2019-09-14 17:54:49 更新

概要

概要
艦娘の後始末を強いられ続けた提督はついに反旗を翻す(逃亡)事態を重く見た大淀は秘密裏に追跡部隊を招集、追跡を開始した。逃げる提督、追うは艦娘…ここに鎮守府の明日を賭けた追撃戦の幕が上がる


前書き

陽炎「陽炎型艦掟ひとーつ」で逃亡した
提督のその後となります
大淀、青葉は改変が強目なので
該当キャラが好きな方は
ブラウザバックをお願いします

若干サイレント修整をしました
誤字の修整をサイレント(略



ここはとある郊外の小さなアパート

その1部屋を3つの影が包囲していた

???

「明かりは点いてない、外れの様だね

 行くよ?3…2…1…Go!」

暗視ゴーグルを着け

小銃で武装した人影が合図とともに

音も無く部屋へと滑り込む

???

「キッチンクリア」

???

「ベッドルームクリア」

時雨

「バスルームクリア、状況終了…と

 やっぱり居ないね」

暗視ゴーグルを外した人物は時雨であった


寂しい町並みに在る小さなアパート

そこから少し離れた場所に

場違いなSUVが停車していた

窓から洩れる明りは

車中に人が居る事を示している

時雨

「ここも☓…と」

時雨の持つリスト、そこに記された候補は

これで4つが潰される事となった

時雨

「こちらグレー1

 こっちは使った痕跡はなかったよ

 ホワイト1そっちはどうだい?」

白露

〈こちらホワイト1、にっひっひっ

 珍しくこっちにツキが来たかもよ?

 つい最近、使用した跡があったよ〉

時雨

「そうなると他は距離があるし

 次はあそこかな?ホワイト1

 向こうで合流しようか」

そう言うと時雨は次の目的地をマークする

白露

〈あいよ、じゃあ後で〉

その返事を最後にイヤホンから

白露の声は聞こえなくなった

時雨

「グレー3、見張りありがとう

 これからホワイトチームと

 合流するから戻って。オクレ」

春雨

〈了解、グレー3撤収します〉

無線で春雨との連絡を終えると

運転席の羽黒に次の目的地を伝える

時雨

「羽黒さん悪いね、次はここに頼むよ」

羽黒

「いえ、直ぐに向かいましょう」

(ニコ




祥鳳からその詳報を聞いたのは1週間程前

その時はショックのせいで目眩がした


〜1週間前〜


祥鳳

「動揺が大きくなる恐れがあるので

 提督は出張という事にしてあります」

現在、"無事"な会議室で

大淀、祥鳳、青葉、白露型、その他数名が

極秘裏にブリーフィングを行っていた

時雨

「(そんな…提督が僕を置いて…行った?)」

提督逃亡の報せにざわめく会議室

初めて聴かされるその内容に

事情を知らなかった面々は

少なからずショックを受けていた

何しろ鎮守府、そのトップが

いや、何より"自分"…達の提督が

自ら行方を晦ましたのである…当然であった

祥鳳

「以上で説明を終わります

 必要なデータは各自の端末に

 入れておいて下さい」

USBメモリが祥鳳から各自へと手渡される

時雨

「(そんな事は有り得ない

  いや、有っては"ならない"んだ)」

メモリーを配り終えた祥鳳が大淀を見る

それを受けて大淀が前に出た

大淀

「事が事だけに

 静かに迅速に任務に当たる必要が有ります」

そう言うと白露を見てにこりと笑う

白露

「そこで私達…

 猟犬(ハウンド)の出番て訳だ」

(ニヤリ

戯けた仕種で白露は受けるが

その目は笑っていなかった


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


〜現在、車中〜


移動する車内では特にする事が無い

時雨は窓を流れる風景を見ながら

任務を受けた日の事を思い出していた

時雨

「(提督は綺麗さっぱり消えた訳じゃ無い

  痕跡は必ず残ってる…)」

以前、提督からMVPの記念に貰い

以来、常に身に付けているピンを弄ぶ

受領の際、自分へと差し出された手と

その優しい目が脳裏に浮かぶ

時雨

「(僕が追い着くのを"待って"いる提督に

  早く会いたいな…)」

内なる声がその大きさを増していく

窓に映る自分が自分を見つめていた

時雨

「(駄目駄目、焦りは見落としを呼ぶ

  そう、僕は唯追うだけさ

  地の果てだろうが海の底だろうが…ね)」

頭を振り自らを戒めると

自己暗示に近い決意を固めピンを握る

時雨

「直ぐに行くからさ、待っててね…提督」

(ニィッ

時雨の隣に座る春雨は本日数回目の

謎の悪寒に襲われていた




提督

「ん?ひのふの…窓から灯り…?

 出掛ける時に電気は消した…筈」

咄嗟に物陰に飛込むと提督は辺りを観察する

提督

「やはり、いたか!」

鎮守府で使用しているのと同じ型のSUV

ナンバーにも覚えがある…が

建物の入口と裏口を

それぞれカバーしていた

車内は暗くて見えないが

少なくともドライバーは確実に居る

提督

「まさかここがもう嗅ぎ付けられるとはな

 …甘く見過ぎていたか」

艦を具現化した存在とは言え

その身は十代そこそこの小娘達

陸(おか)で一体何が出来ようか

と高を括っていた

だが現に此処にいるのだ

過去の自分を戒め、認識を改める

そう、奴らは猟犬なのだ…と

暫し慎重に様子を覗うと

春雨が建物から出て来るのが確認出来た

部屋の灯りは…消えていた

提督

「くそっ!」

部屋に残した荷物に後ろ髪を引かれるが

キッパリと諦める

危険を侵す訳にはいかないのだ

夜の街を舞台にした追撃戦(夜戦)は

たった今、静かに始まった

来た道を引返し、提督は夜の繁華街に消えた




現地に到着してから3時間程が経つ

時雨が暗い室内で時計を見る

夕立

「時雨、そんなに時計ばかり見ても

 仕方無いっぽい」

夕立がそう言ってくれたお蔭で

時雨は踏ん切りがついた

時雨

「…どうやら僕達が待伏せしている事は

 勘付かれた様だね」

暗視装置を外すと皆の意見を待つ

…反論する者はいない

白露

「まあ、そうなるかな」

それぞれが時間を確認すると同意した

時雨

「夕立、少し外を周って来てくれないかい?」

夕立

「わかった、行ってくる」

提督の手荷物が在った事から

現在は此処を根城にしているのは間違いない

問題は何時バレたのか…だ

夕立が外に出て直ぐ、通信が送られて来た

夕立

〈こちらグレー2、あったよ匂い

 少しの間だけどここで見てたっぽい

 繁華街の方へ続いてる。オクレ〉

時雨

「こちらグレー1、了解

 グレー2は引続き周囲を警戒

 離れないでね。オワリ」

時雨

「やっぱり…か」

潜めていた身を伸ばし、解す

皆も同じ様にしている

白露

「繁華街…かぁ、流石の夕立達でも

 匂いで追うのはキツイかな」

提督には無い此方の強みの1つ

嗅覚は先手を以て潰された

時雨

「だね…そうなると、いよいよ

 ここからは読み合いになるね」

此処迄は青葉のリストが導いてくれた

だがこれより先に道標は無い

全てが手探りとなる

白露

「にひひ、漸く鬼ごっこらしくなって来た」




ビルを張っていたのが

駅への誘導の可能性を考慮して

繁華街を少し時間をかけて駅へと向かう

提督

「道中の待伏せは無かったな

 乗り場は…っとと!?」

慌てて構内の柱の陰に身を滑り込ませる

提督の視線の先には同じ様に

物陰から改札口を見張る艦娘の姿が在った

本人は気付いていない様だが

その周囲には人の輪が出来ている

輪を形成する野郎共の視線はその中心

村雨へと注がれていた

提督

「村雨…お前に張り込みは向かん」

ボソリと呟いた自分の言葉に

村雨が囮(デコイ)の可能性に気付く

提督

「周りを確認しないとな…良し!」

(キョロキョロ

見渡す範囲に他には居ない様だ

と言う事は、駅全体を張っているのか?

それ程大きくないとは言え

ターミナル駅だ、全体に分散して

配置しているのであれば勝機は有るだろう

提督

「別の改札へ向かおう!」


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


〜数日前〜


大淀

「頼まれていた物、用意が出来ましたよ」

そう言って大淀がUSBメモリーを出す

青葉

「おお!流石大淀さんこれで捗りますよぉ!」

玩具を受取る子供の様に顔を綻ばせる青葉

だがメモリーを掴もうとしたその手は

虚しく空を切る

ピクリ

顔には出さないものの青葉の雰囲気が変わる

青葉

「…何か?」

大淀

「あくまでアクセス権です、跡は残ります

 くれぐれも"おいた"はしないで下さい」

普段と変わらぬ笑顔で

大淀が大きな釘を刺すと

宙に浮いたままの青葉の手に

メモリーを握らせた

青葉

「んもぉ〜、分かってますよぉ

 もう少し青葉の事、信用して下さい」

(ニコリ


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


〜現在〜


提督

「クソっ!どうして

 こうも先回りされてるんだ?」

村雨を見付けてからと言うもの

訪れる改札口やその付近には必ず

艦娘の、猟犬の姿が在った

そして次第に遭遇する人数も増えていた

張り込みの精度が増しているのだ

気付かれてはいないのに…

提督

「まるで行く先々で

 俺を見ている…奴…がいる?」

そこまで考えが及ぶと

提督は間近の監視カメラを見上げた

提督

「青葉、貴様ッ…見ているな?」


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


〜鎮守府内電算室〜


暗い室内にはモニターが発する光と

コンピューターの動作音だけ

そんな室内から青葉の声が上がる

青葉

「あちゃ〜!皆さん、監視カメラ

 バレちゃいました」

モニターに幾つも映し出された場所や風景

その中から抽出され比較画像に映る

2つの提督の顔には幾つかのポイントと

点滅するmatchの文字

大淀から青葉への贈り物、その内の1つは

…顔認証システムだったのだ


青葉

「あ・お・ば」

監視カメラに気付き見上げたあの時

提督は確かに"青葉"と言った

無論監視カメラの映像に音声は無い

しかも提督は片手でその顔を覆っていて

表情は窺えない

だが青葉はハッキリと確信した(聴いた)

"青葉"…と

急に青葉が悶えだす

青葉

「フヒッいいですねぇ唆りますねぇ…キヒヒ

 流石は司令官…面白くなってきましたよぉ」

監視カメラによる監視(青葉の眼)

に気付いた提督

そして自分"だけ"に向けられた

提督の眼差し(言葉)

身体の内から沸き上がる

まるで在りし日のボイラーを思わせる

そんな極上の感覚(熱)を

青葉は愉しんでいた

青葉

「フヒっ、イヒヒヒ…お次…は、ハァ…

 どうしてンフ…やりましょうか…ハァハァ…」

既に監視映像から提督の姿は消えていた


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜




〜現地〜


青葉

〈…どうも皆さん、ワレアオバ

 進捗はどうでしょう?〉

SUVに備え付けてあるモニターから

青葉の音声が出ると少し遅れた姿が映る

作戦会議用のビデオチャットだ

白露

「駅で逃げられてから特に無しだよ」

若干の不機嫌さが感じられる声色で

白露が応じる

先程、タクシーに飛び乗った提督を

取り逃がした白露型の面々は

程度の差こそあれ不機嫌だった

だが、ずっと手掛かりを欲していた白露達に

待望の報せが齎される

青葉

〈…そんな皆さんに朗報ですよ

 先程カード会社から連絡が有りまして

 ○☓区で幾らか使った様です〉

時雨

「何を買ったんだい?」

逸早く時雨が反応すると詳細を求めた

青葉

〈それがですねぇ…ガムテープ、カッター

 ダンボール、飲食物…だそうです〉

春雨

「カードから足が付くのを警戒して

 路上で過ごすつもりなんでしょうか?」

村雨

「…ちょっと春ちゃん

 その発想にはお姉ちゃんドン引きよ?」

のんびりとした口調で

突拍子も無い発言をする春雨に

村雨がつい口を挟んでしまう

青葉

〈…あはは此方は引続き監視してますんで

 それでは健闘を祈ります〉

画面から映像が消えるとビデオチャットは

終了した

時雨

「ふむ、取り敢えず監視カメラから

 逃れたかっただけか…」

○☓区と駅の距離を見て時雨は考え込む

だが他の面々は別の事が気になって

集中力を欠いていた

村雨

「…カード会社って

 青葉さん一体どんな手を使ったのよ」

(ヒソヒソ

春雨

「(駅の監視カメラを乗っ取るのも

  大概ですが…)」

 (ハハハ

白露

「出発前に言ってた

 あれは冗談じゃ無かった訳だ」

(ニガワライ


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


〜出発前ブリーフィング〜


大淀

「それと…今回捜索に協力して貰う

 青葉さんです」

青葉

「いや〜、どうもどうも恐縮です

 情報方面でお手伝いさせて頂きます

 青葉です、どうぞ宜しく」

(ペコペコ

大淀

「では青葉さん、お願いします」

青葉

「はいはい、ではご説明をば…昔から

 犯罪の裏に女と金…女は専門外なので

 青葉は専ら金の方なんです」

(ニコニコ


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


〜現在〜


大淀といい、青葉といい

底の知れない僚艦(仲間)が

慣れ親しんだ鎮守府を

伏魔殿へと変貌させていく

白露

「(けど…)」

その事に疑問を持つどころか

当たり前に受入れるている時雨を見ると

妹の行末が少々心配になるのだ

白露

「(時雨もああなるのだろうか?

  …いや、もう既に?)」

白露がそんな心配をしているとは露白ず

時雨は考えに耽るのであった




提督

「…ええ、はい指定の場所でタクシーを

 "その"状態で待機させていて下さい、では」

タクシー会社との電話を終えると

提督は明るくなった空を見上げる

提督

「これで準備は整った

 あとはあいつ等に見せるだけだな」

準備した物の出来に満足して微笑む提督

決戦は刻一刻と迫っていた


監視カメラに気付いてからは

カード等にも手が回っているのは

予想していた

案の定、カードを使った店に

少し遅れて白露達が駆けつけて来た

離れた場所からその様子を確認した提督は

それを利用して少しづつ

とある寂れたショッピングモールへと

猟犬達を誘き寄せていた

白露

「本当にこんな所にいるのかね?」

白露が寂れたモール内を見渡すと呟く

時雨

「カード情報、監視カメラの両面から

 確認されたとなると信じない手は無いさ」

そう言う間も時雨の目は

油断無く辺りを窺っている

夕立

「提督の匂いはするから居るのは

 間違いないっぽい」

目を閉じクンクンと鼻を鳴らす夕立を先頭に

白露達はモールの広場へと進んでいた

村雨

「出入口の監視がし易くて

 なお且つ人が殆ど居ない…

 潜伏先には割と好物件じゃない?」

村雨が言ったその時

広場の上階、踊り場から

ランニングシャツに軍帽姿の提督が

名乗りを上げた

提督

「上の階からこんにちはー、提督だよ!」

階下に集う白露達へと声を掛けると

提督は踵を返し逃げ出した

夕立

「提督見っけ、逃さないんだから!」

逃げる者に本能的に釣られる夕立

そこに少し遅れて白露達が加わる

提督が逃げ、白露達が追う

寂れたショッピングモールでの

鬼ごっこが人知れず開始された




寂れたショッピングモールには

客は誰も居なかった

まるで某鬼ごっこ番組の様だと

モール内を巧みに駆け抜け

この状況を少し楽しむ提督

一方の鬼達はと言うと

白露

「くそっ、ちょこまかと!」

時雨

「待って提督、話し合おうよ!」

村雨

「ショッピングモールなのに

 通路狭過ぎなのよ」

夕立

「網の目みたいな通路で

 スピードが殺されてるっぽい」

春雨

「このままだとまた逃げられちゃいます」

人を超えたその能力を

上手く活用出来ずに手間取っているのが

通路に響く声から容易に見て取れた

開始から数分、想定した通りの通路から

自分へと迫る白露達

何もかも筋書き通りな展開に

ついつい口元が緩む提督

提督

「そろそろ頃合いだな」

鬼達と適度な距離を保ちつつ

提督はある場所を目指していた


ショッピングモールから出ると

そこはT字路になっていた

大型施設の裏通りの定番

モール内の店舗や付近の商店の

ゴミ集積所なのだろう

付近には収集待ちのゴミや

使い終わった業務用の箱等が

いくつも置かれている

そんな寂しいT字路の先にタクシーが1台

後部ドアを開け停車していた

白露

「またタクシー?同じ手で

 逃げ果せられると思うなんて

 随分舐めてくれるね提督!」

白露は直ぐに車で待機している羽黒に

無線で呼び掛ける

白露

「羽黒さん、裏だ!来て!」


白露

〈羽黒さん、裏だ!来て!〉

白露達から少し遅れていた時雨は

無線を聴いて焦っていた

時雨

「(このままだとまた置いて行かれる?)」

時雨

「そんなのは嫌だっ!」

焦りから注意散漫となっていた時雨は

そう叫んだ時、側にあった

ダンボール箱を蹴飛ばしてしまう

時雨

「あっ!?」

中に入っていた使用済み発泡スチロールが

勢い良く床に転がり出た

それを見た時、時雨は立ち止まっていた

時雨の脳内では

昨日の会話が繰り返されていた


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


青葉

〈それがですねぇ、ガムテープ、ダンボール

 カッター、飲食物だそうです〉


春雨

「カードから足が付くのを警戒して

 路上で過ごすつもりなんでしょうか?」


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


時雨

「何だ…そう言う事か…」

(ニコォ


バタンっ!


提督が乗り込むと、少しもたつきながらも

タクシーは走り出した

そこへ羽黒のSUVが滑り込んで来ると

ピタリと白露達の前で止まった

白露

「前回は車の調達に手間取ったけど…」

前を行くタクシーを見据えながら

白露は吠えた

白露

「同じ轍は踏まないよ、羽黒さん出して!」

白露、村雨、春雨が乗り込むと

耳障りなスキール音と白い煙を上げて

SUVは追跡を開始した




白露達を乗せたSUVが走り去ると

T字路は静けさを取り戻していた

寂れたショッピングモールの裏路地

そこはさながらゴーストタウンである


ブワッ


突如道端に置かれていたダンボール箱が

空高く舞い上がった

風で舞い上がる高さでは有り得ない

グシャ

落下の衝撃でダンボール箱が潰れると

物音1つ無かった路地裏に笑い声が

響き渡った

提督

「クックック、ハッハッハ

 ハァーハッハッハ」

成し遂げた漢の顔で高らかに笑うと

タクシーが向かった先に

爽やかな笑顔を向ける提督


そう、あの時車に乗り込むと見せ掛け

その実、某三世よろしくタクシーを通り抜け

ダンボール箱の中に身を隠したのである

提督

「ざまぁみやがれ、そう何度も何度も

 ケツを拭かされてたまるかよ!」

(ゲラゲラ

今頃白露達は囮のタクシーと

鬼ごっこに興じている事だろう

提督

「白露達が気付く頃には

 俺は既に行方を眩ませた後…」

沈黙しながら肩を震わせる提督

その喜びから握り拳を挙げて

提督は勝利を宣言した

TEITOKU WON

提督

「俺の〜(タメ)っ勝ちだっ!」

決めポーズが誰にも見られていないのを確認し

「フッ」と笑うと目深に帽子を被り直す

身を翻し提督は白露達が向かったのとは

逆方向に歩き出した


ドンッ


ながらスマホで電柱にぶつかった様な

衝撃を受けて

提督は堪らず尻もちをついてしまった

提督

「痛たた、すいませ…ん゛!?」


\\テレレッテッテッテー//

HERE COMES A NEW CHALLENGER


見上げるとそこには何も言わず

ただ提督を見詰める時雨がそこに居た

ハイライトはお留守の様だ

提督

「アイエエエエ?シグレ!?

 シグレナンデココニ!?」

艦娘は全員やり過ごしたと安心しきっていた

提督は驚きの余り一瞬で錯乱してしまう

だが、提督は直ぐに

提督式腹式呼吸法、破嘉門(バカモン)

に拠って冷静さを取り戻す

提督

「おおお落ち着け、ま、まだ慌てる様な

 じょじょ状況じゃなひィ!?!」

…訂正、まだ錯乱中でした

………

……



提督

「ヒッヒッフー、ヒッヒッフー」

呼吸を整えると提督の思考は

徐々にクリアになっていった

提督

「(そうだ…)」

提督は考える

時雨達は後ろから追って来ていた

タクシーを通り抜けたのが"見える"筈は無い

ダンボール箱は回収待ちの放置箱に

見える様ウェザリングを施してある

位置取りも仕掛けも完璧だった筈だ

ならば何故?

その心の呟きに呼応するかの様に

時雨がゆっくりと顔を上げる

時雨

「知らなかったのかい?

 駆逐艦はね…索敵が得意なんだ」

注)ウェザリング=模型等をそれらしく

  見える様に態と汚す技法や行為


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


〜少し前、少し離れた場所〜


SUVが走り去るのを見送ると

時雨は少し離れた位置から夕立達に

"ある"ダンボールを指し示した

夕立

「うん、アレっぽい」

(クンクン

時津風

「あれだねぇ〜」

(スンスン

足柄

「私の勘も間違いないと言ってるわ!」

(ウンウン

時雨

「ありがとう、これで自信が持てたよ」

信頼を寄せる夕立達のお墨付きを得ると

時雨はホッと胸を撫でおろした

足柄

「しかし、よく気付いたわね

 提督がタクシーに乗る"フリ"で騙すなんて」

時雨

「気付いたのは春雨の発想のお陰さ

 あれが無ければ僕も今頃車の中だったよ」

可笑しそうに微笑むが直ぐに真顔に戻ると

皆へ問う様に続ける

時雨

「ずっと疑問だったんだ

 何故ダンボールを購入したのか?

 何故此処で態々僕らの前に現れたのか?」

そう語る間も油断無くダンボール箱を

注視し続ける時雨

夕立

「言われてみれば必要無い事ばかりよね

 …逃げるだけなら」

まるで気付かなかったとばかりに

不思議そうに首を傾げる夕立達に

モール内で見た

"置かれた箱から出てきた緩衝材"

の話を掻い摘んでする

時雨

「路上で過ごす為の買物、箱の中の白い物、

 不必要な再会、全てが繋がったのさ

 やり過ごすつもりなんだ…てね」


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


ハイライトの見えない時雨が

空いた手を振ると

何処からか夕立達が駆け寄って来た

夕立

「提督、捕まえたっ!」

提督の背中に抱き着く夕立

時津風

「あたし達の勝ち〜」

提督の周りをグルグルと周る時津風

足柄

「私達の勝利よ、サイッコーね!」

勝利の喜びに吠える足柄

提督

「この面子…まさか!?」

提督はある仮説に思い至ると

絞り出すかの様に呟いた

提督

「…今度からは消臭剤を撒こう」

時雨

「今度…?」

潜水艦の音を聞き漏らさないソナーの如く

即座に"今度"に反応する時雨

提督

「あ、いや、これは、その、だな

 言葉の綾というか、その何だ…(汗)」

しどろもどろになりながら言葉を探す提督

だが意外にも、時雨がそれ以上

提督を問い詰める事は無かった

時雨

「まあいいさ

 逃げたら捕まえるだけだからね…さて」

時雨はあっさりそう言い切ると

何やらポーチを弄る


\\ガチャン//


取出された金属製の手錠が提督と時雨を繋ぐ

悪趣味な事に

錠前部分はハートを形どっている

時雨

「これでもう僕達は離れられないね?」

(ジャラ

互いの腕を繋ぐ鎖を眺めて

うっとりとする時雨

すぐ隣でそれを見た提督は

懐柔するのは無理だと悟った

提督

「もう好きにして…」

ガックリと肩を落とし観念する提督

一方傍らの時雨は手錠で繋がれた方の手で

提督の手を握った

時雨

「勿論、そうさせてもらうよ」

握る手に少し力を込めて時雨は答えた

こうして数日間に及ぶ捕物劇は

時雨ENDで幕を閉じたのである




〜エピローグ〜


時雨

「こちら時雨

 対象を確保、これより帰投します

 繰返します

 対象を確保、これより帰投します」

白露

〈えっ?提督はタクシーに、あれれ?〉

無線からは困惑した白露の声が流れる

項垂れる提督とは対称的に

その手を握る時雨は晴れやかであった

十数分後

羽黒と足柄の運転する車に分乗する白露達

時雨が提督を車へと促す

時雨

「じゃあ帰ろうか、提督

 大淀さん"達"が話しがあるらしいよ」

そう言って車に向おうとした時雨だが

繋いだ手を持ち上げて提督を見つめる

時雨

「勿論…僕 "も" だよ?」




おまけ1

動機 編


提督

「今度は会議室が全損だぁ?」

椅子からずり落ちそうになるのを堪える

浜風

「はい…その…姉達が申し訳ありません」

報告へとやって来た浜風が

申し訳無さそうに頭を下げた


鎮守府が頑丈に造られていると言っても

そこは人間基準

駆逐艦いや海防艦、大発でもいいが

鎮守府に配属されている者(物)達が

本気で動こうものなら

とても耐え切れるものでは無い

装甲車どころの話ではないのだから…


浜風が退室し、執務室に1人になると

過去が走馬燈の様に過る

提督

「思えば俺も色々酷い目に遭って来たよな

 演習で他所の空母には

 煮え湯を飲まされ続け

 施設修繕のケツ持ちはしょっちゅう

 爆発事故で命の危機に陥ったり

 執務室での秘書艦の酒の始末etcetc…

 …

 …

 …

 何で俺はまだこの仕事をやってんだ?」

(クビカシゲ

それに気付いた時

提督の手は自然と1枚の手紙を書いていた




おまけ2

持ちつ持たれつ 編


青葉

「司令官、捕まったそうですよ?」

執務室で書類仕事に忙殺されていた大淀に

青葉が提督確保の報を持って来た

大淀

「そうですか…」

手を止めると、安心したのか執務机で

大淀が溜息を1つ吐く

大淀

「青葉さん、今回は色々助かりました

 お礼を言います」

そう言うと大淀が頭を下げる

青葉

「止して下さいよ〜

 青葉も鎮守府(此処)の一員なんですから

 当然ですよ、当然」

両手を振り青葉が謙遜する

それを見て大淀が立ち上がると

青葉の直ぐ隣まで移動する

大淀

「それにしても急拵えの機器なのに

 よく"あの"短時間で調えられましたね?」

大淀

「まるで前以て用意していたかの様です」

大淀が先程と打って変わり冷たい声で

青葉を見ずに問い掛ける

その顔からは表情が消えていた

青葉

「どうも、恐縮です…ですが

 大淀さんの持ってきた

 アクセス権限があってこそ…ですよ」

対する青葉は普段通りの

人懐っこい笑顔のままである

首から下げたカメラへ視線を落とすと

青葉は続けた

青葉

「しかし、大本営との連絡役とは言え

 アレって"少々"逸脱してませんかねぇ?」

愛用のカメラをイジリながら

こちらも大淀を見る事は無かった


暫し重たい沈黙が執務室を支配する

ふと大淀が目を伏せる

大淀

「あまりおいたはしない方が身の為ですよ

 好奇心は猫をも殺すと言いますから」

そう言うと大淀は執務机へと戻る

青葉

「恐いですねぇ、それって警告ですか?」

大淀の無防備な背中へカメラを向けながら

青葉が問い掛ける

大淀

「いいえ、僚艦(友人)からの

 アドバイスです」

椅子に座ると大淀は書類仕事を再開した

青葉

「友人ですかそれは聞かないと、ですねぇ

 誤認して撃たれるのは

 もう懲り懲りですから」

大淀が顔を上げ、青葉がカメラを下げる

漸く互いに視線を合わせると

2人は呑気に笑い出した


大淀・青葉

「「オホホホ」」




おまけ3

酒匂は冷静に 見てる出る タイミングを 編


阿賀野

「ハァッハァッ…

 もうっ!なんてしつこいのよ!」

阿賀野は複数の敵に追われていた

開かれた通路に油断無く意識を向ける

散発的に聴こえる爆発音は

その激しさを増している

阿賀野

「よしっ!」

息を整え装備を確認すると

戦況を確認する

ビー!

唐突にブザーが鳴り響いた


ザンザンザン…


通路が次々と閉められていく

阿賀野

「ま、まずい!」

間一髪、無事な通路へと飛び出す…が

横合いから感じた殺気に

無意識に身体が後退して(退いて)しまう

阿賀野

「しまった!?」

殺気から身を隠す為に飛び込んだ場所

だがそこが死地である事に直ぐに気付く

何故ならそこは

冷徹な刺客により退路を塞がれた

袋小路だったからだ

能代

「終わりね阿賀野姉、さようなら」

刺客…能代はあっさりと言い放つと

手にする爆弾を置いて去るのだった

阿賀野の咆哮が響くのと

爆弾が炸裂するのは同時だった

阿賀野

「能ォ代ォオーッ!!」




壁壁壁壁壁壁

柱 柱阿柱 柱 柱

   爆 爆

柱 柱 柱 柱矢柱

  能

柱 柱 柱 柱 柱

         酒




ドーン


阿賀野

「ありえないっ!またやられたーッ!?」

(頭を抱える

酒匂

「すごーい能代ちゃん また 獲った!

(SMT)」

能代

「阿賀野姉は読み易いからね」

(ヤレヤレ

阿賀野

「ちょっと矢矧!

 何で阿賀野ばっかり狙うのよ!?」

矢矧

「言い掛かりは止してよ、それに

 そう言うゲームでしょ?コレ」

(ニヤニヤ

阿賀野

「もう1回!もう1回よっ!」

(ムキィ〜

能代

「かかってきなさい」

(フフン




小ネタ

時雨

「で、何で出て行ったんだい?」

(ジャラ

提督

「それはその…

 当方にも色々思う処がございまして…」

大淀

「職務放棄は確か…銃殺刑でしたか?」

(シラー

提督

「そっそんな!?つい魔が差しただけなのに」

青葉

「で・す・が!なんと、この件

 ま〜だ大本営は知りません」

(ニッコリ

提督

「えっ!?」

時雨

「提督は"出張"していただけだからね」

(ニコニコ

提督

「ゴクリ」

時雨・大淀・青葉

「「「お返事は?」」」

提督

「…ワン」



艦?


後書き

大まかには、前回アップした
青葉「愉しませて下さいよぉ?」
より先に本SSの方が出来ていましたが
(具体的には5月、青葉は8月になってから)
放ったらかしになってました
(先に青葉の性格が出来ていたので
あっちはすぐ仕上がりました)
今回これをアップしたのは
公開を止めていたお詫び
→それなら各話の外伝でもやろうかな
と思ったからです
因みにアップするにあたり
かなりの部分をカットしました
時津風のセリフがほぼ無いのが名残りです
(足柄、羽黒のセリフがないのは元々)
最後に
先週アップするつもりだったんですが
土壇場になって読み返して
気になる所が色々出てきて
カット修整してたら大幅に遅れました(^_^;)
それではまた〜


このSSへの評価

4件評価されています


SS好きの名無しさんから
2020-03-11 22:08:04

SS好きの名無しさんから
2019-09-07 23:35:55

SS好きの名無しさんから
2019-09-04 19:40:52

SS好きの名無しさんから
2019-09-04 12:21:05

このSSへの応援

4件応援されています


SS好きの名無しさんから
2020-03-11 22:08:06

SS好きの名無しさんから
2019-09-08 09:58:18

SS好きの名無しさんから
2019-09-07 23:35:53

SS好きの名無しさんから
2019-09-04 19:40:53

このSSへのコメント

3件コメントされています

1: SS好きの名無しさん 2019-09-08 10:00:41 ID: S:Z1_pbh

提督さん素直に有給でも使ってさw
逃げるよりもその方がストレスすくないと思うよwヤンデレからはのがれられんw有給でも使ってさ。まずは逃げるための下地作りから始めんと。

2: SS好きの名無しさん 2019-09-08 11:55:54 ID: S:vdOMcN

監視役として誰かしら
付いてそうですな

3: おもいつきで行こう 2019-09-14 18:05:49 ID: S:SJj4jI

コメントありがとうございます
・本当にその通りなんですが
提督
「無駄と分かっていても足掻くのが漢
 といふもの…」
的な人なのですw

・監視…青葉と時雨があんな
調子ですから勝手にやってそうですね


時雨
「提督の休日の外出時間を考えると
 この街は遠過ぎるね」
(フーム
春雨
「(姉さんはなんで提督の休日の
  時間の使い方を
  そこまで断言できるのかしら)」
(^^;
↑没になりましたが白露型で会議した際
にこんな場面もありましたw


このSSへのオススメ


オススメ度を★で指定してください