WHO ARE YOU? rtLAM
なるべく名前を出さずにセリフだけで、どれだけ表現できるか挑戦しました。
地の分の練習でもあるので不自然なところがございましたら、ご指摘ください。
「」ドボン!!
「さあ、演習開始デスヨー!全砲門ファイヤー!!」
演習弾が直撃し、吹っ飛んでいく。ゾクッ
少し嫌な感じがしたが、気のせいであろう。
「あのゴミ、外に飛んでいったわね。距離があるほうがいいわ。アウトレンジで決めるわよ。」
「鎧袖一触よ。」
「慢心はダメ!」
三人が放った艦載機がゴミ呼ばわりした人間に向かって飛んでいくが、どんどん艦載機の数が減っていく。
「「「!?」」」
「「「なんで私たちの艦載機が落とされているの(のよ)?」」」
「クッソ、第二次攻撃隊発艦!!」
一人が、果敢にも艦載機を発艦させるが、その艦載機も撃墜されてしまう。
あとの二人は装備換装を急いでいた。周りの音がきこえなくなるくらいに集中して。
「!?直上、敵艦載機!!」
大声で、自分たちに降りかかるであろう危機を先輩の二人に伝える。
「「!?」」
しかし、換装に夢中で、すぐには動けなかったようだ。慌てて、移動しようとしても、急には動けないようだった。そんなことを思っている私もわずかしか動けなかった。艦載機の攻撃域から逃げることは、もう叶わないだろう。
「チッ!」
私は思わず舌打ちした。対深海棲艦ならば、こんなピンチなことは一回もなかったのだ。今になって、自分が大切ににされてきたことが分かった。目の前にあるのは死だ。格好つけて、大破進撃する!とか言っていた昔の自分を殴りたい。大切な戦いにも中破したら帰らせるという方針を取ってきてくれたことに感謝しなければいけなかったのに、私は最低なことをしてしまった。と今更後悔した。音が段々と大きくなってくる。大きくなるにつれて、自分の死が近づいてくる気がした。観念して私は目を閉じた。目の前に移るであろう先輩の悲惨な姿を見ないためだ。そして、恐怖を少なくするためだ。
今まで七面鳥とか言って蔑み、先輩面している癖に何にも教えられなかったこと、そして今、私たちより早く第二次攻撃隊を発艦させて最後まで抵抗した後輩に顔向けできるのか?いや、できるはずがない。もっとしっかり教えていればという後悔と、先輩なのにという不甲斐なさの両方が混じった感情が胸の中で渦巻いてドロドロしたものとなって、私の心を蝕んでいった。
しかし、急にエンジンの高鳴る音がしておかしいと思い、上を見た。そこには転身て演習場から出ていく、ゼロ戦21型と、九七式艦攻、九九式艦爆の三機が見えた。三人の艦載機約三十機を三基だけですべて落としきるなんて不可能だ。ありえないと思った。しかも、私たちの艦載機から見たら型崩れもいいところの旧兵器だった。
私は崩れ落ちた。死のプレッシャーというものだろうか。さっきの死ぬんだなと思った瞬間の感情が、目前の危機が去ったことにより、あふれ出てきたんだろう。
「一発でくたばったデスカ?」
あのゴミは立っていた。
「そうデスヨネ。簡単にくたばってしまうとおもしろくないデース。」
ただ立っていた。
「全砲門ファイヤー!!!「」
ただ立っていた。
バシャンバシャン・・・バシャン
逸れた球が水を叩き、大きな水柱を作り出す。いつもなら気にしない、目に入らないものが、より鮮明に、なぜか大切なもののように見えてしまった。
彼はまだ立っていた。球は一発も当たっていないみたいで苦しんでいる様子もない。ただ俯いて立っていただけだった。
私が見たのは、金剛っていう名前の戦艦が動かない相手に全弾外しているところだった。そして、震えながら涙を流していたところだ。いつも仮面のような笑顔を振りまいて、姉妹艦たちに指図しているところしか見ていなかったので、少し驚いた。いや、結構驚いた。
「何やってんだ、金剛のやつは?まあいい。対空しかできないって思っていたら大間違いだぜ!」
自分の言葉に偽りはない。対空カットインで重宝されているが、普通に主砲も扱える。というか、あんな直立不動な奴に当てられない戦艦よりは、主砲の扱いにはたけているつもりだ。
「ぶっ殺されてえか?」
久しぶりに撃った20.3センチ砲の馬鹿でかい反動を受け流しながら突撃していく。いつもよりも近くのレンジで撃ったから、そうそう外れることはないだろう。
バシャンバシャンバシャン
(なぜ、なぜ当たらないんだ?)
ずっと考えながら、突撃していった。イライラが溜まっていく。心なしかどんどん反動が強くなってくる。前が見えなくなってくる。見えているはずなのに、霧が視界を遮っているみたいだった。
カチン!カチン!カチン!
「!?」
視界が鮮明になった。目の前、数歩歩くだけで届いてしまう距離にゴミがいた。
(どうしたんだ?まだ球はたくさん入っているはずだろ!?)
俯いいていたゴミが、顔をあげてくる。やめろ!黒い髪しか見えなかったのが、真っ白な額が見えはじめた。やめてくれ!まつげが見えた。顔をみせないでくれ!目が見えてきた。寒気がしてくる。お願いだ!やけに赤い唇が見えた。逃げなきゃ。顎が見えた。あ、ああ。
頭がここから離れろ!戻れなくなるぞ!と警鐘を鳴らす。しかし、体が動かない。全力で逃げようとしているが、体が動かないのだ。氷漬けにされたかの如く、動けない。それどころか、ゴミの顔の釘付けになってしまっている。まるで、それを見るのが運命と昔から決まっていたかのようだった。
「あ、あああああああ!!!!!」
私にできたのは、大声をあげるという抵抗にもならない抵抗だけだった。
そして、ゴミの目が開かれる。その目は、どんな血よりも黒く、どんな火よりも赤かった。
「」ニタァ
その『バケモン』が笑った。一回も見せたことがない表情だった。もう『ゴミ』なんて言えない。目の前にいるのは『死』そのものだった。『バケモン』すら生ぬるい、そう感じるほどだった。生まれてきて、一度もこんなものを見たことがなかった。こいつと接するよりも沈んだほうがマシだと本気で思ってしまった。死ねるのならばまだマシだと。思ってしまった。
「あ、ああ。」アタマヲカカエウズクマル
バシャ、バシャ、バシャ
どんどん音が大きくなっていく。
(来ないで!)
バシャ、バシャ、バシャ
死が近づいてくる
(まだ、死にたくない!)
バシャ、バシャ、バシャ
音しか聞こえない
(もう死ぬのか?)
バシャ、バシャ、ピタッ
(え?)
何も音が存在しない世界が生まれた。音という唯一の情報が無くなった。急に海が見えてくる。
「!?」
顔をあげると、目の前にそいつがいた。もう手が届くくらいの距離だった。頭が真っ白になった。
ポン、グイ、ギュッ
あいつに抱きしめられる。意味が分からなかった。しかし、これのおかげで、熱くてしょっぱいものが顔についていて、流れていくのを感じることができた。
「お前は、反動を受け流す癖がある。だからお前には中口径主砲は向いていない。どちらかというと、小口径のほうがいいだろう。だが、対空射撃は見事だった。いいセンスだ。」
言っていることが分からなかった。立った一機だけしか落としていないのに、褒められた。それがどうしようもなく嬉しくて、たまらなかった。さっきでの死の恐怖は消え失せていた。
「摩耶ー!!くっ、俺の力で最高の勝利を与えてやる!」ドドドドド
「単騎突入か、0点だな。」サー
「チッ、逃げやがって!絶対ぶっ殺してやる!待ってろよ、摩耶!」
「」クルッ ニタニタ
「何がおかしい?」
「いや、何でも?」ニタニタ
ブゥゥゥゥゥン
「!?」
「直上、急降下」ニタ
「回避間に合うか?いや、間に合わせるんだよ!!」
結果から言おう。俺は被弾しなかった。しかし、回避できたというわけではない。ただ、相手の艦載機が撃ってこなかっただけだ。
「王手。」
喉元にナイフを突きつけられる。身動きしたらすぐにこのナイフが私の喉に刺さるだろう。
「王手、というか、詰ませたんじゃねえか?」
「それを決めるのはお前だぞ。」
喉にナイフを当てられている状況で抵抗して無事に抜け出すなんて、無理に等しい。なんで今までゴミ呼ばわりしていたか分からないほどの戦闘力だった。こんなに強いなら今出しているみたいに、オーラを常時出してほしかったものだ。
「ギブ、降参。投降します。」
「よろしい。」
「あまいな。」
「非戦闘員と戦意のない奴には優しいからな。」
「ふん。どーだか。」
「今回は俺の負けだ。だが、次は勝つ!」
「戦場だったら次はねえんだよ。」
「ああ、肝に銘じておくよ。」
『ピピッ、ザザッです。直ちに鎮守府へ帰投してください!繰り返します!深海棲艦の大規模襲撃です!数、二百以上!!』
「あーあー。聞こえているか?」
『提督?』
「ああ、お前らの提督だ。」
「提督からの最後の指示だ。全艦隊帰投セヨ。帰投ガ完了シタトキニ、正式ニ大淀ヲ臨時提督トシ、鎮守府ヲ防衛セヨ。全艦沈ム事ハ、前任ノ我ガ許サナイ。」
「鎮守府から五百メートルのところに防衛ラインを引いて待機しろ。時間は稼ぐ。」
『嫌です!あなたも演習をしていたのでしょう!?だから、早く帰ってきてください!!』
「俺はな、決めたんだよ。『部下より先に死ぬって。』」
『嫌です!嫌!!帰ってきてください!!!」
「悪いな。」
帝国海軍ノ伝統タル夜戦ニオイテ必勝ヲ期シ突入ス
短編です。地の分を入れると難易度が格段に跳ね上がるのが分かりました。
出して欲しい艦娘がいたらコメント欄にてお願いします。
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