ウマ娘雑誌対抗 ウマ娘育成プロジェクト奮闘記(1)
もしも、あなたがモブキャラウマ娘をトレーニングすることになったら?
決して日の目を浴びない彼女たちにもトレーナーがいるはず。そこに傾注してみたいと思いました。
あっという間に600万ダウンロードを突破し、開始早々大盤振る舞いともいえるGW(ゴルシウィーク)を挙行し、会社の業績を一変させた「ウマ娘 プリティーダービー」。
私がこの界隈での二次を作るときに、題材として、どうしてもこれまで好成績を上げていたウマ娘たちではなく、日陰者にスポットを当てたくなってしまったのです。
それは本来ならほかのJRA馬で埋められるべきモブキャラのウマ娘たちです。彼女たちの性格付けやいわれなども一切解き明かされていません(今現在当然ながらJRA所属馬でダブっているウマの名前はなし) 。
そこに付け入るところがあるのでは、というのが今回の作成の意図です。
2021.5.4 序章部分(トレーナー合格)まで。5000字弱。
2021.5.5 ギャンブル要素を除去するなど、前段部分を修正
人間サイドは、URA関係者以外に数名登場させる予定。
ウマ娘は完全オリジナルネームにて遭遇させる(今作ではまだ未登場)。10000字超。
2021.5.5 22:00。長編が濃厚となったため、序章という形で一旦終了。
師匠トレーナーにはあの人の関係者を出させた。13,526字。
2021.5.12 微修正など。14,230字
2021.5.27 桐生院師の性格付けを統一。3話上梓と合わせて再公開。14,238字
2021.10.19 第5話上梓と合わせて微調整(乙名史を苗字読みに変更など)。14,318字
2022.5.1 第6話上梓と合わせて日付のみ更新。字数変わらず。
2024.5.8 全面装丁見直し。14424字。
1.
「あー、そう言う結末になるのか……」
圧倒的一番人気が着外に沈んだときのレース場の空気はいつもこうだ。人気薄が入着したことも大きかったが、人気上位が総崩れする展開はかなりの人が想定していなかったのだろう。レース場でも、はしゃいでいる観客はごくわずか。着順を当てることが難しかったレースであることをうかがわせた。
上位入着のウマ娘を応援していた人たちがウイニングライブで盛り上がっているのを尻目に、とぼとぼとレース場を後にする観客たちに紛れつつ、ウマ娘記者の私はどうして展開がはまらなかったのか、と思い返していた。
中山レース場・芝・2500m「中山グランプリ」。その昔は「有馬記念」といわれていたレースだ。
天候は曇り、しかし、前日からの雨をたっぷり吸っていたバ場は稍重の発表。連日の開催で芝の状態が悪かったことは素人目に見ても明らかだった。
私が実際に推したのは、雑誌で予想したウマ娘ではなく、逃げ脚質のミホノブルボンだった。確かにレース後半の展開が持ち味の、他のウマ娘たちを完封できるとは思っていなかったが、レース前の人気は、大きく離された二番人気。パドックで、サイバーな勝負服がひときわきらめいて見えてしまったからたまらない。記事の中で推していたウマ娘のことなどすっぽり抜け落ちて、彼女の勝利を疑わなくなってしまった。
レース序盤は彼女の一人旅。これは想定内だったのだが、やや走破タイムが平凡だ。追い打ちをかけるように向こう正面での実況が気にかかった。
「ミホノブルボン、この展開はどうでしょうか?」
「ちょっと足元を気にしている様子ですね、このままのリードを保てるでしょうか」
その声を聞いて、慌てて新聞を見やる。今まで好走していたのは、パンパンな良バ場か、少し湿った程度のコンディションに限られている。彼女の思考を推測するなら、
"足抜けの悪さを確認。パワー消費量増大。余力を持って完走する確率ほぼ絶無"
と言ったところだろうか。人気だけで言えば上位にこれて当たり前、という間違った見立てがすべてだった。
それでも見せ場は作ってくれた。最後の直線で「そのままっ」と声援を送れるくらいには頑張ってくれた。だが、中山の最後の坂でスタミナが尽きたのがはっきりわかるブレーキぶりで、後続に次々抜かれる始末。パワーの残っていた、追い込み勢が上位着順を占める結果になったのだった。場内の歓声が悲鳴に変わるのに、そう時間はかからなかった。
掲示板は誰もが1着と信じて疑わないスターウマ娘が着外に敗れるという現実を見せつけた。好走した追い込み脚質のゴールドシップですら3着。10番人気の追い込み脚質の娘が一着になるなど、大荒れという結果。好走を約束され、人気も背負っていたのに負けてしまったウマ娘をなだめるトレーナーたちの姿がターフビジョンに映るたびに「この商売って、残酷なものだなぁ」という思いを新たにする。
ウマ娘に対して、無責任に予想することしかできない私が、決して立ち入ることのない、トレーナーとウマ娘の、二人三脚が織りなす世界。
「あーあ、帰ったら、また反省会かあ……」
編集部に帰る電車の中で、千々に乱れた感情は、いつまでも落ち着かないままだった。
2.
年が明けた。
仕事始めの後に催された新年会の席上、私の上司である、雑誌「ウマっ娘通信」の編集長の石上が、酔っているからか、顔を紅潮させながら私に言い寄ってきた。
「この間のグランプリ、残念だったねぇ」
予想師の端くれとはいえ、自分の予想がまだまだだと思い知らされた結果だった。仮に当初予想していた、自身の推していたウマ娘を応援していたとしても、外れに違いはない。
「ええ」
金杯の予想では何とか面目を保っていた私だったが、年末の総決算を獲るのと獲れないのとでは大きく差が出る。
相づち以外に返す言葉もないまま、私は杯を重ねる。
「それはそうと、根来さん」
編集長が私をあだ名で呼ばない時はたいてい重要案件だ。私は身構える。
「こんな話、来ているんだけど、乗ってみる?」
見せてくれたA4のペラ紙にはこう書かれていた。
"ウマ娘雑誌対抗 ウマ娘 育成プロジェクト"
「ああ、そんな企画が、ね」
自分がウマ娘を育てることなど眼中になかった私は、一瞥しただけで無関心を決め込んだ。
「あ、そう。御興味御関心がないとは……折角昇進できるチャンスだったのになぁ」
と言いつつ、ほかの編集部員に話を持っていこうとする石上の手を私は捕まえた。
「ちょっと待ってください。話しを聞かせていただけますか?」
正座して折り目を正しながら私は聞く姿勢になる。
「でしょう?そんな簡単にことを決めたりしないの」
すでに記者歴15年余り。ウマ娘の、重賞レースでの着順予想は、何回かに一回当たれば特別ボーナスをはずんでもらえていたが、ここ最近は予想にキレが無くなってきていた。雑誌社の記者で一生を終わりたくない、と思いつつも、なんのきっかけもなかった私にとって、これはチャンスなのでは?と思ったのだった。
石上が、このプロジェクトの発端に付いて語り始めた。
「ほら、君も取材したことあるだろ?あの理事長」
「あ、はい」
秋川やよいという理事長はなぜか幼女なのだが、彼女の発案のようだった。石上は続ける。
「この間のグランプリレースの結果がかなり気に入られたようなんだ」
「え?気に入られたのですか?」
私の頭の中に疑問符だけがいくつも現れては消えた。人気どころが総崩れの中、伏兵たちが掲示板の上位を占めたことの何が気に入ったのだろう?
「決して人気は走らない。レースをやってみるまではこの結末を誰が予想しえたであろうか、だから、今までスポットの当たってこなかったウマ娘たちにも活躍のチャンスはある、とこういうわけだ」
石上は、リーフレットの内容をかいつまんで話した。
「ということは……これまでの名だたる系譜を背負っていないウマ娘を育成しろ、とこういうわけですか?」
企画の核を私は言い当てる。
「そういうことになる。で、雑誌一誌ごとに二人までトレーナー候補を上げてもらい、URAの方で選考して、各誌一人ずつトレーナーとなってもらう、という寸法のようだ。15年勤続の君なら、彼女たちの機微もわかってくれるだろうから、ぜひとも参加してもらいたくてね」
何とはなしに"もう君、行くの確定だから"といわれているような気がして、なんとも複雑だ。
「もう一人は?」
「誰になるかはわからないけど、的中率とかから言っても澤田さんかな?まあ、本命は君だから」
石上はそういって、募集要項の紙を私に手渡してきた。
新年会も終わり、自宅でURAのホームページを覗くと、確かに「雑誌対抗 ウマ娘育成プロジェクト」のコーナーが立ち上がっている。何百人とウマ娘を抱えているURAだが、輝かしい成績を引き継いでいるウマ娘はごくわずか。それ以外は、出走していても決して日の目の当たらない、勝利したことすら記憶されない不遇の存在。
彼女たちを一流とまでは無理でも、その能力の一端を開花させようとする理事長の考えはすごく腑に落ちた。
URAに出願する際に、意気込みなどを1000字程度にまとめて提出するとあったので、そういったことも含めて書類を編集長に出して、合否を待った。
3.
ウマ娘雑誌としては、クラシック戦線に出てくる彼女たちの取材でてんてこ舞いになる3月がやってきた。
今日も今日とて、取材のためにトレセン学園に向かおうとしていた私に、
「おいおい、根来君!」
という言葉を編集長の石上からかけられる。
やや怒調を含んだ口調の投げかけに、私の心の中の根来 俊一が陰欝な面持ちに変わる。
"また、なんかやらかしちゃったよ。君付け呼びの時は確実にお目玉くらう流れだよ。この間の取材で詰めが甘かったのかな……"
様々な要因を考えながら、私は編集長の机の前に進み出る。
「これって、どういうことなの?え?」
謝罪しようとする私を制するように、石上は書類をドンッとたたきつける。
"ああ、きっとこの間書いた記事だぁ……どうしよう……"
正視できず、ずっと目をつぶっていた私だったが、恐る恐る目を開けると、そこにあったのはURAからのトレーナー就任に関わる書類一式だった。
「え?」
私の脳が今の現状を理解できないでいる。
「トレーナー合格、おめでとう。根来君!」
編集部内に響き渡った、石上の声に一斉に拍手が沸き上がる。
「え?オレが、トレーナーに?本当ですか?」
拍手でおおよそのことは理解できたが、いまだに合格したことに対する実感がわいてこない。
「ああ、どうやらそういうことらしい。6誌10人くらいが応募してきたらしいんだが、なかなかいい成績だったようだよ」
「本当ですか……」
私はそれ以上に言葉が出てこない。ペットすら飼ったこともない私が、ほぼ付きっ切りで、一人のウマ娘を成長させることができるものだろうか?確かに周りは祝福してくれているが、私には期待よりも不安の方がより勝っていた。
「まあ、君が担当になるだろうと見当はつけていて、それなりに準備はしてきたからね。心置きなくウマ娘の育成に励んでくれよ」
ニコニコしながら石上は言う。
「え?じゃあ、俺の給料は……」
やっぱり気になるのは自分の生活だ。
「ああ、URAからお支払いいただくから気にしないで。勝てば金一封もあるらしいよ。ほかのトレーナーさん並にね」
「へぇ」
賞金があることは知っていたが、生活を潤すほどではないだろう。
「で、いつから……」
私は石上に問いかける。
「あぁ、あとは書類読んでよ。それから、君の育成記は雑誌で連載もするから、その準備も怠りなくね」
石上は、こともなげにそういう。
「え?トレーナー記録も載せちゃうんですか?」
その疑問に石上はせせら笑う。
「あんた、雑誌記者でしょうが?トレーナーだけやっていりゃいいなんて、甘い考え、持ってないだろうね?」
「いや、そう思ってましたけど……」
「まったく。雑誌社対抗、の意味がわかってないみたいだね。まあ、いいわ。あとは書類読んで、準備だけは整えてトレセン学園に向かってちょうだい。連載の方は、社に戻れそうになかったら、原稿さえ送れれば手段は問わないから。わかった?」
石上は、そう言うと、別の打ち合わせに向かった。
編集長の机の前でぽつねんと立ち尽くしている私の元に、部員たちが祝福の言葉をかけていくのだが、心ここにあらずの私にはすべての言葉が空々しく聞こえていたのだった。
それでも、自分を鼓舞して、自分の机の上を整理し始めた時に、一人の部員が声をかけてきた。
「おめでとう、そして、お疲れ様」
彼は、元トレーナーの富田だった。トレーナー歴13年、著名ウマ娘を幾人か育て上げ、それ以外のウマ娘でも、成績上位につけられる娘を何人か育成してきた。トレーナーを引退後はレース解説やコラムを書いたりして生活していたようだ。うちの会社に請われて入社した後、現在はデータ解析担当をしている。
「ああ、お気遣い、ありがとう」
出してきた富田の右手をしっかりと握り返した。
「まだ、担当される娘は決まっていないんですよね」
富田はそう言う。
「多分、行ってみて、選抜レース観てからになるんじゃないか、と思いますけど」
添付されている資料に書いてあることをそのまま伝えた。
「そうですか。それならばよかった。私からアドバイスできるから」
少し笑みを浮かべた富田。
「何でしょう?先輩トレーナーのお言葉は役に立ちます」
今の私には不安要素をいくばくかでも払拭してくれる情報が大事だ。
「胸の大きな娘を選んでください」
え?走るのに両胸の大きさがどんな関係があるんだろう?
「それはどうして……」
私からその疑問が出てくるだろうという予想が的中したからか、富田はややドヤ顔をしてみせる。
「肺の大きさが現れているからですよ」
「ああ!心肺能力っ!」
私は思わず膝をたたいた。
「それと、極力体形が小さめの娘は選ばない方がいいですね。もまれ弱さがあるので」
「おお、なるほど」
「後は、素直な娘が安定してます。感情の起伏の激しい娘は避けた方がいいでしょうね」
富田は、次から次にとアドバイスを出していく。
「まあ、考えてみりゃ、相手も人間的な感情を持ってますからね。おっしゃることはよくわかりますよ」
何個かのアドバイスはメモにとりながら、私は富田の話を聞いていた。
「後は、ケガさせないこと、くらいですかね」
富田はそう言いながら、
「結局はいかに彼女たちが走るために準備できているかがカギですから。頑張ってくださいね」
と言い残して、富田は自分の持ち場に戻っていった。
2日後。
編集部からトレセン学園に直で送る荷物を出し終え、私は出発に際して、部員にあいさつをする。
「それでは、3年間のトレーナー修行に旅立ちます。担当する娘をできるだけ幸せにしたいと思っていますので応援よろしくお願いいたします」
拍手が起こって、石上が〆る。
「今回の根来君の活躍は、引いてはうちの雑誌の浮沈にもかかわってくる。雑誌社対抗であることを忘れずに、しかし、基本に忠実に育成の方をお願いしたいと思います。ケガさせたり、能力を引き出せず惨敗、という無様なことだけはしないように、お願いしたいと思います」
その言葉の裏には、"負けたら承知しないぞ"という意思も感じ取れて、私は戦慄するほかなかった。
トレセン学園に出かけるその日、私は富田からのメールを受け取った。
"育成半年は、取りあえず担当する娘のことを知ることだけに傾注してください"
短い文章だったが、いろいろなことが内包されている文面だったことに気が付くのはしばらくたった後だった。
4.
「はあ、着いたぁ」
トレセン学園に着いたのは、まだ肌寒い4月になったばかりのころである。
「ここでトレーナー生活を始めることになろうとはなぁ」
取材で通い慣れた学園。だが、せいぜい上っ面しか知らないし、知りようもなかった。
"まさか中の人になるなんて……"
ボソッとつぶやいたのだが、よもや近くにいたウマ娘に聞かれるとは思っていなかった。
「あのぉ……」
声をかけてきたのは、ナイスネイチャだった。
「あ、これはこれは!ナイスネイチャじゃないですか。初めまして」
こちらは礼を尽くしたつもりだったが……
「あ、ああ、はいはい。ナイスネイチャでーす、どうぞよろしくー」
とノリも微妙に軽い。
著名ウマ娘と全員顔なじみではない。取材で会う機会もなかったウマ娘の一人だが、こんな感じなんだー、と初対面ながら思った。
正門前できょろきょろしていると、
「あ、お待ちしておりました。ええーっと……」
緑の制服も目に痛い、駿川たづな嬢が近寄ってくる。
「雑誌対抗企画で選んでいただきました、根来俊一です」
「ねごろさん……ああ、『ウマっ娘通信』の!」
名札とかをつけているわけではないので、彼女も認識に時間がかかるのだろう。
「ええ、そうです」
「今日皆様お揃いでしたら、理事長からご挨拶申し上げるべきところですが……」
たづな嬢の歯切れが悪い。
なんでも、ウマ娘をたくさん輩出している北海道の雑誌社の面々の到着が遅れているようだ。ウマ娘レース専門紙大手の「ウマ娘インフォ」の担当者は、海外のウマ娘取材から帰国できず、結局代理が出ることになり、一日遅れるらしかった。
「なので、今日のところは皆さん、あちこち施設を見て回ったりしているようですよ。根来さまもそのようになさってはいかがでしょう?」
たづなさんの提案。
「では、そうさせていただきますか……私の部屋はどちらに?」
荷物を部屋に入れておきたかった私はたづなさんに聞く。たづなさんは、
「トレーナー宿舎の3階です。お名前が名札入れに入っていますので、そちらになります」
と、説明してくれた。
「ありがとう」
と別れはしたものの、さすが世界に名だたる「日本ウマ娘トレーニングセンター学園」だ。敷地面積は東京ドームの数個分は確実にあるわけで、昨日今日来たウマ娘が迷子にならない方がどうかしている。
敷地内を数百メートル歩いて「トレーナー宿舎」という表札のかかった建物に到着する。学園棟と統一された、瀟洒なデザインの4階建てだった。なんでも、スターウマ娘を擁しているトレーナーは、1階でかなりの広さのあるトレーナー室を使えるようで、新人トレーナーは4階のちいさな一室があてがわれるそうだ。ウマ娘のランク付けのみならず、トレーナーにも優劣が目に見えてわかるシステムになっているのだ。
「3階の……ああ、ここか。入ってみよう」
328号室の表札に【根来俊一】の名札が刺さっている。ワンルームマンション並の広さでベッドと机が置いてある。生活必需品は一通りそろっている感じで、ユニットバスは、ホテル同等のトイレ併設型だ。
私は別便で届いていた私物の荷解きをしながら、クローゼットに衣類を収納したり、携帯の充電をしたりしていたが、ここで妙なことに気が付く。携帯の電波が届いていないのだ。
「あれ?圏外だ……」
はたと気が付いた。レース関係者が他者と接触できないように電磁バリアが施されていることはうっすら聞いていたのだが、中に入ってみて、"本当だったんだ"と初めて知った。
「てことは、連絡はどうやって……」
机の引き出しを開けると、なんとも前時代的なスマートフォンが入っている。
私は電源を入れて使おうとするのだが、いきなりURAのロゴが出てきてびっくりする。どうやら、学園内専用の通信手段のようだ。
「これって、通話しかできないってことですよね……」
電話機能しかないスマフォだが、ウマ娘たちは、スピーカー機能を使って器用に話している。まあ、外部との連絡はしたくなった時に考えればいいか……
そうこうするうちに、18時を知らせるチャイムが鳴る。
「本日も、トレーニング、お疲れさまでした。夕食の準備が整いましたので、皆様、食堂までお越しください」
アナウンスに誘われるように、私は宿舎を出て食堂に向かう。
食堂に到着したのはいいのだけれど、聞きしに勝る大迫力のバイキング形式だった。出ている量もすごいが、なんといっても、食べ盛りのウマ娘たちの食欲の旺盛ぶりには気圧されるばかりである。
丼に盛られた山盛りご飯に、にんじんハンバーグ、にんじんソテーににんじんと大根の紅白サラダ……大食い自慢のスペシャルウィークやオグリキャップが盛っている姿を見て、人間とは少しばかり消化機構や胃袋のサイズは違うのだろうけれど、普通の人間の数倍をペロリと平らげるウマ娘たちに感動と脅威を感じるしかなかった。
そんな風に感じながら食事を進めていると、一人のウマ娘が向かいに座ってきた。
「お?見掛けねー面だな」
その口調、堂々とした威容。ゴールドシップに相違なかった。
「なんだなんだぁ?このゴールドシップ様の目を盗んで堂々と学園に入り込むなんざぁ、並の怪盗のできる芸当じゃねぇぜ」
"ああ、こんな感じで会話が成立しないのか……担当トレーナーさんも大変だわ"
無視を決め込もうかと思ったが、乗ってみるのも悪くない。
「おうよ、こちとら、関八州様も一目置く天下の大泥棒、石川ゴロ衛門たぁ、俺のことだぁ」
見栄を切ったりして、編集長が使っているあだ名「ゴロ」も取り混ぜて煙に巻こうとした。のだが……
「いや、まさか乗ってくるとは思いもよらなかったぜ」
ウワ、ゴールドシップが引いている。当然食堂内が私の大見栄に冷たい視線を浴びせている。
"滑った……"
めちゃくちゃに気まずい雰囲気になっていたのだが……
「す、す、素晴らしいっ」
ひときわ感嘆の声を上げてくる一人の女性がいた。
「なんという掛け合い、なんという意味不明、なんというすれ違うキャッチボール!こんなかみ合わない会話、長年取材している中でも久しぶりです。大いに感動いたしましたぁ……」
その声が何とはなしに場の空気を中和したのか、食堂は少し平静を取り戻した。
「よぉ、おばちゃん、今日も分析がさえてるねぇ」
ゴールドシップがトレーを持って座ろうとしている女性に声をかける。
「まあ失礼なっ!お姉さまとお呼び、お姉さまと!」
「はいはい。まぁたボロクソ記事に書かれるのも癪だからな。じゃ、あばよっ」
ピューっと一陣の風をふかせてゴールドシップはその場から去る。
「まったくもう。ほんっとあの娘には……」
と言いつつ、向かいに座りかけてきた女性こそ、月刊「トゥインクル」の敏腕記者・乙名史悦子その人だった。
「ああ、どうも。久しぶりですわね」
改めて乙名史さんは私に挨拶する。
「こちらこそ。今の時間にここにいるってことは、今回の企画にご参加ですか?」
私は乙名史さんに聞く。
「ええ。理事長に提案した私が参加しないでどうするんですか」
胸を張ってそういう乙名史さん。
「ああ、そうだったんですね!」
企画立案者の素性を知って、私は大いに驚いた。
久しぶりの再会に話も弾んだ。そんな中、乙名史さんは、今回の企画の舞台裏を話し始めた。
「中山グランプリ」が終わった後に取材した乙名史さんは、理事長が大いに喜んでいることに気が付いたのだそうだ。
「『なぜですか?人気を背負って走る重圧があるからレースは見ごたえあるのですよ。人気のない娘が勝つことは番狂わせでしかないと思うのですが』と、私は聞いたんです」
乙名史さんは、当時を思い出しながら話をする。
「そしたら理事長は、『転換ッ!!人気するウマ娘が必ず勝つとは言えないからレースは面白い。むしろ人気しないウマ娘が勝ってこそレースは盛り上がる。今回のグランプリで、人気が走るのではなく、ウマ娘が走ることを内外に示した、そうは思わんかね?』と言われたんです」
「なるほど」
"人気は走らない"……確かに人気通りで決まるなら、レースの必要すらなくなってしまう。中山グランプリなら16人、フルゲートなら18人。最低人気を背負ったウマ娘は必ず殿で収まらないといけなくなる。レースをやりもしないで着順が決まることこそ滑稽。理事長の言わんとするところはおおむね間違っていない。
「でも、それがどうして雑誌対抗に……」
乙名史さんが理事長にどういうプレゼンを行ったのか、は気になった。
「『で、あるならばこれまで陽の目の当たらなかったウマ娘たちにも活躍の場を与えてみる、というのはどうでしょう?』と提案してみたんです。好成績を引き継いでいるウマ娘たちは血統も戦績もピカイチ。でも、彼女たちの後塵を拝し、埋もれ斃れていくウマ娘たちも大勢いるわけですよね?」
「ああ、まあ、確かに」
選抜レースを勝ち、トレーナーが付き、いくばくかの戦績を収めることができても、それ以上は勝ち上がれない。そんな娘たちは五万といる。実際、今のトレセン学園にいる娘のうち、名を残せるのはほんの一握りだ。私だって、デビュー戦で推しまくった娘が、いつの間にか表舞台から消えているという光景を何度も目にしてきた。
「理事長の答えは、『歓喜ッ!!今一度レースの本質を見直す絶好の機会ではないか』だったんです。その後で、『せっかくだから、ウマ娘のことを知っている、素人とは言えない雑誌対抗にしてみれば』とご提案したら、すんなりと企画が通ってしまって……」
ウマ娘のこと、自身の持つURAのこと、なによりエンタメとしてのレースのこと。あの物言いからは想像もつかない発想力は捨て置けないし、なにより、乙名史さんの提案を一も二もなく受け入れられる包容力は天賦の才だろう。
「で、あなたも参加されるっと……」
にんじんのグラッセ(さすがにんじん専用農場産なだけあって、甘みがすごい)を頬張りながら、私は言う。
「ええ。提案者である私は負ける気は全く無いので、そこんとこ、よろしくっっ!」
ビシッと人差し指を突きつけられ、私は少し気圧される。
先に席を立った乙名史さんの後ろ姿を見ながら、私は少しだけ不安にとらわれる。
"本当にこの娘たちとやっていけるのだろうか……"
5.
翌日。
遅れてきた3人が昼過ぎにようやくそろった。一日遅れではあるが、理事長とご対面である。
14時集合、ということで乙名史さんと私、そして雑誌「Victory」から選ばれた、トレーナー候補の沢井の三人で連れだって理事長室に向かう。理事長室の前では、到着の遅れていた3人が待っていた。
誰からともなく、自己紹介が始まった。
「どうも、「ウマ娘インフォ」の塚口です。当選者は別に居るのですが、帰国できなくなって私が担当することになりました」
「私が「ウマ娘ブック」の斎藤です。主にデータ解析担当です。よろしく」
「この度トレーナーを拝命する、「ウマ娘ビューティー」の大川です。トレーニング、頑張りますっ」
「月刊「Victory」の沢井です。主にレース予想やってます。以後、お見知りおきを」
「月刊「トゥインクル」の乙名史です。ウマ娘全般を取材してきました。よろしくお願いします」
「雑誌「ウマっ娘通信」の根来です。15年の予想人生をトレーナー業に懸けたいと思います」
「あら?もう皆さん、お見知り置かれましたか?」
外で自己紹介していたのが聞こえたのだろう、たづなさんが理事長室からひょっこり首を出しながら、そう言う。
「あ、は、ハイ……」
一同、少し顔を赤らめてしまう。
「では、お待たせいたしました。理事長がお待ちです。どうぞお入りください」
室内に入ると、20畳はあろうか、広々としたフロアの奥にデンッ!と、威厳を振りまく机が鎮座し、周りの書棚には、今までのウマ娘たちの栄誉や戦績たちを記した記録書が整然と並べられている。きょろきょろする一同が前に進み出ると、そこにはちっこい理事長が、あのファッションで出迎えてくれた。もちろん、帽子の上には、子猫がすやすやと眠っている。
「まずは一言。歓迎ッ!」
バッと開いた扇子にも同じ言葉がかなりの達筆で書かれている。
「ようこそ我がトレセン学園へ!今回の企画に賛同していただき、感謝に堪えぬ!」
古めかしい言葉も、理事長という肩書があるせいで、違和感を感じない。
「さて、各々の自己紹介は外で済ませたる旨、承っておる。私から、伝えたいのはただ一言……」
言うなり、別の扇子が花開く。
「応援ッ!次世代のウマ娘を発掘してやってくれたまえ。健闘を祈るッ!」
「はい。承りました。それで、次の選抜レースは……」
気の早い斎藤が、口を出す。
「尚早ッ!そんなに早くトレーニングできるとお思いとは。さては予習してこなかったな?」
「そうですよ、斎藤さん。まずはトレーニングのイロハのイから始めないと。自動車の運転だっていきなり路上教習じゃないでしょう?」
こういうとき、たづなさんのいう言葉は説得力と同時に威圧感もある。
「あ、は……すみませんでした」
縮こまってしまう斎藤。
「いつからご教授いただけるので?」
塚口はメモ帳片手に答えを待っている。その質問には、たづなさんが答える。
「基本的には、先輩トレーナーから教わっていただきます。選考方法とかは調整していますが、皆さんのパーソナリティーに合致するような教官トレーナーをつけたいと思っています。明日一日オリエンテーリングを終えてから、発表したいと思っています」
「ハイ、わかりました」
塚口はそういってきっちり礼をする。
「あのぅ……」
私は挙手して一つの疑問を投げかける。
「ぼくたちって、所詮3年間だけのトレーナーで終わっちゃうと思うんですが、それ以降もトレーナーであり続けようと思ったら、どうすればいいですか?」
その質問は、明らかに理事長にとって想定外だったのだろう。
「驚愕ッ!まだ始まってもいないのに、未来のことを、それもかなりいい想定しかしていないとは!」
「ええっと……そ、それは3年後の話、ということでよろしいですか?理事長もそういう先のことには思いを巡らせていなかったもので……」
二人の狼狽ぶりは、今までの威厳たっぷり、貫禄十分な雰囲気を一気に壊してしまった。別に二人を困らせようと思ったわけではなかったが、結果的に困惑させる質問をしてしまい、私は少し恥じた。
「いや、とは言うものの、残っていたいというくらいの気概がなくては、トレーナー業は務まらん。その心意気には感服至極である!」
落ち着きを取り戻したのか、理事長はそういって鼓舞した。
「6名銘々のプランニングがあろうかとは思うが、ここは一つ、心をクリアにしてトレーニングに励んでほしい。私からは以上である!」
そういって理事長は、トレーナーバッジを我々6人に授与してくれた。
「みなさま、お疲れさまでした。それでは、今日も一日、ごゆっくりとお過ごしくださいませ」
理事長室の前で、たづなさんが我々を見送る。我々6人は連れだって宿舎に帰っていく。
かくして二日目も夕暮れ時が迫ってきた。
「ああ、そろそろ夕飯かあ」
と思っているさなかに、携帯電話がけたたましくなる。
声の主はたづなさんだった。
「あ、もしもし。たづなです」
あれ?こんな時間に、なんでたづなさんが?
「あ、はい、なんでしょうか?」
「実は、折り入ってお話したいことが……」
たづなさんに理事長室までくるように、と告げられた私は戦慄する。
間違いなく、先ほどのやり取りが原因だ。投げかけた質問がよほど癪に障ったのか、それとも聞いてはいけなかったことなのか……
まだ二日目だというのに早くもしくじった感がいっぱいのまま、私は理事長室の扉をノックした。
部屋に入って早々私は、謝罪するしか手はない、と思っていた。
やや速足で理事長の前に進み出ると、私は深々と頭を下げる。
「わたくしの発言でご迷惑をかけたこと、面目次第もございません」
ところが、理事長もたづなさんも、ポカーンとしてみている。
「あ、いや、その……根来君、面を上げてくれたまえ」
そう言われて顔を上げるのだが、私にはこれ以上の償いは無理である。
「いや、ですから、私の不規則発言が威厳を傷つけたと……」
「威厳? いやいや、誤解しないでくれたまえ。私は、その心意気は買っておるのだよ。だから、こうして特別に呼んだというわけだ」
無地の扇子を仰ぎながら理事長は言う。
「え?叱責するためではないのですか?」
「無論ッ!」
なぜか、この文字の書かれた扇子も用意され、バッと開けて理事長は示した。
「つまり、どういうことでしょうか?」
これは自分の想定していた流れと違う。私はいったん感情をリセットした。
「ウム。当初君を教育してくれるトレーナーは中堅どころで人選していたのだよ。6人全員がほぼ同じレベルで成長できるように画策したこともあってな」
理事長は説明を始めた。私は黙って聞くよりほかはない。
「しかし、君の心意気、志の高さ。志望動機の文面の格調、そして立ち居振る舞い。一流のトレーナーと見まがうほどのものを君は持っている、と確信したのだよ」
"買いかぶりすぎだろ"
正直、理事長のいっていることは話し半分で受け止めるしかなかった。
「なので、私は決断したッ!」
"決断っ!"と大書きされた扇子が開かれるが、この言葉は折に触れ使われやすいこともあって、さすがに使いこまれていた。
「何をですか?」
「君には、師匠として、うちのトップクラスのトレーナーをつけることにする。名前は、桐生院アキラ。桐生院といえば、君も聞いたことくらいはあるだろう」
その名前を聞いて、一気に血液が沸騰した。
「エエ?本当に、本気で言っているのですか?」
桐生院アキラといえば、どんなに不振でも、低迷してても即座に立ち直らせることができ、あまたのスターウマ娘を輩出した名伯楽。彼のトレーニングでスターダムにのし上がったウマ娘は枚挙にいとまがない。その一方で、私のような弟子を取ってまで、自分のトレーニングを犠牲にするような性格の人でもない。
「そうか。ここまで言っても、信じてもらえないのか……」
何か思うところがあって、理事長は歩き出すと、ドアのノブに手をかけた。
ガチャリ。
開いた扉の奥からやってきたのは、写真でしか見たことのなかった、桐生院アキラの実物だ。
中肉中背ながら、そこに忍ばせる筋肉量の多さは、着ているシャツの張り具合で察しがついた。なにより、しなやかでいながら、無駄に贅肉のついていない下半身は、私の理想とする体形でもあった。初対面なら、50過ぎの筋トレ大好きおっさんくらいにしか見えない。
「話は、リモートでがっつりと聞かせてもらいました」
後ろ手を組みながら、アキラは言う。
「ええ?そ、それじゃぁ……」
「ええ。一部始終、お聞きだったのですよ」
たづなさんが合の手を入れる。
「まあ、氏素性のわからない人が、それも6人、トレーナーやりまぁすって、社会見学かなんかと勘違いしているんじゃないかって思って、首実検してたってところです。そこのカメラの映像が役に立ちました」
アキラは続けた。
「それにしても、斎藤さん、でしたか。どうにもそそっかしいところがあるようです。見ているだけで伝わってきます」
さっきの質疑応答をしっかりとアキラは咀嚼していた。
「結局どなたも使いモンにならないのではないか、と思っていたら、あなたの質問ですよ。ちょっと感動しましたよ」
アキラは少し上気させながらなおも続けた。
「普通、会社の命令かなんかで、仕方なしに来ているはずのトレーナー修行なのに、まだ続けたい、って、どういう料簡で臨んでいるんだって、気になるじゃないですか?で、あなたたちが帰ってから、理事長とかから資料を取り寄せたってわけです」
アキラはその資料を手にしている。
「私がほれぼれしたのは、志望動機の文面です。ありきたりのことしか書いてないほかの5人に比べれば、熱量が違う。まあ、多分に、自分の予想したウマ娘が勝てなかったんで、意趣返しの意図もあったんでしょうけどね」
ニヤっとアキラは笑う。思った以上に、アキラは、私……根来 俊一のことを知っている。
「だから、"こいつは面白い"となって、理事長に直談判した、と、こういう流れなんです。今後、あなたが私のスキルをどこまで具現化できるかは、やってみないとわからない部分もあります。でも、同じ組むなら、一流から教わるに越したことはないでしょう?」
そこまで一息に言ったアキラは、私の返答を待っている。待っているのだが……
「あ、あわわ……」
本物がいる、というだけではない。持っているものが違いすぎるのだ。
今までの実績と、あまたのウマ娘たちの残像とも化身とも取れるものが彼にまとわりついている。それが巨大な闘気にも見えた。それに完全に気圧されているのだ。
「ということなんだが、信じてもらえたかね?根来くん!」
理事長のダメ押しがさく裂する。
「あ、は、は、はいぃ」
息も絶え絶えに、私はそう返答するしかなかった。
理事長室を出て、自分の部屋までどう戻ったのか。そもそも夕飯すら食べたのか食べなかったのかすら記憶がない。はっきりしていることは、私の師匠が、あの一流トレーナーの桐生院アキラに内定したということだけだった。
かくして私は、二日目の夜を、まんじりともしないまま過ごした。
ハイっっ!
というわけで、流行物には乗っとけ、がセオリーの二次小説界隈で、とうとう「ウマ娘」にまで手だししてしまいました、穀潰しです。どうぞよろしく(何気に今更自己紹介www)。
このゲーム自体を語ろうと思った時に、関わっている人たちがあまりに多いくせに一向にその人たちが見えてこないところに私の創作余地があると思った次第です。
この作品でいちばん光が当たっていないのは、誰あろう、スターウマ娘の影に隠れてレースだけに登場するモブキャラの存在です。この作品を上梓する前に、モブウマ娘600体以上を完全網羅できたよ、というツイートが流れてきて、「そんなにいたのか」そして「そんなに解析できたのか」に興味がわいたことも後押しとなりました。
雑誌記者だった根来俊一がトレーナーに興味を持ったのは、最初は出世のためだったというところが、時間を経るにしたがって情熱に変わっていったというところを今後お見せ出来ればいいな、と思っています。
序段で1.4万字越えは「よもやよもや」(煉獄さん)なこともあり、あえて「次回もお楽しみに」スタイルとさせていただきました。さ、後書きも書いたし、GW(ゴルシウィーク)残りも楽しんじゃおw
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