2020-05-26 03:01:37 更新

概要

新人提督が深海棲艦に襲撃された元ブラック鎮守府に就任したようです。


前書き

この話は結構長編となると予想されます。
キャラ崩壊等あり。
コメントしていただけると嬉しいです。
地の文マシマシで文学作品みたいにしたかった・・・

祝1000PV!!!読んでくださった皆さん本当にありがとうございます!!
お気に入り登録ありがとうございます!!
遂に完走しました!!
コメント、リクエスト等お願いします!!


??「ああ、わかった。」


??「よろしく頼むぞ。」


??「信頼の名は伊達じゃないさ。」


??「まだ改装前だがな。」


??「面白くないな。そこは合わせてくれるのではないのかい?」


??「儂には、ちと難解じゃったな。」


??「老いぼれてしまったのかい?」


??「そうじゃな。今の地位も与えられてなったにすぎん。」


??「もう若くないのだから、無理はするんじゃないよ。」


??「奥さんみたいなことを言ってくれているが、奥さんになってくれるのかのう?」


??「なるわけないよ。あんたみたいな老害は特に。」


??「そんなこと言っていると永遠に結婚できないぞ。」フォッフォッフォ


??「いいのさ、それでも。」


??「恋愛に冷めているな。もうお年頃は過ぎてしまったかな?」


??「は?」


??「すまん、すまん。おばさんに年のことは言ってはいけなかったな。」ハッハッハッ


??「ぶっ殺すよ。」


??「おー怖い怖い。」


??「後ろにも気を配ることを推奨するよ。」


??「ご忠告どうも。」


??「もうそろそろ時間だ。」


??「そうか。わかった。」


??「またね。元帥。」


元帥「絶対に沈むなよ、響。」





 

新人提督着任す!




新人提督(以下提督)「ここが洋野鎮守府か。」


私が着任する鎮守府は、敗戦濃厚で、爆撃等されてもまだ、一部を綺麗にして使っている司令部という感じだった。全体的にボロボロで、いつ崩れてもおかしくはないと思わせるような損傷具合だった。しかし、指令室だけは綺麗になっているようで、遠目から見てもはっきりと分かった。鎮守府の土地は膨大だったが、小さい建物が二つしかなく、廃校した離島の小学校と表現したほうがしっくりきた。しかし、嫌な予感がする。全く人気がないのだ。ここは治安が悪いと聞いていたので、ドンパチやっているのだろうなと推測してきたのだが、砲声や怒号、悲鳴一つ聞こえないのだ。おかしいと思いながらも大きいほうの建物を目指した。




艦娘見ゆ!




やはり、鎮守府は軍事施設とは言えないような荒れ具合だった。壁には穴が開いてたり、床に穴が開いていたり、クモの巣が張っていたりしていた。どんどん歩を進めていくと、鉄の匂いと、甘くて饐えた匂いがしてきた。それに、進んでいくと匂いが強くなり、赤黒い固形物も多くなっていった。二階の講堂に入った瞬間「ヒュン」と、頭上で音が鳴った。咄嗟に後ろに飛び退く。この鎮守府に太陽光以外の光源はなかったので、目が慣れてきたようだ。音のした先に人間のようなものが立っているのが見える。一応、敵意がないことを示すために、両手をあげて「敵じゃない。」と言っておく。しかし、「ふふふ。」というかわいらしいとは言えない、大人びた含みのある笑い声が聞こえた。と同時に長い槍状の物を振り下ろしてくる。ハルバードか?とよけながら考える。目の前でバキッという大きな音が鳴り、引き戸の枠に当たって、長物の動きが止まる。薙刀だ。薙刀の刃先は赤黒くなっていて本来の銀色の光をみせてはくれなかった。薙刀自体が、血を求めているようにも見えた。薙刀が動き出し、構えなおすのが見えた。


提督「貴様!上官に刃を向けるとは何事だ!」


??「うふふ、冗談は死んでから言ってくださいねー。こんな小さい子供が上官な訳ないじゃないですかー。上官だとしても、殺しますからー。」


提督「!?」


??「当たり前ですよねー。こんなに酷使するのに、自分たちが危険になったら逃げるなんて許されるわけありませんよねー。ねえ、これから死ぬ人さん。」


提督「趣味が悪いんだな。」


??「子供は、年上の人には敬語を使わないといけないのよー。そんな常識も知らないのかしらー?」


提督「ああ、知らんな。急に刃物ふるって殺そうとしている奴に敬意など払えると思っているのか?」


??「チィ、一発で死ねばよかったものを。これだから生意気な人間は嫌なんですよ。」


提督「なんだ。あの抜けた調子はどこへ行ったんだ?もう余裕がないのか?」


??「うるさい害虫ですこと。」ウフフ


雲が途切れたのだろうか、急に強い太陽の光が入ってくる。


そこにいたのは、得物を持った、華奢なお姉さんがいた。体には怪我をしているところは数えきれないほどあり、骨が見えているところもあった。


提督「おまえ、早く怪我を治さないと死ぬぞ!」


??「あんたたちがつけた傷でしょうが!!」


彼女の足が震えている。もう立っているのもやっとなんだろう。それでも気力で立っている。そんな痛々しい姿に、俺は


無意識で近づいていた。


彼女のことだけしか考えていなかった。


彼女のことを救えればそれでよかった。


彼女の突き出してきた得物を回避し、彼女に抱き着いた。


??「な、なにしているのかしら―?今すぐ離れないと、その首落としますよー。」


彼女に密着していると分かる。彼女は常に震えていることに、体には力が入っていないことに、もう立つ力なんて残っていないことに。


俺は、感情のままに言った。


提督「首を落とされとも構わない。お前を救えるならな。」


??「え?」


彼女は、力が抜けるように崩れ落ちた。彼女を抱え上げ、お姫様抱っこをする。


提督「入渠だな。早くドッグに行かなくては。」


彼女は、思ったよりも軽かった。かすかだが呼吸はしている。まだ間に合う、助けられると、自己暗示をかけながら、ドッグへ急いだ。


重傷者を緊急で処置するなら一回のほうが都合がいいだろうと思い、階段を駆け下り、別館に駆け込んだ。


走りまくって、ようやくドッグを見つけた。ボロボロだが使えるだろうと判断し、床に彼女を置いてから、蛇口ひねる。


一個目、何も出ない。


二個目、何も出ない。


三個目、緑色に染められた液体が出てきた。常温の水ではなく、お湯の状態で出てきた。


お湯が溜まる前から、浴槽に入れ、無事であってくれと祈った。


ピピッという軽快な音がきこえて、タイマーのところに、3:45と出てきた。


ほっとし、その場に座り込み、目をつぶった。


しばらくして、他の艦娘を探すために、歩き出した。ドッグを出ると、一人の少女が私に気が付き、単装砲を向けてきた。


足は震えていて、立っていることだけで精一杯という感じだったし、単装砲を向けているが震えていて、しっかりと狙えていない状態だった。


??「あ、あんた。そ、それ以上近づくと撃つわよ!!」


そんな脅し文句何回も聞いてきたし、声に覇気もない。だいたいこんなことを言うやつは、引き金を引けないのだ。だが、刺激をしてしまったら、自棄になって撃ってくるということもある。興奮状態の相手には、刺激を与えないのが一番だが、後退してもらちが明かないし、そもそも、けがを早く治してあげないとあの子の命が危ない。だから、慎重に少しずつ近づいていく。なるべく刺激しないように、急激な行動は起こさない。人間のストレスというものは、長期的に段々と迫ってくる脅威に対してより、急激に状況が変化したことに対することのほうが感じやすくなる。だから、刺激しないように近づいていく。本当は両手をあげて、攻撃する意思はないと主張したいが、それはあまりにも危険すぎる。手をあげたことに対して驚き攻撃してくる可能性があるかもしれないからだ。それくらい、追い詰められている人の対処は慎重にしなくてはならないのだ。


??「あ、いや!こ、来ないで!」


??(弾なんてもうないのに!殺されちゃう!お願いだから来ないで!)


私は走り出した。距離を詰める。「ひっ!」と、恐怖から出る声が聞こえる。とても小さく、か細く、弱弱しいが、死にたくない、まだ生きていたい。そんな感情がこもっていた声だった。何回も聞いた声だ。この声を聴くたびに、血に塗れた記憶が呼び起こされる。


少女は気が付いていないのだろう。さっきからずっと、カチン、カチン、という音がしている。弾切れか、ジャムったのだろう。この距離なら走れば、再装填している時間はない。そう思って、走るスピードを速めた。


私は、少女を抱きしめていた。何故かはわからない。ただ、少女を抱きしめていたという事実がそこにはあった。


あの人は、

「辛いことがあったり、悲しいことがあった子には、抱きしめてあげることが一番の治療法だぞ!『薬』をあげてやんな。優しさというね。たとえそれが、人の為だとしてもね。」

とか言っていたのを思い出した。そんなことを思い出していると、少女は泣き出してしまった。声をあげて泣く大号泣というやつだった。その声は、今までの恐怖、悲しみ、絶望、その小さな体の大きな心に溜めていた負の感情を吐き出すようだった。すごい声で泣くので、嫌だったのかと思い、離れようと力を入れるが、どこにそんな力残っているのかと思うほど、強い力で抱きしめられていた。まるで、蜘蛛の糸の縋り付くカンダタのようだった。放してしまえば、もう戻っては来られない暗い暗い闇に落ちて行ってしまうかのように。



泣き疲れたのか、可愛らしい寝息を立てていた。抱きしめている力も弱くなり、何とか抜け出すことに成功した。軍服でくるんで、比較的綺麗なところに横たえた。「早く、治してやるからな。」と小さな声で言って、その場を離れた。声に出したのは、自分の誓いを目標とするためだ。


大きいほうの建物に戻って、三階の探索を開始した。執務室と宿泊できるような部屋がいくつかあった。しかし、艦娘はいなかった。


別館にて、倉庫的なものを見つけ、緑色のバケツ数個と、ビニール袋に入っている布団のセットを見つけた。布団の一式を持ち上げ、さっき、横たえた少女のところに向かった。


少女は、まだ寝ていた。ビニールを破き、布団を出し敷いて、少女を布団の上に乗せる。そして、急いでバケツを持ってくる。バケツのふたを開けてみると、少ししか入っていなかった。一番重いバケツを持ってきたが、それでも少ししかなかった。しかし少量だとしても、傷口はふさげるのでは?と考えた私は、高速修復材を、手に取り、傷口にかぶせるように塗っていく。すると、傷口が一瞬にして消えてしまった。そのあとは、大きな傷口を優先的に高速修復材を塗っていった。


塗り終わり、先ほどまでの痛々しい姿ではなくなったが、まだ安心はできない、入渠ができるようになったら、すぐに入渠させなきゃ。と考えながら、布団を執務室に運ぶため、布団を担いで、執務室に向かった。


色々としていたら、あの子を入渠させてから、四時間が経過してしまった。懐から酒を取り出す。昔っから飲んでいるものだ。これを飲むと体が軽くなるから不思議だ。体が熱くなる。筋肉が温まる。集中力が増す。いつもこんなことをしなければ、生き抜けなかったな。と昔を思い出しながら、別館に歩き出す。


開けっ放しだったっけ?と思いながら、別館に入る。


横から顔面目掛けて、パンチが飛んできた。風切り音で、何とか気が付き、ガードを作ってパンチを受けた。


ドォォォン


壁にぶち当たったった。キィーンという耳鳴りと痛みが、倒れこんだ私に立つことを許さなかった。ここにいては危ないと頭では警鐘がならされている。しかし、体は動いてはくれなかった。首をつかまれ、持ち上げられる。何か言っているのは、口の動きで分かるが、視界が霞んでいるのと、耳鳴りが、その言葉を理解させることを阻む。どんどん力が強くなっていく。もがいて脱出しようと試みるが、びくともしない。


やっと死ねる。そう思いながら、目を閉じようとしたが、もう一つの人影が見えた。目を見開く。しかし、すぐに瞼が重くなり、目を閉じた。



??「何しているの武蔵?」


武蔵「なんで止めるのだ?人間は全員敵とか言っていなかったのか?龍田?」


龍田「この人は私を入渠させてくれたの。私は命を救われた。だから、私がこの人の命を救ってあげる番。もし、敵対するなら相手になってあげるわ。それに、人間なんか殺そうと思えばいつでも殺せるでしょ。」


武蔵「それもそうか。まあ、今回だけは見逃してやることにするか。」


武蔵が人間から手を離した。ドサッという音がして、人間が崩れ落ちた。意識はない。人間に駆け寄り、生きているか確認する。胸に耳を当てて、心臓が動いているか聞いてみる。小さいながらも、心臓の音は聞こえた。安心し、大きく息を吐き出した。


龍田「ありがとう。」


武蔵「無意味な争いはしたくないからな。」


龍田「理解能力がある子はモテるわよー。」フフフ


武蔵「あいにく、男は私より強い男と決めているのだ。」


龍田「あら、そうなの?でもあなたより強い男なんていないんじゃないかしらー?」


武蔵「ああ、今まで出会ったことがない。」


龍田「理想は高いことはいいことだけど、高すぎるのも考え物よー。」


武蔵「まあ、最悪私は、結婚できなくてもいいからな。」


龍田「孤独死するのー?」


武蔵「どうせ沈めば、同じさ。」


龍田「それもそうね。」


武蔵「んで、こいつは?」


龍田「自称提督って言ったところかしら。」


武蔵「自称?」


龍田「だって若すぎるでしょ。多分中学生くらいじゃない?」


武蔵「身長的には小学生くらいか?」


龍田「だから、本当かはわからないのよ。」


武蔵「叩き起こして聞いてみるか。」


武蔵が右手をあげて、人間を叩こうとする。人間と武蔵の手の間に手を置く。武蔵の手と私の手が当たる。ゴォォォンという爆発音にも似たが工廠に響いた。


龍田「だからぁー、まだ殺すのは早いって言っているでしょ。」


武蔵「むう。私は子供は嫌いなのだ。大人の事情も知らないで、無邪気に自分のしたいことばかり言ってきて・・・」ブツブツ


武蔵は、不満をブツブツと長ったらしく言っているが、そんなことは今の私にとってはさほど重要ではない。さっきの衝撃波で、死んでしまってはないかと、また胸に耳を当てた。大丈夫、まだ動いている。そのことが確認できただけで、胸がいっぱいになった。この気持ちは今まで味わったことがなかったが、不快ではなく寧ろ、快いものだった。


それから少したって、雷ちゃんが来た。


雷「何の音?さっきの音凄かったわよ。」


と言ったところで、人間を見つけたようだ。


急に慌てだして、ブルブルと震えながら、


雷「ね、ねえ、この人死んじゃっていないよね?まだ生きてるわよね?」


と聞いてきた。


雷「ねえ、龍田さん、武蔵さん答えてよ。ねえ、ねえってば!」ハイライトオフ


ここまで、雷ちゃんが人間に執着し、ヒステリックになってしまっているのは、見たことがなかった。ここで間違った答えを答えてしまったら、まずいことになる。そんな感じがした。だから慎重に言葉を選んで、


龍田「大丈夫だわー。さっき、ちょっと武蔵がおいたをしちゃったの。でも心臓は動いているからまだ生きているわ。」


と答えて、雷ちゃんを抱きしめた。雷ちゃんは、武蔵のことを目線で殺そうとするほど、にらみつけていた。



お目覚め?


??「・・・ん。・・・さん。✖✖さん!」


提督「はっ!」


??「やっと、目が覚めましたか。遅いですよ!」


提督「すいません。というか、どこから話しかけているのですか?見当たらないのですが?」


真っ白な空間に一人だけ。辺りを見回しても、何もない空間に一人だけ。ここには、何もない空間が広がっていて、どこからか分からないが、声が聞こえてくる。とても寂しいと感じがら、声の主を探す。


??「✖✖さん。ここですよ。ここ。こーこ!!」


小さな浮遊する人型の何かが私の隣にいた。


提督「そこにいたのですか。気が付きませんでした。」


??「気が付かないなんてひどいです!!」


提督「すいません。」


??「まあ、それが✖✖さんらしいのですが。」


提督「ここはどこですか?それと、あなたは誰?」


??「ふっふーん。ここはあなたの夢。それで、私は妖精です。今回は初めて提督さんになったあなたに、挨拶をしに来ました。挨拶だけなので、すぐに目覚めてもらいます!good lack have fun!!」


そう言われて、すぐに目を覚ました。


目を開けると、そこには顔があった。驚いて、顔をあげてしまったため、ぶつかってしまった。結構痛かった。


提督「すいません!驚いてしまって!」


と言って、すぐに謝罪する。


??「いいえー、いいですよぉー。事故みたいなものですしぃー。それとぉー、入渠させていただき、ありがとうございます。」


提督「当然のことをしたまでです。すいません、名前が分からないので、名乗ってもらいたいのですが。それと、後ろに隠れている人たちもよかったら名前を教えていただけませんか?」


??「私は、天龍型二番艦軽巡洋艦の龍田よぉー。」


龍田「もう二人とも出てきたらぁー?ばれているんだしぃー。」


コツコツコツ


??「私は、大和型二番艦の武蔵だ。」


タタタタ、ギュッ


??「私は、雷(いかずち)。雷(かみなり)じゃないわ。そこのところもよろしくね。」


武蔵「いきなり殴ってしまって本当に申し訳なかった。事情を知らずに、こんなことを。」ドゲザ


提督「頭をあげてください。そのことはいいです。ただ、」


武蔵「ただ?」


提督「武蔵さんのけがの手当てをしないといけませんね。」


武蔵「私への罰はないのか?上官を殺そうとしたのだぞ?」


提督「女の子の日だったってことで。」


武蔵「なんだそれ。」ハハッ


提督「私にとってそんなことは重要じゃないのです。一刻も早く怪我を治してもらわないと・・・」


雷「もらわないと?」


提督「みんなで美味しいご飯を食べられませんからね!!」グゥー


龍田「ふふっ、面白い人だわぁー。」


提督「それではドッグに向かいましょう。」


三人「はい!」




鎮守府の問題


提督「くっ、資源不足ですか。」


ドッグに入り、蛇口をひねったが、お湯が一滴も出なかった。タイマーが出てきたところには、資源不足の四文字が書かれていた。


龍田「まあ、こんなボロボロですしねぇー。」


提督「本当に申し訳ない!!」アタマサゲ


武蔵「頭をあげて欲しい。それと、あなたが謝ることではないさ。」


提督「そういえば、バケツがあった気がします。少量でしたが、傷口をふさぐ程度だったら足りると思います!すぐとってくるので待っていてください!!」タタターー


雷「あ、行ったしまったわ。この雷に頼ってくれてもいいのに。」


武蔵「まぁ、元気のあるやつに任せておけばいいさ。」


提督到着


提督「はぁ、はぁ、結局見つかったのは、バケツ四分の一くらいでした。何もしないよりはいいと思うので、塗ってきますよ。」


言いながら、高速修復材のふたを開ける。


武蔵「お願いする。」


提督「それでは、始めます。」


武蔵の体に高速修復材を塗っていく。どこもかしこも、切り傷や、擦り傷があり、その一つずつに優しく塗っていった。作業開始から、十分くらい経ち、一応目に見える怪我はすべて治した。


提督「さて、これで応急処置は終わりましたがやることがいっぱいですね。まず、ご飯、着替え、睡眠の三つの選択肢がありますが、何をしたいですか?」


龍田「こんな汚い体で寝かせるの?」


武蔵「流石にこんな状態では寝たくはないな。」


雷「こんな汚い姿で寝ちゃうと、体に悪いわ。」


提督「そ、そうですよね。すいませんでした。」


龍田「どんな環境で育ったのか分かるわー。」


提督「お恥ずかしい限りです。」


武蔵「茶化すのはこれくらいにして、貴様にやってもらいたいことがある。」


提督「分かりました。なんでしょう?」



本館の一階の大きな部屋に来ていた。談と書かれているだけで、その後の文字はかすれていて読めなかった。


ノックして、一応反応をみる。


提督「入りますよー。」


と一言告げてから、入室する。相変わらず、返事はなかった。


奥に少女がいるのが見えて、彼女に近づく。彼女は、私が見えていないようで、入口のところを凝視していた。暗いからだろう。


近づくにつれて、震えが大きくなるのが分かった。


しかし、どんどん近づいてゆく。そして、もう手が届く距離に近づいていて、声をかけようと、口を開き、のどを震わせようとしていると、


??「ひぃっ!き、君は本当に提督なのかい?わ、わたしで実験をするつもりじゃないのかい?」


と、悲鳴が混じりの声で問われた。私はあえて冷たい言葉で、


提督「そうだったらどうしたい?」


ときいてしまった。


??「もう、解体してほしい。苦しい思いをして生きるより、断然マシだ。」


と懇願するような声で返された。


私は思わず抱きしめた。


数分が経ち、後ろから「いつまで抱き合ってるのぉー」と言う声が聞こえたところで抱擁を解いた。


??「私は響だ。」


と、か弱い声で名乗ってくれた。彼女にはこれが今の限界なのだろう。彼女が笑って人と過ごせるようにしなくては、という、使命感にかられた。


提督「よろしくお願いします、響さん。少し、別館に行きましょう。いいですか?」


響「分かった。だが、龍田さんも一緒に来てほしいな。」


後ろを見ると驚いた顔の龍田がいたが、すぐに頷いてくれた。


響を抱き上げ、体を横にし背中とひざのところを持ち腕を私の首に回すように指示する。体に触れようとするときに少しピクッとしたものの、抵抗はしなかった。


響「これはさすがに、恥ずかしいな。」


と独り言のような小さな声で言ってきた。


ガラガラと相変わらず、油が足りない引き戸を開けようとしたが少し開けたところで止めた。


提督「?」


龍田「何やっているの?まさか、固すぎてあかないとか言わないわよねぇー。」


提督「いえ、少し視線を感じたものでして。」


引き戸を再度あける。しかし、開けきる前に、ピュッと小さくも確かな風切り音が聞こえた。


提督「響さん!!」


提督は力を込めて扉を開けていたため、射線からは外れていて、響が引き戸のちょうど前に立っていた。


急いで、響を抱え込む。


ドスッ


提督「くっ!響さん大丈夫ですか?どこか痛いところはありませんか?」


響 龍田「「え?」」


提督の下に赤い液体が溜まっていくのが見えた。そしてそれはどんどん広がっていく。


提督「私は大丈夫ですよ。」ニコ 


提督は、微笑んだ後すぐに、響側に力なく倒れこんだ。


龍田「提督!?」


??「珍しいわね。あなたが人間を提督呼びするなんて。明日は、空襲されるのかしら?」


龍田「翔鶴!!」ギリッ


翔鶴「そこのゴミのとどめを刺したいのですが。」ギリギリ


翔鶴は、第二射を射れる状態で近づいてきた。


??「あーあ、気絶しちゃってるよ。あんなにしごいたのに情けないなぁ。これが平和ボケってやつ?まあいいや。」ボソボソ


独り言を言いながら謎の女は、提督に近づいて行った。筒状のものを取り出し、円錐になっているほうを提督の首に押し当てて、最上部にある赤い丸いものを下に押し込む。すると、プシュッと音がした。謎の女は、ナイフで彼の体の矢を受けたところを少し切り、矢を取り出した。


??「お嬢ちゃん出ておいで。」


と手を差し伸べて、響を引っぱり出す。その動作には、提督の時にはなかった優しさがあった。


??「はい、そこの保護者二人。こいつは二時間くらいで起きるから。それじゃあ、また会う日が来ないことを願うよ。後、そこの白いの。一回だけは見逃してやる。二回目はないと思え。」


翔鶴「何あの女?知り合い?」


龍田「いーえー。?でも、あなたはしてはいけないことをしたの理解してるー?」ハイライトオフ


翔鶴「人を殺すのがいけないこと?あなたも同罪じゃないかしら?」


龍田「私たちに害になる人間だけよー。殺すのは。」


翔鶴「あっそ。まあ、高速修復材を使わせてもらった恩はあるんだけどね。でも人間は全員ゴミよ。」


龍田「害になる艦娘も殺さなきゃいけないのかしらぁー。」


翔鶴「じゃあ、賭けをしましょうよ。もし、このゴミが二時間で起き上がらなかったら、とどめを刺す。起き上がったら、そうね。この人を慕ってあげるわ。私のとっては結構な屈辱だからいいのではないのかしら。」


龍田「ホントむかつくわね。」ナギナタカマエ


翔鶴「貴方が私にかなうとでも?」ユミカマエ


龍田「あらー?飛行機しか飛ばせないただのカカシの負けるとでも?」


翔鶴 龍田「「ふふっ、じゃあ死んでくださ『や、止めるんだよ!!』」」


響「ここで争っても仕方がないんだよ!!まだ、司令官も生きてるし、争ったら本当に死んじゃうんだよ!!」ビクビク


龍田 翔鶴「「響ちゃんが言うなら仕方がないわねぇ。(ですね。)」」



提督「ん?ここは?何をしていたんだ?」


三人「ジィー」


提督「うわっ、驚かさないでくれ。」


提督「本当に二時間きっかりだわぁー。」ボソボソ


??「何あの女?」ボソボソ


提督「えーと、お名前を教えて欲しいのですが。」


??「私は、五航戦の翔鶴です。先ほどは、不審者と間違えて射ってしまい、申し訳ございませんでした。解体されてもよろしいのですよ。」


提督「解体だなんて。そんなことはしないですよ。」


翔鶴「でもっ!!」


提督「殺気立っているのはわかっているのに警戒を緩めた私が悪いのです。」


翔鶴「そうですか。」


龍田「それで許されると思っているのかしらぁー?」


提督「龍田さん、そこまでです。それにあなたも薙刀をふるってきたでしょう?」


龍田「ぐっ。」


翔鶴「提督を攻撃していたのにも関わらず、そんな物言いをしていたのですか?やはり、けいじゅ『そこまでです。』」


提督「響さんもこんなことは聞きたくないでしょうし、私も聞きたくはありません。」


龍田 翔鶴「すいませんでした。」


提督「これから、一緒に出撃するのですよ。仲よくとまではいきませんが、そこまで険悪では作戦に支障が出てしまいます。」


龍田 翔鶴「了解しました。」


提督「では、」


三人「「「では?」」」ゴクリ


提督「響さんの怪我の治療をしましょう。ささ、はやくいきますよ。」


チョンチョン


龍田「んー?」


翔鶴「あの人ってなんか抜けてない?」


龍田「結構抜けてるところはあると思うわよぉー。それより、ゴミ呼ばわりはもうやめたのー?」


翔鶴「さっき、この人を慕うことが屈辱って言いましたが、そのことを訂正するくらいには心が変わりました。あと、殺せなかったし、死ななかった。私はあの人に希望を抱いているのかもしれません。」


龍田「あっそ、好きにすればいいんじゃないのぉー?でも、私は殺そうとしたことを忘れないから。」ギロ


翔鶴「フフフ、恐いわ。」



一方その頃


提督「あれ、減っていますね。足りるでしょうか?」


響「はじめてなんだ。優しくしてくれ///」


提督「?大丈夫ですよ。安心して、身を任せてください。」


五分後


提督「やはり、全回復まではいきませんでしたか。一応傷口はふさがりましたが、早く入渠しなきゃいけませんね。」


響「ありがとう司令官。」


提督「いえいえ、これも私の役目ですから。」


提督「では、本館に戻りましょうか。」



提督「この鎮守府にあなたたち以外の艦娘はいますか?」


龍田「いないわー。そこにいる五航戦で最後よー。」


提督「そうですか。では、食事をしましょう。腹が減っては何とやらと言いますし。」


響「腹が減っては戦は出来ぬと言いたいのかい?」


提督「そう!それです!響さんは物知りさんなんですね。」ナデナデ


龍田 翔鶴 武蔵(こんな奴が提督で大丈夫か?)


雷「あー!響ずるーい!雷もなでてよ司令官!!」


提督「よしよーし。」ナデナデ


雷「っふぁぁぁ。」


響「雷の方こそずるいじゃないか。私が褒められたんだ!」


雷「そんなカリカリしないの。白髪になるわよ。」


響「司令官、私もなでて欲しい。」


提督「分かりました。」ナデナデ


三十分後


雷 響「zzz・・zzz・・・」


提督「ようやく寝付きましたね。寂しかったのでしょう。なるべく近くにいてあげてください。私は買い出しに行ってきます。」


武蔵「私たちは何をしておけばいい?」


提督「比較的汚くない部屋の掃除をして、寝れるようにしておいてください。ご飯を食べたらすぐに休みましょう。衣類も買ってきます。サイズとかはわからないので、大きめの物を買ってきます。暫くは出撃させないつもりなので、ゆったりとしていていいですよ。」


武蔵「そうか。なあ、提督。」


提督「はい、なんでしょう?」


武蔵「貴様は、私たちを兵器として見ないのか?」


提督「人間のほうが兵器に近いですよ。あなた方より。」


武蔵「成程。私たちを無碍に扱わないことはわかった。」


提督「すいません。私の自論みたいなものなので、聞き流していただけると嬉しいです。」


武蔵「私たちは、貴様に感謝している。それだけは忘れないでくれ。」


提督「感謝されるようなことなんてしていませんよ。私はただ部下が苦しむところを見るのは嫌なんです。」


武蔵「部下、ときたか。では私たちは、上官とでも呼ばないといけないのかな?」フフ


提督「お好きな呼び方で構いませんよ。」


武蔵「では、今から貴様のことを相棒と呼称させてもらおうか。」


提督「結構、親近感を感じる呼称ですね。」


武蔵「まあな。好きに呼んでいいと言ったのは貴様自身ではないか。それともダメなのか?」


提督「い、いえ、大丈夫です!」オロオロ


武蔵「面白い人だな。」


提督「皆さんが待っているので、買い物に行ってきます。」


武蔵「あと、言い忘れていたことがある。私が相棒と呼んだやつは、地獄の底まで追いかけていくからな。覚悟しとけよ。」


提督「すごいですね。」


武蔵「早く行ってこい。腹が減って、仕方がないんだ。」


艦娘清掃中


提督「ただいま戻りました。」


響「司令官!!」タタタギュッ


雷「雷はお姉さんだから我慢するわ。」


提督「雷、こっちに来なさい。」


雷「司令官がそういうなら仕方ないわね。」トテトテ


雷「司令官、雷が来たわよ。」


提督「いい子ですね。」ナデナデ


響「私もなでて欲しいな。」


提督「分かりました。」ナデナデ


武蔵「相棒、はやく飯を出したらどうなんだ?」


提督「すいません。すぐ出します。」タタタ―


十分後


提督「できました。お二人も呼んできてください。」


武蔵「了解した。」



提督「では、いただきます!!」


皆「いただきます!!」


提督「皆さん、食べながらでよいので、聞いてください。」


提督「男物ですが、着替えを買ってきました。お風呂には入れませんが、着替えるだけでもだいぶ変わると思うので、これを使ってください。」


提督「しばらくの間は休みなので、ゆっくり体を休めてください。」


提督「それでは。」


龍田「提督?なんで出て行こうとするの?」


提督「せっかくのご飯なのに、上官がいては空気が詰まるかと。」


翔鶴「そんなことはありません。一緒にいてくれないと不安になってしまいます。」


雷「そうよ、司令官がいないとみんな落ち込んじゃうんだから。」


提督「そうですか。では、私は、みんなが食べ終わるまでここにいますね。」


響「司令官は、食べないのかい?」


提督「もう食べてきたから大丈夫です。」


雷「もう、皆がお腹空いているのに、先に食べるとかマナー違反よ。」


提督「すいませんでした。」


雷「わかればいいのよ。わかれば。」


提督「武蔵さん後で話が。」


武蔵「?分かった。」



武蔵「話ってなんだ?」


提督「調理器具の使い方を教えておこうと思いまして。」


そうして、私は武蔵にガスコンロの使い方を教えた。


翌朝


武蔵「起きたか。」


龍田「提督は?」


武蔵「書置きがあった。」


買い物をしてきます。すぐに帰るのですが、朝食には間に合いそうにはないので、朝食は武蔵さんが作って食べさせてあげてください。


雷「おはようございます!!」


武蔵「早速だが、起きていないやつを起こしてきてくれ。」


雷「?私が最後だけど?」


武蔵「なに?」


龍田「響ちゃんと、五航戦は?」


雷「探してきます!!」



?「やっと、ターゲットが来てくれたよ。元帥。」


元帥「そうか。これまでよく頑張ったな。」


?「じゃあ、またね。」


元帥「絶対、沈むんじゃないぞ。」


?「不死鳥と呼ばれた私が沈むとでも?」


元帥「そうは言っても、昔の栄光だ。注意することに越したことはないだろう。」


?「じゃあ、切るよ。」


元帥「ああ、達者でな。」


?「元帥のほうもぽっくり逝かないでよね。」


元帥「ああ、頑張る。」




翔鶴「新しき風、か。」


翔鶴「あー、煙草を吸っているときだけは幸福なのよね。」フゥー


提督「あー、重い!!」


翔鶴「提督さん!!」ポトッ グリグリ タッタッタッ


提督「すいません、翔鶴さん手伝ってもらって。」


翔鶴「いえ、私たちが本当はやることなんですけど、世間を知らないものでして、本当にすいません。」


提督「いや、君たちはこんなことをしなくていいです。戦場に出てくれているいりだけで。私たちは戦ってもらっているだけで幸せ者なのに、上のほうは、君たちを兵器として扱っていて憤りを感じます。」


翔鶴「そんな私たちのことを思ってくれる提督に会えただけで、私たちは幸せ者ですよ。」


提督「こんなバカげた代理戦争なんて早く終わらせなきゃいけないのに。」


翔鶴「そんな大きなことを考えるのもいいですけど、気が滅入ってしまいますよ。」


提督「そんなものなのですか?」


翔鶴「そうですよ。」


提督「そんなものですか。」


翔鶴「早く行きましょう。みんなが待っています。」


提督「戻りました。」


ヒトフタマルマル、大きな袋を抱えた提督と翔鶴さんが戻ってきた。中身とかは気にならなかった。ただ彼が帰ってきたことがうれしかった。


提督「おう、雷さん。かなり元気のよい飛び込みでしたね。」


雷「司令官!!」


提督「よしよし。」ナデナデ


提督「響さんはどこですか?」


龍田「それが見当たらないのよ。」


提督「そうですか。」


提督「私はこれから資材をもらいに行ってくるので、待っていてください。ご飯の時は武蔵さんがやってくれます。それでは。」


武蔵「必ず戻って来いよ。相棒。」ギュッ


提督「必ずは保証できないですね。」


武蔵「そうか。分かった。だが、私は本気だからな。」


提督「了解しました。」



二日後 執務室


龍田「食料はまだあるのだけれど、提督が帰ってこないわー。」


武蔵「そう悲しそうな顔をするな。駆逐艦たちが不安がるだろう。」


翔鶴「そんな人を信じられないから軽い女って言われるんですよ。」


龍田「ツッコむ気も起きないわ。」


翔鶴「あら、そんなに元気がなくなっていたとは。やはり装甲も心も紙ってことですね。」


武蔵「そこら辺にしてやれ。」


翔鶴「武蔵はどう思っているのですか?」


武蔵「まあ、もう少し待ってみることにする。」


翔鶴「楽天的ですねえ。」



共同寝室


雷「今日も司令官帰ってこない・・・」ハイライトオフ


響「すぐに戻ってくるさ。」ナデナデ


雷「私たち捨てられちゃったのかな?」


響「捨てられてないさ。」


雷「今までの司令官なら捨てられたほうがマシだと思っていたけど、今の司令官には捨てられたくないよ・・・」ポロポロ


響「大丈夫さ。必ず戻ってくる。」


雷「なんでそんな楽天的なこと言えるのよ!!」ドン!!


雷「響が司令官の何を知っているの?そんな気休めなんていらないわよ!!」


響「雷・・・」


雷「もう、別の司令官になって辛い思いをするより、いっそ死んじゃったほうが!!!」ゴソゴソ サッ


響「雷!!変な真似はよすんだ!!」ガッ


雷「止めないでよ!!」バタバタ


響「いい加減にしろよ!!」


雷「響?」ポロポロ


響「君は取り残される人の気持ちが分かってそれを言っているのかい?」


響「君が死ぬだけで、いろんな人が壊れる!私もこの艦隊にいる人も!!」


響「あの時、雷達は戦争によって沈んでしまった。これは避けられなかったかもしれない。」


響「それでも、私は死ぬほど後悔したんだ!!なのに、自殺で妹を失ったら、もう私は、後悔やいろんな感情に押しつぶされて、壊れてしまう!」


響「実際、あの時にも一回は壊れた。だけど、国のために沈んだって、だから仕方がないって、ずっと言い聞かせて、何とか立ち直れたんだ。」


響「あの時は、一人で突撃してみんなと同じ所に行くことも何回も考えた。でも、姉妹たちと同じくらい私に乗っている人が大切だったから踏みとどまれた。」


響「でも、今回は私だけの命だ。自由に扱う権利がある。」


響「これが何を意味するか分かるかい?」


響「君が死んだら、私も死ぬことに躊躇はないということだよ。」


響「いや、私が先に死んで、辛さと怖さも知ってもらうってこともありか。」ハイライトオフ


響「さあ、渡すんだ。そのカッターナイフを。」ズイッ


雷「いや!!」サッ ハイライトオン


響「なんで渡してくれないんだい?君は渡してくれるだけでいいんだ。」


響「不死鳥と言われて、英雄みたいに扱われたみじめな人生を終わらせられるんだ。」


雷「いや!正気に戻ってよ!!」


響「私はいつでも正気だよ。勿論、今でも。さあ、早く渡すんだ!!」


雷「嫌!!」


武蔵「どうしたんだ!?大声が聞こえたが!!」


響「うるさいのはそっちだよ。私は、雷と話しているんだ。早く退出してくれるかい?」


??「帰りましたよー!!」


響「司令官?」ハイライトオン タタター


雷「あ、ああ。」ヘナヘナジョロロ


武蔵「よく頑張ったな。片付けは私がしておく。制服に着替えておけ。」


雷「・・・」パタン


武蔵「本当によく頑張ったな。」ギュッ


武蔵「あとでアイツにお灸をすえてやらんとな。」ダキッ スタスタスタ


響「司令官、司令官、司令官!!」ギュッ


提督「ちょっと、荷物おいてくるから待っていてください。」


響「嫌だ。この手を放しっちゃったらまたどっか行っちゃうでしょう?」ギュゥゥ


提督「大丈夫です。私はいなくなりませんから。」


響「そう言っていた仲間が沈んでいったところを何回も見たんだ。信用できないよ。」


提督「そうですか?あの響さんが弱くなってしまいましたね。」


響「?どこかで会ったことがあるのかい?」


提督「はい。ありますよ。」


提督「貴方は覚えていないだけで。」ガサゴソ ポン


響「成程。なら安心かもしれないな。気休めの嘘だとしてもな。」ジャラジャラ


提督「人の為と書いて、偽りと言いますからね。」フフフ


響「しかし、嘘から出たまことともいうだろう?」


提督「そこまで、頭が回れば大丈夫そうですね。」


響「ありがとう司令官。」


提督「いえ、私は提督として当たり前のことをしたまでです。」


響「優しいのだな。」


提督「響さんが優しいと感じているなら優しいのでしょうね。」


響「判断は他人か。悪くはないな。」


提督「人の為と思って行動しても、その人にとっては害になることもあるので。」


響「そうかもしれないな。」


提督「早く行きましょう。いっぱい買いこんできたので、今日はパーティですよ!!」


響「ふふ、楽しみだな。」



執務室


提督「ただいま帰りました。」ゴトゴトゴト


翔鶴「おかえりなさいませ。」


龍田「お帰りー。」


提督(二人とも目元が赤くなっていて、深いくまが出来ている。響もさっきは気が付かなかったが、二人と同様の状態になっていた。)


提督「二日間もあけていて本当にすまなかった。」


翔鶴「いいんですよ。帰ってきてくれただけで。」


龍田「さっきまでは殴ろうかと思っていたけど、あなたの馬鹿面見ていたらなんかアホらしくなってきたわ。」


響「おかえり。司令官。」


提督「はい!だだいま。ですね。」



武蔵「貴様!!」ドカドカドカ


提督「はい。」


武蔵「この二日間、ここにいるみんながどんな思いで過ごしていたのか分かっているのか!?」グイッ


提督「分かっているつもりです。」


武蔵「では何故!顔を出さなかったのだ!?買い物だけだったらすぐに終わるだろう!?」


提督「すいません。」


武蔵「」バキィ


武蔵「こんなクソ野郎を『相棒』って呼んだ昔の自分が恥ずかしい!!」


提督「すいません。」


武蔵「貴様は、私たちのことを第一に考えてくれるのではなかったのか?お前のせいで、雷はひどい目にあったのだぞ!!」


提督「!?」ダッ


武蔵「お前にその資格はない!!」バキッ


提督「」ドサァ


龍田「そこまでよー。この人もいろいろあったんだろうしー。事情を聴いてから殴ってもいいんじゃない?」


武蔵「むう、まあいい。今まで何をしていたか答えろ!!」



提督事情説明中


武蔵「」バキィ


武蔵「貴様!嘘をつくほどクズだとは思っていなかったぞ!!」


武蔵「何が近海に深海棲艦が現れて、それを叩くために海に出ていただ!?嘘をつくならもっとましな嘘をつけ!!」ドゴォ


提督「信じてくれとは言いません。もし、別の人がいいなら私が直接大本営に意見具申します。」


武蔵「他のやつらから仮初の信頼を得ているからって、クソッ!!」


武蔵「こいつは殺すべきだ。これさなければならない裏切り者だ。」ハイライトオフ ガチャン


龍田 翔鶴「」ガシッ


武蔵「こいつは嘘をついたんだぞ。こんなうそつきの下で言いなりになっていいのか!?」


提督「龍田さん、翔鶴さん、放してあげてください。」


翔鶴「しかし!!」


提督「いいのです。」アカメカイガン


武蔵「死ぬ覚悟はできたのか?」


提督「私は幽霊みたいなものですから。もともと生きているなんて思っていません。」


武蔵「そうか。分かった。」ガチャン


提督「最後に一つだけいいですか?」


武蔵「遺言か。いいぞ。」


提督「貴方達は兵器ではない。感情もありますし、感情に任せて合理的ではない選択をすることもできます。だから、どうか、貴方達のことを兵器とみなさないでください。」メヲトジル


武蔵「そうか。覚えておくよ。じゃあn『待ってほしいな。』」


提督「響さん!?」ハイイロノメヲアケル


響「武蔵。彼を打つなら僕ごと撃ってくれ。不死鳥と幽霊が死ぬんだ。面白いと思わないかい?」


武蔵「何を言っている。響お前だけはこっちにこい。」


響「生憎とそういうわけにはかないな。」


武蔵「何故だ。」


響「私はこの人に約束したんだ。最後まで添い遂げるって。」


提督「いや、わたしだけで大丈夫ですよ。」


響「ではこれではどうだ?」ジャラジャラ


提督「!?」


響「武蔵。これを見てから決めてくれ。」ポーイ


武蔵「?」パシッパシッ


武蔵「!?」


武蔵「これ、え!?」


響「」ニヤ


提督「」ガーン


武蔵「済まなかった。」フカブカ


提督「いや、いいんですよ。誤解も解けたみたいですし。」


翔鶴「武蔵さん、何が分かったのですか。」


武蔵「こいつが本物だってことが分かった。」


武蔵「先ほどまでの非礼『いや、いいですって。』」


提督「昔のことですし、そんなものに何にも価値ありませんよ。」


武蔵「いや、それでもっ!」


響「司令官がいいと言っているんだ。これ以上長くして司令官の気が変わったらどうするつもりだい?」


武蔵「それでも、いや、そういうことにしておこう。ありがとう提督。」


提督「私は何もしていませんよ。」


龍田「あのー?話が見えないんですけどぉー?」


響「和解した。これが結果だ。深入りはしないほうがいい。」


龍田「なぁーんか隠し事しているのは感じ悪いんじゃない?」


提督「昔のことです。今とは全く関係ありません。ですから、あまり詮索しないでいただけると嬉しいです。」


龍田「そこまで言うならいいわ。いつかは知れるかもしれないしぃー。」


提督「ありがとうございます。では、雷さんのほうへ行ってきます。」



共同寝室


雷「うーん」


提督「うなされていますね。この時ってどうすればいいのでしょうか?」


雷「・・・司令官・・・響・・・いなくならないで・・・。」


提督「私はここにいますよ。」テヲニギリ


雷「えへへ・・司令官・・・あったかい・・・」


提督「このまま握ってあげましょう。」


三十分後


雷「うーん、司令官・・・」


雷「司令官!?」


提督「起きましたか。大丈夫ですか?」


雷「司令官!!」ギュッ


提督「すいません、今まで顔を出せなくって。」ギュッ


響「これは、熱々だな。」コゴエ ドアカラノゾキ


雷「いいのよ。司令官が帰ってきてくれただけで。あ!響!響が!!」


提督「響さんがどうしたのですか?」


雷「死んじゃうとか言い出したのよ!!早く止めなきゃ!!」


提督「響さんそこにいるのはわかっているのですよ。出てきてください。」


響「君はどうやって私がここにいるのを突き止めたのか聞いてみたいが、後にしよう。」


響「雷、本当にすまなかった。もうあんなことは繰り返さない。」


雷「私の方こそごめんなさい。響のこと考えていなかったわ。」


響「大丈夫だ。あと、司令官、私も抱いてほしいな。」カァァァ


提督「分かりました。こっちに来てください。」


響「」トテトテ ポスッ


提督「」ギュゥゥ


響「これは、いいな。」


雷「雷も!」


提督「ナデナデもあわせて一日一回までです。」


響「だそうだよ。」


雷「もう!」プンプン


提督「冗談です。」ギュゥゥ


雷「ほわぁぁ」


響「もうしてくれないのかい?」ウルウル


この後、一時間ずっと代わる代わる二人を抱きしめていた。


提督「もう寝てしまいましたか。」


提督「さて、今日はパーティです!何の料理を作りましょうか?」


と言って、厨房に向かった。


武蔵「ていうか、こんなもん貰ってどうするんだ?使い道ないぞ。絶対に飾れないし。」ウーン


武蔵「槌と鎌、そして鉄十字か。本当にアイツは何者なんだ?」




第一次酒大祭



ヒトキュウゴ―マル


提督『皆さん、食事の用意が出来ました。食堂に集まってください。』


と放送で流れてきた。


私が行くのは気まずかったので、皆だけでに行くように勧められたが、「武蔵さんは、司令官と仲直りしなきゃダメじゃない!悪かったことがあったら素直に認めること。分かった?」と雷に言われてしまった。


渋々、重い腰を上げて食堂を目指した。


食堂に入ると、小汚い食堂とはミスマッチな食べ物がたくさん並べられていた。勿論皿とかも割れていたりして、お世辞にも良いものだとは言えない。しかし、それでも、日本では見たことがない綺麗な食事が並べられていた。酒ももちろんあるし、色のついた水だってあった。飾り物としては、少し影響力が小さい気がするが、それも料理を引き立てるためなのだろうと考えられるほどだった。目の前に広がっていたのは、アートだった。料理を使った。それも、周りの小汚さをみせなくするような。テーブルの上に視線がくぎ付けになってしまうほどだった。


提督が、厨房の中から、大きな透明なものを持ちながら私たちに座るように指示した。机に近づいてゆくと、良いにおいがどんどん強くなってくる。お腹はなりはしなかったが、涎が無意識のうちに出てしまった。それを手で拭って、席に着く。料理にてつい手を出してしまいそうになるが、皆が手を出していないのに、手を出すわけにはいかなかった。


提督が、透明な大きいものに、ドラム缶の小さいものを開けて、中身を注いでゆく。すると、発泡している黄金色の液体が注がれた。上部には、白い層が形成され、下部には、液体と思われるものが溜まっていた。龍田には、日本酒(結構いいやつで一回見たことがあった。飲んだことはない。)、翔鶴には、白く発泡している液体、最後に、響、雷には、私に注がれたものより少し薄く、発泡していない黄金色の液体が注がれた。


提督「では、皆さん。目の前にある飲み物が入ったジョッキを持ってください。」


さっき注がれたものを持つ。これはジョッキということが分かった。雷、響は重そうにしていた。


提督「これより、第一次酒大祭(だいいちじしゅたいさい)を始めます。乾杯!!」


と言って、ジョッキというものを目の前に出す。提督のジョッキに自分のジョッキを当てて、乾杯!と言った。駆逐艦たちは知らなかったようで、私をまねて、弱弱しい声で、乾杯と言った。翔鶴と龍田は、普通に知っているようで、良い声で乾杯と言っていた。


提督が、飲み物を口にする。それを見て、私も黄金色の液体をのどに流し込む。


白い層は、泡だった。それもとても柔らかいもので、優しく、唇を包んでくれているような感覚で、その下から、液体が流れてくる。このジョッキというものを手に取った時からわかっていたことだが、中身の液体は、本当に冷たかった。それでいて、のどを刺激するような感覚と、酒に入っている特有のにおい、それに負けない麦の味の力強さ。どれかが、どれかを演出しているようだった。こんな飲み物は飲んだことはなかった。美味い!と言いたくなるような酒だった。


目の前には、箸と綺麗によそられた食事があった。湯気が上がっていて、食べられるのをまだかまだかと待っているような感じだった。思わず、箸で、料理をつかんで口に放り込んでしまった。魚料理だったのだが、この料理も完成されていた味だった。まず、少し強めの胡椒で、魚の臭みを消し、その後に、柑橘系の刺激で、胡椒を打ち消し、魚本来の味が舌に染みてくる。そして、付け合わせを食べると、これまた、柑橘系の味で、口をすっきりさせ、次の料理に行きやすくしてくれた。


次は、野菜に手を付けた。赤いものが特徴的で、にんにくの外側の色をしたものが基礎となっている、液体がかけられていた。その液体は、赤いものと胡椒が入っているのが確認できた。緑の葉っぱがメインでたくさん入っているので、少しだけ取って、口の中内入れてみた。にんにくの味が口の中を占め、胡椒の辛さが口に広がる。咀嚼してみる。すると、葉の中から水があふれ出てきた。そのあとに、葉の物なのかはわからないが、ほんのりとした甘さがにんにくや胡椒の辛さを和らげてくれた。


気になっていた赤いものを食べてみる。四分の一に切られていて、さほど大きくはなかった。多分口の小さい、雷や響への配慮だろう。食べる人のことを考えて料理を作ってくれる。そして、私たちを兵器といてみていないことがはっきりと分かった。そのことに涙が流れた。咀嚼すると、ドロッとしたものが出てきたが、とても甘くて、かかっているものの辛さをうまく調節してくれている。


誰も手をつけなかった赤い肉に手を出した。薄く切られていて、食べやすいはずなのだが、肉はこの体になったから初めて食べる。それだからか、少し躊躇してしまったが、私が食べて、響と雷が安心して食べられるようにしなければと思い、口にした。甘い!上にかかっていた赤褐色のソースは、甘かった。それに唾液と混ざった、肉の油の甘さが加わる。だが、甘すぎるということはない。咀嚼してみる。肉からは、油の甘さと、渋さが出てきた。それを、甘いソースで、緩和しようとしていたのが分かった。もし肉の渋さが嫌な場合は、口に入れた瞬間に咀嚼すると、渋みを、甘さで抑制できる。という考えつくされた料理だった。提督は私が肉を食べたのを見ると、すぐに白い小鉢に入った、黄色いものを差し出してきた。それをつけて、もう一枚食べる。すると、口に入れた瞬間、辛さが口に広がった。味は山葵みたいだったが、山葵みたいに辛さがしつこくなかった。とても、食べやすかった。



数時間して、大体の料理が食べ終わった。提督は、食べ終わった食器をかたしに厨房とここを往復している。


まだ料理はのこってはいるが、提督が聞いてくださいと言った。


提督「えーっと、これから一週間は酒大祭が続くので、好きに飲み食いしてください。出撃は無しです。あと、食べ終わったらやることがあるのでここに残ってください。」


と言って厨房に戻ってしまった。


食事が完全に終わり、提督を呼んだ。最初はなぜ呼ばれたのですか?みたいな顔をしていたが、すぐに理解し、


提督「これから頑張っていきましょう。ごちそうさまでした。」


と手を合わせて言ったのに呼応して、私たちも、ごちそうさまでした。と手を合わせて言った。


提督「皆さん、片付けは私がしておきますので、一度こちらに来ていただけますか?」


提督「ここに並んでいただけますか?」


と並んでほしいところを指さし、私たちを並ばせた。そして、光る箱型の物を置き、数秒立たせると、いいですよー。と間の抜けた声で私たちに言ってきた。まるでしゅうごうしゃしんをとっているようだった。それからは、一人ずつ箱の前に立たされ、いいですよーという声がかかるまでは、静止していた。


終わった後に、提督は、とても満足げな顔をしていた。


提督「では、この一週間しっかりと休んで、頑張って、戦争を終わらせますよー。」


と間の抜けた声で宣言するものだから、私たちは笑ってしまった。そしてつい言ってしまった。


武蔵「貴様が戦争を終わらせる?そんな小さくて貧弱な体でか?」


と。私の言葉に翔鶴ものってきた。


翔鶴「そうですよ、提督。真顔で冗談言わないでくださいよ。」


提督「本気なのですが。」


と、真顔で返されたことに、私たち三人は、


三人「アハハハハ」


と大きな声を出しながら笑ってしまった。


提督「本気なんですってー!!」


と怒りながら言ってきたので、子供っぽいところもあるのだなと、思いながら、笑っていた。


心の底から笑うのはいつぶりなんだろうなと記憶をたどりながら、この平和がいつまでも続けばいいのにと思った。



出撃!!


提督「では、今日は初陣です。必ず中破したら帰るので、大きな損害を与えたとしても、深追いはしないでください。」


翔鶴「あの?提督?何故ここに?」


提督「え?提督も出撃するのではないのでしょうか?」


響「普通ならしないと思うが。」


提督「ですが、初の出撃ですよ。私は皆さんがどうやって戦っているのかみたいです。」キラキラ


龍田「昔の提督は、一緒に出撃していたそうよぉー。」


翔鶴「ですが!!」


武蔵「いいと思うぞ。わたしたちはどれだけ危険な戦場で戦っているか理解してもらえるだろうしな。」


響「みんながいいなら私もいいよ。」


雷「司令官のことは私が守るんだから!!」


提督「では出撃します!!」


後書き

完走いたしました。
舞鶴鎮守府の非日常よりは少ないと思います。
モチベーションアップになるので応援、評価、コメントよろしくお願いします!!


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2023-09-05 07:38:42

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2022-02-20 22:52:28

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