ミリオンロンパ (非)日常編1-2
某ゲームのパロディです。殺害トリック等のクオリティはご容赦ください。一部キャラが死亡するので苦手な方はご注意。
箱崎星梨花【超アイドル級のお嬢様】
大貴族の令嬢。世間のことはほとんど知らない、いわゆる箱入り娘。
その理由もあって偏見もなく、誰とでも普通に接することができる。
好奇心の塊で、教養もあるため物覚えは非常に良い。
周防桃子【超アイドル級の子役】
業界随一と謳われたほどの演技力を持つ伝説的な子役。
幼い頃から活動していたため経歴は長く、世渡り上手だが嫌なものも数多く見てきたらしい。
その故あってややスレているが、本心は面倒見がよく優しい(星梨花談)。
マスコミやマネージャーの目がないため、劇場では素の自分を出している。
水の音がする。
「……?」
もそもそとベッドから這い出て立ち上がり、ひとつ伸びをする。
7時を知らせるアナウンスに紛れて、くぐもったかすかな音が隣の部屋から聞こえてきた。
眠い目を擦りながらドアを開けると、カーテンの奥からぴちゃぴちゃと水の流れる音がはっきりと聞こえた。
「あ……」
シャワーが出しっぱなしになっている。
首を傾げながら蛇口をひねって水を止める。と、ふいに思い出した。
昨夜、寝る前にシャワーを浴びようとして、直前に夜時間になってしまった。結局シャワーは出なかったのだが、諦めきれずに蛇口をカチャカチャひねってそのまま元に戻すのを忘れていたのだ。そして、7時になって水が流れ出した。
家でシャワーを出しっぱなしにしていたらお母さんに怒られるだろうなと考え、母親の顔が頭に浮かんだとたん泣きそうになってしまった。
どうして私はこんなところに閉じ込められてしまったんだろう。
もう帰りたい。お母さんに会いたい…。
頭を振る。ここから出るためにみんなで協力して出口を探しているのだ。
(弱気になってる暇なんてないよね)
服を脱ごうとして、自分が裸のまま寝ていたことに気づいた。再び蛇口をひねり、シャワーを浴びる。
2日分の汚れを洗い落としながら、この嫌な現実も洗い流されてしまえばいいのにと思った。
劇場生活2日目。
私達は食堂に集まったあと、再び出口を探して劇場内を調査することにした。
「いぇーい!体育館に一番乗り!」
「当たり前でしょう。ここの担当は私達しかいないんだから」
今日はくじ引きで決められた数人のグループに分かれて、各部屋をそれぞれのグループで調べることになった。
私は春日未来ちゃん、最上静香ちゃんと同じグループで、私達の担当は体育館だ。
未来ちゃんは体育館内を走り回ってはしゃいでいる。広い空間に出た開放感に浸っているのかもしれない。
そんな未来ちゃんを見て呆れつつ、静香ちゃんが声をかけてきた。
「さてと、どこから調べましょうか。端から端までなぞるように見ていく?」
「う~ん、でも昨日もしっかり調査したよね?本当に抜け道なんてあるのかなぁ…」
静香ちゃんが肩を竦める。
「気持ちはわかるけど、疑っていたらキリがないわ。私達にできることなんて他にないんだし…」
「そっかあ…うん、そうだよね。じゃあまた体育館の端の方から…」
「ねえねえふたりとも、ちょっとこっちに来て!」
未来ちゃんが大声で私達を呼んでいる。
早速方針が崩れたことに眉をしかめてため息をつく静香ちゃんをいさめつつ、元気に手をぶんぶん振っている未来ちゃんのところへ向かった。
「どうしたの?」
「ほら見て、この棚!賞状とかトロフィーとか、いろんな物が飾ってあるよ!」
「わ、本当だ…」
未来ちゃんはキラキラした目で体育館の隅に置いてあったショーケースを指さす。
そのショーケースは数えきれないほどの賞状やトロフィーで埋め尽くされていた。
中には一見して関係なさそうな土産物や高価そうな装飾品も混じっていて、なんだかよくわからないごちゃごちゃした空間となってしまっている。
「トロフィーとか賞状は各所で行われたコンテストやトーナメントで表彰されたものみたいね」
「すごい…こんなにたくさんのトロフィーなんて見たことないかも!」
「そうね。さすがは765プロのアイドル…」
静香ちゃんも感心したふうにショーケースの中を眺めている。
(でも、この賞状やトロフィーが飾ってあるってことは、やっぱりここは正真正銘765プロの劇場ってことなのかな…)
複雑な気持ちで目の前の輝かしい功績を眺めていると、未来ちゃんがケースの中を物色し始めた。
「ちょっ、未来ちゃん…!」
「ちょっと見るだけだから~!」
「さすがに勝手に触るのはまずいんじゃ…」
「別にいいんじゃない?本当に触られたくないものならこんなところに出しっぱなしにしておかないでしょう」
確かに…。アカネの用意周到さを考えると、私達に有利に働くものを放置しておくとは考えづらい。
「あ、すごい。この刀キラキラしてる!ひょっとして金でできてるとか!?」
「金箔を貼ってるだけでしょうね。その辺の土産物屋に置いてそうな安物の模擬刀だと思うわよ」
「なーんだ、ちょっと残念…」
そのまま棚に戻すのかと思いきや、未来ちゃんは模擬刀を取り出したまま戸を閉めてしまった。
「未来ちゃん、その模擬刀どうするの?」
「部屋に飾ってみようかな~って。今の部屋って殺風景だから」
「だからってなんで模擬刀なのよ…」
「ほら、護身用に使えるかもしれないし」
笑顔で模擬刀を一振りする未来ちゃん。
『護身用』。未来ちゃんがそう言った瞬間、静香ちゃんの表情が一瞬曇った。そして私も。
深い意味で言ったつもりはなかったのかもしれない。でもその言葉は、嫌でも私達に現実を思い起こさせた。
閉じ込められ、コロシアイを強要させられている現実を。
「護身用…ね。それはいいけど、素手で触らない方がいいわよ。金箔が貼り付いて洗い流すの大変そうだし」
「えっ」
慌てて自分の手を確認する未来ちゃん。
案の定、その手はキラキラとした金箔で彩られていた。
「は、早く言ってよ!?ちょっと手洗ってくるね!…あれ、洗い場ってどっち~!?」
「そっちは行き止まりだよ!?洗い場はこっち!」
「そっちでもないから!昨日あれだけ動き回ったんだから場所くらい覚えておきなさいよーっ!」
ぎゃあぎゃあと体育館内を走り回る私達。
3人でバタバタしながら過ごす時間は、閉じ込められていることを忘れるくらい楽しかった。
ただ、食堂に集まる時間までずっと調査を続けたけど…出口はどこにも見つからなかった。
未来ちゃんと静香ちゃんがお手洗いに行ったので、先に食堂に戻ろうとしていた私は、ちょうど中から言い争うような声が聞こえてきたのに気付いた。
「桃子ちゃん、待って!」
「ついて来ないでよッ!」
食堂から飛び出してきたのは桃子ちゃんと星梨花ちゃんだった。
「ど、どうしたの二人とも!?」
問い掛けると、桃子ちゃんは気まずそうに目を逸らしながら答えた。
「…別に。それより、可奈さん随分遅かったね。出口は見つかった?」
「ううん、まだだけど…」
ため息。
「ほらね、やっぱり無駄なんだよ。どこにも出口なんてないんだ」
「そんなことないよ!諦めずにみんなで探せば、きっと…」
「なら星梨花達で好きなだけ探せば。桃子は一人で勝手にさせてもらうから」
「ダメだよ、一人でなんて!みんなで一緒に行動しないと危険だって紗代子さんが…」
「そういうのキライなの。揃いも揃って仲良しごっこなんてもううんざり。
それに、いつ後ろからグサっとやられるかわかったもんじゃないし…」
「えっ…?」
「桃子ちゃん!」
「じゃあ聞くけど、会って一週間も経ってない相手の事を可奈さんは完全に信じられるの?」
疑いの視線。それを正面から受け止めて、はっきりと言った。
「……信じるよ。だって、私達は仲間だもん」
そう、私達は仲間だ。今の理不尽な環境に置かれてしまった境遇も同じで、ここから脱出するという目的も同じ。だったら、お互いを信じ合うのにこれ以上の理由は必要ないはずだ。
けれど、桃子ちゃんは呆れたように言った。
「仲間?笑わせないで。桃子達はたまたまここで一緒に居合わせただけの、ただの他人。
いや、むしろ敵だね。ここから出たいがためにいつ殺されるかもわからないんだから。
可奈さんも考えてないはずがないでしょ?あの”卒業”のルール」
「それは…でも、あんなのに従う人がいるわけ…」
「甘いよ。人間は自分が生き残るためならなんだってする。桃子はそれをここにいる誰よりも知ってるんだ」
桃子ちゃんの目の奥に暗い陰がよぎった。…ように、見えた。
「可奈さんは信じてるっていうけど、ほかの15人全員が可奈さんと同じ気持ちだなんて言える?脱出できないって諦めて、”準備”を進めてる人がいないなんて断言できる?」
「……」
考えてしまった。出口の見えないことに焦り、悪魔のささやきに乗ってしまう人がいないと言い切れるだろうか。
誰もそんなことはしない、そう信じている。…けれど、私がひとりで勝手にそう思っているだけで、見えないところで準備が進められていたら…。
「疑ったね」
はっとした。いつの間にか桃子ちゃんが近づいて私の目を覗き込んでいた。
彼女の目はすべてを見透かすようで――同時にすべてを諦めたような色をしていた。
「それでいいよ。信じた相手に裏切られる絶望なんて、知らないほうがいい…」
「桃子ちゃん…?」
「もうやめて!」
星梨花ちゃんが震えた声で叫ぶ。彼女は泣いていた。
なぜだか、その事実にひどく動揺した。桃子ちゃんも面食らったように固まっている。
まだ数日しか一緒に過ごしていないのに…彼女が泣いているところを見るのは、とても貴重な気がした。
「もうやめようよ、そんなこと言うの。疑ってばかりじゃつらいだけだよ。そんな桃子ちゃん見たくない…」
「星梨花ちゃん…」
「……」
俯いてしゃくりあげる星梨花ちゃんを静かに抱きしめる。桃子ちゃんは気まずそうにしていた。
ほどなくして、桃子ちゃんは足を進めた。食堂に背を向けて。
「……桃子は誰も信じない。これからは好きに行動させてもらうから、みんなにもそう伝えておいて」
「桃子ちゃん…」
「もうついて来ないでよ。……じゃあね」
そして、桃子ちゃんは薄暗い廊下の先に消えていった。
引き止めるための言葉は、もう思いつかなかった。
この日から、桃子ちゃんは朝と夜の集まりに顏を出さなくなった。
桃子ちゃんに限らず、出口が一向に見つからないことに不安や焦りを覚える人は少なくなかった。
私だってそう。こんな生活がいつまで続くのか、考えただけで頭がおかしくなりそう…。
昨日に比べてずっと静かになった食堂で夕食を取った後、私達は言葉少なに別れて自室に戻った。明日も出口を探してがんばろうと口にする人はひとりもいなかった。
自室で一人になると、どうしても頭によぎってしまう。
アカネの提示したルール。桃子ちゃんも指摘した、誰かが既に”準備”しているかもしれない手段。
"誰かを殺した候補生だけが、ここから出られる"――
枕を深く被って押し寄せる疲労と眠気に身を任せた。
もう何も、考えたくなかった。
このSSへのコメント