2016-10-31 21:23:28 更新

概要

提督と艦娘たちが鎮守府でなんやかやしてるだけのお話です

注意書き
誤字脱字があったらごめんなさい
基本艦娘たちの好感度は高めです
アニメとかなんかのネタとかパロディとか
二次創作にありがちな色々
長い


前書き

35回目になりました
楽しんでいただければ幸いです お目汚しになったらごめんなさい
ネタかぶってたら目も当てられませんね

以下、ちょっとしたプロフィール。長いので、興味ない人は飛ばしちゃって下さい

提督
練度:神頼み 主兵装:刀
「えぇ…。やだよ、めんどくさい」
長髪で黒髪、何時も気だるげな表情をしてる
一応、白い制服を着けてはいるが、上から羽織っている浴衣が全てを台無しにしている、不良軍人
そもそも、軍人どころか人ですら無い、元土地神様
覚えている人もいなくなり、ようやく開放されたと思えば、深海棲艦が湧いてきて…
3食昼寝付きの謳い文句も手伝って、提督業を始めだした
性格は、ほとんど子供。自分でやらないでいい事はまずやらない、明日できることはやらないで良い事
悪戯好きで、スカートめくりが好きなお年ごろ
また、結構な怖がりで、軽度は人見知りから始まり、敵は全て殲滅する主義

皐月ー愛称:さつきちゃん・さっちゃん・さっきー
練度:棲姫級 主兵装:12・7cm連装砲(後期型 好感度:★MAX
「え、司令官かい?そりゃ…好き、だよ?なんてな、えへへへ♪」
初期艦で秘書艦の提督LOVE勢。提督とは一番付き合いの長い娘
その戦闘力は、睦月型どころか一般的な駆逐艦の枠から外れている程…改2になってもっと強くなったよ
「ボクが一番司令官の事を分かってるんだから」とは思いつつも
まだまだ照れが抜けないせいか、ラブコメ時には割とヘタレである

睦月ー愛称:むつきちゃん・むっつー・むっつん
練度:褒めてっ 主兵装:12・7cm連装砲(後期型 好感度:★MAX
「提督っ、褒めてっ!」
わかりやすい提督LIKE勢、「ほめて、ほめて~」と、纏わりつく姿は子犬のそれである
たとえその結果、髪の毛をくしゃくしゃにされようとも、撫でて貰えるのならそれもよしっ
好感度は突っ切っているが、ラブコメをするにはまだ早いご様子

如月ー愛称:きさらぎちゃん・きさら
練度:おませさん 主兵装:12・7cm連装砲(後期型 好感度:★9
「司令官?ふふ…好きよ?」
やらかした提督LOVE勢。一昔前、司令官と仲良くなろうと色々頑張ったが
振り返ってみると、かなりアレだったことに気付き、思い出す度に悶絶する毎日
しかし、一度派手なことをやった手前引くに引けず、ラブコメをする度に黒歴史が増えていく毎日

弥生ー愛称:やよいちゃん・やよやよ・やーよ
練度:無表情 主兵装:3式爆雷 好感度:★7
「司令官?好きだよ、普通に」
感情の読めない提督LIKE勢。瑞鳳に卯月が取られて、手が空いた反動か結構好き勝手やりはじめた
最近は ゆーにあることないこと吹き込むのがお気に入り
「もちろん、いい娘に育てるよ?」私のようにねっ
ラブコメはするより見るのが好き…て、思ってたんだけどなぁ

卯月ー愛称:うーちゃん・バカうさぎ
練度:ぴょんぴょん 主兵装:超10cm高角砲★MAX 好感度:★7
「司令官?そんなの大好きに決まってるぴょんっ」
ぴょんぴょんする提督LIKE勢。毎日ぴょんぴょんと、あちこちで悪戯しては怒られる毎日
主な対象は瑞鳳、「だって、からかうとおもしろいだもん」なんのかんので構ってくれる瑞鳳が好き
ラブコメというより、騒がしい妹

文月ー愛称:ふみ、ふーみん
練度:ほんわか 主兵装:12・7cm連装砲(後期型 好感度:★8
「しれいかん?えへへー…なーいしょっ♪」
ふんわりとした提督LOVE勢。空気を読んでいたつもりが空気に飲まれたここ最近
司令官を見てドキドキするのは、きっと姉や妹の影響だ、きっとそう
そうなってくると、いつものスキンシップでさえ気恥ずかしい上に
弥生お姉ちゃんが、変な道に突き進んでいるのを止めたりと、最近は忙しい

長月ー愛称:なつき、なっつん、なっつ
練度:頼りになる 主兵装:5連装酸素魚雷 好感度:★8
「司令官…いや、まあ…いいだろ別にっ」
おでこの広い提督LOVE勢。司令官に ちゅーしてこの方
自分の感情を見ない振りも出来なくなり、最近は割りと素直に好意を見せてくれたりもする
自分の感情に振り回されるくらいにはラブコメ初心者。あと、シスコン(菊月)

菊月ー愛称:菊→菊ちゃん→お菊さん→きっくー→くっきー
練度:威張れるものじゃない 主兵装:12・7cm連装砲B型改2★MAX 好感度:★7
「司令官か?好きだが?」
箱入り提督LIKE勢。おもに長月に過保護にされてるせいでラブコメ関連はさっぱり
しかし、偶に見せる仕草はヘタなラブコメより攻撃力は高い。やっぱり如月の妹である
大艦巨砲主義者、主兵装は夕張に駄々を捏ねて作らせた。それとシスコン(長月)

三日月ー愛称:みつき・みっきー
練度:負けず嫌い 主兵装:12・7cm連装砲(後期型 好感度:★9
「し、しれいかん…そ、その…好きですっ!」
おませな提督LOVE勢。どこで仕入れたのか変な知識は一杯持ってる
そして、変な妄想も結構してる。すぐ赤くなる、可愛い
提督と望月に、からかわれ続けたせいで、たくましくなってきたここ最近
ラブコメモードは基本に忠実

望月ー愛称:もっちー、もっち
練度:適当 主兵装:12・7cm連装砲(後期型  好感度:★MAX
「司令官?あー、好きだよ、好き好き」
適当な提督LOVE勢。とか言いつつ、好感度は振り切ってる
だいたい司令官と一緒に居られれば満足だし、司令官になんかあれば不言実行したりもする
ラブコメには耐性があるが、やるとなれば結構大胆

球磨ー愛称:ヒグマ
練度:強靭・無敵・最強 主兵装:46cm…20.3cm(3号 好感度:★MAX
「提督?愚問だクマ」
突き抜けてる提督LOVE勢。気分は子グマの後ろに控えている母グマ
鎮守府と提督になんか有ろうものなら、のっそりと顔を出してくる、こわい
積極的にラブコメをすることもないが、昔は提督と唇を奪い合った事もある
大艦巨砲主義者。最近、私製46cm単装砲の命中率があがった、やったクマ

多摩ー愛称:たまちゃん・たまにゃん
練度:丸くなる 主兵装:15・2cm連装砲 好感度:★6
「提督?別にどーとも思わないにゃ?」
気分は同居ネコ。とか言いつつ、なんのかんの助けてくれる、要は気分次第
絡まれれば相手もするし、面倒くさそうにもするし、要は気分次第
特に嫌ってるわけでもないし、いっしょに昼寝もしたりする、要は気分次第
ラブコメ?何メルヘンなこと言ってるにゃ

北上ー愛称:北上様・北上さん
練度:Fat付き 主兵装:Fat付き酸素魚雷 好感度:★7
「提督?愛してるよん、なんちって」
奥手な提督LOVE勢。気分は幼なじみだろうか
このままゆるゆると、こんな関係が続くならそれで良いかなって思ってる
最近の趣味はFat付きをばら撒いて海域を制圧すること

大井ー愛称:大井さん・大井っち
練度:北上さん 主兵装:北上…53cm艦首(酸素)魚雷 好感度:★8
「提督?愛してますよ?」
分かりにくい提督LOVE勢。そうは思っていても口にはしない、絶対調子に乗るから
足と両手が埋まったなら、胸…艦首に付ければいいじゃない、おっぱいミサイルとか言わない

木曾ー愛称:きっそー、木曾さん
練度:悪くない 主兵装:甲標的 好感度:★7
「提督?まあ、アリなんじゃないか?」
カッコイイ提督LOVE勢。提督に赤くさせられたり、提督を赤くしたりと、まっとうなラブコメ組
そういうのも悪くはないが、本人はまだまだ強くなりたい模様
インファイター思考だけど、甲標的を使わせたほうが強いジレンマ

金剛ー愛称:こう・こうちゃん・こんご
練度:Burning Love 主兵装:Burning…46cm3連装砲 好感度:★MAX
「提督…Burning Loveです♪」
分かりやすい提督LOVE勢。提督の為ならたとえ火の中水の中
何時からだったのか、出会った時からか
ならそれはきっと運命で、この結果も必然だったのだろう
けれど、鎮守府ではオチ担当、艦隊の面白お姉さん
取り戻せ、お姉さん枠

瑞鳳ー愛称:ずいほー・づほ姉ちゃん
練度:卵焼き 主兵装:99艦爆(江草 好感度:★6
「だれがお姉ちゃんよっ」
気分は数ヶ月早生まれな幼なじみ。ラブコメルートもあった気がしたけど、何処行ったかな
卯月にからかわれて、追っかけまわすのが日課
だからって、別に卯月を嫌ってるわけでもなく実際はその逆である

夕張ー愛称:ゆうばりん
練度:メロン 主兵装:軽巡に扱えるものなら何でも 好感度:★6
「ゆうばりんって…気に入ったのそれ?」
気分は一個上のお姉さん。卯月や菊月の駄々に付き合ったり
球磨や提督の無茶振りで、アレな兵装を作ったりと、信頼と安心の夕張さんである
特に決まった装備は無く、戦況次第でなんでも持ち出すびっくり箱、安心と実績の夕張さんである

大鳳ー愛称:大鳳さん
練度:いい風 主兵装:流星改 好感度:★9
「提督、愛してるわ」
素直な提督LOVE勢。金剛見たいにテンションを上げるでもなく、息を吐くように好意を伝えてくる方
ラブコメに悪戯にと我慢強い方だが、許容量を超えると…
その落ち着いた物腰からは、艦隊の保護者っぽくなっているが、内心は見た目通り歳相応だったりもする

U-511ー愛称;ゆー、ゆーちゃん
練度:ですって 主兵装:WG42 好感度:★6
「Danke…ありがとうって…」
鎮守府のこと、皆のこと、Admiralのこと
いろんな事があって、知らないことも知ってることも増えてって
それが明日も続いてく…明日は何をしようかな?

ーそれでは、本編をはじめましょうー


↑前 「提督と台風」

↑後 「提督と秋祭り」




提督と水無月



早朝。お日様も良い感じで顔を出し

軍隊だというならいい加減起きろとも思う頃、執務室の扉がゆっくりと開く

忍びこむ、という訳でもないが、小さな女の子が静かに歩けば、自ずと足音は絞られていた


ゆー「アドミラール。おきてって…」


カーテンの締め切られた執務室

朝日が入り込むまでの少しの間に出来た薄暗がり

そんな中に体を沈み込ませて、提督の眠るソファへと移動すると

その体を優しく揺り起こし始める


ゆー「…むぅ」


しかし、返事はない

わかっていた事とはいえ、あまり嬉しくない予想通り


仕方がないし、もののついででもある

本来なら、無礼千万で市中引き回しの上、打首さらし首に値するが

こと、この人に限ってはそれはないだろうと

眠っている提督の上へ、跨るようにしてよじ登った


ゆー「アドミラール…Admiralって…むぅ」


それでも提督は起きません

胸に手をつき、お腹に跨がり、シーソーでもするみたいに

2度、3度と、揺すっては見たけれど、まるで反応がない

女の子一人、軽くはないだろうに…


仕方がない…

軽く息を吐いた後、自分の右手を見つめてみる


握って開いて、握って開いて…


そして、覚悟を決めたのか

その手を大きく振りかぶり、重力に任せて力を抜いた


ぺちん


提督「ねぇ…もうちょっと可愛く起こさない?」


ゆーの小さな掌が、提督の頬に添えられている

そこで、ようやくと目が合った

良かった、Admiralのほっぺで太古の達人をしなくてすんで


ゆー「さっきまでやってました。面白がって起きないアドミラールが悪いって」


なるほど、正論だ

何しに来たのか、どうやって起こすのか

それが気になり、狸寝入りを続けていたが

割と実力行使に出るタイプらしい


だが、それよりも


提督「目ざといね」


気づかれていたと、そっちの方が以外な事実ではあった


ゆー「はい、大鳳に教わりました。それと…」


余計なことを…とは思ったが、その後に続いた


ゆー「狸の起こし方も」


その言葉に首を傾げる


提督「狸の?」

ゆー「はい。クマからの伝言「背中に火を付けられる前に起きろ」ですって」

提督「こわ…」


どうやら、2度寝は出来そうになかった




提督「それで?」


端的な問いかけ

ゆーをお腹の上に乗せたまま

「何しに来たのか」と単純な疑問を投げかける


ゆー「はい。内緒です」


軽く首を振り、教えれないと答える ゆー


提督「隠し事なら、それも隠しておくべきだね」


いらん詮索をされたくないなら尚の事


ゆー「そうなの?」

提督「そうなの」

ゆー「そう…気をつけるね」


不思議そうな顔をするものの、提督が頷いて見せれば

そういうものかと、納得してみせる


けれど…


提督「どいてはくれない?」

ゆー「はい」


隠し事がある、それは良いが

さっきから ゆーが上に跨ったまま動こうとしない

別に重いということもないが、何がしたいのかますます分からない


提督「それも内緒?」

ゆー「ですって」

提督「しょうが無いね…」


諦めたように体から力を抜くと、再び目を閉じる提督

部屋は薄暗いまま、おまけにゆーが乗っかって動けない

やることなんて特に無いのだ、それこそ寝るしか無かった


ゆー「寝ちゃダメですって。背中に火、付けちゃいますって」

提督「どうやって?」

ゆー「どうって…あ…」


そこで、はたと気づく

背中に火をつける、それ自体は簡単だ

それこそ、魚雷でも火砲でもぶつければいい

しかし、その背中が今は遠い所にあった


自分が提督の上に跨っている事実

背中を向けさせるだけなら降りればいいが

そうすると、確実に逃げられる

それは不味い…本来の目的を見失いかねない


提督「zzzzz」

ゆー「むぅ…」


勝ち誇った様に寝息を立ている提督

悔しい、口惜しいと、不満に唇を尖らせるゆー


ゆー「Admiral…アドミラール…提督さんって…もぅ、もぅっ、もうっ」


両手を使い、提督の頬を叩き続ける ゆー


ぺちぺちぺちぺちぺちぺち…と


太古の達人でもする様に、一定のリズムで刻まれる音

しかし、それでも起きない提督


いや、正確には起きてはいる

ただ、面白がってからかわれているだけなのだ

それが余計に、悔しいし、口惜しい…


ゆー「もうっ!」


ベチンっ


提督「いった…」


割と本気で叩かれた




執務室前。その廊下を並んで歩く二人

似たような背格好に、同じ睦月型の制服

片方は黒で、片方は紺色との違いあったが

何よりも、似通った声音が姉妹同士であると印象づけていた


「いやぁ、でも楽しみだなぁ」


皐月「ん?何がだい?」


楽しそうに、歩幅を強める妹に合わせて歩く皐月


「だって、さっちん。司令官の話をしてると楽しいそうじゃん?」


皐月「そんな事…」


あるのかな?

自分じゃ良くわからないけれど、傍から見ればそう映るのだろうか?

そりゃまぁ…司令官の事を考えるのは、その、楽しい、けど…

でもそんな、顔に出るほど…


などと津々浦々、皐月が思考の海に沈んでいく

その間にも近づいてくる執務室の扉

あと一歩、もう一歩となると、ぴょんっと飛び込むように一歩を踏み出す


揺れる水色の髪、長めに取られた右側の一房が綺麗にたなびく


「にひひ。それじゃ、いっちょ元気よく行ってみようかなっ」


にはっと笑顔を咲かせて

叩くように手を置くと、勢い良く扉を開け放った


皐月「ああっ!?」


その音に顔を上げる皐月

しかし遅い。気付いた時には、執務室と扉を遮るものはなくなっていて

「そんなに勢い良く開けたら…」なんて警告も妹の耳には届いていなかった




「おっはよーっ、しれー…いー…かん?」


目の前の光景

第一印象としては薄暗い

次に、綺麗な女の子

薄暗がりの中でも、映える銀髪と白い肌

そして、ソファの上に転がっている司令官らしき人


の上に跨っている…綺麗な女の子


「あー、ぁー…」


これは、何というべきか

急に開けたのは確かに悪かったが…

と、とりあえず…


「あ、お呼びでない…これまたしつれいしましたっと…」


ばたんっと、平静を装って閉じられる執務室の扉

一瞬の内に戻った静寂


提督「なにあれ?」

ゆー「ないしょ」

提督「なるほど」


あれが内緒の正体らしい


知らない娘、だったな…

となると、アドミラールが逃げないように見張っとけ

今回のゆーの任務はそんな所だろうか




皐月「どうしたのさ、水無月?」


飛び込んだかと思えば、ムーンウォークでもするみたいに

不自然に後ろに下がってきた妹、水無月に首を傾げる皐月


水無月「ど、どーといいますか。いやー、なんかお取り込み中?みたいな?」


あ、朝からお盛んなようで…大人の世界見たいな?ていうか?


皐月「? 馬鹿言ってないで入りなよ。司令官、起きてたんだろ?」

水無月「あっ、あー!!ちょっとー」


さっちんっまっちんっと姉に手を伸ばすが

その手は虚しく空を切り、再び扉が開かれる




皐月「しれいかーん。おきてるかーい?」


当たり前の様に扉を開け

当たり前の様に電気をつけ

当たり前の様にカーテンを開け放つ


いつもの日常、日課の様な通過儀礼


皐月「ありがと、ゆー」

ゆー「ううん。これくらい余裕ですって」


その途中、ソファの横ですれ違った ゆーにお礼を言うと

くっと拳を握って応えてくれる


皐月「そうかい?」


それがなんだか微笑ましく、優しく微笑む皐月


水無月「あ、あれー…」


するーなの?それ、スルーなんですか?

何でそんな平然と、朝の爽やかな空気を演出しているのだろうか?


皐月に続いて、恐る恐る扉から顔を覗かせる水無月

電気は付いている、カーテンも開いている、部屋は明るい


けれど、それだけ

状況はさっきと何一つ変わっちゃいないと言うに


皐月「うん。どうせ、すぐ分かると思うけど…」


開け放たれる窓

ゆっくりと入ってくる朝の空気が、皐月の髪を優しく揺らす

そして、次第に差し込んでくる朝の光を背に受けて

困惑する妹に、何気ない表情で一言


「こんなもんだよ?」




皐月「それじゃ、司令官?」


促すように、声を掛ける皐月

ソファには司令官と、その膝の上に抱きかかえられている ゆー

その対面には、皐月と水無月が並んで腰掛けていた


提督「ドーモ、提督デス…」


ぎこちないながらも、軽く会釈をする提督


皐月「はぁ…」


及第点か…まぁ、多くは望むまい、どうせ最初だけだし


水無月「アハハハ…ドーモ、水無月、デス?」


やり場の無い感情を誤魔化すみたいに、右手で頭の後ろを掻く水無月

ぎこちない挨拶を交わす二人、まるで咬み合わない歯車のようだった


皐月「なんで、水無月までそんな…」

水無月「だってっ!」


姉に食って掛かる水無月

両肩を掴み、ガタガタと揺さぶって、へるぷみーと訴えている


さっきといい、今だって

水無月はどんな顔して司令官に接すれば良いって言うんだいっと

それは、真っ当な悩みであった


ゆー「アドミラール…苦しいって…」


もぞもぞと、提督の腕の中で身じろぎをする ゆー

だっこされてる分には構わないが、そんなにされると流石に苦しい


ていうか…


ゆー「ゆーを盾にしないで欲しい…」

提督「だって…」


言われている側から、さらにぎゅっと ゆーを抱きしめる提督

知らない娘だよ…提督はどんな顔して接すれば良いっていうの?

こっちは、ただの人見知りだった


「しりませんって、そんなこと…」

「意外と辛辣ね…」




提督「恒例といえばそうだけど…」


「明日は水無月が秘書艦ねっ」


分かってはいたが、それが皐月からのご命令だった

面倒くさいから、とっと仲良くなってくれと


水無月「いいじゃん、いいじゃん。こんな美少女と一緒でさっ」


美少女と、自分で言ったのが照れくさいのか

にはは、と笑いながら司令官の背中を ペチペチと叩く水無月


正直、自分でもテンション上げ過ぎか?とか思わなくもない

けども、皐月からは「ごめん、家の司令官、人見知りで」

とか言われては、ちょっと強引でも自分から引っ張って行ったほうが良いのかとも思う


提督「それは、まぁ…」


今朝方、「総員起こしー」とか何とか言いながら

執務室に突撃してきた水無月が、提督を引っ張り回していた

あっちに行ったりこっちに行ったり、一通り鎮守府の中を連れまわされて

そろそろ朝食でもといった頃合いに


水無月「およ?あそこに見えるは…」

提督「大鳳か…」


相変わらず、早起きだこと…


ちょうど建物に入る前に、ランニング途中の大鳳が走ってくる


大鳳「あら、提督?今日は早いのね?」


「おはよう」と、挨拶を交わしつつ

二人の前で足を止める大鳳


提督「美少女がうるさくて…」


面倒くさそうに、諦めたように、隣の美少女を指し示す提督


水無月「やーどーもどーも。美少女の水無月でっすっ」


右手で頭の後ろを書きながら、やーやーと挨拶をする水無月


大鳳「ふふ。それじゃあ、私は…美人の大鳳、ね?」

提督「自分で言う?」


ていうか、何故こっちをみる


大鳳「あら、違うの?」


からかうように、提督を覗き込んでくる大鳳


提督「…」


美人か、と言われれば確かにそうだろう

毎日の走りこみの成果か、均整の取れた体は素直に綺麗だと思う、が

素直に言うと負けな気がして、その視線から顔を背けるに留める提督


大鳳「もう、偶には素直に言ってくれないと…」


「拗ねるわよ?」なんて、わざとらしく口を尖らせながら提督を小突いて見せる


提督「それは…ぁぁもー。今日も綺麗だよ、大鳳は…」


観念はした。けれど、最後の抵抗なのか大分にぶっきら棒な言葉


大鳳「ふふっ。照れちゃって、かわいいの?」

提督「るっさい」

大鳳「はいはい。でも、ありがとう」


大鳳から顔を逸らす提督と、それを楽しげに見つめる大鳳


水無月「ふむ…」


これは、なんだろう…

司令官は大鳳さんが苦手、なのだろうか?

ゆーちゃんや、さっちん達には割と好き勝手やってる風に見えたけど


つまりなんだろう?

ここは、大鳳さんから何かしら一本取っておけば

水無月の評価は鰻昇り…いけるっ

水無月ならきっとやれる


水無月「時に、美人な大鳳さん?」

大鳳「なぁに?美少女の水無月ちゃん?」


水無月に振り返ると、膝をかがめて視線を合わせる大鳳


「水無月と勝負をしよう」


水無月「駆けっこ、駆けっこがいいな」


相手は正規空母だ

いくら新型だと言っても

いくら睦月型が旧式だと言っても

こちらが負ける要素は無いだろう


大鳳「良いけれど…」


陸の上で?いくらなんでも負ける気がしないのだけど…

とはいえ、本人が持ちかけた勝負なのだし、なにかしらの勝算はあるんでしょうね


水無月「やたっ。それじゃ、あの木の所までね?」

大鳳「ええ。それじゃあ…」


ぐっと伸びをして、体勢を整える大鳳

しかし…


水無月「それじゃ、おっさきーっ!」


我先にと、脱兎のごとく駆け出す水無月

自分から挑んだだけあって、そう遅くない時間にゴールテープを切りそうではある


大鳳「あらちゃっかり…」


流石は睦月達の妹って所なのかしら

そういえば、罰ゲームの設定とかはしてなかったけど…そうね


大鳳「提督、私が勝ったら朝食に付き合ってくれる?」

提督「勝ったらな」

大鳳「ええ、いいわ。負けた時は、そうね…」


提督が喜びそうな事…何が良いかしらと、首をひねる大鳳


「お前が私に付き合え」

ふと、耳に届いたのはそんな言葉


大鳳「ぇ…」


意外といえば意外な言葉

からかい次いでに、こっちから言おうとも考えてた言葉が、提督の声で聞こえて来る


めずらしい…とは思う

けどそれよりも、何よりも、単純に、求められたのが嬉しくて


ちょっとやる気湧いてきたわ…


提督「というか、早く行ったら?」


照れくさいのか、視線をわざとらしく水無月の背中に固定したまま

ぶっきら棒な言いようで、背中を押す提督


その間にも差は開く一方で

このままだと、勝つも負けるも無くなりそうだ


大鳳「ふふっ。了解っ」


ふと、吹いた風が大鳳の髪を揺らす


大鳳「いい風ね…。それじゃ、行ってきます」


とんとんっと、つま先で地面を叩いた後

爆ぜる、そんな表現が似合うほど、一気に加速する大鳳


水無月、貴女に二つ程教えてあげないと


一つは、ここの娘達はだいたい大人げないということ

一つは、提督に良いところ見せたいのは貴女だけじゃないってこと




「すんませんでしたーっ」


勝算をでっち上げた30秒前の自分を罵りたい

子供の足とか大人の足とかいう問題ですら無く

陸上選手に喧嘩売って勝てるわけがないのは道理


ていうか、ここ陸じゃんっ、海でやれよっ自分っ


ハンデ、と言うには余りにも軽すぎたのか

完敗した水無月が、土下座の体勢でもって勢い良く頭をさげていた


大鳳「ふぅ…」


対して、息の一つも切らさずに、勝利の余韻に浸る大鳳さん


提督「ハリケーン・バウ。ぱないな…」


風を巻き起こし、水無月を抜き去った大鳳

これがハリケーンバウの力、何てことは全然関係なく

ただ単に練度の差でしか無かった


それなのに…


大鳳「でしょ?」


えっへんと、胸を張ってみせる大鳳

得意げなその表情は、大人気ないっちゃ大人気なかった




汗臭いのもあれだし、着替えてくるねっと

向かった先は水無月の部屋

ついでに言えば、三日月と望月の部屋でもあった


水無月「それじゃ、ちょっと待っててね?司令官」


がちゃ…っと、何気なく開かれる扉

自分の部屋なのだ、一々遠慮する必要もないだろうと


三日月「へ?」

水無月「あ…」

提督「…おー」


しかし、ノックくらいするべきだった

自分だけの部屋ではないのだから


無造作に開けられた扉、無防備な格好の三日月


着替えの途中だったのか

服を脱ぎかけたままの状態で固まっている

惜しげも無くさらされる少女の柔肌


ちょっと頑張ってみたのだろうか

可愛らしい装飾の着いた、水色の下着が目に眩しい


三日月「あ、あわわわわ…み、みなづきのっ」


ばかーっ!!司令官もあっちむいてーっ!!


わなわなと肩を震わせたかと思えば

「きゃーっ!!」と、叫びだす三日月

隠すように体を丸めて座り込み、その辺に合ったものを手当たり次第に投げつけてくる


水無月「わわわわっ。ごめん、ごめんってみかづきー」


飛んで来るものから逃げるように背を向けて

「ほらっ、司令官もあっち向いてってっ」

なんて言いながら、提督の体を押して180度回転させる


その途中、ひらりと水無月の頭に舞い降りるもの


「あ…」


重なる二人の声は同じもので、正直どうしたものかといった具合だった

その刹那、その一瞬、水無月の頭の上からソレがなくなると

扉の隙間から頭だけを覗かせた三日月がこちらを見ていた


三日月「…みた?」


何を、とは言わない

けども、真っ赤になってるその顔から、大体の想像は出来た


水無月「んにゃ?水無月さんはなんにも?な、司令官?」


提督を見上げる水無月


わかってるよな?わかってるよな?首振っとけよ?首振っとけよ?


そんな意思が伝わってくるような視線だった


提督「うん。灰色でも好きだよ、私は」

水無月「あっ、ばかっ」


手を伸ばし、提督の口をふさごうとするがもう遅い


三日月「っっっっっ!!」


沸騰する三日月の顔

そしてそのまま、ゆっくりと

立て付けの悪い扉の耳障りな音共に、ぱたんっと、扉の奥に消えていった


水無月「こーらーっ。ちょっとは空気読まないと、でりかしーがたりないよ、司令官はさー」


「もうっ、もうっ」と、ぷんすかしている水無月に足で小突かれる提督


理不尽な、どちらかと言えば今回は


提督「お前も…ノックくらいしような」

水無月「…うん、そだね」


ごめん、三日月




ばかーっ!!


大鳳「あら…今のは…」


三日月の声、ね

朝食を用意していた手を止めて、なんとなく上を見上げる大鳳


着替えてくるーとは言ってたけれど、何をしているのやら


大鳳「もう一人分、作っておきましょうか」


やれやれと、首をすくめつつ

鼻歌交じりに、調理を再開する大鳳さんだった




何のかんのと着替えも終わり

水無月と提督。そして、照れくさいのか気恥ずかしいのか怒っているのか

頬を染め、むすっと下を向いたままの三日月が、遅れて二人の後を付いてくる


そんな3人で廊下を歩いていると


卯月「みーなーづーきー、いぃぃぃやっふぅぅぅっ!」


たたっと、後ろから走りこんできた卯月が遠慮もなしに水無月に飛びついた


水無月「うーちゃん?って、わわっ!とっとっ!」

卯月「はいっ、それじゃーこれ持ってー」

水無月「へ?なんだい、これは?」

卯月「戦利品だぴょん」

水無月「??」


ひとしきり、わきゃわきゃとじゃれつくと

水無月の手の中に、何かを押しこむ卯月


卯月「それじゃ、いってきまっすっ!ぴょんっ!」


ぴしぃっと、敬礼をして後、それこそ脱兎の如く走り去っていった


水無月「ぇ、ぁ、うん…いって、らっしゃい?」


駆けていく卯月の小さな背中

廊下の角を曲がると、桜色の尾を引いてその姿が完全に見えなくなる


水無月「なん、だったの?」


唐突な状況に思考が追いつかず

答えを求めるように、提督に視線を投げる水無月


提督「んー…そろそろか…」

水無月「そろそろ?」


首を傾げる水無月だったが、すぐにその答えと遭遇する事になった


瑞鳳「こんのーっ!ばかうさぎーっ!」


「どこいったーっ」と、卯月と同じように駆け込んでくる瑞鳳


水無月「あ、お早うございます。瑞鳳せんぱいっ」

瑞鳳「おはよっ、水無月っ、提督っ、卯月はっ!」


挨拶もそこそこに、端的に目的だけを伝える瑞鳳

慣れている提督はいつもの様に、つられるようにして水無月も

「え、あっち」と仲良く廊下の先を指差すと

「ありがとっ」「後でねっ」と、卯月の後を追って消えていった


水無月「ほんとに、なんなのさ?」


めまぐるしく入れ替わる登場人物に右往左往する水無月

そのうち慣れる、とはいえ忙しないのはそうだろう


「答えは何時だって近くにある物だよ?」


水無月「また出たっ!」


今度は誰だよっ、とか言いたげにその声に振り返る水無月


弥生「やっほ?」


そうしてみれば、その口調とは裏腹に

いつもの無表情のままの弥生が小さく手を振っていた


提督「今日は何?」


皆まで言う必要も無く、端的に問いかける提督


弥生「それ、かな?」


何が?と聞き返す意味もなく

水無月の手の中に押し込まれたそれを、するりと引き抜く弥生


水無月「ぇ…それって…」


それは、布だった。自分にも縁がある類の


弥生「水無月…ばんざーい」


能面を被ったまま、両手を上げる弥生


水無月「へ?」

弥生「ばんざーい…」

水無月「いや、まって」

弥生「ばんざぁぁい」


疑問符を解決してくれるでもなく

ただただ無言で「やれ」と圧力を掛けてくるお姉ちゃん


水無月「あい」

弥生「うん、良い娘。そのまま、ね?」

水無月「なんなのさ…いったい」


ばんざーいっと、両手を上げている水無月

そんな彼女を提督に方にむけると

脇下から手を回して、卯月から授かったソレを広げてみせた


弥生「ぴったり」


次いでに「似合ってる?」と小首を傾げて、提督に感想を求める弥生


提督「服の隙間位あるだろう?」

弥生「それはフォローになってない…」


十分調整できる範囲だし

なにより、上と下の差のほうが問題だ


水無月「あのー…やよやよ?水無月、けっこー恥ずかしいんだけどなー?」


服の上からとはいえ

女性の、女性のための布っ切れを充てがわれているのは流石に気恥ずかしい

司令官の視線が、しっかりとこっちに向いていれば尚の事


少しでも視線から逃れようと

体をもじもじと動かしてみても、それで何が変わるでもなく

腕を下ろそうにも、姉からの謎の圧力が掛かる始末で

結局マネキンをやるしか無いのが現状だった


弥生「それで?」


「似合うの?」「似合わないの?」と、再度問いかけてくる弥生


提督「うん、いいんじゃん?」


薄い緑の、エメラルド色をしたそれは

落ち着いた紺色の制服の上では、良く良く映えて見える

そうじゃなくても、きっと水色の髪と相まって

華やかな印象を受けるだろうな、とも


弥生「そう」


うんうんと、満足したのか納得したのか

提督の答えに頷く弥生


水無月「あはっ…はははは…」


力なく笑う水無月。助けを求めるように、控えていた三日月に視線を向けども

今朝の仕返しのつもりなのか

「べーっ」と、舌を出された上にそっぽをむかれてしまった


「いったぁぁっい!あっ、やめっ!ずいほぉぉぉぉっ!!」


忘れかけた頃に響いてきたのは卯月の悲鳴


「あ、捕まった」と、重なる提督と弥生の声

それから、少しの間を置いて、廊下の奥から響く足音


弥生「逃げる?」


足音の正体なんて確認する必要もないだろう

卯月の代わりにコレを持って逃げるという遊びもあるけど?と

小首を傾げてみせる弥生


水無月「いやいや、返してやりなって…やよやよ」

弥生「そう、ざんねん…」


なにがだよ、キミはそれをどうしたいんだい?

だが聞いた所で、だろう。きっと水無月の理解できない世界が広がっている筈だ


提督「卯月をそそのかしたのはお前か…」

弥生「酷い…。司令官、弥生を疑っているの?」

提督「いや、信じてるよ?お前がやったって」

弥生「…ちぇっ」

三日月「そこは認めるんだ…」

弥生「素直なのが、弥生の魅力の一つだから」


そう言って、自分の胸に手を置き、自分が一番可愛く見える角度で

「そうでしょ?」と、提督に視線を送る弥生さんだった


「水無月っ!それをこっちによこしなさーいっ」

「うへぇっ、こっちきたぁぁ!」




ずいほぉぉぉぉっ!!


大鳳「あ、捕まったわね…」


ドラムでも叩いてるかのように響いていた足音が止むと

卯月の悲鳴がキッチンにまで聞こえてくる


大鳳「今日も元気ね、二人共…」


もう少しもしない内に、お腹空かせてくるかしら…

それならと、朝食の用意を進める大鳳さんだった




「なっがっつっきーっ!!」


廊下の先、彼女の後ろ姿を見つけた提督が

我慢できずにその背中に飛びついた


長月「わっと、こらっ、危ないじゃないかっ」


倒れそうになる体を何とか踏みとどまらせ

提督に抗議をしてはみるものの、てんで聞いた試しなんてなく


提督「嫌なの?」


しゅんと、淋しげに声を落とす提督


長月「嫌とは、言ってないだろう…けどだな」


甘いなぁとは思う

けれど、そんな風に言われたら、以前程強くも出れないのも事実だった


提督「そんな「一生離さないで」なんて、長月のさびしんぼー」

長月「そこまでも言ってないよっ!」


そして、結局こうなるんだから


水無月「ねぇねぇ、菊ちゃん…これ、なに?」


コントというか、ラブコメというか

突然始まった謎のやりとりに、どういう顔をしていいか分からず

あはは…と、曖昧な笑みを浮かべる水無月


菊月「日課だな」


が、既に見慣れたもの

特に何を思うでもなく、それがそうであるように

一言で水無月の問いに答える菊月


水無月「日課…これが…」


様式美、定型句、無駄に洗練された無駄なやり取り

なんというか、そう…


水無月「愛されてるねぇ…ながながは…」

菊月「そうだな」


それには同意すると、頷く菊月


長月「あっ…」


けれど、長月はそれどころではなくなっていた

「ながなが」「ながなが」「ながなが」

聞こえてきたのは、姉が自分を呼ぶ時の愛称

やめてくれとは言ったものの、面白がってるのか結局今日まで続いている


「ながなが」そう呼ばれるのが嫌という訳でもない

確かに、恥ずかしいといえばそうなんだけど…

姉がそれでいいならとも思う、ただ一つの懸念がなければ


提督「…くっきー、くっきー」


するっと、長月から剥がれる提督が、そのまま蛇のようにぬるりと菊月の隣へと巻き付く


菊月「なんだ?」


手招きついでに傾けられる菊月の耳に、こそこそと耳打ちを始める


提督「ながなが?」(ながながってなに?

菊月「ながなが」(愛称だろう、長月の

提督「ながなが ながなが…」(なんでながなが…

菊月「ながながなが ながなが」(語感じゃないか

提督「なーがー…」(ながながね…

菊月「ながー…」(ながながだな…


頷き合う二人。そして、ぱっと長月の方を向くと


「なーがなが♪」小さく手を振って、二人でその名を呼んでみた


長月「うるさいよっ!ながながだけで会話してるんじゃなぁぁいっ!」


恥ずかしそうに、顔を真っ赤にしている長月


ていうか


水無月「どうして、通じあってんのさ…この二人は」


テレパシーとか、シンパシーとか言うやつだろうか


菊月「長月。あまり大声をだすと司令官が怖がるぞ…」

長月「コレの何処がっ!」


かばうように菊月が一歩前に出ると

ちょうど良さそうに、その背中に隠れる提督


提督「きゃー、菊ちゃんこーわーいー」

菊月「ほら?」


菊月の後ろに隠れて、きゃっきゃっしている提督

そして、言わんこっちゃないっと、言いたげな顔をしている菊月


長月「ほらじゃないだろっ!」


私が悪いみたいに言うんじゃないよっ!せめて嘘泣きくらいしろぁつ


水無月「まぁまぁ…なが…いや、なが、つき?落ち着いて、ね?」

長月「言い直さないでいいっ!余計変に聞こえるだろうっ!」

水無月「あ、うん、ごめん…」


なんか、こっちもこっちで大変そうだ


瑞鳳「朝っぱらか何やってんだが…」

弥生「…」

瑞鳳「なによ?」

弥生「…おまいう」


「お・だ・ま・り」

「あ、いた…ほっぺ、ほっぺが」




卯月「うぅぅ…ひどい目にあったぴょん」


朝から何をしていたのか

髪も服もボロボロになった卯月が、トボトボと食堂に入ってくる


卯月「ぴょん?」


だが、それも一時のこと

扉を開けた途端に、漂ってくる香りに、はっと顔を上げる


卯月「はわぁぁぁぁ…」


バターの卵の、パンのスープの

彩り豊かな香りが、空きっ腹を満たしていく

同時に、それは食欲を刺激して

ぐーっとお腹がなり、つーっと涎が零れそうになった


大鳳「おはよ、卯月」


ご飯、できてるわよ?と、笑顔で卯月を迎える大鳳


卯月「たーいほー…」


キラキラ、うるうると、輝く卯月の顔

それはまるで、天使でも見つけたようだった


大鳳「手、洗ってらっしゃいな?」

卯月「ぴょーんっ!」


ぴしっと敬礼すると、水道に駆けていく卯月

笑みを浮かべながら、そんな彼女を見送ると


ながながだけで会話してるんじゃなぁぁいっ!


大鳳「うふふ。さて、並べちゃいましょうか」


だんだんと近づいてくる騒ぎをBGMにして

朝食の用意を終える大鳳さんでした




水無月「え…」


それは、提督と二人、港を歩いている時だった

不意に、強い風が吹いたかと思えば、等身大の何かが水無月の前を横切った


驚き、目を丸くする

引きずられるように視線も動くが、速すぎて人影以上の情報が入ってこない

その先は壁、直に叩きつけられて止まるだろうか

でも、あの速度でぶつかったなら…


「平気か?」


しかし、水無月の心配とは裏腹に、聞こえてきたのは提督の声だった


木曾「つつつつつ…あーくそ…て、あ、提督か…わりぃ…」


壁にぶつかる代わりに、提督の腕の中に収まっていたのは木曾だった


提督「今回は派手に吹っ飛んできたな」

木曾「あぁ…いける、と思ったんだけどな…」


ぎりっと、口惜しさと、傷の痛みに顔をしかめている


球磨「球磨が軽巡で良かったなぁ?戦艦級だった日には…」


「ぜったい今ので死んでたクマ」

木曾の後を追うように、ゆっくりと、のっそりと、陸地に上がってくる球磨

海風にたなびく長い髪、太陽からの逆光を受け輝く姿は、王者のそれである


水無月「ぉぉ…」


ようやく合点がいった

球磨ちゃんに木曾さんがふっ飛ばされて…吹っ飛ばせるものなの?


いや、それはいい

重要なのは、球磨ちゃんがこの鎮守府に君臨している事実だ

もし、水無月が球磨ちゃんと戦って…いや、勝てはしないだろうけど

けどもし…


「ほう、新人のくせに意外とやるクマ」

「そうでしょ、そうでしょ?睦月型やるやるーでしょ?」


とか言う流れになったら?


司令官、喜んでくれるかな?

司令官、褒めてくれるかな?

司令官…よしっ


水無月チャレンジ、第2弾


水無月「球磨ちゃん先輩っ」

球磨「クマ?」


「水無月と勝負だっ!」


「は?」


何を言ってるんだコイツは?

この場の誰も彼もに、そんな顔をさせるのには十分な言葉だった


水無月「一回だけっ、一回だけでいいからー」

球磨「くーまー…?」


やる気が起きんというか、勝負にすらならんというか

どうすんだおいっと、提督の方へ視線を向ける球磨だったが

返ってきたのは、知らん顔して肩を竦める提督


球磨「はぁ…」


好きにしろってか…演習は明日から、のはずだったが

まぁ、いいか…


木曾「お、おいっ、水無月やめとけって…」

水無月「大丈夫っ、木曾先輩の付けた傷がまだ残ってるでしょ?」


それに、燃料とか弾薬だって消費してるはずだ

「今ならきっとやれるっ」有りもしない自信に身を流される水無月


球磨「くくく…クマクマクマクマっ」


ひとり、楽しそうに笑いを漏らす


なんだ、勝算の検討は付けてたのか

勝ちの目を考えるのはいいことだクマ

いいだろう。それならそれでも良いだろう


球磨「付き合ってやるクマ。いくぞ…」

水無月「やたっ。それじゃ、司令官、ちゃーんっと見ててね?」


手を振りながら、球磨の後を付いて行く水無月


「…」

その背中を見送る二人

なんというか、誘拐犯に攫われる子供のようにも思えてきた




木曾「って!お前いつまでこうやってっ!」


そういえば、と

提督に抱かれたままなのを思い出し、急に もぞもぞと身を捩る木曾

「いいかげん、おろせよっ」とかなんとか騒ぎ出す


「私は別に、このままでも良いよ?」

なんて言いつつ、これみよがしに木曾を抱え直す提督

右手で頭を抱え、左手で足を抱き、体と体を密着させる


木曾「ちょっ、おまっ、ちかっ、近いって…」


自然と近づく顔と顔

首筋から昇ってくるように、頬を顔をと染めていく木曾と

それを楽しそうに見下ろす提督


提督「あ、そいやさ」

木曾「な、なんだよ…」


ふと、思い出したように口を開く提督


「傷、つけれたの?」




「ごめんなさぁぁぁぁいっ」


やはりというか案の定

大して間を置かずに、水無月がすっ飛んできた


多少は加減はしたのだろうか

平行線を描いていた木曾とは違い、放物線を描いて落ちてくる

そして、落下地点は丁度ここ


提督「ほいきゃっち」


木曾の温もりが残る腕の中に、ストンっと落ちてくる水無月


水無月「木曾せんぱいっ!球磨せんぱい無傷じゃんっ!」


かと思えば

提督の腕の中でジタバタと暴れながら、木曾に抗議を始める


木曾「いや…傷つけたなんて一言も…」

水無月「水無月のハートが傷つきましたーっ、がっかりだよっもうっ」

木曾「なんで俺が責められてんだよ…」


たしかに、返す言葉はないかもしれないが

勘違いして飛び出したのはコイツだろうに


「全くそのとおりだな」


木曾「げ…」


吹っ飛んできた水無月から遅れて

再び、のっそりとのったりと、海から上がってくる球磨


「ふがいない」「なさけない」「ほんとどうしょーもない」


等と、さんざん言いたい放題でもあった


木曾「てめぇ…言わせとけば」

球磨「ならどうする?」

木曾「海(おもて)にでやがれぇぇぇ」

球磨「くまくまくまくまっ」


妙な笑い声の余韻だけを残し

のっそのっそと急ぐでもなく、逸るでもなく

木曾の後を追って球磨も海に戻っていった




水無月「ねぇ、司令官」


二人の背中を見送り、遠くで再びドンパチが始まった頃

なにか言いづらそうに、口を開く水無月


水無月「ごめんね…なんかさ」


口をついて出たのは「ごめんなさい」

何に対してのものなのか、自分でもいまいち分からない


勝てなかったから?

負けちゃったから?


でも、そんなのは最初から分かってたことで

司令官だって、木曾さんも球磨ちゃんだって分かってた事で


だからこれはきっと多分、言い訳なんだろうな


提督「怪我は?」

水無月「へ?あ、うん…それは平気だよ?」

提督「そ、ならいい」


抱えていた水無月を下ろして、一人歩き始める提督


「大丈夫だよ」「心配ないよ」「次頑張ろうね?」

期待されていた言葉はこの辺りか…


素直に言えばいいのに、とは思う

すくなからず、それで彼女の心は軽くなっただろうけど

なんでかな…結局、そんな気はついぞ起こらなかった


ただ、その代わりになるかは分からないけど


「次負けたら、水無月のおやつ私が食べるからね?」


もちろん、水無月の目の前で


水無月「ひ、ひどい…」


背中越しに振り返り、とんでもないことを言い出す提督だった


「おーぼーだよっ、職権乱用っていうだよっ」

「あーあーきこえなーいきこえなーい」

「こーらーっまーてーっ」




水無月「と、言うわけで。むっつん」

睦月「うむ。皆まで言うな、妹よ…」


これから水無月には睦月型に伝わる必殺技を…云々かんぬん


如月「ダメな匂いしかしないのだけど?」

提督「そうね」


提督大好きのポーズとか言いながら、睦月が両手を広げた頃には

その匂いで鼻が曲がりそうな程だった


如月「というか、こんな所あったのね…」

提督「取り壊すのもなんだったしな」


物珍しそうに辺りを見回す如月


武道場、とでも言えばいいか

畳敷きの部屋は、暴れまわるには十分な広さで

奥の壁、その正面には「うそぴょーん」なんて掛け軸が飾られていた


如月「なに、あれ…」


台無しである

掛け軸の前で向かい合い、正座をしていた睦月と水無月

場所的なものもあり、それだけだったなら様にはなっていたのに


「うそぴょーん」なんて書かれた掛け軸

両手を広げて抱き合ってる二人、此処は一体何処なのか?

少なくとも武道場という体ではなくなっていた


提督「如月も、なんか必殺技とか使えるの?」

如月「え?」


何気ない提督の声に

呆れていた視線を元に戻し、提督の方へと向ける如月


如月「そうね…」


そして、口元に指を当て、小首を傾げて可愛らしく考えこんで見せる


必殺技、必殺技…艦娘CQC睦月型、深海勢も人型なのだしと、そんなのを覚えもしたけれど

司令官が好きそうな派手な技、というのはとんと無かったはず

とはいえ、期待されたからには応えたい…


如月「ねぇ、司令官?」


司令官の首へと手を伸ばす

そのまま、抱き寄せるように腕を回し

思いを届けるように、つま先に力を込めた


「司令官をドキッとさせる必殺技」


如月「なーんちゃって、うふふっ」


首に手を回したままに、はにかんで見せる如月

吸い込まれそうな その瞳映っている自分の顔は、あまり人に見せられたものじゃなかった


「如月ちゃん」と、その肩に手がかかる

振り向いてみれば、すぐ近くに睦月の顔

何事かと、珍しく真剣な表情をしていた


如月「なに、かしら…」


もしかして、聞かれていたのだろうか

騒いでたし、平気かなっては思っていたけれど


思い返してみれば、中々に恥ずかしいことを言ってたのはその通りで

へんにからかわれやしないかと、内心冷や汗をかきはじめる


睦月「それ、睦月にも教えてっ!」

如月「へ?」

睦月「へ、じゃないよっ。提督をドキッとさせるヤツっ」


睦月にもー睦月にもーと、如月の肩をガタガタと揺さぶり始める睦月


如月「いや、その、これは、教えるとかじゃなくて、ね?」

睦月「ふむっ、見て覚えろということかっ、ではもう一度」

如月「ちょっとまってっ!」


お願いだから待って欲しい

その場の勢いでやっちゃっただけで、冷静な頭で はいもう一度なんて出来るわけがない


水無月「ひゅーひゅー、司令官。モテモテじゃん?」

提督「いくぞ…」


その話はおしまいとばかりに、囃し立ててくる水無月に背を向ける


不意打ちかぁ…

最近おとなしいとかおもってたのに…


水無月「にひひひ。なにさ?照れてるの?照れてるの?」


小走りで置いつてきた水無月が横に並ぶと

ニヤニヤと笑いながら覗き込んでくる


提督「やかましい」


そんな彼女の頭に手を置いて、乱暴にわしゃわしゃと髪を綯い交ぜにする


実際、変な顔してはいる自覚はあった

ニヤついてるのか、照れてるのか、いまいち判別は付かないが


水無月「やっ、ちょっ、くすぐったいってっ…もぅ、ぼさぼさじゃんか…」


ぶーぶーと、文句を言いながらも手櫛で髪を直していく水無月

綺麗な水色の髪は、それこそ水のようにさらっと指の隙間に流れていく


「で、さらさらとは、どういうご関係で」


いっそ、その話題も流してくれれば良いのにと思う




夕張「で?ソフトがだめなら、ハードってこと?」


睦月型の必殺技は置いといて

手っ取り早く艤装の性能改善に舵を切った提督と水無月


工廠に居た夕張を捕まえて、頼み込むこと少々の後


夕張「ん、こんなもんかな?」


水無月改…とまではいかないが、やるだけはやってくれたらしい


水無月「じゃーん。どうだい、司令官?」


提督の前で、おにゅーの艤装を広げてみせる水無月


提督「実際どうなんだ?」

夕張「どうもこうも、よ?」


練度の低い娘に出来る改装なんて、たかが知れてるもの

菊月(バカ)みたいに火力に全振りなんてした所で

卯月(バカ)みたいに対空を増し増しにした所で使えないのでは意味が無い


やったことといえば、自転車に補助輪を付けた程度の事で

転けないように、妖精さんにも手伝ってもらおうって話

さらに豪華特典として、電動アシスト機能付き…とは言え


夕張「これで球磨ちゃんがどうにかなるなら、木曾さんも困ってないって」


そのまま自転車に例えてしまえば

補助輪付きのそれで、ワンオフのフルチューン ロードバイクに勝てるわけがない


提督「練度なら負けてないと思うんだけどなぁ…」


「勝ってもないけどね…」意外と厳しい事を言う夕張さん


球磨と張り合う事が目的になってるのか

どうにも、力が入り過ぎてる気がする

深海棲艦を相手にしてる時はそうでもないのに…意地かな?


水無月「およ…。司令官っ、ゆうばり先輩っ」


ぽんっと、差し出された両手。小さな掌の上に、小さな妖精さん達


改良型タービンさん と新型高温高圧缶さん

凄い、もっと凄い、二人合わせて、ちょー凄い

といった感じに、胸を張ってぴしぃっと敬礼していた


夕張「あなたね…」


眉間に手をやり、頭を抱える夕張さん

補助輪付きに、ロケットブースターを付けて何をしようと言うのか

ずっこけるまでが容易に想像出来る


水無月「だめ…かな?」


一瞬、断ろうかと思った。いや、断るつもりではあった


けども…


キラキラと輝く期待の眼差し

上目遣いで見上げてくる視線

それでも、不安げに揺れるその瞳


年下の特権をフル活用したような仕草

あざといと言えばその通りで

けども、その効果は夕張の口を縫い付けるには十分なものだった


夕張「うぐ…提、督?」


意外とちょろいな…私

なんて自覚をしながらも、その判断を丸投げするように提督に視線を投げた




「それじゃ、司令官。ちゃーんと見ててね?」


なんて、嬉しそうに手を振りながら

工廠を飛び出し、海へと駆けていく水無月


夕張「知らないわよ…」

提督「共犯でしょ?」


それは…その通りだ

見えてる結果に手を貸したんだから


でも…だって断れないじゃない…あんなの…


卯月がやったら、デコピンで叩き返せるのに




「てーいーとーくーっ」


抱きつく、と言うよりは、飛びつく、と言った感じで

駆け寄ってきた睦月が提督に手を伸ばす


睦月「提督提督っ、睦月も覚えたんだよっ!」


「提督をドキっとさせる必殺技っ」

そういうと、ちゅーっと顔を寄せてくる睦月


提督「…きさら?」


「何やってんの?」向けられる視線に「…だって」と、目を逸らす如月


如月「…あなたが、悪いんだから…」


私を置いて一人で行っちゃうんだもの…


提督「何怒ってんの?」

如月「別に怒ってないもん…」


知らないわっと、そのまま顔を背ける如月

その辺に小石でもあったら、蹴っ飛ばしてそうな感じさえする


睦月「むー、ていとくー。お顔ーおーかーおー」


近づかない距離に業を煮やした睦月

つま先の先まで伸ばし、提督の首に回った腕に力を込めると

少しだけ、顔と顔が近づいた


睦月「あーん」


けどもそれだけ

提督が、わざとらしく体を反らすと

その距離は遠ざかり、辛うじてのつま先立ちが、完全に浮き上がる


身長差、というのもあった

それに加え、如月の時は不意打ち気味だったのもそう

更に言えば、提督が睦月をからかう気満々なのが尚悪い


夕張「おつかれ…」

如月「ほんとよ…もう」


頭の上に置かれる手の平

そのまま、優しく撫でられると

溜まっていモヤモヤも少しは楽になっていくようん気がした


「にゃはははははは」


聞こえてきたのは睦月の笑い声

何かと思えば、睦月と一緒にクルクル回っている提督

遠心力も手伝ってか、睦月の体がだんだんと持ち上がってきてさえいる


夕張「目的忘れてるわね、あの娘」

如月「そうね…」


花より団子、というのは少し違うかもしれないが

提督とドキっとするより、一緒になって遊んでいる方が楽しいのだろう




海上。そこに一人佇む水無月

力強く吹き抜ける風と、揺蕩う波の音

そんな中、すぅっと大きく息を吸い込んで吐き出す


気持ちが溶けていく、五感が広がって世界と一つになっていく様な錯覚


水無月「よしっ」


顔を上げ、目を開く、私ならきっとやれると確信する


「なりませぬ」「なりませぬぞ水無月殿っ」


水無月「え?なんでさ?」


しかし、そんな空気も、妖精さんの「おやめくだされ」の声に遮られる


「恐れながらっ」「その様な練度で臨まれるなどとっ」


水無月「そこは…ほら?水無月の腕の見せ所かなって?」


「ない腕は見せられませぬぞ」


水無月「もう、心配性だなぁ…いけるいけるって」


「うむ、我らは凄いからな」「ちょーすごいもんね」

「おのれらはーっ!!」


水無月「さぁ、いくよ皆!」


「お待ちになってっ!」


妖精さん達の静止の声が虚しく響く中


「機関全開、最大戦速!」


水無月チャレンジ第3弾


新型装備を試してみようっ!




「うわぁぁぁぁっ!!」


夕張「ほら…」


言わんこっちゃないと、かぶりを振る夕張さん


その奥では「うぇぇぇ…」とバカ二人(提督と睦月)が

具合悪そうにへたり込みながらも、悲鳴の元へと顔を向けていた


如月「なに…あれ…」


聞こえてきた悲鳴に顔を上げると

全力で回転するスクリューが海を削りながら、猛進する水無月の姿

今は何とかと言った所だがあれでは時期に


勢い込んで海に上がった水無月

1・2の3で加速してみれば

予想以上の速度に、本人の制御を振り切って一直線に猛進している


妖精さん達のお陰か

なんとかバランスはとっているようだけど


「あ、コケた…」


そう口にしたのは誰だったか、多分その場の全員の感想でもあっただろう

どっちにしろ、水無月が水飛沫を上げて、派手に海面を滑っていく光景は変わらないけど


ーー


提督「はぁ…」


吐いた溜息が広々とした食堂に流れていく

正直、ちょっと疲れた


やはり知らない娘の相手をするのは…

なんて言うわけにも行かず、その先を飲み込むために

水無月が、ドバーと淹れていったお茶に口を付ける


提督「て、空か…」


妙に軽いと思えば、中身が無いのならそうだろう

急須は…遠いな。手を伸ばせばそりゃ届くが…

今はなんかそれさえも面倒だった


「で?」と、不意に背中から掛かる声

同時に、手の平が熱を持ち、茶碗が波々と重みを増していく


机に急須が置かれると

何回かの足音の後、正面には大井さん


「ありがと…」との言葉に目礼で返すと「それで?」と先を促してくる

そう言われた所で「別に…」としか返す言葉もないし

それにしたって「そう…」と素っ気ない言葉が返ってくる


大井「それでも良いけど。また、女の子困らせてないでしょうね?」

提督「またって…いつもしてるみたいに…」


が、その先は「は?」と、睨まれたのでそのまま口を閉じておく


大井「良い加減、人見知りぐらい直しなさいよ?」


呆れ混じりの吐息と共に、小言を呟く大井

それ自体はその通りなのだが、それで、ハイそうですかと直れば苦労はない


提督「だって、知らない娘だよ?どんな顔すりゃ良いってのさ?」

大井「それは、あの娘だって同じでしょう?」

提督「じゃあ、お互い様でいいじゃないか」


逃避の様な結論に達した提督だったが

すぐに「だめですぅー」と、口を尖らせた大井に却下された


大井「あの娘はそれで良くても、あんた提督でしょうが?」


あなたがハッキリしないなら、あの娘もハッキリ出来ないじゃないの


提督「じゃあ、どうしろってのさ…」


拗ねるように、大井から目をそらす提督

しかしそれも「ばーか」と、一蹴すると


「いつも通りしてなさいな、どうせそれしか出来ないでしょ?」




キッチンをパタパタと駆けまわる音

トントンとまな板を叩く音、カラカラと油の揚がる音

それらがしばらく続いた後、「ふぅっ」と、息を付く


水無月「出来た…」


白いお皿の上には、キャベツの千切りとミニトマト

そして、中央にはキツネ色に上がったコロッケ

作りすぎた感じに、お皿から溢れ出しそうになってはいるが

まあ、二人で食べればイケるでしょ、うんうん


不意に「あむ…」と、伸びてきた手が、一つを摘んで持っていく


水無月「へ?あ…あぁぁぁっ!?」


もぐもぐごっくん…

水無月が振り返り、犯人を見咎めた時には既にコロッケはお腹へと収まっていた


水無月「北上様っ!それ司令官のっ!何してんのさっ!もうっ!」

北上「まぁまぁ、水無月」


あいや待たれよと、手をかざして ぶーぶー言ってる水無月を静止する


北上「うちの提督あれでグルメでさぁ」


下手なの食べさせると、機嫌悪くなって大変なんだよっと


水無月「へ…うそ…」

北上「うん、うそ」


初めて聞いた事実に、きょとんとしている水無月に告げられた衝撃の真実


「こらーっ!」「あははははっ」


結局はただのつまみ食いだった


北上「まーまー。いいじゃんかさ、減るもんじゃないんだし?」

水無月「減ってるよっ!一個丸ごとお腹の中じゃんかっ!」


まったくもうっと、唇を尖らせる水無月

けれども一つ、気になることがあった


水無月「それで…どうだった?」


遠慮がちに、聞き耳を立てながら答えを待つ水無月


そんな彼女の手をとって、お皿を握らせると


北上「ほら、行ってきなよ」


「冷めちゃうよん?」と、その背中を軽く押す北上様だった


水無月「う、うんっ。ありがと、北上様っ」


にはっと、笑顔を浮かべ、手を振りながらキッチンから駆けていく水無月

「ほいほい」と、それに手を振り返すと


去り際に、もう一個食べていいよっと渡されたコロッケを一つ頬張った


北上「健気か…」


いや、違うなと、首をふる

あれはそういうんじゃなくて…そう…なんだ、ほら、それだよそれ


初々しいって


「しれいかーん、ご飯できたよっ、とっ、あっ、あぁっぁぁ!?」


北上「ドジだったかぁ…」


どんがらがっしゃんと響く音


「ごめん…司令官」


気落ちした声も一緒に聞こえて来る

あの様子だと、コケる前に提督が抱き止めてるみたいだけど


しゃーないねと、額を手の甲でぽんっと叩くと食堂に事件現場に向かう北上様だった


ーー


水無月「はぁ…結局いいとこなしだったな…」


服の裾に手をかけて捲り上げると、それを脱衣所の籠に乱暴に投げ込んだ


いっそ、このもやもやも、服みたいに脱いじゃえた楽なのに


「はぁ…」


なんだかなぁ…

がっかりさせちゃったかな…。やっぱり睦月型はダメだなとか思われてたら やだな

でも…コロッケは美味しいって言ってくれたし…でもでも、床に転がしちゃったし


水無月「あぁ…もうっ!」


ごちゃごちゃになっていく感情を吐き出すみたいに

残ってた服も一気に脱ぎ捨て、籠に放り投げていく

冷やりと湿った脱衣所の空気

流石に裸だと肌寒く、暖を求めて足早に浴室へと足を向ける


そう言えばと、肌寒いながらに思い浮かんだのは暖かいもの

暖かいといえば、司令官…暖かかったなぁって…

なぁーんて言ったら、さっちんどんな顔するんだろ

にひひ…今度やってみよ


水無月「ん…誰かいるのかな?」


浴室の中に入ると、湯気の中に朧気に浮かぶ人影

誰だろう?とは思いながらも、特に気にもせず奥へと進む


文月「ん?水無月だぁ、いらっしゃーい」


湯気が晴れて見れば、妹のポカポカした笑顔が迎えてくれた


水無月「あ、文ちゃん。水無月も一緒していいかな?」


「いいよー」と、迎えてくれるまでは予想通り、けれど…


「でも、前くらい隠したら?」


続いた言葉に首を傾げてしまう


水無月「へ?」


そんな姉妹同士で、文ちゃんは照れ屋なのだろうか?

しかしそうは行かない、姉としては妹の成長をこの手で確かめる義務があるのだからして

恥ずかしがる妹を…うへへへへへ…って


水無月「なんですとーっ!!」


自分の叫び声が、うるさいくらいに浴室に響く

でも今は、そんな事はどうだって良い、重要じゃない


水無月「何してんのさーっ、司令官っ」

提督「何って…風呂だよな?」


ねーっと、隣の文月に同意を求めれば

ねーっと、返してくれた


水無月「覗くなっていったよねっ!水無月言ったよねっ!」


確かに言った、絶対言った、冗談だったとしても、それは記憶に新しい


文月「覗きじゃないかなー」

提督「覗きじゃないかなー」

水無月「じゃあ、なんなんだよーっ」


「混浴だよ」


水無月「はもんなっ。後、尚悪いわっ!」


状況に頭がついていかず、地団駄を踏む水無月

司令官がいるだけならまだ良かった

水無月が時間 間違えたとか色々あったはずだろう

あわよくば、司令官のえっちーとかラブコメごっこでもして

スキンシップを図る高等戦術も取れたはずだ


だけどどうだ、何で妹と一緒に入ってるのさ

何で文ちゃんは平然としてるのさ

ていうか、どうやって先回りしたのさ司令官っ


文月「良いから、前々」


見えてるよ?見せたいの?

司令官が喜ぶだけだよ?


水無月「うわわわわ…」


妹の指摘に、自分の現状を思い出し、一気に赤くなる水無月

逃げる?それも良いけど…脱衣所まで、おしりが丸見えに…ならいっそっ

ままよっと湯船に飛び込むんだ


「うぅぅぅぅっ」

聞こえてきたのは唸り声

白い肌を湯気に隠して、体を抱きながら不満そうに喉を鳴らしている


水無月「司令官のえっちっ、文ちゃんのばかっ、信じらんないっ、もうっ」


それにも飽きたのか、今度は「ばかばかばかばか」と、めっちゃ水を掛けてきた


文月「きゃーしれーかーん」

提督「人を盾にすんなよ…」


とは言ったものの「いつもやってることでしょー」とか言われたら返す言葉もなく

しばらくは、文月の傘代わりさせられた


「好きにしろって言ったのになぁ」

全然だめじゃん、大井っち。めっちゃ水かけてくるよ、この娘


多摩「…」


大井め…余計なことを

バシャバシャと、水面を掬っては投げてくる水無月

その大半は提督方へ流れてはいくが

外れたもの、溢れたもの、跳ねたものと

余り物が、その後ろの多摩へと掛かっていた


それも一度や二度ではない

「ばかばかばかばかばか」と、罵倒が続く度に、ばしゃばしゃと水が飛んでくる


まあ、そうだな。多摩とて鬼ではない、子供のじゃれ合いに巻き込まれたくらいで


ばしゃばしゃばしゃ…


怒るほど


ばしゃばしゃばしゃ…


子供では


ばしゃばしゃばしゃ…


多摩「水無月よ…」

水無月「へ?あ、多摩せん、ぱい?」


そこでようやく気づく


水無月「い、いたんだ…いやぁ、気づかなかったなぁ…」


そして、多摩が風呂場という環境という点をとっても、ずぶ濡れになっていることに


「ちょっと司令官っ、いるんだったら教えてくれもさっ」

「いきなり暴れ始めたのは水無月じゃないか」

「そーだそーだ」

「誰のせいっ!」


多摩「水無月よ…あまり多摩を怒らせないほうが良い」

水無月「ひぃっ!」


むくっと、湯船に沈めていた体を持ち上げる多摩

その手の上には、お手玉でもするみたいに爆雷が飛び跳ねていた


多摩「安心しろ、演習用だにゃ…」


ただし、死ぬほど痛いが


「ご、ごめんなさーいっ」


ーー


水無月「聞いてよっ、聞いてよっ、金剛せんぱいっ。司令官たらねっ、司令官たらねっ!」


お風呂の後、執務室に戻ってきたは良いが

いまだご立腹の水無月が、金剛の隣で「ひどいんだからー」とかなんとか抗議を続けていた


水無月「おかげで、水無月まで多摩ちゃんに怒られるしさーっ」

金剛「まーまー水無月。その辺で…」


水無月の頭を撫でて、一旦落ち着かせると

「お茶でも飲んで落ち着いて…」と、ポットからお茶を淹れて水無月に差し出す


金剛「提督も悪気があった訳じゃありませんから、ね?」


さり気なく届く金剛の視線は

「しょうが無い提督ですね」とかなんとか言いたげではあった


水無月「どうだか…」


いまだぶーぶー、言ってはいたものの

お茶と一緒に飲み込んだのか、だんだんと落ち着いては来る


文月「ねーねー、司令官?」

提督「なーなー、文月?」


それはほぼ同時に、お互いの袖を引き合って顔を近づけ合う


「なにあれ?」疑問は一緒

一昔前なら兎にも角、今の金剛がこうお姉さんぶってるのは、どうにも違和感があった


文月「きっと後輩の前でかっこつけたいんだよ」

提督「どうせすぐバレるのに?」

文月「第一印象って大事」

提督「それはそう」


そうして、会議に結論が付いた後

にこっと、温かい視線を金剛へ向ける二人


金剛「…」


ふふ、言いたいだけ言うが良いわ

この金剛、いつまでも おもしろお姉さんの位置に甘んじるわけには行かないの

失くしてしまった鎮守府のお姉さん枠を取り戻すのよっ


ちなみに、上から


大鳳さん ←大きい姉ちゃん

夕張さん

大井さん

北上さま←小さい姉ちゃん


金剛さん←オマケ


概ね皆の認識はこんな感じだった


二人の視線を鼻で笑いながら、優雅に紅茶を嗜む金剛

ほぅっと息を吐き、紅茶の香りを楽しんだ後

お茶請けのクッキーへと手を伸ば…


金剛「て、あ…」


ない…クッキーがありません


空の皿に手を伸ばし、固まっている金剛

その視線が動き、恨みがましそうに提督の口元に注がれる


提督「ん?」


それに気付いた提督が

クッキーを咥えたまま「食べる?」と顔を少し前に出す


金剛「!」


その時、金剛に電流が走った

これは、いわゆるポッキーゲームのお誘い

しかも今回はクッキーで、その半分は既に提督の口の中

確かに…確かに確かに、それを受ければ、ごーほー的に提督とべーぜを交わすことは可能でしょうが


しかし待って、待ちなさい金剛

隣には水無月、今のは金剛な素敵なお姉さんですっ

この様な人前で、ちゅーするようなお姉さんが果たして…


視線は口元に固定されたまま、体はプルプルと震えだす

動きたい、けど動けない…これをしてしまえば面白お姉さんに逆戻り

金剛の金剛の理想は、艦娘として、戦艦として、お姉さんとして…あるいは…


提督「…(食べないか」

文月「…(食べないね」


無言のまま視線を交わす二人


提督「…ん?」


ま、食べないなら食べないでもいいかと

今度は文月の方へ「食べる?」とクッキーを咥えたまま顔を傾ける


文月「…ん」


そして、傾けられたそれに平然と口を付ける文月

近づく顔と顔と、ともすれば触れてしまいそうな距離なのに

器用にクッキーだけをかじって持っていく文月


水無月「へ…」


なに…これ…ちゅー?

いや…でも…クッキー、だし?セーフ?

なんだろう、そういう関係なのだろうか…

いや、それでも良いんだけど、妹のキスシーンを見るというのは

何かこう…なんだ、これは?


その光景に固まる水無月

それはそう、傍目にはポッキーゲームのついでに ちゅーしたようにしか見えないのだから

頭の中はぐちゃぐちゃで、目をそらすべきなのか、好奇心に任せて見ても良いのか

YESとNOの間で動けなくなる


反対に、金剛の動きは早かった


金剛「文月っ!?それっ、こんごうのぉぉぉぉっ!」

文月「!?」


金剛まっしぐら

半分の半分になったクッキー目掛けて突っ込んでくる

僅かながらに口の隙間から出ているクッキーの破片

そこへ目掛けて、身を寄せ、顔を近づけ、唇を…


金剛「…んっ。ふぅ…」


やりました、金剛はやりましたよ、はい

達成感と満足感が合わさり、幸福感に変換される


幸せ一杯、夢一杯

しかし、現実はそうはいかない


文月「司令官っ、金剛さんがっ、金剛さんがぁぁぁっ」

提督「ああ、うんうん。わかるわかる」


これは金剛が悪いな、うん。と、頷きながら泣きついてきた文月の頭を撫でる提督


金剛「へ?」


「あ、いや、これは…ね?」

ようやっと欲望に大敗したことに気づく金剛

けども今更「違うのよ?」とか言ったところで、何が違うのかって話だった


提督「金剛だって、悪気があってやった訳じゃないから、ね?」


からかう様に細くなる提督の視線は

「悪気がなくても、色気はあったよな?」とか言いたげで


金剛「うぅぅぅぅぅっ」


その視線に返す言葉は彼女にはなく


水無月「もうっ!金剛さんっ、家の妹に何してんのさっ!」

金剛「Oh,Soryy…誠に申し訳ない…」


しかし、言い訳をさせて頂けるのなら

手に入らないものほど、余計に欲しくなる…そういうことってありませんか?

それで、ついカッとなってやったとしても、許されませんか?

許されませんね、ごめんなさい


「金剛さんったら、酷いんだよっ、〇〇を〇〇して〇〇が〇〇に〇〇〇〇で」

「うわぁ…」「うわぁ…」

「金剛さんマジひくわぁ」x2

「ちょっとっ、そこまでやってなはいっ、そこまではやってませんってっ!」


ーー


早朝。お日様も良い感じで顔を出し

軍隊だというならいい加減起きろとも思う頃、執務室の扉がゆっくりと開く

忍びこむ様に隙間から体を滑りこませ

ゆっくりゆっくり、抜き足、差し足、忍び足

板張りの音さえならぬように、ゆっくりとゆっくりと

そうして、たどり着いたのは提督の寝ているソファ


さあ、これから何をしようか?

いきなり大声を出したら、驚いて飛び起きるだろうか、と

思いつく限りの悪戯に、顔を綻ばせていると


提督「で、何してるの?」

水無月「司令官に悪戯しようかなって」

提督「で、どんな?」

水無月「くすぐってみるとか?…てっ!」


「なんだ、起きてるじゃんっ」ようやく気づく水無月に

「おはよ」と短く返す提督


水無月「あ、うん、おはよっ。じゃないよっ、もー!!寝ててくんないとさー」

提督「何怒ってんの?」

水無月「怒ってないもんっ、拗ねてるだけだもんっ!」

提督「もんって…」


まあ良いけど…寝てる娘がご所望だというなら


提督「あっちは?」


向こうはまだ寝てるだろうと、望月の方を指差す


水無月「ほぅ…お主も悪よのぉし・れ・い・か・ん・ど・の」


そう言って、提督を肘で突っついた後


そろーり、そろーりと、望月の方へと足をのばす

あと少し、もう少し、手が届く、そんな距離


望月「ていっ」

水無月「あいたっ」


手が届くそんな距離なら、相手にだって同じこと

近づいてきた水無月の頭に、望月の手刀が降ろされた


水無月「ぶーっ、なんで起きてんのさーっ!」

望月「いや、起きるだろ。あんだけ騒いだらよー」


「ふわぁぁ…」と、あくびを隠すこともなく

机の上のメガネに手を伸ばして掛け直す


水無月「むぅぅぅ。つまんないつまんない、つーまーんーなーいーっ!」

提督「子供か…」


こうしてみると、卯月の妹というのも分からんでもないな

ぴょんぴょん言い出したら完ぺきかもしれない




水無月「って、じゃないよ望月」

望月「?」

水無月「なんで此処で寝てんのさ?」

望月「?」


何が何でなんだよ?と、首を傾げる望月


水無月「へ?いや、不思議そうな顔しないでよ…」


水無月が間違ってるみたいじゃんか


望月「よく考えろよ…三日月が部屋使っていいって言ってたろ?」

水無月「あ、あー…」


そういう、そういう事か…

ルームメイトはだいたい此処で寝てるから、一人部屋になるくらいならと

ああ、妹の優しい配慮がみにしみる


水無月「し、司令官…一応、一応だよ?望月に…なにもは?」

提督「何って…」」

水無月「いや、だからその…あれ、さ?ほら、ね?」


それを言うのか、それを言わせるのか女の子にっ


望月「べつに、なんもねーよ」

水無月「そ、そーう?」


妹がそういうなら、そうなのか…?


提督「望月が寝かせてくれなくて?」

望月「どっちがだよ…」


交わる二人の視線、頷き合う間もない僅かな一瞬

二人の目的は一致した


「ちょっとからかってみようぜ」


水無月「うぉぉぉぉいっ!?」


ありまくりじゃんかっ!

お姉ちゃんはそういうの感心しないよっ!





三日月「おはようございます、司令官」


「望月は、起きてる?」と、扉が開き、いつも通りの三日月の声が執務室に響いた


皐月「おはよ、司令官、望月も…って、水無月?」


ただ、いつも通りじゃなかったのは

変な顔した水無月が居たくらいか


水無月「さっちんっ、みかみかっ!」

三日月「な、なに…」


先に入ってきた三日月に詰め寄ると、逃がさないよう、その肩をガシっと掴み


「司令官と寝たってほんとなのっ!」


三日月「けほっ!?」


思わず吹き出す三日月

寝た…寝たって何…それはだって、あれでしょ?

同じ部屋というか、布団というか、そういうあれで、意味深な意味ではなくて

落ち着いて三日月、深呼吸、深呼吸


三日月「もぅ…いきなり変なこと言わないで」


「まだそこまでやってないから」


水無月「まだっ!?まだって何っ!?」

三日月「え、あ、ちがっ」


後はもうグチャグチャだった

「まだ」っと、たったの一言に

大人の階段を登っているつもりが、転がり落ちていく二人


望月「ふふっ…」

提督「ははっ…」


堪らず、笑い声が漏れる二人


皐月「司令官…望月?水無月に何言ったのさ?」


まったくもう…三日月が慣れてきたと思えばこれだもん


三日月「だから違うんだってばぁぁぁっ」


今日も騒がしい一日になりそうだった




水無月「あ、そうだ。さっちん?」


水無月の口をふさいで、三日月を宥めて

誤解を解いて、ようやく仕事が始まった執務室


ソファにはいつもの様に転がってる二人と

提督の膝を、枕代わりにしている水無月


水無月「今日も秘書艦変わってくんない?」


水無月としては何となくの一言

けども、その言葉に皐月の動きが止まる


皐月「なにさ…急に?」

水無月「だって、さっちんがいったんじゃーん」


司令官と仲良くするのが最初の任務だーって


皐月「そうは言ったけど…」


もう十分に見えなくもない

司令官の膝の上で、転がったり丸くなったりしてる様は、完全に飼猫のそれの様

昨日一日、二人で何やってたんだか…ボクの時はあんなに面倒くさかったのに


水無月「なーに、取りやしませんよって。ちょーっと貸してくれれば良いからさ?」


にひひひっと悪戯っぽく笑ってみせる水無月


皐月「ぅっ。取るとか貸すとか…モノじゃないんだから」

水無月「ぶー」


じゃーいいもーんっと、今度は司令官の方に向き直ると


水無月「ねーしれーかーん。いいでしょ?水無月のー…」


お・ね・が・い


最後に、ハートマークでもつきそうな勢いでウィンクまでされた


提督「良いけど…こわーい、姉ちゃんが睨んでるぞ?」


机の方へ視線を向けてみれば、不満そうな皐月の顔


水無月「良いじゃんかさー、何が減るでもなし」

皐月「減るもん…」


ポツリと、呟かれた小さな言葉

少なくとも、ボクが司令官といる時間が減る

だいたい司令官だって何さ…そんなに水無月と一緒がいいのかよって


水無月「へ?」

皐月「何でもない…」


それを水無月が問い直すまえに


「とーにーかーくー」と、強引に話を打ち切られてしまった


皐月「今日は演習の日なのっ」


だからさっさと行ってくるっ

そういって、指差したのは執務室の扉だった


水無月「ちぇー、さっちんのけちー。けっちんだよ、けっちん」

皐月「もうっ、ボク…怒るよっ」


口をとがらせる水無月に、肩を怒らせている皐月

だんだんと、姉妹喧嘩一歩手前な空気になってくる


提督「水無月…とりあえず、演習、ね?」


そろそろ冗談が効かなくなりそうな皐月に代わり

今日は、水無月に折れてもらおうかと、そっちを宥めることにする


水無月「はーいっ、そいじゃ、いってきまーす」


司令官に言われちゃ仕方ないと、ソファから降りて扉の方へと向かって行く


水無月「あ、そうだ司令官」


その体が、扉の奥へと吸い込まれる直前

思い出したように、そっと頭だけを引き戻し


「これからよろしくなっ!」


元気な声で、そう言うのだった


ーおしまいー



EX:その後の皐月ちゃん



皐月「全く、司令官のいうことは聞くんだ」


水無月が退室した後も、ぶつぶつ文句を言っている皐月

その姿は、いつもの机の上には無く

なぜか、提督の膝の上に収まっていた


提督「それで、なにしてるの?」

皐月「司令官が逃げないようにっ」


振り返り、べっと小さく舌をだしてみせる皐月


珍しい

こんな いじけた方したのは何時以来か…あるいは初めてか


皐月「どうせ…司令官だって水無月と一緒のが良かったんだろうけどさ…」


膝の上に乗り、避けようのない提督の足をトントントントン踏んでくる皐月


「く、くま先輩?実弾っ!?実弾は…ちょっと、水無月にはまだはやいかなーって」

「なに、しにやしねークマ。ダメコンも修復剤もたんとあるクマ」

「いやぁ、でも、しかしですね…さっちんっ!司令官っ!へるぷみーっ!」


窓の外から聞こえてきたのはそんなやり取り

まあ、球磨に任せればこうもなるかと、概ね予想通りの展開ではあった


提督「良いの?」

皐月「知らないっ」


窓からそっぽを向いて、そのまま書類とにらめっこを始める


皐月「…」


ああ、ヤキモチだな…


子供みたい…司令官のこと言えやしないけど

それでも、どうしようもないのはどうしようもない


皐月「司令官のばーか」


こんなこと言いたいわけじゃないのに、こんなことしか言えない自分が嫌になりそうだ


「どっちが…」耳に届いた言葉

どっちが…どっちがだって、そんなの決まってるじゃないか


「司令官でしょ…」

「皐月だろう…」

「司令官…」

「さーつーきー」

「司令官司令官司令官しーれーいーかーんーっ」

「皐月皐月皐月さーつーきーっ」


更に続いて「ばかばかばかばかばか」と、言い合う二人

それも長くは続かずに「はぁはぁ…」息切れの声が二人分


皐月「もうっ…いいやっ」


なんかバカみたいだ

そう思ったら最後、ペンと書類を机になげていた


提督「皐月?」

皐月「うっさい、うごくなバカ」


悪態は変わらず

けれどそのまま、提督に体重を預けると丸くなって寝息を立て始める


起きたら水無月に謝らないと…

司令官には…いいや…いつも好き勝手やってるんだ、このくらい甘えたっていいじゃん…うん

そうして、感じる鼓動と体温に揺られながら眠りに落ちていった


「どうするよ、これ」

膝の上の皐月を指差しながら、望月と三日月に視線を送ってみれば


肩をすくめて「ほっとけよ」と、そのままソファで丸くなる望月

そんな彼女に布団をかけ直し「ですね」と、小さく微笑む三日月だった


ーおしまいー


後書き

はい、というわけで最後まで読んでくれた方。本当にありがとうございました
貴重な時間が少しでも楽しい物になっていれば幸いです

ーそれではこの番組はー

卯月「うーちゃんのっ!」
ゆー「やってみたかっただけのコーナー…あってる?」
弥生「うん、ばっちり」

卯月「今日はお歌の時間だぴょんっ」
ゆー「お歌の うーちゃん姉さん?」
卯月「ぴょんっ」
弥生「それじゃ、ミュージック…」

「すたーと」

まいごの まいごの 睦月ちゃん
あなたの おうちは どこですか?

おうちを きいても にゃし~
なまえを きいても にゃし~

にゃんにゃんにゃにゃんx2

ないて ばかりいる 睦月ちゃん
いぬの 如月ちゃん こまって しまって…

睦月「あれ、如月ちゃん?」
如月「…ちょっと、何でこっち見るのよ?」
弥生「姉さん、企画倒れにするつもりなの?」
如月「あなた達が勝手に始めたんでしょっ!」
ゆー「Admiralの前ではいつもやってるのに…」
如月「やってないわよっそんなのっ」
弥生「ちがうよ、ゆー。あれはね、にゃんにゃんしてるんだよ」
ゆー「あぁ…」
如月「納得しないでっ!」
卯月「一回だけ、一回だけで良いぴょんっ」
如月「それ、最後までやらせるパターンじゃないのっ」

如月「だいたい、犬っぽいなら夕立ちゃん でも良いじゃないっ」
夕立「バカにしないで欲しい、夕立の「ぽい」はそんなに安くはないっぽい」
如月「そんな意味で言ったんじゃありませんっ!」

如月「じゃあっ、時津風ちゃんとかっ」
時津風「はぁ?なに言ってんのバカじゃない?」
如月「い、意外と辛辣ね…」
弥生「あぁ…あの娘、身内に意外には結構冷たいから」

ゆー「きさらぎ姉さん…まだあるの?」
如月「う…だから、やらないって…」
ゆー「どうしても?絶対の絶対の絶対に?」
如月「いや…でも…」
卯月「尺もないぴょん、さっさとやるぴょんっ」

「せーのっ」

如月「もうっ!」

わん、わん…わわん…x2

卯月「弥生っ!」
弥生「ばっちり…(●REC)ゆー、後はお願い」
ゆー「はい、Admiralの所へ持って行きますって」
如月「ちょっと待ちなさいっ!」
ゆー「急速潜航ですって~」
如月「こらーっ!」

卯月「ふぅっ…今日も満足したぴょんっ」
弥生「それじゃあね、ばいばい」



大和「童謡って…どうよう?うふふふ…」
みつよ「大和っ…流石にどうかと思うわ…」
龍鳳「うふふ…おひい様も動揺するレベルですね」
大潮「はいっ、大潮も同じくっ」
大淀「同様に…ですか…」
みつよ「ふふっ、いいわねっ、ちょっと面白かったわっ」
大和「大和の…いったい大和の何がいけないというの…」
秋津洲「概ね全部かも…」

ー諸々のメンバーでお送りしましたー


ー以下蛇足に付き


♪皐月ちゃんラジオ♪ 

水無月「やぁやぁ、どうもどうも。水無月の活躍見てくれてありがとうっ」
皐月「今回は…って聞く必要もなく、水無月と遊びたいだけのお話だったね」
水無月「ここから始まる司令官と水無月のラブコメ生活に乞うご期待っ、にひひひひ」
皐月「始まんないし…そんなの」
水無月「始まんないのかい?司令官?」
提督「ラブコメ良いぞ、人の心を満たしてくれる」
水無月「さっちんのほっぺも満たしてくれますな?」
皐月「うっさいっ、しらないもん そんなのっ」

二人「うむ、よいぞっ」



皐月「もうっ…コメント返し始めるからね」
提督「はいはい」

・みんなの水着

・夕張さん

・長月ちゃん

・谷風さん

・うーやよ

・好感度の変動

水無月「ぉぉっ、結構あるね」
皐月「うん、いつもありがとね、皆」
水無月「それじゃ、早速行きますかっ」



・みんなの水着

皐月「水着回だったからね」
水無月「でも、3人だけという手の抜きよう」
提督「全員分とか…勘弁して欲しい…水着の描写だけで日が暮れるし、そもそも思いつかん」

水無月「そこにスクール水着があるじゃん?」
皐月「やめなよ、金剛さんが泣くよ?」
水無月「金剛さん?…あ、コスプレかっ」
提督「言ってやるなよ…」

水無月「むっつんのは…露出控えめかな?」
提督「水に濡れてからが本領発揮」
水無月「濡れ透け?」
提督「濡れ透け」
皐月「ボクは文月の趣味の方が心配になってきたけどね…」

弥生「さぁ、もっと卯月を愛でて?」
水無月「でもちょっと派手じゃない?」
弥生「遠くからでも卯月って分かっていいでしょ?」

・夕張さん

提督「しっかりしたお姉さんの見せる、気弱な表情…いいよな「おいてかないでよー」ってさ」
皐月「あれで、結構さびしんぼうだしね」
提督「秋の追加ボイスもやばかったな…」
皐月「家の夕張さんが言いそうにないセリフだったけど」
提督「言ったとしても…結構先になりそう」

・長月ちゃん

長月「いや待ってくれ。添い寝とかじゃなくて…あれは、目が覚めたら司令官が居ただけでな…」
菊月「長月、往生際が悪いぞ」
長月「うぐ…」

・谷風さん

提督「最初に思いついたタイトルが「提督と嵐」だとか夏の嵐だとかで
   誤解を招くからって、台風にしたんだけど…」
皐月「谷風さんまでは予想できなかったね…」

・うーやよ

卯月「うーとっ」
弥生「やーよっ」

「二人はっ、仲良しっ」

・好感度の変動

提督「今回書いてて思ったのは、金剛さんが何かアレな事になってきてる」
皐月「前回からだいぶ怪しかったけどね…」

提督「好感度に限らずだけど。最初と今じゃ、みんな動き方変わってきてる気がする不思議」
水無月「人それを、成長と呼ぶ。なんちゃって、にひひひ」



皐月「さっ、今回はここまでだよ」
提督「今回もたくさんの閲覧、コメント、お気に入り、評価、応援と、誠にありがとうございます」

相も変わらず、艦娘可愛い可愛い、するだけのお話ですが
少しでも伝わったなら幸いに思います

だいぶ秋めいてきたこの頃、季節の変化に体調等にはお気をつけて

皐月「それじゃ、水無月も一緒に。せーのっ」

「まったねー」


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SS好きの名無しさんから
2016-09-15 05:04:55

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2016-09-14 14:48:40

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このSSへのコメント

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1: SS好きの名無しさん 2016-09-14 15:06:46 ID: cF2ntPHY

作者さんお疲れ様です。

水無月来ましたね!
もうこれ以上○○鎮守府の人数を増やすのは厳しそうだなぁと思っていましたが、睦月型のニューフェイスとあらば入れないでおける訳がないっ。
ゲームの方では皐月と睦月を合わせたような子だなぁと感じましたが、ここの彼女は司令官に良いところを見せようと突っ走って大コケしたりと金剛さんに通じるものが…。

金剛さんと言えば、プロフを流してて彼女の好感度がMAXに更新されてるのを見逃し掛けました(^^;;
水着を選んでもらったことで最後の一線を越えたのでしょうか?

新たに加わった水無月に、好感度MAX勢に名を連ねた金剛さん。新姉妹艦の登場で波紋が生じた人間関係に、好感度9の子たちの今後などなど、今後の展開が楽しみです!

次回も楽しみにしています!

2: SS好きの名無しさん 2016-09-15 05:10:30 ID: vgTM-XNk

久しぶりに見に来たら、すごい更新されてた。
この雰囲気とかメッチャ好き。
水無月も加わってもっと騒がしくなりそうで、続きが楽しみ。

余談だけど、前回の前書きの下のURLの後の方の題名間違えてると思う。

3: SS好きの名無しさん 2016-09-19 16:20:41 ID: cMht1Je1

可愛すぎて、思考停止……長月助けて


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1: SS好きの名無しさん 2016-09-15 05:12:40 ID: vgTM-XNk

多いから最初から読むのは、結構キツイが、読み始めると、止まらなくなる


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