金剛の様に出来なくて、それでも不機嫌そうに見えるのは


長月「あまり拗ねて見せるものじゃないぞ、ゆー?」

ゆー「拗ねてないもん」

長月「もんって…まあ、良いがな」


自覚があるならそれでいい。消化不良もそのうち飲み込むだろうと


金剛「つまりですよ?」


増えた問題は、調子に乗りやすい彼女のこと


金剛「私、褒められましたか?」


目が輝いている。落胆とは一転してキラキラと


長月「そのつもりだったが…。そんなんだから欲張りだって言われるのを…」


聞いちゃいなかった


刺そうとした釘は避けられて、ゆーに抱きついて撫で回している


金剛「じゃあ、今度は金剛とデートに行きましょうっ! もう、いっっぱいっ楽しませてあげるんだからっ!」



きっと金剛ならそうするだろうし、きっとゆーもなんのかんので楽しい思い出になるとは思うが


ゆーの口から漏れる薄暗い吐息


呆れているわけではないが、諦めてはいるような


菊月「ただのやきもちだろうに…」


長月の言うことも分かるが、そんな遠回しな話でも無い気がする菊月だった



おまけ2



ドタドタと


慌てて逃げ出すような足取りを


とっとっとっと、軽い足取りで追いかけていく


睦月「こーらーっ。ぐーさんっ、ゆーちゃんっ、廊下走ったらダメなんだからっ」


言ってる本人が駆け出していることにも気づかずに、ガングートとゆーの二人を追って睦月が廊下の向こうに消えていった



如月「何をしたのよ、あなたは?」


睦月ちゃんも走っちゃダメよ


そうは言っては見たものの…案の定聞こえているわけもなく

そんな状況を楽しそうに眺めている提督に、白羽の矢を立ててみた


提督「何もしてないよ?」


しれっとそんな事を言われても、信じられるわけもなく、逆にそれを信じているからこそ


如月「なにかした人に限ってそういう事を言う」

提督「別に、無防備にあくびなんかされたらさ…」


なるほどと、大体の状況を想像して、呆れを覚えたその隙きにだった


ふっ…


耳元に掛けられる吐息にたまらず


如月「ひゃっ!?」


変な声をだして、後ずさる


きっと、ぐーさんもそうされたんだろう


提督「あははは。可愛い声」

如月「うるさいわよっ、ありがとうっ」


からかわれた事への不満と褒められた感謝を同時にこなし

聞こえてくる笑い声を睨みつけて「もうっ」と勢いを付けて手を出した


如月「十分してるじゃないのっ。ゆーまで巻き込んで…」

提督「いや、ゆーは違うぞ?」

如月「違わないわけ…」


でもなかったらしい


ガングートにお約束と銃を向けられて、今日はどうするか

ガンカタごっこか、ロシアンルーレットかと、落とし(遊び)所を探していると


ゆーが見ていた


何をするでもなく、ガングートを見上げていたらしい


流石に気圧されたのか、一歩二歩と後ずさると、その分だけ距離を詰めてくる

後退は前進に、気づけば駆け足に変わって、睦月に咎められるほどになっていた


提督「懐いたのかな…」


分かってて笑ってるのだろうか?


そのタイミングでゆーがやりそうなことなんて、警戒している番犬のそれでしかない


それは懐いてるというよりも


如月「取り憑いてんじゃないの…あれ」


そんな気がしてならなかった






「ぴょん」と、声が聞こえたのを皮切りに、その通りは随分と騒がしくなっていた


卯月「何してるぴょん? うーちゃんも混ぜるぴょん」


逃げるガングートを追いかけるゆーを追いかける睦月に卯月が加わって


文月「追いかけっこかな? まってまってー」


面白半分に文月がそれを煽り


JVS「鬼ごっこ(←英語)? まぜてまぜてー」


そこにジャーヴィスまで加わって、二人のかけっこは雪だるま式に膨れ上がっていく



水無月「ちょっ、ぐーさんっ!? こっちこないでよっ」


もはや不幸としか言えなかった


ガングートが追いかけられている、ガングートを追いかけている

その理由は本人でさえ分からずに、ただの鬼ごっこか かけっこ気分の集団に捕まるまいと必死に逃げ出していた


ぐー 「ぐーって言うなちっこいのっ」

水無月「そっちこそちっこいのって呼ばないでさっ。自分は水無月だってっ」

ぐー 「似たような名前ばっかりなのが悪いだろうがっ」

水無月「そんなの、ぐーもゆーも大差ないでしょうっ」


「一緒にしないでって」


その時だった


足音で煩いばっかりだったはずなのに、不思議と静かに染み渡る声


水無月「ひぃぃっ!? ゆーちゃんっ!? ごめんごめんてっ」

ゆー 「なに? 人をお化けみたいに?」

水無月「思ってないっ、思ってないから許してっ」


もはや、逃げる以外の選択肢は無くなっていた


捕まったら自分も噛みつかれはしないかと、そればっかりを考えて逃げていた


水無月「あ、ながながっ」


それは、希望に見えた


廊下の先を歩いている妹の姿

しっかりものの彼女のこと、上手いことこの状況からすくい上げてくれるんじゃないかと


長月「菊月」

菊月「うん」


言うが早いか、言わずもがなか


そんな集団を見かけてしまえば誰だってそうするかもしれない


妹の手を引くと、壁際に身を引く二人


水無月「うらぎりものーっ」


言うしかなかった、言ってる暇しかなかった

足を止めたらおしまいだ。縋り付く暇もなくって、そのまま二人の横を通り過ぎていく


文月「あ、菊ちゃんも混ざる?」

菊月「いや、いい。程々にな?」

文月「まっかせてーっ」


嬉々として駆け抜けていく姉を見送る妹たち


長月「まぁ、最悪の前には止めるだろう」

菊月「そうだな」


そんな信用に望み託し、水無月の無事を祈る二人だった






水無月「で? 何したの?」


なんとか ゆーを撒いて、ようやくと物陰に身を潜める二人

絶え絶えだった息も落ち着いて、なんとか会話をする余裕が出来た


ぐー 「な」

水無月「にもしてないわけ無いでしょう?」


言いかけたガングートの先を奪い去り、事実だけを要求する


ぐー「…あれだ、いつものやつだ」


観念したかのように、ぶっきらぼうにそう言うと

それだけで、大体の事情が把握できてしまう


水無月「ああ…」


また司令官と遊んでたのか

懲りないと言うか、もしかしたら楽しんでるんじゃないのかとさえも思うけど

それを ゆーに見つかって、プレッシャーに負けて逃げ出したのか


ぐー「そしたらな…いたんだよ、あのちっこいのが…」


絞り出すような声だった


思い返すのも憚れれると、ぽつり、ぽつりと、その状況を反芻する


提督に向けた銃口


今日はどうしてやろうかと考えていると、視線を感じた


深い瞳だった


まるで、仄暗い深海の中に残った青い部分だけを寄せ集めたような深い色だった


覗き込んでいるようで、覗き込まれているような


吸い込まれるように落ちていく


どうしてそうしたのか、自分でもわからない


ただ何か、寒気を感じて後ずさると、同じ分だけ距離を詰めてくる


付くでも離れるでもない、状況を咎めることも、銃を奪うでもなく


一つの距離のままずっと、こちらを見続けている二つの瞳


更に圧される


それでも変わらない距離に、覚えた嫌気を声に出す


「ええい、やめだ」


降参と思われても仕方がない、事実その通りではあるが

認めるのも癪で、肩を怒らせて踵を返す


とっとっとっとっ…


それでも離れなかった


とっとっとっとっ…


その小さな足音が追いかけてくる


とっとっとっとっ…


どんなに距離を開けようと、どんなに歩幅を増やそうと


とっとっとっとっ…


その小さな足音が耳から離れない


とっとっとっとっ…




とっ


その小さな足音が目に止まる


「げぇっ!? ちっこいのっ!?」「うわっ、ゆーちゃんっ!?」


ゆー「ちっこいのじゃないよ? ゆーはゆーだよ? U-511 Admiralの艦娘ですって」


「「ひぃぃっ!?」」


がしゃんっ


その日、ちょっとだけ仲良くなった二人だった



ーおしまいー



後書き

ポーラ「やーりまーしたー。仲間がふえましたよ、これから二人でゆーさんを盛り上げていきましょうねぇ」
ぐー 「貴様と一緒にするんじゃない、私はなぁ…」
ゆー 「ぐー…」
ぐー 「…なんだ」
ゆー 「…」
ぐー 「あぁっ、もうっ…」
ゆー 「うん。もっとほめて、ゆーを褒め称えて」
ポーラ「かんぱーいっ」



最後までご覧いただきありがとうございました
ゆーちゃん可愛いって思って頂ければ幸いです


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SS好きの名無しさんから
2022-10-24 02:15:44

SS好きの名無しさんから
2019-08-12 23:55:01

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SS好きの名無しさんから
2019-08-12 23:54:50

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1: SS好きの名無しさん 2019-09-16 10:29:06 ID: S:gzNOBL

こんにちは、アーケード提督です。
今回は金剛とゆーのデート回でしたね!
金剛の余裕無いとこが可愛すぎ!
ゆーがヤキモチとか…羨ましい…
次回も待ってます!


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