もう勇者やめていいですか?5
オリジナルss 慈愛の少女は希望を救った。
過去回想 旅立ち前
ーーーーーーーーーー
ーー ユリハ=ファースト
その少女はグレンと幼馴染で、同じリーネ村の出身で、薄い灰色の長い髪をした可愛らしい女の子だった。
ユリハ「グレン!私を一緒に連れて行ってほしいの」
グレン「えぇ...」
勇者の旅立ちの日に突然そう言われた。白と青が施された装衣を身に纏い、その頭には教会で神官として認められた帽子を被っていた。
グレン「遊びに行くんじゃないんだぞ、ユリハはここに残れ」
ユリハ「嫌ですぅ!そういうと思って私必死に努力して神官になったんだから!」
グレン「いや、でもなぁ...」
ユリハ「でもも何もない!グレンは危なっかしいんだから、私が見てあげないと!」
グレン「俺もう17だぞ。もう子どもじゃあるまいし...てか歳1つしか変わらないだろ俺ら。ユリハ歳下だし。」
するとユリハはぷくーっと頰を膨らませ顔を真っ赤にして怒り出した。
ユリハ「行くったら行くの!大体王都までの道のりの間どうするの?グレン料理できないし、テントも一人で張れないし、方向音痴だし!」
グレン「方向音痴はお前だろ...」
ユリハ「ぐぬぬ...そ、それに!もし危獣種に襲われて怪我したらどうやって治すの!?」
グレン「え、そんなの唾つけときゃ」
ユリハ「きゃぁ!!ダメダメ!汚いよ!そんなんだからグレンはダメなの!」
さっきから散々な言い草である。それからしばらくあれもダメこれもダメと言い聞かされそろそろ自分も反論しとこうとした時...
ユリハ「それと...グレンと離れたくないもん...」
グレン「...!?」
ユリハからそんなことを言われ一瞬驚く。
魔王討伐の旅は危険だ。だがふと頭に浮かぶ。
もしここに残していって、この村が悪魔に襲われたら、遠くにいる俺は守ることができない。だったら側に置いたほうがいいんじゃないか?
グレン「........」
ユリハ「........」
ひとしきり黙った後俺は意を決し、口を開く。
グレン「わかった、でも無理はするなよ?」
ユリハ「...!!う、うん!頑張る!」
ちょっと暗くなっていた表情が一気に明るくなりいつものテンションに戻った。小声でやった!やった!などが聞こえてくるが敢えて聞こえないフリをしよう。
ユリハ「それじゃ、村のみんなに挨拶してきましょ!」
グレン「そうだな」
2人で村の中央への道を歩き、広間にでる。そこには既に村中の人達が集まっていた。
「おうグレンだ!」
「ひゅー!勇者様ー!」
「おっ、ユリハちゃんもいるじゃねぇか!」
村中の人達がこちらに向き、出立の歓喜を上げる。わいわいと叫ぶ中ユリハの両親が姿を見せた。
ユリハの父親...コモスさんが俺の肩に手を置く。
コモス「ユリハのこと、頼んだぞ」
グレン「はい、まかせ...ってユリハが一緒について行くって知ってたんですか!?」
コモス「あぁ、どうしても神官になる!って聞かなくてな。困った娘だよ」
そうか、そういえば俺が勇者としての修行を始めたと同時に教会に入ったんだっけ?それほどまでに俺と...
決意を固めコモスさんに言葉にする。
グレン「ユリハは俺が守ります。絶対に」
コモス「...そうか、では頼む。だが」
そこでもう片方の肩も掴み恐ろしい形相で睨みつけられた。
コモス「もし旅の途中でユリハに手を出したら、例えグレンくんでもいだだだだだだ!!!」
と、後ろにいたユリハの母親...ガレットさんとユリハが両耳を片方ずつ引っ張りあげた。
ガレット「もう、グレンくんにちょっかい出すのをやめてください。みっともない」
コモス「で、でもぉ...」
ユリハ「んもぅ!お父さんはさっさと子離れしてよ、正直ウザい!」
コモス「う、ウザっ...」
ユリハにウザいと言われたのが余程ショックだったのか魂が抜けたかのように脱力した。
.....ご愁傷様です、ユリハ父。
ガレット「まったく、ごめんなさいねグレンくん」
グレン「いえ、娘さんを大切にする気持ちが伝わってきました」
ガレット「ふふ、そうね。グレンくん...気をつけて行ってらっしゃい」
グレン「はい、ありがとうございます」
さて、あまり時間を無駄にできないし、そろそろ王都に行く準備しなきゃな。
グレン「ユリハ、そろそろ行くぞ」
ユリハ「あ、うん。」
ガレット「ちょっと待ちなさいユリハ」
するとガレットさんがユリハをちょいちょいと手招きし耳元に口を近づける。
ガレット「グレンくんにちゃんとアプローチかけるのよ?」
ユリハ「な、ななな!!ナンノコトカナー??」
ガレット「もう、とぼけても遅いわよ...」
なにやら盛り上がっているが内緒話ならもう少し小さな声でしてほしかったな。ほぼ筒抜けである。まぁ、ガレットさんにいたってはわざとかもしれんが。
ユリハ「もう!行ってきます!」
ガレット「ちょっと待ちなさい、はいこれ」
ユリハ「ん?なにこれ?」
ガレット「魔法のペンダント、あなたにあげるわ」
ユリハ「…ありがとう」
ガレット「ふふ、行ってらっしゃい。無事帰ってくるのよ」
ユリハ「うん!」
会話が終わったのかユリハがこちらに駆け寄ってくる。そして俺の顔をみるなり顔を少し赤くして目を逸らした。
ユリハ「ねぇ、さっきの聞こえてた...?」
グレン「........」
さっきの、とはアプローチ云々言ってたことだろう。だが、もしそうなんだとしても、直接聞いたわけではないし俺は焦らせるようなことはさせない。
グレン「いや、地図に集中してたからさ」
ユリハ「そっか、ならいいや」
俺は鈍感な男ではない、ユリハの気持ちがわかっているつもりだ。では何故答えないのか...それは、聞くのが怖いからである。け、決してヘタレなわけじゃないぞ、うん。
グレン「と、その前に、墓行っていいか?」
ユリハ「お墓...?あぁ、グレンの親御さんの」
グレン「あぁ、父さんたちにも挨拶しとかないとな」
この流れから分かる通り、俺の両親は既に死んでいる。元々2人共旅人で、天使の力を持つ母と生粋の剣士の父は東大陸にくる悪魔共を倒していったらしい。
2人は王都まで名声が広がり、その子どもの俺が勇者へと選ばれた。
だが、俺を産んだ後、母と父は悪魔と戦って死んだ。なんでも魔王直属の眷属にやられたらしい。
だから俺は両親の顔は知らない。だけど、知らなくても、家族を殺された仇はとりたいとおもった。魔王を倒す旅だが、それと同時に両親の仇をとる旅でもあるんだ。
村の外にある墓の前に着き、簡単に造られた墓標の前に花を添える。俺とユリハは両手を合わせ出立の報告をする。
グレン「...いってくるよ、父さん、母さん」
ユリハ「私も、グレンといってきます」
両親の墓参りを終え、やっと旅の準備を終えた。そして最後に村を一瞥し、歩を進める。
ユリハ「ねぇグレン、これ私に着けて!」
グレン「それ、ペンダントか」
ユリハ「うん、お母さんがくれたの」
チェーンのついた銀のペンダントだ。中にはなにか研磨された光る石が入っていた。なんの石かはわからないが。
それをユリハの首につけてやると満足げにユリハが微笑んだ。
ユリハ「ありがと…」
グレン「おう…」
隣にユリハが歩いており、少し不安なのか、身体が少し固くなっていた。少し元気付けた方がいいのか?
グレン「...絶対また帰ってこような」
俺にはそんなことしか言えなかった。が、ぴくっとユリハが反応し、こちらに目を向ける。
ユリハ「うん...絶対に戻ってこようね」
グレン「あぁ」
絶対に帰るという意思を胸に抱き、俺たちは最初の旅に出た。
.....ユリハを連れて行くという選択が後々不幸な結果になってしまうとも知らずに。
ーーーーー
ーーーーー
ーーーーー
それから、俺達一行は王都に行き、王と謁見し世界に4本しかないとされる神剣を託された。
最初はなんだこの剣と思ったが、俺の神力が反応し、剣に文字が浮かぶ。
ーーー 鳴神
何故だかわからないがこの剣の名前だという確信があった。なんとも不思議な武器だがそれと同時に妙な安心感がある。神の加護というやつなのか。
そんなこんなで、仲間を集めるために王都を出て南大陸に向かった。もちろん王都でも勇者の旅に加えてほしいという人がたくさんいたが、俺の感性がピンッとくるような人がいなかったので丁重にお断りしておいた。
ーーーーーーー
順々と東大陸、南大陸、西大陸と周り、カルとミナに出会った。その過程で村を救ったり、規格外の化け物に襲われたり、時には六魔を倒したり、過酷な旅路だった。
...そして北大陸、ようやく魔王がいる地に着き一行はより気を引き締める。
近くの町で物資を補給し、魔王城のある山への道を目指す。
北大陸は寒冷で気候が厳しく、耐寒装備をしていなければ山を越えられないとも言われている。魔王城が建つ山は更に寒さも増しているという。
だが遠くから見る限り魔王城自体には雪は積もってはいない。おそらく結界か何かで囲っているのだろう。
町を出た後山の麓に着いた、そこで最後の六魔、それも二体が待ち構えていた。そしてすぐに戦闘は始まった。
ーーーーーーー
カル「ぐっ!くそ、こいつらの魔法厄介すぎるぜ!」
ミナ「ふぅ、そうね。片方は魔法が効かない上に上位互換作られるし、もう片方は色んな種類の魔法使うし、嫌になるわね」
カルとミナが愚痴をこぼす。当然だ、今まで戦ってきたどの六魔よりも強い。それが二体同時となると状況がさらにキツい。
俺も隙を見ては自分の全速で動き斬りかかってはいるが六魔同士の連携が嫌になる程良く、致命傷となるダメージは負わせられずにいた。
「ナンドヤッテモムダダ。ニンゲンデハワレラニカテナイ」
「ソウダゼー!オレッチタチニハカテネェッテヨ!」
ミナ「ふん、言ってなさい!フレアバレット!」
ミナの杖から火属性の魔法陣が展開し、火の球が無数に悪魔に飛んでいく。
「ムダムダ!オレッチニハマホウハキカネェッテヨ!!」
軽薄な悪魔が黒い魔法陣を展開し、ミナと同じフレアバレットを放った。だが、威力、速度、どれを取ってもミナの上をいく完成度だった。
ミナの放った無数の火の球を軽々消し去り、代わりに悪魔の放った火の球が迫ってくる。
ミナ「この...!やっぱり私の魔法じゃ...」
ユリハ「みんな!下がってて!」
ユリハが前へ出て白い魔法陣を展開させる。
ユリハ「皆を守れ...光の壁!」
ユリハの使う魔法は擬似神聖魔法。神法を元にして人間が魔法を神法によせて作ったとされる。属性を司らないため、環境に左右されることなく使える。
主に回復、防御、などといった補助がメインでこうして魔法を防ぐ盾を使うこともできる。
ユリハ「ぅ...はぁ...はぁ...ご、ごめん、魔法、そろそろ使えないかも...」
何度も相手に魔法を返されその度に防いでいたら魔力も底をつくというものだ。
まずい、戦況がどんどん悪くなっていく。
ユリハもあと使えて1、2回だろう。そろそろ決着をつけるしかない。魔王城が目の前というのもあって、余力を残そうとしていたのが仇となった。
グレン「カル!」
カル「!!」
カルに全身体強化の付加術を重ねがけする。身体に負担はかかるが、承知の上だ。
カルの目をみて頷き剣を握り直す。カルも俺の糸が通じたのか槍斧を構えて一直線に走り出した。
自身に付加術を重ねがけし悪魔に迫った。もちろん狙いは...軽薄な悪魔の方だ。
こいつの戦いを見る限り魔法で応戦しなければこちらに分がある。
「ンオッ!?ハヤッ...!!?」
一瞬で近づいてきた2人にどう対応するか迷っていたらしく反応が遅れていた。だがその一瞬が大きな隙となる。
カル「オラァァッ!!」
カルが軽薄な悪魔を横に両断した。悪魔は一瞬何が起こったかわからないみたいな顔をしよく状況が飲み込めていないようだったが
グレン「...終わりだ!」
そんなものは関係ない。俺は神力のこもった斬撃で悪魔の頭の上から真っ二つにした。
悪魔は基本人間を見下している。それにこいつは魔法に絶対の自信があるようだったので、接近戦での隙のつきかたは容易だった。
グレン「よし、カル!次はもう一匹の方を...」
カル「なっ!!グレン、もう一匹がいねぇぞ!?」
グレン「なに...っ!?」
あいつは軽薄な悪魔との距離は然程離れていなかったはず、それに今の攻撃は一瞬の出来事だ、もう一匹の方は警戒心が高かったからてっきり邪魔でもしてくるもんだと思ったんだが...
そんなことを思っていると自分がいるところとは逆の方から先ほどの悪魔の声が聞こえてきた。
「ソウクルトオモッテイタ、フタリデソイツヲシトメルトナ...」
カル「なっ...!」
グレン「くっ...!」
俺らとは入れ替わりにミナとユリハの前にもう一体の六魔がいた。
読んでいた...?悪魔に裏をかかれたっていうのか?まずい、今はユリハも限界だ。ミナも天才的魔法使だが六魔相手に近接じゃ勝てない。
「マズハ...シンカンノキサマカラダ!」
ミナ「こ、この!サンダー...」
ミナが杖を構え魔法を放とうとするが、悪魔のほうが一歩早かった。
「オソイ...」
悪魔は手を槍のように尖らせユリハの心臓めがけてその体を貫いた。血が飛び散り、手は体を貫通していた。
ーーーーーーー
.....ただ、貫いたのはユリハではなく、
グレン「がはっ...」
ユリハ「ぁ...ぁぁ...え、グレン...?」
俺の身体だった。
「ナニッ...?キサマイツノマニ...」
悪魔の腕で俺の腹部を貫いていた。ユリハとの身長差で心臓部からだいぶ逸れたのだろう。
グレン「はぁ...はぁ...よぉ、あの悪魔を犠牲にして...こいつらを殺そうとするなんて...随分薄情じゃ...ねぇか」
あの時、悪魔の声が聞こえた時に瞬時に判断した。付加術を極限までかけてユリハの元へ最速でたどり着いた。だが、あまりにとっさのことで自ら盾になるぐらいしかできなかった。
幸い心臓部は外れており即死はしながったが身体中に激痛が走り続けていた。だがそんなことを考える間も無く、俺はその悪魔の腕を斬り落とす。
グレン「くぅぅ...くたばれ悪魔ァァァァ!」
「キ、キサ...マ...!!」
足を踏み込み思い切り悪魔の首を剣の刃が横切った。首が切断され、ぼとりと地面に落ちた。
「グゥ...バカナ...マオウ...サマ...」
鮮血が飛び散った後、悪魔の身体はやがて浄化され完全に消え去っていった。
それと同時に俺の膝は崩れ落ち、血反吐をぶちまける。それを横目に膝をガクガクとさせユリハが小さく声音を吐く。
ユリハ「ぁぁ...グレン...ごめんなさい...ごめんなさい...」
グレン「...はぁ...気に...すんな。仲間を...守るのは、当然だろ...?」
ミナ「グレンくんっ!」
カル「グレン!お前、それ...!」
カルとミナも駆け寄ってきて驚愕する。それもそうだ、腹部辺りに穴が開いていたら誰でも驚くだろう。正直痛みで気を失いそうだったがなんとか持ちこたえていた...だが。
これはわかる、このままでは俺は死ぬ。魔王城を目の前にしてとんだドジを踏んだようだ。
カル「くそ、ユリハ!治癒を、治癒を早く!」
ユリハ「やってる!でも...傷が塞がる以前に、出血が多すぎるよ...!」
カル「じゃあ、転移で町に戻って...」
ユリハ「ここからじゃ遠すぎるよ!運んでる間にグレンが...」
カル「んじゃどうすりゃいいんだよ...!!」
...何やら口論を始めているようだが、俺は意識が朦朧とし始めていた。色々な声が乱れて、意識が遠くなっていく。
ユリハ「...もう、あれをやるしかない...!」
カル「あれ?あれってなんだよ!」
ミナ「ぁ...まさか、ダメよユリハちゃん!あれは貴方の...」
ユリハ「いいの、これは...私の責任...!私はあの日から覚悟は決めてる!」
ミナ「でも...」
ユリハ「うるさい!誰にも邪魔させない!私のせいでなんて死なせない!私は...グレンを絶対に助ける...!」
ユリハは傷の上に手を置き、魔力と、魔力以外のものを手に込める。
ユリハの手から光が溢れ出し、グレンを包む。まるで天の光かのように。
ユリハ「絶対に助ける...だからお願い、グレン...」
ーーー「...死なないで」
ーーーーーーーーーーー
魔王城への道中雪山
グレン「...ん...?ここは...」
カル「目覚めたかグレン!」
ミナ「グレンくん...!!」
俺が目を覚ますと同時に飛びかかるように声をかけてきた。正直びっくりしたが、自分が直前にどんな状態だったか思い出し、死んでいないことに安堵した。
グレン「心配かけたようだな、てか随分大きな傷だったと思うんだがいうほど深くなかったのか?傷跡がほとんどない、んだが...」
そこで言いかけて2人の表情を見る。なにやら悔しそうな、それでいて悲しそうな、とても辛い表情だった。
グレン「...ところでユリハは?」
その表情にも疑問を持ったが、なにより辺りを見渡してもユリハの姿がないことに気づいた。
カル「それは...」
カルがなにやら言いづらそうにしている。なにかあったのだろうか。俺はユリハがいないことへの疑問に質問しようとしたがミナの一言により阻まれた。
ミナ「...死んだわ」
グレン「...は?」
その言葉を聞いた時、理解ができなかった。まるで自分の知らない言語を聞かされているような気分だった。
だが、いつまでも脳がそうしていられない。聞いたの言葉をもう一度質問してみる。
グレン「誰が、死んだって...?」
ミナ「...もうわかっているでしょ?」
...わかっていた。頭ではわかっていたんだ。それでも認めなくはなかった。
あんな致命傷を負って無事でいられるわけがない。治癒は間違いなく間に合わなかったはずだ。ただ一つを除いては...
あんな致命傷を治すには...あの方法しかない。
グレン「...転命術を、使ったのか...?」
ミナ「.......」
ミナが視線を落とし、コクンと頷く。
ーーー 転命術
自分の命を魔力に変換し、自身の保有量以上の魔力を一時的に持つことができる。
その際のメリットは魔力を即座に補充できることと、自分の限界魔力以上の魔法...つまり、通常では使えない魔法を使えたりできる。デメリットは言わずも、命を削る。そして命を削り切った者は、灰となって消えるという。
俺のあの瀕死の致命傷を治す魔法といったら超魔法、いや、極魔法の治癒術が必要になっただろう。それに加えて悪魔の攻撃を防いだ際の魔力消費量。極魔法は本来1人で使うものではない。そんなもの使ってしまったら寿命をほぼ使い切ってしまう。
グレン「...なんで」
俺はフラフラになりながらも立ち上がりカルの胸ぐらをつかんだ。
グレン「なんで死ぬのがわかっていたのに止めなかったんだ!!」
ミナ「グレンくん、落ち着いて!」
グレン「落ち着いていられるか!!ユリハが...ユリハが死んだんだぞ!!」
俺の頭の中はぐちゃぐちゃになっていた。あまりの過酷な現実を受け止めきれなかったのだろう。
グレン「俺が...俺がもっと上手く守れてたらこんなことには...いや、もっと強ければ...!!」
だが、カルは歯を軋ませ俺の顔面を思い切り殴ってきた。
突然のことで受け身が取れず尻から地面に着く。自分の起こった状況を理解し、俺はカルを睨みつける。
グレン「な、なにすんだよお前...!」
カル「命を削ると知って、俺様が易々とそんなこと許すと思うか!!?」
グレン「っ...!?」
カルが今までにない怒号をあげる。それに影響したからか今まで血が上っていた頭を落ち着かせることができた。
カル「もちろん止めたさ!だが...ユリハの決意を見て、止められるもんかよ...」
グレン「.......」
カル「魔王を倒せるのは勇者のお前しかいない。言いたくはないが...こういう状況になるのも、まったく考えていなかったわけじゃないだろ」
ユリハは言っていた。俺の身になにがあっても絶対に守るから!と、口癖のように。守るのは俺の役目だと俺は言ったが、それでも守ると聞かなかったっけな。
あれは本心であり、本気だったのだ。そして現に、こんな俺のことを命に代えて救ってくれた。
グレン「.....くっ」
頭ではわかっている。失った命は帰ってこない。今更嘆いていても仕方がないということは。
ふと、横を見るとペンダントが落ちていた。これはユリハが旅の前に着けていた銀のペンダント…
グレン「...くっっそぉぉぉぉおおおお...!!!!」
感情は大きく崩れ、爆発し葛藤して、しばらくの間ペンダントを握りしめながら涙を流し続けた。
前に書いてたものをss風に直して書きました。ほぼ思いつきです、ご了承ください。
このSSへのコメント